(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】バルブ調整装置および緩衝器
(51)【国際特許分類】
F16F 9/44 20060101AFI20230823BHJP
F16F 9/34 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
F16F9/44
F16F9/34
(21)【出願番号】P 2020051669
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】514241869
【氏名又は名称】KYBモーターサイクルサスペンション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】田中 信
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-298063(JP,A)
【文献】特開2011-208660(JP,A)
【文献】実開平1-96543(JP,U)
【文献】特開2003-184829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00 - 9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に螺子部を有して、周方向への回転により軸方向へ変位可能であって、変位の伝達によって流体の流れに与える抵抗を変化させるバルブに対して前記変位を与える軸と、
前記軸の側方から径方向に開口する孔に収容される球と、
前記孔に収容されて前記球を前記孔から外へ向けて付勢するばねと、
筒状であって内方に前記軸が挿入されるとともに、内周に軸方向に沿って設けられて前記球が嵌合可能な複数のディテント溝を有するノッチケースとを備え、
前記ディテント溝のうち少なくとも1つは、他のディテント溝よりも短い
ことを特徴とするバルブ調整装置。
【請求項2】
前記軸の螺子部は、多条螺子である
ことを特徴とする請求項1に記載のバルブ調整装置。
【請求項3】
前記ディテント溝は、前記ノッチケースの内周に不等間隔で設けられている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のバルブ調整装置。
【請求項4】
前記軸の一端に設けられた操作部を備え、
前記操作部は、目印を有する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のバルブ調整装置。
【請求項5】
シリンダと、前記シリンダ内に移動可能に挿入されるピストンと、前記シリンダ内に移動可能に挿入されるとともに前記ピストンに連結されるピストンロッドと、変位が伝達されると流体の流れに与える抵抗を変化させるバルブとを有して、伸縮時に減衰力を発生する緩衝器本体と、
請求項1から4の何れか一項に記載のバルブ調整装置とを備え、
前記バルブは、前記軸から変位が与えられると前記抵抗を変化させる
ことを特徴とする緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブ調整装置および緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
緩衝器は、たとえば、鞍乗型車両における車両の車体と車輪との間に介装されて使用され、伸縮時に発生する減衰力で車体と車輪の振動を抑制する。
【0003】
緩衝器は、内部に搭載されているバルブによって減衰力を発生するが、ユーザーによる車両における乗心地のチューニングを可能とするために、減衰力調整機能を持つバルブを搭載する場合がある。
【0004】
このような緩衝器に搭載されるバルブは、たとえば、弁座と、弁座に対して遠近するニードルとを備えており、ニードルの弁座に対する位置がバルブ調整装置で変更されると、減衰力を変化させる。
【0005】
バルブ調整装置は、弁座が形成されるハウジングに装着された筒状のノッチケースと、ハウジングに螺着されたアジャスタと、アジャスタのノッチケースに対する回転止めのために設けられたディテント機構とを備えており、ニードルは、アジャスタの先端に一体に設けられている。ディテント機構は、アジャスタに設けた孔に収容されるばねと、前記孔に挿入されてばねによって前記孔から退出する方向へ向けて付勢される球と、ノッチケースに設けた複数のディテント溝とを備えている。そして、ディテント溝に球がばねによって付勢されて嵌合すると、アジャスタのノッチケースに対する回転が規制され、アジャスタをその位置に固定できる。
【0006】
よって、アジャスタをユーザーが回転操作すると、ニードルは、アジャスタとともにハウジングおよびノッチケースに対して回転して送り螺子の要領でハウジング内を進退して弁座に対して遠近する。
【0007】
弁座に対してニードルの位置が変更されると、バルブにおける流路面積が変化するので、前記流路面積が小さくなれば緩衝器が発生する減衰力は高くなり、反対に前記流路面積が大きくなれば緩衝器が発生する減衰力は低くなる。このように、バルブ調整装置を備えた緩衝器は、ユーザーの操作によって緩衝器の減衰力を高低調整できる。
【0008】
また、ディテント溝内に球が嵌合する位置でアジャスタを停止させるとアジャスタの回転がディテント機構によって規制され、振動などによって自然にアジャスタが回転することが防止されてニードルの弁座に対する位置が変化するのが防止されるので、緩衝器は、ユーザーが調整した通りの減衰力を発揮できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ユーザーがアジャスタをノッチケースに対して回転させる際に、ディテント溝内の球が入り込むと、ユーザーにクリック感を知覚させるので、ユーザーは、クリック感の数(クリック数)を頼りにアジャスタを回転操作して減衰力の高低を調整する。
【0011】
ここで、アジャスタの回転操作量が一回転以内で減衰力を最低から最高まで切り替える設定とする場合、
図7に示すように、ノッチケースNの周方向で、減衰力を最低とする際に球Bが嵌合すべきディテント溝g1と、減衰力を最高とする際に球が嵌合すべきディテント溝g3との間の間隔が非常に狭くなる場合がある。この例では、ノッチケースNに先程の2つのディテント溝g1,g3の他に、その中間にディテント溝g2が設けられており、アジャスタAの回転範囲は、ディテント溝g1に球Bが嵌合する位置からディテント溝g3に球Bが嵌合する位置までが適正な範囲であるが、減衰力を最低から最高にする際の角度を任意の値としたとき、アジャスタAの回転範囲外においてディテント溝g1とディテント溝g3との間隔が狭くなる場合がある。
【0012】
ここで、アジャスタAの軸方向の移動限界は、たとえば、アジャスタAのノッチケースNやハウジングへの当接によって設定されるが、アジャスタその他のバルブ調整装置を構成する各部材の寸法公差によって、アジャスタAが設計された回転量(回転角度)を超えて回転してしまう場合がある。
【0013】
このような場合、ユーザーがアジャスタAを最大操作して緩衝器の減衰力を最低とする際に、球Bがディテント溝g1を通り越してディテント溝g3へ嵌合する位置へアジャスタAが回ってしまったり、或いは、緩衝器の減衰力を最高とする際に、球Bがディテント溝g3を通り越してディテント溝g1へ球Bが嵌合する位置へアジャスタAが回ってしまったりすることがある。このように、アジャスタAが設計回転量(設計回転角度)を超えて回転して、その分余計にノッチケースNのディテント溝g1,g3を球Bが乗り越えてしまい、クリック数が設計値よりも多くなってしまう場合がある。
【0014】
このような事態が生じると、ユーザーがクリック数を頼りに減衰力を調整しようとするところ、クリック数が設計値よりも増えてしまうので、ユーザーが所望する減衰力を発揮できない位置にアジャスタAの位置が調整されてしまう可能性がある。したがって、従来のバルブ調整装置および緩衝器では、ユーザーが所望する減衰力通りにバルブを調整することが難しかった。
【0015】
そこで、本発明は、ユーザーが狙った通りにバルブの抵抗および緩衝器の減衰力を容易に調整できるバルブ調整装置および緩衝器の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記した課題を解決するために、本発明のバルブ調整装置は、外周に螺子部を有して周方向への回転により軸方向へ変位可能であって変位の伝達によって流体の流れに与える抵抗を変化させるバルブに対して前記変位を与える軸と、軸の側方から径方向に開口する孔に収容される球と、孔に収容されて球を孔から外へ向けて付勢するばねと、筒状であって内方に軸が挿入されるとともに内周に軸方向に沿って設けられて球が嵌合可能な複数のディテント溝を有するノッチケースとを備え、ディテント溝のうち少なくとも1つが他のディテント溝よりも短い。
【0017】
このように構成されたバルブ調整装置では、ノッチケースの内周に形成されるディテント溝のうちいずれか1つを短く設定されているので、短くしたディテント溝に球が嵌合する回数を任意に設定可能となるので、軸が寸法誤差によって設計上の許容回転数を多少超えて回転可能となってもクリック数を設計通りに設定できる。
【0018】
また、バルブ調整装置は、軸の螺子部を二条以上の多条螺子としてリードを大きく設定している。このように構成されたバルブ調整装置によれば、バルブが流体の流れに与える抵抗を最大から最小まで変化させるのに必要となる軸の回転量(回転角度)を少なくでき、ユーザーの減衰力調整作業の負担を軽減できるとともに、軸の回転量(回転角度)を1回転未満(360度未満)に設定して実用性を向上できる。
【0019】
また、ディテント溝は、ノッチケースの内周に不等間隔で設けられてもよい。このように構成されたバルブ調整装置によれば、ディテント溝の配置をノッチケースに最適に配置でき、バルブの流体に与える抵抗をリニアに変化させ得る。
【0020】
さらに、バルブ調整装置は、目印を有する操作部を軸の一端に備えていてもよい。このように構成されたバルブ調整装置によれば、ユーザーが操作部の回転位置を目視できるので、ユーザーがバルブの現在の流体の流れに与える抵抗の大きさを外方から把握できるようになる。
【0021】
また、緩衝器は、シリンダと、シリンダ内に移動可能に挿入されるピストンと、シリンダ内に移動可能に挿入されるとともにピストンに連結されるピストンロッドと、変位が伝達されると流体の流れに与える抵抗を変化させるバルブとを有して、伸縮時に減衰力を発生する緩衝器本体と、バルブ調整装置とを備え、バルブは、軸から変位が与えられると抵抗を変化させる。このように構成された緩衝器によれば、軸が寸法誤差によって設計上の許容回転量(許容回転角度)を多少超えて回転できてしまう事態が生じても、クリック数が増えてしまうことがなく、クリック数を頼りにユーザーは、緩衝器の減衰力を所望する減衰力通りに容易く調整できるようになる。
【発明の効果】
【0022】
以上より、本発明のバルブ調整装置および緩衝器によれば、ユーザーが狙った通りにバルブにおける抵抗および緩衝器における減衰力を容易に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】一実施の形態における緩衝器の縦断面図である。
【
図2】一実施の形態におけるバルブ調整装置の拡大断面図である。
【
図3】一実施の形態におけるバルブ調整装置の操作部の平面図である。
【
図4】一実施の形態におけるバルブ調整装置のノッチケースの底面図である。
【
図5】一実施の形態におけるバルブ調整装置のノッチケースの内周面の一部を周方向に展開した展開図である。
【
図6】一実施の形態の一変形例におけるバルブ調整装置のノッチケースの底面図である。
【
図7】従来のバルブ調整装置のノッチケースの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
図1および
図2に示すように、一実施の形態におけるバルブ調整装置1は、緩衝器Dに組み込まれている。そして、緩衝器Dは、シリンダ2と、シリンダ2内に移動可能に挿入されるピストン3と、シリンダ2内に移動可能に挿入されるとともにピストン3に連結されるピストンロッド4と、バルブVとを備えた緩衝器本体d1と、バルブVが流体の流れに与える抵抗を変更可能なバルブ調整装置1とを備えて構成されている。そして、この緩衝器Dの場合、図示しない車両における車体と車輪との間に介装されて使用され、車体および車輪の振動を抑制する。
【0025】
以下、緩衝器本体d1およびバルブ調整装置1の各部について詳細に説明する。
図1に示すように、シリンダ2の
図1中上端には、環状のロッドガイド5が装着されており、シリンダ2の
図1中下端には、シリンダ2の下端を閉塞してバルブ調整装置1を収容するとともにリザーバタンク6をシリンダ2に連結するハウジング7が装着されている。そして、シリンダ2内には、先端にピストン3が装着されたピストンロッド4が移動可能に挿入されている。
【0026】
ピストンロッド4は、ロッドガイド5の内周に装着された筒状のブッシュ5a内に摺動自在に挿通されてシリンダ2内に挿入されており、ロッドガイド5によって軸方向への移動が案内される。また、シリンダ2内は、ピストン3によって、作動油等の流体が充填される伸側室R1と圧側室R2とに区画されている。なお、流体は、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液といった液体の他にも気体の使用可能である。なお、本実施の形態におけるバルブVは、作動油を充填した緩衝器Dに利用されており、流体を作動油として、作動油の流れに抵抗を与える。
【0027】
ピストンロッド4は、
図1中下端となる先端に設けられた小径部4aと、小径部4aの先端の外周に設けた螺子部4bと、小径部4aを設けたことにより形成される段部4cとを備えており、上端はシリンダ2外へ突出している。また、ピストンロッド4の
図1中上端には、図示しない車両における車輪を保持する部材或いは車体に連結可能なブラケットB1が取り付けられており、
図1中上端近傍の外周には筒状のバンプクッション11が装着されている。
【0028】
バンプクッション11は、緩衝器本体d1が最収縮する際にロッドガイド5に当接して圧縮されると、弾発力を発揮して緩衝器本体d1の最収縮時の衝撃を緩和する。
【0029】
また、ピストンロッド4の小径部4aの外周には、環状のピストン3が、ピストン3の
図1中上方に重ねられる環状の圧側リーフバルブ8と、圧側リーフバルブ8の
図1中上方に重ねられるバルブストッパ10と、ピストン3の
図1中下方に重ねられる環状の伸側リーフバルブ9ともに嵌合されている。これらピストン3、圧側リーフバルブ8、バルブストッパ10および伸側リーフバルブ9は、ピストンロッド4における螺子部4bに螺着されるナット13と段部4cとで挟持されてピストンロッド4の小径部4aの外周にて固定される。
【0030】
ピストン3は、ピストン3を軸方向に貫通する圧側通路3aと伸側通路3bとを備えている。また、ピストン3は、
図1中上端の外周から開口して伸側通路3bに連通される窓3dを備えるとともに、
図1中下端の外周から開口して圧側通路3aに連通される窓3cを備えている。
【0031】
圧側リーフバルブ8は、環状板を複数枚積層して構成される積層リーフバルブとされており、内周がピストンロッド4に固定されるが外周側の撓みが許容されている。また、圧側リーフバルブ8は、ピストン3の
図1中上方に重ねられて圧側通路3aの
図1中上端である出口端を閉塞する。圧側リーフバルブ8は、圧側室R2側からの圧力を受けて撓むとピストン3との間に隙間を形成して圧側通路3aを開放し、圧側室R2から伸側室R1へ向かう作動油の流れに抵抗を与える。なお、伸側通路3bの
図1中上端である入口端は、窓3dによって圧側リーフバルブ8によって閉塞されない。
【0032】
バルブストッパ10は、圧側リーフバルブ8が大きく撓むと圧側リーフバルブ8の裏面に当接して、圧側リーフバルブ8のそれ以上の撓みを規制する。また、バルブストッパ10は、緩衝器本体d1が最大伸長した際にロッドガイド5に保持されてピストンロッド4の外周に配置される環状のクッション12に当接して緩衝器本体d1の最大伸長時の衝撃を緩和するクッション受としても機能する。
【0033】
伸側リーフバルブ9は、環状板を複数枚積層して構成される積層リーフバルブとされており、内周がピストンロッド4に固定されるが外周側の撓みが許容されている。また、伸側リーフバルブ9は、ピストン3の
図1中下方に重ねられて伸側通路3bの
図1中下端である出口端を閉塞する。伸側リーフバルブ9は、伸側室R1側からの圧力を受けて撓むとピストン3との間に隙間を形成して伸側通路3bを開放し、伸側室R1から圧側室R2へ向かう作動油の流れに抵抗を与える。なお、圧側通路3aの
図1中下端である入口端は、窓3cによって伸側リーフバルブ9によって閉塞されない。
【0034】
ハウジング7は、本実施の形態では、シリンダ2の
図1中下端に装着されるボトムキャップ7aと、ボトムキャップ7aに連なってバルブVを収容するとともにバルブ調整装置1を保持する中空なバルブハウジング7bと、バルブハウジング7bに連なってリザーバタンク6を保持するソケット7cとを備えている。
【0035】
また、ボトムキャップ7aは、シリンダ2の
図1中下端に嵌合してシリンダ2の下端を閉塞するともに、
図1中下方には図示しない車両における車輪を保持する部材或いは車体に連結可能なブラケットB2を備えている。
【0036】
バルブハウジング7bは、ボトムキャップ7aに連なる基部7b1と、基部7b1に設けられた筒状のバルブ収容筒7b2とを備えている。バルブ収容筒7b2内には、バルブVが収容されるとともに、バルブ収容筒7b2の開口部の内周にはバルブ調整装置1が装着されている。
【0037】
ソケット7cは、環状であって基端がバルブハウジング7bにおける基部7b1とバルブ収容筒7b2の側方に連なっている。また、ソケット
7cの先端側の開口部にはリザーバタンク6が螺着されている。
【0038】
ソケット7c内は、バルブ収容筒7b2の側部から開口するポート7b3を介してバルブ収容筒7b2内へ通じている。バルブ収容筒7b2内は、基部7b1からボトムキャップ7aにかけて形成される連通路15を介して圧側室R2に連通されている。よって、ソケット7c内は、ポート7b3、バルブ収容筒7b2内および連通路15を介して圧側室R2内へ連通されている。
【0039】
リザーバタンク6は、本実施の形態では、円筒状であってソケット7cに螺着されている。そして、リザーバタンク6内には、フリーピストン18が摺動自在に挿入されており、リザーバタンク6内がフリーピストン18によって圧側室R2に連通される液室Lと、気体が充填される気室Gとに区画されている。
【0040】
バルブVは、バルブ収容筒7b2内に挿入される筒状のスリーブ21と、スリーブ21内に嵌合される弁座部材22と、弁座部材22に離着座する弁体23と、スリーブ21内に摺動自在に挿入されるばね受24と、弁体23とばね受24との間に介装されて弁体23を付勢するばね25と、弁座部材22と弁体23との間に設けられたチェックバルブ26とを備えて構成されている。
【0041】
スリーブ21は、
図2に示すように、筒状であって、外周に螺子部21aを備えており、螺子部21aをバルブ収容筒7b2の内周に形成される螺子部7b4に螺合することによりバルブ収容筒7b2に収容されて固定される。また、スリーブ21は、前述のようにバルブ収容筒7b2に収容されるとポート7b3に対向する環状凹部21bを外周に備えるとともに、環状凹部21bをスリーブ21内に連通する透孔21cを備えている。よって、スリーブ21内は、透孔21c、環状凹部21bおよびポート7b3を介してリザーバタンク6内の液室Lに通じる他、連通路15を通じて圧側室R2に連通されている。つまり、液室Lと圧側室R2は、スリーブ21内を介して互いに連通されている。
【0042】
また、スリーブ21の
図2中左端となる先端と
図2中右端となる基端の内径が中間部21fの内径よりも大径とされている。そして、スリーブ21の先端側の大径部分で弁座部材22が嵌合する弁座嵌合部21dが形成されており、スリーブ21の基端側の大径部分でバルブ調整装置1におけるノッチケース34が圧入されるケース収容部21eが形成されている。また、スリーブ21の中間部において先端側より基端側の内径が小さくなっており、スリーブ21の中間部内周に段部21gが形成されている。また、スリーブ21は、中間部内周であって段部21gの左方に螺子部21hを備えている。
【0043】
弁座部材22は、円盤状であって弁座嵌合部21dに嵌合するディスク部22aと、ディスク部22aの中央から立ち上がる円柱状のガイド部22bと、ディスク部22aを貫くポート22cと、ディスク部22aから開口してガイド部22bの先端側へ向けて形成される縦孔22dと、縦孔22dをガイド部22bの先端へ連通するオリフィス孔22eとを備えて構成されている。
【0044】
ディスク部22aは、
図2中左端にポート22cに連通される環状凹部22a1を備えている。ディスク部22aの環状凹部22a1内には、環状のチェック弁体26aと、環状のばね部材26bとが収容されている。チェック弁体26aは、符示はしないが、内周に複数の切欠を備えるとともに、ディスク部22aにおける環状凹部22a1を形成する内壁に摺接して、ディスク部22aに対して軸方向へ移動可能とされている。ばね部材26bは、本実施の形態では環状のディスクの直径を通る線を折れ線にして当該ディスクを折り曲げて形成されており、チェック弁体26aを環状凹部22a1から退出させる方向へ付勢している。
【0045】
また、ディスク部22aをスリーブ21の弁座嵌合部21dに嵌合する際に、ディスク部22aの
図2中左端の外周とスリーブ21の弁座嵌合部21dと中間部21fの境の段部との間に環状のワッシャ26cが介装される。ワッシャ26cにおける外径はディスク部22aの外径と同じに設定されて、ワッシャ26cは、弁座嵌合部21dの内周に嵌合される。よって、弁座部材22およびワッシャ26cは、スリーブ21に対して径方向に位置決めされるので、スリーブ21に対してともに同心に配置される。また、ワッシャ26cの内径は、ディスク部22aの環状凹部22a1の内径およびチェック弁体26aの外径より小径とであって、環状凹部22a1の外径より大径とされていて、ワッシャ26cがディスク部22aに重ねられても環状凹部22a1を閉塞しない。また、ディスク部22aとワッシャ26cをスリーブ21の弁座嵌合部21dに嵌合すると、ディスク部22aの環状凹部22a1内に収容されたチェック弁体26aは、ばね部材26bによって付勢されてワッシャ26cに当接する。
【0046】
スリーブ21の弁座嵌合部21dに弁座部材22のディスク部22aを嵌合すると、弁座部材22は、スリーブ21の先端側開口部を閉塞する。よって、スリーブ21内は、ポート22cのみを通じて圧側室R2へ連通される。なお、透孔21cは、スリーブ21の中間部であって段部21gが設けられる位置よりもスリーブ21の先端側に開口しており、弁座部材22によって閉塞されないように配慮されている。
【0047】
弁体23は、弁座部材22の
図2中左端に離着座してポート22cの出口端を開閉可能な環状の弁部23aと、弁部23aの内周から立ち上がって弁座部材22のガイド部22bの外周に摺接する筒状のスライド部23bとを備えて構成されている。弁体23は、弁座部材22におけるガイド部22bに沿って軸方向に移動可能であり、弁座部材22におけるディスク部22aに遠近できる。また、弁体23の内径は、ディスク部22aにおける環状凹部22a1の内径よりも小径とされており、弁体23は、ディスク部22aの内周に当接すると、それ以上のディスク部22a側への移動が規制され、環状凹部22a1内へは侵入しない。弁部23aの外径は、ワッシャ26cの内径よりも小径であって、チェック弁体26aに当接した際にチェック弁体26aの切欠を閉塞する径に設定されている。
【0048】
そして、弁体23は、ディスク部22aの内周に当接すると、チェック弁体26aの
図2中左側の端面にも当接してチェック弁体26aの内周側の切欠を閉塞する。ポート22cは、環状凹部22a1内およびばね部材26bの腕と腕の間、さらには、チェック弁体26aの切欠を通じて弁部23aに通じている。よって、弁体23は、ディスク部22aの内周に当接すると、チェック弁体26aの
図2中左側の端面にも当接して、ポート22cを閉塞する。反対に、弁体23は、弁座部材22に対して
図2中左方へ後退すると、チェック弁体26aから離間してポート22cを開放する。このように、弁体23は、弁座部材22に対して軸方向へ移動することでポート22cを開閉する。なお、弁体23が弁座部材22から後退してもチェック弁体26aは、ワッシャ26cによって
図2中左方への移動が規制されるので、環状凹部22a1から脱落しない。
【0049】
ばね受24は、円盤状とされており、スリーブ21の内周であって中間部内に摺動自在に挿入されており、スリーブ21内で
図2中左右方向となる軸方向へ移動できる。また、ばね受24は、外周にスリーブ21の内周に摺接するシールリング24aを備えており、スリーブ21の先端側からばね受24の外周を乗り越えて基端側へ作動油が漏洩するのを防止して、スリーブ21内を封止している。また、ばね受24は、スリーブ21内を先端側から基端側へ移動して段部21gに当接すると、それ以上の基端側へ移動が規制されてスリーブ21内で停止するので、スリーブ21内から脱落しない。
【0050】
また、弁体23の弁部23aの反ディスク部側面とばね受24との間には、ばね25が介装されている。ばね25は、弁体23とばね受24との間に圧縮状態で介装されており、弁体23を弁座部材22におけるディスク部22aへ向けて付勢している。
【0051】
よって、弁体23は、ばね25の付勢力を受けて弁座部材22におけるディスク部22aに当接してポート22cを閉塞しており、ポート22cを介して作用する圧側室R2の圧力を受けてディスク部22aから後退するとポート22cを開放して圧側室R2を液室Lへ連通するとともに圧側室R2から液室Lへ向かう作動油の流れに抵抗を与える。この弁体23が作動油の流れに与える抵抗は、ばね25の付勢力を変更すると大小変化する。よって、このバルブVの場合、ばね受24の位置が変更されてばね25に与えられる圧縮量が変化すると、弁体23がばね25から受ける付勢力が変化して、圧側室R2の圧力に対する弁体23のディスク部22aからの後退量が変化し、作動油がポート22cを通過する際に弁体23が与える抵抗が変化する。つまり、バルブVは、外部から伝達される変位によってばね受24が変位すると、バルブVを通過する作動油に与える抵抗が変化する。
【0052】
なお、ポート22cから受ける圧側室R2の圧力が小さく、弁体23がばね25に抗して弁座部材22から後退せずにチェック弁体26aに当接してポート22cを閉塞する場合、作動油は、オリフィス孔22eを介して圧側室R2から液室Lへ移動する。よって、この場合、バルブVは、オリフィス孔22eによって作動油の流れに抵抗を与える。また、チェック弁体26aは、圧側室R2から液室Lへ向かう作動油の流れに対しては、ポート22c側から圧力を受けるのでワッシャ26cに当接したまま移動しない。
【0053】
液室Lから圧側室R2へ向って作動油が流れる場合、弁体23がディスク部22aの内周側に着座する一方、チェック弁体26aは、圧力を受けてばね部材26bを押し縮めて環状凹部22a1の奥側へ移動して弁体23から離間する。すると、作動油は、環状凹部22a1内およびポート22cを介して液室Lから圧側室R2へ移動する。このように、弁体23は、圧側室R2から液室Lへ向かう作動油の流れに対してはこれを許容して抵抗を与え、チェック弁体26aは、液室Lから圧側室R2へ向かう作動油の流れに対してはこれを許容する。このように本実施の形態では、チェックバルブ26は、チェック弁体26a、ばね部材26bおよびワッシャ26cとを含んで構成されており、バルブVに一体に組み込まれている。
【0054】
このように構成された緩衝器本体d1は、以下のように作動する。シリンダ2に対してピストン3が
図1中上方へ移動する緩衝器本体d1の伸長行程において、ピストン3によって圧縮される伸側室R1から伸側通路3bを介して圧側室R2へ作動油が移動する。この伸長行程において緩衝器本体d1は、伸側通路3bを通過する作動油の流れに対して伸側リーフバルブ9が抵抗を与えて、伸長を妨げる伸側の減衰力を発生する。また、緩衝器本体d1の伸長行程では、ピストンロッド4がシリンダ2から退出するので、圧側室R2内でピストンロッド4がシリンダ2から退出した体積分の作動油が不足するが、この不足分の作動油は、フリーピストン18が変位して気室Gを拡大させてリザーバタンク6の液室Lからチェックバルブ26を介して圧側室R2に供給される。
【0055】
他方、シリンダ2に対してピストン3が
図1中下方へ移動する緩衝器本体d1の収縮行程において、ピストン3によって圧縮される圧側室R2から圧側通路3aを介して伸側室R1へ作動油が移動する。また、緩衝器本体d1の収縮行程では、ピストンロッド4がシリンダ2内へ侵入するので、シリンダ2内でピストンロッド4がシリンダ2内へ侵入した体積分の作動油が過剰となるが、この過剰分の作動油は、バルブVを介してリザーバタンク6内の液室Lへ排出され、フリーピストン18が変位して気室Gを縮小する。このように緩衝器本体d1の収縮工程では、圧側リーフバルブ8が圧側室R2から伸側室R1へ向かう作動油の流れに対して抵抗を与えるとともに、バルブVが圧側室R2からリザーバタンク6の液室Lへ向かう作動油の流れに抵抗を与える。よって、緩衝器本体d1の収縮工程では、圧側リーフバルブ8とバルブVとで収縮を妨げる圧側の減衰力を発生する。そして、バルブVが外部から伝達される変位によって、バルブVを通過する作動油に与える抵抗を変化させ得るので、緩衝器本体d1は、圧側の減衰力の調整が可能である。
【0056】
具体的には、本実施の形態の緩衝器Dでは、バルブ調整装置1でバルブVにおけるばね受24へ変位を与えるようになっており、バルブ調整装置1の操作によって、緩衝器Dの圧側の減衰力の調整が可能となっている。
【0057】
バルブ調整装置1は、外周に螺子部31aを有して周方向への回転により軸方向へ変位可能であってバルブVにおけるばね受24に当接してばね受24に対して変位を与える軸31と、軸31の側方から径方向に開口する孔31bに収容される球32と、孔31bに収容されて球32を孔31bから外へ向けて付勢するばね33と、筒状であって内方に軸31が挿入されるとともに内周に軸方向に沿って設けられて球32が嵌合可能な複数のディテント溝34a,34b,34cを有するノッチケース34と、軸31の一端に設けられた操作部としての操作ノブ35と備えて構成されている。
【0058】
軸31は、本実施の形態では、円柱状であって
図2中右端となる先端をばね受24の反弁座部材側端の端面に当接させており、
図2中左端となる基端には操作ノブ35が装着されている。軸31は、先端の外周に設けられた螺子部31aと、側方から開口して球32が収容される孔31bと、孔31bよりも基端側の外周に装着されるシールリング31cとを備えている。また、軸31は、螺子部31aとシールリング31cが装着されている部位との間に、外径が他部よりも大きな拡径部31dを備えている。なお、孔31bは、拡径部31dの側方から開口している。
【0059】
そして、軸31は、スリーブ21内に挿入されており、右螺子に設定される螺子部31aがスリーブ21の螺子部21hに螺着されていて、周方向への回転によって送り螺子の要領でスリーブ21およびハウジング7に対して軸方向へ変位できる。なお、軸31は、ばね25に付勢されたばね受24に当接しており、周方向へ回転操作されると軸方向へ変位して、ばね受24を軸方向へ変位させる。
【0060】
螺子部31aは、本実施の形態では、二条螺子とされており、同ピッチの一条螺子に比較してリードが2倍となっている。そして、本実施の形態では、バルブVが作動油の流れに与える抵抗を最小から最大へ切換える際に必要となる軸31の回転量(回転角度)は、一回転未満(360度未満)となるように設定されている。つまり、バルブVが作動油の流れに与える抵抗を最小から最大へ切換える際に外部からバルブVに伝達される必要がある変位は、軸31の螺子部31aのリード未満の変位に設定されている。よって、螺子部31aのリードより短い距離を軸31が軸方向に変位すれば、緩衝器Dが発生する減衰力が最低から最高へ切換えられる。なお、バルブVが作動油の流れに与える抵抗を最小から最大へ切換える際に外部から伝達される必要がある変位より軸31の螺子部31aのリードを長くすれば、バルブVが作動油の流れに与える抵抗を最小から最大へ切換える際に要する軸31の回転量(回転角度)を一回転未満(360度未満)に設定できるので、前記変位に応じて螺子部31aの条数を設定すればよい。したがって、螺子部31aを二条螺子としたのでは、リードが足りない場合には、三条以上の螺子としてリードを長くするようにすればよい。
【0061】
球32は、ばね33とともに軸31の孔31b内に収容されている。ばね33は、孔31bの球32よりも奥に収容されており、球32を孔31bから外方へ退出させる方向へ付勢している。
【0062】
さらに、軸31は、基端の外周にセレーション31eを備えており、操作ノブ35に設けられて軸31の基端外周形状に符合する形状を持つ挿入孔35aに嵌合される。このようにして、軸31に操作ノブ35を装着すると、軸31と操作ノブ35とが回り止めされた状態で一体化されるので、操作ノブ35をユーザーが回転操作すると軸31も操作ノブ35とともにノッチケース34およびスリーブ21に対して軸回りに回転する。
【0063】
操作ノブ35は、
図2および
図3に示すように、円錐台形をしており、底部から開口して軸31の基端の嵌合を可能とする挿入孔35aと、ユーザーの回転操作を容易とするために外周に軸方向に沿って設けられた複数のリブ35bとを備え、リブ35bのうち1つに他のリブ35bとは異なる色で塗装された目印35cが設けられている。また、操作ノブ35は、ユーザーが緩衝器本体d1の外から操作可能なように、スリーブ21およびハウジング7から外方へ突出する軸31の基端に装着されて、緩衝器本体d1の外に露出している。
【0064】
ノッチケース34は、
図2および
図4に示すように、円筒状であってスリーブ21のケース収容部21eの内周に圧入されて固定されている。そして、ノッチケース34の内周には、軸方向に沿って設けられて球32が嵌合可能な複数のディテント溝34a,34b,34cが設けられている。ノッチケース34は、
図2中右端側の内径が左端側よりも大径とされて内径大径部34dを備えている。ディテント溝34a,34b,34cは、ノッチケース34の内周であって内径大径部34dに設けられており、詳しくは、内径大径部34dのバルブV側端となる
図2中右端から形成されて左端側へ向けて延びて内径大径部34dの途中まで形成されている。さらに、ノッチケース34は、内径大径部34dの
図2中左方の径が小径となることで形成される段部34eを備えている。
【0065】
また、ディテント溝34a,34b,34cは、ノッチケース34を
図2中で右端側から見た底面図(
図4)のように、ノッチケース34を軸方向から見て、ディテント溝34bを中心として周方向にディテント溝34a,34cが等間隔に配置されている。つまり、本実施の形態のバルブ調整装置1のノッチケース34では、ディテント溝34a,34b間の間隔C1は、ディテント溝34b,34c間の間隔C2と等しい。また、ディテント溝34a,34c間の間隔C3は、ディテント溝34a,34bの間の間隔C1およびディテント溝34b,34c間の間隔C2より狭くなっている。
【0066】
そして、このように構成されたノッチケース34の内周には軸31が挿入されており、スリーブ21に螺着された軸31を周方向に回転させて、ノッチケース34のディテント溝34a,34b,34cのいずれかに軸31に設けた孔31bを対向させると、ばね33によって付勢された球32が対向しているディテント溝34a,34b,34c内に押し込まれる。このように球32がディテント溝34a,34b,34c内に嵌合した状態では、球32がばね33によって付勢されているので、軸31を周方向へ回転させるには、軸31にトルクを与えて軸31を回転させつつ球32をばね33の付勢力に抗して孔31b内に押し込む必要がある。よって、球32がディテント溝34a,34b,34c内に嵌合している状態から軸31を回転させるためにユーザーに負荷すべきトルクは、球32がノッチケース34の内周であってディテント溝34a,34b,34c以外の部位に対向している状態から軸31を回転させるためにユーザーに負荷すべきトルクよりも大きくなる。なぜなら、球32がノッチケース34のディテント溝34a,34b,34c以外の内周面に対向している状態では、球32が孔31b内に押し込まれており、軸31を回転させても球32がノッチケース34のディテント溝34a,34b,34c以外の内周面を滑るのみであり抵抗が少ないからである。
【0067】
よって、球32がディテント溝34a,34b,34c内に嵌合した状態では、ユーザーが所定トルク以上のトルクを負荷して操作ノブ35を回転操作しないと軸31を回転させることができないので、球32、ばね33およびノッチケース34とで構成されるディテント機構によって、軸31はノッチケース34に対して回転が抑制される。
【0068】
このように、球32がディテント溝34a,34b,34cに嵌合する瞬間に操作ノブ35を回転操作するユーザーに振動を与えるとともに、軸31がディテント機構によってノッチケース34に対して周方向への回転が抑制されてそれ以上操作ノブ35を回転操作しようとするユーザーに対して抵抗を与えるので、これらがクリック感となってユーザーに知覚される。
【0069】
軸31の螺子部31aは、前述したように右螺子となっており、軸31は、ノッチケース34に対して周方向右回りに回転させられるとスリーブ21内へ深く侵入する方向へ変位してばね受24を押してばね25を圧縮する。そして、軸31を右回りに回転させていくと、やがて、スリーブ21の螺子部21hの
図2中左端面に軸31の拡径部31dの
図2中右端面が当接して軸31のそれ以上の右回りの回転とスリーブ21に対するバルブV側への軸方向移動が規制される。
【0070】
よって、ユーザーが操作ノブ35を周方向右回りに回転操作すると、軸31がスリーブ21に対してバルブVに接近させる方向へ変位し、ばね受24に軸31の変位が伝達されて弁座部材22側へ変位してばね25を押し縮める。すると、ばね25が弁体23に与える付勢力が大きくなるので、バルブVが作動油の流れに与える抵抗が増える。よって、ユーザーによる操作ノブ35の操作で軸31をスリーブ21に対してバルブVに接近する方向へ変位させるとバルブVが作動油の流れに与える抵抗が増えるので、緩衝器Dの圧側の減衰力を高くし得る。
【0071】
反対に、軸31は、ノッチケース34に対して周方向左回りに回転させられるとスリーブ21内から退出する方向へ変位し、ばね25によって付勢されるばね受24も軸31と同じ方向へ同じ距離だけ変位する。そして、軸31を左回りに回転させていくと、やがて、ノッチケース34の内径大径部34dの
図2中左方の段部34eに軸31の拡径部31dの
図2中左端面が当接して軸31のそれ以上の左回りの回転とスリーブ21に対する反バルブV側への軸方向移動が規制される。
【0072】
よって、ユーザーが操作ノブ35を周方向左回りに回転操作すると、軸31がスリーブ21に対してバルブVから離間する方向へ変位し、ばね25に押されてばね受24が反弁座部材22側へ変位してばね25の圧縮量を減じる。すると、ばね25が弁体23に与える付勢力が小さくなるので、バルブVが作動油の流れに与える抵抗が減る。よって、ユーザーによる操作ノブ35の操作で軸31をスリーブ21に対してバルブVから離間する方向へ変位させるとバルブVが作動油の流れに与える抵抗が減るので、緩衝器Dの圧側の減衰力を低くし得る。
【0073】
そして、本実施の形態では、バルブVが作動油の流れに与える抵抗が最大となる場合に、軸31の周方向の位置がノッチケース34のディテント溝34a内に球32が嵌合する位置となるようにスリーブ21に軸31とノッチケース34が取り付けられる。なお、ノッチケース34と軸31との周方向での相対位置が多少ずれても、軸31を右方向へ回転させる場合に、軸31の回転によって球32がディテント溝34aを乗り越えてディテント溝34cへ嵌合する前に、スリーブ21の螺子部21hの
図2中左端面に軸31の拡径部31dの
図2中右端面が当接して軸31の軸方向と右回りの回転が規制されるように配慮して、ノッチケース34と軸31はスリーブ21に装着される。具体的には、たとえば、軸31をスリーブ21によってバルブVへ接近する方向への移動が規制される状態となるように、軸31をスリーブ21に取り付けておき、球32がディテント溝34aに嵌合する位置に配置してノッチケース34を圧入すればよい。
【0074】
ディテント溝34cがノッチケース34に設けられる位置は、ディテント溝34c内に球32が嵌合すると、バルブVが作動油の流れに与える抵抗を最小とするように設定されている。よって、軸31を球32がディテント溝34aに嵌合する位置からディテント溝34cに嵌合する位置まで回転させると、バルブVが作動油の流れに与える抵抗は最大から最小へ変化し、緩衝器Dが最も高い減衰力を発生するハードモードから最も低い減衰力を発生するソフトモードへ変化する。反対に、軸31を球32がディテント溝34cに嵌合する位置からディテント溝34aに嵌合する位置まで回転させると、バルブVが作動油の流れに与える抵抗は最小から最大へ変化し、緩衝器Dが最も低い減衰力を発生するソフトモードから最も低い減衰力を発生するハードモードへ変化する。
【0075】
また、ディテント溝34bがノッチケース34に設けられる位置は、ディテント溝34b内に球32が嵌合すると、バルブVが作動油の流れに与える抵抗が最大と最小との間の値になるように設定されている。よって、球32がディテント溝34bに嵌合する位置に軸31が回転操作されると、緩衝器Dが中間の減衰力を発生するミディアムモードとなる。
【0076】
そして、バルブVが作動油の流れる抵抗を最大とする場合に球32が嵌合するディテント溝34aの軸方向長さは、
図5に示すように、ディテント溝34b,34cよりも短かい。具体的には、球32がディテント溝34aに嵌合している位置からバルブVから離間する軸方向へ軸31の螺子部31aのリード以上変位すると球32がディテント溝34aに対向し得なくなるように、ディテント溝34aの長さが設定されており、他のディテント溝34b,34cよりも短くなっている。
【0077】
軸31が寸法誤差によって、球32がディテント溝34aに嵌合する位置から周方向左周りに一回転回ってノッチケース34の段部34eに軸31の拡径部31dの当接せずに移動が規制されない事態が生じて球32がディテント溝34cを乗り越えても、球32はディテント溝34aに嵌合することはない。よって、軸31が寸法誤差によって設計上の許容回転量(許容回転角度)以上回転してしまう事態が生じた場合に、軸31を最大限に操作しても球32は3つのディテント溝34a,34b,34cにそれぞれ一回ずつしか嵌合しない。
【0078】
そして、球32、ばね33およびノッチケース34とで構成されるディテント機構によって、軸31のスリーブ21に対する軸方向の位置をディテント溝34a,34b,34cに対応した3箇所にて位置決めでき、ディテント溝34a,34b,34c内に球32が嵌合するとノッチケース34に対して軸31の回転が抑制されて、バルブVが作動油に与える抵抗を3段階のいずれかで一定させ得る。また、このディテント機構は、ユーザーが操作ノブ35を操作した際にユーザーへクリック感を与えて緩衝器Dの減衰力が切り換わったことを知覚させ得る。
【0079】
このように、バルブ調整装置1は、軸31の変位をバルブVの減衰力の調整に係るばね受24に伝達させて、バルブVの作動油の流れに与える抵抗を増減変化させて、緩衝器Dの減衰力を高低調整する。なお、バルブ調整装置1は、軸31をばね受24に当接させて、軸31の変位をバルブVのばね受24に伝達させているが、軸31とばね受24との間に軸31の変位をばね受24へ伝達する伝達部材を設けてもよい。伝達部材は、固体の他、液体や気体とされてもよい。
【0080】
また、操作ノブ35は、本実施の形態では、軸31の許容回転量(許容角度)が一回転以内(360度以内)に設定されており、操作ノブ35の目印35cがスリーブ21或いはハウジング7に対してどのような位置にあるかを目視するだけで、ユーザーは、現在のバルブVが作動油に与える抵抗がどのような設定となっているか、緩衝器Dがソフト、ミディアムおよびハードのうち何れのモードに設定されているかを容易に把握できる。
【0081】
以上のように構成されたバルブ調整装置1は、外周に螺子部31aを有して周方向への回転により軸方向へ変位可能であって変位の伝達によって作動油(流体)の流れに与える抵抗を変化させるバルブVに対して前記変位を与える軸31と、軸31の側方から径方向に開口する孔31bに収容される球32と、孔31bに収容されて球32を孔31bから外へ向けて付勢するばね33と、筒状であって内方に軸31が挿入されるとともに内周に軸方向に沿って設けられて球32が嵌合可能な複数のディテント溝34a,34b,34cを有するノッチケース34とを備え、ディテント溝34a,34b,34cのうち少なくとも1つが他のディテント溝34b,34cよりも短い。
【0082】
このようにノッチケース34の周方向において間隔が狭くなるディテント溝34aとディテント溝34cのうち、軸31がノッチケース34から最もバルブVに接近する位置に位置決めするディテント溝34aの軸方向長さを短くしておけば、寸法誤差によって軸31が余計に回転して球32がディテント溝34cを乗り越えてもディテント溝34aには対向しない。よって、本実施の形態のバルブ調整装置1では、軸31が寸法誤差によって設計上の許容回転量(許容角度)を超えて多少超えて回転できてしまう事態が生じても、ディテント溝34aに球32が嵌合するのは一度のみとなり、ディテント溝34a,34b,34cの設置数以上にクリック数が増えてしまうことがなく、クリック数を頼りにユーザーは、所望する減衰力通りに容易くバルブVを調整できるようになる。
【0083】
なお、軸31の設計上の許容回転量(許容回転角度)は、1回転以上(360度以上)に設定されてもよい、たとえば、軸31の許容回転量(許容回転角度)を3回転(720度)とする場合、ディテント溝34aを一番短くして軸31が3回転する間に球32が1回のみ嵌合し、ディテント溝34bの長さを軸31が3回転する間に球32が2回嵌合し、ディテント溝34cの長さを軸31が3回転する間に球32が3回嵌合させるような設定も可能となる。つまり、寸毫誤差によって軸31が設計上の許容回転量を多少超えて回転しても、軸31の回転が許容される中で球32をディテント溝34a,34b,34cへ嵌合させる回数をコントロールしてクリック数を設計者の希望する回数に設定できる。つまり、ディテント溝34a,34b,34cのうちいずれか1つを短く設定すれば、短くしたディテント溝34aに球32が嵌合する回数を任意に設定可能となるのである。
【0084】
また、ノッチケース34に形成されるディテント溝の設置数は、任意に決定できるとともに、ディテント溝の幅間隔についても任意に設定できる。また、複数のディテント溝のうちどのディテント溝を短く設定するかは、クリック数とバルブVの作動油(流体)の流れに与える抵抗をディテント溝に軸31側の球32が嵌合した際にどの程度の抵抗に調整するかによって適宜設計者が決定できる。このように、ディテント溝のうち少なくとも一つが短いとの定義には、各ディテント溝の長さをそれぞれ異なる態様も当然に含まれる。
【0085】
また、ディテント溝34a,34b,34cは、ノッチケース34の内周であって内径大径部34dの
図2中右端から中間にかけて連続して形成されているので、ノッチケース34に簡単な加工で形成され得る。
【0086】
また、本実施の形態のバルブ調整装置1では、軸31の螺子部31aを二条以上の多条螺子としてリードを大きく設定しているので、バルブVが作動油(流体)の流れに与える抵抗を最大から最小まで変化させるのに必要となる軸31の回転量(必要回転量、必要回転角度)が少なくなるので、ユーザーの減衰力調整作業の負担が軽減されるとともに、軸31の回転量(回転角度)を1回転未満(360度未満)に設定できるようになる。必要回転量(必要回転角度)を1回転未満(360度未満)に設定すれば、ユーザーがバルブVの作動油(流体)の流れに与える抵抗の調整および緩衝器Dの減衰力の調整作業負担軽減効果が高く、バルブ調整装置1の実用性が向上する。
【0087】
また、ディテント溝34a,34b,34cは、ノッチケース34の内周に不等間隔で設けられてもよい。たとえば、
図6に示した一変形例におけるノッチケース34のように、周方向でディテント溝34aとディテント溝34bとの間の間隔C1と、ディテント溝34bとディテント溝34cとの間の間隔C2とが異なる長さに設定され、各ディテント溝34a,34b,34cが不等間隔で設けられてもよい。バルブVが軸31の変位によって作動油(流体)の流れに与える抵抗をリニアに変化させるバルブではない場合、ディテント溝34a,34b,34cを不等間隔にノッチケース34に設けることで軸31の位置によって設定されるバルブVの前記抵抗を大中小でリニアに変化させ得る。よって、バルブVがニードルの弁座に対する遠近で流路面積を変化させる可変オリフィスとして構成されるような場合であっても、ディテント溝34a,34b,34cの配置をノッチケース34に最適に配置でき、バルブVの前記抵抗をリニアに変化させ得る。この場合でも、ディテント溝の設置数は任意に変更でき、ディテント溝の長さの設定による軸31の回転量(角度)と球32を嵌合させるディテント溝の選択によって、バルブVの抵抗の変化の設定自由度が向上する。
【0088】
さらに、本実施の形態のバルブ調整装置1は、目印35cを有する操作ノブ(操作部)35が軸31の一端に設けられている。このように構成されたバルブ調整装置1では、操作ノブ(操作部)35の回転位置をユーザーが目視できるので、ユーザーは、バルブVの現在の作動油(流体)の流れに与える抵抗の大きさを外方から把握できる。また、軸31の最大回転量(最大回転角度)を1回転未満(360度以上)に設定すれば、ユーザーは、操作ノブ35の目印35cがスリーブ21或いはハウジング7に対してどのような位置にあるかを目視するだけで、現在のバルブVが作動油に与える抵抗がどのような設定となっているか、緩衝器Dがソフト、ミディアムおよびハードのうち何れのモードに設定されているかをより一層容易に把握できる。
【0089】
また、本実施の形態の緩衝器Dは、シリンダ2と、シリンダ2内に移動可能に挿入されるピストン3と、シリンダ2内に移動可能に挿入されるとともにピストン3に連結されるピストンロッド4と、変位が伝達されると作動油(流体)の流れに与える抵抗を変化させるバルブVとを有して、伸縮時に減衰力を発生する緩衝器本体d1と、バルブ調整装置1とを備え、バルブVは、軸31から変位が与えられると抵抗を変化させる。このように構成された緩衝器Dによれば、軸31が寸法誤差によって設計上の許容回転量(許容回転角度)を多少超えて回転できてしまう事態が生じても、クリック数が増えてしまうことがなく、クリック数を頼りにユーザーは、緩衝器Dの減衰力を所望する減衰力通りに容易く調整できるようになる。
【0090】
バルブVは、前述した構成に限られず、弁体を弁座に設けたポートに対向して弁座に対して遠近可能なニードル弁体として、軸31の変位でニードル弁体を変位させて、前記ポートを流れる作動油の流れを変化させるものであってもよい。つまり、バルブVは、バルブ調整装置1から変位が伝達されると作動油の流れに抵抗を変化させる構造となっていればよく、その限りにおいて適宜バルブVの構成を設計変更できる。
【0091】
また、本実施の形態の緩衝器本体d1は、伸側の減衰力を発生する伸側リーフバルブ9と、圧側の減衰力を発生する圧側リーフバルブ8とを備えているが、リーフバルブの代わりにオリフィスやチョークその他のバルブを使用してもよい。
【0092】
さらに、本実施の形態では、バルブVにチェックバルブ26が組み込まれているが、チェックバルブ26を廃止して、バルブ収容筒7b2を迂回して圧側室R2と液室Lとを連通する吸込通路を設けて、この吸込通路に液室Lから圧側室R2へ向かう流体の流れのみを許容するチェックバルブを設けてもよい。
【0093】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0094】
1・・・バルブ調整装置、2・・・シリンダ、3・・・ピストン、4・・・ピストンロッド、31・・・軸、31a・・・螺子部、31b・・・孔、32・・・球、33・・・ばね、34・・・ノッチケース、34a,34b,34c・・・ディテント溝、35・・操作ノブ(操作部)、D・・・緩衝器、d1・・・緩衝器本体、V・・・バルブ