(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】直動電動機
(51)【国際特許分類】
H02K 41/03 20060101AFI20230823BHJP
【FI】
H02K41/03 A
(21)【出願番号】P 2020103401
(22)【出願日】2020-06-15
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100166981
【氏名又は名称】砂田 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】林 俊平
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-175851(JP,A)
【文献】特開2004-343903(JP,A)
【文献】特開2004-357466(JP,A)
【文献】特開昭60-59966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 41/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁極子と、当該磁極子を囲繞し、複数のコイルが周方向に並べて配置された電機子とを備え、
前記磁極子は、前記電機子に対向する面に、第1磁極、第2磁極、第3磁極、及び第4磁極を備え、
前記第1磁極は、前記第2磁極及び前記第3磁極と隣接し、
前記第4磁極は、前記第2磁極及び前記第3磁極と隣接し、
前記第1磁極、前記第2磁極、前記第3磁極、及び前記第4磁極のそれぞれは、中心鉄心を備え、
前記第1磁極の中心鉄心及び前記第4磁極の中心鉄心のそれぞれは、隣接する2つの磁極の側の面に永久磁石を備え、
前記電機子は、前記第1磁極及び前記第2磁極に対向する第1の部分と、前記第1磁極及び前記第3磁極に対向する第2の部分と、前記第2磁極及び前記第4磁極に対向する第3の部分と、前記第3磁極及び前記第4磁極に対向する第4の部分とに分割されている、直動電動機。
【請求項2】
前記第1磁極、前記第2磁極、前記第3磁極、及び前記第4磁極の中心鉄心のそれぞれは、前記隣接する2つの磁極の側の面の両方に接する面に永久磁石を備えた、請求項1に記載の直動電動機。
【請求項3】
前記隣接する2つの磁極の側の面の永久磁石と、当該隣接する2つの磁極の側の面の両方に接する面の永久磁石とは、前記中心鉄心の側が同極である、請求項2に記載の直動電動機。
【請求項4】
前記第1磁極は、前記第2磁極及び前記第3磁極の何れとも異極であり、
前記第4磁極は、前記第2磁極及び前記第3磁極の何れとも異極である、請求項1に記載の直動電動機。
【請求項5】
前記磁極子と前記電機子との間の空隙は、当該磁極子と当該電機子とが当該磁極子の長手方向以外に相対運動することを制限する制限部材を含む、請求項1に記載の直動電動機。
【請求項6】
前記電機子の分割された隣接する2つの部分の間の空隙は、前記磁極子と当該電機子とが当該磁極子の長手方向以外に相対運動することを制限する制限部材を含む、請求項1に記載の直動電動機。
【請求項7】
磁極子と、当該磁極子の一部を囲繞し、複数のコイルが周方向に並べて配置された電機子とを備え、
前記磁極子は、前記電機子に対向する面に、第1磁極、第2磁極、第3磁極、及び第4磁極を備え、
前記第1磁極は、前記第2磁極及び前記第3磁極と隣接し、
前記第4磁極は、前記第2磁極及び前記第3磁極と隣接し、
前記第1磁極、前記第2磁極、前記第3磁極、及び前記第4磁極のそれぞれは、中心鉄心を備え、
前記第1磁極の中心鉄心及び前記第4磁極の中心鉄心のそれぞれは、隣接する2つの磁極の側の面に永久磁石を備え、
前記電機子は、前記第1磁極及び前記第2磁極に対向する第1の部分と、前記第1磁極及び前記第3磁極に対向する第2の部分と、前記第2磁極及び前記第4磁極に対向する第3の部分とに分割されており、
前記磁極子は、前記第3磁極及び前記第4磁極に非磁性のスペーサを介して接続された磁極子バックヨークを備えた、直動電動機。
【請求項8】
前記磁極子から前記磁極子バックヨークへの方向における前記スペーサの長さは、前記磁極子から前記電機子への方向における空隙の長さに略等しい、請求項7に記載の直動電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁極子と磁極子を囲繞する電機子とを備えた直動電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
周方向と可動軸方向の2軸方向に周期性を持ち、z軸方向に長い筒状の直動電動機であって、磁極は等方的な磁気特性を持つバルク鉄心を中心に構成されており、これを中心鉄心として電機子と対向する面を除いた5面に永久磁石が配置され、各永久磁石の磁化方向はいずれも接する中心鉄心の面に垂直な方向へ向かうように設定された直動電動機は、知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】林俊平他、「三次元磁極構造による電動機推力向上の検討」、電気学会論文誌D、vol.139 No.7 pp.1-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動機の推力密度(体積又は質量当たりに発生可能な推力)の向上のためには、発生可能な推力の向上と、余剰スペースの削減又は稠密な構成とが必要である。
【0005】
電機子鉄心のティースに漏れ磁束の増加によって推力低下を招く部分が存在する構成を採用したのでは、推力密度を向上することに限界がある。
【0006】
本発明の目的は、電機子鉄心のティースに漏れ磁束の増加によって推力低下を招く部分が存在する構成を採用した場合よりも、推力密度を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的のもと、本発明は、磁極子と、磁極子を囲繞し、複数のコイルが周方向に並べて配置された電機子とを備え、磁極子は、電機子に対向する面に、第1磁極、第2磁極、第3磁極、及び第4磁極を備え、第1磁極は、第2磁極及び第3磁極と隣接し、第4磁極は、第2磁極及び第3磁極と隣接し、第1磁極、第2磁極、第3磁極、及び第4磁極のそれぞれは、中心鉄心を備え、第1磁極の中心鉄心及び第4磁極の中心鉄心のそれぞれは、隣接する2つの磁極の側の面に永久磁石を備え、電機子は、第1磁極及び第2磁極に対向する第1の部分と、第1磁極及び第3磁極に対向する第2の部分と、第2磁極及び第4磁極に対向する第3の部分と、第3磁極及び第4磁極に対向する第4の部分とに分割されている、直動電動機を提供する。
【0008】
第1磁極、第2磁極、第3磁極、及び第4磁極の中心鉄心のそれぞれは、隣接する2つの磁極の側の面の両方に接する面に永久磁石を備えた、ものであってよい。その場合、隣接する2つの磁極の側の面の永久磁石と、隣接する2つの磁極の側の面の両方に接する面の永久磁石とは、中心鉄心の側が同極であってよい。
【0009】
第1磁極は、第2磁極及び第3磁極の何れとも異極であり、第4磁極は、第2磁極及び第3磁極の何れとも異極であってよい。
【0010】
磁極子と電機子との間の空隙は、磁極子と電機子とが磁極子の長手方向以外に相対運動することを制限する制限部材を含む、ものであってよい。
【0011】
電機子の分割された隣接する2つの部分の間の空隙は、磁極子と電機子とが磁極子の長手方向以外に相対運動することを制限する制限部材を含む、ものであってよい。
【0012】
また、本発明は、磁極子と、磁極子の一部を囲繞し、複数のコイルが周方向に並べて配置された電機子とを備え、磁極子は、電機子に対向する面に、第1磁極、第2磁極、第3磁極、及び第4磁極を備え、第1磁極は、第2磁極及び第3磁極と隣接し、第4磁極は、第2磁極及び第3磁極と隣接し、第1磁極、第2磁極、第3磁極、及び第4磁極のそれぞれは、中心鉄心を備え、第1磁極の中心鉄心及び第4磁極の中心鉄心のそれぞれは、隣接する2つの磁極の側の面に永久磁石を備え、電機子は、第1磁極及び第2磁極に対向する第1の部分と、第1磁極及び第3磁極に対向する第2の部分と、第2磁極及び第4磁極に対向する第3の部分とに分割されており、磁極子は、第3磁極及び第4磁極に非磁性のスペーサを介して接続された磁極子バックヨークを備えた、直動電動機も提供する。
【0013】
磁極子から磁極子バックヨークへの方向におけるスペーサの長さは、磁極子から電機子への方向における空隙の長さに略等しい、ものであってよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電機子鉄心のティースに漏れ磁束の増加によって推力低下を招く部分が存在する構成を採用した場合よりも、推力密度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態1に係る三次元磁極構造の単位胞の構成を示す斜視図である。
【
図2】実施の形態2に係る三次元磁極構造の単位胞の構成を示す斜視図である。
【
図3】従来の円筒型直動電動機の電機子鉄心の部分側面を模式的に示した図である。
【
図4】(a)~(c)は、従来の円筒型直動電動機において、ティース隣接面の面積を小さくする方法を説明するための図である。
【
図5】実施の形態3に係る直動電動機の構成を示す正面図である。
【
図6】実施の形態3に係る直動電動機の構成を示す斜視図である。
【
図7】実施の形態3に係る直動電動機の電機子コイルにおける電流経路を示す正面図である。
【
図8】実施の形態3に係る直動電動機の電機子コイルから生じた磁路を示す斜視図である。
【
図9】実施の形態4に係る直動電動機の第1の構成を示す正面図である。
【
図10】実施の形態4に係る直動電動機の第2の構成を示す正面図である。
【
図11】実施の形態5に係る直動電動機の構成を示す正面図である。
【
図12】実施の形態5に係る直動電動機におけるスペーサが存在しない場合の磁路を示す正面図である。
【
図13】実施の形態5に係る直動電動機におけるスペーサが空隙長より厚い場合の磁路を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
(実施の形態1)
本実施の形態に係る電動機における磁極子の最小単位は、三次元磁極構造の単位胞である。磁極子は、この単位胞を少なくとも1つ並べることにより構成される。その場合、三次元磁極構造の単位胞は、空隙を介した対面に電機子コイルを有する電機子を配置して用いられる。
【0018】
図1は、本実施の形態に係る三次元磁極構造の単位胞20の構成を示す斜視図である。図示するように、単位胞20は、磁極ブロック21
1~21
4を含み、磁極ブロック21
1は磁極ブロック21
2及び磁極ブロック21
3と隣接し、磁極ブロック21
4は磁極ブロック21
2及び磁極ブロック21
3と隣接している。ここで、磁極ブロック21
1は第1磁極の一例であり、磁極ブロック21
2は第2磁極の一例であり、磁極ブロック21
3は第3磁極の一例であり、磁極ブロック21
4は第4磁極の一例である。
【0019】
磁極ブロック211は、直方体形状の軟磁性体の中心鉄心の一例としての磁極子鉄心22と、3つの板状の永久磁石23とを有している。各永久磁石23は、磁極子鉄心22の一面と同じ又は若干大きい主面を有しており、磁極子鉄心22の一面を隠すようにこれに取り付けられる。磁極子鉄心22には、その3つの面に永久磁石23が取り付けられる。つまり、磁極子鉄心22には、他の3つの面を開放するように永久磁石23が取り付けられる。このうち、磁極ブロック212及び磁極ブロック213の側の面の永久磁石23は、隣接する2つの磁極の側の面の永久磁石の一例であり、図中下側の永久磁石は、隣接する2つの磁極の側の面の両方に接する面の永久磁石の一例である。また、各永久磁石23は、磁極子鉄心22に同一の磁極を向けて配置される。磁極子鉄心22の開放された3つの面のうち1つの面は単位胞磁極24となる。この単位胞磁極24は、図中上側に電機子が配置されている場合の単位胞磁極である。また、磁極子鉄心22の開放された3つの面のうち他の2つの面は単位胞磁極25となる。この単位胞磁極25は、図中手前側又は図中右側に電機子が配置されている場合の単位胞磁極である。単位胞磁極24,25は、各永久磁石23が磁極子鉄心22を向く面の磁極と同一磁極となる。また、各永久磁石23の外側を向く面(磁極子鉄心22とは反対側の面)は単位胞磁極24,25の反対磁極となる。
【0020】
磁極ブロック212~214の構成は、磁極ブロック211の構成と同様であるので、同一構成要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0021】
ただし、本実施の形態では、隣接する2つの磁極子鉄心22がそれらの間の永久磁石23を共有することとしている。これは、磁極ブロック211の磁極子鉄心22は、磁極ブロック212及び磁極ブロック213の側の面に永久磁石23を備えるが、磁極ブロック212の磁極子鉄心22及び磁極ブロック213の磁極子鉄心22のそれぞれは、磁極ブロック211の側の面に永久磁石23を備えない、ということと捉えることができる。また、磁極ブロック214の磁極子鉄心22は、磁極ブロック212及び磁極ブロック213の側の面に永久磁石23を備えるが、磁極ブロック212の磁極子鉄心22及び磁極ブロック213の磁極子鉄心22のそれぞれは、磁極ブロック214の側の面に永久磁石23を備えない、ということと捉えることができる。
【0022】
一方で、隣接する2つの磁極子鉄心22がそれらの間の永久磁石23を別々に有することとしてもよい。これは、磁極ブロック211の磁極子鉄心22が、磁極ブロック212及び磁極ブロック213の側の面に永久磁石23を備えるのに加えて、磁極ブロック212の磁極子鉄心22及び磁極ブロック213の磁極子鉄心22のそれぞれが、磁極ブロック211の側の面に永久磁石23を備える、ということと捉えることができる。また、磁極ブロック214の磁極子鉄心22が、磁極ブロック212及び磁極ブロック213の側の面に永久磁石23を備えるのに加えて、磁極ブロック212の磁極子鉄心22及び磁極ブロック213の磁極子鉄心22のそれぞれが、磁極ブロック214の側の面に永久磁石23を備える、ということと捉えることができる。
【0023】
単位胞20は、その中に3種類の磁路を有する。例えば、矢印Minで示すように磁極ブロック212へ入って矢印Moutで示すように磁極ブロック211から出るまでの磁路に着目する。この場合、1つ目の磁路は、矢印M1で示すように、磁極ブロック211と磁極ブロック212との間の永久磁石23を通って磁極ブロック212から磁極ブロック211へ入る磁路である。2つ目の磁路は、矢印M2で示すように、磁極ブロック212と磁極ブロック214との間の永久磁石23を通って磁極ブロック212から磁極ブロック214へ入り、磁極ブロック213と磁極ブロック214との間の永久磁石23を通って磁極ブロック214から磁極ブロック213へ入り、磁極ブロック211と磁極ブロック213との間の永久磁石23を通って磁極ブロック213から磁極ブロック211へ入る磁路である。3つ目の磁路は、矢印M3で示すように、磁極ブロック212の下の永久磁石23を通って磁極ブロック212から出て、磁極ブロック211の下の永久磁石23を通って磁極ブロック211へ入る磁路である。
【0024】
このように、単位胞20では、その中に複数の磁路が存在するため、磁束が通る永久磁石23の総表面積が大きくなる。
【0025】
また、単位胞20では、各永久磁石23の表面積が小さいため、永久磁石23の厚みを薄くしても磁気抵抗を大きくすることができる。これにより、単位胞20では、反磁場が小さくなる。
【0026】
永久磁石23が外部に出力する磁束の大きさは、磁束が通る永久磁石23の総表面積に比例し、永久磁石23に生じる反磁場の大きさに反比例する。したがって、三次元磁極構造の単位胞20では、永久磁石23が外部に出力する磁束が大きくなる。
【0027】
つまり、本実施の形態に係る三次元磁極構造の狙いは、空隙中の磁場のエネルギーを増加させることにある。例えば電動機に適用した際に外部から投入された電流と相互作用し易い場所である空隙に生じる磁場のエネルギー量を高めることにより、少ない電流で大きな電磁力が得られるようになる。これは、必要電圧は大きくなるが、ジュール損が低減されるからである。
【0028】
(実施の形態2)
本実施の形態は、三次元磁極構造の単位胞が複数の対向面を有する場合の例である。
【0029】
図2は、本実施の形態に係る三次元磁極構造の単位胞30の構成を示す斜視図である。図示するように、単位胞30は、磁極ブロック21
1~21
4を含み、磁極ブロック21
1は磁極ブロック21
2及び磁極ブロック21
3と隣接し、磁極ブロック21
4は磁極ブロック21
2及び磁極ブロック21
3と隣接している。
【0030】
また、単位胞30は、磁極ブロック215~218を含み(磁極ブロック218は図示していない)、磁極ブロック215は磁極ブロック216及び磁極ブロック217と隣接し、磁極ブロック218は磁極ブロック216及び磁極ブロック217と隣接している。さらに、磁極ブロック211は磁極ブロック215と、磁極ブロック212は磁極ブロック216と、磁極ブロック213は磁極ブロック217と、磁極ブロック214は磁極ブロック218と、それぞれ隣接している。ここで、磁極ブロック215は第5磁極の一例であり、磁極ブロック216は第6磁極の一例であり、磁極ブロック217は第7磁極の一例であり、磁極ブロック218は第8磁極の一例である。
【0031】
磁極ブロック211~214の構成は、実施の形態1において説明した磁極ブロック211~214の構成と同様であるので、同一構成要素については同一符号を付し、その説明を省略する。また、磁極ブロック215~218の構成も、磁極ブロック211~214の構成と同様であるので、同一構成要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0032】
単位胞30も、その中に3種類の磁路を有する。例えば、矢印Minで示すように磁極ブロック212へ入って矢印Moutで示すように磁極ブロック211から出るまでの磁路に着目する。この場合、1つ目の磁路は、矢印M1で示すように、磁極ブロック211と磁極ブロック212との間の永久磁石23を通って磁極ブロック212から磁極ブロック211へ入る磁路である。2つ目の磁路は、矢印M2で示すように、磁極ブロック212と磁極ブロック214との間の永久磁石23を通って磁極ブロック212から磁極ブロック214へ入り、磁極ブロック213と磁極ブロック214との間の永久磁石23を通って磁極ブロック214から磁極ブロック213へ入り、磁極ブロック211と磁極ブロック213との間の永久磁石23を通って磁極ブロック213から磁極ブロック211へ入る磁路である。3つ目の磁路は、矢印M5で示すように、磁極ブロック212の下の永久磁石23を通って磁極ブロック216へ入り、磁極ブロック216から出て、矢印M6で示すように、磁極ブロック215へ入り、磁極ブロック211の下の永久磁石23を通って磁極ブロック211へ入る磁路である。
【0033】
本実施の形態に係る三次元磁極構造は、例えば、特開2010-98929号公報に記載のダブルギャップモータに適用することが可能である。この場合、単位胞30を、ダブルギャップモータのロータに、例えば、単位胞30の図中上側がロータの軸方向上側と一致し、単位胞30の図中下側がロータの軸方向下側と一致する方向で、径方向内側が欠けた扇形柱に変形して配置するとよい。
【0034】
(実施の形態3)
電動機において、駆動力(出力)は、磁極子から生じる磁束が電機子に印可される電流ループと鎖交することによる相互作用によって得られる。その際、電機子中の磁束のほとんどは透磁率の高い電機子鉄心中を通過するが、電機子鉄心外の空間中を通過する所謂漏れ磁束も一部存在する。
【0035】
このことについて具体的に説明する。
図3は、従来の円筒型直動電動機の電機子鉄心15の部分側面を模式的に示した図である。なお、ここでは、電機子鉄心15の中心軸の長手方向をz方向、電機子鉄心15の中心軸に直交する方向をr方向という。図には、z方向に2つのティース12を含み、r方向に電機子鉄心15の片側のみを含む部分側面図を示している。
【0036】
すなわち、図において、電機子鉄心15は、2つのティース12と、バックヨーク13とを含む。なお、実際には、各ティース12には導線が巻回され電機子コイルが形成されるが、図は電機子鉄心15を示したものなので、電機子コイルについては示していない。電機子鉄心15では、矢印Mmainで示すように、主磁束が、右側のティース12から入り、バックヨーク13を通過し、左側のティース12から出ている。一方で、矢印Mleakで示すように、漏れ磁束が、ティース隣接面16間の空間を通過している。
【0037】
電機子に印可される電流は電機子鉄心15のティース12を囲むように通過するため、電機子鉄心15中を通過する主磁束は電流ループと鎖交することで駆動に寄与する。一方で、漏れ磁束の駆動への寄与はわずかである。したがって、漏れ磁束は低減して、電機子鉄心15を通る主磁束に戻すことが望ましい。
【0038】
ここで、漏れ磁束の量はティース隣接面16の面積に比例するため、漏れ磁束を低減するには、ティース隣接面16の面積を可能な限り小さくするとよい。
【0039】
そこで、ティース隣接面16の面積を小さくする方法について考える。
図4(a)~(c)は、このような方法を説明するための図である。なお、ここでも、電機子鉄心15の中心軸の長手方向をz方向、電機子鉄心15の中心軸を中心とする円周方向をp方向、電機子鉄心15の中心軸に直交する方向をr方向という。
図4(a)は、従来の円筒型直動電動機の電機子鉄心15をz方向から見たときの平面断面図である。図において、電機子鉄心15は、ティース12と、バックヨーク13とを含む。この状態で、ティース隣接面16(
図3参照)の面積を小さくするために、例えば、
図4(b)に示すように、ティース12のp方向の長さを短くしたとする。しかしながら、これでは、主磁束が通過するティース12の断面積も小さくなる。発生磁束については、ティース12の断面積の最小部分が、磁気飽和の影響を最も受け易いため、支配的であり、ティース12の最も内側の面の断面積による制約を受ける。したがって、
図4(b)のようにすることは、磁極子や励磁電流によって生じる磁束の低下を招くことになる。
【0040】
そこで、本実施の形態では、
図4(c)に示すように、電機子鉄心15を、例えば余剰分17を削減して、電機子鉄心15a~15dに分割する。これにより、ティース12の最も内側の面の断面積を維持しつつ、ティース隣接面16(
図3参照)の面積を小さくして漏れ磁束を低減する。
【0041】
図5は、本実施の形態に係る直動電動機100の構成を示す正面図であり、
図6は、その斜視図である。直動電動機100は、4つの電機子110a~110dと、1つの磁極子120とを備える。ただし、
図6では、磁極子120の全体が見易いように、電機子110aのみを示している。電機子110bは電機子を分割した第1の部分の一例であり、電機子110cは電機子を分割した第2の部分の一例であり、電機子110dは電機子を分割した第3の部分の一例であり、電機子110aは電機子を分割した第4の部分の一例である。直動電動機100が駆動されると、電機子110a~110dと磁極子120とが相対的に直線移動する。ここで、磁極子120を可動子とし、電機子110a~110dを固定子とする構成としてもよいし、電機子110a~110dを可動子とし、磁極子120を固定子とする構成としてもよい。本実施の形態では、磁極子120を可動子とし、電機子110a~110dを固定子とする構成について説明する。なお、以下の説明において、電機子110bから電機子110aへの方向をx方向、電機子110cから電機子110dへの方向をy方向、磁極子120の可動方向(図中手前側への方向)をz方向という。
【0042】
まず、電機子110aの構成について説明する。
図5及び
図6に示すように、電機子110aは、電機子コイル111と、ティース部112と、ヨーク部113とを有する。ヨーク部113は水平な板状をなしており、その左面からはz方向に2列に並ぶように複数のティース部112が左方に突出している。
【0043】
ヨーク部113とティース部112とは、電機子鉄心115として一体的に形成されている。かかる電機子鉄心115は、軟鉄、ソフトフェライト等の軟磁性体によって構成される。また、ティース部112は、直方体形状をなしており、各ティース部112には導線が巻回され電機子コイル111が形成される。電機子コイル111は、z方向に2列設けられている。
【0044】
電機子110b~110dの構成は、電機子110aの構成と同様であるので、同一構成要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0045】
ここで、電機子110a~110dのそれぞれは、
図4(c)の電機子鉄心15a~15dのそれぞれの2つのティース12に導線を巻回して電機子コイルを形成したものに対応する。
図4(c)に示すような円弧状の電機子鉄心15a~15dのティース12に電機子コイルを形成して電機子110a~110dとしてもよいが、本実施の形態では、
図5及び
図6に示すような板状の電機子鉄心115のティース12に電機子コイル111を形成して電機子110a~110dとしている。つまり、電機子110は一般化して筒状とし、磁極子120は一般化して柱状としてもよいが、本実施の形態では、電機子110は四角筒状とし、磁極子120は四角柱状としている。
【0046】
次に、磁極子120の構成について説明する。
図5に示すように、磁極子120は、4つの電機子110a~110dに囲まれて配置される。また、
図6に示すように、磁極子120は、z方向に延びる四角柱状をなしている。かかる磁極子120は、複数の磁極ブロック121を有しており、これらの磁極ブロック121がx方向に2つ、y方向に2つ、z方向に5つ並べられた構造となっている。すなわち、磁極子120は、x方向に2つ、y方向に2つ、z方向に1つの磁極ブロック121からなる部分がz方向に3つ並べられ、続けて、x方向に2つ、y方向に2つ、z方向に2つの磁極ブロック121からなる部分がz方向に1つ並べられた構造となっている。
【0047】
このうち、x方向に2つ、y方向に2つ、z方向に1つの磁極ブロック121からなる部分の構成は、
図1に示した単位胞20の構成と同様であるので、その説明を省略する。ただし、本実施の形態では、単位胞20が磁極子120に、単位胞20の図中手前側が磁極子120の左側と一致し、単位胞20の図中奥側が磁極子120の右側と一致する方向で配置される。つまり、
図1の磁極ブロック21
1~21
4は、本実施の形態では、それぞれ、z方向から見た場合の左下の磁極ブロック121、左上の磁極ブロック121、右下の磁極ブロック121、右上の磁極ブロック121に対応する。また、
図1の磁極子鉄心22、永久磁石23は、本実施の形態では、それぞれ、磁極子鉄心122、永久磁石123に対応する。さらに、
図1の単位胞磁極25を、本実施の形態では、それぞれ、可動子磁極125と表記することとする。
【0048】
また、x方向に2つ、y方向に2つ、z方向に2つの磁極ブロック121からなる部分の構成は、
図2に示した単位胞30の構成と同様であるので、その説明を省略する。ただし、本実施の形態では、単位胞30が磁極子120に、単位胞30の図中手前側が磁極子120の左側と一致し、単位胞30の図中奥側が磁極子120の右側と一致する方向で配置される。つまり、
図2の磁極ブロック21
1~21
4は、本実施の形態では、それぞれ、z方向から見た場合の図中奥側から2つ目の左下の磁極ブロック121、左上の磁極ブロック121、右下の磁極ブロック121、右上の磁極ブロック121に対応する。そして、
図2の磁極ブロック21
5~21
8は、本実施の形態では、それぞれ、z方向から見た場合の図中最も奥側の左下の磁極ブロック121、左上の磁極ブロック121、右下の磁極ブロック121、右上の磁極ブロック121に対応する。また、
図1の磁極子鉄心22、永久磁石23は、本実施の形態では、それぞれ、磁極子鉄心122、永久磁石123に対応する。さらに、
図1の単位胞磁極25を、本実施の形態では、それぞれ、可動子磁極125と表記することとする。
【0049】
直方体形状の磁極ブロック121のそれぞれは、面と面とを接して互いに接続される。隣接する2つの磁極ブロック121の可動子磁極125は互いに異なる磁極とされる。つまり、可動子磁極125がz方向に交互に反転するように各磁極ブロック121が2×2列に並べられる。このため、隣り合う2つの磁極ブロック121の接合面は一方がS極となり他方がN極となる。したがって、隣り合う2つの磁極ブロック121が磁力によって互いに引きつけ合い、複数の磁極ブロック121を容易に2×2列に配置することができる。
【0050】
図7は、電機子コイル111における電流経路を示す正面図である。ここでは、磁極の構成を周方向4極とし、矢印で示すように電流経路を構成することにする。
【0051】
上記のような構成の直動電動機100において、電機子コイル111に電流を流すと、電機子コイル111の周囲に磁界が発生する。
図8は、電機子コイル111から生じた磁路を示す斜視図である。横方向に隣り合う2つの電機子コイル111には、互いに逆向きに電流が流れる。これにより、これらの電機子コイル111が巻回された2つのティース部112と、ヨーク部113と、ティース部112の間の空間とを通る磁路が形成される。このとき、ティース部112の磁極子120との対向面が磁極(電機子磁極114)となる。隣り合う2つのティース部112のうち、一方のティース部112の電機子磁極114がS極となり、他方のティース部112の電機子磁極114がN極となる。
【0052】
各電機子磁極114のz方向の位置と、各可動子磁極125のz方向の位置とは一致している。つまり、正面視において、電機子磁極114と可動子磁極125とが一対一で対向している。したがって、電機子コイル111に電流が流れると、電機子磁極114とこれに対応する可動子磁極125とが磁力によって吸引又は反発される(
図8には、電機子磁極114と可動子磁極125とが吸引される場合の磁路を示している)。電機子コイル111に流れる電流が制御されることで、電機子コイル111によって生じる磁界が変化し、これによって磁極子120がz方向に移動する。
【0053】
上記のようにして電機子コイル111から生じた磁束は、磁極子120の内部を通過する。つまり、N極の電機子磁極114から出た磁束がS極の可動子磁極125に入り、この可動子磁極125を有する磁極子鉄心122に接する全ての永久磁石123を通過する。永久磁石123を出た磁束は、隣の磁極ブロック121の永久磁石123に入り、N極の可動子磁極125から出てS極の電機子磁極114に入る。つまり、本実施の形態に係る直動電動機100では、電機子110によって生じた磁束が磁極ブロック121の全ての永久磁石123を通過する。磁極子120では、各磁極子鉄心122を永久磁石123が取り囲んでいるため、従来型の磁極子鉄心の2面にのみ永久磁石が取り付けられた構造の磁極子に比べて、可動子磁極125に生じる磁束が増大される。したがって、直動電動機100における磁気効率が向上する。
【0054】
なお、本実施の形態では、反対側の電機子110を通過する経路をとるため、磁極子バックヨークを省略できる。
【0055】
なお、本実施の形態に係る直動電動機100は、筒形の直動電動機であることを前提としたが、これには限らず、筒形でない直動電動機であってもよい。
【0056】
(実施の形態4)
本実施の形態は、実施の形態3に係る直動電動機100にガイドを取り付けた場合の実施の形態である。なお、以下の説明において、ガイドとは、制限部材の一例であり、磁極子120が可動方向以外へ移動することを制限する機構をいう。
【0057】
図9は、本実施の形態に係る直動電動機200の第1の構成を示す正面図である。図示するように、直動電動機200の第1の構成では、電機子110a~110dと磁極子120との間にガイド131が設けられている。直動電動機200の第1の構成は、この点を除き、実施の形態3に係る直動電動機100の構成と同じなので、説明を省略する。なお、この第1の構成は、磁極子と電機子との間の空隙が、磁極子と電機子とが磁極子の長手方向以外に相対運動することを制限する制限部材を含む構成の一例である。
【0058】
図10は、本実施の形態に係る直動電動機200の第2の構成を示す正面図である。図示するように、直動電動機200の第2の構成では、磁極子120から電機子110a~110dの間の空間に向けてガイド132が設けられている。直動電動機200の第2の構成は、この点を除き、実施の形態3に係る直動電動機100と同じなので、説明を省略する。なお、この直動電動機200の第2の構成は、余剰スペースを削除することにより、デッドスペースとなっている部分をガイドスペースとして活用するものである。すなわち、この第2の構成は、電機子の分割された隣接する2つの部分の間の空隙が、磁極子と電機子とが磁極子の長手方向以外に相対運動することを制限する制限部材を含む構成の一例である。
【0059】
なお、本実施の形態に係る直動電動機200も、筒形の直動電動機であることを前提としたが、これには限らず、筒形でない直動電動機であってもよい。
【0060】
(実施の形態5)
実施の形態4に係る直動電動機200は、
図9の第1の構成及び
図10の第2の構成のいずれにおいても入れ子状に構成されているので、この状態のままガイド131又はガイド132を取り付けて磁極子120を支持することが難しい。そのため、本実施の形態では、ガイド131又はガイド132の取り付けに際して、電機子110a~110dのいずれかを取り外す。なお、以下では、電機子110a~110dのうち、電機子110aを取り外すものとして、説明する。電機子110bは電機子を分割した第1の部分の一例であり、電機子110cは電機子を分割した第2の部分の一例であり、電機子110dは電機子を分割した第3の部分の一例である。
【0061】
図11は、本実施の形態に係る直動電動機300の構成を示す正面図である。図示するように、電機子110aを取り外す場合は、電機子110aと磁極子120との間の空隙長と略同じ厚さの非磁性のスペーサ127を介して磁極子バックヨーク126を配置する必要がある。直動電動機300の構成は、この点を除き、実施の形態3に係る直動電動機100の構成と同じなので、説明を省略する。
【0062】
ここで、スペーサ127が空隙長より薄い場合又はスペーサ127が存在しない場合は、磁路の短絡が生じ、磁束が空隙や通過すべき永久磁石123を通過しなくなる。
【0063】
図12は、スペーサ127が存在しない場合の直動電動機300における磁路を示す正面図である。図示するように、磁極子120の永久磁石123から生じる磁束は、電機子110bに鎖交せず、磁極子バックヨーク126を介して磁極子120内にとどまり、結果として駆動に寄与しなくなる。
【0064】
逆にスペーサ127が空隙長より厚い場合は、磁極子バックヨーク126に磁路が作られなくなることで、永久磁石123が作る磁束を打ち消す向きに主磁路が形成される。
【0065】
図13は、スペーサ127が空隙長より厚い場合の直動電動機300における磁路を示す正面図である。図において、実線矢印は、永久磁石123c,123dが作る磁路を示している。また、破線矢印は、本来、磁極子バックヨーク126に作られるはずであったが、スペーサ127が厚いために作られなかった磁路を示す。図示するように磁束が流れることで、本来であれば磁極子バックヨーク126を通過するはずの主磁束が永久磁石123aを横切る。これによって、磁極子120で発生する磁束が打ち消し合うことになり、電機子110bとの間で流出入する磁束量が低下し、結果として駆動に寄与する磁束が減少する。
【0066】
なお、本実施の形態に係る直動電動機300も、筒形の直動電動機であることを前提としたが、これには限らず、筒形でない直動電動機であってもよい。
【符号の説明】
【0067】
20,30 単位胞
211~218,121 磁極ブロック
22,122 磁極子鉄心
23,123 永久磁石
100,200,300 直動電動機
110a~110d 電機子
111 電機子コイル
114 電機子磁極
120 磁極子
124,125 可動子磁極
126 磁極子バックヨーク
127 スペーサ
131,132 ガイド