(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】粉体コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 201/02 20060101AFI20230823BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20230823BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20230823BHJP
C09D 5/03 20060101ALI20230823BHJP
C09D 4/00 20060101ALI20230823BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230823BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230823BHJP
C08G 63/91 20060101ALI20230823BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
C09D201/02
C09D133/00
C09D167/00
C09D5/03
C09D4/00
C09D7/63
C09D7/61
C08G63/91
B05D7/24 301A
B05D7/24 302P
B05D7/24 302T
B05D7/24 302F
B05D7/24 302U
B05D7/24 302X
B05D7/24 302V
(21)【出願番号】P 2020560589
(86)(22)【出願日】2019-01-25
(86)【国際出願番号】 EP2019051844
(87)【国際公開番号】W WO2019145472
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-10-18
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2018-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518326445
【氏名又は名称】オルネクス ネザーランズ ビー.ヴイ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブリンクフイス、リシャール ヘンドリクス ゲリット
(72)【発明者】
【氏名】ワトソン、ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ボスマ、マルタン
(72)【発明者】
【氏名】エルフリンク、ペトリュス ヨハンネス マリア ダビッド
(72)【発明者】
【氏名】ブーザー、アントニウス ヨハンネス ビルヘルムス
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ペンシェン
(72)【発明者】
【氏名】キャバリエリ、ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】センシ、マッシミリアーノ
(72)【発明者】
【氏名】チネッラート、ロベルティーノ
(72)【発明者】
【氏名】ミネッソ、アレッサンドロ
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-528670(JP,A)
【文献】特開平11-031545(JP,A)
【文献】特表2016-514760(JP,A)
【文献】特開2007-217686(JP,A)
【文献】特開平10-53729(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002725(WO,A1)
【文献】特開平7-173262(JP,A)
【文献】特表2014-529001(JP,A)
【文献】特表2001-512421(JP,A)
【文献】特開平1-204919(JP,A)
【文献】特表2018-514615(JP,A)
【文献】特表2018-519436(JP,A)
【文献】特表2014-530279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00- 64/02
C09D 1/00- 10/00
C09D101/00-201/10
B05D 1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の架橋性成分及び触媒を含み、前記1つ以上の架橋性成分が真マイケル付加(RMA)反応により架橋可能であることを特徴とする、粉体コーティング組成物であって、前記粉体コーティング組成物が
・a.活性化されたメチレン又はメチン中に少なくとも2個の酸性C-Hドナー基を有する、架橋性成分A、
・b.真マイケル付加(RMA)により
架橋性成分Aと反応して架橋網目を形成する、少なくとも2個の活性化不飽和アクセプタ基C=Cを有する、架橋性成分B、
・c.200℃未満の硬化温度にて前記RMA架橋反応を遅延して触媒するための強塩基又は強塩基の前駆体を含む、潜在性触媒系C、
を含み、
架橋性成分A若しくはB又はハイブリッドA/Bの少なくとも1つが、アクリルポリマー、ポリエステルポリマー、ポリエステルアミドポリマー、ポリエステルウレタンポリマーの群から選択されるポリマーであり、
前記触媒系Cが、
・・a.前記硬化温度にて反応して架橋性成分AとBの間の前記反応を遅延して開始する成分を含む、化学的潜在性を有する潜在性触媒系LCCであって、前記潜在性触媒系LCCが
形態LCC1において:
a)弱塩基C2、
b)前記硬化温度にてC2又はプロトン化C2と反応性である活性化剤C1、
c)任意に、酸C3をさらに含み、
形態LCC2の場合において:
a)弱塩基C2がマイケル付加ドナーS2であり、
b)活性化剤C1が、前記硬化温度にてS2と反応性である活性化不飽和基C=Cを含むマイケルアクセプタS1であり、
c)任意に、前記対応する塩基もマイケル付加ドナーでもある酸S3である酸C3をさらに含み、
ここで
S1がアクリラートの場合、S2
の共役酸は8未満
のpKaを有し、pKaは水性環境における値として定義され、
S1がメタクリラート、フマラート、イタコナート、又はマレアートの場合、S2
の共役酸は10.5未満
のpKaを有し、又は
前記形態LCC1とLCC2の組合わせ、を含む上記潜在性触媒系LCC、
・・b.揮発性酸でブロックされた塩基又はプロトン化時に揮発性酸を形成する弱塩基を含み、揮発性酸が前記硬化温度で蒸発する、蒸発潜在性を有する潜在性触媒系LCE、並びに
・・c.配合温度未満では物理的に分離され、前記粉体中の化学反応にアクセス不能であり、前記硬化温度にて化学反応にアクセス可能である、触媒系又は潜在性触媒系が存在する、物理的潜在性を有する潜在性触媒系LCP、並びに
潜在
性触媒系LCC、LCE及びLCPの組合わせ、
からなる群より選択される潜在性触媒系LCである、
粉体コーティング組成物。
【請求項2】
前記潜在性触媒系LCPが
a)前記硬化温度未満であり、前記配合温度を超える、溶融温度を有する強塩基触媒を含む、潜在性触媒系LCP1、
b)前記硬化温度未満であり、前記配合温度を超える温度で前記触媒を放出する材料であって、前記材料が、前記硬化温度未満であり、前記配合温度を超える、溶融温度、又はアモルファス材料の場合には、ガラス転移温度を有する材料、にカプセル化又は混合された活性強塩基触媒種を含む、潜在性触媒系LCP2、
c)適切な波長の照射時に塩基を放出する光塩基発生剤成分を含む潜在性触媒系LCP3、
からなる群より選択される、請求項1に記載の粉体コーティング組成物。
【請求項3】
潜在性触媒系の形態LCC1において、
・前記活性化剤C1が、エポキシド、カルボジイミド、オキセタン、オキサゾリン又はアジリジン官能性成分の群から選択され、
・前記弱塩基C2が、前記
架橋性成分Aの酸性CH基のpKaよりも1単位を超えて低い前記共役酸のpKaを有し、C2はカルボキシラート、ホスホナート、スルホナート、ハロゲニド若しくはフェノラートアニオン又はその塩の群から選択される弱塩基求核性アニオン又は非イオン性求核試薬であり、又はカルボキシラート、ハロゲニド若しくはフェノラート塩又は1,4-ジアザビシクロ-[2.2.2]-オクタン(DABCO)の群から選択され、並びに
・前記潜在性触媒系が、任意選択で、
架橋性成分Aの前記酸性CH基のpKaよりも1を超えて低いpKaを有する酸C3も含む、請求項1に記載の粉体コーティング組成物。
【請求項4】
潜在性触媒系の形態LCC2において、
・前記弱塩基S2が、ホスフィン、N-アルキルイミダゾール及びフッ化物の群から選択され、又はXがN、P、O、S又はCである酸性X-H基含有化合物からの弱塩基求核性アニオンX-であり、アニオンX-が、活性化剤S1と反応性であるマイケル付加ドナーであり、アニオンX-が、8未満及びさらに
架橋性成分Aの前記酸性CH基のpKaよりも1単位を超えて低い
、対応する共役酸XHのpKaを特徴とし、
・前記潜在性触媒系が、任意選択で、
架橋性成分Aの前記酸性CH基のpKaよりも1単位を超えて低いpKaを有する酸S3も含む、請求項1に記載の粉体コーティング組成物。
【請求項5】
弱塩基C2が酸性ではないカチオンを含む塩として添加され、又は前記カチオンがプロトン化された超強塩基性アミンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の粉体コーティング組成物。
【請求項6】
前記潜在性触媒系が、1)揮発性酸でブロックされた塩基を含み、又は代わりに2)プロトン化時に揮発性酸を形成する弱塩基を含む潜在性触媒系LCEであり、前記潜在性触媒系が、追加の揮発性酸をさらに含み、揮発性酸が前記硬化温度で蒸発する、前記酸の沸点が300℃未満である、請求項1に記載の粉体コーティング。
【請求項7】
a.触媒系LCC1の場合、1~600μeq/gの量の活性化剤C1(μeq/gは、
架橋性成分A及びB並びに触媒系LCCの総重量に対するμeqである)、又は触媒系LCC2の場合、少なくとも1μeq/gの量の活性化剤S1、
b.
架橋性成分A及びB並びに触媒系LCの総重量に対して1~300μeq/gの量の弱塩基C2、
c.任意に、1~500μeq/gの量の酸C3、
を含み、
d.C1又はそれぞれのS1の前記量
が1~300μeq/gだけC3の前記量よりも多い、請求項1~6のいずれか一項に記載の粉体コーティング組成物。
【請求項8】
a.前記弱塩基C2が、C2とC3の前記合計の10~100mol%を占め、
b.酸C3の前記量が、C2の前記量の20~400mol%であり、
c.C1の前記モル量のC2及びC3の前記量の合計に対する比が、少なくとも0.5であり、
d.C1のC3に対する
モル比が、少なくとも1である、請求項1~7のいずれか一項に記載の粉体コーティング組成物。
【請求項9】
80、90、又は100°Cと、200、150、135又は120°Cとの間で選択された硬化温度にて、時間の関数として
架橋性成分Bの不飽和結合C=Cの変換率をFTIRにより測定することにより求められる硬化プロファイルにおいて、C=C変換率が20%から60%まで進む時間の、20%変換率に到達するまでの時間に対する比が1未満であり、60%変換率に到達するまでの時間が30分未満であり、100℃にて20%変換率に達するまでの時間が少なくとも1分である、請求項1~8のいずれか一項に記載の粉体コーティング組成物。
【請求項10】
a.架橋性成分Aが、構造Z1(-C(-H)(-R)-)Z2における活性化メチレン又はメチン中に少なくとも2個の酸性C-Hドナー基を含み、Rが水素、炭化水素、オリゴマー又はポリマーであり、Z1及びZ2が、ケト基、エステル基又はシアノ基又はアリール基から選択される同じ又は異なる電子求引基であり、
b.少なくとも2個の活性化不飽和RMAアクセプタ基を含む
架橋性成分Bが、アクリロイル官能基、メタクリロイル官能基、イタコナート官能基、マレアート官能基又はフマラート官能基から生じ、
架橋性成分A又はBの少なくとも1つがポリマーである、
請求項1~9のいずれか一項に記載の粉体コーティング組成物。
【請求項11】
前記架橋性成分Aが、式1による構造を有する活性化C-H誘導体を含み、
【化1】
式中、Rが水素又は任意に置換されたアルキル又はアリールであり、Y及びY’が同じ若しくは異なる、アルキル、アラルキル若しくはアリール若しくはアルコキシから選ばれる置換基であり
、又はここでY若しくはY’は、NRR’(R及びR’は、H又は任意に置換されたアルキルである。)であり得るが、両方ではなく、ここでR、Y又はY’が、任意にオリゴマー又はポリマーへの結合を与える、請求項10に記載の粉体コーティング組成物。
【請求項12】
架橋性成分A若しくはB又はハイブリッドA/Bの少なくとも1つが、
a)GPCによって測定される、少なくとも450g/モルの数平均分子量Mnを有し、
b)GPCによって測定される、最大20000g/モルの重量平均分子量Mwを有し、
c)少なくとも150g/モル、かつ最大で2500g/モルのCH又はC=Cにおける当価重量EQW及び1分子当たり1~25C-H基の反応性基C-H又はC=Cの数平均官能価を有し、
d)10℃/分の加熱速度でDSCによって測定した中点値として、25℃を超えるTgを有するか、又は溶融温度が40℃~150℃(10℃/分の加熱速度にてDSCによって測定)の結晶性ポリマーである、請求項1~10のいずれか一項に記載の粉体コーティング組成物。
【請求項13】
1つ以上の
架橋性成分A若しくはB、又は触媒系Cの成分、又は前記粉体中で半結晶又は結晶状態にあり、40~130℃の溶融温度を有する別個の異なる可塑剤を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の粉体コーティング組成物。
【請求項14】
架橋性成分Bが、ポリエステル(メタ)アクリラート、ポリエステルウレタン(メタ)アクリラート、エポキシ(メタ)アクリラート若しくはウレタン(メタ)アクリラートであり、又はフマラート単位、マレアート単位若しくはイタコナート単位を含むポリエステルであり、又はイソシアナート官能性活性化不飽和基若しくはエポキシ官能性活性化不飽和基でエンドキャップされたポリエステルである。請求項1~13のいずれか一項に記載の粉体コーティング組成物。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の粉体コーティング組成物を調製する方法であって、
a.
架橋性成分A、
架橋性成分B、触媒系C及び任意の添加剤を用意するステップ、
b.
架橋性成分
A、架橋性成分B、触媒系C及び任意の添加剤を押出すステップ、
c.結晶化性成分の結晶化を可能にするアニーリングステップを任意に含む、冷却するステップ、
d.冷却前、冷却中又は冷却後に、前記押出した混合物を成形して粒状物を形成するステップ、
e.さらなる添加剤を任意に添加するステップ、
f.前記粒状物を粉砕して粉体にするステップ
を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の粉体コーティング組成物を調製する方法。
【請求項16】
基材を粉体コーティングする方法であって、
a.請求項1~14のいずれか一項に記載の、又は請求項15の方法で得た粉体コーティング組成物を有する粉体を準備すること、
b.前記粉体の層を基材表面に適用することであって、前記基材が、感温性基材である、適用すること、
c.75~200℃まで加熱すること、
d.前記硬化温度における前記溶融粘度が、60Pas未満であり、
e.Tcurにおいて40分未満の硬化時間にわたって硬化させること、
を含む、基材を粉体コーティングする方法。
【請求項17】
請求項1~14に記載のコーティング組成物を有する、又は請求項15に記載の方法で得た粉体でコーティングされた物品であって、感温性基材を有し、前記
コーティングの架橋密度XLDが(DMTAによって測定される)少なくとも0.01ミリモル/mlであり、3ミリモル/ml未満である、物品。
【請求項18】
200℃以下の硬化温度にて、RMA架橋性粉体コーティング組成物における前記架橋反応を触媒するためのRMA架橋性粉体コーティング組成物を調製するための、請求項1~14のいずれか一項に記載の触媒系Cの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低い硬化温度で硬化可能である粉体コーティング組成物、そのような粉体コーティング組成物の製造方法、当該粉体コーティング組成物を使用して物品をコーティングする方法、及び得られたコーティング物品に関する。本発明は、粉体コーティング組成物で使用するための具体的なポリマー及び触媒系にも関する。
【背景技術】
【0002】
粉体コーティングは、乾燥した、微粉化された自由流動性の室温にて固体の材料であり、近年、液体コーティングよりも人気が高まっている。粉体コーティングは、一般に120℃~200℃の、より通例には140℃~180℃の高温にて硬化される。バインダを十分に流動させて膜を形成し、良好なコーティング面の外観を実現するためだけでなく、架橋反応の高い反応性を実現するためにも、高温が必要である。低い硬化温度では、十分な機械的特性及び耐性特性の発現が求められる場合に、短い硬化時間が許容されない反応速度に直面し得る。一方、成分の反応性が生成され得る系では、このようなより低温ではこのような系の粘度が比較的高いため、コーティングの外観が悪くなりがちであり、硬化反応が進むにつれて急速に増大する。このような系の時間積分流動性は低すぎて、十分な均一化を達成できない(例えばProgress in Organic Coatings,72 page 26-33(2011)を参照のこと)。特に薄膜を対象とする場合、外観が制限され得る。さらに、非常に高い反応性によって、押出機で粉体塗料を処方する際の早期反応により問題が生じるおそれがある。
【0003】
この温度制限の結果として、中密度ファイバーボード(MDF)、木材、プラスチック及びある金属合金などの感熱性基材のコーティングには、粉体コーティングは容易には用いられない。環境保全技術と対応するエネルギーコスト削減への圧力に着目して硬化温度を低下させるための、並びに感温性基材へのコーティングを可能にするための開発が行われている。大量の金属部品に適用する際に、そのような部品は低速で加熱されるため、低温にて硬化する粉体コーティングを使用することにも利点がある。
【0004】
最近、低温にて硬化する粉体コーティングの発見に相当の労力が費やされている。したがって、粉体コーティング分野における「より低い」温度という用語は、一般に、室温より著しく高いが160℃未満、好ましくは150℃未満、より好ましくは140℃未満、さらにより好ましくは130℃未満又はさらに120℃未満の温度を示す。好適な耐薬品性、耐衝撃性、柔軟性、表面硬度、耐候性などの機械的特性を実現すると同時に、良好な流動性及びコーティングの外観を実現するために、通例150℃未満、特に140℃未満の低い硬化温度を使用する場合、許容される硬化時間ウィンドウ内で性能に必要な膜架橋密度を得るために十分高い反応性を達成することは困難であることが一般に判明している。
【0005】
120~130℃の範囲の非常に低い温度で硬化する系が存在する。これらはエポキシ硬化(トリグリシジルイソシアヌラート(TGIC)など)ポリエステル系である傾向がある。一般に、このような系は外観が悪くなり、テクスチャコーティングの作製のみに使用される。外観は、より低いTgの粉体の許容(冷蔵保管が必要)又はTgと硬化温度の間で溶融する結晶成分を用いた粉体塗料の設計によって改善することができるが、どちらの手法でも面倒な問題が生じる。
【0006】
粉体コーティングを低温硬化させる別の手法は、架橋にUV開始ラジカル硬化を使用することである。これにより、低温硬化を併用して、制限された硬化時間ウィンドウ内で良好な外観がなお保持される機会が与えられる。それでも、この手法には、放射線硬化用装置の必要性、複雑な形状の基材への不均一照射、着色系における浸透深度制限に関する潜在的な問題、及びバインダと光開始剤に関連する比較的高いコストなどの欠点を被っている。
【0007】
記載された先行技術の架橋性低温硬化性組成物に関する一般的な問題は、硬化速度が低く、又は硬化速度が高いと得られるコーティングの外観が悪く、押出処方中に面倒な問題がもたらされ得ること、又は高価であるか若しくは環境の観点から望ましくない成分が使用されることである。すべての要求を併用するには、求められる適正な反応性レベルを本質的に有し、硬化時間、硬化温度、膜厚の困難な組合わせにおける十分な化学的及び機械的耐性の構築と組合わせて良好な外観を与えるためには、硬化反応速度を高度に詳細に制御できる系が必要である。
【0008】
したがって、許容される短い硬化時間を得るために高い硬化速度で低温にて硬化できるが、それにもかかわらず、流動と融合が許容される長いオープンタイムを有し、良好なコーティング外観を備えた良好な膜形成を達成する、粉体コーティング組成物が依然として求められている。ここで「オープンタイム」とは、硬化温度における反応の進行により粘度がここまで上昇し、塗料の流れが重要でなくなる時間を示す。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、1つ以上の架橋性成分及び触媒を含み、1つ以上の架橋性成分が真マイケル付加(RMA)反応により架橋可能であることを特徴とする、粉体コーティング組成物を提供することによって、これらの問題の1つ以上に対処し、粉体コーティング組成物は、
・a.活性化されたメチレン又はメチン中に少なくとも2個の酸性C-Hドナー基を有する、架橋性成分A、
・b.真マイケル付加(RMA)により成分Aと反応して架橋網目を形成する、少なくとも2個の活性化不飽和アクセプタ基C=Cを有する、架橋性成分B、
・c.200℃未満、好ましくは175℃未満、より好ましくは150℃、140、130又はさらに120℃未満、好ましくは少なくとも70℃、好ましくは少なくとも80、90又は100℃の硬化温度にてRMA架橋反応を遅延して触媒するための強塩基又は強塩基の前駆体を含む、潜在性触媒系C、
を含み、触媒系Cは、
・・a.硬化温度にて反応して架橋性成分AとBの間の反応を遅延して開始する成分を含む、化学的潜在性を有する潜在性触媒系LCであって、
形態LCC1において:
a)弱塩基C2、
b)硬化温度にてC2又はプロトン化C2と反応性である活性化剤C1、
c)任意に、酸C3、好ましくはプロトン化C2をさらに含み、
形態LCC2の場合において:
a)弱塩基C2はマイケル付加ドナーS2であり、
b)活性化剤C1は、硬化温度にてS2と反応性である活性化不飽和基C=Cを含むマイケルアクセプタS1であり、
c)任意に、対応する塩基もマイケル付加ドナーでもある酸S3である酸C3、好ましくはプロトン化S2をさらに含み、
ここで
S1がアクリラートの場合、S2は8未満、好ましくは7未満、より好ましくは6未満の共役酸のpKaを有し、pKaは水性環境における値として定義され、
S1がメタクリラート、フマラート、イタコナート又はマレアートの場合、S2は10.5未満、好ましくは9未満、より好ましくは8未満の共役酸のpKaを有する、
潜在性触媒系LCC、又は形態LCC1とLCC2の組合わせ、
・・b.揮発性酸でブロックされた塩基又はプロトン化時に揮発性酸を形成する弱塩基を含み、揮発性酸が硬化温度で蒸発し、及び好ましくは追加の遊離揮発性酸を含む、蒸発潜在性を有する潜在性触媒系LCE、
・・c.配合温度未満では物理的に分離され、粉体中での化学反応にアクセス不能であり、硬化温度にて化学反応にアクセス可能である、触媒系、好ましくは強塩基又は潜在性触媒系が存在する、物理的潜在性を有する潜在性触媒系LCPであって、好ましくは
a)硬化温度以下であり、配合温度を超える、好ましくは70、80、90又は100℃を超える溶融温度を有する強塩基触媒を含む、潜在性触媒系LCP1、又は
b)硬化温度未満であり、配合温度を超える温度で触媒を放出する材料であって、好ましくは材料が、硬化温度未満であり、配合温度を超える、溶融温度、又はアモルファス材料の場合には、ガラス転移温度を有する材料にカプセル化又は混合された活性強塩基触媒種を含む潜在性触媒系LCP2、
c)適切な波長の照射時に塩基を放出する光塩基発生剤成分を含む潜在性触媒系LCP3、
から選択される、潜在性触媒系LCP、
からなる群より選択される潜在性触媒系LC、又は触媒系LCC、LCE及びLCPの組合わせである。
【0010】
本発明者らは、RMA粉体コーティング組成物が、比較的高い硬化速度、許容可能な短い硬化時間で低温にて硬化可能であるが、それにもかかわらず膜形成を可能にする十分に長いオープンタイムを有し、以下でより詳細に説明するように、潜在性塩基触媒系のいずれかを使用して、良好なコーティング外観で架橋を達成できる粉体コーティングに非常に好適であることを見出した。
【0011】
別の態様において、本発明は、本発明による粉体コーティング組成物の調製方法及び基材を粉体コーティングする方法に関する。本方法において、硬化温度Tcurは75~200℃、好ましくは80~180℃、より好ましくは80~160、150、140、130又はさらに120℃で選択され、好ましくは赤外線加熱も使用される。硬化は、好ましくは、成分Bの不飽和結合C=Cの変換率を時間の関数としてFTIRにより測定することにより求められる硬化プロファイルによって特徴付けられ、C=C変換率が20%から60%まで進む時間の、20%変換率に到達するまでの時間に対する比は1未満、好ましくは0.8、0.6、0.4又は0.3未満であり、100℃で硬化したときに、好ましくは60%変換率に到達するまでの時間が30、20、10又は5分未満であり、好ましくは20%変換率に達するまでの時間が少なくとも1、好ましくは少なくとも2、3、5、8又は12分である。好ましくは、硬化温度における溶融粘度は、60Pas未満、より好ましくは40、30、20、10又はさらに5Pas未満である。溶融粘度は、例えばスピンドル#5を使用して、ASTM D4287によるBrookfield CAP 2000コーン・プレート・レオメータで測定可能であり、反応の開始時に又は触媒活性のない粉体コーティング組成物上で測定される。
【0012】
粉体コーティング組成物は、粉体コーティング組成物が低い硬化温度で使用できるという特別な利点を有し、したがって、基材、好ましくは感温性基材を粉体コーティングする方法は、好ましくは75~140℃、好ましくは80~130又は120℃、最も好ましくは100~120℃の硬化温度を使用する。これにより、感温性基材、好ましくはMDF、木材、プラスチック又は合金などの感温性金属基材に粉体コーティングする方法が使用できるようになる。したがって、本発明は特に、本発明による粉体コーティング組成物でコーティングされたそのような物品にも関する。良好なコーティング密度が良好な架橋密度XLD及び得られた良好なコーティング特性と共に得られることが見出された。
【0013】
別の態様において、本発明は、200℃未満、好ましくは180℃未満、より好ましくは160、140又はさらに120℃以下及び75、80、90又は100℃超の硬化温度にて、RMA架橋性粉体コーティング組成物における架橋反応を触媒するためのRMA架橋性粉体コーティング組成物を調製するための、本明細書に記載の潜在性触媒系の使用に関する。
【0014】
さらに別の態様において、本発明は、RMA架橋性ポリマーに、及びRMA架橋性粉体コーティングにおける当該RMA架橋性ポリマーの使用に関する。このRMA架橋性ポリマーは、RMA架橋性ドナーポリマーである。このRMA架橋性ポリマーは、好ましくは
a.構造Z1(-C(-H)(-R)-)Z2における活性化メチレン又はメチン中に少なくとも2個の酸性C-Hドナー基を含む1つ以上の成分Aであって、式中、Rは、水素、炭化水素、オリゴマー又はポリマー、Z1及びZ2は、好ましくはケト、エステル又はシアノ又はアリール基から選択される同じ又は異なる電子求引基、好ましくは式1による構造を有する活性化C-H誘導体であり、
【化1】
式中、Rは、水素又は任意に置換されたアルキル若しくはアリールであり、Y及びY’は同じ又は異なる置換基、好ましくはアルキル、アラルキル又はアリール又はアルコキシであるか、式1において、-C(=O)-Y及び/若しくは-C(=O)-Y’は、CN若しくはアリール、1個以下のアリールで置換され、又はY若しくはY’は、-NRR’(R及びR’は、H又は任意に置換されたアルキルである)であり得るが、好ましくは両方というわけではなく、当該成分Aは、好ましくは、マロナート基、アセトアセタート基、マロンアミド基、アセトアセトアミド基又はシアノアセタート基であり、最も好ましくは、架橋性成分A中のC-H酸性基の合計の少なくとも50、好ましくは60、70又はさらに80%を与えるマロナートであり、R、Y又はY’は、ポリマーへの結合を与える、成分A、
b.任意に、A/Bハイブリッドポリマーを形成する、少なくとも2個の活性化不飽和RMAアクセプタ基、好ましくはアクリロイル官能基、メタクリロイル官能基、イタコナート官能基、シトラコナート官能基、クロトナート官能基、シンナマート官能基、マレアート官能基又はフマラート官能基を含む、1つ以上の成分B、及び
c.任意に、触媒系の1つ以上の成分C、
を含むアクリルポリマー、ポリエステルポリマー、ポリエステルアミドポリマー及びポリエステルウレタンポリマーの群から選択され、ポリマーは
a.GPCによって測定される、少なくとも450g/モル、好ましくは少なくとも1000g/モル、より好ましくは少なくとも1500g/モル、最も好ましくは少なくとも2000g/モルの数平均分子量Mnを有し、
b.GPCで測定した、最大20000g/モル、好ましくは最大15000、より好ましくは最大10000、最も好ましくは最大7500g/モルの重量平均分子量Mwを有し
c.好ましくは4未満、より好ましくは3未満の分子量分布Mw/Mnを有し、
d.少なくとも150、250、350、450又は550g/モル、好ましくは最大2500、2000、1500、1250又は1000g/モルのC-Hにおける当量EQW及び1分子当たりCH基が1~25、より好ましくは1.5~15、さらにより好ましくは2~15、最も好ましくは2.5~10の反応性基CHの数平均官能価を有し、
e.好ましくは60Pas未満、より好ましくは40、30、20、10又はさらに5Pas未満の100~140℃の範囲の温度における溶融粘度を有し、
f.好ましくはアミド結合、尿素結合若しくはウレタン結合を含み、及び/又は高Tgモノマー、好ましくは脂環式モノマー若しくは芳香族モノマー、特に1,4-ジメチロールシクロヘキサン(CHDM)、トリシクロデカンジメタノール(TCDジオール)、イソソルビド、ペンタスピログリコール若しくは水素化ビスフェノールA及びテトラメチルシクロブタンジオールの群から選択されるポリエステルモノマーを含み、
g.10℃/分の加熱速度にてDSCによって測定される、25℃を超える、好ましくは35℃を超える、より好ましくは40、50若しくはさらに60℃を超えるTgを有する、又は(10℃/分の加熱速度にてDSCによって測定される)40℃~150、好ましくは130℃、好ましくは少なくとも50若しくは70℃及び好ましくは150未満、130又はさらに120℃未満の溶融温度を有する結晶性ポリマーである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、本発明のRMA粉体コーティング組成物は、従来の粉体コーティング組成物と比較して、高い硬化速度で比較的低い温度にて硬化できることを見出した。潜在性塩基触媒系は、低温にてオープンタイム及び良好なレベリングを与える。潜在性触媒系は、硬化温度にて硬化の初期段階の遅延を与える触媒系である。遅延は、触媒系の成分の選択によって制御され、下記のような好ましい硬化プロファイルを与えることを考慮して、RMA架橋性成分A及びBの特定の選択された組合わせのために選択される。成分Aと成分Bの間のRMA架橋反応には、通例、本明細書で「強塩基」と定義される塩基が存在することが必要である。この強塩基は、TcurにてRMAを触媒することができる塩基である。本発明において、以下でより詳細に説明するように、そのような強塩基は、潜在性触媒系Cを介して生成される。この潜在性触媒系Cは、化学的潜在性系LCC(LCC1及び/又はLCC2)、蒸発潜在性系LCE若しくは物理的潜在性系LCP、又は前述の系の少なくとも2つの組合わせであることができる。
【0016】
好ましい実施形態において、粉体コーティング組成物は、化学的潜在性を有する触媒系LCCを有する。好適な触媒系LCC1は
形態LCC1において:
a)弱塩基C2、
b)硬化温度にてC2又はプロトン化C2と反応性である活性化剤C1、を含み
c)任意に、酸C3、好ましくはプロトン化C2をさらに含む。
【0017】
化学的潜在性は、弱塩基C2と活性化剤C1又はS1との化学反応に必要な時間と、潜在性をさらに増大させるために、好ましくは酸C3を含めることによって得られる。
【0018】
好ましい実施形態において、粉体コーティング組成物は、化学的潜在性触媒系の形態LCC1を含み、LCC1では
・活性化剤C1は、エポキシド、カルボジイミド、オキセタン、オキサゾリン又はアジリジン官能性成分、好ましくはエポキシド又はカルボジイミドの群から選択され、
・弱塩基C2は、好ましくは、主成分Aの酸性CH基のpKaよりも1単位を超えて、好ましくは1.5単位、より好ましくは2単位、さらにより好ましくは少なくとも3単位低い共役酸のpKaを有し、C2は好ましくはカルボキシラート、ホスホナート、スルホナート、ハロゲニド若しくはフェノラートアニオン又はその塩の群から選択される弱塩基求核性アニオン又は非イオン性求核試薬、好ましくは第3級アミンであり、より好ましくは弱塩基C2は、カルボキシラート、ハロゲニド若しくはフェノラート塩又は1,4-ジアザビシクロ-[2.2.2]-オクタン(DABCO)の群から選択される弱塩基求核性アニオンであり、並びに
・潜在性触媒系は、好ましくは、主成分Aの酸性CH基のpKaよりも1を超えて、好ましくは1.5、より好ましくは2、さらにより好ましくは少なくとも3単位低いpKaを有する酸C3も含み、酸C3は好ましくはプロトン化C2である。
【0019】
代替的実施形態において、粉体コーティング組成物は、化学的潜在性触媒系の形態LCC2を含み、LCC2では
a)弱塩基C2はマイケル付加ドナーS2であり、
b)活性化剤C1は、硬化温度にてS2と反応性である活性化不飽和基C=Cを含むマイケルアクセプタS1であり、
c)任意に、対応する塩基もマイケル付加ドナー、好ましくはプロトン化S2である、酸S3である、酸C3をさらに含み、
S1がアクリラートである場合、S2は、8未満、好ましくは7未満、より好ましくは6未満の共役酸のpKaを有し、pKaは水性環境での値として定義され、
S1がメタクリラート、フマラート、イタコナート又はマレアートである場合、S2は、10.5未満、好ましくは9未満、より好ましくは8未満の共役酸のpKaを有する。
【0020】
形態LCC1及びLCC2の組合わせも可能である。好ましくは、粉体コーティング組成物は潜在性触媒系の形態LCC2を含み、LCC2では
・弱塩基S2は、好ましくはホスフィン、N-アルキルイミダゾール及びフッ化物の群から選択され、又はXがN、P、O、S又はCである酸性X-H基含有化合物からの弱塩基求核性アニオンX-であり、アニオンX-は、活性化剤S1と反応性であるマイケル付加ドナーであり、アニオンX-は、8未満及びさらに主成分Aの酸性CH基のpKaよりも1単位を超えて、好ましくは1.5、より好ましくは2、さらにより好ましくは少なくとも3単位低い、対応する共役酸XHのpKaを特徴とし、
・潜在性触媒系は、好ましくは、主成分Aの酸性CH基のpKaよりも1を超えて、好ましくは1.5、より好ましくは2、さらにより好ましくは少なくとも3単位低いpKaを有する酸S3も含み、酸S3は好ましくはプロトン化S2である。
【0021】
成分S3又はその脱プロトン化版S2について、好適な反応速度プロファイルを提供可能となる形態LCC2において、これらの成分とマイケル付加アクセプタ基との反応が好適な速度で行われ、高速すぎる反応が回避され、粉体塗料に関連する熱条件下での硬化に意図的な遅延を提供できることが重要である。好適な反応性ウィンドウを見出すには、S3 XH(又はS2 X-)成分と粉体塗料組成物で使用するアクセプタ官能基の好適な組合わせを選択する必要がある。
【0022】
WO2014/16680は、触媒Cとして酸X-Hと酸のアニオンX-の組合わせを使用した、RMA架橋性である組成物について記載し、アニオンX-は成分Bと反応性であるマイケル付加ドナーでもある。粉体での使用は記載されているが、本文献は、室温(例により22℃)で硬化可能な溶剤系組成物に注目し、高温(即ち室温又は周囲温度より高い温度)で硬化可能な粉体コーティング組成物については記載していない。そのような溶剤系室温硬化性組成物について、サクシンイミド、1,2,4-トリアゾール及びベンゾトリアゾールなどのX-H/X-成分を触媒として使用する、アクリラートアクセプタ基と成分X-Hとの組合わせが報告された。しかし、そのような組合わせは、アクリラートに対するX-アニオンの反応性が高すぎるために所望の量の遅延を与えないので、高温にて硬化性である粉体塗料組成物として作用しないことが判明した。
【0023】
アクリラートアクセプタ基を含む粉体塗料組成物では、成分S1がアクリラートアクセプタ基であり、成分S2及びS3が、8未満、より好ましくは7、6又はさらに5.5未満の酸pKaを有するX-/X-Hである触媒系LCC2を使用できることが判明した。アクリラートアクセプタ含有粉体塗料組成物に有用なX-H成分の例としては、環状1,3-ジオン、例えば1,3-シクロヘキサンジオン(pKa5.26)及びジメドン(5,5-ジメチル-1,3-シクロヘキサンジオン、pKa5.15)、エチルトリフルオロアセトアセタート(7.6)、メルドラム酸(4.97)が挙げられる。好ましくは、少なくとも175℃、より好ましくは少なくとも200℃の沸点を有するX-H成分が使用される。
【0024】
メタクリラート、フマラート、マレアート又はイタコナートアクセプタ基を含む粉体塗料組成物では、成分S1が上に挙げたアクセプタ基、好ましくはメタクリラート、イタコナート又はフマラート基であり、成分S2及びS3が10.5未満、より好ましくは9.5、8未満又はさらに7未満の酸pKaを有するX-/X-H成分である、触媒系LCC2を使用できることがさらに見いだされた。
【0025】
示されているpKa値は、周囲条件(21℃)における水性pKa値である。これらの値は文献で容易に見出すことができ、必要に応じて、当業者に既知の手順により水溶液中で求めることができる。関連する成分のpKa値のリストを以下に示す。
【表A】
【0026】
形態LCC1における最も好ましい活性化剤C1は、エポキシ基である。好ましい活性化剤C1としてのエポキシドの好適な選択肢は、脂環式エポキシド、エポキシ化油及びグリシジル型エポキシドである。好適な成分C1は、US4749728、3列21~56行に記載され、複数のエポキシ官能基を含むエポキシド官能基を有する、C2~18アルキレンオキシド及びオリゴマー及び/又はポリマーを含む。特に好適なアルキレンオキシドとしては、1,2-ヘキシレンオキシド、tert-ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、グリシジルアセタート、バーサチックエステルのグリシジルエステル、グリシジルメタクリラート及びグリシジルベンゾアートが挙げられる。有用な多官能性エポキシドとしては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、並びにそのようなBPAエポキシ樹脂の高級同族体、ジグリシジルアジパート、1,4-ジグリシジルブチルエーテル、ノボラック樹脂のグリシジルエーテル、アラルダイトPT910やPT912(Huntsman)などの二酸のグリシジルエステル、TGIC及びその他の市販のエポキシ樹脂が挙げられる。ビスフェノールAジグリシジルエーテル並びにその固体高分子量同族体は、好ましいエポキシドである。グリシジルメタクリラートから誘導されたエポキシド官能基を有するアクリル(コ)ポリマーも有用である。好ましい実施形態において、エポキシ成分は、少なくとも400(750、1000、1500)のMnを有するオリゴマー成分又はポリマー成分である。他のエポキシド化合物としては、2-メチル-1,2-ヘキセンオキシド、2-フェニル-1,2-プロペンオキシド(アルファ-メチルスチレンオキシド)、2-フェノキシメチル-1,2-プロペンオキシド、エポキシ化不飽和油又は脂肪エステル及び1-フェニルプロペンオキシドが挙げられる。有用で好ましいエポキシドは、カルボン酸のグリシジルエステルであり、カルボン酸官能性ポリマー上、又は好ましくはCardura E10P(バーサチック(商標)酸10のグリシジルエステル)などの高分岐疎水性カルボン酸上存在することができる。最も好ましいのは、代表的な粉体架橋剤エポキシ成分である、トリグリシジルイソシアヌラート(TGIC)、アラルダイトPT910及びPT912並びに周囲温度にて本質的に固体であるフェノール性グリシジルエーテルである。
【0027】
形態LCC1における弱塩基C2の好適な例は、カルボキシラート、ホスホナート、スルホナート、ハロゲニド又はフェノラートアニオン又はその塩の群から選択される弱塩基求核性アニオン又は非イオン求核試薬、好ましくは第3級アミンであり、形態Iによる触媒系LCCでは、C2は、好ましくは、カルボキシラート、ハロゲニド又はフェノラート塩から選択される弱塩基求核性アニオン、最も好ましくはカルボキシラート塩であるか、又はC2は1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)である。成分C2は、基C1、好ましくはエポキシと反応して、原則として架橋性成分の反応を開始することができる強塩基性アニオン性付加体を生じることができる。又は、C2はその共役酸形態を介して反応し、非酸性付加体を生成し得る。好ましくは、弱塩基基C2は、架橋性成分Aの酸性C-H基に対して実質的な塩基度を有さないが、低温架橋条件にてエポキシドに対して反応性である(例えば、所期の硬化温度にて、通例、30分未満、好ましくは15分の半値を有する)。
【0028】
弱塩基C2の別の好適な例は、XがN、P、O、S又はCである酸性X-H基含有化合物からの弱塩基アニオンX-の群から選択される弱塩基求核性アニオンであり、アニオンX-は活性化剤C1と反応可能であるマイケル付加ドナーであり、アニオンX-は、主成分Aの酸性CH基のpKaより1を超えて、好ましくは1.5、より好ましくは2、さらにより好ましくは少なくとも3単位低い、対応する共役酸X-HのpKaを特徴とする。これらのC2成分は、形態LCC2においてC=Cアクセプタ基S1との反応ではS2と規定されているが、形態LCC1においては活性化剤成分C1、例えばエポキシとの反応では求核剤C2としても作用することができ、形態LCC1及びLCC2に従って反応する2つの経路を提供することができる。
【0029】
基C2は、好ましくは、硬化ウィンドウの時間スケールで、150℃以下、好ましくは140、130、120、好ましくは少なくとも70、好ましくは少なくとも80又は90℃の温度にて基C1と反応する。硬化温度における基C2と基C1の反応速度は、有用なオープンタイムを与えるために十分に低く、所期の時間ウィンドウにて十分に硬化させるために十分に高い。
【0030】
弱塩基C2は、アニオンである場合、酸性ではないカチオンを含む塩として添加されることが好ましい。酸性ではないとは、塩基について成分Aと競合する水素を有さず、このため所期の硬化温度における架橋反応を阻害しないことを意味する。カチオンは、架橋性組成物中のいずれの成分に対しても実質的に非反応性であることが好ましい。カチオンは、例えばアルカリ金属、第4級アンモニウム又はホスホニウムであり得るが、架橋性組成物中の成分A、B又はCのいずれにも非反応性であるプロトン化「超塩基」であることもできる。好適な超塩基は、当分野で既知である。
【0031】
好ましくは、塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属、特にリチウムカチオン、ナトリウムカチオン又はカリウムカチオン、又は好ましくは、式Y(R’)4による第4級アンモニウムカチオン又はホスホニウムカチオンを含み、Yは、N又はPを表し、各R’は、ポリマーにおそらく連結している同じ若しくは異なるアルキル、アリール又はアラルキル基であり、又はカチオンはプロトン化された超強塩基性アミンであり、超強塩基性アミンは、好ましくはアミジンの群から、好ましくは1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデカ-7-エン(DBU)又はグアニジンから選択され、好ましくは1,1,3,3-テトラメチルグアニジン(TMG)である。当業者に既知であるように、R’は、RMA架橋化学作用を妨害しない又は実質的に妨害しない置換基で置換することができる。最も好ましくは、R’は、1~12個、最も好ましくは1~4個の炭素原子を有するアルキルである。
【0032】
EP0651023は、Cl、Br、Iの第4級アンモニウム若しくはホスホニウム塩、サリチラート、多塩基カルボキシラート、ニトラート、スルホナート、サルファート、サルファイト、ホスファート又は酸ホスファートエステルアニオンをエポキシ化合物と組合わせて含む触媒Cを含む、RMA架橋性溶剤系組成物用の触媒系について記載している。
【0033】
最も好ましくは、粉体コーティング組成物は、主成分Aの酸性C-H基のpKaよりも1単位を超えて、好ましくは1.5単位、より好ましくは2単位、さらにより好ましくは少なくとも3単位低いpKaを有する酸C3をさらに含む触媒系LCCを含み、酸C3は好ましくはプロトン化C2である。好ましくは、酸C3及びC2の共役酸は、少なくとも120℃、好ましくは130、150、175、200又はさらに250℃の沸点を有する。好ましくは、C3はカルボン酸である。
【0034】
好ましい触媒系は、エポキシド基C1、エポキシド基C1と反応して強塩基性アニオン付加体C1/2を形成する弱塩基求核性アニオン基C2及び最も好ましくは酸基C3も含む、触媒系LCC1である。好適な触媒系LCC1において、C2はカルボキシラートであり、C1はエポキシド、カルボジイミド、オキセタン又はオキサゾリン、さらにエポキシド又はカルボジイミド、又はC2はDABCOであり、C1はエポキシである。
【0035】
理論に拘束されることを望まないが、求核性アニオンC2が活性化剤エポキシドC1と反応して強塩基を生成するが、この強塩基は酸C3によってプロトン化されて、架橋反応を直接強く触媒しない(C2と同様の機能の)塩を生成すると考えられる。反応スキームは、酸C3が実質的に完全に消耗されるまで行われ、これによりオープンタイムが与えられるのは、架橋性成分の反応を著しく触媒するための相当量の強塩基がその時間中に存在しないためである。酸C3が消耗されると、強塩基が形成され、残存して、迅速なRMA架橋反応を効果的に触媒する。又は、C1との活性化反応がプロトン化C2種(成分Aとの酸塩基平衡の結果としてプロトン化されたC2)によって起こる場合にも、サイクルは同様に機能し得る。また、このスキームは、過剰な酸C3の消費につながり、サイクルがさらに進行すると、脱プロトン化A種が利用できる。
【0036】
本発明の特徴及び利点は、以下の例示的な反応スキームを参照すれば認識される。
【化2】
特に、C2、C1及びC3種としてのカルボキシラート、エポキシド、カルボン酸の場合、これは次のように描くことができる。
【化3】
活性化剤がC2のプロトン化形態を介して反応する場合、反応スキームは、次のスキームによって示される。
【化4】
【0037】
オープンタイムは、酸(C3)の量によって、反応物質C1及びC2の量及び反応性の選択によっても調整できる。エポキシドC1は反応を開始するために利用可能でなければならず、エポキシドのモル量は酸C3のモル量より大きいことが好ましい。
【0038】
一実施形態において、酸基C3は、プロトン化アニオン基C2、好ましくはカルボン酸C3及びカルボキシラートC2であり、これは例えば酸官能性成分、好ましくは酸基C3を含むポリマーを部分的に中和してアニオン基C2に変換することにより形成することができ、部分中和は、好ましくはカチオンヒドロキシド、好ましくはテトラアルキルアンモニウムヒドロキシド又はテトラアルキルホスホニウムヒドロキシドによって行われる。別の実施形態において、ポリマー結合成分C2は、ポリエステル中のエステル基の前述水酸化物による加水分解によって作製することができる。
【0039】
「ETPPAAc Solutions Ethyl triphenyl-phosphonium Acid Acetate」,20 April 2007(2007-04-20),pages 1-2,XP055319211に記載されているように、エチルトリフェニルホスホニウムアセタートは、エポキシ官能性ポリマーを架橋する触媒として既知である。この化合物を、RMA架橋性粉体コーティング組成物における成分C2及びC3として使用することは知られていない。さらに、成分C3及びC2の共役酸の沸点は、硬化条件の間のこれらの触媒系成分の制御が不十分な蒸発を防止するために、粉体コーティング組成物の想定される硬化温度より高いことが好ましい。ギ酸及び酢酸は、硬化中に蒸発する可能性があるため、あまり好ましい酸C3ではない。好ましくは、LCC型系の場合、成分C3及びC2の共役酸は、120℃より高い沸点を有する。
【0040】
触媒系LCC1は、好ましくは、個々の成分C1、C2及び任意にC3を含む触媒組成物である。これは選択したドナーとアクセプタポリマーの特定の組合わせとの混合に最も好都合である。又は、触媒系LCC1のC1、C2又はC3の少なくとも1つは、架橋性成分A若しくはB又は両方の基である。その場合、すべてではないが1つ以上の基C1、C2及びC3が架橋性成分A若しくはB又はその両方にある場合、残りの成分は別個に添加される。この場合、通例及び好ましくは、C2及びC3の両方がポリマー上にあり、C1が別個に添加される、又はC1及びC3がポリマー上にあり、C2が別個に添加される。利点は、触媒組成を調整するだけで反応性パラメータを最適化する柔軟性である。好都合な実施形態において、C2及びC3の両方が架橋性ポリマー成分A及び/又はB上にあり、C2は、好ましくは、酸基C3を含む酸官能性ポリマーを上記のカチオンを含む塩基で部分的に中和して、酸基C3をアニオン性基C2に部分的に変換することによって形成される。別の実施形態は、ポリエステル、例えば成分Aのポリエステルの加水分解によって形成された成分C2を有し、ポリマー種として存在するであろう。
【0041】
代替的実施形態において、粉体コーティング組成物は潜在性触媒系LCC2を含み、LCC2では、弱塩基C2はホスフィン、N-アルキルイミダゾール、フッ化物及びXがN、P、O、S又はCである酸性X-H基含有化合物からの弱塩基アニオンX-から選択され、アニオンX-は、活性化剤S1と反応性であるマイケル付加ドナーであり、アニオンX-は、主成分Aの酸性C-H基のpKaよりも1を超えて、好ましくは1.5、より好ましくは2、さらにより好ましくは少なくとも3単位低い、対応する共役酸X-HのpKaを特徴とする。この実施形態において、弱塩基C2とマイケルアクセプタ特性を有する不飽和基(Bに等しくてもよいが、別のマイケル付加アクセプタ種であることもできる、S1)との反応によって、より高触媒活性の強塩基種の生成が誘発され、成分AとBの間の反応が加速される。
【0042】
また別の実施形態において、粉体コーティングは、潜在性触媒系LCEを含み、この潜在性触媒系は、反応が酸性種の低速蒸発ステップによって遅延される蒸発潜在性を有する。この実施形態において、潜在性触媒系は、1)揮発性酸でブロックされた塩基、好ましくは強塩基、又は2)過剰量の弱酸性種Aによるプロトン化時に揮発性酸を形成する弱塩基C2を含み、潜在性触媒系は任意に追加の揮発性酸C3をさらに含み、揮発性酸は硬化温度Tcurで蒸発し、酸の沸点は300℃以下、好ましくは250℃、225、200又は150℃以下及び好ましくは100℃又は120℃超である。上で規定したような沸点を有するカルボン酸の第4級アンモニウム又はホスホニウム塩が好ましい。
【0043】
粉体コーティング組成物は、好ましくは、
a.触媒系LCC1の場合、1~600μeq/g、好ましくは10~400、より好ましくは20~200μeq/gの量の活性化剤C1(μeq/gは、バインダ成分A及びB並びに触媒系LCCの総重量に対するμeqである)、又は触媒系LCC2の場合、少なくとも1μeq/g、好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも20、最も好ましくは少なくとも40μeq/gの量の活性化剤S1、
b.バインダ成分A及びB並びに触媒系LCの総重量に対して1~300μeq/g、好ましくは10~200、より好ましくは20~100μeq/gの量の弱塩基C2、
c.任意に、1~500、好ましくは10~400、より好ましくは20~300μeq/g、最も好ましくは30~200μeq/gの量の酸C3、
を含み、
d.好ましくは、C1又はそれぞれS1の量が
i.好ましくは1~300μeq/g、好ましくは10~200、より好ましくは20~100μeq/gだけC3の量よりも多く、
ii.好ましくはC2の量よりも多く、
iii.好ましくは、C2及びC3の量の合計よりも多い。
【0044】
S1の触媒系LCC2の場合、S1も成分Bになり得るため、関連する濃度の上限はない。触媒は、C2の量よりも少ないC1の量でも作用する。しかし、これはC2の浪費になり得るため、あまり好ましくない。C1、特にエポキシドの量がC2の量よりも多い場合、C1がC2及びC3又は他の求核性残留物と反応し得るために欠点は限定されるが、あまり多くの問題を伴わずに、反応後も塩基度を維持するか、網目中に残り得る。それにもかかわらず、過剰量のC1は、エポキシ以外のC1のコストの点から不利であり得る。LCC1とLCEの形態の組合わせが可能であり、その場合、C2も蒸発酸を形成し、したがってLCE型触媒として触媒作用も推進する場合、C2はC1より高くなり得る。さらに、酸C3が揮発性酸である場合、遅延酸C3を蒸発させることによって追加の初期潜在性を与える。これは潜在性触媒系LCCとLCEの組合わせである。この場合、要件を超えるd.iは適用されない。
【0045】
さらに、粉体コーティング組成物において、
a.弱塩基C2は、C2とC3の合計の10~100mol%を表し、
b.好ましくは、酸C3の量は、C2の量の20~400mol%、好ましくは30~300mol%であり、
c.好ましくは、C1のモル量のC2及びC3の量の合計に対する比は、少なくとも0.5、好ましくは少なくとも0.8、より好ましくは少なくとも1及び好ましくは最大3、より好ましくは最大2であり、
d.C1のC3に対する比は、好ましくは少なくとも1、好ましくは少なくとも1.5、最も好ましくは少なくとも2である、
ことが好ましい。
【0046】
代替的実施形態において、粉体コーティング組成物は、
物理的に分離され、配合温度Tcomp未満にて粉体中で化学反応にはアクセス不能であり、硬化温度において化学反応にアクセス可能である、触媒系、好ましくは強塩基又は潜在性触媒系が存在する、物理的潜在性を有する潜在性触媒系LCPを含み、LCPは、好ましくは
a)硬化温度以下であり、配合温度を超える、好ましくは70、80、90若しくは100℃を超える溶融温度を持つ触媒を含む、潜在性触媒系LCP1、
b)硬化温度未満であり、配合温度を超える温度にて触媒を放出する材料にカプセル化若しくは混合された活性触媒種を含み、好ましくは材料が、硬化温度未満であり、配合温度を超える溶融温度、若しくはアモルファス材料の場合、ガラス転移温度を有する、潜在性触媒系LCP2、又は
c)適切な波長での照射時に塩基を放出する光塩基発生剤成分を含む、潜在性触媒系LCP3
から選択される。
【0047】
触媒系LCC、LCE及びLCPの組合わせが可能であることに留意されたい。
【0048】
EP1813630は、参照により本明細書に含まれる、カプセル化塩基触媒及びRMA架橋性接着剤のためのその調製方法を記載している。カプセルは、シェル又はマトリックスを与えるパラフィン及び微結晶性ワックスを使用する塩基触媒で作製できる。EP6224793は、結晶性又は熱可塑性ポリマーにカプセル化された活性化剤を含む、カプセル化活性化剤を開示している。カプセル化の溶融温度又はガラス温度は、本明細書では、TcompとTcurの間で選択される。
【0049】
代替的実施形態LCP3において、高温硬化RMA硬化粉体コーティングのための触媒系の潜在性は、適切な波長での照射時に塩基を放出する光塩基発生剤成分(PBG)によって提供することができる。生成された塩基は、好ましくは強塩基、即ち、AとBとの間のRMA反応を触媒するのに十分な強さである、又はLCC化学的潜在性触媒系と組合わせて成分C2として使用される弱塩基であることができる。
マイケル付加反応系のPBGは、例えば欧州特許第3395800号、Progr.Org.Coat.(2019)127,222-230、Polymer(2017)113 193-199、React.Funct.Polym.(2018)122 60-67に記載されている。光塩基発生剤は、ラジカル光開始剤と同様の高レベルの反応性制御を提供与える。また、複雑な形状の基材への均一な照射、着色コーティングによる放射線透過の問題、専用の高価な設備要件などに関する潜在的な問題と同様の複雑な問題にも直面している。本書に記載されているPBGは、発生した塩基が想定される潜在性触媒系に必要なpKa値及び求核性を有する場合に使用できる。好ましくは、アミジン、グアニジン又はカルバニオンなどの高塩基度種が発生する。
【0050】
上記のように、RMA架橋性成分A及びB並びに潜在性触媒系LC、好ましくは触媒系LCC及び最も好ましくは触媒系LCC1を有する粉体コーティング組成物は、競合する粉体系と比較して低い硬化温度である、目標とする硬化温度を可能にする。低い硬化温度は一般に、75~150℃、好ましくは80~130℃、より好ましくは80~120℃又は80~110℃の範囲であり、硬化温度はその範囲内で、例えば基材の感温性を考慮して選択される。硬化時間は選択した硬化温度に依存する。硬化時間は、例えばオーブン内などの硬化温度で熱が加えられて、室温に冷却される前に十分な硬化を達成する時間である。示された硬化温度範囲内で、この硬化時間は通例、1又は2~50、好ましくは2又は5~40、通常及び最も好ましくは5又は10~30分の範囲である。硬化はオーブン内で行うことができ、好ましくは、赤外線放射加熱によって補助してもよい。
【0051】
本発明による粉体コーティング組成物は、好ましくは、成分Bの不飽和結合C=Cの変換率を80、90、100及び200、150、135又は120°Cの間で選択される硬化温度における時間の関数としてFTIR測定することにより求めることができるような動的硬化プロファイルを有し、(FTIRによって測定される)C=C変換率が20%から60%まで進む時間の、20%変換率に到達するまでの時間の比は1未満、好ましくは0.8、0.6、0.4又は0.3未満であり、好ましくは、60%変換率に到達するまでの時間は、30又は20又は10分未満である。好ましくは、粉体塗料は、100℃にて20%の変換率に達するまでの時間が少なくとも1分、好ましくは少なくとも2、3、5、8又は12分であるような動的硬化プロファイルを有する。硬化プロファイルは、反応物A及びBと硬化温度との選択された組合わせに対する、触媒系の成分の選択によって設定される。
【0052】
粉体コーティング方法は、著しいエネルギーコストが伴う、基材の硬化温度までの加熱を含む。本発明の粉体コーティング組成物を使用するコーティング方法は、低温で作用するためにエネルギー効率がより高く、同時に好ましくは50、30、20又はさらに15分の硬化時間内で十分に硬化させて、適用されたコーティング膜(ゲル化前)のオープンタイムを可能な限り長くすることができる。組成物は好ましくは、最大流動度及び低い反応変換率の初期期間(オープンタイム)を与える開始に、限定された硬化時間内での十分な最終変換率を確保する急激な上昇が後続する、S字状硬化プロファイルを特徴とする。長いオープンタイムにより、ゲル化前の流動が最大化され、これによりコーティングの良好な外観が生じる。コーティング特性とは別に、粉体コーティング組成物は、触媒系の反応速度プロファイルのために、押出機における成分の配合及び混合中に、早期の架橋又は分子量及び粘度の上昇反応が制限される、低温硬化粉体での使用にとりわけ有利である。
【0053】
本発明による粉体コーティング組成物は、さらに好ましくは、
a.架橋性成分Aが、構造Z1(-C(-H)(-R)-)Z2における活性化メチレン又はメチン中に少なくとも2個の酸性C-Hドナー基を含み、Rは水素、炭化水素、オリゴマー又はポリマーであり、Z1及びZ2は、好ましくはケト基、エステル基又はシアノ基又はアリール基から選択される同じ又は異なる電子求引基であり、好ましくは式1による構造を有する活性化C-H誘導体を含み、
【化5】
式中、Rは水素又は任意に置換されたアルキル又はアリールであり、Y及びY’は同じ若しくは異なる置換基、好ましくはアルキル、アラルキル若しくはアリール若しくはアルコキシであり、又は式1において、-C(=O)-Y及び/若しくは-C(=O)-Y’は、CN若しくはアリール、1以下のアリールで置換され、又はここでY若しくはY’は、NRR’(R及びR’は、H又は任意に置換されたアルキルである。)であり得るが、好ましくは両方ではなく、ここでR、Y又はY’は、任意にオリゴマー又はポリマーへの結合を与え、前記成分Aは、好ましくはマロナート、アセトアセタート、マロンアミド、アセトアセトアミド又はシアノアセタート基であり、好ましくは架橋性成分A中のC-H酸性基の合計の少なくとも50、好ましくは60、70又はさらに80%を提供し、
b.少なくとも2個の活性化不飽和RMAアクセプタ基を含む成分Bは、好ましくはアクリロイル、メタクリロイル、イタコナート、マレアート又はフマラート官能基から生じ、
成分A又はBの好ましくは少なくとも1つ、より好ましくは両方がポリマーであり、
好ましくは、組成物は、0.05~6meq/gバインダ固形分の、バインダ固形分1グラム当たりのドナー基C-H及びアクセプタ基C=Cの総量を含み、好ましくはアクセプタ基C=Cのドナー基CHに対する比が0.1を超え、10未満であること
を特徴とする。
【0054】
架橋性成分A及びBを含む真マイケル付加(RMA)架橋性コーティング組成物は、架橋性成分A及びBの具体的な説明がここに含まれていると見なされる、EP2556108、EP0808860又はEP1593727において、溶剤系の系での使用について概説されている。
【0055】
成分A及びBはそれぞれ、硬化時に反応してコーティング中に架橋網目を形成するRMA反応性ドナー部分及びアクセプタ部分を含む。成分A及びBは、別個の分子上に存在できるが、ハイブリッドA/B成分と呼ばれる1個の分子上又はその組合わせ上に存在することもできる。好ましくは、成分A及びBは別個の分子であり、それぞれ独立して、ポリマー、オリゴマー、ダイマー又はモノマーの形態である。コーティング用途では、成分A又はBの少なくとも1つが、好ましくはオリゴマー又はポリマーであることが好ましい。活性化メチレン基CH2が2個のC-H酸性基を含むことに留意されたい。最初のC-H酸性基の反応後、第2のC-H酸性基の反応はより困難であるが、例えばメタクリラートとの反応では、アクリラートと比較して、そのような活性化メチレン基の官能価は2としてカウントされる。反応性成分A及びBは、組合わせて1個のA/Bハイブリッド分子とすることもできる。粉体コーティング組成物のこの実施形態において、C-H反応性基及びC=C反応性基の両方が1個のA-B分子中に存在する。
【0056】
触媒系Cの1つ以上の成分は任意に成分A及び/又はBと組合わせて1つの分子に組合わせることもできるが、合成、処方及び粉体形成段階での早期反応を防止するために、その成分は活性触媒成分又は活性触媒成分を形成できる2つの成分の組合わせでないことが想定される。例えば、ポリマーは、基C1、C2及び/又はC3を含むことができるが、C1及びC2の組合わせを含むことはできない。組成物を処方する際の柔軟性の観点から、触媒系Cの成分は、最も好ましくは別個の成分として添加される。
【0057】
好ましくは、成分Aはポリマー、好ましくはポリエステル、ポリウレタン、アクリル、エポキシ又はポリカーボナートであり、官能基として成分A及び任意に1以上の成分B、又は触媒系Cからの成分を有する。これらポリマー型の混合物又はハイブリッドポリマーも可能である。好適には、成分Aは、アクリルポリマー、ポリエステルポリマー、ポリエステルアミドポリマー、ポリエステル-ウレタンポリマーの群から選択されるポリマーである。
【0058】
マロナート又はアセトアセタートは、成分Aにおける好ましいドナー型である。架橋性組成物の最も好ましい実施形態における高い反応性及び耐久性を考慮して、成分Aは、マロナートC-H含有化合物である。粉体コーティング組成物において、活性化CH基の大部分はマロナート由来である、即ち、粉体コーティング組成物中のすべての活性化C-H基の50%超、好ましくは60%超、より好ましくは70%超、最も好ましくは80%超がマロナート由来であることが好ましい。
【0059】
本発明の利点は、例えば、成分Aがポリマー鎖あたり平均で2~30個、好ましくは3~20個及びより好ましくは4~10個の活性化C-Hを含む化合物、特にオリゴマー又はポリマーである場合、官能基の比較的高い濃度及び官能性を有する、きわめて困難な組成物において特に明白である。主鎖、ペンダント又はその両方にマロナート型基を含有する、例えばポリエステル、ポリウレタン、ポリアクリラート、エポキシ樹脂、ポリアミド及びポリビニル樹脂又はそのハイブリッドなどの、オリゴマー性及び/又はポリマー性マロナート基含有成分が好ましい。
【0060】
様々な架橋性成分への分布とは無関係に、バインダ固形分1グラム当たりのドナー基C-Hとアクセプタ基C=Cの総量は、0.05~6meq/g、より通例には0.10~4meq/g、さらにより好ましくは0.25~3meq/gバインダ固形分、最も好ましくは0.5~2meq/gである。好ましくは、成分AとBの間の化学量論は、反応性C=C基の反応性C-H基に対する比が0.1を超え、好ましくは0.2を超え、より好ましくは0.3を超え、最も好ましくは0.4を超え、アクリラート官能基Bの場合、好ましくは0.5を超え、最も好ましくは0.75を超え、比は好ましくは10未満、好ましくは5未満、より好ましくは3、2又は1.5未満であるように選択される。
【0061】
マロナート基含有ポリエステルは、好ましくはマロン酸のメチル又はエチルジエステルと、ポリマー性又はオリゴマー性であり得るが、他の成分とのマイケル付加反応によっても組み入れられ得る多官能性アルコールとのエステル交換によって得ることができる。本発明との使用にとりわけ好ましいマロナート基含有成分は、1分子当たり1~50個、より好ましくは2~10個のマロナート基を含有する、マロナート基含有オリゴマー性又はポリマー性エステル、エーテル、ウレタン及びエポキシエステル並びにそのハイブリッド、例えばポリエステル-ウレタンである。ポリマー成分Aは、既知の方法で、例えば活性化C-H酸(ドナー)基、好ましくはアセトアセタート又はマロナート基を含む部分によって官能化されたモノマー、例えば(メタ)アクリラートを含むエチレン性不飽和モノマー、特に2-(メタクリロイルオキシ)エチルアセトアセタート又はマロナートのラジカル重合によって作製することもできる。実際に、ポリエステル、ポリアミド及びポリウレタン(及びこのハイブリッド)が好ましい。そのようなマロナート基含有成分は、約100~約10000、好ましくは500~5000、最も好ましくは1000~4000の範囲の数平均分子量(Mn)及び20000未満、好ましくは10000未満、最も好ましくは6000未満のMw(GPCポリスチレン当量で表す)を有することも好ましい。
【0062】
好適な架橋性成分Bは概して、炭素-炭素二重結合が電子求引基、例えばα位のカルボニル基によって活性化されるエチレン性不飽和成分であることができる。このような成分の代表的な例は、US2759913(6列、35行~7列45行)、DE-PS-835809(3列、16~41行)、US4871822(2列、14行~4列、14行)、US4602061(3列、14~20行~4列、14行)、US4408018(2列、19~68行)及びUS4217396(1列、60行~2列、64行)に開示されている。
【0063】
アクリラート、メタクリラート、イタコナート、フマラート及びマレアートが好ましい。イタコナート、フマラート及びマレアートは、ポリエステル又はポリエステル-ウレタンの主鎖に組み入れることができる。活性化不飽和基を含有するポリエステル、ポリカーボナート、ポリウレタン、ポリアミド、アクリル及びエポキシ樹脂(又はそのハイブリッド)ポリエーテル並びに/又はアルキド樹脂などの好ましい例の樹脂が挙げられる。これらとしては、例えばポリイソシアナートとヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル、例えば(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル又はポリヒドロキシ成分の化学量論量未満の(メタ)アクリル酸とのエステル化によって調製された成分との反応により得たウレタン(メタ)アクリラート;ヒドロキシル基含有ポリエーテルの(メタ)アクリル酸とのエステル化によって得たポリエーテル(メタ)アクリラート;ヒドロキシアルキル(メタ)アクリラートとポリカルボン酸及び/又はポリアミノ樹脂との反応によって得た多官能性(メタ)アクリラート;(メタ)アクリル酸とエポキシ樹脂との反応によって得たポリ(メタ)アクリラート並びにモノアルキルマレアートエステルとエポキシ樹脂及び/又はヒドロキシ官能性オリゴマー若しくはポリマーとの反応によって得たポリアルキルマレアートが挙げられる。グリシジルメタクリラートによってエンドキャップされたポリエステルも好ましい例である。アクセプタ成分が複数の種類のアクセプタ官能基を含有していることが考えらえる。
【0064】
最も好ましい活性化不飽和基含有成分Bは、不飽和アクリロイル官能性成分、メタクリロイル官能性成分及びフマラート官能性成分である。好ましくは、1分子当たりの活性化C=C基の数平均官能価は、2~20、より好ましくは2~10、最も好ましくは3~6である。当量(EQW:反応性官能基あたりの平均分子量)は100~5000、より好ましくは200~2000であり、数平均分子量は、好ましくはMn200~10000、より好ましくは300~5000、最も好ましくは400~3500g/モル、さらにより好ましくは1000~3000g/モルである。
【0065】
粉体系での使用を考慮すると、粉体の安定性が必要であるため、成分BのTgは、好ましくは25、30、35を超え、より好ましくは少なくとも40、45、最も好ましくは少なくとも50℃又はさらに少なくとも60℃である。Tgは、DSC、中点、加熱速度10℃/分で測定されるものと定義される。当業者によって理解されるように、成分の1つが50℃より実質的に高いTgを有する場合、他の成分のTgはより低くなり得る。
【0066】
好適な成分Bは、ヒドロキシ及び(メタ)アクリラート官能性化合物をイソシアナートと反応させてウレタン結合を形成することによって調製されたウレタン(メタ)アクリラートであり、イソシアナートは、好ましくは少なくとも一部はジイソシアナート又はトリイソシアナート、好ましくはイソホロンジイソシアナート(IPDI)である。ウレタン結合はそれ自体で剛性を導入するが、好ましくは、脂環式又は芳香族イソシアナート、好ましくは脂環式イソシアナートなどの高Tgイソシアナートが使用される。使用されるこのようなイソシアナートの量は、好ましくは、当該(メタ)アクリラート官能性ポリマーのTgが40より高く、好ましくは45又は50℃より高くなるように選択される。
【0067】
粉体コーティング組成物は、好ましくは、硬化後、少なくとも0.025ミリモル/cc、より好ましくは少なくとも0.05ミリモル/cc、最も好ましくは少なくとも0.08ミリモル/cc、通例3、2、1又は0.7ミリモル/cc未満の架橋密度(以下に記載するように、DMTAを使用)が求められるような方法で好ましくは設計される。
【0068】
粉体コーティング組成物は、周囲条件にて易流動性粉体を保持すべきであり、したがって10℃/分の加熱速度にてDSCによって測定される中点値として、25℃を超える、好ましくは30℃を超える、より好ましくは35、40、50℃を超えるTgを有する。
【0069】
上記のように、好ましい成分Aはマロナート官能性成分である。しかし、マロナート部分を含めることによりTgが低下する傾向があり、十分に高いTgを有する主成分Aとしてマロナートに基づく粉体コーティング組成物を提供することは難題であった。
【0070】
高Tgを達成することを考慮すると、粉体コーティング組成物は、好ましくは、架橋性成分A、成分B又はアミド結合、尿素結合若しくはウレタン結合を含むハイブリッド成分A/Bを含み、並びに/又は高Tgモノマー、好ましくは脂環式モノマー若しくは芳香族モノマー又は、ポリエステルの場合には、1,4-ジメチロールシクロヘキサン(CHDM)、トリシクロデカンジメタノール(TCDジオール)、イソソルビド、ペンタスピログリコール、水素化ビスフェノールA及びテトラメチルシクロブタンジオールの群から選択される1つ以上のモノマーを含む。
【0071】
さらに、高Tgを達成することを考慮すると、粉体コーティング組成物は、成分B又はハイブリッド成分A/Bを含み、ハイブリッド成分A/Bは、ポリエステル(メタ)アクリラート、ポリエステルウレタン(メタ)アクリラート、エポキシ(メタ)アクリラート若しくはウレタン(メタ)アクリラートであり、又はフマラート、マレアート若しくはイタコナート単位、好ましくはフマラートを含むポリエステルであり、又はイソシアナート若しくはエポキシ官能性活性化不飽和基でエンドキャップされたポリエステルである。
【0072】
架橋性成分A若しくはB又はハイブリッドA/Bにおいて高いTgを達成するための上記の対策は、結晶成分の存在と有利に組合わせることができる。粉体コーティング組成物中の成分は、アモルファス又は結晶性であり得る。組成物中の成分が完全にアモルファスである場合、これらの成分のTgは十分に高くなければならないが、低温での低い溶融粘度と組合わせてこれを達成することは困難であり得る。したがって、粉体コーティング組成物は、1つ以上の成分、好ましくは架橋性成分A若しくはB又はハイブリッドA/B又は触媒系Cの成分又は粉体コーティング組成物中で(半)結晶状態にあり、40~150℃、好ましくは50~130℃、より好ましくは60又は70~120℃、より好ましくは60~110℃の溶融温度を有する、別個の異なる可塑剤を含むことが好ましい場合がある。好ましくは、1つ以上の成分A若しくはB又は触媒系Cの成分は、(半)結晶性であるか、又はアモルファス及び(半)結晶成分の混合物であるが、結晶成分は、架橋反応において追加の役割のない添加剤であってもよい。結晶成分は、溶融時に、好ましくは50℃未満、より好ましくは30、20又はさらに10℃未満のTg及び塗料組成物中での結晶化時に示した範囲のTmを有する。結晶成分は、溶融時により低い溶融粘度を有するが、結晶状態でのTgは低下しない。(半)結晶性ポリマーの利点は、溶融時の可塑化効果により、硬化温度におけるより低い溶融粘度と組合わせて、組成物のより高いTgを達成できることでである。結晶成分の量は、60Pas未満、より好ましくは50、40、30、20、10又はさらに5Pas未満の想定される硬化温度における溶融粘度と好ましくは35℃を超える粉体塗料Tgとの正しいバランスを得るために、他のTg影響パラメータと共に選択される。調製方法において、使用時に粉体塗料の結晶性成分が結晶状態であるように注意する必要がある。
【0073】
最も好ましくは、粉体コーティング組成物は、RMA架橋性粉体コーティング組成物での使用に適した特徴を有する、本発明の別の態様によるRMA架橋性ポリマーを含む。特に、良好な流動性及びレベリング特性並びに良好な化学的及び機械的耐性を得ることを考慮すると、好ましくは粉体コーティング組成物において、架橋性成分A若しくはB又はハイブリッドA/Bの少なくとも1つが、アクリルポリマー、ポリエステルポリマー、ポリエステルアミドポリマー、ポリエステルウレタンポリマーの群から好ましくは選択されるポリマーであることが見いだされ、ポリマーは
a)GPCによって測定される、少なくとも450g/モル、好ましくは少なくとも1000、より好ましくは少なくとも1500、最も好ましくは少なくとも2000g/モルの数平均分子量Mnを有し、
b)GPCによって測定される、最大20000g/モル、好ましくは最大15000、より好ましくは最大10000、最も好ましくは最大7500g/モルの重量平均分子量Mwを有し、
c)4未満、より好ましくは3未満及び明らかに1を超える分子量分布Mw/Mnを有し、
d)等価重量EQWが少なくとも150、250、350、450又は550g/モル、好ましくは最大で2500、2000、1500、1250又は1000g/モルのCH又はC=Cにおける当量EQW及び1分子当たり1~25、より好ましくは1.5~15、さらにより好ましくは2~15、最も好ましくは2.5~10の反応性基C-H又はC=Cの数平均官能価を有し、
e)好ましくは、60Pas未満、より好ましくは40、30、20、10又はさらには5Pas未満の100~140℃の範囲の温度における溶融粘度を有し、
f)好ましくは、アミド結合、尿素結合若しくはウレタン結合を含み、並びに/又は高Tgモノマー、好ましくは脂環式モノマー若しくは芳香族モノマー、特に1,4-ジメチロールシクロヘキサン(CHDM)、トリシクロデカンジメタノール(TCDジオール)、イソソルビド、ペンタスピログリコール若しくは水素化ビスフェノールA及びテトラメチルシクロブタンジオールの群から選択されるポリエステルモノマーを含み、
g)10℃/分の加熱速度でDSCによって測定した中点値として、25℃を超える、好ましくは35℃を超える、より好ましくは40、50又は60℃を超えるTgを有するか、又は溶融温度が40℃~150、好ましくは130℃、好ましくは少なくとも50又はさらに70℃及び好ましくは150、130又はさらに120℃未満(10℃/分の加熱速度にてDSCによって測定)の結晶性ポリマーである。
【0074】
RMAは液体(非粉体)組成物から出発してコーティングを調製するためにも使用されることに留意できる。例えばWO2016166371は、二酸化炭素でブロックした強塩基触媒、反応性成分A、例えばマロナート化ポリエステル及び反応性成分Bに基づく触媒系を使用する、RMA架橋性コーティング組成物について記載している。
【0075】
ポリマーの特徴であるMn、Mw及びMw/Mnは、一方では望ましい粉体安定性を、他方では望ましい低溶融粘度だけでなく、想定されるコーティング特性も考慮して選択される。高いMnは末端基のTg低下効果を最小限に抑えるのに好ましいが、他方、溶融粘度はMwに大きく関連し、低い粘度が望ましいため、低いMwが好ましい。したがって、低いMw/Mnが好ましい。
【0076】
高Tgを達成することを考慮すると、RMA架橋性ポリマーは、好ましくはアミド結合、尿素結合若しくはウレタン結合を含み、及び/又は高Tgモノマー、好ましくは脂環式モノマー若しくは芳香族モノマーを含み、又はポリエステルの場合には、1,4-ジメチロールシクロヘキサン(CHDM)、TCDジオール、イソソルビド、ペンタスピログリコール若しくは水素化ビスフェノールA及びテトラメチルシクロブタンジオールの群から選択されるモノマーを含む。
【0077】
RMA架橋性ポリマーがA/Bハイブリッドポリマーである場合、ポリマーがアクリラート又はメタクリラート、フマラート、マレアート及びイタコナート、好ましくは(メタ)アクリラート又はフマラートの群から選択される1個以上の成分B基も含むことがさらに好ましい。さらに、結晶性材料として使用される場合、RMA架橋性ポリマーは、結晶化度と共に(加熱速度10℃/分にてDSCによって測定される)40℃~130℃、好ましくは少なくとも50又はさらに70℃、好ましくは150、130又はさらに120℃未満の溶融温度を有することが好ましい。この溶融温度は(純粋な)ポリマー自体の溶融温度であり、ブレンド中のポリマーの溶融温度ではないことに留意されたい。
【0078】
好ましい実施形態において、RMA架橋性ポリマーは、脂環式イソシアナート又は芳香族イソシアナート、好ましくは脂環式イソシアナートに由来する尿素結合、ウレタン結合又はアミド結合を含むポリエステル、ポリエステルアミド、ポリエステル-ウレタン又はウレタン-アクリラートを含み、当該ポリマーは少なくとも40℃、好ましくは少なくとも45又は50℃及び最大120℃のTg及び450~10000、好ましくは1000~3500g/モルの数平均分子量Mn、好ましくは20000、10000又は6000g/モルの最大Mwを有し、当該ポリマーはRMA架橋性成分A若しくはB又はその両方を備えている。ポリマーは、例えば当該RMA架橋性基を含む前駆体ポリマーを、ある量の脂環式イソシアナート又は芳香族イソシアナートと反応させて、Tgを上昇させることによって得ることができる。そのようなイソシアナートの添加量又は形成される尿素/ウレタンの結合量は、Tgが少なくとも40℃、好ましくは少なくとも45又は50℃まで上昇するように選択される。
【0079】
好ましくは、RMA架橋性ポリマーは、主成分Aとしてマロナートを含み、1分子当たり1~25、より好ましくは1.5~15、さらにより好ましくは2~15、最も好ましくは2.5~10のマロナート基の数平均マロナート官能価を含むポリエステル又はポリエステル-ウレタンであり、500~20000、好ましくは1000~10000、最も好ましくは2000~6000g/モルのGPC重量平均分子量を有し、ヒドロキシ及びマロナート官能性ポリマーをイソシアナートと反応させてウレタン結合を形成することにより調製されている。
【0080】
さらに、ポリマーは、アモルファス又は(半)結晶性ポリマー又はその混合物であり得る。半結晶性とは、部分的に結晶性で部分的にアモルファスであることを意味する。(半)結晶化度はDSC溶融吸熱によって定義され、目標結晶化度は少なくとも40℃、好ましくは少なくとも50℃、より好ましくは少なくとも60℃、好ましくは最大130、120、110℃又は100℃のDSCピーク溶融温度Tmを有するとして定義される。完全なアモルファス状態のそのような成分のDSC Tgは、好ましくは40℃未満、より好ましくは30、20又はさらには10℃未満である。
【0081】
粉体コーティング組成物の貯蔵寿命を改善することを考慮すると、ポリマー結合C2及びC3官能基、特にカルボキシラート並びに任意にカルボン酸成分C2及びC3も含むポリマーの使用が有利であることが見出された。移動性の低下及びTgの影響により、貯蔵寿命が改善されると考えられる。さらなる利点は、低EQW成分と比較して、高EQWを有するポリマー成分は、例えば処方物を押出機で調製する際に、粉体コーティング組成物中により混合されやすく、不均一性のリスクが低減されることである。
【0082】
したがって、本発明は、ポリマー(C3/2ポリマー)及びRMA架橋性コーティング組成物における潜在性塩基触媒成分としてのその使用にも関し、当該ポリマーは、弱塩基基C2及び任意に酸基C3を含み、弱塩基基C2は好ましくはポリマー上の酸基C3を部分的又は完全に中和することにより形成され、C2及びC3は好ましくはカルボキシラート基及びカルボン酸基であり、ポリマーは好ましくはアクリルポリマー、ポリエステルポリマー、ポリエステルアミドポリマー及びポリエステルウレタンポリマーの群から選択され、ポリマーは任意に、C-Hドナー基、C=Cアクセプタ基又は両方を含み、ポリマーは好ましくは
a)少なくとも3、より好ましくは5、7、10、15又はさらには20mgKOH/g、好ましくは100、80、70、60mgKOH/g未満の、非中和形態の酸価、
b)第4級アンモニウムカチオン又はホスホニウムカチオン、好ましくはテトラブチルアンモニウムカチオン又はエチルアンモニウムカチオン、
c)少なくとも500、好ましくは少なくとも1000又はさらに2000のMn、及び20,000以下、好ましくは10,000又は6000以下のMw、
d)C-Hドナー及び/又はC=Cアクセプタ基が存在する場合、少なくとも150、好ましくは少なくとも250、350又はさらに450g/mol、及び2000以下、好ましくは1500、1200又は1000g/mol以下の反応性C-Hドナー又はC=Cアクセプタ当量、
e)C-Hドナー及びC=Cアクセプタ基が存在しない場合、少なくとも10mg、より好ましくは15、20mgKOH/g、及び好ましくは100、80、70、60mgKOH/g未満の非中和形態の酸価
を有する。
【0083】
好ましくは、ドナーCH基はマロナート型官能基である。アクセプタ不飽和基は、好ましくはアクリラート基、メタクリラート、フマラート、マレアート又はイタコナート基である。上記のC3/2ポリマーは、高Tgモノマー成分及び/又は堅い結合を含むことにより、RMA架橋性ポリマーについて上で規定したような高Tg又は結晶化度を有することがさらに好ましい。
【0084】
本発明は、RMA架橋性粉体コーティングにおけるRMA架橋性ポリマーの使用にも関する。本発明はさらに、
a.成分A、成分B、触媒系C及び任意の添加剤を用意するステップ、
b.成分を好ましくは140℃未満、より好ましくは120、100、90未満又はさらに80℃未満の温度Tcompにて押出すステップ、
c.冷却するステップ、
d.冷却前、冷却中又は冷却後に、押出した混合物を成形して粒状物を形成するステップ、
e.さらなる添加剤を任意に添加するステップ、
f.粒状物を粉砕して粉体にするステップ
を含む、粉体コーティング組成物の調製方法に関する。
【0085】
任意に添加されたコーティング添加剤は、通例、顔料、染料、分散剤、脱ガス助剤、レベリング添加剤、艶消し添加剤、難燃添加剤、膜形成特性を改善するための、コーティングの光学的外観のための、機械的特性、接着性を改善するための、又は色及びUV安定性などの安定性特性のための添加剤の群から選択される1つ以上の添加剤である。
【0086】
粉体塗料は、従来の粉体コーティング系と同様の手段を使用し、添加剤に依存して又は粉体ブレンド系若しくは反応性が異なるポリマーのブレンドに基づく系を使用した意図的な不均一な架橋によって、艶消しコーティングを生成するように設計することもできる。
【0087】
通例、押出物が押出機を出た直後に冷却バンド上に押広げて押出物を固化させることを含む、標準粉体コーティング処理を使用できる。押出された塗料は、冷却バンドに沿って移動する際に固化したシートの形態をとることができる。バンド終点にて、シートは次に、好ましくはペグブレーカ(peg breaker)によって小片に破砕されて粒状物となる。この時点では、統計的最大サイズが好ましいが、粒状物に有意な形状制御は適用されない。次に塗料粒状物を分級マイクロナイザに移し、そこで塗料をきわめて正確な粒度分布に粉砕する。この生成物はここで、完成した粉体コーティング塗料である。結晶成分を使用する場合、結晶性成分が粉体塗料中に結晶状態で存在するように注意する必要がある。これは例えば、結晶性成分の溶融温度Tm以下のTcompを選択すること、又はTcompがTmより高い場合、成分を冷却時に結晶化させることを意味し得る。
【0088】
本発明は、
a.本発明による又は上記のような方法で得た粉体コーティング組成物を有する粉体を用意すること、
b.粉体の層を基材表面に適用すること、
c。75~200℃、好ましくは80~180℃、より好ましくは80~160、150、140、130又は120℃の硬化温度Tcurまで加熱すること、
d.Tcurにて好ましくは40、30、20、15、10又はさらに5分未満の硬化時間にわたって硬化させること、
を含む、基材を粉体コーティングする方法にも関する。
【0089】
この方法では、Tcurは好ましくは、成分Bの不飽和結合C=Cの変換率を時間の関数としてFTIRにより測定することにより求められる硬化プロファイルによって特徴付けられ、好ましくは60%変換率に到達するまでの時間が30、20又は10分未満であると、C=C変換率が20%から60%まで進む時間の、20%変換率に到達するまでの時間の比は1未満、好ましくは0.8、0.6、0.4又は0.3未満であり、Tcurにおける粉体コーティング組成物は、好ましくは60Pas未満の、より好ましくは40、30、20、10又はさらに5Pas未満の、硬化温度における溶融粘度を有する。溶融粘度は、反応のまさに開始時に又は触媒系のC2なしで測定される。
【0090】
方法の好ましい実施形態において、硬化温度は75~140℃、好ましくは80~120℃であり、触媒系Cは、感温性基材、好ましくはMDF、木材、プラスチック又は合金などの感温性金属基材の粉体コーティングを可能にする上記のような潜在性触媒系である。
【0091】
したがって、本発明は、本発明の粉体コーティング組成物でコーティングされ、MDF、木材、プラスチック又は金属合金などの感温性基材を好ましくは有し、好ましくはコーティングの架橋密度XLDが(DMTAによって測定される)少なくとも0.01、好ましくは少なくとも0.02、0.04、0.07又はさらに0.1ミリモル/ccであり、好ましくは3、2、1.5、1又はさらに0.7ミリモル/cc未満である、物品にも関する。
【0092】
本発明は、200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは160、140又はさらには120℃以下の硬化温度においてRMA架橋性粉体コーティング組成物中の架橋反応を触媒するための、上記のような触媒系Cの使用にも関する。
【0093】
本発明は、MDF、木材、プラスチック又は感温性金属合金などの感温性基材に使用できる、通例、硬化温度が75~140℃である、低温粉体コーティング架橋に好適な、粉体コーティング組成物に関する。粉体コーティング組成物は、活性化メチレン又はメチン中に少なくとも2個の酸性C-Hドナー基を有する架橋性成分A、好ましくは潜在性触媒系である触媒系Cの作用下で真マイケル付加によって成分Aと反応する、少なくとも2個の活性化不飽和アクセプタ基C=Cを有する架橋性成分Bを含む。本発明は、そのような粉体コーティング組成物の製造方法、当該粉体コーティング組成物を使用して物品をコーティングする方法、及び得られるコーティングされた物品にも関する。本発明は、粉体塗料で使用するための特定のポリマー、及びそのような粉体コーティング組成物における特定の触媒系の使用にも関する。
なお、下記[1]から[19]は、いずれも本発明の一形態又は一態様である。
[1]
1つ以上の架橋性成分及び触媒を含み、前記1つ以上の架橋性成分が真マイケル付加(RMA)反応により架橋可能であることを特徴とする、粉体コーティング組成物であって、前記粉体コーティング組成物が
・a.活性化されたメチレン又はメチン中に少なくとも2個の酸性C-Hドナー基を有する、架橋性成分A、
・b.真マイケル付加(RMA)により成分Aと反応して架橋網目を形成する、少なくとも2個の活性化不飽和アクセプタ基C=Cを有する、架橋性成分B、
・c.200℃未満、好ましくは175℃未満、より好ましくは150℃、140、130又はさらに120℃未満、好ましくは少なくとも70℃、好ましくは少なくとも80、90又は100℃の硬化温度にて前記RMA架橋反応を遅延して触媒するための強塩基又は強塩基の前駆体を含む、潜在性触媒系C、
を含み、前記触媒系Cが、
・・a.前記硬化温度にて反応して架橋性成分AとBの間の前記反応を遅延して開始する成分を含む、化学的潜在性を有する潜在性触媒系LCCであって、前記潜在性触媒系LCCが
形態LCC1において:
a)弱塩基C2、
b)前記硬化温度にてC2又はプロトン化C2と反応性である活性化剤C1、
c)任意に、酸C3、好ましくはプロトン化C2をさらに含み、
形態LCC2の場合において:
a)弱塩基C2がマイケル付加ドナーS2であり、
b)活性化剤C1が、前記硬化温度にてS2と反応性である活性化不飽和基C=Cを含むマイケルアクセプタS1であり、
c)任意に、前記対応する塩基もマイケル付加ドナーでもある酸S3である酸C3、好ましくはプロトン化S2をさらに含み、
ここで
S1がアクリラートの場合、S2は8未満、好ましくは7未満、より好ましくは6未満の前記共役酸のpKaを有し、pKaは水性環境における値として定義され、
S1がメタクリラート、フマラート、イタコナート、又はマレアートの場合、S2は10.5未満、好ましくは9未満、より好ましくは8未満の前記共役酸のpKaを有する、
潜在性触媒系LCC又は前記形態LCC1とLCC2の組合わせ、
・・b.揮発性酸でブロックされた塩基又はプロトン化時に揮発性酸を形成する弱塩基を含み、揮発性酸が前記硬化温度で蒸発し、及び好ましくは追加の遊離揮発性酸を含む、蒸発潜在性を有する潜在性触媒系LCE、並びに
・・c.配合温度未満では物理的に分離され、前記粉体中の化学反応にアクセス不能であり、前記硬化温度にて化学反応にアクセス可能である、触媒系、好ましくは強塩基又は潜在性触媒系が存在する、物理的潜在性を有する潜在性触媒系LCPであって、好ましくは
a)前記硬化温度未満であり、前記配合温度を超える、好ましくは70、80、90又は100℃を超える溶融温度を有する強塩基触媒を含む、潜在性触媒系LCP、又は
b)前記硬化温度未満であり、前記配合温度を超える温度で前記触媒を放出する材料であって、好ましくは前記材料が、前記硬化温度未満であり、前記配合温度を超える、溶融温度、又はアモルファス材料の場合には、ガラス転移温度を有する材料にカプセル化又は混合された活性強塩基触媒種を含む、潜在性触媒系LCP2、
c)適切な波長の照射時に塩基を放出する光塩基発生剤成分を含む潜在性触媒系LCP3、から選択される、
潜在性触媒系LCP、
からなる群より選択される潜在性触媒系LC、又は触媒系LCC、LCE及びLCPの組合わせである、粉体コーティング組成物。
[2]
潜在性触媒系の形態LCC1において、
・前記活性化剤C1が、エポキシド、カルボジイミド、オキセタン、オキサゾリン又はアジリジン官能性成分、好ましくはエポキシド又はカルボジイミドの群から選択され、
・前記弱塩基C2が、好ましくは、前記主成分Aの酸性CH基のpKaよりも1単位を超えて、好ましくは1.5単位、より好ましくは2単位、さらにより好ましくは少なくとも3単位低い前記共役酸のpKaを有し、C2は好ましくはカルボキシラート、ホスホナート、スルホナート、ハロゲニド若しくはフェノラートアニオン又はその塩の群から選択される弱塩基求核性アニオン又は非イオン性求核試薬、好ましくは第3級アミンであり、より好ましくは弱塩基C2は、カルボキシラート、ハロゲニド若しくはフェノラート塩又は1,4-ジアザビシクロ-[2.2.2]-オクタン(DABCO)の群から選択される弱塩基求核性アニオンであり、並びに
・前記潜在性触媒系が、好ましくは、主成分Aの前記酸性CH基のpKaよりも1を超えて、好ましくは1.5、より好ましくは2、さらにより好ましくは少なくとも3単位低いpKaを有する酸C3も含み、酸C3が好ましくはプロトン化C2である、[1]に記載の粉体コーティング組成物。
[3]
潜在性触媒系の形態LCC2において、
・前記弱塩基S2が、好ましくはホスフィン、N-アルキルイミダゾール及びフッ化物の群から選択され、又はXがN、P、O、S又はCである酸性X-H基含有化合物からの弱塩基求核性アニオンX-であり、アニオンX-が、活性化剤S1と反応性であるマイケル付加ドナーであり、アニオンX-が、8未満及びさらに主成分Aの前記酸性CH基のpKaよりも1単位を超えて、好ましくは1.5単位、より好ましくは2単位、さらにより好ましくは少なくとも3単位低い、前記対応する共役酸XHのpKaを特徴とし、
・前記潜在性触媒系が、好ましくは、主成分Aの前記酸性CH基のpKaよりも1を超えて、好ましくは1.5、より好ましくは2、さらにより好ましくは少なくとも3単位低いpKaを有する酸S3も含み、酸S3が好ましくはプロトン化S2である、[1]に記載の粉体コーティング組成物。
[4]
弱塩基C2が酸性ではないカチオン、式Y(R’)
4
によるカチオンを含む塩として添加され、Yが、N又はPを表し、各R’が、ポリマーにおそらく連結している同じ若しくは異なるアルキル基、アリール基若しくはアラルキル基であり、又は前記カチオンがプロトン化された超強塩基性アミンであり、超強塩基性アミンが、好ましくはアミジンの群から、好ましくは1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデカ-7-エン(DBU)又はグアニジンから選択され、好ましくは1,1,3,3-テトラメチルグアニジン(TMG)である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の粉体コーティング組成物。
[5]
前記潜在性触媒系が、1)揮発性酸でブロックされた塩基、好ましくは強塩基を含み、又は代わりに2)プロトン化時に揮発性酸を形成する弱塩基を含む潜在性触媒系LCEであり、前記潜在性触媒系が、好ましくは追加の揮発性酸をさらに含み、揮発性酸が前記硬化温度で蒸発する、前記酸の沸点が300℃未満、好ましくは250℃、225、200又は150℃未満、好ましくは100℃又は120℃超である、[1]に記載の粉体コーティング。
[6]
a.触媒系LCC1の場合、1~600μeq/g、好ましくは10~400、より好ましくは20~200μeq/gの量の活性化剤C1(μeq/gは、バインダ成分A及びB並びに触媒系LCCの総重量に対するμeqである)、又は触媒系LCC2の場合、少なくとも1μeq/g、好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも20、最も好ましくは少なくとも40μeq/gの量の活性化剤S1、
b.バインダ成分A及びB並びに触媒系LCの総重量に対して1~300μeq/g、好ましくは10~200、より好ましくは20~100μeq/gの量の弱塩基C2、
c.任意に、1~500、好ましくは10~400、より好ましくは20~300μeq/g、最も好ましくは30~200μeq/gの量の酸C3、
を含み、
d.C1又はそれぞれのS1の前記量が
i.好ましくは1~300μeq/g、好ましくは10~200、より好ましくは20~100μeq/gだけC3の前記量よりも多く、
ii.好ましくはC2の前記量よりも多く、
iii.より好ましくは、C2及びC3の前記量の合計よりも多い、[1]~[5]のいずれか一項に記載の粉体コーティング組成物。
[7]
a.前記弱塩基C2が、C2とC3の前記合計の10~100mol%を占め、
b.好ましくは、酸C3の前記量が、C2の前記量の20~400mol%、好ましくは30~300mol%であり、
c.好ましくは、C1の前記モル量のC2及びC3の前記量の合計に対する比が、少なくとも0.5、好ましくは少なくとも0.8、より好ましくは少なくとも1及び好ましくは最大3、より好ましくは最大2であり、
d.C1のC3に対する比が、好ましくは少なくとも1、好ましくは少なくとも1.5、最も好ましくは少なくとも2である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の粉体コーティング組成物。
[8]
80、90、又は100°Cと、200、150、135又は120°Cとの間で選択された硬化温度にて、時間の関数として成分Bの不飽和結合C=Cの変換率をFTIRにより測定することにより求められる硬化プロファイルにおいて、C=C変換率が20%から60%まで進む時間の、20%変換率に到達するまでの時間に対する比が1未満、好ましくは0.8、0.6、0.4又は0.3未満であり、好ましくは60%変換率に到達するまでの時間が30、20、10又は5分未満であり、好ましくは100℃にて20%変換率に達するまでの時間が少なくとも1、好ましくは少なくとも2、3、5、8又は12分である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の粉体コーティング組成物。
[9]
a.架橋性成分Aが、構造Z1(-C(-H)(-R)-)Z2における活性化メチレン又はメチン中に少なくとも2個の酸性C-Hドナー基を含み、Rが水素、炭化水素、オリゴマー又はポリマーであり、Z1及びZ2が、好ましくはケト基、エステル基又はシアノ基又はアリール基から選択される同じ又は異なる電子求引基であり、好ましくは式1による構造を有する活性化C-H誘導体を含み、
【化6】
式中、Rが水素又は任意に置換されたアルキル又はアリールであり、Y及びY’が同じ若しくは異なる置換基、好ましくはアルキル、アラルキル若しくはアリール若しくはアルコキシであり、又は式1において、前記-C(=O)-Y及び/若しくは-C(=O)-Y’が、CN若しくはアリール、1以下のアリールで置換され、又はここでY若しくはY’は、NRR’(R及びR’は、H又は任意に置換されたアルキルである。)であり得るが、好ましくは両方ではなく、ここでR、Y又はY’が、任意にオリゴマー又はポリマーへの結合を与え、前記成分Aが、好ましくはマロナート、アセトアセタート、マロンアミド、アセトアセトアミド又はシアノアセタート基であり、好ましくは架橋性成分A中のC-H酸性基の合計の少なくとも50、好ましくは60、70又はさらに80%を提供し、
b.少なくとも2個の活性化不飽和RMAアクセプタ基を含む成分Bが、前記好ましくはアクリロイル官能基、メタクリロイル官能基、イタコナート官能基、マレアート官能基又はフマラート官能基から生じ、
成分A又はBの好ましくは少なくとも1つ、より好ましくは両方がポリマーであり、
好ましくは、前記組成物が、0.05~6meq/gバインダ固形分の、バインダ固形分1グラム当たりのドナー基C-H及びアクセプタ基C=Cの総量を含み、好ましくはアクセプタ基C=Cのドナー基CHに対する比が0.1を超え、10未満である、
[1]~[8]のいずれか一項に記載の粉体コーティング組成物。
[10]
架橋性成分A若しくはB又はハイブリッドA/Bの少なくとも1つが、アクリルポリマー、ポリエステルポリマー、ポリエステルアミドポリマー、ポリエステルウレタンポリマーの群から好ましくは選択されるポリマーであり、前記ポリマーが
a)GPCによって測定される、少なくとも450g/モル、好ましくは少なくとも1000、より好ましくは少なくとも1500、最も好ましくは少なくとも2000g/モルの数平均分子量Mnを有し、
b)GPCによって測定される、最大20000g/モル、好ましくは最大15000、より好ましくは最大10000、最も好ましくは最大7500g/モルの重量平均分子量Mwを有し、
c)4以下、より好ましくは3以下の分子量分布Mw/Mnを有し、
d)等価重量EQWが150、250、350、450、又は550g/モル、好ましくは最大で2500、2000、1500、1250又は1000g/モルのCH又はC=Cにおける当量EQW及び1分子当たり1~25、より好ましくは1.5~15、さらにより好ましくは2~15、最も好ましくは2.5~10の反応性基C-H又はC=Cの数平均官能価を有し、
e)好ましくは、60Pas未満、より好ましくは40、30、20、10又はさらには5Pas未満の100~140℃の範囲の温度における溶融粘度を有し、
f)好ましくは、アミド結合、尿素結合若しくはウレタン結合を含み、並びに/又は高Tgモノマー、好ましくは脂環式モノマー若しくは芳香族モノマー、特に1,4-ジメチロールシクロヘキサン(CHDM)、トリシクロデカンジメタノール(TCDジオール)、イソソルビド、ペンタスピログリコール若しくは水素化ビスフェノールA及びテトラメチルシクロブタンジオールの群から選択されるポリエステルモノマーを含み、
g)10℃/分の加熱速度でDSCによって測定した中点値として、25℃を超える、好ましくは35℃を超える、より好ましくは40、50又は60℃を超えるTgを有するか、又は溶融温度が40℃~150、好ましくは130℃、好ましくは少なくとも50又はさらに70℃及び好ましくは120℃未満(10℃/分の加熱速度にてDSCによって測定)の結晶性ポリマーである、[1]~[9]のいずれか一項に記載の粉体コーティング組成物。
[11]
1つ以上の成分若しくはB又は触媒系Cの成分又は前記粉体中で(半)結晶状態にあり、40~130℃、好ましくは50~120℃、より好ましくは60~110℃、より好ましくは60~100℃の溶融温度を有する別個の異なる可塑剤を含む、[1]から[10]のいずれか一項に記載の粉体コーティング組成物。
[12]
成分Bが、ポリエステル(メタ)アクリラート、ポリエステルウレタン(メタ)アクリラート、エポキシ(メタ)アクリラート若しくはウレタン(メタ)アクリラートであり、又はフマラート単位、マレアート単位若しくはイタコナート単位、好ましくはフマラートを含むポリエステルであり、又はイソシアナート官能性活性化不飽和基若しくはエポキシ官能性活性化不飽和基でエンドキャップされたポリエステルである。[1]~[11]のいずれか一項に記載の粉体コーティング組成物。
[13]
[1]~[12]のいずれか一項に記載の粉体コーティング組成物を調製する方法であって、
a.成分A、成分B、触媒系C及び任意の添加剤を用意するステップ、
b.前記成分を好ましくは140℃以下、より好ましくは120、100、90℃満又はさらに80℃未満の温度Tcompにて押出すステップ、
c.結晶化性成分の結晶化を可能にするアニーリングステップを任意に含む、冷却するステップ、
d.冷却前、冷却中又は冷却後に、前記押出した混合物を成形して粒状物を形成するステップ、
e.さらなる添加剤を任意に添加するステップ、
f.前記粒状物を粉砕して粉体にするステップ
を含む、[1]~[12]のいずれか一項に記載の粉体コーティング組成物を調製する方法。
[14]
基材を粉体コーティングする方法であって、
a.[1]~[12]のいずれか一項に記載の、又は[13]の方法で得た粉体コーティング組成物を有する粉体を準備すること、
b.前記粉体の層を基材表面に適用することであって、前記基材が、好ましくは感温性基材、好ましくはMDF、木材、プラスチック又は合金などの感温性金属基材である、適用すること、
c.75~200℃、好ましくは80~180℃、より好ましくは80~160、150、140、130又はさらに120℃の硬化温度Tcurまで加熱して、好ましくは赤外線加熱も使用すること、
d.前記硬化温度における前記溶融粘度が、60Pas未満、より好ましくは40、30、20、10又はさらに5Pas未満であり、
e.Tcurにおいて好ましくは40、30、20、15、10又はさらに5分未満の硬化時間にわたって硬化させること、
を含む、基材を粉体コーティングする方法。
[15]
[1]~[12]に記載のコーティング組成物を有する、又は[13]に記載の方法で得た粉体でコーティングされた物品であって、MDF、木材、プラスチック又は金属合金から好ましくは選択される感温性基材を好ましくは有し、好ましくは前記架橋密度XLDが(DMTAによって測定される)少なくとも0.01、好ましくは少なくとも0.02、0.04、0.07又はさらに0.1ミリモル/mlであり、好ましくは3、2、1.5、1又はさらに0.7ミリモル/ml未満である、物品。
[16]
200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは160、140又はさらに120℃以下の硬化温度にて、RMA架橋性粉体コーティング組成物における前記架橋反応を触媒するためのRMA架橋性粉体コーティング組成物を調製するための、[1]~[12]のいずれか一項に記載の触媒系Cの使用。
[17]
アクリルポリマー、ポリエステルポリマー、ポリエステルアミドポリマー及びポリエステルウレタンポリマーから好ましくは選択されるRMA架橋性ポリマーであって、
a.構造Z1(-C(-H)(-R)-)Z2における活性化メチレン又はメチン中に少なくとも2個の酸性C-Hドナー基を含む1つ以上の成分Aであって、式中、Rは、水素、炭化水素、オリゴマー又はポリマー、Z1及びZ2は、好ましくはケト、エステル又はシアノ又はアリール基から選択される同じ又は異なる電子求引基、好ましくは式1による構造を有する活性化C-H誘導体であり、
【化7】
式中、Rは、水素又は任意に置換されたアルキル若しくはアリールであり、Y及びY’は同じ又は異なる置換基、好ましくはアルキル、アラルキル又はアリール又はアルコキシであるか、式1において、前記-C(=O)-Y及び/若しくは-C(=O)-Y’は、CN若しくはアリール、1個以下のアリールで置換され、又はY若しくはY’は、-NRR’(R及びR’は、H又は任意に置換されたアルキルである)であり得るが、好ましくは両方というわけではなく、当該成分Aは、好ましくは、マロナート基、アセトアセタート基、マロンアミド基、アセトアセトアミド基又はシアノアセタート基であり、最も好ましくは、架橋性成分A中のC-H酸性基の合計の少なくとも50、好ましくは60、70又はさらに80%を与えるマロナートであり、R、Y又はY’は、前記ポリマーへの結合を与える、成分A、
b.任意に、A/Bハイブリッドポリマーを形成する、少なくとも2個の活性化不飽和RMAアクセプタ基、好ましくはアクリロイル官能基、メタクリロイル官能基、イタコナート官能基、マレアート官能基又はフマラート官能基を含む、1つ以上の成分B、及び
c.任意に、触媒系の1つ以上の成分C、
を含み、前記ポリマーが
h.GPCによって測定される、少なくとも450g/モル、好ましくは少なくとも1000、より好ましくは少なくとも1500、最も好ましくは少なくとも2000g/モルの数平均分子量Mnを有し、
i.GPCで測定した、最大20000g/モル、好ましくは最大15000、より好ましくは最大10000、最も好ましくは最大7500g/モルの重量平均分子量Mwを有し
j.好ましくは4以下、より好ましくは3以下の分子量分布Mw/Mnを有し、
k.少なくとも150、250、350、450又は550g/モル、好ましくは最大2500、2000、1500、1250又は1000g/モルのC-Hにおける当量EQW及び1分子当たりCH基が1~25、より好ましくは1.5~15、さらにより好ましくは2~15、最も好ましくは2.5~10の反応性基CHの数平均官能価を有し、
l.好ましくは60Pas未満、より好ましくは40、30、20、10又はさらに5Pas未満の100~140℃の範囲の温度における溶融粘度を有し、
m.好ましくはアミド結合、尿素結合若しくはウレタン結合を含み、及び/又は高Tgモノマー、好ましくは脂環式モノマー若しくは芳香族モノマー、特に1,4-ジメチロールシクロヘキサン(CHDM)、トリシクロデカンジメタノール(TCDジオール)、イソソルビド、ペンタスピログリコール若しくは水素化ビスフェノールA及びテトラメチルシクロブタンジオールの群から選択されるポリエステルモノマーを含み、
n.10℃/分の加熱速度にてDSCによって測定される、25℃を超える、好ましくは35℃を超える、より好ましくは40、50若しくはさらに60℃を超えるTgを有し、又は(10℃/分の加熱速度にてDSCによって測定される)40℃~150、好ましくは130℃、好ましくは少なくとも50若しくは70℃及び好ましくは150未満、130未満又はさらに120℃未満の溶融温度を有する結晶性ポリマーである、RMA架橋性ポリマー。
[18]
弱塩基基C2及び任意に酸基C3を含むポリマーであって、弱塩基基C2が好ましくは前記ポリマー上の酸基C3を部分的又は完全に中和することにより形成され、C2及びC3は好ましくはカルボキシラート基及びカルボン酸基であり、前記ポリマーが好ましくはアクリルポリマー、ポリエステルポリマー、ポリエステルアミドポリマー及びポリエステル-ウレタンポリマーの群から選択され、前記ポリマーが任意に、C-Hドナー基、C=Cアクセプタ基又は両方を含み、好ましくは
a.少なくとも3、より好ましくは5、7、10、15又はさらに20mgKOH/g、好ましくは100、80、70、60mgKOH/g未満の、非中和形態の酸価、
b.第4級アンモニウムカチオン又はホスホニウムカチオン、好ましくはテトラブチルアンモニウムカチオン又はエチルアンモニウムカチオン、
c.少なくとも500、好ましくは少なくとも1000又はさらに2000のMn、及び20,000以下、好ましくは10,000又は6000以下のMw、
d.C-Hドナー及び/又はC=Cアクセプタ基が存在する場合、少なくとも150、好ましくは少なくとも250、350又はさらに450g/mol、及び2000未満、好ましくは1500、1200又は1000g/mol以下の反応性C-Hドナー又はC=CアクセプタEQW、
e.C-Hドナー及びC=Cアクセプタ基が存在しない場合、少なくとも10、より好ましくは15、20、及び好ましくは100、80、70、60mgKOH/g未満の非中和形態の酸価
を有する、ポリマー。
[19]
潜在性塩基触媒成分としての[18]に記載のポリマーの使用及び/又はRMA架橋性粉体コーティングにおける[17]に記載のRMA架橋性ポリマーの使用。
【0094】
本発明を以下の例によって説明する。
【0095】
試験方法
ポリマーのモル質量分布は、Perkin-Elmer HPLCシリーズ200でのゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって、屈折率(RI)検出器とPLgelカラムを使用し、THFを溶離液として使用し、ポリスチレン標準による較正を使用して求めた。実験的分子量は、ポリスチレン換算値で表す。
【0096】
ここで報告される樹脂及び塗料のガラス転移温度は、10℃/分の加熱速度を使用した、示差走査熱量測定(DSC)から求めた中点Tgである。融点も同じ走査速度を使用するDSCによって求める。時間に対して発生した反応熱を求めるために、DSCを試験対象の硬化温度まで急速加熱(60°C/分)した後、等温モードで使用する。
【0097】
XLDは、粉体コーティング組成物をPTFEコートパネルに適用して調製され、選択した硬化プロファイルに従って硬化させた自立コーティング膜に対するDTMA測定によって測定した。硬化させたコーティングをパネルから容易に剥がして、コーティングの自立膜を作製することができる。自立膜から、幅3mm、長さ30mmのDMTA測定用サンプルを切り取った。DMTAの引張ベンチのクランプ間の長さは30mmであった。DMTA測定を11Hz及び5℃/分の加熱速度で行い、そこから架橋密度パラメータXLD(ミリモル/cc)を当分野で既知であるように評価した。架橋密度パラメータXLDは、ASTM manual MNL17-2ND(Dynamic Mechanical and Tensile Properties、2012年公開)で詳細に記載されている一般手順に従い、改良レオバイブロン(東洋ボールドウィン)DMTA装置の引張モードで、周波数11Hzにて動的引張強度0.03%で測定した自立コーティング膜を使用して求めた。すべての測定は引張モードで行い、各温度にて引張貯蔵弾性率E’、引張損失弾性率E”及びtanδ(tanδ=E”/E’)を求める。DMTAは、非接着性基材上に調製した層厚約30~50μmの自立硬化コーティングに対して行う。未充填コーティングの場合、架橋密度は、最小引張貯蔵弾性率E’minと、この最小弾性率E’minが見い出される温度Tmin(単位:ケルビン)から直接計算できる:
【数1】
式中、Rはガス定数(8.314J/mol/K)、νeは架橋密度(=体積あたりの弾性的有効網目鎖のモル数)である。膜Tgは、DMTA曲線から、tanδの最大値に関連するものとして、又は最大E”に関連する値として求めることができる。
【0098】
ゲル時間:ゲル時間を求めるために、Coesfeld Materialゲルテスターを使用する。試験前に、ゲルテスターを必要な温度に設定し、安定させる。粉砕粉体の制御量をゲルテスターのホットプレートに投入して、タイマーが起動させる。サンプルが溶融を開始すると、円運動を使用して木製楊枝で材料を混合する。サンプルが反応すると、材料が自由流動を停止し、粘着性凝集ボールが形成され始める時点に達するまで、粘度が上昇する。サンプルがこの状態にあり、楊枝の先端から又はホットプレートの表面から離脱可能になると、終点に到達する。試験は、少なくとも2セットの結果が一致するまで反復する。
【0099】
コーティング膜の耐溶剤性は、公称1ポンド(0.454kg)のボールヘッドハンマーのボールヘッドに脱脂綿パッドを置くことで評価した。これは5cm四方の好適な布で被覆されている。綿パッドと布は、布がピンと張られてしわ、折り目、たるみがないように、ケーブルタイでハンマーに固定される。十分なメチルエチルケトン(MEK)を布に適用して、余分な溶媒を残さずに綿を完全に濡らす。ハンマーのボールヘッドを、試験する塗料の調製されたパネルの塗装面に配置する。ハンマーをパネルの幅方向に押し、その後、元の位置に引き戻す。この動作中にハンマーに下向き又は上向きの圧力がかからないように注意する。これは1回の二重摩擦を成し、約1秒を要する。これを300回、又はこれがより早い場合には、コーティングが破損する(コーティングが金属表面までこすり取られる)まで反復する。擦り切れるまでの二重摩擦の回数、又は擦り切れが認められない場合は300。
【0100】
コーティング膜の耐溶剤性もアセトンスポット試験で評価した。アセトン50μlの1滴を30秒間パネル上に配置して、次いでパネルをエッチングの形跡について目視検査した。試験パネルを0~5のスケールで目視評価した。評価;0:損傷なし、1:優、2:良好、3:十分、4:不良、5:コーティング層の完全な破壊。
【0101】
フローと外観を評価するために、粉体コート試験パネルを一連のPowder Coating Institute(PCI)標準パネルと比較する。これらのパネルは、粉体コーティングで達成できる平滑度を表し、粗から平滑まで、オレンジの皮(フロー)と粉体の段階的平滑度を有する。標準パネルは、黒く塗装され、1(不良)から10(優)までで評価される対応するオレンジの皮(フロー)でラベル付けした10枚の4×6インチパネルからなる。試験パネルは、塗装された試験パネルの外観を目視評価するために、標準パネルと比較される。試験パネルには、標準パネルの値に最も近いフローの値が割り当てられる。
【0102】
アクリロイル変換率の追跡には、ダイヤモンドATR結晶がホットステージに組み込まれたSpecac Golden Gate ATR装置を装備した、Nicolet iC10 FTIR装置を使用する。溶媒に溶解させて、又は粉体塗料として処方された塗料を、所期の硬化温度にてホットステージに直接適用した。1760C=O吸収帯を参照として使用し、810cm-1アクリロイルピークの積分を使用して、変換率を時間の関数として追跡した。
省略形
【表1】
【0103】
材料の調製
マロナート樹脂M-1の調製
4口蓋、金属アンカー撹拌器、Pt-100、冷却器付きディーンスタークトラップ及びN2注入口を装備した、2リットルの丸底反応装置に、CHDM510g及びIPA153.7gを投入した。反応装置の温度を約100℃まで穏やかに上昇させて、Fascat4101 0.26gを添加した。温度をさらに200℃まで上昇させて、酸価が0.50mgKOH/g以下になるまで反応を継続させた。反応の最終部では、窒素流を使用して反応を完了させた。温度を50℃まで低下させて、ジエチルマロナート134.2gを添加した。反応装置の温度を170℃まで上昇させて、エタノールが形成されなくなるまで維持した。エステル交換が完了した後、ポリエステルのヒドロキシル価を測定した。次に、容器の温度を60℃に設定し、IPDI284.40gを3~4時間の期間にわたって添加し、それにより発熱反応のために温度が155℃まで上昇した。すべてのIPDIを添加した後、反応を155℃にて30分間維持して、反応を完了させた。最終OHVは46mgKOH/g、GPC Mnは3343、Mwは7372、Tg(DSC)は64℃であった。酸価は1mgKOH/g未満である。
【0104】
マロナート樹脂M-2の調製
4口蓋、金属アンカー撹拌器、Pt-100、上部温度計を備えた充填カラム、凝縮器、留出物収集容器、熱電対及びN2注入口を装備した、5リットル丸底反応装置に、CHDM2900g及びIPA2300gを投入した。反応装置の温度を約100℃まで穏やかに上昇させて、Fascat4101触媒3gを添加した。反応温度をさらに徐々に230℃まで上昇させて、反応混合物が透明になり、酸価が2mgKOH/g以下になるまで、窒素下で撹拌を継続しながら重合を進行させた。測定したOHV及び理論的目標OHV(88mgKOH/g)に応じて、計算量のCHDMを反応装置に添加して、重合中のグリコールの損失を補った。反応の最終部では、真空を加えて反応を完了させた。温度を120℃まで低下させて、ジエチルマロナート406gを添加した。反応装置の温度を190℃まで上昇させて、エタノールが形成されなくなるまで維持した。再び真空を加えて反応を完了させた。エステル交換が完了した後、ポリエステルのヒドロキシル価を測定した。最終OHVは35mgKOH/g、GPC Mnは2150、Mwは5750、Tg(DSC)は42℃であった。AVは1mgKOH/g未満である。
【0105】
マロナート樹脂M-3の調製
M-3はM-2と同様の方法で調製した。NPG1970g、TPA1800g及びIPA600gを反応容器に投入して、縮合させてごく低い酸価とした。このオリゴマー樹脂にジエチルマロナート674 gを添加し、混合物からエタノールを除去することによりさらに縮合させた。エステル交換を停止した後、得られたマロナート樹脂M-3の最終OHVは16mgKOH/g、GPCMnは3776、Mw9774及びTg(DSC)は37℃であった。マロナートEQWは1000、酸価は1mgKOH/g未満である。
【0106】
マロナート樹脂M-4の調製
M-4はM-2と同様の方法で調製した。NPG1840g、イソソルビド2455g(80重量%)、TPA2746g及びIPA1000gを反応容器に投入して、チタナート触媒7.50gを用いて縮合させてごく低い酸価とした。このオリゴマー樹脂にジエチルマロナート1247gを添加し、混合物からエタノールを除去することによりさらに縮合させた。エステル交換を停止した後、得られたマロナート樹脂M-4は、最終OHV21mgKOH/gの、GPC Mn2183、Mw5448及びTg(DSC)61℃によって特徴付けられた。マロナートEQWは1000、酸価は1mgKOH/g未満である。
【0107】
無水物修飾酸官能性マロナート樹脂AHM-4の調製
マロナートM-4 700g及び無水フタル酸20.74gを機械式撹拌器を装備した反応容器に添加した。反応を連続撹拌しながら、2.5時間、170℃で継続した。最終生成物は16mgKOH/gのAVを有する。GPC Mnは1591、Mwは4084、Tg(DSC)は49℃であった。
【0108】
マロナート-カルボキシラートポリマーMCの調製
ポリマー性マロナート-カルボキシラートポリマーは、高温でTBAOH溶液(水中55%wt)を使用して、マロナートポリエステル樹脂M-2(Mn=2150)を加水分解して調製した。簡潔には、最初にマロナート樹脂M-2 45.3 gを、凝縮器を装備した3口丸底フラスコで溶融した。樹脂が完全に溶融したら、TBAOH溶液4.71gを140℃にてフラスコ中に滴加した。容器から水を完了するまで留去した。最終生成物のGPC Mnは797、Mwは2772、塩基(カルボキシラート)濃度は0.374mol/kgであった。
【0109】
マスターバッチ樹脂MB-1の調製
マスターバッチ樹脂を合成するために、マロナートポリエステル樹脂M-4 1000g及びCRYLCOAT(登録商標)1622-0 750gを3リットル反応容器に投入した。次に、樹脂混合物を170℃で溶融して、撹拌しながらホモジナイズした。その後、完成したホモジナイズ樹脂混合物を150℃まで冷却し、TBAOH溶液(H2O中55重量%)343gを添加した。容器から水を留去した。最後に、真空を15分間加えて、残留水を樹脂混合物から除去した。最終生成物のAVは28、Tg(DSC)は36℃である。理論カルボキシラート濃度は0.217mmol/gである。
【0110】
アセトアセタート樹脂AA-1の調製
AA-1は、NPG(水中90重量%)484.1部、トリメチロプロパン21.40部、IPA681.5部及び触媒としてのFascat4100 0.55部を235℃にて、最終段階にて真空を用いて縮合して、酸価を1mgKOH/g未満とした。この材料2500gに、tBAA327.80gを170℃にて滴加した。揮発性物質が生成されなくなるまで、反応が170℃で進行する間に、tert-ブタノールを留去した。最後に過剰なtBAAを真空中で除去した。最終的OHVは3mgKOH/g、GPC Mnは2150、Mwは15800、Tg(DSC)は44℃であった。酸価は無視できるほどであり、アセトアセタートEQWは2000g/モルであった。
【0111】
ウレタンアクリラートUA-1の調製
合成するために、0.5リットル4口丸底反応装置に、2-ヒドロキシエチルアクリラート(塩基性Al2O3上で精製)116.10g、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール0.30g、ジブチルスズジラウラート0.30gを投入した。反応装置の温度を55℃まで上昇させて、IPDI 111.2gを2.5時間にわたって添加した。すべてのイソシアナートを添加した後、反応温度を55℃で1時間維持して反応を完了させた。得られたウレタン-アクリラートは、2のアクリロイル官能価を有する。
【0112】
ウレタンアクリラートUA-2の調製
IPDI、ヒドロキシプロピルアクリラート、グリセリンを主成分とするウレタンアクリラートは、例えばEP0410241A2及びEP0585742に記載されているように、好適な重合阻害剤を添加して調製する。温度計、撹拌器、注入漏斗及びガスバブリング入口を装備した5リットル反応装置に、IPDI1020部、ジブチルスズジラウラート1.30部及びヒドロキノン4.00部を投入する。次に、ヒドロキシプロピルアクリラート585部を投入し、温度が50℃を超えないように上昇させる。添加が完了したら、グリセリン154部を添加する。発熱反応が収まった15分後、反応生成物を金属製のトレイにキャストする。得られたウレタンアクリラートは、GPC Mn744及びMw1467、Tg(DSC)51℃、残留イソシアナート含有量0.1%未満及び理論不飽和EQW392を特徴とする。
半結晶性ウレタンアクリラートUA-3の調製
温度計、撹拌器、注入漏斗及びガスバブリング注入口を装備した5リットル反応装置に、IPDI833部、HDI913部、ジブチルスズジラウラート4.20部及びブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)5.00部を投入する。次に、ヒドロキシプロピルアクリラート395部を60分にわたって投入し、温度を35℃を超えないように上昇させる。添加が完了したら、1,6-HD896部及びBHT5部を添加する。発熱反応が収まった15分後、反応生成物を金属製のトレイにキャストする。得られた半結晶性ウレタンアクリラートは、融点が125℃、Tg(DSC)が17.7℃、理論不飽和EQWが1004である。
【0113】
エポキシアクリラート樹脂EA-1の調製
ビスフェノールAエポキシ樹脂(Mn≒1075)640g、4-メトキシフェノール(MEHQ)3.20g、β-イオノール3.20g及びエチルトリフェニルホスホニウムブロミド4.73gを3リットル反応容器に投入して、撹拌しながら135℃まで加熱した。別のフラスコで、アクリル酸81.50gをMEHQ0.08g及びフェノチアジン0.03gと混合して、30分間にわたって反応容器に添加した。反応を130℃にて完了(AV=0)までさらに5時間進行させた。最終生成物のGPC Mnは1399、Mwは4956、Tg(DSC)は39℃、理論不飽和EQWは637である。
【0114】
無水物変性酸官能性エポキシアクリラート樹脂AHEA-1の調製
エポキシアクリラートEA-1 137.10g及び無水フタル酸16.20gを機械式撹拌器を装備した反応容器に添加した。反応を3時間にわたって連続撹拌しながら140℃にて行った。最終生成物のAVは30、Tg(DSC)は36℃、GPC Mnは2509、Mwは11770であった。
【0115】
フマラートポリエステル樹脂FP-1の調製
4口蓋、金属アンカー撹拌器、Pt-100、上部温度計を備えた充填カラム、凝縮器、留出物収集容器、熱電対及びN2注入口を装備した、5リットル丸底反応装置に、NPG1563g及びIPA2150gを投入した。反応装置の温度を約100℃まで穏やかに上昇させて、モノブチルスズオキシド(MBTO)触媒3.5gを添加した。反応温度をさらに徐々に210℃まで上昇させて、反応混合物が透明になり、AVが8mgKOH/g以下になるまで、窒素下で撹拌を継続しながら重合を進行させた。第2ステップにおいて、フマル酸1060g、MEHQ1.5g及びリン酸1.05gを反応容器に添加した。重合は真空下でAVが5mgKOH/g以下になるまで行った。得られた最終生成物のAVは4.4mgKOH/g、OHVは46.3mgKOH/g、Tg(DSC)は37℃、理論不飽和EQWは500である。
【0116】
テトラブチルアンモニウムベンゾアートの調製
TBAOH溶液(H2O中55重量%)104.79g及び安息香酸48.85gを250ml丸底フラスコに投入し、すべての固形分が溶解するまで混合した。溶液のpHに応じて、TBAOH又は安息香酸を添加して、pHレベルを7に調整した。次に、水を一部蒸発させることにより溶液を濃縮し、冷却して結晶化させた。結晶化が完了した後、得られたTBAベンゾアートを真空オーブンで乾燥させた。
【0117】
触媒系の硬化プロファイル
例1~9において、マロナート樹脂M-1(12.0g;21.8meq反応性C-H)及びウレタンアクリラートUA-1(4.46g;19.6meqアクリロイル)及び酢酸ブチル溶媒(11.1g)を使用した。その他の成分並びに反応時間を表2に示す。触媒成分C1はCardura(商標)E10P(CE-10)、触媒成分C2はテトラブチルアンモニウムベンゾアート、触媒成分C3は安息香酸又はラウリン酸のどちらかである。組成物を95及び102℃の温度にて硬化させた。
【0118】
変換率を時間の関数として測定して、反応速度形状係数60-20/20(SF60)及び形状係数80-20/20(SF80)を求めた。変換率は加熱したATR-FTIRステージへの組成物の適用後に測定し、アクリロイル部分に特徴的な809 cm-1バンドに焦点を合わせてアクリロイル基の変換率を測定する。結果を以下の表2にまとめる。
【0119】
形状係数は、架橋性組成物の反応速度の特徴である。形状係数60-20/20は、アクリロイル変換率が20%から60%まで進む時間の20%の変換率に達するまでの時間に対する比である。同様に、形状係数80-20/20は、アクリロイル変換率が20%から80%まで進む時間の、20%の変換率に達するまでの時間に対する比である。この形状係数は低いことが好ましく、膜形成フロー及び良好なコーティング外観を与えるかなり長いオープンタイムが存在し、総変換の20から60又は80%の硬化を達成するための短い時間があることを示す。
【0120】
反応速度プロファイル形状係数SF(DSC)を求める別の方法は、DSC(示差走査熱量測定)を使用することである。この方法では、関連する温度での粉体塗料組成物の反応発熱を、等温走査の時間の関数として測定する。サンプルを60°C/分の速度で対象の硬化温度まで加熱し、発生した熱をこの瞬間(t0)からの時間の関数として測定する。通例、ある誘導時間の後に発熱ピークが観測され、積分してΔHtotalを取得できる。この発熱はt0の後に発生した累積熱として、積分後に再プロット可能であり、この等温実験におけるΔHtotalの20%又は60%に到達するために必要な時間(t20及びt60)を求めることができる。形状係数SF(DSC)は、生じた発熱が20から60%になるまでの時間(t60-t20)の、生じた発熱が20%に達するまでの時間(t20-t0)の比から求めることができる。
SF(DSC)=(t60-t20)/(t20-t0)
【0121】
この形状係数は、好ましくは1未満、より好ましくは0.8未満、さらにより好ましくは0.6、0.4未満、最も好ましくは0.3未満の値を有する。さらに、反応速度は、100℃で試験を行う場合、(t20-t0)が好ましくは1分を超え、より好ましくは2、3、5、8、12分を超えるように選択されることが好ましい。
【表2】
【0122】
例は、C3の存在による触媒の潜在性の利点を示す。好ましくは、形状係数60-20/20(SF60)は1以下、より好ましくは0.8、0.6、0.4又は0.3以下、好ましくはSF80も1.5以下、より好ましくは1、0.5以下又はさらに0.35以下である。
【0123】
例10~11では、マロナート樹脂M-4(5g)、ウレタンアクリラートUA-2(3.92g)及び触媒成分C1 Araldite(登録商標)GT7004(1.14g)をアセトンに溶解させた。触媒成分C2を生成するために、TBAOH(0.24g、水中で55重量%)又はTEAOH(0.33g、水中で40重量%)のどちらかを別個のフラスコでそれぞれ過剰量の安息香酸によって中和した。中和後の処方物中の各触媒成分の量を表3にまとめる。次に、2つの溶液を合わせ、薄膜をポリプロピレンのパネル上にキャストした。その後、アセトンを50℃の真空下で除去し、収集した固体をDSCで測定し、120℃の等温分析を行った。例10及び11の等温DSC走査の結果は、例10及び11の両方について、120℃にて硬化を完了するためにほぼ同じ時間が必要であることを示している。
【0124】
例12において、無水物変性酸官能性マロナート樹脂AHM-4(5.0g)を最初にアセトンに溶解させ、次に水酸化TBA(0.21g、水中55重量%)によって部分中和した。別個のフラスコでウレタンアクリラートUA-2(3.92g)及び触媒成分C1 CE-10(0.31g)もアセトンに溶解させた。中和後の処方物中の各触媒成分の量を表3にまとめる。次に、2つの溶液を合わせ、薄膜をポリプロピレンのパネル上にキャストした。その後、アセトンを50℃の真空下で除去し、収集した固体をDSCで測定し、120℃の等温分析を行った。
【0125】
例13では、マロナート樹脂M-4(5.0g)及び触媒成分C1 Araldite(登録商標)GT7004(1.76g)をアセトンに溶解させた。別個のフラスコで無水物変性酸官能性エポキシアクリラート樹脂AHEA-1(2.38g)及びエポキシアクリラートEA-1(1.28g)もアセトンに溶解させ、次いで水酸化TBA(0.37g、水中55重量%)によって部分中和した。中和後の処方物中の各触媒成分の量を表3にまとめる。次に、得られた2つの溶液を組合わせ、薄膜をポリプロピレンパネル上にキャストした。その後、アセトンを50℃の真空下で除去し、収集した固体をDSCで測定し、120℃の等温分析を行った。
【表3】
【0126】
例10及び11は、TBAベンゾアートが120℃にてTEAベンゾアートと同様の反応性を有することを示した。これは等温実験において発熱が20%から60%まで進むのに要する同様の時間によっても示されている。
【0127】
さらに、触媒成分C3は、例12に示すように成分A又は例13に示すように成分Bのどちらかの主鎖に組み込むことができる。次にC3をカチオンヒドロキシドで部分中和することによって、対応するC2アニオンが形成された。硬化プロファイルをDSC形状係数によって示す。
【0128】
粉体塗料処方物
粉体塗料処方物P1~P11を調製し、粉体塗料として適用した。コーティングは、顔料を用いず、反応性アクリロイル/C-H2比が2:1になる化学量論で処方した。添加剤を含むその他の成分を表4にまとめる。触媒成分C1は、Araldite(登録商標)PT912又はAraldite(登録商標)GT7004である。触媒成分C2はテトラブチルアンモニウムベンゾアート(TBAベンゾアート)であり、触媒成分C3は安息香酸である。粉体RMAコーティングを調製するために、二重押出し法を行って混合を良好にした。まず、2種類の樹脂成分を比較的低い押出機速度(100rpm)にて予備押出した。次に、得られた予備押出材料を粉砕し、触媒成分並びに流動添加剤と高速Thermoprism Pilot Mixer 3プレミキサーで1500rpmにて20秒間混合した後、比較的高速の押出機速度(250rpm)にて再度押出した。両方の押出ステップでは、4つの押出機バレルゾーン温度を15、25、80及び100℃に設定した。押出に続いて、Kemutecラボラトリ分級マイクロナイザを使用してコーティングを粉砕した。分級機は5.5rpmに設定し、ローターを7rpmに設定して、フィードを5.2rpmに設定した。Russel Finex 100ミクロンメッシュDemi Finexラボラトリ振動ふるいを使用して、コーティングを100μmにふるい分けした。P1~P11の(重量部としての)処方組成を表4に示す。
【表4】
【0129】
粉体塗料処方物P12~P15は、マスターバッチ樹脂MB-1とウレタンアクリラートUA-2アクセプタ樹脂を使用して調製した。コーティングP12~P14は、顔料を用いず、反応性アクリロイル/C-H2比がそれぞれ2:1、1:1、0.75:1となる化学量論で処方した。コーティングP12は、20%Kronos(登録商標)2160顔料を用いて、反応性アクリロイル/C-H2比が1:1となる化学量論で処方した。触媒成分C1はAraldite(登録商標)GT7004である。粉体RMAコーティングを調製するために、まず樹脂及び触媒成分を粉砕し、GRINDOMIXナイフミル(5000rpm)を使用して5秒間混合した。次に混合物を300rpmにて作動させたTSA二軸押出機に供給した。5つの押出機バレルゾーンの温度を60、100、120、120、120℃に設定した。押出後、GRINDOMIXナイフミル(10000rpm)を使用して、コーティングを20秒間にわたって2回粉砕した。次に、90μmの機械式ふるいを使用してコーティングをふるい分けした。
【0130】
粉体塗料処方物P16~P19は、マロナート樹脂M-4及びウレタンアクリラートUA-2アクセプタ樹脂を使用して調製した。コーティングP16~P19は、顔料を用いず、反応性アクリロイル/C-H2比が2:1となる化学量論で処方した。添加剤を含むその他の成分を表5にまとめる。塗料P16及びP17の場合、弱酸性種でブロックされた塩基を含む触媒系。塗料16では、成分C1はAraldite(登録商標)GT700ある。触媒成分C2は、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)である。塗料17では、成分C1はジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)である。触媒成分C2はTBAベンゾアートである。上記のすべての場合において、触媒成分C3は安息香酸である。RMA粉体コーティングは、粉体塗料処方物P1~P11と同様の方法を使用して調製した。
【表5】
【0131】
粉体塗料処方物P20~P21は、マロナート樹脂M-4及びウレタンアクリラートUA-2アクセプタ樹脂を使用して調製した。コーティングP20は顔料を用いずに処方したのに対して、コーティングP21は20%Kronos(登録商標)2160顔料を用いて処方した。どちらの場合も、反応性アクリロイル/C-H2比が2:1となる化学量論を処方し、約10%MODAFLOW(登録商標)P6000を流動添加剤として添加した。触媒成分C1はAraldite(登録商標)PT912であり、触媒成分C2はTBAベンゾアートであり、触媒成分C3は安息香酸である。RMA粉体コーティングP18及びP19は、粉体塗料処方物P12~P15と同様の方法を使用して調製した。
【0132】
粉体塗料処方物P22~P24は、マロナート樹脂M-4、ウレタンアクリラートUA-2及び半結晶性UA-3アクセプタ樹脂を使用して調製した。コーティングP21~P23は、顔料を用いず、反応性アクリロイル/C-H2比が1.65:1となる化学量論で処方した。添加剤を含むその他の成分を表6にまとめる。触媒成分C1Araldite(登録商標)GT7004、触媒成分C2はTBAベンゾアートであり、触媒成分C3は安息香酸である。RMA粉体コーティングは、粉体塗料処方物P1~P11と同様の方法を使用して調製した。
【表6】
【0133】
粉体コーティング評価
粉体コーティング品質を評価するために、Nordson Surecoatコロナスプレーガンを使用して、得られた粉体をパネルに適用した。外観評価のために、100mm×300mmのアルミニウムパネルにコーティングを適用した。例P1~P19を表示温度で20分間硬化させた。塗料P4も、120℃で10分のより短い硬化時間にわたって硬化させた。塗料20及び21をMDFに適用し、130℃の赤外線加熱を使用して硬化させた。すべての場合で、硬化膜厚は60~80μmであった。サンプルを周囲条件で冷却し、硬化後24~36時間で外観及び耐溶剤性を求めた。コーティング評価結果を表7、9、10、11、12にまとめた。例コードの番号は、上記の処方の番号に対応している。
【表7】
【0134】
コーティングP1~P4の硬化も、120℃での硬化後に時間の関数としてFTIRによって測定して、反応速度論形状係数60-20/20(SF60)及び形状係数80-20/20(SF80)を求めた。変換率は、アクリロイルの特徴である809 cm-1バンドに焦点を合わせて、組成物中のアクリロイル基の変換率をFTIRによって測定した。結果を以下の表4にまとめる。すべての場合で、変換の大部分は10分以前に起こり、安息香酸を含有するサンプルでは、最大硬化速度が発生する前に誘導時間が生じることがわかる。この誘導時間の結果は、上の表のPCI評価に示されているように、外観が改善されたと見なすことができる。先に導入した変換曲線の形状係数を求めて、以下の表8に挙げる。
【表8】
【0135】
データは、形状係数によって示されるように、安息香酸成分C3の添加により粉体塗料の硬化に潜在性がもたらされることを示す。
【表9】
【0136】
例P5~P11は、比較的低温にて良好な硬化を達成しながら、成分A及びBの両方のRMAコーティング組成物に変更を加えられることを示している。このことは、表9にまとめるように、良好な架橋密度XLD及び耐溶剤性の結果を得ることによって示される。PC8はイソソルビドを含む材料を用いて調製したため、他の例よりもTgがはるかに高い。
【表10】
【0137】
例P12~P15は、C2及びC3を提供するために酸/カルボキシラート官能性ポリエステルを含有する材料によってRMAコーティングを調製できることを示す。アクリロイル/C-H2の比は、処方物(PC12-PC14)において変更され、着色RMAコーティング(PC15)も調製した。表10に示すアセトンスポット試験の結果が示すように、上記のすべての場合で、120℃にて比較的良好な硬化を実現できる。
【表11】
【0138】
PC16及び17は、LCEの触媒系を使用したRMA粉体コーティングを示した。そのような触媒系は、揮発性酸の蒸発を硬化方法中に制御することが困難であるため、LCCよりも好ましくない。硬化温度がより高いほど、膜表面における酸の蒸発がより速く、硬化速度に勾配が生じる可能性がある。結果として、このような条件では、膜表面での硬化が速くなるため、テクスチャ表面が認められた。
【0139】
DABCOをC2成分として使用するLCC系では、良好な硬化を実現できる。このことはPC18で得られた良好な耐溶剤性の結果によって示されている。
【0140】
PC19は、LCC系における触媒成分C1としてエポキシの代わりにカルボジイミドを使用して、120及び140℃にて良好な硬化を実現できることを示す。
【表12】
【0141】
表12に示す結果は、MDFパネルへの適用試験から得た。結果から分かるように、赤外線加熱を使用すると、短時間で良好な硬化及び耐溶剤性が実現された。
【表13】
【0142】
コーティングP22~P24の硬化を120℃におけるDSC等温走査によって測定して、反応速度形状係数SF(DSC)60-20/20を求めた。結果を上の表13にまとめる。データは、DSC形状係数の低下によって示されるように、安息香酸成分C3の添加により粉体塗料の硬化に潜在性がもたらされることを示す。
【0143】
アクリラート成分Bの潜在性触媒系LCC2の硬化特性
モデル処方物は、溶媒ブチルアセタート中で、触媒系LCC2として、100℃にて非常に迅速に脱ブロック化し、成分S3と組合わせて、X-H酸と共役塩基X-のS2/S3混合物を生成する、CO2ブロック化塩基(Acure(登録商標)500)を使用して調製される。潜在性触媒系LCC2。
【0144】
使用した架橋性成分は、マロナート官能性ポリエステルAcure(登録商標)510-100 10g及びDTMPTA(アクリラート官能性)4.95gであった。次に、成分S3を用いて又は用いずに、Acure(登録商標)500触媒0.72gを添加した。XH成分S3を使用する場合、成分S3を2ミリモルの濃度で添加した。溶液を100°Cに予熱したATR結晶に薄く(目標乾燥膜厚60μm)適用して、FTIRを使用してアクリラートの濃度を時間の関数として追跡した。
【0145】
S3添加剤を用いないと、膜はただちに架橋して、最初のFTIR測定が完了する前にATR結晶から脱離した。S3添加剤がスクシンイミド(pKa=9.5)及び1,2,4-トリアゾール(pKa=10.4)である場合、同様の観測結果が得られた。したがって、アクリラート系組成物の周囲温度硬化に効果的な遅延剤として既知であるX-H化合物は、粉体硬化温度での使用には適していないことが判明した。p-トルエンスルホンアミド(pKa=10.17)及び5,5-ジメチルヒダントイン(pKa=9.19)を使用した場合も、不十分な遅延が認められた。
【0146】
これらの100℃硬化条件下での有用な遅延硬化は、より低いpKa値を特徴とするS3成分を含むS1アクリラート系組成物で認めることができる。以下の表は、20、50及び60%のC=C変換率に達するまでの観測時間を示す。
【表14】
【0147】
アクリラート以外のマイケルアクセプタS1、例えばメタクリラート、フマラート、マレアートでは、S3/S2成分に他の要件が適用され、触媒系に十分な遅延が与えられることが判明した。
メタクリラート成分Bに対する潜在性触媒系LCC2の硬化特性
【0148】
メタクリラート官能性成分Bでは、上記のように、100℃に予熱したATR結晶に対してFTIR実験を再度行った。この場合、同じAcure(登録商標)510-100ドナー(10g)を(アクリラート官能性)TMPTMAアクセプタ(2.4g)と混合して使用した。Acure(登録商標)500ブロック化塩基開始剤を処方に50μeq/gバインダ固形分で使用した。X-H種を(中和時にS2を形成する)S3として使用した場合の、塩基に対する量を以下の表に示す。上記のように実験を行った。
【0149】
いずれのS3成分も含有していない、メタクリラート成分S1/Bに基づくこのような組成物では、高濃度のアクセプタ基及びドナー基を用いたこの組成物の硬化は、100℃にて非常に速く、本質的に数分で完了する。スクシンイミド、1,2,4-トリアゾール又はベンゾトリアゾールを使用すると、表示した実際的なレベルで硬化の有用な遅延を得ることができる
【表15】
【0150】
これらの例は、S1(=B)がアクリラートである場合、pKaが8を超えるX-H化合物が効率的に遅延しないことを示す。したがって、S1が触媒系LCC2においてアクリラートである場合、成分S2としてpKaが8未満のX-H成分を使用することが好ましい。成分S1(=B)が触媒系LCC2においてメタクリラートである場合、成分S2として、pKaが10.5以下のX-H成分を使用することが好ましい。