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  • 特許-凹凸を有するコンクリート補強筋 図1
  • 特許-凹凸を有するコンクリート補強筋 図2
  • 特許-凹凸を有するコンクリート補強筋 図3
  • 特許-凹凸を有するコンクリート補強筋 図4
  • 特許-凹凸を有するコンクリート補強筋 図5
  • 特許-凹凸を有するコンクリート補強筋 図6
  • 特許-凹凸を有するコンクリート補強筋 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】凹凸を有するコンクリート補強筋
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/07 20060101AFI20230823BHJP
【FI】
E04C5/07
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021108682
(22)【出願日】2021-06-30
(65)【公開番号】P2023006204
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2023-06-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】弁理士法人東京UIT国際特許
(72)【発明者】
【氏名】幸田 英司
(72)【発明者】
【氏名】小出 正治
(72)【発明者】
【氏名】小野 賢治
(72)【発明者】
【氏名】山崎 信浩
【審査官】齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-150433(JP,A)
【文献】特開平07-238482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/00-5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の高強度繊維の束に樹脂を含浸させた樹脂含浸繊維束,および
上記樹脂含浸繊維束の外周面に巻き付けられた被覆材を備え,
上記被覆材が,
複数本の糸に撚りを加えた撚線構造を備え,かつ上記樹脂含浸繊維束の外周面に巻き付けられることで断面から見て外方に凸状の半楕円形に変形するように緩く撚られたものであることを特徴とする,
凹凸を有するコンクリート補強筋。
【請求項2】
上記糸が上記高強度繊維と異なる素材の複数本の繊維を合わせ撚ったものである,
請求項1に記載の凹凸を有するコンクリート補強筋。
【請求項3】
上記糸の弾性係数が上記高強度繊維の弾性係数よりも低い,
請求項2に記載の凹凸を有するコンクリート補強筋。
【請求項4】
上記糸の撚り角度が1.0~4.5°の範囲にあることを特徴とする,
請求項1から3のいずれか一項に記載の凹凸を有するコンクリート補強筋。
【請求項5】
上記糸の撚り角度が1.5~4.0°の範囲にあることを特徴とする,
請求項1から3のいずれか一項に記載の凹凸を有するコンクリート補強筋。
【請求項6】
上記樹脂含浸繊維束に含浸されている樹脂が上記被覆材にも含浸されている,
請求項1から5のいずれか一項に記載の凹凸を有するコンクリート補強筋。
【請求項7】
複数本の請求項1から6のいずれか一項に記載の凹凸を有するコンクリート補強筋が撚り合わされている,
コンクリート補強ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,コンクリート構造物内に埋設され,コンクリート構造物を補強するための補強筋に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は樹脂が含浸された繊維芯に捲回繊維(繊維束A)を捲回し,次に二次補強繊維を長手方向に配設し,さらにその上から捲回繊維(繊維束B)を捲回した構造用ロッドを開示する。繊維芯と捲回繊維との結合力が高められ,構造用ロッドから繊維芯が抜けてしまうことが防止される。また,構造用ロッドの表面に凹凸が形成されるので,コンクリートとの結合力も高められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平3-103561号公報
【0004】
構造用ロッドの表面の凹凸が大きい(凸部の高さが高い)ほどコンクリートとの結合力(付着応力度)は増大する。構造用ロッドの表面の凹凸は,繊維芯に巻き付けられる繊維束に強く撚りを加えることによって大きくすることができるが,繊維束に加える撚りを強くするほど構造用ロッドはたわみにくくなる(しなやかさが失われる)。コンクリート構造物のたわみにコンクリート構造物内に埋め込まれた構造用ロッドが追従できないと,コンクリート構造物内において構造用ロッドの周囲に亀裂や隙間が生じ,コンクリート構造物の強度が低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は,コンクリート構造物との間の付着応力度およびたわみやすさ(弾性係数)のバランスがとられた凹凸を有するコンクリート補強筋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明による凹凸を有するコンクリート補強筋は,複数本の高強度繊維の束に樹脂を含浸させた樹脂含浸繊維束,および上記樹脂含浸繊維束の外周面に巻き付けられた被覆材を備え,上記被覆材が,複数本の糸に撚りを加えた撚線構造を備え,かつ上記樹脂含浸繊維束の外周面に巻き付けられることで断面半楕円形に変形するように緩く撚られたものであることを特徴とする。
【0007】
高強度繊維は,炭素繊維,ガラス繊維,ボロン繊維,アラミド繊維,ポリエチレン繊維,PBO(polyp-phenylenebenzobisoxazole)繊維,バサルト繊維,その他の繊維を含む。これらの繊維は非常に細く,多数本の高強度繊維を束ねることで樹脂を含浸させることができ,樹脂が含浸された高強度繊維は,受けた応力を樹脂を介して多数本の繊維に分散することができるようになるため,高強度繊維の特性を最大限に発揮することができる。
【0008】
高強度繊維に含浸される樹脂は熱硬化性樹脂でも熱可塑性樹脂でもよい。熱硬化性樹脂としては,たとえばエポキシ,不飽和ポリエステル,ビニルエステル,フェノール,シアネートエステル,ポリイミドなどが用いられる。熱可塑性樹脂としては,ポリアミド,ポリカーボネイト,ポリフェニレンスルファイド,ポリエーテルエーテルケトンなどが用いられる。
【0009】
被覆材は,複数本の糸に撚りを加えた撚線構造を持つ。被覆材を構成する糸としては,上述した高強度繊維(たとえば炭素繊維)を合わせ撚ったものを用いることもできるが,被覆材は樹脂含浸繊維束の外周面に巻き付けられて用いられるので高い引張強度は要求されず,このため上記高強度繊維と異なる素材のもの,たとえば比較的安価でありかつ比較的熱にも強い素材を採用するのが好ましい。
【0010】
上記被覆材を構成する糸として,ポリエステル糸,たとえばポリエチレンテレフタレート(PET)糸を採用することができる。アラミド糸(ポリパラフェニレンテレフタラミド糸,ポリメタフェニレンイソフタラミド糸など),ビニロン糸(ポリビニルアルコールをアセタール化したビニロン糸など)を用いてもよい。
【0011】
一実施態様では糸の弾性係数が高強度繊維の弾性係数よりも低い。剛性の増加が抑えられ,しなやかなコンクリート補強筋を得ることができる。
【0012】
樹脂含浸繊維束の外周面に巻き付けられた被覆材によって,コンクリート補強筋の外周面(表面)に凹凸が形成される。上述したように被覆材は複数本の糸に撚りを加えた撚線構造を持つので,これを樹脂含浸繊維束の外周面に巻き付けることによって樹脂含浸繊維束の外周面に凸部を形成しやすい。外周面に凹凸形状が付与されたコンクリート補強筋はコンクリート構造物内に良好に定着する。
【0013】
この発明によると,撚線構造を備える被覆材は,樹脂含浸繊維束の外周面に巻き付けられることで断面半楕円形に変形するように複数本の糸が緩く撚られたものであることを特徴とする。すなわち,被覆材は,複数本の糸に撚りを加えた撚線構造を備えるが,その撚りの程度はきつくはない。緩く撚られた被覆材は変形しやすく,樹脂含浸繊維束の外周面に巻き付けられることで樹脂含浸繊維束に接する範囲において樹脂含浸繊維束の表面形状に沿い,かつ被覆材に接しない範囲においては樹脂含浸繊維束から離れる向きに滑らかに盛り上がる断面形状(断面半楕円形)を呈する。これによって,樹脂含浸繊維束と被覆材とから構成されるコンクリート補強筋の弾性係数を確保しつつ,表面の凹凸によって,コンクリート構造物に対するコンクリート補強筋の最大付着応力度(コンクリート構造物とコンクリート補強筋との間の定着力)を向上させることができる。
【0014】
被覆材を構成する糸が強く撚られていると,樹脂含浸繊維束に被覆材を巻きつけたときに被覆材が樹脂含浸繊維束に食い込みやすくなる。被覆材の食い込みは,樹脂含浸繊維束の繊維配向(直線性)に乱れを生じさせ,コンクリート補強筋の弾性係数を低下させる。糸を緩く撚っておくことは,コンクリート補強筋の弾性係数の低下防止にも役に立つ。
【0015】
具体的には,上記糸の撚り角度は1.0~4.5°の範囲,より好ましくは1.5~4.0°の範囲が適正範囲とされる。コンクリート補強筋の弾性係数を大きく低下させず,かつ最大付着応力度を向上させることができる。
【0016】
一実施態様では,上記樹脂含浸繊維束に含浸されている樹脂が上記被覆材にも含浸されている。樹脂含浸繊維束に含浸されている樹脂を硬化させる前に被覆材を樹脂含浸繊維束に巻き付けると,樹脂含浸繊維束に含浸されている樹脂が上記被覆材にも含浸される(染み込む)。樹脂含浸繊維束に被覆材を巻き付けた後に樹脂を硬化させる(典型的には,加熱する)ことによって,被覆材を樹脂含浸繊維束の表面にしっかりと固着することができる。
【0017】
好ましくは,上記樹脂含浸繊維束の外周面に巻き付けられた被覆材同士の間に隙間が形成されている(確保されている)。コンクリート補強筋の外周面に形成される凹凸の大きさ(凸部の高さ)を最大限確保することができる。
【0018】
この発明は,複数本の上述したコンクリート補強筋を用意し,複数本のコンクリート補強筋を撚り合わせることによって作成されるコンクリート補強ケーブルも提供する。コンクリート補強ケーブルの表面には,コンクリート補強筋の外周面に形成されている凹凸に加えて,複数本のコンクリート補強筋を撚り合わせることによって形成される溝部による凹凸も生じるので,コンクリート構造物との定着効率をさらに向上させることができる。もちろん,引張強度についても,単線であるコンクリート補強筋に比べて複線であるコンクリート補強ケーブルの方が高くなるのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】コンクリート補強ケーブルの正面図である。
図2図1のII-II線に沿うコンクリート補強ケーブルの断面図である。
図3】コンクリート補強筋の製造の様子を示す斜視図である。
図4】コンクリート補強筋の縦断面図である。
図5】(A)は樹脂含浸繊維束に巻き付ける前の被覆材の横断面図を,(B)は樹脂含浸繊維束に巻き付けた後の被覆材の横断面図をそれぞれ示す。
図6】被覆材の拡大正面図である。
図7】被覆材撚り角度と,コンクリート補強筋の弾性係数および最大付着応力度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1はコンクリート構造物内に埋め込まれて用いられるコンクリート補強ケーブルの正面図を,図2は,図1のII-II線に沿うコンクリート補強ケーブルの断面図をそれぞれ示している。
【0021】
コンクリート補強ケーブル1は7本のコンクリート補強筋10から構成される。図1および図2に示すコンクリート補強ケーブル1は,1本のコンクリート補強筋10が中心に配置され,その周囲に6本のコンクリート補強筋10が撚り合わされて構成されている。断面から見るとコンクリート補強ケーブル1および7本のコンクリート補強筋10はいずれもほぼ円形の外形を持つ。
【0022】
コンクリート補強ケーブル1は,典型的にはコンクリート構造物の強度,特に引張強度を高めるためにコンクリート構造物中に埋め込まれて用いられる。コンクリート補強ケーブル1の長さおよび直径ならびに構造(コンクリート補強筋10の数,配置など)はコンクリート構造物の寸法,必要とされる強度に依存する。たとえば10~30mm程度の直径を持つ複数本のコンクリート補強ケーブル1が,所定の間隔をあけてコンクリート構造物に埋め込まれる。コンクリート補強ケーブル1が埋め込まれたコンクリート構造物は圧縮力のみならず引張り力に対しても強くなる。
【0023】
コンクリート補強ケーブル1を構成する7本のコンクリート補強筋10は,いずれも熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂(以下,樹脂22という)を含浸させた多数本の長尺の連続する炭素繊維21を断面に円形に束ねた炭素繊維強化プラスチック製の樹脂含浸繊維束(以下,線材という)20と,線材20の周囲にらせん状に巻き付けられた被覆材30とから構成される。
【0024】
線材20を構成する炭素繊維21は,たとえば5~7μmの直径の非常に細いフィラメントから構成される。樹脂22が含浸された多数本の炭素繊維21は上述したように断面円形に束ねられ,かつ一定角度で撚られながら長手方向に引き揃えられる。
【0025】
線材20の周囲に巻き付けられる被覆材30は,多数本の糸,たとえば多数本のPET繊維を合わせ撚ったPET糸を,複数本たとえば20本程度互いに撚り合わせたものである。被覆材30が線材20の外周面に巻き付けられることで線材20の外周面が被覆材30によって覆われ,線材20が保護される。また,図1に示すように,コンクリート補強筋10の外周面には線材20に巻き付けられた被覆材30によって凹凸が形成される。上述したようにコンクリート補強ケーブル1(コンクリート補強筋10)は典型的にはコンクリート構造物内に埋め込まれてコンクリート構造物の強度を高めるために用いられる。コンクリート補強筋10のそれぞれが備える外周面の凹凸,および複数本のコンクリート補強筋10を撚り合わせることによって表面に形成されるらせん状にのびる複数の溝によって,コンクリート構造物に対するコンクリート補強ケーブル1の付着応力度が高められ,コンクリート構造物からコンクリート補強ケーブル1が抜けにくくなる。
【0026】
図3はコンクリート補強筋10の製造の様子を,図4はコンクリート補強筋10の縦断面を,図5(A)は巻き付け前の被覆材30の拡大横断面を,図5(B)は巻き付け後の被覆材30の拡大横断面を,それぞれ示している。
【0027】
図3を参照して,ラッピングマシン(図示略)から2本の被覆材30および1本の線材20が繰り出される(図3および図4では,2本の被覆材30のそれぞれを符号30A,30Bで区別して示す)。2本の被覆材30A,30Bはいずれも所定間隔をあけて線材20の外周面にらせん状に巻き付けられ,線材20の外周面には2本の被覆材30A,30Bが長手方向に交互に巻き付けられる。
【0028】
図3および図5(A)を参照して,被覆材30は複数本たとえば19~20本のPET糸31を撚り合わせたもので,PET糸31のそれぞれには多数本のPET繊維32が含まれる。後述するように,被覆材30を構成するPET糸31は強くは撚り合わせられておらず,比較的緩く撚り合わされている。このため,ラッピングマシンによって被覆材30が線材20の外周面に巻き付けられると,図4図5(B)に示すように,被覆材30(複数本のPET糸31の撚線)は変形し,断面から見て外方(線材20から離れる方向)に凸状の概略半楕円形を呈する。
【0029】
被覆材30は,線材20に含浸されている樹脂22が未硬化のときに線材20の外周面に巻き付けられる(ラッピング)。このため,線材20に被覆材30が巻き付けられると,被覆材30を構成する多数本のPET糸31(PET糸31を構成する多数本のPET繊維32)に線材20に含浸されている樹脂22が染み込む(図5(A)と図5(B)を対比)。樹脂22が硬化することによって被覆材30は線材20の外周面にしっかりと固着される。線材20の外周面に被覆材30を巻き付けたコンクリート補強筋10が7本用意され,そのうちの1本を中心にしてその周囲に6本が撚り合わされる(クロージング)。これによりコンクリート補強ケーブル1が形成される。7本のコンクリート補強筋10のうち中心に配置される1本については,撚りが加えられていない複数本のPET糸31(たとえば複数本のPET糸31が互いに平行に配列された平坦状のもの)を線材20の外周面に巻き付けたものを用いてもよい。この場合,中心に配置される1本のコンクリート補強筋10の表面に凹凸は形成されない。
【0030】
図4を参照して,ラッピングマシンにおける線材20の繰り出し速度を調整することによって,線材20の外周面に巻き付けられる長手方向に隣り合う2本の被覆材30Aと被覆材30Bの間隔Dを変えることができる。間隔Dを調整することによって長手方向に隣り合う被覆材30A,30Bの両側部同士を重ね合わせずにまたは重ね合わせ範囲をわずかな範囲にとどめて,被覆材30A,30Bを線材20の外周面に巻き付けることができ,被覆材30A,30Bによって形成される凹凸の大きさ(凸部の高さ)を最大限確保することができる。
【0031】
上述したように,被覆材30は19~20本程度のPET糸31を撚り合わせることによって構成されている。PET糸31を強く撚り合わせた被覆材30は線材20の外周面に巻き付けられたときに形状が維持されやすく,これによってコンクリート補強筋10の表面に形成される凹凸の大きさ(凸部の高さ)をより大きくすることができる。しかしながら,同時に,PET糸31を強く撚り合わせることで線材20に巻き付けた被覆材30の形状がそのまま維持されると,被覆材30を線材20に巻き付けたときに被覆材30が線材20の表面に食い込み,線材20を構成する炭素繊維21の直線性に乱れが生じてしまう。多数本の炭素繊維21の長手方向の直線性が阻害されると,コンクリート補強筋10(コンクリート補強ケーブル1)の弾性係数が低下する。
【0032】
図6は被覆材30を模式的に表す拡大正面図である。図7は被覆材30を構成するPET糸31の撚り角度(「被覆材撚り角度」という)(横軸)と,コンクリート補強筋10の弾性係数および最大付着応力度(いずれも縦軸)との関係を示すグラフである。図7のグラフ中の複数の三角印プロットが弾性係数の測定値を,丸印プロットが最大付着応力度の測定値をそれぞれ示す。図7のグラフ中の実線は,弾性係数の測定結果(三角印プロット)に基づく被覆材撚り角度αとコンクリート補強筋10の弾性係数との関係を表す近似曲線を示している。図7のグラフ中の破線は,最大付着応力度の測定結果(丸印プロット)に基づく被覆材撚り角度αとコンクリート補強筋10の最大付着応力度との関係を表す近似曲線を示している。弾性係数はJIS A1192:2005(コンクリート用連続繊維補強材の引張試験方法)にしたがって測定した(単位はGPa)。最大付着応力度は公益社団法人土木学会において定められたJSCE-E539(引抜き試験による連続繊維補強材とコンクリートとの付着強度試験方法)にしたがって測定した(単位はN/mm)。
【0033】
図6を参照して,被覆材撚り角度αは,被覆材30の長手方向と撚られたPET糸31とのなす角度である。たとえば,直径が0.375mmである20本のPET糸31について1mあたり27回の撚りを加えると,約1.9°の撚り角度によって20本のPET糸31は撚られることになる。図7には,被覆材撚り角度αを変数として,被覆材撚り角度αを0°~5.4°の範囲で様々に異ならせた複数種類のコンクリート補強筋10を作成し,そのそれぞれについての弾性係数および最大付着応力度の測定結果が示されている。
【0034】
図7を参照して,被覆材撚り角度α=0.0°は複数本のPET糸31を全く撚らずに線材20の外周面に巻き付けたことを意味する。複数本のPET糸31を全く撚らずに線材20に巻き付けたコンクリート補強筋10の弾性係数は比較的大きい(約170Gpa)。他方において被覆材撚り角度α=0.0としたコンクリート補強筋10は最大付着応力度が小さい(約4.5N/mm)。これは全く撚られないままの複数本のPET糸31を線材20に巻き付けると,線材20の外周面にPET糸31がほぼ均一厚さで被覆されることになり,表面に凹凸がほとんど形成されないからである。
【0035】
図7を参照して,被覆材撚り角度αを大きくすればするほど,すなわち複数本のPET糸31を強く撚れば撚るほど,弾性係数(実線)は低下し,他方において最大付着応力度(破線)は増加する。図7から明らかなように,弾性係数と最大付着応力度は一方を大きくすると他方が小さくなる関係を持つ。1.0~4.5°,好ましくは1.5~4.0°の被覆材撚り角度αを採用することによって,弾性係数をさほど低下させずかつ最大付着応力度が向上した,すなわち弾性係数と最大付着応力度のバランスに優れたコンクリート補強筋10を提供することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 コンクリート補強ケーブル
10 コンクリート補強筋
20 線材(樹脂含浸繊維束)
21 炭素繊維
22 樹脂
30,30A,30B 被覆材
31 PET糸
32 PET繊維
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7