(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】マイクロ波の特性を評価する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 22/00 20060101AFI20230823BHJP
【FI】
G01N22/00 Y
G01N22/00 Z
(21)【出願番号】P 2021209124
(22)【出願日】2021-12-23
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】514173696
【氏名又は名称】國家中山科學研究院
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】林嘉鼎
(72)【発明者】
【氏名】郭養國
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0088060(US,A1)
【文献】特開2003-329624(JP,A)
【文献】Chunqing Lu,Optimizing Ply Pattern and Composition of Layered Composites based on Cyanate Ester, Carbon Nanotube, and Boron Nitride: Toward Ultralow Dielectric Loss and High Energy Storage,J.Phys.Chem.C,2018年,Vol.122,pp.5238-5247
【文献】炭親良,電気導電率・誘電率・熱伝導率・熱拡散率の計測・可視化技法,可視化情報,2002年,Vol.22 Suppl. No.1,pp.149-152
【文献】李伏桃,PbO-SiO2系ガラスの熱伝導率,熱拡散率および比熱の温度依存性と組成依存性,日本金属学会誌,1991年,Vol.55 No.2,pp.194-203
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 22/00-22/04
G01N 25/00-25/72
G01R 27/26
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波の特性を評価する方法であって、
(A)少なくとも3つの
第1サンプルの熱拡散特性とマイクロ波特性を測定して、3つ以上のデータポイントを取得し、そのうち前記
少なくとも3つの第1サンプルが同一の組成成分で構成されるが、異なる組成割合を有する工程と、
(B)線形回帰方式で前記データポイント間の数学関係式を取得する工程と、
(C)
第2サンプルである被測定サンプルの熱拡散特性を測定し、そのうち前記被測定サンプルと前記
少なくとも3つの第1サンプルが同一の組成成分で構成される工程と、
(D)前記被測定サンプルの熱拡散特性を前記数学関係式に導入し、前記被測定サンプルのマイクロ波特性を評価する工程と、
を含むことを特徴とする、マイクロ波の特性を評価する方法。
【請求項2】
前記マイクロ波特性が、誘電損失(Dielectric Loss; Df)である、ことを特徴とする、請求項1に記載のマイクロ波の特性を評価する方法。
【請求項3】
前記熱拡散特性が、温度拡散係数(thermal diffusivity)である、ことを特徴とする、請求項1に記載のマイクロ波の特性を評価する方法。
【請求項4】
前記温度拡散係数が、熱流計法(Heat Flow Method, HFM)、熱線法(Hot Wire Method, HWM)、熱板法(Hot Plate Method, HPM)、熱流束計法(Heat Flux Method, HFM)、非定常平面熱源法(Transient Plane Source, TPS)、またはレーザーフラッシュ法(Laser Flash Method, LFM)により測定される、ことを特徴とする、請求項3に記載のマイクロ波の特性を評価する方法。
【請求項5】
前記
少なくとも3つの第1サンプル及び前記被測定サンプルがセラミック材料である、ことを特徴とする、請求項1に記載のマイクロ波の特性を評価する方法。
【請求項6】
前記
少なくとも3つの第1サンプル及び前記被測定サンプルが、Ba-Nb-W-O系、Ba-Cu-Sr-Si-O系またはBaO-MO-SiO
2系の材料系から選択して構成され、そのうち、MがMg、Zn、Co、Ni、MnまたはCuである、ことを特徴とする、請求項5に記載のマイクロ波の特性を評価する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ波の特性を評価する方法に関し、特に、線形回帰方式を応用したマイクロ波の特性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波は、通信アプリケーションにおいて重要な役割を果たしており、現在マイクロ波集積回路の新しい発展トレンドは、高速かつ小型のマルチチップモジュール(Multi-chip module)の製造であるが、このマルチチップモジュールでは、低誘電損失(dielectric loss, tanδ)・低誘電率(Dielectric constant)の誘電体(Dielectrics)を見つけて基板(Substrate)とする必要がある。低誘電損失の基板材料は、新世代のマイクロ波アンテナ及び通信フィルターにも不可欠である。上述のような新しい開発や、一般的なマイクロ波部品の設計では、マイクロ波回路薄膜の基板や誘電体共振器の基本材料として、さまざまな誘電材料を使用する必要がある。材料の選択は、その誘電特性に基づいて行われる。このため、マイクロ波の周波数における誘電材料の誘電特性は、マイクロ波部品の設計において誘電材料を選択する際の重要な考慮要素となる。マイクロ波誘電特性の測定技術は、材料の選択及び新素材の発展において、その重要性が明らかになっている。このため、マイクロ波誘電特性の測定技術に対する研究が必要である。
【0003】
平行平板共振法(Parallel Plate Resonance Technique)は、誘電率と誘電損失を同時に測定でき、周波数スキャンの機能を備えている(同一サンプルで約3GHzの周波数範囲を測定可能)という利点があるが、測定誤差に放射損失が影響するため、その誘電損失の最小測定値を1×10-5未満にすることができない。TE空洞摂動法(TE Cavity Perturbation Technique)は、既存のどの技術よりも必要なサンプルサイズが他の方法よりもずっと小さいことにあり、断面積が約1mm2の円形または矩形の柱状サンプルが1本あればよい。特に繊維(fiber)状に長く成長させた単結晶など、大きなサイズのサンプル製造が難しい材料の測定には非常に魅力的である。また、測定操作が簡単で、測定結果から誘電特性を算出する過程が非常にシンプルであることも採用したくなる理由であるが、その誘電損失の最小測定値はやはり1×10-5未満にすることができない。
【0004】
現在通信周波数など関連設備では非常に多くのマイクロ波材料の評価が必要とされており、この膨大な作業量の中で、マイクロ波特性の測定には相当程度の需要があるが、多くのマイクロ波測定システムにおいて、サンプルに対する要求はいずれも非常に厳格であり、同時測定システムは非常に高額でもあるため、マイクロ波材料の高速スクリーニング法が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
3G、4G、5Gの通信システムの急速な発展に伴い、材料設計における新しいマイクロ波材料の需要は高まり続けている。しかし、結晶性セラミックスやガラス材料の選択など、マイクロ波材料を設計するための完全な理論的基礎はまだ不足しているものの、現在までの蓄積ですでにかなりの研究文献の基礎が存在する。最大の問題は、マイクロ波特性測定システムの開発がまだまだ追いついていないことである。
【0006】
上述の問題を解決するため、本発明の目的は、線形回帰方式を応用したマイクロ波の特性を評価する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のマイクロ波の特性を評価する方法は、(A)少なくとも3つのモードのサンプルの熱拡散特性とマイクロ波特性を測定して、3つ以上のデータポイントを取得し、そのうち前記モードのサンプルが同一の組成成分で構成されるが、異なる組成割合を有する工程と、
(B)線形回帰方式で前記データポイント間の数学関係式を取得する工程と、
(C)被測定サンプルの熱拡散特性を測定し、そのうち前記被測定サンプルと前記モードのサンプルが同一の組成成分で構成される工程と、
(D)前記被測定サンプルの熱拡散特性を前記数学関係式に導入し、前記被測定サンプルのマイクロ波特性を評価する工程と、を含む。
【0008】
上述の方法において、当該マイクロ波特性は誘電損失(Dilectric Loss; Df)とすることができる。
【0009】
上述の方法において、当該熱拡散特性は温度拡散係数(thermal diffusivity)とすることができる。
【0010】
上述の方法において、当該温度拡散係数は、熱流計法(Heat Flow Method, HFM)、熱線法(Hot Wire Method, HWM)、熱板法(Hot Plate Method, HPM)、熱流束計法(Heat Flux Method, HFM)、非定常平面熱源法(Transient Plane Source, TPS)、またはレーザーフラッシュ法(Laser Flash Method, LFM)により測定することができる。
【0011】
上述の方法において、当該モードのサンプル及び当該被測定サンプルはセラミック材料とすることができる。
【0012】
上述の方法において、当該モードのサンプル及び当該被測定サンプルは、Ba-Nb-W-O系、Ba-Cu-Sr-Si-O系またはBaO-MO-SiO2系の材料系から選択して構成され、そのうちMはMg、Zn、Co、Ni、MnまたはCuとすることができる。
【0013】
熱拡散測定方式は通常、熱流計法(Heat Flow Method;HFM);熱線法(Hot Wire Method;HWM);熱板法(Hot Plate Method;HPM);熱流束計法(Heat Flux Method;HFM);非定常平面熱源法(Transient Plane Source;TPS);レーザーフラッシュ法(Laser Flash Method;LFM)が採用される。以上の方法もセラミック材料の熱伝導値を迅速に測定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は1つの低誘電性絶縁保護セラミック基板材料により、マイクロ波特性と熱伝導特性の間の関連性を評価することで、マイクロ波セラミック誘電損失特性を評価する方法を開発した。低誘電性絶縁材料は高出力部品回路の信号干渉の問題を改善し、同時に絶縁や保護機能を強化することができ、マイクロ波セラミック基板材料の開発は、現今の5Gに対する需要に応えることが期待されている。
【0015】
本発明は、セラミック材料の熱拡散とマイクロ波誘電損失特性が同じメカニズムを持つ部分を利用して、マイクロ波特性を迅速かつ便利に測定することができる。セラミック材料の熱拡散と誘電損失が線形従属の数学的関係を有することを利用して、マイクロ波特性における誘電損失の測定に代わり熱拡散の測定を採用することで、マイクロ波材料を迅速にスクリーニングすることができる。
【0016】
本発明は、同一材料系の相互間のマイクロ波の相対的な特性を短時間で判断でき、材料のマイクロ波誘電損失特性の検証に非常に役立つ、材料の誘電損失を評価する方法を提案するものである。
【0017】
材料の特性試験において、マイクロ波特性は、微細構造(特に気孔率)だけでなく、結晶中の点欠陥(point defect)にも影響を受ける。セラミックの熱拡散も結晶中の点欠陥の影響を受けるため、本発明は、熱拡散の測定により、マイクロ波セラミックスの誘電損失特性を取得する評価方法を提供し、マイクロ波セラミックスの選択と評価に近道を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施例1のマイクロ波の特性を評価する方法のフローチャートである。
【
図2】本発明の実施例1のマイクロ波の特性を評価する方法の数学関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、特定の具体的な実施例を挙げて本発明の実施方法を説明する。この技術分野を熟知した者であれば本明細書に開示された内容から本発明のその他利点と効果を理解できるであろう。本発明はその他の異なる具体的な実施例により施行または応用することもでき、本明細書中の各細部も異なる観点と応用に基づいて、本発明の要旨を逸脱することなく、各種の修飾及び変更が可能である。
【0020】
高周波高速回路では、材料の電気的特性が信号の伝搬速度や減衰、素子のサイズと密接に関係している。このため、マイクロ波特性を高速測定でき、同時に手作業、設備、サンプル作成のコストを抑える方法が必要とされている。本発明は、熱拡散特性とマイクロ波誘電損失特性の相関連性を利用して数学関係式を構築し、この数学関係式と熱拡散特性の実測データに基づき、同一材料系の異なる割合で構成された材料のマイクロ波誘電損失特性を推定することができるようにした。この方法により、マイクロ波誘電損失特性を測定するためのコストを削減することができる。
【実施例1】
【0021】
図1は本発明の実施例1のマイクロ波の特性を評価する方法のフローチャートである。
図1に示すように、本発明のマイクロ波の特性を評価する方法は、(A)少なくとも3つのモードのサンプルの熱拡散特性とマイクロ波特性を測定して、3つ以上のデータポイントを取得し、そのうち前記モードのサンプルが同一の組成成分で構成されるが、異なる組成割合を有する工程と、(B)線形回帰方式で前記データポイント間の数学関係式を取得する工程と、(C)被測定サンプルの熱拡散特性を測定し、そのうち前記被測定サンプルと前記モードのサンプルが同一の組成成分で構成される工程と、(D)前記被測定サンプルの熱拡散特性を前記数学関係式に導入し、前記被測定サンプルのマイクロ波特性を評価する工程と、を含む。
【0022】
図2は本発明の実施例1のマイクロ波の特性を評価する方法の数学関係図である。
図2に示すように、実施例1のマイクロ波の特性を評価する方法は、4つのモードのサンプルの熱拡散特性とマイクロ波特性を測定して、4つのデータポイントを取得し、そのうち当該モードのサンプルが同一の組成成分で構成されるが、異なる組成割合を有する。当該データポイントの数値を以下の表1に示す。実施例1で測定した熱拡散特性とマイクロ波特性はそれぞれ温度拡散係数(thermal diffusivity)と誘電損失(dielectric loss)であるが、本発明はこれに限定されない。
【0023】
【0024】
線形回帰方式で上述の4つのデータポイント間の数学関係式y(誘電損失(dielectric loss))=-0.0027x(温度拡散係数(mm2/s))+0.0038が得られる。実施例1で取得したデータポイントの数は一例であり、本発明はこれに限定されないことを理解すべきである。その他の実施形態において、3つ、5つ、またはより多くのデータポイントを取得してもよい。
【0025】
その後、被測定サンプルの熱拡散係数を測定する。そのうち当該被測定サンプルと前記モードのサンプルが同一の組成成分で構成される。その後、前記被測定サンプルの熱拡散係数を当該数学関係式に導入し、当該被測定サンプルの誘電損失(dielectric loss)を見積もり、これにより当該被測定サンプルのマイクロ波特性を評価する。例えば、ある被測定サンプルで測定された温度拡散係数が1.15である場合、上述の数学関係式y (誘電損失(dielectric loss))=-0.0027x(温度拡散係数(mm2/s)+0.0038により、当該被測定サンプルの誘電損失(dielectric loss)は0.000695と見積もることができる。
【0026】
実施例1の当該モードのサンプル及び当該被測定サンプルはセラミック材料とすることができ、かつBa-Nb-W-O系、Ba-Cu-Sr-Si-O系またはBaO-MO-SiO2系の材料系から選択して構成でき、そのうちMはMg、Zn、Co、Ni、MnまたはCuであるが、本発明はこれに限定されない。
【0027】
上述のように、本発明のマイクロ波の特性を評価する方法は、同一材料系のマイクロ波特性を何度も測定する必要性を回避し、少なくとも3つのモードのサンプルに対してその熱拡散特性(例:温度拡散係数)とマイクロ波特性(例:誘電損失)を測定すれば、数学関係式と測定された熱拡散特性のデータを利用して異なる成分割合の被測定サンプルのマイクロ波特性を迅速に評価することができ、これにより当該被測定サンプルのマイクロ波特性を予備的に評価することで、測定コストを大幅に下げることができる。
【0028】
上述の実施例は例示的に本発明の製法を説明したのみであり、本発明を限定するものではない。関連技術を熟知する者であれば本発明の要旨と範疇を逸脱せずに、上述の実施例に対して修飾と変更が可能であろう。このため、本発明の権利保護範囲は、後述の実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりである。
【符号の説明】
【0029】
S101 工程
S102 工程
S103 工程
S104 工程