(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】合金コーティング鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 28/02 20060101AFI20230823BHJP
C23C 2/12 20060101ALI20230823BHJP
C23C 14/58 20060101ALI20230823BHJP
C23C 14/16 20060101ALI20230823BHJP
C23C 2/26 20060101ALI20230823BHJP
C23C 2/28 20060101ALI20230823BHJP
C23C 14/02 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
C23C28/02
C23C2/12
C23C14/58 A
C23C14/16 A
C23C2/26
C23C2/28
C23C14/02 Z
(21)【出願番号】P 2021534754
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(86)【国際出願番号】 KR2019018027
(87)【国際公開番号】W WO2020130640
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-07-21
(31)【優先権主張番号】10-2018-0164394
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(73)【特許権者】
【識別番号】592000705
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート オブ インダストリアル サイエンス アンド テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、 ジ フン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、 ジェ イン
(72)【発明者】
【氏名】イ、 キョン ファン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、 ヨン ファ
(72)【発明者】
【氏名】キム テ ヨブ
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-115247(JP,A)
【文献】特開平01-139755(JP,A)
【文献】特表2019-506525(JP,A)
【文献】特表2020-509218(JP,A)
【文献】国際公開第2018/124629(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/111561(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 26/00-30/00
C23C 2/00-2/40
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板;および
前記鋼板上に位置するAl-Mg-Si-Zn合金層;を含み、
前記Al-Mg-Si-Zn合金層は、Mg-Zn合金相を含み、
前記Al-Mg-Si-Zn合金層は、全体100重量%に対して、Al:40~80重量%、Mg:15~30重量%、Si:1~10重量%、Zn:1~20重量%であり、
前記Mg-Zn合金相は、
MgZn
2およびMg
2Zn
11を含み、
MgZn、Mg
21Zn
25、Mg
51Zn
20およびMg
2Zn
3のうちの1種以上をさらに含む合金コーティング鋼板。
【請求項2】
前記Al-Mg-Si-Zn合金層は、
Al-Mg合金相およびMg-Si合金相のうちの1種以上をさらに含む、請求項1に記載の合金コーティング鋼板。
【請求項3】
前記Al-Mg合金相は、
Al
3Mg
2およびAl
12Mg
17のうちの1種以上を含む、請求項
2に記載の合金コーティング鋼板。
【請求項4】
前記Mg-Si合金相は、
Mg
2Siを含む、請求項
2に記載の合金コーティング鋼板。
【請求項5】
前記鋼板および前記Al-Mg-Si-Zn合金層の間に位置するAl-Fe-Si合金層;をさらに含む、請求項1に記載の合金コーティング鋼板。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の合金コーティング鋼板の製造方法であって、
AlおよびSiを含むメッキ層が形成されたメッキ鋼板を用意する用意段階;
前記メッキ層上にMgからなるMgコーティング層を形成させる第1コーティング段階;
前記Mgコーティング層上にZnからなるZnコーティング層を形成させる第2コーティング段階;および
前記Mgコーティング層およびZnコーティング層が形成されたメッキ鋼板を熱処理して前記Mgおよび前記Znを前記メッキ層に拡散させる熱処理段階;を含み、
前記第1コーティング段階および前記第2コーティング段階において、
物理気相蒸着(PVD)を用いて前記Mgコーティング層および前記Znコーティング層を形成させる、合金コーティング鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記用意段階において、
前記メッキ鋼板は、溶融アルミニウムメッキ鋼板である、請求項
6に記載の合金コーティング鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理段階において、
300~450℃の温度で熱処理する、請求項
6に記載の合金コーティング鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理段階において、
5~600秒間熱処理する、請求項
6に記載の合金コーティング鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金コーティング鋼板およびその製造方法に関する。より具体的には、耐食性と犠牲防食性を向上させることができる合金コーティング鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄は豊富な資源と優れた特性により産業的に最も多く用いられる金属である。鉄は多くの利点があるにもかかわらず、酸素または水と電気化学的な反応を起こして鉄イオンが溶出する腐食が発生して性能が低下するという欠点がある。鉄の腐食で発生するサビは多様な化学量論の酸化物および水酸化物からなり、時間経過とともに持続的に酸化が起こるのが鉄の特徴の一つである。鉄は様々な形態に加工して使用されるが、自動車や建材および家電製品の場合、冷間圧延された鋼板、つまり、冷延鋼板が主に用いられている。
【0003】
鋼板の腐食を防止するための方法として代表的なのが、鋼板の表面に他の金属をメッキすることである。メッキ被膜の種類は、犠牲防食型被膜と遮断防食型被膜とに分けられる。犠牲防食型被膜は、亜鉛やマグネシウム、アルミニウムなどのように鉄より酸化が容易で、サビが発生しやすい金属を被覆するもので、被覆した金属が優先的に腐食して鋼板を保護する。遮断防食型被膜は、鉛やスズなど腐食しない金属で鉄を被覆して水と酸素が鉄に到達しないように遮断するものである。
【0004】
現在、鋼板の腐食を防止するために最も幅広く使用される方法は亜鉛メッキである。亜鉛メッキ鋼板が開発されて以降、耐食性向上のための多様な努力が進められてきたが、その一つが亜鉛合金を被覆することである。合金を用いた高耐食性物質系としては、Zn-Al、Zn-Ni、Zn-Fe、Zn-Al-Mgなどがある。このような亜鉛または亜鉛合金メッキ鋼板は、自動車をはじめとして建材および家電製品に幅広く用いられている。
【0005】
アルミニウムも鋼板の腐食防止用に使用されているが、アルミニウムは、亜鉛とは異なり、その応用分野がさらに多様である。アルミニウム被膜は色が美しく耐食性および耐熱性に優れていて、化粧品ケースやアクセサリーなどの装飾用被膜はもちろん、半導体の導電膜、磁性材料や鋼板の保護被膜、温熱系統の家電製品、自動車用マフラなどに用いられている。
【0006】
アルミニウム被膜は、真空コーティングや電気メッキまたは溶融メッキ方法を利用して製造する。しかし、電気メッキの場合は、その効率が低くて生産性に劣るため、大部分溶融メッキ法と真空コーティング方法を用いている。
【0007】
アルミニウムメッキ鋼板は、耐食性に優れているのに対し、被膜に欠陥が発生すると、その部位で集中的に腐食が発生するという欠点があるが、これは、アルミニウムが亜鉛に比べて犠牲防食性に劣るからである。したがって、溶融アルミニウムメッキ鋼板の場合、厚さを15μm以上に厚くしてこれを克服している。溶融アルミニウムメッキ鋼板は、また、高温で工程が行われるので、界面にAl-Fe合金が作られて加工性が低下するという欠点がある。
【0008】
真空コーティングを用いたアルミニウム被膜は、大部分の用途では厚さを薄くして応用されており、耐食性コーティングにおいても数ミクロン程度の厚さにコーティングすることが一般的である。
【0009】
アルミニウム被膜の場合、厚さが数ミクロン以下になると、塩水噴霧試験において、72時間程度で赤サビが発生する。したがって、アルミニウムを耐食性コーティングで鋼板に適用するためには特性の向上が必要である。また、亜鉛に比べて犠牲防食特性に劣るため、一度赤サビが発生すると、短時間に表面全体に拡散するという欠点がある。このため、上記の問題を解決するための研究が急務であるのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
耐食性と犠牲防食性を向上させることができる合金コーティング鋼板およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態による合金コーティング鋼板は、鋼板;および前記鋼板上に位置するAl-Mg-Si-Zn合金層;を含み、前記Al-Mg-Si-Zn合金層は、Mg-Zn合金相を含み、前記Mg-Zn合金相は、MgZn2およびMg2Zn11を含み、MgZn、Mg21Zn25、Mg51Zn20およびMg2Zn3のうちの1種以上をさらに含む。
【0012】
前記Al-Mg-Si-Zn合金層は、Al-Mg合金相およびMg-Si合金相のうちの1種以上をさらに含むことができる。
【0013】
前記Al-Mg-Si-Zn合金層は、全体100重量%に対して、1~45重量%のZnを含むことができる。
【0014】
前記Al-Mg-Si-Zn合金層は、全体100重量%に対して、5~30重量%のMgを含むことができる。
【0015】
前記Al-Mg-Si-Zn合金層は、Al-Mg合金相およびMg-Si合金相のうちの1種以上をさらに含むことができる。
【0016】
前記Al-Mg合金相は、Al3Mg2およびAl12Mg17のうちの1種以上を含むことができる。
【0017】
前記Mg-Si合金相は、Mg2Siを含むことができる。
【0018】
前記鋼板および前記Al-Mg-Si-Zn合金層の間に位置するAl-Fe-Si合金層;をさらに含むことができる。
【0019】
本発明の一実施形態による合金コーティング鋼板の製造方法は、AlおよびSiを含むメッキ層が形成されたメッキ鋼板を用意する用意段階;前記メッキ層上にMgが含まれているMgコーティング層を形成させる第1コーティング段階;前記Mgコーティング層上にZnが含まれているZnコーティング層を形成させる第2コーティング段階;および前記Mgコーティング層およびZnコーティング層が形成されたメッキ鋼板を熱処理して前記Mgおよび前記Znを前記メッキ層に拡散させる熱処理段階;を含む。
【0020】
前記用意段階において、前記メッキ鋼板は、溶融アルミニウムメッキ鋼板であってもよい。
【0021】
前記第1コーティング段階および前記第2コーティング段階において、物理気相蒸着(PVD)を用いて前記Mgコーティング層および前記Znコーティング層を形成させることができる。
【0022】
前記熱処理段階において、300~450℃の温度で熱処理することができる。
【0023】
前記熱処理段階において、5~600秒間熱処理することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一実施形態による合金コーティング鋼板およびその製造方法によれば、Mg-Zn合金相が含まれているAl-Mg-Si-Zn合金層を形成して耐食性と犠牲防食性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】合金コーティング鋼板の製造に使用できる連続コーティング装置の概略模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態による合金コーティング鋼板の断面模式図である。
【
図3】本発明の一実施例による合金コーティング鋼板のグロー放電分光分析の結果である。
図3(a)はZn含有量が1.2重量%、
図3(b)はZn含有量が2.6重量%、
図3(c)はZn含有量が7.9重量%であるコーティング鋼板のグロー放電分光分析の結果である。
【
図4】本発明の一実施例による合金コーティング鋼板のX線回折分析の結果である。
【
図5】本発明の実施例1および比較例1の合金コーティング鋼板の塩水噴霧試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
第1、第2および第3などの用語は、多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを、他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下に述べる第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及されてもよい。
【0027】
ここで使用される専門用語は単に特定の実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は、文章がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数形態も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるわけではない。
【0028】
ある部分が他の部分の「上に」あると言及する場合、これはまさに他の部分の上にあるか、その間に他の部分が伴ってもよい。対照的に、ある部分が他の部分の「真上に」あると言及する場合、その間に他の部分が介在しない。
【0029】
他に定義しないが、ここに使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。
【0030】
通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味で解釈されない。
【0031】
以下、本発明の実施形態について、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳しく説明する。しかし、本発明は種々の異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0032】
近年、溶融アルミニウムメッキ鋼板が有する問題点を解決するために、シリコンが含有された溶融アルミニウムメッキ鋼板にマグネシウムを添加して耐食性とともに犠牲防食性を向上させようとする研究が進められている。
【0033】
一例として、溶融メッキとしてAl-Mg-Siメッキ鋼板を製造して耐食性に優れたコーティング鋼板を製造しようとする研究がある。しかし、溶融メッキ方式で製造する場合、Mg含有量の制御に限界があり、20g/m2以下の薄メッキの場合、耐食性が急激に低下するという欠点がある。また、Mg2Si合金相が耐食性向上の役割を果たすことが知られているが、この場合、Mgが6%前後の狭い範囲でのみ特性が向上する問題がある。
【0034】
Al-Mg-Siメッキ鋼板は、Mg2Si相がメッキ層に形成されて優れた耐食性を有することが知られている。Mg2Si相は、メッキ層内に面積比で0.5%以上、および30%以下、Mg2Si相の長径は10μm以下のとき、Al-Mg-Siメッキ鋼板の耐食性が向上することが報告された。しかし、溶融メッキ方法で製作されるAl-Mg-Siメッキ鋼板は、製作工程上、Mg含有量の調節に限界があるため、一定の含有量以上のMg含有量(約15%以上)を有するAl-Mg-Siメッキ鋼板を製作することが容易ではない。Al-Mg-Siメッキ鋼板のMg含有量の限界と高い工程温度により、金属間化合物であるMg2Si相以外のAl3Mg2相またはAl12Mg17相は、Al-Mg-Si合金層内で形成されることが困難である。
【0035】
他の例として、アルミニウムがコーティングされた基板を、真空中で350℃以上、および500℃以下に加熱した状態で、Mgを蒸着してAl-Mg合金層を形成する方法と、溶融アルミニウムメッキ鋼板に物理気相蒸着でMgをコーティングした後に熱処理する方法に関する研究がある。しかし、これらの方法は、真空中で高温に加熱された基板にMgを蒸着するので、蒸気の損失が発生することがあり、Al-Mg-Si層については金属間化合物の生成または金属間化合物による特性変化の資料を提示していない。
【0036】
上述した溶融アルミニウムメッキ鋼板が有する問題点および、Al-Mg合金鋼板の問題点を解決するために、物理気相蒸着を用いて溶融アルミニウム鋼板上にMgをコーティングし、拡散熱処理を施してMg含有量は高めかつメッキ層に金属間化合物を形成して犠牲防食性が向上したAl-Mg-Siコーティング鋼板が開発された。開発されたコーティング鋼板は、Mgを溶融アルミニウムメッキ鋼板上に物理気相蒸着方法でコーティングするため、Al-Mg-Siコーティング層のMg含有量の制御に限界がなく、多様なコーティング層の構造を製作することが可能である。シリコンが含有された溶融アルミニウムメッキ鋼板にMgを蒸着し、熱処理により合金被膜を形成して犠牲防食性を付与すると同時に、薄い厚さでも高耐食性特性を有する合金コーティング鋼板を提供する。
【0037】
本発明は、Al-Mg-Siコーティング鋼板にZnを添加して耐食性が向上した高耐食鋼板およびその製造方法を提供する。具体的には、Al、およびSiを含むメッキ層を含むアルミニウムメッキ鋼板上に、Mg、およびZnを物理気相蒸着でコーティングし、拡散熱処理を施すことによって、メッキ層内に金属間化合物と固溶したMg、およびZnが存在してコーティング鋼板の耐食性と犠牲防食性を向上させることができる。
【0038】
合金コーティング鋼板の製造方法
本発明の一実施形態による合金コーティング鋼板の製造方法は、AlおよびSiを含むメッキ層が形成されたメッキ鋼板を用意する用意段階と、メッキ層上にMgが含まれているMgコーティング層を形成させる第1コーティング段階と、Mgコーティング層上にZnが含まれているZnコーティング層を形成させる第2コーティング段階と、Mgコーティング層およびZnコーティング層が形成されたメッキ鋼板を熱処理してMgおよびZnをメッキ層に拡散させる熱処理段階とを含む。
【0039】
まず、用意段階では、AlおよびSiを含むメッキ層が形成されたメッキ鋼板を用意する。メッキ鋼板は、溶融アルミニウムメッキ鋼板であってもよい。具体的には、メッキ層は、全体100重量%に対して、88~90重量%のAl、8~10重量%のSiおよび5重量%以下のFeを含むことができる。
【0040】
メッキ層は、鋼板上に形成されたAl-Fe-Si合金層およびAl-Fe-Si合金層上に形成されたAl-Si層を含むことができる。Al-Fe-Si合金層は、メッキ鋼板の製造時、メッキ鋼板のFeがメッキ層に拡散して形成されたものであってもよい。
【0041】
次に、第1コーティング段階では、メッキ層上にMgが含まれているMgコーティング層を形成させる。このとき、Mgのコーティングは、物理気相蒸着(PVD)で行われるものであってもよい。具体的には、電磁浮上物理気相蒸着(EML-PVD)で行われるものであってもよい。ただし、これに限定するものではなく、電子ビーム蒸発装置、熱蒸発装置、スパッタリングソース、陰極アークソースなどの物理的な方法でMgの蒸着が可能であれば、多様な方法を採用してMgをコーティングすることができる。
【0042】
次に、第2コーティング段階では、Mgコーティング層上にZnが含まれているZnコーティング層を形成させる。このとき、Znのコーティングは、物理気相蒸着(PVD)で行われるものであってもよい。具体的には、電磁浮上物理気相蒸着(EML-PVD)で行われるものであってもよい。ただし、これに限定するものではなく、電子ビーム蒸発装置、熱蒸発装置、スパッタリングソース、陰極アークソースなどの物理的な方法でZnの蒸着が可能であれば、多様な方法を採用してZnをコーティングすることができる。
【0043】
次に、熱処理段階では、Mgコーティング層およびZnコーティング層が形成されたメッキ鋼板を熱処理してMgおよびZnをメッキ層に拡散させる。誘導加熱装置を用いて熱処理することができる。ただし、これに限定するものではなく、適切な他の熱処理手段を採用することができる。
【0044】
具体的には、300~450℃の温度で熱処理することができ、5~600秒間熱処理することができる。
【0045】
熱処理によりMgおよびZnをメッキ層に拡散させることによって熱処理後、Al-Mg-Si-Zn合金層が形成される。Al-Mg-Si-Zn合金層は、Mg-Zn合金相を含み、Al-Mg合金相およびMg-Si合金相のうちの1種以上をさらに含むことができる。
【0046】
Mg-Zn合金相は、MgZn2およびMg2Zn11を含み、MgZn、Mg21Zn25、Mg51Zn20およびMg2Zn3のうちの1種以上をさらに含む。
【0047】
Al、Mg、SiおよびZnが含まれているメッキ浴に鋼板を浸漬させて溶融メッキを実施するのではなく、メッキ鋼板上にMgコーティング層およびZnコーティング層を蒸着させた後に熱処理する方式で製造するため、Mg-Zn合金相の中で安定した形態のMgZn2およびMg2Zn11はもちろんのこと、比較的不安定な相であるMgZn、Mg21Zn25、Mg51Zn20およびMg2Zn3のうちの1種以上をさらに含むのである。
【0048】
その他、Al-Mg合金相は、Al3Mg2およびAl12Mg17のうちの1種以上を含むことができ、Mg-Si合金相は、Mg2Siを含むことができる。
【0049】
図1は、合金コーティング鋼板の製造に使用できる連続コーティング装置の模式図である。ただし、これは、本発明の一実施形態による例示に過ぎず、これに限定するものではない。
【0050】
図1に開示された装置は、大気中で溶融アルミニウムメッキ鋼板17を供給する鋼板供給装置11と、真空中で鋼板を前処理できる逆マグネトロンスパッタリングソース(Inverse Magnetron Source)12と、前処理後に、MgおよびZnをコーティングする物理気相蒸着(physical vapor deposition:PVD)装置13と、大気中に排出された鋼板を熱処理できる誘導加熱装置14と、熱処理されたコーティング鋼板を再び巻き戻す鋼板排出装置15とから構成されている。
【0051】
物理気相蒸着装置13は、電磁浮上(electromagnetic levitation;EML)ソースであってもよい。逆マグネトロンスパッタリングソース12と物理気相蒸着装置13は、真空容器16内に設けられて運用される。
【0052】
まず、溶融アルミニウムメッキ鋼板17を用意し、メッキ鋼板の表面上についている防錆油のような残留オイルを除去するためにアルカリ脱脂を実施できる。
【0053】
以後、メッキ鋼板を鋼板供給装置11により移送させながら真空容器16に供給する。この後、真空容器16内に設けられた逆マグネトロンスパッタリングソース12に電力を印加してメッキ鋼板の表面清浄を実施できる。
【0054】
清浄を完了した後、続いて、メッキ鋼板を移送させながら真空容器16内に設けられた電磁浮上ソース13によりメッキ層上にMgおよびZnを真空コーティングすることができる。MgおよびZnコーティングは、2層形態と同時コーティングによって形成される。
【0055】
コーティングが完了した後、続いて、メッキ鋼板を移送させて大気中に排出した後、大気中で誘導加熱装置14を用いて一定の温度および時間で熱処理することができる。熱処理が完了した後、続いて、鋼板を移送させて製造された合金コーティング鋼板を得ることができる。
【0056】
合金コーティング鋼板
本発明の一実施形態による合金コーティング鋼板は、
図2を参照するとき、鋼板および鋼板上に位置するAl-Mg-Si-Zn合金層を含み、Al-Mg-Si-Zn合金層は、Mg-Zn合金相を含み、Mg-Zn合金相は、MgZn
2およびMg
2Zn
11を含み、MgZn、Mg
21Zn
25、Mg
51Zn
20およびMg
2Zn
3のうちの1種以上をさらに含む。
【0057】
Mg-Zn合金相の中で安定した形態のMgZn2およびMg2Zn11はもちろんのこと、比較的不安定な相であるMgZn、Mg21Zn25、Mg51Zn20およびMg2Zn3のうちの1種以上をさらに含む。これは、メッキ鋼板上にMgコーティング層およびZnコーティング層を蒸着させた後に熱処理する方式で合金コーティング鋼板を製造する方式に起因することができる。このようなMg-Zn合金相の存在によりコーティング鋼板の耐食性と犠牲防食性が向上できる。
【0058】
その他、Al-Mg-Si-Zn合金層は、Al-Mg合金相およびMg-Si合金相のうちの1種以上をさらに含むことができる。Al-Mg合金相は、Al3Mg2およびAl12Mg17のうちの1種以上を含むことができ、Mg-Si合金相は、Mg2Siを含むことができる。
【0059】
Al-Mg-Si-Zn合金層は、全体100重量%に対して、40~80重量%のAl、15~30重量%のMg、1~10重量%のSiおよび1~20重量%のZnを含むことができる。Znが45重量%を超える場合、Znが過剰でZn-Mg金属間化合物の量が増加し、表面の黒変、耐食性減少などの問題が発生しうる。
【0060】
AlおよびSiを含むメッキ層が形成されたメッキ鋼板上にMgコーティング層およびZnコーティング層を形成させた後に熱処理して製造することにより、メッキ鋼板のFeがメッキ層に一部拡散して、鋼板およびAl-Mg-Si-Zn合金層の間にAl-Fe-Si合金層が位置することができる。
【0061】
その他、合金コーティング鋼板に関する説明は、前記合金コーティング鋼板の製造方法に関する説明に代えることとする。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の具体的な実施例を記載する。しかし、下記の実施例は本発明の具体的な一実施例に過ぎず、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
【0063】
実施例
(1)合金コーティング鋼板の製造
[実施例1]AlおよびSiを含むメッキ層が形成された溶融アルミニウムメッキ鋼板上に、物理気相蒸着(PVD)を用いてMgコーティング層およびZnコーティング層を形成させた後、熱処理温度400℃を基準として300秒間熱処理を施した。Znは熱処理後、生成されたAl-Mg-Si-Zn合金層を基準として1.2重量%であった。
【0064】
[実施例2]Znが2.6重量%であることを除けば、実施例1と同一の条件で製造した。
【0065】
[実施例3]Znが5.0重量%であることを除けば、実施例1と同一の条件で製造した。
【0066】
[実施例4]Znが8.0重量%であることを除けば、実施例1と同一の条件で製造した。
【0067】
[実施例5]Znが10.0重量%であることを除けば、実施例1と同一の条件で製造した。
【0068】
[実施例6]Znが15.0重量%であることを除けば、実施例1と同一の条件で製造した。
【0069】
[実施例7]Znが42.6重量%であることを除けば、実施例1と同一の条件で製造した。
【0070】
[比較例1]Znコーティング層を形成させないまま、熱処理を施したことを除けば、実施例1と同一の条件で製造した。
【0071】
(2)合金コーティング鋼板の微細構造変化の観察
図3は、Zn含有量に応じたコーティング層の組成をグロー放電分光器で分析した結果である。
図3(a)はZn含有量が1.2重量%、
図3(b)はZn含有量が2.6重量%、
図3(c)はZn含有量が7.9重量%であるコーティング鋼板のグロー放電分光分析の結果である。
図3に示されているように、熱処理時間400℃で300秒間実施すれば、MgおよびZnの拡散が起きてアルミニウムメッキ層に拡散する。MgおよびZnの拡散深さは約3μmであった。
【0072】
一方、
図4は、Zn重量%に応じたX線回折分析の結果で、Zn含有量に関係なくAl-Mg、Mg-Si合金相が形成されたことが分かる。Mg-Zn合金相は30°以下でMgZn、MgZn
2、Mg
21Zn
25などの形態で観察される。Zn含有量が低いほど、X線回折分析の結果においてMg-Zn合金相の強度がAl-Mg合金相およびMg-Si合金相の強度より小さいことを確認できる。
【0073】
(3)合金コーティング鋼板の耐食性評価
図5は、Znが含有されないAl-Mg-Si(比較例1)コーティング鋼板と、Znが1.2重量%含有されたAl-Mg-Si-Znコーティング鋼板(実施例1)の塩水噴霧試験の結果を示す。塩水噴霧試験はASTM B-117により実施した。
【0074】
図5および表1のように、Znが含有されないコーティング鋼板は、2700時間後に試験片全体に赤サビが拡散したことを確認できる。Znが1.2重量%含有されたコーティング鋼板は、2700時間後にも赤サビが試験片の全面積に拡散しないことを確認できる。実施例3、5、6は、4500時間後にも実施例1より赤サビ面積が小さいことを確認できる。実施例7は、Zn含有量が42.6質量%で、実施例の中で最も低い耐食性を示した。これは、先に説明したように、Zn含有量が高くなると、金属間化合物が増加して黒変および耐食性の低下現象によると判断される。
【0075】
【0076】
本発明は、上記の実施形態および/または実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で製造可能であり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。そのため、以上に述べた実施形態および/または実施例はあらゆる面で例示的であり、限定的ではないと理解しなければならない。