(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】チタン酸ストロンチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/00 20060101AFI20230823BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
C01G23/00 C
G03G9/097 374
(21)【出願番号】P 2022133846
(22)【出願日】2022-08-25
(62)【分割の表示】P 2018036355の分割
【原出願日】2018-03-01
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000109255
【氏名又は名称】チタン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 展幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴康
(72)【発明者】
【氏名】古賀 俊之
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-216272(JP,A)
【文献】特開2015-151317(JP,A)
【文献】特開2015-151304(JP,A)
【文献】国際公開第2015/152237(WO,A1)
【文献】特開2015-137208(JP,A)
【文献】特開2018-20919(JP,A)
【文献】特開2019-152718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00-23/08
C01G 25/00-47/00
C01G 49/10-99/00
G03G 9/08、9/097
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に1個以上のカルボキシル基と1個以上の水酸基を有するヒドロキシカルボン酸を炭素(C)として3g/kg以上30g/kg以下の範囲で含み、(4π×S)/l
2(Sは粒子を二次元に投影した時の円の面積、lは粒子の実測の周囲長)で求める円形度の約200個の粒子の平均円形度が0.80以上1.00以下である、ペロブスカイト型結晶構造を有するチタン酸ストロンチウム粉体の製造方法であって、
常圧液相反応法により、チタン化合物の加水分解物の鉱酸解膠品と、ストロンチウムを含む水溶性化合物と、分子内に1個以上のカルボキシル基と1個以上の水酸基を有するヒドロキシカルボン酸とを混合して、
ヒドロキシカルボン酸の添加量がチタンに対して10mmol/mol以上100mmol/mol相当となる混合液を調製し、当該混合液にアルカリ水溶液を添加しながら70℃以上100℃以下に加熱して、チタン酸ストロンチウムを主成分とする粒子を合成し、次いで、得られたチタン酸ストロンチウムを主成分とする粒子を酸で処理することを特徴とする、チタン酸ストロンチウム粉体の製造方法。
【請求項2】
分子内に1個以上のカルボキシル基と1個以上の水酸基を有するヒドロキシカルボン酸を炭素(C)として3g/kg以上30g/kg以下の範囲で含み、(4π×S)/l
2(Sは粒子を二次元に投影した時の円の面積、lは粒子の実測の周囲長)で求める円形度の約200個の粒子の平均円形度が0.80以上1.00以下であり、チタンに対するストロンチウムのモル比が0.50以上0.90以下の範囲にある、ペロブスカイト型結晶構造を有するチタン酸ストロンチウム粉体の製造方法であって、
常圧液相反応法により、チタン化合物の加水分解物の鉱酸解膠品と、ストロンチウムを含む水溶性化合物と、分子内に1個以上のカルボキシル基と1個以上の水酸基を有するヒドロキシカルボン酸とを混合して、
ヒドロキシカルボン酸の添加量がチタンに対して10mmol/mol以上100mmol/mol相当となる混合液を調製し、当該混合液にアルカリ水溶液を添加しながら70℃以上100℃以下に加熱して、チタン酸ストロンチウムを主成分とする粒子を合成し、次いで、得られたチタン酸ストロンチウムを主成分とする粒子を塩酸、硝酸又は酢酸で酸処理することを特徴とする、チタン酸ストロンチウム粉体の製造方法。
【請求項3】
分子内に1個以上のカルボキシル基と1個以上の水酸基を有するヒドロキシカルボン酸を炭素(C)として3g/kg以上30g/kg以下の範囲で含み、(4π×S)/l
2(Sは粒子を二次元に投影した時の円の面積、lは粒子の実測の周囲長)で求める円形度の約200個の粒子の平均円形度が0.80以上1.00以下であり、一次粒子の平均粒子径が20nm以上200nm以下の範囲にある、ペロブスカイト型結晶構造を有するチタン酸ストロンチウム粉体の製造方法であって、
常圧液相反応法により、チタン化合物の加水分解物の鉱酸解膠品と、ストロンチウムを含む水溶性化合物と、分子内に1個以上のカルボキシル基と1個以上の水酸基を有するヒドロキシカルボン酸とを混合して、
ヒドロキシカルボン酸の添加量がチタンに対して10mmol/mol以上100mmol/mol相当となる混合液を調製し、当該混合液にアルカリ水溶液を仕込みTiとSrの合計モル量に対して0.05モル当量/h以上1.6モル当量/h以下の添加速度で添加しながら70℃以上100℃以下に加熱して、チタン酸ストロンチウムを主成分とする粒子を合成し、次いで、得られたチタン酸ストロンチウムを主成分とする粒子を酸で処理することを特徴とする、チタン酸ストロンチウム粉体の製造方法。
【請求項4】
前記ヒドロキシカルボン酸は、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、γ-ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、シキミ酸から選択されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ヒドロキシカルボン酸は、α-ヒドロキシカルボン酸であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ヒドロキシカルボン酸は、炭素数が2以上6以下のヒドロキシカルボン酸であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項7】
常圧液相反応時におけるチタン化合物の加水分解物の鉱酸解膠品とストロンチウムを含む水溶性化合物の混合割合をSr/Tiのモル比で0.9以上1.6以下とすることを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項8】
アルカリ水溶液の添加開始時のチタン化合物の加水分解物の鉱酸解膠品の濃度をTiとして0.1mol/L以上1.3mol/L以下とすることを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記チタン化合物の加水分解物の鉱酸解膠品は、硫酸法で得られた、SO
3含有量が10g/kg以下のメタチタン酸を塩酸でpHを0.8以上1.5以下に調整して解膠したものを用いることを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸ストロンチウム粒子の集合体である粉体及びその製造方法に関し、特に電子写真方式を利用した複写機及びプリンター等の複写画像を形成するための静電潜像現像用トナーの外添剤として有用なチタン酸ストロンチウム粉体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタンの微粒子は、紫外線カットの目的で化粧品、塗料、インキ、プラスチック、光触媒などに使用される他、電子写真用トナーの帯電調整剤、流動化剤などにも広く使用されている。これらの用途には、分散性の向上や吸湿性の防止のために、表面を疎水化処理された二酸化チタンが使用されている。
【0003】
しかしながら、二酸化チタンはIARC(国際がん研究機関)による「発がん性のリスク情報のリスト」において、グループ3(人に対する発がん性については分類できない)から、グループ2B(人に対して発がん性があるかもしれない)にランクが変更され、疎水性二酸化チタン微粒子の代替物となる疎水性微粒子の開発が強く望まれている。
【0004】
一方で、電子写真システム方式を利用した複写機及びプリンターでは、写真デジタル化等により高精細化、高画質化の画像要求があると共に、コスト低減の面から長期間にわたる安定性(耐候性)の要求がある。その一つとして、トナーの母体粒子の主成分は熱可塑性の樹脂であるため、高温下においてトナーの母体粒子同士が融着してトナーの流動性が劣化する。トナーの母体粒子同士が融着して流動性が低下すると、トナーが適切な帯電状態を維持できなくなり、画質の劣化や精度が低下する。トナーの母体粒子同士の接触を防ぎ、流動性を低下させないために、球状あるいは粒状の二酸化チタンやシリカ等が使用されている。
【0005】
また、電子写真システム方式を利用した複写機及びプリンターを長期間にわたり運転すると、感光体の表面に紙粉や流動化剤が付着するフィルミング現象や、帯電装置から発生するオゾンと空気中の窒素が反応して生成する窒素酸化物が、空気中の水分に吸着して発生する帯電生成物による画像流れ現象が起こる。そのため、トナーには外添剤として流動性付与剤、帯電制御剤、離型剤の他に研磨剤が添加されており、感光体の表面の付着物や帯電生成物を除去する工夫がなされている。特に、チタン酸ストロンチウムは、モース硬度が5~6で、感光体の表面強度との関係から研磨剤として有用であり、外添剤として添加する無機微粒子としてトナーに使用されてきた。
【0006】
例えば、個数平均粒径が10~50nmで疎水化度が50以上の疎水性シリカ微粒子及び個数平均粒径が10~90nmで疎水化度が50以上の疎水性チタニア微粒子とともにトナーに添加する無機微粒子として個数平均粒径が100~1000nmのチタン酸ストロンチウム微粒子が紹介されている(特許文献1)。特許文献1に記載のチタン酸ストロンチウム微粒子は、粒径が細かく粗粒が少ないため優れた研磨効果があり、静電荷潜像担持体上にトナーによるフィルミングや融着を防止するのには効果的であるが、帯電生成物の除去には不十分であったとして、立方体または直方体の一次粒子の平均粒径が30~300nmのチタン酸ストロンチウムが提案されている(特許文献2)。
【0007】
一方、本出願人は、平均一次粒子径が0.02~0.3μmであり、一次粒子径の四分偏差を平均一次粒子径で割った値が0.20以下であり、かつそのような粒子として直方体状粒子を含むチタン酸ストロンチウム微細粉末(特許文献3)及び立方体又は直方体状粒子を有するチタン酸ストロンチウム系微細粒子であって、SrO/TiO2モル比が0.80以上0.95未満であり、粒子の平均一次粒子径が0.02~0.3μmであり、一次粒子径の四分偏差を平均一次粒子径で割った値が0.20以下であり、また平均二次粒子径が0.05~0.5μmで、二次粒子径の四分偏差を二次粒子径で割った値が0.25以下のチタン酸ストロンチウム系微細粒子(特許文献4)を提案している。
【0008】
これまでに提案されているチタン酸ストロンチウム粒子は、尖った角を持つ立方体状粒子あるいは直方体状粒子であるため、研磨剤として使用した場合にはその角による研磨効果に優れている。しかしながら、立方体状粒子あるいは直方体状粒子であるため、電子写真用トナーの流動性低下を防止できず、電子写真用トナーの外添剤としては不十分なものであった。
【0009】
立方体状あるいは直方体状のチタン酸ストロンチウム粒子は充填密度を上げることが困難であるとして、四塩化チタン水溶液を水酸化ストロンチウム水溶液で中和して得た含水水酸化チタンスラリーを加熱した後、水酸化ストロンチウム水溶液を添加し60~200℃の温度範囲で湿式反応させて得られる、一次粒子径が50~150nmであって球形度が0.8以上の立方晶系チタン酸ストロンチウムが提案されている(特許文献5)。特許文献5に開示されている製造方法は、中和反応の際のチタンに対するストロンチウムの添加割合Sr/Ti(モル比)が1.4~1.8であり、湿式反応の際のチタンに対するストロンチウムの添加割合Sr/Ti(モル比)が0.7~2.3であり、過剰のストロンチウムは洗浄を行っても溶解度の小さい炭酸ストロンチウム等として残留したり、水溶性のストロンチウム塩が乾燥時に析出してチタン酸ストロンチウム粒子を凝集させたりするため、上記の電子写真用トナーの流動性が低下してしまい、電子写真用トナーの外添剤としては適さないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平10-10772号公報
【文献】特開2005-338750号公報
【文献】特開2003-277054号公報
【文献】特開2015-137208号公報
【文献】再表2015/152237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、分散が良好で、環境特性に優れ、かつ流動化剤として良好な電子写真トナー用外添剤の基材として有用で、しかも二酸化チタンの代替物となり得るチタン酸ストロンチウム粉体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、チタン酸ストロンチウムに着目し、電子写真トナー用外添剤の基材として分散性及び環境特性に優れ、流動化剤として最適な粒径及び形状とする手法について検討した結果、常圧液相反応法によるチタン酸ストロンチウム合成反応において、分子内に1個以上のカルボキシル基と1個以上の水酸基を有するヒドロキシカルボン酸を添加することで、立方体形状または直方体形状の粒子の頂点と辺が面取りされて球状粒子となり、分散性及び流動性が良好なチタン酸ストロンチウム粉体が得られることを見出し、更に、形状制御剤として添加したヒドロキシカルボン酸の一部がチタン酸ストロンチウム粒子表面上に残留することで、チタン酸ストロンチウム粒子同士の接触や凝集も防止できることを見出して、本発明を完成させた。
【0013】
本発明によればペロブスカイト型チタン酸化合物を主成分とし、(4π×S)/l2(Sは粒子を二次元に投影した時の円の面積、lは粒子の実測の周囲長)で求める円形度の200個の粒子の平均円形度が0.80以上、好ましくは0.83以上、1.00以下の球状で、分子内に1個以上のカルボキシル基と1個以上の水酸基を有するヒドロキシカルボン酸を炭素(C)として3g/kg以上30g/kg以下の範囲で含有するチタン酸ストロンチウム粉体が提供される。本発明のチタン酸ストロンチウム粉体は、チタン(Ti)に対するストロンチウム(Sr)のモル比Sr/Tiが0.50以上0.90以下の範囲にあることが好ましい。また、本発明のチタン酸ストロンチウム粉体は、平均一次粒子径が20nm以上200nm以下の範囲にあることが好ましい。
【0014】
ここで、「平均円形度」は個々の粒子の円形度ではなく、約200個のチタン酸ストロンチウム粒子の円形度の平均値である。円形度は、粒子を二次元に投影した時の円形度で評価し、(4π×S)/l2(Sは粒子を二次元に投影した時の円の面積、lは粒子の実測の周囲長)で求めることができる。したがって、一部の粒子は、円形度が0.80未満であってもよく、直方体または立方体形状であってもよい。
【0015】
「平均一次粒子径」とは、電子顕微鏡観察による一次粒子像の面積と等価な面積の円の直径を計測して決定される体積基準の50%粒子径である。平均円形度及び平均一次粒子径が前記の範囲を外れると、トナーの帯電安定性や流動性に悪影響を与えるため好ましくない。
【0016】
本発明のチタン酸ストロンチウム粉体は、常圧液相反応法により、チタン化合物の加水分解物の鉱酸解膠品と、ストロンチウムを含む水溶性化合物と、分子内に1個以上のカルボキシル基と1個以上の水酸基を有するヒドロキシカルボン酸と、を混合し、当該混合液にアルカリ水溶液を添加しながら70℃以上100℃以下に加熱して、チタン酸ストロンチウムを主成分とする粒子を合成し、次いで、得られたチタン酸ストロンチウムを主成分とする粒子を酸で処理することを特徴とする製造方法により製造することができる。
【0017】
本発明の具体的態様は以下のとおりである。
[1]分子内に1個以上のカルボキシル基と1個以上の水酸基を有するヒドロキシカルボン酸を炭素(C)として3g/kg以上30g/kg以下の範囲で含み、(4π×S)/l2(Sは粒子を二次元に投影した時の円の面積、lは粒子の実測の周囲長)で求める円形度の約200個の粒子の平均円形度が0.80以上1.00以下の範囲にある、ペロブスカイト型結晶構造を有するチタン酸ストロンチウム粉体。
[2]チタンに対するストロンチウムのモル比Sr/Tiが0.50以上0.90以下の範囲にある前記[1]のチタン酸ストロンチウム粉体。
[3]一次粒子の平均粒子径が20nm以上200nm以下の範囲にある前記[1]のチタン酸ストロンチウム粉体。
[4]前記[1]乃至[3]のいずれか1項に記載のチタン酸ストロンチウム粉体を含むことを特徴とする電子写真トナー用外添剤。
[5]常圧液相反応法により、チタン化合物の加水分解物の鉱酸解膠品と、ストロンチウムを含む水溶性化合物と、分子内に1個以上のカルボキシル基と1個以上の水酸基を有するヒドロキシカルボン酸とを混合して、当該混合液にアルカリ水溶液を添加しながら70℃以上100℃以下に加熱して、チタン酸ストロンチウムを主成分とする粒子を合成し、次いで、得られたチタン酸ストロンチウムを主成分とする粒子を酸で処理して、前記[1]に記載のチタン酸ストロンチウム粉体を得ることを特徴とする、チタン酸ストロンチウム粉体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明のチタン酸ストロンチウム粉体は、常圧液相反応法に特有な形状である立方体または直方体状粒子を、分子内に1個以上のカルボキシル基と1個以上の水酸基を有するヒドロキシカルボン酸を合成反応用溶液に添加することにより、粒子約200個の平均円形度が0.80以上1.00以下の球状に調整したものである。本発明のチタン酸ストロンチウム粉体は、球状であり、粒径が微細で、粒子同士の接触及び凝結を防止できるため、電子写真用トナーの外添剤として好適であり、加えて、帯電安定性や流動性を良好に付与することができる。
【0019】
したがって、本発明のチタン酸ストロンチウム粉体は、分散性及び環境安定性に優れ、また発がん性や毒性の問題も無いため、電子写真トナー用の外添剤として使用されている二酸化チタンの代替物として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例5により製造されたチタン酸ストロンチウム粉体の透過型電子顕微鏡写真(観察倍率10万倍×画像拡大2倍)である。
【
図2】比較例2により製造されたチタン酸ストロンチウム粉体の透過型電子顕微鏡写真(観察倍率10万倍×画像拡大2倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のチタン酸ストロンチウム粉体は、代表的には、加圧容器を用いる水熱処理ではなく、常圧液相反応法により、チタン化合物の加水分解物の鉱酸解膠品と、ストロンチウムを含む水溶性化合物と、分子内に1個以上のカルボキシル基と1個以上の水酸基を有するヒドロキシカルボン酸と、を混合して、ヒドロキシカルボン酸の添加量がチタンに対して10mmol/mol以上100mmol/mol相当となる混合液を調製し、当該混合液にアルカリ水溶液を添加しながら70℃以上100℃以下に加熱して、チタン酸ストロンチウムを主成分とする粒子を合成し、次いで、得られたチタン酸ストロンチウムを主成分とする粒子を酸で処理することを特徴とする方法で製造される。
【0022】
[常圧液相反応法]
チタン化合物の加水分解物の鉱酸解膠品として、好ましくは、硫酸法で得られた、SO3含有量が10g/kg以下、好ましくは5g/kg以下のメタチタン酸を塩酸でpHを0.8以上1.5以下に調整して解膠したものを用いることで、粒度分布が良好なチタン酸ストロンチウム粒子を得ることができる。メタチタン酸中SO3含有量が10g/kgを超えると解膠が進まない。
【0023】
ストロンチウムを含む水溶性化合物としては、硝酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、水酸化ストロンチウムなどを好ましく使用することができる。アルカリ水溶液としては、苛性アルカリを使用することができるが、中でも水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0024】
前記ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、γ-ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、シキミ酸等を好適に使用することができる。ヒドロキシカルボン酸は、常圧加熱法により調製される立方体又は直方体のチタン酸ストロンチウム粒子の形状を球状にすることができる。
【0025】
前記製造方法において、得られるチタン酸ストロンチウム粒子の粒子径に影響を及ぼす因子としては、常圧液相反応時における原料の混合割合、アルカリ水溶液の添加開始時のチタン化合物の加水分解物の鉱酸解膠品の濃度、アルカリ水溶液を添加するときの温度及び添加速度などが挙げられる。また、反応過程に於ける炭酸ストロンチウムの生成を防ぐために窒素ガス雰囲気下で反応させる等、炭酸ガスの混入を防ぐことが好ましい。
【0026】
常圧液相反応時におけるチタン化合物の加水分解物の鉱酸解膠品と、ストロンチウムを含む水溶性化合物の混合割合は、Sr/Tiのモル比で0.9以上1.6以下、好ましくは1.1以上1.4以下が適切である。チタン化合物の加水分解物の鉱酸解膠品は水への溶解度が小さいため、Sr/Tiモル比が1以下の場合、反応生成物はチタン酸ストロンチウム粒子だけでなく、未反応の酸化チタンが残存し易くなる。アルカリ水溶液の添加開始時のチタン化合物の加水分解物の鉱酸解膠品の濃度としては、Tiとして0.1mol/L以上1.3mol/L以下、好ましくは0.3mol/L以上1.0mol/L以下が適切である。
【0027】
分子内に1個以上のカルボキシル基と1個以上の水酸基を有するヒドロキシカルボン酸の添加量は、チタンに対して10mmol/mol以上100mmol/mol以下、好ましくは15mmol/mol以上75mmol/mol以下が適切である。チタンに対するヒドロキシカルボン酸の添加量が10mmol/mol未満では形状制御効果が十分ではなく、球状のチタン酸ストロンチウム粒子が得られない。チタンに対するヒドロキシカルボン酸の添加量が100mmol/molを超えるとチタン酸ストロンチウムの結晶構造が不安定になり不定形のチタン酸ストロンチウム粒子となり好ましくない。
【0028】
アルカリ水溶液を添加するときの温度が高いほど結晶性の良好な生成物が得られるが、100℃以上ではオートクレーブ等の圧力容器が必要であるため、実用的には70℃~100℃の範囲が適切である。また、アルカリ水溶液の添加速度が遅いほど大きな粒子径のチタン酸ストロンチウム粒子が得られ、添加速度が速いほど小さな粒子径のチタン酸ストロンチウム粒子が得られる。アルカリ水溶液の添加速度は、仕込みTiとSrの合計モル量に対して0.05モル当量/h以上1.6モル当量/h以下、好ましくは0.07モル当量/h以上1.4当量/h以下が適切であり、得ようとする粒子径に応じて適宜調整することができる。
【0029】
[酸処理]
本発明の製造方法においては、常圧液相反応法によって得られるチタン酸ストロンチウム化合物をさらに酸処理する。常圧液相反応を行って、チタン酸ストロンチウムを合成する際に、Sr/Tiのモル比で1.0を超える場合、反応終了後に残存した未反応のストロンチウムが空気中の炭酸ガスと反応して、炭酸ストロンチウムなどの不純物粒子が生成され、これら不純物粒子が残存すると粒度分布が広くなる。また、表面に炭酸ストロンチウムなどの不純物が残存すると、疎水性を付与するための表面処理をする際に、不純物の影響で表面処理剤を均一に被覆することができない。したがって、アルカリ水溶液を添加した後、未反応のストロンチウムを取り除くため酸処理を行う。
【0030】
酸処理では、塩酸を用いてpH2.5~7.0、より好ましくはpH4.5~6.0に調整することが好ましい。酸としては、塩酸の他に硝酸、酢酸等を酸処理に用いることができる。しかし、硫酸を用いると、水への溶解度が低い硫酸ストロンチウムが発生するので好ましくない。
【0031】
また、前記酸処理によりチタン酸ストロンチウムのSr/Tiモル比を0.50以上0.90未満に調整し、粒子表面をTiO2リッチにすることにより有機表面処理剤の被覆状態を大幅に改善することができ、かつ、トナーに帯電安定性や流動性を付与することができる。
【0032】
本発明において、チタン酸ストロンチウム粒子は、従来、外添剤として使用されているシリカや二酸化チタンと同じように、帯電調整や環境安定性の改良のため、二酸化ケイ素、三酸化二アルミニウム、オキシ水酸化アルミニウム等の無機酸化物や脂肪酸、チタンカップリング剤、シランカップリング剤、シリコーンオイル等の疎水化剤で表面被覆することができる。シランカップリング剤で表面被覆すると、トナー疎水性、環境特性及び帯電特性が向上する。シリコーンオイルで表面被覆すると、トナー流動性が向上する。また、本発明において、チタン酸ストロンチウム粒子の表面はアルカリ成分が少ないため、脂肪酸による被覆率が高くなる。20nm以上200nm以下の一次粒子径を持ち、球状粒子及び立方体乃至直方体状粒子を含む約200個の粒子の平均円形度が0.80以上1.00以下のチタン酸ストロンチウム粉体を電子写真トナーの外添剤として使用する場合には、チタン酸ストロンチウム粒子を水に分散させて、水相中で疎水化剤を被覆したものが一段と分散性が良好であるので好ましい。
【0033】
本発明のチタン酸ストロンチウム粉体は磁性一成分トナー、二成分トナー及び非磁性一成分トナーのあらゆる静電記録方式で使用される。また粉砕法あるいは重合法で製造したトナーの外添剤としても使用できる。トナー用のバインダー樹脂としては、公知の合成樹脂及び天然樹脂であれば如何なるものでも使用できる。具体的には、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、フェノール系樹脂、石油樹脂及びウレタン系樹脂等が挙げられる。また、目的に応じて帯電調整剤や離型剤等の添加剤をバインダー中に添加したトナーでも良い。
【0034】
本発明のチタン酸ストロンチウム粉体を含む外添剤は、トナーに3g/kg以上50g/kgの割合で外添して使用することができ、必要に応じ電子写真の分野で使用されている公知の流動化剤、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、三酸化二アルミニウム等の1種又は2種以上と併用しても良い。また、平均円形度や平均一次粒子径の異なる2種以上の本発明のチタン酸ストロンチウム粉体を同時に使用しても良い。
【0035】
[測定法]
チタン酸ストロンチウム粉体の平均円形度、炭素(C)量、Sr/Tiモル比、平均一次粒子径、比表面積等は、本願においては以下の方法で測定した。
【0036】
[平均円形度]
円形度は、粒子を二次元に投影した時の円形度で評価し、(4π×S)/l2(Sは粒子を二次元に投影した時の円の面積、lは粒子の実測の周囲長)で求める。また、平均円形度は、チタン酸ストロンチウム粒子約200個の円形度の平均値である。個々の粒子の円形度は、日本電子製透過型電子顕微鏡JEM-1400plusを用いて観察倍率10万倍で撮影した粒子像を画像解析ソフトImageJで測定する。
【0037】
[炭素(C)量]
試料の炭素(C)量はLECO製CS-230炭素・硫黄分析装置を用いて分析する。
【0038】
[Sr/Tiモル比の測定]
島津製作所製蛍光X線分析装置XRF-1700を用いて各元素のカウント値を測定し、Fundamental Parameter法により算出する(JIS K 0119:2008)。
【0039】
[平均一次粒子径]
平均一次粒子径は、日本電子製透過型電子顕微鏡JEM-1400plusを用いて観察視野内の約200個の粒子の円径をCarl Zeiss社製Particle Size Analyzer TGZ-3の参照円径(4~10mm)に整合させて、求めることができる一次粒子像の面積と等価な面積の円の直径を計測した体積基準の50%粒子径である。観察倍率は、測定対象となる粒子の大きさに応じて変更する。たとえば、平均一次粒子径が150~200nmの範囲にある粒子は30000倍(光学顕微鏡の観察倍率10000倍×印画3倍)で観察すると、Carl Zeiss社製Particle Size Analyzerの参照円径(4~10mm)範囲内に入る。同様に、平均一次粒子径が80~150nmは50000倍(光学顕微鏡の観察倍率20000倍×印画2.5倍)、平均一次粒子径が40~80nmは100000倍(光学顕微鏡の観察倍率30000倍×印画10/3倍)、平均一次粒子径が20~40nmは200000倍(光学顕微鏡の観察倍率100000倍×印画2倍)とすれば、参照円径(4~10mm)範囲内に入る。測定対象の粒子の大きさを参照円形範囲内に整合させないと、大きすぎる粒子や小さすぎる粒子が存在することになり、測定誤差が大きくなる。
【0040】
[比表面積]
比表面積は、MICROMETORICS INSTRUMENT CO.製ジェミニ2375を用いて、BET法にて測定する。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。以下に挙げる例は単に例示のために記すものであり、本発明の範囲がこれによって制限されるものではない。
【0042】
[実施例1]
硫酸法で得られたメタチタン酸を脱鉄漂白処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えpH9.0とし、脱硫処理を行い、その後、塩酸によりpH5.8まで中和し、ろ過水洗を行って、洗浄済みケーキを得た。洗浄済みケーキに水を加え、Tiとして2.13mol/Lのスラリーとした後、塩酸を加えてpH1.4とし、解膠処理を行った。解膠処理品であるメタチタン酸をTiとして1.878mol採取して反応容器に投入した。これにSr/Tiモル比で1.15となるように塩化ストロンチウム水溶液を添加し、更にTiに対して11.4mmol/molとなるようにクエン酸1水和物を添加した後、水を加えて総容量2LのスラリーとしてTi濃度を0.939mol/Lに調整した。次に、撹拌しながら90℃に加温した後、10mol/L水酸化ナトリウム水溶液0.444Lを1時間かけて添加し(添加速度1.100モル当量/h)、その後、95℃で1時間撹拌を続け反応を終了した。
【0043】
当該反応終了スラリーを50℃まで冷却し、pH5.0となるまで塩酸を加え、1時間撹拌を続けた。得られた沈殿をデカンテーション洗浄し、ろ過による分離後、大気中、120℃で10時間乾燥して、チタン酸ストロンチウム粉体を得た。約200個のチタン酸ストロンチウム粒子の平均円形度は0.81、炭素(C)量は5.4g/kg、Sr/Tiモル比は0.89、平均一次粒子径は34nm、比表面積は80m2/gのチタン酸ストロンチウム粉体であることが確認できた。また、粉末X線回折法により、ペロブスカイト型チタン酸ストロンチウムの回折ピークが確認できた。
【0044】
[実施例2及び実施例3]
実施例1において、Tiに対するクエン酸1水和物の添加量を22.8mmol/mol及び34.2mmol/molに変更した以外は実施例1と同様の条件で常圧液相反応、酸処理、洗浄、ろ過及び乾燥を行い、それぞれチタン酸ストロンチウム粉体を得た。これらのチタン酸ストロンチウム粉体の平均円形度、炭素(C)量、Sr/Tiモル比、平均一次粒子径、比表面積を表2に示す。
【0045】
[実施例4]
実施例1と同様にして得た解膠処理済みのメタチタン酸をTiとして0.751mol採取して反応容器に投入した。これにSr/Tiモル比で1.15となるように塩化ストロンチウム水溶液を添加し、更にTiに対して11.4mmol/molとなるようにクエン酸1水和物を添加した後、水を加えてTi濃度を0.376mol/Lに調整した。次に、撹拌しながら90℃に加温した後、5mol/L水酸化ナトリウム水溶液0.355Lを4時間かけて添加し(添加速度0.275モル当量/h)、その後、95℃で1時間撹拌を続け反応を終了した。
【0046】
当該反応終了スラリーを50℃まで冷却し、pH5.0となるまで塩酸を加え、1時間撹拌を続けた。得られた沈殿をデカンテーション洗浄し、ろ過による分離後、大気中、120℃で10時間乾燥して、チタン酸ストロンチウム粒子を得た。約200個のチタン酸ストロンチウム粒子の平均円形度は0.80、炭素(C)量は5.1g/kg、Sr/Tiモル比は0.88、平均一次粒子径は75nm、比表面積は52m2/gのチタン酸ストロンチウム粉体であることが確認できた。また、粉末X線回折法により、ペロブスカイト型チタン酸ストロンチウムの回折ピークが確認できた。
【0047】
[実施例5~実施例7]
実施例4において、Tiに対するクエン酸1水和物の添加量を22.8mmol/mol、34.2mmol/mol及び57.0mmol/molに変更した以外は実施例4と同様の条件で常圧液相反応、酸処理、洗浄、ろ過及び乾燥を行い、それぞれチタン酸ストロンチウム粉体を得た。これらのチタン酸ストロンチウム粉体の平均円形度、炭素(C)量、Sr/Tiモル比、平均一次粒子径、比表面積を表2に示す。又実施例5によるチタン酸ストロンチウム粉体の透過型電子顕微鏡写真を
図1に示す。
【0048】
[実施例8]
実施例1と同様にして得た解膠処理済みのメタチタン酸をTiとして0.626mol採取して反応容器に投入した。これにSr/Tiモル比で1.15となるように塩化ストロンチウム水溶液を添加し、更にTiに対して22.8mmol/molとなるようにクエン酸1水和物を添加した後、水を加えてTi濃度を0.313mol/Lに調整した。次に、撹拌しながら90℃に加温した後、5mol/L水酸化ナトリウム水溶液0.296Lを7時間かけて添加し(添加速度0.157モル当量/h)、その後、95℃で1時間撹拌を続け反応を終了した。
【0049】
当該反応終了スラリーを50℃まで冷却し、pH5.0となるまで塩酸を加え、1時間撹拌を続けた。得られた沈殿をデカンテーション洗浄し、ろ過による分離後、大気中、120℃で10時間乾燥して、チタン酸ストロンチウム粉体を得た。約200個のチタン酸ストロンチウム粒子の平均円形度は0.83、炭素(C)量は10.3g/kg、Sr/Tiモル比は0.79、平均一次粒子径は108nm、比表面積は68m2/gのチタン酸ストロンチウム粉体であることが確認できた。また、粉末X線回折法により、ペロブスカイト型チタン酸ストロンチウムの回折ピークが確認できた。
【0050】
[実施例9]
実施例8において、5mol/L水酸化ナトリウム水溶液0.296Lの添加時間を14時間に変更した(添加速度0.079モル当量/h)以外は実施例8と同様の条件で常圧液相反応、酸処理、洗浄、ろ過及び乾燥を行い、チタン酸ストロンチウム粉体を得た。このチタン酸ストロンチウム粉体の平均円形度、炭素(C)量、Sr/Tiモル比、平均一次粒子径、比表面積を表2に示す。
【0051】
[実施例10]
実施例1と同様にして得た解膠処理済みのメタチタン酸をTiとして0.751mol採取して反応容器に投入した。これにSr/Tiモル比で1.15となるように塩化ストロンチウム水溶液を添加し、更にTiに対して35.7mmol/molとなるようにDL-リンゴ酸を添加した後、水を加えてTi濃度を0.376mol/Lに調整した。次に、撹拌しながら90℃に加温した後、5mol/L水酸化ナトリウム水溶液0.355Lを4時間かけて添加し(添加速度0.275モル当量/h)、その後、95℃で1時間撹拌を続け反応を終了した。
【0052】
当該反応終了スラリーを50℃まで冷却し、pH5.0となるまで塩酸を加え、1時間撹拌を続けた。得られた沈殿をデカンテーション洗浄し、ろ過による分離後、大気中、120℃で10時間乾燥して、チタン酸ストロンチウム粉体を得た。約200個のチタン酸ストロンチウム粒子の平均円形度は0.86、炭素(C)量は11.5g/kg、Sr/Tiモル比は0.84、平均一次粒子径は80nm、比表面積は83m2/gのチタン酸ストロンチウム粉体であることが確認できた。また、粉末X線回折法により、ペロブスカイト型チタン酸ストロンチウムの回折ピークが確認できた。
【0053】
[実施例11]
実施例1と同様にして得た解膠処理済みのメタチタン酸をTiとして0.751mol採取して反応容器に投入した。これにSr/Tiモル比で1.15となるように塩化ストロンチウム水溶液を添加し、更にTiに対して63.0mmol/molとなるようにグリコール酸を添加した後、水を加えてTi濃度を0.376mol/Lに調整した。次に、撹拌しながら90℃に加温した後、5mol/L水酸化ナトリウム水溶液0.355Lを4時間かけて添加し(添加速度0.275モル当量/h)、その後、95℃で1時間撹拌を続け反応を終了した。
【0054】
当該反応終了スラリーを50℃まで冷却し、pH5.0となるまで塩酸を加え、1時間撹拌を続けた。得られた沈殿をデカンテーション洗浄し、ろ過による分離後、大気中、120℃で10時間乾燥して、チタン酸ストロンチウム粉体を得た。約200個のチタン酸ストロンチウム粉体の平均円形度は0.86、炭素(C)量は10.7g/kg、Sr/Tiモル比は0.90、平均一次粒子径は63nm、比表面積は46m2/gのチタン酸ストロンチウム粉体であることが確認できた。また、粉末X線回折法により、ペロブスカイト型チタン酸ストロンチウムの回折ピークが確認できた。
【0055】
[実施例12]
実施例1と同様にして得た解膠処理済みのメタチタン酸をTiとして0.751mol採取して反応容器に投入した。これにSr/Tiモル比で1.15となるように塩化ストロンチウム水溶液を添加し、更にTiに対して31.9mmol/molとなるようにL-(+)-酒石酸を添加した後、水を加えてTi濃度を0.376mol/Lに調整した。次に、撹拌しながら90℃に加温した後、5mol/L水酸化ナトリウム水溶液0.355Lを4時間かけて添加し(添加速度0.275モル当量/h)、その後、95℃で1時間撹拌を続け反応を終了した。
【0056】
当該反応終了スラリーを50℃まで冷却し、pH5.0となるまで塩酸を加え1時間撹拌を続けた。得られた沈殿をデカンテーション洗浄し、ろ過による分離後、大気中、120℃で10時間乾燥して、チタン酸ストロンチウム粉体を得た。約200個のチタン酸ストロンチウム粒子の平均円形度は0.83、炭素(C)量は4.6g/kg、Sr/Tiモル比は0.69、平均一次粒子径は36nm、比表面積は151m2/gのチタン酸ストロンチウム粉体であることが確認できた。また、粉末X線回折法により、ペロブスカイト型チタン酸ストロンチウムの回折ピークが確認できた。
【0057】
[比較例1]
実施例1において、クエン酸1水和物を添加しなかった以外は実施例1と同様の条件で常圧液相反応、酸処理、洗浄、ろ過及び乾燥を行い、チタン酸ストロンチウム粒子を得た。このチタン酸ストロンチウム粒子の200個の平均円形度は0.78、炭素(C)量は0.7g/kg、Sr/Tiモル比は0.86、平均一次粒子径は32nm、比表面積は69m2/gであった。
【0058】
[比較例2]
実施例8において、クエン酸1水和物を添加せず、更に5mol/L水酸化ナトリウム水溶液0.296Lの添加時間を18時間に変更した(添加速度0.061モル当量/h)以外は実施例8と同様の条件で常圧液相反応、酸処理、洗浄、ろ過及び乾燥を行い、チタン酸ストロンチウム粉体を得た。約200個のチタン酸ストロンチウム粒子の平均円形度は0.71、炭素(C)量は0.4g/kg、Sr/Tiモル比は0.88、平均一次粒子径は100nm、比表面積は32m
2/gのチタン酸ストロンチウム粉体であった。また、比較例2によるチタン酸ストロンチウム粒子の透過型電子顕微鏡写真を
図2に示す。
【0059】
[比較例3]
実施例1と同様にして得た解膠処理済みのメタチタン酸をTiとして0.751mol採取して反応容器に投入した。これにSr/Tiモル比で1.15となるように塩化ストロンチウム水溶液を添加し、更にTiに対して79.8mmol/molとなるように尿素を添加した後、水を加えてTi濃度を0.376mol/Lに調整した。次に、撹拌しながら90℃に加温した後、5mol/L水酸化ナトリウム水溶液0.355Lを4時間かけて添加し(添加速度0.275モル当量/h)、その後、95℃で1時間撹拌を続け反応を終了した。
【0060】
当該反応終了スラリーを50℃まで冷却し、pH5.0となるまで塩酸を加え、1時間撹拌を続けた。得られた沈殿をデカンテーション洗浄し、ろ過による分離後、大気中、120℃で10時間乾燥して、チタン酸ストロンチウム粒子を得た。約200個のチタン酸ストロンチウム粒子の200個の平均円形度は0.72、炭素(C)量は0.5g/kg、Sr/Tiモル比は0.88、平均一次粒子径は52nm、比表面積は45m2/gのチタン酸ストロンチウム粉体であった。
【0061】
[比較例4]
実施例1と同様にして得た解膠処理済みのメタチタン酸をTiとして0.751mol採取して反応容器に投入した。これにSr/Tiモル比で1.15となるように塩化ストロンチウム水溶液を添加し、更にTiに対して40.6mmol/molとなるようにコハク酸を添加した後、水を加えてTi濃度を0.376mol/Lに調整した。次に、撹拌しながら90℃に加温した後、5mol/L水酸化ナトリウム水溶液0.355Lを4時間かけて添加し(添加速度0.275モル当量/h)、その後、95℃で1時間撹拌を続け反応を終了した。
【0062】
当該反応終了スラリーを50℃まで冷却し、pH5.0となるまで塩酸を加え、1時間撹拌を続けた。得られた沈殿をデカンテーション洗浄し、ろ過による分離後、大気中、120℃で10時間乾燥して、チタン酸ストロンチウム粒子を得た。約200個のチタン酸ストロンチウム粒子の200個の平均円形度は0.76、炭素(C)量は2.6g/kg、Sr/Tiモル比は0.89、平均一次粒子径は61nm、比表面積は49m2/gのチタン酸ストロンチウム粉体であった。
【0063】
【0064】
【0065】
分子内に1個以上のカルボキシル基と1個以上の水酸基を有するヒドロキシカルボン酸であるクエン酸、DL-リンゴ酸、グリコール酸及びL-(+)-酒石酸をチタンに対して10mmol/mol以上100mmol/molの濃度で共存させた常圧液相反応法により合成したチタン酸ストロンチウムを更に酸を用いて溶解させることにより、表面にヒドロキシカルボン酸を炭素(C)として3g/kg以上30g/kg以下の範囲で含み、平均円形度が0.80以上1.00以下の範囲にある、チタン酸ストロンチウム粉体が得られていることがわかる。