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特許7336030高接着低誘電ポリイミドフィルムおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】高接着低誘電ポリイミドフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230823BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
C08G73/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022527879
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 KR2019016853
(87)【国際公開番号】W WO2021095977
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-05-13
(31)【優先権主張番号】10-2019-0144763
(32)【優先日】2019-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514225065
【氏名又は名称】ピーアイ アドヴァンスド マテリアルズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PI Advanced Materials CO., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク・ソン-ユル
(72)【発明者】
【氏名】リ・キル-ナム
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-145303(JP,A)
【文献】特開2017-177601(JP,A)
【文献】特開平07-278298(JP,A)
【文献】国際公開第2019/195148(WO,A1)
【文献】特表2013-501130(JP,A)
【文献】特開平05-078503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
C08G 73/00-73/26
B32B 1/00-43/00
B29C 41/00-41/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミック酸溶液を製造するステップと、
前記ポリアミック酸溶液に対して脱水剤およびイミド化触媒を添加してポリアミック酸組成物を製造するステップと、
前記ポリアミック酸組成物を支持体上に製膜し、加熱炉で熱硬化するステップと、を含み、
前記熱硬化ステップは、少なくとも第1加熱ステップ、第2加熱ステップ、および第3加熱ステップを含み、第1加熱ステップ、第2加熱ステップ、および第3加熱ステップそれぞれの工程温度の範囲は100℃以上550℃以下であ
前記第1加熱ステップの工程時間は5分超過15分以下であり、
前記第2加熱ステップの工程時間は2分超過10分以下であり、
前記第3加熱ステップの工程時間は2分超過10分以下であり、
前記ポリアミック酸溶液は、
ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)およびピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、
m-トリジン(m-tolidine)、オキシジアニリン(ODA)、およびパラフェニレンジアミン(PPD)を含むジアミン成分とを含む、
ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記第1加熱ステップの工程温度は100℃以上150℃以下であり、
前記第2加熱ステップの工程温度は200℃以上300℃以下であり、
前記第3加熱ステップの工程温度は400℃以上550℃以下である、
請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として、前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が30モル%以上50モル%以下であり、
前記ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が50モル%以上70モル%以下である、
請求項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、前記m-トリジンの含有量が60モル%以上80モル%以下であり、
前記パラフェニレンジアミンの含有量が10モル%以上25モル%以下であり、
前記オキシジアニリンの含有量が10モル%以上25モル%以下である、
請求項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記脱水剤は、酢酸無水物であり、
前記イミド化触媒は、イソキノリン、β-ピコリン、ピリジン、イミダゾール、2-イミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、ベンズイミダゾールからなるグループより選択された1種以上である、
請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記ポリイミドフィルムは、2以上のブロックからなる共重合体を含む、
請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電特性および高接着特性を兼ね備えたポリイミドフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド(polyimide、PI)は、剛直な芳香族主鎖とともに化学的安定性が非常に優れたイミド環に基づいて、有機材料の中でも最高水準の耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、耐化学性、耐候性を有する高分子材料である。
特に、優れた絶縁特性、すなわち低い誘電率のような優れた電気的特性により、電気、電子、光学分野などに至るまで高機能性高分子材料として注目されている。
最近、電子製品が軽量化、小型化されるに伴い、集積度が高くて柔軟な薄型回路基板が活発に開発されている。
このような薄型回路基板は、優れた耐熱性、耐低温性および絶縁特性を有しながらも屈曲が容易なポリイミドフィルム上に金属箔を含む回路が形成されている構造が多く活用される傾向にある。
このような薄型回路基板としては、軟性金属箔積層板が主に用いられており、一例として、金属箔として薄い銅板を用いる軟性銅箔積層板(Flexible Copper Clad Laminate、FCCL)が含まれる。その他にも、ポリイミドを薄型回路基板の保護フィルム、絶縁フィルムなどに活用したりもする。
【0003】
一方、最近、電子機器に多様な機能が内在するにつれ、前記電子機器に速い演算速度と通信速度が要求されており、これを満たすために、高周波で高速通信が可能な薄型回路基板が開発されている。
高周波高速通信の実現のために、高周波でも電気絶縁性を維持できる高いインピーダンス(impedance)を有する絶縁体が必要である。インピーダンスは、絶縁体に形成される周波数および誘電定数(dielectric constant;Dk)と反比例の関係が成立するので、高周波でも絶縁性を維持するためには、誘電定数ができるだけ低くなければならない。
しかし、通常のポリイミドの場合、誘電特性が高周波通信で十分な絶縁性を維持できる程度に優れた水準ではないのが現状である。
また、絶縁体が低誘電特性を有するほど、薄型回路基板において好ましくない浮遊容量(stray capacitance)とノイズの発生を減少させることが可能で、通信遅延の原因を相当部分解消できることが知られている。
したがって、低誘電特性のポリイミドが薄型回路基板の性能に何より重要な要因として認識されているのが現状である。
特に、高周波通信の場合、必然的にポリイミドによる誘電損失(dielectric dissipation)が発生するが、誘電損失率(dielectric dissipation factor;Df)は、薄型回路基板の電気エネルギーの浪費程度を意味し、通信速度を決定する信号伝達遅延と密接に関係していて、ポリイミドの誘電損失率をできるだけ低く維持することも、薄型回路基板の性能に重要な要因として認識されている。
また、ポリイミドフィルムに湿気が多く含まれるほど、誘電定数が大きくなり、誘電損失率が増加する。ポリイミドフィルムの場合、優れた固有の特性によって薄型回路基板の素材として適しているのに対し、極性を呈するイミド基によって湿気に相対的に弱いことがあり、これによって絶縁特性が低下しうる。
したがって、ポリイミド特有の機械的特性、熱的特性および高接着の表面特性を一定水準に維持しながらも、誘電特性、特に低誘電損失率のポリイミドフィルムの開発が必要なのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、上記の問題を解決すべく、低誘電特性および高接着特性を兼ね備えたポリイミドフィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。
そのため、本発明は、その具体的実施例を提供することを実質的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための、本発明の一実施形態は、ポリアミック酸溶液を製造するステップと、
前記ポリアミック酸溶液に対して脱水剤およびイミド化触媒を添加してポリアミック酸組成物を製造するステップと、
前記ポリアミック酸組成物を支持体上に製膜し、加熱炉で熱硬化するステップと、を含み、
前記熱硬化ステップは、少なくとも第1加熱ステップ、第2加熱ステップ、および第3加熱ステップを含み、第1加熱ステップ、第2加熱ステップ、および第3加熱ステップそれぞれの工程温度の範囲は100℃以上550℃以下であるポリイミドフィルムの製造方法を提供する。
【0006】
前記第1加熱ステップの工程温度は100℃以上150℃以下であり、前記第2加熱ステップの工程温度は200℃以上300℃以下であり、前記第3加熱ステップの工程温度は400℃以上550℃以下であってもよい。
また、前記第1加熱ステップの工程時間は5分超過15分以下であり、前記第2加熱ステップの工程時間は2分超過10分以下であり、前記第3加熱ステップの工程時間は2分超過10分以下であってもよい。
一方、前記ポリアミック酸溶液は、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(3,3’,4,4’-Biphenyltetracarboxylic dianhydride、BPDA)およびピロメリティックジアンハイドライド(Pyromellitic dianhydride、PMDA)を含む二無水物酸成分と、m-トリジン(m-tolidine)、オキシジアニリン(4,4’-Oxydianiline、ODA)、およびパラフェニレンジアミン(p-Phenylenediamine、PPD)を含むジアミン成分とを含むことができる。
前記二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として、前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が30モル%以上50モル%以下であり、前記ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が50モル%以上70モル%以下であってもよい。
また、前記ジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、前記m-トリジンの含有量が60モル%以上80モル%以下であり、前記パラフェニレンジアミンの含有量が10モル%以上25モル%以下であり、前記オキシジアニリン(ODA)の含有量が10モル%以上25モル%以下であってもよい。
前記脱水剤としては、酢酸無水物が使用可能であり、前記イミド化触媒としては、イソキノリン、β-ピコリン、ピリジン、イミダゾール、2-イミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、ベンズイミダゾールからなるグループより選択された1種以上が使用可能である。
また、前記ポリイミドフィルムは、2以上のブロックからなる共重合体を含むことができる。
【0007】
本発明の他の実施形態は、前記製造方法により製造されたポリイミドフィルムを提供する。
前記ポリイミドフィルムは、接着力が1,000gf/cm以上であり、誘電損失率(Df)が0.004以下であってもよい。
【0008】
本発明のさらに他の実施形態は、前記ポリイミドフィルムと可塑性樹脂層とを含む多層フィルム、および前記ポリイミドフィルムと電気伝導性の金属箔とを含む軟性金属箔積層板を提供する。
本発明のさらに他の実施形態は、前記軟性金属箔積層板を含む電子部品を提供する。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明は、特定の成分および特定の組成比からなるポリイミドフィルムおよびその製造方法により低誘電特性および高接着特性を兼ね備えたポリイミドフィルムを提供することにより、このような特性が要求される多様な分野、特に軟性金属箔積層板などの電子部品などに有用に適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明による「ポリイミドフィルムの製造方法」および「ポリイミドフィルム」の順序で発明の実施形態をより詳細に説明する。
これに先立ち、本明細書および特許請求の範囲に使われた用語や単語は通常または辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自らの発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則り、本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈されなければならない。
したがって、本明細書に記載の実施例の構成は本発明の最も好ましい一つの実施例に過ぎず、本発明の技術的思想をすべて代弁するものではないので、本出願時点においてこれらを代替可能な多様な均等物と変形例が存在できることを理解しなければならない。
本明細書において、単数の表現は、文脈上明らかに異なって意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、1つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものの存在または付加の可能性を予め排除しないことが理解されなければならない。
本明細書において、量、濃度、または他の値またはパラメータが範囲、好ましい範囲または好ましい上限値および好ましい下限値の列挙として与えられる場合、範囲が別途に開示されるかに関係なく、任意の一対の任意の上側範囲の限界値または好ましい値、および任意の下側範囲の限界値または好ましい値で形成されたすべての範囲を具体的に開示することが理解されなければならない。
数値の範囲が本明細書で言及される場合、他に記述されなければ、その範囲はその終点およびその範囲内のすべての整数と分数を含むと意図される。本発明の範疇は、範囲を定義する時、言及される特定値に限定されないと意図される。
【0011】
本明細書において、「二無水物酸」は、その前駆体または誘導体を含むと意図されるが、これらは技術的には二無水物酸でないかも知れないが、それにもかかわらず、ジアミンと反応してポリアミック酸を形成するはずであり、このポリアミック酸は再度ポリイミドに変換できる。
本明細書において、「ジアミン」は、その前駆体または誘導体を含むと意図されるが、これらは技術的にはジアミンでないかも知れないが、それにもかかわらず、ジアンハイドライドと反応してポリアミック酸を形成するはずであり、このポリアミック酸は再度ポリイミドに変換できる。
【0012】
本発明によるポリイミドフィルムの製造方法は、ポリアミック酸溶液を製造するステップと、前記ポリアミック酸溶液に対して脱水剤およびイミド化触媒を添加してポリアミック酸組成物を製造するステップと、前記ポリアミック酸組成物を支持体上に製膜し、加熱炉で熱硬化するステップと、を含み、前記熱硬化ステップは、少なくとも第1加熱ステップ、第2加熱ステップ、および第3加熱ステップを含み、第1加熱ステップ、第2加熱ステップ、および第3加熱ステップそれぞれの工程温度の範囲は100℃以上550℃以下であってもよい。
【0013】
特に、前記第1加熱ステップの工程温度は100℃以上150℃以下であり、前記第2加熱ステップの工程温度は200℃以上300℃以下であり、前記第3加熱ステップの工程温度は400℃以上550℃以下であってもよい。
好ましくは、前記第1加熱ステップの工程温度は120℃以上140℃以下、前記第2加熱ステップの工程温度は270℃以上290℃以下であり、前記第3加熱ステップの工程温度は440℃以上460℃以下であってもよい。
前記第1加熱ステップの工程時間は5分超過15分以下であり、前記第2加熱ステップの工程時間は2分超過10分以下であり、前記第3加熱ステップの工程時間は2分超過10分以下であってもよい。
好ましくは、前記第1加熱ステップの工程時間は6分以上12分以下であり、前記第2加熱ステップの工程時間は2分超過5分以下であり、前記第3加熱ステップの工程時間は2分超過5分以下であってもよい。
前記第1加熱ステップ、第2加熱ステップ、および第3加熱ステップの工程温度や工程時間が前記範囲を上回るか、下回る場合、誘電損失率の値が高くなったり、接着力が低下して、高い周波数における伝送損失減少のためのポリイミドフィルムへの使用に適していなかった。
【0014】
本発明において、ポリアミック酸の製造は、例えば、
(1)ジアミン成分全量を溶媒中に入れて、その後、二無水物酸成分をジアミン成分と実質的に等モルとなるように添加して重合する方法;
(2)二無水物酸成分全量を溶媒中に入れて、その後、ジアミン成分を二無水物酸成分と実質的に等モルとなるように添加して重合する方法;
(3)ジアミン成分の一部成分を溶媒中に入れた後、反応成分に対して二無水物酸成分の一部成分を約95~105モル%の比率で混合した後、残りのジアミン成分を添加し、これに連続して残りの二無水物酸成分を添加して、ジアミン成分および二無水物酸成分が実質的に等モルとなるようにして重合する方法;
(4)二無水物酸成分を溶媒中に入れた後、反応成分に対してジアミン化合物の一部成分を95~105モル%の比率で混合した後、他の二無水物酸成分を添加し、続いて、残りのジアミン成分を添加して、ジアミン成分および二無水物酸成分が実質的に等モルとなるようにして重合する方法;
(5)溶媒中で一部のジアミン成分と一部の二無水物酸成分をいずれか1つが過剰となるように反応させて第1組成物を形成し、他の溶媒中で一部のジアミン成分と一部の二無水物酸成分をいずれか1つが過剰となるように反応させて第2組成物を形成した後、第1、第2組成物を混合し、重合を完了する方法であって、この時、第1組成物を形成する時、ジアミン成分が過剰の場合、第2組成物では二無水物酸成分を過剰にし、第1組成物で二無水物酸成分が過剰の場合、第2組成物ではジアミン成分を過剰にして、第1、第2組成物を混合してこれらの反応に使用される全体のジアミン成分と二無水物酸成分が実質的に等モルとなるようにして重合する方法などが挙げられる。
ただし、前記重合方法が以上の例のみに限定されるものではなく、ポリアミック酸の製造は、公知のいかなる方法も使用できることはもちろんである。
【0015】
ポリイミドフィルムの製造方法は、熱イミド化法、化学的イミド化法、熱イミド化法および化学的イミド化法が併用される複合イミド化法などに分けられる。
前記熱イミド化法とは、化学的触媒を排除し、熱風や赤外線乾燥機などの熱源でイミド化反応を誘導する方法である。
前記熱イミド化法は、前記ゲルフィルムを100~600℃の範囲の可変的な温度で熱処理して、ゲルフィルムに存在するアミック酸基をイミド化することができ、詳しくは、200~500℃、さらに詳しくは、300~500℃で熱処理して、ゲルフィルムに存在するアミック酸基をイミド化することができる。
ただし、ゲルフィルムを形成する過程でもアミック酸の一部(約0.1モル%~10モル%)がイミド化され、このために、50℃~200℃の範囲の可変的な温度でポリアミック酸組成物を乾燥することができ、これも前記熱イミド化法の範疇に含まれる。
化学的イミド化法の場合、当業界にて公知の方法により脱水剤およびイミド化触媒を用いて、ポリイミドフィルムを製造することができる。
【0016】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、複合イミド化法に属するもので、ポリアミック酸溶液に脱水剤およびイミド化触媒を投入した後、加熱してポリイミドフィルムを製造することができる。
前記ポリアミック酸組成物を製造するステップにおいて、前記脱水剤としては、ポリアミド酸に対する脱水閉環剤の役割を果たし、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N’-ジアルキルカルボジイミド、低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪族酸無水物、アリールスルホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物などの化合物が使用できる。
特に、前記脱水剤としては、酢酸無水物を使用するものが好ましい。
前記イミド化触媒の例としては、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、ヘテロ環式3級アミンなどが挙げられ、脱水剤の脱水閉環作用を促進する効果を有する成分であればいかなる成分でも使用可能である。
特に、前記イミド化触媒としては、イソキノリン、β-ピコリン、ピリジン、イミダゾール、2-イミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、ベンズイミダゾールからなるグループより選択された1種以上を使用するものが好ましい。
本発明のポリイミドフィルムの製造方法において、前記ポリアミック酸溶液は、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)およびピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)からなる二無水物酸成分と、m-トリジン(m-tolidine)、オキシジアニリン(ODA)、およびパラフェニレンジアミン(PPD)からなるジアミン成分とを含むことができる。
特に、前記二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として、前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が30モル%以上50モル%以下であり、前記ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が50モル%以上70モル%以下であってもよい。
好ましくは、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が35モル%以上45モル%以下であり、前記ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が55モル%以上65モル%以下であってもよい。
また、前記ジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、前記m-トリジンの含有量が60モル%以上80モル%以下であり、前記パラフェニレンジアミンの含有量が10モル%以上25モル%以下であり、前記オキシジアニリンの含有量が10モル%以上25モル%以下であってもよい。
好ましくは、前記m-トリジンの含有量が65モル%以上75モル%以下であり、前記パラフェニレンジアミンの含有量が10モル%以上20モル%以下であり、前記オキシジアニリンの含有量が10モル%以上20モル%以下であってもよい。
【0017】
本発明では、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドに由来するポリイミド鎖は、電荷移動錯体(CTC:Charge transfer complex)と名付けられた構造、すなわち、電子ドナー(electron donnor)と電子アクセプター(electron acceptor)とが互いに近接して位置する規則的な直線構造を有し、分子間相互作用(intermolecular interaction)が強化される。
このような構造は、水分との水素結合を防止する効果があるので、吸湿率を低下させるのに影響を与えてポリイミドフィルムの吸湿性を低下させる効果を極大化することができる。
特に、前記二無水物酸成分として、ピロメリティックジアンハイドライドを追加的に含むことができる。ピロメリティックジアンハイドライドは、相対的に剛直な構造を有する二無水物酸成分でポリイミドフィルムに適切な弾性を付与できるという点で好ましい。
ポリイミドフィルムが適切な弾性と吸湿率を同時に満足するためには、二無水物酸の含有量比が特に重要である。例えば、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量比が減少するほど、前記CTC構造による低い吸湿率を期待しにくくなる。
また、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドは、芳香族部分に相当するベンゼン環を2個含むのに対し、ピロメリティックジアンハイドライドは、芳香族部分に相当するベンゼン環を1個含む。
二無水物酸成分においてピロメリティックジアンハイドライドの含有量の増加は、同一の分子量を基準とした時、分子内のイミド基が増加すると理解することができ、これは、ポリイミド高分子鎖に前記ピロメリティックジアンハイドライドに由来するイミド基の比率が、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドに由来するイミド基に比べて相対的に増加すると理解することができる。
すなわち、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量の増加は、ポリイミドフィルム全体に対しても、イミド基の相対的増加であると見られ、これによって低い吸湿率を期待しにくくなる。
逆に、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量比が減少すると、相対的に剛直な構造の成分が減少して、ポリイミドフィルムの機械的特性が所望する水準以下に低下しうる。
このような理由により、前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が前記範囲を上回る場合、ポリイミドフィルムの機械的物性が低下し、軟性金属箔積層板を製造するのに適切な水準の耐熱性を確保することができない。
逆に、前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が前記範囲を下回るか、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が前記範囲を上回る場合、適切な水準の誘電定数、誘電損失率および吸湿率の達成が難しいので、好ましくない。
前記m-トリジンは、特に疎水性を呈するメチル基を有していてポリイミドフィルムの低吸湿特性に寄与し、前記範囲を下回る場合、所望する水準の低吸湿率を達成できないので、好ましくない。m-トリジンに由来する低吸湿性は、ポリイミドフィルムの低い誘電損失率に寄与する。
【0018】
一方、前記ポリイミドフィルムは、2以上のブロックからなるブロック共重合体を含むことができ、特に2個のブロックを含むことができる。
前記熱硬化のためには、IR硬化炉が使用できる。
【0019】
本発明では、前記のようなポリアミック酸の重合方法をランダム(random)重合方式で定義することができ、前記のような過程で製造された本発明のポリアミック酸から製造されたポリイミドフィルムは、誘電損失率(Df)および吸湿率を低下させる本発明の効果を極大化させる面で好ましく適用可能である。
ただし、前記重合方法は、先に説明した高分子鎖内の繰り返し単位の長さが相対的に短く製造されるので、二無水物酸成分に由来するポリイミド鎖が有するそれぞれの優れた特性を発揮するには限界がありうる。したがって、本発明において特に好ましく利用可能なポリアミック酸の重合方法は、ブロック重合方式であってもよい。
一方、ポリアミック酸を合成するための溶媒は特に限定されるものではなく、ポリアミック酸を溶解させる溶媒であればいかなる溶媒も使用できるが、アミド系溶媒であることが好ましい。
具体的には、前記溶媒は、有機極性溶媒であってもよく、詳しくは、非プロトン性極性溶媒(aprotic polar solvent)であってもよいし、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-ピロリドン(NMP)、ガンマブチロラクトン(GBL)、ジグリム(Diglyme)からなる群より選択された1つ以上であってもよいが、これに限定されるものではく、必要に応じて単独でまたは2種以上組み合わせて使用可能である。
一つの例において、前記溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミドが特に好ましく使用可能である。
【0020】
また、ポリアミック酸の製造工程では、摺動性、熱伝導性、コロナ耐性、ループ硬さなどのフィルムの様々な特性を改善する目的で充填材を添加してもよい。添加される充填材は特に限定されるものではないが、好ましい例としては、シリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
充填材の粒径は特に限定されるものではなく、改質すべきフィルム特性と添加する充填材の種類によって決定すれば良い。一般的には、平均粒径が0.05~100μm、好ましくは0.1~75μm、さらに好ましくは0.1~50μm、特に好ましくは0.1~25μmである。
粒径がこの範囲を下回ると、改質効果が現れにくくなり、この範囲を上回ると、表面性を大きく損傷させたり、機械的特性が大きく低下する場合がある。
また、充填材の添加量に対しても特に限定されるものではなく、改質すべきフィルム特性や充填材の粒径などによって決定すれば良い。一般的に、充填材の添加量は、ポリイミド100重量部に対して0.01~100重量部、好ましくは0.01~90重量部、さらに好ましくは0.02~80重量部である。
充填材の添加量がこの範囲を下回ると、充填材による改質効果が現れにくく、この範囲を上回ると、フィルムの機械的特性が大きく損傷する可能性がある。充填材の添加方法は特に限定されるものではなく、公知のいかなる方法を用いてもよい。
前記ポリイミドフィルムの製造方法により製造されたポリイミドフィルムは、接着力が1,000gf/cm以上であり、誘電損失率(Df)が0.004以下であってもよい。
好ましくは、フィルムは、接着力が1,100gf/cm以上であり、誘電損失率(Df)が0.0035以下であってもよい。
【0021】
これに関連し、誘電損失率(Df)および接着力をすべて満足するポリイミドフィルムの場合、軟性金属箔積層板用絶縁フィルムとして活用可能な上に、製造された軟性金属箔積層板が10GHz以上の高周波で信号を伝送する電気的信号伝送回路に使用されても、その絶縁安定性が確保可能であり、信号伝達遅延も最小化できる。
前記条件をすべて有するポリイミドフィルムは、これまで知られていない新規なポリイミドフィルムであって、以下、誘電損失率(Df)について詳細に説明する。
<誘電損失率>
「誘電損失率」は、分子の摩擦が交流電場によって引き起こされた分子運動を妨げる時、誘電体(または絶縁体)によって消滅する力を意味する。
誘電損失率の値は、電荷の消失(誘電損失)の容易性を示す指数であって通常用いられ、誘電損失率が高いほど、電荷が消失しやすくなり、逆に、誘電損失率が低いほど、電荷が消失しにくくなる。すなわち、誘電損失率は、電力損失の尺度であり、誘電損失率が低いほど、電力損失による信号伝送遅延が緩和されながら通信速度が速く維持できる。
これは、絶縁フィルムであるポリイミドフィルムに強く要求される事項で、本発明によるポリイミドフィルムは、10GHzの非常に高い周波数下で誘電損失率が0.004以下であってもよい。
【0022】
本発明は、上述したポリイミドフィルムと熱可塑性樹脂層とを含む多層フィルム、および上述したポリイミドフィルムと電気伝導性の金属箔とを含む軟性金属箔積層板を提供する。
前記熱可塑性樹脂層としては、例えば、熱可塑性ポリイミド樹脂層などが適用可能である。
以上説明したように、本発明によるポリイミドフィルムは、上記の条件をすべて満足することにより、軟性金属箔積層板用絶縁フィルムとして活用可能な上に、高周波でも絶縁安定性が確保可能であり、信号伝達遅延も最小化できる。
使用する金属箔としては特に限定されるものではないが、電子機器または電気機器の用途に本発明の軟性金属箔積層板を用いる場合には、例えば、銅または銅合金、ステンレス鋼またはその合金、ニッケルまたはニッケル合金(42合金も含む)、アルミニウムまたはアルミニウム合金を含む金属箔であってもよい。
一般的な軟性金属箔積層板では、圧延銅箔、電解銅箔という銅箔が多く使用され、本発明においても好ましく使用することができる。また、これら金属箔の表面には防錆層、耐熱層、または接着層が塗布されていてもよい。
本発明において、前記金属箔の厚さについては特に限定されるものではなく、その用途に応じて十分な機能を発揮できる厚さであれば良い。
本発明による軟性金属箔積層板は、前記ポリイミドフィルムの一面に金属箔がラミネートされているか、前記ポリイミドフィルムの一面に熱可塑性ポリイミドを含有する接着層が付加されており、前記金属箔が接着層に付着した状態でラミネートされている構造であってもよい。
【0023】
本発明はまた、前記軟性金属箔積層板を電気的信号伝送回路として含む電子部品を提供する。前記電気的信号伝送回路は、少なくとも2GHzの高周波、詳しくは、少なくとも5GHzの高周波、さらに詳しくは、少なくとも10GHzの高周波で信号を伝送する電子部品であってもよい。
前記電子部品は、例えば、携帯端末用通信回路、コンピュータ用通信回路、または宇宙航空用通信回路であってもよいが、これに限定されるものではない。
【実施例
【0024】
以下、発明の具体的な実施例を通じて、発明の作用および効果をより詳述する。ただし、このような実施例は発明の例として提示されたものに過ぎず、これによって発明の権利範囲が定められるものではない。
【0025】
<実施例1>
撹拌機および窒素注入・排出管を備えた500mlの反応器に窒素を注入させながらNMPを投入し、反応器の温度を30℃に設定した後、ジアミン成分として、m-トリジン70mol%、パラフェニレンジアミン15mol%、およびオキシジアニリン15mol%と、二無水物酸成分として、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド40mol%およびピロメリティックジアンハイドライド60mol%を投入して完全に溶解し、窒素雰囲気下、40℃に温度を上げて加熱しながら120分間撹拌を継続した後、23℃での粘度が200,000cPを示すポリアミック酸を製造した。
前記ポリアミック酸溶液(PAA)にポリアミック酸溶液に対して1モル当量のイミド化触媒であるイソキノリン(IQ)を添加すると同時に、ポリアミック酸溶液に2モル当量の酢酸無水物(AA)をDMFとともに添加した。
以後、スピンコーターを用いて、ガラス基板に脱泡されたポリイミド前駆体組成物を塗布した後、窒素雰囲気下および120℃の温度で30分間乾燥してゲルフィルムを製造し、前記ゲルフィルムをIR炉で130℃で10分間、280℃で4分間、450℃で4分間連続的に熱硬化・イミド化させてポリイミドフィルムを得た。
得られたポリイミドフィルムを蒸留水にディッピング(dipping)して、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離させた。
【0026】
<実施例2および比較例1~4>
実施例1において、ポリアミック酸に対する第1、第2および第3加熱ステップの工程時間をそれぞれ下記表1のように変更したことを除き、実施例1と同様の方法でポリイミドフィルムを製造した。
【0027】
【表1】
【0028】
<実験例1>誘電損失率および接着力評価
実施例1および実施例2、比較例1~比較例4でそれぞれ製造したポリイミドフィルムに対して誘電損失率、接着力を測定し、その結果を下記表2に示した。
(1)誘電損失率の測定
誘電損失率(Df)は、抵抗計Agilent 4294Aを用いて、72時間軟性金属箔積層板を放置して測定した。
(2)接着力の測定
接着力は、ポリイミドフィルムの両面にInnoflex(1mil、Epoxy type、Innox製品)を置き、1oz銅箔を両面に位置させ、保護用PIフィルムを置き、180℃に昇温した後に、1時間30Mpaの圧力で熱圧着した。フィルムを15mmの幅に切って裁断した後、180゜剥離試験(Peel test)を実施した。
【0029】
【表2】
【0030】
表2に示されるように、本発明の実施例により製造されたポリイミドフィルムは、誘電損失率が0.004以下と著しく低い誘電損失率を示すだけでなく、接着力が1,000gf/cm以上であることを確認することができた。
このような結果は、本発明において特定された成分、組成比および製造方法の各ステップの温度範囲および工程時間の調節によって達成されるものであることが分かる。
これに対し、実施例と異なる工程時間が適用された比較例1~4のポリイミドフィルムは、実施例に比べて高い誘電損失率および低い接着力が測定された。したがって、比較例は、ギガ単位の高周波で信号伝送が行われる電子部品に使用されにくいことを予想することができる。
以上、本発明の実施例を参照して説明したが、本発明の属する分野における通常の知識を有する者であれば、上記の内容に基づいて本発明の範疇内で多様な応用および変形を行うことが可能であろう。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、特定の成分および特定の組成比からなるポリイミドフィルムおよびその製造方法により低誘電特性および高接着特性を兼ね備えたポリイミドフィルムを提供することにより、このような特性が要求される多様な分野、特に軟性金属箔積層板などの電子部品などに有用に適用可能である。