(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】セレンと白金族元素の分離方法
(51)【国際特許分類】
C22B 11/02 20060101AFI20230824BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20230824BHJP
C22B 3/10 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
C22B11/02
C22B1/02
C22B3/10
(21)【出願番号】P 2020044451
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】伊知地 真澄
(72)【発明者】
【氏名】林 浩志
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-062685(JP,A)
【文献】特開2016-160479(JP,A)
【文献】特公昭51-010175(JP,B2)
【文献】特表2003-520901(JP,A)
【文献】特開平07-278620(JP,A)
【文献】特開平09-285730(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0145541(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第113148963(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 11/00-11/12
C22B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレンと白金族元素を含む原料を、400℃以上~700℃未満で酸化焙焼して二酸化セレンを気化させて白金族元素と分離する酸化焙焼工程、この酸化焙焼残渣を700℃以上~1200℃以下で焙焼して残留セレンをさらに気化させると共に白金族元素を還元する高温焙焼工程を有し、セレンを気化した高温焙焼残渣から白金族元素を精製することを特徴とするセレンと白金族元素の分離方法。
【請求項2】
上記酸化焙焼の温度が550℃以上~600℃以下であり、酸素、酸素富化空気、または空気の雰囲気下で焙焼する請求項1に記載するセレンと白金族元素の分離方法。
【請求項3】
上記高温焙焼の温度が不活性雰囲気下では700℃以上~1000℃以下、大気雰囲気下では800℃以上~1000℃以下であり、大気、または不活性ガスの雰囲気下で焙焼する請求項1または請求項2に記載するセレンと白金族元素の分離方法。
【請求項4】
上記酸化焙焼によって気化した二酸化セレンをアルカリ溶液に吸収させて回収し、上記高温焙焼の残渣を塩酸と過酸化水素で塩化酸化浸出して白金族元素を回収する請求項1~請求項3の何れかに記載するセレンと白金族元素の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレンと白金族元素を含む原料からセレンと白金族元素を効率よく分離して回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅電解スライムなどには金、白金族元素、セレンおよびテルル等の有価金属が含まれており、これからそれぞれの元素が精製される。セレンおよび白金族元素を回収する方法は、例えば、銅電解スライムを脱銅処理した後に塩化酸化浸出処理して金、白金族元素、セレン、テルルなどを浸出し、この浸出液に抽出溶媒を接触させて金を抽出し、次いで、金抽出後液に亜硫酸ガスを吹き込み、テルルが還元する手前で亜硫酸ガスの吹込み止めて、セレンと白金族元素を還元滓として回収する。
【0003】
上記還元滓からセレンと白金族元素を分離回収する方法として、該還元滓を焙焼して蒸留ないし真空蒸留して分離する方法が知られており、特許文献1(特開2009-155144号公報)には、原料のセレン含有粉末の補給と蒸留を蒸留容器内で繰り返すことによって処理効果を高めた処理方法と装置が記載されている。また、特許文献2(特開2005-1906号公報)には、プレ溶解炉と真空蒸留装置からなるセレンの回収方法が記載されている。
【0004】
しかし、これらの処理方法では蒸留残査中のセレンと白金族元素が効率よく分離されないため、塩化焙焼や加熱溶融などの追加の処理手法が知られている。特許文献3(特開2005-240170号公報)には、セレンおよび白金族元素を含む原料を塩化揮発処理してセレンを除去し、さらに揮発残渣に塩化ナトリウムと炭素粉を添加して塩化焙焼を行ってセレンを揮発させると共に白金族元素を可溶性塩にして浸出回収する塩化処理方法が記載されている。また、特許文献4(特開2003-268457号公報)にはセレン白金族元素含有物に、苛性ソーダと硝酸ソーダの混合物からなるフラックスを添加して加熱溶融し、この溶融物を浸出して亜セレン酸ソーダを含む液分と白金族元素を含む残渣とに分離する処理方法が記載されている。また、蒸留で得られる蒸留残渣には白金族元素のセレン化物が残留し、これが蒸留槽に固着し、引き剥がすのに大変な労力を要するという課題も存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-155144号公報
【文献】特開2005-1906号公報
【文献】特開2005-240170号公報
【文献】特開2003-268457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、セレンと白金族元素を含有する原料を加熱処理してセレンと白金族元素を回収する従来の処理方法では、セレンと白金族元素の分離に手間がかかると云う問題を解決したものであり、上記原料からセレンと白金族元素を効率よく分離して回収する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成によって上記問題を解決した、セレンと白金族元素の分離方法に関する。
〔1〕セレンと白金族元素を含む原料を、400℃以上~700℃未満で酸化焙焼して二酸化セレンを気化させて白金族元素と分離する酸化焙焼工程、この酸化焙焼残渣を700℃以上~1200℃以下で焙焼して残留セレンをさらに気化させると共に白金族元素の酸化物を還元する高温焙焼工程を有し、セレンを気化した高温焙焼残渣から白金族元素を精製することを特徴とするセレンと白金族元素の分離方法。
〔2〕上記酸化焙焼の温度が550℃以上~600℃以下であり、酸素、酸素富化空気、または乾燥空気の雰囲気下で焙焼する上記[1]に記載するセレンと白金族元素の分離方法。
〔3〕上記高温焙焼の温度が不活性雰囲気下では700℃以上~1000℃以下、大気雰囲気下では800℃以上~1000℃以下であり、大気、または不活性ガスの雰囲気下で焙焼する上記[1]または上記[2]に記載するセレンと白金族元素の分離方法。
〔4〕上記酸化焙焼によって気化した二酸化セレンをアルカリ溶液に吸収させて回収し、上記高温焙焼の残渣を塩酸と過酸化水素で塩化酸化浸出して白金族元素を回収する上記[1]~上記[3]の何れかに記載するセレンと白金族元素の分離方法。
【0008】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の方法は、セレンと白金族元素を含む原料を、400℃以上~700℃未満で酸化焙焼して二酸化セレンを気化させて白金族元素と分離する酸化焙焼工程、この酸化焙焼残渣を700℃以上~1200℃以下で焙焼して残留セレンをさらに気化させると共に白金族元素の酸化物を還元する高温焙焼工程を有し、セレンを気化した高温焙焼残渣から白金族元素を回収することを特徴とするセレンと白金族元素の分離方法である。
【0009】
セレンと白金族元素を含む原料は、例えば、銅電解スライムの脱銅処理後の塩化酸化浸出液から金を抽出した後液のセレンと白金族元素を含む還元滓である。銅電解スライムを脱銅処理した後に塩化酸化浸出処理して金、白金族元素、セレン、テルルなどを浸出し、この浸出液から金を溶媒抽出した後に、この抽出後液に亜硫酸ガスを吹き込み、テルルが還元する手前で亜硫酸ガスの吹込み止めて得た還元滓にはセレンと白金族元素が含まれている。この還元滓を原料として用いることができる。
【0010】
〔酸化焙焼工程〕
本発明の方法は、第一段階の焙焼工程として、セレンと白金族元素を含む原料を、400℃以上~700℃未満で酸化焙焼して二酸化セレンを気化させて白金族元素と分離する酸化焙焼工程を有する。具体的には、上記原料を、400℃以上~700℃未満、好ましくは550℃以上~600℃以下の焙焼温度で、酸素、酸素富化空気、または空気の雰囲気下で焙焼する。
【0011】
焙焼温度が400℃未満では酸化焙焼が十分ではなくセレンの焙焼残渣量が多くなるので好ましくない。一方、セレンの沸点は685℃であるため、焙焼温度が700℃を超えると、セレンの蒸留速度が大きくなり過ぎて酸素の供給が不足するようになり、二酸化セレンガスに金属セレンが混じってトラブルを引き起こすので、酸化焙焼は700℃未満が好ましい。
【0012】
上記酸化焙焼によって、原料に含まれているセレンは酸化され、二酸化セレンになって気化する。例えば、この酸化焙焼によって原料に含まれるセレンの99wt%以上を気化させることができる。気化した二酸化セレンはアルカリ溶液に吸収させて回収することができる。一方、白金族元素のパラジウムは酸化パラジウムになって焙焼残渣に残る。パラジウム以外の白金などは一部がメタルの状態や酸化物などを形成して酸化焙焼残渣に残る。
【0013】
〔高温焙焼工程〕
本発明の方法は、第二段階の焙焼工程として、酸化焙焼残渣を700℃以上~1200℃以下で焙焼する高温焙焼工程を有する。具体的には、酸化焙焼残渣を、700℃以上~1200℃以下、好ましくは、900℃以上~1000℃以下で、大気、または不活性ガスの雰囲気下で焙焼する。
【0014】
高温焙焼温度が700℃未満では酸化パラジウムを還元することができない。一方、エネルギーコストの観点から1200℃以上の温度は不要である。なお、不活性ガス雰囲気下では700℃以上~1000℃以下、大気雰囲気下では800℃以上~1000℃以下が好ましい。この温度での高温焙焼によって、セレンの気化および酸化パラジウムの還元を同時に行うことができる。
【0015】
この高温焙焼によって、酸化焙焼残渣に残留しているセレンの約8~約9割を気化させることができる。また、酸化焙焼残渣に含まれる酸化パラジムは難溶性であり浸出させることが困難であるが、高温焙焼によってパラジウムの一部は金属に還元され、それによって塩化酸化浸出できるようになる。具体的には、上記高温で高温焙焼した残渣を、過酸化水素を加えた塩酸に浸して、金属パラジウムを塩化酸化浸出させることができる。また、この高温焙焼残渣に含まれている白金、ロジウムなどの白金族元素も浸出することができる。
【0016】
上記塩化酸化浸出の浸出液に含まれるパラジウムは、ジアルキルスルフィドを用いた溶媒抽出によって選択的に抽出して分離することができる。また、該浸出液に含まれる白金は塩化アンモニウムによって沈殿させて固液分離することによって、浸出液に含まれるロジウムと分離することができる。一方、白金族元素のうちルテニウムは上記塩化酸化浸出では溶出しないが、白金やロジウムを分離した後に、苛性ソーダを加えて加熱溶融することによってルテニウムは酸に浸出できるようになるので、この酸浸出液を一般的な酸化蒸留することによって、ルテニウムを分離回収することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の処理方法によれば、セレンと白金族元素を含有する原料を焙焼処理してセレンと白金族元素を回収する方法において、酸化焙焼と高温焙焼の二段階の焙焼を行うことによって、セレンと白金族元素を効率よく分離して回収することができる。また、この二段階焙焼は焙焼雰囲気と焙焼温度を調整すればよく、追加の設備を必要としないので、容易に実施することができる。また、本手法で得られる酸化焙焼残渣および高温焙焼残渣は粉末状で、扱いは非常に容易である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】450℃の酸化焙焼におけるセレンの回収量を示すグラフ。
【
図2】550℃の酸化焙焼におけるセレンの回収量を示すグラフ。
【
図3】大気雰囲気下での室温~1000℃でのTG-DTA結果を示すグラフ。
【
図4】窒素雰囲気下での室温~1000℃でのTG-DTA結果を示すグラフ。
【
図5】高温焙焼における焙焼残渣のXRDのグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を示す。以下の実施例において焙焼残渣および溶液中の金属濃度はICPによって測定した。
【0020】
〔実施例1〕
セレンおよび白金族元素を含む原料として、銅電解スライムを塩化酸化浸出して金を回収した後、亜硫酸ガスで還元した還元滓を用い、空気雰囲気下で、450℃、550℃の温度で酸化焙焼を行い、蒸発した二酸化セレンをアルカリ液に吸収させて回収し、セレンの回収量を経時的に測定した。450℃の結果を
図1に示し、550℃の結果を
図2に示した。図示するように、焙焼温度の高い方がセレンの回収速度が高い傾向が得られた。セレンを効率的に回収するには、少なくとも焙焼温度を400℃以上で焙焼するのが好ましく、550℃以上がさらに好ましいことが確認された。
なお、セレンの沸点は685℃であるので、700℃以上に加熱するとセレンの蒸留速度が大きくなりすぎて酸素の供給が間に合わなくなり、セレンの回収液に金属セレンが混入してトラブルの原因となるため、700℃以下での焙焼が望ましい。
【0021】
〔実施例2〕
実施例1で得た550℃で4時間酸化焙焼した残渣を、室温~1000℃の範囲で、大気雰囲気下と窒素雰囲気下でおのおのTG-DTA測定を行った結果をそれぞれ
図3、
図4に示す。
図3より大気雰囲気下では800℃~900℃の範囲、
図4より窒素雰囲気下では700℃~800℃の範囲でそれぞれ大きな質量減少を確認した。これはセレンの気化と酸化パラジウム中の酸素の脱離に起因すると考えられる。
次に、上記酸化焙焼残渣を、窒素雰囲気下、900℃で高温焙焼を行った。この結果を表1に示す。表1に示すように、酸化焙焼残渣中のセレン(2.8wt%)は、高温焙焼によって0.01wt%に減少している。また、酸化焙焼残渣と高温焙焼残渣(大気下での焙焼残渣と窒素雰囲気下での焙焼残渣の2種)について、XRDスペクトルを
図5に示す。酸化焙焼残渣では酸化パラジウムのピークが大きいが、大気下での高温焙焼残渣では酸化パラジウムのピークは約1/3程度まで減少しており、窒素ガス雰囲気下での高温焙焼残渣では酸化パラジウムのピークはほとんど確認されない。このことから、高温焙焼によって酸化パラジウムが還元されたことが確認できる。なお、大気下の高温焙焼において酸化パラジウムの僅かなピークがみられるのは、大気下では一度還元されたパラジウムが冷却時に一部再酸化されるためと考えられる。これは
図3の大気下でのTG-DTA測定において、冷却時に750℃付近で質量増加がみられることからも確認される。
以上の結果から、不活性雰囲気下では700℃以上、大気雰囲気下では800℃以上の高温で焙焼することによって、セレンの蒸発と酸化パラジウムの還元が同時に行われることが確認された。
【0022】
【0023】
〔実施例3〕
セレンと白金族元素を含む原料として実施例1と同様の還元滓を用い、この還元滓を空気雰囲気下で、555℃で酸化焙焼し、この酸化焙焼残渣を不活性雰囲気下で、900℃で高温焙焼し、高温焙焼の残渣を塩酸に過酸化水素を加えた液を用い、70℃で塩化酸化浸出した。この結果を表2に示した。
表2に示すように、原料を酸化焙焼することによって、原料中のセレンの99.9wt%以上を気化させることができる。この酸化焙焼残渣中にはセレンが数%残留するが、高温焙焼することによって残留セレンの約8割~約9割が気化できる。また、酸化焙焼残渣中の酸化パラジウムは浸出困難であるが、高温焙焼によって酸化パラジウムが金属パラジウムに還元されることによって、この高温焙焼残渣に含まれる金属パラジウムは過酸化水素を含む塩酸によって浸出される。また、高温焙焼残渣に含まれる白金、ロジウムも大部分が浸出される。
【0024】
【0025】
〔比較例1〕
セレンと白金族元素を含有する原料をセレンの沸点以上に加熱し、蒸留して得られた蒸留残渣の組成を表3に示す。蒸留残渣中では、白金族元素がセレン化物として残留するため、セレン濃度が35%と非常に高いため、SeとPGMを分離する追加工程が必要となる。特開2003-268457では苛性ソーダと硝酸ソーダをフラックスとして用いて、加熱溶融を行うことで、セレン化物中のセレンを酸化でき、溶融物を水浸出することで亜セレン酸ソーダを液分として、白金族元素を残渣に分離できる。蒸留残渣を上記手法にて処理した際の水浸出残渣の組成を表4に示す。Se品位は3.3%まで下がったが、高温焙焼残渣と比べるとまだ10倍以上の濃度のSeが残っていることが確認できる。
【0026】
【0027】