(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】高分子フィルムの剥離方法、電子デバイスの製造方法、及び、剥離装置
(51)【国際特許分類】
B65H 41/00 20060101AFI20230824BHJP
H05K 3/04 20060101ALI20230824BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
B65H41/00 B
H05K3/04 Z
H05K3/00 J
(21)【出願番号】P 2022532249
(86)(22)【出願日】2020-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2020046212
(87)【国際公開番号】W WO2021260972
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2020106725
(32)【優先日】2020-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥山 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】鶴野 吉拡
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-056774(JP,A)
【文献】特開2004-142878(JP,A)
【文献】特開2016-190698(JP,A)
【文献】特開2020-093873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 41/00
H01M 10/04
H05K 3/00
H05K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子フィルムと無機基板とが密着した積層体を準備する工程Aと、
前記積層体の端部において、前記高分子フィルムと前記無機基板との間に剥離部分を形成する工程Bと、
前記工程Bの後、前記高分子フィルムの前記無機基板と密着していない非密着面と、前記剥離部分との間に静圧差を設けることにより、前記高分子フィルムを前記無機基板から剥離する工程Cとを含
み、
前記工程Cは、
前記高分子フィルムの前記非密着面側にローラーを配置し、前記ローラーにより、前記高分子フィルムを前記剥離部分方向に押圧する工程D-1と、
前記非密着面側を大気圧未満とする一方、前記剥離部分を大気圧とすることにより、前記静圧差を設ける工程D-2と、
前記工程D-1及び前記工程D-2の後、前記ローラーの面を前記高分子フィルムの前記非密着面に対して平行に移動させ、前記ローラーの移動に応じて前記剥離を進行させる工程D-3とを含み、
前記高分子フィルムと前記ローラーとの間にメッシュ状シートが配置されていることを特徴とする高分子フィルムの剥離方法。
【請求項2】
高分子フィルムと無機基板とが密着した積層体を準備する工程Aと、
前記積層体の端部において、前記高分子フィルムと前記無機基板との間に剥離部分を形成する工程Bと、
前記工程Bの後、前記高分子フィルムの前記無機基板と密着していない非密着面と、前記剥離部分との間に静圧差を設けることにより、前記高分子フィルムを前記無機基板から剥離する工程Cとを含み、
前記工程Cは、
前記非密着面側を大気圧以上とする一方、前記剥離部分を大気圧とする工程E-1と、
前記工程E-1の後、前記剥離部分を前記非密着面側の圧力よりも高い圧力とすることより、前記静圧差を設ける工程E-2とを含むことを特徴とする高分子フィルムの剥離方法。
【請求項3】
前記工程Aは、前記積層体の高分子フィルム上に機能素子が設けられた機能素子付きの積層体を準備する工程であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の高分子フィルムの剥離方法。
【請求項4】
前記積層体の前記高分子フィルム上には、機能素子が形成されており、
前記工程Cよりも前に、前記高分子フィルムの
、前記機能素子が設けられた面と同じ面であって、前記機能素子が設けられていない
箇所に、前記機能素子の厚さと同程度の厚さを有するスペーサーを設ける工程Xを含むことを特徴とする請求項
1又は2に記載の高分子フィルムの剥離方法。
【請求項5】
前記積層体の前記高分子フィルム上には、機能素子が形成されており、
前記工程Cよりも前に、前記高分子フィルム上に埋め込み用部材を配置し、前記埋め込み用部材に前記機能素子を埋め込む工程Yを含むことを特徴とする請求項
1又は2に記載の高分子フィルムの剥離方法。
【請求項6】
高分子フィルムと無機基板とが密着した積層体と、前記積層体の前記高分子フィルム上に設けられた機能素子とを有する機能素子付きの積層体を準備する工程A-1と、
前記積層体の端部において、前記高分子フィルムと前記無機基板との間に剥離部分を設ける工程Bと、
前記工程Bの後、前記高分子フィルムの前記無機基板と密着していない側の非密着面と、前記剥離部分との間に静圧差を設けることにより、前記高分子フィルムを前記無機基板から剥離する工程Cと
を含
み、
前記工程Cは、
前記高分子フィルムの前記非密着面側にローラーを配置し、前記ローラーにより、前記高分子フィルムを前記剥離部分方向に押圧する工程D-1と、
前記非密着面側を大気圧未満とする一方、前記剥離部分を大気圧とすることにより、前記静圧差を設ける工程D-2と、
前記工程D-1及び前記工程D-2の後、前記ローラーの面を前記高分子フィルムの前記非密着面に対して平行に移動させ、前記ローラーの移動に応じて前記剥離を進行させる工程D-3とを含み、
前記高分子フィルムと前記ローラーとの間にメッシュ状シートが配置されていることを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項7】
高分子フィルムと無機基板とが密着した積層体と、前記積層体の前記高分子フィルム上に設けられた機能素子とを有する機能素子付きの積層体を準備する工程A-1と、
前記積層体の端部において、前記高分子フィルムと前記無機基板との間に剥離部分を設ける工程Bと、
前記工程Bの後、前記高分子フィルムの前記無機基板と密着していない側の非密着面と、前記剥離部分との間に静圧差を設けることにより、前記高分子フィルムを前記無機基板から剥離する工程Cと
を含み、
前記工程Cは、
前記非密着面側を大気圧以上とする一方、前記剥離部分を大気圧とする工程E-1と、
前記工程E-1の後、前記剥離部分を前記非密着面側の圧力よりも高い圧力とすることより、前記静圧差を設ける工程E-2とを含むことを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子フィルムの剥離方法、電子デバイスの製造方法、及び、剥離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子、MEMS素子、ディスプレイ素子など機能素子の軽量化、小型・薄型化、フレキシビリティ化を目的として、高分子フィルム上にこれらの素子を形成する技術開発が活発に行われている。すなわち、情報通信機器(放送機器、移動体無線、携帯通信機器等)、レーダーや高速情報処理装置などといった電子部品の基材の材料としては、従来、耐熱性を有し且つ情報通信機器の信号帯域の高周波数化(GHz帯に達する)にも対応し得るセラミックが用いられていたが、セラミックはフレキシブルではなく薄型化もしにくいので、適用可能な分野が限定されるという欠点があったため、最近は高分子フィルムが基板として用いられている。
【0003】
半導体素子、MEMS素子、ディスプレイ素子などの機能素子を高分子フィルム表面に形成するにあたっては、高分子フィルムの特性であるフレキシビリティを利用した、いわゆるロール・ツー・ロールプロセスにて加工することが理想とされている。しかしながら、半導体産業、MEMS産業、ディスプレイ産業等の業界では、これまでウエハベースまたはガラス基板ベース等のリジッドな平面基板を対象としたプロセス技術が構築されてきた。そこで、既存インフラを利用して機能素子を高分子フィルム上に形成するために、高分子フィルムを、例えばガラス板、セラミック板、シリコンウエハ、金属板などの無機物からなるリジッドな支持体に貼り合わせ、その上に所望の素子を形成した後に支持体から剥離するというプロセスが用いられている。
【0004】
従来、高分子フィルムを支持体から剥離する方法として、レーザー光を照射することにより、高分子フィルムと支持体との間の密着力を弱め、剥離する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、レーザー光を支持体の全面に照射するため、レーザー光を照射するための大掛かりな照射装置が必要になるといった問題がある。また、レーザー光を照射するため、高分子フィルムに焦げ等が生じ、高分子フィルムの品位に影響を及ぼすといった問題がある。また、高分子フィルム表面に形成した回路やデバイス、及び、高分子フィルムに実装した素子にレーザーの光が漏れて照射されること、あるいはレーザー加熱での衝撃波が発生することにより品位に影響を与えることが懸念されている。機械的剥離についても高分子フィルムの変形に伴い、高分子フィルムそのものへの応力によるダメージおよび、高分子フィルム表面に形成した回路やデバイス、及び、高分子フィルムに実装した素子の品位に影響を及ぼすことが懸念されてきた。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高分子フィルム、高分子フィルム表面に形成した回路やデバイス、及び、高分子フィルムに実装した素子の品位に影響を与えることなく、容易に高分子フィルムを無機基板から剥離することが可能な高分子フィルムの剥離方法、電子デバイスの製造方法、及び、剥離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、高分子フィルムの剥離方法、電子デバイスの製造方法、及び、剥離装置について鋭意研究を行った。その結果、下記の構成を採用することにより、高分子フィルム、高分子フィルム表面に形成した回路やデバイス、及び、高分子フィルムに実装した素子の品位に影響を与えることなく、容易に高分子フィルムを無機基板から剥離することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下を提供する。
(1)高分子フィルムと無機基板とが密着した積層体を準備する工程Aと、
前記積層体の端部において、前記高分子フィルムと前記無機基板との間に剥離部分を形成する工程Bと、
前記工程Bの後、前記高分子フィルムの前記無機基板と密着していない非密着面と、前記剥離部分との間に静圧差を設けることにより、前記高分子フィルムを前記無機基板から剥離する工程Cとを含む高分子フィルムの剥離方法。
【0010】
前記構成によれば、機械的に剥離するのではなく、前記非密着面と前記剥離部分との間の静圧差により前記高分子フィルムを前記無機基板から剥離するため、高分子フィルムの品位に影響を与えることなく、容易に高分子フィルムを無機基板から剥離することが可能である。
【0011】
(2)前記(1)の構成において、
前記工程Aは、前記積層体の高分子フィルム上に機能素子が設けられた機能素子付きの積層体を準備する工程であることが好ましい。
【0012】
(3)前記(1)又は前記(2)の構成において、前記工程Cは、
前記高分子フィルムの前記非密着面側にローラーを配置し、前記ローラーにより、前記高分子フィルムを前記剥離部分方向に押圧する工程D-1と、
前記非密着面側を大気圧未満とする一方、前記剥離部分を大気圧とすることにより、前記静圧差を設ける工程D-2と、
前記工程D-1及び前記工程D-2の後、前記ローラーの面を前記高分子フィルムの前記非密着面に対して平行に移動させ、前記ローラーの移動に応じて前記剥離を進行させる工程D-3とを含むことが好ましい。
【0013】
前記構成によれば、ローラーの面を高分子フィルムの前記非密着面に対して平行に移動させ、前記ローラーの移動に応じて前記剥離を進行させるため、剥離スピードをコントロールすることができる。その結果、高分子フィルムに過度の負荷が掛かることを抑制することができる。
【0014】
(4)前記(3)の構成において、前記高分子フィルムと前記ローラーとの間にメッシュ状シートが配置されていることが好ましい。
【0015】
前記構成によれば、前記高分子フィルムと前記ローラーとの間にメッシュ状シートが配置されているため、剥離後の前記高分子フィルムを保持することができる。
【0016】
(5)前記(1)又は前記(2)の構成において、前記工程Cは、
前記非密着面側を大気圧以上とする一方、前記剥離部分を大気圧とする工程E-1と、
前記工程E-1の後、前記剥離部分を前記非密着面側の圧力よりも高い圧力とすることより、前記静圧差を設ける工程E-2とを含むことが好ましい。
【0017】
前記構成によれば、前記非密着面側を大気圧以上としておき、その後、前記剥離部分を前記非密着面側の圧力よりも高い圧力とすることより、前記静圧差を設け、前記高分子フィルムを前記無機基板から剥離する。前記非密着面側を大気圧以上としているため、剥離後の前記高分子フィルムを保持することができる。
【0018】
(6)前記(1)の構成において、
前記積層体の前記高分子フィルム上には、機能素子が形成されており、
前記工程Cは、
前記高分子フィルムの前記非密着面側に多孔質柔軟体を配置し、前記多孔質柔軟体に前記機能素子を埋め込みつつ、前記多孔質柔軟体により前記高分子フィルムを前記剥離部分方向に押圧する工程F-1と、
前記非密着面側を大気圧未満とする一方、前記剥離部分を大気圧とすることにより、前記静圧差を設ける工程F-2とを含むことが好ましい。
【0019】
前記構成によれば、前記多孔質柔軟体に前記機能素子を埋め込んだ状態で、前記静圧差を設け、前記高分子フィルムを前記無機基板から剥離するため、前記機能素子の位置する箇所において高分子フィルムに過度の負荷が掛かることを抑制することができる。
【0020】
(7)前記(1)、前記(3)~前記(5)の構成において、
前記積層体の前記高分子フィルム上には、機能素子が形成されており、
前記工程Cよりも前に、前記高分子フィルムの前記機能素子が設けられていない面上に、前記機能素子の厚さと同程度の厚さを有するスペーサーを設ける工程Xを含むことが好ましい。
【0021】
前記構成によれば、前記スペーサーにより高分子フィルム上の凹凸を少なくすることができる。その結果、剥離する際に、前記機能素子の位置する箇所において高分子フィルムに過度の負荷が掛かることを抑制することができる。
【0022】
(8)前記(1)、前記(3)~前記(5)の構成において、
前記積層体の前記高分子フィルム上には、機能素子が形成されており、
前記工程Cよりも前に、前記高分子フィルム上に埋め込み用部材を配置し、前記埋め込み用部材に前記機能素子を埋め込む工程Yを含むことが好ましい。
【0023】
前記構成によれば、埋め込み用部材により前記機能素子を埋め込んだ状態で、前記静圧差を設け、前記高分子フィルムを前記無機基板から剥離するため、前記機能素子の位置する箇所において高分子フィルムに過度の負荷が掛かることを抑制することができる。
【0024】
(9)高分子フィルムと無機基板とが密着した積層体と、前記積層体の前記高分子フィルム上に設けられた機能素子とを有する機能素子付きの積層体を準備する工程A-1と、
前記積層体の端部において、前記高分子フィルムと前記無機基板との間に剥離部分を設ける工程Bと、
前記工程Bの後、前記高分子フィルムの前記無機基板と密着していない側の非密着面と、前記剥離部分との間に静圧差を設けることにより、前記高分子フィルムを前記無機基板から剥離する工程Cと
を含むことを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【0025】
前記構成によれば、機械的に剥離するのではなく、前記非密着面と前記剥離部分との間の静圧差により前記高分子フィルムを前記無機基板から剥離するため、高分子フィルムの品位に影響を与えることなく、容易に高分子フィルムを無機基板から剥離することが可能である。、機能素子が設けられた高分子フィルムを無機基板から容易に剥離できるため、剥離された機能素子付きの高分子フィルムは、電子デバイスに使用することができる。
【0026】
(10)高分子フィルムと無機基板とが密着した積層体から、前記高分子フィルムを前記無機基板から剥離する剥離装置であって、
前記高分子フィルムの前記無機基板と密着していない側の非密着面と、前記積層体の端部に設けられた前記高分子フィルムと前記無機基板との剥離部分との間に静圧差を設ける静圧差形成手段を備えることを特徴とする剥離装置。
【0027】
前記構成によれば、機械的に剥離するのではなく、静圧差形成手段により形成される前記非密着面と前記剥離部分との間の静圧差により前記高分子フィルムを前記無機基板から剥離するため、高分子フィルムの品位に影響を与えることなく、容易に高分子フィルムを無機基板から剥離することが可能である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、高分子フィルムの品位に影響を与えることなく、容易に高分子フィルムを無機基板から剥離することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図2】第1実施形態に係る剥離装置の模式断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る剥離装置の模式断面図である。
【
図4】第1実施形態に係る剥離装置の変形例の模式断面図である。
【
図5】第2実施形態に係る剥離装置の模式断面図である。
【
図6】機能素子付きの積層体の一例を示す模式断面図である。
【
図7】機能素子付きの積層体の高分子フィルム上にスペーサーを設けた様子を示す模式断面図である。
【
図8】機能素子付きの積層体の高分子フィルム上に埋め込み用部材を配置し、機能素子を埋め込んだ様子を示す模式断面図である。
【
図9】第3実施形態に係る剥離装置の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下では、高分子フィルムの剥離方法について説明し、その中で、電子デバイスの製造方法、及び、剥離装置についても説明する。
【0031】
[高分子フィルムの剥離方法]
本実施形態に係る高分子フィルムの剥離方法は、
高分子フィルムと無機基板とが密着した積層体を準備する工程Aと、
前記積層体の端部において、前記高分子フィルムと前記無機基板との間に剥離部分を設ける工程Bと、
前記工程Bの後、前記高分子フィルムの前記無機基板と密着していない非密着面と、前記剥離部分との間に静圧差を設けることにより、前記高分子フィルムを前記無機基板から剥離する工程Cとを含む。
【0032】
<工程A>
本実施形態に係る高分子フィルムの剥離方法においては、まず、高分子フィルムと無機基板とが密着した積層体を準備する(工程A)。
図1は、積層体の一例を示す模式断面図である。
図1に示すように、積層体10は、無機基板12と高分子フィルム14とを備える。無機基板12と高分子フィルム14とは密着している。無機基板12と高分子フィルム14とは、図示しないシランカップリング剤層を介して密着していてもよい。
なお、本実施形態では、あらかじめ別途製造した高分子フィルムを無機基板に接着する(積層する)ことにより積層体を得ることができる。積層の方法としては、後述するシランカップリング剤を用いた積層方法の他、既存公知の接着剤、接着シート、粘着剤、粘着シートなどを適用することも可能である。また、この時、前記接着剤、前記接着シート、前記粘着剤、前記粘着シートは、無機基板側に先につけてもよく、高分子フィルム側に先につけてもよい。
また、高分子フィルムと無機基板との積層体を作製する他の方法として、高分子フィルム形成用の高分子溶液あるいは高分子の前駆体の溶液を無機基板に塗布し、乾燥および、必要に応じて化学反応を行い、無機基板上で高分子をフィルム化することにより積層体を得る方法が挙げられる。高分子溶液として可溶性ポリイミドの溶液、高分子前駆体として化学反応によりポリイミドとなるポリアミド酸溶液などを用いることにより、高分子フィルムと無機基板との積層体を得ることができる。またその際に、無機基板にシランカップリング剤処理などの表面処理を行うことにより、高分子フィルムと無機基板との接着性を制御することも好ましい態様の一つである。この時、無機基板と高分子フィルムとの剥離強度をコントロールするため、既知の易剥離な高分子層(易剥離層)と主なる高分子層(高分子フィルム)との2層構成や、主層(高分子フィルム)と無機薄膜層との2層構成としてもよい。その他、剥離力をコントロールための既存の構成を適用してもよい。
易剥離な高分子層(易剥離層)と主なる高分子層(高分子フィルム)との2層構成の場合には、易剥離な高分子層(易剥離層)と無機基板との接着力が易剥離な高分子層(易剥離層)と主なる高分子層(高分子フィルム)との接着力よりも強く接着して、主なる高分子層(高分子フィルム)と易剥離な高分子層(易剥離層)との間で剥離する設計の場合と、易剥離な高分子層(易剥離層)と主なる高分子層(高分子フィルム)との接着力が、易剥離な高分子層(易剥離層)と無機基板との接着力より強く、易剥離な高分子層(易剥離層)と無機基板との間で剥離する設計の場合がある。
易剥離な高分子層(易剥離層)と無機基板との接着力が易剥離な高分子層(易剥離層)と主なる高分子層(高分子フィルム)との接着力より強く接着して、主なる高分子層(高分子フィルム)と易剥離な高分子層(易剥離層)との間で剥離する設計の場合については、無機基板に易剥離な高分子層(易剥離層)が堆積しているものが、本発明における無機基板に相当する。
無機薄膜層との2層構成の場合には、無機薄膜層を無機基板上に製膜して、その後に無機薄膜層の上に溶液あるいは高分子の前駆体の溶液を無機基板に塗布し、乾燥および、必要に応じて化学反応を行い、無機基板上で高分子をフィルム化することにより積層体を得る方法が挙げられる。この場合、無機基板上の無機薄膜と高分子層との間で剥離することになる。この場合、無機基板に無機薄膜が堆積しているものが、本発明における無機基板に相当する。
高分子溶液ないし高分子前駆体溶液を用いる手法の変形として、溶剤を含んだ半固体状態(高粘度ペースト状)の高分子フィルムを無機基板に圧着した後に追乾燥ないし必要に応じて化学反応を行い、高分子フィルムと無機基板との積層体を得ることもできる。より具体的には、ポリエチレンテレフタレートなどの支持フィルム上に目的とする高分子溶液ないし高分子前駆体溶液を塗布し、残溶剤分がウェットベースで5~40質量%程度となるまで半乾燥させることにより、塑性変形性を有する半固体のフィルムとすることができる(グリーンフィルムないしゲルフィルムと呼ばれることもある)。このようにして得られた半固体状態のフィルムを無機基板に圧着し、乾燥と熱処理などを行えば、高分子フィルムと無機基板との積層体を得ることができる。
本実施形態において、熱可塑性の高分子を用いる場合には、高分子を無機基板上に直接溶融押し出しすることにより積層体を得ることができる。また熱可塑性の高分子フィルムの場合には、無機基板と高分子フィルムとを重ね、加圧した状態で高分子の融点ないし軟化温度まで加熱することにより両者を圧着して積層体とすることができる。
【0033】
無機基板12としては、無機物からなる基板として用いることのできる板状のものであればよく、例えば、ガラス板、セラミック板、半導体ウエハ、金属等を主体としているもの、および、これらガラス板、セラミック板、半導体ウエハ、金属の複合体として、これらを積層したもの、これらが分散されているもの、これらの繊維が含有されているものなどが挙げられる。
【0034】
無機基板12の厚さは特に制限されないが、取り扱い性の観点より10mm以下の厚さが好ましく、3mm以下がより好ましく、1.3mm以下がさらに好ましい。厚さの下限については特に制限されないが、好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.3mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上である。
【0035】
高分子フィルム14としては、特に限定されないが、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、フッ素化ポリイミドといったポリイミド系樹脂(例えば、芳香族ポリイミド樹脂、脂環族ポリイミド樹脂);ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートといった共重合ポリエステル(例えば、全芳香族ポリエステル、半芳香族ポリエステル);ポリメチルメタクリレートに代表される共重合(メタ)アクリレート;ポリカーボネート;ポリアミド;ポリスルフォン;ポリエーテルスルフォン;ポリエーテルケトン;酢酸セルロース;硝酸セルロース;芳香族ポリアミド;ポリ塩化ビニル;ポリフェノール;ポリアリレート;ポリフェニレンスルフィド;ポリフェニレンオキシド;ポリスチレン等のフィルムを例示できる。
高分子フィルム14の厚さは特に制限されないが、取り扱い性の観点より250μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。厚さの下限については特に制限されないが、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上である。
【0036】
前記シランカップリング剤層は、無機基板12と高分子フィルム14との間に物理的ないし化学的に介在し、無機基板と高分子フィルムとを密着させる作用を有する。
本実施形態で用いられるシランカップリング剤は、特に限定されないが、アミノ基を有するカップリング剤を含むことが好ましい。
前記シランカップリング剤の好ましい具体例としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、2-(3,4-エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、アミノフェニルトリメトキシシラン、アミノフェネチルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、トリス-(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、クロロメチルフェネチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、アミノフェネチルトリメトキシシラン、アミノフェニルアミノメチルフェネチルトリメトキシシランなどが挙げられる。
前記シランカップリング剤としては、前記のほかに、n-プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリクロロシラン、2-シアノエチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、デシルトリクロロシラン、ジアセトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、ドデシルリクロロシラン、ドデシルトリメトキシラン、エチルトリクロロシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、n-オクチルトリクロロシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、トリエトキシエチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリメトキシメチルシラン、トリメトキシフェニルシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ペンチルトリクロロシラン、トリアセトキシメチルシラン、トリクロロヘキシルシラン、トリクロロメチルシラン、トリクロロオクタデシルシラン、トリクロロプロピルシラン、トリクロロテトラデシルシラン、トリメトキシプロピルシラン、アリルトリクロロシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、トリクロロビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、トリクロロ-2-シアノエチルシラン、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、3-グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランなどを使用することもできる。
【0037】
前記シランカップリング剤のなかでも、1つの分子中に1個のケイ素原子を有するシランカップリング剤が特に好ましく、例えば、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、2-(3,4-エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、アミノフェネチルトリメトキシシラン、アミノフェニルアミノメチルフェネチルトリメトキシシランなどが挙げられる。プロセスで特に高い耐熱性が要求される場合、Siとアミノ基の間を芳香族基でつないだものが望ましい。
前記カップリング剤としては、前記のほかに、1-メルカプト-2-プロパノール、3-メルカプトプロピオン酸メチル、3-メルカプト-2-ブタノール、3-メルカプトプロピオン酸ブチル、3-(ジメトキシメチルシリル)-1-プロパンチオール、4-(6-メルカプトヘキサロイル)ベンジルアルコール、11-アミノ-1-ウンデセンチオール、11-メルカプトウンデシルホスホン酸、11-メルカプトウンデシルトリフルオロ酢酸、2,2’-(エチレンジオキシ)ジエタンチオール、11-メルカプトウンデシトリ(エチレングリコール)、(1-メルカプトウンデイック-11-イル)テトラ(エチレングリコール)、1-(メチルカルボキシ)ウンデック-11-イル)ヘキサ(エチレングリコール)、ヒドロキシウンデシルジスルフィド、カルボキシウンデシルジスルフィド、ヒドロキシヘキサドデシルジスルフィド、カルボキシヘキサデシルジスルフィド、テトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)チタン、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムトリブトキシモノステアレート、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、2,3-ブタンジチオール、1-ブタンチオール、2-ブタンチオール、シクロヘキサンチオール、シクロペンタンチオール、1-デカンチオール、1-ドデカンチオール、3-メルカプトプロピオン酸-2-エチルヘキシル、3-メルカプトプロピオン酸エチル、1-ヘプタンチオール、1-ヘキサデカンチオール、ヘキシルメルカプタン、イソアミルメルカプタン、イソブチルメルカプタン、3-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸-3-メトキシブチル、2-メチル-1-ブタンチオール、1-オクタデカンチオール、1-オクタンチオール、1-ペンタデカンチオール、1-ペンタンチオール、1-プロパンチオール、1-テトラデカンチオール、1-ウンデカンチオール、1-(12-メルカプトドデシル)イミダゾール、1-(11-メルカプトウンデシル)イミダゾール、1-(10-メルカプトデシル)イミダゾール、1-(16-メルカプトヘキサデシル)イミダゾール、1-(17-メルカプトヘプタデシル)イミダゾール、1-(15-メルカプト)ドデカン酸、1-(11-メルカプト)ウンデカン酸、1-(10-メルカプト)デカン酸などを使用することもできる。
【0038】
シランカップリング剤の塗布方法(シランカップリング剤層の形成方法)としては、シランカップリング剤溶液を無機基板12に塗布する方法や蒸着法などを用いることができる。なお、シランカップリング剤層の形成は、高分子フィルム14の表面に行ってもよい。
【0039】
シランカップリング剤層の膜厚は、無機基板12、高分子フィルム14等と比較しても極めて薄く、機械設計的な観点からは無視される程度の厚さであり、原理的には最低限、単分子層オーダーの厚さがあれば十分である。
【0040】
シランカップリング剤を塗布したのちに、無機基板12と高分子フィルム14とを密着させる工程と加熱する工程によって積層体の接着力を発現させることができる。密着させる方法は、特に限定されないが、ラミネート、プレスなどがある。密着と加熱は同時でもよく、順次行ってもよい。加熱方法は、特に限定されないが、オーブンに入れる、加熱ラミネート、加熱プレスなどがあり得る。
【0041】
高分子フィルムと無機基板とが密着した積層体の作製方法としては、無機基板と高分子フィルムとを別々で作製した後、密着させてもよく、この時、既知のシランカップリング剤以外の易剥離な接着剤、接着シート、粘着剤、粘着シートを使って貼り付けてもよい。また、この時、前記接着剤、前記接着シート、前記粘着剤、前記粘着シートは無機基板側に先につけてもよく、高分子フィルム側に先につけてもよい。また、高分子フィルムと無機基板とが密着した積層体の他の作製方法としては、無機基板上に、高分子フィルム形成用のワニスを塗布、乾燥させてもよい。この時、無機基板と、高分子フィルムの剥離強度をコントロールするため、既知の易剥離なワニス層(易剥離層)と主なるワニス層(高分子フィルム)との2層構成や、主層(高分子フィルム)と無機薄膜層との2層構成としてもよい。
【0042】
<工程B>
次に、積層体10の端部において、高分子フィルム14と無機基板12との間に剥離部分18を形成する(工程B)。
【0043】
剥離部分18を設ける方法としては、特に制限されないが、ピンセットなどで端から捲る方法、高分子フィルム14に切り込みを入れ、切り込み部分の1辺に粘着テープを貼着させた後にそのテープ部分から捲る方法、高分子フィルム14の切り込み部分の1辺を真空吸着した後にその部分から捲る方法等が採用できる。
高分子フィルム14に切り込みを入れる方法としては、刃物などの切削具によって高分子フィルム14を切断する方法や、レーザーと積層体10とを相対的にスキャンさせることにより高分子フィルム14を切断する方法、ウォータージェットと積層体10とを相対的にスキャンさせることにより高分子フィルム14を切断する方法、半導体チップのダイシング装置により若干ガラス層まで切り込みつつ高分子フィルム14を切断する方法などがあるが、特に方法は限定されるものではない。例えば、上述した方法を採用するにあたり、切削具に超音波を重畳させたり、往復動作や上下動作などを付け加えて切削性能を向上させる等の手法を適宜採用することもできる。
また、図示しないが、剥離部分18が再密着しないように、剥離状態を維持させるため、粘着性、接着性の無いフィルムやシートを剥離部分18に挟んでもよい。また、片面に粘着性、接着性の有るフィルムやシートを剥離部分18に挟んでもよい。また、金属部品(例えば、針)を剥離部分18に挟んでもよい。
【0044】
<工程C>
前記工程Bの後、高分子フィルム14の無機基板12と密着していない側の面(非密着面14a)と、剥離部分18との間に静圧差を設けることにより、高分子フィルム14を無機基板12から剥離する(工程C)。
【0045】
以下、工程Cの具体例について説明する。
【0046】
[第1実施形態]
図2は、第1実施形態に係る剥離装置の模式断面図である。
図2に示すように、第1実施形態に係る剥離装置20は、真空チャンバー30と、ローラー32と、真空チャック34と、ダミーフィルム36と、メッシュ状シート38とを備える。
【0047】
ローラー32は、真空チャンバー30内を移動可能に配置されている。
【0048】
真空チャック34は、積層体10を吸着して保持することができ、積層体10を吸着した状態で真空チャンバー30の上方に位置させることができる。
【0049】
ダミーフィルム36は、真空チャンバー30の上面開口に配置され、積層体10の大きさに対応した開口を有する。
【0050】
メッシュ状シート38は、真空チャンバー30の上面開口を覆うように真空チャンバー30の上面に配置されている。
【0051】
第1実施形態に係る工程Cは、工程D-1、工程D-2、及び、工程D-3を含む。剥離装置20は、以下のように動作することにより、工程D-1、工程D-2、及び、工程D-3を行う。
【0052】
まず、剥離装置20は、積層体10の無機基板12側を真空チャック34で吸着し、真空チャンバー30の上方に位置させる。この際、積層体10がダミーフィルム36の開口に位置するように位置させる。また、この際、積層体10の高分子フィルム14をメッシュ状シート38に接触させる。
【0053】
次に、剥離装置20は、高分子フィルム14の非密着面14a側にローラー32を配置し、ローラー32により、高分子フィルム14を剥離部分18方向(
図2では上方向)に押圧する(工程D-1)。
【0054】
次に、剥離装置20は、ポンプPにより真空チャンバー30内を大気圧未満とする。ここで、剥離部分18は大気圧である。これにより、高分子フィルム14の非密着面14aと、剥離部分18との間に静圧差を設ける。つまり、非密着面14a側を大気圧未満とする一方、剥離部分18を大気圧とすることにより、静圧差を設ける(工程D-2)。
なお、この状態では、ローラー32が高分子フィルム14を剥離部分18方向に押圧しているため、剥離は進行しない。
【0055】
次に、剥離装置20は、ローラー32の面(高分子フィルム14との接触面)を高分子フィルム14の非密着面14aに対して平行に移動させる。
図3は、第1実施形態に係る剥離装置の模式断面図であり、ローラーを移動させている状態を示す図である。
図3に示すように、ローラー32を剥離部分18下部から横方向(
図3では左方向)に移動させると、ローラー32による押圧が解かれた部分から順に、剥離部分18の剥離が進行する。つまり、ローラー32の面を高分子フィルム14の非密着面14aに対して平行に移動させ、ローラー32の移動に応じて剥離を進行させる(工程D-3)。その後、ローラー32を剥離部分18が形成されていた辺の対辺の直下まで移動させることにより、高分子フィルム14全体が無機基板12から剥離される。
このように、剥離装置20では、ローラー32の面を高分子フィルム14の非密着面14aに対して平行に移動させ、ローラー32の移動に応じて剥離を進行させるため、剥離スピードをコントロールすることができる。その結果、高分子フィルム14に過度の負荷が掛かることを抑制することができる。
さらにローラー32の半径を変化させることにより、高分子フィルム14の剥離角度をコントロールすることができる。例えば、ローラー32の半径を小さくすれば、高分子フィルム14はそれに従った曲率半径で剥離し、ローラー32の半径を大きくすれば、高分子フィルム14はそれに従った曲率半径で剥離する。ローラー32の半径を小さくすることで剥離装置を小型化することができ、ローラー32の半径を大きくすることで、高分子フィルム14に形成された機能素子にかかる負荷を小さくすることができる。また、後述するように、サポートパーツ33により、ローラー32のローラー径とは別に剥離の曲率半径を規定することができる。
なお、真空チャンバー30及び真空チャック34は、本発明の静圧差形成手段に相当する。
【0056】
前記ローラーの半径は、40mm以上、1000mm以下であり、より好ましくは60mm以上、100mm以下である。
前記ローラーの材質としては、ある程度の弾性を有する材質が好ましく、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム等を用いることができる。
前記ローラー材質の反発弾性率(JIS K 6255:2013)は、3~60%であることが好ましい。
前記ローラー材質のゴム硬度は、50~90であることが好ましく、非粘着性かつ帯電防止あるいは導電性のものが好ましい。
【0057】
ここで、本実施形態では、高分子フィルム14とローラー32との間にメッシュ状シート38が配置されている。高分子フィルム14とローラー32との間にメッシュ状シート38が配置されているため、剥離後の高分子フィルム14を保持することができる。メッシュ状シート38としては、通気性があり、且つ、ある程度の強度を有していればよく、例えば、公知のスクリーンメッシュ等を用いることができる。
なお、本実施形態では、メッシュ状シート38を用いる場合について説明したが、剥離装置20において、メッシュ状シートを配置しない構成としてもよい。この場合、剥離した高分子フィルム14を都度、真空チャンバー30内から取り出せばよい。
【0058】
前記メッシュ状シートの材質としては、適度に弾性変形する材質であることが好ましく、具体的にはポリエステルフィラメント、ナイロンフィラメント、ステンレスワイヤ等が用いられたメッシュカウント#80以上#600以下の範囲のメッシュ状シートであることが好ましい。また、帯電防止または導電性のものであることが好ましい。
【0059】
図4は、第1実施形態に係る剥離装置の変形例の模式断面図である。
図4に示すように、剥離装置22は、上記で説明した剥離装置20に対して、サポートパーツ33を追加した装置である。
【0060】
サポートパーツ33は、ローラー32と接続されており、ローラー32の移動に従って連動して移動する。サポートパーツ33は、その上面が、ローラー32の面(高分子フィルム14との接触面)と同じ高さとなるように配置されている。
【0061】
剥離装置22は、上記の剥離装置20と同様の動作を行う。ただし、剥離装置22では、サポートパーツ33が設けられているため、剥離後の高分子フィルム14を支えることができる。従って、高分子フィルム14の剥離された部分が大きく垂れ下がるのを防止することができる。
【0062】
(機能素子が形成された)高分子フィルムと無機基板との剥離角度は1度以上30度以下となるように制御することが好ましい。より好ましくは1度以上10度以下である。前記範囲内に収めることにより、機能素子にダメージを与えることなく、効率的に剥離を行うことが可能となる。
なお本明細書における剥離角度はメッシュ厚、フィルム厚、および、ローラーの半径に依存する。剥離するフィルム厚に応じて適切なメッシュ厚とローラー半径を選択することで、剥離角度を所定の範囲に収めることができる。
本実施形態では、剥離後の高分子フィルムと無機基板は、ローラーで押されていないため概略平行で数mm離れている。そのため、一旦剥離した高分子フィルムは真空吸着されたまま無機基板とは再度接触しない。
【0063】
以上、第1実施形態に係る工程C(工程D-1、工程D-2、及び、工程D-3を含む工程C)について説明した。
【0064】
[第2実施形態]
図5は、第2実施形態に係る剥離装置の模式断面図である。
図5に示すように、第2実施形態に係る剥離装置40は、真空チャック34と、ダイヤフラム42とを備える。
【0065】
真空チャック34は、積層体10を吸着して保持することができ、積層体10を吸着した状態でダイヤフラム42の上方に位置させることができる。
【0066】
ダイヤフラム42は、弾性薄膜であり、面で積層体10を押圧することができる。具体的には、ダイヤフラム42の下側に図示しない加圧装置が設置されており、前記加圧装置による加圧により、ダイヤフラム42(弾性薄膜)の面が積層体10に押圧される。後述するように、ダイヤフラム42は弾性薄膜であるため、高分子フィルム14上に機能素子18が設けられていたとしても、高分子フィルム14と機能素子18との表面に沿ってほぼ均一に積層体10を押圧することができる。なお、本実施形態では、ダイヤフラム42を用いる場合について説明するが、面で積層体10を押圧することができればダイヤフラムに限定されない。
【0067】
第2実施形態に係る工程Cは、工程E-1、及び、工程E-2を含む。剥離装置40は、以下のように動作することにより、工程E-1、及び、工程E-2を行う。
【0068】
まず、剥離装置40は、積層体10の無機基板12側を真空チャック34で吸着し、ダイヤフラム42の上方に位置させる。
【0069】
次に、剥離装置40は、ダイヤフラム42を動作させて積層体10を押圧し、高分子フィルム14の非密着面14a側を大気圧以上とする。なお、剥離部分18は大気圧である。つまり、非密着面14a側を大気圧以上とする一方、剥離部分18を大気圧とする(工程E-1)。
なお、この状態では、ダイヤフラム42が高分子フィルム14を剥離部分18方向に押圧しているため、剥離は進行しない。
【0070】
次に、剥離装置40は、剥離部分18を非密着面14a側の圧力よりも高い圧力とすることより、高分子フィルム14の非密着面14aと、剥離部分18との間に静圧差を設ける(工程E-2)。例えば、剥離装置40全体を高圧チャンバー内に配置しておき、高圧チャンバー内を加圧することにより、剥離部分18を非密着面14a側の圧力よりも高い圧力とする。これにより、剥離部分18から順次剥離が広がり、高分子フィルム14が無機基板12から剥離される。
剥離装置40では、非密着面14a側を大気圧以上としているため、剥離後の高分子フィルム14を保持することができる。
なお、真空チャック34及びダイヤフラム42は、本発明の静圧差形成手段に相当する。
【0071】
以上、第2実施形態に係る工程C(工程E-1、及び、工程E-2を含む工程C)について説明した。
【0072】
上述した第1実施形態、第2実施形態では、無機基板12と高分子フィルム14とが密着した積層体10を用い、高分子フィルム14を無機基板12から剥離する場合について説明した。
しかしながら、本発明においてはこの例に限定されず、前記積層体の高分子フィルム上に機能素子が設けられた機能素子付きの積層体を用い、機能素子付き高分子フィルムを無機基板から剥離してもよい。この場合、積層体10を準備する工程Aの代わりに、機能素子付きの積層体11を準備する工程A-1を行えばよい。
【0073】
図6は、機能素子付きの積層体の一例を示す模式断面図である。
図6に示すように、機能素子付きの積層体11は、積層体10(無機基板12と高分子フィルム14とが密着した積層体)と、積層体10の高分子フィルム14上に設けられた機能素子16とを有する。
【0074】
機能素子付きの積層体11を用い、機能素子付き高分子フィルム14を無機基板12から剥離する場合、以下に説明するスペーサーを用いることが好ましい。つまり、前記工程Cよりも前に、高分子フィルム14の機能素子16が設けられていない面上に、機能素子16の厚さと同程度の厚さを有するスペーサー62を設ける工程Xを行うことが好ましい。
【0075】
図7は、機能素子付きの積層体の高分子フィルム上にスペーサーを設けた様子を示す模式断面図である。
図7では、高分子フィルム14の機能素子16が設けられていない面上に、機能素子16の厚さと同程度の厚さを有するスペーサー62が設けられている。
【0076】
第1実施形態、及び、第2実施形態において、スペーサー62を用いた場合、つまり、工程Cの前に工程Xを行う場合、スペーサー62により高分子フィルム14上の凹凸を少なくすることができる。その結果、剥離する際に、機能素子16の位置する箇所において高分子フィルム14に過度の負荷が掛かることを抑制することができる。
【0077】
機能素子付きの積層体11を用い、機能素子付き高分子フィルム14を無機基板12から剥離する場合、以下に説明する埋め込み用部材を用いることも好ましい。つまり、前記工程Cよりも前に記高分子フィルム14上に埋め込み用部材64を配置し、埋め込み用部材64に機能素子16を埋め込む工程Yを行うことが好ましい。
【0078】
埋め込み用部材64としては、硬質シートに塑性変形可能な樹脂組成物を塗布したものであっても良いし、硬質シートに塑性変形可能な樹脂組成物を貼付したものであっても良い。また、粘着性を有していても良く、埋め込み用部材自体が機能素子の保護層としての役割を有していても良い。
【0079】
図8は、機能素子付きの積層体の高分子フィルム上に埋め込み用部材を配置し、機能素子を埋め込んだ様子を示す模式断面図である。
図8では、高分子フィルム14上に埋め込み用部材64を配置し、埋め込み用部材64に機能素子16が埋め込まれている。埋め込み用部材64の上面(機能素子16とは反対側の面)には、硬質シート66が配置されている。
【0080】
第1実施形態、及び、第2実施形態において、埋め込み用部材64を用いた場合、つまり、工程Cの前に工程Yを行う場合、埋め込み用部材64により機能素子16を埋め込んだ状態で、静圧差を設け、高分子フィルム14を無機基板12から剥離するため、機能素子16の位置する箇所において高分子フィルム14に過度の負荷が掛かることを抑制することができる。
【0081】
[第3実施形態]
第3実施形態では、機能素子付きの積層体11から、機能素子16付きの高分子フィルム14を剥離する場合について説明する。
【0082】
図9は、第3実施形態に係る剥離装置の模式断面図である。
図9に示すように、第3実施形態に係る剥離装置50は、真空チャンバー30と、真空チャック34と、ダミーフィルム36と、多孔質柔軟体52とを備える。
【0083】
真空チャンバー30、真空チャック34、ダミーフィルム36については第1実施形態の項にてすでに説明したのでここでの説明は省略する。
【0084】
多孔質柔軟体52は、真空チャンバー30内に配置され、上側に機能素子付きの積層体11が配置された際には、機能素子16を埋め込むことが可能である。多孔質柔軟体52としては、多孔質であり、且つ、柔軟性を有するものであれば、特に限定されない。多孔質柔軟体52の材質としては、高分子多孔質体、金属多孔質体、セラミックス多孔質体いずれも使用可能である。高分子多孔質体としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタアクリル、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂などが使用される。金属多孔質体としては、Cu、SUS、チタンなどが使用される。セラミックス多孔質体としてはアルミナ、窒化アルミ、窒化ケイ素、ジルコニアなどが使用される。
【0085】
第3実施形態に係る工程Cは、工程F-1、及び、工程F-2を含む。剥離装置50は、以下のように動作することにより、工程F-1、及び、工程F-2を行う。
【0086】
まず、剥離装置50は、機能素子付きの積層体11の無機基板12側を真空チャック34で吸着し、真空チャンバー30の上方に位置させる。この際、積層体10がダミーフィルム36の開口に位置するように位置させる。
【0087】
次に、剥離装置50は、真空チャンバー30内に配置された多孔質柔軟体52に機能素子16を埋め込みつつ、多孔質柔軟体52により高分子フィルム14を剥離部分18方向に押圧する(工程F-1)。
【0088】
次に、剥離装置50は、ポンプPにより真空チャンバー30内を大気圧未満とする。ここで、剥離部分18は大気圧である。これにより、高分子フィルム14の非密着面14aと、剥離部分18との間に静圧差を設ける。つまり、非密着面14a側を大気圧未満とする一方、剥離部分18を大気圧とすることにより、静圧差を設ける(工程F-2)。これにより、剥離部分18から順次剥離が広がり、機能素子16付きの高分子フィルム14が無機基板12から剥離される。
【0089】
剥離装置50では、多孔質柔軟体52に機能素子16を埋め込んだ状態で、静圧差を設け、高分子フィルム14を無機基板12から剥離するため、機能素子16の位置する箇所において高分子フィルム14に過度の負荷が掛かることを抑制することができる。
なお、真空チャンバー30及び真空チャック34は、本発明の静圧差形成手段に相当する。
【0090】
前記工程Cにより剥離された機能素子16付きの高分子フィルム14は、電子デバイス、特に、フレキシブル電子デバイスとして使用することができる。つまり、前記工程A-1、前記工程B、及び、前記工程Cを含む方法は、電子デバイスの製造方法でもある。
【0091】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述した例に限定されるものではなく、本発明の構成を充足する範囲内で、適宜設計変更を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0092】
10 積層体
11 機能素子付きの積層体
12 無機基板
14 高分子フィルム
14a 非密着面
16 機能素子
18 剥離部分
20、22、40、50 剥離装置
30 真空チャンバー
32 ローラー
33 サポートパーツ
34 真空チャック
36 ダミーフィルム
38 メッシュ状シート
42 ダイヤフラム
52 多孔質柔軟体
62 スペーサー
64 埋め込み用部材
66 硬質シート