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特許7336092分解安定型フィルター工法および港湾施設の防砂構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】分解安定型フィルター工法および港湾施設の防砂構造
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/06 20060101AFI20230824BHJP
   E02D 23/00 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
E02B3/06
E02D23/00 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023107143
(22)【出願日】2023-06-29
【審査請求日】2023-06-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 高二朗
(72)【発明者】
【氏名】山縣 史朗
(72)【発明者】
【氏名】石坂 修
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-168280(JP,A)
【文献】特開2018-155040(JP,A)
【文献】特開2019-60208(JP,A)
【文献】特許第6283765(JP,B1)
【文献】特許第6327691(JP,B1)
【文献】中国特許出願公開第112900357(CN,A)
【文献】特開2004-183173(JP,A)
【文献】特開2013-19134(JP,A)
【文献】特開2005-126935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/06
E02D 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎マウンド上に港湾施設を設置し、港湾施設の背面側に裏込石と埋立土砂とを設け、前記埋立土砂の吸出しを防止する分解安定型フィルター工法であって、
前記裏込石の表面を、フェールセーフ機能を有する分解安定型フィルターで被覆し、
前記分解安定型フィルターは上下シートを異質の素材の組み合わせで形成した袋体と、該袋体に封入する石材製のフィルター材とからなり、
前記袋体は溶解性または分解性のシート素材からなる下シートと、防砂機能を有する上シートとを組み合わせた有底構造を呈し、
前記分解安定型フィルターは下シートを裏込石の表面に接して敷設すると共に、上シートに接して埋立土砂を埋め立てて埋設し、
前記分解安定型フィルターの自重で下シートが破れると分解安定型フィルターから放出されたフィルター材が裏込石の表層部の石材の間に入り込んで裏込石の表層部に石材フィルター層を形成し、
前記石材フィルター層と上シートとの協働で防砂機能を発揮することを特徴とする、
分解安定型フィルター工法。
【請求項2】
基礎マウンド上に港湾施設を設置し、港湾施設の背面側に裏込石と埋立土砂を設けた港湾施設の防砂構造であって、
前記裏込石の表面を、フェールセーフ機能を有する分解安定型フィルターで被覆し、
前記分解安定型フィルターは上下シートを異質の素材の組み合わせで形成した袋体と、該袋体に封入する石材製のフィルター材とからなり、
前記袋体は溶解性または分解性のシート素材からなる下シートと、防砂機能を有する上シートとを組み合わせた有底構造を呈し、
前記分解安定型フィルターは下シートを裏込石の表面に接して敷設すると共に、上シートに接して埋立土砂を埋め立てて埋設し、
前記分解安定型フィルターは下シートが破れる前はフィルター材と上シートとの協働で防砂機能を発揮し、
前記分解安定型フィルターの下シートが破れた後は分解安定型フィルターから自重で放出されたフィルター材が裏込石の表層部の石材の間に入り込んで裏込石の表層部に形成された石材フィルター層と上シートとの協働で防砂機能を発揮することを特徴とする、
港湾施設の防砂構造。
【請求項3】
前記分解安定型フィルターの下シートが生分解性シート製であることを特徴とする、請求項2に記載の港湾施設の防砂構造。
【請求項4】
前記分解安定型フィルターの上シートが高強度の多重布、高強度の不織布シートまたは高強度の土木シートの何れかひとつであることを特徴とする、請求項2に記載の港湾施設の防砂構造。
【請求項5】
前記分解安定型フィルターの全体形状が棒状、マット状または座布団状の何れかひとつであることを特徴とする、請求項2に記載の港湾施設の防砂構造。
【請求項6】
前記分解安定型フィルターが裏込石の表面に隙間なく敷き並べてあることを特徴とする、請求項2に記載の港湾施設の防砂構造。
【請求項7】
前記フィルター材が裏込石より小径で、かつ埋立土砂以下の粒径を有する異径石材の混合物であることを特徴とする、請求項2に記載の港湾施設の防砂構造。
【請求項8】
前記港湾施設が新設の港湾施設または既設の港湾施設であることを特徴とする、請求項2に記載の港湾施設の防砂構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分解安定型フィルター工法および港湾施設の防砂構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図7に示すように、基礎マウンドa上にケーソン躯体bを設置し、ケーソン躯体bの背面側(陸側)に、割栗石等からなる裏込石c、防砂シートd、埋立土砂eの順に形成した港湾施設の防砂構造が知られている(特許文献1,2)。
本防砂構造では、裏込石cの表面を被覆する防砂シートdが埋立土砂eの吸出しを防止する。
【0003】
実際の施工では、防砂シートdを敷設した直後に埋立土砂eを埋設することはなく、工事計画の関係から埋立土砂eの埋め戻しの着手までに数年を要する場合がある。
このような現場では、防砂シートdの敷設後に防砂シートdが露出した状態で長期間に亘って放置されることが知られている。
【0004】
さらに図8に示す港湾施設の防砂構造が知られている。
この港湾施設の砂防構造は、ケーソン躯体bの背面側(陸側)に、裏込石c(割栗石等)、フィルター層h、防砂シートd、埋立土砂eの順に形成している。
フィルター層hは裏込石cと埋立土砂eの径の中間径を有する砕石等の石材であり、裏込石cの裏面を被覆する。
本砂防構造では、フィルター層hと防砂シートdが協働して埋立土砂eの吸出しを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6283765号公報(図8
【文献】特許第6327691号公報(図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図7に示した港湾施設の防砂技術にはつぎのような問題点を内包する。
<1>砂防構造では、防砂シートdの敷設作業時や放置期間中に防砂シートdが損傷を受け易いだけでなく、敷設後においても目地透過波並びに基礎マウンド透過波の繰り返しにより防砂シートdが損傷を受ける。
防砂シートdが損傷を受けて破損すると、破損部fを通じて埋立土砂eが外部へ流出するといった問題点を内包している。
<2>埋立土砂eが流出すると、埋立土砂eの内部に空洞gができ、空洞gが大きく成長すると臨海部の地表に陥没事故を誘発する危険がある。
【0007】
図8に示した港湾施設の防砂技術にはつぎのような問題点を内包する。
<1>勾配がついた裏込石cの表面に均一厚に石材を敷き詰めてフィルター層hを形成する作業が極めて困難である。
そのため、フィルター層hを形成する際の施工性が悪く施工コストが高くつく。
<2>フィルター層用の石材は、粒径の異なる大小様々な石材を含んでいる。
これらの石材を海上から投入すると、沈降過程で小径の石材が流失してしまい、石材ロスが発生する。
<3>小径の石材が流出すると、石材の流出量に比例してフィルター層hによるフィルター機能が著しく低下する。
<4>小径石材の流失を抑制するため、管体を用いてフィルター層用の石材を投入する方法があるが、管体を用いてフィルター層を形成するために多くの時間と労力を要して施工性と施工コストに問題がある。
<5>防砂シートdが露出した状態で長期間に亘って放置されると、防砂シートdが破れる問題と、フィルター層hの石材が波際で浸食崩壊を起こしやすい。
【0008】
本発明は既述した課題を解決するために、簡易な施工で以て高い防砂性能を発揮できる、分解安定型フィルター工法および港湾施設の防砂構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基礎マウンド上に港湾施設を設置し、港湾施設の背面側に裏込石と埋立土砂とを設け、前記埋立土砂の吸出しを防止する分解安定型フィルター工法であって、前記裏込石の表面を、フェールセーフ機能を有する分解安定型フィルターで被覆し、前記分解安定型フィルターは上下シートを異質の素材の組み合わせで形成した袋体と、該袋体に封入する石材製のフィルター材とからなり、前記袋体は溶解性または分解性のシート素材からなる下シートと、防砂機能を有する上シートとを組み合わせた有底構造を呈し、前記分解安定型フィルターは下シートを裏込石の表面に接して敷設すると共に、上シートに接して埋立土砂を埋め立てて埋設し、前記分解安定型フィルターの自重で下シートが破れると分解安定型フィルターから放出されたフィルター材が裏込石の表層部の石材の間に入り込んで裏込石の表層部に石材フィルター層を形成し、前記石材フィルター層と上シートとの協働で防砂機能を発揮する。
本発明は、基礎マウンド上に港湾施設を設置し、港湾施設の背面側に裏込石と埋立土砂を設けた港湾施設の防砂構造であって、前記裏込石の表面を、フェールセーフ機能を有する分解安定型フィルターで被覆し、前記分解安定型フィルターは上下シートを異質の素材の組み合わせで形成した袋体と、該袋体に封入する石材製のフィルター材とからなり、前記袋体は溶解性または分解性のシート素材からなる下シートと、防砂機能を有する上シートとを組み合わせた有底構造を呈し、前記分解安定型フィルターは下シートを裏込石の表面に接して敷設すると共に、上シートに接して埋立土砂を埋め立てて埋設し、前記分解安定型フィルターは下シートが破れる前はフィルター材と上シートとの協働で防砂機能を発揮し、前記分解安定型フィルターの下シートが破れた後は分解安定型フィルターから自重で放出されたフィルター材が裏込石の表層部の石材の間に入り込んで裏込石の表層部に形成された石材フィルター層と上シートとの協働で防砂機能を発揮する。
本発明の他の形態において、前記分解安定型フィルターの下シートが生分解性シート製である。
本発明の他の形態において、前記分解安定型フィルターの上シートが高強度の多重布、高強度の不織布シートまたは高強度の土木シートの何れかひとつである。
本発明の他の形態において、前記分解安定型フィルターの全体形状が棒状、マット状または座布団状の何れかひとつである。
本発明の他の形態において、前記分解安定型フィルターが裏込石の表面に隙間なく敷き並べてある。
本発明の他の形態において、前記フィルター材が裏込石より小径で、かつ埋立土砂以下の粒径を有する異径石材の混合物である。
本発明の他の形態において、前記港湾施設が新設の港湾施設または既設の港湾施設である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は以上の構成により、次の効果のうち少なくとも一つを備える。
<1>分解安定型フィルターと裏込石との組み合わせにより高い防砂性能を発揮することができる。
<2>フィルター材を袋体に封入して製作した分解安定型フィルターを裏込石の表面に敷設するだけの簡単な作業で以て、フィルター材を勾配のある裏込石の表面に均一厚に形成する作業と、防砂機能を有する上シートの敷設作業を同時に行うことができる。
したがって、港湾施設の背面側の防砂工事を短期間のうちに経済的に行うことができる。
<3>分解安定型フィルターの敷設後に所定期間を経過すると、袋体内のフィルター材が自重で放出される構造である。
そのため、内部のフィルター材が裏込石の石材の間に入り込み、裏込石の表層部にフィルター性能が非常に高い石材フィルター層を、人の手を借りずに自動的に形成することができる。
<4>フィルター材は粒度にバラツキがあると100%の防砂機能を保障できず、上シートも施工時にキズを受けると100%の防砂機能を保障できない。
石材フィルター層はこれらフィルター材と上シートの防砂リスクを解消できて、優れた耐久性と高いフィルター機能を発揮することができる。
<5>フィルター材が袋体に封入されているので、施工中だけでなく施工後においてフィルター材の散乱を確実に防止できて、フィルター材のロスをなくすことができる。
<6>フィルター材を予め袋体に封入した状態で敷設するので、フィルター材の層厚を均一にできる。
<7>下シートが破れるまでの期間は、分解安定型フィルターのフィルター材と上シートとの協働により高い防砂性能を発揮できる。
<8>万一、上シートが破損しても、石材フィルター層が防砂機能を保持できるので、埋立土砂の吸出しを長期間に亘って防止できる。
<9>本発明は、新規の港湾施設だけでなく、既設の港湾施設の補修工事にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】分解安定型フィルター工法の説明図
図2】分解安定型フィルターの説明図で、(A)は棒状の分解安定型フィルターのモデル図、(B)マット状の分解安定型フィルターのモデル図、(C)は座布団状の分解安定型フィルターのモデル図
図3】フィルター材の放出前における裏込石と分解安定型フィルターと埋立土砂の境界部の拡大断面図
図4】フィルター材の放出後における裏込石と分解安定型フィルターの境界部の拡大断面図
図5】分解安定型フィルターの製造例の説明図
図6】裏込石の表面に分解安定型フィルターを敷設した港湾施設の防護構造の説明図
図7】裏込石の表面に敷設した防砂シートで埋立土砂の吸出しを防止する従来の港湾施設の防砂構造の説明図
図8】裏込石の表面に敷設したフィルター層と防砂シートで埋立土砂の吸出しを防止する他の従来の港湾施設の防砂構造の説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照しながら本発明について説明する。
【0013】
<1>港湾施設
図1を参照して説明すると、本発明が前提とする港湾施設は、コンクリート製の護岸や岸壁を含む。
【0014】
本例では港湾施設がケーソン式の護岸である場合について説明する。
基礎マウンド11上にはケーソン躯体10を設置し、ケーソン躯体10の背面側(陸側)に裏込石12(割栗石等)と埋立土砂20を有する。
【0015】
<2>分解安定型フィルター
本発明では、埋立土砂20の吸出しを防止するため、裏込石12の表面を、フェールセーフ機能を有する分解安定型フィルター30で被覆する。
分解安定型フィルター30は裏込石12の表面に隙間なく敷き並べる防砂構造体である。
分解安定型フィルター30は、上下シートを異質の素材を組み合わせた袋体31と、袋体31に封入する石材製のフィルター材32とからなる。
分解安定型フィルター30の全体形状は特に制限がないが、例えば図2に例示した何れかひとつを適用できる。
図2の(A)は分解安定型フィルター30の全体形状が棒状の形態を示し、(B)はマット状の形態を示し、(C)座布団状(円形または方形等)の形態を示している。
【0016】
マット状の形態は、複数の棒状体を並列に並べて筏状に一体化した形態を含む。
座布団状の形態は平面形状が円形または方形の形状を含む。
【0017】
分解安定型フィルター30の容量は適宜選択が可能である。
【0018】
<2.1>袋体
図3を参照して説明すると、袋体31は可撓性を有する有底構造の袋体であり、裏込石12の表面と接する下シート31aと、埋立土砂20と接する上シート31bとを有する。
下シート31aと上シート31bを重ね合わせ、周辺部を接合して有底構造の袋本体を形成する。
袋体31の一部に単数または複数の開口を設け、これらの開口を通じて袋体31の内部にフィルター材32を充填して分解安定型フィルター30を製作する。
【0019】
<2.1.1>下シート
下シート31aは、分解安定型フィルター30の敷設後に消失してフィルター材32を放出できるように、溶解性または分解性のシート素材からなる。
下シート31aの素材としては、例えば生分解性シートを使用できる。
また下シート31aはその全面を溶解性または分解性の素材で形成するが、下シート31aの一部分に溶解性または分解性の素材を用いてもよい。
【0020】
分解安定型フィルター30の敷設を完了するまでの間は、下シート31aが溶解または分解せずにフィルター材32の収容機能を保持している。下シート31aは分解安定型フィルター30の敷設後の所定の時期にフィルター材32を放出し得るようにシートの強度が著しく低下する。
【0021】
下シート31aが破れてフィルター材32の収容機能を喪失する時期は、下シート31aの素材の選択、またはシート厚等を選択することで適宜調節することができる。
【0022】
下シート31aを分解安定型フィルター30の敷設後に強度を低下するように構成するのは、分解安定型フィルター30からフィルター材32を放出させて、裏込石12の表層部に石材フィルター層40を形成するためである(図4)。
【0023】
<2.1.2>上シート
上シート31bは非溶解性または非分解性の高強度のシート材であって、防砂機能を有するシート素材である。
上シート31bとしては、例えば高強度の多重布、高強度の不織布シート、高強度の土木シート等の防砂機能を具備したシート状物を使用できる。
【0024】
<2.2>フィルター材
袋体31にはフィルター用の石材であるフィルター材32を収容する。
フィルター材32は、裏込石12と埋立土砂20に対して適宜の粒径比を有している。
フィルター材32の裏込石12に対する粒径比は埋立土砂20に対する粒径比より大きい。
【0025】
フィルター材32は裏込石より小径で、かつ埋立土砂20以下の粒径を有する異径石材の混合物である。
実際に使用するフィルター材32としては、土粒子から砂利等を含む粒径が異なる石材を用いることの他に、埋立土砂20と同じ粒径の土砂を用いることも可能である。
【0026】
フィルター材32を袋体31に収容してユニット化して使用するので、施工作業中や敷設直後において、海中でのフィルター材32の分離や流出を効果的に防止できる。
【0027】
<3>分解安定型フィルターの製造方法
分解安定型フィルター30は、現場近くで製作するか、製造環境の整った工場内で製造したものを現場へ搬入して使用する。
【0028】
図5に例示した分解安定型フィルター30の製造方法について説明する。
有底構造を呈する複数のチューブ33を連鎖的に形成した袋体31を準備する。
複数の充填口34を真上に向けて袋体31を縦向きに支持する。
袋体31の上方に配置した充填ホッパ35内にフィルター材32を収容させておく。
充填ホッパ35内にフィルター材32を、開口34を通じて袋体31の内部に充填した後、各充填口34を閉じて分解安定型フィルター30を製作できる。
分解安定型フィルター30の製造方法はこの例示に限定されず、袋体31の全体形状等や袋体31の容量等を考慮して製造する。
【0029】
[分解安定型フィルター工法]
分解安定型フィルター工法(港湾施設の防砂方法)について説明する。
【0030】
1.新設の港湾施設への適用例
図6を参照しながら新設の港湾施設に適用した防砂方法について説明する。
【0031】
<1>港湾施設の構築工
基礎マウンド11上にケーソン躯体10を設置し、ケーソン躯体10の背面側(陸側)に裏込石12を形成する。
【0032】
<2>分解安定型フィルターの敷設工
つぎに裏込石12の表面に既述した分解安定型フィルター30を敷設する。
裏込石12の表面に分解安定型フィルター30を敷設する。
このとき、分解安定型フィルター30の下シート31aを裏込石12へ向け、上シート31bを裏込石12の離隔方向へ向けて敷設する。
【0033】
本発明では、分解安定型フィルター30のフィルター材32を予め袋詰してあるので、分解安定型フィルター30を敷設するだけでの簡単な作業で以て、裏込石12の表面に均一厚にフィルター材32を形成する作業と、防砂シートを兼ねた上シート31bの敷設作業を同時に行うことができる。
これら二つの作業を個別に行う場合と比べて、作業性が非常によくなる。
【0034】
さらに、フィルター材32は袋体31に封入されているので、分解安定型フィルター30が波力を受けてもフィルター材32の拡散を確実に防止することができて、フィルター材32のロスがなくなるだけでなく、フィルター材32の浸食崩壊も効果的に防止できる。
【0035】
2.既設の港湾施設への適用例
図1を参照しながら既設の港湾施設に適用した防砂方法について説明する。
分解安定型フィルター30は新規の港湾施設に適用できるだけでなく、既設の港湾施設の補修工事にも適用可能である。
【0036】
既設の港湾施設の補修工事に適用する場合は、ケーソン躯体10の目地部を封止して締め切る第1工程と、埋立土砂20を掘削する第2工程と、露出した裏込石12の表面に分解安定型フィルター30を敷設する第3工程と、埋立土砂20を埋め戻す第4工程を経て行う。
【0037】
〔分解安定型フィルターの防砂機能〕
フィルター材32の放出前と放出後における分解安定型フィルター30の防砂機能について説明する。
【0038】
<1>フィルター材の放出前
図3は裏込石12の表面に敷設した分解安定型フィルター30の下シート31aが破れる前の分解安定型フィルター30と裏込石12の境界部の拡大図を示している。
【0039】
分解安定型フィルター30の敷設後に所定の期間が経過するまでは、下シート31aが所定の強度を保持するので、フィルター材32の収容状態を維持する。
【0040】
フィルター材32が防砂機能を有し、上シート31bが防砂シート機能を有する(第1フェールセーフ機能)。
したがって、分解安定型フィルター30の背面側が埋立土砂20で埋め立てられている場合は、全体が防砂構造物として機能する分解安定型フィルター30により埋立土砂20の吸出しを確実に防止できる。
【0041】
<2>フィルター材の放出後
図4は裏込石12の表面に敷設した分解安定型フィルター30の下シート31aが破れたときの分解安定型フィルター30と裏込石12の境界部の拡大図を示している。
【0042】
分解安定型フィルター30の敷設後に所定の期間が経過すると、下シート31aが溶解または分解により強度が著しく低下する。
下シート31aの強度が低下すると、フィルター材32が自重で下シート31aを突き破って落下する。
分解安定型フィルター30から放出されたフィルター材32の一部は、裏込石12の表層部の石材の間に入り込んで、裏込石12の表層部に石材フィルター層40を形成する。
【0043】
下シート31aの消失時期を調整することで、石材フィルター層40の大まかな形成時期を適宜調節することができる。
【0044】
フィルター材32と裏込石12との組み合わせで構成される石材フィルター層40は、高い防砂機能を発揮する。
さらに分解安定型フィルター30に消失せずに残った上シート31bが、防砂シートとして機能する。
【0045】
すなわち、石材フィルター層40および上シート31bが協働して防砂機能を発揮する(第2フェールセーフ機能)。
そのため、仮に上シート31bが破損しても、石材フィルター層40が防砂機能を保持して、埋立土砂20の吸出しを長期間に亘って防止できる(長期耐久性)。
【符号の説明】
【0046】
10ケーソン躯体
11・・・・基礎マウンド
12・・・・裏込石
20・・・・埋立土砂
30・・・・分解安定型フィルター
31・・・・袋体
31a・・・下シート
31b・・・上シート
32・・・・フィルター材
33・・・・チューブ
34・・・・注入口
35・・・・充填ホッパ
40・・・・石材フィルター層
【要約】
【課題】簡易な施工で以て高い防砂性能を発揮できる、分解安定型フィルター工法および港湾施設の防砂構造を提供すること。
【解決手段】裏込石12の表面を分解安定型フィルター30で被覆する。分解安定型フィルター30は袋体31とフィルター材32とからなり、袋体31は溶解性または分解性の下シート31aと、防砂機能を有する上シート31bとを組み合わせ形成する。分解安定型フィルター30は下シート31aを裏込石12の表面に接して敷設し、分解安定型フィルター30の下シート31aが破れた後は分解安定型フィルターから自重で放出されたフィルター材32が裏込石12の表層部の石材の間に入り込んで石材フィルター層を形成する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8