(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】高周波焼入装置、並びに、長尺状ワークの支持装置
(51)【国際特許分類】
C21D 9/00 20060101AFI20230824BHJP
C21D 1/10 20060101ALI20230824BHJP
C21D 1/42 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
C21D9/00 H
C21D1/10 E
C21D1/42 H
C21D9/00 A
(21)【出願番号】P 2019092908
(22)【出願日】2019-05-16
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390026088
【氏名又は名称】富士電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】溝脇 貴人
(72)【発明者】
【氏名】三浦 健吾
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-157753(JP,A)
【文献】特開昭57-192217(JP,A)
【文献】特開2015-010261(JP,A)
【文献】実開昭52-139308(JP,U)
【文献】米国特許第04599502(US,A)
【文献】中国特許出願公開第102002575(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/02- 1/84
C21D 9/00- 9/44, 9/50
H05B 6/00- 6/10, 6/14- 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱コイルと、当該加熱コイルを直線移動させる移動手段を有し、
両端が回転可能に支持された長尺状ワークに前記加熱コイルが近接対向しており、前記移動手段が加熱コイルを長尺状ワークの長手方向に沿って移動させ、長尺状ワークを一端側から他端側へ順に高周波焼入する高周波焼入装置であって、
前記長尺状ワークの中間の部位を支持する支持装置を有し、
前記支持装置は、重量支持部材と、
チャックを有し、
前記重量支持部材は、長尺状ワークの重量を支持する支持位置と、前記支持位置から離間した退避位置の間を
昇降装置によって移動できる複数の回転支持体を有し、
前記
チャックは、複数の
チャック爪部を有し、
前記各
チャック爪部は、複数の回転保持体を有し、
前記各
チャック爪部は、対向配置されていて互いの距離を変更するように移動が可能であり、
各
チャック爪部の各回転保持体は、互いに接近して前記回転支持体で支持された長尺状ワークの周囲に触れた状態で位置を固定可能であることを特徴とする高周波焼入装置。
【請求項2】
対向配置された各
チャック爪部の前記各回転保持体は、長尺状ワークに対して互いに相殺される押圧力を付与することを特徴とする請求項1に記載の高周波焼入装置。
【請求項3】
前記回転保持体は、長尺状ワークの長手方向と平行な回転軸を有するローラであることを特徴とする請求項1又は2に記載の高周波焼入装置。
【請求項4】
前記各
チャック爪部の各回転保持体の中には、回転中心が他の回転保持体の回転中心に対して、上下方向に所定の距離だけ離間しているものを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の高周波焼入装置。
【請求項5】
前記
チャック爪部が特定の位置にあることを検出する検出手段を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の高周波焼入装置。
【請求項6】
前記支持装置を複数有し、
各支持装置が長尺状ワークの長手方向の異なる部位を拘束しており、
前記各支持装置による長尺状ワークの拘束及び拘束の解除を個別に切り換える切換手段を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の高周波焼入装置。
【請求項7】
前記加熱コイルは、環状コイルであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の高周波焼入装置。
【請求項8】
水平姿勢で両端が支持された状態で回転駆動される長尺状ワークの中間の部位を支持する長尺状ワークの支持装置であって、
重量支持部材と、
チャックを有し、
前記重量支持部材は、長尺状ワークの重量を支持する支持位置と、前記支持位置から離間した退避位置の間を
昇降装置によって移動できる複数の回転支持体を有し、
前記
チャックは、複数の
チャック爪部を有し、
前記各
チャック爪部は、複数の回転保持体を有し、
前記各
チャック爪部は、対向配置されていて互いの距離を変更するように移動が可能であり、
前記各
チャック爪部の各回転保持体は、互いに接近して前記回転支持体で支持された長尺状ワークの周囲に触れた状態で位置を固定可能であることを特徴とする長尺状ワークの支持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺状ワークを水平姿勢になるように支持して高周波焼入する高周波焼入装置に関するものである。また、本発明は、高周波焼入する水平姿勢の長尺状ワークを支持する支持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長尺状ワークを高周波焼入する際には、いわゆる移動焼きと称される焼入方法が採用されることが多い。ここで長尺状ワークとは、横断面の大きさに対して、横断面と直交する方向の長さが相当に長い形状を有する熱処理対象物である。また、移動焼きとは、長尺状ワークの焼入対象領域の長手方向の一部にのみ近接対向する加熱コイルを、長尺状ワークの長手方向に沿って相対移動させ、長尺状ワークの全焼入対象領域を順に高周波焼入(冷却液による冷却を含む。)する焼入方法である。
【0003】
長尺状ワークを移動焼きする際には、長尺状ワークは一般に水平姿勢で保持される。長尺状ワークの両端を支持して水平姿勢にすると、長尺状ワークは自身の重量で下方に撓んでしまう。そこで、長尺状ワークが自重で撓まないように、長尺状ワークの中間(途中)の部位を支持する支持装置が提案されている。特許文献1には、このような材料支持装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている材料支持装置は、複数のローラユニットを有している。この複数のローラユニットは、両端が支持された水平姿勢の長尺材(長尺状ワーク)の中間の複数箇所を載置して長尺材を支持することができる。
【0006】
すなわち、各ローラユニットには長尺材の重量が作用している。そして、特許文献1の発明では、各ローラユニットは、バネで上方に付勢されている。さらに、ストッパによって下降不能に高さ位置を固定することができる。バネの弾性力は、長尺材の重量を支持することができる強さに設定されており、ストッパが解除された状態でも長尺材の重量を支持することができる。
【0007】
一方、移動焼きの際、長尺材の一端はチャックで把持され、長尺材の他端はセンタピンで支持されているため、長尺材は長手方向に移動不能に拘束されている。そして、長尺材が移動焼きされる際には、長尺材は部分的に昇温する。その結果、長尺材は膨張する。
【0008】
また、長尺材(例えばボールネジ)における誘導加熱されて昇温した部位は軟化するため、この軟化した部位が強く押圧されると変形してしまう。すなわち、長尺材の表面(ネジ山)が変形してしまう。
【0009】
そこで、特許文献1の材料支持装置は、長尺材における昇温していない部位を支持するローラユニットはストッパによって下降不能な状態とし、高周波電流が通電された加熱コイルが接近して昇温した部位を支持するローラユニットはストッパを解除して下降可能な状態にするように構成されている。
【0010】
膨張した長尺材は、バネの弾性力に抗してストッパが解除されたローラユニットを押し下げ、ローラユニットは下方に逃げることができる。すなわち特許文献1の材料支持装置は、長尺材が膨張した際に、長尺材の昇温して軟化した部位がローラユニットに強く押圧されないように構成されている。特許文献1の材料支持装置は、これによって長尺材の表面(ネジ山)が損傷することを防止している。
【0011】
ところで、特許文献1の材料支持装置は、直径70mm以上の比較的大径の長尺材を支持することを想定している。直径70mm以上の大径の長尺材は、高周波焼入されると表面は焼入温度に達するが、内部は表面ほどには昇温しない。そのため、比較的大径の長尺材の熱変形量は比較的小さい。具体的には、大径の長尺材は、長手方向と直交する方向の変形量は小さく、長手方向に蛇行するような変形はしない。そのため、比較的大径の長尺材を高周波焼入(移動焼き)する場合には、特許文献1の材料支持装置で十分に対応することができた。
【0012】
一方、直径が20mmを下回るような比較的小径の長尺状ワークを移動焼きする場合には、誘導加熱された際の熱が、長尺材ワークの内部にまで浸透し易い。そのため、小径の長尺状ワークは、大径の長尺状ワークよりも誘導加熱時(焼入時)に歪み易く、長手方向のみならず、長手方向と直交する方向にも変形し易い。
すなわち、小径の長尺状ワークを移動焼きする際に、特許文献1の材料支持装置を使用すると、小径の長尺状ワークは、材料支持装置上(ローラユニット上)から逸脱するほど長手方向と交差する様々な方向に蛇行するように変形してしまう。そのため、特許文献1に開示されているような従来の支持装置では、小径の長尺状ワークを高周波焼入するのは困難であった。
【0013】
そこで本発明は、小径の長尺状ワークの高周波焼入を良好に実施することができる高周波焼入装置を提供することを課題としている。また、本発明は、長尺状ワークを高周波焼入する際に、当該長尺状ワークを良好に支持することができる支持装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明の第1の様相は、加熱コイルと、当該加熱コイルを直線移動させる移動手段を有し、両端が回転可能に支持された長尺状ワークに前記加熱コイルが近接対向しており、前記移動手段が加熱コイルを長尺状ワークの長手方向に沿って移動させ、長尺状ワークを一端側から他端側へ順に高周波焼入する高周波焼入装置であって、前記長尺状ワークの中間の部位を支持する支持装置を有し、前記支持装置は、重量支持部材と、チャックを有し、前記重量支持部材は、長尺状ワークの重量を支持する支持位置と、前記支持位置から離間した退避位置の間を昇降装置で移動できる複数の回転支持体を有し、前記チャックは、複数のチャック爪部を有し、前記各チャック爪部は、複数の回転保持体を有し、前記各チャック爪部は、対向配置されていて互いの距離を変更するように移動が可能であり、各チャック爪部の各回転保持体は、互いに接近して前記回転支持体で支持された長尺状ワークの周囲に触れた状態で位置を固定可能であることを特徴とする高周波焼入装置である。
【0015】
本様相の高周波焼入装置は、支持装置の重量支持部材は、長尺状ワークの重量を支持する支持位置と、支持位置から離間した退避位置の間を移動できる複数の回転支持体を有する。すなわち、重量支持部材の回転支持体は、支持位置において長尺状ワークの中間の部位を支持することができ、退避位置において長尺状ワークから退避することができる。
ここで「中間」とは、長尺状ワークWの両端の間の部位であり、長手方向の両端を除いた途中の部位である。
また、支持装置のチャックの各チャック爪部は、複数の回転保持体を有し、各チャック爪部は、対向配置されていて互いの距離を変更するように移動が可能である。すなわち、チャック爪部同士の間隔を変更可能である。そして、対向する各チャック爪部の各回転保持体は、互いに接近して回転支持体で支持された長尺状ワークの周囲に触れた状態で位置を固定可能である。すなわち、長尺状ワークに触れた状態で位置を固定することにより、長尺状ワークが熱膨張して変形したり、自重で撓むことを良好に阻止することができる。また、対向する各チャック爪部の各回転保持体は、互いに離間して長尺状ワークから退避することができる。
本様相の高周波焼入装置では、支持装置によって長尺状ワークの中間の部位を拘束することができる。すなわち、長尺状ワークの移動と変形を阻止することができる。
本様相の高周波焼入装置では、直径が25mm以下の比較的小径で熱変形し易い長尺状ワークであっても、長尺状ワークの変形を良好に阻止しながら高周波焼入することができる。
【0016】
本様相において、対向配置された各チャック爪部の前記各回転保持体は、長尺状ワークに対して互いに相殺される押圧力を付与するのが好ましい。
【0017】
この構成によれば、対向配置された各チャック爪部の各回転保持体は、長尺状ワークに対して互いに相殺される押圧力を付与するので、長尺状ワークの拘束が安定する。
【0018】
本様相において、回転保持体は、長尺状ワークの長手方向と平行な回転軸を有するローラであるのが好ましい。
【0019】
この構成によれば、長尺状ワークが回転駆動されると、長尺状ワークに追従して回転保持体が回転軸周りに回転することができる。
【0020】
本様相において、各チャック爪部の各回転保持体の中には、回転中心が他の回転保持体の回転中心に対して、上下方向に所定の距離だけ離間しているものを含むのが好ましい。
【0021】
この構成によれば、各回転保持体が、長尺状ワークの側方の上側及び側方の下側に当接して長尺状ワークを上下左右から保持可能である。すなわち、長尺状ワークの側方の上側及び側方の下側を拘束することができ、長尺状ワークを確実に保持することができる。
【0022】
本様相において、チャック爪部が特定の位置にあることを検出する検出手段を有するのが好ましい。
【0023】
この構成によれば、チャック爪部が特定の位置にあることを検出することができる。例えば、チャック爪部が互いに離間した位置にあることが検出されると、チャック爪部の回転保持体がワークを支持する支持位置から離間した離間位置にあると判定することができる。
【0024】
本様相において、支持装置を複数有し、各支持装置が長尺状ワークの長手方向の異なる部位を拘束しており、各支持装置による長尺状ワークの拘束及び拘束の解除を個別に切り換える切換手段を有するのが好ましい。
【0025】
この構成によれば、複数の支持装置によって長尺状ワークの長手方向の複数箇所を支持することができる。また、切換手段によって特定の支持装置のみを長尺状ワークの拘束の解除状態とすることができる。これにより、移動焼きの際に、加熱コイル及び冷却ジャケットが、支持装置に衝突することを回避することができる。その際には、別の支持装置で長尺状ワークを保持しているので、長尺状ワークの変形を良好に阻止しながら移動焼きを実施することができる。
【0026】
本様相において、加熱コイルは、環状コイルであってもよい。
【0027】
本発明の第2の様相は、水平姿勢で両端が支持された状態で回転駆動される長尺状ワークの中間の部位を支持する長尺状ワークの支持装置であって、重量支持部材と、チャックを有し、前記重量支持部材は、長尺状ワークの重量を支持する支持位置と、前記支持位置から離間した退避位置の間を昇降装置で移動できる複数の回転支持体を有し、前記チャックは、複数のチャック爪部を有し、前記各チャック爪部は、複数の回転保持体を有し、前記各チャック爪部は、対向配置されていて互いの距離を変更するように移動が可能であり、前記各チャック爪部の各回転保持体は、互いに接近して前記回転支持体で支持された長尺状ワークの周囲に触れた状態で位置を固定可能であることを特徴とする長尺状ワークの支持装置である。
【0028】
本様相の長尺状ワークの支持装置は、重量支持部材と、チャックを有する。
重量支持部材は、長尺状ワークの重量を支持する支持位置と、支持位置から離間した退避位置の間を移動できる複数の回転支持体を有し、複数の回転支持体が支持位置にあるときには、各回転支持体で長尺状ワークの重量を支持することができる。また、各回転支持体は退避位置に退避して、長尺状ワークから離間することができる。
チャックは、複数のチャック爪部を有し、各チャック爪部は、複数の回転保持体を有し、各チャック爪部は、対向配置されていて互いの距離を変更するように移動が可能である。
各チャック爪部の各回転保持体は、互いに接近して重量支持部材で支持された長尺状ワークの周囲に触れた状態で位置を固定可能である。すなわち、長尺状ワークに触れた状態で位置を固定することにより、長尺状ワークが熱膨張して変形したり、自重で撓むことを良好に阻止することができる。また、対向する各チャック爪部の各回転保持体は、互いに離間して長尺状ワークから退避することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の高周波焼入装置では、比較的小径で熱変形し易い長尺状ワークであっても、長尺状ワークの移動と変形を良好に阻止しながら高周波焼入することができる。また、本発明の長尺状ワークの支持装置では比較的小径で熱変形し易い長尺状ワークであっても、長尺状ワークを確実に拘束することができ、熱処理時に長尺状ワークの移動と変形を良好に阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】(a)、(b)は、本実施形態に係る高周波焼入装置の概念図である。
【
図2】本実施形態に係る支持装置の斜視図であり、可動部が上昇しており、チャックが閉じている状態を示す。
【
図3】本実施形態に係る支持装置の斜視図であり、可動部が上昇しており、チャックが開いている状態を示す。
【
図4】本実施形態に係る支持装置の斜視図であり、可動部が下降しており、チャックが開いている状態を示す。
【
図5】
図2の支持装置の正面図であり、
図2のA-A部分のみを断面視して示す。
【
図6】
図4の支持装置の正面図であり、
図4のB-B部分のみを断面視して示す。
【
図8】
図2の支持装置の主要部のみを示す正面図であり、(a)は、支持装置が長尺状ワークを支持していない状態を示し、(b)は、長尺状ワークが重量支持部材上に載置された状態を示し、(c)は、長尺状ワークがチャックで把持された状態を示す。
【
図9】重量支持部材の回転支持体と、チャックの回転保持体のみを示す斜視図であり、(a)は、長尺状ワークが回転支持体及び回転保持体で支持されていない状態を示し、(b)は、長尺状ワークが回転支持体上に載置された状態を示し、(c)は、長尺状ワークが回転保持体で把持された状態を示す。
【
図10】複数の支持装置で長尺状ワークを支持している状態を示す高周波焼入装置の部分斜視図である。
【
図11】
図10において、加熱コイルと冷却ジャケットが長尺状ワークに近接対向し、さらに長尺状ワークの両端が、チャックとセンタピンによって回転可能に支持されている状態を示す高周波焼入装置の部分斜視図である。
【
図12】
図11に続き、加熱コイルが、チャック側から一番目の支持装置に接近し、一番目の支持装置が長尺状ワークの支持を解除した状態を示す高周波焼入装置の部分斜視図である。
【
図13】
図12に続き、加熱コイルが一番目の支持装置を通過して二番目の支持装置に接近し、一番目の支持装置が長尺状ワークを支持すると共に、二番目の支持装置が長尺状ワークの支持を解除した状態を示す高周波焼入装置の部分斜視図である。
【
図14】
図13に続き、加熱コイルが二番目の支持装置を通過して三番目の支持装置に接近し、二番目の支持装置が長尺状ワークを支持すると共に、三番目の支持装置が長尺状ワークの支持を解除した状態を示す高周波焼入装置の部分斜視図である。
【
図15】
図14に続き、加熱コイルが三番目の支持装置を通過して四番目の支持装置に接近し、三番目の支持装置が長尺状ワークを支持すると共に、四番目の支持装置が長尺状ワークの支持を解除した状態を示す高周波焼入装置の部分斜視図である。
【
図16】
図15に続き、加熱コイルが四番目の支持装置を通過して五番目の支持装置に接近し、四番目の支持装置が長尺状ワークを支持すると共に、五番目の支持装置が長尺状ワークの支持を解除した状態を示す高周波焼入装置の部分斜視図である。
【
図17】
図16に続き、加熱コイルが最もセンタピン側の支持装置を通過し、最もセンタピン側の支持装置が長尺状ワークを支持し、長尺状ワークの高周波焼入対象の全領域に渡って高周波焼入された状態を示す高周波焼入装置の部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る高周波焼入装置50は、冷却ジャケット29、高周波誘導加熱装置51、複数の支持装置1(1a、1b、・・・)を有する。長尺状ワークW(以下、単にワークWと称する。)は、横断面の大きさに対して、長さが相当に長い。ワークWの直径は、例えば5mm~25mmであり、ワークWの長さは、例えば1m~5mである。
【0032】
冷却ジャケット29は、筐体29aを有する。筐体29aは、環状の内壁を構成する挿通孔52を備えている。挿通孔52の内径はワークWの外径よりも大きく、挿通孔52はワークWを挿通させることができる。換言すると、筐体29aは、ワークWの周囲に外嵌することができる。
【0033】
挿通孔52の内壁には、多数の噴射口53が設けられている。各噴射口53は、筐体29aの内外を連通させる孔である。また、筐体29aには、図示しない冷却液供給源から冷却液を導く配管54が接続されている。配管54を介して筐体29a内に冷却液が供給されると、筐体29a内の冷却液が、各噴射口53から噴射される。すなわち各噴射口53はノズルとして機能し、冷却液は、各噴射口53から挿通孔52の中心方向に向かって噴射される。冷却ジャケット29への冷却液の供給は、図示しない制御装置によって制御されている。
【0034】
高周波誘導加熱装置51は、高周波発振器55、トランス56、加熱コイル28を有する。高周波誘導加熱装置51は、商用電源57から供給された電力を高周波電流に変換し、高周波電流を加熱コイル28に通電する装置である。加熱コイル28は、銅又は銅合金等の良導体で構成された中空の管状部材で形成された環状のコイルである。中空の加熱コイル28には、図示しない配管を介して冷却液が循環供給される。また、環状の加熱コイル28の内径は、ワークWの外径よりも若干大きい。すなわち、加熱コイル28の内径は、ワークWに外嵌した際に、ワークWに高周波誘導電流を励起させることができる程度の大きさである。加熱コイル28への高周波電流の通電のON・OFFは、図示しない制御装置によって制御されている。
【0035】
環状コイルである加熱コイル28と冷却ジャケット29の挿通孔52は、同芯状に配置されており、両者は図示しない直線ガイドに沿って所定の速度で直線移動することができる。加熱コイル28と冷却ジャケット29の移動軌跡上には、ワークWを配置可能である。ワークWは、回転可能に両端が支持された状態で加熱コイル28と冷却ジャケット29の移動軌跡上に配置される。すなわち、
図10に示すように、ワークWの一端は、駆動機構25によって回転駆動されるチャック26で把持されており、ワークWの他端には窪み(図示せず)が形成されており、当該窪みにセンタピン27が係合している。よって、ワークWは、回転は可能であるが、長手方向への移動ができない状態で加熱コイル28と冷却ジャケット29の移動軌跡上に配置されている。ここで、ワークWの他端は、センタピン27の代わりに、ワークWにちょうど外嵌するスリーブで支持してもよい。すなわち、ワークWと同芯のスリーブにワークWの他端を嵌め込んで、ワークWの他端を支持してもよい。
【0036】
また、高周波焼入装置50は、複数の支持装置1(
図10では5つの支持装置1a~1eを示し、
図1(a)ではそのうちの2つの支持装置1a、1bのみを示す。)を有し、各支持装置1は、加熱コイル28と冷却ジャケット29の移動軌跡に沿って配置されている。支持装置1は、水平姿勢で両端が支持された長尺状のワークWの中間の部位を支持する機能を有する。ここで「中間」とは、長尺状のワークWの両端の間の部位であり、長手方向の両端を除いた途中の部位である。
図1(a)では、煩雑な描写を避けるため、支持装置1a、1bにおけるワークWに接触する部位のみを示している。
【0037】
以下、本発明の特徴的な構成を有する支持装置1について
図2乃至
図9を参照しながら説明する。
図2に示すように、支持装置1は、固定部2と可動部3を有する。
【0038】
固定部2は、機台2aと支柱2bを有している。
機台2aは、水平の平板で構成されており、図示しない固定構造物に固定される部位である。
図5、
図6に示すように、機台2aには、昇降装置10と、昇降検出部24、開閉センサ18(検出手段)が設けられている。
【0039】
昇降装置10は、本体10a(シリンダ)とピストンロッド10bを有するエアシリンダである。すなわち昇降装置10は、往復駆動が可能な装置である。本体10aは、機台2aに固定されており、ピストンロッド10bは、後述の可動部3に接続されている。また、
図2に示すように、本体10aには配管4a、4bが接続されており、配管4a、4bを介して圧縮気体が供給又は排出される。昇降装置10として、油圧シリンダやサーボモータ等を採用することもできる。
【0040】
本体10aには、複数(本実施形態では4つ)のガイド孔10cが設けられている。各ガイド孔10cは、本体10aを鉛直方向に貫通する孔である。
【0041】
ピストンロッド10bの先端には、支持台11が設けられている。支持台11は、ピストンロッド10bの先端に一体化された平板状の部位である。支持台11は、ピストンロッド10bの進退方向と直交する平板状の部位である。
【0042】
支持台11には、複数のガイドロッド12が設けられている。各ガイドロッド12は、平板状の支持台11におけるピストンロッド10bと同じ面側に、ピストンロッド10bの周囲に等間隔で配置されている。具体的には、四角形の支持台11の中央にピストンロッド10bがあり、四角形の四隅にガイドロッド12が設けられている。各ガイドロッド12は、本体10aに設けられたガイド孔10cに挿通されている。すなわち、ピストンロッド10bが本体10aに対して往復移動する際には、ガイドロッド12がガイド孔10cに沿って移動する。
【0043】
また、固定部2の支柱2bは、
図2に示すように、機台2aに対して起立して固定されており、機台2aから鉛直方向に延びている。
【0044】
昇降検出部24(
図5、
図6)は、支柱2b(
図2)に固定されている。
図5、
図6に示すように、昇降検出部24は、下降センサ24aと上昇センサ24bを有する。下降センサ24aと上昇センサ24bは近接センサであり、下降センサ24aは上昇センサ24bの上側に配置されている。
【0045】
次に、可動部3について説明する。
可動部3は、
図3に示すように、重量支持部材6、台座15、
チャック17、水平シャフト19、垂下シャフト21(
図5)を有する。
【0046】
台座15は、支持台11上に固定された一体構造物である。台座15は、後述の重量支持部材6、平行チャック17、水平シャフト19、垂下シャフト21(
図5)を取付け、これらを一体化する機能を有する。
【0047】
重量支持部材6は、
図7に示すように、水平軸周りに自由回転が可能な複数のローラからなる回転支持体6a~6cと、回転支持体6a~6cを保持する保持部7を有する。保持部7は、台座15に固定される基部7aと、基部7aに対して起立する起立部7b~7eを有する。
【0048】
各起立部7b~7eは、互いに所定の間隔を置いて一列に配置されている。回転支持体6aは、起立部7b、7cの間に配置されており、回転支持体6aの回転軸は、起立部7b、7cに取り付けられている。すなわち、回転支持体6aの回転軸の両端が、起立部7b、7cによって支持されている。そして、回転支持体6aの周面の上端は、起立部7b、7cよりも上方に突出している。
【0049】
回転支持体6bは、起立部7c、7dの間に配置されている。そして、回転支持体6bの周面の上端が、起立部7c、7dよりも上方に突出するように、回転支持体6bの回転軸が起立部7c、7dに取り付けられている。同様に、回転支持体6cは、起立部7d、7eの間に配置されている。そして、回転支持体6cの周面の上端が、起立部7d、7eよりも上方に突出するように、回転支持体6cの回転軸が起立部7d、7eに取り付けられている。
【0050】
回転支持体6a、6b、6cは、この順で並んでいる。
図9(a)に示すように、両端の回転支持体6a、6cの回転軸31a、31bは、同一の直線31(
図7)上にあり、回転支持体6bの回転軸32aは、直線31と所定の間隔を置いた同じ高さ位置の直線32(
図7)上にある。すなわち回転支持体6a、6cは、平行で同じ高さの二つの直線31、32のうちの一方の直線31に配置されており、回転支持体6bは他方の直線32上に配置されている。換言すると、回転支持体6a~6cは、ちどり状に配置されている。そして、
図8(b)に示すように、ワークWは、回転支持体6a、6cと回転支持体6bの間に載置され、ワークWの重量は回転支持体6a~6cで支持される。すなわち、これら回転支持体6a~6cの周面が、ワークWを載置して支持する載置部を構成している。
【0051】
チャック17は、
図2に示すように、チャック本体17aと一対の
チャック爪部17b、17cを有する。
【0052】
チャック爪部17b、17cは、下部が鉛直方向に延びており、上部が水平方向に延びるT字形を呈する部材である。チャック爪部17b、17cの下部は、チャック本体17aに往復移動可能に装着されている。
【0053】
また、チャック爪部17bの水平方向の一方側の端部には、
図3に示すように、突出部13a、13bが設けられており、他方側の端部には、突出部14a、14bが設けられている。突出部13a、13bは、上下の位置関係にあり、突出部13aが突出部13bの上側に設けられている。同様に、突出部14a、14bは、上下の位置関係にあり、突出部14aが突出部14bの上側に設けられている。
【0054】
チャック爪部17cは、チャック爪部17bと同じ構造を有している。チャック爪部17b、17cは、突出部13a、13b、14a、14bが、内側になるように、互いに対向するように配置されている。
【0055】
図3に示すように、チャック爪部17bの突出部13a、14bには、それぞれ回転保持体8a、8bが自由回転可能に軸支されている。また、チャック爪部17cの突出部14b、13aには、それぞれ回転保持体9b、9aが自由回転可能に軸支されている。
【0056】
回転保持体8aの回転軸33a(回転中心)と、回転保持体8bの回転軸33b(回転中心)は、上下方向に離間している。同様に、回転保持体9aの回転軸34a(回転中心)と、回転保持体9bの回転軸34b(回転中心)も、上下方向に離間している。また、回転軸33a、33b、34a、34bは、互いに平行である。すなわち、回転保持体8a、8bと、回転保持体9a、9bは、互い違いの位置関係にある。
【0057】
回転保持体8a、8b、9a、9bの周面は、突出部13a、14b、13a、14bよりも内側(対向するチャック爪部側)に突出している。ここで、チャック爪部17b、17cの全ての突出部13a、14b、14a、13bに回転保持体8a、8b、9a、9bを設けてもよい。
【0058】
平行チャック17のチャック爪部17b、17cは、重量支持部材6の両側に配置されている。チャック爪部17b、17cに装着された回転保持体8a、8b、9a、9bの回転軸33a、33b、34a、34b(
図9)と、重量支持部材6の回転支持体6a~6cの回転軸31a、32a、31b(
図9)は、全て平行である。また、回転保持体8a、8b、9a、9bの直径と、回転支持体6a~6cの直径は同じである。回転保持体8a、8b、9a、9bの直径と、回転支持体6a~6cの直径は、支持するワークWの直径に応じて任意に選定することができる。また、回転保持体8a、8b、9a、9bの直径と、回転支持体6a~6cの直径は、必ずしも同じである必要はない。そして、
図3に示す回転保持体8b、9bの回転軸の高さは、回転支持体6a~6cの回転軸の高さと一致している。
【0059】
チャック爪部17b、17cは、互いに対向してチャック本体17aに装着されており、チャック本体17aに内蔵された図示しない駆動機構によって間隔を変更することができる。すなわち、チャック爪部17b、17cは、重量支持部材6からの距離が等しくなるように、互いの距離を変更することができる。換言すると、チャック爪部17b、17cは、間隔を狭めて閉状態にしたり、間隔を広げて開状態にすることができる。
【0060】
また、平行チャック17のチャック爪部17bには、水平シャフト19が取り付けられている。すなわち、チャック爪部17bが移動すると、水平シャフト19はチャック爪部17bに追従して移動する。水平シャフト19は、固定部2に固定された開閉センサ18側に延びており、途中に検出部19aを備えている。
【0061】
そして、平行チャック17が開くと、開閉センサ18は、検出部19aを検出し、平行チャック17が開いた状態であることを検出する。すなわち、開閉センサ18は近接センサであり、水平シャフト19の検出部19aが接近したことを検出する。開閉センサ18によって検出部19aが検出されると、検出信号が図示しない制御装置に送信され、制御装置によって平行チャック17が開状態であると判定される。また、このとき制御装置は、可動部3(台座15)が下降可能な状態であると判定する。
【0062】
台座15には、垂下シャフト21(
図5、
図6)が鉛直姿勢で固定されている。垂下シャフト21の中間の部位には、検出部22、23が設けられている。検出部22、23は、昇降検出部24の下降センサ24aと上昇センサ24bによって検出される部位である。
【0063】
台座15には、上記した構成の他、カバー20が設けられている。カバー20は、昇降装置10の周囲を覆う部材である。昇降装置10を駆動し、台座15を下降させると、カバー20が機台2aに接近し、
図4に示すように昇降装置10の大半の部位が隠れる。
【0064】
支持装置1は、以上説明したような構造を有しており、昇降装置10を駆動すると、重量支持部材6及び平行チャック17を含む全ての可動部3が昇降する。また、平行チャック17を駆動すると、チャック爪部17b、17cの間隔が変化する。この支持装置1の動作は、図示しない制御装置によって制御されている。
【0065】
以上のように高周波焼入装置50の高周波誘導加熱装置51、冷却ジャケット29、支持装置1が構成されている。
次に、高周波焼入装置50の動作について説明する。
【0066】
ワークWは、図示しない搬送装置で待機場所から搬送され、一列に並んだ各支持装置1a~1eで構成される支持機構30によって水平姿勢で支持される。すなわち、ワークWは、各支持装置1a~1eの重量支持部材6上に載置され、さらに各支持装置1a~1eの平行チャック17によって拘束される(
図10)。
図10に示す状態では、ワークWの中間の部位が、各支持装置1a~1eによって確実に保持されている。具体的には、ワークWの長手方向に沿って順に領域A~Eを設定し、領域Aの部位を支持装置1aによって保持し、同様に領域B~Eの部位を、それぞれ支持装置1b~1eによって保持する。
【0067】
ワークWを保持する際における支持装置1の動作は、以下のようである。
図3に示すように可動部3が上昇位置にあり、平行チャック17は、開いた状態で待機している。このとき、垂下シャフト21の検出部23が、昇降検出部24の上昇センサ24bによって検出されており、図示しない制御装置は、可動部3が上昇位置にあると判定する。また、平行チャック17のチャック爪部17bに取り付けられた水平シャフト19の検出部19aが開閉センサ18によって検出されており、図示しない制御装置は、平行チャック17が開状態であると判定する。すなわち、
チャック爪部17b、17cがワークWから離間した離間位置(特定の位置)にあることが検出される。そして、図示しない制御装置は、可動部3が上昇位置にあって、平行チャック17が開状態であることをもって、支持装置1がワークWを受け入れ可能な状態であると判定する。
【0068】
図8(a)、
図9(a)に示すように、ワークWを、図示しない搬送装置によって支持装置1(1a~1e)の上方まで搬送する。次に、ワークWを下降させ、
図8(b)、
図9(b)に示すように、支持装置1の回転支持体6a~6c上に載置する。そして、平行チャック17を駆動し、開状態で退避位置にあるチャック爪部17b、17cを接近させ、
図8(c)、
図9(c)に示すように、回転保持体8a、8b、9a、9bでワークWを把持する。すなわち、チャック爪部17b、17cが、ワークWを支持する支持位置まで移動する。
【0069】
このとき、平行チャック17の一方のチャック爪部17bの回転保持体8a、8bと、他方のチャック爪部17cの回転保持体9a、9bは、ワークWの周面に接触(当接)している。また、チャック爪部17b(回転保持体8a、8b)とチャック爪部17c(回転保持体9a、9b)のワークWに対する相対位置は固定されている。すなわち、平行チャック17は、ワークWを上下左右(水平方向及び鉛直方向)に移動できないように良好に拘束している。
図8(c)、
図9(c)に示す状態では、ワークWは、水平姿勢で移動と変形がほぼ不能に拘束されているが、回転のみ可能である。
【0070】
ここで、チャック爪部17b、17cが、互いに接近する方向に付勢されていて、回転保持体8a、8bと、回転保持体9a、9bがワークWを互いに反対方向(接近する方向)に押圧するようにしてもよい。その際には、一方のチャック爪部17bの回転保持体8a、8bがワークWを押圧する力(押圧力)と、他方のチャック爪部17cの回転保持体9a、9bがワークWを押圧する力(押圧力)が相殺されるようにする。
【0071】
チャック爪部17bに設けられた回転保持体8a、8bがワークWに付与する押圧力と、チャック爪部17cに設けられた9a、9bがワークWに付与する押圧力は、互いに相殺され、モーメントも生じない。すなわち、チャック爪部17bに対する回転保持体8a、8bの上下方向の取り付け位置は、チャック爪部17cに対する回転保持体9a、9bの上下方向の取り付け位置と一致している。換言すると、チャック爪部17b、17cは、同じ構造を有しており、チャック爪部17cは、チャック爪部17bの向きを180度回転させたものである。これによらず、平行チャック17は、チャック爪部17b側の回転保持体と、チャック爪部17c側の回転保持体が互いに向き合う位置にあってもよい。
【0072】
具体的には、チャック爪部17bには二つの回転保持体8a、8bが四角形の対角の位置に設けられており、チャック爪部17cにも二つの回転保持体9a、9bが四角形の対角の位置に設けられているが、それぞれ四角形の四隅の位置に設けてもよい。
【0073】
各支持装置1a~1eは、等間隔で配置されている。すなわち、複数の支持装置1a~1eが、共通のワークWの長手方向の異なる部位をそれぞれ支持している。支持装置同士の間隔は比較的狭い。
図10に示す例では、5つの支持装置1a~1eによって、ワークWを支持しているが、支持装置1の数は必要に応じて任意に選定することができる。
【0074】
次に、
図11に示すように、ワークWに加熱コイル28と冷却ジャケット29を外嵌させ、さらにワークWの一端をチャック26で把持し、ワークWの他端にセンタピン27を係合させる。すなわち、
図11に示す状態では、ワークWは、チャック26とセンタピン27によって回転駆動可能に両端支持されている。
【0075】
ワークWは、駆動機構25によってチャック26と共に回転するが、支持装置1a~1eの重量支持部材6の回転支持体6a~6cと、チャック爪部17b、17cの回転保持体8a、8b、9a、9bは、自由回転が可能であるため、ワークWの回転に追従して回転する。すなわち、回転支持体6a~6cと回転保持体8a、8b、9a、9bは、ワークWを回転可能に支持すると共に、ワークWを移動不能及び変形不能に拘束している。
【0076】
すなわち、図示しない制御装置によって駆動機構25が作動し、チャック26が回転駆動されると、ワークWが回転する。その際、各支持装置1a~1eの重量支持部材6の各回転支持体6a~6cと、平行チャック17の各回転保持体8a、8b、9a、9bは、ワークWの回転に追従して回転する。すなわち、ワークWは、各支持装置1a~1eで拘束されているものの、円滑に回転することができる。
【0077】
ワークWは、いわゆる移動焼きと称される方法によって高周波焼入される。移動焼きとは、高周波電流が通電された加熱コイル28と、冷却液を噴射供給する冷却ジャケット29が、ワークWの長手方向に沿って移動し、ワークWを順に高周波焼入する焼入方法である。
【0078】
本実施形態で使用される加熱コイル28は、環状構造を呈しており、ワークWの周囲を囲み、ワークWの全周面に同時に誘導電流を励起させることができる。また、加熱コイル28は、図示しないサーボモータ(移動手段)によって、直線ガイド(図示せず)に沿って一定速度でワークWの長手方向に移動することができる。
【0079】
冷却ジャケット29は、図示しない冷却液の供給源から冷却液が供給されると、噴射口53(
図1(a))から冷却液をワークWに向けて噴射することができる。冷却ジャケット29は、加熱コイル28に近接しており、加熱コイル28と共にワークWの長手方向に移動することができる。
【0080】
次に、ワークWを移動焼きする際における、各支持装置1a~1eの動作について説明する。
【0081】
加熱コイル28が、ワークWにおけるチャック26に最も近い領域Aの部位(支持装置1aが拘束する部位)に接近すると、図示しない制御装置によって支持装置1aの平行チャック17を駆動し、チャック爪部17b、17cを互いに離間させ(
図3)、ワークから退避させる。さらに、昇降装置10を駆動し、可動部3を下降させる(
図4)。これにより、重量支持部材6が下降し、重量支持部材6(回転支持体6a~6c)が、ワークWから離間して退避し、
図4、
図6に示す状態となる。すなわち、支持装置1aは、ワークWの把持及び支持を解除し、完全にワークWから離間した状態となる。すなわち、図示しない制御装置は、支持装置1aによるワークWの保持と保持の解除とを切り換える切換手段として機能する。
【0082】
具体的には、加熱コイル28と冷却ジャケット29は、図示しない直線ガイドに沿って移動するが、加熱コイル28が直線ガイドの特定の位置に達すると、支持装置1aによるワークWの保持(拘束)を解除する。また、加熱コイル28がさらに移動して直線ガイドの別の特定の位置に達すると、支持装置1aによるワークWの保持(拘束)を再開する。支持装置1b~1eによるワークWの保持(拘束)と保持(拘束)の解除についても同様である。
【0083】
ワークWにおける加熱コイル28が近接対向した部位は、誘導加熱されて焼入温度まで昇温する。ここで、ワークWは比較的小径(例えば直径が5mm~25mm程度)であり、誘導加熱された際の熱がワークWの表面のみならず、内部にまで浸透し易い。そのため、長尺状のワークWは蛇行状に変形し易い。すなわち、ワークWは熱膨張の影響で変形し易い。ところが、ワークWの中間の複数の部位が、支持装置1a~1eで拘束されているため、ワークWの変形は良好に阻止される。ワークWにおける加熱コイル28によって誘導加熱された部位は、後続の冷却ジャケット29から噴射される冷却液によって急冷される。これにより、ワークWは、長手方向の一部のみ部分的に高周波焼入される。
【0084】
図1(a)に示すように、支持装置1aが保持する領域Aの部位に加熱コイル28が接近すると、支持装置1aは、ワークWの拘束を解き、ワークWから離間する。すなわち、支持装置1aの重量支持部材6(回転支持体6a~6c)と平行チャック17の各チャック爪部17b、17c(回転保持体8a、8b、9a、9b)が、領域AにおけるワークWを支持する支持位置からワークWから離間した退避位置に移動する。このとき、ワークWは、チャック26、支持装置1b~1e、センタピン27によって依然として拘束されている。すなわち、支持装置1aは、チャック17のチャック爪部17b、17cの間隔が拡がった状態で下方に移動しており、重量支持部材6(回転支持体6a~6c)と平行チャック17(回転保持体8a、8b、9a、9b)が、ワークWから離間している。
【0085】
加熱コイル28は、領域Aに近接対向し、領域Aは誘導加熱される。支持装置1aが領域Aから退避しているので、加熱コイル28は、支持装置1aと衝突することなくワークWの長手方向に沿って移動し領域Aを通過することができる。ワークWの昇温した領域Aの部位は、続いて後続の冷却ジャケット29から噴射される冷却液によって急冷される。冷却ジャケット29が領域Aを通過すると、図示しない制御装置は、支持装置1aを駆動し、再び支持装置1aによってワークWの領域Aの部位を保持(拘束)する。すなわち、支持装置1aの重量支持部材6(回転支持体6a~6c)と、平行チャック17の回転保持体8a、8b、9a、9bが、退避位置から支持位置へ移動し、ワークW(領域Aの部位)を押圧して拘束する。
【0086】
領域Aを通過した加熱コイル28は、次にワークWの領域Bの部位に接近する。領域Bは、支持装置1bによって支持された領域である。加熱コイル28が領域Bに接近すると、支持装置1bは、ワークWの拘束を解き、ワークWから退避する。このとき、ワークWは、チャック26、支持装置1a、1c~1e、センタピン27によって保持されている。そのため、ワークWの変形は良好に阻止されている。領域Bから支持装置1bが退避しているので、加熱コイル28と冷却ジャケット29は、支持装置1bに衝突することなく、領域Bを高周波焼入しながら移動することができる。
以下、同様に、加熱コイル28及び冷却ジャケット29がワークWに沿って領域C~Eを通過し、領域C~Eは高周波焼入される(
図14~
図16)。
【0087】
支持装置1a~1eは、各々加熱コイル28及び冷却ジャケット29が接近したときのみワークWから退避し、それ以外のときにはワークWを保持している。そのため、ワークWは、長手方向の一部の拘束のみが解除された状態となり、加熱コイル28及び冷却ジャケット29がワークWの長手方向に沿って円滑に移動することができるのみならず、ワークWの変形を良好に阻止することができる。
【0088】
冷却ジャケット29が領域Eを通過すると、
図17に示すように、支持装置1eがワークWの保持を再開し、ワークWは、チャック26、支持装置1a~1e、センタピン27によって保持される。ワークWの高周波焼入が終了すると、図示しない制御装置は、高周波誘導加熱装置51を停止し、加熱コイル28への通電を停止する。そして、駆動機構25を停止し、ワークWの回転を停止する。さらに、チャック26による把持を解除し、チャック26とセンタピン27をワークWから離間させる。
【0089】
加熱コイル28と冷却ジャケット29は、図示しない直線ガイドに沿ってサーボモータによって所定の速度で移動することができる。また、加熱コイル28が直線ガイドの特定の位置に達したことを検出するセンサが設けられている。例えば、加熱コイル28が、領域A(実際には領域Aの手前の位置)にきたことが検出されると、図示しない制御装置が支持装置1aをワークWから退避させる。また、冷却ジャケット29が領域Aを通過したことが検出されると、図示しない制御装置は、支持装置1aによるワークWの保持を再開する。このようなセンサを、領域A~領域E付近に設けておき、加熱コイル28及び冷却ジャケット29を検知し、これに基づいて図示しない制御装置が支持装置1a~1eによるワークWの保持と保持の解除を切り換える。
【0090】
そして、加熱コイル28と冷却ジャケット29が支持装置1e(最もセンタピン27に近い支持装置)を通過し(
図17)、ワークWの熱処理対象の全領域の高周波焼入が完了すると、加熱コイル28への通電と冷却ジャケット29への冷却液の供給を停止し、さらに駆動機構25によるチャック26の回転駆動を停止させる。
【0091】
そして、移動焼きが終了したワークWからチャック26及びセンタピン27を退避させる。さらに、各支持装置1a~1eの平行チャック17を駆動し、各支持装置1a~1eを、
図8(c)、
図9(c)に示す状態から、
図8(b)、
図9(b)に示す状態に回転保持体8a、8b、9a、9bをワークWから退避させる。このとき、ワークWは、各支持装置1a~1eの回転支持体6a~6c上に載置されているだけである。すなわち、図示しない搬送装置によって、ワークWを容易に取り出すことができる。
【0092】
本実施形態に係る支持装置1a~1eは、ワークWから完全に退避する(すなわち、支持装置1a~1eがワークに全く接触していない状態にする)ことができる。そのため、支持装置1a~1eが、ワークWの支持を一時的に解除することにより、環状構造の加熱コイル28及び冷却ジャケット29を支持装置1a~1eに衝突または接触させることなく通過させることができる。
【0093】
本実施形態では、環状構造の加熱コイル28を使用する場合について説明したが、加熱コイルは、ワークWの周囲の略半周部分のみに近接対向する半開放型の加熱コイルであってもよい。
【0094】
本実施形態では、チャック爪部として平行チャック17を採用した。平行チャック17は、互いの距離を変更することができる一対(二つ、すなわち複数)のチャック爪部17b、17cを有するものであり、チャック爪部17b、17cは同じ大きさ及び構造を有するものである。ここで、一つの支持装置1が、チャック爪部として平行チャック17の代わりに、一方側と他方側のそれぞれに複数のチャック爪部を有し、これらのチャック爪部が、互いに接近及び/又は離間するものであってもよい。また、チャック爪部は、一方側に一つの比較的大きなチャック爪部を有し、他方側に複数の比較的小さな別のチャック爪部を有するものであってもよい。
【0095】
本実施形態においては、重量支持部材6の各回転支持体6a~6cは、上下方向に移動する場合について説明したが、回転支持体6a~6cは、支持位置と退避位置の間を水平方向に移動してもよい。すなわち、回転支持体6a~6cの退避位置は、支持位置の下方に限らず、支持位置と同じ高さ位置であってもよい。
【符号の説明】
【0096】
1 支持装置
6 重量支持部材
6a~6c 回転支持体
8a、8b、9a、9b 回転保持体
17 平行チャック
17b、17c チャック爪部
18 開閉センサ(検出手段)
30 支持機構
31a、31b 回転支持体6a、6cの回転軸
32a 回転支持体6bの回転軸
W 長尺状ワーク