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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】ガス切断機及びガス切断方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 7/10 20060101AFI20230824BHJP
   F23D 14/22 20060101ALI20230824BHJP
   F23D 14/38 20060101ALI20230824BHJP
   F23D 14/42 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
B23K7/10 S
F23D14/22 Z
F23D14/38 B
F23D14/42
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019098418
(22)【出願日】2019-05-27
(65)【公開番号】P2020192551
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000229036
【氏名又は名称】日本スピング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】本多 龍一郎
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-167299(JP,A)
【文献】特開平02-192878(JP,A)
【文献】特開昭51-042047(JP,A)
【文献】特開2010-069487(JP,A)
【文献】特開平07-276043(JP,A)
【文献】米国特許第05391237(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 7/00 - 7/10
F23D 14/00 - 14/18、
14/26 - 14/84
F23D 14/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断火口と、前記切断火口からのガスの噴出を制御するバルブ機構とを備えたガス切断機であって、
該ガス切断機は材料の予熱と、該予熱された材料の切込みおよび切断が可能なものであり、
前記切断火口は、中央部に配置されて切断用の酸素ガスを噴出するための第1噴出口と、前記第1噴出口を取り囲むように配置されて予熱用の酸素ガスを噴出するための複数の第2噴出口と、前記第2噴出口を取り囲むように配置されて燃料ガスを噴出するための複数の第3噴出口と、前記第3噴出口を取り囲むように配置されて前記予熱用の酸素ガスを噴出するための複数の第4噴出口とを有し、
前記バルブ機構は、前記第1噴出口から前記第4噴出口の各々に供給するガスの圧力及び流量を独立に制御可能なものであり、かつ前記第2噴出口に接続されるガス供給ラインは、第1圧力の酸素ガスの供給/停止を第1バルブの開閉により制御可能な第1ラインと、前記第1圧力よりも低い第2圧力の酸素ガスの供給/停止を第2バルブの開閉により制御可能な第2ラインとからなるものであることを特徴とするガス切断機。
【請求項2】
請求項1に記載のガス切断機を用いて曲面を持つ材料を切断するガス切断方法であって、
前記第2噴出口から前記第1圧力の予熱用の酸素ガスを噴出し、かつ前記第3噴出口から前記燃料ガスを噴出することで、前記曲面の予熱を行い、
前記予熱後に、前記第1噴出口から前記切断用の酸素ガスを噴出し、前記第2噴出口から前記第2圧力の酸素ガスを噴出し、前記第3噴出口から前記燃料ガスを噴出し、かつ前記第4噴出口から前記予熱用の酸素ガスを噴出することで前記材料の切断を開始することを特徴とするガス切断方法。
【請求項3】
前記曲面の予熱後に、一旦、前記切断火口の位置を後退させ、その後、前記材料の端面から前記材料の切断を開始することを特徴とする請求項2に記載のガス切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲面を持つ材料の切断に適したガス切断機及びガス切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス切断では、切断したい鋼材の表面を予熱炎で高温に熱し、該高温に熱せられた箇所に酸素ガス(切断酸素)を吹き付けることで、該鋼材の切断を行う。すなわち、予熱炎により高温に熱せられた箇所に切断酸素を吹き付けると、鋼材が燃焼し(鋼材と酸素が反応して酸化物を形成し)、その熱により鋼材自体が溶融する。このため、切断酸素により燃焼生成物と溶融鋼材とを吹き飛ばすことで、鋼材の切断が行われる。
【0003】
このようなガス切断に用いられるガス切断機の例としては、例えば、特許文献1に開示されるものがある。特許文献1に示されるように、ガス切断のための各種ガスは、切断火口から噴出される。また、該切断火口は、切断酸素を噴出する切断酸素噴出口と、該切断酸素噴出口を取り囲んでカーテン用の酸素ガスを噴出するカーテン酸素噴出口と、該カーテン酸素噴出口を取り囲んで燃料ガスを噴出する燃料ガス噴出口と、該燃料ガス噴出口を取り囲んで予熱用の酸素ガスを噴出する予熱酸素噴出口とを備える。
【0004】
ここで、カーテン酸素とは、切断用の酸素ガスの純度を保持し、かつ燃料ガスの燃焼を補助するために供給されるものであり、特許文献1にも開示されるように、その流量は微量(予熱用の酸素ガスの流量よりも十分に小さな流量)に設定される。また、カーテン酸素は、省略される場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-167299号公報
【文献】特開平8-168877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなガス切断の特徴は、溶融のためのエネルギーが切断される材料(例えば、鋼材)の燃焼によって供給されることにあり、そのために外部から該エネルギーを供給し難い厚い材料の切断も行えることにある。しかし、従来、曲面を持つ材料を切断しようとする場合、切断を開始する端部(曲面)に十分な予熱がかからず、該材料の切断をいつまで経っても開始できないという問題があった。
【0007】
例えば、ガス切断の対象となる材料が曲面を有しない、又は角部のR(曲率半径)が小さいスラブ、ブルーム、ビレットなどである場合には、予熱炎が切断を開始する端部に垂直に当たるため、該端部に十分な予熱がかかり、切断用の酸素を吹き付けることで容易に切断ノロ(スラグ)を発生させることができる。しかし、ガス切断の対象となる材料が丸鋼、パイプ、コラムなどである場合や、角部のRが大きいスラブ、ブルーム、ビレットなどである場合には、予熱炎が材料の切断を開始する曲面部に斜めに当たるため、該曲面部に十分な予熱がかからず、切断酸素を吹き付けても切断ノロを発生させることができない。
【0008】
このような問題を解決するために、従来は、例えば、特許文献2に開示されるように、予熱炎にパウダー(鉄粉など)を供給し、該パウダーの燃焼熱を利用することで、切断用の酸素を吹き付けたときに切断ノロが発生するようにしたものがある。また、オペレータが番線(針金)を供給することによっても同様の現象が発生し、切断用の酸素を吹き付けたときに切断ノロを発生させることができる。
【0009】
しかし、パウダーを挿入する手法では、該パウダーを挿入するための機構(パウダー供給装置や、その付属品など)が必要なため、コストが増大する問題がある。また、オペレータが番線を供給する場合には、オペレータの作業が増えるとともに、該オペレータの安全性も考慮しなければならない。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、曲面を持つ材料を低コスト、安全、かつ確実に切断することが可能なガス切断機及びガス切断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明では、切断火口と、前記切断火口からのガスの噴出を制御するバルブ機構とを備えたガス切断機であって、前記切断火口は、中央部に配置されて切断用の酸素ガスを噴出するための第1噴出口と、前記第1噴出口を取り囲むように配置されて予熱用の酸素ガスを噴出するための複数の第2噴出口と、前記第2噴出口を取り囲むように配置されて燃料ガスを噴出するための複数の第3噴出口と、前記第3噴出口を取り囲むように配置されて前記予熱用の酸素ガスを噴出するための複数の第4噴出口とを有し、前記バルブ機構は、前記第1噴出口から前記第4噴出口の各々に供給するガスの圧力及び流量を独立に制御可能なものであり、かつ前記第2噴出口に接続されるガス供給ラインは、第1圧力の酸素ガスの供給/停止を第1バルブの開閉により制御可能な第1ラインと、前記第1圧力よりも低い第2圧力の酸素ガスの供給/停止を第2バルブの開閉により制御可能な第2ラインとからなるものであることを特徴とするガス切断機を提供する。
【0012】
このようなガス切断機によれば、第1ラインから第2噴出口に高圧である第1圧力の酸素ガスを供給することで曲面を有する材料の該曲面部を予熱することが可能となる。すなわち、強化された予熱炎を用いて該曲面部を予熱できるため、材料の切断を開始するために十分な予熱を該曲面部にかけることができる。また、第2ラインから第2噴出口に比較的低圧である第2圧力の酸素ガスを供給することで、切断酸素により切断が開始された後に材料の切断を安定して継続することが可能となる。このように、曲面を持つ材料を低コスト、安全、かつ確実に切断することが可能となる。
【0013】
また、本発明では、上記ガス切断機を用いて曲面を持つ材料を切断するガス切断方法であって、前記第2噴出口から前記第1圧力の予熱用の酸素ガスを噴出し、かつ前記第3噴出口から前記燃料ガスを噴出することで、前記曲面の予熱を行い、前記予熱後に、前記第1噴出口から前記切断用の酸素ガスを噴出し、前記第2噴出口から前記第2圧力の酸素ガスを噴出し、前記第3噴出口から前記燃料ガスを噴出し、かつ前記第4噴出口から前記予熱用の酸素ガスを噴出することで前記材料の切断を開始することを特徴とするガス切断方法を提供する。
【0014】
このようなガス切断方法によれば、まず、第1ラインから第2噴出口に高圧である第1圧力の酸素ガスを供給することで曲面を有する材料の該曲面部を予熱することが可能となる。すなわち、強化された予熱炎を用いて該曲面部を予熱できるため、材料の切断を開始するために十分な予熱を該曲面部にかけることができる。この後、第1噴出口から切断用の酸素ガスを噴出し、第2噴出口から比較的低圧である第2圧力の酸素ガスを噴出し、第3噴出口から燃料ガスを噴出し、かつ第4噴出口から予熱用の酸素ガスを噴出することで、切断酸素により材料の切断を開始できるとともに、この後、材料の切断を安定して継続することが可能となる。このように、曲面を持つ材料を低コスト、安全、かつ確実に切断することが可能となる。
【0015】
前記曲面の予熱後に、一旦、前記切断火口の位置を後退させ、その後、前記材料の端面から前記材料の切断を開始することが好ましい。
【0016】
このように、曲面の予熱後に切断火口の位置を後退させ、かつ該材料の端面から切断を開始するというスタンディングスタートを用いれば、ガス切断の対象となる材料の温度にかかわらず(例えば、常温であっても)、確実に、材料の切断を開始することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、曲面を持つ材料を低コスト、安全、かつ確実に切断することが可能なガス切断機及びガス切断方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のガス切断機の一例を示す図である。
図2図1の切断火口の例を示す図である。
図3図1のバルブ機構により各ガスの噴出/停止を制御するための波形図である。
図4】本発明のガス切断方法の一例を示す図である。
図5】比較例のガス切断機を示す図である。
図6図5の切断火口の例を示す図である。
図7図5のバルブ機構により各ガスの噴出/停止を制御するための波形図である。
図8】曲面を有しない材料に対する比較例のガス切断方法を示す図である。
図9】曲面を有する材料に対する比較例のガス切断方法を示す図である。
図10】テスト材としての丸鋼を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上述のように、従来は、曲面を持つ材料の切断を開始できないという問題があった。例えば、ガス切断の対象となる材料(例えば、鋼材)の温度が高い(例えば、600°以上)場合には、従来の予熱炎を用いて該切断を開始する曲面部の予熱を行った後に、一旦、切断火口の位置を後退させ、その後、該材料の端面から切断を開始するというスタンディングスタートで切断を開始できることもあるが、これは確実ではない。また、ガス切断の対象となる材料の温度が低い(例えば、常温)場合には、切断を開始する曲面部に時間をかけて予熱を行っても、該曲面部の温度が上がらず、その後に切込動作を行っても切断ノロが発生しないため切断が開始できない。
【0020】
そこで、これらの場合でも、材料の切断を確実に開始できる手法として、パウダーを供給する手法や、オペレータが番線を供給する手法が知られていたが、前者にはコストが増大する問題があり、後者にはオペレータの作業が増えるとともに該オペレータの安全性も考慮しなければならないという問題があった。
【0021】
このようなことから、曲面を持つ材料、例えば、丸鋼、パイプ、コラム、さらには、角部のRが大きいスラブ、ブルーム、ビレットなどを、低コスト、安全、かつ確実に切断することが可能なガス切断機及びガス切断方法の開発が求められていた。
【0022】
本発明者は、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、まず、切断火口の構造に着目した。曲面を持つ材料を切断する場合において、切断を開始する、すなわち、切断酸素により曲面部で切断ノロ(スラグ)を発生させるには、該曲面部の予熱を十分に行うに足りる予熱炎を発生させればよい。しかし、従来は、予熱用の酸素ガスを噴出する予熱酸素噴出口は、切断火口の最外周に存在し、予熱用の酸素ガスの圧力及び流量の制御だけでは、曲面部に対する十分な加熱能力を得ることができなかった。
【0023】
一方、切断火口において、切断酸素噴出口及び予熱酸素噴出口以外に酸素ガスを噴出可能な噴出口としては、カーテン用の酸素ガスを噴出するカーテン酸素噴出口がある。該カーテン酸素噴出口から噴出される酸素ガス(カーテン酸素)は、切断酸素の純度を保持し、かつ燃料ガスの燃焼を補助するという目的から、その圧力及び流量は、小さな値に設定され、かつ固定されていた。そこで、本発明者は、該カーテン酸素噴出口を予熱酸素噴出口として用いることができないかという観点から、さらに鋭意検討を重ねた。
【0024】
その結果、本発明者は、カーテン酸素噴出口が切断火口の最内周に存在することから、これを予熱酸素噴出口として用いることで、曲面部に対する驚異的な加熱能力を得ることができることを見出した。また、本発明者は、曲面を有する材料の切断を開始する際に該曲面部を予熱するに当たってはこの驚異的な加熱能力が有効となるが、該曲面部に十分な予熱がかかり、一旦、材料の切断が開始された後は、材料の切断を安定して継続するために、従来どおり、切断火口の最外周に配置される予熱酸素噴出口から予熱用の酸素ガスを噴出し、かつ切断火口の最内周に配置されるカーテン酸素噴出口からカーテン酸素を噴出することが好ましいことを見出した。
【0025】
そして、本発明者は、上記を実現するためには、従来のガス切断機及びガス切断方法においてどのような変更を加えたらよいかをさらに鋭意検討した結果、カーテン酸素噴出口に接続されるガス供給ラインを、第1圧力(高圧)の酸素ガスの供給/停止を第1バルブの開閉により制御可能な第1ラインと、該第1圧力よりも低い第2圧力(低圧)の酸素ガスの供給/停止を第2バルブの開閉により制御可能な第2ラインとから構成すればよいことを見出し、本発明を完成させた。
【0026】
すなわち、本発明は、切断火口と、前記切断火口からのガスの噴出を制御するバルブ機構とを備えたガス切断機であって、前記切断火口は、中央部に配置されて切断用の酸素ガスを噴出するための第1噴出口と、前記第1噴出口を取り囲むように配置されて予熱用の酸素ガスを噴出するための複数の第2噴出口と、前記第2噴出口を取り囲むように配置されて燃料ガスを噴出するための複数の第3噴出口と、前記第3噴出口を取り囲むように配置されて前記予熱用の酸素ガスを噴出するための複数の第4噴出口とを有し、前記バルブ機構は、前記第1噴出口から前記第4噴出口の各々に供給するガスの圧力及び流量を独立に制御可能なものであり、かつ前記第2噴出口に接続されるガス供給ラインは、第1圧力の酸素ガスの供給/停止を第1バルブの開閉により制御可能な第1ラインと、前記第1圧力よりも低い第2圧力の酸素ガスの供給/停止を第2バルブの開閉により制御可能な第2ラインとからなるものであることを特徴とするガス切断機である。
【0027】
なお、以下の説明では、本発明を分かり易くするために、切断火口の中央部に配置されて切断用の酸素ガスを噴出するための第1噴出口を「切断酸素噴出口」と称し、該第1噴出口を取り囲むように配置されて予熱用の酸素ガス又はカーテン酸素を噴出するための第2噴出口を「予熱酸素(イン酸素)噴出口」と称し、該第2噴出口を取り囲むように配置されて予熱炎の元になる燃料ガスを噴出するための第3噴出口を「燃料ガス噴出口」と称し、該第3噴出口を取り囲むように配置されて予熱用の酸素ガスを噴出するための第4噴出口を「予熱酸素(アウト酸素)噴出口」と称することとする。
【0028】
また、切断用の酸素ガスを「切断酸素」と称し、予熱酸素(イン酸素)噴出口から噴出される予熱用の酸素ガスを「予熱酸素(イン酸素)」と称し、予熱酸素(アウト酸素)噴出口から噴出される予熱用の酸素ガスを「予熱酸素(アウト酸素)」と称することとする。
【0029】
本発明のガス切断機及びガス切断方法によれば、曲面を持つ材料を低コスト、安全、かつ確実に切断することが可能となる。
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、添付した図面に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0031】
図1は、本発明のガス切断機の一例を示す。図2は、図1の切断火口の例を示す。
ガス切断機10は、切断火口11と、先端部に該切断火口11が取り付けられた切断吹管(トーチ)12と、酸素及び燃料ガスを切断吹管12を介して切断火口11に供給するとともに切断火口11からの各ガスの噴出を制御するバルブ機構13とを備える。
【0032】
切断火口11は、中央部に配置されて切断酸素を噴出するための切断酸素噴出口(第1噴出口)1と、切断酸素噴出口1を取り囲むように配置されて予熱酸素(イン酸素)を噴出するための複数の予熱酸素(イン酸素)噴出口(第2噴出口)2と、予熱酸素(イン酸素)噴出口2を取り囲むように配置されて燃料ガスを噴出するための複数の燃料ガス噴出口(第3噴出口)3と、燃料ガス噴出口3を取り囲むように配置されて予熱酸素(アウト酸素)を噴出するための複数の予熱酸素(アウト酸素)噴出口(第4噴出口)4とを有する。
【0033】
例えば、予熱酸素(イン酸素)噴出口2は、切断酸素噴出口1を中心とする2つの同心円の円周上に配置される。また、燃料ガス噴出口3も、切断酸素噴出口1を中心とする2つの同心円の円周上に配置される。さらに、予熱酸素(アウト酸素)噴出口4は、切断酸素噴出口1を中心とする1つの円の円周上に配置される。但し、予熱酸素(イン酸素)噴出口2、燃料ガス噴出口3、及び予熱酸素(アウト酸素)噴出口4のレイアウトは、これに限定されることはない。
【0034】
切断酸素噴出口1は、材料の切断を開始する時(切込時)、及び材料の切断を継続している時(切断時)に、高圧かつ大きな流量で切断酸素を噴出する。ここでいう高圧及び大きな流量とは、燃焼生成物と溶融鋼材とを吹き飛ばすに十分な圧力及び流量のことであり、例えば、0.7MPa以上の圧力、及び50Nm/Hr以上の流量のことである。
【0035】
予熱酸素(イン酸素)噴出口2は、切込開始前に曲面を有する材料の該曲面部の予熱を行っている時(予熱時)に、高圧かつ大きな流量で予熱酸素(イン酸素)を噴出する。また、予熱酸素(イン酸素)噴出口2は、切込時及び切断時に、低圧かつ小さな流量で予熱酸素(イン酸素)を噴出する。ここでいう高圧及び大きな流量とは、切込時及び切断時の圧力及び流量よりも大きく、かつ切断酸素の圧力及び流量よりも小さな圧力及び流量という意味であり、例えば、0.5MPaの圧力、及び20Nm/Hrの流量に設定される。また、低圧及び小さな流量とは、予熱時の圧力及び流量よりも小さな圧力及び流量という意味であり、カーテン酸素としての圧力及び流量と同じの圧力及び流量、例えば、0.01MPaの圧力、及び1.5Nm/Hrの流量に設定される。
【0036】
燃料ガス噴出口3は、切込時及び切断時に、低圧かつ小さな流量で燃料ガス(LPGなど)を噴出する。ここでいう低圧及び小さな流量とは、予熱時に、予熱酸素(イン酸素)噴出口2から噴出される予熱酸素(イン酸素)の圧力及び流量よりも小さな圧力及び流量という意味であり、例えば、0.07MPaの圧力、及び12Nm/Hrの流量に設定される。
【0037】
予熱酸素(アウト酸素)噴出口4は、切込時及び切断時に、低圧かつ小さな流量で予熱酸素(アウト酸素)を噴出する。ここでいう低圧及び小さな流量とは、予熱時に、予熱酸素(イン酸素)噴出口2から噴出される予熱酸素(イン酸素)の圧力及び流量よりも小さな圧力及び流量という意味であり、例えば、0.07MPaの圧力、及び13Nm/Hrの流量に設定される。
【0038】
バルブ機構13は、酸素ガスを切断酸素として切断酸素噴出口1に供給する切断酸素供給ラインと、酸素ガスを予熱酸素(イン酸素)として予熱酸素(イン酸素)噴出口2に供給するイン酸素供給ライン(枠20で囲まれた部分)と、燃料ガスを燃料ガス噴出口3に供給する燃料ガス供給ラインと、酸素ガスを予熱酸素(アウト酸素)として予熱酸素(アウト酸素)噴出口4に供給するアウト酸素供給ラインとを備える。
【0039】
切断酸素供給ラインは、所定圧力(例えば、0.9MPa)及び所定流量(90Nm/Hr)の酸素ガスを、プラグバルブPV1及び電磁バルブEV1を介して切断酸素として切断酸素噴出口1に供給する。また、ニードルバルブGV1は、圧力/流量調整バルブとして機能し、電磁バルブEV1が閉じられた状態(切断酸素の供給が停止された状態)において、バイパス酸素(ブリーダー酸素)として、例えば、0.01MPa及び1.5Nm/Hrの酸素ガスを切断酸素噴出口1に供給する。
【0040】
イン酸素供給ライン20は、第1圧力の高圧及び大きな流量の酸素ガスの供給/停止を制御可能な高圧ライン(第1ライン)と、第2圧力の低圧及び小さな流量の酸素ガスの供給/停止を制御可能な低圧ライン(第2ライン)とを備える。高圧ラインは、プラグバルブPV3からの酸素ガスを、圧力/流量調整器PA3H及び電磁バルブ(第1バルブ)EV3Hを介して予熱酸素(イン酸素)として予熱酸素(イン酸素)噴出口2に供給する。圧力/流量調整器PA3Hは、高圧(例えば、0.5MPa)及び大きな流量(20Nm/Hr)の予熱酸素(イン酸素)を生成する。
【0041】
また、低圧ラインは、プラグバルブPV3からの酸素ガスを、圧力/流量調整器PA3L及び電磁バルブ(第2バルブ)EV3Lを介して予熱酸素(イン酸素)として予熱酸素(イン酸素)噴出口2に供給する。圧力/流量調整器PA3Lは、低圧(例えば、0.01MPa)及び小さな流量(1.5Nm/Hr)の予熱酸素(イン酸素)を生成する。
【0042】
燃料ガス供給ラインは、燃料ガスを、プラグバルブPV2、圧力/流量調整器PA2、及び電磁バルブEV2を介して燃料ガス噴出口3に供給する。圧力/流量調整器PA2は、例えば、0.07MPaの圧力、及び12Nm/Hrの流量の燃料ガスを生成する。また、ニードルバルブGV2は、種火用とし、例えば、極微量の燃料ガスを燃料ガス噴出口3に供給する。
【0043】
予熱酸素(アウト酸素)供給ラインは、酸素ガスを、プラグバルブPV4、圧力/流量調整器PA4、及び電磁バルブEV4を介して、予熱酸素(アウト酸素)として予熱酸素(アウト酸素)噴出口4に供給する。圧力/流量調整器PA4は、例えば、0.1MPaの圧力、及び30Nm/Hrの流量の酸素ガスを生成する。また、ニードルバルブGV3は、種火用とし、例えば、極微量の酸素ガスを予熱酸素(アウト酸素)噴出口4に供給する。
【0044】
なお、ニードルバルブ14は、従来の切込時及び切断時に、予熱酸素(アウト酸素)に基づき低圧及び小さな流量の酸素ガスを生成し、これをカーテン酸素として予熱酸素(イン酸素)噴出口2に供給する役割を有するものである。しかし、本発明では、上記のように、予熱酸素(イン酸素)噴出口2に接続され、高圧かつ大きな流量の酸素ガスと低圧かつ小さな流量の酸素ガスとを選択的に予熱酸素(イン酸素)噴出口2に供給可能な予熱酸素(イン酸素)供給ラインを有する。
【0045】
従って、本発明において、ニードルバルブ14は、常に閉じた状態にしておいてもよいし、又は省略してもよい。
【0046】
図3は、図1のバルブ機構により各ガスの噴出/停止を制御するための波形図を示す。図4は、本発明のガス切断方法の一例を示す。
すなわち、図3の制御を行うことで、実際に、図4に示す動作が実現される。以下、図3及び図4を参照しながら、本発明のガス切断方法を説明する。
【0047】
まず、トーチ12(切断火口11)を切込開始位置まで前進させる動作を開始するとともに、燃料ガス電磁バルブ(図1のEV2)を開いて燃料ガスを燃料ガス噴出口3から噴出する。この時、切断酸素噴出口1からバイパス酸素、燃料ガス噴出口3から種火ガス、予熱酸素(アウト酸素)噴出口4から種火酸素をそれぞれ噴出することで、切断火口からパイロット炎(種火)が出力されている状態にしておく(図4(a)参照)。
【0048】
次に、トーチ12の前進を開始してから所定時間(例えば、0.5秒)が経過したら、該トーチ12が切込開始位置に到達したと判断し、予熱酸素(イン酸素)電磁バルブ(図1のEV3H及びEV3L)を開いて予熱酸素(イン酸素)を予熱酸素(イン酸素)噴出口2から噴出する。ここで、本例では、図1のEV3H及びEV3Lの双方を開くことを前提としているが、図1のEV3Hのみを開き、図1のEV3Lを閉じた状態にしておいてもよい。また、この時、予熱酸素(アウト酸素)電磁バルブ(図1のEV4)を開いて予熱酸素(アウト酸素)を予熱酸素(アウト酸素)噴出口4から噴出する。その結果、切断火口11から予熱強化炎が出力されている状態となる(図4(b)参照)。
【0049】
次に、トーチ12の前進を開始してから所定時間(例えば、0.5秒+0.5秒)が経過したら、該トーチ12が予熱開始位置に到達したと判断し、トーチ12の前進を完了させる。そして、予熱開始位置において、ガス切断の対象となる材料(例えば、鋼材)16の曲面Rの予熱箇所Xに対して、予熱強化炎による予熱を開始する(図4(c)参照)。
【0050】
次に、予熱強化炎による予熱を所定時間(例えば、40秒程度)行った後、予熱箇所Xの予熱を完了する。すなわち、トーチ12を予熱開始位置から切込開始位置まで後退させる動作を開始する。トーチ12の後退を開始してから所定時間(例えば、0.5秒)が経過したら、該トーチ12が切込開始位置に到達したと判断する(図4(d)参照)。そして、予熱酸素(イン酸素)電磁バルブ(図1のEV3H及びEV3L)を閉じて予熱酸素(イン酸素)の予熱酸素(イン酸素)噴出口2からの噴出を停止する。これに代えて、切断酸素電磁バルブ(図1のEV1)を開いて切断酸素を切断酸素噴出口1から噴出する。その結果、切断火口から切断炎が出力されている状態となる(図4(e)参照)。
【0051】
次に、トーチ12を切込開始位置から予熱開始位置に向かって前進させる動作(切込動作)を開始する。トーチ12の前進を開始してから所定時間(例えば、0.5秒)が経過すると、該トーチ12が予熱開始位置に到達する。この時、予熱箇所Xでは、材料16の十分な予熱が行われているため、切断酸素により切断ノロが形成され、材料16の切断(切込)が開始される(図4(f)~図4(h)参照)。
【0052】
以上のように、本発明のガス切断方法によれば、いわゆるスタンディングスタートを用いて、まず、ガス切断の対象となる材料16の曲面Rの予熱箇所Xに対して所定時間(例えば、40秒程度)の予熱を行う。この場合、予熱箇所Xが高温(赤色)となり、十分な予熱が行われるため、その後、切断酸素を用いて材料16の切断(切込)を開始すると、予熱箇所Xにおいて容易に切断ノロが発生し、実際に切断が開始される。すなわち、本発明によれば、曲面を持つ材料を低コスト、安全、かつ確実に切断することが可能なガス切断機及びガス切断方法を提供できる。
【0053】
なお、上記ガス切断機及びガス切断方法は、低い温度(例えば、常温)の材料の切断を開始する場合に有効である。
【0054】
具体的には、連鋳ガスカッターで生成されたスラブやビレットなどの鋼片をユーザの要求するサイズに切断する二次ガスカッターや、鉄鋼の製造過程で発生した様々な形状の廃却鉄鋼や地金を二次原料として再利用するためにそれらを一定の大きさに切断するスクラップガスカッターなどに、上記ガス切断機及びガス切断方法を適用することができる。
【実施例
【0055】
以下に本発明の実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、これらは、本発明を限定するものではない。
【0056】
(実施例)
図1から図4において説明したガス切断機及びガス切断方法を用いて曲面を有するテスト材の切断を試み(実施例)、実際に該テスト材を切断できるか否かについて検証した。この時、比較例として、以下のガス切断機及びガス切断方法を用いて同じテスト材の切断を試み、同様に、該テスト材を切断できるか否かについて検証した。
【0057】
図5は、比較例のガス切断機を示す。図6は、図5の切断火口の例を示す。
なお、比較例において、図1及び図2のガス切断機10と同じ部分には同じ符号を付すことによりその説明を省略する。
【0058】
比較例のガス切断機10’が図1及び図2のガス切断機10と異なる点は、比較例では予熱酸素(イン酸素)噴出口2に接続されるイン酸素供給ラインが存在しないことにある。すなわち、比較例では、ニードルバルブ14を常に微量開いておくことにより、予熱酸素(イン酸素)噴出口2からは、予熱酸素(アウト酸素)供給ラインの予熱酸素(アウト酸素)に基づく、低圧かつ小さな流量の酸素ガス(カーテン酸素)が常に噴出される。言い換えれば、比較例では、本発明のような予熱強化炎を用いた予熱を行うことができない。
【0059】
図7は、図5のバルブ機構により各ガスの噴出/停止を制御するための波形図を示す。図8は、曲面を有しない材料に対する比較例のガス切断方法を示す。図9は、曲面を有する材料に対する比較例のガス切断方法を示す。
【0060】
比較例のガス切断方法では、上記のように、材料15,16の切断を開始する前に、予熱強化炎を用いた予熱を行っておくことができないため、ランニングスタートによる材料15,16の切断を行う。ランニングスタートでは、燃料ガス電磁バルブ(図5のEV2)を開けてパイロット炎(種火)が出力されている状態(図8(a)及び図9(a)参照)において、予熱酸素電磁バルブ(図5のEV4)を開け、さらに、切断酸素電磁バルブ(図5のEV1)を開けることで、切断炎を生成する(図8(b)及び図9(b)参照)。
【0061】
この後、トーチ12(切断火口11)を移行させることで材料15,16の切断を開始する(図8(c)~(e)及び図9(c)~(e)参照)。
【0062】
なお、比較例では、図8に示すように、曲面を有しない材料、又は角部のRが小さいスラブ、ブルーム、ビレットなどについては、ランニングスタートで材料を切断可能であった。しかし、図9に示すように、曲面を有する材料、特に、丸鋼、パイプ、コラム、又は角部のRが大きいスラブ、ブルーム、ビレットなどについては、実施例では、材料の切断を容易に開始することができたが、比較例では、ランニングスタートで切込動作を何回も繰り返してみたが材料の切断を開始することができなかった。
【0063】
以下に、実施例における切断テスト結果を、テスト材として丸鋼を用いた場合を例にとって説明する。
【0064】
・ テスト材(丸鋼)
図11は、テスト材としての丸鋼を示す。
テスト材としての丸鋼は、半径200mm(直径400mm)のサイズを有する。切断火口としては、USG(図2の切断火口と同じ構造を有するもの)を使用した。
【0065】
材料(丸鋼)17の切断を開始する前の予熱時において、材料17の上端から切断火口11までの高さを115mmに設定し、予熱箇所Xから切断火口11までの高さを177mmに設定した。また、燃料ガスについては、圧力0.07MPa、流量12Nm/Hrで燃料ガス噴出口から噴出し、予熱酸素(イン酸素)については、圧力0.50MPa、流量20Nm/Hrで、予熱酸素(イン酸素)噴出口から噴出し、圧力0.01MPa、流量1.5Nm/Hrのバイパス酸素(ブリーダー酸素)を切断酸素噴出口から噴出し、予熱強化炎を生成した。そして、この予熱強化炎を用いて、30秒間、予熱箇所Xの予熱を行った。
【0066】
この後、予熱酸素(イン酸素)を停止し、これに代えて、圧力0.07MPa、流量13Nm/Hrの予熱酸素(アウト酸素)を予熱酸素(アウト酸素)噴出口から噴出し、さらに、圧力0.80MPa、流量80Nm/Hrの切断酸素を切断酸素噴出口から噴出し、切断炎を生成した。この時、該切断炎を用いて、予熱箇所Xから容易に材料17の切断が開始できることが確認された。
【0067】
そして、切断火口11を後退速度15mm/minで後退させ、材料17を切断しながら、該切断火口11を予熱箇所Xから切断開始端面まで移動させた。この後、切断火口11を切断速度60mm/minで前進させ、材料17の切断が完了するまで切断火口11を前進させた。
【0068】
以上の切断テスト結果から、実施例では、丸鋼を、低コスト、安全、かつ確実に切断可能であることが立証された。
【0069】
以上、説明したように、本発明によれば、曲面を持つ材料を低コスト、安全、かつ確実に切断することが可能なガス切断機及びガス切断方法を提供できる。
【0070】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0071】
1…切断酸素噴出口、 2…予熱酸素(イン酸素)噴出口、 3…燃料ガス噴出口、 4…予熱酸素(アウト酸素)噴出口、 10…ガス切断機、 11…切断火口、 12…切断吹管(トーチ)、 13…バルブ機構、 14、GV1、GV2、GV3…ニードルバルブ、 15、16、17…材料(鋼材)、 20…イン酸素供給ライン、 PV1、PV2、PV3、PV4…プラグバルブ、 PA1、PA2、PA3H、PA3L、PA4…圧力/流量調整器、 EV1、EV2、EV3H、EV3L、EV4…電磁バルブ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10