(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】ポリアミド系積層フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/34 20060101AFI20230824BHJP
H01M 50/121 20210101ALI20230824BHJP
H01M 50/129 20210101ALI20230824BHJP
H01M 50/145 20210101ALI20230824BHJP
【FI】
B32B27/34
H01M50/121
H01M50/129
H01M50/145
(21)【出願番号】P 2020534647
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2019029742
(87)【国際公開番号】W WO2020027089
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2018143915
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】松本 真実
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/025924(WO,A1)
【文献】特開2010-046863(JP,A)
【文献】国際公開第2011/158662(WO,A1)
【文献】特開2014-007130(JP,A)
【文献】国際公開第2006/126370(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
C08J 7/04 - 7/06
H01M 50/10 - 50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系フィルム基材と、前記基材の少なくとも片面に形成された保護層とを含むポリアミド系積層フィルムであって、
(1)保護層は、ポリアミド系フィルム基材の表面に直に接するように形成されており、
(2)保護層の少なくとも1つは、ポリアミド系積層フィルムの最表面層として配置され、
(3)構成成分としてジカルボン酸成分及びジオール成分を含み、かつ、ジカルボン酸に由来する構造単位100モル%中に
(a)ナフタレン骨格を有するジカルボン酸成分が50モル%以上
及び(b)テレフタル酸が5モル%以上含まれる共重合ポリエステル樹脂が保護層に含まれており、
(4)保護層の厚みが1.5μm以下である、
ことを特徴とする、ポリアミド系積層フィルム。
【請求項2】
下記式(1):
(HzX)-(Hz0)<3.0 ・・・式(1)
(ただし、前記Hz0は日本産業規格「JIS K 7136」に従って測定したヘーズ値であり、前記HzXは前記Hz0を測定後に保護層に電解液を付着せさた状態で温度23℃及び湿度50%RHで12時間保持した後にHz0と同様にして測定したヘーズ値である。前記電解液は、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/メチルエチルカーボネート=1:1:1(体積比)からなる混合液にLiPF
6を濃度1モル/Lに希釈した溶液である。)
を満たし、かつ、Hz0が10以下の範囲内にある、請求項1に記載のポリアミド系
積層フィルム。
【請求項3】
保護層の表面粗さ(Ra)が45nm以下である、請求項1に記載のポリアミド系積層フィルム。
【請求項4】
共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度が60~145℃である、請求項1に記載のポリアミド系積層フィルム。
【請求項5】
保護層がメラミン樹脂、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物及びオキサゾリン化合物の少なくとも1種をさらに含む、請求項1に記載のポリアミド系積層フィルム。
【請求項6】
ポリアミド系フィルム基材の少なくとも片面に保護層が直に接するように積層されており、
(a)保護層、ポリアミド系フィルム基材、バリア層及び熱融着層を順に含む積層体、又は
(b)保護層、ポリアミド系フィルム基材、保護層、バリア層及び熱融着層を順に含む積層体
である、請求項1~5のいずれかに記載のポリアミド系積層フィルム。
【請求項7】
物品を包装するために用いられる、請求項1~6のいずれかに記載のポリアミド系積層フィルム。
【請求項8】
負極、正極、セパレータ及び電解質を含む発電要素とその発電要素を包装する外装材とを含む電池であって、
前記外装材が請求項1~6のいずれかに記載のポリアミド系積層フィルムであり、かつ、当該保護層が当該電池の最外層として配置されていることを特徴とする電池。
【請求項9】
請求項1~6のいずれかに記載のポリアミド系積層フィルムを得る製造方法であって、
(1)構成成分としてジカルボン酸成分及びジオール成分を含み、かつ、ジカルボン酸成分100モル%中ナフタレン骨格を有するジカルボン酸成分が50モル%以上
及び(b)テレフタル酸が5モル%以上含まれる共重合ポリエステル樹脂を含む保護層形成用塗工液を未延伸ポリアミド系フィルム又は一軸延伸ポリアミド系フィルムに塗布する工程、
(2)前記塗布による塗膜を有するポリアミド系フィルムを延伸することにより、MD方向及びTD方向に延伸された二軸延伸フィルムの片面又は両面に保護層が形成されたポリアミド系積層フィルムを得る工程
を含むポリアミド系積層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に電子部品、電子デバイス等の各種製品を包装又は被覆するために用いられるポリアミド系積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電池(リチウムイオン二次電池等)の外装材として、ポリアミドフィルムを含む積層フィルムが多用されている。代表例としては、ポリアミドフィルム/アルミニウム箔/シーラント層が順に積層された積層体が外装材として知られている。この積層体を外装材として用いたリチウムイオン二次電池においては、前記ポリアミドフィルムが電池の外側に配置され、かつ、シーラント層が内側(電池内部)に配置されるように積層体が容器状に加工されている。そして、その容器の内部には電極等が包装された上で電解液が注入されている。
【0003】
このようなリチウムイオン二次電池を製造する際には、電解液を電池内部に注入する工程、その注入後に外装材をヒートシールする工程等を経ることになる。これらの工程において、電解液がこぼれ、外装材の外側のポリアミドフィルムに付着することがある。ポリアミドフィルムは、電解液に対する耐性(耐電解液性)が低いため、前記積層体のように外側にポリアミドフィルムが配置されている場合、電解液がポリアミドフィルムに付着するとフィルム表面が白化したり、あるいは分解反応等が生じる。その結果、製品の外観不良、フィルムの強度低下等を引き起こすことがある。さらには、電解液がポリアミドフィルムの劣化した部分から侵入してアルミニウム箔に接触するとアルミニウム箔が腐食するおそれがある。この場合には、外装材に必要な強度が失われてしまうという問題が起こる。
【0004】
上記のような問題を解決するため、ポリアミドフィルムの外側の表面に保護層を設ける方法が提案されている。例えば、特許文献1では、保護層としてポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた外装材が開示されている。特許文献2では、ポリエステルフィルムとポリアミドフィルムの積層体を延伸したフィルムを用いた外装材が開示されている。特許文献3~5では、保護層として特定の樹脂からなるコーティング層を最外層に積層した外装材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-56824号公報
【文献】特開2013-240938号公報
【文献】特開2000-123799号公報
【文献】特開2014-176999号公報
【文献】特開2014-176998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~2の外装材は、ポリアミドフィルムの保護層としてポリエステル系フィルムが用いられる。ところが、ポリアミドフィルムとポリエステル系フィルムとの間に接着剤層を設ける工程のほか、ポリエステル系フィルムをラミネートする工程が別途に必要となるため、製造工程が煩雑になり、また低コスト化の妨げとなる。また、接着剤の分だけ総重量が増加するため、電池の軽量化という点では不利である。
【0007】
特許文献3~5に記載のコーティング層は、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタン等の樹脂成分を含む。しかし、電解液に対する十分な保護機能を付与するためには、保護層として少なくとも1μm以上の厚みを確保する必要がある。このため、保護層自体の材料コストが高くなることに加え、乾燥工程で必要となるエネルギーコストが高くなるため、経済的に不利である。また、ポストコーティング法により保護層が形成されるため、工程数増加によるコスト高を招くほか、乾燥工程の熱量が基材フィルムの物性に悪影響を与えるおそれがある。
【0008】
従って、本発明の主な目的は、比較的薄い保護層であるにもかかわらず、優れた耐電解液性を発揮できるポリアミド系積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリアミドフィルムの表面に特定の共重合ポリエステル樹脂を含む保護層を設けることによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記のポリアミド系積層フィルム及びその製造方法に係る。
1. ポリアミド系フィルム基材と、前記基材の少なくとも片面に形成された保護層とを含むポリアミド系積層フィルムであって、
(1)保護層は、ポリアミド系フィルム基材の表面に直に接するように形成されており、(2)保護層の少なくとも1つは、ポリアミド系積層フィルムの最表面層として配置され、
(3)構成成分としてジカルボン酸成分及びジオール成分を含み、かつ、ジカルボン酸に由来する構造単位100モル%中にナフタレン骨格を有するジカルボン酸成分が50モル%以上含まれる共重合ポリエステル樹脂が保護層に含まれており、
(4)保護層の厚みが1.5μm以下である、
ことを特徴とする、ポリアミド系積層フィルム。
2. 下記式(1):
(HzX)―(Hz0)<3.0 ・・・式(1)
(ただし、前記Hz0は日本産業規格「JIS K 7136」に従って測定したヘーズ値であり、前記HzXは前記Hz0を測定後に保護層に電解液を付着せさた状態で温度23℃及び湿度50%RHで12時間保持した後にHz0と同様にして測定したヘーズ値である。前記電解液は、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/メチルエチルカーボネート=1/1/1(体積比)からなる混合液にLiPF6を濃度1モル/Lに希釈した溶液である。)
を満たし、かつ、Hz0が10以下の範囲内にある、前記項1に記載のポリアミド系フィルム。
3. 保護層の表面粗さ(Ra)が45nm以下である、前記項1に記載のポリアミド系積層フィルム。
4. 共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度が60~145℃である、前記項1に記載のポリアミド系積層フィルム。
5. 保護層がメラミン樹脂、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物及びオキサゾリン化合物の少なくとも1種をさらに含む、前記項1に記載のポリアミド系積層フィルム。
6. ポリアミド系フィルム基材の少なくとも片面に保護層が直に接するように積層されており、
(a)保護層、ポリアミド系フィルム基材、バリア層及び熱融着層を順に含む積層体、又は(b)保護層、ポリアミド系フィルム基材、保護層、バリア層及び熱融着層を順に含む積層体
である、前記項1~5のいずれかに記載のポリアミド系積層フィルム。
7. 物品を包装するために用いられる、前記項1~6のいずれかに記載のポリアミド系積層フィルム。
8. 負極、正極、セパレータ及び電解質を含む発電要素とその発電要素を包装する外装材とを含む電池であって、
前記外装材が前記項1~5のいずれかに記載のポリアミド系積層フィルムであり、かつ、当該保護層が当該電池の最外層として配置されていることを特徴とする電池。
9. 前記項1~5のいずれかに記載のポリアミド系積層フィルムを得る製造方法であって、
(1)構成成分としてジカルボン酸成分及びジオール成分を含み、かつ、ジカルボン酸成分100モル%中ナフタレン骨格を有するジカルボン酸成分が50モル%以上である共重合ポリエステル樹脂を含む保護層形成用塗工液を未延伸ポリアミド系フィルム又は一軸延伸ポリアミド系フィルムに塗布する工程、
(2)前記塗布による塗膜を有するポリアミド系フィルムを延伸することにより、MD方向及びTD方向に延伸された二軸延伸フィルムの片面又は両面に保護層が形成されたポリアミド系積層フィルムを得る工程
を含むポリアミド系積層フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、比較的薄い保護層であるにもかかわらず、優れた耐電解液性を発揮できるポリアミド系積層フィルムを提供することができる。
【0012】
とりわけ、本発明のポリアミド系積層フィルムの保護層は、酸成分中においてナフタレン骨格を有するジカルボン酸成分を50モル%以上有する共重合ポリエステル樹脂を含有するため、保護層の厚みが1.5μm以下と比較的薄くても、優れた耐電解液性を発揮することができる。このため、電解液が付着した際にも、ポリアミドフィルムの白化、分解反応等を効果的に抑えることができる。その結果、ポリアミド系積層フィルムの強度も持続的に保持することが可能となる。
【0013】
また、保護層の表面粗さも比較的小さく(凹凸が少ない)ため、電解液が付着した場合でも液滴が滞留しにくくなる。そのため、電解液の長時間の付着による保護層の変質を防止することもできる。
【0014】
しかも、保護層の厚みが比較的薄く、従ってポリアミド系積層フィルムとしても薄くすることができるので、被包装体に密着した状態で被覆する場合にも優れた成形追従性を得ることができる。そのため、密着性等が要求されるリチウムイオン二次電池外装材等に好適に使用することができる。
【0015】
保護層の厚みが1.5μm以下と薄くて済むので、比較的マイルドな熱処理条件で容易に形成できるため、ポリアミド系フィルム基材の物性への影響も最小限に抑えることができる。これによっても、優れた耐電解液性、機械特性、耐ブロッキング性等を兼ね備えたポリアミド系積層フィルムの実現に寄与することができる。
【0016】
特に、リチウムイオン二次電池に使用される電解液は、イオン性物質を極性溶媒に溶解させて調製される、電気伝導性を有する液体である。イオン性物質としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を使用したものが一般的である。LiPF6は、水と反応すると強酸性媒体であるフッ酸(フッ化水素)を生じる。そのため、空気中で電解液が付着した場合には、空気中の水分と電解液中のLiPF6とが反応してフッ酸が発生する。このフッ酸によってリチウムイオン二次電池外装材に使用したポリアミドフィルムが溶解する。これに対し、本発明のポリアミド系積層フィルムは、上記のような特定の保護層を有するため、LiPF6等を含む電解液が付着したとしても、ポリアミドフィルムが劣化することがなく、強度を維持することができる。
【0017】
本発明の製造方法では、特定の保護層形成用塗工液をインラインコートで塗工することで保護層を形成できるので、上記のような耐電解液性等に優れたポリアミド系積層フィルムを工業的規模で安価に製造することが可能となる。特に、保護層の厚みが1.5μm以下と薄くて済むので、比較的マイルドな条件下でのインラインコートで容易に形成できる結果、ポリアミド系フィルム基材等の物性への影響も最小限に抑えることができる。この点も、優れた耐電解液性、機械特性、耐ブロッキング性等を兼ね備えたポリアミド系積層フィルムの実現に寄与することとなる。
【0018】
また、本発明の製造方法では、特定の保護層成形用塗工液をインラインコートにて保護層を形成するので、保護層の表面をより平坦にすることができる。これによっても、耐電解液性の向上に貢献することができる。その理由は明らかではないが、以下のような作用機序によるものと推察される。インラインコート法では、保護層成形用塗工液による塗膜がポリアミドフィルムともに延伸と熱処理を受けるものであり、延伸と同時に熱処理を行うことによって、共重合ポリエステル樹脂を主成分とする密度の高い皮膜を形成することができ、保護層表面が平滑となることで表面凹凸が少ない表面を形成することができる。その結果、保護層表面が凹凸の少ない表面となるため、電解液が付着しても滞留しにくくなることから、電解液に対する保護性能が高い保護層が得られると推察される。
【0019】
このような特徴をもつ本発明のポリアミド系積層フィルムは、電解液(又は酸性液体)が付着するおそれある用途に好適に用いることができる。特に、例えばリチウムイオン二次電池等をはじめとする各種の電池(特にラミネート型電池)の外装材等として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のポリアミド系積層フィルムの実施形態を示す図である。
【
図2】本発明のポリアミド系積層フィルムの実施形態を示す図である。
【
図3】本発明のポリアミド系積層フィルムの厚み精度を測定する方法を示すイメージ図である。
【
図4】本発明のポリアミド系積層フィルムを外装材として用いた電池の外観図である。
【
図5】本発明のポリアミド系積層フィルムを外装材として用いた電池の構成を示す概略図である。
【
図6】本発明のポリアミド系積層フィルムを外装材として用いた電池の構成を示す概略図である。
【発明の実施の形態】
【0021】
1.ポリアミド系積層フィルム
本発明のポリアミド系積層フィルム(本発明フィルム)は、ポリアミド系フィルム基材と、前記基材の少なくとも片面に形成された保護層とを含むポリアミド系積層フィルムであって、(1)保護層は、ポリアミド系フィルム基材の表面に直に接するように形成されており、
(2)保護層の少なくとも1つは、ポリアミド系積層フィルムの最表面層として配置され、
(3)構成成分としてジカルボン酸成分及びジオール成分を含み、かつ、ジカルボン酸に由来する構造単位100モル%中にナフタレン骨格を有するジカルボン酸成分が50モル%以上である共重合ポリエステル樹脂が保護層に含まれており、
(4)保護層の厚みが1.5μm以下である、
ことを特徴とする。
【0022】
A.本発明フィルムの層構成
本発明フィルムは、上記のように、ポリアミド系フィルム基材と、前記基材の少なくとも片面に形成された保護層とを含むポリアミド系積層フィルムを基本構成とする。すなわち、接着剤層を介することなく、ポリアミド系フィルム基材の片面又は両面に隣接するように保護層が形成されている積層体を基本構成とするものである。
【0023】
図1には、本発明フィルムの層構成例を示す。
図1Aには、ポリアミド系フィルム基材11の片面に保護層12が積層されている積層体(本発明フィルム)10を示す。
図1Bには、ポリアミド系フィルム基材11の両面に保護層12,12が積層されている積層体(本発明フィルム)10’を示す。これらの場合、いずれも保護層が最表面層(最外層)として配置されている。このように、保護層が最表面層として露出することで、例えば保護層を外側に向けた状態で本発明フィルムによる包装体(袋体等)を作製した場合、その包装体の内容物を外部から保護することができる。
【0024】
本発明フィルムでは、上記のようにポリアミド系フィルム基材に保護層が直接に形成され、なおかつ、少なくとも1つの保護層が最表面層として配置されている限り、他の層がさらに積層されていても良い。例えば、バリア層(ガスバリア層、水蒸気バリア層等)、印刷層、熱融着層(接着剤層、シーラント層、ヒートシール層)、プライマー層(アンカーコート層)、帯電防止層、蒸着層、紫外線吸収層、紫外線遮断層等が挙げられる。
【0025】
図2には、ポリアミド系フィルム基材及び保護層のほかに、他の任意的な層がさらに積層されたポリアミド系積層フィルムの層構成例を示す。
図2Aは、
図1Aの積層体10にさらにバリア層13、熱融着層14が順に積層されてなる積層体20を示す。この積層体20は、ポリアミド系フィルム基材11において保護層12が形成されていない面にバリア層13、熱融着層14が積層されているため、保護層12が最表面層として露出した状態が維持されている。
図2Bは、
図1Bの積層体10’にさらにバリア層13、熱融着層14が順に積層されてなる積層体20’を示す。この積層体20’は、ポリアミド系フィルム基材11のいずれか一方の保護層12上にバリア層13、熱融着層14が積層されているが、他方の保護層12が最表面層として露出した状態が維持されている。また、
図2に示すように、本発明フィルムが熱融着層を有する場合は、熱融着層は最表面層として配置される。
【0026】
以下においては、本発明フィルムを構成するポリアミド系フィルム基材及び保護層のほか、任意的な層についてそれぞれ説明する。
【0027】
A-1.ポリアミド系フィルム基材
ポリアミド系フィルム基材は、本発明フィルムの基材(芯材)となるものであり、通常は予め成形されたフィルムの形態で提供される。ポリアミド系フィルム基材は、単層構造であっても良いし、2つ又はそれ以上のポリアミド系フィルムが積層された多層構造であっても良い。また、多層構造である場合は、各層は互いに同じ組成であっても良いし、異なる組成であっても良い。
【0028】
ポリアミド系フィルム基材は、ポリアミド系樹脂が主成分となるものであるが、他の成分が含まれていても良い。この場合、ポリアミド系フィルム基材中におけるポリアミド系樹脂の含有割合は、限定的ではないが、通常は70~100質量%とし、特に90~99.5質量%とすることが好ましい。
【0029】
ポリアミド系樹脂としては、その分子内にアミド結合(-CONH-)を有する溶融成形可能な熱可塑性樹脂であれば良く、公知又は市販のものを使用することができる。従って、例えばラクタム類、ω-アミノ酸類又は二塩基酸類とジアミンとの重縮合によって得られるポリアミドを挙げることができる。
【0030】
ラクタム類としては、例えばε-カプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、ラウリルラクタム等を挙げることができる。
【0031】
ω-アミノ酸類としては、例えば6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸等を挙げることができる。
【0032】
二塩基酸類としては、例えばアジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカジオン酸、ヘキサデカジオン酸、エイコサンジオン酸、エイコサジエンジオン酸、2,2,4-トリメチルアジピン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、キシリレンジカルボン酸等が挙げられる。
【0033】
ジアミン類としては、例えばエチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、2,2,4(又は2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4,4′-アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミン等を挙げることができる。
【0034】
これらを重縮合して得られる重合体又はこれらの共重合体として、例えばナイロン6、7、11、12、6.6、6.9、6.11、6.12、6T、9T、10T、6I、MXD6(ポリメタキシリレンアジパミド)、6/6.6、6/12、6/6T、6/6I、6/MXD6等を用いることができる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。これらの中でも、耐熱性と機械特性のバランスに優れるという点でポリアミド系樹脂はナイロン6を含むことが好ましい。
【0035】
また、ポリアミド系フィルム基材に採用されるポリアミド系樹脂の相対粘度は、限定的ではないが、通常は1.5~5.0程度であることが好ましく、特に2.0~4.0であることがより好ましい。ポリアミドは、相対粘度が1.5未満であると、得られるフィルムの力学的特性が著しく低下しやすくなるおそれがある。一方、相対粘度が5.0を超えると、フィルムの製膜性に支障をきたしやすくなる。なお、上記相対粘度は、ポリアミドを96%硫酸に濃度1.0g/dlとなるよう溶解させた試料溶液(液温25℃)をウベローデ型粘度計を用いて測定される値である。
【0036】
ポリアミド系フィルム基材は、前記のように、ポリアミド系樹脂のほか、本発明の効果を妨げない範囲内で他の成分を含んでいても良い。他の成分としては、公知又は市販の添加剤を挙げることができる。より具体的には、金属(金属イオン)、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離形剤、強化剤(フィラー)等が例示される。特に、熱安定剤又は酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール類、燐化合物、ヒンダードアミン類、硫黄化合物、銅化合物、アルカリ金属ハロゲン化物等を好適に用いることができる。
【0037】
また、フィルムのスリップ性等の向上のために、好ましくは表面粗さ(Ra)が45nm以下を満たす範囲で無機系滑剤及び有機系滑剤の少なくとも1種を含有しても良い。滑剤の具体例としては、クレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイド、層状ケイ酸塩等の無機系滑剤、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビススエチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミドメチレンビスステアリン酸アミド等の有機系滑剤が挙げられる。
【0038】
ポリアミド系フィルム基材の厚みは、特に制限されないが、一般的には4~30μmであることが好ましく、特に5~25μmであることがより好ましい。厚みが4μm未満では機械的強度が不足しやすく、成形性が低下する。一方、厚みが30μmを超えると、重量が増加し、軽量化を図りたい用途には用いることが困難となる。機械的強度が十分であれば、厚みは薄い方が電解液をより多く封入できるため、内容物量又は電気容量の確保の点で好ましい。
【0039】
また、ポリアミド系フィルム基材は、機械的強度の観点から延伸されたものであることが好ましい。すなわち、配向性を有する構造をとることが好ましい。この場合、一軸延伸又は二軸延伸のいずれであっても良いが、特に二軸延伸による配向性を有することが好ましい。延伸倍率は後記で示すような範囲内で適宜設定することができる。
【0040】
ポリアミド系フィルム基材は、積層体とした際の積層体を構成する各層間の密着力を向上させるため、少なくとも片面にコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理等の公知の表面処理が施されている表面を有することが好ましい。特に、表面粗さは10nm以上とすることが好ましい。さらには、耐電解液性に加えて耐ブロッキング性向上の観点で、保護層面の表面粗さと同じ又はそれ以上であることが好ましい。すなわち、本発明では「保護層面表面粗さ≦ポリアミド系基材フィルム表面粗さ」とすることが好ましい。
【0041】
A-2.保護層
保護層は、構成成分としてジカルボン酸成分及びジオール成分(グリコール成分)を含み、かつ、ジカルボン酸に由来する構造単位100モル%中にナフタレン骨格を有するジカルボン酸成分が50モル%以上である共重合ポリエステル樹脂(以下、この特定の共重合ポリエステル樹脂を「共重合ポリエステル樹脂A」ともいう。)を含む。このような共重合ポリエステル樹脂Aとしては、例えば上記のジカルボン酸成分とジオール成分とを重縮合反応させることによって得られる共重合体を好適に用いることができる。
【0042】
(a)共重合ポリエステル樹脂A
ジカルボン酸成分
ジカルボン酸成分としては、特に限定されないが、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、4,4-ジカルボキシビフェニル、フェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、パラオキシ安息香酸等のオキシカルボン酸等が挙げられる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0043】
これらの中でナフタレン骨格を有するジカルボン酸成分(以下「ジカルボン酸成分A」ともいう。)としては、例えば2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。この中でも、本発明では、立体障害が小さく、高結晶性という見地より、特に2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0044】
そして、本発明では、ジカルボン酸成分Aは、ジカルボン酸に由来する構造単位(100モル%)中に通常50モル%以上含有し、特に60モル%以上含有することが好ましく、さらには70モル%以上含有することがより好ましく、その中でも80モル%以上含有することが最も好ましい。これにより、より高い耐電解液性を確保することができる。ジカルボン酸成分の含有量の上限値は、特に限定されないが、通常は95モル%程度とすることができる。
【0045】
この場合、ジカルボン酸成分A以外のジカルボン酸成分(以下「ジカルボン酸成分B」という。)の含有量は、特に限定されないが、ジカルボン酸に由来する構造単位(100モル%)中に通常1~50モル%程度とし、特に5~45モル%とすることが好ましい。
【0046】
本発明では、立体障害が小さく、高結晶性という見地より、ジカルボン酸成分Bとして、特にテレフタル酸を用いることが好ましい。テレフタル酸を含む場合、ジカルボン酸に由来する構造単位(100モル%)中のテレフタル酸含有量は、限定的ではないが、通常3~50モル%程度とし、特に5~45モル%とすることがより好ましく、その中でも10~40モル%とすることが最も好ましい。従って、本発明では、ジカルボン酸成分として2,6-ナフタレンジカルボン酸及びテレフタル酸を含む組成を好適に採用することができる。より具体的には、ジカルボン酸に由来する構造単位(100モル%)中にジカルボン酸に由来する構造単位(100モル%)中に2,6-ナフタレンジカルボン酸が50モル%以上含み、テレフタル酸が5モル%以上含む組成を挙げることができる。従って、例えばジカルボン酸に由来する構造単位(100モル%)中にジカルボン酸に由来する構造単位(100モル%)中に2,6-ナフタレンジカルボン酸が55~90モル%含み、テレフタル酸が5~45モル%含む組成も採用することができる。
【0047】
なお、本発明では、ジカルボン酸成分Bとして、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸を含有しても良いが、これらの含有量が多くなると、保護層の耐電解液性が低下するおそれがあるため、脂肪族ジカルボン酸の含有量は、ジカルボン酸に由来する構造単位(100モル%)中に20モル%以下とすることが好ましく、特に15モル%以下とすることが好ましく、その中でも5モル%以下とすることが最も好ましい。
【0048】
また、ジカルボン酸成分Bを用いる場合、ジカルボン酸成分Aとジカルボン酸成分Bとの配合比率(モル比)は、通常は50:50~98:2程度とし、特に80:20~95:5程度とすることが望ましい。
【0049】
ジオール成分
ジオール成分としては、特に限定されないが、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジヒドロキシ化合物、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリオキシアルキレンフリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール等の脂環族ジヒドロキシ化合物、ビスフェノールA等の芳香族ジヒドロキシ化合物が挙げられる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0050】
これらの中でも、耐電解液性の強化という観点から、脂肪族ジヒドロキシ化合物が好ましく、その中でも炭素数4以下の脂肪族ジヒドロキシ化合物を含むことがより好ましい。より具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール等の少なくとも1種を挙げることができる。
【0051】
脂肪族ジヒドロキシ化合物は、ジオール成分に由来する構造単位(100モル%)中に通常50モル%以上含有していることが好ましく、特に60モル%以上であることがより好ましく、さらに70モル%以上であることがより好ましく、その中でも80モル%以上であることが最も好ましい。この含有量の上限値は、例えば100モル%とすることもできるが、これに限定されない。
【0052】
なお、本発明では、例えば1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の炭素数5以上の脂肪族ジオールを含有しても良いが、その含有量が多すぎると耐電解液性が低下しやすくなるため、炭素数5以上の脂肪族ジオールの含有量は、ジオール成分に由来する構造単位100モル%中0~25モル%程度とすることが好ましい。
【0053】
その他の共重合成分
共重合ポリエステル樹脂Aは、水系の保護層形成用塗工液とする場合は、ジカルボン酸成分Bとして、スルホ基(-SO3H)を有するジカルボン酸成分を含有することが好ましく、特にスルホ基を有する芳香族ジカルボン酸が好ましい)。例えば、5-スルホイソフタル酸、2-スルホイソフタル酸、4-スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸及び4-スルホナフタレン-2,6-ジカルボン酸の少なくとも1種が好ましく、特に5-スルホイソフタル酸がコスト面から好ましい。すなわち、ナフタレン骨格を有さず、かつ、スルホ基を有するジカルボン酸成分をジカルボン酸成分Bとして好適に用いることができる。なお、ジカルボン酸A,Bにも該当する化合物の場合は、当該化合物はジカルボン酸Bとしてその含有量を計算することもできる。
【0054】
スルホ基を有するジカルボン酸成分の含有量としては、ジカルボン酸に由来する構造単位100モル%中に3.5~30モル%であることが好ましく、中でも4~20モル%であることが好ましく、さらには4~10モル%であることが特に好ましい。
【0055】
共重合ポリエステル樹脂Aの物性等
共重合ポリエステル樹脂Aは、ガラス転移温度が60℃以上であることが好ましく、特に80℃以上であることがより好ましく、その中でも100℃以上であることが最も好ましい。ガラス転移温度が60℃未満では、共重合ポリエステル樹脂を構成する分子鎖間の拘束力が弱くなるため、耐電解液性に劣る場合がある。
【0056】
一方、後述するように、本発明フィルムは、未延伸又は一軸延伸後のポリアミドフィルムに保護層を形成する保護層形成用塗工液を塗布した後に延伸を施して製造することが好ましいが、共重合ポリエステル樹脂Aのガラス転移温度が高くなると、ポリアミドフィルムとの延伸追従性が低下し、フィルムの切断が発生しやすくなるため、ガラス転移温度は145℃以下であることが好ましく、その中でも140℃以下であることがより好ましい。
【0057】
また、共重合ポリエステル樹脂Aは、架橋構造を有していても良い。例えば、共重合ポリエステル樹脂Aの末端基であるカルボキシル基又はヒドロキシル基と反応する架橋剤を用いることにより、架橋構造を形成することができる。その結果、より優れた耐電解液性、物理的特性等を発現させることができる。架橋剤としては、上記反応ができるものであれば限定的ではないが、メラミン樹脂、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物の少なくとも1種を含むことが好ましい。これらは公知又は市販のものを使用することができる。
【0058】
架橋剤は保護層中に0.1~15質量%含有されていることが好ましく、特に0.1~10質量%含有されていることが好ましく、その中でも2.5~7.5質量%含有されていることが最も好ましい。このような範囲内に設定することによって、より優れた耐電解液性等を得ることができる。
【0059】
共重合ポリエステル樹脂Aの合成
共重合ポリエステル樹脂Aは、上記のような特定のジカルボン酸成分とジオール成分とを用いるほかは、基本的には公知の共重合ポリエステル樹脂の製造方法に従って合成することができる。すなわち、ジカルボン酸成分100モル%中ナフタレン骨格を有するジカルボン酸成分が50モル%以上含むジカルボン酸成分と、ジオール成分とを重縮合反応させる工程を含む製造方法によって共重合ポリエステル樹脂Aを好適に製造することができる。
【0060】
ジカルボン酸成分(ジカルボン酸化合物)としては、前記で例示したジカルボン酸のほか、その金属塩、その無水物、そのエステル化合物等の誘導体の少なくとも1種を用いることができる。これらの化合物自体は、公知の共重合ポリエステル樹脂の合成で使用されているものと同様のものを採用することができる。
【0061】
ジオール成分(ジオール化合物)としては、前記で例示したジオール(グリコール)のほか、その金属塩、その無水物、そのエステル化合物等の誘導体の少なくとも1種を用いることができる。これらの化合物自体も、公知の共重合ポリエステル樹脂の合成で使用されているものと同様のものを採用することができる。
【0062】
カルボン酸成分とジオール成分との配合割合は、所定の重縮合反応が十分な行える範囲内で適宜設定することができ、通常はモル比でカルボン酸成分:ジオール成分=1:0.5~1.5の範囲内で設定すれば良いが、これに限定されない。
【0063】
また、必要に応じて重合触媒も原料に添加することができる。重合触媒としては、限定的ではなく、公知のものを使用できるが、例えばテトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタン系触媒を好適に用いることができる。重合触媒の添加量は、特に限定されないが、通常はカルボン酸成分1モルに対して5×10-5~5×10-4モルの範囲内で適宜調節することができる。
【0064】
反応系としては、液相反応とすれば良いが、通常はジオール成分が液状であるので、特に無溶媒下で反応させることができる。必要に応じて有機溶剤を使用することは可能である。また、反応雰囲気は、圧力は、常圧、減圧(真空を含む。)又は加圧下のいずれでも良い。雰囲気ガスとしては、通常は窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下とすれば良い。
【0065】
反応は、第1段階としてエステル交換反応工程、第2段階として重合反応工程を含む2段階で進行させることが好ましい。
【0066】
エステル交換反応工程での反応温度は、各成分が全て溶融される限りは特に限定されないが、通常は200~260℃程度に設定することがきる。反応時間は、反応温度等によるが、通常は1~5時間程度の範囲内とすれば良い。
【0067】
重合反応工程での反応温度は、初期縮合物(エステル化合物)の重合を進行させることができる限りは特に限定されないが、通常は200~260℃程度に設定することがきる。反応時間は、反応温度等によるが、通常は1~5時間程度の範囲内とすれば良い。特に重合反応工程では、減圧下ないしは真空下で実施することが好ましく、より具体的には1×10-5~1×10Pa程度とすることが好ましい。従って、例えば1×10-4~1×5Pa程度に設定することも可能であり、あるいは1×10-5~1×10-1Pa程度に設定しても良い。
【0068】
得られた反応生成物は、通常は常温・常圧で液状であることから、そのまま保護層形成用塗工剤の原料として使用できる。必要に応じて、液状の前記反応生成物に対して固液分離、精製等の処理を実施した上で単離することもできる。このようにして共重合ポリエステル樹脂Aを得ることができる。
【0069】
また、本発明では、必要に応じて共重合ポリエステル樹脂Aに架橋構造をもたせるために、共重合ポリエステル樹脂Aにさらに架橋剤を反応させることもできる。架橋剤を含む場合は、共重合ポリエステル樹脂の末端基であるカルボキシル基又はヒドロキシル基のどちらか一方又は両官能基と反応させることで保護層の架橋密度が高くなるため、保護層の耐電解液性をより高めることができる。そして、インラインコート法を採用した場合に、このような架橋剤による保護層の耐電解液性を高める効果が大きいものは、ブロックイソシアネート及びオキサゾリンの少なくとも1種であり、特にオキサゾリンが好ましい。
【0070】
架橋剤の添加量は、前記のように保護層中に特定の割合で含まれるようにすれば良く、例えば共重合ポリエステル樹脂A100質量部に対して1~15質量部程度の範囲内で適宜調整することができる。架橋剤の添加に際しては、共重合ポリエステル樹脂Aに架橋剤を添加・混合し、一定時間保持すれば良い。この場合の保持温度は、特に制限されないが、通常は5~30℃程度とすれば良い。保持時間は、通常は0~120時間程度とすれば良い。
【0071】
(b)保護層の組成及び物性
保護層は、上記のように、共重合ポリエステル樹脂Aを含有するものであるが、保護層中の共重合ポリエステル樹脂Aの含有量は70~100質量%であることが好ましく、特に80~95質量%であることがより好ましい。
【0072】
従って、保護層中には、本発明の効果を妨げない範囲内において共重合ポリエステル樹脂A以外の成分が含まれていても良い。例えば、滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、強化材(フィラー)、顔料、劣化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離型剤、架橋剤等の各種の添加剤が挙げられる。これらは、前記のポリアミド系フィルム基材に適用されるものと同様のものを使用することもできる。
【0073】
特に、滑剤としてはエチレンビスステアリン酸アミド等の有機滑剤、アクリル粒子等の有機粒子、シリカ等の無機粒子が挙げられる。これらは耐ブロッキング剤としても機能するため、上記に記載した滑剤のうち1種又は2種以上を添加することが好ましい。
【0074】
また、熱安定剤、酸化防止剤及び劣化防止剤としては、例えばヒンダートフェノール類、リン化合物、ヒンダートアミン類、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0075】
強化材としては、例えばクレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を添加することができる。
【0076】
耐電解液性をより高めるという見地より、無機層状化合物を含有させることもできる。無機層状化合物は、単位結晶層が重なって層状構造を形成する無機化合物であり、具体的には、燐酸ジルコニウム(燐酸塩系誘導体型化合物)、カルコゲン化物、リチウムアルミニウム複合水酸化物、グラファイト、粘土鉱物等が例示でき、特に溶媒中で膨潤又は劈開するものが好ましい。
【0077】
保護層の厚みは、乾燥時間短縮による生産性向上、耐ブロッキング性向上等の観点から1.5μm以下であることが必要であり、特に1μm以下であることが好ましい。厚みが1.5μmを超える保護層は、保護層形成工程又は乾燥工程においてムラが生じたり、加熱処理時間が長くなることによって生産性が低下したり、塗工液のコストが増加するため経済的にもメリットが少ないうえに、耐ブロッキング性に劣る場合がある。
【0078】
一方、保護層の厚みの下限値に関し、電解液等の酸性の液体に対する耐性を十分に高めるために、保護層の厚みは0.05μm以上であることが好ましく、特に0.1μm以上であることが好ましく、さらには0.2μm以上であることが好ましく、その中でも0.4μm以上であることが最も好ましい。
【0079】
保護層面(露出面)の表面粗さRaは、特に限定されないが、耐電解液性向上の観点から45nm以下であることが好ましく、特に40nm以下がより好ましく、その中でも35nm以下とすることが最も好ましい。保護層面の表面粗さが45nmを超えると、電解液が保護層面に滞留しやすくなって耐電解液性が損なわれることがある。表面粗さRaの下限値は、例えば20nm又は15nmとすることができるが、これに限定されない。なお、表面粗さは、後述するように例えば所定の保護層形成用塗工液を用いてインラインコート法で保護層を形成することにより45nm以下に制御することができる。
【0080】
A-3.その他の層
前記のように、本発明フィルムは、ポリアミド系フィルム基材及び保護層のほかにも、必要に応じて各種の層を積層することができる。各層自体は、公知の包装材料等で採用されているものと同様のものを使用することもできる。本発明フィルムとして、
図2に示すように、例えば保護層/ポリアミド系フィルム基材/バリア層/熱融着層からなる積層体、保護層/ポリアミド系フィルム基材/保護層/バリア層/熱融着層からなる積層体等は電池の外装材として有効である。ここに、バリア層及び熱融着層の好ましい実施形態について説明する。
【0081】
バリア層
バリア層は、特にガスバリア性(酸素バリア性)及び水蒸気バリア性を発揮できるものであれば良く、例えば金属箔、蒸着フィルム等の公知又は市販のバリア性を有する層又はフィルムを用いることができる。この中でも金属箔が汎用的で好ましい。金属箔としては、アルミニウム箔が好ましいが、これに限定されない。例えば、リチウムイオン二次電池の外装材に採用されている各種のバリア層も採用することができる。
【0082】
バリア層の厚みは、特に限定的ではないが、通常は20~200μm程度であることが好ましく、特に30~150μmであることがより好ましい。
【0083】
また、バリア層の片方又は両方の面にはリチウムイオン二次電池外装材用に適した表面処理がされていることが好ましい。表面処理としては、例えば化成処理、クロメート処理等が挙げられる。特に、これら表面処理は、バリア層の熱融着層に接する側の面にされていることが好ましい。
【0084】
熱融着層
熱融着層としては、ヒートシールが可能であれば特に限定されず、例えばリチウムイオン二次電池の外装材等に適した公知のものを用いることができる。具体的には、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリオレフィンフィルム等を好適に用いることができる。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレンを主成分とした共重合体、これらの酸変性物等が挙げられる。熱融着層は、延伸フィルム又は無延伸フィルムのいずれも使用できる。
【0085】
熱融着層の形成方法は、特に限定されず、例えば熱融着成分を含む塗工液を塗布する方法、熱融着成分を含む樹脂組成物が予めフィルム状に成形されたフィルムを積層する方法等のいずれも採用することができる。
【0086】
熱融着層の厚みは、所望のヒートシール性が得られる限りは特に制限されないが、一般的には20~200μm程度とすることが好ましく、特に30~100μmとすることがより好ましい。
【0087】
B.本発明フィルムの特性
本発明フィルムの厚み(総厚み)は、用途、使用方法等によって適宜設定することができる。例えば、本発明フィルムを電池の外装材として用いる場合は10~25μm程度とすることが好ましく、特に15~25μmとすることがより好ましい。
【0088】
また、本発明フィルムは、厚み精度(厚みの均一性)が高いことが望ましい。すなわち、平均厚みに対する標準偏差値が通常0.200以下であることが好ましく、特に0.180以下であることがより好ましく、その中でも0.160以下であることが最も好ましい。
【0089】
上記厚み精度の評価方法は、次のようにして行う。本発明フィルムを23℃×50%RHで2時間調湿した後、
図3に示すように、フィルム上の任意の点Aを中心とし、基準方向(0度方向)を特定した後、中心点Aから基準方向(a)、基準方向に対して時計回りに45度方向(b)、90度方向(c)、135度方向(d)、180度方向(e)、225度方向(f)、270度方向(g)及び315度方向(h)の8方向へそれぞれ100mmの直線L1~L8の合計8本引く。それぞれの直線上において、中心点Aから10mm間隔で厚みを長さゲージ 「HEIDENHAIN-METRO MT1287」(ハイデンハイン社製)により測定する(10点測定する)。
図3では、一例として、45度方向のL2を測定する場合の測定点(10点)をとった状態を示す。そして、全部の直線において測定して得られたデータ合計80点の測定値の平均値を算出し、これを平均厚みとし、平均厚みに対する標準偏差値を算出するものである。なお、上記の基準方向は、特に限定的でなく、例えばフィルム製造時の延伸工程におけるMDを基準方向とすることができる。
【0090】
本発明において、平均厚み及び標準偏差は、ポリアミド系フィルムのいずれかの一箇所の点(点A)を基準とすれば良いが、特に得られたフィルムロールに巻き取られたポリアミド系フィルムにおいて、下記の3点のいずれにおいても上記範囲内の平均厚み及び標準偏差であることがより望ましい。3点としては、a)巻幅の中心付近であって、かつ、巻量の半分にあたる位置、b)巻幅の右端付近であって、かつ、巻量の半分にあたる位置、及びc)巻幅の左端付近であって、かつ、巻終わり付近の位置である。
【0091】
本発明フィルムは、耐電解液性に優れる性能を有するものであるが、その指標として下記式(1)の値を満足するものが好ましい。
(HzX)―(Hz0)<3.0 …式(1)
Hz0:日本産業規格「JIS K 7136」に従って測定したヘーズ値。なお、ヘーズ値の測定は、市販の測定装置(例えば日本電色社製ヘーズメーター「NDH 4000」)を用いて実施することができる。
HzX:Hz0を測定後、下記に示す電解液を保護層に付着させた状態で温度23℃及び湿度50%RHで12時間経過後にHz0と同様にして測定したヘーズ値。
電解液としては、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/メチルエチルカーボネート=1:1:1(体積比)からなる混合液にLiPF6を配合させた液を濃度1モル/Lの濃度に希釈したものを用いる。この電解液を保護層側に10ml滴下して電解液を付着させた状態で温度23℃及び湿度50%RHで12時間放置する。その後、保護層上の電解液をガーゼで拭き取ってHz0を測定する。
このように、電解液滴下前のヘーズ値をHz0、電解液滴下後に12時間放置した後に測定したヘーズ値をHzXとする。
【0092】
上記の式(1)の値は、上記のように通常3未満であるが、特に2以下であることが好ましく、さらに1.8以下であることがより好ましく、その中でも1以下であることが最も好ましい。上記式(1)の値が大きければ、耐電解液による腐食が生じた結果、白化が生じていることを意味しており、耐電解性に劣ることを示す。この値の下限値は、特に限定されず、例えば0.1とすることもできる。
【0093】
また、本発明フィルムの電解液滴下前のヘーズ値(Hz0)は、特に限定するものではないが、特に透明性が要求される用途に使用する場合には、通常10以下であることが好ましく、その中でも5以下であることが好ましい。なお、ヘーズ値(Hz0)の下限値は、特に限定されず、例えば0.1程度とすることができる。
【0094】
さらに、本発明フィルムは、耐電解液性に優れる指標として、下記式(2)も満足することが好ましい。
(HzY)―(Hz0)<3.0 …式(2)
Hz0:日本産業規格「JIS K 7136」従って測定したヘーズ値。なお、ヘーズ値の測定は、市販の測定装置(例えば日本電色社製ヘーズメーター「NDH 4000」)を用いて実施することができる。
HzY:Hz0を測定後、下記に示す電解液を保護層に付着させた状態で温度23℃及び湿度50%RHで24時間経過後にHz0と同様にして測定したヘーズ値。
電解液は、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/メチルエチルカーボネート=1:1:1(体積比)からなる混合液にLiPF6を配合させた液を、濃度1モル/Lの濃度に希釈したものを用いる。この電解液を保護層側に10ml滴下して電解液を付着させ、温度23℃及び湿度50%RHで24時間放置する。その後、保護層上の電解液をガーゼで拭き取ってHz0を測定する。
このように、電解液滴下前のヘーズ値をHz0とし、電解液滴下後で24時間放置した後に測定したヘーズ値をHzYとする。
【0095】
上記の式(2)の値は、通常は3未満であるが、特に2.6以下であることが好ましく、さらには2以下であることがより好ましく、またさらに1.8以下であることがより好ましく、その中でも1以下であることが最も好ましい。この値の下限値は、特に限定されず、例えば0.1程度とすることもできる。
【0096】
このように、上記式(1)あるいは上記式(1)~(2)を満たす本発明フィルムは、優れた耐電解液性がより確実に発揮できるものである。すなわち、電解液付着後12時間放置した後においてヘーズがほとんど変化せず、さらには24時間放置した後においてもヘーズはほとんど変化しない。これは、電解液が付着した状態で長時間放置しても、付着前後でヘーズ変化はもちろんのこと、外観変化又は強伸度の低下も効果的に抑制されることが期待される。
【0097】
2.ポリアミド系積層フィルムの製造
本発明フィルムは、例えば(1)構成成分としてジカルボン酸成分及びジオール成分を含み、かつ、ジカルボン酸に由来する構造単位100モル%中にナフタレン骨格を有するジカルボン酸成分が50モル%以上である共重合ポリエステル樹脂を含む保護層形成用塗工液を未延伸ポリアミド系フィルム又は一軸延伸ポリアミド系フィルムに塗布する工程(塗布工程)、
(2)前記塗布による塗膜を有するポリアミド系フィルムを延伸することにより、MD方向及びTD方向に延伸された二軸延伸フィルムの片面又は両面に保護層が形成されたポリアミド系積層フィルムを得る工程(延伸工程)
を含むポリアミド系積層フィルムの製造方法によって好適に製造することができる。
【0098】
本発明フィルムの製造において、保護層を形成する方法は限定的ではなく、例えばインラインコート法、ポストコート法等のいずれの方法も採用することができる。
【0099】
特に、本発明では、インラインコート法を採用することが好ましい。すなわち、保護層形成用塗工液による塗膜が形成された未延伸フィルム又は一軸延伸フィルムを前記塗膜とともに延伸を行う方法を採用することが好ましい。従って、上記の塗布方法及び延伸方法を含む製造方法を好適に採用することができる。本発明において、インラインコート法を採用することにより、ポストコート法よりも保護層を平滑にすることができる結果、保護層を薄く、かつ、均一に形成することができる。また、上述したように、共重合ポリエステル樹脂を含有する保護層の耐電解液性も向上する。
【0100】
本発明の製造方法では、上記のような塗布工程及び延伸工程を有する限り、その手順は特に限定されない。例えば、1)未延伸ポリアミド系フィルムに保護層形成用塗工液を塗布してから同時又は逐次二軸延伸する方法、2)逐次二軸延伸法において、一軸延伸されたポリアミド系フィルムに保護層形成用塗工液を塗布した後、前記一軸方向と直交する方向(MD方向又はTD方向)に延伸する方法等のいずれも採用することができる。以下においては、各工程について具体的に説明する。
【0101】
塗布工程
塗布工程では、構成成分としてジカルボン酸成分及びジオール成分を含み、かつ、ジカルボン酸に由来する構造単位100モル%中にナフタレン骨格を有するジカルボン酸成分が50モル%以上である共重合ポリエステル樹脂(共重合ポリエステル樹脂A)を含む保護層形成用塗工液(本発明塗工液)を未延伸ポリアミド系フィルム又は一軸延伸ポリアミド系フィルムの片面又は両面に塗布する。
【0102】
この場合、前記の未延伸ポリアミド系フィルム又は一軸延伸ポリアミド系フィルムは、本発明フィルムのポリアミド系フィルム基材となり得るものであり、それ自体は公知のフィルムを用いることができるほか、公知の方法に従って作製されたフィルムも使用することができる。
【0103】
例えば、未延伸ポリアミド系フィルムは、ポリアミド系樹脂を含む溶融混練物をフィルム状に成形することにより得ることができる。溶融混練物の調製自体は、公知の方法に従って実施すれば良い。例えば、ポリアミド系樹脂を含む樹脂組成物を溶融することにより得られる溶融混練物をフィルム状に成形することによって製造することができる。これは、公知又は市販の装置を使用することにより実施することが可能である。例えば、Tダイを有する溶融押出機を使用することができる。すなわち、まずホッパーに出発材料(例えばペレット状原料)を供給し、溶融押出機で可塑化溶融し、溶融混練物を押出機の先端に取り付けられたTダイよりシート状に押し出し、キャストロールで冷却固化する。このとき、空気により溶融混練物をキャストロールに押し付けて未延伸フィルムを得ることができる。
【0104】
上記の樹脂組成物には、ポリアミド系樹脂のほか、必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、ポリアミド系フィルム基材に添加される添加剤を挙げることができる。
【0105】
また、一軸延伸ポリアミド系フィルムとしては、例えば前記の未延伸ポリアミド系フィルムを一軸延伸して得られるフィルムを用いることができる。
【0106】
本発明塗工液としては、構成成分としてジカルボン酸成分及びジオール成分を含み、かつ、ジカルボン酸成分100モル%中ナフタレン骨格を有するジカルボン酸成分が50モル%以上である共重合ポリエステル樹脂を含む。このような共重合ポリエステル樹脂は、前記で述べたものを用いることができる。
【0107】
本発明塗工液の調製方法としては、共重合ポリエステル樹脂Aを溶媒に溶解又は分散させることによって実施することができる。すなわち、溶液又は分散液の形態で本発明塗工液を調製することができる。
【0108】
溶媒としては、特に限定されず、水のほか、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、ソルベッソ、イソホロン、キシレン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等の有機溶剤が例示される。これらは1種又は2種以上で用いることができる。本発明では、a)水又はb)水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒を用いることが好ましい。すなわち、保護層形成用塗工液は、作業性、環境面等の見地から、水を主成分とする水系のコーティング剤であって水溶性又は水分散液であることが好ましく、塗工性の観点から水分散液であることがより好ましい。この場合、架橋剤も同様に水系のものであることが好ましい。なお、乾燥工程の短縮、塗工液の安定性改善等の目的のために、少量であればアルコール等の有機溶媒を含有しても良い。
【0109】
本発明塗工液中の共重合ポリエステル樹脂Aの濃度は、用いる共重合ポリエステル樹脂の種類等に応じて適宜設定できるが、通常は3~40質量%程度とし、特に5~20質量%とすることが望ましい。
【0110】
本発明塗工液中には、共重合ポリエステル樹脂Aのほか、本発明の効果を損なわない範囲内で他の成分が含まれていても良い。例えば、前記で例示した各種の添加剤を配合することができる。
【0111】
本発明に用いる共重合ポリエステル樹脂を含む保護層形成用塗工液の固形分濃度は、塗工装置や乾燥・熱処理装置の仕様によって適宜調整することが好ましい。ただし、あまりに希薄なコート液は、電解液等の酸性の液体に対する耐性を発現するのに充分な厚みの保護層を形成することが困難となり、また、その後の乾燥工程において長時間を要するという問題が生じやすい。一方、濃度が高すぎるコート液は、均一になりにくく、塗工性に問題を生じやすい。かかる観点から、保護層成形用塗工液の固形分濃度は5~70質量%程度とすることが好ましいが、これに限定されない。
【0112】
本発明に用いる共重合ポリエステル樹脂を含む保護層成形用塗工液の調製は、撹拌機を備えた溶解釜等を用いて公知の方法で行えば良い。
【0113】
本発明塗工液を用いて塗布する方法は、特に限定されず、公知の方法を適宜採用することができる。例えば、グラビアロールコート法、リバースロールコート法、ワイヤーバーコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ドクターナイフ法、ダイコート法、ディップコート法、バーコーティング法等のほか、これらを組み合わせた方法も採用することができる。
【0114】
本発明塗工液を塗布した後、必要に応じて乾燥することにより溶媒を除去することができるが、乾燥前の液膜又は半乾燥膜の状態で延伸工程に供しても良い。
【0115】
塗布後の乾燥工程は、特に限定されず、例えばオーブン等の乾燥雰囲気下での乾燥処理、熱ロールと接触させることによる乾燥処理、延伸機内での乾燥処理等のように、公知の方法を用いて乾燥させることができる。乾燥温度は、限定的ではないが、通常は30~160℃程度の範囲内で設定することができる。乾燥時間は、乾燥温度等により適宜設定できるが、一般的には0.5~10分の範囲内とすれば良い。
【0116】
延伸工程
上記の塗布工程を経た後、前記塗布による塗膜を有するポリアミド系フィルムを延伸することにより、MD方向及びTD方向に延伸された二軸延伸フィルムの片面又は両面に保護層が形成されたポリアミド系積層フィルムを得る。
【0117】
延伸工程に先立って、未延伸フィルム又は一軸延伸フィルムを予熱することが好ましい。予熱温度は、限定的ではないが、通常は180~250℃とし、特に200~245℃とすることが好ましく、その中でもは210~240℃とすることが最も好ましい。予熱することによって、物理的特性が良好な二軸延伸フィルムをより確実に得ることができる。予熱時間は、予熱温度等にもよるが、通常は0.5~5秒間程度とすることが好ましい。
【0118】
予熱する方法は、特に限定されない。例えば、延伸機の予熱ゾーンを走行するフィルムに吹き付ける熱風の温度を上記の温度範囲に設定することによって実施する方法を好適に採用することができる。
【0119】
また、延伸温度を上記の温度にする方法は、限定的ではないが、延伸機の延伸ゾーンを走行するフィルムに吹き付ける熱風の温度を上記の温度範囲に設定することによって行うことが好ましい。この場合、ポリアミド系フィルムが延伸ゾーンを走行する時間は、通常0.5~5秒間程度とすることが好ましい。
【0120】
延伸方法としては、最終的に二軸延伸された本発明フィルムを得るので、同時二軸延伸法又は逐次二軸延伸法を採用することができる。また、延伸装置による分類としては、例えばチューブラー法、テンター法等があるが、いずれも適用可能である。本発明では、特に品質安定性及び寸法安定性の面でテンター法による延伸法が好ましい。従って、テンター式同時二軸延伸法又はテンター式逐次二軸延伸法を好適に採用することができる。
【0121】
なお、延伸方法として逐次二軸延伸法を採用する場合は、予めMD方向又はTD方向に一軸延伸されたフィルムに保護層形成用塗工液を塗布した後、その一軸方向と直交する方向(TD方向又はMD方向)に延伸することによって、所定の二軸延伸フィルム上に保護層が形成された本発明フィルムを得ることができる。
【0122】
延伸倍率は、特に限定されないが、通常はMD方向とTD方向にそれぞれ2.0~4.5倍程度に延伸すれば良い。この場合、MD方向とTD方向の延伸倍率は、互いに同じでも良いし、互いに異なっていても良い。このようして引張強度、引張伸度等の物理的特性が良好な延伸フィルムを得ることができる。
【0123】
延伸温度は、限定的ではなく、例えば延伸方法、本発明フィルムの用途、使用形態等に応じて220℃以下の範囲内で適宜設定することができる。
【0124】
例えば、逐次二軸延伸法においては、まず未延伸フィルムを延伸温度40~80℃(好ましくは50~65℃)の条件で一軸方向に延伸した後、保護層成形用塗工液を塗布する。保護層成形用塗工液が塗布された一軸延伸フィルムは、上記の同時二軸延伸法と同様に50~220℃で乾燥を行うことができる。その後、延伸温度200℃以下(好ましくは90~190℃)の条件で、保護層成形用塗工液が塗布された一軸延伸フィルムを、直交する方向に延伸し、二軸延伸されたフィルムを得る。逐次二軸延伸する際には、ロール延伸法とテンター式延伸法を併用して行うことが好ましい。すなわち、ロール(通常は2以上のロールを通過させながら延伸する装置)により一軸方向(MD又はTD方向)に延伸した後、テンターにより前記一軸方向に対して略直角方向(TD又はMD方向)に延伸することによって二軸延伸を実施することができる。
【0125】
また例えば、同時二軸延伸法においては、乾燥工程により50~220℃で乾燥した後、延伸温度215℃以下(好ましくは190~210℃)の条件で、保護層成形用塗工液が塗布された未延伸フィルムを同時二軸延伸することが好ましい。未延伸フィルムを同時二軸延伸する際には、テンター法、LISIM二軸延伸法等で行うことが好ましい。
【0126】
延伸工程で延伸されたフィルムは、さらに熱処理することが好ましい。熱処理温度は、特に制限されないが、通常は190~220℃程度とすることが好ましく、特に195~215℃とすることがより好ましい。熱処理温度が190℃未満では、共重合ポリエステル樹脂の塗膜形成が不十分となり、電解液に対する耐性が不十分な保護層となることがある。また硬化剤を添加した場合には架橋反応が十分に進行せず、架橋剤を添加する効果を得られないことがある。一方、熱処理温度が220℃を超えると、ポリアミドフィルムの強度が低下することがある。なお、上記熱処理で架橋反応の進行が不十分な場合は、延伸完了後にエージング処理を施しても良い。熱処理の時間は、熱処理温度等に応じて適宜設定できるが、通常は1~15秒間程度とすることが好ましい。
【0127】
熱処理方法としては、特に限定されず、例えば熱風を吹き付ける方法、赤外線を照射する方法、マイクロ波を照射する方法等を採用することができる。これらの中でも、均一に精度良く加熱することができるという見地より、熱風を吹き付ける方法が好ましい。例えば、延伸機の熱固定ゾーンを走行するフィルムに上記温度範囲に設定された熱風を吹き付けることによって熱固定処理を行うことができる。
【0128】
その他の工程
各層を積層する方法としては、特に限定されず、例えばa)塗工液による塗膜を形成する方法、b)予め成形されたフィルムを積層する方法、c)PVD法、CVD法等により蒸着膜を形成する方法等のいずれも採用することができる。また、前記b)の場合は、接着剤を介して積層する方法、同時押出成形により積層する方法等のいずれも採用することができる。特に、本発明フィルムをリチウムイオン二次電池等の電池の外装材に用いる場合は、公知の外装材の製造方法を採用することもできる。この場合は、公知の接着剤を使用して積層することも可能である。
【0129】
例えば、バリア層と積層する場合は、保護層/ポリアミド系フィルム基材を含む積層体あるいは保護層/ポリアミド系フィルム基材/保護層を含む積層体と、バリア層形成用の金属箔等とを2液タイプのウレタン系接着剤等を介してドライラミネート、熱ラミネート等の方法を採用することが可能である。
【0130】
また、バリア層と熱融着層とを接合する方法としては、公知の方法(ドライラミネート、熱ラミネート、押出しラミネート、サンドイッチラミネート法等)を用いることができる。
【0131】
上記接着剤の層が形成されるポリアミドフィルム、バリア層、熱融着層の表面には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、必要に応じてアンカーコート層、プライマー層等のその他の層を設けても良い。
【0132】
3.ポリアミド系積層フィルムの使用
本発明フィルムは、各種の用途に用いることができるが、特に包装材として好適に用いることができる。すなわち、内容物を包装するための包装材として利用することができる。内容物は限定的でなく、例えば電子部品、化成品、化粧品、医療品(医療機器)、飲食料等の内容物を包装することができる。
【0133】
特に、本発明フィルムは、リチウムイオン電池の外装材として好適に用いることができる。本発明フィルムを外装材として用いる場合、その保護層によって本発明フィルム(特にポリアミド系基材層)を電解液から保護することができる。その結果、外装材の腐食等により生じる問題を効果的に抑制ないしは防止することができる。
【0134】
一般に、リチウムイオン二次電池に使用される電解液は、イオン性物質(特にリチウム塩)を炭酸エステル等の極性溶媒に溶解させて調製される電気伝導性液体である。リチウム塩としては、水と反応することによりフッ酸(フッ化水素)を生じるリチウム塩が挙げられる。より具体的には、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)等のフッ素含有リチウム塩が例示される。そのため、空気中で電解液が付着した場合には、空気中の水分と電解液中のフッ素含有リチウム塩とが反応してフッ酸が発生する。このフッ酸によって、リチウムイオン二次電池外装材に使用されているポリアミドフィルムが溶解するおそれがある。これに対し、本発明フィルムは、ポリアミド系基材層が上記特定の保護層により覆われているため、かりに電解液が外装材(特に保護層)に接触したとしても、高い耐電解液性により外装材を効果的に保護できる結果、信頼性の高いリチウムイオン二次電池を提供することが可能となる。従って、本発明フィルムは、例えばリチウムイオン二次電池外装材として好適に用いることが可能であり、エンボスタイプ又は深絞り成型のリチウムイオン二次電池にも適応可能である。そして、リチウムイオン二次電池の製造の際に電解液が外装材に付着しても、リチウムイオン二次電池外装材としての性能を良好に保持することができる。
【0135】
包装材として用いる場合の形態も特に限定されず、例えば包装用袋又包装用容器として使用できる。包装用袋としては、例えばピロー袋、ガゼット袋、スタンド袋等の各種の袋体として用いることができる。袋体の成形方法も、公知の方法に従って実施すれば良い。
【0136】
さらに、本発明は、上記のような包装材又は包装用袋によって内容物が包装されてなる製品(包装製品)も包含する。この場合の包装状態としては、例えば包装材又は包装用袋によって内容物が外部から密封された状態等を挙げることができる。
【0137】
4.電池
本発明は、負極、正極、セパレータ及び電解質を含む発電要素とその発電要素を包装する外装材とを含む電池であって、前記外装材が本発明フィルムであり、かつ、当該保護層が当該電池の最外層として配置されていることを特徴とする電池を包含する。
【0138】
電池の包装形態によって缶タイプ及びラミネートタイプ(パウチタイプ)があるが、本発明フィルムはラミネートタイプ(パウチタイプ)の電池に好適に用いることができる。従って、例えば本発明フィルムを予め凹状(容器状)に成形した後に発電要素を装填して封止する方法のほか、本発明フィルムに発電要素を載置した後、それを包み込むように本発明フィルムを成形して発電要素を封止する方法等も採用することができる。
【0139】
発電要素としては、特に限定されず、公知又は市販の発電要素を用いることもできる。また、一次電池、二次電池のいずれであっても良い。例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等が挙げられる。
【0140】
図4には、電池の概要図を示す。電池40は、発電要素41を本発明フィルム10からなる外装材によって被覆された構成を有する。より具体的には、本発明フィルム10の保護層10a面が外側となるように、発電要素21が本発明フィルム10で被覆されている。
【0141】
図4における発電要素41は、正極活物質と集電体からなる正極、セパレータ、負極活物質と集電体からなる負極、電解液等を含む(いずれも図示されていない。)。また、正極、負極は、それぞれ端部に延出されたリード線(タブ)43を有する。
【0142】
リチウムイオン電池を一例として挙げると、以下のような構成を採用できる。正極活物質の例としては、マンガン酸リチウム等のリチウム塩のほか、金属リチウム等が挙げられ、正極の集電体の例としてはアルミニウム箔が挙げられる。セパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の微多孔膜が挙げられる。負極活物質の例としては、黒鉛が挙げられ、マンガン酸リチウム等のリチウム塩、金属リチウム等が用いられ、正極の集電体の例としてはアルミニウム箔が挙げられる。電解液としては、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化リン酸リチウム塩(LiPF6)等のリチウム塩をエチルカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピレンカーボネート等に溶解した溶液が挙げられる。
【0143】
図5には、本発明フィルム体を外装材として用いた電池の実施形態の一例の断面図を示す。電池50では、外装材として本発明フィルム10を保護層面10aが外側となるように2つ折りにして、その中に発電要素41が装填された構成をとる。本発明フィルム10の保護層と反対側の表面は熱融着層面10bであり、その端部どうしを対向させた状態でヒートシールによる接着部S1が形成されている。その接着部S1には熱融着層間にリード線43が挟持されている。
図4では簡略化するためにリード線43が1つだけ示されているが、実際は正極用リード線及び負極用リード線が設けられる。
【0144】
図5に示す電池の組み立てに際しては、リード線43を備えた発電要素41において、リード線を外部に露出するようにして発電要素41を本発明フィルム10で被覆する。被覆に際し、本発明フィルム10の熱融着層面10bどうしを接合することにより発電要素21の被覆が行われる。この場合、一部を接合せずに、電解液の注入口として確保する。次いで、注入口から電解液を充填した後、注入口もヒートシールにより閉じる。このようにして外装材としての本発明フィルム10によって発電要素21の封止が行われる。
【0145】
また、
図6には、別の実施形態に係る電池の断面の概要図を示す。電池60においては、外部に接続するためのリード線43を有する発電要素(発電素子)41の周囲が2枚の本発明フィルム10,10で覆われている。本発明フィルム10,10の両端は、ヒートシール等による接着部S1,S2によって封止されている。リード線43は、電池60内の電極から外部まで露出するように延びており、発電要素41からの電流を外部に取り出すことができる。
図6では簡略化するためにリード線43が1つだけ示されているが、実際は正極用リード線及び負極用リード線が設けられる。
【0146】
図6に示す電池60の組み立てに際しては、リード線43を備えた発電要素41において、リード線を外部に露出するようにして発電要素41を本発明フィルム10,10で被覆する。被覆に際し、2枚の本発明フィルム10,10の熱融着層面10b,10bどうしをヒートシールにより接合することにより発電要素21の被覆が行われる。この場合、一部を接合せずに、電解液の注入口として確保する。次いで、注入口から電解液を充填した後、注入口もヒートシールにより閉じる。このようにして2枚の本発明フィルム10,10によって発電要素41の封止が行われる。
【実施例】
【0147】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下に記載の「部」は「質量部」を示す。
【0148】
実施例1
(1)共重合ポリエステル樹脂Aの合成
ジカルボン酸成分(2,6-ナフタレンジカルボン酸709.4部、テレフタル酸26.6部、5-スルホイソフタル酸ナトリウム56.2部)と、ジオール成分(エチレングリコール176.7部、ジエチレングリコール126.2部、1,6-ヘキサンジオール336.8部)と、さらに重合触媒として0.26部のテトラブチルチタネートとを反応器に仕込み、系内を窒素に置換した。そして、これらの原料を1000rpmで撹拌しながら、反応器を200℃に昇温した。
次に、260℃まで4時間かけて徐々に昇温し、エステル交換反応を進行させた。その後、250℃で徐々に減圧し、0.35mmHgで1.5時間重縮合反応を行った。このようにして所定の共重合ポリエステル樹脂を調製した。
【0149】
(2)保護層形成用塗工液の調製
得られた共重合ポリエステル樹脂を細かく粉砕し、共重合ポリエステル樹脂30部及び水70部を溶解槽に加え、80~95℃で攪拌しながら2時間かけて溶解させることにより、保護層形成用塗工液として濃度30質量%の水溶液を得た。
【0150】
(3)延伸フィルムの製造(同時二軸延伸)
Tダイを備えた押出機を使用し、260℃の条件下でTダイオリフィスよりポリアミド樹脂(ナイロン6,ユニチカ社製「A1030BRF」、相対粘度3.1)をシート状に押出した。続いて、これを表面温度18℃に調節されたキャスティングロール上に密着させて急冷し、延伸後に得られるポリアミドフィルムの厚みが15μmになるようにポリアミド樹脂の供給量を調整した。
次に、この未延伸フィルムを水温50℃の吸水処理装置に通し、未延伸フィルムの片面にファンテン法にて乾燥後の厚みが0.70μmになるように前記保護層形成用塗工液を塗布し、150℃で乾燥した後、同時二軸延伸機に導いた。同時二軸延伸機では、予熱温度200℃及び延伸温度190℃の条件で、前記の塗布された未延伸フィルムをMD方向に3.0倍、TD方向に3.3倍に同時二軸延伸した。続いて、熱処理温度210℃及び熱処理時間3秒の条件で熱処理を施し、ポリアミドフィルムの片面に保護層を形成した。さらに、保護層を有していない他面にコロナ処理を施した。このようにして、フィルムの厚みが15μmであり、保護層の厚みが0.70μmである延伸フィルムを得た。
【0151】
(4)ポリアミド系積層フィルムの作製
得られた延伸フィルムの保護層が積層されていない面に、二液型ポリウレタン系接着剤(東洋モートン社製、TM-K55/CAT-10L)を塗布量5g/m2となるように塗布し、80℃で10秒間乾燥した。その接着剤塗布面にアルミニウム箔(厚み50μm)を貼り合せた。次に、そのアルミニウム箔面に上記接着剤を同じ条件で塗布、乾燥し、熱融着層として未延伸ポリプロピレンフィルム(三井化学東セロ社製、GHC、厚み50μm)を貼り合わせ、40℃の雰囲気下で72時間エージング処理を実施した。このようにして「保護層/ポリアミドフィルム/アルミニウム箔/熱融着層」の順に積層されたポリアミド系積層フィルムを得た。
【0152】
実施例2~19及び比較例1~6
表1及び下記に示す条件としたほかは、実施例1と同様にしてポリアミド系積層フィルムを作製した。なお、表1中の*1は、ポストコート法による例を示す。
【0153】
【0154】
<実施例2について>
(2)保護層形成用塗工液の調製
実施例1に記載の共重合ポリエステル樹脂と表1に記載したオキサゾリン系架橋剤(日本触媒社製「WS300」)とを用い、共重合ポリエステル樹脂の固形分に対して架橋剤の含有量が5質量%となるように添加し、さらに共重合ポリエステル樹脂と架橋剤の混合物の固形分が9質量%となるように純水と混合し、保護層形成用塗工液を得た。
(3)延伸フィルムの製造(同時二軸延伸)
ポリアミドフィルムの片面に保護層を形成する際の熱処理温度を表1に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして延伸フィルムを得た。
【0155】
<実施例5について>
(1)共重合ポリエステル樹脂Aの合成
ジカルボン酸成分とジオール成分の配合比を表1に示す組成に変更した以外は、実施例1と同様の方法で重合することで共重合ポリエステル樹脂を得た。
(2)保護層形成用塗工液の調製
上記共重合ポリエステル樹脂に表1に示された条件で架橋剤を添加し、純水を用いて9質量%の保護層形成用塗工液を得た。
(3)延伸フィルムの製造(逐次二軸延伸)
Tダイを備えた押出機を使用し、260℃の条件でTダイオリフィスよりポリアミド樹脂(ナイロン6、ユニチカ社製、A1030BRF、相対粘度2.7)をシート状に押出した。続いて、これを表面温度18℃に調節されたキャスティングロール上に密着させて急冷し、延伸後に得られるポリアミドフィルムの厚みが15μmになるようにポリアミド樹脂の供給量を調整した。
次に、この未延伸フィルムを54℃~62℃に加熱した延伸用ロールに通過させることにより、MD方向へ延伸倍率2.80倍となるように延伸した。続いて、延伸フィルムの片面に対し、グラビアコーターを用い、乾燥後の厚みが0.70μmになるように前記保護層形成用塗工液を塗布した後、予熱温度60℃及び延伸温度90℃の条件にてTD方向へ延伸倍率3.2倍に延伸した。さらに、熱処理温度215℃及び熱処理時間3秒の条件で熱処理を施した。さらに、ポリアミドフィルムの保護層を有していない面にコロナ処理を施した。このようにして、フィルムの厚みが15μmであり、保護層の厚みが0.70μmである延伸フィルムを得た。
【0156】
<実施例6について>
熱処理温度を表1に示すように変更したほかは、実施例5と同様にしてポリアミド系積層フィルムを作製した。
【0157】
<実施例3~4、9、16~18、比較例2について>
保護層形成用塗工液組成及び保護層形成時の熱処理温度を表1に示す条件とした以外は、実施例2と同様にしてポリアミド系積層フィルムを得た。
【0158】
<実施例6~8、10~15について>
保護層形成用塗工液組成及び保護層形成時の熱処理温度を表1に示す条件とした以外は実施例5と同様にしてポリアミド系積層フィルムを得た。
【0159】
<実施例19について>
(3)延伸フィルムの製造(同時二軸延伸)
Tダイを備えた押出機を使用し、260℃の条件でTダイオリフィスよりポリアミド樹脂(ナイロン6、ユニチカ社製、A1030BRF、相対粘度2.7)をシート状に押出した。続いて、これを表面温度18℃に調節されたキャスティングロール上に密着させて急冷し、延伸後に得られるポリアミドフィルムの厚みが15μmになるようにポリアミド樹脂の供給量を調整した。
次に、この未延伸フィルムを水温50℃の吸水処理装置に通し、続いて同時二軸延伸機に導き、予熱温度200℃及び延伸温度190℃の条件で、MD方向に3.0倍、TD方向に3.3倍に同時二軸延伸した。次いで、熱処理温度210℃及び熱処理時間3秒の条件で熱処理を施した。次いで、片面にコロナ処理を施した。これにより、フィルムの厚みが15μmの延伸フィルムを得た。
さらに、得られた延伸フィルムをグラビアコーターへ導き、最終的なコート厚みが0.7μmとなるように、実施例2で得られた保護層形成用塗工液をコートし、5ゾーンの乾燥炉〔ゾーン1(80℃)→ゾーン2(100℃)→ゾーン3(120℃)→ゾーン4(110)℃→ゾーン5(80℃)〕を3秒間かけて通過させて乾燥することにより、フィルムの厚みが15μmであり、保護層の厚みが0.70μmである延伸フィルムを得た。
【0160】
<比較例1について>
保護層形成用塗工液の組成を表1に記載の内容とし、保護層厚みを2.00μmとした以外は、実施例19と同様にしてポリアミド系積層フィルムを得た。
【0161】
<比較例3について>
保護層成形用塗工液を市販のPVDC塗工液(旭化成株式会社「サランラテックスL549」)に変更した以外は、比較例1と同様にしてポリアミド系積層フィルムを得た。
【0162】
<比較例4について>
保護層成形用塗工液を比較例3と同じPVDC塗工液に変更し、保護層形成時の熱処理温度を変更した以外は、実施例1と同様にしてポリアミド系積層フィルムを得た。
【0163】
<比較例5について>
保護層成形用塗工液を飽和ポリエステル樹脂エマルション(高松油脂株式会社A-110F)に変更した以外は、比較例1と同様にしてポリアミド系積層フィルムを得た。
【0164】
<比較例6について>
保護層成形用塗工液を比較例5と同じ飽和ポリエステル樹脂エマルションに変更し、保護層形成時の熱処理温度を変更した以外は、実施例1と同様にしてポリアミド系積層フィルムを得た。
【0165】
試験例1
各実施例及び比較例で得られたポリアミド系積層フィルムについて下記の特性をそれぞれ測定した。その結果を表2に示す。表2中の「測定不能」は、電解液付着後にシワ等が生じ、ポリアミド系積層フィルム表面が変形したため、測定ができなかったことを示す。
【0166】
(1)共重合ポリエステル樹脂の組成
日本電子社製「ECZ400R型NMR装置」を用いて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピーク積分強度比から求めた。
【0167】
(2)共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度
パーキンエルマー社製、示差走査熱量計(Diamond DSC)を用いて昇温速度20℃/minで測定した。
【0168】
(3)保護層厚み
得られたポリアミド系積層フィルムをエポキシ樹脂で包埋後、面出しを行い、RuO4染色(1day)を施し、ウルトラミクロトームで厚さ90nm(設定値)の切片を採取した。切削温度23℃×湿度50%RH(試料周辺、ナイフ、チャンバー)、切削速度は0.6mm/minとした。得られた試料は、日本電子株式会社製「JEM-1230」TEMを用いて、透過測定により加速電圧100kVにて保護層厚みを測定した。
【0169】
(4)積層フィルムの厚み斑(厚み精度)
図3に示すように、得られたポリアミド系積層フィルムを温度23℃及び湿度50%RHで2時間調湿した後、フィルム上の任意の点Aを中心とし、基準方向(0度方向)を特定した後、中心点Aから基準方向、基準方向に対して時計回りに45度方向、90度方向、135度方向、180度方向、225度方向、270度方向及び315度方向の8方向へそれぞれ100mmの直線を合計8本引く。それぞれの直線上において、中心点Aから10mm間隔で厚みを長さゲージ 「HEIDENHAIN-METRO MT1287」(ハイデンハイン社製)により測定し(10点測定する)、全部の直線において測定して得られたデータ合計80点の測定値の平均値を算出し、これを平均厚みとし、平均厚みに対する標準偏差値を算出した。なお、上記の基準方向は、特に限定的でなく、例えばフィルム製造時の延伸工程におけるMDを基準方向とすることができる。
【0170】
(5)表面粗さ
得られたポリアミド系積層フィルムの保護層面及びポリアミド系フィルム基材面の表面粗さは、日本産業規格「JIS B0601-2013」に従い、株式会社小坂研究所製
接触式表面粗さ測定器「Suefcorder SE500A」を用いて任意に10点測定し、算出された平均値をRaとした。
【0171】
(6)耐電解液性
得られたポリアミド系積層フィルムを用いて、下記に示す放置時間を6時間、12時間及び24時間の3種類について耐電解液性を評価した。
まず、得られたポリアミド系積層フィルムのヘーズ値を日本電色社製ヘーズメーター(NDH 4000)を用い、日本産業規格「JIS K 7136」に従って測定する。これを電解液滴下前のヘーズ(Hz0)とする。
次に、ガラスシャーレ(直径200mm)の開口部を、保護層が表面になるようにポリアミド系積層フィルムで覆ったサンプルを3つ用意する。それぞれのサンプルにおいて、保護層上に、電解液(エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/メチルエチルカーボネート=1/1/1(体積比)からなる混合液にLiPF6を配合させた液、濃度1モル/Lに希釈したもの)を10ml滴下し、保護層に電解液を付着させる。
3つのサンプルにおいて、電解液付着後、温度23℃及び湿度50%RHでの放置時間を6時間、12時間及び24時間とする3種類のサンプルとする。3種類のサンプルについて、それぞれの時間放置した後、保護層上の電解液をガーゼで拭き取り、上記と同様に日本電色社製ヘーズメーター(NDH 4000)を用いてJIS K 7136に従って測定する。
電解液付着後、温度23℃及び湿度50%RH)で6時間放置した後に測定したヘーズ値をHzW、12時間放置した後に測定したヘーズ値をHzX、24時間放置した後に測定したヘーズ値をHzYとする。
そして、それぞれにおいて、電解液滴下前のHz0との差、(HzW)―(Hz0)、(HzX)―(Hz0)、(HzY)―(Hz0)をそれぞれ算出した。
上記算出結果においては、実用的には3.0未満であり、特に2.0未満であることが好ましく、さらに1.0未満であることが最も好ましい。
【0172】
(7)濡れ
濡れは、日本産業規格「JIS K6768」に基づいて測定した。測定値が42dyn以上である場合が良好と評価することができる。
【0173】
(8)耐ブロッキング性
得られたポリアミド系積層フィルムを重ね合わせ(保護層が片面の場合は、保護層と基材層が重なるように、保護層が両面の場合は、保護層と保護層が重なるように)、300g/cm2の重りを乗せた状態で、温度40℃及び湿度50%RHの恒温槽内に24時間静置した。その後、サンプルを幅15mm×長さ100mmの短冊状に切断し、引張試験機オートグラフAG-I(島津製作所製)を用いて、200mm/minの速度で剥離し、最も高い値を剥離強力値とした。剥離強力値については、50g/15mm以下を耐ブロッキング性「〇」、50g/15mmを超え80g/15mm未満を耐ブロッキング性「△」、80g/15mm以上を耐ブロッキング性「×」と評価した。実用的には、耐ブロッキング性「△」以上であることが必要である。
【0174】
【0175】
実施例1~19で得られたポリアミド系積層フィルムは、保護層が本発明で規定する組成を有する共重合ポリエステル樹脂を含有し、1.5μm以下の厚みであるため、保護層に電解液が付着してもポリアミドフィルムの外観は少なくとも12時間以上変化せずに良好な耐電解液性を示し、耐ブロッキング性も良好であった。特に、共重合ポリエステル樹脂のジカルボン酸成分においてナフタレン骨格を有するジカンルボン酸成分を80モル%以上含有し、ガラス転移温度が80℃以上であり、架橋剤を含有する保護層の耐電解液性は優れていた。
【0176】
一方、比較例1、3、5で得られたポリアミド系積層フィルムは、保護層厚みが厚いため、耐電解液性は示すものの、3秒という短時間による乾燥工程では十分に乾燥できないためか、耐ブロッキング性に劣る結果となった。
【0177】
また、比較例2、4、6においては、本発明で規定する保護層組成ではないため、保護層厚みが1.50μm以下と薄い場合、十分な耐電解液性が得られず、保護層に電解液が付着すると、ポリアミド系積層フィルムが白化し、外観が大きく損なわれた。比較例5においては、保護層厚みが厚かったとしても、ポリアミド系積層フィルムが白化し、外観が大きく損なわれた。