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特許7336245CO2、H2S又はそれら双方の吸収液並びにCO2又はH2S又はその双方の除去装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】CO2、H2S又はそれら双方の吸収液並びにCO2又はH2S又はその双方の除去装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20230824BHJP
   B01D 53/52 20060101ALI20230824BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20230824BHJP
   C01B 17/16 20060101ALI20230824BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20230824BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 220
B01D53/52 220
B01D53/62 ZAB
C01B17/16 P
C01B32/50
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019076616
(22)【出願日】2019-04-12
(65)【公開番号】P2020171905
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000156938
【氏名又は名称】関西電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕士
(72)【発明者】
【氏名】上條 孝
(72)【発明者】
【氏名】岸本 真也
(72)【発明者】
【氏名】平田 琢也
(72)【発明者】
【氏名】辻内 達也
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-122242(JP,A)
【文献】特開2017-064645(JP,A)
【文献】特開2013-086079(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0080378(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105664672(CN,A)
【文献】特開2009-213974(JP,A)
【文献】特開2011-194388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14-53/18、
53/34-53/85、
53/92、53/96
C01B 17/16、32/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス中のCO2、H2S又はそれら双方を吸収する吸収液であって、
(a)2級鎖状モノアミンと、
(b)3級鎖状モノアミンと、
(c)2級環状ジアミンと、を成分として含み、
前記(a)2級鎖状モノアミンの濃度が30重量%を超え45重量%未満であり、且つ前記(b)3級鎖状モノアミンの濃度が15重量%を超え30重量%未満であり、前記(c)2級環状ジアミンの濃度が1重量%以上であり、
前記(a)2級鎖状モノアミンは、N-メチルアミノエタノール、N-エチルアミノエタノール、N-プロピルアミノエタノール、N-ブチルアミノエタノール等の少なくとも一種から選ばれた化合物を含み、
前記(b)3級鎖状モノアミンは、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン、4-ジメチルアミノ-1-ブタノール、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジ-n-ブチルアミノエタノール、N-エチル-N-メチルエタノールアミン、3-ジメチルアミノ-1-プロパノール、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール等の少なくとも一種から選ばれた化合物であり、、
前記(c)2級環状ジアミンは、ピペラジン(C 4 10 2 )、2-メチルピペラジン(C 5 12 2 )、2,5-ジメチルピペラジン(C 6 14 2 )等の化合物又はこれらの混合物であり、
前記(c)2級環状ジアミンの濃度が、吸収液に対する重量%にて、
前記(a)2級鎖状モノアミンの濃度よりも低く、且つ前記(b)3級鎖状モノアミンの濃度よりも低いことを特徴とする吸収液。
【請求項2】
請求項1において、
前記(a)2級鎖状モノアミン及び前記(c)2級環状ジアミンの合算重量に対して、
前記(b)3級鎖状モノアミンの重量比が0.3を超え0.85未満であることを特徴とする吸収液。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記成分(a)2級鎖状モノアミンが下記式(I)で表される化合物であることを特徴とする吸収液。
【化1】
【請求項4】
請求項1乃至請求項のいずれか一つにおいて、
前記(b)3級鎖状モノアミンが下記式(II)で表される化合物であることを特徴とする吸収液。
【化2】
【請求項5】
請求項1乃至請求項のいずれか一つにおいて、
前記(a)2級鎖状モノアミンと、前記(b)3級鎖状モノアミンと、前記(c)2級環状ジアミンとの合計濃度が、46重量%を超え75重量%以下であることを特徴とする吸収液。
【請求項6】
CO2又はH2S又はその双方を含有するガスと吸収液とを接触させてCO2又はH2S又はその双方を除去する吸収塔と、CO2又はH2S又はその双方を吸収した溶液を再生する吸収液再生塔とを有し、前記吸収液再生塔でCO2又はH2S又はその双方を除去して再生した溶液を前記吸収塔で再利用する、CO2又はH2S又はその双方の除去装置であって、
請求項1乃至のいずれか一つに記載の吸収液を用いてなることを特徴とするCO2又はH2S又はその双方の除去装置。
【請求項7】
CO2又はH2S又はその双方を含有するガスと吸収液とを接触させてCO2又はH2S又はその双方を吸収塔内で除去し、CO2又はH2S又はその双方を吸収した溶液を吸収液再生塔内で再生し、前記吸収液再生塔でCO2又はH2S又はその双方を除去して再生した溶液を前記吸収塔で再利用する、CO2又はH2S又はその双方の除去方法であって、
請求項1乃至のいずれか一つに記載の吸収液を用いてCO2又はH2S又はその双方を除去することを特徴とするCO2又はH2S又はその双方の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO2(二酸化炭素)、H2S(硫化水素)又はそれら双方の吸収液並びにそれを用いた装置及び方法に関し、特に、燃焼排ガスのCO2吸収液、CO回収装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、天然ガス、合成ガス等の化学プラントにて製造される各種産業ガスや、燃焼排ガスなどのガス(処理対象ガス)の中に含有される酸性ガス、特にCO2を回収・除去する方法について、様々な方法が提案されている。このような方法としては、燃焼排ガス中のCO2やH2Sを、アルカノールアミン水溶液を吸収液として接触させて除去し、回収する方法がある。
【0003】
このような吸収液は、例えば、アルカノールアミンのうちの1級モノアミンであるモノエタノールアミン(MEA)の吸収液を例にとると、燃焼排ガス中の酸素等によって吸収液自体の劣化が進行する。したがって、2級モノアミンに2級環状ジアミン又は立体障害性の高い所定の1級モノアミンを配合してなる吸収液(例えば、特許文献1)や、2級モノアミンと2級環状ジアミンとの混合物に3級モノアミンを添加してなる吸収液(例えば、特許文献2~3)、立体障害性の高い所定の1級モノアミンと2級モノアミンと3級モノアミンとを混合してなる吸収液(例えば、特許文献4)、2級モノアミンと2級環状ジアミンと3級モノアミンとを混合してなる吸収液等が知られている(例えば、特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許5215595号公報
【文献】特許4634384号公報
【文献】特開2013-086079号公報
【文献】特開2008-168227号公報
【文献】特開2017-64645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~5に開示された吸収液の各成分とそれらの配合比では、吸収液を再生利用する際のリボイラに多くの熱量を要しているという問題があった。
【0006】
本発明は、前記事情に照らして、吸収液を再生利用する際のリボイラ熱量を低減することができるCO2、H2S又はそれら双方の吸収液並びにそれを用いた装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によると、ガス中のCO2、H2S又はそれら双方を吸収する吸収液であって、(a)2級鎖状モノアミンと、(b)3級鎖状モノアミンと、(c)2級環状ジアミンと、を成分として含み、前記(a)2級鎖状モノアミンの濃度が30重量%を超え45重量%未満であり、且つ前記(b)3級鎖状モノアミンの濃度が15重量%を超え30重量%未満であることを特徴とする吸収液にある。
【0008】
本発明の第2の態様によると、CO2又はH2S又はその双方を含有するガスと吸収液とを接触させてCO2又はH2S又はその双方を除去する吸収塔と、CO2又はH2S又はその双方を吸収した溶液を再生する吸収液再生塔とを有し、前記吸収液再生塔でCO2又はH2S又はその双方を除去して再生した溶液を前記吸収塔で再利用する、CO2又はH2S又はその双方の除去装置であって、前記吸収液を用いてなることを特徴とするCO2又はH2S又はその双方の除去装置にある。
【0009】
本発明の第3の態様によると、CO2又はH2S又はその双方を含有するガスと吸収液とを接触させてCO2又はH2S又はその双方を吸収塔内で除去し、CO2又はH2S又はその双方を吸収した溶液を吸収液再生塔内で再生し、前記吸収液再生塔でCO2又はH2S又はその双方を除去して再生した溶液を前記吸収塔で再利用する、CO2又はH2S又はその双方の除去方法であって、前記吸収液を用いてCO2又はH2S又はその双方を除去することを特徴とするCO2又はH2S又はその双方の除去方法にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガス中のCO2、H2S又はそれら双方を吸収する吸収液であって、(a)2級鎖状モノアミンと、(b)3級鎖状モノアミンと、(c)2級環状ジアミンと、を成分として含み、(a)2級鎖状モノアミンの濃度が30重量%を超え45重量%未満であり、且つ(b)3級鎖状モノアミンの濃度が15重量%を超え30重量%未満とすることで、吸収液を再生利用する際のリボイラ熱量を低減できるCO2、H2S又はそれら双方の吸収液並びにそれを用いた装置及び方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1に係るCO2回収装置の構成を示す概略図である。
図2図2は、試験例1-1~1-5における3成分系の吸収液のリボイラ熱量削減率を示す図である。
図3図3は、試験例2-1~2-5における3成分系の吸収液のリボイラ熱量削減率を示す図である。
図4図4は、試験例1-6における吸収剤アミン成分濃度(重量%)とリボイラ熱量比との関係を示すグラフである。
図5図5は、試験例3における吸収剤アミン成分濃度(重量%)とリボイラ熱量比との関係を示すグラフである。
図6図6は、試験例6における「(b)3級鎖状モノアミン/((a)2級鎖状モノアミン+(c)2級環状ジアミン)」重量比とリボイラ熱量比との関係を示すグラフである。
図7図7は、試験例7における「(b)3級鎖状モノアミン/(a)2級鎖状モノアミン」重量比とリボイラ熱量比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではなく、また、実施例が複数ある場合には、各実施例を組み合わせて構成するものも含むものである。
【実施例
【0013】
本発明による実施例に係る吸収液は、ガス中のCO2、H2S又はそれら双方を吸収する吸収液であって、(a)2級鎖状モノアミンと、(b)3級鎖状モノアミンと、(c)2級環状ジアミンと、を成分として含み、前記(a)2級鎖状モノアミンの濃度が30重量%を超え45重量%未満であり、且つ前記(b)3級鎖状モノアミンの濃度が15重量%を超え30重量%未満である。
【0014】
ここで、(c)2級環状ジアミンの濃度が、吸収液に対する重量%にて、(a)2級鎖状モノアミンの濃度よりも低く、且つ(b)3級鎖状モノアミンの濃度よりも低いであることが好ましい。
【0015】
また、(a)2級鎖状モノアミンと、(b)3級鎖状モノアミンと、(c)2級環状ジアミンとの合計濃度が、46重量%を超え75重量%以下であるが好ましい。
【0016】
また、(a)~(C)の各成分の合計濃度は、好適には50重量%から70重量%の範囲、さらに好適には55重量%から65重量%の範囲が、高濃度であっても吸収液を再生利用する際のリボイラ熱量を低減できるので好ましい。
【0017】
(c)2級環状ジアミン濃度の下限は1重量%以上が好ましく、3重量%以上がより好ましい。
【0018】
このように、(a)2級鎖状モノアミン、(b)3級鎖状モノアミン、(c)2級環状ジアミンを上記の濃度の範囲とすることで、(a)2級鎖状モノアミンと(c)2級環状ジアミンの優れたCO2吸収性によって吸収液のCO2吸収能を維持しつつ、(a)2級鎖状モノアミンと(b)3級鎖状モノアミンの優れたCO2放散性によって、吸収液のCO2放散能を向上できるので、吸収液の薬剤の濃度を高濃度とした場合であっても、CO2を吸収した吸収液を再生する際のリボイラ熱量を低減することができる。
【0019】
また、(a)2級鎖状モノアミンとしては、下記「化1」に示す化学式(I)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】
【0020】
具体的には、(a)2級鎖状モノアミンとしては、例えばN-メチルアミノエタノール、N-エチルアミノエタノール、N-プロピルアミノエタノール、N-ブチルアミノエタノール等の少なくとも一種から選ばれた化合物を挙げることができるが本発明はこれに限定されるものではない。なお、これらを組み合わせるようにしてもよい。
【0021】
また、(b)3級鎖状モノアミンとしては、下記「化2」に示す化学式(II)で表される化合物であることが好ましい。
【化2】
【0022】
具体的には、(b)3級鎖状モノアミンとしては、例えばN-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン、4-ジメチルアミノ-1-ブタノール、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジ-n-ブチルアミノエタノール、N-エチル-N-メチルエタノールアミン、3-ジメチルアミノ-1-プロパノール、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール等の少なくとも一種から選ばれた化合物を挙げることができるが本発明はこれに限定されるものではない。なお、これらを組み合わせるようにしてもよい。
【0023】
また、(c)2級環状ジアミンは、ピペラジン誘導体である。このようなピペラジン誘導体としては、ピペラジン(C4102)、2-メチルピペラジン(C5122)、2,5-ジメチルピペラジン(C6142)等の化合物又はこれらの混合物が挙げることができる。
【0024】
本発明における吸収剤構成成分の(a)2級鎖状モノアミンの一般的な特徴は、排ガス中のCO2との反応により、吸収剤アミンを分子内に含むカルバメートを生成し、CO2を固定するため、吸収能力は高い特性を有する。
しかしながら、高濃度条件では吸収液粘度上昇による吸収速度、吸収性能悪化防止と再生性能悪化防止を図る必要がある。
一方、本発明の他の構成成分である(b)3級鎖状モノアミンは、CO2との反応によるカルバメートを生成せず、主に重炭酸塩としてCO2を溶解させるため、吸収性能は(a)2級鎖状モノアミンには及ばないが、高濃度条件でも、吸収液粘度の上昇を比較的緩和でき、優れた再生性能の特徴を有する。
【0025】
本発明では、上記の両者の吸収液構成成分の特性に基づき、吸収剤高濃度条件でも、吸収液粘度上昇抑制及び吸収性能維持と、再生性能低下防止によるリボイラ熱量低減が図れる吸収剤成分の組成を鋭意検討し,(a)2級鎖状モノアミンが高濃度の組成条件においても、(b)3級鎖状モノアミン濃度を比較的高い好適範囲に設定する吸収剤組成として、(a)2級鎖状モノアミンと、(b)3級鎖状モノアミンと、(c)2級環状ジアミンと、を成分として含み、(a)2級鎖状モノアミンの濃度が30重量%を超え45重量%未満であり、且つ(b)3級鎖状モノアミンの濃度が15重量%を超え30重量%未満とする範囲を規定することを見出したものである。
【0026】
ここで、吸収液の粘度上昇の測定は、排ガス中のCO2を除去するCO2吸収塔と、吸収したCO2を放出し吸収液として再生塔とを循環再利用する吸収液において、再生されたCO2吸収液(リーン溶液)が、CO2吸収塔内に供給される際の地点での粘度(A)と、CO2吸収塔のCO2回収部でCO2を吸収したCO2吸収液(リッチ液)の粘度(B)とを測定し、後述する試験例に示すように、本発明の配合とすることで、吸収液粘度の上昇抑制が図れることを確認している。
【0027】
さらに、各成分(a成分、b成分、c成分)の配合割合については、(a)2級鎖状モノアミン及び(c)2級環状ジアミンの合算重量に対して、(b)3級鎖状モノアミンの重量比が0.3を超え0.85未満と規定することが好ましい。
【0028】
このように規定することで、2級鎖状モノアミンと3級鎖状モノアミンが吸収剤成分として高濃度に含まれる吸収液における好適な「(b)3級鎖状モノアミン/((a)2級鎖状モノアミン+(c)2級環状ジアミン)」重量比による省エネ性に優れた吸収液を提供することができる。
【0029】
また、各成分(a成分、b成分)の配合割合については、(a)2級鎖状モノアミンに対して、(b)3級鎖状モノアミンの重量比が0.5を超え1.0未満でと規定することが好ましい。
【0030】
このように規定することで、3級鎖状モノアミンが吸収剤成分として高濃度に含まれる吸収液における好適な「(b)3級鎖状モノアミン/(a)2級鎖状モノアミン」重量比による省エネ性に優れた吸収液を提供することができる。
【0031】
本発明において、例えばCO2等を含有する排ガスとの接触時の化学吸収法の吸収塔の吸収温度は、通常30~80℃の範囲とするのが好ましい。また本発明で用いる吸収液には、必要に応じて腐食防止剤、劣化防止剤などが加えられる。
【0032】
また、処理されるガス中のCO2を吸収する吸収時のCO2吸収塔入口のCO2分圧としては、低CO2分圧(例えば0.003~0.1MPa)とするのが化学吸収法の適用から好ましい。
【0033】
本発明において、CO2等を吸収した吸収液から、CO2等を放出する再生塔での再生温度は、再生塔内圧力が130~200kPa(絶対圧)の場合、吸収液再生塔の塔底温度が110℃以上であることが好ましい。これは、110℃未満での再生では、システム内での吸収液の循環量を多くすることが必要となり、再生効率の点から好ましくないからである。より好適には115℃以上での再生が好ましい。
【0034】
本発明により処理されるガスとしては、例えば石炭ガス化ガス、合成ガス、コークス炉ガス、石油ガス、天然ガス、燃焼排ガス等を挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、CO2やH2S等の酸性ガスを含むガスであれば、いずれのガスでもよい。
【0035】
本発明のガス中のCO2又はH2S又はその双方を除去する方法で採用できるプロセスは、特に限定されないが、CO2を除去する除去装置の一例について図1を参照しつつ説明する。
【0036】
図1は、実施例1に係るCO2回収装置の構成を示す概略図である。図1に示すように、実施例1に係るCO2回収装置12は、ボイラやガスタービン等の産業燃焼設備13から排出されたCO2とO2とを含有する排ガス14を冷却水15によって冷却する排ガス冷却装置16と、冷却されたCO2を含有する排ガス14とCO2を吸収するCO2吸収液(以下、「吸収液」ともいう。)17とを接触させて排ガス14からCO2を除去するCO2回収部18Aを有するCO2吸収塔18と、CO2を吸収したCO2吸収液(以下、「リッチ溶液」ともいう。)19からCO2を放出させてCO2吸収液を再生する吸収液再生塔20と、を有する。そして、このCO2回収装置12では、吸収液再生塔20でCO2を除去した再生CO2吸収液(以下、「リーン溶液」ともいう。)17はCO2吸収塔18でCO2吸収液として再利用する。
【0037】
なお、図1中、符号13aは煙道、13bは煙突、34はスチーム凝縮水である。前記CO2回収装置12は、既設の排ガス源からCO2を回収するために後付で設けられる場合と、新設排ガス源に同時付設される場合とがある。なお、排ガス14のラインには開閉可能なダンパを設置し、CO2回収装置12の運転時は開放する。また排ガス源は稼動しているが、CO2回収装置12の運転を停止した際は閉止するように設定する。
【0038】
このCO2回収装置12を用いたCO2回収方法では、まず、CO2を含んだボイラやガスタービン等の産業燃焼設備13からの排ガス14は、排ガス送風機22により昇圧された後、排ガス冷却装置16に送られ、ここで冷却水15により冷却され、CO2吸収塔18に送られる。
【0039】
前記CO2吸収塔18において、排ガス14は本実施例に係るアミン吸収液であるCO2吸収液17と向流接触し、排ガス14中のCO2は、化学反応によりCO2吸収液17に吸収される。CO2回収部18AでCO2が除去された後のCO2除去排ガスは、CO2吸収塔18内の水洗部18Bでノズルから供給されるCO2吸収液を含む循環する洗浄水21と気液接触して、CO2除去排ガスに同伴するCO2吸収液17が回収され、その後CO2が除去された排ガス23は系外に放出される。また、CO2を吸収したCO2吸収液であるリッチ溶液19は、リッチ溶液ポンプ24により昇圧され、リッチ・リーン溶液熱交換器25において、吸収液再生塔20で再生されたCO2吸収液17であるリーン溶液により加熱され、吸収液再生塔20に供給される。
【0040】
吸収液再生塔20の上部から内部に放出されたリッチ溶液19は、底部から供給される水蒸気により吸熱反応を生じて、大部分のCO2を放出する。吸収液再生塔20内で一部または大部分のCO2を放出したCO2吸収液はセミリーン溶液と呼称される。このセミリーン溶液は、吸収液再生塔20の底部に至る頃には、ほぼ全てのCO2が除去されたCO2吸収液(リーン溶液)17となる。このリーン溶液17はその一部がリボイラ26で水蒸気27により過熱され、吸収液再生塔20内部にCO2脱離用の水蒸気を供給している。
【0041】
一方、吸収液再生塔20の塔頂部からは、塔内においてリッチ溶液19およびセミリーン溶液から放出された水蒸気を伴ったCO2同伴ガス28が導出され、コンデンサ29により水蒸気が凝縮され、分離ドラム30にて水が分離され、CO2ガス40が系外に放出されて、別途圧縮器41により圧縮され、回収される。この圧縮・回収されたCO2ガス42は、分離ドラム43を経由した後、石油増進回収法(EOR:Enhanced Oil Recovery)を用いて油田中に圧入するか、帯水層へ貯留し、温暖化対策を図っている。水蒸気を伴ったCO2同伴ガス28から分離ドラム30にて分離・還流された還流水31は還流水循環ポンプ35にて吸収液再生塔20の上部と洗浄水21側に各々供給される。再生されたCO2吸収液(リーン溶液)17は、リッチ・リーン溶液熱交換器25にて、リッチ溶液19により冷却され、つづいてリーン溶液ポンプ32にて昇圧され、さらにリーン溶液クーラ33にて冷却された後、CO2吸収塔18内に供給される。なお、この実施の形態では、あくまでその概要を説明するものであり、付属する機器を一部省略して説明している。
【0042】
以下、本発明の効果を示す好適な試験例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0043】
[試験例1-1~1-5]
図示しない吸収試験装置を用いて、CO2の吸収を行った。
図2は、試験例1-1~1-5における3成分系の吸収液((a)2級鎖状モノアミン、(b)3級鎖状モノアミン、(c)2級環状ジアミンを水に溶解したもの)のリボイラ熱量削減率を示す図である。
【0044】
2級鎖状モノアミンとしてN-ブチルアミノエタノール(30重量%超且つ45重量%未満)、3級鎖状モノアミンとしてN-メチルジエタノールアミン(15重量%超且つ30重量%未満)、2級環状ジアミンとして2-メチルピペラジン((a)、(b)よりも低濃度)を、水に溶解混合させ、吸収剤アミン成分濃度の合計は55重量%として、試験例1-1の吸収液を調製した。
【0045】
試験例1-2の吸収液を、(c)2級環状ジアミンをピペラジンとした以外は、試験例1-1と同様にして調製した。
【0046】
試験例1-3の吸収液を、(b)3級鎖状モノアミンをN-ブチルジエタノールアミンとした以外は、試験例1-1と同様にして調製した。
【0047】
試験例1-4の吸収液を、(a)2級鎖状モノアミンをN-エチルアミノエタノールとし、(c)2級環状ジアミンをピペラジンとした以外は、試験例1-1と同様にして調製した。
【0048】
試験例1-5を、(b)3級鎖状モノアミンをN-エチルジエタノールアミンとした以外は、試験例1-4と同様にして調製した。
【0049】
また、比較例として、モノエタノールアミン(MEA)を30重量%で水に溶解混合させて比較例1の吸収液を調製した。各試験例及び比較例の成分組成を下記表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
<リボイラ熱量比の評価>
各試験例及び比較例の吸収液を用いた際のリボイラ熱量を測定し、各試験例のリボイラ熱量を、比較例の吸収液を用いた場合と比べた熱量比として評価した。評価結果を図2に示す。
【0052】
図2に示すように、比較例1の吸収液を用いた場合の熱量を1とすると、試験例1-1及び1-2の吸収液を用いた場合のリボイラ熱量比は0.90未満であり、試験例1-3乃至1-5の吸収液を用いた場合のリボイラ熱量比は約1.00未満であった。
【0053】
[試験例2-1~2-5]
また、試験例1-1~1-5の吸収液において、吸収剤アミン成分濃度の合計を55重量%から65重量%に増量し、試験例2-1~2-5の吸収液を調製した。その試験例2-1~2-5の成分組成を下記表2に示す。なお、比較例1は、前述した表1と同様であり、配合は省略する。試験例1-1と同様にして評価した評価結果を図3に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
図3に示すように、比較例1の吸収液を用いた場合の熱量を1とすると、試験例2-1及び2-2の吸収液を用いた場合のリボイラ熱量比は0.90未満であり、試験例2-3乃至2-5の吸収液を用いた場合のリボイラ熱量比は約1.00未満であった。
【0056】
以上のことから、3成分系の吸収液((a)2級鎖状モノアミン、(b)3級鎖状モノアミン、(c)2級環状ジアミンを水に溶解したもの)を用いた試験例1-1~1-5、試験例2-1~2-2の吸収液は、モノエタノールアミンを用いた比較例1と比較して、リボイラ熱量を低減できることがわかった。特に、試験例1-1~1-2、試験例2-1~2-2の吸収液であれば、リボイラ熱量を10%以上低減できることがわかった。
よって、吸収液が高濃度であっても、従来のものに対し、省エネ性に優れた吸収液を提供でき、ガス中のCO2又はH2S又はその双方を吸収した吸収液を再生するに際してリボイラ熱量の低減を図ることができた。
【0057】
[試験例1-6]
試験例1-6では試験例1-1の組成の吸収液を用い、2級鎖状モノアミンとしてN-ブチルアミノエタノールの濃度を32重量%と固定し、3級鎖状モノアミンとしてN-メチルジエタノールアミンの成分濃度を変化させ、試験例1-6の吸収液を調製した。なお、比較例は上述したモノエタノールアミン(MEA)を30重量%で水に溶解混合させて調製したものと同様である。試験例の成分組成を下記表3に示す。また、図4にその結果を示す。図4は、試験例1-6における吸収剤アミン成分濃度(重量%)とリボイラ熱量比との関係を示すグラフである。
【0058】
【表3】
【0059】
図4に示すように、(b)3級鎖状モノアミンとしてN-メチルジエタノールアミンが15重量%超且つ33重量%の範囲において、リボイラ熱量が約9%以上低減できることがわかった。
【0060】
[試験例3]
試験例3の吸収液として、前述した試験例1-2の組成の吸収液を用い、吸収剤アミン成分の合計濃度(重量%)が高濃度条件おける先行技術(比較例2、比較例3)との比較試験を行った。
ここで、比較例2は特開2013-086079号の試験例6の配合組成であり、比較例3は特開2017-64645の試験例1-2の配合組成である。配合組成を表3に示す。図5は、試験例3における吸収剤アミン成分濃度(重量%)とリボイラ熱量比との関係を示すグラフである。なお、図5における縦軸の比較基準としては、上述したモノエタノールアミン(MEA)を30重量%で水に溶解混合させて調製した比較例1である。試験例3及び比較例2、3の成分組成を下記表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
ここで、試験例3及び比較例2及び3における濃度は以下のようにして調整した。
吸収剤アミン濃度合計が55重量%条件における各例の(a)2級鎖状モノアミン濃度をA55重量%、(b)3級鎖状モノアミン濃度をB55重量%、(c)2級環状ジアミン濃度をC55重量%とし、吸収剤アミン濃度合計をT重量%に変化させた場合の各例の(a)2級鎖状モノアミン濃度をAT重量%、(b)3級鎖状モノアミン濃度をBT重量%、(c)2級環状ジアミン濃度をCT重量%とすると、各例における各成分の配合比はA55:B55:C55=AT:BT:CT=固定であり、吸収剤アミン濃度合計がT重量%条件での各成分の濃度(重量%)は以下の表5とおり各組成毎に計算される。
【0063】
【表5】
【0064】
図5に示すとおり、先行技術の比較例2、比較例3の吸収剤成分配合比条件では、吸収剤高濃度条件において、リボイラ熱量の低減が鈍化またはリボイラ熱量が悪化した。これに対して、試験例3の吸収液では、吸収剤が高濃度条件においても、リボイラ熱量の低減が図れることが判明した。特に吸収剤アミン濃度合計が55重量%以上の高濃度になった場合であって、試験例3の吸収液はリボイラ熱量の更なる低減を図ることができた。
【0065】
[試験例4、試験例5]
試験例4の吸収液としては、試験例1-2の組成の吸収液を用い、吸収剤アミン成分の合計濃度(重量%)が高濃度条件おける先行技術(比較例2、比較例3)との吸収液の粘度の変化の比較試験を行った。
比較例2は特開2013-086079号の試験例6の配合組成であり、比較例3は特開2017-64645の試験例1-2の配合組成である。
【0066】
吸収剤の粘度の測定は、図1におけるCO2回収装置12のCO2吸収塔18に導入される前の吸収液の粘度(A)と、排ガス14のCO2を吸収した後の液だまりの吸収液の粘度(B)とを測定した。具体的には、図1におけるCO2回収装置において、粘度Aは、循環する吸収液が再生塔で再生され、再生されたCO2吸収液(リーン溶液)17が溶液ポンプ32にて昇圧され、さらにリーン溶液クーラ33にて冷却された後、CO2吸収塔18内に供給される際の地点(A)で測定した。一方粘度Bは、CO2回収部18でCO2を吸収したCO2吸収液(リッチ液)19が底部の液たまり部の地点(B)で測定した。
【0067】
試験例4の吸収剤各成分の配合比は、表1の記載の試験例1-2の固定吸収剤アミン成分合計濃度(55重量%)である。また、試験例5の吸収剤各成分の配合比は、試験例2-2の固定吸収剤アミン成分合計濃度(65重量%)である。なお、粘度の基準は、試験例3におけるCO2吸収塔18内に供給される際の地点(A)で測定した(粘度A)の値を1とし、基準とした。この結果を表6及び表7に示す。
【0068】
【表6】
【0069】
【表7】
【0070】
表6及び表7に示すように、先行技術の比較例2及び3に比較し、試験例4、試験例5の組成の吸収液では、吸収剤高濃度条件においても、吸収液粘度の上昇抑制が図れることが判明した。
【0071】
[試験例6]
試験例6では試験例1-1の組成の吸収液を用い、2級鎖状モノアミンとしてN-ブチルアミノエタノールの濃度を32重量%と固定し、3級鎖状モノアミンとしてN-メチルジエタノールアミンの成分割合((b)3級鎖状モノアミン/((a)2級鎖状モノアミン+(c)2級環状ジアミン))重量比を変化させた試験例6の吸収液を調製した。
なお、比較例は上述したモノエタノールアミン(MEA)を30重量%で水に溶解混合させて調製した。試験例の成分組成を下記表8に示す。また、図6にその結果を示す。図6は、試験例6における「(b)3級鎖状モノアミン/((a)2級鎖状モノアミン+(c)2級環状ジアミン)」重量比とリボイラ熱量比との関係を示すグラフである。
【0072】
【表8】
図6に示すように、「(b)3級鎖状モノアミン/((a)2級鎖状モノアミン+(c)2級環状ジアミン)」重量比が0.3超且つ0.85の範囲において、リボイラ熱量が約9%以上低減できることがわかった。
【0073】
[試験例7]
試験例6では試験例1-1の組成の吸収液を用い、2級鎖状モノアミンとしてN-ブチルアミノエタノールの濃度を32重量%と固定し、3級鎖状モノアミンとしてN-メチルジエタノールアミンの成分割合((b)3級鎖状モノアミン/(a)2級鎖状モノアミン)重量比を変化させた試験例5の吸収液を調製した。
なお、比較例は上述したモノエタノールアミン(MEA)を30重量%で水に溶解混合させて調製した。試験例の成分組成は前記表7と同じである。また、図7にその結果を示す。図7は、試験例7における「(b)3級鎖状モノアミン/(a)2級鎖状モノアミン」重量比とリボイラ熱量比との関係を示すグラフである。
【0074】
図6に示すように、「(b)3級鎖状モノアミン/(a)2級鎖状モノアミン」重量比が0.5超且つ1.0の範囲において、リボイラ熱量が約9%以上低減できることがわかった。
【0075】
なお、本発明の(a)2級鎖状モノアミン、(b)3級鎖状モノアミン、(c)2級環状ジアミンの組合せは、本試験例で効果が実証されたものに限定されるものではない。次に、これらの好ましい組合せの試験例以外の好適なものとして、表9~表12に一例を示す。
【0076】
【表9】
【0077】
表9は、(a)2級鎖状モノアミンとして、N-メチルアミノエタノールを用いた場合の好ましい組合せの一例である。
【0078】
【表10】
【0079】
表10は、(a)2級鎖状モノアミンとして、N-エチルアミノエタノールを用いた場合の好ましい組合せの一例である。
【0080】
【表11】
【0081】
表11は、(a)2級鎖状モノアミンとして、N-プロピルアミノエタノールを用いた場合の好ましい組合せの一例である。
【0082】
【表12】
【0083】
表12は、(a)2級鎖状モノアミンとして、N-ブチルアミノエタノールを用いた場合の好ましい組合せの一例である。
【符号の説明】
【0084】
12 CO2回収装置
13 産業燃焼設備
14 排ガス
16 排ガス冷却装置
17 CO2吸収液(リーン溶液)
18 CO2吸収塔
19 CO2を吸収したCO2吸収液(リッチ溶液)
20 吸収液再生塔
21 洗浄水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7