(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物、材料押出式3次元プリンター成形用フィラメント、及び成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 53/02 20060101AFI20230824BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20230824BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20230824BHJP
B29C 64/255 20170101ALI20230824BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20230824BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230824BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230824BHJP
D01F 6/30 20060101ALI20230824BHJP
D01F 6/46 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
C08L53/02
C08L91/00
B29C64/118
B29C64/255
B29C64/314
B33Y10/00
B33Y70/00
D01F6/30
D01F6/46 A
(21)【出願番号】P 2019151019
(22)【出願日】2019-08-21
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】佐野 二朗
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/125899(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/151369(WO,A1)
【文献】特開2019-131769(JP,A)
【文献】特表2003-506513(JP,A)
【文献】特開2016-037571(JP,A)
【文献】国際公開第2018/037851(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 53/00-53/02
C08L 91/00-91/08
B29C 64/118
B29C 64/255
B29C 64/314
B33Y 10/00
B33Y 70/00
D01F 6/30
D01F 6/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ポリオレフィン(A)と、炭化水素系ゴム用軟化剤(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
前記環状ポリオレフィン(A)100質量部に対して、前記炭化水素系ゴム用軟化剤(B)1~100質量部を含有し、
該環状ポリオレフィン(A)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、
該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、
該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有
し、
前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上の水素化レベルをもち、かつ、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上の水素化レベルをもち、
前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化ポリスチレンからなり、前記環状ポリオレフィン(A)中の含有率が30~99モル%であり、
前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が水素化ポリブタジエンからなり、前記環状ポリオレフィン(A)中の含有率が1~70モル%である、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項
1に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる、フィラメント。
【請求項3】
材料押出式3次元プリンター成形用フィラメントである、請求項
2に記載のフィラメント。
【請求項4】
請求項
2又は3に記載のフィラメントからなる、フィラメントの巻回体。
【請求項5】
請求項
3に記載のフィラメントを容器に収納した、材料押出式3次元プリンター用カートリッジ。
【請求項6】
請求項
3に記載のフィラメントを用いて、材料押出式3次元プリンターにより成形体を得る、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、耐熱性、低吸湿性に優れ、特に材料押出式3次元プリンターによる成形性(造形性)が良好な熱可塑性樹脂組成物及び材料押出式3次元プリンター成形用フィラメントに関する。
また、本発明はフィラメントの巻回体及び材料押出式3次元プリンター用カートリッジに関する。さらに、成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、結合剤噴射式、材料押出式、液槽光重合式等の種々の付加製造方式の3次元プリンターが販売されている。これらのうち、材料押出(Material Extrusion)式による3次元プリンターシステム(例えば、米国のストラタシス・インコーポレイテッド社製のシステム)は、流動性を有する原料を押出ヘッドに備えたノズル部位から押出してコンピュータ支援設計(CAD)モデルを基にして3次元物体を層状に構築するために用いられている。
【0003】
その中でも熱溶解積層法(以下「FDM法」(Fused Deposition Modeling法)と称することがある。)においては、先ず、原料が熱可塑性樹脂組成物からなるフィラメントとして押出ヘッドへ挿入され、加熱溶融しながら押出ヘッドに備えたノズル部位からチャンバー内のX-Y平面基板上に連続的に押出される。押出された樹脂は既に堆積している樹脂積層体上に堆積すると共に融着し、これが冷却するにつれて一体となって固化する。FDM法はこのような簡単なシステムであるため、広く用いられるようになってきている。
【0004】
FDM法に代表される材料押出式3次元プリンターでは、通常、基板に対するノズル位置がX-Y平面に垂直方向なZ軸方向に上昇しつつ前記押出工程が繰り返されることによりCADモデルに類似した3次元物体が構築される。
従来、材料押出式のフィラメントに用いる原料としては、一般的にアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂(以下「ABS樹脂」と称することがある。)や、ポリ乳酸(以下「PLA樹脂」と称することがある。)等のアモルファス熱可塑性樹脂組成物が、加工性や流動性の観点から好適に用いられてきた(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2010-521339号公報
【文献】特開2008-194968号公報
【文献】国際公開第2015/037574号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者の検討によれば、上記従来技術には以下のような課題があることがわかった。
特許文献1に記載のABS樹脂には、透明性及び材料押出式3次元プリンターによる成形性(造形性)が実用上十分ではないという課題がある。
特許文献2及び3に記載のPLA樹脂には、透明性、材料押出式3次元プリンターによる成形性(造形性)及び耐熱性が実用上十分ではないという課題がある。
また、ABS樹脂及びPLA樹脂ともに吸湿性が高く、防湿処理が適切でない場合には、成形体が加水分解で劣化する、成形体内に加水分解で発生した気泡を含有する等の不具合を生じる。
【0007】
本発明の目的は、以上のような従来技術の諸問題点を鑑み、透明性、低吸湿性、耐熱性及び材料押出式3次元プリンターによる成形性(造形性)を有する熱可塑性樹脂組成物及びそのフィラメントを提供することにある。また、造形性に優れた成形体の製造方法、フィラメントの巻回体及び材料押出式3次元プリンター用カートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、特定の環状ポリオレフィン及び炭化水素系ゴム用軟化剤を含む熱可塑性樹脂組成物からなる材料押出式3次元プリンター成形用フィラメントが上記課題を解決し得ることを見出した。
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
【0009】
[1]環状ポリオレフィン(A)と、炭化水素系ゴム用軟化剤(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、該環状ポリオレフィン(A)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有する、熱可塑性樹脂組成物。
【0010】
[2]前記環状ポリオレフィン(A)100質量部に対して、前記炭化水素系ゴム用軟化剤(B)1~100質量部を含有する、[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[3]前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上の水素化レベルをもち、かつ、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上の水素化レベルをもつ、[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[4]前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化ポリスチレンからなり、前記環状ポリオレフィン(A)中の含有率が30~99モル%である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0011】
[5]前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が水素化ポリブタジエンからなり、前記環状ポリオレフィン(A)中の含有率が1~70モル%である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[6][1]~[5]のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる、フィラメント。
[7]材料押出式3次元プリンター成形用フィラメントである、[6]に記載のフィラメント。
[8][6]又は[7]に記載のフィラメントからなる、フィラメントの巻回体。
[9][7]に記載のフィラメントを容器に収納した、材料押出式3次元プリンター用カートリッジ。
[10][7]に記載のフィラメントを用いて、材料押出式3次元プリンターにより成形体を得る、成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、透明性、低吸湿性、耐熱性及び材料押出式3次元プリンターによる成形性(造形性)に優れた熱可塑性樹脂組成物及び材料押出式3次元プリンター成形用フィラメントが提供される。また、材料押出式3次元プリンターによる成形性(造形性)が良好な成形体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】造形性試験で造形される対象である造形物1(花瓶)の(a)側面図、(b)上面図
【
図2】造形性試験で造形される対象である造形物2(船)の(a)側面図、(b)背面図
【
図3】
図2の造形物2(船)の(a)正面図、(b)上面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
以下において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0015】
本願に係る発明は、環状ポリオレフィン(A)と、炭化水素系ゴム用軟化剤(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物、特に該熱可塑性樹脂組成物からなる材料押出式3次元プリンター成形用フィラメントについての発明である。
【0016】
<環状ポリオレフィン(A)>
本発明の環状ポリオレフィン(A)は、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなる。
該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する。
また、該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有するものである。
【0017】
本発明の環状ポリオレフィン(A)は、透明性及び耐候性の観点から、前記水素化ブロックコポリマーからなることが好ましい。
なお、「ブロック」とは、後記するように、本明細書において、コポリマーの構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントをいう。このため、例えば「ブロック単位を少なくとも2個有する」とは、水素化ブロックコポリマーの中に、構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントを少なくとも2個有することをいう。
【0018】
前記の芳香族ビニルモノマー単位の原料となる芳香族ビニルモノマーは、下記一般式(1)で示されるモノマーである。
【0019】
【0020】
ここでRは、水素又はアルキル基、Arはフェニル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基、又はアントラセニル基である。
【0021】
前記アルキル基は、ハロ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、及びカルボキシル基のような官能基で単置換若しくは多重置換されたアルキル基であってもよい。また、前記アルキル基の炭素数は、1~6がよい。
また、前記のArは、フェニル基又はアルキルフェニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0022】
前記芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン(全ての異性体を含み、特にp-ビニルトルエン)、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン(全ての異性体)、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0023】
前記の共役ジエンモノマー単位の原料となる共役ジエンモノマーは、2個の共役二重結合を持つモノマーであればよく、特に限定されるものではない。
共役ジエンモノマーとしては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレンン)、2-メチル-1,3ペンタジエンとその類似化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0024】
前記1,3-ブタジエンの重合体であるポリブタジエンは、水素化で1-ブテン繰り返し単位の等価物を与える1,2配置、又は水素化でエチレン繰り返し単位の等価物を与える1,4配置のいずれかを含むことができる。
【0025】
前記の芳香族ビニルモノマーや、1,3-ブタジエンを含む前記共役ジエンモノマーから構成される重合性ブロックの水素化体は、本発明で使用される水素化ブロックコポリマーに含まれる。好ましくは、水素化ブロックコポリマーは官能基のないブロックコポリマーである。
なお、「官能基のない」とはブロックコポリマー中に如何なる官能基、即ち、炭素と水素以外の元素を含む基が存在しないことを意味する。
【0026】
前記の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリスチレンを挙げることができ、前記の水素化共役ジエンポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリブタジエンを挙げることができる。
そして、水素化ブロックコポリマーの好ましい一態様としては、スチレンとブタジエンの水素化トリブロック又はペンタブロックコポリマーを挙げることができ、他の如何なる官能基又は構造的変性剤も含まないことが好ましい。
「ブロック」とは、コポリマーの構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントとして定義される。ミクロ層分離は、ブロックコポリマー中で重合セグメントが混じり合わないことにより生ずる。
なお、ミクロ層分離とブロックコポリマーは、PHYSICS TODAYの1999年2月号32-38頁の“Block Copolymers-Designer Soft Materials”で広範に議論されている。
【0027】
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率は、前記環状ポリオレフィン(A)に対して、好ましくは30~99モル%、より好ましくは40~90モル%である。
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の比率が上記下限値以上であれば剛性が低下することがなく、上記上限値以下であれば脆性が悪化することがない。
【0028】
また、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率は、前記環状ポリオレフィン(A)に対して、好ましくは1~70モル%、より好ましくは10~60モル%である。
水素化共役ジエンポリマーブロック単位の比率が上記下限値以上であれば脆性が悪化することがなく、上記上限値以下であれば剛性が低下することがない。
【0029】
なお、前記のとおり、本願発明にかかるポリオレフィンは、「環状ポリオレフィン」であるが、この「環状」とは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が有する、芳香族環の水素化により生じる脂環式構造のことをいう。
【0030】
本発明の水素化ブロックコポリマーはSBS、SBSBS、SIS、SISIS、及びSISBS(ここで、Sはポリスチレン、Bはポリブタジエン、Iはポリイソプレンを意味する。)のようなトリブロック、マルチブロック、テーパーブロック、及びスターブロックコポリマーを含むブロックコポリマーの水素化によって製造される。
【0031】
本発明の水素化ブロックコポリマーはそれぞれの末端に芳香族ビニルポリマーからなるセグメントを含む。このため、本発明の水素化ブロックコポリマーは、少なくとも2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を有することとなる。そして、この2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の間には、少なくとも1つの水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有することとなる。
【0032】
前記水素化ブロックブロックコポリマーを構成する水素化前のブロックコポリマーは、何個かの追加ブロックを含んでいてもよく、これらのブロックはトリブロックポリマー骨格のどの位置に結合していてもよい。このように、線状ブロックは例えばSBS、SBSB、SBSBS、そしてSBSBSBを含む。コポリマーは分岐していてもよく、重合連鎖はコポリマーの骨格に沿ってどの位置に結合していてもよい。
【0033】
水素化ブロックコポリマーの重量平均分子量(Mw)の下限は、好ましくは30,000以上、より好ましくは40,000以上、更に好ましくは45,000以上、特に好ましくは50,000以上である。また、Mwの上限は、好ましくは120,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは95,000以下、特に好ましくは90,000以下、最も好ましくは85,000以下、極めて好ましくは80,000以下である。
Mwが上記下限値以上であれば機械強度が低下せず、上記上限値以下であれば成形加工性が悪化しない。
本明細書のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて決定される。
【0034】
水素化ブロックコポリマーの水素化レベルは、好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上であり、より好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が95%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99%以上であり、更に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が98%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上であり、特に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が99.5%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上である。
なお、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルとは、芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示し、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルとは、共役ジエンポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示す。このように高レベルの水素化は、耐熱性及び透明性のために好ましい。
【0035】
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルと水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルは、プロトンNMRを用いて決定される。
【0036】
本発明の環状ポリオレフィン(A)のメルトフローレート(MFR)は特に限定されないが、通常0.1g/10分以上であり、成形方法や成形体の外観の観点から、好ましくは0.2g/10分以上である。また通常200g/10分以下であり、材料強度の観点から、好ましくは100g/10分以下、より好ましくは50g/10分以下である。
MFRは、ISO 1133に従って、測定温度230℃、測定荷重2.16kgの条件で測定した。
【0037】
環状ポリオレフィン(A)は、1種を単独で用いてもよく、モノマー単位の組成や物性等の異なる2種以上を併用してもよい。
本発明の環状ポリオレフィン(A)としては、市販のものを用いることができる。具体的には、三菱ケミカル(株)製:ゼラス(商標登録)が挙げられる。
【0038】
<炭化水素系ゴム用軟化剤(B)>
本発明に用いる炭化水素系ゴム用軟化剤(B)は、環状ポリオレフィン(A)を軟化させ、熱可塑性樹脂組成物の柔軟性、弾性、加工性、流動性の向上に寄与する。
炭化水素系ゴム用軟化剤(B)としては、鉱物油系軟化剤又は合成樹脂系軟化剤等が挙げられるが、環状ポリオレフィン(A)との親和性の観点から鉱物油系軟化剤が好ましい。
【0039】
鉱物油系軟化剤は、一般的に、芳香族系炭化水素、ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の混合物であり、全炭素原子の50%以上がパラフィン系炭化水素であるものがパラフィン系オイル、全炭素原子の30~45%がナフテン系炭化水素であるものがナフテン系オイル、全炭素原子の35%以上が芳香族系炭化水素であるものが芳香族系オイルと各々呼ばれている。これらの中で、本発明においては、パラフィン系オイルを用いることが好ましい。
なお、炭化水素系ゴム用軟化剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
炭化水素系ゴム用軟化剤(B)の40℃における動粘度は、好ましくは20センチストークス以上、より好ましくは50センチストークス以上であり、また、好ましくは800センチストークス以下、より好ましくは600センチストークス以下である。
また、炭化水素系ゴム用軟化剤(B)の引火点(COC法)は、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上である。
【0041】
炭化水素系ゴム用軟化剤(B)は、市販品として入手することができる。
該当する市販品としては、例えば、JX日鉱日石エネルギー社製「日石ポリブテン(登録商標)HV」シリーズ、出光興産社製ダイアナ(登録商標)「プロセスオイルPW」シリーズが挙げられ、これらの中から該当品を適宜選択して使用することができる。
【0042】
<熱可塑性樹脂組成物>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、環状ポリオレフィン(A)と、炭化水素系ゴム用軟化剤(B)とを含有する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、環状ポリオレフィン(A)100質量部に対して、炭化水素系ゴム用軟化剤(B)1~100質量部を含有することが好ましい。
【0043】
炭化水素系ゴム用軟化剤(B)の含有量は2質量部以上がより好ましく、5質量部以上が更に好ましい。また、75質量部以下がより好ましく、50質量部以下が更に好ましい。
炭化水素系ゴム用軟化剤(B)の含有量が上記範囲内であれば、材料押出式3次元プリンターによる成形性(造形性)が良好となる。
【0044】
熱可塑性樹脂組成物のMFRは、10~1000g/10分が好ましく、20~500g/10分がより好ましく、50~300g/10分が更に好ましい。
また、Vicat軟化温度は60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上が更に好ましい。
また、ヘーズは2.0以下が好ましく、1.0以下がより好ましい。
また、吸水率は0.1%以下が好ましく、0.05%以下がより好ましい。
【0045】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を配合することができる。
その他の成分としては、例えば、その他の樹脂やゴム、添加剤又は充填材が挙げられる。
【0046】
前記その他の樹脂とは、前記成分(A)以外の樹脂であり、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂又は各種のエラストマーが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記その他の樹脂の含有率は、全成分の50質量%以下であり、好ましくは30質量%以下である。
【0047】
前記添加剤としては、酸化防止剤、酸性化合物及びその誘導体、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、難燃剤、衝撃改良剤、発泡剤、着色剤、有機過酸化物、材料押出式3次元プリンターによる成形時にフィラメントと係合部との摩擦抵抗を大きくするための無機添加剤、展着剤又は粘着剤等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
前記充填材としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、ガラスカットファイバー、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラス粉末、炭化ケイ素、窒化ケイ素、石膏、石膏ウィスカー、焼成カオリン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウィスカー、金属粉、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト又は炭素繊維等の無機充填材;澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然由来のポリマー又はこれらの変性品等の有機充填材等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
充填材の含有率は、全成分の50質量%以下であり、好ましくは30質量%以下である。
【0049】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成分(A)及び(B)、必要に応じてその他の成分を、通常の押出機やバンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブラベンダー等を用いて常法で混練して製造することができる。
これらの製造方法の中でも、押出機、特に二軸押出機を用いることが好ましい。
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を押出機等で混練して製造する際には、通常180~300℃、好ましくは220~280℃に加熱した状態で溶融混練することによって製造することができる。
【0051】
<材料押出式3次元プリンター成形用フィラメント>
本発明の材料押出式3次元プリンター成形用フィラメント(以下「フィラメント」と称することがある。)は、本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる。
前記フィラメントの製造方法としては、本発明の熱可塑性樹脂組成物を押出成形等の公知の成形方法により成形する方法や、熱可塑性樹脂組成物の製造時に直接フィラメントとする方法等によって得ることができる。
例えば、フィラメントを押出成形により得る場合、その条件は、通常150~300℃、好ましくは180~280℃である。
【0052】
前記フィラメントの径は、使用するシステムの能力に依存するが、好ましくは1.0~5.0mm、より好ましくは1.3~3.5mmである。
径の精度は、フィラメントの任意の測定点に対して±5%以内の誤差に収めることが原料供給の安定性の観点から好ましい。
【0053】
前記フィラメントを用い、材料押出式3次元プリンターにより成形体を製造するにあたっては、フィラメントを安定に保存すること、及び、材料押出式3次元プリンターにフィラメントを安定供給することが求められる。
そのため、本発明の材料押出式3次元プリンター成形用フィラメントは、ボビンに巻きとった巻回体として密閉包装されている、又は、この巻回体がカートリッジに収納されていることが、長期保存、安定した繰出し、湿気等の環境要因からの保護、捩れ防止等の観点から好ましい。
カートリッジとしては、ボビンに巻き取った巻回体の他、内部に防湿材又は吸湿材を使用し、少なくともフィラメントを繰出すオリフィス部以外が密閉されている構造のものが挙げられる。
【0054】
特に、材料押出式3次元プリンター成形用フィラメントの水分含有率は、0.1%以下が好ましく、0.05%以下がより好ましい。
【0055】
また、前記フィラメントを巻回体とする際にフィラメント同士のブロッキング(融着)等が生じる場合は、フィラメント表面にブロッキング剤を塗布又はコーティングすることができる。
前記ブロッキング剤としては、例えば、シリコーン系ブロッキング剤、タルク等の無機フィラー、脂肪酸金属塩が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
前記フィラメントの好ましい形態は、ボビン等に巻きとった巻回体であり、また、前記フィラメントを容器に収納した材料押出式3次元プリンター用カートリッジであることが好ましい。特に、前記フィラメントの巻回体を容器に収納したカートリッジは、通常、材料押出式3次元プリンター内又は周囲に設置され、成形中は常にカートリッジからフィラメントが材料押出式3次元プリンターに導入され続ける。
【0057】
<成形体の製造方法>
本発明の成形体の製造方法は、本発明の熱可塑性樹脂組成物からなるフィラメントを原料として用い、該原料を材料押出式3次元プリンターにより成形することを特徴とする。
【0058】
材料押出式3次元プリンターは一般に、加熱可能な基板、押出ヘッド、加熱溶融器、フィラメントのガイド、フィラメント設置部等の原料供給部を備えている。材料押出式3次元プリンターの中には押出ヘッドと加熱溶融器とが一体化されているものもある。
【0059】
押出ヘッドはガントリー構造に設置されることにより、基板のX-Y平面上を任意に移動させることができる。基板は目的の3次元物体や支持材等を構築するプラットフォームであり、加熱保温することで積層物との密着性を得たり、得られる成形体を所望の3次元物体として寸法安定性を改善したりできる仕様であることが好ましい。押出ヘッドと基板とは、通常、少なくとも一方がX-Y平面に垂直なZ軸方向に可動となっている。
【0060】
前記フィラメントは原料供給部から繰出され、対向する1組のローラー又はギアーにより押出ヘッドへ送込まれ、押出ヘッドにて加熱溶融され、先端ノズルより押出される。
CADモデルを基にして発信される信号により、押出ヘッドはその位置を移動しながら原料を基板上に供給して積層堆積させていく。この工程が完了した後、基板から積層堆積物を取出し、必要に応じて支持材等を剥離したり、余分な部分を切除したりして所望の3次元物体として成形体を得ることができる。
【0061】
前記フィラメントを供給する場合、前述のように、ボビン等に巻きとった巻回体がカートリッジに収納されていることが、安定した繰出し、湿気等の環境要因からの保護、捩れ防止等の観点から好ましい。
【0062】
前記フィラメントを供給する場合、ニップロールやギアロール等の駆動ロールにこのフィラメントを係合させて、引取りながら押出ヘッドへ供給することが一般的である。
ここでフィラメントと駆動ロールとの係合による把持をより強固にすることで原料供給を安定化させるために、フィラメントの表面に微小凹凸形状を転写させておいたり、係合部との摩擦抵抗を大きくするための無機添加剤、展着剤、粘着剤、ゴム等を配合したりすることも好ましい。
【0063】
本発明のフィラメントとして用いる環状ポリオレフィンは、押出に適当な流動性を得るための温度が、180~270℃程度と、従来、3次元プリンターによる成形に用いられてきた原料と比べて適用可能な温度領域が広い。
本発明の製造方法においては、加熱押出ヘッドの温度を180~220℃とし、基板温度を80℃以下、好ましくは60~70℃として安定的に成形体を製造することができる。
【0064】
押出ヘッドから吐出される溶融樹脂の温度は180℃以上が好ましく、190℃以上がより好ましい。また、270℃以下が好ましく、240℃以下がより好ましい。
溶融樹脂の温度が上記下限値以上であれば、耐熱性の高い樹脂を押出す上で好ましく、また、一般に造形物中に糸引きと呼ばれる、溶融樹脂が細く伸ばされた破片が残り、外観を悪化させることを防ぐ観点からも好ましい。一方、上記上限値以下であれば、樹脂の熱分解や焼け、発煙、臭い、べたつきといった不具合の発生を防ぎやすく、また、高速で吐出することが可能となり、造形効率が向上するため好ましい。
【0065】
押出ヘッドから吐出される溶融樹脂は、好ましくは直径0.01~1mm、より好ましくは直径0.02~0.8mmのストランド状で吐出される。溶融樹脂がこのような形状で吐出されると、CADモデルの再現性が良好となるため好ましい。
【0066】
<成形体>
本発明の成形体は、軟質な質感、耐熱性等に優れたものである。このため、文房具;玩具;携帯電話やスマートフォン等のカバー;グリップ等の部品;学校教材、家電製品、OA機器の補修部品、自動車、オートバイ、自転車等の各種パーツ;建装材等の部材等の用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0068】
[物性]
<ポリマーブロックの比率>
[カーボンNMRによる測定]
・装置:Bruker社製「AVANCE400分光計」
・溶媒:オルソジクロロベンゼン-h4/パラジクロロベンゼン-d4混合溶媒
・濃度:0.3g/2.5mL
・測定:13C-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・積算回数:1536
・フリップ角:45度
・データ取得時間:1.5秒
・パルス繰り返し時間:15秒
・測定温度:100℃
・1H照射:完全デカップリング
【0069】
<水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベル>
[プロトンNMRによる測定]
・装置:日本分光社製「400YH分光計」
・溶媒:重クロロホルム
・濃度:0.045g/1.0mL
・測定:1H-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・積算回数:8
・測定温度:18.5℃
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベル:6.8~7.5ppmの積分値低減率
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベル:5.7~6.4ppmの積分値低減率
【0070】
<メルトフローレート(MFR)>
得られた熱可塑例樹脂組成物を用いて、ISO 1133に準拠して、温度230℃、荷重2.16kgにてフィラメント成形性及び材料押出式3次元プリンターによる成形性(造形性)の指標であるMFRを測定した。
・装置:(株)東洋精機製作所製「メルトインデクサー」
・オリフィス孔径:2mm
【0071】
<Vicat軟化温度>
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、インラインスクリュウタイプ射出成形機(JSW社製「J110AD」)により、射出圧力50MPa、シリンダー温度250℃、金型温度50℃にて、厚さ4mm×幅10mm×長さ80mmの試験片を成形した。
この試験片を用い、ISO306に準拠して、昇温速度50℃/h、荷重10Nにて耐熱性の指標であるVicat軟化温度を測定した。
【0072】
<ヘーズ>
得られた熱可塑例樹脂組成物を用いて、インラインスクリュウタイプ射出成形機(JSW社製「J110AD」)により、射出圧力50MPa、シリンダー温度250℃、金型温度50℃にて、厚さ2mm×幅100mm×長さ100mmの試験片を成形した。
この試験片を用い、ISO 14782に準拠して、透明性の指標であるヘーズを測定した。
【0073】
<吸水率>
得られた熱可塑例樹脂組成物を用いて、ISO 760に準拠して、180℃にて低吸湿性の指標である吸水率を測定した。
吸水率が0.01%以下の場合は<0.01%とした。
【0074】
<フィラメント成形性>
得られた熱可塑性樹脂組成物(ペレット状)を用いて、単軸押出機(Φ30mm)にて185~225℃の範囲で押出成形し、断面の直径が1.75mmの材料押出式3次元プリンター成形用フィラメントを製造した。
フィラメントが成形できた場合は、フィラメント成形性を「○」とした。
押出トルク過負荷によりフィラメントが成形できない場合には、フィラメント成形性を「×」とした。
【0075】
<造形性>
得られたフィラメントを用いて、熱溶解積層法による押出積層堆積システムとして、AFINIA社製「H480-2」を用い、3次元物体として、造形物1(花瓶:
図1(a)(b))及び造形物2(船:
図2(a)(b)、
図3(a)(b))の成形を行なった。
造形条件は、PLA条件(ノズル温度200~220℃、プラットフォーム温度50℃)、FINEモード、積層ピッチ0.25mmにて行なった。
この成形における成形性を以下の基準で評価した。
○ :きれいに造形できた。
× :十分な吐出が得られず、造形できなかった。
【0076】
[原料]
<環状ポリオレフィン(A-1)>
三菱ケミカル(株)製 「ゼラス(商標登録)MC930」
・密度(ASTM D792):0.94g/cm3
・MFR(230℃、2.16kg):1g/10分
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率67モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリスチレン
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位:含有率33モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99.5%以上
・ガラス転移温度:129℃
【0077】
<炭化水素系ゴム用軟化剤(B-1)>
出光興産社製ダイアナ(登録商標) プロセスオイルPW90〔パラフィン系オイル、動粘度(40℃):90センチストークス、引火点(COC法):266℃〕
【0078】
<ポリ乳酸(X-1)>
NatureWorks社製 ingeo4032D PLA(ポリ乳酸樹脂)
・密度(ISO 1183):1.24g/cm3
・MFR(230℃、荷重2.16kg):12g/10分
・Mw:200,000
【0079】
[実施例1]
成分(A-1)100質量部、成分(B-1)20質量部を、同方向2軸押出機(東芝機械社製 TEM26SS Φ26mm、L/D=48.5)にて12kg/hの速度で投入し、240℃の範囲で昇温させて溶融混練を行ない、熱可塑性樹脂組成物を製造した。
得られたペレットを用いて評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
[比較例1]
環状ポリオレフィン(A)以外の樹脂であるポリ乳酸(X-1)を原料に用い、それ以外は実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0081】
【0082】
表1より、本発明に該当する実施例1は耐熱性、透明性、低吸湿性、材料押出式3次元プリンターによる成形性(造形性)が良好であることがわかる。
これに対して、本発明に該当しない比較例1は、耐熱性、透明性、低吸湿性が悪かった。材料押出式3次元プリンターによる成形性(造形性)については、単純な形状の造形物1は造形できたが、複雑な形状の造形物2は造形できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば透明性、低吸湿性、耐熱性及び材料押出式3次元プリンターによる成形性(造形性)に優れた熱可塑性樹脂組成物及び3次元プリンター成形用フィラメントを得ることができる。また、材料押出式3次元プリンターによる成形性(造形性)が良好な成形体の製造方法を提供することができる。