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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】ラップフィルム
(51)【国際特許分類】
   B65D 65/00 20060101AFI20230824BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230824BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
B65D65/00 A
C08J5/18 CEV
B65D65/40 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019162594
(22)【出願日】2019-09-06
(65)【公開番号】P2021041932
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】中山 裕子
(72)【発明者】
【氏名】田中 利采
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-172312(JP,A)
【文献】特開2017-177382(JP,A)
【文献】特開2014-015590(JP,A)
【文献】特開2019-043679(JP,A)
【文献】特表2015-530473(JP,A)
【文献】米国特許第05073617(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/00
C08J 5/18
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニリデン系樹脂と、エポキシ化植物油と、を含有し、
温度変調型示差走査熱量計にて測定される低温結晶化開始温度が、40~60℃であり、
前記エポキシ化植物油の含有量が、ラップフィルムの総量に対して、5重量%以上15重量%以下であり、
厚みが、6~18μmであり、
TD方向の引裂強度が、2~6cNである、
ラップフィルム。
【請求項2】
MD方向の引張弾性率が、250~600MPaである、
請求項1に記載のラップフィルム。
【請求項3】
クエン酸エステル、二塩基酸エステル、及びアセチル化脂肪酸グリセライドからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含む、
請求項1又は2に記載のラップフィルム。
【請求項4】
前記化合物の合計含有量が、前記ラップフィルムの総量に対して、3~8重量%である、
請求項3に記載のラップフィルム。
【請求項5】
前記塩化ビニリデン系樹脂が、塩化ビニリデン繰り返し単位を72~93mol%含有する、
請求項1~4のいずれか一項に記載のラップフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラップフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニリデン系樹脂は、透明性、耐水性及びガスバリア性等の特性に優れているため、ラップフィルム等の食品包装用材料として使用されている。近年、食品包装用材料は、上記特性だけでなく、成形加工性及び熱安定性等の特性も向上させ、さらに高機能化させることが求められている。食品包装用材料を高機能化させる方法としては、例えば、可塑剤や熱安定剤等の添加剤を配合する方法が挙げられる。このような添加剤としては、例えば、ラップフィルムの色調変化を抑制するために、エポキシ化植物油が使用されている。
【0003】
特許文献1には、塩化ビニリデン系樹脂組成物に対して、ミネラルオイルと、水溶性多糖類、グリセリン、プロピレングリコール、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリビニルアルコール及びシリコーンオイルからなる群より選ばれる一種と、を付与することで、製造直後より良好なラップフィルムの密着性を有し、密着性と引出性という背反する特性を両立させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2007/018204
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、飲料や食料を入れる容器としては、例えば、陶磁器、ガラス、プラスチック、金属、又は木材からなるものが用いられている。これらの中でも、寿司桶や櫃のような木製の容器は、手触り及び見た目が温かく、和の雰囲気も味わうことができるという特性を有している。また、家庭の台所でよくみられる金属製の容器は、頑丈で壊れにくいという特性を有している。さらに、プラスチック製の容器は、幅広く用いられている。
【0006】
しかしながら、ラップフィルムの密着性は密着対象の材質によって大きく異なり、特許文献1のようにラップフィルム同士の密着性の高さが、直ちに、他の材質に対する密着性の高さを意味するものとは言えない。例えば、木製の容器は、ラップフィルムとの密着性が極めて悪く、実質的に、ラップフィルムを用いて密封するということが困難である。また、プラスチック製の容器も、ラップフィルムとの密着性が極めて悪く、実質的に、ラップフィルムを用いて密封するということが困難である。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、木製容器及びプラスチック製容器に対しても優れた密着性を有するラップフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、エポキシ化植物油の含有量を調整することにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、下記の通りである。
〔1〕
塩化ビニリデン系樹脂と、エポキシ化植物油と、を含有し、
温度変調型示差走査熱量計にて測定される低温結晶化開始温度が、40~60℃であり、
前記エポキシ化植物油の含有量が、ラップフィルムの総量に対して、3重量%超過15重量%以下であり、
厚みが、6~18μmである、
ラップフィルム。
〔2〕
TD方向の引裂強度が、2~6cNである、
〔1〕に記載のラップフィルム。
〔3〕
MD方向の引張弾性率が、250~600MPaである、
〔1〕又は〔2〕に記載のラップフィルム。
〔4〕
クエン酸エステル、二塩基酸エステル、及びアセチル化脂肪酸グリセライドからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含む、
〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載のラップフィルム。
〔5〕
前記化合物の合計含有量が、前記ラップフィルムの総量に対して、3~8重量%である、
〔4〕に記載のラップフィルム。
〔6〕
前記塩化ビニリデン系樹脂が、塩化ビニリデン繰り返し単位を72~93mol%含有する、
〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載のラップフィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、木製容器及びプラスチック製容器に対しても優れた密着性を有するラップフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の製膜プロセスで使用された装置の概略図である。
図2】本発明のフィルムの利用形態例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
なお、本実施形態において、「TD方向」とは、製膜ラインの樹脂の幅方向をいい、ラップフィルムとしたときに、巻回体からラップフィルムを引き出す方向に垂直な方向をいう。また、「MD方向」とは、製膜ラインの樹脂の流れ方向をいい、ラップフィルムとしたときに、巻回体からラップフィルムを引き出す方向をいう。
【0014】
〔ラップフィルム〕
本実施形態のラップフィルムは、塩化ビニリデン系樹脂と、エポキシ化植物油と、を含有するラップフィルムであって、温度変調型示差走査熱量計にて測定される低温結晶化開始温度が40~60℃であり、前記エポキシ化植物油の含有量が、前記ラップフィルムの総量に対して、3重量%超過15重量%以下であり、厚みが6~18μmである。
【0015】
本実施形態においては、上記所定の構成を有するラップフィルムにおいてエポキシ化植物油の含有量を3重量%超過15重量%以下とすることにより、木製容器及びプラスチック製容器に対しても優れた密着性を有する、という効果を奏する。熱安定剤として使用されるエポキシ化植物油がラップフィルムの木製容器及びプラスチック製容器に対する密着性を向上させる理由は明らかではないが、エポキシ化植物油に含まれるオキシラン酸素と、木に含まれるセルロースの水酸基が相互作用もしくは、結合することにより、木製容器に対する密着性が向上すると考えられる。また、プラスチック容器にはポリマーのほかに様々な添加剤、例えば、可塑剤、耐光剤、酸化防止剤、着色剤などの微量成分が含まれており、これらは極性を有するものであるが、これらと、エポキシ化植物油に含まれるオキシラン酸素とが、相互作用することにより、プラスチック容器との密着性が向上すると考えられる。なお、上記理由は推定であり、これに限定されるものではない。以下、本実施形態について、詳細に説明する。
【0016】
(塩化ビニリデン系樹脂)
塩化ビニリデン系樹脂としては、塩化ビニリデン繰り返し単位を含むものであれば特に限定されず、塩化ビニリデン繰り返し単位と重合可能な単量体繰り返し単位を含む塩化ビニリデン共重合体が挙げられる。
【0017】
塩化ビニリデン単量体と共重合可能な単量体としては、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル;メチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル;メチルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート等のメタアクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸;アクリロニトリル;酢酸ビニル等が挙げられる。これら単量体は一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。このなかでも、塩化ビニルがより好ましい。
【0018】
塩化ビニリデン繰り返し単位の含有量は、塩化ビニリデン系樹脂の総量に対して、好ましくは72~93mol%であり、より好ましくは81~90mol%である。塩化ビニリデン繰り返し単位の含有量が72mol%以上であることにより、塩化ビニリデン系樹脂のガラス転移温度が低く、ラップフィルムが軟らかくなる傾向にある。これにより、例えば、冬場等の低温環境下での使用時においてもラップフィルムの裂けを低減できる。一方、塩化ビニリデン繰り返し単位の含有量が93mol%以下であることにより、結晶性の大幅な上昇を抑制し、フィルム延伸時の成形加工性の悪化が抑制される傾向にある。
【0019】
塩化ビニリデン繰り返し単位の含有量は、特に限定されないが、例えば、高分解のプロトン核磁気共鳴測定装置(400MHz以上)を用いて測定することができる。より具体的には、ラップフィルム0.5gをTHF(テトラヒドロフラン)10mlに溶解し、メタノール約30mlを加えて樹脂分を析出した後、遠心分離にて析出物を分離、真空乾燥し、塩化ビニリデン系樹脂の測定用サンプルを得る。そして、得られた測定用サンプルを重水素化テトラヒドロフランに5質量%になるように溶解させた後、この溶液を、測定雰囲気温度約27℃にてH-NMR測定する。得られたスペクトル中のテトラメチルシランを基準とした特有の化学シフトを用いて塩化ビニリデン繰り返し単位を計算する。例えば、塩化ビニリデンと塩化ビニルの共重合体では、3.50~4.20ppm、2.80~3.50ppm、2.00~2.80ppmのピークを利用して計算する。
【0020】
また、塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体のコモノマー(塩化ビニル)含有量は、共重合体の総量に対して、好ましくは7~28質量%であり、より好ましくは10~19質量%である。塩化ビニリデン共重合体のコモノマー含有量が上記範囲内であることにより、低温環境下での使用時においてもラップフィルムの裂けが低減され、フィルム延伸時の成形加工性の悪化がより抑制される傾向にある。
【0021】
塩化ビニリデン共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは50,000~250,000であり、より好ましくは60,000~230,000であり、さらに好ましくは80,000~200,000である。重量平均分子量(Mw)が上記範囲内であることにより、ラップフィルムの機械強度がより向上する傾向にある。重量平均分子量が上記範囲内である塩化ビニリデン系樹脂は、例えば、塩化ビニリデンモノマーと塩化ビニルモノマーの仕込み比率や、重合開始剤の量、又は重合温度を制御することにより得ることができる。なお、本実施形態において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエ-ションクロマトグラフィー法(GPC法)により、標準ポリスチレン検量線を用いて求めることができる。
【0022】
塩化ビニリデン系樹脂の含有量は、ラップフィルムの総量に対して、好ましくは77~94重量%であり、より好ましくは85~94重量%である。塩化ビニリデン系樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、添加剤等による可塑化効果によってフィルムが伸びやすくなるのを抑制でき、フィルムのカット性が一層向上する傾向にある。なお、ラップフィルムから各成分の含有量を測定する方法は分析対象物によって異なる。例えば、塩化ビニリデン系樹脂の含有量は、試料0.5gをTHF(テトラヒドロフラン)10mlに溶解し、メタノール約30mlを加えて樹脂分を析出した後、遠心分離にて析出物を分離、乾燥し、重量測定して得ることができる。
【0023】
(エポキシ化植物油)
本実施形態のラップフィルムは、エポキシ化植物油を含有する。エポキシ化植物油としては、特に限定されないが、一般的に、食用油脂をエポキシ化して製造されるものが挙げられる。具体的には、エポキシ化植物油は、例えば、エポキシ化大豆油(ESO)、エポキシ化アマニ油が挙げられる。これらのなかでも、エポキシ化大豆油が好ましい。このようなエポキシ化植物油を用いることにより、ラップフィルムの木製容器及びプラスチック製容器に対する密着性がより向上する傾向にある。
【0024】
エポキシ化植物油は熱安定剤として知られており、従来より加工性の向上や品質の維持のために用いられてきた。一方で、エポキシ化植物油はブリードによるべたつきを生じさせることも知られており、その使用量上限は限定的であった。
【0025】
これに対して、本実施形態のラップフィルムにおいては、エポキシ化植物油を比較的多く含有させることにより、ラップフィルムの木製容器及びプラスチック製容器に対する密着性を向上させることができる。特に、エポキシ化植物油を高含有させることで、他の素材に対して繰り返し使用しても密着性が衰えないラップフィルムが得られることが分かってきた。
【0026】
このような木製容器及びプラスチック製容器に対する高い密着性と、繰り返し使用可能な密着耐久性の観点から、本実施形態におけるエポキシ化植物油の含有量は、ラップフィルムの総量に対して、3重量%超過であり、好ましくは4重量%以上であり、より好ましくは5重量%以上である。エポキシ化植物油の含有量が3重量%超過であることにより、木製容器およびプラスチック製容器に対して高い密着性が発揮され、また、高い密着耐久性が発揮される。また、エポキシ化植物油の含有量が3重量%超過であることにより、電子レンジや煮沸などの、熱を使用する調理用途において、ラップフィルムの品質変化を抑制することが可能となる。
【0027】
また、エポキシ化植物油の含有量の上限は、ラップフィルムの総量に対して、15重量%以下であり、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは9重量%以下である。エポキシ化植物油の含有量が15重量%以下であることにより、過度なブリードによるべたつきが抑制される。なお、ラップフィルムから各成分の含有量を測定する方法は分析対象物によって異なる。例えば、エポキシ化植物油の含有量は、ラップフィルムの再沈濾液をゲルパーミエーションクロマトグラフィー分析して得ることができる。
【0028】
(添加剤)
本実施形態のラップフィルムは、クエン酸エステル、二塩基酸エステル、及びアセチル化脂肪酸グリセライドからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物をさらに含んでいてもよい。
【0029】
(クエン酸エステル)
クエン酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)、アセチルクエン酸トリ-n-(2-エチルヘキシル)などがある。これらのなかでも、アセチルクエン酸トリブチルが好ましい。このようなクエン酸エステルを用いることにより、塩化ビニリデン系樹脂が可塑化され、成形加工性がより向上する傾向にある。
【0030】
クエン酸エステルの含有量は、ラップフィルムの総量に対して、好ましくは3~8重量%であり、より好ましくは3.5~7重量%であり、さらに好ましくは4~6重量%である。クエン酸エステルの含有量が上記範囲内であることにより、成形加工性がより向上する傾向にある。なお、ラップフィルムから各成分の含有量を測定する方法は分析対象物によって異なる。クエン酸エステルの含有量は、アセトン等の有機溶媒を用いてラップフィルムから添加剤を抽出し、ガスクロマトグラフィー分析して得ることができる。
【0031】
(二塩基酸エステル)
二塩基酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジ-n-ヘキシル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル;アゼライン酸ジ-2-エチルヘキシル、アゼライン酸オクチル等のアゼライン酸エステル;セバシン酸ジブチル(DBS)、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル等のセバシン酸エステル;フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル等のフタル酸エステルが挙げられる。これらのなかでも、脂肪族二塩基酸エステルが好ましく、セバシン酸ジブチルがより好ましい。このような二塩基酸エステルを用いることにより、塩化ビニリデン系樹脂が可塑化され、成形加工性がより向上する傾向にある。
【0032】
二塩基酸エステルの含有量は、ラップフィルムの総量に対して、好ましくは3~8重量%であり、より好ましくは3.5~7重量%であり、さらに好ましくは4~6重量%である。二塩基酸エステルの含有量が上記範囲内であることにより、成形加工性がより向上する傾向にある。なお、ラップフィルムから各成分の含有量を測定する方法は分析対象物によって異なる。クエン酸エステル及び二塩基酸エステルの含有量は、アセトン等の有機溶媒を用いてラップフィルムから添加剤を抽出し、ガスクロマトグラフィー分析して得ることができる。
【0033】
(アセチル化脂肪酸グリセライド)
アセチル化脂肪酸グリセライドとしては、特に制限されないが、例えば、アセチル化カプリル酸グリセライド、アセチル化カプリン酸グリセライド、アセチル化ラウリン酸グリセライド、アセチル化ミリスチン酸グリセライド、アセチル化パーム核油グリセライド、アセチル化ヤシ油グリセライド、アセチル化ヒマシ油グリセライド、アセチル化硬化ヒマシ油グリセライドが挙げられる。
【0034】
上記アセチル化脂肪酸グリセライドは、脂肪酸のアセチル化モノグリセライド、脂肪酸のアセチル化ジグリセライド、脂肪酸のアセチル化トリグリセライドのいずれであってもよい。例えば、上記アセチル化ラウリン酸グリセライドには、ラウリン酸のアセチル化モノグリセライド、ラウリン酸のアセチル化ジグリセライド(DALG:ジアセチルラウロイルグリセロール)、ラウリン酸のアセチル化トリグリセライドが含まれる。このなかでも、アセチル化ラウリン酸グリセライドが好ましく、ラウリン酸のアセチル化ジグリセライドがより好ましい。
【0035】
アセチル化脂肪酸グリセライドの含有量は、ラップフィルムの総量に対して、好ましくは3~8重量%であり、より好ましくは3.5~7重量%であり、さらに好ましくは4~6重量%である。アセチル化脂肪酸グリセライドの含有量が上記範囲内であることにより、成形加工性がより向上する傾向にある。なお、ラップフィルムから各成分の含有量を測定する方法は分析対象物によって異なる。アセチル化脂肪酸グリセライドの含有量は、アセトン等の有機溶媒を用いてラップフィルムから添加剤を抽出し、ガスクロマトグラフィー分析して得ることができる。
【0036】
クエン酸エステル、二塩基酸エステル、及びアセチル化脂肪酸グリセライドからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物の合計含有量は、ラップフィルムの総量に対して、好ましくは3~8重量%であり、より好ましくは3.5~7重量%であり、さらに好ましくは4~6重量%である。クエン酸エステルと二塩基酸エステルの合計含有量が上記範囲内であることにより、成形加工性がより向上し、エポキシ化植物油を高含有した時のラップフィルムのブリードによる過度なべたつきが抑制される傾向にある。
【0037】
(その他の添加剤)
本実施形態のラップフィルムは、上記以外の添加剤を含んでもよい。このような添加剤としては、特に限定されないが、例えば、上記以外の可塑剤、上記以外の安定剤、耐候性向上剤、染料又は顔料等の着色剤、防曇剤、抗菌剤、滑剤、核剤、ポリエステル等のオリゴマー、MBS(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体)等のポリマー等が挙げられる。
【0038】
クエン酸エステル及び二塩基酸エステル以外の可塑剤としては、特に限定されないが、具体的には、グリセリン、グリセリンエステル、ワックス、流動パラフィン、及びリン酸エステル等が挙げられる。可塑剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0039】
エポキシ化植物油以外の安定剤としては、特に限定されないが、具体的には、2,5-t-ブチルハイドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、4,4'-チオビス-(6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレン-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、オクタデシル-3-(3',5'-ジ-t-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)ブロピオネート、及び4,4'-チオビス-(6-t-ブチルフェノール)等の酸化防止剤;ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、イソステアリン酸塩、オレイン酸塩、リシノール酸塩、2-エチル-ヘキシル酸塩、イソデカン酸塩、ネオデカン酸塩、及び安息香酸カルシウム等の熱安定剤が挙げられる。安定剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0040】
耐候性向上剤としては、特に限定されないが、具体的には、エチレン-2-シアノ-3,3'-ジフェニルアクリレート、2-(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾリトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3'-t-ブチル-5'-メチルフェニル)5-クロロベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、及び2,2'-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等が挙げられる。耐候性向上剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0041】
染料又は顔料等の着色剤としては、特に限定されないが、具体的には、カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、及びベンガラ等が挙げられる。着色剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0042】
防曇剤としては、特に限定されないが、具体的には、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アルコールエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。防曇剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0043】
抗菌剤としては、特に限定されないが、具体的には、銀系無機抗菌剤等が挙げられる。抗菌剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0044】
滑剤としては、特に限定されないが、具体的には、エチレンビスステロアミド、ブチルステアレート、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、カルナバワックス、ミリスチン酸ミリスチル、ステアリン酸ステアリル等の脂肪酸炭化水素系滑剤、高級脂肪酸滑剤、脂肪酸アミド系滑剤、及び脂肪酸エステル滑剤等が挙げられる。滑剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0045】
核剤としては、特に限定されないが、具体的には、リン酸エステル金属塩等が挙げられる。核剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0046】
その他の添加剤の含有量は、ラップフィルムの総量に対して、好ましくは5重量%以下であり、より好ましくは3重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下、特に好ましくは0.1重量%以下である。また、その他の添加剤の含有量の下限は、特に限定されないが、ラップフィルムの総量に対して、0重量%以上である。
【0047】
(ラップフィルムの厚み)
本実施形態のラップフィルムの厚みは、6~18μmであり、好ましくは9~12μmである。ラップフィルムの厚みが上記範囲内であることにより、フィルム切れのトラブルが抑制され、カット性がより向上し、密着性もより向上する。
【0048】
より具体的には、厚みが6μm以上であることにより、ラップフィルムのTD方向及びMD方向における引張強度がより向上し、使用時のフィルム切れがより抑制される。また、厚みが6μm以上であることにより、引裂強度の著しい低下が少ない。そのため、巻回体からラップフィルムを引き出す際、及び化粧箱の中に巻き戻ったフィルム端部を摘み出す際において、化粧箱付帯の切断刃でカットされた端部からラップフィルムが裂けるトラブルがより抑制される。
【0049】
一方、厚みが18μm以下であることにより、化粧箱付帯の切断刃でラップフィルムをカットするのに必要な力を低減することができ、カット性がより向上する。また、厚みが18μm以下であることにより、ラップフィルムが容器形状にフィットしやすく、容器への密着性がより向上する。
【0050】
(引裂強度)
本実施形態のラップフィルムのTD方向の引裂強度は、好ましくは2~6cNであり、より好ましくは2.5~4cNである。TD方向の引裂強度が2cN以上であることにより、特に巻回体からラップフィルムを引き出す際の裂けを低減でき、また、ラップフィルム使用時の意図しない裂けトラブルを抑制できる傾向にある。一方、TD方向の引裂強度が6cN以下であることにより、化粧箱に付帯する切断刃でフィルムをTD方向にカットする際に裂きやすく、カット性が向上する傾向にある。
【0051】
本実施形態のラップフィルムのTD方向の引裂強度は、塩化ビニリデン系樹脂の組成、添加剤組成、フィルムの延伸倍率、延伸速度、及びフィルムの厚み等によって調整することができる。特に限定されないが、例えば、TD方向の引裂強度はTD方向の延伸倍率を低くしたり、ラップフィルムを厚くすることによって、向上する傾向にあり、TD方向の延伸倍率を高くしたり、ラップフィルムを薄くすることによって、低下する傾向にある。なお、引裂強度は、実施例に記載の方法によって測定される。
【0052】
(引張弾性率)
本実施形態のラップフィルムのMD方向の引張弾性率は、好ましくは250~600MPaであり、より好ましくは350~550MPaである。MD方向の引張弾性率が250MPa以上であることにより、切断刃でフィルムをカットするために力を加える際、フィルムのMD方向への延びを抑制でき、切断刃がフィルムに食い込みやすくでき、カット性が向上する。一方、MD方向の引張弾性率が600MPa以下であることにより、フィルムが軟らかく、切断刃の形状に沿ってフィルムをきれいにカットでき、切断端面に多数の裂け目が発生するのを抑制できる傾向にある。その結果、巻回体からフィルムを引き出す際、及び化粧箱の中に巻き戻ったフィルム端部を摘み出す際、切断端面からフィルムが裂けるトラブルが発生するのを抑制できる傾向にある。
【0053】
本実施形態のラップフィルムのMD方向の引張弾性率は、塩化ビニリデン系樹脂の組成、添加剤組成、フィルムの延伸倍率、及び延伸速度等によって調整できる。特に限定されないが、例えば、MD方向の引張弾性率は、延伸倍率を高くしたり、添加剤量を低減することによって、向上する傾向にあり、延伸倍率を低くしたり、添加剤量を増加することによって、低下する傾向にある。なお、引張弾性率は、実施例に記載の方法によって測定される。
【0054】
(低温結晶化開始温度)
本実施形態のラップフィルムにおいては、流通過程や保管時に受ける熱履歴により、ラップフィルムが物理劣化し、それに起因して生じる裂けトラブルを、低温結晶化開始温度で推定することができる。低温結晶化開始温度は、ラップフィルム製造後の流通・倉庫保管時に高温下に晒されて形成・成長した微結晶の熱安定性を示す指標であり、低温結晶化開始温度により、分子鎖の再配列の程度、すなわち、ラップフィルムの物理的劣化による裂けトラブルの発生しやすさを評価することができる。
【0055】
上記観点から、本実施形態のラップフィルムの温度変調型示差走査熱量計(以下、「温度変調型DSC」ともいう)にて測定される低温結晶化開始温度は、40~60℃であり、好ましくは40~55℃であり、より好ましく40~50℃である。低温結晶化開始温度が上記範囲内であることにより、ラップフィルムのカット性を維持しつつ、裂けトラブルを抑制することができる。以下、詳細について説明する。
【0056】
従来のラップフィルムの低温結晶化開始温度は、60℃を超えるものであった。これに対して、本実施形態のラップフィルムの低温結晶化開始温度は60℃以下であり、より低い温度に設定される。低温結晶化開始温度が上記範囲内であることにより、分子鎖の再配列が抑制され、ラップフィルムの裂けトラブルがより抑制される。
【0057】
より具体的には、低温結晶化開始温度の相違に伴い、本実施形態のラップフィルムと従来のラップフィルムとは、熱を受けた場合の挙動が相違する。例えば、従来のラップフィルムでは、流通時及び倉庫保管時に20℃以上の雰囲気下に長時間晒されると、塩化ビニリデン系樹脂の分子鎖が再配列を起こし、微結晶の形成・成長が起こると考えられる。このような分子鎖の再配列は、製造したラップフィルムの分子鎖の配向やフィルムの応力が十分に緩和していないために発生すると推定される。ラップフィルムが高温に晒されるほど、分子鎖の再配列は起こりやすくなるため、フィルムが物理的に劣化し、裂けトラブルを誘発しやすくなると考えられる。
【0058】
これに対して、本実施形態のラップフィルムでは、製造時に十分に塩化ビニリデン系樹脂の分子鎖の配向やフィルムの応力を緩和させることで、低温結晶化開始温度を60℃以下とする。これにより、本実施形態のラップフィルムでは、流通時及び倉庫保管時に20℃以上に長時間晒されても、分子鎖の再配列が起こりにくく、フィルムの劣化、さらには裂けトラブルが抑制される。その結果、カット性を維持しつつも、裂けトラブルを抑制するという背反する課題を同時に達成することができる。
【0059】
一方で、本発明者らが検討したところ、ラップフィルム製造後にガラス転移温度以下である-30℃で保管した場合の低温結晶化開始温度は、40℃であった。すなわち、ラップフィルムが製造後に全く熱を受けていないとみなせる場合の低温結晶化開始温度は40℃であった。低温結晶化開始温度がこの温度に近いほど、分子鎖の再配列、さらには、裂けトラブルを抑制できると考えられることから、低温結晶化開始温度の温度範囲の下限は40℃としている。
【0060】
なお、低温結晶化開始温度を上記範囲に調整する方法は、特に限定されないが、例えば、十分に塩化ビニリデン系樹脂の分子鎖の配向やフィルムの応力を緩和させる方法が挙げられる。より具体的には、ラップフィルムを低温下で所定時間保管する方法が挙げられる。
【0061】
ここで、「低温結晶化開始温度」とは、温度変調型DSCによる昇温測定で得られる非可逆成分の温度-熱流曲線において、低温結晶化に起因する発熱ピークの補外結晶化開始温度(JIS K7121の記載と同様に、昇温測定において低温側のベースラインを高温側に延長した線と、結晶化ピークの低温側の曲線にこう配が最大になる点で引いた接点の交点の温度)をいう。
【0062】
低温結晶化開始温度の測定方法の一例について説明する。まず、パーキンエルマー社製示差走査熱量測定装置(DSC)(入力補償型ダブルファーネス DSC 8500)を使用し、ステップスキャン測定モードにより、非可逆成分の温度-熱流曲線を得る。この際のステップスキャン測定の条件は、測定温度を0~180℃、昇温速度を10℃/minとし、昇温ステップ幅を4℃とし、等温時間を1minとする。得られた温度-熱流曲線において、低温結晶化に起因する発熱ピークの補外開始温度を低温結晶化開始温度とする。
【0063】
示差走査熱量計の昇温測定では、結晶化と結晶融解が競争して起こる。そのため、従来のDSC測定方法では微結晶の形成・成長と融解に由来する熱流が相殺されてしまい、微結晶の熱挙動を検討することは難しく、従来のラップフィルムと本実施形態のラップフィルムを区別することが困難であった。一方、温度変調型DSCを利用した場合、結晶化等の非可逆成分と結晶融解やガラス転移等の可逆成分の熱流に分離することができ、微結晶の熱挙動を評価することが可能である。そのため、本実施形態の低温結晶化開始温度の測定においては、温度変調型DSCを用いる。
【0064】
〔ラップフィルムの製造方法〕
本実施形態のラップフィルムの製造方法は、特に限定されないが、例えば、塩化ビニリデン系樹脂と、エポキシ化植物油と、クエン酸エステル及び二塩基酸エステル及びアセチル化脂肪酸グリセライドからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物とを含む組成物を溶融押し出しして、フィルム状にする工程と、得られたフィルムをMD方向及びTD方向に延伸する工程と、を有する方法が挙げられる。以下、詳説する。
【0065】
(混合工程)
図1に、ラップフィルムの製造工程の一例の概略図を示す。まず、混合器により、塩化ビニリデン系樹脂と、エポキシ化植物油、クエン酸エステル及び二塩基酸エステル及びアセチル化脂肪酸グリセライドからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物と、を混合して組成物を得る。この際、必要に応じて各種添加剤を混合してもよい。混合機は、特に限定されないが、例えば、リボンブレンダー又はヘンシェルミキサー等を用いることができる。得られた組成物は、1~30時間程度熟成させて次の工程に用いることが好ましい。
【0066】
(溶融押出工程)
次いで、得られた組成物を押出機1により溶融し、ダイ2のダイ口3から管状のフィルムを押出し、ソック4(パイルとも呼ぶ)を形成する。
【0067】
(冷却工程)
ソック4の内側にソック液5を注入し、ソック4の外側は冷水槽6の冷水に接触させる。これにより、ソック4は、内側と外側の両方から冷却され、ソック4を構成するフィルムは固化する。固化したソック4は、第1ピンチロール7により折り畳まれ、パリソン8を成形する。
【0068】
(延伸工程)
続いて、パリソン8の内側にエアを注入することにより、パリソン8を開口し、環状のフィルムを形成する。このとき、ソック4の内面に当たる部分に塗布されたソック液5はパリソン8の開口剤としての効果を発揮する。次いで、パリソン8は、開口した状態で、温水により延伸に適した温度まで再加熱される。パリソン8の外側に付着した温水は、第2ピンチロール9にて搾り取られる。
【0069】
上記のようにして適温まで加熱されたパリソン8の内側にエアを注入してバブル10を成形する。このエアが内側からパリソンを押し広げることで、フィルムが延伸され、延伸フィルムが得られる。主にTD方向のフィルムの延伸は、エアの量により行われ、MD方向のフィルムの延伸は、第2ピンチロール9と第3ピンチロール11等を用いてフィルムの流れ方向に張力を掛けることにより行われる。
【0070】
第1ピンチロール7から第3ピンチロール11までの工程を延伸工程という。延伸速度を遅くするとパリソン8の延伸性が向上するため、従来のラップフィルムの製造方法においては、MD方向の延伸速度を0.08倍/s以下に調整し、TD方向の延伸速度を3.0倍/s以下に調整していた。これに対して、結晶化開始温度が40~60℃に制御された本実施形態のラップフィルムの製造方法では、MD方向及びTD方向の延伸倍率と、MD方向及びTD方向の延伸速度を所定の範囲に調整することが好ましい。
【0071】
具体的には、本実施形態の延伸工程におけるMD方向及びTD方向の延伸倍率は、各々独立して、好ましくは4~6倍であり、より好ましくは4.5~5.5である。ここで、MD方向の延伸倍率は、パリソン8をMD方向に伸ばした延伸比をいい、例えば、図1においては、第1ピンチロール7の回転速度に対する第3ピンチロール11の回転速度の比によって算出することができる。TD方向の延伸倍率は、パリソン8をTD方向に伸ばした延伸比をいい、例えば、図1においては、パリソン8の幅の長さに対するダブルプライフィルム12の幅の長さの比によって算出することができる。MD方向の延伸倍率は、例えば、第1ピンチロール7と第3ピンチロール11の回転速度比により調整することができ、TD方向の延伸倍率は、例えば、パリソン8の延伸温度やバブル10の大きさで調整することができる。
【0072】
また、本実施形態の延伸工程におけるMD方向の延伸速度は、好ましくは0.09~0.12倍/sである。MD方向の平均延伸速度は、パリソンが第1ピンチロール7と第3ピンチロール11の間を通過する時間に対するMD方向への延伸倍率をいい、例えば、図1においては、第1ピンチロール7の回転速度、第3ピンチロール11の回転速度、及びパリソン8が第1ピンチロール7と第3ピンチロール11間を通過するのに要する時間によって算出することができる。MD方向の延伸速度は、例えば、第1ピンチロール7や第3ピンチロール11の回転速度、又は、第1ピンチロール7と第3ピンチロール11の間の距離により、調整することができる。
【0073】
さらに、本実施形態の延伸工程におけるTD方向の延伸速度は、好ましくは3.1~4.0倍/sである。TD方向の平均延伸速度は、パリソン8がバブル10まで膨らむのに要する時間に対するTD方向への延伸倍率をいい、例えば、図1においては、パリソン8及びバブル10の静止画像を利用して測定した延伸長と第3ピンチロール11の回転速度から算出したTD方向の延伸に要する時間と、TD方向の延伸倍率から算出できる。TD方向の延伸速度は、例えば、第3ピンチロール11の回転速度により調整することができる。
【0074】
延伸温度は、特に限定されないが、好ましくは30~45℃である。
【0075】
上記延伸工程後、延伸フィルムは、第3ピンチロール11で折り畳まれ、ダブルプライフィルム12となる。ダブルプライフィルム12は、巻き取りロール13にて巻き取られる。
【0076】
(緩和工程)
本実施形態のラップフィルムの製造方法においては、延伸直後のラップフィルムを緩和する緩和工程を有することが好ましい。ラップフィルムの製造方法において比較的一般に行われる緩和方法は、延伸後に赤外ヒーター等の熱を利用してフィルムを緩和させるものである。しかしながら、本実施形態においては、この緩和工程に代えて、第3ピンチロール11より巻き取りロール13の回転速度を遅くすることで、延伸フィルムを緩和させること方法を用いることが好ましい。これは、本実施形態において、従来の熱を利用した緩和方法を利用した場合、熱によりフィルムの裂けの原因である微結晶の形成・成長が起こり、結晶化開始温度が60℃を超える可能性があるためである。
【0077】
第3ピンチロール11と巻き取りロール13を用いた緩和工程における緩和比率は、好ましくは7~15%であり、より好ましくは9~13%である。緩和比率が15%以下であることにより、第3ピンチロール11と巻き取りロール13間でフィルムの弛みの発生により、シワの発生をより抑制できる傾向にある。また、緩和比率が7%以上であることにより、ラップフィルムを十分に緩和させることができ、高温に晒された場合であっても、分子鎖の再配列が発生するのを抑制し、低温結晶化開始温度を60℃以下にすることができる。またこれにより、裂けトラブルを低減できる傾向にある。ここで、「緩和比率」とは、第3ピンチロール11と巻き取りロール13間でダブルプライフィルム12を収縮させた比率をいい、例えば図1の場合、第3ピンチロール11の回転速度に対する巻き取りロール13の比率を利用して算出できる。
【0078】
また、第3ピンチロール11と巻き取りロール13を用いた緩和工程の雰囲気温度は、好ましくは25~32℃である。雰囲気温度が上記範囲内であることにより、微結晶の形成・成長が抑制される傾向にある。
【0079】
(スリット工程)
上記のようにして巻き取られたラップフィルムは、スリットされて、1枚のラップフィルムになるように剥がしながら巻き取られ、一時的に1~3日間原反の状態で保管される。最終的には原反から紙管に巻き返され、化粧箱に詰められることで、化粧箱に収納されたラップフィルム巻回体が得られる。
【0080】
(保管工程)
本実施形態のラップフィルムの製造方法においては、ラップフィルムをスリットした後、原反の状態で保管する保管工程を行ってもよい。保管温度は、好ましくは19℃以下であり、より好ましくは5~19℃であり、さらに好ましくは5~15℃である。また、保管時間は、好ましくは20~50時間であり、より好ましくは24~40時間である。
【0081】
保管の際の雰囲気温度により、フィルム裂けトラブル増加を誘発する微結晶の形成・成長を抑制することができる。一般に、原反の保管場所は、ラップフィルムの製造工程に隣接していたり、温調管理されていたりしない等のため、比較的高温下であることが多い。
【0082】
これに対して、本実施形態のラップフィルムの製造方法においては、スリット原反保管時の雰囲気温度を19℃以下とすることにより、分子鎖の再配列によるフィルムの物理劣化を抑制できる傾向にある。これにより、巻回体からラップフィルムを引き出す際や、化粧箱の中に巻き戻ったフィルム端部を摘み出す際において、化粧箱付帯の切断刃でカットした端部からラップフィルムが裂けやすくなるのを抑制できる傾向にある。
【0083】
また、スリット原反保管時の雰囲気温度が5℃以上であることにより、ラップフィルムを十分に緩和し、その後の流通・保管時に20℃以上に晒された場合、分子鎖の再配列が起こりにくくなる傾向にある。
【0084】
そのため、スリット原反を上記保管条件ですることが好ましく、これにより、微結晶の形成・成長を抑制しつつ、非晶部の分子鎖を配向緩和させたフィルムが得られる。このように、原反保管時に分子鎖の配向を緩和させることにより、フィルムの流通及び保管時に高温下に晒されても微結晶が形成・成長しにくくなり、裂けトラブルを抑制することができる。
【0085】
スリット原反は、保管後、特に限定されないが、例えば紙管等に巻き返され、巻回体16として、図2に示すようなフィルム切断刃15を備える化粧箱1収納される。図2に例示するように、ラップフィルム17は、使用時に引き出されて使用される。
【実施例
【0086】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。実施例及び比較例で用いた評価方法は、以下の通りである。
【0087】
[塩化ビニリデン繰り返し単位の含有量]
ラップフィルムの塩化ビニリデン繰り返し単位の比率は、高分解のプロトン核磁気共鳴測定装置を用いて測定した。ラップフィルムの再沈濾過物を真空乾燥し、5重量%になるように重水素化テトラヒドロフランに溶解させた溶液を、測定雰囲気温度約27℃にてH-NMR測定した。例えば、塩化ビニリデンと塩化ビニルの共重合体に関しては、テトラメチルシランを基準とした共重合体の3.50~4.20ppm、2.80~3.50ppm、2.00~2.80ppmのピークを利用して塩化ビニリデン繰り返し単位の含有量を計算した。なお、他の共重合体に関しても、モノマー毎のピークを利用して繰り返し単位の含有量を計算することができる。
【0088】
[フィルムの厚み]
ラップフィルムの出荷後の流通、及び家庭での保管を想定し、作製後のラップフィルムを28℃に設定した恒温槽にて1ヶ月間保管した後、ラップフィルムの厚みを測定した。測定は、JIS7127に定められた装置を使い、23℃、50%RHの雰囲気中で厚みの測定を行った。
【0089】
[引裂強度]
ラップフィルムの出荷後の流通、及び家庭での保管を想定し、作製後のラップフィルムを28℃に設定した恒温槽にて1ヶ月間保管した後、JIS-P-8116記載の方法に準拠して、引裂強度を測定した。測定には軽荷重引裂試験機(東洋精機製)を使用し、23℃、50%RHの雰囲気中にて引裂強度の測定を行った。
【0090】
[引張弾性率]
ラップフィルムの出荷後の流通、及び家庭での保管を想定し、作製後のラップフィルムを28℃に設定した恒温槽にて1ヶ月間保管した後、ASTM-D-882記載の方法に準拠して、引張弾性率を測定した。測定は、JIS7127に定められた装置を使い、23℃、50%RHの雰囲気中にて引張弾性率の測定を行った。より具体的には、5mm/minの引張速度、チャック間距離100mmの条件で2%伸長時の荷重から引張弾性率を測定した。
【0091】
[低温結晶化開始温度]
測定サンプルは、ラップフィルムの出荷後の流通、及び家庭での保管を想定し、作製後のラップフィルムを28℃に設定した恒温槽にて1ヶ月間保管したものを使用した。測定には、パーキンエルマー社製のパーキンエルマー社製示差走査熱量測定装置(DSC)(入力補償型ダブルファーネス DSC 8500)を使用し、ステップスキャン測定モード(サンプル重量:6mg、サンプルパン材質:アルミ製、測定温度:0~180℃、昇温速度:10℃/min、昇温ステップ幅:4℃、等温時間:1min)を利用した。空のアルミ製サンプルパンについても条件にて測定し、ラップフィルムの温度-熱流曲線の補正を行った。補正後の温度-熱流曲線の非可逆成分において、低温結晶化に起因する発熱が開始する温度を低温結晶化開始温度とした。
【0092】
[木製容器及びプラスチック製容器への密着性]
ラップフィルムの木製容器及びプラスチック製容器への密着性は、評価者として、日常、食品包装用ラップフィルムを使用する100人を選出し、評価者の官能評価により評価した。評価者にはそれぞれ10点を与え、木製容器及びプラスチック製容器それぞれに対して、密着性が低いものを0点、密着性が高いものを10点とし、評価者100人の平均点を算出した。木製容器の平均点とプラスチック製容器の平均点を、平均化した値を算出し、密着性の評価に用いた。なお、評価環境は23℃、相対湿度50%RHの雰囲気とし、ラップを密着させる対象物としては、縁の厚みが2mmである木製の食器およびプラスチック製の食器を用いた。密着性の評価基準を以下に示す。
〔密着性の評価基準〕
◎:9点以上:十分な密着性を有し、優れたレベルにある。
○:6点以上9点未満:密着性を有し、実用レベルにある。
△:3点以上6点未満:僅かに密着性を有すが、実用上問題あり。
×:3点未満:密着性が小さすぎ、実用不可。
【0093】
[密着耐久性]
ラップフィルムの密着耐久性は、プラスチック製の食器に10回、繰り返し密着させた際、実用可能な密着性を何回目まで保持していたかで評価した。密着耐久性の評価基準を以下に示す。
〔密着耐久性の評価基準〕
◎: 7回以上:繰り返し耐久性に非常に優れている
○: 4回以上7回未満:繰り返し耐久性に優れている
△: 2回以上4回未満:繰り返し使用に支障をきたす
×: 2回未満:繰り返し使用はできない
【0094】
[埃付着性]
ラップフィルムの埃付着性は、評価者として、日常、食品包装用ラップフィルムを使用する100人を選出し、評価者の官能評価により評価した。評価者にはそれぞれ10点を与え、ラップフィルムを1週間使用して、埃がついた場合を0点、埃をつかない場合を10点とし、評価者100人の平均点を算出した。この平均点を評価に用いた。
〔埃付着性の評価基準〕
◎:7点以上:埃はつかず、実用上全く問題はない
〇:5点以上7点未満:埃はつきにくい
△:3点以上5点未満:やや埃はつくが、辛うじて使用できる
×:3点未満:埃がついてしまい、使用できない
【0095】
[実施例1]
重量平均分子量90,000の塩化ビニリデン系樹脂(塩化ビニリデン繰り返し単位が85重量%、塩化ビニル繰り返し単位が15重量%)89.4質量部、アセチルクエン酸トリブチル(田岡化学工業(株))2.0質量部、セバシン酸ジブチル(DBS)1.0質量部、エポキシ化大豆油(ニューサイザー510R、日本油脂(株))3.0質量部を、ヘンシェルミキサーにて5分間混合した。混合後、24時間以上熟成して組成物を得た。
【0096】
得られた組成物を溶融押出機に供給して溶融し、押出機の先端に取り付けられた環状ダイから溶融押出してソックを形成した。この際、環状ダイのスリット出口における溶融樹脂温度は170℃になるように押出機の加熱条件を調節し、環状に10kg/hrの押出速度で押出した。
【0097】
これをソック液と冷水槽で冷却した後、パリソンを開口してバブルを形成し、インフレーション延伸を行った。この際、MD方向は平均延伸速度0.08倍/sで4.0倍に延伸し、TD方向は平均延伸速度4.1倍/sで6.2倍に延伸して、筒状フィルム(バブル)を形成した。
【0098】
得られた筒状フィルムをニップして扁平に折り畳んだ後、ピンチロールと巻き取りロールの速度比の制御によって、MD方向にフィルムを7%緩和させ、折幅280mmの2枚重ねのフィルムを巻取速度18m/minにて巻き取った。このフィルムを、220mmの幅にスリットし、1枚のフィルムに剥がしながら外径92mmの紙管に巻き直した。その後、23℃で保管し、外径36mm、長さ230mmの紙管に20m巻き取ることで、ラップフィルムの巻回体を得た。得られたラップフィルムの巻回体を用いて各評価を行った。
【0099】
[実施例2~16、比較例1~10]
表1に示す各条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~16、比較例1~10のラップフィルムの巻回体を得た。得られたラップフィルムの巻回体を用いて各評価を行った。
【0100】
【表1】
※ ATBC:アセチルクエン酸トリブチル
DBS :セバシン酸ジブチル
DALG:ジアセチルラウロイルグリセロール
ESO :エポキシ化大豆油
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明のラップフィルムは、食品包装用及び調理用等、特に木製容器やプラスチック製容器などに用いるラップフィルムとして産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0102】
1…押出機、2…ダイ、3…ダイ口、4…ソック(管状の組成物)、5…ソック液(インフレーション成形用剥離剤)、6…冷水槽、7…第1ピンチロール、8…パリソン、9…第2ピンチロール、10…バブル、11…第3ピンチロール、12…ダブルプライフィルム、13…巻き取りロール、14…化粧箱、15…フィルム切断刃、16…巻回体、17…ラップフィルム
図1
図2