(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】蛍光X線システムおよび試料を識別する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/223 20060101AFI20230824BHJP
【FI】
G01N23/223
(21)【出願番号】P 2019515248
(86)(22)【出願日】2017-09-17
(86)【国際出願番号】 IL2017051050
(87)【国際公開番号】W WO2018051353
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-09-15
(32)【優先日】2016-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518274054
【氏名又は名称】ソレク ニュークリア リサーチ センター
【氏名又は名称原語表記】SOREQ NUCLEAR RESEARCH CENTER
(73)【特許権者】
【識別番号】517344619
【氏名又は名称】セキュリティ マターズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】グロフ,ヤィール
(72)【発明者】
【氏名】キスレーウ,ツゼマ
(72)【発明者】
【氏名】ヨラン,ナダヴ
(72)【発明者】
【氏名】アロン,ハガイ
(72)【発明者】
【氏名】カプリンスキー,モール
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-071969(JP,A)
【文献】米国特許第04048496(US,A)
【文献】特表2015-531480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料によって支持される少なくとも1つの材料を検出するための蛍光X線(XRF)システムの動作を制御するための制御システムであって、前記制御システムは:データ入力ユーティリティ;データプロセッサおよびアナライザユーティリティ;ならびにデータ出力ユーティリティを備え、
前記データ入力ユーティリティは、ストレージユーティリティとデータ通信し、かつ前記試料によって支持される前記少なくとも1つの材料についての材料関連データを含む入力データを受信するように構成されかつ動作可能であり、前記材料関連データは:前記試料内の前記少なくとも1つの材料の位置;前記材料の位置の表面領域の横方向寸法;および前記材料の構造の厚さのうち1つ以上を含み、
前記データプロセッサおよびアナライザユーティリティは、前記XRFシステムの動作条件を最適化するため、前記材料関連データを含む前記入力データを分析し、かつ前記XRFシステムの最適な幾何学的特徴を決定するように構成されかつ動作可能であり、前記動作条件は、前記XRFシステムの試料平面上の照射領域のサイズ、前記照射領域によって吸収される一次放射線の相対量、または検出された二次放射線の量のうち少なくとも1つを含み、かつ
前記データプロセッサおよびアナライザユーティリティは、前記XRFシステムの前記最適な動作条件を示す動作データを生成するように構成されかつ動作可能であり、
前記XRFシステムの前記最適な幾何学的特徴は以下の:X線源となる一次放射線の照射面と、前記試料平面との間の距離;検出器の検出平面と、前記試料平面との間の距離;前記X線源によって定められる照射チャネルの角度方向;および前記検出器によって定められる検出チャネルの角度方向を含み、
前記最適な動作条件は以下の:
前記XRFシステムのX線源の動作条件であって、一次X線放射が、前記材料の存在するか或いは存在すると期待される前記試料の表面領域の体積に制限され、それによって前記体積により前記一次放射線を吸収する確率を増加させつつ、前記表面領域の前記体積を通って前記試料へ前記一次放射線が到達する確率が減少するように、一次X線放射線の量を最大化するように構成された、前記XRFシステムのX線源の動作条件と、
前記XRFシステムの検出器の動作条件であって、前記XRFシステムの前記検出器へ到達する前記表面領域から放射される二次放射線の一部を最大化するように構成された、前記XRFシステムの検出器の動作条件と、
を含み、
前記データ出力ユーティリティは、前記XRFシステムが備えるコントローラへの前記動作データを含む出力データを生成するように構成されかつ動作可能であり、それによって、前記XRFシステムの前記幾何学的特徴の調整を可能にする、
制御システム。
【請求項2】
前記少なくとも1つの材料が、前記試料によって支持されるマーカーに関連付けられる、請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記データプロセッサおよびアナライザが、前記XRFシステムによって検出された測定データを処理し、前記試料によって支持されるマーカーを識別するようにさらに構成され動作可能である、請求項2に記載の制御システム。
【請求項4】
試料によって支持される少なくとも1つの材料を検出するための試料に対する蛍光X線(XRF)測定で使用するための方法であって、
前記少なくとも1つの材料に関する材料関連データを提供するステップaであって、前記材料関連データは、前記試料内の前記少なくとも1つの材料の位置;前記少なくとも1つの材料が配置されている前記試料の表面領域の横方向寸法;および前記試料の所望の吸収体積を定める前記少なくとも1つの材料の構造の厚さ;の少なくとも1つを含むステップaと、
XRFシステムの動作条件を最適化するため前記材料関連データを分析し、かつ前記試料の前記XRF測定に使用される前記XRFシステムの最適な幾何学的特徴を決定するステップbであって、前記動作条件は、前記XRFシステムの試料の平面上の照射領域のサイズ、前記照射領域によって吸収される一次放射線の相対量、または検出された二次放射線の量のうち少なくとも1つを含み、
前記XRFシステムの前記最適な幾何学的特徴は以下の:X線源となる一次放射線の照射面と、試料平面との間の距離;検出器の検出平面と前記試料平面との間の距離;前記X線源によって定められる照射チャネルの角度方向;および前記検出器によって定められる検出チャネルの角度方向を含み、
前記ステップbは、前記動作条件を最適化するのに、一次X線放射が、前記材料が存在するか或いは存在すると期待される前記試料の表面領域上の所望の体積に制限され、それによって、前記体積により前記一次放射線を吸収する確率が増加し、かつ前記表面領域の前記体積を通って前記試料に前記一次放射線が到達する確率は減少するように、前記一次X線放射線の量を最大化するように構成され、かつ前記XRFシステムの検出器に到達する前記体積から放出される二次放射線の一部を最大化するように構成される、前記XRFシステムのX線源の動作条件を決定するステップb1を含む、ステップbと、
前記XRFシステムの幾何学的特徴を調整し、かつ前記XRFシステムの放出端部に散乱プレートアセンブリの構成を選択するために、前記XRFシステムのコントローラに提供される動作データを生成するステップc、
を含む方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの材料が、前記試料によって支持されるマーカーに関連付けられる、請求項
4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して蛍光X線分析(XRF)技術の分野に属し、XRFシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線(XRF)システムは、試料の化学組成を分析するために広く使用されている。XRFシステムの動作原理は、試料をX線源からの高エネルギーの一次放射線に暴露し、それによって試料から蛍光X線応答を引き起こし、それを検出し分析することに基づいている。試料の各原子元素は、その固有のフィンガープリント、すなわち固有の特徴的な蛍光X線の組を生成する。蛍光X線アナライザは、試料中の異なる元素によって放出された特徴的なX線のスペクトルを分析し、試料の化学的性質を決定する。
【0003】
今日使用されているXRFシステムの大部分は、一般に2つのカテゴリーに属する、すなわちエネルギー分散(ED)分光計および波長分散(WD)分光計である。これら2つのカテゴリーのシステムは、X線源、光学系および検出器を含むXRFツール配置の様々な構成を利用する。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、試料中の様々な物質の濃度を測定するための新規のXRFシステム/アナライザを提供する。本発明のXRFシステムは、試料中に埋め込まれる/試料によって支持される1つまたは複数のマーカーの材料組成(材料の濃度)を測定するのに特に有用である。そのようなマーカーは、少なくとも試料の一領域内に配置されてもよい(例えば、試料の表面に、例えば、試料の表面上にフィルム/コーティングを形成する多層構造に適用される)。
【0005】
XRFシステムは、X線および/またはガンマ線源(例えばX線管)、X線検出器、および場合によっては放射線を方向付ける光学系(例えばコリメータ)も含む、小型(携帯用)装置、例えばハンドヘルド装置として構成することができる。本発明のいくつかの実施形態では、システムはエネルギー分散型XRFシステムとして構成される。
【0006】
本発明によれば、XRFシステムの幾何学的特徴は、システム性能を改善/最適化するように選択され、これは試料の表面上の材料組成を「読み取る」ために特に重要である。XRFシステムのこのような幾何学的特徴は、以下のうちの1つまたは複数を含み得る:X線源から試料の所定の表面領域(すなわち、マーカーが配置されると予想される表面領域)までの距離;この表面領域から検出器(検出平面)までの距離;照射チャネルの角度方向(X線源から伝播する一次X線ビーム(一次ビーム伝播軸)と試料の表面との間の角度);および収集/検出チャネルの角度方向(試料から検出器に向かう2次X線放射(2次ビーム軸)と試料の表面との間の角度)。
【0007】
システムの上記のパラメータ/特性の調整は、測定されるべきマーカー材料の種類、およびマーカーが試料に適用または試料内に埋め込まれるやり方/方法に従って実行されてもよい。
【0008】
本発明の携帯型XRFシステムの構成は、以下の発明者の理解に基づいている。小型/携帯型XRFシステム、特に電池式XRFシステムの効率と精度を制限する主な要因の1つは、XRFシステムの放射線エミッタ(すなわちX線管)から放出されるいずれかの所与の波長の放射線の強度を決定するそれらの制限された電力である。したがって、試料およびその濃度が測定される特定の材料(例えば、マーカー材料)を励起すること、および試料から到達する二次放射線を検出することにおいて高い効率を達成することが非常に重要である。すなわち、目標は、(i)試料に到達して試料によって吸収される一次X線放射の量、特に測定される元素/マーカーによって吸収されるその放射線の割合/比率を最適化/最大化すること、および(ii)検出器に到達する被測定元素から放出される二次放射線(放射源から入射する放射線に応答して放出される放射線)の部分を最適化/最大化することである。
【0009】
試料によって支持されるマーカー構造を読み取るためのXRFシステムの使用を考慮すると、試料に到達し試料によって吸収される一次X線放射の量を最大化することは、一次放射線が試料上の表面領域の所望の体積(すなわち、マーカーが存在するか存在すると予想される体積)にできるだけ閉じ込められるようなものであるべきであることが理解されるべきである。これによって、試料の表面上の前記体積によって一次放射線を吸収する確率が増加し、表面領域の前記体積を通って試料の塊に一次放射線が浸透する確率が減少する。
【0010】
本発明のXRFシステムでは、線源-試料-検出器の幾何学的配置は、上記の要因(i)および(ii)を最適化するように調整される。試料の平面に対するX線源および検出器の最適化された幾何学的設定を有する本発明のこのような携帯型XRFシステム/アナライザは、照射および検出プロセスの効率を高め、したがって識別/認証結果の精度を高める。
【0011】
したがって、本発明は、その一態様において、試料を測定するためのXRFシステムの動作条件を制御するための制御システムを提供する。制御システムは通常、データ入力および出力ユーティリティ(ソフトウェア/ハードウェア)、メモリユーティリティ、ならびにデータプロセッサおよびアナライザモジュールを含むコンピュータシステムである。データプロセッサおよびアナライザモジュールは、測定されるべきマーカーについてのマーカー関連データを含む入力データを受信し、受信した入力データを処理して前記マーカーを測定するためのシステムの最適な動作条件を定義するXRFシステムの最適な幾何学的特徴を決定し、XRFシステムの幾何学的特徴を調整するための対応する出力データを生成するように予めプログラムされる。
【0012】
マーカー関連データは、試料上のマーカーの位置、および/またはマーカー位置の表面領域の横方向のサイズ、および/または測定される体積を画定するマーカー構造の厚さを含み得る。上述のように、調整可能な幾何学的特徴/パラメータは、X線源と試料の平面との間の距離、検出平面と試料の平面との間の距離、ならびに照射および検出チャネルの角度方向のうちの1つまたは複数を含む。
【0013】
制御システム(そのデータプロセッサおよびアナライザユーティリティ)はまた、マーカーを識別するためにXFTシステムによって検出された測定データを受信するように構成されてもよい。
【0014】
上述のように、試料平面(または試料上/内の関心領域/関心体積)に対して調整可能な線源-検出器の幾何学的配置を有するXRFシステムは、試料の表面上の検出されるべき材料(以後「マーカー」)の少なくともいくつかに関する情報の少なくとも一部が経験的に知られている場合、より特にマーカーが試料に適用された方法およびそれらの局所性が知られているとき、特に効果的である。マーカーは、試料をマーキングおよび識別/認証するために、および/または情報(例えば、試料に関する情報)をコード化するために、試料に追加または適用される材料であり得る。あるいは、マーカーは、試料の表面上にもともと存在し得るが、それらの種類および/または局所性が少なくとも部分的に知られている既知の材料であり得る。
【0015】
本発明者らはまた、XRFシステムの所与の幾何学的配置に対して、X線源から試料に到達する一次X線放射の強度は、X線源の放出端部/平面に散乱界面(プレート)を使用することによって増大させることができることを発見した。散乱界面の構成は、検出されるべきマーカー元素/材料に従って選択することができる。実際に、X線源によって放出された一次放射線は散乱プレートに到達し、散乱プレートの材料によって吸収され、それによって様々なプロセス(光電効果、コンプトンおよびレイリー散乱)を介して試料の方向に散乱プレートからの二次放射線放出を引き起こす。したがって、散乱プレートアセンブリの構成(材料組成および方向)は、プレートからの二次放射線の波長および得られる照射経路の方向に従って選択される。
【0016】
したがって、本発明の1つの広い態様によれば、本発明は、試料によって支持される少なくとも1つの材料を検出するための蛍光X線(XRF)システムの動作を制御するための制御システムを提供し、制御システムは、
試料によって支持される前記少なくとも1つの材料についての材料関連データを含む入力データを受信するためのデータ入力ユーティリティと;
試料の所定の領域に到達し前記領域の体積によって吸収される一次X線放射の量を最大化するために、およびXRFシステムの検出器に到達する前記領域から放出された二次放射線の一部を最大化するために、前記XRFシステムの動作条件を最適化するために入力データを分析し、XRFシステムの最適な幾何学的特徴を決定するように構成され動作可能なデータプロセッサおよびアナライザユーティリティであって、XRFシステムの幾何学的特徴の調整を可能にするXRFシステムへの動作データを生成するように構成され動作可能なデータプロセッサおよびアナライザユーティリティと、
を含む。
【0017】
より具体的には、本発明は1つまたはマーカーを検出するために使用される。したがって、本発明は、この特定の用途に関して以下に記載および例示される。しかしながら、本発明はマーカー関連の用途に限定されず、したがって以下で使用される「マーカー」および「マーカー関連データ」という用語は、一般的な「材料」および「材料関連データ」を広く指して解釈されるべきであることを理解されたい。また、「材料」という用語は、任意の材料組成/構造を指す。
【0018】
前記少なくとも1つのマーカーについてのマーカー関連データは、以下の少なくとも1つを含む;試料中の前記少なくとも1つのマーカーの位置;前記少なくとも1つのマーカーが位置する試料の表面領域の横方向寸法;および前記体積を画定する前記少なくとも1つのマーカー構造の厚さ。
【0019】
好ましくは、最適化されるXRFシステムの幾何学的特徴は、以下のうちの少なくとも2つを含む;XRFシステムの一次放射線放出平面と試料平面との間の距離;XRFシステムの検出平面と試料平面との間の距離;XRFシステムによって定められる照射チャネルの角度方向;およびXRFシステムによって定められる検出チャネルの角度方向。幾何学的特徴はまた、XRFシステムで使用されるX線源の放出端部における散乱プレートアセンブリの構成を含み得る。
【0020】
本発明の別の広い態様によれば、試料によって支持される少なくとも1つのマーカーの検出に使用するための蛍光X線(XRF)システムが提供され、XRFシステムは、試料平面に向けて一次放射線を放出するためのX線源;試料からの二次放射線を検出するための検出器;およびコントローラを含み、前記コントローラは、動作データを受信し、以下のうちの少なくとも2つを含むXRFシステムの幾何学的特徴を調整するように構成されかつ動作可能である;X線源の一次放射線放出平面と試料平面との間の距離;検出器の検出平面と試料平面との間の距離;X線源によって定められる照射チャネルの角度方向;および検出器によって定められる検出チャネルの角度方向。
【0021】
X線源は、その放出端部に散乱プレートアセンブリを含むことができる。散乱プレートアセンブリは、一次放射線を吸収し、所望の波長および伝播方向の二次放射線を試料平面上の所定の領域に向けて放出するように構成される。
【0022】
本発明のさらに別の広い態様によれば、本発明は、試料によって支持される少なくとも1つのマーカーの検出に使用するための蛍光X線(XRF)システムを提供し、XRFシステムは、試料平面に向けて一次放射線を放出するためのX線源;試料からの二次放射線を検出するための検出器を含み、前記X線源は、その放出端部に散乱プレートアセンブリを含み、前記散乱プレートアセンブリは、一次放射線を吸収し、所望の波長および伝搬方向の二次放射線を試料平面上の所定の領域に向かって放出するように構成される。
【0023】
上記XRFシステムはさらに、動作データを受信し、XRFシステムの幾何学的特徴を調整するように構成されかつ動作可能なコントローラを含み得るか、またはそれに接続可能であり得、前記幾何学的特徴は、以下の少なくとも1つを含む;X線源の一次放射線放出平面と試料平面との間の距離;検出器の検出平面と試料平面との間の距離;X線源によって定められる照射チャネルの角度方向;検出器によって定められる検出チャネルの角度方向;およびX線源で使用される散乱プレートアセンブリの構成。
【0024】
本発明のさらに広い態様において、本発明は、試料によって支持される少なくとも1つの材料を検出するための試料に対する蛍光X線(XRF)測定で使用するための方法を提供し、方法は、
前記少なくとも1つの材料に関する材料関連データを提供するステップであって、前記材料関連データは、試料内の前記少なくとも1つの材料の位置;前記少なくとも1つの材料が配置されている試料の表面領域の横方向寸法;および試料の所望の吸収体積を定める前記少なくとも1つの材料によって形成された構造の厚さ;のうちの少なくとも1つを含むステップと、
材料関連データを分析し、XRFシステムの動作条件を最適化するために前記試料のXRF測定に使用されるべきXRFシステムの最適な幾何学的特徴を決定して、前記所望の試料の体積に到達し前記体積によって吸収される一次X線放射の量を最大化し、およびXRFシステムの検出器に到達する前記体積から放出された二次放射線の一部を最大化するステップと、
XRFシステムの幾何学的特徴を調整するためにXRFシステムのコントローラに提供される動作データを生成するステップであって、前記幾何学的特徴は、XRFシステムの一次放射線放出平面と試料平面との間の距離;XRFシステムの検出平面と試料平面との間の距離;XRFシステムによって定められる照射チャネルの角度方向;XRFシステムによって定められる検出チャネルの角度方向;およびXRFシステムの放出端部における散乱プレートアセンブリの構成;のうちの少なくとも1つを含むステップと、
を含む。
【0025】
本明細書に開示される主題をより深く理解するためにおよび本発明が実際に実行され得る方法を例示するために、ここで実施形態を単に非限定的な例として添付図面を参照して記載する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1A】XRFシステムの
幾何学的特徴を制御/最適化/調整するための本発明の制御システムのブロック図である。
【
図1B】XRFシステムの
幾何学的特徴を制御/最適化/調整するための本発明の方法を例示するフロー図である。
【
図2】
図2A-
図2C。XRFシステムの
幾何学的特徴の3つの例をそれぞれ概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、システムの動作条件を最適化することによって、携帯型XRFシステムの性能を制御し最適化するための新規制御システムおよび方法を提供する。最適化されるべきそのような動作条件は、試料の平面上の照射領域のサイズ(スポットサイズ)、照射領域によって吸収される一次放射線の相対量(すなわち放出された放射線と照射領域によって吸収される放射線の比)、および検出された二次放射線の量を含む。動作条件は、XRFシステムの幾何学的特徴を適切に調整することによって最適化される。
【0028】
図1Aおよび1Bを参照する。それらは、ブロック図および流れ図によって、試料上の1つまたは複数のマーカーを測定(同定/認証)するためにシステム12の動作条件を最適化するためにXRFシステム12の
幾何学的特徴を制御/調整するための制御システム10の構成および動作を示す。最適化されるXRFシステム12は、試料平面SP内の照射されるべき領域に対して照射チャネル(または一次放射チャネル)ICを画定するX線源/エミッタ12Aと、前記領域試料の平面SPに対して検出チャネル(または二次放射チャネル)DCを画定する検出器12Bとを含む。
【0029】
制御システム10はコンピュータシステムとして構成され、データ入力ユーティリティ10A、データ出力ユーティリティ10B、メモリ10C、ならびにデータプロセッサおよびアナライザ10Dなどの主要な機能ユーティリティを含む。システム10は、XRFシステム12によって測定される1つまたはマーカーについてのマーカー関連データMRDを含む入力データを受信し、場合によってはこのデータをメモリ10Cに記憶する。また、システムは、(例えば、それぞれのストレージユーティリティへのアクセスを介して)最適化されるXRFシステム12の元素/ユニットに関する何らかのデータを受信することができる。データプロセッサおよびアナライザ10Dは、マーカー関連データMRDを分析し、試料の平面SPまたは試料の平面の少なくとも1つの領域に対するX線源および検出器12Aおよび12Bの調節および方向について最適な幾何学的特徴/パラメータGPを決定する。例えば、入力データは所与の幾何学的パラメータを含むことができ、したがってプロセッサおよびアナライザ10Dはそのようなパラメータに対する調整値を示す出力データを決定し生成する。
【0030】
出力データGPは適切にフォーマットされてXRFシステムのコントローラ14に送信される。図に示すように、コントローラ14は、XRFシステム12の一部または制御システム10の一部であってもよく、あるいはコントローラ14の様々なモジュールは、XRFシステム12と制御システム10との間に分散されてもよい。制御システム10はまた、XRFシステムとのデータ通信のための適切な通信ユーティリティ(例えば適切な無線通信)も含み得る。図に同じく示されているように、同じ制御システムがXRFシステムによって得られた測定データを分析するために構成されてもよい。したがって、XRFアナライザ16は、XRFシステム12または制御システム10の一部であり得るか、またはそのソフトウェアモジュールは2つのシステム間に適切に分散され得る。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態では、制御システム10は、通信ネットワークを介してアクセス可能でありかつネットワークウェブサイトに関連付けられるスタンドアロンシステムである。したがって、制御システム10は、ネットワークを介して受信した要求/リクエストごとにXRFシステムの最適な幾何学的特徴を「構成」し(すなわち、XRFシステムの動作設定/条件を定義する)、最適化された幾何学的特徴を生成してXRFシステム側に送信する。XRFシステムのコントローラは、受信した幾何学的特徴を分析し、そしてそれぞれのシステムパラメータを調整することができる。
【0032】
上記のように、マーカー関連データMRDは、試料上のマーカーの位置および/またはマーカー位置の表面領域の横方向のサイズおよび/または測定される体積を画定するマーカー構造の厚さを含み得る。調整可能な幾何学的特徴/パラメータは、X線源と試料の平面との間の距離、検出平面と試料の平面との間の距離、ならびに照射チャネルおよび検出チャネルの角度方向のうちの1つまたは複数を含む。これに関連して、試料から線源および検出器までの距離に関して、出力線源平面または放出平面、検出平面および試料平面などのパラメータを考慮すべきであることを理解されたい。
【0033】
最も限定的ではない例では、マーカーはまったく局在化されていないが、試料全体に比較的一定の濃度で存在している。1つまたは複数のマーカーの濃度を検出および測定するための最適な線源-試料-検出器の幾何学的配置は、マーカーの種類および場合によっては組み合わせによって設定される。例えば、より軽い元素を測定するためには、エミッタ(線源)、より重要なことには検出器(検出平面)を試料の表面にできるだけ近づけることが有益であろう。他方、そのような構成は、一次ビームによって照射される領域(スポットサイズ)および検出器によって読み取られるまたは「見られる」領域を減少させる可能性がある。したがって、より重い元素を測定するためには、エミッタと試料との間の距離または検出器と試料との間の距離を増大して広げることでスポットサイズを増大させることがベターかもしれない。
【0034】
例えば、マーカーは、試料の表面上の制限された領域に局在化し得る。明らかに、この場合、試料中のマーカーから最良のX線応答信号を達成するために、放射され検出器によって見られるジョイント領域は、一致する(全体的に、実質的に重なり合う)べきであり、およびマーカーが存在する制限領域と一致する(実質的に重なり合う)べきである。より大きな領域は、マーカーからの検出された信号の信号対雑音比(SNR)を減少させるより多くのマークされていない試料を含み得る一方、より小さな領域は、より少ない二次放射を発生し、従ってここでもSNRを減少させる。したがって、マーカーを含む制限された領域を正確にカバーするように(上記の角度を調整することによって)エミッタおよび検出器を調節および方向付けることが、最適な幾何学的設定であろう。
【0035】
別の例では、マーカーは、試料の表面全体または試料の比較的大きな表面領域に適用され得るが、予め選択された比較的薄い厚さの層または層状構造(マーカー層)に限定され得る。この例では、マーカーからの最適な応答信号を達成するために、エミッタから来る一次放射光子がマーカー層を貫通しないような角度、すなわち、入射光子(入射光子の大部分)が、マーカー原子が存在しない層の向こう側に位置する原子によってではなく、マーカーを含む層内の原子によって吸収され得るような角度に一次および二次放射の伝播軸を方向付ける(すなわち照射チャネルおよび検出チャネルを方向付ける)べきである。
【0036】
第3の例では、マーカーは比較的狭い層と制限された表面積/領域との両方に局在化し得る。そのような場合、線源-試料-検出器の幾何学形状の最適化は両方の考察を考慮に入れるべきである。
【0037】
以下は、上述の幾何学的パラメータ/特性の最適化およびその最適化の根底にある考察のいくつかの例である。
【0038】
幾何学的考察
・線源と検出器の両方によって「見られる」ジョイント領域のサイズ対試料から線源および検出器までの距離。
試料によって吸収される放射線の量(光子の数)は、一次放射線によって照射される試料の表面の面積(エミッタによって「見られる」表面積)のサイズと共に増大する。さらに、試料の照射領域によって放出され検出器によって検出される二次放射線の強度は、照射表面領域の面積のサイズであって検出器によって「見られる」(すなわち試料によって放出される二次放射線がそこから検出器に到達し得る表面面積の)サイズと共に増大する。放出されたおよび検出器の所与の視野(FOV)(すなわち放射線放出および収集の立体角)に対して、照射チャネル(エミッタから試料への一次放射線伝搬経路)を試料平面に対してより低い角度で向けることにより照射領域のサイズは増大される。同様に、検出チャネル(検出器までの二次放射線伝播経路)を試料平面に対してより低い角度で向けることにより、検出器によって「見られる」面積の有効サイズは増大される。他方、照射および検出チャネルを試料平面に対してより低い角度で向けることは、一次放射線がエミッタから試料まで通過する距離、および二次放射線が試料から検出器まで通過する距離を増加させる。
【0039】
これに関連して、
図2A、2Bおよび2Cを参照すると、それらは試料に対する線源および検出器の異なる適応、ならびに照射チャネルおよび検出チャネルの異なる角度方向を示す。
図2Aおよび2Bに明白に示すように、試料平面とそれぞれ照射チャネルおよび検出チャネルとの間の所与の角度αおよびβに対して、試料平面からそれぞれ光源(放出平面)および検出器(検出平面)までの距離d
sおよびd
dを増加させると、照射領域IRのサイズ(スポットサイズ)が小さくなる。
図2Bおよび2Cに示すように、距離d
sおよびd
dを維持し、角度αおよびβを小さくすると、照射領域IRのサイズが大きくなる。
【0040】
大気圧の空気が(一次および二次の両方の)放射線の一部を吸収するので、これらの距離dsおよびddの増加は損失の増加を引き起こすこともまた理解されるべきである。空気に吸収される放射線の割合は、主に放射線の波長(エネルギー)によって決まる。低原子番号(20以下)の元素から放出される低エネルギー放射線の場合、通過する放射線のほとんどすべてを吸収するには数ミリメートルの空気で十分である。数ミリメートルの空気は、より短い波長の比較的小さい割合の高エネルギー放射線を吸収するであろう。その結果、試料によって(特に試料内のマーカーによって)吸収される一次放射線の強度、そして最終的にはマーカーから検出器までの二次放射線の強度を最大にする最適角度は、その濃度が測定される特定のマーカー元素に依存する。
【0041】
より重い元素を測定するためには、試料内に存在するより軽い元素から生じる検出された放射線の強度を減少させるために、試料から検出器までの距離ddを増加させることが有益であり得る。これにより、バックグラウンド放射およびアーチファクトピークが減少し、より重い元素からの高エネルギー光子が距離によって影響を受けにくくなるにつれて、測定スペクトルの信号対雑音比が改善される。
【0042】
・試料内の経路、およびマーカーの種類とアセンブリ
試料内に埋め込まれた1つまたは複数のマーカーの濃度(相対的または絶対的)を測定する目的のために、1つまたは複数のマーカーによる入射X線放射の吸収を増加させて1つまたは複数の特徴的な波長の二次放射線の放出をもたらすことが重要である。すなわち、その目的は、競合するプロセス、特に試料中に存在する他の材料による吸収を犠牲にしてマーカーによって吸収される入射X線光子の数を増やすことである。入射光子がマーカーによって吸収される確率を高めるためには、マーカーが集中している(予想される)領域での試料内の放射線の経路を増やすことである。
【0043】
マーカーが試料の外層に存在する(予想される)場合、例えば、コーティングまたはフィルム(マーカーおよび場合により他の材料を含む)が試料の表面に形成されるように固体試料の表面にマーカーが適用される場合、エミッタから到達するX線放射の経路ができるだけマーカーが存在する試料の体積に閉じ込められるようにXRFシステムを設計することが有益である。すなわち、入射光子がコーティングを透過して試料の塊に浸透する確率を低減しながら、コーティング内で入射放射線を吸収する確率を増大させることが望ましい。
図3Aを参照すると、入射一次放射線をより低い角度で試料に向けることによって試料の表面上のコーティング内の入射光子の経路が増加し得ること、すなわち、α2<α1はコーティングを通る一次放射線の経路長を増大することが示されている。
【0044】
試料内のX線光子の経路長は、試料の材料組成に依存する。試料内で距離xを移動した後の所与の波長の入射一次X線ビームの放射強度(I)は、次式によって与えられる:
【数1】
式中、I
0は試料の表面での一次放射線の強度であり、ρは試料の密度であり、μ
sは試料全体の質量吸収係数である。試料質量吸収係数μ
sは次の合計によって与えられる:
【数2】
式中、μ
iは試料中の特定の元素の質量吸収係数であり、C
iは試料中のこの元素の濃度であり、合計は試料中(または試料の関連部分/領域中)に存在する全ての物質にわたる。したがって、試料によって吸収される前に試料内の所与の波長の光子が移動する平均距離は、試料の組成に依存する。
【0045】
散乱プレートの使用
本発明の一態様では、エミッタから試料に到達する一次X線放射の強度は、X線エミッタの放出端/平面で散乱界面(プレート)を使用することによって増大する。X線源装置は、放出平面の前の照射チャネル内に配置されたコリメート光学系を利用することができる。本発明のXRFシステムは、そのようなコリメータの代わりにまたはそれと組み合わせて散乱インタフェースを利用することができる。
【0046】
一般的に使用されているXRFシステムでは、放出されたX線ビームの方向は、予め選択された狭い範囲の角度の外側で放出されるあらゆる放射線を吸収し、放出された放射線全体のほとんどを排除するコリメータによって設定される。コリメータの材料は実際には多くのプロセスを介して二次放射線を放出する可能性があり、最も重要なのは光電効果およびコンプトン散乱によるものであるが、コリメータの構造および設計のため、この二次放射線の全ては材料によって吸収され、試料には到達しない。
【0047】
図1Aに戻ると、本発明では、コリメーションによる強度の損失を減らし、その結果エミッタからの一次放射線の強度を増すために、少なくとも1つの散乱プレート/界面アセンブリ18がX線源の放出端部に収容される(取り付けられる)ことが示されている。その放出端部に散乱プレートアセンブリ18を有するX線源ユニット12Aを例示する、
図3Bにより具体的に示されるように、散乱プレートに到達する一次放射線は散乱プレートの材料によって吸収されるが、散乱プレートの設計により、様々なプロセス(光電効果、コンプトン散乱およびレイリー散乱)を介して放出された二次放射線のかなりの部分が試料の方向に放出される。すなわち、
図3Bに示されるような散乱プレートの設計は、散乱プレートから放出される二次放射線のかなりの部分が、(コリメータの場合のように装置によって再吸収されるのではなく)エミッタによって照射される試料表面上の領域に達することを可能にする。
【0048】
散乱プレートアセンブリは、散乱プレートからの二次放出を増加させるために、光電散乱およびコンプトン散乱のために大きな断面積を有する界面を提供するように構成されることが好ましい。
【0049】
本発明のいくつかの実施形態では、XRFシステム12は、エミッタ上に組み付けることができる複数の散乱プレート構造18を含み、各散乱プレートアセンブリは特定の用途に適合されている。例えば、特定の波長帯の二次放射線を放出する散乱プレートアセンブリの材料は、特定の予め選択されたマーカーの測定に適合させることができる。散乱プレートアセンブリはそれぞれ、エミッタ端部に取り外し可能に取り付けられるように構成されてもよく、したがって散乱プレートアセンブリの交換を可能にする。代替的にまたは付加的に、複数の散乱プレートアセンブリを共通の支持構造体に取り付けることができ、これはエミッタ端部に取り付け可能でありかつエミッタ端部に対して変位可能であり、これにより、必要な散乱プレートアセンブリをその非動作状態(放射線伝播経路の外側に置かれる)から、放射線伝播経路内に置かれる動作状態へ選択的にシフトすることが可能になる。