(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】錠剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/12 20060101AFI20230824BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230824BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230824BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20230824BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230824BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230824BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230824BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230824BHJP
A61K 31/136 20060101ALN20230824BHJP
A61K 31/167 20060101ALN20230824BHJP
A61K 31/155 20060101ALN20230824BHJP
A61K 31/58 20060101ALN20230824BHJP
A61K 31/506 20060101ALN20230824BHJP
A61K 33/26 20060101ALN20230824BHJP
A61P 11/10 20060101ALN20230824BHJP
A61P 29/00 20060101ALN20230824BHJP
A61P 3/10 20060101ALN20230824BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20230824BHJP
A61P 3/00 20060101ALN20230824BHJP
A61P 7/06 20060101ALN20230824BHJP
【FI】
A61K47/12
A61K47/26
A61K47/22
A61K9/20
A61K47/32
A61K47/10
A61K47/38
A61K47/36
A61K31/136
A61K31/167
A61K31/155
A61K31/58
A61K31/506
A61K33/26
A61P11/10
A61P29/00
A61P3/10
A61P35/00
A61P3/00
A61P7/06
(21)【出願番号】P 2019569554
(86)(22)【出願日】2019-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2019003412
(87)【国際公開番号】W WO2019151405
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2018017036
(32)【優先日】2018-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596166690
【氏名又は名称】全星薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124648
【氏名又は名称】赤岡 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100060368
【氏名又は名称】赤岡 迪夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154450
【氏名又は名称】吉岡 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】井實 慎
(72)【発明者】
【氏名】林田 知大
(72)【発明者】
【氏名】帆足 洋平
(72)【発明者】
【氏名】中野 善夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝久
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-019115(JP,A)
【文献】特開2012-162502(JP,A)
【文献】特開2017-014155(JP,A)
【文献】特開2003-261440(JP,A)
【文献】特開2013-067611(JP,A)
【文献】特開平11-012162(JP,A)
【文献】特開平11-349475(JP,A)
【文献】特開平08-291051(JP,A)
【文献】特開2010-024181(JP,A)
【文献】特開2005-053792(JP,A)
【文献】特開2009-137872(JP,A)
【文献】国際公開第2003/009831(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00
A61K 9/00
A61K 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコン酸、グルコン酸の水和物、グルコン酸の塩、グルコン酸の塩の水和物、グルコノ-δ-ラクトン、グルコノ-δ-ラクトンの水和物、グルコノ-δ-ラクトンの塩、グルコノ-δ-ラクトンの塩の水和物、グルクロノラクトン、及びグルクロン酸からなる群から選ばれた少なくとも1つと、薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子とを混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合工程において得られた混合物を圧縮成形して成形物を得る圧縮成形工程と、
前記圧縮成形工程において圧縮成形された成形物の少なくとも表面又は内部を液化する液化工程と、
前記液化工程において少なくとも表面又は内部が液化された成形物を固化する固化工程とを含
み、
前記液化工程は、前記圧縮成形工程において圧縮成形された成形物を加湿する工程であり、
前記固化工程は、前記液化工程において少なくとも表面又は内部が液化された成形物を乾燥する工程である、錠剤の製造方法。
【請求項2】
非晶質になり得る糖類、非晶質になり得る糖アルコール類、吸湿性の強い結合剤、崩壊剤、25℃75%RHを超える保存条件で吸湿性を発現する非晶質化しない糖類、または、25℃75%RHを超える保存条件で吸湿性を発現する非晶質化しない糖アルコールの少なくとも1つを添加する工程をさらに含む、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記吸湿性の強い結合剤は、25℃75%RHの保存条件で吸湿性を有するものである、請求項
2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記吸湿性の強い結合剤は、ポビドン、コポリビドン、あるいはポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールブロックコポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項
2又は請求項
3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記崩壊剤は、酸素以外のヘテロ原子あるいはナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンの少なくともいずれかの無機イオンを含有する高分子である、請求項
2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記崩壊剤は、クロスポビドン、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、及び、デンプングリコール酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項
2又は請求項
5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記非晶質になり得る糖類又は前記非晶質になり得る糖アルコール類は、ソルビトール、マルトース、ラクチトール、ブドウ糖、乳糖、及び、トレハロースからなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項
2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記25℃75%RHを超える保存条件で吸湿性を発現する非晶質化しない糖類、または、前記25℃75%RHを超える保存条件で吸湿性を発現する非晶質化しない糖アルコールは、マンニトール、エリスリトール、マルチトール、及び、キシリトールからなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項
2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には錠剤と錠剤の製造方法に関し、より特定的には口腔内崩壊錠とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、患者が医療の中心に位置づけられるべきであるという考え方が強調されつつある。快適な医療環境を患者に提供するためには、患者の行動やライフスタイルにあった、服用しやすい製剤設計や医療現場で使用しやすい製剤設計をすることが重要となってきている。
【0003】
近年、嚥下困難な重症患者に対して、錠剤や顆粒剤を粉砕して、あるいは散剤をそのまま水に懸濁させて、注射器で経口、経鼻又は直接胃にカテーテルを挿入して、薬物を投入する経管投与法が実施されているが、操作が繁雑で、時にはカテーテルの内径が細いため詰まり易いという問題がある。
【0004】
これらの状況を背景として、老人や小児もしくは嚥下困難な患者などにも適する剤形として、口中に含んだとき、あるいは水の中に入れたとき、速やかに崩壊分散もしくは溶解する口腔内崩壊錠剤の製剤化研究が精力的に行われている。
【0005】
口腔内崩壊錠は、口腔内での速崩壊性、滑らかな口あたり、味など、目的に応じていろいろな工夫がなされている。口腔内崩壊錠は、口腔内で速やかに溶解し、水なしでも容易に服薬できるため、高齢者や小児等、嚥下機能に問題のある患者に適した剤形として今後ますます普及するものと考えられる。
【0006】
口腔内崩壊錠の製造に関わる技術推移は大きくは次のように分類される。いわゆる第一世代としては、薬物等の懸濁液や湿性塊を鋳型に精密充填して、凍結乾燥、通風乾燥等により乾燥固化する鋳型錠製剤であり、例えば、PTPポケットを鋳型として用いたR.P.Scherer社(現Catalent社)(英国)の凍結乾燥による「Zydis」が商品化されている。
【0007】
第二世代は、薬物、糖類などの混合物を、アルコール・水溶液等で湿潤させたものを低圧で成形させた後乾燥する湿式成形法による口腔内崩壊錠である。例えば、特開平5-271054号公報(特許文献1)には、薬効成分と糖類とを含む混合物に、糖類の粒子表面が湿る程度の水分を含有させて打錠し、乾燥させる口腔内溶解型錠剤の製造法が記載されている。また、国際公開番号WO01/064190号(特許文献2)には、薬剤、糖類を混合後、ポリビニルアルコールを溶解した水又は含水有機溶媒で練合後、湿性顆粒を鋳型に充填しフィルムを介して圧縮して錠剤の形に成形し、これを乾燥して製する速崩壊性錠剤が記載されている。
【0008】
第三世代では、薬物あるいは薬物を含有する粒子、糖、糖アルコール、水溶性結合剤などの水溶性賦形剤を含む乾燥状態の錠剤材料を低圧力で打錠後、加湿し、乾燥させる低圧打錠加湿乾燥法による口腔内崩壊錠である。国際公開WO99/47124号(特許文献3)と国際公開WO03/009831号(特許文献4)には、糖類Aに対し、非晶質になり得る糖類Bを結合剤として噴霧して被覆及び/又は造粒した粒子を用い、低圧で成形した後加湿乾燥して錠剤化することが記載されている。
【0009】
第四世代では、一般的な錠剤の製造法を基本として、速やかな崩壊を達成させるために様々な工夫がなされたものである。例えば、特開2010-155865号公報(特許文献5)には、糖又は糖アルコールを賦形成分とし、水不溶性であるが親水性の造粒成分を用いて造粒した造粒物を利用した圧縮成形物よりなる口腔崩壊錠剤が提示されている。また、特開2008-127319号公報(特許文献6)には、口腔内において唾液との接触により発泡して速やかに崩壊する錠剤であって、発泡源がアルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩又は重炭酸塩であり、発泡源と反応する酸源が繊維素グリコール酸であることを特徴とする口腔内速崩壊性錠剤が記載されている。さらにまた、特開2007-197438号公報(特許文献7)に示されているような直接打錠による口腔内崩壊錠の製法に関する研究にも力が注がれている。
【0010】
一方、口腔内崩壊錠の崩壊性の改善だけではなく、口腔内崩壊錠の強度を向上させる方法も提案されている。
【0011】
例えば、水膨潤性の崩壊剤を配合しない口腔内崩壊錠あるいは低圧打錠加湿乾燥法による口腔内崩壊錠においては、国際公開WO95/20380号(特許文献8)や国際公開WO99/47124号(特許文献3)などに示されるように、非晶質になり得る糖又は糖アルコールを結合剤として用い、結合剤が非晶化状態で包含される錠剤に製し、それを加湿溶解させ乾燥させて結晶化する際の結合力の向上が口腔内崩壊錠の強度の向上のために利用されている。
【0012】
また、特開2005-53792号公報(特許文献9)には、口中や水性溶媒中での速やかな崩壊性を有しながら、携帯に必要な硬度が保たれた圧縮成形製剤を提供することを目的として、グルコノラクトンが添加された、口腔内で速崩壊性を有する圧縮成型製剤が提案されている。特開2012-162502号公報(特許文献10)には、活性薬剤とグルコノラクトンとフマル酸ステアリルナトリウムを含有する口腔内崩壊型錠が記載されている。
【0013】
なお、普通錠に関しても、例えば、特表2008-531741(特許文献11)や特開2012-31166(特許文献12)に示されるとおり、良好な嚥下を可能にするために、錠剤中の薬物含量を55%以上というように高くし、錠剤を小型化する努力がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平5-271054号公報
【文献】国際公開WO01/064190号
【文献】国際公開WO99/47124号
【文献】国際公開WO03/009831号
【文献】特開2010-155865号公報
【文献】特開2008-127319号公報
【文献】特開2007-197438号公報
【文献】国際公開WO95/20380号
【文献】特開2005-53792号公報
【文献】特開2012-162502号公報
【文献】特表2008-531741号公報
【文献】特開2012-31166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
一般に口腔内崩壊錠には、速い口腔内崩壊速度、例えば1分以内、好ましくは45秒以内の口腔内崩壊速度と、製造工程(包装工程を含む)及び流通過程(医療現場での取扱いを含む)において外力により壊されない十分な硬度と相反する性質の両立が求められる。また錠剤が大型化しないように、錠剤中の薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子の含有量が高いことも求められる。
【0016】
しかしながら、凍結乾燥法によって製造される製剤は、急速な崩壊性を有する反面、強度が弱く、硬度の測定が不可能な程もろいという欠点がある。また、凍結乾燥の製造設備が必要で、製造に長時間を要することから、工業的生産性及び製造コストの点でも劣っている。
【0017】
特許文献1,2に記載のような湿製顆粒には杵で錠剤に圧縮する際杵付着が生じるため、これを防止するために、フィルム介在圧縮式の特殊な錠剤機が必要という問題がある。
【0018】
特許文献3,4に記載の製造方法で製した錠剤には、低圧成形であることと結合剤として用いる非晶質になり得る糖類の結合力がやや弱いことが相俟って、一包化包装ができる十分な強度を有した錠剤を得がたい、糖類の含有量が高くなる、などの問題がある。
【0019】
特許文献5~7に記載されているものを含め、上述した4つの世代に亘る製剤化法による口腔内崩壊錠では、口腔内で錠剤を吸水させ崩壊又は溶解させるために、薬物や薬物を含有する粒子に加えて、糖類や糖アルコール類及び/又は崩壊剤を含有させて錠剤化することが必要となっているものが大半である。また、薬物あるいは薬物を含有する粒子と糖類や糖アルコール類及び/又は崩壊剤などの混合物を均質な流動性のよい粒子状物質とし、均質な錠剤に製造しやすくするために、結合剤を用いて湿式で造粒することが必要となることが多い。
【0020】
結合剤を用いて湿式で造粒する場合、結合剤が有する粘性のために、錠剤の速崩壊性や速溶解性に悪影響が及ぶ。この悪影響を低減させるために、従来、同時に配合する糖類や糖アルコール類及び/又は崩壊剤の量を増さざるを得なかった。
【0021】
例えば、特許文献3,8に記載されているように、錠剤の強度を十分なものとしながら錠剤の崩壊時間を速くするためには、錠剤強度に寄与する結合剤としての非晶質になり得る糖又は糖アルコール類と、速崩壊性に寄与する賦形剤としての糖又は糖アルコール類を同時に多量に配合している。
【0022】
特許文献9,10に記載されている口腔内崩壊錠も、速崩壊性と錠剤硬度を有してはいるが、賦形剤と崩壊剤を大量に含んでおり、薬物を高含有量で含むことと両立することはできていない。
【0023】
このように、従来の口腔内崩壊錠では、良好な崩壊性と錠剤強度を両立させようとすれば、賦形剤や崩壊剤が多量に必要になり、錠剤が必要以上に大きくなり、薬物あるいは薬物を含有する粒子を高含量で含有させることが困難である。なお、ここで言う薬物を含有する粒子には、例えば、苦味マスク皮膜、腸溶性皮膜、徐放性皮膜などを被覆した機能性粒子が包含される。
【0024】
逆に、速崩壊能又は速溶解能を有する成分を配合せず、少量の糖類や結合剤のみを用いて、薬物や機能性粒子の含有量が高い口腔内崩壊錠を製造する方法としては、例えば、湿性塊を鋳型に嵌めたものを乾燥して固形化する方法や、湿性顆粒又は湿性塊をそのまま低圧で成形し乾燥する湿式成形製剤による錠剤化などの方法がある。しかし、このような錠剤化で得られた錠剤は、錠剤強度が十分でない。さらに、特殊な製造機械が必要、製造効率が非常に悪い、製造原価が高いなどのデメリットがあり、汎用性がない。
【0025】
また、特許文献11~12に記載されている普通錠においては、薬物とともに配合する製剤化用添加剤に関して、極力少ない添加量で済むよう薬物に応じて工夫を凝らし、その小型化を実現させているのであって、汎用性のある製造方法ではなく、普通錠においても汎用性のある小型化錠の製造方法は確立されていない。
【0026】
高齢化社会が到来し、あらゆる領域のいろいろな薬剤において、服用しやすく、取り扱いやすい口腔内崩壊錠が望まれる時代に突入したと考えられ、多くの口腔内崩壊錠の研究成果が報告されている。薬物及び/又は薬物含有機能性粒子を50重量%以上、望ましくは65重量%以上、さらに望ましくは75重量%以上の高含量で含有するものであって、かつ、口腔内あるいは水の中に入れたとき、速やかな崩壊性、溶解性を有するとともに、製造工程、流通過程、病院調剤において、崩れないような強い強度を有する口腔内崩壊錠の製造方法を開発することが重要な課題となっている。この課題を解決することによって、高含量の薬剤を小型化した錠剤とすることができ、患者の行動やライフスタイルにあった、服用しやすく、医療現場で使用しやすい製剤を提供することが可能となる。また、この問題を解決する製造方法が、普通錠の小型化に適用できることは言うまでもない。
【0027】
しかしながら、上述のように、薬物又は薬物を含有する粒子を50重量%以上の高含量で有し、小型化された服用しやすい口腔内崩壊錠の製剤化については、十分な錠剤強度と十分に速い口腔内崩壊時間を両立させることが困難であるため、効果的な方法は未だ確立されていないのが実状である。
【0028】
また、普通錠においても、高含量で薬物又は薬物を含有する粒子を含有する小型化された錠剤を、汎用性のある方法で製造する方法は確立されていない。
【0029】
そこで、本発明の目的は、強度と、必要であれば速崩壊性とを両立させながら、さらに、高含量で薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子を含むことが可能な錠剤の製造方法と、薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子を高含量で含む錠剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
以下、グルコン酸、グルコン酸の水和物、グルコン酸の塩、グルコン酸の塩の水和物、グルコノ-δ-ラクトン、グルコノ-δ-ラクトンの水和物、グルコノ-δ-ラクトンの塩、及びグルコノ-δ-ラクトンの塩の水和物を、単に「グルコノラクトン」と称する場合もある。
【0031】
本発明者らは、錠剤の強度を十分なものとしながら錠剤の崩壊時間を速くするために、錠剤強度に寄与する結合剤としての非晶質になり得る糖類又は糖アルコール類と、速崩壊性に寄与する賦形剤としての糖類又は糖アルコール類を同時に多量に配合する必要があるのは、十分な結合力と水への速溶解性を兼ね備えた糖類又は糖アルコール類などがないことにあると考えた。そこで、糖類又は糖アルコール類に優る結合力を有し、かつ水に対する粘性が低く、水に溶けやすい特性を有した結合剤を利用することができれば、薬物や薬物含有機能性微粒子に対し、結合剤のみで造粒あるいはコーティングしたものに、例えば少量の滑沢剤を添加するだけで錠剤化できる。このようにして得られた錠剤は、十分な錠剤強度と速崩壊性を有するものとなる可能性が大きい。
【0032】
そこで、本発明者らは、粒子あるいは錠剤を製造するための結合剤としての能力を有し、水に入れたときの粘性が低い添加物という条件で、錠剤に圧縮成型するための顆粒製造時の造粒性及び錠剤に製する際の成形性に寄与し、錠剤を口腔内に含んだ際容易に口腔内に分散する結合剤の探求を実施した。
【0033】
本発明者らは、鋭意検討の結果、グルコノラクトンは加湿して水を付与することによりグルコン酸となり、逆にグルコン酸を乾燥すればグルコノ-δ-ラクトンの結晶へと構造が変化する特性を有していることから、この特性を利用する方法を見出した。
【0034】
グルコノ-δ-ラクトンは、結合力が強い。同時に、グルコノ-δ-ラクトンは、上述のように水に溶かすと有機カルボン酸であるグルコン酸となり、その溶液粘度は低い。また、グルコノラクトンの水への分散は速い。そこで本発明者らは、グルコン酸溶液あるいはグルコノラクトンを結合剤として用いることによって、速崩壊性と強度の両特性の要求を満たす錠剤が得られると推測した。また、グルコノ-δ-ラクトンは融点が151~155℃であり、加熱・冷却法で同様の効果が得られる可能性も考えられた。各種の実験の結果、予想どおり、その推測を裏付ける実験データを得ることができた。
【0035】
そして、本発明者らは、グルコノ-δ-ラクトンとグルコン酸の間の互変異性を利用した加湿乾燥法によって錠剤強度を向上させる方法と、この方法を利用した錠剤、特に、口腔内崩壊錠の製造方法を見出した。すなわち、グルコノラクトンを結合剤として用い、低圧成形加湿乾燥法で製すれば、その結合力、水への速溶解性、速分散性のために、多くの賦形剤や崩壊剤を配合することなく、十分な錠剤強度を有し、かつ必要であれば口腔内での速崩壊性、すなわち、1分以内、好ましくは45秒以内での崩壊を実現させる口腔内崩壊錠を作製しうることを新規に見出した。
【0036】
また、グルクロノラクトンも、加湿して水を付与することにより有機カルボン酸であるグルクロン酸となり、逆にグルクロン酸を乾燥すればグルクロノラクトンの結晶へと構造が変化する特性を有していることから、グルコノラクトンと同様に、結合剤として用いることによって、十分な錠剤強度を有し、かつ必要であれば口腔内での速崩壊性を実現させる錠剤を製造できることを見出した。以下、グルクロノラクトン及びグルクロン酸を単に「グルクロノラクトン」と称する場合もある。
【0037】
以上の知見に基づいて、本発明は以下のように構成される。
【0038】
本発明に従った錠剤の製造方法は、混合工程と、圧縮成形工程と、液化工程と、固化工程とを備える。混合工程は、グルコン酸、グルコン酸の水和物、グルコン酸の塩、グルコン酸の塩の水和物、グルコノ-δ-ラクトン、グルコノ-δ-ラクトンの水和物、グルコノ-δ-ラクトンの塩、グルコノ-δ-ラクトンの塩の水和物、グルクロノラクトン、及びグルクロン酸からなる群から選ばれた少なくとも1つと、薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子とを混合して混合物を得る工程である。圧縮成形工程は、混合工程において得られた混合物を圧縮成形して成形物を得る工程である。液化工程は、圧縮成形工程において圧縮成形された成形物の少なくとも表面又は内部を液化する工程である。固化工程は、液化工程において少なくとも表面又は内部が液化された成形物を固化する固化工程とを含む工程である。
【0039】
このように、本発明に従った錠剤の製造方法においては、グルコノラクトン又はグルクロノラクトンの少なくとも1つが崩壊剤を兼ねた結合剤として用いられる。その結果、十分な錠剤強度と速崩壊性とを両立させるために、他に賦形剤や崩壊剤等を配合する必要がなくなる。したがって、錠剤に薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子を50%を超える量、さらに65重量%以上の量、容易に含有させることができる。
【0040】
このようにして、強度と、必要であれば速崩壊性とを両立させながら、高含量で薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子を含むことが可能な錠剤の製造方法を提供することができる。
【0041】
本発明に従った錠剤の製造方法においては、液化工程は、圧縮成形工程において圧縮成形された成形物を加湿する工程であることが好ましい。
【0042】
本発明に従った錠剤の製造方法においては、固化工程は、液化工程において少なくとも表面又は内部が液化された成形物を乾燥する工程であることが好ましい。
【0043】
本発明に従った製造方法は、非晶質になり得る糖類、非晶質になり得る糖アルコール類、吸湿性の強い結合剤、崩壊剤、25℃75%RHを超える保存条件で吸湿性を発現する非晶質化しない糖類、または、25℃75%RHを超える保存条件で吸湿性を発現する非晶質化しない糖アルコールの少なくとも1つを添加する工程をさらに含むことが好ましい。
【0044】
このような非晶質化しない糖類、非晶質化しない糖アルコール類を配合することによって、錠剤の無包装品の安定性に好影響を与える硬度を有する錠剤を提供することができる。
【0045】
本発明に従った製造方法においては、非晶質になり得る糖類、非晶質になり得る糖アルコール類、又は吸湿性の強い結合剤を添加する場合は、25℃75%RHの保存条件で吸湿性を発現させるものであることが好ましい。
【0046】
本発明に従った製造方法においては、吸湿性の強い結合剤は、ポビドン、コポリビドン、あるいはポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールブロックコポリマーであることが好ましい。もちろん、上記以外の結合剤で吸湿性の強い添加剤があれば、それも使用できる。
【0047】
本発明に従った製造方法においては、崩壊剤は、酸素以外のヘテロ原子あるいはナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンの少なくともいずれかの無機イオンを含有する高分子であることが好ましい。
【0048】
本発明に従った製造方法においては、崩壊剤は、クロスポビドン、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、及びデンプングリコール酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0049】
本発明に従った製造方法においては、非晶質になり得る糖類又は非晶質になり得る糖アルコール類は、ソルビトール、マルトース、ラクチトール、ブドウ糖、乳糖、及び、トレハロースなどからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0050】
本発明に従った製造方法においては、25℃75%RHを超える保存条件で吸湿性を発現する非晶質化しない糖類、または、25℃75%RHを超える保存条件で吸湿性を発現する非晶質化しない糖アルコールは、マンニトール、エリスリトール、マルチトール、及び、キシリトールからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0051】
上述のように、本発明に従った錠剤の製造方法においては、十分な錠剤強度と速崩壊性とを両立させるために崩壊剤等の賦形剤を多く添加する必要がない。一方、本発明者らは、吸湿性を有する非晶質になり得る糖類や糖アルコール類、吸湿性の強い結合剤、又は崩壊剤を配合することによって、導水性があがり、より強固な錠剤硬度を有する、速崩壊製の口腔内崩壊錠に製し得ることを見出した。グルコノラクトン又はグルクロノラクトンと共に非晶質になり得る糖類や糖アルコール類、吸湿性の強い結合剤、又は崩壊剤を使用することによって、臨界相対湿度を低下させることができ、吸湿させる湿度条件を25℃75%RH程度以下に設定することで強度の強い錠剤が得られ、錠剤同士の付着防止などの効果を実現させることができることがわかった。また、非晶質化しない(非晶質にならない)糖類や糖アルコール類の配合にも臨界湿度を低下させる作用があり、25℃75%RHを超える湿度条件下に保存し乾燥することで同様の錠剤を得られることがわかった。この錠剤は、25℃75%RHという開放保存条件下での錠剤硬度の低下が少ないという新たな知見を得ることができた((社)日本病院薬剤師会「錠剤・カプセル剤の無包装状態での安定性試験法について(答申)」(平成11年8月20日)を参照)。要するに、グルコノラクトン又はグルクロノラクトンの臨界相対湿度を低下させる成分の配合が有意義なことを見出した。
【0052】
本発明に従った錠剤は、薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子と、グルコン酸、グルコン酸の水和物、グルコン酸の塩、グルコン酸の塩の水和物、グルコノ-δ-ラクトン、グルコノ-δ-ラクトンの水和物、グルコノ-δ-ラクトンの塩、グルコノ-δ-ラクトンの塩の水和物、グルクロノラクトン、及びグ ルクロン酸からなる群から選ばれた少なくとも1つとを含み、薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子の含有量が50%以上である。
【0053】
本発明に従った錠剤は、口腔内崩壊錠であることが好ましい。
【0054】
本発明に従った錠剤は、非晶質になり得る糖類、非晶質になり得る糖アルコール類、吸湿性の強い結合剤、崩壊剤、25℃75%RHを超える保存条件で吸湿性を発現する非晶質化しない糖類、または、25℃75%RHを超える保存条件で吸湿性を発現する非晶質化しない糖アルコールの少なくとも1つをさらに含むことが好ましい。
【0055】
本発明に従った錠剤においては、吸湿性の強い結合剤は、25℃75%RHの保存条件で吸湿性を有するものであることが好ましい。
【0056】
本発明に従った錠剤においては、吸湿性の強い結合剤は、ポビドン、コポリビドン、あるいはポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールブロックコポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0057】
本発明に従った錠剤においては、崩壊剤は、酸素以外のヘテロ原子あるいはナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンの少なくともいずれかの無機イオンを含有する高分子であることが好ましい。
【0058】
本発明に従った錠剤においては、崩壊剤は、クロスポビドン、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、及びデンプングリコール酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0059】
本発明に従った錠剤においては、非晶質になり得る糖類又は非晶質になり得る糖アルコール類は、ソルビトール、マルトース、ラクチトール、ブドウ糖、乳糖、及び、トレハロースからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0060】
本発明に従った錠剤においては、25℃75%RHを超える保存条件で吸湿性を発現する非晶質化しない糖類、または、25℃75%RHを超える保存条件で吸湿性を発現する非晶質化しない糖アルコールは、マンニトール、エリスリトール、マルチトール、及び、キシリトールなどからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下に本発明の実施形態について説明する。
【0062】
本発明に従った錠剤の製造方法は、混合工程と、圧縮成形工程と、液化工程と、固化工程とを備える。混合工程は、グルコン酸、グルコン酸の水和物、グルコン酸の塩、グルコン酸の塩の水和物、グルコノ-δ-ラクトン、グルコノ-δ-ラクトンの水和物、グルコノ-δ-ラクトンの塩、グルコノ-δ-ラクトンの塩の水和物、グルクロノラクトン、及びグルクロン酸からなる群から選ばれた少なくとも1つと、薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子とを混合して混合物を得る工程である。言い換えれば、混合工程は、打錠用混合末を製する製造工程である。混合工程においては、少量の添加剤を混合してもよい。圧縮成形工程は、混合工程において得られた混合物を圧縮成形して成形物を得る工程である。液化工程は、圧縮成形工程において圧縮成形された成形物の少なくとも表面又は内部を液化する工程である。固化工程は、液化工程において少なくとも表面又は内部が液化された成形物を固化する固化工程とを含む工程である。
【0063】
本発明に用いられる薬物としては、治療学的にあるいは予防学的に有効な医薬活性成分であれば特に限定されない。医薬活性成分としては、例えば、催眠鎮静剤、睡眠導入剤、偏頭痛剤、抗不安剤、抗てんかん剤、抗うつ薬、抗パーキンソン剤、精神神経用剤、中枢神経系用薬、局所麻酔剤、骨格筋弛緩剤、自律神経剤、解熱鎮痛消炎剤、鎮けい剤、鎮暈剤、強心剤、不整脈用剤、利尿剤、血圧降下剤、血管収縮剤、血管拡張剤、循環器官用薬、高脂血症剤、呼吸促進剤、鎮咳剤、去たん剤、鎮咳去たん剤、気管支拡張剤、止しゃ剤、整腸剤、消化性潰瘍用剤、健胃消化剤、制酸剤、下剤、利胆剤、消化器官用薬、副腎ホルモン剤、ホルモン剤、泌尿器官用剤、ビタミン剤、止血剤、肝臓疾患用剤、通風治療剤、糖尿病用剤、抗ヒスタミン剤、抗生物質、抗菌剤、抗悪性腫瘍剤、化学療法剤、総合感冒剤、滋養強壮保健薬、骨粗しょう症薬などが挙げられる。薬物の配合量としては、通常治療上有効な量であれば特に制限されないが、製剤全体の65重量%を超える量での錠剤化も可能であり、1回の薬物投与量が200mgを超えるような薬物に特に有用と考えられる。
【0064】
本発明に用いられる薬物含有機能性微粒子は、上記のような医薬用途を有する薬物を、苦味隠蔽微粒子、腸溶性微粒子、徐放性微粒子といった、薬物の放出を制御した機能性微粒子となるよう製されたものである。
【0065】
薬物含有機能性微粒子の粒子径は、口腔内でのザラツキ感を感じない範囲であれば特に制限されない。例えば通常平均粒子径として350μm以下が好ましく、約300μm以下がより好ましく、約250μm以下がさらに好ましい。350μmより大きいと口腔内のザラツキ感などの違和感が強く認識されることとなり好ましくない。ただし、口腔内でのザラツキ感を問題としない場合は、機能性粒子の粒径は、最長径が2mm以下であれば使用に供することが可能である。その形状が球に近似できる場合、平均粒子径が2mm以下であればよく、また医薬組成物粒子が球以外の形状の場合、平均最長径が2mm以下であることが好ましい。
【0066】
薬物含有機能性微粒子は、公知の方法により調製することができる。例えば、市販の微結晶セルロース粒(旭化成ケミカルズ、商品名:セルフィアCP102など)をコアとして、転動流動コーティングなどの既知のコーティング法により薬物を積層コーティングした後、さらに苦味マスキング皮膜剤、腸溶性皮膜剤、徐放性皮膜剤などの水不溶性高分子物質をコーティングして溶出制御膜を形成させ、苦味隠蔽微粒子、腸溶性微粒子、徐放性微粒子などの薬物含有機能性微粒子とすることができる。
【0067】
放出制御皮膜剤としては、エチルセルロース、アクリル酸エチル・メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体の粉末、並びにエチルセルロース、アクリル酸エチル・メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、及びアクリル酸エチル・メタアクリル酸メチル共重合体をラテックスの形で含有する水分散液などが用いられる。
【0068】
腸溶性皮膜剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、メタアクリル酸・メタアクリル酸メチル共重合体、メタアクリル酸・メタアクリル酸エチル共重合体、メタアクリル酸・アクリル酸エチル共重合体などがある。これらをメタノール、エタノール、イソプロパノール、ジクロロメタンなどの有機溶剤を用いて溶解して使用できることは勿論、これら水不溶性高分子をラテックスの形で含有する水分散液を用いることも自由である。
【0069】
苦味マスキング皮膜としては、上記の放出制御皮膜剤、腸溶性皮膜剤は勿論、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体などを用いることができる。
【0070】
なお、上記水不溶性高分子物質とともに、水素添加植物油、ステアリン酸、パルミチン酸、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどのワックス状物質、並びにトリアセチン、クエン酸トリエチル、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル共重合体分散液などの可塑剤を配合して使用することは自由である。
【0071】
本発明に従った錠剤において、グルコノラクトン又はグルクロノラクトンは、崩壊剤を兼ねた結合剤として用いられる。グルコノラクトン又はグルクロノラクトンを結合剤として用い、低圧成形加湿乾燥法で製すれば、その結合力、水への速溶解性、速分散性のために、賦形剤や崩壊剤を配合することなく、十分な錠剤強度を有し、かつ口腔内での速崩壊性、すなわち、1分以内、好ましくは45秒以内での崩壊を実現させる口腔内崩壊錠を作製することができる。
【0072】
本発明に従った錠剤においては、通常の口腔内崩壊錠に配合される賦形剤や崩壊剤という添加剤を必ずしも配合する必要がない。そのため、薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子を50重量%を超える量で含有する錠剤を通常の打錠機を用いて容易に製造できる。さらに望めば65重量%以上の高含量で含有する錠剤をも容易に製造できる。ただし、俗に言う賦形剤、結合剤、崩壊剤などの添加物を必要に応じて自由に配合できることは言うまでもない。なお、この製造方法は、薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子を50%を超える量、さらに65重量%以上の量で含有するのが好ましく、第十七改正日本薬局方に準じた試験法による崩壊時間が30分以内の、小型化された普通錠の製造にも共通して応用できる製造方法でもある。
【0073】
本発明に従った錠剤においては、グルコノラクトン又はグルクロノラクトンと共に、糖類や糖アルコール類、吸湿性の強い結合剤、あるいは水膨潤性の崩壊剤といった、吸湿性を有する成分を配合してもよい。糖類や糖アルコール類としては、例えばソルビトール、マルトース、ラクチトール、ブドウ糖、乳糖、トレハロースなどの非晶質になり得る糖類や糖アルコール類、及びマンニトール、エリスリトール、マルチトール、キシリトールなどの非晶質化しない(非晶質にならない)糖類や糖アルコール類が好ましく、トレハロース、マルトース、マンニトールがより好ましい。 吸湿性の強い結合剤を上記糖類や糖アルコール類の代替として使用しても、一緒に配合してもよい。その結合剤としては、ポリビニルピロリドン、コポリビドン、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールブロックコポリマーが好ましい。水膨潤性の崩壊剤としては、例えばクロスポビドン、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウムなどの、窒素、硫黄等の酸素以外のヘテロ原子あるいはナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の無機イオンを含有している高分子からなる崩壊剤が好ましい。
【0074】
これらの糖類や糖アルコール類、吸湿性の強い結合剤、あるいは崩壊剤をさらに配合することによって、導水性があがる、グルコノラクトン又はグルクロノラクトンと相互作用するなどの理由により、より強固な錠剤硬度を有する、速崩壊性の口腔内崩壊錠に製し得る。なお、この場合、グルコノラクトン又はグルクロノラクトンと共に、非晶質になり得る糖類や糖アルコール類、結合力の強い結合剤を使用することによって、臨界相対湿度を低下させることができ、吸湿させる湿度条件を25℃75%RH程度以下に設定し、錠剤に加湿し乾燥することによって、強度の強い錠剤が得られ、錠剤同士の付着防止などの効果を実現させることができる。
【0075】
ただし、この場合、(社)日本病院薬剤師会「錠剤・カプセル剤の無包装状態での安定性試験法について(答申)」(平成11年8月20日)でいう錠剤の開放保存条件下(25℃75%RH環境下保存)において、錠剤強度が低下するという状況が生じる。これに対し、非晶質化しない(非晶質にならない)糖類や糖アルコール類を配合する場合、25℃75%RHを超える湿度条件下に保存し乾燥することによって強度の強い錠剤が得られることとなり、錠剤の開放保存条件下における錠剤強度の低下が少ないものを得ることができる。
【0076】
本発明においては、グルコノラクトン又はグルクロノラクトンとともに、非晶質になり得る糖類や糖アルコール類、非晶質化しない(非晶質にならない)糖類や糖アルコール類、ポリビニルピロリドン、コポリビドン、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールブロックコポリマーという結合剤、及びクロスポビドン、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウムという崩壊剤を配合することにより、より低い湿度条件、例えば、25℃75%RH~25℃90%RHの加湿条件で、より強固な錠剤を製造できる。錠剤強度や必要な崩壊性を阻害しない範囲において、その他の糖類や糖アルコール類及び崩壊剤を添加することは自由である。また、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、などの結合剤を配合して錠剤強度に寄与させることも自由である。
【0077】
本発明に用いられるグルコノラクトン又はグルクロノラクトンの配合量は、本発明で製造される錠剤の重量に対し、1~50重量%が好ましく、さらに好ましくは2~30重量%であり、さらにまた好ましくは、5~20重量%である。1重量%より少ないと、口腔内速崩壊錠用結合剤としての機能を充分に発揮しないことが懸念される。また、50重量%より多いと、口腔内速崩壊錠とした際に、崩壊遅延などの諸問題を生じ、良好な特性が得られない可能性がある。
【0078】
本発明においては、上記の結合剤、糖類や糖アルコール類、吸湿性の強い結合剤、及び崩壊剤以外に、医薬的に許容され、添加物として使用される各種添加剤を配合することができる。添加剤は薬物含有機能性微粒子を造粒する際に配合することもでき、また錠剤化する際に薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子を造粒したものと混合して用いることもできる。
【0079】
添加剤としては、例えば、賦形剤、酸味料、発泡剤、人工甘味料、香料、滑沢剤、着色剤、安定化剤などが挙げられる。添加剤は1種又は2種以上組合せて使用することができる。また、その配合量は、通常当業者が製薬的に使用し、本発明の効果を損なわない範囲内であれば特に制限されない。
【0080】
賦形剤としては、例えば、D-マンニトール、乳糖、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどが挙げられる。酸味料としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸などが挙げられる。発泡剤としては、例えば、重曹などが挙げられる。人口甘味料としては、例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、ステビア、ソーマチンなどが挙げられる。香料としては、例えば、レモン、レモンライム、オレンジ、メントールなどが挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、タルク、ステアリン酸、フマル酸ステアリルナトリウムなどが挙げられる。着色剤としては、例えば、食用黄色5号、食用赤色2号、食用青色2号などの食用色素;食用レーキ色素;無機顔料であるベンガラなどが挙げられる。安定化剤は、薬物ごとに各種検討がなされた上で選択される。これらの添加剤は、1種又は2種以上組合せて、適宜適量添加することができる。
【0081】
以下、本発明で用いる薬物含有機能性微粒子の製造と、薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子を含有する錠剤の製造の各工程と条件について詳細に説明する。
【0082】
[薬物含有機能性微粒子の製造工程]
薬物含有機能性微粒子は公知の方法により製造される。溶出制御などの目的とする機能が達成された微粒子が得られるのであれば製造方法は特に制限されず、適宜選択することができる。
【0083】
例えば、市販の結晶セルロース粒、マンニトールによる粒子、乳糖による粒子、グラニュー糖による粒子、部分アルファー化デンプンによる粒子などに、ヒドロキシプルピルメチルセルロースなどの結合剤を用いて、転動流動コーティングなどの既知のコーティング法により薬物を積層コーティング後、放出制御皮膜剤、腸溶性皮膜剤、苦味マスキング皮膜剤などの高分子物質をさらにコーティングし、薬物含有機能性微粒子に製する。
【0084】
あるいは、薬物と微結晶セルロースに高分子物質の溶液を加え攪拌造粒法又は転動流動造粒法等により球に近似した微粒子とし、この微粒子に必要に応じて放出制御皮膜剤、腸溶性皮膜剤、苦味マスキング皮膜剤などの高分子物質をさらにコーティングし、薬物含有機能性微粒子に製する。コーティングには、例えば噴霧乾燥式流動層造粒機などが選択される。
【0085】
薬物含有機能性微粒子を調製する際に用いられる溶媒は、例えば水、有機溶媒などである。有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ジクロロメタンなどを挙げることができ、これらの有機溶媒は、1種又は2種類以上適宜の割合で混合して用いてもよく、水との混合液として用いてもよい。水を用いたコーティングの場合には品温が約40℃~約60℃、有機溶媒を用いた場合には品温が約30℃~約60℃付近の温度となるように、温度が設定され、さらには噴霧液量、噴霧風量などが設定される。
【0086】
[混合末製造工程]
混合末製造工程では、少なくとも薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子と、グルコノラクトン又はグルクロノラクトンと、場合によっては崩壊剤等の賦形剤が混合された混合物として、錠剤化用混合末を製造する。
【0087】
グルコノラクトン又はグルクロノラクトンは、溶液に溶解又は分散させて、薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子と造粒されて、又は、薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子にコーティングされて混合物にされてもよい。また、グルコノラクトン又はグルクロノラクトンは、粉末のままで、薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子と混合されて混合物にされてもよい。
【0088】
造粒又はコーティングの方法は特に制限されない。造粒又はコーティングの方法として、例えば、流動層法、転動流動層法、撹拌造粒法、転動造粒法などを選択することができる。これらの方法において、グルコノラクトン又はグルクロノラクトンは、製薬的に許容される溶媒に溶解及び/又は懸濁した溶液の状態で、薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子に対して噴霧され、乾燥される。
【0089】
造粒あるいはコーティングにおいては、薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子がグルコノラクトン又はグルクロノラクトンと混和された状態、あるいは、グルコノラクトン又はグルクロノラクトンで覆われた状態となることが必要である。グルコノラクトン又はグルクロノラクトンを製薬的に許容される溶媒に溶解及び/又は懸濁した溶液は粘性が低く、撹拌造粒によっても、また流動層造粒によっても薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子に対する混和造粒が行えるが、後者は連続で行え、作業が簡便で短時間で済むのがメリットである。溶液中のグルコノラクトン又はグルクロノラクトンの濃度は、通常5~50重量%程度であり、10~40重量%であることがより好ましい。
【0090】
薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子とグルコノラクトン又はグルクロノラクトンとの造粒又はコーティングにおいて、又は、造粒又はコーティングされた後、必要に応じて前述した添加剤が混合され、錠剤化用混合末が調製される。
【0091】
一方、グルコノラクトン又はグルクロノラクトンを粉末のまま薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子と混合する場合は、例えば、薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子に必要に応じて適切な添加剤を配合し、非晶質になり得る糖類や糖アルコール類、ポビドンなどの結合剤を溶解した溶液を用いて造粒したものと、グルコノラクトン又はグルクロノラクトンとを混合する方法などがある。この場合にも、必要に応じて崩壊剤などの前述した添加剤を混合することは自由である。
【0092】
[圧縮成形工程]
圧縮成形工程は、錠剤の形状を維持させるため必要最小限の圧力以上で錠剤の形状とする方法で実施されれば特に制限されない。
【0093】
圧縮成形工程の一例は打錠である。打錠は公知の方法で行われる。打錠は、錠剤化用混合末の製造工程で製した錠剤化用混合末を用い、例えば単発打錠機又はロータリー打錠機など通常の打錠機を用いて行うことができる。また、錠剤化用混合末を外部滑沢打錠機を用いて錠剤とすることもできる。打錠圧は、通常約0.25~約8.0kN/杵が好ましく、約0.50~約6.0kN/杵がより好ましく、約0.50~約5.0kN/杵が最も好ましい。必要以上に圧力をかけることは、薬物含有機能性微粒子の変性が生じる可能性や口腔内崩壊時間が遅くなる可能性などが心配され好ましくない。
【0094】
[液化工程及び固化工程]
液化工程と固化工程は、加湿工程と乾燥工程によって実施されることが好ましく、加熱工程と冷却工程によって実施されてもよく、他の工程によって実施されてもよい。
【0095】
[加湿工程と乾燥工程]
錠剤中に配合されたグルコノラクトン又はグルクロノラクトンは、加湿あるいは加熱により溶解し加水分解されて一部がグルコン酸又はグルクロン酸へと転移する。次いでこれを乾燥することにより分子間環化反応(脱水縮合)が起こり速やかにグルコノ-δ-ラクトン又はグルクロノラクトンとなるが、その際錠剤中に均一に分散されたグルコノ-δ-ラクトン又はグルクロノラクトンが強固に結合されることとなり、錠剤の強度が高められる。
【0096】
一方、圧縮成形工程において、錠剤を成形する際の圧力が低いことと、グルコノラクトン又はグルクロノラクトンの水溶性が高くかつ粘性が低いという性質によって、錠剤の強度が高められても、水への分散性は速く、水中での錠剤の崩壊が遅くなることはない。
【0097】
加湿工程と乾燥工程は、グルコノ-δ-ラクトンとグルコン酸あるいはグルクロノラクトンとグルクロン酸の間の互変異性が利用できる方法であれば特に制限されない。
【0098】
加湿工程において、加湿の条件は、グルコノラクトン又はグルクロノラクトンが配合された錠剤化用混合末の見かけの臨界相対湿度により決定される。通常、混合末の臨界相対湿度以上に加湿する。例えば、湿度として約50~約100RH%が好ましく、約60~約90RH%がさらに好ましい。加湿の温度は約15~約50℃とすることが好ましく、約20~約40℃とすることがさらに好ましい。加湿時間は、1~48時間とすることが好ましく、8~24時間がさらに好ましい。
【0099】
乾燥工程は、加湿により吸収した水分を除去する方法であれば特に制限されない。乾燥条件としては、通常約10~約100℃とするのが好ましく、約20~約70℃がさらに好ましく、約25~約60℃が最も好ましい。乾燥時間は、30分~10時間が好ましく、1~6時間がより好ましい。
【0100】
[加熱工程と冷却工程]
液化工程は、グルコノラクトン又はグルクロノラクトンを加熱して溶融する工程であってもよく、固化工程は、溶融されたグルコノラクトン又はグルクロノラクトンを冷却して固化させる工程であってもよい。
【0101】
加熱工程で、錠剤中に配合されたグルコノラクトン又はグルクロノラクトンなどを加熱により溶かし、次いで冷却工程で冷却して結晶化させる際、グルコノラクトン又はグルクロノラクトン同士がより強固に結合されることとなり、錠剤の強度が向上される。
【0102】
加熱工程において、加熱は、公知の方法で行われ、打錠用混合末に配合されたグルコノラクトン又はグルクロノラクトンなどを溶かすことができる方法であれば特に制限されない。加熱工程は、例えば、通風オーブンを用いて行うことができる。温度条件は、配合物などによる融点降下を考慮するとき、約100~約175℃であり、好ましくは約120~約160℃である。時間条件は、所望する錠剤強度、口腔内崩壊性などによって適宜決定されるが、通常1~120分であり、好ましくは1~60分であり、さらに好ましくは2~30分である。
【0103】
冷却工程において、冷却は、公知の方法により行われ、グルコノラクトン又はグルクロノラクトンなどが溶融した後、固化する方法であれば特に制限されない。冷却は、例えば室温下での放置や、冷蔵庫などの低温環境下での保存によって行われてもよい。
【0104】
本発明を要約すると、以下の通りである。
【0105】
(1)本発明に従った錠剤の製造方法は、混合工程と、圧縮成形工程と、液化工程と、固化工程とを備える。混合工程は、グルコン酸、グルコン酸の水和物、グルコン酸の塩、グルコン酸の塩の水和物、グルコノ-δ-ラクトン、グルコノ-δ-ラクトンの水和物、グルコノ-δ-ラクトンの塩、グルコノ-δ-ラクトンの塩の水和物、グルクロノラクトン、及びグルクロン酸からなる群から選ばれた少なくとも1つと、薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子とを混合して混合物を得る工程である。圧縮成形工程は、混合工程において得られた混合物を圧縮成形して成形物を得る工程である。液化工程は、圧縮成形工程において圧縮成形された成形物の少なくとも表面又は内部を液化する工程である。固化工程は、液化工程において少なくとも表面又は内部が液化された成形物を固化する固化工程とを含む工程である。
【0106】
このようにすることにより、速崩壊性と強度を両立させながら、高含有量の薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子を含むことが可能な錠剤の製造方法を提供することができる。
【0107】
(2)本発明に従った錠剤の製造方法においては、液化工程は、圧縮成形工程において圧縮成形された成形物を加湿又は加熱する工程であることが好ましい。
【0108】
(3)本発明に従った錠剤の製造方法においては、固化工程は、液化工程において少なくとも表面又は内部が液化された成形物を乾燥する工程であることが好ましい。
【0109】
(4)本発明に従った製造方法は、非晶質になり得る糖類、非晶質になり得る糖アルコール類、吸湿性の強い結合剤、崩壊剤、25℃75%RHを超える保存条件で吸湿性を発現する非晶質化しない糖類、または、25℃75%RHを超える保存条件で吸湿性を発現する非晶質化しない糖アルコールの少なくとも1つを添加する工程をさらに含むことが好ましい。
【0110】
(5)本発明に従った錠剤の製造方法においては、吸湿性の強い結合剤は、25℃75%RHの保存条件で吸湿性を有するようなものであることが好ましい。
【0111】
(6)本発明に従った製造方法においては、吸湿性の強い結合剤は、ポビドン、コポリビドン、あるいはポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールブロックコポリマーであることが好ましい。
【0112】
(7)本発明に従った錠剤の製造方法においては、崩壊剤は、酸素以外のヘテロ原子あるいはナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンの少なくともいずれかの無機イオンを含有する高分子であることが好ましい。
【0113】
(8)本発明に従った錠剤の製造方法においては、崩壊剤は、クロスポビドン、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、及びデンプングリコール酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0114】
(9)本発明に従った製造方法においては、非晶質になり得る糖類又は非晶質になり得る糖アルコール類は、ソルビトール、マルトース、ラクチトール、ブドウ糖、乳糖、及び、トレハロースなどからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0115】
(10)本発明に従った製造方法においては、25℃75%RHを超える保存条件で吸湿性を発現する非晶質化しない糖類、または、25℃75%RHを超える保存条件で吸湿性を発現する非晶質化しない糖アルコールは、マンニトール、エリスリトール、マルチトール、及び、キシリトールからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0116】
(11)本発明に従った錠剤は、薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子と、グルコン酸、グルコン酸の水和物、グルコン酸の塩、グルコン酸の塩の水和物、グルコノ-δ-ラクトン、グルコノ-δ-ラクトンの水和物、グルコノ-δ-ラクトンの塩、グルコノ-δ-ラクトンの塩の水和物、グルクロノラクトン、及びグルクロン酸からなる群から選ばれた少なくとも1つとを含み、薬物及び/又は薬物含有機能性微粒子の含有量が50%以上である。
【0117】
(12)本発明に従った錠剤は、口腔内崩壊錠であることが好ましい。
【0118】
(13)本発明に従った錠剤は、非晶質になり得る糖類、非晶質になり得る糖アルコール類、吸湿性の強い結合剤、崩壊剤、25℃75%RHを超える保存条件で吸湿性を発現する非晶質化しない糖類、または、25℃75%RHを超える保存条件で吸湿性を発現する非晶質化しない糖アルコールの少なくとも1つをさらに含むことが好ましい。
【0119】
(14)本発明に従った錠剤においては、吸湿性の強い結合剤は、25℃75%RHの保存条件で吸湿性を有するようなものであることが好ましい。
【0120】
(15)本発明に従った錠剤においては、吸湿性の強い結合剤は、ポビドン、コポリビドン、あるいはポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールブロックコポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0121】
(16)本発明に従った錠剤においては、崩壊剤は、酸素以外のヘテロ原子あるいはナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンの少なくともいずれかの無機イオンを含有する高分子であることが好ましい。
【0122】
(17)本発明に従った錠剤においては、崩壊剤は、クロスポビドン、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、及びデンプングリコール酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0123】
(18)本発明に従った錠剤においては、非晶質になり得る糖類又は非晶質になり得る糖アルコール類は、ソルビトール、マルトース、ラクチトール、ブドウ糖、乳糖、及び、トレハロースからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0124】
(19)本発明に従った錠剤においては、25℃75%RHを超える保存条件で吸湿性を発現する非晶質化しない糖類、または、25℃75%RHを超える保存条件で吸湿性を発現する非晶質化しない糖アルコールは、マンニトール、エリスリトール、マルチトール、及び、キシリトールからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【実施例】
【0125】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0126】
実験に用いた製剤原料は次のとおりである。ポビドン(商品名:コリドン30、BASF)、クロスポビドン(商品名:コリドンCL-M、BASF)、結晶セルロース(粒)(商品名:セルフィアCP102、旭化成ケミカル、ヒプロメロース(商品名:TC-5E、信越化学工業)、スクラロース(商品名:スクラロースP、三栄源エスエフアイ)、エチルセルロース(商品名:エトセル10、Dow Chemical)、ヒプロメロース(商品名:TC-5R、信越化学工業)、マクロゴール(商品名:マクロゴール6000、日本油脂)、エチルセルロース(商品名:エトセル7、Dow Chemical)、グルコノ-δ-ラクトン(和光純薬工業)、グルコノ-δ-ラクトン(扶桑化学工業)、ステアリン酸カルシウム(太平化学産業)、D-マンニトール(商品名:ペアリトール50C、ロケットジャパン)、ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業)、グルコン酸(50%グルコン酸溶液、和光純薬工業)、マルトース(商品名:サンマルトミドリ、林原商事)、トレハロース(旭化成ケミカルズ)、クロスポビドン(商品名:ポリプラスドンXL-10、Ashland)、デンプングリコール酸ナトリウム(商品名:プリモジェル、DFE Pharma)、カルメロースカルシウム(商品名:ECG-505、五徳薬品)、クロスカルメロースナトリウム(商品名:Ac-Di-Sol、ウイルバー・エリス)。クエン酸第二鉄水和物(関東化学)。
【0127】
(徐放性アンブロキソール塩酸塩微粒子の製造)
(1)薬物レイヤリング微粒子の製造
アンブロキソール塩酸塩を232g、ポビドン(コリドン30)を56.8g、クロスポビドン(コリドンCL-M)を56.8gとり精製水1963gに加えて撹拌し、分散又は溶解させてレイヤリング液1を調製した。アンブロキソール塩酸塩を232g、ポビドン(コリドン30)を56.8gとり精製水1963gに加えて撹拌し、分散又は溶解させてレイヤリング液2を調製した。結晶セルロース(セルフィアCP102)を500gとり転動流動型コーティング造粒機(パウレック社製:MP-01)を用いてレイヤリング液1を噴霧した後、引続きレイヤリング液2を噴霧しコーティングを行った。噴霧後乾燥した後、42メッシュと150メッシュで篩過し、薬物レイヤリング微粒子を得た。
【0128】
(2)シールコート微粒子の製造
ヒプロメロース(TC-5E)を23.8g、スクラロースPを10.2gとり、精製水647gに加え撹拌溶解させシールコーティング液を調製した。工程(1)で調製した薬物レイヤリング微粒子1135gに転動流動型コーティング造粒機(パウレック社製:MP-01)を用いて、シールコーティング液を噴霧し、表面にコーティングして得られた粒子を42メッシュと150メッシュで篩過し、シールコート微粒子を得た。
【0129】
(3)制御放出微粒子
(i)徐放性コーティング微粒子の製造
エチルセルロース(エトセル10)を183g、ヒプロメロース(TC-5R)を57.1gとり、80%エタノール液2760gを加え、撹拌溶解させ放出制御皮膜溶液を調製した。工程(2)で調製したシールコート微粒子500gに、転動流動型コーティング造粒機(パウレック社製:MP-01)を用いて、放出制御皮膜溶液を噴霧しコーティングして得られた粒子を乾燥した後、42メッシュと150メッシュで篩過し、徐放性コーティング微粒子を得た。
【0130】
(ii)オーバーコーティング微粒子の製造
ヒプロメロース(TC-5R)を15.2g、マクロゴール6000を60.8gとり、精製水600.4gに加えて溶解し、オーバーコーティング液Aを調製した。また、エチルセルロース(エトセル7)を40.8g、ヒプロメロース(TC-5R)を17.5gとり、80%エタノール液に加え攪拌溶解させオーバーコーティング液Bを調製した。工程(3)-(i)で調製した徐放性コーティング微粒子500gに転動流動型コーティング造粒機(パウレック社製:MP-01)を用いて、オーバーコーティング液Aを噴霧した後、オーバーコーティング液Bを噴霧し、表面をコーティングした。乾燥して得られた粒子を、42メッシュと150メッシュで篩過し、オーバーコーティング微粒子を得た。該オーバーコーティング微粒子が徐放性アンブロキソール塩酸塩微粒子に相当する。この微粒子の平均粒子径は約280μmであった。
【0131】
[試験例1]
機能性微粒子(徐放性アンブロキソール塩酸塩微粒子)にグルコノ-δ-ラクトンをコーティングし、その粒子のみを用い、機能性微粒子とグルコノ-δ-ラクトンの2成分のみを主体とした錠剤を製した(実施例1)。クエン酸第二鉄水和物をグルコン酸溶液で造粒し、その粒子のみを用い、クエン酸第二鉄水和物とグルコン酸の2成分のみを主体とした錠剤に製した(実施例2)。また、D-マンニトールを水に溶けやすい薬物に見立て、D-マンニトールのみをグルコン酸溶液で造粒し、その粒子のみを用い、D-マンニトールとグルコン酸の2成分を主体とした錠剤を製造方法を変えて製した(実施例3、4)。これらの錠剤の硬度と口腔内崩壊時間を測定して評価を行った。
【0132】
[実施例1]
徐放性アンブロキソール塩酸塩微粒子200gを転動流動型コーティング造粒機(MP-01型:株式会社パウレック)に投入し、転動流動させながら、グルコノ-δ-ラクトンの10%水溶液を400g使用してコーティングを行い乾燥してラクトン被覆徐放性アンブロキソール塩酸塩微粒子を得た。この粒子のみを用いて、ステアリン酸マグネシウムを0.2%配合して、打錠圧3kN/杵にて重量200mg、直径8mm、隅角平面の錠剤を製した。錠剤は硬度17Nであった。つぎに、この錠剤を恒温恒湿機にて25℃90%RH下に16時間保存した後、通風乾燥機で40℃で1時間後60℃で3時間乾燥して、錠剤硬度と口腔内崩壊時間を測定した。得られた錠剤の強度は60N、口腔内崩壊時間は30秒で、加湿乾燥することによって、十分な強度を有する機能性微粒子を約83%含有する錠剤(詳しくは口腔内崩壊錠)が得られた。尚、実施例において、口腔内崩壊性を示す錠剤(口腔内崩壊錠)を単に「錠剤」と称する場合もある。
【0133】
[実施例2]
クエン酸第二鉄水和物を300gとり転動流動型コーティング造粒機(MP-01型)に投入し、流動させながら、50%グルコン酸溶液を薄めて製した20重量%水溶液を300g使用して噴霧造粒を行った後乾燥して粒子を製した。この粒子のみを用い、ステアリン酸マグネシウムを0.3%添加して、打錠圧2.4kN/杵にて重量250mg、直径9mm、2段Rの錠剤を製した。錠剤硬度は15Nであった。この錠剤を恒温恒湿機にて25℃75%RH下に16時間保存した後、通風乾燥機により40℃で1時間後さらに60℃で3時間乾燥した。得られた錠剤の硬度は85N、口腔内崩壊時間は90秒で、加湿乾燥することによって、十分な強度を有する薬物含量が約83%の錠剤が得られた。
【0134】
[実施例3]
D-マンニトール(ペアリトール50C)を200gとり転動流動型コーティング造粒機(MP-01型)の流動層モードに投入し、流動させながら、50%グルコン酸溶液を薄めて製した20重量%水溶液を100g使用して噴霧造粒を行った後乾燥して粒子を製した。この粒子のみを用い、ステアリン酸マグネシウムを外部滑沢剤として、打錠圧2kN/杵にて重量185mg、直径8.5mm、隅角平面の錠剤を製した。錠剤は硬度20Nであった。この錠剤を恒温恒湿機にて25℃75%RH下に16時間保存した後、DRYING OVENにより30℃で3時間乾燥した。得られた錠剤の硬度は51N、口腔内崩壊時間は20秒以内で、加湿乾燥することによって、十分な強度を有する口腔内崩壊錠が得られた。このことから、水に溶けやすい薬物に関しては、薬物含量が80重量%を超える高含量の口腔内崩壊錠が得られる可能性が示唆された。また、この製剤については、25℃75%RHの環境に戻す時、硬度は20N以上を保つ頑健な製剤であった。
【0135】
[実施例4]
D-マンニトール(ペアリトール50C)を900gをとり高速撹拌造粒機(VG-05型:株式会社パウレック)に投入し、ブレード回転数500rpm、チョッパー回転数1500rpmで、グルコノ-δ-ラクトン60gを240gの水に溶解したグルコン酸水溶液を添加して5分間造粒し、MP-01の流動層モードで乾燥した。得られた顆粒を整粒後、ステアリン酸マグネシウムを外部滑沢剤として、打錠圧1.0~1.5kNで、重量200mg、直径8.0mm、隅角平面の杵で打錠した。錠剤の硬度は16Nであった。この錠剤を恒温恒湿機にて25℃85%RH下16時間加湿し、60℃で3時間乾燥した。得られた錠剤は硬度は83Nで、崩壊時間は60秒であった。
【0136】
[試験例2]
徐放性アンブロキソール塩酸塩微粒子に対し、D-マンニトールを被覆し更にその外層にグルコノ-δ-ラクトンを被覆した微粒子を製し、この粒子のみを用い、ステアリン酸カルシウムを外部滑沢剤として錠剤に製した(実施例5)。加えて、水アルコール系で撹拌造粒を行った(実施例6)また比較として、実施例5で使用したグルコノ-δ-ラクトンに替えてマルトースを用い、マルトースを被覆した微粒子を製し、この粒子のみを用い、ステアリン酸カルシウムを外部滑沢剤として錠剤に製した(比較例1)。つぎに、この錠剤を恒温恒湿機にて25℃75%RH~25℃90%RH下に16時間保存した後、60℃で3時間乾燥した錠剤を用い、錠剤硬度と口腔内崩壊時間を測定して評価を行った。
【0137】
[実施例5]
徐放性アンブロキソール塩酸塩微粒子200gを転動流動型コーティング造粒機(MP-01型:株式会社パウレック)に投入し、転動流動させながら、D-マンニトール(ペアリトール50C)の10重量%水溶液を100g使用してコーティングした後、引き続いてグルコノ-δ-ラクトンの10重量%水溶液を210g使用してコーティングを行い乾燥してラクトン被覆徐放性アンブロキソール塩酸塩微粒子を得た。この粒子のみを用い、ステアリン酸カルシウムを外部滑沢剤として、重量231mg、直径8.5mm、隅角平面の錠剤を製した。この錠剤を用いて上記のとおりに錠剤の加湿乾燥を行い、評価を実施した。錠剤の製造条件と試験結果を表1に示した。
【0138】
[実施例6]
徐放性アンブロキソール塩酸塩微粒子750gを高速撹拌造粒機(VG-05型:株式会社パウレック)に投入し、ブレード500rpm、チョッパー1000rpmで転動流動させながら、水エタノールを重量比で1:1の液にグルコノ-δ-ラクトンを50重量%になるように溶解した液にPVPを5g加えた液を380g使用して3分間撹拌造粒を行った。得られた造粒徐放性アンブロキソール塩酸塩微粒子を用い、ステアリン酸マグネシウムを外部滑沢剤として、重量200mg、直径8.0mm、隅角平面の錠剤を製した。この錠剤を用いて上記のとおりに錠剤の加湿乾燥を行い、評価を実施した。錠剤の製造条件と試験結果を表1に示した。
【0139】
[比較例1]
グルコノ-δ-ラクトンの10重量%水溶液に替えてマルトースの10重量%水溶液を用い、実施例5と同じ方法でコーティング操作を行いマルトース被覆徐放性アンブロキソール塩酸塩微粒子を製した。この錠剤を用いて上記のとおりに錠剤の加湿乾燥を行い、評価を実施した。錠剤の製造条件と試験結果を表1に示した。
【0140】
非晶質状態から結晶への変化を利用して、加湿乾燥することによって錠剤硬度が上昇するとされているマルトースを対照として試験を実施したが、平均粒子径が300μm程度の粒子のみで錠剤化するとき、マルトースでは十分な強度を有した錠剤までの錠剤硬度の上昇は観察されなかった。対して、グルコノ-δ-ラクトンを使用したものは、25℃75%RH~90%RH条件下で加湿し、60℃で乾燥することによって、明らかな錠剤の硬度上昇が確認された。
【0141】
【0142】
[試験例3]
グルコノ-δ-ラクトンとマルトースあるいはトレハロースを混合し、水に溶解したものを結合剤として用い錠剤を製した(実施例7~10)。また、マルトースあるいはトレハロース単味を水に溶解したものを結合剤として用いて錠剤を製した(比較例2~3)。つぎに、これらの錠剤を恒温恒湿機にて25℃75%RH下に16時間保存した後、60℃で5時間乾燥した錠剤を用い、錠剤硬度と口腔内崩壊時間を測定して評価を行った。
【0143】
[実施例7]
D-マンニトール(ペアリトール50C)を180gとり転動流動型コーティング造粒機(MP-01型)に投入し、流動させながら、グルコノ-δ-ラクトンとマルトースの1:1混合物の水溶液(20重量%)100gを結合剤として噴霧造粒を行った。この造粒物にステアリン酸マグネシウムを0.5重量%配合し、重量200mg、直径8.0mm、隅角平面の錠剤を製した。錠剤の製造条件と試験結果を表2に示した。
【0144】
[実施例8~10]
D-マンニトール(ペアリトール50C)を180gとり転動流動型コーティング造粒機(MP-01型)の流動層モードに投入し、流動させながら、グルコノ-δ-ラクトンとトレハロースの1:1、3:1及び9:1混合物の水溶液(20重量%)100gを結合剤として噴霧造粒を行った。この造粒物にステアリン酸マグネシウムを0.5重量%配合し、重量200mg、直径8.0mm、隅角平面の錠剤を製した。1:1の混合物によるものを実施例8、3:1の混合物によるものを実施例9、9:1の混合物によるものを実施例10とした。錠剤の製造条件と試験結果を表2に示した。
【0145】
[比較例2~3]
D-マンニトール(ペアリトール50C)を180gとり転動流動型コーティング造粒機(MP-01型)の流動層モードに投入し、流動させながら、マルトースあるいはトレハロースの水溶液(20重量%)100gを結合剤として噴霧造粒を行った。この造粒物にステアリン酸マグネシウムを0.5重量%配合し、重量200mg、直径8.0mm、隅角平面の錠剤を製した。マルトースで製した錠剤を比較例2、トレハロースで製した錠剤を比較例3とした。錠剤の製造条件と試験結果を表2に示した。
【0146】
【0147】
比較例2及び3は、特許文献3及び特許文献8に準ずる方法で製した錠剤であるが、加湿乾燥しても50N程度の硬度を有した錠剤が得られるに過ぎない。対して、グルコノ-δ-ラクトンにマルトースあるいはトレハロースを配合して製した錠剤は、70N以上の強度を有した非常に強い強度を有した錠剤となることが明確に示された。
【0148】
[試験例4]
徐放性アンブロキソール塩酸塩微粒子200gを転動流動型コーティング造粒機(MP-01型)に投入し、転動流動させながら、D-マンニトール(ペアリトール50C)の10重量%水溶液を200g使用しレイヤリングを行った後乾燥した粒子(以下マンニトール被覆ABX微粒子と呼称する)に、グルコノ-δ-ラクトンを混合したもの及びグルコノ-δ-ラクトンと水膨潤性の崩壊剤を混合したものを打錠末とし、ステアリン酸カルシウムを外部滑沢剤として錠剤を製した(実施例11~15)。また、マンニトール被覆ABX微粒子に、マルトースあるいはトレハロースを混合したもの及びマルトースあるいはトレハロースと水膨潤性の崩壊剤を混合したものを打錠末とし、ステアリン酸カルシウムを外部滑沢剤として、錠剤を製した(比較例4~9)。つぎに、これらの錠剤を35℃82%RH(デシケータ中での塩化カリウム飽和液)あるいは25℃90%RH(恒温恒湿機)下に16時間保存した後、60℃で6時間乾燥し、錠剤硬度と口腔内崩壊時間を測定して評価を行った。
【0149】
[実施例11~15]
マンニトール被覆ABX微粒子、グルコノ-δ-ラクトン粉末及び水膨潤性の崩壊剤を表3に示す配合で混合し、重量200mg、直径8.0mm、隅角平面の錠剤に製した。錠剤の製造条件と試験結果を表4に示した。
【0150】
[比較例4~9]
マンニトール被覆ABX微粒子、マルトースあるいはトレハロース及び水膨潤性の崩壊剤を表3に示す配合で混合し、重量200mg、直径8mm、隅角平面の錠剤に製した。錠剤の製造条件と試験結果を表4に示した。
【0151】
【表3】
a)水膨潤性崩壊剤としては、実施例12、比較例5及び比較例8にクロスポビドン(ポリプラスドンXL-10)を、実施例13,比較例6及び比較例9にデンプングリコール酸ナトリウム(プリモジェル)を、実施例14にカルメロースカルシウム(ECG-505)を、また実施例15にクロスカルメロースナトリウム(Ac-Di-Sol)を使用した。
【0152】
【0153】
グルコノ-δ-ラクトンを単純混合したものは、35℃82%RH下保存で加湿し乾燥しても錠剤硬度はアップしなかったが、25℃90%RH下に保存したものには硬度アップが認められた。グルコノ-δ-ラクトンとともにクロスポビドン(ポリプラスドンXL-10、デンプングリコール酸ナトリウム(プリモジェル)、カルメロースカルシウム(ECG-505)、又はクロスカルメロースナトリウム(Ac-Di-Sol)を添加したものに関しては、35℃82%RH下保存においても、顕著な硬度アップが観察され、これら水膨潤性崩壊剤の添加効果が実証された。また、非晶質状態から結晶への変化を利用して、加湿乾燥することによって錠剤硬度が上昇するとされているマルトース及びトレハロースを対照として同様の試験を実施したが、35℃82%RH下保存、25℃90%RH下保存のいずれにおいても錠剤硬度の上昇は観察されなかった。
【0154】
[試験例5]
グルコノ-δ-ラクトンとポビドン(コリドン30)を混合し、水に溶解したものを結合剤として用い錠剤を製した(実施例16)。つぎに、この錠剤を用い、加湿乾燥させて錠剤硬度と口腔内崩壊時間を測定し評価を行った。
【0155】
[実施例16]
D-マンニトール(ペアリトール50C)を270gとり転動流動型コーティング造粒機(MP-01型)の流動層モードに投入し、流動させながら、グルコノ-δ-ラクトンとコリドン30の9:1混合物の水溶液(20重量%)150gを結合剤として噴霧造粒を行った。この造粒物にステアリン酸マグネシウムを0.5重量%配合し、打錠圧1.5kN/杵にて重量200mg、直径8mm、隅丸平面の錠剤を製した。錠剤硬度は17Nであった。この錠剤を恒温恒湿機にて25℃75%RH下に15時間保存した後、通風乾燥機にて60℃で3時間乾燥した。得られた錠剤の硬度は82N、口腔内崩壊時間は45秒で、加湿乾燥することによって、十分な錠剤強度を有する錠剤が得られた。
【0156】
[試験例6]
様々な薬物を用い、グルコノ-δ-ラクトンと非晶質になり得る糖類や糖アルコール類の混合物を結合剤として用いる実験を実施した(実施例17~21)。
【0157】
[実施例17]
クエン酸第二鉄水和物を240gとり転動流動型コーティング造粒機(MP-01型)に投入し、流動させながら、グルコノ-δ-ラクトンとトレハロースの1:1混合物の水溶液(20重量%)120gを結合剤として噴霧造粒を行った。この造粒物にステアリン酸マグネシウムを0.5重量%配合し、打錠圧2kN/杵にて重量200mg、直径8mm、隅丸平面の錠剤を製した。錠剤硬度は20Nであった。この錠剤を恒温恒湿機にて25℃75%RH下に15時間保存した後、真空乾燥機により60℃で1時間乾燥した。得られた錠剤の硬度は117N、口腔内崩壊時間は約120秒で、加湿乾燥することによって、100Nを超える強度を有する薬物含量が約90%の錠剤が得られた。この錠剤は、口腔内崩壊時間が迅速とはいえないが、100Nを超える強度を有する薬物含量が約90%の、極度に小型化された、優れた特性を有する錠剤(例えば普通錠)として取り扱うことができる。
【0158】
[実施例18]
アセトアミノフェンを850gおよびプリモジェル50gをとり高速撹拌造粒機(VG-05型)に投入し、ブレード回転数500rpm、チョッパー1500rpmで、グルコノ-δ-ラクトン65gおよびトレハロース35gを250gの水に溶かしたグルコン酸―トレハロース水溶液を結合剤として撹拌造粒を行った。この造粒物にステアリン酸マグネシウムを外部滑沢で添加し、打錠圧2.5kN/杵にて重量200mg、直径8.0mm、隅角平面の錠剤を製した。錠剤硬度は15Nであった。この錠剤を恒温恒湿機にて25℃75%RH下に16時間保存した後、真空乾燥機により60℃で3時間乾燥した。得られた錠剤の硬度は71N、口腔内崩壊時間は25秒であった。
【0159】
[実施例19]
メトホルミンを850gおよびプリモジェル50gをとり高速撹拌造粒機(VG-05型)に投入し、ブレード回転数500rpm、チョッパー1500rpmで、グルコノ-δ-ラクトン100gを水:エタノールを1:1(重量)に混合した液200gに溶かしたグルコノラクトン溶液を結合剤として撹拌造粒を行った。この造粒物にステアリン酸マグネシウムを外部滑沢で添加し、打錠圧4.0kN/杵にて重量200mg、直径8.0mm、隅角平面の錠剤を製した。錠剤硬度は13Nであった。この錠剤を恒温恒湿機にて25℃75%RH下に17時間保存した後、真空乾燥機により60℃で3時間乾燥した。得られた錠剤の硬度は110N、崩壊時間(JP法)は38秒であった。
【0160】
[実施例20]
アビラテロン酢酸エステルを250gおよびクロスポビドン(XL-10)50gをとり高速撹拌造粒機(HMS-01型:深江パウテック(株))に投入し、ブレード回転数250rpm、チョッパー1800rpmで、グルコノ-δ-ラクトン75gおよびトレハロース8.3gを水100gに溶解した液183.3gを添加して撹拌造粒を行った。この造粒物を乾燥後、ステアリン酸マグネシウムを外部滑沢とし、打錠圧0.5kN/杵にて重量230mg、直径8.5mmの隅角平面の錠剤を製した。錠剤硬度は14Nであった。この錠剤を恒温恒湿機にて25℃92%RH下に17時間保存した後、真空乾燥機により60℃で3時間乾燥した。得られた錠剤の硬度は65Nであった。
【0161】
[実施例21]
ニロチニブ塩酸塩水和物を50gおよびクロスポビドン(XL-10)10gをとり乳鉢に投入し、グルコノ-δ-ラクトン15gおよびトレハロース1.67gを水16.7gに溶解した液33.4gを添加してマニュアルで撹拌造粒を行った。この造粒物を乾燥後、ステアリン酸マグネシウムを外部滑沢とし、打錠圧0.5kN/杵にて重量230mg、直径8.5mmの隅角平面の杵で錠剤を製した。錠剤硬度は12Nであった。この錠剤を恒温恒湿機にて35℃85%RH下に17時間保存した後、真空乾燥機により60℃で3時間乾燥した。得られた錠剤の硬度は38Nであった。
【0162】
[試験例7]
上記実施例では主にグルコノラクトン-グルコン酸系の例を示したが、グルクロノラクトン-グルクロン酸系の試験を行った。グルクロノラクトンとトレハロースを混合し、水に溶解したものを結合剤として用い錠剤を製した(実施例22)。つぎに、この錠剤を用い、加湿乾燥させて錠剤硬度と口腔内崩壊時間を測定し評価を行った。
【0163】
[実施例22]
D-マンニトール(ペアリトール50C)を500gとり高速撹拌造粒機(VG-01型)に投入し、混合撹拌させながら、グルクロノラクトンとトレハロースの9:1混合物の水溶液(33重量%)150gを結合剤として造粒を行った。この造粒物をMP-01型の流動層モードで乾燥し、32メッシュの篩で篩過後ステアリン酸マグネシウムを0.5重量%配合し、打錠圧1.5kN/杵及び3.0kN/杵にて重量200mg、直径8.0mm、隅丸平面の錠剤を製した。錠剤硬度はそれぞれ6N及び18Nであった。この錠剤を恒温恒湿機にて25℃75%RH下に15時間保存した後、通風乾燥機にて60℃で3時間乾燥した。得られた錠剤の硬度はそれぞれ43N及び55Nであり、口腔内崩壊時間は5秒及び12秒であった。グルクロノラクトンの場合もグルコノ-δ-ラクトン同様に、加湿乾燥することによって、十分な錠剤強度を有する錠剤が得られた。
【0164】
以上実施例を通して説明してきたグルコノ-δ-ラクトン(一部グルクロノラクトン)を配合した処方系では、主に水溶媒での検討を行ってきたが、グルコノ-δ-ラクトンを水溶液としたグルコン酸との平衡液を使う方法では、湿塊を製造する場合に固化する傾向がある場合もあることがわかった。そこで、グルコノ-δ-ラクトンの固化現象を押さえる製造方法として、エタノールを用いる方法の検討を行った。
【0165】
[試験例8]
グルコノ-δ-ラクトンを製造中に均一に、混合マスを固まらせることなく分散させる方法として、グルコノ-δ-ラクトンを水溶液として噴霧する方法(実施例1,2,5,7~10)が採用されているが、この試験例では、粉砕したグルコノ-δ-ラクトンを造粒品に混ぜ込み、エタノールで造粒することで、転動噴霧法と同じ効果があるかどうかを調べた。またこの系にいくつかの賦形剤(トレハロース、コリドン30等)を加えた系をエタノールで練合造粒した製法での加湿乾燥の効果を調べた(実施例23~25)。さらに、非晶質化しない糖の効果を調べた(実施例26、27)。
【0166】
[実施例23~25]
D-マンニトール(ペアリトール50C)900gおよびグルコノ-δ-ラクトン100gをとり高速撹拌造粒機(VG-05型)に投入し、ブレード回転数500rpm、チョッパー回転数1500rpmで混合撹拌させながら、エタノール230gを添加して5分間造粒を行った。この造粒物を乾燥し、32メッシュの篩で篩過後ステアリン酸マグネシウムを外部滑沢で添加し、打錠圧4.2kNにて重量200mg、直径8.0mm、隅丸平面の錠剤を製した。錠剤硬度は6N及び18Nであった。この錠剤を恒温恒湿機にて25℃75%RH下に16時間保存した後、通風乾燥機にて60℃で3時間乾燥した。得られた錠剤の硬度は38Nであり、口腔内崩壊時間は17秒であった(実施例23)。この処方系のグルコノ-δ-ラクトン100gを80gとし、トレハロース20gを加えて製した系(実施例24)では、3.0kNの打錠圧で、錠剤硬度は14Nの錠剤が得られ、実施例19と同じ加湿乾燥条件で処遇した錠剤は、硬度51N、崩壊時間は29秒であった。さらにグルコノ-δ-ラクトン100gを90gとし、コリドン30を10g加えた系(実施例25)では、2.2kNの打錠圧で得られた錠剤の硬度は16Nで、上記と同じ加湿乾燥条件下で処遇した錠剤は、硬度66Nおよび崩壊時間は35秒であった。
【0167】
[実施例26、27]
D-マンニトール(ペアリトール50C)を900gとり高速撹拌造粒機(VG-05型)に投入し、ブレード回転数500rpm、チョッパー回転数1500rpmで混合撹拌させながら、グルコノδ-ラクトン80gおよび非晶質化しない(非晶質にならない)糖であるD-マンニトールの20gをエタノール230gに溶解乃至分散させた液を添加して造粒を行った。この造粒物を乾燥し、32メッシュの篩で篩過後ステアリン酸マグネシウムを外部滑沢で添加し、打錠圧4.2kNにて重量200mg、直径8.0mm、隅角平面の錠剤を製した。錠剤硬度は14Nであった。この錠剤を恒温恒湿機にて25℃75%RH下に16時間保存した後、通風乾燥機にて60℃で3時間乾燥し、得られた錠剤の硬度は44Nであり、口腔内崩壊時間は17秒であった。同様に恒温恒湿機にて25℃85%RH下に16時間保存した後、通風乾燥機にて60℃で3時間乾燥し、得られた錠剤の硬度は97Nであった(実施例26)。この処方系で、グルコノ-δ-ラクトンを95g、D-マンニトール5gとし、エタノール300gに溶解乃至分散させた液を添加し造粒製せられた顆粒を用いて、4.3kNで打錠することで得られた硬度14Nの錠剤は、実施例26と同じ加湿乾燥条件で処遇したところ、25℃75%RH16時間で硬度27N、崩壊時間は21秒であった。25℃85%RH16時間では錠剤硬度は89Nになった(実施例27)。
【0168】
この粉砕グルコノ-δ-ラクトンを加えて、エタノールで撹拌造粒した実施例では、いずれも加湿乾燥を施すことで、錠剤硬度が高くなることが示された。また、実施例23の錠剤では、加湿乾燥後に25℃75%RHに数日放置することでも、21Nと十分な硬度が維持されていた。さらに、実施例26および実施例27の25℃85%RHで製した錠剤を、25℃75%RHに数日放置した製剤の硬度は、実施例26および実施例27でそれぞれ28Nおよび30Nであった。このことから、グルコノ-δ-ラクトンに非晶質化しない糖を配合すれば、75%RHよりも85%RHで明らかに硬度が高くなり、さらに75%RHでの戻りが大きくないため、無包装保存状態での硬度を維持し、市場での使用に十分耐えうる錠剤が得られることがわかった。
【0169】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の説明ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変形を含むものである。