(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】真空ポンプおよびステータコラム
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20230824BHJP
【FI】
F04D19/04 D
F04D19/04 G
(21)【出願番号】P 2020010263
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2022-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091225
【氏名又は名称】仲野 均
(74)【代理人】
【識別番号】100096655
【氏名又は名称】川井 隆
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 剛志
(72)【発明者】
【氏名】舘野 泰
(72)【発明者】
【氏名】小川 洋平
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-150837(JP,A)
【文献】特開2000-120580(JP,A)
【文献】特開2011-007049(JP,A)
【文献】国際公開第2014/119191(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを排気する排気口が形成された外装体と、
前記外装体に内包され、各種電装品を包囲するステータコラムと、
前記外装体内部に、回転自在に支持された回転軸と、
前記回転軸に固定され、且つ前記ステータコラムの外側に配置されて、前記回転軸と共に回転する回転体と、
前記回転体と所定の隙間で対向して配置された固定部と、
を備え、
回転する前記回転体と前記固定部との相互作用によりガスを排気する排気機構を備えた真空ポンプであって、
前記排気口と前記排気機構の出口とを連通する第1の環状のガス流路
と、
前記ステータコラムの外周面から前記回転体に向かう2枚の隔壁により第2の環状のガス流路
と、が形成されており、
前記第2の環状のガス流路の断面積が、前記排気口付近で大きく、対向側で小さく形成されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記第2の環状のガス流路の半径方向の幅を変化させることで、前記第2の環状のガス流路の断面積を、前記排気口付近で大きく、対向側で小さく形成していることを特徴とする請求項
1記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記第2の環状のガス流路の中心軸方向の幅を変化させることで、前記第2の環状のガス流路の断面積を、前記排気口付近で大きく、対向側で小さく形成していることを特徴とする請求項
1記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記第1の環状のガス流路からの排気口を複数設けたことを特徴とする請求項1から請求項
3の何れか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記排気機構の前記第1の環状のガス流路への出口が、円周方向に延びた溝で構成されていることを特徴とする請求項1から請求項
4の何れか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記第1の環状のガス流路に、前記排気口側と、前記排気機構の出口側とを隔てる隔壁を設け、前記隔壁に前記排気口側と前記排気機構の出口側とを連通する穴が複数設けられていることを特徴とする請求項1から請求項
5の何れか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
排気方向の上流側で、前記ステータコラムに温度センサが設けられていることを特徴とする請求項1から請求項
6の何れか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項8】
請求項
1記載の真空ポンプに用いられるステータコラムであって、前記第2の環状のガス流路を形成している
、外周面から前記回転体に向かう2枚の隔壁が設けられていることを特徴とするステータコラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプの環状のガスの排気経路において、生じる圧力の差異を可能な限り減少させる真空ポンプおよびステータコラム
に関する。
【背景技術】
【0002】
真空ポンプにおいて、回転翼の内周面と、内部に駆動用モータを収納するステータコラムの外周面とで形成された空間に温度センサを設置し、回転翼の温度を測定する技術が提案されている。回転翼の温度を正確に測定して、過熱によるクリープ現象の発生を事前に検知し、対応することを目的としていた。
この技術には、真空ポンプで排気しているプロセスガスが温度センサの周囲にまで入り込み、温度センサの周囲のガスの組成が変化すると測定精度が低下するという問題があった。
その対策として、特許文献1記載の発明が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図7に示す従来技術の真空ポンプでは、パージポート18からパージガスを導入していた。そして、回転翼の温度測定時に、温度センサユニット19より下流側の少なくとも一部において真空ポンプで排気している排気ガスが逆流する流速よりも、パージガスの流速の方が速くなる量、または、温度センサユニット19の周囲においてパージガスの圧力が中間流または粘性流となる量、のいずれか一方の条件を満たすパージガスを真空ポンプへ供給していた。こうすることで、温度センサユニット19による正確な温度測定を目指していた。この従来技術では、パージガスの流量を調整し得るパージガス供給機構として、ステータコラムに、絞り部が配設されていた。
【0005】
ところが、排気経路の断面積が小さく、抵抗が大きい場合は、排気口付近(排気口が設けられている位相付近)と反対側で大きな圧力差が生じる(
図7に「高圧」、「低圧」)。その結果、回転翼の内周面とステータコラムの外周面の間にパージガスの流れに不均衡が生じ、排気口の反対側にパージガスが流れにくくなることがあった。
そのため、十分なパージガスを流すだけでは、温度センサユニット19の周囲のガスの組成が変わり、測定精度が低下するという課題があった。
また、パージガスの流れが悪いところが存在すると、プロセスガスが侵入し、結果として、例えば回転翼に生成物が堆積するといった課題も生じていた。
そこで、本発明は、排気経路に生じる圧力差を緩和し、パージガスを可能な限り均一に流すことができる真空ポンプおよびステータコラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明では、ガスを排気する排気口が形成された外装体と、前記外装体に内包され、各種電装品を包囲するステータコラムと、前記外装体内部に、回転自在に支持された回転軸と、前記回転軸に固定され、且つ前記ステータコラムの外側に配置されて、前記回転軸と共に回転する回転体と、前記回転体と所定の隙間で対向して配置された固定部と、を備え、回転する前記回転体と前記固定部との相互作用によりガスを排気する排気機構を備えた真空ポンプであって、前記排気口と前記排気機構の出口とを連通する第1の環状のガス流路と、前記ステータコラムの外周面から前記回転体に向かう2枚の隔壁により第2の環状のガス流路と、が形成されており、前記第2の環状のガス流路の断面積が、前記排気口付近で大きく、対向側で小さく形成されていることを特徴とする真空ポンプを提供する。
請求項2記載の発明では、前記第2の環状のガス流路の半径方向の幅を変化させることで、前記第2の環状のガス流路の断面積を、前記排気口付近で大きく、対向側で小さく形成していることを特徴とする請求項1記載の真空ポンプを提供する。
請求項3記載の発明では、前記第2の環状のガス流路の中心軸方向の幅を変化させることで、前記第2の環状のガス流路の断面積を、前記排気口付近で大きく、対向側で小さく形成していることを特徴とする請求項1記載の真空ポンプを提供する。
請求項4記載の発明では、前記第1の環状のガス流路からの排気口を複数設けたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の真空ポンプを提供する。
請求項5記載の発明では、前記排気機構の前記第1の環状のガス流路への出口が、円周方向に延びた溝で構成されていることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項に記載の真空ポンプを提供する。
請求項6記載の発明では、前記第1の環状のガス流路に、前記排気口側と、前記排気機構の出口側とを隔てる隔壁を設け、前記隔壁に前記排気口側と前記排気機構の出口側とを連通する穴が複数設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1項に記載の真空ポンプを提供する。
請求項7記載の発明では、排気方向の上流側で、前記ステータコラムに温度センサが設けられていることを特徴とする請求項1から請求項6の何れか1項に記載の真空ポンプを提供する。
請求項8記載の発明では、請求項1記載の真空ポンプに用いられるステータコラムであって、前記第2の環状のガス流路を形成している、外周面から前記回転体に向かう2枚の隔壁が設けられていることを特徴とするステータコラムを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ガスの排気経路において生じる圧力差を緩和することで、均一にガスを流すことができる。そのため、温度センサの周囲のガスの組成が安定するため、回転翼の温度を正確に測定することができる。
また、ガスの不均衡な流れにより生じるプロセスガスの侵入による生成物の堆積を未然に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の溝の深さを変えた第1の実施形態に係る真空ポンプの概略構成例を示した図である。
【
図2】本発明の溝の幅を変えた第2の実施形態に係る真空ポンプの概略構成例を示した図である。
【
図3】本発明の排気口の数を増やした実施形態に係る真空ポンプを示した平面図である。
【
図4】本発明の排気経路を改良した実施形態に係る真空ポンプ(蓋設置前)を示した平面図である。
【
図5】本発明の排気経路を改良した実施形態に係る真空ポンプ(蓋設置後)を示した平面図である。
【
図6】本発明の排気経路を改良した実施形態に係る真空ポンプの概略構成例を示した図である。
【
図7】従来技術に係る真空ポンプを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の真空ポンプおよびステータコラムにおける好適な実施の形態について、
図1から
図6を参照して詳細に説明する。
(1)実施形態の概要
(i)
図1、
図2に示すように、ステータコラム20の外周面から回転翼の内周に向かう隔壁X、Yを2箇所設け、円周方向の溝状の流路を設ける。その流路の断面積を円周方向で変化させることで、流路内を流れるガスの圧力を変化させるようにする。その結果、下流側の隔壁の前後の圧力差を場所によらず均等にできるため、下流側の隔壁と回転翼の内周面の間の隙間を通るガスの流量を場所によらず均等にできる。
断面積を変化させる方法は、
図1に示す溝状の流路の深さを変える方法(第1の実施形態)と、
図2に示す2箇所の隔壁の間隔を変える方法(第2の実施形態)がある。
(ii)
図4から
図6に示すように、排気口6に対して、左右に90度位相がずれた位置に、排気経路の入り口51を1箇所ずつ設け、さらに、2つの排気経路の入り口51と排気口6とを結ぶ排気経路を設ける。
それによって、排気機構の終端から排気口6の入り口までの距離が半減し、排気機構の終端から排気口6の入り口までの排気抵抗で生じる圧力差を低減させる。
ベース3の上面に、円周状に延びた溝を設け、その両端のみに開口された蓋60を設置すると、2つの入り口と、排気口を結ぶ排気経路を容易に形成することができる。
【0010】
(2)実施形態の詳細
以下、本発明の好適な実施の形態について、
図1から
図6を参照して詳細に説明する。
【0011】
(真空ポンプ1の構成)
まず、本実施形態に係る真空ポンプ1の構成について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る真空ポンプ1を説明するための図であり、真空ポンプ1の軸線方向の断面を示した図である。
本実施形態の真空ポンプ1は、ターボ分子ポンプ部とねじ溝ポンプ部を備えた、いわゆる複合型タイプの分子ポンプである。但し、本実施形態は、ねじ溝ポンプ部を備えない真空ポンプにも適用可能である。
真空ポンプ1の外装体の一部を形成するケーシング2は、略円筒状の形状をしており、ケーシング2の下部(排気口6側)に設けられたベース3と共に真空ポンプ1の外装体を構成している。そして、この真空ポンプ1の外装体の内部には真空ポンプ1に排気機能を発揮させる構造物である気体移送機構が収納されている。
この気体移送機構は、大きく分けて、回転自在に支持された回転部と、真空ポンプ1の外装体に対して固定された固定部と、から構成されている。
【0012】
ケーシング2の端部には、真空ポンプ1へ気体を導入するための吸気口4が形成されている。ここからこの真空ポンプ1は、プロセスガスを導入(吸引)する。
また、ケーシング2の吸気口4側の端面には、外周側へ張り出したフランジ部5が形成されている。
ベース3には、真空ポンプ1内の気体を排気するための排気口6が形成されている。
【0013】
回転部は、回転軸であるシャフト7、このシャフト7に配設されたロータ8、ロータ8に設けられた複数の回転翼9(吸気口4側)および回転円筒体10(排気口6側)などから構成されている。なお、シャフト7およびロータ8によってロータ部が構成されている。
回転翼9は、シャフト7の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜してシャフト7から放射状に伸びた複数のブレードからなる。
また、回転円筒体10は、回転翼9の下流側に位置し、ロータ8の回転軸線と同心の円筒形状をした円筒部材からなる。
本実施形態では、この回転円筒体10における下流側が、温度センサユニット19が温度を測定する被測定対象となる。
シャフト7の軸線方向中程には、シャフト7を高速回転させるためのモータ部11が設けられている。
【0014】
さらに、シャフト7のモータ部11に対して吸気口4側、および排気口6側には、シャフト7を径方向(ラジアル方向)に非接触で支持するための径方向磁気軸受装置12、13が、また、シャフト7の下端には、シャフト7を軸線方向(アキシャル方向)に非接触で支持するための軸方向磁気軸受装置14が各々設けられており、ステータコラム20に内包されている。
【0015】
ステータコラム20の外径部かつ排気口6側に、回転部の温度を測定するための温度センサユニット19が配設される。
温度センサユニット19は、円板状の受熱部(すなわち、温度センサ部)、ステータコラム20に固定される取付部、そして、受熱部と取付部とを繋ぐ円筒状の断熱部により構成される。受熱部は、被測定対象である回転円筒体10(回転部)からの伝熱を検知するために断面積が広ければ広いほど好ましい。そして、回転円筒体10と隙間を介して対向するように配設される。
なお、この温度センサユニット19の設置位置は、排気口6側に限らず、パージガスが流れる箇所であればよい。
【0016】
なお、本実施形態では、受熱部はアルミニウムで、そして断熱部は樹脂で構成されるが、これに限ることはなく、受熱部も断熱部も樹脂で一体形成する構成にしてもよい。
また、断熱部あるいは取付部あるいはステータコラム20に第2の温度センサ部を配設して、この第2の温度センサ部と、上述した受熱部に配設された温度センサ部(第1の温度センサ部)との温度差を利用して被測定対象(回転部)の温度を推定する構成にしてもよい。
【0017】
真空ポンプ1の外装体(ケーシング2)の内周側には、固定部(固定円筒部)が形成されている。この固定部は、吸気口4側(ターボ分子ポンプ部)に設けられた固定翼15と、ケーシング2の内周面に設けられたねじ溝スペーサ16(ねじ溝ポンプ部)などから構成されている。
固定翼15は、真空ポンプ1の外装体の内周面からシャフト7に向かって、シャフト7の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して伸びているブレードから構成されている。各段の固定翼15は、円筒形状をしたスペーサ17により互いに隔てられている。
真空ポンプ1では、固定翼15が軸線方向に、回転翼9と互い違いに複数段形成されている。
【0018】
ねじ溝スペーサ16には、回転円筒体10との対向面にらせん溝が形成されている。ねじ溝スペーサ16は、所定のクリアランス(間隙)を隔てて回転円筒体10の外周面に対面するように構成されている。ねじ溝スペーサ16に形成されたらせん溝の方向は、らせん溝内をロータ8の回転方向にガスが輸送された場合に、排気口6に向かう方向である。
なお、らせん溝は、回転部側と固定部側の対向面の少なくとも一方に設けられていればよい。
また、らせん溝の深さは、排気口6に近づくにつれて浅くなるようになっており、それ故、らせん溝を輸送されるガスは排気口6に近づくにつれて徐々に圧縮されるように構成されている。
【0019】
また、ベース3の外周面にパージポート18が設けられている。パージポート18は、パージガス流路を介してベース3の内部領域(すなわち、電気部品収納部)と連通している。パージガス流路は、ベース3の外周壁面から内周壁面まで径方向に沿って貫通して形成された貫通横孔であり、パージポート18から供給されるパージガスを、電気部品収納部へと送り込むパージガスの供給路として機能する。
なお、このパージポート18は、ガス供給装置にバルブを介して接続されている。
【0020】
ここで、パージガスの流れについて説明する。パージポート18から供給されたパージガスは、ベース3およびステータコラム20の内部に導入される。そして、モータ部11や径方向磁気軸受装置12、13、ロータ8とステータコラム20の間を通ってシャフト7の上部側へ移動する。さらに、ステータコラム20とロータ8の内周面間を通って排気口6へと送られ、取り込まれた気体(プロセスガスとして用いられたガス)とともに、吸気口4から真空ポンプ1の外へと排出される。
【0021】
このように構成された真空ポンプ1により、真空ポンプ1に配設される、図示しない真空室(真空容器)内の真空排気処理が行われる。真空室は、例えば、表面分析装置や微細加工装置のチャンバ等として用いられる真空装置である。
【0022】
ここで、パージガスについて説明する。
パージガスは、図示しない外部のパージガス供給装置から、パージポート18を介して真空ポンプ内に導入される。このパージガス供給装置は、真空ポンプ1に供給されるパージガスが適切な量になるように流量を制御し、所定のバルブを介して真空ポンプ1のパージポート18に繋がっている。
【0023】
ここで、パージガスは、窒素ガス(N2)やアルゴンガス(Ar)などの不活性ガスである。当該パージガスを電気部品収納部に供給することで、真空ポンプ1が接続された真空容器から排気するガスに含まれる虞がある腐食性ガス(プロセスガスとして用いられたガス)から、電気部品を保護するために利用される。すなわち、このパージガスは、プロセスガスを外部に押し流す働きをしている。そのため、パージガスを導入した場合は、可能な限り真空ポンプの内部は、パージガスに不純物が混じらない100%の状態を創出するのが望ましい。また、温度センサユニット19により回転翼の温度測定をする際にも安定して正確な測定を行うために、パージガス100%の雰囲気が望ましい。そのため、温度センサユニット19の周囲のガスを適切にコントロールした状態にしておくことが重要である。
以下の実施形態では、パージガスは、一例として、熱伝導率が比較的良く、安価な窒素ガスを用いて説明する。
【0024】
次に、本実施形態に係る第1の環状のガスの流路および第2の環状のガスの流路について説明する。
ここで、第1の環状のガスの流路90は、
図1および
図2に示すように、ねじ溝スペーサ16の出口と排気口6とを連通している環状の流路である。圧縮されたプロセスガスおよびパージガスは、この流路を辿って真空ポンプ1の外部に排出される。
第2の環状のガスの流路80は、ステータコラム20の外周面から回転体に向かう隔壁X、Y(上下に2箇所)を設けて形成された円周方向の溝状のガスの流路である。
【0025】
ねじ溝排気機構から排出されたガスは、この第1の環状のガス流路90を半周廻って排気口6から排出されるが、この第1の環状のガス流路90の断面積が十分でなく抵抗が大きい場合、排気口6側とその反対側で圧力差が生じてしまう。
図1のAで囲ってある場所および第1の環状のガス流路90が低圧になり、一方、Bで囲ってある場所および対応する第1の環状のガス流路90が高圧になる。
このような圧力差が生じると一方にのみパージガスが流れるとパージガスの速い流れによって、プロセスガスを押し流すことができなくなり、例えば温度センサユニット19の周囲で窒素ガス(N2)という雰囲気を創出できなくなる。
【0026】
そこで、この第2の環状のガスの流路80の断面積を円周方向で変化させることで、流路内を流れるガスの圧力を変化させ、適切にコントロールができるようにする。
例えば、排気口6近傍の断面積を広く、反対側を狭くすると、流路内の圧力を排気口6近傍で低く、反対側で高くすることができる。
その結果、下流側の隔壁の前後の圧力差を場所によらず均等にできるため、下流側の隔壁と回転翼の内周面の間の隙間を通るガスの流量を場所によらず均等にできる。こうすることで、ガスが一方にのみ流れるという現象を緩和することができる。
【0027】
図1に示す第1の実施形態では、この第2の環状のガスの流路80(溝)の深さを円周方向で変化させることにより、排気口6近傍の断面積を広く、反対側を狭くしている。
一方、
図2に示す第2の実施形態では、隔壁X、Yの間隔(幅)を円周方向で変化させることにより、排気口6近傍の断面積を広く、反対側を狭くしている。
【0028】
図1に示す第1の実施形態では、ガスが回転翼と接する面を広く取れるので、ガスを循環させる牽引力を得やすくなるというメリットがある。
一方、
図2に示す第2の実施形態では、ガスを循環させる牽引力では劣るものの、流路内の圧力が高い、排気口6の反対側においてガスをシールするために絞り部の幅を広く取れるので、下流側の隔壁を通ってプロセスガスが逆流するのを効果的に防止できる。
【0029】
次に、
図3を参照して、第3の実施形態を説明する。
図3は、排気口の数を増やした実施形態に係る真空ポンプを示した平面図である。
第2の環状のガスの流路80に圧力差が生じるのは、排気口6とその反対側に、排気口6との距離の差があることが原因である。よって、排気口6の数を増やすことにより、この距離の差を縮めることができ、圧力差を緩和することができる。
例えば、排気口6を対向する位置にも設ければ、圧力差が生じる第2の環状のガスの流路80が1/4周になるので、圧力差を排気口6が1箇所の場合に比べて半減することができる。
図3に示す例では、排気口6を3箇所設けているので、圧力差を排気口6が1箇所の場合に比べて1/3とすることができる。
排気口6の数には、特に制限はないが、製造コストと現場での接続の手間等を考慮して、適宜決定することができる。
【0030】
次に、
図4から
図6を参照して、第4の実施形態を説明する。
図4および
図5に示すように、排気口6に対して、左右に90度位相がずれた位置に、排気経路の入り口51を1箇所ずつ設け、さらに、2つの排気経路の入り口51と排気口6とを結ぶ排気経路を設ける。
それによって、排気機構の終端から排気口6の入り口までの距離が半減し、排気機構の終端から排気口6の入り口までの排気抵抗で生じる圧力差を低減させることができる。
ベース3の上面に、円周状に延びた排気経路の溝50を設け、その両端のみに開口された蓋60を設置すると、2つの排気経路の入り口と、排気口6とを結ぶ排気経路を容易に形成することができる。なお、蓋60は、半円状のプレートである。
【0031】
上記した第1の実施形態から第4の実施形態では、環状のガスの流路で生じる圧力差を緩和することで、導入するパージガスの流れを適切にコントロールし、本来のパージガスの機能を十分に発揮させることができる。
よって、温度センサユニット19の周囲に、パージガス100%に近い雰囲気を創出することで、正確に温度を計測することができる。結果として、回転翼が過熱によりクリープ現象を引き起こすことを未然に防止できる。
また、パージガスの流れによって、プロセスガスを排気口6から排出することができ、プロセスガスが真空ポンプ1の内部に侵入し、例えば回転翼に生成物が堆積することを防止できる。
【0032】
なお、本発明の本実施形態および各変形例は、必要に応じて組み合わせる構成にしてもよい。例えば、第1の実施形態と第3の実施形態を併用する構成にしてもよい。
【0033】
また、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が当該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0034】
1 真空ポンプ
2 ケーシング
3 ベース
4 吸気口
5 フランジ部
6 排気口
7 シャフト
8 ロータ
9 回転翼
10 回転円筒体
11 モータ部
12、13 径方向磁気軸受装置
14 軸方向磁気軸受装置
15 固定翼
16 ねじ溝スペーサ
17 スペーサ
18 パージポート
19 温度センサユニット
20 ステータコラム
50 排気経路の溝
51 排気経路の入り口
60 蓋
80 第2の環状のガス流路
90 第1の環状のガス流路
X、Y 隔壁