(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】アルミニウム合金圧延材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 21/06 20060101AFI20230824BHJP
C22F 1/047 20060101ALI20230824BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230824BHJP
【FI】
C22C21/06
C22F1/047
C22F1/00 623
C22F1/00 613
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 670
C22F1/00 673
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
(21)【出願番号】P 2020140218
(22)【出願日】2020-08-21
【審査請求日】2022-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】521407924
【氏名又は名称】堺アルミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】籠重 眞二
(72)【発明者】
【氏名】山ノ井 智明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昌明
(72)【発明者】
【氏名】宗宮 和久
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-171559(JP,A)
【文献】特開2018-070991(JP,A)
【文献】特開平02-138447(JP,A)
【文献】特開昭57-051249(JP,A)
【文献】特開平08-269605(JP,A)
【文献】特開2001-288591(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0327964(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104762538(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/06
C22F 1/047
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:0.02質量%~0.08質量%、Fe:0.02質量%~0.08質量%、Cu:0.06質量%~0.15質量%、Mn:0.0005質量%~0.01質量%、Mg:0.42質量%~0.75質量%、Ni:0.001質量%~0.1質量%、Zn:0.001質量%~0.1質量%、Ti:0.0005質量%~0.04質量%、Ga:0.0002質量%~0.01質量%、B:0.0002質量%~0.01質量%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる化学組成を有し、
かつ、引張強さが100MPa以上180MPa以下、導電率が50%IACS以上であり、更に、リン酸:70体積%、硝酸:5体積%、残部水からなる化学研磨液にて、液温90℃、時間120秒の化学研磨処理後の反射率が65%以上であることを特徴とするアルミニウム合金圧延材。
【請求項2】
前記化学組成におけるCu:0.08質量%~0.12質量%、Mn:0.001質量%~0.005質量%、Ni:0.002質量%~0.05質量%、Zn:0.002質量%~0.05質量%、Ti:0.005質量%~0.04質量%、Ga:0.002質量%~0.05質量%、B:0.001質量%~0.02質量%であり、
かつ、引張強さが125MPa以上165MPa以下、導電率が52%IACS以上である請求項1に記載のアルミニウム合金圧延材。
【請求項3】
前記化学組成における不可避不純物中のCrが0.01質量%以下、Vが0.015質量%以下、Zrが0.015質量%以下、Caが0.005質量%以下、Pbが0.005質量%以下、Biが0.005質量%以下、Snが0.005質量%以下、Inが0.005質量%以下に規制されている請求項1または2に記載のアルミニウム合金圧延材。
【請求項4】
Si:0.02質量%~0.08質量%、Fe:0.02質量%~0.08質量%、Cu:0.06質量%~0.15質量%、Mn:0.0005質量%~0.01質量%、Mg:0.42質量%~0.75質量%、Ni:0.001質量%~0.1質量%、Zn:0.001質量%~0.1質量%、Ti:0.0005質量%~0.04質量%、Ga:0.0002質量%~0.01質量%、B:0.0002質量%~0.01質量%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる化学組成を有するアルミニウム合金鋳塊に対し、
その鋳塊に実施される面削の前または後に、500℃以上580℃以下の温度で1時間以上20時間以下の時間にて均質化処理を実施し、480℃以上550℃以下の温度で0.5時間以上10時間保持後に熱間圧延を開始し、複数の圧下パスにより圧下率95%以上99.5%以下の熱間圧延を実施した後、少なくとも1回、圧下率55%以上98.5%以下の冷間圧延を実施
することによって、引張強さが100MPa以上180MPa以下、導電率が50%IACS以上であり、更に、リン酸:70体積%、硝酸:5体積%、残部水からなる化学研磨液にて、液温90℃、時間120秒の化学研磨処理後の反射率が65%以上であるアルミニウム合金圧延材を得るようにしたことを特徴とするアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【請求項5】
前記化学組成におけるCu:0.08質量%~0.12質量%、Mn:0.001質量%~0.005質量%、Ni:0.002質量%~0.05質量%、Zn:0.002質量%~0.05質量%、Ti:0.005質量%~0.04質量%、Ga:0.002質量%~0.05質量%、B:0.001質量%~0.02質量%である請求項4に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【請求項6】
前記化学組成における不可避不純物中のCrが0.01質量%以下、Vが0.015質量%以下、Zrが0.015質量%以下、Caが0.005質量%以下、Pbが0.005質量%以下、Biが0.005質量%以下、Snが0.005質量%以下、Inが0.005質量%以下に規制されている請求項4または5に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【請求項7】
冷間圧延におけるいずれかのパスの前後に少なくとも1回、220℃以上380℃以下、0.5時間以上12時間保持による焼鈍工程を実施するようにした請求項4~6のいずれか1項に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【請求項8】
冷間圧延を施した後に少なくとも1回、150℃以上300℃以下、0.5時間以上12時間以下保持による焼鈍工程を実施するようにした請求項4~7のいずれか1項に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金圧延材を成形加工後、リン酸:70体積%~80体積%、硝酸:5体積%~10体積%、硝酸銅:0.2質量%~0.8質量%、残部水からなる化学研磨液にて、液温:90~100℃、時間:60秒~180秒の化学研磨処理を実施し、水洗、乾燥後に4~10μmのアルマイト処理を施して、反射率60%以上とすることを特徴とする光輝性成形体の製造方法。
【請求項10】
請求項4~8のいずれか1項に記載の製造方法によって得られたアルミニウム合金圧延材を成形加工後、リン酸:70体積%~80体積%、硝酸:5体積%~10体積%、硝酸銅:0.2質量%~0.8質量%、残部水からなる化学研磨液にて、液温:90~100℃、時間:60秒~180秒の化学研磨処理を実施し、水洗、乾燥後に4~10μmのアルマイト処理を施して、反射率60%以上とすることを特徴とする光輝性成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、成形加工後に化学研磨および陽極酸化処理を施すことにより、化粧品用ケース、キャップ、自動車や室内照明用のリフレクター、装飾品等に好んで使用されるアルミニウム合金圧延材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品用ケース、キャップ、自動車や室内照明用のリフレクター、装飾品等に使用される、光輝性と深絞り・へら絞り等の成形性の双方が要求される部材には、JISA1085やA1050のようなJIS1000系のアルミニウム材料がよく用いられる。また、強度が特に求められる用途についてはA5052等の5000系のアルミニウム材料が多く用いられる。
【0003】
このような用途に用いられるアルミニウム材料は、成形加工後にリン酸を主成分とする酸性浴にて電解研磨または化学研磨され、その後陽極酸化処理を実施し、必要に応じて着色された後、封孔処理を施すことにより耐傷性、耐食性、耐候性を高めることが、標準的な構成となっている。
【0004】
特に近年は、LED素子を搭載した照明器具用途や意匠性、装飾性を高め、金属的な光沢・質感・高級感を製品に付与する製品用途への需要増に対し、電力を使用せずに複雑な形状や微小な部品や内面側への光輝性付与が可能な化学研磨に適した材料ニーズが高まっている。
【0005】
このような用途に対して、上述のJISA1085やA1050のようなJIS1000系の純アルミニウム合金は絞り加工性ならびに化学研磨後の光輝性には優れるが、強度が低いため、製品としての使用時に取り扱い時の打痕の発生や落下や衝撃による変形の課題がある。一方、高強度材として知られるJISA5052等のAl-Mg系合金(5000系合金)は、強度は高いがそれ故に成形加工時の金型への負荷や成形後のスプリングバックが大きく、正確な製品形状・寸法精度を得るための易加工性を必ずしも満足していないのが現状である。
【0006】
例えば、特許文献1には、Cuを0.05%~0.15%、Siを0.1%以下、Feを0.05%~0.2%、Mgを0.2%~0.4%以下含有し、かつ、Tiを0.1%以下、Bを0.01%以下のうち少なくとも1種以上を含む光輝アルマイト性および深絞り性、深絞り時の耐肌荒れ性に優れたAl合金板とその製造方法が開示されている。
【0007】
特許文献2には、Mgを1.5%~5.0%、Tiを0.005%~0.20%、Cuを0.01%~0.30%含有し、更にMnを0.05%~0.60%、Crを0.05%~0.40%、Zrを0.05%~0.30%、Vを0.05%~0.20%、Bを0.0005%~0.05%のうち1種または2種以上含有し、かつ、不純物としてFeを0.10%以下、Siを0.10%以下、その他不純物単独で0.05%以下に抑制したスピニング加工性および光輝性に優れたAl合金とその製造方法が開示されている。
【0008】
特許文献3には、Siを0.10%以下、Feを0.10%以下、Cuを0.01%~0.10%、Mgを1.5%~3.0%含有し、残部がAlおよび不可避不純物よりなる光輝アルマイト性に優れたAl合金板の製造方法が開示されている。
【0009】
特許文献4には、Feを0.05%~0.15%、Cuを0.06%~0.15%、Tiを0.004%~0.04%含有し、不純物としてのSi、MgおよびMnが0.08%以下であり、残部がAlおよび不可避不純物からなる照明反射板用Al合金板とその製造方法が開示されている。
【0010】
特許文献5には、Feを0.005%~0.05%、Siを0.005%~0.05%、Cuを0.01%~0.1%、Crを0.05%~0.30%、Mgを2.5%~3.5%含有し、残部がAlと不純物からなる深絞り性、耐凹み性および外観に優れたAl合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開昭57-51249号公報
【文献】特開昭62-23973号公報
【文献】特開昭62-270757号公報
【文献】特開平8-269605号公報
【文献】特開2007-204842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1では電解研磨性、化学研磨性、アルマイト後の光沢については満足されているものの強度についての検討は必ずしも十分なものではない。
【0013】
特許文献2は、非常に高い強度が要求される用途への適用例であり、目的とする成形加工方法が異なるため、光輝性は満足されているものの化粧品用ケースやキャップ等の薄板の絞り材用途には適さない材料となっている。
【0014】
特許文献3は、特許文献1より高強度が要求される中強度アルミニウム合金板の製造方法について開示している。同文献では、光輝性については検討されているものの成形性については、曲げ性と張出性についてのみ検討されており、化粧品用ケースやキャップ等の薄板の絞り材用途に必須の深絞り性については検討されていない。
【0015】
特許文献4は、純アルミ系をベースにFe、Cu、Tiを添加し、耐力を低く抑えることを狙いとしているが、薄板でかつ、化粧品用ケースのように天面と側面の成形加工度が異なるような形状については、成形加工度が低く加工硬化の少ない部分の形態維持性(耐凹み性等)に著しく劣るため、取り扱い時の凹み等の課題が解決されていない。
【0016】
特許文献5には、Al-Mg系にFe、Si、Cu、Crを添加して深絞り性、耐凹み性、外観性(光輝性)を向上させることが開示されているが、アルマイト処理(陽極酸化処理)後の色調変化により、使用用途が限定される課題が残っている。
【0017】
上記のように従来においては、照明器具用途や意匠性、装飾性が要求される用途に用いられる光輝性アルミニウム材であって、光輝性易と加工性の双方を備えるアルミニウム合金板を得ることは非常に困難であるという課題があった。
【0018】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、光輝性および加工性に優れたアルミニウム合金圧延材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願発明者は、上記の課題を解決すべく、鋭意研究の結果、アルミニウム合金圧延材の組成とアルミニウム合金圧延材の製造工程を検討することで、光輝性ならびに加工性に優れたアルミニウム合金圧延材が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0020】
すなわち本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0021】
[1]Si:0.02質量%~0.08質量%、Fe:0.02質量%~0.08質量%、Cu:0.06質量%~0.15質量%、Mn:0.0005質量%~0.01質量%、Mg:0.42質量%~0.75質量%、Ni:0.001質量%~0.1質量%、Zn:0.001質量%~0.1質量%、Ti:0.0005質量%~0.04質量%、Ga:0.0002質量%~0.01質量%、B:0.0002質量%~0.01質量%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる化学組成を有し、
かつ、引張強さが100MPa以上180MPa以下、導電率が50%IACS以上であり、更に、リン酸:70体積%、硝酸:5体積%、残部水からなる化学研磨液にて、液温90℃、時間120秒の化学研磨処理後の反射率が65%以上であることを特徴とするアルミニウム合金圧延材。
【0022】
[2]前記化学組成におけるCu:0.08質量%~0.12質量%、Mn:0.001質量%~0.005質量%、Ni:0.002質量%~0.05質量%、Zn:0.002質量%~0.05質量%、Ti:0.005質量%~0.04質量%、Ga:0.002質量%~0.05質量%、B:0.001質量%~0.02質量%であり、
かつ、引張強さが125MPa以上165MPa以下、導電率が52%IACS以上である前項[1]に記載のアルミニウム合金圧延材。
【0023】
[3]前記化学組成における不可避不純物中のCrが0.01質量%以下、Vが0.015質量%以下、Zrが0.015質量%以下、Caが0.005質量%以下、Pbが0.005質量%以下、Biが0.005質量%以下、Snが0.005質量%以下、Inが0.005質量%以下に規制されている前項[1]または[2]に記載のアルミニウム合金圧延材。
【0024】
[4]Si:0.02質量%~0.08質量%、Fe:0.02質量%~0.08質量%、Cu:0.06質量%~0.15質量%、Mn:0.0005質量%~0.01質量%、Mg:0.42質量%~0.75質量%、Ni:0.001質量%~0.1質量%、Zn:0.001質量%~0.1質量%、Ti:0.0005質量%~0.04質量%、Ga:0.0002質量%~0.01質量%、B:0.0002質量%~0.01質量%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる化学組成を有するアルミニウム合金鋳塊に対し、
その鋳塊に実施される面削の前または後に、500℃以上580℃以下の温度で1時間以上20時間以下の時間にて均質化処理を実施し、480℃以上550℃以下の温度で0.5時間以上10時間保持後に熱間圧延を開始し、複数の圧下パスにより圧下率95%以上99.5%以下の熱間圧延を実施した後、少なくとも1回、圧下率55%以上98.5%以下の冷間圧延を実施してアルミニウム合金圧延材を得るようにしたことを特徴とするアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【0025】
[5]前記化学組成におけるCu:0.08質量%~0.12質量%、Mn:0.001質量%~0.005質量%、Ni:0.002質量%~0.05質量%、Zn:0.002質量%~0.05質量%、Ti:0.005質量%~0.04質量%、Ga:0.002質量%~0.05質量%、B:0.001質量%~0.02質量%である前項[4]に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【0026】
[6]前記化学組成における不可避不純物中のCrが0.01質量%以下、Vが0.015質量%以下、Zrが0.015質量%以下、Caが0.005質量%以下、Pbが0.005質量%以下、Biが0.005質量%以下、Snが0.005質量%以下、Inが0.005質量%以下に規制されている前項[4]または[5]に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【0027】
[7]冷間圧延におけるいずれかのパスの前後に少なくとも1回、220℃以上380℃以下、0.5時間以上12時間保持による焼鈍工程を実施するようにした前項[4]~[6]のいずれか1項に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【0028】
[8]冷間圧延を施した後に少なくとも1回、150℃以上300℃以下、0.5時間以上12時間以下保持による焼鈍工程を実施するようにした前項[4]~[7]のいずれか1項に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【0029】
[9]前項[1]~[3]のいずれか1項に記載のアルミニウム合金圧延材を成形加工後、リン酸:70体積%~80体積%、硝酸:5体積%~10体積%、硝酸銅:0.2質量%~0.8質量%、残部水からなる化学研磨液にて、液温:90~100℃、時間:60秒~180秒の化学研磨処理を実施し、水洗、乾燥後に4~10μmのアルマイト処理を施して、反射率60%以上とすることを特徴とする光輝性成形体の製造方法。
【0030】
[10]前項[4]~[8]のいずれか1項に記載の製造方法によって得られたアルミニウム合金圧延材を成形加工後、リン酸:70体積%~80体積%、硝酸:5体積%~10体積%、硝酸銅:0.2質量%~0.8質量%、残部水からなる化学研磨液にて、液温:90~100℃、時間:60秒~180秒の化学研磨処理を実施し、水洗、乾燥後に4~10μmのアルマイト処理を施して、反射率60%以上とすることを特徴とする光輝性成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0031】
発明[1]のアルミニウム合金圧延材によれば、Si:0.02質量%~0.08質量%、Fe:0.02質量%~0.08質量%、Cu:0.06質量%~0.15質量%、Mn:0.0005質量%~0.01質量%、Mg:0.42質量%~0.75質量%、Ni:0.001質量%~0.1質量%、Zn:0.001質量%~0.1質量%、Ti:0.0005質量%~0.04質量%、Ga:0.0002質量%~0.01質量%、B:0.0002質量%~0.01質量%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる化学組成を有し、かつ、引張強さが100MPa以上180MPa以下、導電率が50%IACS以上であり、更に、リン酸:70体積%、硝酸:5体積%、残部水からなる化学研磨液にて、液温90℃、時間120秒の化学研磨処理後の反射率が65%以上であるため、優れた光輝性および加工性を得ることができる。
【0032】
発明[2]のアルミニウム合金圧延材によれば、発明[1]のアルミニウム合金圧延材であってさらに、前記化学組成におけるCu:0.08質量%~0.12質量%、Mn:0.001質量%~0.005質量%、Ni:0.002質量%~0.05質量%、Zn:0.002質量%~0.05質量%、Ti:0.005質量%~0.04質量%、Ga:0.002質量%~0.05質量%、B:0.001質量%~0.02質量%であり、かつ、引張強さが125MPa以上165MPa以下、導電率が52%IACS以上であるため、より優れた光輝性および加工性を得ることができる。
【0033】
発明[3]のアルミニウム合金圧延材によれば、発明[1]または[2]のアルミニウム合金圧延材であってさらに、前記化学組成における不可避不純物中のCrが0.01質量%以下、Vが0.015質量%以下、Zrが0.015質量%以下、Caが0.005質量%以下、Pbが0.005質量%以下、Biが0.005質量%以下、Snが0.005質量%以下、Inが0.005質量%以下に規制されているため、より一層直ぐぐれた光輝性および加工性を得ることができる。
【0034】
発明[4]~[6]の製造方法によれば、所定の化学組成を有するアルミニウム合金鋳塊に対し、その鋳塊に実施される面削の前または後に、500℃以上580℃以下の温度で1時間以上20時間以下の時間にて均質化処理を実施し、480℃以上550℃以下の温度で0.5時間以上10時間保持後に熱間圧延を開始し、複数の圧下パスにより圧下率95%以上99.5%以下の熱間圧延を実施した後、少なくとも1回、圧下率55%以上98.5%以下の冷間圧延を実施してアルミニウム合金圧延材を得るものであるため、優れた光輝性および加工性を有するアルミニウム合金圧延材を得ることができる。
【0035】
発明[7]の製造方法によれば、発明[4]~[6]の製造方法であってさらに、冷間圧延におけるいずれかのパスの前後に少なくとも1回、220℃以上380℃以下、0.5時間以上12時間保持による焼鈍工程を実施するものであるため、より優れた光輝性および加工性を有するアルミニウム合金圧延材を得ることができる。
【0036】
発明[8]の製造方法によれば、発明[4]~[7]の製造方法であってさらに、冷間圧延を施した後に少なくとも1回、150℃以上300℃以下、0.5時間以上12時間以下保持による焼鈍工程を実施するものであるため、より一層優れた光輝性および加工性を有するアルミニウム合金圧延材を得ることができる。
【0037】
発明[9]の製造方法によれば、発明[1]~[3]のアルミニウム合金圧延材を成形加工後、リン酸:70体積%~80体積%、硝酸:5体積%~10体積%、硝酸銅:0.2質量%~0.8質量%、残部水からなる化学研磨液にて、液温:90~100℃、時間:60秒~180秒の化学研磨処理を実施し、水洗、乾燥後に4~10μmのアルマイト処理を施して、反射率60%以上とするものであるため、優れた光輝性および加工性を有する光輝性成形体を得ることができる。
【0038】
発明[10]の製造方法によれば、発明[4]~[8]の製造方法によって得られたアルミニウム合金圧延材を成形加工後、リン酸:70体積%~80体積%、硝酸:5体積%~10体積%、硝酸銅:0.2質量%~0.8質量%、残部水からなる化学研磨液にて、液温:90~100℃、時間:60秒~180秒の化学研磨処理を実施し、水洗、乾燥後に4~10μmのアルマイト処理を施して、反射率60%以上とするものであるため、優れた光輝性および加工性を有する光輝性成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本願発明者は、アルミニウム合金圧延材用鋳塊に対し熱間圧延、冷間圧延を順次実施してアルミニウム合金圧延材を製造する製造方法において、化学研磨時の均一溶解を確保するためにAl、Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Ni、Zn、Ti、B等の元素が相互に形成する金属間化合物の発生を抑止しながら材料強度ならびに導電率を制御することで、光輝性ならびに加工性に優れたアルミニウム合金圧延材が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0040】
以下に、本発明のアルミニウム合金圧延材の構成について詳細に説明する。
【0041】
本願のアルミニウム合金圧延材の合金組成(化学組成)において、各元素の添加目的および含有量の限定理由は下記の通りである。
【0042】
(Si含有量)
Siは、再結晶温度を上昇させるとともに結晶粒の粗大化を抑制する。この作用を得るために、下限値以上の含有が必要である。一方、過度に含有すると、単体またはAl-Fe-Si 系の金属間化合物を形成し、化学研磨処理時に金属間化合物周辺が局部溶解して微細な凹凸を形成し易く、反射率が低下する。また、陽極酸化皮膜中に混入した金属間化合物が、皮膜の透明性を阻害する。従い、本発明では、Si含有量は0.02質量%以上0.08質量%以下(0.02質量%~0.08質量%と同様である、以下同じ)とする。Si含有量は0.025質量%以上0.06質量%以下であることが好ましく、更に0.03質量%以上0.05質量%以下であることが一層好ましい。
【0043】
(Fe含有量)
Feは、再結晶温度を上昇させるとともに結晶粒を微細化させ材料強度を向上させる。この作用を得るために、下限値以上の含有が必要となる。一方、過度に含有すると、Al-Fe系の金属間化合物が過剰に形成され、化学研磨処理時に金属間化合物周辺が局部溶解して微細な凹凸を形成し易く、反射率が低下する。また、陽極酸化皮膜中に混入した金属間化合物が、皮膜の透明性を阻害する。本発明では、Fe含有量は0.02質量%以上0.08質量%以下とする。Fe含有量は0.025質量%以上0.06質量%以下であることが好ましく、更に0.03質量%以上0.05質量%以下であることが一層好ましい。
【0044】
(Cu含有量)
Cuは、強度向上に有効な元素である。また、Al中に固溶し、Al材と各種金属間化合物との電位差が小さくなることで、化学研磨又の表面凹凸を均一にする効果を有する。この効果を得るために、下限値以上の含有が必要となる。一方、過度に含有すると、Al-Cu系の粗大な金属間化合物が析出し易くなり、深絞り加工で割れの起点となり易い。また、陽極酸化時に皮膜の色調が黄色化し易くなる。更に多量に含有すると耐食性が低下する。従ってCu含有量の範囲は0.06質量%以上0.15質量%以下とする。更に0.08質量%以上0.12質量%以下であることが好ましく、特に0.09質量%以上0.11質量%以下であることが一層好ましい。
【0045】
(Mn含有量)
Mnは再結晶粒の微細化のために一般的に添加される合金元素であるが、一方で、必要以上に添加するとAl-Fe-Mn系の金属間化合物を形成し、化学研磨処理時に金属間化合物周辺が局部溶解して微細な凹凸を形成し易く、反射率が低下する。また、Mnが陽極酸化皮膜形成時に皮膜中に取り込まれると、皮膜の色調が褐色になる。従って、Mnの含有量は0.0005質量%以上0.01質量%以下であることが好ましい。更に0.001質量%以上0.008質量%以下であることが好ましく、特に更に0.002質量%以上0.005質量%以下であることが一層好ましい。
【0046】
(Mg含有量)
MgはAl中に固溶することで強度向上に大きく寄与する元素である。但し、本発明では製品加工時の易加工性を確保するための最適値が存在する。一方、過度に含有すると、深絞りで割れを生じ、また、陽極酸化皮膜中に混入して、皮膜の透明性を阻害する傾向がある。以上の理由によりMgの含有量を0.42質量%以上0.75質量%以下の範囲とする。更に0.45質量%以上0.65質量%以下が望ましく、特に0.50質量%以上0.60質量%以下が一層好ましい。
【0047】
(Zn含有量)
Znは少量であればAl中に固溶するため化学研磨時の金属間化合物による局部溶解が発生せず、強度アップにも寄与する元素である。しかしながら含有量が多くなると合金材の耐食性を低下させる。更に含有量が多くなるとMgとの共存による微細析出物により化学研磨時の反射率を著しく低下させる。従ってZnの含有量は0.001質量%以上0.1質量%以下とする。更に0.002質量%以上0.05質量%以下であることが好ましく、特に更に0.05質量%以上0.01質量%以下であることが一層好ましい。
【0048】
(Ti含有量)
Tiは、合金をスラブ鋳造時の鋳塊組織を微細化し、熱間圧延時に粗大再結晶による筋模様の発生を防止すると共に、冷間圧延のパス間の前後に施される焼鈍時の結晶粒径を小さくして成形加工時の肌荒れを防止する効果がある。しかしながら、多量に含有すると、晶出物がサイズの大きい晶出物が多く生成するため、化学研磨時の反射率が低下する。従って、Ti含有量はTi:0.0005質量%以上0.04質量%以下とする。更に0.005質量%以上0.03質量%以下が好ましく、特に0.008質量%以上0.02質量%以下であることが一層好ましい。
【0049】
(Ni含有量)
Niは少量であれば強度向上に有効な元素である。また。陽極酸化時の色調変化がFeやCr程大きくない。しかしながら、多量に添加するとAl-Fe-Ni系の金属間化合物を形成し、化学研磨処理時に金属間化合物周辺が局部溶解して微細な凹凸を形成し易く、反射率が低下する。従って、Ni含有量は0.001質量%以上0.1質量%以下とする。更に0.002質量%以上0.05質量%以下であることが好ましく、更に0.01質量%以上0.03質量%以下であることが一層好ましい。
【0050】
(Ga含有量)
GaはAl中に固溶するため化学研磨時の金属間化合物による局部溶解が発生せず、強度アップにも寄与する元素である。但し、多量に含有すると結晶粒界や晶出物界面に偏析しやすいため、熱間圧延時、冷間圧延時に表面割れを発生させ加工性を低下させる。従って、Gaの含有量は0.001質量%以上0.1質量%以下とする。更に0.002質量%以上0.05質量%以下であることが好ましく、更に0.01質量%以上0.03質量%以下であることが一層好ましい。
【0051】
(B含有量)
Bは鋳塊の結晶組織を微細化する効果がある。しかしながら、多量に含有すると、硬質の晶出物が多く生成するため、化学研磨時の反射率が低下する。従って、B含有量は0.0005質量%以上0.04質量%以下とする。更に0.001質量%以上0.02質量%以下が好ましく、特に0.003質量%以上0.01質量%以下であることが一層好ましい。
【0052】
(Cr含有量)
Crは強度向上ならびに結晶粒の微細化に有効な元素として知られているが、一方で熱間圧延時の加工性を低下させる。また、金属間化合物として析出して化学研磨時の反射率が低下する。また、陽極酸化時に皮膜の色調が黒色化し易くなる。さらに過度に含有すると、粗大な金属間化合物により皮膜が白濁化する。従って不可避不純物としてのCrの含有量の範囲は0.01質量%以下とする。更に0.008質量%以下であることが好ましく、特に0.0005質量%以下であることが一層好ましい。
【0053】
(V含有量)
Vは粒界に偏析しやすく、V含有量が多くなると延性を低下させるため、少ないことが好ましい。従って、不可避不純物としてのV含有量は0.015質量%以下とする。更に0.01質量%以下が好ましく、特に0.005質量%以下であることが一層好ましい。
【0054】
(Zr含有量)
Zrは粒界に偏析しやすく、Zr含有量が多くなると延性を低下させるため、少ないことが好ましい。また、更に過度に含有するとAlとの微細な金属間化合物を形成し、化学研磨時の反射率が低下する。従って、不可避不純物としてのZr含有量は0.015質量%以下とする。更に0.01質量%以下が好ましく、特に0.005質量%以下であることが一層好ましい。
【0055】
(Ca含有量)
Caは多量に含有すると延性を低下させる。従って、不可避不純物としてのCa含有量は0.005質量%以下であることが好ましく、更に0.004質量%以下であることが好ましく、特に0.003質量%以下であることが一層好ましい。
【0056】
(In含有量)
Inは耐食性を著しく低下させるため少ないことが好ましい。不可避不純物としてのIn含有量は0.005質量%以下であることが好ましく、更に0.004質量%以下であることが好ましく、特に0.003質量%以下であることが一層好ましい。
【0057】
(Pb、Bi、Sn含有量)
Pb、Bi、Snはアルミニウム中の固溶限が極めて低く、粒界に析出しやすい。従って不可避不純物としての各元素の含有量として0.005質量%以下であることが好ましく、更に0.004質量%以下であることが一層好ましく、特に0.003質量%以下であることが一層好ましい。
【0058】
次に、本願規定のアルミニウム合金圧延材を得るための処理工程について記述する。
【0059】
常法にて溶解成分調整し、上記合金組成のアルミニウム合金鋳塊を得る。得られた合金鋳塊に熱間圧延前加熱より前の工程として均質化処理を施すことが好ましい。
【0060】
前記均質化処理はアルミニウム合金鋳塊中に固溶する元素濃度を均一にするために実施するが、温度が高すぎると共晶融解が生じ、熱間圧延時の割れの原因となるため、500℃以上580℃以下で行うことが好ましく、特に520℃以上560℃以下で行うことが好ましい。時間は1時間以上20時間以下で行うことが好ましく、特に2時間以上15時間以下で行うことが好ましい。
【0061】
アルミニウム合金鋳塊に均質化処理を行った後、熱間圧延前加熱を行う。熱間圧延前加熱の好ましい温度範囲は480℃以上550℃以下である。時間は0.5時間以上10時間以下が好ましい。更に好ましい範囲は、温度490℃以上530℃以下、時間1時間以上8時間以下である。なお、前記均質化処理および熱間圧延前加熱双方の好ましい温度範囲にて均質化処理と熱間圧延前加熱を兼ねて同じ温度で加熱しても良い。
【0062】
鋳造後熱間圧延前加熱前に鋳塊の表面近傍の不純物層を除去する為に鋳塊に面削を施すことが好ましい。面削は鋳造後均質化処理前であっても良いし、均質化処理後熱間圧延前加熱前であってもよい。
【0063】
熱間圧延前加熱後のアルミニウム合金鋳塊に熱間圧延を施す。熱間圧延は粗熱間圧延と仕上げ熱間圧延からなり、粗熱間圧延機を用い複数のパスからなる粗熱間圧延を行った後、粗熱間圧延機とは異なる仕上げ熱間圧延機を用いて仕上げ熱間圧延を行う。
【0064】
上記熱間圧延ならびにその後の製造工程における結晶組織を十分に形成させるために熱間圧延総圧下率(粗+仕上げ)は95%以上とする。また、熱間圧延上り温度は200℃以上350℃以下とすることが好ましい。熱間圧延上り温度を200℃以下では熱間圧延中の再結晶が十分に進まず、最終圧延板に深絞り・へら絞り等の絞り加工を施した際に耳率が高くなるとともにフローラインが発生し、外観不良となる。また350℃以上では熱間圧延上りの結晶粒径が大きくなるために最終圧延板の結晶粒径が大きくなり、絞り加工後に肌荒れが発生する。
【0065】
なお、本願において、粗熱間圧延機での最終パスを熱間圧延の最終パスとする場合は、仕上げ熱間圧延を省略することができる。
【0066】
冷間圧延をコイルで実施する場合には、仕上げ熱間圧延後のアルミニウム合金圧延材を巻き取り装置で巻き取って熱延コイルとすればよい。仕上げ熱間圧延を省略し、熱間粗圧延の最終パスを熱間圧延の最終パスとする場合は、熱間粗圧延の後、アルミニウム合金圧延材を巻き取り装置にて巻き取って熱延コイルとしてもよい。
【0067】
熱間圧延終了後、所定の厚さのアルミニウム合金圧延材を得るまでの冷間圧延の圧下率は所定の強度を得るために55%以上で実施されることが好ましい。冷間圧延によるアルミニウム合金圧延材の圧延率は更に70%以上が好ましく、特に85%以上が好ましい。圧下率の上限は、98.5%以下とする。
【0068】
熱間圧延終了後、冷間圧延前後またはそのパス間においてアルミニウム合金圧延材に焼鈍を実施し、機械的性質、ならびに深絞り・へら絞り性を向上させることができる。本発明において上記効果を得るために少なくとも1回、温度220℃以上380℃以下の焼鈍を実施することが望ましい。更に温度240℃以上340℃以下が好ましく、特に温度260℃以上320℃以下が一層好ましい。
【0069】
前記熱間圧延終了後、冷間圧延前後またはそのパス間において実施するアルミニウム合金圧延材の焼鈍時間は、0.5時間以上12時間以下が好ましい。更に1時間以上8時間以下が好ましく、特に2時間以上6時間以下が一層好ましい。
【0070】
前記焼鈍後に冷間圧延を実施する場合、加工硬化にて強度は向上する。但し、加工度が多すぎると伸びや、深絞り・へら絞り性の低下を招く。焼鈍後に冷間圧延を実施する場合の冷間圧延圧下率は10%以上40%以下が好ましい。更に15%以上35%以下が好ましく、特に20%以上30%以下が一層好ましい。
【0071】
更に冷間圧延を施す工程が終了した後に焼鈍を実施することで大幅な強度低下を起こすことなく冷間圧延による伸びの低下を回復させることができる。本発明において上記効果を得るために少なくとも1回、150℃以上300℃以下、0.5時間以上12時間以下保持による焼鈍を実施することが好ましい。更に、180℃以上280℃以下、1時間以上8時間以下が好ましく、特に200℃以上250℃以下、2時間以上6時間以下が一層好ましい。
【0072】
冷間圧延前あるいは冷間圧延のパス間にて、板幅端部の耳割れ部位をトリミングし、更に冷間圧延を進めることで板破断を防ぐ工程を含めても良い。
【0073】
また、冷間圧延後のアルミニウム合金圧延材に必要に応じて洗浄を実施しても良い。
【0074】
なお、本願発明のアルミニウム合金圧延材の製造はコイルで行ってもよく、単板で行ってもよい。また、冷間圧延より後の任意の工程でアルミニウム合金圧延材を切断し切断後の工程を単板で行ってもよいし、用途に応じスリットして条にしても良い。
【0075】
本願発明のアルミニウム合金圧延材の引張強度(記号σBとする)は100≦σB≦180MPa、伸び導電率(記号Σとする)はΣ≧50%IACSと規定する。引張強度σBは更に125≦σB≦165MPa、導電率Σは更に52%IACS以上が好ましい。本願発明に規定の引張強度と導電率を満足することにより、光輝性ならびに加工性に優れたアルミニウム合金圧延材が得られる。
【0076】
薄板状とされたアルミニウム合金板は、さらに、所望の成形加工を行う。該加工では、深絞り加工や、へら絞り加工が可能であり、割れの発生を招くことなく種々の形状に成形をして成形体を得ることができる。その後、バフ研磨、化学研磨処理、陽極酸化処理が施される。
【0077】
該化学研磨処理では、リン酸、硝酸、硝酸銅を含有する研磨液を推奨するものの、その他の処理条件が特に制限されるものではなく、既知の種々の方法により行うことができる。
【0078】
また、該陽極酸化処理では、膜厚を4~10μmを推奨するものの、その他の処理条件が特に制限されるものではなく、既知の種々の方法により行うことができる。
【0079】
上記の製造方法によれば、一定の強度を有することで深絞り・へら絞り等に対する適度な加工性を有し、成形後の化学研磨・アルマイト処理後の光輝性に優れ、かつ使用に際し、凹みや変形に強いアルミニウム合金圧延材が得られる。
【0080】
さらに本発明により得られたアルミニウム合金圧延材を用いて、化粧品用ケース、キャップ、自動車や室内照明用のリフレクター、装飾品等の光輝性成形体を確実に得ることができる。
【実施例】
【0081】
以下に、本発明を実施例により説明する。なお、本発明は、ここに記述する実施例に発明の範囲を限定するものではなく、本発明の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術範囲に含まれる。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
表1に本実施例で準備した各アルミニウム合金スラブ(アルミニウム合金鋳塊)の化学組成(C1~C12)を示す。C1~C6の化学組成は、本発明に関連した化学組成(請求項1の化学組成)に含まれるものであり、C7~C12の化学組成は、本発明に関連した化学組成を逸脱するものである。
【0086】
表2に本実施例において圧延材を製造するに際して実施される各種の製造工程(P1~P11)を示す。P1~P6の製造工程は、本発明に関連した製造工程(請求項4の製造工程)に含まれるものであり、P7~P11の製造工程は、いずれかの処理工程が本発明に関連した製造工程を逸脱するものである。
【0087】
また表3には表1の化学組成(C1~C12)の各合金スラブに対し、表2の製造工程(P1~P11)のいずれの工程が実施されたかの情報が含まれている。例えば実施例1~6は、化学組成C1~C6の各合金スラブに対し、製造工程P1~P6がそれぞれ実施されたものであり、比較例7~12は、化学組成C7~C12の各合金スラブに対し、製造工程P10,P7,P6,P8,P9,P11がそれぞれ実施されたものである。
【0088】
具体的に説明すると、表1の化学組成のアルミニウム合金スラブに面削を施し、次いで、面削後の合金スラブに対し加熱炉中で表2記載の均質化処理を実施した後、同じ炉中で温度を降下させ、表2記載の熱間圧延前加熱温度に到達後に保持し、表2記載の条件にて熱間圧延を実施し、表2記載の熱延上り温度、板厚の熱間圧延板を得た。仕上げ熱間圧延後の合金板に表2記載の中間熱処理、冷間圧延、最終熱処理を施し、実施例1~6および比較例7~12の所定の板厚のアルミニウム合金板(アルミニウム合金圧延材)を得た。
【0089】
こうして得られた各合金板材に以下の方法により、引張強さ、導電率、耳率を測定し評価した。その評価結果を表3に併せて示す。
【0090】
[引張強さ、耐力、伸び]
引張強さ(σB)、耐力(σ0.2)および伸び(δ)は、JISZ2201に定めるJIS5号試験片にて、圧延方向に対し平行方向に採取した試料について常温、常法により測定した。そして100≦σB≦180MPaでかつ、δ≧10%のものを「○」とした。
【0091】
[導電率]
得られた合金板の導電率を、国際的に採択された焼鈍標準軟銅(体積低効率1.7241×10-2μΩm)の導電率を100%IACSとしたときの相対値(%IACS)として求めた。
【0092】
実施例1~6および比較例7~12の各板材を90mmφの円形に打抜加工してそれぞれブランクとし、各ブランクに対し深絞り加工して、実施例1~6および比較例7~12における、底面50mmφ、肩R2.0mmの円筒容器をそれぞれ作製した。
【0093】
実施例1~6および比較例7~12の各円筒容器側壁高さを、円周方向にピッチ45°で合計8点測定し、下式のような計算から耳率を求めた。
【0094】
耳率(%)=(H45-H0-90)/{(H45+H0-90)/2}×100
ここで、
・H45:45°耳(4点)の平均高さ、
・H0-90:0°、90°耳(4点)の平均高さ、
・{(H45+H0-90)/2}:全測定点(8点)の平均高さ、
である。耳率の測定回数は、n=3とし、3回の値の平均値としている。なお、本成形用途における耳率は18%以下を合格とし、円筒容器の形状に成形できずに破断したものは「×」とした。
【0095】
次いで、上記円筒容器をリン酸:70体積%、硝酸:5体積%、残部水からなる化学研磨液にて、液温90℃、時間120秒の化学研磨処理を実施した。更に15体積%硫酸液中で液温20℃、15Vで10分の陽極酸化処理(アルマイト処理)を実施し、水洗後、90℃の温水で15 分間の封孔処理を実施した。化学研磨後、ならびに陽極酸化処理後のカップ底面の反射率の測定を実施した。反射率の測定方法は以下の通りである。
【0096】
[反射率]
反射率評価は、JISZ8741鏡面光沢度測定方法ならびに(参考)アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の45度鏡面反射率の測定方法に定める方法に従って実施した。なお、円筒容器の形状に成形できずに破断したものについては化学研磨後、ならびに陽極酸化処理後の反射率測定を実施せず、「-」としている。
【0097】
上記深絞りカップ材の底面を上面とし、円筒容器のほぼ中心部に鋼球を落下させ、耐凹み性測定を実施した。測定条件は以下の通りである。
【0098】
・鋼球径:11.0mmφ 、重量 :5.5g
・落下高さ:100mm
・凹み測定装置:触針式表面形状測定器
・測定回数:n=5
[耐凹み性]
耐凹み性の評価は、鋼球を上記所定の高さから落下させ、周辺からの凹み量を測定し、最大値が100μm以下であるものを「○」、100μmを超えるものを「×」とした。なお、円筒容器の形状に成形できずに破断したものについては耐凹み性評価を実施せず、「-」としている。
【0099】
表3に示すように本願規定の化学組成、引張強さおよび導電率を満足する実施例1~6のアルミニウム合金圧延材を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0100】
この発明のアルミニウム合金圧延材は、一定の強度を有することで深絞り・へら絞り等に対する適度な加工性を有し、成形後の化学研磨・アルマイト処理後の光輝性に優れ、かつ使用に際し、凹みや変形に強いアルミニウム合金板として利用可能である。