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  • 特許-安定なカンナビノイド組成物 図1a
  • 特許-安定なカンナビノイド組成物 図1b
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】安定なカンナビノイド組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/05 20060101AFI20230824BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230824BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20230824BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
A61K31/05
A61K31/352
A61K9/107
A61K47/10
A61K47/22
A61P43/00 111
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020522787
(86)(22)【出願日】2018-07-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-09-03
(86)【国際出願番号】 EP2018068451
(87)【国際公開番号】W WO2019008178
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】17180383.6
(32)【優先日】2017-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520206173
【氏名又は名称】ソルミック バイオテク ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イルゼ クネーラー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ゾヴィック
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-531305(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0089600(US,A1)
【文献】国際公開第2014/165672(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンナビノイドを含む組成物であって、前記カンナビノイドが光化学分解に対して安定化されており、前記組成物が水溶液中にポロキサマーと非水性非アルコキシル化溶媒のミセルを含むことを特徴とし、前記ポロキサマーと前記非水性非アルコキシル化溶媒の前記ミセルが前記カンナビノイドを封入しており、前記ポロキサマーと前記非水性非アルコキシル化溶媒との間の重量比が、9:1~39:1であり、前記組成物が、10重量%までの量でグリセロールを更に含み、前記非水性非アルコキシル化溶媒が、トコフェロール又はトコトリエノールであることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記カンナビノイドが、カンナビジオール又はテトラヒドロカンナビノールであることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記トコフェロールが、α-、β-、γ-又はΔ-トコフェロールであるか、又は、前記トコトリエノールが、α-、β-、γ-又はΔ-トコトリエノールであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記カンナビノイドが、製剤の全重量に対して、0.1~5重量%、又は、0.1~2重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
医薬製剤が、内服又は外用製剤であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の組成物を含む医薬製剤。
【請求項6】
カンナビノイドを光化学分解に対して安定化するための方法であって、
工程a)特定量のポロキサマーを前記ポロキサマーの溶融物を形成するように第1の温度に加熱する工程と、
工程b)特定量の非水性非アルコキシル化溶媒を前記ポロキサマーの溶融物に添加し、前記非水性非アルコキシル化溶媒を前記ポロキサマーの溶融物に溶解するように混合することにより第1の均質な液体混合物を形成し、その間、前記第1の均質な液体混合物の第1の混合温度を前記第1の温度の10℃以内に維持する、ただし、前記第1の混合温度が少なくとも前記ポロキサマーの溶融温度に相当することを条件とする工程と、
工程c)特定量のカンナビノイドを前記第1の均質な液体混合物に添加し、前記カンナビノイドを前記第1の均質な液体混合物に溶解するように混合することにより第2の均質な液体混合物を形成し、その間、前記第2の均質な液体混合物の第2の混合温度を前記第1の混合温度の10℃以内に維持する、ただし、前記第2の混合温度が少なくとも前記ポロキサマーの溶融温度に相当することを条件とする工程と、
工程d)2つ以上のカルボキシル部位を有するカルボン酸の水溶液を前記第2の均質な液体混合物に特定量添加し、前記2つ以上のカルボキシル部位を有するカルボン酸の水溶液の第3の混合温度が前記第1の温度の10℃以内である、ただし、前記第3の混合温度が少なくとも前記ポロキサマーの溶融温度に相当することを条件とし、前記2つ以上のカルボキシル部位を有するカルボン酸の水溶液に前記カンナビノイドを封入している、前記ポロキサマーと前記非水性非アルコキシル化溶媒のミセル溶液を形成するように混合する工程と、
工程e)前記ミセル溶液の温度を前記ポロキサマーと非水性非アルコキシル化溶媒の溶融温度を下回る温度まで下げる工程と、をこの順に含むことを特徴とする、方法であって、
前記非水性非アルコキシル化溶媒が、トコフェロール又はトコトリエノールであり、
前記ポロキサマーと前記非水性非アルコキシル化溶媒との間の前記重量比が、9:1~39:1であり、
前記組成物が、10重量%までの量でグリセロールを更に含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項7】
工程aの後でかつ工程bの前に、前記方法が、グリセロールを、前記ポロキサマーの溶融物に添加し、前記薬学的に許容し得るポリオールを前記ポロキサマーの溶融物に溶解するように混合し、その間、前記第2の均質な液体混合物の温度を前記第1の温度の10℃以内に維持する、ただし、前記温度が、少なくとも前記ポロキサマーの溶融温度に相当することを条件とする工程を更に含むことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の温度が、50~99℃の間、又は、60~90℃の間であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポロキサマーが、ポリ(エチレンオキサイド)の2本の親水鎖によって挟まれたポリ(プロピレンオキサイド)の中心の疎水鎖を有する、請求項6~8のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンナビノイドなどの親油性生体活性化合物を含む組成物であって、本カンナビノイドが酸化及び/又は光化学分解に対して安定化されている組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬製剤により、有効成分を体内に入れて標的組織に達するようにし、そこで意図する効果を発揮できるようにする。所与の経路を介して有効成分を投与する必要がある場合には、有効成分の物理化学的性質とその製剤について十分に配慮する必要がある。
【0003】
例えば、経口経路を介する腸管による有効成分の取り込み、すなわち、全身循環血流に入る能力は、酸(胃液)、酵素分解(例えば、膵酵素)に対するその安定性と水溶性に大きく依存している。
【0004】
また、皮膚を介する取り込みは、血管とリンパ管を有さず皮膚細胞と線維を有する上部の表皮から構成されている上部の皮膚層、下部の真皮を飛び越えて、血管を有する皮下環境に入る、有効成分の能力に依存する。
【0005】
腸管内では、両親媒性を有する胆汁酸塩によって、親油性化合物が水溶性にされる。胆汁酸塩によって、内側親油性部位と外側水溶性部位から構成されている小さな丸形の構造物、いわゆるミセルに親油性成分を閉じ込めることによって、元々が水不溶性である親油性成分を水溶性にすることができる。
【0006】
しかしながら、内因性のプロセスでは、効果が比較的低い。それらは、親油性化合物自体による胆嚢からの胆汁酸塩の放出の刺激と、それに伴う食物摂取による刺激を必要とすることが最も多い。その効果は、成分を胆汁酸塩に接触させて乳剤を形成する腸管の規則的な運動性並びに放出できる胆汁酸塩の量に依存する。
【0007】
通常、このプロセスにより、親油性化合物の取り込みが5~15%の生物学的利用性まで増加するが、これは、健康な若年成人における供給には十分である。しかしながら、罹患者又は高齢者においては、この規則的なプロセスは、例えば、ビタミンA、D、EとKの欠乏症とユビキノール/ユビキノンなどのその他の必須要素又は必須脂肪酸のために、有効成分の所望の効果を発揮する又は健康とウェルネスを維持するには十分ではないことがある。また、親油性又は樹脂状の不安定な構成成分を有することが多い果物又は野菜からの天然抽出物は、それ以上取り込むことができないこともある。
【0008】
これらの成分を乳化する数多くのプロセスが文献に記載されており、長年に渡り使用されてきている。しかしながら、これらの乳剤は、臨界ミセル濃度を下回る希釈のために乳剤が「壊れる」ことによりミセル製剤を不安定にすることがある、腸管内での不安定性のために効果が低いこともある。
【0009】
前記の問題が、ほとんどの場合、不十分な貯蔵期間を示す液体又はゲル状製剤で更に悪化するのは、トローチ又はカプセル剤などの固形剤と比較して、乳化すべき成分の、光と酸素曝露に反応した分解により、乳剤の成分の可用性が更に低下するからである。
【0010】
カンナビノイド類は、水溶液では低溶解度と低安定性を示すので、油性溶液として又は有機溶媒に溶解して製剤することが多いが、これらは服用又は塗布にはかなり不適である。油性溶液として又は有機溶媒に溶解して製剤した場合には、カンナビノイド類は、酸化と光化学分解の両方を受け、これらは分析により素早く検出可能ではある。
【0011】
そのために、そのままでは不安定ではあっても、胃腸管を通過する場合に成分の安定性向上を示し、更に、特に、放射線、温度変化及び/又は太陽光に曝露された場合に優れた貯蔵期間を示す、親油性有効成分の製剤を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0012】
本発明による、組成物並びにこのような組成物を得るための方法は、有効成分、特に、カンナビノイド類などの親油性又は樹脂質有効成分を製剤する手段であって、これらの成分が、ポロキサマーとトコフェロール様化合物との複合ミセルにカンナビノイドを封入することによって、最新技術による組成物と比較して、高効率で胃腸管全体を通して容易に利用でき、更に光及び/又は熱分解に対して安定性強化を示す、手段を提供する。この手段により、そのままでは最新技術による組成物には必要であると思われる特別な予防措置無しに、周囲条件下で容易に保管できる製剤を提供することが可能になる。特に、この製剤は、冷蔵する及び/又は暗所に保管する必要はない。
【0013】
第1の態様において、本発明は、このように、カンナビノイド、特に、フィトカンナビノイド又は合成カンナビノイドなどの親油性生体活性化合物を含む組成物であって、前記カンナビノイドが酸化及び/又は光化学分解に対して安定化されており、前記組成物が水溶液中にポロキサマーと非水性非アルコキシル化溶媒ミセルのミセル溶液を含むことを特徴とし、前記ポロキサマーと非水性非アルコキシル化溶媒ミセルが親油性生体活性化合物を封入しており、前記非水性非アルコキシル化溶媒ミセルが下記式(I)を有することを特徴とする、組成物を提供する。
【化1】

(式中、Aが、H、SH、NH、COOH、CONH又はOH、又は1つのH、SH、NH、COOH、CONH又はOHを少なくとも持つC~Cアルキルセグメント又はC~Cアルケニルセグメントに相当し、Xが、直鎖又は分岐のアルキル鎖又はアルケニル鎖に相当し、R、R、R、R、R、R及びRが、互いに独立して、H又はCHのいずれかに相当し、好ましくは、式中、Aが、OHに相当し、式中、Xが、直鎖又は分岐のアルキル鎖又はアルケニル鎖に相当し、R、R、R、R、R、R及びRが、互いに独立して、H又はCHのいずれかに相当する。)
【0014】
第2の態様において、本発明は、このように、カンナビノイド、特に、フィトカンナビノイド又は合成カンナビノイドなどの親油性生体活性化合物を酸化及び/又は光化学分解に対して安定化するための方法であって、
工程a)特定量のポロキサマーをポロキサマーの溶融物を形成するように第1の温度に加熱する工程と、
工程b)特定量の式(I)を有する非水性非アルコキシル化溶媒をポロキサマーの溶融物に添加し、非水性非アルコキシル化溶媒をポロキサマーの溶融物に溶解するように混合することにより第1の均質な液体混合物を形成し、その間、第1の均質な液体混合物の温度を第1の温度の10℃以内に維持する、ただし、前記温度がポロキサマーの溶融温度に相当することを条件とする工程と、
【化2】
(式中、Aが、H、SH、NH、COOH、CONH又はOH、又は1つのH、SH、NH、COOH、CONH又はOHを少なくとも持つC~Cアルキルセグメント又はC~Cアルケニルセグメントに相当し、式中、Xが、直鎖又は分岐のアルキル鎖又はアルケニル鎖に相当し、R、R、R、R、R、R及びRが、互いに独立して、H又はCHのいずれかに相当し、好ましくは、式中、Aが、OHに相当し、式中、Xが、直鎖又は分岐のアルキル鎖又はアルケニル鎖に相当し、R、R、R、R、R、R及びRが、互いに独立して、H又はCHのいずれかに相当する。)
工程c)特定量のカンナビノイドを第1の均質な液体混合物に添加し、カンナビノイドを第1の均質な液体混合物に溶解するように混合することにより第2の均質な液体混合物を形成し、その間、第2の均質な液体混合物の温度を第1の温度の10℃以内に維持する、ただし、前記温度が少なくともポロキサマーの溶融温度に相当することを条件とする工程と、
工程d)特定量の2つ以上のカルボキシル部位を有するカルボン酸の水溶液を第2の均質な液体混合物に添加し、2つ以上のカルボキシル部位を有するカルボン酸の水溶液の温度が第1の温度の10℃以内である、ただし、前記温度が少なくともポロキサマーの溶融温度に相当することを条件とし、2つ以上のカルボキシル部位を有するカルボン酸の水溶液にカンナビノイドを封入している、ポロキサマーと非水性非アルコキシル化溶媒ミセルのミセル溶液を形成するように混合する工程と、
工程e)前記ミセル溶液の温度をポロキサマーと非水性非アルコキシル化溶媒の溶融温度を下回る温度まで下げる工程と、をこの順に含むことを特徴とする、方法を提供する。
【0015】
第3の態様において、本発明は、このように、本発明の第1の態様による組成物を含む医薬製剤を提供する。
【0016】
第4の態様において、本発明は、このように、カンナビノイドなどの親油性生体活性化合物の酸化及び/又は光化学分解を軽減するために、本発明の第1の態様による組成物の使用を提供する。
【0017】
第5の態様において、本発明は、このように、医薬製剤における、本発明の第1の態様による組成物の使用を提供する。
【0018】
本発明の更なる実施形態は、従属請求項において明らかにされている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明の好ましい実施形態は、図面を参照して下記に説明するが、これは、本発明の好ましい実施形態を例示するためのものであり、本発明を限定するものではない。図面では、以下を示す。
【0020】
図1a図1aは、カンナビジオール(CBD)の溶液の2つのクロマトグラムを示し、一方のクロマトグラムは、溶液の調製日に測定され(0日目、実線)、他方は、調製後275日目に測定され(点線)、その間、溶液は、室温で保管されて自然光に曝露された。
図1b図1bは、本発明によるカンナビジオール(CBD)の安定化組成物の2つのクロマトグラムを示し、一方のクロマトグラムは、組成物の調製日に測定され(0日目、実線)、他方は、調製後275日目に測定され(点線)、その間、組成物は、室温で保管されて自然光に曝露された。
図2a図2aは、光への曝露から保護されたカンナビジオール(CBD)の溶液におけるカンナビジオール(CBD)含有量(μg/mL)(菱形)と、光に曝露されたカンナビジオール(CBD)の溶液におけるカンナビジオール(CBD)含有量(μg/mL)(方形)の2つの経時的な測定シリーズを示す。
図2b図2bは、光への曝露から保護された本発明によるカンナビジオール(CBD)の安定化組成物におけるカンナビジオール(CBD)含有量(μg/mL)(菱形)と、光に曝露されたカンナビジオール(CBD)の溶液におけるカンナビジオール(CBD)含有量(μg/mL)(方形)の2つの経時的な測定シリーズを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本組成物において使用される化合物、特に、親油性生体活性化合物、ポロキサマー類及び非水性非アルコキシル化溶媒などは、薬学的に許容し得るグレードのもの、すなわち、薬学的に許容し得るものであってもよいという共通認識がある。
【0022】
本発明による方法では、工程aから工程d又は工程eまでの間、形成された溶融物と液体混合物又はゲルは、混合と均質な溶液又は混合物の形成を徹底して行うように溶融物、液体又はゲルを攪拌することによって処理されるという共通認識がある。
【0023】
第1の態様において、本発明は、このように、カンナビノイド、特に、フィトカンナビノイド又は合成カンナビノイドなどの親油性生体活性化合物を含む安定化組成物であって、カンナビノイドなどの前記親油性生体活性化合物が酸化及び/又は光化学分解に対して安定化されており、前記組成物が水溶液中にポロキサマーと非水性非アルコキシル化溶媒ミセルのミセル溶液を含むことを特徴とし、前記ポロキサマーと非水性非アルコキシル化溶媒ミセルがカンナビノイドなどの前記親油性生体活性化合物を封入しており、前記非水性非アルコキシル化溶媒ミセルが下記式(I)を有することを特徴とする、安定化組成物を提供する。
【化3】
(式中、Aが、H、SH、NH、COOH、CONH又はOH、又は1つのH、SH、NH、COOH、CONH又はOHを少なくとも持つC~Cアルキルセグメント又はC~Cアルケニルセグメントに相当し、Xが、直鎖又は分岐のアルキル鎖又はアルケニル鎖に相当し、R、R、R、R、R、R及びRは、互いに独立して、H又はCHのいずれかに相当し、好ましくは、式中、Aが、OHに相当し、式中、Xが、直鎖又は分岐のアルキル鎖又はアルケニル鎖に相当し、R、R、R、R、R、R及びRが、互いに独立して、H又はCHのいずれかに相当する。)
【0024】
好ましい実施形態において、本発明による組成物は、水溶液中にポロキサマーと非水性非アルコキシル化溶媒ミセルのミセル溶液を含む液体又はゲルの形態にあり、ポロキサマーと非水性非アルコキシル化溶媒ミセルがカンナビノイドなどの親油性生体活性化合物を封入している。ミセル内に親油性生体活性化合物を封入していることは、一方において、水性環境において親油性生体活性化合物を可溶化させ、他方において、カンナビノイドなどの親油性生体活性化合物を分解に対して安定化させる。また、カンナビノイドなどの親油性生体活性化合物の含有量を増加させるのに更なる有機溶媒を必要としない。
【0025】
好ましい実施形態において、本発明による組成物では、親油性生体活性化合物は、植物又は動物から単離された親油性生体活性化合物、特に、感光性であるこのような親油性生体活性化合物から選択してもよい。これには、ビタミンAなどの親油性ビタミン類、フラボノイド類、カンナビノイド類、ユビキノール/ユビキノン、フィトステロール類、フィトエストロゲン類、ポリフェノール類、アントシアニン類、ω-3脂肪酸類及びルテイン、アスタキサンチン、β-カロテンなどのカロテノイド類などの化合物が含まれる。あるいは、親油性生体活性化合物は、原薬であってもよい。特に、親油性生体活性化合物は、カンナビジオール又はテトラヒドロカンナビノールなどのカンナビノイド類の中から選択してもよい。カンナビジオール(CBD)は、カンナビスで確認される少なくとも113の活性カンナビノイド類のうちの1つである。カンナビジオールは、植物抽出物の40%までを占める主要なフィトカンナビノイドであり、副作用の無いこと、特に、習慣性の可能性の無いことを示す臨床報告により、広い範囲の潜在的な医療用途を有すると考えられている。カンナビジオールは、光及び/又は熱に曝露されると、特に不安定になることがよく知られているので、結晶性固体として保管されているのは、溶液が数日以上保管できないからである。さらにまた、カンナビジオールは、水溶液に難溶であり、それが、水溶液中でカンナビジオールを封入しているミセルのミセル溶液を提供することによって、溶解度、それゆえ生物学的利用性を増加させることができる理由である。同様のことが、テトラヒドロカンナビノールについても言える。
【0026】
好ましい実施形態において、本発明による組成物では、非水性非アルコキシル化溶媒は、α-、β-、γ-又はΔ-トコフェロールなどのトコフェロール又はα-、β-、γ-又はΔ-トコトリエノールなどのトコトリエノールである。トコフェロールとトコトリエノールは、植物油類、ナッツ類及び種子類などの供給源から容易に市場で入手できる。トコフェロールとトコトリエノールは、特に安定であるミセルを形成させる一方、更にまた、本発明において有用なトコフェロール類及び/又はトコトリエノール類の一部は、ビタミンE活性をも有する。特定の理論に束縛されるものではないが、1つ以上のポロキサマー類と、特に、カンナビノイド類に構造的に類似するトコフェロール類との併用により、本発明による組成物に見られる安定化効果を提供すると考えられる。
【0027】
好ましい実施形態において、本発明による組成物では、カンナビノイドなどの親油性生体活性化合物は、組成物の全重量に対して、0.1~10重量%、好ましくは、0.1~7重量%の量で存在する。
【0028】
好ましい実施形態において、本発明による組成物では、カンナビノイドなどの親油性生体活性化合物は、組成物の全重量に対して、0.1~10重量%、好ましくは、0.1~7重量%の量で存在し、ポロキサマーと非水性非アルコキシル化溶媒は、組成物の全重量に対して、10~80重量%、より好ましくは、15~25重量%の量で存在してもよいが、残りは水溶液、好ましくは、2つ以上のカルボキシル部位を有するカルボン酸の水溶液によって形成される。
【0029】
本発明による組成物は、組成物の全重量に対して、0.1~10重量%の量で親油性生体活性化合物を含むことができる一方、カンナビノイド類の量は、通常、0.1~3重量%の範囲であり、クリルオイル及び/又はアスタキサンチンの量は、通常、0.1~6.5重量%の範囲であり、サワーソップ植物抽出物の量は、通常、0.1~8重量%の範囲であり、ウコン植物抽出物の量は、通常、0.5~4重量%の範囲であり、ユビキノンの量は、通常、0.1~5重量%の範囲であり、プロポリスとシベリアニンジン植物抽出物の量は、通常、0.1~4重量%の範囲である。
【0030】
好ましい実施形態において、本発明による組成物では、水溶液は、2つ以上のカルボキシル部位を有するカルボン酸又はその塩の水溶液によって形成されてもよい。特に、2つ以上のカルボキシル部位を有するカルボン酸又はその塩の水溶液は、1つのカルボキシル部位を有する1つ以上のカルボン酸類又はその塩を更に含んでもよい。例えば、2つ以上のカルボキシル部位を有する適切なカルボン酸又はその塩としては、クエン酸などのトリカルボン酸類などの酸類又はそのモノ塩類、ジ塩類又はトリ塩類などが挙げられる。
【0031】
好ましい実施形態において、本発明による組成物では、本組成物は、例えば、分子量のより大きいポロキサマーと分子量のより小さいポロキサマーとの混合物などのポロキサマー類の混合物を含んでもよく、分子量のより大きいポロキサマーは、非水性非アルコキシル化溶媒に対して、例えば、約4:1などの2:1~1:1の重量比で存在する。
【0032】
好ましい実施形態において、本発明による組成物では、ポロキサマーと非水性非アルコキシル化溶媒との間の重量比は、9:1~199:1であり、好ましくは、9:1~39:1である。この比率により、カンナビノイドなど親油性生体活性化合物の良好な生物学的利用性を更に可能にする、ポロキサマーと非水性非アルコキシル化溶媒の安定した複合ミセルの形成が可能になる。例えば、非水性非アルコキシル化溶媒がトコフェロールである場合には、ポロキサマーとトコフェロールとの間の重量比は、例えば、約9:1、14:1、19:1などの上記範囲内であることができる。
【0033】
第2の態様において、本発明は、カンナビノイド、特に、フィトカンナビノイド又は合成カンナビノイドなどの親油性生体活性化合物を酸化及び/又は光化学分解に対して安定化するための方法であって、
工程a)特定量のポロキサマーをポロキサマーの溶融物を形成するように第1の温度に加熱する工程と、
工程b)特定量の下記式(I)を有する非水性非アルコキシル化溶媒をポロキサマーの溶融物に添加し、非水性非アルコキシル化溶媒をポロキサマーの溶融物に溶解するように混合することにより第1の均質な液体混合物を形成し、その間、第1の均質な液体混合物の第1の混合温度を第1の温度の10℃以内に維持する、ただし、前記第1の混合温度が少なくともポロキサマーの溶融温度に相当することを条件とする工程と、
【化4】
(式中、Aが、H、SH、NH、COOH、CONH又はOH、又は1つのH、SH、NH、COOH、CONH又はOHを少なくとも持つC~Cアルキルセグメント又はC~Cアルケニルセグメントに相当し、Xが、直鎖又は分岐のアルキル鎖又はアルケニル鎖に相当し、R、R、R、R、R、R及びRが、互いに独立して、H又はCHのいずれかに相当し、より好ましくは、式中、Aが、OHに相当し、式中、Xが、直鎖又は分岐のアルキル鎖又はアルケニル鎖に相当し、R、R、R、R、R、R及びRが、互いに独立して、H又はCHのいずれかに相当する。)
工程c)特定量のカンナビノイドなどの親油性生体活性化合物を第1の均質な液体混合物に添加し、カンナビノイドなどの親油性生体活性化合物を第1の均質な液体混合物に溶解するように混合することにより第2の均質な液体混合物を形成し、その間、第2の均質な液体混合物の第2の混合温度を第1の混合温度の10℃以内に維持する、ただし、前記第2の混合温度が少なくともポロキサマーの溶融温度に相当することを条件とする工程と、
工程d)特定量の2つ以上のカルボキシル部位を有するカルボン酸の水溶液を第2の均質な液体混合物に添加し、2つ以上のカルボキシル部位を有するカルボン酸の水溶液の第3の混合温度が第1の温度の10℃以内である、ただし、前記第3の混合温度が少なくともポロキサマーの溶融温度に相当することを条件とし、2つ以上のカルボキシル部位を有するカルボン酸の水溶液にカンナビノイドを封入している、ポロキサマーと非水性非アルコキシル化溶媒ミセルのミセル溶液を形成するように混合する工程と、
工程e)前記ミセル溶液の温度をポロキサマーと非水性非アルコキシル化溶媒の溶融温度を下回る温度まで下げる工程と、をこの順に含むことを特徴とする、方法を提供する。
【0034】
このようにして、水溶液に親油性生体活性化合物を封入している、ポロキサマーと非水性非アルコキシル化溶媒ミセルのミセル溶液の形態で、親油性生体活性化合物を安定化することによって、酸化及び/又は光化学分解に対して親油性生体活性化合物を保護できる。このようにして安定化した親油性生体活性化合物は、室温で良好な貯蔵期間を示し、更に、安定化した親油性生体活性化合物が保管された容器に保護気体を含有する必要がなくなる。ミセル形成の品質は、ほとんどの場合、目視検査によって検証できる。組成物が光学的に透明に見える(混濁と反対)場合には、適切なミセルの形成が起こっていると思われる。上記にかかわらず、本発明により形成されたミセルは、動的光散乱法(DLS)により測定した場合に、100nmを下回る平均径を示し、好ましくは、10nm~60nmの間の平均径を有することが望ましい。
【0035】
本発明による親油性生体活性化合物を安定化するための方法は、温度制御手段並びに、例えば、マグネチックスターラーなどの混合手段を備えた適切な容器内で実施してもよい。
【0036】
親油性生体活性化合物を安定化するための方法の好ましい実施形態において、ミセル溶液の温度をポロキサマーと非水性非アルコキシル化溶媒の溶融温度を下回る温度まで下げる工程eは、工程dに付随して、特に、カルボン酸の水溶液の添加後、次の混合サブ工程に付随して実施してもよい。
【0037】
第3の態様において、本発明は、本発明の第1の態様による組成物を含む医薬製剤も提供する。医薬製剤は、主としてではあるが排他的ではなく、内服又は外用製剤から選択してもよい。
【0038】
特に、本組成物が内服製剤で提供される場合には、本組成物は、そのまま用いてもよく、例えば、香料、酸化防止剤などの他の賦形剤と組み合わせてもよい。内服製剤は、液剤又はシロップ剤、ゲル剤又はカプセル化ゲル剤であってもよい。本組成物が外用製剤で提供される場合には、本組成物は、そのまま用いてもよく、例えば、油などの他の賦形剤又は一般にエモリエント剤、安定剤などと組み合わせてもよい。外用製剤は、クリーム剤、ゲル剤、リニメント剤又はバーム、ローション剤又は軟膏剤などであってもよい。代替の実施形態において、本組成物を含む外用製剤は、カンナビノイドなどの親油性生体活性化合物の経皮吸収型貼付剤であり、経皮吸収型貼付剤は、好ましくは、皮膚を通って血流内にカンナビノイドなどの親油性生体活性化合物を継続的に放出する、すなわち、カンナビノイドなどの親油性生体活性化合物の徐放性を提供する経皮吸収型貼付剤である。
【0039】
第4の態様において、本発明は、このように、カンナビノイドなどの親油性生体活性化合物の酸化及び/又は光化学分解を軽減するための、本発明の第1の態様による組成物の使用を提供する。このように、本組成物は、カンナビノイドなどの親油性生体活性化合物を提供するために使用でき、カンナビノイドなどの親油性生体活性化合物は、ポロキサマーとトコフェロールから形成されているミセル中で安定化され、本化合物は、放射線、特に、自然光及び光酸化の影響から保護される。
【0040】
第5の態様において、本発明は、このように、例えば、外用又は内服製剤などの医薬製剤における、本発明の第1の態様による組成物の使用を提供する。
【0041】
本発明の更なる実施形態は、従属請求項において明らかにされている。
【実施例
【0042】
第1のポロキサマー(Kolliphor(登録商標)P188の商標でドイツBASF社から市販で入手可能)4重量部と第2のポロキサマー(Kolliphor(登録商標)P407の商標でドイツBASF社から市販で入手可能)16重量部をビーカー中で混合して、第1の無色かつ透明溶融物が形成されるまで、70~80℃の間の温度に加熱した。続いて、DL-α-トコフェロール(ドイツBASF社から市販で入手可能)1重量部を第1の溶融物に添加し、その間、第2の淡黄色かつ透明溶融物が形成されるまで、70~80℃の間の温度を維持した。続いて、天然抽出物としてカンナビジオール1重量部を第2の溶融物に添加し、その間、カンナビジオールが溶解されることにより第3の透明溶融物を形成するまで、70~80℃の間の温度を維持した。その後、70~80℃の間の温度に予熱した、ソルビン酸カリウム0.1重量部とクエン酸0.05重量部を含む水溶液88重量部を攪拌下で第3の溶融物に添加し、第3の溶融物内にその水を分散させるようにして淡黄色かつ透明ゲルを形成し、その後、4℃まで冷却してカンナビジオールを含む安定化組成物を形成した。
【0043】
カンナビジオールの比較組成物として、アセトニトリル:水(1:1)に1w/w%のカンナビジオールを含むカンナビジオールの溶液を使用した。
【0044】
次に、両組成物を0日目にRP-HPLCで分析し、室温で自然光に275日曝露した後、再び分析した。図1aに示すように、カンナビジオール(CBD)に対応するピークの下の面積は、275日後のカンナビジオールの溶液ではほとんど消失した(点線)一方、図1bに示すように、安定化組成物では、カンナビジオール(CBD)に対応するピークの下の面積は、約45%減少した(点線)。このように、この結果は、有機溶媒の溶液と比較して、カンナビジオールの安定化組成物では、カンナビジオールを分解する傾向減少を示している。
【0045】
さらにまた、更なる実験において、アセトニトリル:水(1:1)に1w/w%のカンナビジオールを含むカンナビジオールの溶液と安定化組成物の両方を光保護容器に入れて、275日間室温で光に曝露し、カンナビジオールの濃度を測定した。図2aに示すように、光曝露がないと、アセトニトリル:水(1:1)に1w/w%のカンナビジオールを含むカンナビジオールの溶液のサンプルにおいて、同一サンプルを光に曝露した場合(方形)と比較して、カンナビジオールの分解が著しく減少したという結果になった(菱形)。これに対して、図2bに示すように、カンナビジオールの分解の差は、安定化組成物の場合には、より目立たなくなり、未曝露サンプル(菱形)と曝露サンプル(方形)は変化がより少なく、これは更に、光化学分解及び/又は光酸化が、分析サンプル中のカンナビジオールの分解の原因になること及びミセル化による安定化によりカンナビジオールの光化学分解が軽減されることを示している。

図1a
図1b
図2a
図2b