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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】水素貯蔵材料
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/00 20060101AFI20230824BHJP
   C01B 32/158 20170101ALI20230824BHJP
   C01B 32/198 20170101ALI20230824BHJP
【FI】
C01B3/00 B
C01B32/158
C01B32/198
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020538698
(86)(22)【出願日】2019-01-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-04-22
(86)【国際出願番号】 EP2019050758
(87)【国際公開番号】W WO2019138099
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2021-12-08
(31)【優先権主張番号】18151472.0
(32)【優先日】2018-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514095985
【氏名又は名称】エコール ポリテクニーク フェデラル ドゥ ローザンヌ(エーペーエフエル)
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、イーナ
(72)【発明者】
【氏名】ジュテル、アンドレアス
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/038600(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107381546(CN,A)
【文献】韓国登録特許第10-1744122(KR,B1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0300063(US,A1)
【文献】特開2003-047843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00
C01B 32/158
C01B 32/198
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料を含む水素貯蔵材料であって、前記炭素材料は、3D構造を有するとともに、酸化グラフェンとカーボンナノチューブとで構成され前記3D構造は、酸化グラフェン層間にカーボンナノチューブが凝集して配置されて、酸化グラフェン層間の間隔が広げられていることを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項2】
カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1記載の水素貯蔵材料。
【請求項3】
水素貯蔵容量が4.5質量%以上であることを特徴とする請求項1または2記載の水素貯蔵材料。
【請求項4】
水素貯蔵容量が5質量%以上であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の水素貯蔵材料。
【請求項5】
水素がp=5MPaおよびT=298Kで吸収されたものであることを特徴とする請求項4記載の水素貯蔵材料。
【請求項6】
3D構造を有するとともに、酸化グラフェンと、カーボンナノチューブまたは多層カーボンナノチューブとで構成される炭素材料であって、前記3D構造は、酸化グラフェン層間にカーボンナノチューブまたは多層カーボンナノチューブが凝集して配置されて、酸化グラフェン層間の間隔が広げられている炭素材料を合成するための方法であって、酸化グラフェンとカーボンナノチューブとを脱イオン水に分散させ、混合し、酸と還元剤とを加え、撹拌し、炭素材料を取り出すことを特徴とする炭素材料の合成方法。
【請求項7】
取り出し工程が濾過工程および洗浄工程を含むことを特徴とする請求項6記載の炭素材料の合成方法。
【請求項8】
酸がHCl 1Mであることを特徴とする請求項6または7記載の炭素材料の合成方法。
【請求項9】
還元剤がビタミンCであることを特徴とする請求項6から8までのいずれか1項記載の炭素材料の合成方法。
【請求項10】
酸化グラフェンとカーボンナノチューブとを、1:1の質量比率で分散させることを特徴とする請求項6から9までのいずれか1項記載の炭素材料の合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素貯蔵材料に関し、より詳細には、水素貯蔵を向上させることができる3D炭素構造に関する。
【背景技術】
【0002】
水素サイクルは、水からの水素製造、水素貯蔵、水素燃焼例えば燃料電池といった、3つのセクターで構成されている。一般に、水素の貯蔵は、圧縮ガス、液体水素、物理吸着水素、金属水素化物、複合水素化物、最後に化学水素化物といった、6つの異なる方法と材料に基づくことができる。過去20年間に水素貯蔵材料の開発が大きく進歩したにもかかわらず、現在の限界は約20質量%、2000kg・m-3である。これにより、蓄積エネルギは、炭化水素のエネルギ密度の約半分に制限される。
【0003】
上記の方法の中で、物理吸着水素が特に好ましい。なぜなら、これは可逆的であり、また理論的には、炭素材料などの低密度材料の表面に大量の水素を吸収できるためである。ファンデルワールス相互作用における相互作用エネルギは5kJ・mol-1(Hの場合)のオーダであるため、かなりの量の吸着分子は、低温(100K)においてのみ見受けられる。1次近似によると、水素は基層の表面で吸着分子の単層を形成する。しかし、圧力を上昇させたときの、複数の不完全な層による吸着についてのより正確なモデルが、Brunauer、Emmett und Tellerによって説明されている。吸着された水素分子の量(mH2)は、次の式に従い、吸着材料の比表面積(Aads/mads)に比例する。
【0004】
H2/mads=Aads/mads・(mH2/ρH21/3・ρH2
【0005】
物理吸着水素による貯蔵用として炭素材料が特に好ましい。その炭素材料として、一般的に、活性炭、カーボンナノチューブ、グラフェンまたは酸化グラフェンが挙げられる。
【0006】
活性炭は、その優れた吸着能力により、吸着剤として盛んに研究されている。特に、他の炭素材料に比べて量産が可能であり、比較的安価(0.6~5.6スイスフラン/kg)である。77Kにおける活性炭の水素貯蔵容量は2~5質量%であり、また室温における加圧下では約1.2質量%である。
【0007】
一方、大きな比表面積と曲面を持つカーボンナノチューブが発見された後、この新しいナノ材料と水素との相互作用が徹底的に調査された。吸着された水素量の比表面積への線形依存性は、金属有機構造体[Metal Organic Frameworks (MOF)]を含むあらゆる種類のナノ材料で確認された。しかし、ファンデルワールスの相互作用エネルギを増加させるすべての試みにもかかわらず、吸着の等比体積エンタルピが大幅に増加した材料は、発見されなかった。さらに、MOFのようなナノポーラス材料は、D分子からHを分離できるようにする同位体効果を示す。同位体分離は、たとえば水の電気分解によって生成された水素からの重水素の分離のような、同位体の純粋な材料を準備することのために、技術的に興味深いものである。
【0008】
最後に、酸化グラフェンは、修正されたハマー法によってグラファイトから合成される。グラフェンは酸溶液処理によって酸化され、エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基などの官能基を示す。水素は、官能基との相互作用により酸化グラフェンの層間に貯蔵される。フィルム型多層グラフェン酸化物の水素貯蔵容量は、層間における水分子の量と酸素基の量とを制御するための単純な熱処理で、増やすことができる。水素貯蔵容量は、活性炭と同様である。
【0009】
一般的な結論として、最適化された構造を持つさまざまな炭素質材料での水素の吸着が、室温と77Kにおいて調査された。活性炭、アモルファスカーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)、多孔質カーボンサンプルは、すべて同じ吸着モデルに含まれる。77Kでは、すべてのサンプルの吸着等温線はラングミュアモデルで説明できる。これに対し、室温では、貯蔵容量は圧力の線形関数となる。炭素材料の表面積と細孔サイズは、77KでのN吸着によって特徴付けられるとともに、それらの水素貯蔵容量と相関していた。水素の取り込みと比表面積(SSA)との間の直線関係が、炭素材料の性質に関係なく、すべてのサンプルについて得られた。SSAが2560m/gである最良の材料は、77Kで4.5wt%の貯蔵容量を示す。
【0010】
したがって、炭素材料における水素の貯蔵には、相互作用エネルギが低い(5kJ・mol-1)という大きな欠点があるため、低温(77K)のみでしか十分な量(>1質量%)の水素が吸着されない。その結果として、平衡圧力は非常に低く、大気圧をはるかに下回る。このことにより、そのような水素貯蔵材料の適用は不可能なものである。
【0011】
したがって、新しいタイプの水素貯蔵材料が必要である。
【0012】
これまでに、いくつかの調査が行われた。たとえば、アメリカ特許第6290753号明細書は、炭素材料による水素の貯蔵に関するものであり、より具体的には、円錐角が60°の倍数である円錐形の微細構造を含む炭素材料に水素を貯蔵する方法に関するものである。この方法では、炭素材料を反応容器に導入し、炭素材料を295~800Kの温度に保ちながら排気を行う。その後、反応容器に純水素ガスを導入し、水素ガスが炭素材料に吸収されるように、炭素材料を300~7600Torr(0.4~10bar)の範囲の水素ガス圧に晒す。その後、反応容器を、一定の水素ガス圧力下で炭素材料と共に周囲温度に置く。使用時において、水素は、周囲温度で、または反応容器内の炭素材料を加熱することによって、炭素材料からガスの形で放出される。水素貯蔵のためにこの種の炭素材料を精製する方法では、炭素材料は、微細構造の円錐角の分布を調整するための触媒を使用して、反応チャンバー内で生成される。肯定的な結果を達成するために、この文献における発明では、水素圧力を300~7600Torrに増大させる。活性炭への水素吸着は、規定温度以下で5質量%まで可能であることが確認されている。水素の脱離は150~200Kで行われた。この文献には、離脱量は記載されていない。
【0013】
2番目の文献であるアメリカ特許出願公開第2015125694号明細書は、水素を可逆的に貯蔵するための、グラフェンをベースとしたナノ複合材料に言及している。この文献の発明では、好ましくは0.2~2nmの範囲の一定の間隔を有する多結晶または単結晶グラフェンの、円筒状のスパイラルロール巻き形状を有する、多結晶または単結晶グラフェンの単層シートをベースとする、水素の可逆的な貯蔵のためのナノ複合材料が開示される。多結晶グラフェンのスパイラルロールは、最小直径50nmの粒子を有する。この発明では、水素圧力5MPa下で、グラフェンロールによる水素吸着量6~7質量%が示されている。しかしながら、水素吸着温度および脱離プロセスは記載されていない。
【0014】
さらなる文献である国際公開第WO2011/084994号明細書は、水素の貯蔵および他の軽質ガスの吸着のための、炭素分子篩に言及している。この特許出願は、水素を貯蔵するための炭素分子篩組成物と、炭素分子篩材料を形成する方法とを示している。さらに、炭素分子篩組成物を使用して水素を貯蔵する方法と、他のガスとの混合物から水素またはヘリウムなどのガスを分離する方法とが提案されている。この発明では、水素圧力を0.01bar増加させることで、細孔サイズに依存して水素吸着が1.5~3.5質量%となることを確認している。しかし、水素吸着温度および脱離プロセスは記載されていない。
【0015】
最後の文献であるアメリカ特許出願公開第2005118091号明細書は、カーボンナノチューブ材料を利用した水素貯蔵を示す。ここで、水素を貯蔵する材料は、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を含み、単層カーボンナノチューブの直径の大部分は0.4~1.0ナノメートル(nm)の範囲であり、平均長さが1000nm以下である。あるいは、単層カーボンナノチューブの直径が0.4~1.0ナノメートル(nm)の範囲であり、材料の水素吸着熱(-ΔH)が4kcal・mol-1~8kcal/molH(16~32kJ・mol-1)である。この発明では、水素圧力を0atm psiから75atm psiまで増加させて、カーボンナノチューブの水素吸着量/脱離量が確認されている。293Kにおいて、水素吸着量は7.5質量%、脱離量は6質量%である。
【0016】
上で説明したように、従来の炭素表面への水素の吸着についての主な問題の1つは、ファンデルワールス相互作用である。これは、相互作用エネルギが低い(5kJ・mol-1)という大きな欠点がある。そのため、低温(77K)でのみ、かなりの量(>1質量%)の水素が吸着される。結果として、平衡圧力は非常に低く、大気圧をはるかに下回る。このため、そのような水素貯蔵材料は、適用が不可能なものである。
【0017】
これに関して、本発明の主な目的は、上記の問題を解決することであり、より詳細には、5質量%を超える水素を吸収し、最大350Kで水素を脱離する新しい水素貯蔵材料を提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は、水素と3D炭素材料との間の相互作用が他の炭素材料と比較してはるかに強い、新しい水素貯蔵材料を提供することにある。
【0019】
本発明のさらなる目的は、材料の比表面積と比較して水素容量が非常に高い新しい水素貯蔵材料を提供することにある。これにより、本発明による新しい3D炭素材料は、水素貯蔵にとって非常に興味深いものになる。
【発明の概要】
【0020】
上記の問題は、本発明によって解決される。
【0021】
本発明の第1の態様は、酸化グラフェンおよびカーボンナノチューブからの炭素材料の3D構造である。本発明によれば、3D構造という表現は、酸化グラフェンとカーボンナノチューブとが材料内で互いに接続されていて、従来の材料よりも良好でかつ多数の、水素吸着のための経路と空間とが設けられていることを意味する。そうなるのは、酸化グラフェンに追加されたカーボンナノチューブが、酸化グラフェン層間で凝集して、酸化グラフェン層間の間隔を広げるためである。
【0022】
したがって、酸化グラフェン層間の空間に配置されたカーボンナノチューブは、3D構造を形成することができて、それぞれの酸化グラフェンやカーボンナノチューブだけに比べて、水素吸着特性を向上させることができる。
【0023】
本発明の第2の態様は、酸化グラフェンおよびカーボンナノチューブからの炭素材料の3D構造の合成に関する。
【0024】
本発明の第3の態様は、3D構造炭素材料を水素貯蔵材料として適用することに関する。
【0025】
本発明の材料は、5質量%を超える水素を吸収し、最大350Kで水素を脱離する。したがって、水素と3D炭素材料との間の相互作用は、他の炭素材料と比較してはるかに強く、水素容量は材料の比表面積と比べて非常に大きい。これにより、本発明による新しい3D炭素材料は、水素貯蔵にとって非常に興味深いものになる。
【0026】
本発明の炭素材料は、3D炭素材料への水素結合エネルギが個々の構成要素と比較して増加した水素貯蔵材料を提供するという技術的課題を解決する。実際、以下に示すように、3D炭素材料からの水素の脱離が、350K付近で観測された。
【0027】
また、以下で説明するように、水素貯蔵材料は、水素がp=50barおよびT=298Kで吸収された場合に、5質量%を超える可逆的な水素貯蔵容量となる。
【0028】
最後に、本発明による3D炭素材料は、水素吸着についての完全な可逆性を示す。この材料は、5サイクルの水素の吸着および脱離プロセス後に、5.2質量%の水素貯蔵容量を示し、優れた再水素化能力を示す。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の3D構造の炭素材料の合成についての概略図である。
図2】さまざまな炭素材料について液体N中のNにより測定されたBET吸着等温線(77Kでの)を表す図である。
図3】さまざまな炭素材料の細孔径の分布を概略的に表す図である。
図4】さまざまな炭素材料のXRDパターンを概略的に表す図である。
図5】3D構造の炭素材料のXRDパターンを概略的に表す図である。
図6】さまざまな炭素材料のTEM画像を概略的に表す図である。
図7】さまざまな炭素材料の水素貯蔵容量を概略的に表す図である。
図8】さまざまな温度における3D構造の炭素材料の水素吸収を概略的に表す図である。
図9】さまざまな炭素材料からの熱的な水素脱離を概略的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明のさらなる特別な利点および特徴は、添付の図面を参照する本発明の少なくとも1つの実施形態についての、以下の非限定的な説明から、より明らかになるであろう。
【0031】
ここでの詳細な説明は、本発明を非限定的な方法で例示することを意図している。なぜなら、ある実施形態における任意の特徴は、有利な方法によって、異なる実施形態における他の任意の特徴と組み合わせることができるためである。
【0032】
本発明は、炭素材料の3D構造を有する水素貯蔵材料に関する。この炭素材料の3D構造は、図1に概略的に示されるように、酸化グラフェンとカーボンナノチューブとから合成される。好ましくは、本発明の3D炭素材料の水素貯蔵容量は、4.5質量%である。より好ましくは、5質量%以上である。
【0033】
図1に示すように、3D構造という表現は、本発明の材料において酸化グラフェンとカーボンナノチューブとが相互に接続されていることを意味する。これにより、従来の材料よりも、水素を吸着するためのより良い、より多くの経路とスペースとが提供される。なぜなら、酸化グラフェンに加えられたカーボンナノチューブが酸化グラフェンの層の間で凝集し、それによってカーボンナノチューブが酸化グラフェン層どうしの間隔を広げるためである。
【0034】
したがって、酸化グラフェン層どうしの間に配置されたカーボンナノチューブは、3D構造を形成することができ、それぞれの酸化グラフェンやカーボンナノチューブだけの場合と比べて、水素吸着特性を向上させることができる。
【0035】
より具体的には、本発明による3D構造の炭素材料の製造方法によれば、酸化グラフェンおよびカーボンナノチューブを脱イオン水中に分散させ、次いで超音波処理させる。次に、HCl、好ましくはHCl 1Mなどの酸を加え、さらにビタミンCなどの還元剤を加え、混合物を323Kなどの弱加熱下で撹拌する。最後に、溶液をろ過し、生成物を洗浄する。
【実施例
【0036】
まず、3D炭素材料の合成例について説明する。
【0037】
この例によれば、たとえば、改変されたハマーの方法によって好ましく合成される酸化グラフェンと、カーボンナノチューブ、好ましくは、米国のプラズマケム社から購入した95.0%のMWCNTとを使用する。
【0038】
実施例によれば、カーボンナノチューブを酸化グラフェンにビタミンCによりリンクすることで、3D炭素材料が得られた。合成のために、酸化グラフェンとカーボンナノチューブとを1:1の比率(各試料300mg)としたものを、超音波処理による撹拌を3時間行うことによって、10mLのイオン水に分散させた。完全に分散したカーボンナノチューブと酸化グラフェンとの混合物に、表面処理のために、3~4滴の酸すなわち1M HClを加えた。続いて還元剤(ビタミンCやHIなど)300mgを溶解させた。混合物を、油浴中において323Kで12時間撹拌した。最後に、溶液をろ過し、生成物を100mLの脱イオン水で5回洗浄し、RTで真空乾燥させた。
【0039】
図2図9は、合成された製品のさまざまな特性と、使用された材料のみの比較データとを示す。図2に示すように、合成生成物の比表面積はA/m=340m/gである。この図2は、A=n(N)・89833m/mol=V(N)・4m/cmSTCの変換時のさまざまな炭素材料についての、液体N中のNによって測定したBET吸着等温線(77Kでの)を示す。この合成生成物は、図3に示すように、直径4nmの細孔を大量に含む。この図3は、バレット・ジョイナー・ハレンダ(BJH)分析によるBET吸着等温線から計算されたさまざまな炭素材料の細孔径分布を示す。
【0040】
図4は、明確なピークを示す、グラファイト、酸化グラフェン(GO)、カーボンナノチューブ(CNT)、本発明の3D構造の炭素材料(3D)のXRDパターンを示す。 グラファイトの積み重ねられた層の主なピークは、2θの26°においてC(002)によって観測された。ハマーの方法を使用してグラファイトを化学的に酸化すると、積層されたグラファイト層が、エポキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基などの酸素化された官能基を組み込むことにより膨張するため、C(002)ピークは2θで11°にシフトし、GOとなった。
【0041】
図5に示す2θの20°での広いピークは、3D構造の炭素材料に特徴的なものである。このピークは、上側のパターンで表されるように、水素吸収時に大幅に増加している。これは、追加のピークにつながる構造的特徴も、つまり3D構造の炭素材料のフィンガープリントも、水素相互作用が発生する場所であることを示している。
【0042】
図6に、グラファイト酸化物(a)、MWCNT(b)、3D炭素材料の構造(c)のTEM画像を示す。自由なMWCNT構造と比較して、CNTがグラフェン層に凝集して、複雑で高密度な構造を形成していることがわかる。
【0043】
図7は、グラファイト、酸化グラフェン、カーボンナノチューブ、3D炭素材料の、準備されたサンプルと、5回目の熱脱離サイクル(303K-573K)とにおいて、水素脱離容量として測定された水素貯蔵容量を示す。これら2つのサイクルの間に、50mgの試料に対し、303Kで5Ncm/minの一定流量によって水素が吸収され、吸収が飽和に達し、図8に示すように圧力が50barまで増加された。この図8は、298K、323K、353Kにおける3D構造の炭素材料の水素の吸収を概略的に示す(実線は吸着を表し、破線は脱離を表す)。
【0044】
その後、サンプルを排気し、次に熱的に脱離させ、脱離した水素の量をマスフローコントローラで測定した。3Dグラファイト材料のみが、図9に示すように大きな水素脱離を示し、約350Kにおいて最大流れとなった。これは、新しい3Dグラファイト材料の水素結合エネルギが、物理吸着エネルギと比較してはるかに高いことを示す。したがって、水素吸着は可逆的であり、最初の5回の吸着脱離サイクルで容量がわずかに増加した。
【0045】
本発明の3D炭素材料の3D構造は、いくつかの用途を有することができる。より具体的には、水素貯蔵材料、様々な触媒の担体、および/または、あらゆる種類のガスの吸着剤として、使用することができる。より具体的には、本発明の材料は、水素貯蔵材料にて水素の吸着および脱離が進行する任意の反応において使用することができる。
【0046】
本発明の実施形態はいくつかの実施形態に関連して説明されたが、多くの代替、修正、変形が、当業者にとって明らかであることが自明である。したがって、本開示は、本開示の範囲内にあるそのようなすべての代替、修正、等価、および変形を包含することが意図されている。これは特に、第1の材料の供給源、すなわち酸化グラフェンおよびCNTと、酸タイプまたは還元剤タイプとの場合に当てはまる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9