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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】遠距離優先の眼内レンズ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20230824BHJP
   G02C 7/06 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
A61F2/16
G02C7/06
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020544242
(86)(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 US2018067686
(87)【国際公開番号】W WO2019164581
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-12-27
(31)【優先権主張番号】62/633,661
(32)【優先日】2018-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391008847
【氏名又は名称】ボシュ・アンド・ロム・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BAUSCH & LOMB INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ティワリ,ニヴェダン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンカテスワラン,クリシュナクマール
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ,アンドリュー ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,チュン
(72)【発明者】
【氏名】サルヴァトーリ,ロレンツォ
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/021075(WO,A1)
【文献】特表2013-517822(JP,A)
【文献】特表2008-517731(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0018602(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
G02C 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼内レンズにおいて、
第1の光学パワーを生じる形状の前側および後側表面を有する基礎屈折構造物と、
前記基礎屈折構造物の一方の前記表面に形成されて、共通開口に亘って重なり合って第2および第3の光学パワーを生じる第1および第2の回折パターンを含む回折構造物と
を含み、
前記第2の光学パワーは、前記第3の光学パワーを不均に分割したものであり、
前記第1および第2の回折パターンは、前記第1の光学パワーを、ゼロ次回折を通して伝えて、遠距離焦点を形成するものであり、
前記第1および第2の回折パターンは、前記第2および第3の光学パワーを、一次回折を通して生成して、前記第1の光学パワーとの組合せで、各々、中間距離焦点および近方焦点を形成するものであり、
前記第1および第2の回折パターンは、非調和周期性を有し、該第1の回折パターンを通した二次回折は、前記第1の光学パワーとの組合せで、前記第2の回折パターンを通した前記一次回折により形成された前記近方焦点から僅かにずれた焦点を生じて、該近方焦点の有効深さを延伸させるものである、眼内レンズ。
【請求項2】
(a)前記第1および第2の回折パターンは、前記基礎屈折構造物の光軸を中心としたものであり、
(b)前記第1および第2の回折パターンは、各々、前記共通開口に亘って前記光軸からの半径方向距離の関数として別々に変化する段差高さを有するものである、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項3】
前記第2の回折パターンの前記段差高さは、前記光軸からの前記半径方向距離の関数として、前記第1の回折パターンの前記段差高さより大きく変化するものである、請求項2に記載の眼内レンズ。
【請求項4】
前記第1および第2の回折パターンの段差高さは、別々に変化するよう構成されており、前記遠距離焦点は、前記光軸からの前記半径方向距離の関数として前記共通開口を通って送られた光エネルギーの増加部分を受け取るように配列されたものであり、前記増加部分は、中間距離焦点によって受け取られた光エネルギーの対応する減少より、前記近方焦点によって受け取られた光エネルギーの対応する減少に由来するものである、請求項3に記載の眼内レンズ。
【請求項5】
前記段差高さは、前記光軸からの前記半径方向距離の関数として変化するものであり、前記関数は、該半径方向距離の異なる範囲で異なるものである、請求項2に記載の眼内レンズ。
【請求項6】
少なくとも一方の前記回折パターンの前記段差高さは、前記半径方向距離と非累進的に変化するものである、請求項5に記載の眼内レンズ。
【請求項7】
前記第1の回折パターンを通した二次回折は、前記第2の回折パターンを通した一次回折により形成された前記近方焦点から0.1Dだけずれた焦点を生じさせる、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項8】
前記第1および第2の回折パターンは、前記共通開口に亘って重ね合わせられており、前記回折構造物は、前記基礎屈折構造物の光軸を中心としたものである、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項9】
前記第1および第2の回折パターンは、段差高さを有し、
前記第2の回折パターンの前記段差高さは、前記光軸からの半径方向距離の関数として、前記第1の回折パターンの前記段差高さより大きく変化するものであり、
前記第1および第2の回折パターンの段差高さは、別々に変化するよう構成されており、前記遠距離焦点が前記光軸からの半径方向距離の関数として前記共通開口を通って送られた光エネルギーの増加部分を受け取るものであり、
前記光エネルギーの前記増加部分は、前記中間距離焦点によって受け取られた光エネルギーの対応する減少より、前記近方焦点によって受け取られた光エネルギーの対応する減少に由来するものである、請求項8に記載の眼内レンズ。
【請求項10】
前記段差高さは、前記光軸からの前記半径方向距離の関数として変化するものであり、前記関数は、該半径方向距離の異なる範囲で異なるものである、請求項9に記載の眼内レンズ。
【請求項11】
少なくとも一方の前記回折パターンの前記段差高さは、前記半径方向距離と非累進的に変化するものである、請求項10に記載の眼内レンズ。
【請求項12】
前記第1の回折パターンが寄与した前記第2の光学パワーは、約1.6ジオプトリ(約1.6m-1)であり、前記第2の回折パターンが寄与した前記第3の光学パワーは、約3.1ジオプトリ(約3.1m-1)である、請求項8に記載の眼内レンズ。
【請求項13】
前記第1および第2の回折パターンの段差高さは、半径方向距離の関数として別々に変化するものであり、2つの異なるアポダイズ関数が、前記基礎屈折構造物の光軸からの異なる半径方向距離に適用される、請求項1に記載の眼内レンズ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、多焦点眼内レンズ、特に、非球面を有する屈折基礎構造物上に複合回折格子を用いたレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
人間の眼の生来の水晶体レンズは、形状を変えることによって、近方から遠方(遠距離)視力までの焦点距離範囲を実現するのに必要なパワー変化に適応している。白内障手術などで、水晶体レンズを、製造した眼内レンズ(IOL)と置き換えると、そのように合焦選択範囲を実現するように適応することが長年できなかった。単眼IOLは、患者に、近方視力と遠方視力のどちらを実現するかなど、所定の合焦パワーを選択し、更に、他の距離で合焦させるには眼鏡を使用することを要求してきた。
【0003】
多焦点IOLは、典型的には、異なる光学パワーを提供する2つ以上の環状ゾーンを備えるように設計され、典型的には、屈折および/または回折合焦機構を用いる。各環状ゾーンは異なる開口を有し、外側ゾーンは、瞳孔の大きさ変化により切り詰められうる。他の多焦点IOLは、レンズ全体に亘って回折構造物を形成し、異なる回折次数を用いて、光エネルギーを異なる合焦パワーに分割する。遠方視力を実現する形状を有する基礎屈折レンズを、例えば、1つ以上の回折構造物と組み合わせて、中間距離および近方視力を提供しうる。調和関係の特徴物を有する複合回折格子も用いて、光エネルギーを異なる光学パワーに分割し、低パワー格子の二次回折が高パワー格子の一次回折と一致するようにして、回折光をより効率的に用いてきた。
【発明の概要】
【0004】
本開示の態様によれば、遠距離視力を優先したエネルギー分布を低光量条件下で有すると共に、優れた近方および中間距離視力を明るい光条件下で提供する3焦点IOLを提案する。近方および中間距離視力を実現する回折プロファイルは、半径方向距離の関数としてアポダイズされて、ユーザの瞳孔が薄明条件下で開くと、近方および中間距離視力を実現する光学パワーに向けられる光の割合が減り、遠距離視力を実現する光学パワーを通って向けられる光がより多く残る。薄明条件下でのこのように近方/中間距離エネルギーが減少して遠距離エネルギーが増加することで、望ましくない視覚的影響を最小にすると予想される。瞳孔が拡大して遠距離視力を実現する光分布が増加することは、主に、近方視力に充てられるエネルギーの減少によりうるもので、かなりの瞳孔拡大範囲に亘って、中間距離視力に充てられたエネルギーは、遠距離視力と近方視力の間の推移ゾーンを提供する。
【0005】
好ましくは、回折プロファイルは、共通中心軸を回折プロファイルと共有する基礎屈折面、例えばIOLの前面に重ねられる。反対側の屈折面、例えば後面は、同様に中心を合わせるのが好ましい。反対側の面も、屈折曲面を有するようにして、遠距離視力を実現するのに必要な光学パワーを提供し、更に非球面プロファイルを有して、眼の全光学系で予想される球面収差を補正するようにしうる。回折プロファイルは、光エネルギーを更なる合焦パワーに分割する。
【0006】
回折プロファイルは、近方および中間距離視力を一次および二次回折を通して実現し、遠距離視力を、ゼロ次回折を通して維持するために、異なる回折パターンを重ね合わせることによって形成されうる。より細かいピッチの回折パターンを通した一次回折は、近方視力の合焦パワーの増加を実現し、より粗いピッチの回折パターンを通した一次回折は、中間距離視力の合焦パワーの減少を実現する。しかしながら、2つの回折パターンを、2つのパターンの特徴物が周期的に重なるように調和的に関係させる代わりに、2つのパターンの累進的周期性は、そのような規則性を逸脱して、粗いピッチパターンの二次回折が寄与した光学パワーが、細かいピッチパターンの一次回折が寄与した光学パワーから僅かにずれるようにして、近方視力に関する焦点深さを延伸させる。したがって、粗いピッチの回折パターンの二次回折を用いて、そうでない場合には細かいピッチの回折パターンによって提供される近方パワーに寄与する代わりに、粗いピッチの回折パターンの二次回折は、近方パワーに関する焦点深さを増加させる。
【0007】
2つの重ね合わせた回折パターンの各々の回折特徴物は、垂直の段差によって分離された環状のゾーンを画定し、段差間に延伸する放物線プロファイルまたは円形近似物を有するが好ましい。2つの回折パターンを重ね合わせて、合成回折プロファイルを生成しているが、2つの回折パターンの段差高さを、2つのパターンの回折効率に基づいて、別々に調節して、光学パワーを近方、中間距離および遠方焦点の選択肢の中で望ましい量で分布させうる。更に、段差高さは、光軸からの半径方向距離の関数として変化して、瞳孔サイズが拡大した場合に、光エネルギー分布を近方、中間距離および遠方合焦の選択肢の中で変化させるのが好ましい。2つの異なるアポダイズ関数を、光軸からの異なる半径方向距離に適用するのが好ましい。
【0008】
本開示による眼内レンズは、第1の光学パワーを生じる形状の前側および後側表面を有する基礎屈折構造物と、基礎屈折構造物の一方の表面に形成されて、共通開口に亘って重なり合って第2および第3の光学パワーを生じる第1および第2の回折パターンを含む回折構造物とを含む。第2の光学パワーは、第3の光学パワーを不均一に分割したものであることが好ましい。
【0009】
第1の光学パワーは、第1および第2の回折パターンのゼロ次回折を通して伝えられて、遠距離焦点を形成するのが好ましい。第2および第3の光学パワーは、第1および第2の回折パターンの一次回折を通して伝えられて、第1の光学パワーとの組合せで、各々、中間距離焦点および近方焦点を形成するのが好ましい。好ましくは、第1および第2の回折パターンは、非調和周期性を有し、第1の回折パターンを通した二次回折により、近方焦点から僅かにずれた焦点を生じて、近方焦点の有効深さを延伸させるものである。
【0010】
第1および第2の回折パターンは、基礎屈折構造物の光軸を中心としたものであり、各々、共通開口に亘って光軸からの半径方向距離の関数として別々に変化する段差高さを有するのが好ましい。第2の回折パターンの段差高さは、光軸からの半径方向距離の関数として、第1の回折パターンの段差高さより大きく変化するのが好ましい。少なくとも一方の回折パターンの段差高さは、非累進的に変化するのが好ましい。
【0011】
遠距離焦点は、光軸からの半径方向距離の関数として共通開口を通って送られた光エネルギーの増加部分を受け取るように配列されるのが好ましい。増加部分は、中間距離焦点によって受け取られた光エネルギーの対応する減少より、近方焦点によって受け取られた光エネルギーの対応する減少に由来しうる。
【0012】
本開示による眼内レンズを、入射光を、遠距離焦点を通るように向ける第1の光学パワーを生じる形状の前側および後側表面を有する基礎屈折構造物と、基礎屈折構造物の一方の表面に共通開口に亘って形成されて、第1の光学パワーとの組合せで、各々、入射光を中間距離焦点および近方焦点を通るように向ける第2および第3の光学パワーを生じる回折構造物とを含むとも記載しうる。回折構造物は、一次回折を通して第2の光学パワーを生じる第1の回折パターン、および、一次回折を通して第3の光学パワーを生じる第2の回折パターンを含む、第1および第2の回折パターンは、共通開口に亘って重ね合わせられて、非調和周期性を有し、第1の回折パターンを通った二次回折が、近方焦点の焦点深さを延伸させる。
【0013】
遠距離焦点は、光軸からの半径方向距離の関数として共通開口を通って送られた光エネルギーの増加部分を受け取るように配列されるのが好ましい。光エネルギーの増加部分は、中間距離焦点によって受け取られた光エネルギーの対応する減少より、近方焦点によって受け取られた光エネルギーの対応する減少に由来しうる。第2の回折パターンの段差高さは、光軸からの半径方向距離の関数として、第1の回折パターンの段差高さより大きく変化するのが好ましい。段差高さを画定する関数は、半径方向距離の異なる範囲で異なり、少なくとも一方の回折パターンの段差高さは、半径方向距離と非累進的に変化しうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】眼内レンズ(IOL)の断面を前面の回折プロファイルと共に示す概略図である。
図2A】2つの重なり合った回折パターンのうち、近方焦点を生成する一方のパターンのプロファイルを示すプロットである。
図2B】2つの重なり合った回折パターンのうち、中間距離焦点を生成する他方のパターンのプロファイルを示すプロットである。
図2C】2つの重なり合った回折パターンを組み合わせたプロファイルを示すプロットである。
図3】IOLの前面のプロファイルを示すプロットであり、回折プロファイルが、基礎屈折面の屈折プロファイルに重ねられている。
図4A】近方焦点を生成する回折パターンの各ゾーンの半径方向位置およびアポダイズされた段差高さを挙げた表B1を含む。
図4B】中間距離焦点を生成する回折パターンの各ゾーンの半径方向位置およびアポダイズされた段差高さを挙げた表B2を含む。
図5】近方、中間距離および遠方(遠距離)合焦ゾーンでの光エネルギー分布を瞳孔サイズ範囲に亘って示すプロットである。
図6A】開口が3mmの際のボケ距離範囲に亘るスルー焦点MTF値を示すプロットである。
図6B】開口が4.5mmの際のボケ距離範囲に亘るスルー焦点MTF値を示すプロットである。
図7A】開口3mmについて遠方焦点での代表的な理論的スルー周波数MTF曲線を示すプロットである。
図7B】開口3mmについて中間距離焦点での代表的な理論的スルー周波数MTF曲線を示すプロットである。
図7C】開口3mmについて近方焦点での代表的な理論的スルー周波数MTF曲線を示すプロットである。
図7D】開口4.5mmについて遠方焦点での代表的な理論的スルー周波数MTF曲線を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示した眼内レンズ(IOL)10は、凸状の前面14および凸状の後面16を含む一般的なレンズ形状の基礎屈折構造物12を有するが、凹面、凸面および平面を様々な組合せで有する屈折構造物を含む様々な既知の形状のILOを表すことを意図している。更に、前面14および後面16は、球面に見えるが、両方の面14、16は、共通の光軸18を中心とした非球面であることが好ましい。本開示の様々な実施形態に基づいて構成されることを意図する回折構造物20は、IOL10の前面14の上に重ねられて、前面14の形状に組み込まれる。
【0016】
基礎屈折構造物12が寄与した屈折プロファイル、および、前面14の回折構造物20が寄与した回折プロファイルの両方が、軸対称であり、したがって、「r」が光軸からの半径方向距離の場合、基礎屈折曲線B(r)と回折曲線D(r)を重ね合わせると、前面14の全光学領域を画定しうる。基礎屈折曲線B(r)は、後面16の形状および基礎屈折構造物12の厚さを含むIOL10の他の屈折パラメータに応じて変化しうるものであり、適切な円錐定数を組み込んで球面収差も調節しながら、遠距離視力を意図した基礎光学パワー範囲を実現する。
【0017】
しかしながら、製造を行うためには、前面の基礎屈折プロファイルは、限定された光学パワー範囲に亘って、一定に保持されることが好ましく、後面の基礎屈折プロファイルを変化させて、その限定された範囲の光学パワーを調節する。後側円錐曲線は、全光学パワー範囲に亘って、略等しい負の球面収差を実現するように開発されたものである。「Aspheric Lenses and Lens Family」という名称の米国特許第8,535,376号明細書は、望ましい量の球面収差を有するIOLファミリーを形成する参考文献として、本明細書に組み込まれる。
【0018】
回折構造物20は、ILO10を通る光エネルギーを多数の回折次数に分割し、その結果、多数の合焦ゾーンを生じる。ゼロ次回折は、基礎屈折構造物12の光学パワーを伝えて遠距離焦点を生成する。中間距離および近方焦点は、基礎屈折構造物12の光学パワー以外に、更なる量の光学パワーに寄与する一次および二次回折によって提供される。回折面曲線D(r)は、図2Aから2Cに示したように2つの回折パターンを重ね合わせることで導かれる。パターンは、光軸18からの半径方向距離範囲に亘って、段差高さでプロットされている(単位は、ミリメートル)。図2Aの回折パターンは、一次回折を通して、3.1D(ジオプトリ)(3.1m-1)の更なる光学パワーに寄与して近方焦点を生成し、図2Bの回折パターンは、一次回折を通して、1.6D(ジオプトリ)(1.6m-1)の更なる光学パワーに寄与して近方焦点を生成する。図2Bの二次回折パターンは、3.2D(ジオプトリ)(3.2m-1)の更なる光学パワーに寄与し、近接した近方焦点を提供して、近方パワーに関連した焦点深さを増加させる。したがって、図2Bの粗いピッチの回折パターンが寄与した光学パワーは、図2Aの細かいピッチ回折パターンが寄与した光学パワーを不均一に分割したものである。図2A、2Bに示した2つの回折パターンの調和関係が崩れることは、回折パターンを各回折パターンが一定のピッチを有するように適合させた半径方向距離の関数としてプロットした場合に、より明らかである。
【0019】
3.1D(3.1m-1)および1.6D(1.6m-1)の更なる光学パワーに寄与する回折パターンは、各々、垂直の段差によって分離されたゾーンを含み、各ゾーンの始点と終点の間に放物線プロファイルを有する。ゾーンの終点の半径方向位置は、次の式によって与えられる。
【0020】
【数1】
【0021】
但し、「p」は、ゾーン数、「f」は、回折追加パワーの焦点距離、更に、「γ」は、設計波長である。
【0022】
図2Cに示したような最終合成回折プロファイルD(r)を、基礎屈折曲線B(r)に重ね合わせることで、図3に示したような種類のプロファイルが得られる。プロファイルは、光軸18からの半径方向距離範囲に亘って、段差高さでプロットされている。図2Cで明らかな回折プロファイルの段差は、屈折面のサグ量より、大きさが約2桁小さい。
【0023】
遠距離視力を優先したエネルギー分布を低光量条件下で実現すると共に、優れた近方視力および機能的中間距離視力を明るい光条件下で提供するために、回折プロファイルは、3.1D(3.1m-1)および1.6D(1.6m-1)パターンについて回折段差高さを変更することによって、アポダイズされる。
【0024】
回折段差高さは、次の式によって与えられる。
【0025】
【数2】
【0026】
但し、「h」は、(アポダイズされていない)回折段差高さ、「ε」は、回折効率、「γ」は、設計波長、「n」は、レンズ材料の屈折率、「n」は、房水の屈折率である。
【0027】
0≦r≦3mmの半径範囲についてのアポダイズ関数の例は、次のとおりである。
【0028】
【数3】
【0029】
r>3mmの半径範囲についてのアポダイズ関数の例は、次のとおりである。
【0030】
【数4】
【0031】
その結果得られた各ゾーン縁部についての回折プロファイル半径方向位置、および、図2A、2Bの回折パターンについてのアポダイズされた段差高さを、各々、図4A、4Bの表B1、B2に挙げている。半径方向距離の異なる範囲に亘り異なる関数を用いることで、2つの回折プロファイルパターンのアポダイズされた段差高さは、高さ不連続部が3.1D(3.1m-1)プロファイルの第6と第7ゾーンの間、および、1.6D(1.6m-1)プロファイルの第3と第4ゾーンの間に現れて、非累進的に変化する。
【0032】
図5は、数値シミュレーションを用いて開発されたエネルギーバランス図を示している。3つの各線30、32、34は、2mmから4.5mmの瞳孔直径範囲に亘って、遠方(遠距離)、中間距離、および、近方合焦ゾーンに分布した光エネルギーの各部分をプロットしている。初めの約2mmの瞳孔直径では、近方合焦ゾーンに送られた光エネルギーの部分は、遠方合焦ゾーンに送られた光エネルギーの部分に略等しいが、約2.5mmから4.5mmの瞳孔直径については、遠方合焦ゾーンに送られた光エネルギーの部分は増加し、近方合焦ゾーンに送られた光エネルギーの部分は減少する。中間距離合焦ゾーンに送られた光エネルギーの部分は、約2mmの瞳孔直径では、近方および遠方合焦ゾーンに送られた光エネルギーの部分より低レベルで始まり、約2.5mmから4.5mm瞳孔直径範囲に亘って低下するが、同じ範囲に亘る近方合焦ゾーンに送られるエネルギーの低下より小さい割合で低下する。したがって、約2.5mmから4.5mmの瞳孔直径範囲に亘り遠方合焦ゾーンによって得られた光エネルギーの増加のほとんどは、近方合焦ゾーンに送られたエネルギー部分の減少により生じたものである。中間距離合焦ゾーンは、近方および遠方合焦ゾーンに送られる異なるエネルギー変化の推移を安定させる。
【0033】
20D(20m-1)の基礎パワーIOLについて、3mmおよび4.5mmの開口での代表的な理論的スルー焦点MTF曲線を図6A、6Bに示している。MTF値を、光軸に沿った正および負のボケ距離範囲に亘ってプロットしている。プロットは、50lp/mm、ISO眼モデル0.15μmSA、および、ISO眼モデル1の眼内の0.15μmSAのIOLを企図している。
【0034】
20D(20m-1)のIOLについて、3mmの開口での代表的な理論的スルー周波数MTF曲線を、遠方(遠距離)、中間距離、および、近方焦点で、各々、図7A、7B、7Cにプロットしている。図7Dは、同様に、4.5mmの開口での遠方焦点を空間周波数の延伸された範囲に亘ってプロットしている。
【符号の説明】
【0035】
10 眼内レンズ
12 基礎屈折構造物
14 前面
16 後面
20 回折構造物
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D