(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】肝癌によく見られた複数の変異を同時に検出するctDNAライブラリーの構築及びシークエンシングデータの分析の方法
(51)【国際特許分類】
C40B 40/06 20060101AFI20230824BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20230824BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20230824BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20230824BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALN20230824BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALN20230824BHJP
【FI】
C40B40/06 ZNA
C12N15/11 Z
C12Q1/6876 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6886 Z
(21)【出願番号】P 2020562138
(86)(22)【出願日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 CN2019082233
(87)【国際公開番号】W WO2020007089
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】201810712104.3
(32)【優先日】2018-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520426298
【氏名又は名称】中国医学科学院腫瘤医院
(73)【特許権者】
【識別番号】519350421
【氏名又は名称】北京泛生子基因科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】GENETRON HEALTH (BEIJING) CO, LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 201,2/F Building 11, Zone 1, No.8 Life Park Road, Zhongguancun Life Science Park, Huilongguan Town,Changping District, Beijing 102206 China
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】焦宇辰
(72)【発明者】
【氏名】曲春楓
(72)【発明者】
【氏名】王沛
(72)【発明者】
【氏名】陳坤
(72)【発明者】
【氏名】王宇▲てぃん▼
(72)【発明者】
【氏名】宋欠欠
(72)【発明者】
【氏名】王思振
(72)【発明者】
【氏名】閻海
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106192018(CN,A)
【文献】特表2015-517307(JP,A)
【文献】特表2015-519909(JP,A)
【文献】国際公開第2018/041062(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/040901(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107385042(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C40B 40/00-40/18
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00- 3/006
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNAサンプルに対して末端修復及び3’末端のAテーリングを順次行うステップ(1)と、
ステップ(1)で処理したDNAサンプルをリンカー混合物と連結し、PCRで増幅してライブラリーを得るステップ(2)と、を含み、
前記リンカー混合物は、n個のリンカーからなり、
各リンカーは、1本の上流プライマー甲と1本の下流プライマー甲とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、上流プライマー甲にはシークエンシングリンカー甲、ランダムタグ、アンカー配列甲及び3’末端に位置する塩基Tがあり、下流プライマー甲にはアンカー配列乙及びシークエンシングリンカー乙があり、前記部分的な二本鎖構造は上流プライマーのアンカー配列甲と下流プライマーのアンカー配列乙とが逆相補することにより形成され、
前記シークエンシングリンカー甲及びシークエンシングリンカー乙は、異なるシークエンシングプラットフォームに応じて選択された対応するシークエンシングリンカーであり、
前記ランダムタグは8~14bpのランダム塩基であり、
前記アンカー配列甲は、長さが14~20bpであり、連続する繰り返し塩基が3個以下であり、
n個のリンカーはn個の異なるアンカー配列甲を採用し、かつ同じ位置の塩基が平衡しており、ミスマッチ塩基数が3より大きく、
nは8以上の任意の自然数である、シークエンシングライブラリーの構築方法。
【請求項2】
nが12である場合、前記アンカー配列甲のヌクレオチド配列は、それぞれ配列表の配列1の5’末端からの30~41位、配列表の配列3の5’末端からの30~41位、配列表の配列5の5’末端からの30~41位、配列表の配列7の5’末端からの30~41位、配列表の配列9の5’末端からの30~41位、配列表の配列11の5’末端からの30~41位、配列表の配列13の5’末端からの30~41位、配列表の配列15の5’末端からの30~41位、配列表の配列17の5’末端からの30~41位、配列表の配列19の5’末端からの30~41位、配列表の配列21の5’末端からの30~41位、配列表の配列23の5’末端からの30~41位であり、
リンカー1は、配列表の配列1で示される一本鎖DNA分子と配列2で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー2は、配列表の配列3で示される一本鎖DNA分子と配列4で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー3は、配列表の配列5で示される一本鎖DNA分子と配列6で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー4は、配列表の配列7で示される一本鎖DNA分子と配列8で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー5は、配列表の配列9で示される一本鎖DNA分子と配列10で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー6は、配列表の配列11で示される一本鎖DNA分子と配列12で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー7は、配列表の配列13で示される一本鎖DNA分子と配列14で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー8は、配列表の配列15で示される一本鎖DNA分子と配列16で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー9は、配列表の配列17で示される一本鎖DNA分子と配列18で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー10は、配列表の配列19で示される一本鎖DNA分子と配列20で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー11は、配列表の配列21で示される一本鎖DNA分子と配列22で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー12は、配列表の配列23で示される一本鎖DNA分子と配列24で示される一本鎖DNA分子とが部分二本鎖構造を形成することにより得られる、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(2)で得られたライブラリーを増幅するステップをさらに含む、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記増幅に用いるプライマー対は、配列表の配列25と配列26で示される2本の一本鎖DNA分子からなる、ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法により構築されたDNAライブラリー。
【請求項6】
シーケンシングライブラリーを構築するためのキットであって、請求項1又は2に記載のリンカー混合物を含むキット。
【請求項7】
DNAサンプル中の肝癌変異を検出するためのキットであって、
請求項1又は2に記載のリンカー混合物及びプライマー組み合わせを含み、
前記プライマー組み合わせは、プライマーセットI、プライマーセットII、プライマーセットIII及びプライマーセットIVを含み、
前記プライマーセットI及び前記プライマーセットIIの各プライマーは、肝癌に関連する領域に基づいて設計された特異的プライマーであり、ゲノムの特定の位置に局在し、ターゲット領域のPCRによる濃縮を実現する役割を果たし、
前記プライマーセットIII及び前記プライマーセットIVの各プライマーのヌクレオチド配列は、すべて「リンカー配列+特異配列」からなり、特異配列は、ターゲット領域の更なる濃縮に使用され、リンカー配列は、PCRにより完全なシーケンシング可能なライブラリー分子を形成することに使用され、
前記プライマーセットIII及び前記プライマーセットIは、「ネスト」の関係であり、前記プライマーセットIV及び前記プライマーセットIIは、「ネスト」の関係であり得るキット。
【請求項8】
前記プライマーセットIは、配列表の配列28~配列105で示される一本鎖DNAからなり、
前記プライマーセットIIは、配列表の配列106~配列187で示される一本鎖DNAからなり、
前記プライマーセットIIIは、配列表の配列191~配列265で示される一本鎖DNAからなり、
前記プライマーセットIVは、配列表の配列266~配列344で示される一本鎖DNAからなる、ことを特徴とする請求項7に記載のキット。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のプライマー組み合わせ。
【請求項10】
請求項7又は8に記載のプライマー組み合わせを含むDNAサンプル中の肝癌変異を検出するためのキット。
【請求項11】
DNAサンプル中の目標変異を検出する方法であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法によってライブラリーを構築するステップ(1)と、
ステップ(1)で得られたライブラリーに対して2ラウンドのネストPCR増幅を行い、産物に対してシークエンシングを行い、シークエンシングの結果に基づいてDNAサンプル中の目標変異の発生の状況を分析するステップ(2)と、を含み、
前記ステップ(2)では、プライマー組み合わせ甲を用いて1ラウンド目のPCR増幅を行い、
プライマー組み合わせ甲は、上流プライマー甲と下流プライマー甲とからなり、
前記上流プライマー甲は、ステップ(1)のライブラリー増幅に用いられるライブラリー増幅プライマーであり、
前記下流プライマー組み合わせ甲は、n個の目標ターゲットに基づいて設計されたn本のプライマーの組み合わせであり、
1ラウンド目のPCR産物をテンプレートとして、プライマー組み合わせ乙を用いて2ラウンド目のPCR増幅を行い、
前記プライマー組み合わせ乙は上流プライマー乙、下流プライマー組み合わせ乙、及びindexプライマーからなり、
前記上流プライマー乙は、1ラウンド目のPCR産物の増幅に用いられるライブラリー増幅プライマーであり、
前記下流プライマー組み合わせ乙中のプライマーは、下流プライマー組み合わせ甲中の同一の目標ターゲットを検出するプライマーとネスト関係を形成し、各プライマーにはindexプライマーに結合するセグメントを有し、
前記indexプライマーには、下流プライマー組み合わせ乙の各プライマーに結合するセグメント及びindex配列を含む、方法。
【請求項12】
前記プライマー甲のヌクレオチド配列は、配列表の配列27に示され、
前記プライマー乙のヌクレオチド配列は、配列表の配列188に示され、
前記indexプライマーは、5’末端から、セグメントA、index配列、及びセグメントBを含み、前記セグメントAのヌクレオチド配列は配列表の配列189に示され、前記セグメントBのヌクレオチド配列は配列表の配列190に示される、ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記プライマー組み合わせ甲は、前記目標変異が肝癌変異である場合、プライマーセットIとプライマーセットIIとからなり、前記プライマー組み合わせ乙は、プライマーセットIIIとプライマーセットIVとからなり、
プライマーセットIとプライマーセットIIを用いて、それぞれテンプレートに対して1ラウンド目のPCR増幅を行い、プライマーセットIを用いて増幅を行った産物を2ラウンド目の増幅のテンプレートとして、プライマーセットIIIを用いて増幅を行い、プライマーセットIIを用いて増幅を行った産物を2ラウンド目の増幅のテンプレートとしてプライマーセットIVを用いて増幅を行い、次に、増幅産物を等体積で混合する、ことを特徴とする請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記シーケンシング結果の分析方法は、ランダムタグ配列が同じであり、DNA挿入断片の長さが同じであり、DNA挿入断片の両端の切断点がすべて同じであるDNA分子シーケンシングデータを1つの分子クラスターに遡り、クラスター内の分子数が5よりも大きく、クラスター内の分子変異の一致率が80%よりも大きく、クラスター数が5以上であれば、該変異は元のDNAサンプルからの真の変異である、ことを特徴とする請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
DNAサンプル中の複数の目標変異を検出する方法であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法によってライブラリーを構築するステップ(1)と、
ステップ(1)のライブラリーに対してターゲット領域濃縮を行ってシークエンシングし、シークエンシング結果に基づいてDNAサンプル中の目標変異の発生の状況を分析するステップ(2)と、を含む方法。
【請求項16】
前記シークエンシング結果の分析方法は、DNA挿入断片の長さが同じであり、DNA挿入断片の両端の切断点、両端のアンカー配列がすべて同じである初期DNA一本鎖シークエンシングデータを1つの分子クラスターに遡り、挿入断片の長さが一致し、かつ変異点以外の配列が一致し、分子クラスターの両端のアンカー配列が同じであるが、その位置が反対である同一の開始DNA二本鎖の分子クラスターを1対のduplex分子クラスターと標識し、ある変異については、少なくとも1対のduplex分子クラスターにより支持される場合、真と判断し、支持するduplex分子クラスターがないが、少なくとも4つの分子クラスターにより支持される場合、真と判断する、ことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝癌によく見られた複数の変異を同時に検出するctDNAライブラリーの構築及びシークエンシングデータの分析の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ctDNA(circulating tumor DNA)である循環腫瘍DNAは、血液、脳脊髄液などの体液中に存在し、細胞外に遊離する腫瘍DNAを指す。ctDNAは通常、血液中の正常細胞由来の遊離DNAと混ざっており、cfDNA(cellfree DNA、セルフリーDNA)と呼ばれている。ctDNAの変異を検出することにより、標的投薬、治療のモニタリングや癌の早期スクリーニングなどを導くことができる。ctDNAに基づく検出方法は、以下を含む。1)PCRに基づくホットスポット突然変異検出法:通常、1つ又は複数のホットスポット突然変異又は既知の突然変異を検出するが、遺伝子融合などの複雑な突然変異を検出できず、未知の突然変異は検出できない。2)捕捉/次世代シークエンシング:複雑な突然変異を含む多数の遺伝子の位置突然変異を検出することが可能であるが、捕捉キットは一般的に高価であり、操作が煩雑であり、時間がかかる。以上の2つの方法では、現在、ctDNAの検出には以下の難問が存在する。1)1回の採血で得られるctDNAサンプルの量は限られており、通常は1回の検出をサポートするしかできないため、ctDNAの臨床検出では通常は単一プラットフォームで使い捨て型であり、低コストのホットスポット突然変異法を使用して1つの突然変異を検出すると、他の突然変異を検出することができない。しかし、臨床検査では、初回検査の結果に基づいて後続検査の目標やスキームを判定する必要があり、このため、後続の検査で再採血する必要がある。また、ctDNAに関連する臨床検査や研究ではしばしば多くの技術の優劣を比較する必要があり、これには正常採血量の数倍の標本が必要となり、通常患者により受け入れられない。2)PCR法と捕捉法にかかわらず、増幅過程で発生するノイズ突然変異はctDNAの低頻度突然変異の検出をひどく妨害し、偽陽性結果をもたらし、患者の診断や治療を誤解させる。3)ctDNA突然変異の含有量が低く、操作過程で汚染が発生しやすく、偽陽性結果をもたらしやすい。
【0003】
肝癌は、世界で発病率が第5位、死亡率が第2位の、よく見られる腫瘍であり、世界の半分以上の肝癌は中国で発生し、しかもB型肝炎関連性肝癌が主である。B型肝炎関連性肝癌にはKRAS、BRAFなどのホットスポット突然変異がほとんどなく、その変異は主にTP53、CTNNB1などのいくつかの遺伝子のコード領域突然変異、TERTのGCリッチプロモーター領域突然変異であり、またHBV組み込み、TERTコピー数変異などの複雑な変異を含む。このため、現在、簡便で低コストで信頼性の高い肝癌のctDNA突然変異の検出手段やシステムが存在しない。ctDNA検出は、肝癌の早期スクリーニング、病状追跡、治療効果評価、予後予測などに対して臨床的に重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、肝癌によく見られた複数の変異を同時に検出するctDNAライブラリーの構築及びシークエンシングデータの分析の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
DNAサンプルに対して末端修復及び3’末端のAテーリングを順次行うステップ(1)と、
ステップ(1)で処理したDNAサンプルをリンカー混合物と連結し、PCRにより増幅してライブラリーを得るステップ(2)と、を含み、
前記リンカー混合物は、n個のリンカーからなっていてもよく、
各リンカーは、1本の上流プライマー甲と1本の下流プライマー甲とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、上流プライマー甲にはシークエンシングリンカー甲、ランダムタグ、アンカー配列甲及び3’末端に位置する塩基Tがあり、下流プライマー甲にはアンカー配列乙及びシークエンシングリンカー乙があり、前記部分的な二本鎖構造は上流プライマーのアンカー配列甲と下流プライマーのアンカー配列乙とが逆相補することにより形成され、
前記シークエンシングリンカー甲及びシークエンシングリンカー乙は、異なるシークエンシングプラットフォームに応じて、選択された対応するシークエンシングリンカーであり、
前記ランダムタグは8~14bpのランダム塩基であってもよく、
前記アンカー配列甲は、長さが14~20bpであり、連続する繰り返し塩基が3個以下であり、
n個のリンカーはn個の異なるアンカー配列甲を採用し、かつ同じ位置の塩基が平衡し(塩基多様性を有し)ておりミスマッチ塩基数が3より大きく、
nは8以上の任意の自然数である、シーケンシングライブラリーの構築方法を提供する。
【0006】
前記アンカー配列は、プライマーの他の部分と相互作用しない(例えば、ヘアカード構造、ダイマーなどを形成しない)。
【0007】
前記上流プライマー甲は、5’末端から順にシークエンシングリンカー甲、ランダムタグ、アンカー配列甲、及び塩基Tであってもよい。
【0008】
前記下流プライマー甲は、5’末端から順にアンカー配列乙、及びシークエンシングリンカー乙であってもよい。
【0009】
上記では、通常、ライブラリーを構築するためのリンカーは2本の配列をアニーリングしてなり、「Y」型構造を呈しており、2本の配列間の相補する部分(即ち、アンカー配列甲とアンカー配列乙)はアンカー配列と呼ばれる。前記アンカー配列は、元のテンプレート分子を標識するための、配列が固定した組込みタグとして使用することができる。
【0010】
前記「同じ位置の塩基が平衡している」は、前記リンカー混合物中のn個のアンカー配列甲間の開始塩基から末端塩基までの各位置に塩基が平衡しており、すなわちA、T、C及びGが均等に分布していてもよい。
【0011】
前記「ミスマッチ塩基数が3より大きく」は、前記リンカー混合物にn個のアンカー配列甲を含み、各アンカー配列甲の間に少なくとも3つの異なる塩基を有していてもよい。この違いは、位置が異なる場合も、順序が異なる場合もある。
【0012】
前記DNAサンプルは、ゲノムDNA、cDNA、ctDNA又はcfDNAサンプルであってもよい。
【0013】
前記nは、具体的には12であってもよい。
【0014】
前記ランダムタグは、具体的には8bpのランダム塩基であってもよい。
【0015】
前記アンカー配列甲の長さは、具体的には12bpであってもよい。
【0016】
n=12の場合、前記アンカー配列甲のヌクレオチド配列は、具体的には、それぞれ配列表の配列1の5’末端からの30~41位、配列表の配列3の5’末端からの30~41位、配列表の配列5の5’末端からの30~41位、配列表の配列7の5’末端からの30~41位、配列表の配列9の5’末端からの30~41位、配列表の配列11の5’末端からの30~41位、配列表の配列13の5’末端からの30~41位、配列表の配列15の5’末端からの30~41位、配列表の配列17の5’末端からの30~41位、配列表の配列19の5’末端からの30~41位、配列表の配列21の5’末端からの30~41位、配列表の配列23の5’末端からの30~41位に示されてもよい。
【0017】
前記シーケンシングリンカーAは、具体的には、Illumina社のTruseqシーケンシングキットに由来するシーケンシングリンカーであってもよい。前記シーケンシングリンカーAは、具体的には、配列表の配列1の5’末端からの1位~29位に示されてもよい。
【0018】
前記シーケンシングリンカーBは、具体的には、Illumina社のnexteraキットに由来するシーケンシングリンカーであってもよい。前記シーケンシングリンカーBは、具体的には、配列表の配列2の5’末端からの13位~41位に示されてもよい。
【0019】
n=12の場合、前記12個のリンカーは次のとおりである。
リンカー1は、配列表の配列1で示される一本鎖DNA分子と配列2で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー2は、配列表の配列3で示される一本鎖DNA分子と配列4で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー3は、配列表の配列5で示される一本鎖DNA分子と配列6で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー4は、配列表の配列7で示される一本鎖DNA分子と配列8で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー5は、配列表の配列9で示される一本鎖DNA分子と配列10で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー6は、配列表の配列11で示される一本鎖DNA分子と配列12で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー7は、配列表の配列13で示される一本鎖DNA分子と配列14で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー8は、配列表の配列15で示される一本鎖DNA分子と配列16で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー9は、配列表の配列17で示される一本鎖DNA分子と配列18で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー10は、配列表の配列19で示される一本鎖DNA分子と配列20で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー11は、配列表の配列21で示される一本鎖DNA分子と配列22で示される一本鎖DNA分子とが部分的な二本鎖構造を形成することにより得られ、リンカー12は、配列表の配列23で示される一本鎖DNA分子と配列24で示される一本鎖DNA分子とが部分二本鎖構造を形成することにより得られてもよい。
【0020】
前記リンカーは、上流プライマー甲と下流プライマー甲とをアニーリングすることにより得ることができる。
【0021】
前記リンカー混合物には、各リンカーが等モルで混合されていてもよい。
【0022】
前記方法はまた、ステップ(2)で得られたライブラリーを増幅するステップをさらに含んでもよい。前記増幅のプライマーはリンカー配列に従って設計される。具体的には、前記増幅のプライマーは、少なくとも1つの部分の配列がリンカーのある部分の配列とマッチしていなければならない。前記増幅に使用されるプライマー対は、具体的には、配列表の配列25及び配列26で示される2本の一本鎖DNA分子からなってもよい。
【0023】
本発明はまた、上記方法によって構築されたDNAライブラリーを保護する。
【0024】
本発明はまた、上記のいずれかに記載のリンカー混合物を含む、シーケンシングライブラリーを構築するためのキットを保護する。
【0025】
前記キットはまた、DNA抽出用試薬、DNAライブラリー構築用試薬、ライブラリー精製用試薬、ライブラリー捕捉用試薬などのライブラリー構築用材料をさらに含んでもよい。
【0026】
本発明はまた、上記のいずれかに記載のリンカー混合物とプライマー組み合わせを含む、DNAサンプル中の肝癌変異を検出するためのキットを保護し、前記プライマー組み合わせは、プライマーセットI、プライマーセットII、プライマーセットIII、及びプライマーセットIVを含み、
前記プライマーセットI及びプライマーセットIIの各プライマーは、肝癌に関連する領域に基づいて設計された特異的プライマーであり、ゲノムの特定の位置に局在し、ターゲット領域のPCRによる濃縮を実現する役割を果たす。
【0027】
前記プライマーセットIII及び前記プライマーセットIV中の各プライマーのヌクレオチド配列は、「リンカー配列+特異配列」からなり、特異配列は、ターゲット領域の更なる濃縮に使用され、リンカー配列は、PCRにより完全なシーケンシング可能なライブラリー分子を形成することに使用される。
【0028】
前記プライマーセットIII及び前記プライマーセットIは、「ネスト」の関係であってもよく、前記プライマーセットIV及び前記プライマーセットIIは、「ネスト」の関係であってもよい。
【0029】
前記肝癌に関連する領域は、具体的には、肝癌の高頻度変異遺伝子(TP53、CTNNB1、AXIN1、TERT)の関連領域とHBV組み込みに対するホットスポット領域であり得る。
【0030】
前記プライマーセットIは、具体的には、配列表の配列28~配列105で示される一本鎖DNAからなってもよい。
【0031】
前記プライマーセットIIは、具体的には、配列表の配列106~配列187で示される一本鎖DNAからなってもよい。
【0032】
前記プライマーセットIIIは、具体的には、配列表の配列191~配列265で示される一本鎖DNAからなってもよい。
【0033】
前記プライマーセットIVは、具体的には、配列表の配列266~344で示される一本鎖DNAからなってもよい。
【0034】
前記プライマー組み合わせは、具体的には、前記プライマーセットI、前記プライマーセットII、前記プライマーセットIII、及び前記プライマーセットIVからなってもよい。
【0035】
前記キットは、DNA抽出用試薬、DNAライブラリー構築用試薬、ライブラリー精製用試薬、ライブラリー捕捉用試薬などのライブラリー構築用材料をさらに含んでもよい。
【0036】
本発明はまた、上記プライマー組み合わせのいずれかを保護する。前記プライマー組み合わせの用途は、DNAサンプル中の肝癌変異を検出するためのキットを製造することであってもよい。
【0037】
本発明はまた、DNAサンプル中の肝癌変異を検出するためのキットを製造するための上記プライマー組み合わせのいずれかの使用を保護する。
【0038】
本発明はまた、DNAサンプル中の目標変異を検出するための方法であって、
前記のいずれかに記載する方法によってライブラリーを構築するステップ(1)と、
ステップ(1)で得られたライブラリーに対して2ラウンドのネストPCR増幅を行い、産物に対してシークエンシングを行い、シークエンシングの結果に基づいてDNAサンプル中の目標変異の発生の状況を分析するステップ(2)と、を含み、
前記ステップ(2)では、プライマー組み合わせ甲を用いて1ラウンド目のPCR増幅を行い、
プライマー組み合わせ甲は、上流プライマー甲と下流プライマー甲とからなり、
前記上流プライマー甲は、ステップ(1)のライブラリー増幅に用いられるライブラリー増幅プライマーであり、
前記下流プライマー組み合わせ甲は、n個の目標ターゲットに基づいて設計されたn本のプライマーの組み合わせであり、
1ラウンド目のPCR産物をテンプレートとして、プライマー組み合わせ乙を用いて2ラウンド目のPCR増幅を行い、
プライマー組み合わせ乙は上流プライマー乙、下流プライマー組み合わせ乙、及びindexプライマーからなり、
前記上流プライマー乙の配列の一部は、1ラウンド目のPCR産物の増幅に用いられるライブラリー増幅プライマーであり、
前記下流プライマー組み合わせ乙中のプライマーは、下流プライマー組み合わせ甲中の同一の目標ターゲットを検出するプライマーとネスト関係を形成し、各プライマーにはindexプライマーに結合するセグメントを有し、
前記indexプライマーには、下流プライマー組み合わせ乙の各プライマーに結合するセグメント及びindex配列を含む方法を保護する。
【0039】
前記上流プライマー甲の配列の一部は、「各リンカーの上流プライマー甲のシーケンシングリンカーA」の配列と完全に同じである。
【0040】
前記上流プライマー乙は、増幅産物を直接シーケンシングできるように、ライブラリー分子のリンカー配列を補完することに使用される。前記上流プライマー乙と前記上流プライマー甲(1ラウンド目のPCR増幅に使用されるプライマー)のヌクレオチド配列の一部は完全に同じである。
【0041】
前記上流プライマー甲のヌクレオチド配列は、具体的には、配列表の配列27に示すようにしてもよい。
【0042】
前記上流プライマー乙のヌクレオチド配列は、具体的には、配列表の配列188に示すようにしてもよい。
【0043】
前記indexプライマーは、5’末端から、セグメントA、index配列、及びセグメントBを含むことができる。前記indexプライマーは、具体的には、前記セグメントA、前記index配列、及び前記セグメントBからなってもよい。前記セグメントAのヌクレオチド配列は、配列表の配列189に示すようにしてもよい。前記セグメントBのヌクレオチド配列は、配列表の配列190に示すようにしてもよい。
【0044】
前記プライマー組み合わせ甲は、前記目標変異が肝癌変異である場合、以上のいずれのプライマーセットIとプライマーセットIIとからなり、前記プライマー組み合わせ乙は、以上のいずれのプライマーセットIIIとプライマーセットIVとからなる。プライマーセットIとプライマーセットIIを用いて、それぞれテンプレートに対して1ラウンド目のPCR増幅を行い、プライマーセットIを用いて増幅を行った産物を2ラウンド目の増幅のテンプレートとして、プライマーセットIIIを用いて増幅を行い、プライマーセットIIを用いて増幅を行った産物を2ラウンド目の増幅のテンプレートとしてプライマーセットIVを用いて増幅を行い、次に、増幅産物を等体積で混合する。
【0045】
前記シークエンシング結果の分析方法は、次のようにしてもよい。ランダムタグ配列が同じであり、DNA挿入断片の長さが同じであり、DNA挿入断片の両端の切断点(ブレイクポイント)(即ちDNA断片の配列が一致(含まれる変異を除く))がすべて同じであるDNA分子シーケンシングデータを1つの分子クラスターに遡り、クラスター内の分子数が5よりも大きく、クラスター内の分子変異の一致率が80%よりも大きく、クラスター数が5以上であれば、該変異は元のDNAサンプルからの真の変異である。
【0046】
本発明はまた、DNAサンプル中の複数の目標変異を検出する方法であって、
前記のいずれかに記載する方法によってライブラリーを構築するステップ(1)と、
ステップ(1)のライブラリーに対してターゲット領域濃縮を行ってシークエンシングし、シークエンシング結果に基づいてDNAサンプル中の目標変異の発生の状況を分析するステップ(2)とを含む方法を保護する。
【0047】
前記ターゲット領域の濃縮は、既存の市販の標的捕捉キット(例えば、Agilent sureselect XT標的捕捉キット、Agilent5190-8646)を用いて行うことができ、その最終段階のPCR増幅のプライマー対をプライマー甲とプライマー乙からなるプライマー対に置き換える。前記プライマー甲のヌクレオチド配列は配列表の配列345に示すことができる。前記プライマー乙は、セグメントA、index配列、及びセグメントBを含むことができる。前記プライマー乙は、具体的には、前記セグメントA、前記index配列、及び前記セグメントBからなることができる。前記セグメントAのヌクレオチド配列は、配列表の配列346に示すことができる。前記セグメントBのヌクレオチド配列は、配列表の配列347に示すことができる。
【0048】
前記シークエンシング結果の分析方法は、次のようにしてもよい。DNA挿入断片の長さが同じであり、DNA挿入断片の両端の切断点、両端のアンカー配列がすべて同じである初期DNA一本鎖シークエンシングデータを1つの分子クラスターに遡り、挿入断片の長さが一致し、かつ変異点以外の配列が一致し、分子クラスターの両端のアンカー配列が同じであるが、その位置が反対である同一の開始DNA二本鎖の分子クラスターを1対のduplex分子クラスターと標識し、ある変異については,少なくとも1対のduplex分子クラスターにより支持される場合、真と判断し、支持するduplex分子クラスターがなければ、少なくとも4つの分子クラスターにより支持される場合、真と判断する。
【0049】
上記では、通常、複数の異なるサンプルのライブラリーが混合されてシーケンシングされ、前記index配列は異なるサンプルを標識するために使用される。シークエンシングが完了した後、シークエンシングデータ全体を異なるindex配列に基づいて分割する。Indexの設計原則は、前述のアンカー配列の設計原則と基本的に類似している。
【0050】
本発明は、以上の技術案を採用することにより、以下の利点を有する。
1、捕捉を必要とせずに、肝癌ctDNA中の点突然変異、挿入欠失突然変異、HBV組み込みなどの多種の変異の形式を同時に検出する。捕捉法と比べて、この技術は数本のDNAプライマーだけでよく、高価な捕捉プローブとハイブリダイゼーション試薬を必要とせず、このため、コストが大幅に低下し、操作の手順が簡単であり、捕捉法の36時間から8時間に短縮できる。
2、超小ターゲット領域の効率的な捕捉に適しており、ターゲット領域は捕捉法の最小ターゲット領域の10%まで小さくすることができ、このように、シークエンシング効率を大幅に向上させることができる。例えば、肝癌によく見られる突然変異TP53、CTNNB1、AXIN1、TERT、HBVの組み合わせは本技術に適した超小ターゲット領域であり、捕捉法を用いてこのターゲット領域を濃縮する場合、標的捕捉率は10%未満であるが、本技術の場合、80%以上に達し、このため、シークエンシング効率を大幅に高め、シークエンシングコストを低下させる。
3、増幅されたライブラリーは、1回の検出を行った後、10~20回の後続の検出をサポートすることができ、各検出の結果は、感度及び特異性の低下を引き起こすことなく、すべての元のctDNA標本の突然変異の状況を表すことができる。
4、ライブラリーの構築過程においてDNAバーコードbarcodeを開始ctDNA分子に連結し、生体情報分析プロセスと組み合わせることで、ctDNA低頻度突然変異の高特異性検出を実現する。
5、本技術で構築されたライブラリーはPCRのホットスポット検出と捕捉法によるシークエンシングの両方に用いることができ、しかも、1つの標本で構築されたライブラリーは同時に複数回の検出をサポートすることができ、添加されたDNA barcodeは偽陽性突然変異を効果的にフィルタリングすることができ、それにより、duplexに基づく高特異性シークエンシングが実現される。
本発明は、肝癌の早期スクリーニング、病状追跡、治療効果評価、予後予測などに対して臨床的に重要である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】adapterとプライマーの構造の模式図である。
【
図2】RaceSeqターゲット領域の濃縮及びライブラリーの構築の模式図である。
【
図3】MCライブラリーによる捕捉及びduplexシークエンシングの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下の実施例は、本発明をよりよく理解しやすくするが、本発明を限定するものではない。以下の実施例における実験方法は、特に断らない限り、いずれも常法である。下記実施例に用いる試験材料は、特に断らない限り、通常の生化学試薬店から購入したものである。以下の実施例における定量試験は、いずれも3回の反復実験を設定し、結果を平均値とした。
【0053】
実施例1、MCライブラリーの構築
一、cfDNA分子の平滑末端修復とAテーリング処理
cfDNA 10~45ngを取り、表1に示すように反応系を調製し、次に、表2の手順に従ってPCR装置で末端修復及び3’末端のAテーリングを行い、反応産物(4℃で保存)を得た。
【0054】
【0055】
【0056】
二、cfDNAとadapterとの連結
表3に示すように反応系を調製し、20℃で15min反応させて、連結産物(4℃で保存)を得た。
【0057】
【0058】
Adapter Mixの配列情報を表4に示す。
表4の一本鎖DNAをTEで溶解し、最終濃度100μMまで希釈した。同一グループの2本の一本鎖DNAを等体積(各50μl)で混合し、アニーリング(アニーリング手順:95℃、15min;25℃、2h)して12グループのDNA溶液を得て、12グループのDNA溶液を等体積で混合して、Adapter Mixを得た。
【0059】
【0060】
表4において、8個のNは8bpのランダムタグを表す。実際の応用では、ランダムタグの長さは8bp~14bpにすることができる。
【0061】
下線は12bpのアンカー配列を表し、各グループの上流配列と下流配列において、下線部分は逆相補的であり、アニーリングにより上流配列と下流配列を結合してリンガーを形成することができる。また、アンカー配列は、元のテンプレート分子を標識するための配列が固定した組み込みタグとして使用することができる。実際の応用において、アンカー配列の長さは12~20bpであってもよく、連続する繰り返し塩基は3個以下であり、しかもプライマーの他の部分と相互作用することができず(例えば、ヘアピン構造、ダイマーなどを形成しない)、12グループの各位置の塩基は平衡しており、mismatch塩基数は3よりも大きい。
【0062】
上流配列中の末端にある太字にしたTは、元の分子の末端に付加した「A」と相補し、TAで連結されている。
【0063】
上流配列のうち、5’末端から1~21位は、シーケンシングプライマー結合配列(Illumina社のTruseqシーケンシングキットから)であり、ここで、5’末端から1位~19位はライブラリー増幅プライマー部分である。
【0064】
下流配列のうち、非下線部分(Illumina社のnexteraシーケンシングキットから)はシーケンシングプライマー結合配列であり、ここで、3’末端から1位~22位は設計ライブラリー増幅プライマー部分である。
【0065】
表4には合計12グループのリンカーが含まれており、12×12=144種類の標識の組み合わせを形成することができ、分子自体の配列情報と組み合わせることで、元のサンプル中のすべての分子を区別するのに十分であり、実際の応用では、グループ数を適切に増加(合成コストが高くなる)又は減少(区別効果がやや弱い)することもできる。
【0066】
連結産物の構造を
図1に示す。ここで、aはリンカー部分、bとfはそれぞれライブラリー増幅プライマー、cは8bpランダムタグ(表4中の8個のNで示す)、dは12bpアンカー配列(表4中の下線で示す)、eは挿入断片(cfDNA)である。
【0067】
三、連結産物の精製
ステップ2で得られた連結産物にAMPure XPビーズ110μl(ベックマンA63880)を加え、ボルテックスで均一に混合し、室温で10min放置し、磁気ラックで5min吸着させ、溶液が澄んだ後に上清を捨て、その後80%(体積百分率含有量)エタノール水溶液200μlを加えて2回洗浄し、上清を捨て、エタノールを乾燥させた後、DNase/RNase-Free Water 30μlを加え、ボルテックスで均一に混合し、室温で10min放置し、磁気ラックで5min吸着させ、上清溶液をPCRチューブに吸引し、PCRテンプレートとした。
【0068】
四、ライブラリーの増幅及び精製
1、ステップ3で得られたPCRテンプレートを取り、表5に示すように反応系を調製し、表6に示すようにPCR増幅を行い、PCR増幅産物を得た(4℃で保存)。
【0069】
【0070】
表5において、プライマー情報は以下の通りである。
MC_F(配列25):GACACGACGCTCTTCCGAT(5’-3’);
MC_R(配列26):GTGGGCTCGGAGATGTGTATAA(5’-3’)。
【0071】
【0072】
2、ステップ1で得られたPCR増幅産物にAMPure XPビーズ90μlを加え、ボルテックスで均一に混合し、室温で10min放置し、磁気ラックで5min吸着させ、溶液が澄んだ後に上清を捨て、その後80%(体積百分率含有量)エタノール水溶液200μlを加えて2回洗浄し、上清を捨て、エタノールを乾燥させた後、DNase/RNase-Free Water 100μlを加え、ボルテックスで均一に混合し、室温で10min放置し、磁気ラックで5min吸着させ、上清溶液を産物として得た(-20℃で貯蔵)。産物は長期保存、繰り返し使用が可能なMCライブラリーである。
【0073】
検出の結果、MCライブラリーは10~20回の後続検出をサポートすることができ、各検出の結果は、感度及び特異性の低下を引き起こすことなく、すべての元のサンプルの突然変異の状況を表すことができる。一方、このライブラリーの構築方法は、cfDNAサンプルだけでなく、ゲノムDNA又はcDNAサンプルにも用いられ得る。
【0074】
実施例2、RaceSeqによるターゲット領域の濃縮及びライブラリーの構築
図2に示すように、中国の肝癌高頻度突然変異遺伝子(TP53、CTNNB1、AXIN1、TERT)の関連領域とHBV組み込みホットスポットセグメントに対して設計したプライマーを用いて、固定プライマーと組み合わせて、MCライブラリーに対して2ラウンドのPCR増幅を行い、増幅産物としてシーケンシングライブラリーを得た。
図2において、aは1ラウンド目のライブラリー増幅上流プライマー、bは2ラウンド目のライブラリー増幅上流プライマー、cは特異的目的配列濃縮用の1ラウンド目のライブラリー増幅下流プライマーライブラリー、dは特異的目的配列濃縮用の2ラウンド目のライブラリー増幅下流プライマーライブラリー、eはindex配列付加用のindexプライマーである。
【0075】
1、実施例1で製造したMCライブラリー300ngを2部に分け、表7の反応系(1部にGSP1A mixを加え、もう1部にGSP1B mixを加えた)を調製し、表9の反応手順に従って1ラウンド目のPCR増幅を行い、1ラウンド目の増幅産物を得た(合計2部の1ラウンド目の増幅産物を得て、1部はGSP1A mixの増幅産物、もう1部はGSP1B mixの増幅産物である)。
【0076】
【0077】
表7において、プライマー情報は以下の通りである。
上流プライマー1355(配列27):TCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGAT(5’-3’)。
GSP1A mix:表8のプライマープールGSP1Aに属する各プライマーをTEで濃度が100μMとなるように溶解した後、等体積で混合し、TEで0.3μMに希釈した。プライマープールGSP1A中のプライマーは、テンプレートのセンス鎖の増幅に用いられた。
GSP1B mix:表8のプライマープールGSP1Bに属する各プライマーをTEで濃度が100μMとなるように溶解した後、等体積で混合し、TEで0.3μMに希釈した。プライマープールGSP1B中のプライマーは、テンプレートのアンチセンス鎖の増幅に用いられた。
プライマープールGSP1AとプライマープールGSP1Bでは、元の分子を最大限に濃縮できる情報を使用しながら、同一番号のプライマーが正反両方向から同一突然変異部位を検出した。
【0078】
【0079】
【0080】
2、ステップ1で得られた2部の1ラウンド目の増幅産物を、それぞれAMPure XPビーズを用いて1:1.3の割合で精製し、DNase/RNase-Free Water 25μlで溶出して、2部の1ラウンド目の精製産物を得た。
【0081】
3、ステップ2で得られた2部の1ラウンド目の精製産物をそれぞれテンプレートとし、表10の反応系(GSP1A mix増幅産物をテンプレートとする場合は、GSP2A mixで増幅し、GSP1Bmix増幅産物をテンプレートとする場合は、GSP2B mixで増幅する)を調製し、表12の反応手順に従って2ラウンド目のPCR増幅を行い、2ラウンド目の増幅産物を得た(4℃で保存)。
【0082】
【0083】
表10において、プライマー情報は以下の通りである。
上流プライマー3355(配列188):AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACACTCTTTCCCTACACGACGCTCT(5’-3’)。ここで、下線部分は1ラウンド目の上流プライマー1355と同じ部分であり、3355及び1355はいずれもIlluminaシーケンシングプラットフォームでシーケンシングされた固定配列(他のシーケンシングプラットフォームでシーケンシング可能な配列にも置換可能)である。
GSP2A mix:表11のプライマープールGSP2Aに属する各プライマーをTEで濃度が100μMとなるように溶解した後、等体積で混合し、TEで0.3μMに希釈した。プライマープールGSP2A中のプライマーは、テンプレートのセンス鎖の増幅に用いられた。
GSP2B mix:表11のプライマープールGSP2Bに属する各プライマーをTEで濃度が100μMとなるように溶解した後、等体積で混合し、TEで0.3μMに希釈した。プライマープールGSP2B中のプライマーは、テンプレートのアンチセンス鎖の増幅に用いられた。
【0084】
表11において、5’末端から1位~20位はIndexプライマーに結合している部分である。
GSP2A mixとGSP1A mixにおいてプライマー番号が同じプライマーは同一突然変異部位に対して設計されており、2本のプライマーはネスト関係を形成している。
GSP2B mixとGSP2A mixにおいてプライマー番号が同じプライマーは同一突然変異部位に対して設計されており、2本のプライマーはネスト関係を形成している。
Indexプライマー:CAAGCAGAAGACGGCATACGAGAT(配列189)********GTGACTGGAGTTCCTTGGCACCCGAGAATTCCA(配列190)。ここで、下線部分はGSP2 mixと結合した部分である。*********はindex配列位置であり、indexの長さは6~8bpであり、サンプル間の配列を区別し、複数のサンプルの混合シーケンシングを容易にする役割を果たす。index配列以外は、すべてIlluminaのsmall RNAシーケンシングキットからの固定配列である。
【0085】
【0086】
【0087】
4、ステップ3で得られたGSP2A mixを用いて2ラウンド目の増幅を行った産物とGSP1Bmixを用いて2ラウンド目の増幅を行った産物とを等体積で混合し、AMPure XPビーズを用いて1:1.3の割合で精製し、DNase/RNase-Free Water50μlで溶出して2ラウンド目の精製産物として、Illumina Hiseq Xプラットフォームでシークエンシング可能なシーケンシングライブラリーを得て1ライブラリーあたりのシークエンシングデータ量は2Gであり、平均シークエンシング深さは60000×より大きい。
【0088】
MCライブラリー上のDNAランダムタグはcfDNA配列とともにシーケンシングライブラリーのRead1配列の下流に付加された。シーケンシングにおいて、DNAランダムタグ配列、アンカー配列、cfDNA配列(
図1中のc、d、e配列)を順次取得した。データ分析には、ランダムタグ配列が同じであり、DNA挿入断片の長さが同じであり、DNA挿入断片の両端の切断点がすべて同じであるDNA分子シークエンシングデータを1つの分子クラスターに遡り、クラスター内の分子数が5よりも大きく、クラスター内の分子突然変異の一致率が80%よりも大きく、クラスターの個数が5以上であれば、この突然変異は元のDNAサンプルからの真の突然変異である。
【0089】
肝癌患者のcfDNA 30ngのシークエンシング実験から明らかなように、この方法の合計時間は約6時間(手動操作は約1.5h)であり、生成したRaceSeqライブラリーの標的捕捉率は80%に達し、2Gbデータ量の場合、シークエンシング深さは60000×に達し、分子クラスターは5000個に達し、1クラスターあたりの平均シークエンシング分子数は12個に達し、具体的には、表13に示す。
【0090】
【0091】
実施例3、MCライブラリーの捕捉及びシーケンシング
図3に示すように、実施例1のMCライブラリーは、Agilent sureselect XT標的捕捉キット(Agilent 5190-8646)を用いて捕捉することができ(キットの取り扱い書を参照して行い、他のブラウンドの捕捉試薬とも互換性がある)、最終段階のPCR増幅におけるプライマーを以下のプライマーに交換することができる。
上流プライマー(5’-3’):AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACACTCTTTCCCTACAC
GACGCTTCCGATCT(配列345)(
図3の「a」)。ここで、下線部分はプライマーMC_Fと同じであり、ライブラリー増幅として機能し、残りの部分はIlluminaシーケンシングプラットフォームのシーケンシングに必要な固定配列である。
下流プライマー(5’-3’):CAAGCAGAAGACGGCATACGAGAT(配列346)********GTCTC
GTGGCTCGGAGATGTGTATAA(配列347)(
図3の「b」)。ここで、下線部分はプライマーMC_Rと同じであり、ライブラリー増幅として機能する。********はindex配列位置、index長さは6-8bpであり、サンプル間の配列を区別し、複数のサンプルの混合シーケンシングを容易にする。残りの部分は、Illuminaシーケンシングプラットフォームのシーケンシングに必要な固定配列である。
【0092】
捕捉されたライブラリーは、MCライブラリーと同じDNAランダムタグ配列、アンカー配列及びcfDNA配列を有し、順次にRead1の下流に位置する。DNA挿入断片の長さが同じであり、DNA挿入断片の両端の切断点、両端のアンカー配列がすべて同じである初期DNA一本鎖シークエンシングデータを1つの分子クラスターに遡った。また、挿入断片の長さが一致し、かつ突然変異点以外の配列が一致し、分子クラスター両端のアンカー配列が同じであるが、その位置が反対である同一の開始DNA二本鎖の分子クラスターを1対のduplex分子クラスターと標識した。ある突然変異については、少なくとも1対のduplex分子クラスターにより支持されば、真と判断し、支持するduplex分子クラスターがないが、少なくとも4つの分子クラスターにより支持されれば、真と判断する。1対のduplex分子クラスターで共通に支持された突然変異は、信頼性がより高く、偽陽性突然変異を90%減少させることができる。
【0093】
実施例4、方法の比較
5例の肝癌患者cf DNA標本を収集し、まず、実施例1の方法に従ってMCライブラリーを構築し、次に、実施例2の方法に従ってRaceSeqターゲット領域の濃縮と実施例3の常規のAgilent sureselect XTターゲット領域の濃縮、シークエンシングを行い、変異検出結果を表13と表14に示す。
【0094】
【0095】
【0096】
Agilent sureselect XTターゲット領域濃縮法とRaceSeq法は、一塩基突然変異とHBV挿入に対する検出結果がほぼ一致していることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の発明者は大量の実験を行ったところ、DNAサンプル中の肝癌突然変異を検出するためのプライマー組み合わせを取得し、このプライマー組み合わせはプライマーセットI、プライマーセットII、プライマーセットIII、及びプライマーセットIVからなり、プライマーセットIは、配列表の配列28~配列105で示される一本鎖DNAからなり、プライマーセットIIは、配列表の配列106~配列187で示される一本鎖DNAからなり、プライマーセットIIIは、配列表の配列191~配列265で示される一本鎖DNAからなり、プライマーセットIVは、配列表の配列266~344で示される一本鎖DNAからなる。実験により、捕捉を必要としない場合、上記ライマー組み合わせは同時に肝癌ctDNA中の点突然変異、挿入欠失突然変異、HBV組み込みなどの多種の突然変異形式を検出できることを証明した。高価な捕捉プローブやハイブリダイゼーション試薬が不要であるため、コストが大幅に削減され、操作手順が簡単であり、検出時間がわずか8hである。本発明は、肝癌の早期スクリーニング、病状追跡、治療効果評価、予後予測などに対して臨床的に重要である。
【配列表】