(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極およびその電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20230824BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20230824BHJP
H01M 4/60 20060101ALI20230824BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/48
H01M4/60
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2020565582
(86)(22)【出願日】2019-10-09
(86)【国際出願番号】 JP2019039912
(87)【国際公開番号】W WO2020144905
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2019001382
(32)【優先日】2019-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】倉津 将人
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-084788(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0019054(KR,A)
【文献】特開2012-069454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池用負極であって、
前記負極は、負極活物質および導電助剤およびバインダーを含み、
負極活物質は、リチウムイオンの脱離および挿入における平均作動電位が0.5V(vs.Li/Li
+)以上2.0V(vs.Li/Li
+)未満であって、
導電助剤は、直径100nm以下のカーボンナノチューブを、負極活物質および導電助剤およびバインダーの合計重量に対して0.05重量%以上2重量%以下含み、
バインダーは、酸性官能基を有する高分子を、負極活物質および導電助剤およびバインダーの合計重量に対して2重量%以上8重量%以下含むことを特徴とする、非水電解質二次電池用負極。
【請求項2】
導電助剤が、直径50nm以下のカーボンナノチューブであることを特徴とする、請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項3】
酸性官能基を有する高分子の重量が、非水電解質二次電池用負極に含まれるカーボンナノチューブの重量に対して、3倍以上50倍未満であることを特徴とする、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項4】
負極活物質が、チタン含有酸化物または金属有機化合物のいずれか少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項5】
酸性官能基を有する高分子が、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルピロリドン、スチレン-ブタジエンゴム、ポリアクリル酸であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の負極を用いた、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用負極およびその電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、携帯機器を始め、ハイブリット自動車や電気自動車、家庭用蓄電池などに用いられており、電気容量、安全性、作動安定性など複数の特性をバランスよく有することが要求されている。
【0003】
例えば、負極活物質にチタン酸リチウムを用い、負極の導電助剤に繊維長平均1~5μmの気相成長炭素繊維を用い、負極のバインダーにポリアクリル酸を用いた非水電解質二次電池が開発されている(特許文献1)。従来から用いられている導電助剤(例えば黒鉛やアセチレンブラック)よりも、導電性の高い気相成長炭素繊維を用いることで負極の電極抵抗を下げ、さらに、特定の長さを有する気相成長炭素繊維と特定のポリアクリル酸とを組み合わせて用いることで、活物質と気相成長炭素繊維との密着性を向上させ、過酷な多湿環境下でも負極の構造崩壊による電池の内部抵抗の上昇を抑制できている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、負極活物質にチタン酸リチウムを用いた非水電解質二次電池は、充放電を繰り返した際にチタン酸リチウムと電解質との反応により、電解質が分解しガスが発生するという課題がある。特許文献1では、負極の構造崩壊による抵抗上昇を抑制することができても、実際に充放電を繰り返した際のガス発生抑制の課題は残ったままで、改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決すべく電極内で形成されている導電ネットワークの状態に着目し鋭意検討を行った結果、規定の直径を有する気相成長炭素繊維(カーボンナノチューブと称す場合がある)を導電助剤に、酸性官能基を有する高分子をバインダーに用いて、カーボンナノチューブと高分子とを特定の重量割合で用いることによって、負極活物質とカーボンナノチューブと高分子の分散性が向上し、充放電を繰り返した際のガス発生を抑制するとともに、優れたサイクル安定性と高い入出力特性を有する非水電解質二次電池を得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は非水電解質二次電池用負極であって、
前記負極は、負極活物質および導電助剤およびバインダーを含み、
負極活物質は、リチウムイオンの脱離および挿入における平均作動電位が0.5V(vs.Li/Li+)以上2.0V(vs.Li/Li+)未満であって、
導電助剤は、直径100nm以下のカーボンナノチューブを、負極活物質および導電助剤およびバインダーの合計重量に対して0.05重量%以上2重量%以下含み、
バインダーは、酸性官能基を有する高分子を、負極活物質および導電助剤およびバインダーの合計重量に対して2重量%以上8重量%以下含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
負極の導電助剤に所定の直径を有するカーボンナノチューブを用い、バインダーに酸性官能基を有する高分子を用い、さらにカーボンナノチューブと当該高分子とを所定の重量割合で用いることで、負極活物質とカーボンナノチューブと高分子との分散性が向上し効率的に電子の授受が行えるため、充放電を繰り返してもガス発生が少なく、優れたサイクル安定性を有するだけでなく、高い入出力特性を有する非水電解質二次電池が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、一実施形態を用いて本発明について説明する。
【0010】
<負極>
本発明の非水電解質二次電池用負極は、導電助剤およびバインダーおよび負極活物質を含む。
【0011】
本発明の導電助剤は、直径100nm以下のカーボンナノチューブを、負極活物質および導電助剤およびバインダーの合計重量に対して、0.05重量%以上2重量%以下含む。
【0012】
本発明でいうカーボンナノチューブの直径とは、カーボンナノチューブは管状構造を有しており、カーボンナノチューブの長手方向に対する垂直断面の長軸の長さを指す。
【0013】
カーボンナノチューブの直径は、導電性が良好なことから50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましく、15nm以下が特に好ましい。
【0014】
カーボンナノチューブは、製造方法によらず直径が100nm以下であれば良く、多層カーボンナノチューブまたは単層カーボンナノチューブが好適に用いられ、1種類でもよいし、2種類を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
カーボンナノチューブの長さは、1~100μm程度の一般的なものであれば好適に用いられる。特に入出力特性が良くなることから、5μm以上が好ましく、15μm以上がさらに好ましく、30μm以上が特に好ましい。
【0016】
カーボンナノチューブの含有量は、負極中の負極活物質および導電助剤およびバインダーの合計重量に対して、0.05重量%以上2重量%以下含むことが好ましい。また、ガス発生抑制の観点から1.5重量%以下が好ましく、良好な入出力特性が得られることから0.08重量%以上が好ましく、電池特性のバランスが優れていることから、0.1重量%以上1重量%以下が特に好ましい。
【0017】
カーボンナノチューブの表面は、後述する酸性官能基を有する高分子や負極活物質との親和性を高めるために、表面を官能基化しても良い。
【0018】
電池特性を調整するために、アセチレンブラックやケッチェンブラック、黒鉛などの従来の公知な導電助剤も複数含んでいても良い。
【0019】
当該直径を有するカーボンナノチューブが好ましい理由として次のことが推定される。一般的な導電助剤である球状のアセチレンブラックの直径は40nm程度であり、多数の粒子が連なったストラクチャーと呼ばれる集合体を形成することで良好な導電ネットワークを構築している。ストラクチャーは多くの粒子から形成された複雑で大きな形状を有しているため、良好な導電ネットワーク形成には一定の量が必要となる。カーボンナノチューブは管状構造を有しており、その形状自体がアセチレンブラックのストラクチャーに相当するため、良好な導電ネットワークを構築できる。しかし、使用するカーボンナノチューブの直径が100nmを超える場合、アセチレンブラックが形成するストラクチャーよりもサイズが大きくなる傾向にあるため、活物質間を効果的に繋ぎ良好な導電ネットワークを形成するために必要な使用量が、アセチレンブラックを使用したときよりも多くなる傾向にあると考えられる。そのため、表面の副反応点が増えてしまい、結果的にガス発生量も増えてしまう。しかし、所定の直径以下とすることで使用量を少なくしながら効率的な電子授受が達成可能な導電ネットワークを構築できるため、表面の反応点の増加をある程度制御できる。その結果、電解質との副反応を抑えることができるため、ガス発生量が減少すると推定される。
【0020】
バインダーは、酸性官能基を有する高分子を、負極活物質および導電助剤およびバインダーの合計重量に対して2重量%以上8重量%以下含む。
【0021】
高分子は酸性官能基を有するものであり、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリイミドに酸性官能基が付加した高分子、またはポリアクリル酸、およびそれらの誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の高分子である。バインダーは酸性官能基を持たない高分子を含んでいても良い。
【0022】
前記、酸性官能基としては、カルボキシ基(―COOH)、スルホン基(―SO3H)、リン酸基(―OPO3H2)などが挙げられ、カルボキシ基が好ましい。
【0023】
本発明のバインダーに用いられる酸性官能基を有する高分子は、例えば酸性官能基を有さない高分子と酸性官能基を有する高分子とをグラフト重合する方法、酸性官能基を有さない高分子を、酸性官能基を有する化合物で変性する方法、酸性官能基を有するモノマーを重合する方法、酸性官能基を有するモノマーと酸性官能基を有さないモノマーとを共重合する方法、等により製造することができる。
【0024】
高分子に含まれる酸性官能基の割合としては、高分子を構成する単量体の総量に対する各官能基を含有する単量体の比率が1/2000~1/100であることが好ましく、1/1500~1/150がより好ましく、電池特性のバランスが優れていることから1/1000~1/200が特に好ましい。
バインダーの含有量は、負極中の負極活物質および導電助剤およびバインダーの合計重量に対して、2重量%以上10重量%以下が好ましく、2重量%以上8重量%以下がより好ましく、電池特性のバランスが優れていることから3重量%以上7重量%以下が特に好ましい。
【0025】
酸性官能基を有する高分子は、直径100nm以下のカーボンナノチューブの重量に対して3倍以上負極に含まれることが、分散性の観点から好ましい。
【0026】
酸性官能基が無い高分子は疎水性であり、同じ疎水性のカーボンナノチューブと親和性が高いため、カーボンナノチューブ同士や、高分子とカーボンナノチューブが凝集体を形成する傾向にある。その結果、活物質間に良好な導電ネットワークが形成できずに抵抗の増加や結着性の低下を招き、入出力特性やサイクル特性などの電池特性が悪化する。酸性官能基を有する高分子は両親媒性であり、そのような性質を持つ高分子が一定量存在することで、疎水性のカーボンナノチューブの凝集を防ぎながら、カーボンナノチューブと活物質をバランスよく分散することが可能になると考えられる。一方、高分子の量が多すぎると、カーボンナノチューブと活物質との効率的な電子授受反応を阻害してしまい、入出力特性やサイクル特性の悪化だけではなく、十分な容量が得られないなどの悪影響も出る虞がある。
【0027】
負極活物質は、リチウムイオンの脱離および挿入における平均作動電位が0.5V(vs.Li/Li+)以上2.0V(vs.Li/Li+)未満であり、チタン含有酸化物または金属有機構造体のいずれか少なくとも1つを含むのが好ましい。
【0028】
例えば、チタン含有酸化物としては、チタン酸化合物、チタン酸リチウム、二酸化チタンが好適に用いられる。また、チタン含有化合物は、リチウムまたはニオブ(Nb)など、チタン以外の元素を微量含んでいてもよい。
【0029】
チタン酸化合物としては、H2Ti3O7、H2Ti4O9、H2Ti5O11、またはH2Ti6O13、H2Ti12O25であることが好ましく、サイクル特性が安定であることからH2Ti12O25であることがより好ましい。
【0030】
チタン酸リチウムとしては、スピネル型構造を有するチタン酸リチウム、ラムズデライト型構造を有するチタン酸リチウムであることが好ましく、分子式としてLi4Ti5O12で表されるものが好ましい。スピネル型の場合、リチウムイオンの挿入・脱離の反応における活物質の膨張収縮が小さいためである。
【0031】
二酸化チタンとしては、ブロンズ(B)型二酸化チタン、アナターゼ型二酸化チタン、ラムズデライト型二酸化チタン等が例示される。不可逆容量が小さいこと、およびサイクル安定性に優れることから、特に好ましくは、チタン化合物をLi4Ti5O12とすることである。
【0032】
これらチタン化合物は1種類でもよいし、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0033】
金属有機化合物としては、有機骨格層に芳香族環構造を有するカルボン酸アニオンのアルカリ金属塩が挙げられる。芳香族環構造は、ベンゼン、ビフェニル、ターフェニル、などが挙げられ、ナフタレン、アントラセン、ピレンなどの縮合多環式構造物であっても良い。有機骨格における芳香族環の数は、エネルギー密度と安定性の観点から1~5が好ましい。カルボン酸アニオン部位は1分子あたり2以上を有していることが好ましく、有機骨格層の対角位置にあることが好ましい。例えば、ベンゼンであれば1,4位、ナフタレンであれば2,6位、ピレンであれば2,7位が挙げられる。有機骨格層には充放電性能を調整するために置換基を導入しても良い。好適なものとして、テレフタル酸リチウムや2,6-ナフタレンジカルボン酸リチウム、2,7-ピレンジカルボン酸リチウムなどが挙げられる。
【0034】
負極の製造方法としては、従来の公知な方法を用いることができ、例えば、負極活物質および導電助剤およびバインダーおよび溶媒を混練してスラリーを作製し、その後スラリーを集電体上に担持し、そして溶媒を除去することによって負極活物質層を含む負極を作製する方法が挙げられる。
【0035】
負極活物質層の厚みは、10μm以上200μm以下であれば好適に用いられる。
【0036】
負極活物質層の密度は、0.5g/cm3以上3.0g/cm3以下であることが好ましく、0.7g/cm3以上2.7g/cm3以下がより好ましく、1.0g/cm3以上2.5g/cm3以下がさらに好ましい。
【0037】
負極活物質層の密度が1.0g/cm3以上であれば、前述の導電助剤と負極極活物質との接触が良好となり、3.0g/cm3以下であれば、非水電解質が負極内に浸透しやすい。
【0038】
負極活物質層の密度は、負極の圧縮によって調整してもよい。
【0039】
圧縮方法は、ロールプレス、油圧プレス等が好適に用いられる。
【0040】
集電体は、正極活物質または負極活物質から集電する部材である。
【0041】
負極は、集電体の片面または両面に同じ活物質層を形成してもよく、集電体の片面に正極活物質層、一方の面に負極活物質層を形成させた形態、すなわち双極型(バイポーラ)電極であってもよい。
【0042】
集電体の厚みは、特に限定されないが、10μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0043】
集電体としては、銅やニッケル、アルミニウムまたはその合金などが挙げられるが、耐食性や重量の観点からアルミニウムやその合金であることが好ましく、JIS規格1030、1050、1085、1N90、または1N99等に代表される高純度アルミニウムであることが好ましく、またはそれらの合金が好ましい。
【0044】
<正極>
正極は、リチウムイオンの挿入および脱離により、非水電解質二次電池の充電および放電が為され、リチウムイオン挿入および脱離が可能な正極活物質を含む。
【0045】
正極活物質は、平均作動電位が3.0V(vs.Li/Li+)以上4.5V(vs.Li/Li+)以下であることが好ましく、特に限定されないが、例えば金属酸化物またはリチウム遷移金属複合酸化物などが用いられる。
リチウム遷移金属複合酸化物としては、層状岩塩型構造やスピネル型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物などが挙げられるが、良好なサイクル特性を示すことから、式2で表されるスピネル型マンガン酸リチウムが好ましい。
Li1+xMyMn2―x―yO4 (2)
(0≦x≦0.2、0<y≦0.6であり、かつMは2~13族でかつ第3~4周期に属する元素(但し、Mnは除く)よりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む)
【0046】
スピネル型マンガン酸リチウムは、正極活物質自身の安定性向上の効果が大きい点から、式(1)のMがAl、Mg、Zn、Ni、Co、Fe、Ti、Cu、ZrまたはCrが好ましく、正極活物質自身の安定性向上の効果が特に大きいことから、Al、Mg、Zn、TiまたはNiがより好ましい。
【0047】
スピネル型マンガン酸リチウムは、高い平均電圧を有しておりエネルギー密度が良好なことから、
Li1+xAlyMn2―x―yO4(0≦x≦0.1、0<y≦0.1)、
Li1+xMgyMn2―x―yO4(0≦x≦0.1、0<y≦0.1)、
Li1+xZnyMn2―x―yO4(0≦x≦0.1、0<y≦0.1)、
Li1+xCryMn2―x―yO4(0≦x≦0.1、0<y≦0.1)、
が好ましく、
Li1+xAlyMn2―x―yO4(0≦x≦0.1、0<y≦0.1)、
Li1+xMgyMn2―x―yO4(0≦x≦0.1、0<y≦0.1)、
がより好ましく、
Li1+xAlyMn2―x―yO4(0≦x≦0.1、0<y≦0.1)、
がさらに好ましい。
【0048】
さらに、正極活物質としては、大容量を有する、式(2)で表されるオリビン型リン酸マンガンリチウムも好適に用いることができる。
Li1+aMbMn1―a―bPO4 (2)
(0≦a≦0.1、0≦b≦0.3であり、かつMは2~13族でかつ第3~4周期に属する元素(但し、Mnは除く)よりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む)
【0049】
さらに、電気特性向上の効果が大きい点から、式(2)のMがAl、Mg、Zn、Ni、Co、Fe、Ti、またはZrが好ましく、さらにはAl、Mg、Zn、TiまたはおよびFeがより好ましい。
【0050】
また、オリビン型リン酸マンガンリチウムは、電池特性とエネルギー密度のバランスが良好なことから、
Li1+aMgbMn1―a―bPO4(0≦a≦0.1、0≦b≦0.3)
Li1+aAlbMn1―a―bPO4(0≦a≦0.1、0≦b≦0.3)
Li1+aFebMn1―a―bPO4(0≦a≦0.1、0≦b≦0.3)
Li1+aMgcFeb-cMn1―a―bPO4
(0≦a≦0.1、0≦b≦0.3、0≦c≦0.1)
がより好ましい。
【0051】
これら正極活物質の中から、負極活物質との組み合わせによる電池性能を考慮し、適宜正極活物質を選択すればよい。また、これら複数の正極活物質を組み合わせて用いてよい。
【0052】
正極は、導電助剤またはバインダーを含んでもよい。
【0053】
導電助剤としては、金属材料または炭素材料が好適に用いられる。金属材料としては、銅またはニッケルなどが好適に用いられる。また炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンナノチューブ、ならびにアセチレンブラック、ケッチェンブラック、およびファーネスブラックなどのカーボンブラックが挙げられる。正極に含まれる導電助剤の量は、活物質100重量部に対して、好ましくは1重量部以上30重量部以下、より好ましくは2重量部以上15重量部以下である。上記範囲内であれば、正極の導電性が確保される。また、後述のバインダーとの接着性が維持され、集電体との接着性を十分に得ることができる。
【0054】
これら導電助剤は1種類でもよいし、2種類以上用いてもよい。
【0055】
バインダーは例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリイミド、およびそれらの誘導体よりなる群から選ばれる高分子が挙げられる。
【0056】
また正極に含まれるバインダーは上述した酸性官能基を有する高分子であってもよい。酸性官能基を有する高分子を用いる場合、負極で用いた酸性官能基を有する高分子と同じ高分子を用いてもよいし、異なる酸性官能基を有する高分子を用いてもよい。酸性官能基を有さない高分子と酸性官能基を有する高分子を併用してもよい。
【0057】
バインダーの量は、正極活物質100重量部に対して、1重量部以上30重量部以下、さらに、2重量部以上15重量部以下を用いることが好ましい。上記範囲内であれば、正極活物質と導電助剤との接着性が維持され、集電体との接着性も十分に確保される。
【0058】
正極の製造方法としては、公知な方法を用いればよい。例えば、正極活物質およびバインダーおよび導電助剤および溶媒を混練して正極スラリーを作製し、その後正極スラリーを集電体上に担持し、そして溶媒を除去することによって正極活物質層を含む正極を作製する方法が用いられる。
【0059】
ここで言う正極活物質層とは、正極における層であって、正極でのリチウムイオンの挿入および脱離に寄与する正極活物質を含む層を指す。
【0060】
正極活物質層の厚みは、10μm以上200μm以下であれば好適に用いられる。
【0061】
正極活物質層の密度は、1.0g/cm3以上4.0g/cm3以下であることが好ましく、1.5g/cm3以上3.5g/cm3以下がより好ましく、2.0g/cm3以上3.0g/cm3以下がさら好ましい。
【0062】
正極活物質層の密度が1.0g/cm3以上であれば、前述の導電助剤と正極活物質との接触が良好となり、4.0g/cm3以下であれば、非水電解質が正極内に浸透しやすい。
【0063】
正極活物質層の密度は、正極の圧縮によって調整してもよい。
【0064】
圧縮方法は、ロールプレス、油圧プレス等が好適に用いられる。
【0065】
集電体としては、ニッケル、アルミニウムまたはその合金などが挙げられるが、耐食性や重量の観点からアルミニウムやその合金であることが好ましく、JIS規格1030、1050、1085、1N90、または1N99等に代表される高純度アルミニウムであることが好ましく、またはそれらの合金が好ましい。
正極は、集電体の片面または両面に同じ活物質層を形成してもよく、集電体の片面に正極活物質層、一方の面に負極活物質層を形成させた形態、すなわち双極型(バイポーラ)電極であってもよい。
【0066】
<非水電解質>
非水電解質は、負極と正極との間のイオン伝達を媒介する。
非水電解質は、非水溶媒と電解質とを少なくとも含む。非水溶媒は、非プロトン性溶媒または非プロトン性極性溶媒が好ましく、非プロトン性極性溶媒がより好ましい。例えば、カーボネート、エステル、ラクトン、スルホン、ニトリルおよびエーテル類などが挙げられる。具体的にはエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、アセトニトリル、γ-ブチロラクトン、1、2-ジメトキシエタン、スルホラン、ジオキソラン、プロピオン酸メチル等が挙げられる。
【0067】
これらの溶媒は、粘度および溶解性リチウムイオン伝導性等のバランスを調整するために複数種を混合して用いても良い。
【0068】
電解質は、リチウム塩として、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiBOB(Lithium Bis (Oxalato) Borate)、Li[N(SO2CF3)2]、Li[N(SO2C2F5)2]、Li[N(SO2F)2]、またはLi[N(CN)2]などを含んでおり、リチウム塩の濃度は、0.5mol/L以上1.5mol/L以下であれば好適に用いられる。
【0069】
非水電解質は、あらかじめ正極および負極およびセパレータに含ませてもよいし、正極と負極との間にセパレータを設置したものを積層した後に添加してもよい。
【0070】
非水電解質は、非水溶媒に電解質を溶解させた電解液でもよいし、非水溶媒に電解質を溶解させた電解液を高分子に含浸させたゲル電解質でもよい。
【0071】
非水電解質の量は、正極、負極およびセパレータの面積、活物質の量ならびに電池の容積に合わせて適宜調整される。
【0072】
非水電解質は、難燃剤などの添加剤を含んでもよい。例えば、難燃剤としてリン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)やエトキシ(ペンタフルオロ)シクロトリホスファゼンが、添加剤としてビニレンカーボネート、1,3-プロパンスルトン、スクシノニトリルなどが挙げられる。
【0073】
<セパレータ>
セパレータは、正極と負極との間に設置され、これらの間の電子やホールの伝導を阻止しつつ、リチウムイオンの伝導を仲介する媒体としての機能を有し、少なくとも電子やホールの伝導性を有さないものである。
【0074】
セパレータとしては、ナイロン、セルロース、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタラート、およびそれらを2種類以上複合したものであれば好適に用いられる。
【0075】
セパレータの形状としては、正極と負極との間に設置され、絶縁性かつ非水電解質を含むことができる構造であればよく、織布、不織布または微多孔膜などが好適に用いられる。
【0076】
セパレータは、可塑剤、酸化防止剤または難燃剤を含んでもよいし、金属酸化物等が被覆されてもよい。
【0077】
セパレータの厚みは、10μm以上100μm以下であることが好ましく、12μm以上50μm以下であることがさらに好ましい。
【0078】
セパレータの空隙率は、30%以上90%以下であることが好ましく、リチウムイオン拡散性および短絡防止性のバランスがよい点から、35%以上85%以下がより好ましく、前記バランスが特に優れていることから、40%以上80%以下がさらに好ましい。
【0079】
<非水電解質二次電池>
本発明の非水電解質二次電池は、負極、正極、正極と負極間に介在されたセパレータ、および非水電解質、外装材から構成されている。また各正極および負極には端子が電気的に接続され、さらに各端子は外装材外側まで延びた端子延在部を有する。外装材は、正極、負極およびセパレータを交互に積層または巻回してなる積層体、ならびに積層体を電気的に接続する端子を封入する部材である。
【0080】
積層体の積層数は、所望の電圧値および電池容量を得る目的で、適宜調整してよい。外装材としては、金属箔にヒートシール用の熱可塑性樹脂層を設けた複合フィルム、蒸着やスパッタリングによって形成された金属層、または角形、楕円形、円筒形、コイン形、ボタン形もしくはシート形の金属缶が好適に用いられる。
【0081】
非水電解質二次電池を、複数接続することによって組電池としてもよい。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により具体的に説明するが、これら実施例により限定されるものではない。
【0083】
(実施例1)
正極活物質としてスピネル型のマンガン酸リチウム(Li1.1Al0.1Mn1.8O4)、導電助剤としてアセチレンブラック、およびバインダーとしてPVdFをそれぞれ固形分濃度で100重量部、5重量部、および5重量部となるように混合し、正極スラリーを作製した。
【0084】
なお、バインダーは5wt%のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液に調整したものを使用した。
【0085】
次に、正極スラリーをNMPで希釈したものを、厚さ20μmのアルミニウム箔に片面塗工し、その後120℃のオーブンで乾燥した。その後、裏面も同様に塗工・乾燥を行い、さらに170℃で真空乾燥した。
【0086】
以上の工程を経て、正極を得た。正極の容量は1.0mAh/cm2であり、正極の面積は片面が50cm2であった。
【0087】
次に、負極活物質として、平均粒子径が5μm、比表面積が4m2/gのスピネル型のチタン酸リチウム(Li4/3Ti5/3O4)、導電助剤として直径10nmのカーボンナノチューブ、およびバインダーとしてカルボキシ基を有するPVdFを、それぞれ固形分濃度で100重量部、1重量部、および3重量部となるように混合し、負極スラリーを作製した。
【0088】
なお、バインダーは5wt%のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液に調整したものを使用した。
【0089】
次に、負極スラリーをNMPで希釈したものを、厚さ20μmのアルミニウム箔に片面塗工し、その後120℃のオーブンで乾燥した。その後、裏面も同様に塗工・乾燥を行い、さらに170℃で真空乾燥した。
【0090】
以上の工程を経て、負極を得た。負極の容量は1.2mAh/cm2であり、負極の面積は片面が55cm2であった。
【0091】
次に、正極13枚、負極14枚およびセルロース不職布のセパレータ28枚をセパレータ/負極/セパレータ/正極/セパレータ/負極/セパレータの順に積層した。なおセパレータは厚さが25μm、面積が60cm2であった。
【0092】
以上の工程を経て、積層体を得た。
【0093】
次に、正極および負極それぞれに端子を取り付け、二枚のアルミラミネートフィルムで積層体を挟み、180℃、7秒間、2回の熱溶着工程をアルミラミネートフィルム三辺に施した。
【0094】
その後、リチウム塩としてLiPF6、各非水溶媒の割合が、PC:DEC=30:70の体積比である混合溶媒からなる非水電解質10mLを積層体に含ませた。そして、減圧しながら残りの一辺を180℃×7秒、2回の熱溶着工程によってアルミラミネートフィルムを封止した。
【0095】
以上の工程を経て、非水電解質二次電池を得た。
【0096】
(非水電解質二次電池の入出力特性評価)
実施例で作製した非水電解質二次電池を、充放電装置(HJ1005SD8、北斗電工社製)に接続し、エージング工程を経た後に充放電を行った。
【0097】
エージング工程では、非水電解質二次電池を満充電にしたのちに、60℃で168時間放置し、その後、室温(25℃)まで除冷した。
【0098】
エージング工程の後に、25℃の環境下で容量10%から90%まで10%ごとにパルス充放電試験(500mA×10s、1000mA×10s、2000mA×10s、5000mA×10s)を実施し、パルス充放電試験中の電圧変化量から入出力特性を求めた。(表1)
【0099】
(非水電解質二次電池の入出力特性評価基準)
各容量で得られた入力特性および出力特性の最大がそれぞれ50W、90W以上であるものを良好とした(表1)。
【0100】
(非水電解質二次電池のサイクル特性評価)
実施例で作製した非水電解質二次電池を、充放電装置(HJ1005SD8、北斗電工社製)に接続し、エージング工程を経た後に充放電を行った。
【0101】
エージング工程では、非水電解質二次電池を満充電にしたのちに、60℃で168時間放置し、その後、室温(25℃)まで除冷した。
【0102】
エージング工程の後に、45℃の環境下で、500mA定電流充電および1000mA定電流放電を200回繰り返した。このときの充電終止電圧および放電終止電圧は、それぞれ2.7V、2.0Vとした。
【0103】
1回目の放電容量に対する、200回目の放電容量の割合を容量維持率とした。例えば、1回目の放電容量を100としたとき、200回目の放電容量が80であれば容量維持率は80%となる。
【0104】
また、サイクル試験におけるガス発生量を測定した。ガス発生量は、電子比重計(MDS-3000、アルファミラージュ社製)を用いてアルキメデス法にて測定した。
【0105】
(非水電解質二次電池のサイクル特性評価基準)
200回目の容量維持率が80%以上かつ200サイクル終了後のガス発生量が4.0cc未満を良好とし、容量維持率80%未満、200サイクル終了後のガス発生量が、4.0cc以上を不良とした(表1)。
【0106】
(実施例2~15)
負極のカーボンナノチューブ、バインダーおよびこれらの使用量を表1に従い変更したこと以外は、実施例1と同じとした。
【0107】
(実施例16)
負極作製時にアセチレンブラックをさらに2重量部追加したこと以外は、実施例1と同じとした。
【0108】
(比較例1~5)
負極のカーボンナノチューブ、バインダーおよびこれらの使用量を表1に従い変更したこと以外は、実施例1と同じとした。
【0109】
【0110】
実施例1~16では、ガス発生が抑制され、容量維持率の低下が少ない優れたサイクル安定性を有するだけでなく高い入出力特性を有する電池が得られた。これは、良好な負極が作製できているため活物質と導電助剤とで効率的な電子授受が行われており、充放電に伴う副反応が少なくなったためと推定される。一方、比較例1~5は、ガス発生量が多く、容量維持率は低くなり、高い入出力特性も得られなかった。これは、所定の条件を満たさない負極を用いたため、評価基準を満足しなかった。