(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】靴
(51)【国際特許分類】
A43B 23/02 20060101AFI20230824BHJP
A43B 5/00 20220101ALI20230824BHJP
A43C 11/14 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
A43B23/02 105Z
A43B5/00 310
A43C11/14
(21)【出願番号】P 2021525514
(86)(22)【出願日】2019-06-13
(86)【国際出願番号】 JP2019023533
(87)【国際公開番号】W WO2020250389
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】鏡味 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】別所 亜友
(72)【発明者】
【氏名】森安 健太
【審査官】沖田 孝裕
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-124002(JP,A)
【文献】米国特許第05353483(US,A)
【文献】特表2018-532554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 23/02
A43B 5/00
A43C 11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソールと、
前記ソールの上方に設けられ足を収容するアッパーと、
前記アッパーに締付け力を与えるための締付部と、
前記締付部の締付け力を、前記アッパーの中足部の下方部分に伝えるための力伝達部と、
を備え
、
前記力伝達部は、前記締付部を、前記アッパーに着脱可能に固定するための留具を含み、
前記留具の固定位置を前後方向に移動可能な位置調整機構を有する、
ことを特徴とする靴。
【請求項2】
前記留具は、前記アッパーの前記ソールとの境界部付近に固定されることを特徴とする請求項
1に記載の靴。
【請求項3】
前記締付部は、互いに連続する第1部分および第2部分を含み、
前記留具は、前記第1部分と前記第2部分のそれぞれについて設けられ、
前記第1部分と前記第2部分の境界と前記留具との位置関係を変えることにより、前記第1部分と前記第2部分の一方の締め付け力を強くし、他方の締め付け力を弱めることができることを特徴とする請求項
1または
2に記載の靴。
【請求項4】
前記締付部はシューレースであり、
前記アッパーは、前記第1部分または前記第2部分が通過する紐通し部を有し、
前記第1部分の端部および前記第2部分の端部は前記アッパーの外足側に固定され、
前記留具は、外足側に固定されることを特徴とする請求項
3に記載の靴。
【請求項5】
前記紐通し部は、外足側に設けられる外側紐通し部と、内足側に設けられる内側紐通し部とを含み、前記内側紐通し部の数は、前記外側紐通し部の数より多いことを特徴とする請求項
4に記載の靴。
【請求項6】
前記第1部分および前記第2部分の長さは、前記留具、前記第1部分の端部および前記第2部分の端部のうちの少なくとも1つにおいて調整可能であることを特徴とする請求項
4または
5に記載の靴。
【請求項7】
前記第1部分の最後部が前記締付部のトップラインを構成し、前記第1部分の最前部が前記締付部のボトムラインを構成し、
前記締付部のトップラインおよび前記締付部のボトムラインは、外足側が内足側よりも後方に位置することを特徴とする請求項
4から
6のいずれかに記載の靴。
【請求項8】
前記アッパーの履き口の内足側のトップラインは、前記履き口の外足側のトップラインより前方に位置することを特徴とする請求項1から
7のいずれかに記載の靴。
【請求項9】
前記締付部は、小趾球部と母趾球部とを結んだ直線と略平行な方向に前記アッパーを締付けることを特徴とする請求項1から
7のいずれかに記載の靴。
【請求項10】
前記締付部はシューレースを含み、
前記力伝達部は、前記シューレースを前記アッパーに着脱可能に固定する留具と、前記シューレースの中間部を前記アッパーの中足部の下方部分に引寄せる部材とを含むことを特徴とする請求項1に記載の靴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴に関する。
【背景技術】
【0002】
容易にアッパーを締め付け可能な靴が知られている。例えば、特許文献1には、アッパーを締付ける靴紐と、靴紐の途中に設けられたファスナとを有する靴が記載されている。この靴紐は、アッパーの開口部を挟む両側部分に形成された通孔をジグザグに通過して終端がアッパーに固定されている。ファスナは、アッパー上部の履き口付近に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第9730492号明細書
【文献】米国特許第5353483号明細書
【文献】特開平10-179210号公報
【文献】特公表2018-532554号公報
【文献】特許第6236142号公報
【文献】特許第6117380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、アッパーの締め付け機構とフィット性とに関して以下の認識を得た。
靴の脱ぎ履きの時間を短縮するために、アッパーを容易に締め付けできることが望ましい。しかし、特許文献1に記載された靴では、留具がアッパー上部の履き口付近に固定されるため、締め付け力が履き口付近に集中し、履き口からつま先に向かうにつれて締め付け力が低下し、アッパーと足甲との間の隙間が大きくなってフィット性が悪くなる。
【0005】
つま先側のフィット性を改善するために、靴紐全体を強く締めることが考えられるが、この場合、履き口付近の締め付け力が過度に大きくなり、履き心地の観点で不利になる。これらから、本発明者は、特許文献1に記載の靴には、アッパーの締め付けを容易にすることとフィット性の維持とを両立させる観点で改善すべき余地があることを認識した。
【0006】
本発明は、こうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、アッパーの締め付けを容易にしつつ、フィット性を維持できる靴を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の靴は、ソールと、ソールの上方に設けられ足を収容するアッパーと、アッパーに締付け力を与えるための締付部と、締付部の締付け力を、アッパーの中足部の下方部分に伝えるための力伝達部と、を備える。
【0008】
なお、以上の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、プログラム、プログラムを記録した一時的なまたは一時的でない記憶媒体、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アッパーの締め付けを容易にしつつ、フィット性を維持できる靴を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係る靴を概略的に示す平面図である。
【
図4】
図1の靴の締付部の周辺を示す平面図である。
【
図5】
図1の靴のシューレースと着用者の母趾球部と小趾球部との位置関係を示す平面図である。
【
図6】第1変形例に係る靴を概略的に示す平面図である。
【
図8】第2変形例に係る靴を概略的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態、変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0012】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0013】
[実施の形態]
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態に係る靴100の構成を説明する。
図1は、実施の形態に係る靴100を概略的に示す平面図である。
図1を含め、以下の図では、特に説明しない限り右足用の靴を示すが、本明細書の説明は、左足用の靴にも同様に適用される。
図2は、靴100の正面図である。
図3は、靴100の側面図である。
図3は、靴100を外足側から視た図である。
【0014】
本実施形態の靴100は、例えば歩行や走行用の靴、安全靴、テニスやバスケットボールなどのスポーツ用の靴などとして使用でき、その用途は限定されない。靴100は、ソール10と、アッパー20とを有する。
図1に示すように、アッパー20の幅方向中心線Laから内足側(図中左側)を内足部22と、幅方向中心線Laから外足側(図中右側)を外足部24という。また、外足側から内足側に向かう方向を内側といい、その反対方向を外側という。また、中心線Laに沿った方向を「前後方向」という。
【0015】
また、中心線Laに沿ってつま先側に向かう方向を「前側」、「前方」といい、その反対側を「後側」、「後方」という。したがって、幅方向は中心線Laに直交する。また、アッパー20のうち、前後方向において中足骨(
図5も参照)に対応する部分を中足部20mという。中足部20mは、靴100の前後長を100%とするとき、中心線Laと直交する直線に平行な範囲で、先端から25~85%、より厳密には30~80%の領域である。また、アッパー20のうち、前後方向において中足部20mより前側の部分を前足部20fといい、中足部20mより後側の部分を後足部20gという。前足部20fは、概ね指骨に対応する部分であり、後足部20gは、概ね足根骨に対応する部分である。
【0016】
また、靴100を水平面に載置した状態(以下、「水平状態」という)における上側を「上側」、「上方」といい、その反対側を「下側」、「下方」という。また、水平状態において、鉛直に延びる方向を「上下方向」という。
【0017】
(ソール)
ソール10は、地面に接するための部分である。ソール10は、アウトソール12と、インソール14とを含む。ソール10の上方には、接着等の手段によりアッパー20が固定される。ソール10は、アウトソール12とインソール14の間にミッドソールを含んでもよい。ソール10は、ユニソール構造でもよく、インソール14を含まなくてもよい。
【0018】
(アッパー)
アッパー20は、ソール10の上方に設けられ足を収容する。アッパー20は、足を収容するための内部空間20aを囲む。アッパー20には、その履き口20bから前方に中央開口部20cが形成される。なお、中央開口部20cは必須の構成ではなく、アッパー20がいわゆるモノソック構造であってもよい。アッパー20は、内足部22と、外足部24と、紐通し形成部26と、紐通し部28とを有する。アッパー20には、アッパー20に締付け力を与えるための締付部30と、締付部30の締付け力を、アッパー20の中足部20mの下方部分に伝えるための力伝達部18とが設けられる。本実施形態では、力伝達部18は、締付部30をアッパー20に着脱可能に固定するための留具36と、受け部38とを含む。また、アッパー20には、位置調整機構42と、シュータン70とが設けられる。
図1は、留具36がアッパー20に固定されていない状態を示し、
図2、
図3は、留具36がアッパー20に固定されている状態を示す。
【0019】
(締付部)
締付部30は、アッパー20を締付ける。この例の締付部30は、中央開口部20cを幅方向に跨ぐように配置される。締付部30は、アッパー20に対して、中央開口部20cを幅方向に閉じるような締付け力を加える。締付部30は、帯状の部材を含んでもよいし、紐状の部材を含んでもよいし、帯状の部材および紐状の部材を含んでもよい。本実施形態の締付部30は、シューレース30sであり、互いに連続する第1部分32および第2部分34を含む。第1部分32は、シューレース30sのうち第2部分34との境界か30bから端部32eに至る部分である。第2部分34は、シューレース30sのうち第1部分32との境界30bから端部34eに至る部分である。境界30bおよび端部32e、34eについては後述する。
【0020】
紐通し部28は、第1部分32または第2部分34が通過して、締付部30の締付け力をアッパー20に伝える。この例の紐通し部28は上下に貫通する孔を有するハトメである。紐通し部28は、アッパー20の中央開口部20cの周縁に設けられた紐通し形成部26に形成される。紐通し形成部26は、内足部22に設けられる第1形成部26aと、外足部24に設けられる第2形成部26bとを含む。紐通し形成部26は、周囲よりも剛性を高めるために、周囲よりも低い伸縮性を有する低伸縮性素材、周囲よりも厚い素材、周囲よりも密度が高い素材または周囲よりも硬い素材で形成されてもよいし、周囲と同じ素材で構成されていてもよい。
【0021】
本実施形態の紐通し部28は、外足側に設けられる外側紐通し部28eと、内足側に設けられる内側紐通し部28jとを有する。内側紐通し部28jは、第1形成部26aに複数設けられ、外側紐通し部28eは、第2形成部26bに複数設けられる。締付け力の前後方向の分布を平坦にする観点から、内側紐通し部28jの数(例えば、5個)は、外側紐通し部28eの数(例えば、4個)よりも多い。なお、内側紐通し部28jの数は奇数であり、外側紐通し部28eの数は偶数であり、これらの和は奇数である。つまり、外側紐通し部28eと内側紐通し部28jとは互いに幅方向に非対称に配置される。
【0022】
(留具)
留具36は、締付部30を、アッパー20の中足部20mの下方部分に着脱可能に固定するための部材であり、力伝達部に相当する。留具36は、アッパー20に設けられた受け部38に連結されることにより、アッパー20に固定される。つまり、留具36は、受け部38に連結された固定状態と、受け部38から分離された非固定状態とを有する。留具36は、固定されたときに、中足部20mの外足側においてアッパー20のソール10との境界部20h付近に固定されるのが好ましいが、受け部38は、上面視においてアッパー20の輪郭を構成するライン上か、それよりも下方に固定されていればよい。受け部38がソール10の側面に固定されていてもよい。なお、アッパー20の輪郭は、アッパー20のうち最も外方に向けて突出する部分を結んだラインである。留具36は、締付部30を固定可能なものであればよく、例えば面ファスナやフック、マグネット等であってもよい。この例の留具36は樹脂製バックルの雄パーツであり、受け部38は、バックルの雌パーツである。留具36および受け部38は、フロントリリース型バックルまたはサイドリリース型バックルであってもよい。
【0023】
(位置調整機構)
足の形状は着用者ごとに異なるので、留具36の固定位置は調整可能であることが望ましい。そこで、本実施形態は留具36のアッパー20における固定位置を前後方向に移動可能な位置調整機構42を有する。一例として、位置調整機構42はスライダ機構であってもよい。本実施形態の位置調整機構42は、アッパー20の外足部24に設けられた前後方向に延びるレール部材42bと、レール部材42bを前後にスライド自在に設けられるスライダ42sとを含む。スライダ42sには受け部38が固定される。位置調整機構は必須ではなく、受け部38の位置は固定されていてもよい。
【0024】
シュータン70は、アッパー20の内部空間20a側において中央開口部20cを覆う。シュータン70には、幅方向の端部が中央開口部20cの左右端に固定され、シュータン70の中央部分が左右に分割された、いわゆるスプリットタンを採用することもできる。
【0025】
図4も参照する。
図4は、締付部30の周辺を示す平面図である。この図は、留具36の一部を切り欠いて示している。複数の内側紐通し部28jについて、前から後に向かって順に通し部28j1、28j2、28j3、28j4、28j5という。また、複数の外側紐通し部28eについて、前から後に向かって順に通し部28e1、28e2、28e3、28e4という。通し部28j1、28j2、28j3、28j4、28j5は、等間隔に配置されていてもよいし、部分的に不等間隔に配置されていてもよい。また、通し部28e1、28e2、28e3、28e4は、等間隔に配置されていてもよいし、部分的に不等間隔に配置されていてもよい。
【0026】
内側紐通し部28jの前後方向中央に配置される通し部28j3を特に、中央通し部28j3という。締付部30のうち、中央通し部28j3通過する部分を第1部分32と第2部分34の境界30bと定義する。締付部30のうち、中央通し部28j3から後側に繋がる部分を第1部分32とする。また、締付部30のうち、中央通し部28j3から前側に繋がる部分を第2部分34とする。つまり、第1部分32と第2部分34とは一方が長くなれば他方が短くなる関係を有し、これに応じて締付部30の全長における境界30bの位置は変化する。
【0027】
第1部分32の端部32eおよび第2部分34の端部34eは、アッパー20の外足側に固定されている。この例では、第1部分32の端部32eは、外側紐通し部28eの前から2番目の通し部28e2に固定される。また、第2部分34の端部34eは、外側紐通し部28eの前から4番目(後から1番目)の通し部28e4に固定される。ここで、端部が固定されているとは、留具36を引っ張っても端部が通し部から外れることなく保持されることを意味する。端部32e、34eの固定構造に限定はないが、この例では、端部32e、34eには、通し部28eを通過できない程度の大きさの結び目(瘤)が形成されている。端部32e、34eは、紐止め部材を用いて構成されてもよい。
【0028】
図1に示すように、シューレース30sのうち端部32e、34eの結び目から通し部28eとは反対側に延びる部分を延出紐部32j、34jという。延出紐部32j、34jの先端は、自由端であってもよい。延出紐部32j、34jの先端は、着用者に合わせて適切な長さに切断されてもよい。
【0029】
着用者ごとに足の形状は異なるので、第1部分32および第2部分34の適切な長さも異なる。したがって、第1部分32および第2部分34の長さは変えられることが望ましい。そこで、本実施形態では、第1部分32および第2部分34の長さは、第1部分32の端部32eおよび第2部分34の端部34eにおいて調整可能に構成されている。
【0030】
端部32eの結び目の位置を変えて、延出紐部32jを長くすると第1部分32は短くなり、延出紐部32jを短くすると第1部分32は長くなる。端部34eの結び目の位置を変えて、延出紐部34jを長くすると第2部分34は短くなり、延出紐部34jを短くすると第2部分34は長くなる。上述のように、結び目よりも先端側は適切な長さに切断されてもよい。また、結び目を形成するのに変えて、例えばダイヤル式の長さ調整機構が設けられていてもよい。これらの場合、長さを容易に調節できる。
【0031】
第1部分32の端部32eからの経路を説明する。
図4に示すように、第1部分32は、通し部28e4から通し部28j5へ亘り、通し部28j5から通し部28j1へ亘り、通し部28j1から通し部28e1へ亘り、そして通し部28e1から中央通し部28j3まで延びている。第1部分32のうち、通し部28j5から通し部28j1までの部分は、内向きに引き出されてリード部32pを構成する。リード部32pには留具36が設けられる。なお、第1部分32の内側紐通し部28jと外側紐通し部28eとの間に延びるそれぞれの部分を、内外延伸部32kと表記する。
【0032】
第2部分34の端部34eからの経路を説明する。
図4に示すように、第2部分34は、通し部28e2から通し部28j2へ亘り、通し部28j2から通し部28j4へ亘り、通し部28j4から通し部28e3へ亘り、そして通し部28e3から中央通し部28j3まで延びている。第2部分34のうち、通し部28j2から通し部28j4までの部分は、内向きに引き出されてリード部34pを構成する。リード部34pには留具36が設けられる。なお、第2部分34の内側紐通し部28jと外側紐通し部28eとの間に延びるそれぞれの部分を、内外延伸部34kと表記する。
【0033】
この例のリード部32p、34pは、留具36内の通路を通過する。したがって、留具36を引っ張ることにより、第1部分32および第2部分34に張力を付与し、アッパー20に締め付け力を加えることができる。
【0034】
留具36は、第1部分32および第2部分34のそれぞれに配置されている。留具36は、第1部分32および第2部分34に対して相対移動可能に取付けられている。したがって、第1部分32と第2部分34の境界30bと留具36の位置関係を変えることにより、第1部分32と第2部分34の一方を短くしてその締め付け力を強くし、他方を長くしてその締め付け力を弱くすることができる。
【0035】
第1部分32および第2部分34それぞれは、留具36より前方に配置される前方部分32f、34fと後方に配置される後方部分32b、34bとに区分される。つまり、留具36は前方部分32f、34fと後方部分32b、34bの間に配置されている。留具36のシューレース30sとの位置関係を変えることにより、前方部分32f、34fと後方部分32b、34bの一方の締め付け力を弱め、他方の締め付け力を強めることができる。これによって、締め付け力の前後方向の分布を調整できる。
【0036】
図5も参照する。
図5は、シューレース30sと着用者の母趾球部と小趾球部との位置関係を示す平面図である。この図では、着用者の小趾球部と母趾球部とを結んだ直線に符号Lbを付して示す。直線Lbは幅方向に対して平面視で時計回りに15°傾斜している。
【0037】
本実施形態では、第1部分32の最後部が締付部30のトップライン30hを構成し、第1部分32の最前部が締付部30のボトムライン30jを構成している。
図4の例では、トップライン30hおよびボトムライン30jは、外足側が内足側よりも後方に位置している。平面視において、トップライン30hおよびボトムライン30jは、幅方向に対して所定の角度θnだけ傾斜している。所定の角度θnは、着用者の母趾球部と小趾球部の平面視の位置関係に近似する角度(例えば、15°)であってもよい。
【0038】
また、トップライン30hが通過する通し部28j5と通し部28e4の平面視の位置関係は、着用者の母趾球部と小趾球部の位置関係に近似している。つまり、通し部28j5と通し部28e4とを結ぶ直線は、母趾球部と小趾球部を結ぶ直線と略平行に延びている。また、ボトムライン30jが通過する通し部28j1と通し部28e1の平面視の位置関係は、着用者の母趾球部と小趾球部の位置関係に近似している。つまり、通し部28j1と通し部28e1とを結ぶ直線は、母趾球部と小趾球部を結ぶ直線と略平行に延びている。
【0039】
歩行等の際の衝撃を吸収して疲労を軽減するために、母趾球部から小趾球部にかけての横アーチを維持することが望ましい。このため、本実施形態の締付部30は、母趾球部と小趾球部とが互いに接近する方向に締付け力が作用するように構成されている。特に、締付部30は、小趾球部と母趾球部とを結んだ直線と略平行な方向にアッパー20を締付けるように構成される。
【0040】
より具体的には、内側紐通し部28jと外側紐通し部28eの間に亘たされる内外延伸部32k、34kの延伸方向の平均が、小趾球部と母趾球部とを結んだ直線と略平行になるように設定されている。母趾球部と小趾球部を結んだ直線は、外足側が内足側より後方に位置するように、幅方向に対して略15°傾斜している。
【0041】
第1部分32において、通し部28e1から中央通し部28j3に延びる内外延伸部32kは、内足側が外足側より後方に位置するように傾斜している。第2部分34において、通し部28e3から中央通し部28j3に延びる内外延伸部34kは、外足側が内足側より後方に位置するように大きく傾斜している。これらを含めて平均すると、内外延伸部32k、34kの延伸方向(=張力の方向)の平均は、幅方向に対して略15°傾斜している。
【0042】
履き口20bのトップラインを説明する。
図1に示すように、履き口20bのトップラインは、外足側と内足側とで対称に設けられてもよいが、本実施形態では、履き易くする観点から外足側と内足側とで非対称に設けられている。つまり、靴を履くときには、足を内反させて(母趾側を上にして)履き口20bに挿入することが多く、履き口20bの母趾側が開いている方が履きやすい。このため、アッパー20の履き口20bの内足側(母趾側)のトップライン20eは、履き口20bの外足側のトップライン20jより前方に位置している。なお、トップライン20jは、シューレース30sの後方側の端部32eが固定される通し部28e4の近傍に位置している。
図2に示すように、トップライン20jは、トップライン20eより上方に位置している。
【0043】
以上のように構成された本実施形態の靴100の特徴を説明する。靴100は、ソール10と、ソール10の上方に設けられ足を収容するアッパー20と、アッパー20に締付け力を与えるための締付部30と、締付部30の締付け力を、アッパー20の中足部20mの下方部分に伝えるための力伝達部18と、を備える。この構成によれば、締付部30をアッパー20の中足部20mの下方部分に固定できるので、締め付け力の前後方向の分布の平坦化に寄与できる。
【0044】
力伝達部18は、締付部30を、アッパー20に着脱可能に固定するための留具36を含む。この場合、シンプルな構成によって締付け力をアッパー20に伝達できる。
【0045】
留具36は、アッパー20のソール10との境界部20h付近に固定される。この場合、締め付け力を確実に足に付与でき、締め付け力の分布の平坦化に寄与できる。
【0046】
締付部30は、互いに連続する第1部分32および第2部分34を含み、留具36は、第1部分32と第2部分34のそれぞれについて設けられる。第1部分32と第2部分34の境界30bと留具36との位置関係を変えることにより、第1部分32と第2部分34の一方の締め付け力を強くし、他方の締め付け力を弱めることができる。この場合、履き口20b近傍とつま先側とで締め付け量を調整できる。
【0047】
締付部30はシューレースであり、アッパー20は、第1部分32または第2部分34が通過する紐通し部28を有し、第1部分32の端部32eおよび第2部分34の端部34eはアッパー20の外足側に固定され、留具36は、外足側に固定される。この場合、内足側から外足側に向けてシューレースを容易に締め付けできる。締め付け力の分布の平坦化に寄与できる。
【0048】
紐通し部28は、外足側に設けられる外側紐通し部28eと、内足側に設けられる内側紐通し部28jとを含み、内側紐通し部28jの数は、外側紐通し部28eの数より多い。この場合、内側紐通し部28jの数だけ多点に分散して締め付けできるので、締め付け力の分布の平坦化に寄与できる。
【0049】
第1部分32および第2部分34の長さは、留具36、第1部分32の端部32eおよび第2部分34の端部34eのうちの少なくとも1つにおいて調整可能である。この場合、足サイズに合わせてシューレース30sの長さを調整できる。
【0050】
第1部分32の最後部が締付部30のトップライン30hを構成し、第1部分32の最前部が締付部30のボトムライン30jを構成し、トップライン30hおよびボトムライン30jは、外足側が内足側よりも後方に位置する。この場合、足の付け根およびMP関節に対応するラインを適切に締め付けできる。
【0051】
留具36の固定位置を前後方向に移動可能な位置調整機構42を有する。この場合、前後方向で適切な位置において留具36を固定ができる。
【0052】
アッパー20の履き口20bの内足側のトップライン20eは、履き口20bの外足側のトップライン20jより前方に位置する。この場合、靴100を履くとき、履き口20bの内足側を開くので、それによって着脱が容易になる。
【0053】
締付部30は、小趾球部と母趾球部とを結んだ直線と略平行な方向にアッパー20を締付ける。この場合、足が荷重を受けると小趾球部と母趾球部とが広がり横アーチがつぶれるように力が働くが、小趾球部と母趾球部とが近づくように足を締め付けることで、横アーチの維持に寄与できる。
【0054】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。上述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除などの多くの設計変更が可能である。上述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0055】
[変形例]
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0056】
[第1変形例]
実施形態の説明では、締付部30がシューレース30sのみで構成される例を示したが、本発明はこれに限定されない。締付部30は帯状の部材を含んでもよい。
図6は、第1変形例に係る靴200を概略的に示す平面図であり、
図1に対応する。
図7は、靴200の側面図であり、
図3に対応する。本変形例の締付部30は、シューレース30sに加えて帯状部30mを含み、留具36がバックルに代えて第1、第2面ファスナ36m、38mを用いる点で実施の形態と異なる。
【0057】
図6に示すように、帯状部30mの基端部30nは、アッパー20の内足部22に固定されている。帯状部30mは、基端部30nから幅方向に延びる短冊状を有し、先端部30pに第1面ファスナ36mが設けられている。帯状部30mの先端部30pの近傍にはシューレース30sのリード部32p、34pが通過するためのリード支持部30qが形成されている。リード支持部30qは、リード部32p、34pが前後に通過する通路である。
【0058】
第2面ファスナ38mは、アッパー20のソール10との境界部20h付近に設けられている。第1面ファスナ36mと第2面ファスナ38mの一方はフック面を有し、他方はループ面を有する。したがって、第1面ファスナ36mは、第2面ファスナ38mに着脱自在に固定される。第1面ファスナ36mが、第2面ファスナ38mに固定されることにより、アッパー20は締付けられる。第1面ファスナ36mが、第2面ファスナ38mから分離されることにより、アッパー20への締付けは解除される。
【0059】
第1変形例の説明では、締付部30が単一の帯状部材で構成される例を示したが、本発明はこれに限定されず、締付部30は複数の帯状部材を含んでもよい。例えば、締付部30は、幅方向に延びる2以上の短冊状の部分を有していてもよい。この場合、2以上の短冊状の部分の基端部は互いに連結されていてもよいし、離れていてもよい。また、2以上の短冊状の部分の先端部は互いに連結されていてもよいし、離れていてもよい。
【0060】
[第2変形例]
図8を参照して、第2変形例に係る靴300を説明する。
図8は、第2変形例に係る靴300を概略的に示す側面図であり、
図3に対応する。本変形例の力伝達部18は、シューレース30sをアッパー20に着脱可能に固定する留具36と、シューレース30sの中間部をアッパー20の中足部20mの下方部分に引寄せる部材とを含む。特に、本変形例は、締付部30におけるリード部32p、34pの固定構造が異なる点で実施の形態と相違し、他の構成は同様である。したがって、主にリード部32p、34pの固定構造を説明する。本変形例のリード部32p、34pの固定構造は、延長部44と、中間支持部46とを含む。中間支持部46は、シューレース30sの中間部を引寄せる部材を例示しており、力伝達部に相当している。
【0061】
(延長部)
実施形態の説明では、シューレース30sのリード部32p、34pが留具36に直接的に連結されている例を示したが、本変形例のリード部32p、34pは、延長部44を介して留具36に連結されている。延長部44は、布等の可撓性を有する素材で形成された帯状の部材である。延長部44の基端側には、リード部32p、34pを通過させるためのループ部44bが設けられている。ループ部44bは、例えば折返しによって形成できる。ループ部44bは、ループが閉じている必要はなく、一部が開いたループであってもよい。延長部44の基端側には、ループ部44bに代えてフックが設けられてもよい。延長部44の先端側には、留具36が固定されている。留具36は、樹脂製バックルの雄パーツである。
【0062】
受け部38の固定位置に限定はないが、本変形例では、受け部38は、アッパー20の後足部20gの外足側に固定されている。特に、受け部38は、アッパー20の上面視の輪郭を構成するライン上またはそのラインよりも上方に固定されている。受け部38は、このラインよりも下方に固定されてもよい。受け部38は、アッパー20に直接固定されてもよいが、この例の受け部38は、ベルト38bを介してアッパー20に固定されている。なお、受け部38が直接アッパー20に固定されていてもよい。受け部38は、樹脂製バックルの雌パーツである。
【0063】
中間支持部46は、シューレース30sのリード部32p、34pの張力(締付け力)の方向をアッパー20の中足部20mの下方部分に集中させるために、リード部32p、34pの中間領域を束ねて支持する。つまり、中間支持部46は、リード部32p、34pの中間部32q、34qを中足部20mの下方部分に引き寄せて支持する。
【0064】
中間支持部46は、リード部32p、34pに対して所定の位置に向かう張力を付与できれば、その構成は限定されない。
図8の例では、中間支持部46は、リード部32p、34pの中間部32q、34qを通過させるためのループ部46bを有する部材であり、中間部32q、34qに前方下向きの張力を与えている。中間支持部46は、布等の可撓性を有する素材で形成された帯状の部材であり、ループ部46bは、帯状の部材の折返しによって形成されている。ループ部46bは、ループが閉じている必要はなく、一部が開いたループであってもよい。また、中間支持部46は、ループ部46bに代えて、中間部32q、34qを通過させるためのフックや、中間部32q、34qを引っ掛けるための突起を有してもよい。また、ループ部46bの上縁位置は、アッパーの輪郭より下方が望ましい。
【0065】
中間支持部46の基端部46aは、アッパー20のソール10との境界部20h付近に固定される。ループ部46bは、基端部46aに対して後方上側に位置している。留め具36と受け部38を後方に配置する場合、中間支持部46の基端部46aとループ部46bの位置関係を上記のような構成とすることにより、リード部のうち30s、34pの張力(締付け力)を、よりアッパーに付与することができる。また、留め具36等を前方に設ける場合は、ループ部46bは基端部46a前方上側に配置するのが好ましい。
【0066】
リード部32p、34pの固定構造の使用方法を説明する。リード部32p、34pに連結された延長部44と、その先端側に連結された留具36とを中間支持部46のループ部46bに通した状態で、留具36を受け部38に連結することにより、締付部30はアッパー20を締付けできる。この状態で、リード部32p、34pには、中足部20mの下方部分に向かう張力が作用し、アッパー20の締付け力の前後方向分布の偏りを小さくできる。また、留具36が、受け部38から分離されることにより、締付部30は非締付け状態になり、アッパー20への締付けは解除される。
【0067】
中間支持部46は、位置調整機構により前後方向に移動可能に構成されてもよい。
留具36と受け部38は、樹脂製バックルに代えて面ファスナやフック、マグネット等であってもよい。
【0068】
[その他の変形例]
実施形態の説明では、内側紐通し部28jの数が外側紐通し部28eの数よりも多い例を示したが、本発明はこれに限定されない。これらの数は等しくてもよいし、内側紐通し部28jの数が外側紐通し部28eの数よりも少なくてもよい。
【0069】
実施形態の説明では、単一の留具36が備えられる例を示したが、本発明はこれに限定されず、留具は複数備えられてもよい。また、留具は、アッパーの複数の箇所に固定可能に構成されてもよい。受け部を着脱可能な構成とし、その取付け部を複数箇所設けてもよい。また、第1部分32と第2部分34とにそれぞれ分離された別個の留具が設けられてもよい。
【0070】
実施形態の説明では、留具36がアッパー20に固定される例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、留具36は、ソール10から延出する部分に固定されてもよい。
【0071】
実施形態の説明では、紐通し部28がハトメである例を示したが、本発明はこれに限定されない。紐通し部28は、シューレース30sを通せる構成であればよく、孔の代わりにフック等の紐掛部であってもよい。紐通し部28の孔縁は、補強部材を設けて補強されてもよいし、孔かがり等によって孔の縁を周囲よりも厚くしてもよい。
【0072】
実施形態の説明では、締付部30が1本のシューレース30sを含む例を示したが、本発明はこれに限定されない。締付部は複数のシューレースを含んでもよい。また、子供用や高齢者用の靴など、履きやすさを重視する場合には、シューレース30sは、伸縮性の高い素材で構成することができる。一方、スポーツ用など安定性を重視する場合には、シューレース30sは、伸縮性の低い素材で構成することができる。
【0073】
実施形態の説明では、受け部38が外足側に配置される例を示したが、受け部38は、内足側に配置されていてもよい。また、留具36や受け部38には、その内部に小石などの異物が入らないように保護カバーが設けられてもよい。また、留具36には、その内部に第1部分32と第2部分34の長さを調整するための機構部が設けられてもよい。
【0074】
上述の各変形例は上述の実施形態と同様の作用・効果を奏する。
【0075】
上述した実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる各実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、靴の締付部に関連し靴に利用することができる。
【符号の説明】
【0077】
10・・・ソール、20・・・アッパー、20b・・・履き口、20e、20j・・・トップライン、20h・・・境界部、20m・・・中足部、28・・・紐通し部、28e・・・外側紐通し部、28j・・・内側紐通し部、30・・・締付部、30b・・・境界、30h・・・トップライン、30j・・・ボトムライン、30s・・・シューレース、32・・・第1部分、34・・・第2部分、32e、34e・・・端部、36・・・留具、42・・・位置調整機構、100、200、300・・・靴。