(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】ブラスト工法用シート
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230824BHJP
E04G 21/32 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
C08J5/18 CEV
E04G21/32 B
(21)【出願番号】P 2021562216
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2019047081
(87)【国際公開番号】W WO2021111504
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 恵一
(72)【発明者】
【氏名】笹原 一芳
(72)【発明者】
【氏名】越田 伺励
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-189501(JP,A)
【文献】国際公開第2015/149029(WO,A1)
【文献】特表2009-534495(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102515185(CN,A)
【文献】国際公開第2019/188937(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/230895(WO,A1)
【文献】特開2020-189959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00- 5/02
C08J 5/12- 5/22
E04G 23/02
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル樹脂と可塑剤と
リン酸エステル系難燃剤と吸熱性無機化合物とを含む軟質塩化ビニル樹脂組成物からなり、
前記可塑剤は、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤を含み、
フィルムインパクトテスター試験による耐衝撃エネルギーが、-15℃において1.99J以上であり、
難燃性が、JIS L1091(A-1法)に準拠してなる区分3を満足することを特徴とするブラスト工法用シート。
【請求項2】
前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、前記脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤の配合量が15~55質量部であり、前記可塑剤全体に対する前記脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤の配合量が50質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のブラスト工法用シート。
【請求項3】
前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、前記リン酸エステル系難燃剤の配合量が8~12質量部であることを特徴とする請求項1に記載のブラスト工法用シート。
【請求項4】
前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、前記吸熱性無機化合物の配合量が5~30質量部であることを特徴とする請求項1に記載のブラスト工法用シート。
【請求項5】
前記脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤が、ジオクチルアジペート、ビス[2-(2-ブトキシエトキシ)エチル]アジペート、及びビス(2-エチルヘキシル)セバケートからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のブラスト工法用シート。
【請求項6】
前記リン酸エステル系難燃剤が、卜リクレジルホスフェー卜、トリキシレニルホスフェート、及びクレジルジフェニルホスフェートからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項
1または請求項3に記載のブラスト工法用シート。
【請求項7】
前記吸熱性無機化合物が、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト、及び、ホウ酸亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項
1または請求項
4に記載のブラスト工法用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラスト工法用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁等の構造物の塗膜の塗り替えの際、ブラスト処理により旧塗膜を一度除去し、新たに塗装することが行われている。このブラスト処理では、塗膜の粉塵が発生し、塗膜にはポリ塩化ビフェニルや鉛等の有害物質が含まれていることがあるため、ブラスト処理を実施する際には、作業環境を密閉し、粉塵の飛散防止に努める必要がある。
【0003】
ブラスト処理での粉塵の飛散防止は、パネルによって作業環境と外部とを区画するとともに、パネルの内側をブラスト工法用シートで覆う手法が一般的であり、このブラスト工法用シートとしては、一般的な建築工事用シートが利用されている。この建築工事用シートは、フラットヤーンからなる織布の表面に樹脂をコーティングしたものであり、樹脂としてはポリエチレンやポリ塩化ビニルが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、例えば、熱接着による後加工性に優れた建築工事用シートが提案されている。より具体的には、ブラスト工法用シートとして、フラットヤーンからなる織布の表面に、難燃性の塩化ビニルコート処理をした建築工事用シートが使用されている。このシートは、難燃性を強化するために、フラットヤーンに対し、難燃剤としてのハロゲン系難燃剤及び、難燃助剤としての三酸化アンチモン等を配合してなる塩化ビニルコート処理を施した建築工事用シートとしてのブラスト工法用シートである(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、工場内やテラス等に使用される、間仕切り用カーテン等の用途において、自己消化性(難燃性)を有し、透明性に優れた透明難燃性フィルムが提案されている。より具体的には、合成樹脂100質量部に対して、平均粒子径(D50)が20~800nmの三酸化アンチモンを0.01~5質量部含有させ、さらに、好適態様として、かかる三酸化アンチモンに加えて、リン酸エステル系難燃可塑剤等の難燃可塑剤を、合成樹脂100質量部に対して1~60質量部配合してなる透明難燃性フィルムである(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平3-36367号公報
【文献】特開平10-245739号公報
【文献】特開2012-102303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、建築工事用シートをブラスト工法用シートとして用いた場合、ブラスト処理時に、被処理面から跳ね返った切削材などの飛散物によって穴が空くことがある。特に、冬季等、低温環境下でブラスト処理を行うと、穴が空きやすい。ブラスト工法用シートに穴が空くと、有害物質を含む粉塵が外部に漏洩することが懸念される。
【0008】
また、上記特許文献1に記載のポリ塩化ビニルを用いたブラスト工法用シートは、冬季の屋外など低温環境においては脆性破壊が起き、より破れ易くなる可能性がある。また、低温に強い汎用プラスチックとしてポリエチレンが知られているが、ブラスト処理時に飛散物によってブラスト工法用シートに加わるエネルギーは強力であるため、常温においても飛散物によって破れが生じてしまう(チッピング)おそれがあった。
【0009】
また、上記特許文献2に記載の建築用養生シートとしてのブラスト工法用シートや、上記特許文献3に記載の間仕切り用カーテン等には、難燃助剤あるいは難燃剤として、三酸化アンチモンが使用されており、使用上の法規制が、厳格に適用されるという問題が見られた。
【0010】
すなわち、厚生労働省が、2015年及び2016年に、「平成28年度化学物質による労働者の健康障害防止措置に係る検討会」を開催し、三酸化二アンチモン及びその製剤等を『特定化学物質障害予防規則』の「管理第2類物質」に指定した。
【0011】
したがって、三酸化二アンチモンを使用する以上、『特定化学物質障害予防規則』に準じた発散抑制措置、作業環境測定の実施、特殊健康診断の実施等が義務付けられ、その使用条件を厳格に遵守しなければならないという問題がある。
【0012】
そこで、本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、耐寒性(低温環境における耐チッピング性)と難燃性を両立することができるブラスト工法用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明のブラスト工法用シートは、塩化ビニル樹脂と可塑剤とを含む軟質塩化ビニル樹脂組成物からなり、可塑剤は、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤を含み、フィルムインパクトテスター試験による耐衝撃エネルギーが、-15℃において1.99J以上であり、難燃性が、JIS L1091(A-1法)に準拠してなる区分3を満足することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐寒性と難燃性に優れたブラスト工法用シートを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ブラスト工法用シートに用いられる塩化ビニル樹脂、及び吸熱性無機化合物のTG-DTA曲線の一例を示す図である。
【
図2】1枚タイプのブラスト工法用シートの使用方法を示す図である。
【
図3】2枚タイプのブラスト工法用シートの使用方法を示す図である。
【
図4】実施例におけるブラスト試験(耐チッピング性試験)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のブラスト工法用シートについて具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して適用することができる。
【0017】
本発明のブラスト工法用シートは、少なくとも塩化ビニル樹脂と可塑剤とを含む軟質塩化ビニル樹脂組成物により形成されたシートである。
【0018】
<塩化ビニル樹脂>
塩化ビニル樹脂としては、ポリ塩化ビニル、塩化ビニルを主体とする共重合体等が挙げられる。塩化ビニルを主体とする共重合体としては、エチレン-塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体、塩化ビニル-ハロゲン化オレフィン共重合体等が挙げられる。
【0019】
また、塩化ビニルを主体とする共重合体には、これらの塩化ビニル樹脂を主体とする他の相溶性の樹脂(例えば、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体、部分ケン化ポリビニルアルコール等)とのブレンド物も含まれる。
【0020】
塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル単位の割合は、全樹脂成分に対し、80質量%以上が好ましい。塩化ビニル樹脂の重合方法は特に限定されず、塊状重合法、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法等の常用の重合方法が挙げられる。これらの塩化ビニル樹脂はいずれか1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
塩化ビニル樹脂の平均重合度は、800~2500が好ましく、1000~2000がより好ましい。平均重合度が前記範囲の下限値以上であれば、引張った際に伸びすぎず、ハンドリング性を損なわない。また、平均重合度が前記範囲の上限値以下であれば、硬すぎず、ブラスト処理時に穴が開きにくくなる。
【0022】
<可塑剤>
本発明の可塑剤は、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤を含んでいる。この脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤としては、ジ-n-ブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジオクチルアジペート(以下、「DOA」と略する場合がある。)、ビス(2-エチルヘキシル)アジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ビス[2-(2-ブトキシエトキシ)エチル]アジペート(以下、「BXA-N」と略する場合がある。)、ビス(2-エチルヘキシル)アゼレート、ジブチルセバケート、ビス(2-エチルヘキシル)セバケート(以下、「DOS」と略する場合がある。)、ジエチルサクシネート、ジ-n-ブチルマレート、及びモノブチルイタコネートからなる群から選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0023】
この理由は、このような脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤であれば、芳香族二塩基酸エステル系可塑剤と比較して、得られる難燃性シートの寒冷特性を著しく向上させることができるためである。
【0024】
特に、ジオクチルアジペート(DOA)、ビス[2-(2-ブトキシエトキシ)エチル]アジペート(BXA-N)、及びビス(2-エチルヘキシル)セバケート(DOS)の少なくとも一つであれば、耐寒性を著しく向上させることができる。さらに、これらの脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤は比較的安価であって、経済性や入手性にも優れていることから好ましいと言える。
【0025】
また、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤の配合量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、15~55質量部の範囲内の値とすることが好ましく、35~50質量部がより好ましい。
【0026】
これは、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤の配合量が、15質量部未満になると、耐寒性が低下する場合があるためである。また、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤の配合量が、55量部を超えると、ブラスト工法用シートが柔らかくなり過ぎて、機械的物性やハンドリング性が低下する場合があるためである。
【0027】
また、耐寒性を確実に発揮させるとの観点から、可塑剤全体に対する脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤の配合量は、50質量%以上であることが好ましく、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤のみからなる可塑剤を使用することがより好ましい。
【0028】
また、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤の配合量(100質量部)に対して少量であれば、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)等の芳香族二塩基酸エステル系可塑剤を配合してもよい。
【0029】
より具体的には、ブラスト工法用シートの耐寒性の低下を抑制するとの観点から、芳香族二塩基酸エステル系可塑剤の配合量は、50質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、10質量部以下が、特に好ましい。
【0030】
また、本発明の軟質塩化ビニル樹脂組成物は、必要に応じて、例えば、以下に示す難燃剤や吸熱性無機化合物等の上述の塩化ビニル樹脂及び可塑剤以外の成分を含んでいてもよい。
【0031】
<難燃剤>
難燃剤としては、リン酸エステル系難燃剤、リン-窒素複合系難燃剤、ハロゲン系難燃剤等が挙げられる。
【0032】
このうち、リン酸エステル系難燃剤としては、トリメチルホスフェー卜(TMPと称する場合がある。以下、同様である。)、トリエチルホスフェー卜(TEP)、トリブチルホスフェー卜(TBP)、卜リス(2-工チルヘキシル)ホスフェー卜(TOP)、トリフェ二ルホスフェー卜(TPP)、卜リクレジルホスフェー卜(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、クレジルジフェニルホスフェート(CDP)、2-工チルヘキシルジフェニルホスフェート等の少なくとも1つが挙げられる。
【0033】
特に、卜リクレジルホスフェー卜(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、及びクレジルジフェニルホスフェート(CDP)の少なくとも一つであれば、単位重量当たりのリン量(P)が比較的多いため、比較的少量であっても、優れた難燃性を示し、さらには、入手が比較的容易であることから、より好ましい。
【0034】
また、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、リン酸エステル系難燃剤の配合量を8~12質量部とすることが好ましい。これは、リン酸エステル系難燃剤の配合量が、8質量部未満の値になると、ブラスト工法用シートにおいて、所定の難燃性が確実に得られない場合があるためである。また、リン酸エステル系難燃剤の配合量が、12質量部を超えると、ブラスト工法用シートにおいて、耐寒性が著しく低下する場合があるためである。
【0035】
<吸熱性無機化合物>
また、難燃剤の助剤として、吸熱性無機化合物を、上述の難燃剤とともに配合してもよい。ここで、吸熱性無機化合物は、所定温度に加熱した場合に、吸熱反応を起こす無機化合物と定義され、所定温度に加熱した場合に、水酸基や結晶水構造を有し、吸熱反応を生じさせる無機化合物である。例えば、金属水酸化物、鉱石、金属化合物、無機水和物、及び無機炭酸塩等の少なくとも一つが挙げられる。
【0036】
より具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト、及び、ホウ酸亜鉛が挙げられる。なお、これら一種単独又は二種以上の組み合わせで使用することができる。
【0037】
また、これらの吸熱性無機化合物のうち、特に、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、及び、ホウ酸亜鉛を使用することにより、分解開始温度が260℃以上であり、かつ、加水分解する際の単位重量当たりの吸熱量が500J/mg以上と極めて多いことから、リン酸エステル系難燃剤と組み合わせることによって、吸熱効果を発揮し、結果として、良好な難燃性を発揮することができる。
【0038】
より具体的には、このような分解開始温度及び分解吸熱量を示す吸熱性無機化合物を含有することにより、
図1のTG-DTAチャートの曲線Bで示すように、主成分である塩化ビニル樹脂が400℃付近で、主鎖が熱分解することが知られている。
【0039】
そして、そのような場合、リン酸エステル系難燃剤が脱水して、リンと炭素の炭化層である、いわゆるチャーが形成されることも判明している。
【0040】
また、
図1のTG-DTA(熱重量-示差熱分析)チャートの曲線Aで示すように、所定の吸熱性無機化合物であれば、所定温度において、吸熱反応を生じることも判明している。
【0041】
従って、本発明の軟質塩化ビニル樹脂組成物によれば、所定の吸熱性無機化合物の吸熱反応を利用することにより、塩化ビニル樹脂の分解を遅延させるとともに、リン酸エステル系難燃剤によるチャー形成を促進させることができ、結果として、良好な難燃性を発揮することができる。
【0042】
なお、上述の分解開始温度及び分解吸熱量は、TG-DTA装置(示差熱-熱重量測定装置)や、DSC装置(示差走査熱量計)の分析装置で測定することができる。
【0043】
また、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、吸熱性無機化合物の配合量を5~30質量部とすることが好ましく、5~15質量部とすることがより好ましい。これは、吸熱性無機化合物の配合量が、5質量部未満の値になると、ブラスト工法用シートにおいて、所定の難燃性が確実に得られない場合があるためである。また、吸熱性無機化合物の配合量が、30質量部を超えると、機械的物性が著しく低下する、均一に混合分散したりすることが困難になる、さらには、ブラスト工法用シートの比重が重くなり、取り扱性が低下する場合があるためである。
【0044】
また、リン酸エステル化合物の配合量/吸熱性無機化合物の配合量で表される比率を、1/5~5とすることが好ましく、1/1.5~2.4とすることがより好ましい。これは、かかる比率が、1/5未満の値になると、機械的物性が著しく低下する場合があるためである。また、かかる比率が5を超えた値になると、同様に、所定の難燃性が確実に得られない場合があるためである。
【0045】
<その他の成分>
また、軟質塩化ビニル樹脂組成物中に、添加剤として、エポキシ系安定剤、液状安定剤、粉末安定剤、ブロッキング防止剤、滑剤等の少なくとも1つの化合物を配合してもよい。
【0046】
例えば、ブラスト工法用シートの耐熱性を向上させたり、加水分解性を抑制したりするために、エポキシ系安定剤、液状安定剤、粉末安定剤等を配合してもよい。
【0047】
また、ブラスト工法用シート同士のブロッキングを防止するために、架橋塩化ビニル樹脂粒子、ポリオレフィン樹脂粉末、脂肪酸エステル等の少なくとも一つのブロッキング防止剤を配合してもよい。
【0048】
さらに、ブラスト工法用シート同士の貼り付きを防止するために、滑剤として、エチレンビスステアリン酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド等の脂肪酸アミド、ポリエチレンワックス、ステアリン酸、シリカ等を配合してもよい。
【0049】
<ブラスト工法用シート>
上述の軟質塩化ビニル樹脂組成物により形成される本発明のブラスト工法用シートは、フィルムインパクトテスター(FIT)試験による耐衝撃エネルギーが、-15℃において1.99J以上である。
【0050】
従って、ブラスト工法用シートに対し、低温環境においてブラスト処理を行った場合であっても、穴や亀裂等の発生を抑制することが可能になるため、ブラスト工法用シートの耐寒性を向上させることが可能になる。
【0051】
穴や亀裂等の発生を抑制することができる理由としては、ブラスト工法用シートが低温でも柔らかいため、切削材が衝突した場合に容易に変形することができ、衝撃が緩和されるためであるものと考えられる。なお、従来のブラスト工法用シートとして用いられていた建築工事用シートは、低温時において硬くなるため、穴や亀裂等が発生し易かったものと考えられる。
【0052】
特に、可塑剤として脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤を用いると、芳香環を含まない二塩基酸エステルによって軟質塩化ビニル樹脂組成物のガラス転移点(Tg)が低下し、-15℃といった低温環境においてもブラスト工法用シートの柔軟性が保たれる。これにより、-15℃でのブラスト照射試験でも破れが生じない、低温特性に優れたブラスト工法用シートが実現できる。
【0053】
また、本発明のブラスト工法用シートは、上述の良好な難燃性を発揮することができる軟質塩化ビニル樹脂組成物により形成されているため、難燃性が、JIS L1091(A-1法)に準拠してなる区分3を満足する。
【0054】
従って、所定の難燃性表示が可能になるとともに、定量的、実務的、かつ再現性良く、所定の難燃性を発揮することができる。
【0055】
なお、上述の耐衝撃エネルギー、及び難燃性は、後述の実施例に記載の方法で求めることができる。このように、本発明のブラスト工法用シートにおいては、耐寒性と難燃性を両立することができる。
【0056】
本発明のブラスト工法用シートは、流れ方向におけるヤング率が5~200MPaであり、5~100MPaが好ましく、5~50MPaがより好ましく、10~30MPaがさらに好ましい。
【0057】
ヤング率が5Mpa以上であれば、ブラスト工法用シートの生産性及び施工性が良好である。ヤング率が200MPa以下であれば、ブラスト処理時に穴が空きにくい。
【0058】
なお、こうしたヤング率は、軟質塩化ビニル樹脂組成物中の可塑剤の含有量、塩化ビニル樹脂の重合度等によって調整できる。例えば、可塑剤の含有量が多いほど、ヤング率が小さい傾向がある。
【0059】
本発明のブラスト工法用シートの流れ方向における破断時伸びは、100~500%であり、150~450%が好ましく、200~400%がより好ましい。破断時伸びが100%以上であれば、ブラスト処理時に穴が空きにくい。破断時伸びが500%以下であれば、シートの生産性及び施工性が良好である。
【0060】
なお、破断時伸びは、軟質塩化ビニル樹脂組成物中の可塑剤の含有量、塩化ビニル樹脂の重合度等によって調整できる。例えば、可塑剤の含有量が多いほど、破断時伸びが大きい傾向がある。
【0061】
本発明のブラスト工法用シートは、厚みが110~300μmが好ましく、150~250μmがより好ましい。厚みが110μm以上であれば、低温環境においても、ブラスト処理時における穴等の発生を抑制できる。また、厚みが300μm以下であれば、ハンドリング性及び施工性が向上する。
【0062】
また、ブラスト工法用シートの形状については、特に制限されることなく、例えば、テープ状、三角形状、四角形状(長方形状)、多角形状、円状、楕円状、異形等とすることができる。
【0063】
特に、橋梁等の構造物の周囲を覆う個々のパネルの内側に貼着させる必要があることから、概ね長方形状とすることが好適である。
【0064】
本発明のブラスト工法用シートは、ブラスト処理用である。ブラスト処理では、構造物(例えば、橋梁、すべり台等の遊具等の金属製建築・構築物、プレス機、ガスボンベ等の金属製機械及び装置)の被処理面に対し、切削材(例えば、プラスチック系、砂系、スチール系)を吹き付けることにより、被処理面の塗膜等が粉塵となって除去される。本発明のブラスト工法用シートは、ブラスト処理時に発生する粉塵が、作業環境から外部に飛散することを防止するために用いられる。
【0065】
本発明のブラスト工法用シートの具体的な使用方法は、従来、ブラスト処理に用いられているブラスト工法用シートの使用方法と同様であってよい。例えば、構造物の被処理面及びブラスト処理を行うための足場を囲んだパネルの内側に、パネル間の隙間やパネルと足場との間の隙間から粉塵が外部に飛散しないように、本発明のブラスト工法用シートを配置することができる。
【0066】
図2は、1枚タイプのブラスト工法用シートの使用方法を示しており、基材(例えば、ブラスト処理を行う作業室構造体を構成する合板等)20に対して、ブラスト工法用シート31を、タッカー40を用いて、所定位置に位置決めし、固定することを示している。また、
図3は、2枚タイプのブラスト工法用シートの使用方法を示しており、基材20に対して、2枚のブラスト工法用シート31を、タッカー40を用いて、一度に所定位置に位置決めし、固定することを示している。したがって、橋梁等の表面をブラスト処理する際に、作業室構造体の空間内で発生した環境影響物質の外部漏洩を効果的に防止することができる。
【0067】
<製造方法>
本発明のブラスト工法用シートは、上述の塩化ビニル樹脂と可塑剤とを含む軟質塩化ビニル樹脂組成物を、例えば、テストロール(2本ロール)を用いて混練して成形することにより製造される。なお、公知のカレンダーロール、押出装置、ナイフコーター、ロールコーター等を用いて、本発明のブラスト工法用シートを製造してもよい。
【実施例】
【0068】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0069】
ブラスト工法用シートの作製に使用した材料を以下に示す。
(1)塩化ビニル樹脂:平均重合度1400のポリ塩化ビニル(PVC、大洋塩ビ社製、商品名:TH1400)
(2)可塑剤:脂肪族二塩基酸エステル:ジオクチルアジペート(DOA、大八化学工業製)
(3)可塑剤:脂肪族二塩基酸エステル:ビス(2-エチルヘキシル)セバケート(DOS、大八化学工業製)
(4)可塑剤:脂肪族二塩基酸エステル:ビス[2-(2-ブトキシエトキシ)エチル]アジペート(BXA-N、大八化学工業製)
(5)可塑剤:芳香族二塩基酸エステル:ジオクチルフタレート(DOP、ジェイプラス社製)
(6)難燃剤:リン酸エステル系難燃剤:トリクレジルホスフェート(TCP、大八化学工業製)
(7)吸熱性無機化合物:水酸化マグネシウム(協和化学工業製、商品名:キスマ5B)
(8)吸熱性無機化合物:水酸化アルミニウム(昭和電工ハイジライト社製、商品名:H-42M)
(9)吸熱性無機化合物:ハイドロタルサイト(協和化学工業製、商品名:MHT-PD)
(10)吸熱性無機化合物:ホウ酸亜鉛(水澤化学工業製、商品名:FRC-500)
なお、TG-DTAを用いて、窒素雰囲気中、室温から、600℃まで昇温させ(昇温速度:20℃/分)、軟質塩化ビニル樹脂組成物に含まれる上述の各吸熱性無機化合物(7)~(10)の分解開始温度(チャート上のピークの分解開始温度)、及び総吸熱量を測定したところ、全ての吸熱性無機化合物において、分解開始温度が260℃以上であるとともに、総吸熱量が500J/mg以上であった。
【0070】
(実施例1)
<ブラスト工法用シートの作製>
上述した各材料を、表1に示す配合(質量部)に従って混合し、テストロール機(2本ロールミル)によって185℃で5分間混練し、ロールから剥がすことにより、実施例1のシート(ブラスト工法用シート)を作製した。
【0071】
<フィルムインパクトテスター(FIT)試験>
作製したシートを幅10cmの帯状に切り取って測定用サンプルとした。そして、恒温層(-15℃)中に置いて、一定温度にしたサンプルを、外形が15cm×10cm、中央に直径5cmの穴を有する固定板に固定し、先端が直径1cmの半球状の衝撃子を有する振り子式ハンマーにより、衝撃エネルギー3Jにて測定用の各サンプルを打撃し、サンプルの耐衝撃エネルギーを測定した。なお、フィルムインパクトテスター(東洋精機製、恒温槽付フィルムインパクトテスター)を用いて、上述の耐衝撃エネルギーを測定した。以上の結果を表1に示す。
【0072】
<ブラスト試験(耐チッピング性試験)>
次に、作製したシートの耐チッピング試験を行った。
試験装置:マイティーミニR(SNMアジア株式会社製)
試験温度:25℃、0℃、-10℃、-15℃、-20℃、-25℃
試験圧力:0.3MPA
試験時間:10秒
試験距離(噴射ノズル先端とサンプル表面との距離):35cm
切削材:スチールグリッド
試料台:鉄板
【0073】
より具体的には、
図4に示すように、耐チッピング試験は、チャンバー21内に試料台である鉄板22を設け、この鉄板22上にサンプル(すなわち、作製したシート)Sを載置した。そして、切削材供給部23からチャンバー21内に切削材Cを噴射した。そして、噴射された切削材CによってサンプルSに穴などの破損が生じるかを目視によって確認し、下記の評価基準で評価した。以上の結果を表1に示す。
○:貫通孔がみられなかった。
×:貫通孔が生じた。
【0074】
<難燃性評価>
作製したシートに対して、JIS L1091(A-1法):1999に準拠して評価試験を行い、下記評価基準にて、難燃性(防炎性)を評価した。以上の結果を表1に示す。
○:サンプルが、区分3を満足した。
×: サンプルが、区分3を満足しなかった。
【0075】
(実施例2~15、比較例1~9)
樹脂成分の配合を表1~2に示す配合(質量部)に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、表2に示す厚みを有するブラスト工法用シートを作製した。
【0076】
なお、厚みは2本のロール間のギャップを変化させることで調節した。また、比較例2として、ブラスト工法用シートに転用されるフラットヤーン入り塩化ビニルコートシート(ポリエステル製フラットヤーンの両面をポリ塩化ビニルで被覆したシート)を用いた。
【0077】
そして、上述の実施例1と同様にして、フィルムインパクトテスター試験、ブラスト試験、及び難燃性評価を行った。以上の結果を表1~2に示す。
【0078】
【0079】
【0080】
表1に示すように、実施例1~15のブラスト工法用シートは、フィルムインパクトテスター試験による耐衝撃エネルギーが、-15℃において1.99J以上であるため、ブラスト試験において貫通孔が生じず、耐寒性に優れていることが分かる。また、JIS L1091(A-1法)に準拠してなる区分3を満足するため、難燃性に優れていることが分かる。
【0081】
一方、比較例1,3,7,8のブラスト工法用シートにおいては、可塑剤に、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤が含有されていないため、フィルムインパクトテスター試験による耐衝撃エネルギーが、-15℃において1.99J未満となり、結果として、ブラスト試験において貫通孔が生じ、耐寒性に乏しいことが分かる。
【0082】
また、比較例2のブラスト工法用シートにおいては、フラットヤーン入り塩化ビニルコートシートを使用しているため、フィルムインパクトテスター試験による耐衝撃エネルギーが、-15℃において1.99J未満となり、結果として、ブラスト試験において貫通孔が生じ、耐寒性に乏しいことが分かる。
【0083】
また、比較例4,5のブラスト工法用シートにおいては、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤(DOA,BXA-N)の配合量が15質量部未満であり、可塑剤全体に対する脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤の配合量が50質量%未満であるため、フィルムインパクトテスター試験による耐衝撃エネルギーが、-15℃において1.99J未満となり、結果として、ブラスト試験において貫通孔が生じ、耐寒性に乏しいことが分かる。
【0084】
なお、比較例6に示すように、ブラスト工法用シートが薄い(すなわち、厚さが110μm未満である)場合は、低温環境において、ブラスト処理時における貫通孔の発生を抑制することができないことが分かる。
【0085】
また、比較例9のブラスト工法用シートにおいては、リン酸エステル系難燃剤が配合されていないため、難燃性に乏しいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上説明したように、本発明は、ブラスト工法用シートに適している。