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特許7336539過酸化水素合成及び再生触媒、並びにその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】過酸化水素合成及び再生触媒、並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20230824BHJP
   B01J 35/08 20060101ALI20230824BHJP
   C01B 15/023 20060101ALI20230824BHJP
   B01J 37/02 20060101ALN20230824BHJP
   B01J 37/08 20060101ALN20230824BHJP
【FI】
B01J23/63 M
B01J35/08 B
C01B15/023 T
B01J37/02 101D
B01J37/08
C01B15/023 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021571400
(86)(22)【出願日】2020-06-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-04
(86)【国際出願番号】 KR2020007437
(87)【国際公開番号】W WO2020256328
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-11-30
(31)【優先権主張番号】10-2019-0074204
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514079170
【氏名又は名称】ヒソン カタリスツ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】カン、ドン グン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヨン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ユ、ヨン サン
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101406837(CN,A)
【文献】国際公開第98/026867(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101497040(CN,A)
【文献】特開2009-034663(JP,A)
【文献】特表2011-506068(JP,A)
【文献】特表2004-516213(JP,A)
【文献】国際公開第2007/129769(WO,A1)
【文献】特開平09-271668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C01B 15/01 - 15/037
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アントラキノン方法による過酸化水素の製造に使用する作動溶液を再生する触媒であって、
ラジウム成分がガンマアルミナ球体の表面から5~8μm離隔し、10~20μmの厚さに分布し、マグネシウム及びセリウム成分が前記ガンマアルミナに均一に分布する
ことを特徴とする触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アントラキノン方法による過酸化水素の製造及び作動溶液を再生する触媒、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素(H)は、光沢剤、消毒剤、医薬品、酸化剤などの様々な分野で使用されている化学製品である。過酸化水素は、水素と酸素を用いた直接合成方法、及びアントラキノン(anthraquinone)系化合物から連続的な水素添加、酸化工程を用いたアントラキノン方法で製造される。次に、アントラキノン方法を簡略に説明する。
【0003】
【化1】
【0004】
過酸化水素は、アルキルアントラキノン(通常、2-エチル-アントラキノン、EAQと称する)を適当な有機溶媒に溶解した作動溶液(working solution)を繰り返し水添、酸化させることにより製造する。このような水添、酸化を繰り返し行うと、副産物としてテトラヒドロアントラキノンなどが作動溶液中に蓄積され、触媒上にコーク沈積が起こって過酸化水素の製造及び再生効率が低下する。特に、副産物としてのテトラヒドロアントラキノン(THAQ)をアントラキノンに再生するとき、作動溶液の再生には、40~150℃の温度でマグネシウムを活性アルミナに担持させ、焼成の前にアンモニア処理を施すことにより得られた触媒を用いる技術が知られている(特許文献1:韓国公開特許第10-2009-0006733号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】韓国公開特許第10-2009-0006733号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、依然として、再生効率を改善しながらも、過酸化水素の製造において水添過程を促進することができる触媒の開発が求められていた。本発明者らは、アントラキノン方法に関する研究開発中、マグネシウム及びセリウムが含浸されたアルミナ担体にパラジウムを担持すると、セリウム未添加触媒と比較して再生効率が増加するばかりでなく、アントラキノン方法における水素添加効率を改善することができることを見出し、本発明の完成に至った。また、セリウムの添加によって酸素吸着量が増加して触媒の再生にも有利であることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アントラキノン方法による過酸化水素の製造工程中の水素添加ステップを促進しながらも、作動溶液再生効率を改善することができる触媒、及びその製造方法に関する。
【0008】
本発明者らは、マグネシウム及びセリウムを活性アルミナに担持させ、焼成した後、パラジウムを含浸し、還元して得られた触媒を作動溶液の再生に用いると、効率よく再生転化することができることが分かった。驚くべきことに、本発明者らは、前記触媒がアントラキノン方法による過酸化水素の製造工程における水添ステップで触媒として適用できることが分かった。
【0009】
本発明は、水添ステップを含むアントラキノン方法による過酸化水素の製造において、水添ステップに適用する触媒またはアントラキノン方法による過酸化水素の製造に用いる作動溶液を再生する触媒であって、パラジウム、マグネシウム及びセリウム成分がアルミナに均一に分布するか、或いはパラジウム成分がアルミナコアに分布し、マグネシウム及びセリウム成分がアルミナに均一に分布する触媒を提供する。また、本発明は、触媒の製造方法であって、活性アルミナを、マグネシウム及びセリウム水溶液で含浸処理し、焼成した後、パラジウム水溶液で処理してパラジウム成分を担持させることを特徴とする、触媒の製造方法を提供し、非制限的に、本発明において、前記活性アルミナに含浸されたマグネシウム及びセリウムの含有量は、焼成後のマグネシウム及びセリウム含浸活性アルミナの重量に対してそれぞれ1~10重量%及び0.10~0.25重量%であるか、或いは、前記焼成後に担持されたパラジウムの含有量は担持後の触媒の重量に対して0.1~10重量%であることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水添触媒によって反応性及び耐久性が改善されて全体的なアントラキノン方法の効率が高まり、再生触媒によって、アントラキノンまたは有機溶媒の劣化を防止しながら、過酸化水素を生成することができない副産物を有効なアントラキノンに選択的に再生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例で製造された触媒粉末(D90=150μm)を示す写真である。
図2】粉末内の成分分布図であり、マグネシウムとセリウムは担体の内部に均一に分布するが、パラジウムは主に担体の外郭から離隔して10μm~20μmの厚さに分布したリング(ring)構造体を示す写真である。
図3】実施例による他の構造の粉末成分分布図を示す写真であり、マグネシウムとセリウムは担体の内部に均一に分布し、パラジウムも触媒全体に均一に分布する。
図4】本発明による触媒のアントラキノンの水素添加評価結果のグラフである。
図5】本発明による触媒セリウムの添加によるTPO結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、マグネシウム及びセリウムを活性アルミナに担持させ、焼成した後、パラジウムを含浸し、還元して得られた触媒、及びその製造方法に関するものであり、これを作動溶液の再生及びアントラキノン製造工程における水添ステップで用いると、効率のよい再生転化及び水添を確認することができる。次に、本発明における特徴的なステップを説明する。
【0013】
1)担体である活性アルミナにマグネシウムとセリウムを担持するステップ
担体が有する総気孔の体積に該当するMg-Ce錯体を製造し、担持法を用いて担体に含浸させる。含浸の後に、空気(Air)雰囲気下でアルミナを流動させながら均一化過程を行うことにより、担体内の金属濃度を同一にした後、100~150℃で24時間乾燥過程を経る。乾燥の後には、空気(Air)雰囲気下で200~400℃で一次的に有機物及び窒素酸化物を除去した後、500~700℃で焼成過程を行う。熱処理ステップで500℃以下で熱処理を施す場合に、担持金属が金属酸化種に変わらないことがあり、700℃以上で熱処理を施すと、金属間凝集現象が発生して触媒活性が低くなるという問題がある。活性アルミナに含浸されたマグネシウム及びセリウムの含有量は、焼成後のマグネシウム及びセリウム含浸活性アルミナの重量に対してそれぞれ1~10重量%及び0.10~0.25重量%であるおそれがあり、マグネシウムの含有量が下限値以下である場合には、触媒の耐久性と熱的安定性が減少するおそれがあり、マグネシウムの含有量が上限値以上である場合には、活性物質であるパラジウムの分散度が低くなるおそれがある。また、セリウムの含有量が下限値以下である場合には、触媒の再生時に効率が減少するおそれがあり、セリウムの含有量が上限値以上である場合には、むしろ触媒活性を低下させる原因になるおそれがある。
【0014】
2)マグネシウム-セリウム-アルミナの複合酸化物にパラジウム活性金属を担持するステップ
前記マグネシウム-セリウム-アルミナの複合酸化物に1%重量の飽和パラジウム錯体水溶液を担持させ、これを還元させて最終触媒を得る。パラジウム水溶液による担持は、50~80℃の温度で30分~20時間行うことが好ましく、還元は、40~70℃の温度で30分~20時間行うことが好ましい。担持されたパラジウムの含有量は、担持後の触媒の重量に対して0.1~10重量%であることができる。担持されたパラジウムの含有量が0.1重量%よりも少ない場合には、初期性能が低下し、耐久性が減少し、担持されたパラジウムの含有量が10重量%よりも多い場合には、パラジウム粒子同士の凝集現象により分散度が減少して活性が低下するおそれがある。
【0015】
具体的な例示を記載する。
実施例1
実施例1で使用される担体は、ガンマアルミナを使用した。ベーマイト(Boehmite)(製造社:ドイツBASF、比表面積250m/g、気孔容積0.55cm/g、平均気孔サイズ:8.6nm)を600℃で焼成して使用した。焼成の後、アルミナはガンマ相であり、比表面積は180m/gであった。
【0016】
マグネシウム前駆体として硝酸マグネシウム(Mg(NO・6HO)を用い、セリウム前駆体として硝酸セリウム(Ce(NO・6HO)を用い、活性金属前駆体として塩化パラジウム酸(HPdCl)を用いた。
まず、触媒の全重量に対して、5.0%に相当する硝酸マグネシウムと0.5%に相当する硝酸セリウムをイオン水に混合した。
【0017】
製造されたマグネシウム-セリウム複合溶液を初期湿潤法を用いて担体に含浸した。マグネシウム-セリウムが担持された組成物を空気雰囲気中、550℃で2時間熱処理することにより、金属を固定させた。
【0018】
その後、水200mlに、マグネシウム-セリウムが担持されたアルミナ組成物100gを添加し、触媒の全重量に対して、1.0%に相当するパラジウム前駆体と3.0%に相当するエチレングリコール及び塩酸を添加し、攪拌しながら80℃まで昇温させ、この温度で30分間維持した。
【0019】
触媒還元過程は、マグネシウム-セリウム-パラジウムが担持された複合体に還元剤を投入して行った。還元剤としては、蟻酸ナトリウム(NaCOOH)を用いた。
【0020】
図1は製造された触媒粉末(D90=150μm)を示し、マグネシウムとセリウムは担体の内部に均一に分布しており、パラジウムは主に担体の外郭から離隔して10μm~20μmの厚さに分布しているリング(ring)構造体を示す(図2)。このようなリング構造体は、表面に5~8μm離隔して環状に存在し、過酸化水素の製造のための流動層反応における衝撃による物理的な損失現象に有利であると考えられる。
【0021】
実施例2
実施例2は、セリウムを除いたマグネシウム-パラジウム複合体で製造し、マグネシウムとパラジウムの組成は、実施例1と同様にして製造した。
【0022】
実施例3
実施例3は、焼成後の酸化セリウムの含有量が全重量に対して2.0%となるように製造した以外は、実施例1と同様にして触媒を製造した。実施例1と同様に、マグネシウムとセリウムは担体の内部に均一に分布しており、パラジウムは主に担体の外郭から離れて20μmの厚さに分布している。
【0023】
実施例4
実施例4は、実施例1と同様の組成にして製造した。ただし、パラジウムの担持時にエチレングリコール及び塩酸の濃度を2倍に増加した。この触媒において、マグネシウムとセリウムは担体の内部に均一に分布しており、パラジウムは触媒全体に均一に分布している(図3)。
【0024】
比較例1
比較例1は、実施例1で用いられる担体を850℃で焼成して使用した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。(アルミナはシータ相で分析され、比表面積は120m/gであった。)
マグネシウムとセリウムは、担体の内部に均一に分布しており、パラジウムは、主に担体の外郭から離れて40μmの厚さに分布している。
【0025】
比較例2
比較例2は、担体を850℃に焼成して製造した以外は実施例2と同様にして触媒を製造した。この触媒において、マグネシウムとセリウムは担体の内部に均一に分布しており、パラジウムは主に担体の外郭から離れて40μmの厚さに分布している。
【0026】
比較例3
比較例3は、比較例1と同一の組成及び担体を用いて製造した。ただし、パラジウムの担持時にエチレングリコール及び塩酸の濃度を2倍に増加した。この触媒において、マグネシウムとセリウムは担体の内部に均一に分布しており、パラジウムは触媒全体に均一に分布している。
【0027】
性能評価
本発明における触媒の性能評価方法は、2つの方法で行った。
【0028】
一つ目は、酸化工程を経て過酸化水素を製造するためのアントラキノンの水素添加反応であり、二つ目は、水素添加反応における副反応で作られた作動溶液を再生する再生反応である。
【0029】
1)水素添加性能の評価
触媒の水素化活性を測定するために水素化反応を行った。反応器は、水晶材質の攪拌式反応システムを用いて評価した。作動溶液は、1,3,5-トリメチルベンゼンとリン酸トリオクチルを1:1の体積比で作った1Lの溶液に、2-EAQ(2-エチルアントラキノン)90gを溶解して製造した。評価のために、作動溶液30mlに触媒0.4gを添加して反応器に投入し、反応器の温度を60℃に維持し、撹拌機は5000rpmに維持した。水素化反応のために反応器の内部を窒素ガスでパージして反応器内の空気を除去した後、水素ガスを注入した。水素ガスは、反応器内部の圧力が0.3MPaとなるように充填した。水素化されたサンプルを大気圧及び室温で20分間Oによって酸化させた後、脱イオン水で5回抽出した。得られた過酸化水素水溶液をGCに移し、FID(Flame ionization detector;火炎イオン化検出器)によって定量分析を行った。
【0030】
EAQHに対する選択度は、過酸化水素とHEAQH(ethyltetrahydroanthrahydroquinone)の他、副産物の量に基づいて計算された。
EAQHの選択度=[生成されたEAQH/反応されたEAQ]×100%
反応されたEAQ=[EAQH+HEAQH+副反応物]
【0031】
2)THAQ(テトラヒドロアントラキノン)再生性能の評価
触媒の再生効率を測定するために、再生評価反応を行った。反応器は、SUS材質の攪拌式反応システムを用いて評価した。円形攪拌式反応器にマグネティックバーを入れ、水素化反応時に発生した副産物としての作動溶液(Working solution)50gに触媒10gを投入して再生効率を測定した。これをLCを用いて測定した。その結果を下記表1にまとめる。
【0032】
【表1】
【0033】
一方、触媒のセリウム添加によるTPO結果は、次の通りである。すなわち、還元完了した触媒にOを注入して昇温するときの結果を考察すると、Ceが添加された触媒のO吸着量が未添加触媒に比べて大きいことが分かり、これは、作動溶液によって触媒にコーク(Coke)沈積が起こり、周期的な触媒再生が必要であるが、沈積されたコーク(Coke)を再生するときに触媒にCeが添加されることにより再生効率が上昇するものと予測される。

図1
図2
図3
図4
図5