(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】シリンダカバーおよびその耐食性向上方法
(51)【国際特許分類】
F02F 1/38 20060101AFI20230824BHJP
F02F 1/24 20060101ALI20230824BHJP
F02F 1/36 20060101ALI20230824BHJP
F01L 3/02 20060101ALI20230824BHJP
F01L 3/12 20060101ALI20230824BHJP
B23K 26/342 20140101ALI20230824BHJP
【FI】
F02F1/38 A
F02F1/24 L
F02F1/36 E
F02F1/24 A
F01L3/02
F01L3/12 A
B23K26/342
F02F1/36 C
(21)【出願番号】P 2021577784
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2020005520
(87)【国際公開番号】W WO2021161444
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 大智
(72)【発明者】
【氏名】坂根 雄斗
(72)【発明者】
【氏名】上野 知宏
(72)【発明者】
【氏名】森橋 遼
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 勇人
(72)【発明者】
【氏名】亀井 裕次
(72)【発明者】
【氏名】黒川 英朗
(72)【発明者】
【氏名】酒井 能成
(72)【発明者】
【氏名】今井 啓之
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特許第6655144(JP,B1)
【文献】国際公開第2017/090330(WO,A1)
【文献】特開2005-344712(JP,A)
【文献】実開昭55-100012(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00- 1/42
F01L 3/00- 3/24
B23K 26/342
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
給気ポートまたは排気ポートであるポートを有するシリンダカバーの耐食性を向上させる方法であって、
前記シリンダカバーは、前記ポートに弁座リングが挿入されることによって前記ポートの内周面と前記弁座リングとの間に冷却水流路が形成されるものであり、
前記ポートの内周面は、前記冷却水流路の両側に位置するシール領域と、前記シール領域の間の流路領域を含み、
前記シリンダカバーには、前記流路領域に開口し、前記冷却水流路と連通する横穴が設けられており、
前
記シール領域に、レーザ金属肉盛によって、ニッケル基合金、銅合金、ステンレスまたはチタン合金からなる溶接材を用いて肉盛層を形成する
とともに、前記流路領域にも、前記横穴の周囲の部分を除いて前記肉盛層を形成し、
前記肉盛層の形成後、前記肉盛層の全体にピーニングを行う、シリンダカバーの耐食性向上方法。
【請求項2】
前記溶接材はニッケル基合金からなり、
前記ニッケル基合金は、質量パーセントで表示して、Ni:40%以上、Fe:30%以下の組成を有する、請求項1に記載のシリンダカバーの耐食性向上方法。
【請求項3】
前記肉盛層の形成後、前記流路領域における前記横穴の周囲の部分にもピーニングを行う、請求項
1または2に記載のシリンダカバーの耐食性向上方法。
【請求項4】
前記溶接材はパウダである、請求項1~
3の何れか一項に記載のシリンダカバーの耐食性向上方法。
【請求項5】
前記肉盛層を形成する際は、前記シリンダカバーを前記ポートの中心線回りに回転させながらレーザ金属肉盛を行う、請求項1~
4の何れか一項に記載のシリンダカバーの耐食性向上方法。
【請求項6】
給気ポートまたは排気ポートであるポートを有し、前記ポートに弁座リングが挿入されることによって前記ポートの内周面と前記弁座リングとの間に冷却水流路が形成され
るシリンダカバーであって、
前記ポートの内周面は、前記冷却水流路の両側に位置するシール領域と、前記シール領域の間の流路領域を含み、
前記流路領域に開口し、前記冷却水流路と連通する横穴が設けられ、
前
記シール領域上に肉盛層が形成されて
いるとともに、前記流路領域上にも前記横穴の周囲の部分を除いて前記肉盛層が形成されており、
前記肉盛層は、質量パーセントで表示して、Ni:40%以上、Fe:30%以下の組
成を有するニッケル基合金からなる、シリンダカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダカバーおよびその耐食性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のシリンダカバー(シリンダヘッドとも呼ばれる)には、弁座リングが取り付けられることがある。この弁座リングは、給気弁または排気弁の閉動作時に当該弁と接触する部材である。また、弁座リングは、冷却水によって冷却される。
【0003】
具体的に、弁座リングは、シリンダカバーの給気ポートまたは排気ポートに挿入され、これによりポートの内周面と弁座リングとの間に、弁座リングを取り巻く環状の冷却水流路が形成される(例えば、特許文献1参照)。冷却水流路の両側(ポートの軸方向の一方側および他方側)では、冷却水流路から冷却水が漏れ出さないようにポートの内周面と弁座リングとの間がシールされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、シリンダカバーを構成する材料は鋳鉄である。このような鋳鉄からなるシリンダカバーでは、上述したようにポートの内周面と弁座リングとの間に冷却水流路が形成されると、ポートの内周面における冷却水流路の両側に位置するシール領域が腐食するおそれがある。
【0006】
ポートの内周面におけるシール領域と弁座リングとの間のシールには、Oリングなどのシール部材を用いたシールと、弁座リングがポートに圧入されることによるメタルタッチによるシールがある。Oリングなどのシール部材を用いたシールでは、シール部材がシール領域に押圧されるとしても、それらの間には微小な隙間が存在するため、隙間腐食が発生する。一方、メタルタッチによるシールでは、異種金属の電位差による接触腐食が発生する。
【0007】
上述したようなポートの内周面におけるシール領域の腐食を防止するには、例えば、シール領域に、ニッケル基合金からなる肉盛層を形成することが考えられる。この肉盛層の形成には、ニッケル基合金からなる溶接材(棒またはワイヤ)を用いたアーク溶接を行うことが考えられる。
【0008】
しかしながら、上述したようなアーク溶接では、肉盛層において溶接材を構成するニッケル基合金がシリンダカバーを構成する鋳鉄で希釈されるため、シール領域の腐食をあまり効果的に防止することができない。
【0009】
そこで、本発明は、シール領域の腐食を効果的に防止することができるシリンダカバーの耐食性向上方法を提供すること、および耐食性に優れたシリンダカバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明のシリンダカバーの耐食性向上方法は、給気ポートまたは排気ポートであるポートを有するシリンダカバーの耐食性を向上させる方法であって、前記シリンダカバーは、前記ポートに弁座リングが挿入されることによって前記ポートの内周面と前記弁座リングとの間に冷却水流路が形成されるものであり、前記ポートの内周面における前記冷却水流路の両側に位置するシール領域に、レーザ金属肉盛によって、ニッケル基合金、銅合金、ステンレスまたはチタン合金からなる溶接材を用いて肉盛層を形成する、ことを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、シリンダカバーへの入熱量が少ないレーザ金属肉盛によって肉盛層を形成するので、肉盛層の組成を溶接材の組成と同等とすることができる。従って、シール領域の腐食を効果的に防止することができる。
【0012】
前記溶接材はニッケル基合金からなり、前記ニッケル基合金は、質量パーセントで表示して、Ni:40%以上、Fe:30%以下の組成を有してもよい。この構成によれば、例えばNiとFeの含有量が50%ずつ程度である溶接材を用いた場合に比べて、より優れた耐食性を得ることができる。
【0013】
前記シリンダカバーには、前記ポートの内周面における前記シール領域の間の流路領域に開口し、前記冷却水流路と連通する横穴が設けられており、前記流路領域にも、前記横穴の周囲の部分を除いて前記肉盛層を形成し、前記肉盛層の形成後、前記肉盛層の全体にピーニングを行ってもよい。この構成によれば、ポートの内周面における流路領域の大部分が肉盛層で覆われるので、流路領域のエロージョンを防止することができる。ところで、流路領域に全面的に肉盛層を形成した場合には、横穴の内周面に引張の残留応力が発生する。これに対し、流路領域には横穴の周囲の部分を除いて肉盛層を形成すれば、横穴の内周面に引張の残留応力が発生することを防止することができる。
【0014】
肉盛層は、当該肉盛層を形成する際の溶融金属の凝固収縮によって引張応力場となる。また、シリンダカバーである母材と肉盛層との界面近傍にも、肉盛層を形成する際の溶融金属の凝固収縮によって引張応力が残留する。このため、上記の構成のように肉盛層の形成後に肉盛層の全体にピーニングを行えば、肉盛層だけでなく肉盛層と母材との界面近傍にも圧縮の残留応力を付与することができる。これにより、シリンダカバーの疲労強度の低下を防止することができる。
【0015】
前記肉盛層の形成後、前記流路領域における前記横穴の周囲の部分にもピーニングを行ってもよい。この構成によれば、流路領域における横穴の周囲の部分にも圧縮の残留応力を付与することができる。これにより、シリンダカバーの疲労強度の低下をさらに効果的に防止することができる。
【0016】
前記溶接材はパウダであってもよい。ポートの内部は比較的に狭い空間であるために、溶接材がワイヤである場合には、ポートの内周面上に形成される溶融池に対して溶接材を安定的に供給するために特別な工夫が必要である。これに対し、溶接材がパウダであれば、溶融池への溶接材の安定的な供給を容易に行うことができる。
【0017】
前記肉盛層を形成する際は、前記シリンダカバーを前記ポートの中心線回りに回転させながらレーザ金属肉盛を行ってもよい。この構成によれば、ポートの内周面に向けてレーザ光および溶接材を放出するノズルを固定することができる。これにより、ノズルに接続されるケーブルや配管などの捩じれや変形を防止することができる。
【0018】
また、本発明のシリンダカバーは、給気ポートまたは排気ポートであるポートを有し、前記ポートに弁座リングが挿入されることによって前記ポートの内周面と前記弁座リングとの間に冷却水流路が形成され、前記ポートの内周面における前記冷却水流路の両側に位置するシール領域上に肉盛層が形成されており、前記肉盛層は、質量パーセントで表示して、Ni:40%以上、Fe:30%以下の組成を有するニッケル基合金からなる、ことを特徴とする。
【0019】
上記の構成によれば、優れた耐食性を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のシリンダカバーの耐食性向上方法によれば、シール領域の腐食を効果的に防止することができる。また、本発明のシリンダカバーによれば、優れた耐食性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る耐食性向上方法の対象となるシリンダカバーの断面図(弁座リング含む)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に、本発明の一実施形態に係る耐食性向上方法の対象となるシリンダカバー1を示す。シリンダカバー1には、弁座リング3が取り付けられる。
【0023】
具体的に、シリンダカバー1は、給気ポートまたは排気ポートであるポート11を有する。ポート11は、燃焼室に開口している。ポート11の燃焼室への開口は、弁6(給気弁または排気弁)によって開閉される。一般的に、シリンダカバー1には、2つまたは4つのポート11が設けられる。以下、説明の便宜上、ポート11の軸方向のうち燃焼室側を下方、燃焼室と反対側を上方ともいう。
【0024】
弁座リング3は、弁6の閉動作時に、当該弁6と当接する弁座34を有する。弁座リング3は、ポート11に挿入される。これにより、ポート11の内周面12と弁座リング3との間に、弁座リング3を取り巻く環状の冷却水流路4が形成される。
【0025】
より詳しくは、弁座リング3は、ポート11の軸方向に延びる筒状部32と、筒状部32の上端から径方向外向きに突出する小径部31と、筒状部32の下端から径方向外向きに突出する大径部33を含む。つまり、小径部31、筒状部32および大径部33によって、径方向外向きに開口する環状溝が形成され、この環状溝がポート11の内周面12で覆われて冷却水流路4となっている。上述した弁座34は、大径部33の下面の一部である。
【0026】
ポート11の内周面12は、ポート11の軸方向において冷却水流路4の両側に位置する第1シール領域13および第2シール領域15と、第1シール領域13と第2シール領域15の間の流路領域14を含む。第1シール領域13は、弁座リング3の小径部31の外周面と対向する領域であり、第2シール領域15は、弁座リング3の大径部33の外周面と対向する領域である。流路領域14は、弁座リング3の小径部31、筒状部32および大径部33によって形成される環状溝を覆う領域である。
【0027】
第1シール領域13および第2シール領域15は、ポート11の軸方向と平行な筒状である。一方、流路領域14の下部はポート11の軸方向と平行であるが、流路領域14の上部は第1シール領域13の下端から下向きに拡径している。
【0028】
流路領域14の下部の直径は、第2シール領域15の直径よりも小さく設定されている。このため、流路領域14の下端と第2シール領域15の上端との間には、ポート11の径方向に平行な段差領域16が存在する。この段差領域16は、弁座リング3の位置決めを行う役割を果たす。
【0029】
また、シリンダカバー1には、流路領域14に開口し、冷却水流路4と連通する第1横穴21および第2横穴22が設けられている。冷却水は、第1横穴21を通じて冷却水流路4へ供給され、第2横穴22を通じて冷却水流路4から排出される。第1横穴21および第2横穴22の直径は、同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0030】
本実施形態では、
図2に示すように、ポート11の内周面12上に肉盛層7が形成されている(
図1では肉盛層7を省略)。具体的に、肉盛層7は、第1シール領域13上に形成された第1肉盛部71と、流路領域14上に形成された第2肉盛部72と、段差領域16上に形成された第3肉盛部73と、第2シール領域15上に形成された第4肉盛部74を含む。
【0031】
肉盛層7は、レーザ金属肉盛(以下、LMD)によって形成される。LMDでは、シリンダカバー1の耐食性を向上させるために、ニッケル基合金、銅合金、ステンレスまたはチタン合金からなる溶接材が用いられる。本実施形態では、ニッケル基合金からなる溶接材が用いられる。
【0032】
溶接材を構成するニッケル基合金は、質量パーセントで表示して、例えば、Ni:30%以上、Fe:0~51%、Mo:0~30%、Cr:0~25%の組成を有する。このようなニッケル基合金としては、例えば、インコネル(登録商標)、ハステロイ(登録商標)、インコロイ(登録商標)などが挙げられる。
【0033】
中でも、Ni:40%以上、Fe:30%以下の組成を有するニッケル基合金からなる溶接材を用いれば、例えばNiとFeの含有量が50%ずつ程度である溶接材を用いた場合に比べて、より優れた耐食性を得ることができる。
【0034】
溶接材は、ワイヤであってもよいし、パウダであってもよい。本実施形態では、溶接材がパウダである。ポート11の内周面12に向けては、図略のノズルからレーザ光および溶接材が放出される。そのノズルからは、シールドガスが放出されてもよい。ノズルは、単一のノズルであってもよいし、レーザ光を放出するノズルと溶接材を放出するノズルとに分かれていてもよい。
【0035】
ポート11の内周面12上に肉盛層7を形成する際は、シリンダカバー1を固定した状態で、上述したノズルをポート11の周方向に移動させながらLMDを行ってもよいが、シリンダカバー1をポート11の中心線回りに回転させながらLMDを行うことが望ましい。ノズルを固定することができるからである。これにより、ノズルに接続されるケーブルや配管などの捩じれや変形を防止することができる。特に、本実施形態では溶接材がパウダであるので、ノズルにはパウダ供給配管が接続される。従って、パウダ供給配管の変形が防止されれば、パウダの供給量を一定に保つことができる。
【0036】
肉盛層7のうち第1肉盛部71、第2肉盛部72および第4肉盛部74を形成する際は、周方向に延びるビードがポート11の軸方向に並ぶようにLMDを行う。第3肉盛部73を形成する際は、周方向に延びるビードがポート11の径方向に並ぶようにLMDを行う。
【0037】
第2肉盛部72を形成する際は、
図2に示すように、流路領域14における第1横穴21および第2横穴22の周囲の部分を除いて第2肉盛部72を形成することが望ましい。流路領域14における第1横穴21および第2横穴22の周囲の部分は、第1横穴21および第2横穴22の直径を内径とする、所定幅のリング状の部分である。
【0038】
流路領域14に全面的に第2肉盛部72を形成した場合には、第1横穴21および第2横穴22の内周面に引張の残留応力が発生する。これに対し、流路領域14には第1横穴21および第2横穴22の周囲の部分を除いて第2肉盛部72を形成すれば、第1横穴21および第2横穴22の内周面に引張の残留応力が発生することを防止することができる。
【0039】
ポート11の内周面12上に肉盛層7が形成された後は、肉盛層7の全体にピーニングを行ってもよい。肉盛層7は、当該肉盛層7を形成する際の溶融金属の凝固収縮によって引張応力場となる。また、シリンダカバー1である母材と肉盛層7との界面近傍にも、肉盛層7を形成する際の溶融金属の凝固収縮によって引張応力が残留する。このため、肉盛層7の形成後に肉盛層7の全体にピーニングを行えば、肉盛層7だけでなく肉盛層7と母材との界面近傍にも圧縮の残留応力を付与することができる。これにより、シリンダカバー1の疲労強度の低下を防止することができる。
【0040】
さらに、ピーニングを行う場合、流路領域14における第1横穴21および第2横穴22の周囲の部分(第2肉盛部72が形成されていない部分)にもピーニングを行ってもよい。この構成によれば、流路領域14における第1横穴21および第2横穴22の周囲の部分にも圧縮の残留応力を付与することができる。これにより、シリンダカバー1の疲労強度の低下をさらに効果的に防止することができる。
【0041】
なお、ピーニングは、直径2~10mm程度の打撃痕が形成される打撃ピーニングであることが望ましい。
【0042】
ポート11の内周面12上に肉盛層7が形成された後(ピーニングを行う場合はピーニングを行った後)は、肉盛層7の表面が所望の寸法精度となるように機械加工によって切削される。
【0043】
弁座リング3がポート11に挿入されたときには、弁座リング3の大径部33の上面が、ポート11の内周面12の段差領域16上に形成された第3肉盛部73と当接する。これにより、シリンダカバー1に対する弁座リング3の位置決めが行われる。
【0044】
冷却水流路4の上側および下側では、冷却水流路4から冷却水が漏れ出さないようにするために、ポート11の内周面12と弁座リング3との間がシールされる。本実施形態では、冷却水流路4の上側ではシール部材5(例えば、Oリング)を用いたシールが採用され、冷却水流路4の下側ではメタルタッチによるシールが採用されている。ただし、冷却水流路4の下側でシール部材5を用いたシールが採用されてもよい。
【0045】
より詳しくは、冷却水流路4の上側に関しては、弁座リング3の小径部31の外径が、第1シール領域13上に形成された第1肉盛部71の内径よりも寸法公差分だけ小さく設定されている。小径部31の外周面には、径方向外向きに開口する環状溝が形成され、この環状溝にシール部材5が挿入されている。
【0046】
一方、冷却水流路4の下側に関しては、第2シール領域15上に形成された第4肉盛部74の内側に弁座リング3の大径部33が圧入されるように、大径部33の外径が寸法公差分だけ第4肉盛部74の内径よりも大きく設定されている。
【0047】
以上説明したように、本実施形態では、シリンダカバー1への入熱量が少ないLMDによってポート11の内周面12(正確には、第1シール領域13から第2シール領域15までの範囲)に肉盛層7を形成するので、肉盛層7の組成を溶接材の組成と同等とすることができる。従って、第1シール領域13および第2シール領域15の腐食を効果的に防止することができる。
【0048】
ポート11の内部は比較的に狭い空間であるために、溶接材がワイヤである場合には、ポート11の内周面12上に形成される溶融池に対して溶接材を安定的に供給するために特別な工夫が必要である。これに対し、本実施形態のように溶接材がパウダであれば、溶融池への溶接材の安定的な供給を容易に行うことができる。
【0049】
(変形例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0050】
例えば、ポート11の内周面12の流路領域14上には肉盛層7が形成されなくてもよい。換言すれば、肉盛層7は、第2肉盛部72を含まなくてもよい。ただし、前記実施形態のように流路領域14上に肉盛層7が形成されていれば、流路領域14の大部分が肉盛層7で覆われるので、流路領域14のエロージョンを防止することができる。
【0051】
また、ポート11の内周面12上への肉盛層7の形成は、腐食が発生したシリンダカバー1の補修としても有効である。
【符号の説明】
【0052】
1 シリンダカバー
11 ポート
12 内周面
13,15 シール領域
14 流路領域
21,22 横穴
3 弁座リング
4 冷却水流路
7 肉盛層