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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】低侵襲中性子線発生装置
(51)【国際特許分類】
   G21K 5/08 20060101AFI20230824BHJP
   H05H 3/06 20060101ALI20230824BHJP
   H05H 6/00 20060101ALI20230824BHJP
   A61N 5/10 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
G21K5/08 N
H05H3/06
H05H6/00
A61N5/10 H
【請求項の数】 9
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022143139
(22)【出願日】2022-09-08
(62)【分割の表示】P 2020072763の分割
【原出願日】2020-04-15
(65)【公開番号】P2022177102
(43)【公開日】2022-11-30
【審査請求日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】62/833,948
(32)【優先日】2019-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518296517
【氏名又は名称】禾榮科技股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】HERON NEUTRON MEDICAL CORP.
【住所又は居所原語表記】No.66-2, Shengyi 5th Rd., Zhubei City, Hsinchu County, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ティアオ グゥオドン
(72)【発明者】
【氏名】葉 吉田
(72)【発明者】
【氏名】游 鎮帆
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-522558(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0060674(US,A1)
【文献】特開2014-115122(JP,A)
【文献】特表2009-540924(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0161431(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 5/08
G21K 5/02
H05H 3/06
H05H 6/00
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のチャネルに接続された陽子加速器、
前記第1のチャネルの一端に配置されたターゲット、および
前記第1のチャネルの前記端をカバーする体内配置用中性子減速部を含み、
前記ターゲットは前記体内配置用中性子減速部に埋め込まれており、前記体内配置用中性子減速部は減速物質を収容する収容要素を含み、前記収容要素は伸縮自在であり、
前記ターゲットと前記体内配置用中性子減速部の幾何学的中心との間の距離は、0cmから2cmである低侵襲中性子線発生装置。
【請求項2】
第2のチャネルに接続された減速物質供給装置を更に含み、前記減速物質供給装置は、前記第2のチャネルを介して前記減速物質を前記収容要素に送達する請求項1に記載の低侵襲中性子線発生装置。
【請求項3】
前記減速物質は水素含有物質である請求項1に記載の低侵襲中性子線発生装置。
【請求項4】
前記体内配置用中性子減速部の直径は3cmから12cmの範囲である請求項1に記載の低侵襲中性子線発生装置。
【請求項5】
前記ターゲットの材料はリチウム(Li)を含む請求項1に記載の低侵襲中性子線発生装置。
【請求項6】
前記陽子加速器は、2MeVから2.6MeVの範囲のエネルギーを有する陽子線を生成する請求項1に記載の低侵襲中性子線発生装置。
【請求項7】
前記陽子加速器は0.1mAから5mAの範囲の電流を用いる請求項1に記載の低侵襲中性子線発生装置。
【請求項8】
前記第1のチャネルに隣接し、前記ターゲットを囲む冷却要素を更に含む請求項1に記載の低侵襲中性子線発生装置。
【請求項9】
前記第1のチャネルは、患者の体内に配置される体内配置部と、患者の体外に配置される体外配置部を有している請求項1に記載の低侵襲中性子線発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年4月15日に出願された米国仮特許出願番号第62/833,948号からの優先権を主張するものであり、これらの全ては引用によって本願に援用される。
【0002】
本発明は、低侵襲中性子線発生装置および低侵襲中性子捕捉療法システムに関する。
【背景技術】
【0003】
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の原理は以下の通りである:ホウ素含有薬物は、血液循環を介して腫瘍細胞と結合し、次いで中性子線が腫瘍の中心位置に照射され、ホウ素が熱中性子を吸収してリチウムイオンとヘリウムイオンを生成し、これにより隣接する組織を破壊することなく癌細胞が破壊される。
【0004】
現在、BNCT中性子線源発生器の殆どは、研究用原子炉および加速器から得られる。中性子線源発生装置は、一般に壁に固定されており、患者の体外から中性子を照射する。中性子の物理的特性により、中性子が人体に入ったあと、中性子は急速に減速し、より深い位置に到達することができない。従って、浅い腫瘍のみしか治療することができず、治療深度が限られる。例えば、より高いエネルギーの熱外中性子線を用いても、治療深度は10cmを超えることができない。
【0005】
上述のように、BNCTに適用される既存の中性子線発生装置は意図された用途には十分であったが、全ての面で完全に満足できるものではない。従って、中性子利用率と治療深度を更に向上させることができる中性子線発生装置の開発は、依然として業界が研究に力を注いでいる課題の一つである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
中性子利用率と治療深度を更に向上させることができる低侵襲中性子線発生装置および低侵襲中性子捕捉療法システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のいくつかの実施形態に従い、低侵襲中性子線発生装置が提供される。低侵襲中性子線発生装置は、陽子加速器、ターゲット、および中性子減速部を含む。陽子加速器は第1のチャネルに接続され、ターゲットは第1のチャネルの一端に配置され、中性子減速部は第1のチャネルの端をカバーし、ターゲットは中性子減速部に埋め込まれている。更に、中性子減速部は、減速物質を収容する収容要素を含み、収容要素は伸縮自在である。
【0008】
本開示のいくつかの実施形態に従い、低侵襲中性子捕捉療法システムが提供される。低侵襲中性子捕捉療法システムは、中性子線発生装置と、中性子線発生装置に隣接する内視鏡装置とを含む。中性子線発生装置は、陽子加速器、ターゲット、および中性子減速部を含む。陽子加速器は第1のチャネルに接続され、ターゲットは第1のチャネルの一端に配置され、中性子減速部は第1のチャネルの端をカバーし、ターゲットは中性子減速部に埋め込まれている。更に、中性子減速部は、減速物質を収容する収容要素を含み、収容要素は伸縮自在である。
【0009】
以下、添付の図面と併せて本開示の実施形態を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明は、添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明及び実施例を読むことにより、より完全に理解することができる。
図1図1は、本開示のいくつかの実施形態による低侵襲中性子線発生装置の使用の概略図である。
図2図2は、本開示のいくつかの実施形態による低侵襲中性子線発生装置の概略構造図である。
図3図3は、本開示のいくつかの実施形態による低侵襲中性子線発生装置の概略構造図である。
図4図4は、本開示のいくつかの実施形態による低侵襲中性子線発生装置の概略構造図である。
図5図5は、本開示のいくつかの実施形態による低侵襲中性子捕捉療法システムの概略構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の実施形態で提供される低侵襲中性子線発生装置および低侵襲中性子捕捉療法システムは、以下に詳細に説明される。以下の説明は、本開示のいくつかの実施形態の異なる態様を実装するために、多くの異なる実施形態または実施例を提供することを理解されたい。以下の詳細な説明に記載される特定の要素および構成は、本開示を明確に説明するために示される。本明細書に記載される例示的な実施形態は、単に例示の目的で使用されることは明らかであろう。また、異なる実施形態の図面においては、本開示を明瞭に説明するために、類似の番号および/または対応の番号を用いて、類似の構成要素および/または対応の構成要素を示すことができる。しかしながら、異なる実施形態の図面では、類似の番号および/または対応の番号の使用は、異なる実施形態間の相関関係を示唆するものではない。
【0012】
例示的な実施形態の説明は、本発明の実施形態の一部として見なされる添付図面と合わせて読むことを意図している。図面は、縮尺通りに描かれているものではない。実際には、要素のサイズは、本開示の特徴を明確に示すために、任意に拡大または縮小され得る。
【0013】
また、「第1」、「第2」、「第3」などの用語は、ここでは各種の素子、構成要素、または部分を説明するのに用いることができ、これらの素子、構成要素、または部分は、これらの用語によって制限されてはならない。これらの用語は単に一素子、構成要素、または部分を識別することに用いられる。従って、第1の素子、構成要素、または部分は、例示的な実施形態の技術から逸脱しない限りにおいては、第2の素子、構成要素、領域、層、および/または部分と呼ばれてもよい。
【0014】
用語「約」および「実質的に」は、具体的には、所定値の+/-10%を意味し、より具体的には、所定値の+/-5%を意味し、より具体的には、所定値の+/-3%を意味し、より具体的には、所定値の+/-2%を意味し、より具体的には、所定値の+/-1%を意味し、更により具体的には、所定値の+/-0.5%を意味する。本開示の所定値は、近似値である。特定の説明がないとき、所定値は、「約」または「実質的に」の意味を含む。更に、「第1の値と第2の値の間の範囲にある」または「第1の値から第2の値までの範囲にある」という用語は、述べられた範囲が第1の値、第2の値、およびそれらの間の他の値を含むことを示している。
【0015】
特に定義されなければ、本明細書で使用される全ての用語(技術的および科学的用語を含む)は、この発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有している。また一般的に使用される辞書で定義されている用語は、本開示の相対的スキルおよび本開示の背景または文脈に適合する意味を有するものとして解釈されるべきであり、特に定義されていない限り、理想化されたまたは過度に形式的な方法で解釈されるべきではない。
【0016】
図1は、本開示のいくつかの実施形態による低侵襲中性子線発生装置10の使用の概略図である。図1に示すように、低侵襲中性子線発生装置10は、治療を行うために患者PTに配置することができる。換言すれば、中性子線が発生する位置(中性子源)を患者PTの体内に移動することができ、中性子線を近傍の腫瘍に照射することができる。体外照射される一般的な中性子線発生装置と比較して、低侵襲中性子線発生装置10は、中性子線の利用効率を向上させることができ、且つより深い場所、または他の臓器に遮られて到達しにくい腫瘍に中性子線を照射することができる。従って、BNCT治療の有効性が向上する。更に、中性子源が腫瘍に近いため、必要な中性子強度およびエネルギーが低くなり、低電流および低エネルギーの陽子加速器を用いることができるため、病院での放射線防護の必要性も減少する。
【0017】
更に低侵襲中性子線発生装置10の詳細な構造を以下に説明する。図2は、本開示のいくつかの実施形態による低侵襲中性子線発生装置の概略構造図である。いくつかの実施形態によれば、低侵襲中性子線発生装置10は、以下に説明する追加の特徴を有することができる。
【0018】
図2に示すように、いくつかの実施形態によれば、低侵襲中性子線発生装置10は、陽子加速器100、ターゲット200、および中性子減速部300を含むことができる。いくつかの実施形態では、陽子加速器100は、第1のチャネル102に接続することができ、ターゲット200は、第1のチャネル102のもう一端に配置することができる。いくつかの実施形態では、ターゲット200は、第1のチャネル102の端部102tに配置することができる。更に、中性子減速部300は、第1のチャネル102の端部102tを覆う(カバーする)ことができ、それによりターゲット200を中性子減速部300に埋め込むことができる。
【0019】
具体的には、陽子加速器100は、特定のエネルギーの陽子を供給することができる。特定のエネルギーの陽子は、第1のチャネル102を通過し、端部102tでターゲット200に衝突して高速中性子を生成することができ、次いで、中性子減速部300は、中性子を熱中性子に変換して、患部を治療することができる。いくつかの実施形態では、第1のチャネル102の内部は、真空状態とすることができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、ターゲット200を第1のチャネル102内に配置してもよく、または第1のチャネル102の外側に配置してもよいが、ターゲット200は第1のチャネル102に接続され、第1のチャネル102に接触している。また、いくつかの実施形態では、中性子減速部300は、第1のチャネル102の一部を覆うことができる。更に中性子減速部300はターゲット200を完全に覆うことができ、それによりターゲット200全体を中性子減速部300内に配置することができる。また、いくつかの実施形態では、第1のチャネル102、ターゲット200、および中性子減速部300は、手持ち構造とすることができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、陽子加速器100は、約2MeVから約2.6MeVの範囲のエネルギーを有する陽子ビームを生成することができる。いくつかの実施形態では、陽子加速器100は、約0.1ミリアンペア(mA)から約5mAの範囲の電流を用いることができる。
【0022】
本開示のいくつかの実施形態によれば、低侵襲中性子線発生装置10は、患部(例えば、腫瘍の位置)に直接隣接して用いることができるため、陽子加速器100に必要なエネルギー(例えば、電流の強度)は、一般的なBNCTで用いられる陽子加速器と比較して、大幅に低減することができることに留意されたい。例えば、現在BNCTで用いられる陽子加速器が約3 MeVの陽子線を供給するとき、使用される電流は10mA以上であり、BNCTの処理時間は約30~60分である。対照的に、本開示のいくつかの実施形態によれば、低侵襲中性子線発生装置10の陽子加速器100が約2MeVから約3MeVの陽子線を供給するとき、10分以下のBNCT治療のための中性子ビーム強度を供給するために要する電流は、僅か2mA以下である。
【0023】
いくつかの実施形態では、ターゲット200の材料は、リチウム(Li)、ベリリウム(Be)、または他の適切な材料を含むことができるが、本開示はこれに限定されない。
【0024】
図示していないが、更にいくつかの実施形態によれば、陽子加速器100により発生した陽子線を、まず四重極磁石によって集束し、次いでコリメータ、回転磁石などのコンポーネントによって調整してから、ターゲット200に衝突させることができる。
【0025】
更に、図2に示すように、中性子減速部300は、収容要素302を含むことができ、収容要素302は、減速物質304を収容するために用いることができる。いくつかの実施形態では、低侵襲中性子線発生装置10は、減速物質供給装置(moderating substance provider)306を更に含むことができ、減速物質供給装置306は、減速物質304を供給するために用いることができる。具体的には、減速物質供給装置306を、第2のチャネル308に接続することができ、減速物質供給装置306は、第2のチャネル308を介して減速物質304を収容要素302に送達することができる。また、いくつかの実施形態では、陽子加速器100に接続された第1のチャネル102および中性子減速部300に接続された第2のチャネル308は、互いに隣接または接触することができる。例えば、第1のチャネル102および第2のチャネル308を一体化することができるが、本開示はこれに限定されない。更に、いくつかの実施形態では、第2のチャネル308も手持ち構造とすることができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、中性子減速部300の収容要素302は伸縮自在である。いくつかの実施形態では、収容要素302は、伸縮自在の特徴を有する材料、例えば熱可塑性材料で形成することができる。具体的には、いくつかの実施形態では、収容要素302の材料は、ゴム、シリコーン、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリイミド(PI)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、その他の適切な材料、またはそれらの組み合わせを含むことができるが、本開示はそれらに限定されない。
【0027】
いくつかの実施形態では、中性子減速部300の減速物質304は、水素含有材料であってもよい。例えば、いくつかの実施形態では、減速物質304は、水、重水、またはその他の適切な材料を含むことができるが、本開示はそれに限定されない。本開示の実施形態によれば、中性子線の速度を効果的に低減することができる任意の物質を減速物質304として用いることができる。
【0028】
いくつかの実施形態では、中性子減速部300は、高エネルギーの高速中性子を低エネルギーの熱中性子に変換してBNCT処理をすることができる。具体的には、いくつかの実施形態では、中性子減速部300は、中性子のエネルギー範囲を約10keV以下に減少させることができる。いくつかの実施形態では、中性子減速部300は患部(例えば腫瘍)に直接接触することができる。
【0029】
上述のように、本開示のいくつかの実施形態によれば、収容要素302は伸縮自在である。これにより、低侵襲中性子線発生装置10が患者PTの体内に配置される前には、収容要素302内に減速物質304を充填しない、または少量の減速物質304のみを充填し、低侵襲中性子線発生装置10が患者PTの体内に配置された後に、高速中性子を熱中性子に効果的に減速するために、さらなる減速物質304を収容要素302内に充填することができる。これにより、患者PTに外科的創傷を大きく形成する必要がなく、低侵襲手術で効果的なBNCT治療を行うことができる。
【0030】
図2に示すように、いくつかの実施形態では、収容要素302は、減速物質304で充填された後、楕円形状を有することができる。他のいくつかの実施形態では、収容要素302は、減速物質304で充填された後、球形、卵形、不規則な形、または他の適切な形を有することができる。いくつかの実施形態では、収容要素302は、体内の形状に適合する共形形状を有することができる。収容要素302は、任意の適切な形状を有することができ、図面に示される形状に限定されないことを理解されたい。様々な実施形態では、収容要素302は、実際のニーズおよび医療計画に従って適切な形状を有するように調整することができる。
【0031】
また、いくつかの実施形態では、減速物質304が収容要素302に充填された後、ターゲット200は、中性子減速部300の幾何学的中心(符号を付与せず)と重ならない。即ち、ターゲット200は、中性子減速部300の幾何学的中心からずれることができる。具体的には、いくつかの実施形態では、ターゲット200と中性子減速部300の幾何学的中心GTとの間の距離dは、約0cmから約2cmの範囲とすることができる。距離dが小さ過ぎる場合、中性子減速部は、高速中性子を熱中性子に減速するのに十分な減速物質を有するように拡大される必要がある。距離dが大き過ぎる場合は、それに応じて十分なサイズの中性子減速部が必要である。従って、距離dが小さ過ぎても大き過ぎても、中性子減速部のサイズは大きくなるため、中性子減速部は患者PTの体内に配置するのに適さない。いくつかの実施形態によれば、距離dは、第1のチャネル102の延伸方向におけるターゲット200と中性子減速部300の幾何学的中心GTとの間の最小距離を指している。
【0032】
また、いくつかの実施形態では、減速物質304が収容要素302に充填された後、中性子減速部300の直径は、約3cmから約12cmの範囲とすることができるが、本開示はこれに限定されない。いくつかの実施形態によれば、中性子減速部300の直径は、減速物質304で充填された後の収容要素302の最大直径を指している。また、様々な実施形態では、中性子減速部300の直径(またはサイズ)範囲は、陽子加速器100のエネルギーに従って調整され、所望の治療効果を達成することができることを理解されたい。
【0033】
図2に示すように、いくつかの実施形態では、低侵襲中性子線発生装置10は、回転継手TPを更に含むことができ、回転継手TPは、陽子加速器100と第1のチャネル102との間に配置することができる。特に、陽子加速器100の位置は、一般的に任意に移動することができないが、回転継手TPは、低侵襲中性子線発生装置10の動作位置をより柔軟にし、腫瘍の位置特定を促進し、特定の方向で体内に浸入して治療する。
【0034】
次いで、図3は、本開示の他のいくつかの実施形態による低侵襲中性子線発生装置20の概略構造図である。上記および下記の文脈における同一または類似の構成要素または要素は、同一または類似の参照番号によって表されることを理解されたい。これらの構成要素または要素の材料、製造方法、および機能は、上記のものと一同または類似であるため、本明細書では繰り返さない。
【0035】
図3に示すように、いくつかの実施形態では、陽子加速器100に接続された第1のチャネル102と中性子減速部300に接続された第2のチャネル308を、別々に配置することができる。いくつかの実施形態では、陽子加速器100および中性子減速部300を独立して操作することができる。同様に、この実施形態では、中性子減速部300は、第1のチャネル102の端部102tを覆うことができ、それによりターゲット200を中性子減速部300に埋め込むことができる。更に、図3に示すように、いくつかの実施形態では、収容要素302は、減速物質304で充填された後、球形を有することができる。
【0036】
次いで、図4は、本開示の他のいくつかの実施形態による低侵襲中性子線発生装置30の概略構造図である。図4に示すように、いくつかの実施形態によれば、低侵襲中性子線発生装置30は更に冷却要素400を含むことができ、冷却要素400は、第1のチャネル102に隣接し、ターゲット200を囲むことができる。
【0037】
特に、いくつかの実施形態では、冷却要素400は、第3のチャネル402、および第3のチャネル402に接続された冷却源供給装置404を含むことができる。冷却源供給装置404は、冷却水などの冷却源を供給することができ、第3のチャネル402は、冷却源を輸送または循環させるために用いることができる。いくつかの実施形態では、第3のチャネル402は、第1のチャネル102の大部分を囲み、第1のチャネル102およびターゲット200と接触することができる。いくつかの実施形態では、第3のチャネル402も中性子減速部300に接触する。いくつかの実施形態では、冷却源は、第3のチャネル402内で循環されることができ、冷却源は、陽子がターゲット200に衝突して中性子を発生するプロセス中に生成された熱を取ることができる。
【0038】
更に、図4に示すように、いくつかの実施形態では、陽子加速器100に接続された第1のチャネル102および中性子減速部300に接続された第2のチャネル308は、互いに隣接しているが別々に配置することができる。また、いくつかの実施形態では、冷却源を送達する第3のチャネル402および減速物質304を送達するための第2のチャネル308もまた、互いに隣接または接触することができる。例えば、第3のチャネル402および第2のチャネル308は一体化することができるが、本開示はこれに限定されない。
【0039】
他のいくつかの実施形態では、減速物質304は、冷却源と同じものとすることができるため、減速物質供給装置306および冷却源供給装置404は代替的に配置することができ、同時に第2のチャネル308および第3のチャネル402に接続する。更に他のいくつかの実施形態では、減速物質304が装填された第2のチャネル308は、それ自体が冷却機能を有することができるため、追加の冷却要素400を必要としない。
【0040】
次いで、図5は、本開示のいくつかの実施形態による低侵襲中性子捕捉療法システム10Sの概略構造図である。いくつかの実施形態によれば、低侵襲中性子捕捉療法システム10Sは、上述のような低侵襲中性子線発生装置10(符号を付与せず)および内視鏡装置500を含むことができ、内視鏡装置500は、低侵襲中性子線発生装置10に隣接することができる。低侵襲中性子線発生装置10の構成は上述したとおりであり、従ってここでは繰り返さない。このような構成は、患者PTのリアルタイム画像の取得を可能とし、関連する臓器または腫瘍の位置をリアルタイムで特定することができる。これにより、正しい線量の中性子照射を正確に供給することができる。
【0041】
図5に示すように、いくつかの実施形態では、内視鏡装置500は、中性子減速部300を貫通することで、内視鏡装置500の端部500tを中性子減速部300の外側に位置させることができ、それにより、中性子減速部300の前方画像の観察を可能にする。また、いくつかの実施形態では、中性子減速部300は、孔300pを有することができ、内視鏡装置500は、孔300p内に配置され、孔300pを貫通することができる。特に、いくつかの実施形態では、孔300pは、収容要素302内に配置することができる。
【0042】
図5に示すように、いくつかの実施形態では、内視鏡装置500および低侵襲中性子線発生装置10の第1のチャネル102は、互いに隣接または接触することができる。例えば、内視鏡装置500および第1のチャネル102は一体化することができるが、本開示はこれに限定されない。この構成は、食道癌、結腸直腸癌、直腸癌などの外科的用途に特に適していることは注目に値する。
【0043】
また、図示していないが、他のいくつかの実施形態では、内視鏡装置500および低侵襲中性子線発生装置10は別々に配置することができる。
【0044】
上記を要約すると、本開示のいくつかの実施形態に従って、低侵襲中性子線発生装置が提供される。このような装置により、中性子線を発生させる位置(中性子源)を患者の体内に配置することができ、中性子線を近傍の腫瘍へ照射することができる。従って、低侵襲中性子線発生装置は、中性子線の使用効率を向上させることができ、他の健康な細胞の損傷リスクを減少することもできる。また、中性子線は、より深い場所や、他の臓器に遮られて到達しにくい腫瘍へと照射することができる。従って、BNCT治療の有効性が向上される。更に、中性子源が腫瘍に近いため、必要とする中性子の強度とエネルギーを低くすることができる。低エネルギーの陽子加速器が用いられるため、病院での放射線防護の必要性も減少する。
【0045】
更に、いくつかの実施形態によれば、上述の低侵襲中性子線発生装置は、当技術分野で知られている他の補助要素を更に含むことができ、これらの要素は、当業者に知られている任意の形態または構成で存在し得ることを理解されたい。
【0046】
本開示の上述およびその他の目的、特徴、および利点の完全な理解のために、以下の特定の実施形態において詳細な説明が与えられる。しかし、本開示の範囲は以下の特定の実施形態に限定されることを意図していない。
【0047】
実施例1~14
【0048】
幾何学的モデル解析
以下の解析は、ロスアラモス国立研究所が開発したシミュレーション計算ソフトMCNP6で行われ、断面積ライブラリENDF/B-7を使用した。
【0049】
実施例1~14では、18cm×18cm×20cmのサイズの脳ファントムをシミュレーション試験に使用した。脳ファントムは、ICRU46によって報告された要素で構成した。使用した中性子線発生装置では、陽子線チャネル(第1のチャネル)の直径は3ミリメートル(mm)であり、長さは脳ファントムの表面からターゲットまでであり、水を減速物質として使用した。更に、厚さ0.1mmおよび直径1cmのリチウムターゲットをターゲットとして使用し、且つリチウムターゲットは中性子減速部の中心からずれていた。
【0050】
ファントムの線量評価指標
脳ファントムの線量を評価した。評価指標は治療可能比(Therapeutic Ratio;TR)および治療時間であった。
【0051】
BNCT治療を脳ファントムに行い、その物理的療法的線量を中性子線量、光子線量、およびホウ素線量から導出した。加重治療線量は、以下、中性子線量に相対的生物効果比(Relative Biological Effective;RBE)を掛けたもの、光子線量にRBEを掛けたもの、ホウ素線量に化合物生物効果比(Compound Biological Effective; CBE)を掛けたものであった。中性子のRBEは3.2、光子のRBEは1、脳ファントムのCBEは1.3、腫瘍のCBEは3.8であった。RBEおよびCBEについては、M.S. Herrera et al. “Treatment planning capability assessment of a beam shaping assembly for accelerator-based BNCT”, Applied Radiation and Isotopes69(2011)1870-1873を参照した。
【0052】
具体的には、治療可能比(TR)は、ファントムの任意の位置における腫瘍の総加重治療線量と正常組織の最大総加重線量との比として定義した。この値は、上記位置にある腫瘍に対しての治療の質を表している。TRが大きいほど、上記位置にある腫瘍に対しての治療の質が良くなる。最大TR値は、治療の最大効果を表している。ファントムの任意の位置にある正常な組織が10Gyの加重線量に到達した場合、その線量に到達するのに必要となる時間が治療時間である。
【0053】
評価指標の計算
正常組織内のホウ素の濃度が25ppmであると仮定すると、腫瘍組織と正常組織内のホウ素の濃度比(T/N比)は3であり、計算(Tally)は中心軸を中心として行われ、断面は2cm×2cm(減速部の後部にある)であった。BNCT実現可能性評価の計算結果を表1~表6に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示した結果によれば、陽子エネルギーが高いほど、中性子収量が高くなり、処理時間が短くなる。しかし、リチウムターゲットに衝突した後に生成された中性子エネルギーが高いほど、最大治療可能比は悪くなる。
【0056】
【表2】
【0057】
表2に示した結果によれば、中性子減速部の中心からリチウムターゲットがずれた距離(d)も、治療可能比の最大値に影響を与えている。ずれた距離dが特定の範囲内にあるとき、ずれた距離dが大きいほど、治療可能比の最大値が大きくなる。しかし、ずれた距離dが大き過ぎた場合、チャネルの両側の正常組織の総加重線量が大きくなり、治療可能比の最大値が減少する。実施例6では、最大治療可能比は3.52に減少し、治療時間も13.44分に増加した。
【0058】
【表3】
【0059】
表3に示した結果によれば、リチウムターゲットが中性子減速部から特定距離ずれ、治療可能比の最大値が増加すると、水減速部の最大直径を減少することができるため、水減速部は人体内で多くのスペースを占めなくなる。
【0060】
【表4】
【0061】
表4に示した結果によれば、水減速部の最大直径が大きいほど、TRの最大値が大きくなる。水減速部の最大直径を8cm(実施例3)から11cm(実施例8)に変更したとき、最大治療可能比は3.55に増加した。また、リチウムターゲットが中性子減速部の中心から1.25cmずれたとき、TRの最大値は更に4.03に増加した。同様の手段を用いて、2.4MeVの入射陽子エネルギーを使用したとき、治療可能比は3.85に増加した。
【0062】
【表5】
【0063】
表5に示した結果によれば、入射陽子エネルギーが2.6MeVであり、水減速部の最大直径が12cmのとき、治療可能比の最大値は依然として3.5以上に達することができる。
【0064】
【表6】
【0065】
表6に示した結果によれば、治療時間を10分に保持した場合、必要となる加速器電流は1mA未満とすることができ、これによりターゲット設計における熱放散条件をより柔軟にすることができる。一方、熱を放散する十分な能力がある場合は、電流を増加することができ、治療時間をそれに比例して短縮することができる。
【0066】
また、表1~表6に示した結果によれば、陽子エネルギーが2.0MeVから2.6MeVの範囲内にあるとき、減速部の直径は5cmから12cmであり、治療可能比の最大値は3.5以上に達することができる。上述のシミュレーションの計算結果から、表1から表6の条件下では、低侵襲中性子線発生装置を、BNCT治療に効果的に適用することができ、深部腫瘍を治療することができ、更に治療時間は30分以下とすることができると分かる。更に、現在存在する一般的なBNCT治療(約3MeV以下の陽子線を供給し、10mA以上の電流を必要とする)と比較すると、表1~表6に示した結果から、本開示で提供する低侵襲中性子線発生装置は、約2MeVから2.6MeVのエネルギーの陽子線を供給するのに1mA未満の電流のみしか必要としない。
【0067】
この開示の実施形態および利点は、上記のように開示されているが、当該技術分野の通常の知識を有する人なら誰でも、本開示の精神および範囲から逸脱することなく、変更、置換、および置換を行うことができることを理解されたい。更に、本開示の保護の範囲は、本明細書に記載された特定の実施形態におけるプロセス、機械、製造、材料組成、デバイス、方法、およびステップに限定されない。本開示が関係する技術分野において通常の知識を有する者は、本開示の内容を開示することができる。プロセス、機械、製造、材料構成、装置、方法、およびステップの現在または将来の開発を理解するため、本明細書に記載の実施形態とそれらが実質的に同じ機能を実装するか、またはほぼ同じ結果を達成することができる限り、それらは、本開示に従って用いられることができる。従って、本開示の保護の範囲は、前述のプロセス、機械、製造、材料組成、装置、方法、およびステップを含む。更に、各特許出願の範囲は別個の実施形態を構成し、本開示の保護範囲は、各特許出願の範囲と実施形態の組み合わせも含む。この開示の保護の範囲は、添付の特許出願の範囲によって決定されるものとする。
【符号の説明】
【0068】
10、20、30 低侵襲中性子線発生装置
10S 低侵襲中性子捕捉療法システム
100 陽子加速器
102 第1のチャネル
102t 第1のチャネルの端部
200 ターゲット
300 中性子減速部
300p 孔
302 収容要素
304 減速物質
306 減速物質供給装置
308 第2のチャネル
400 冷却要素
402 第3のチャネル
404 冷却源供給装置
500 内視鏡装置
500t 内視鏡装置の端部
d 距離
GT 幾何学的中心
PT 患者
TP 回転継手
図1
図2
図3
図4
図5