(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】音波受信装置及び音源方位標定装置並びに音源方位標定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 3/24 20060101AFI20230824BHJP
B64U 10/13 20230101ALI20230824BHJP
B64U 10/17 20230101ALI20230824BHJP
B64U 20/80 20230101ALI20230824BHJP
B64U 20/87 20230101ALI20230824BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20230824BHJP
B64U 101/26 20230101ALN20230824BHJP
【FI】
G01M3/24 A
B64U10/13
B64U10/17
B64U20/80
B64U20/87
G01H17/00 Z
B64U101:26
(21)【出願番号】P 2023501044
(86)(22)【出願日】2022-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2022033113
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2021161253
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390000011
【氏名又は名称】JFEアドバンテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】岡 知路
(72)【発明者】
【氏名】小田 将広
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】石山 和誉
(72)【発明者】
【氏名】松井 穣
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/193458(WO,A1)
【文献】特表2019-505047(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108163190(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0204585(US,A1)
【文献】特表2017-502568(JP,A)
【文献】特開2019-006154(JP,A)
【文献】特表2019-523363(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0201358(US,A1)
【文献】GO, Yeong-Ju et al.,An Acoustic Source Localization Method Using a Drone-Mounted Phased Microphone Array,Drones,スイス,MDPI,2021年08月06日,Volume 5, Issue 3, No. 75,[検索日2022.10.28] インターネット:<https://www.mdpi.com/2504-446X/5/3/75>,https://doi.org/10.3390/drones5030075
【文献】HOSHIBA, Kotaro et al.,Design of UAV-Embedded Microphone Array System for Sound Source Localization in Outdoor Environments,Sensors,Volume 17, Issue 11, No.2535,スイス,MDPI,2017年11月03日,[検索日 2022.10.28] インターネット:<URL :https://www.mdpi.com/1424-8220/17/11/2535>,https://doi.org/10.3390/s17112535
【文献】RUIZ-ESPITIA, Oscar et al.,AIRA-UAS: an Evaluation Corpus for Audio Processing in Unmanned Aerial System,2018 International Conference on Unmanned Aircraft Systems (ICUAS),米国,IEEE,2018年09月02日,pp.836-845,[検索日 2022.10.28] インターネット:<URL :https://ieeexplore.ieee.org/document/8453466>,DOI:10.1109/ICUAS.2018.8453466
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/24
B64U 10/13
B64U 10/17
B64U 20/87
B64U 20/80
B64U 101/26
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転翼を有する飛行体と、
前記飛行体に搭載され、かつ、複数のマイクロホンからなるアレイセンサと、
前記回転翼と前記アレイセンサとの間に設置され、前記回転翼で生じる音波ノイズによる前記アレイセンサで受信する音波への影響を抑制する第1遮蔽部材と、
前記アレイセンサの周縁部に沿って設けられ、前記音波について予め設定された音波受信範囲外からの外音の前記アレイセンサによる受信を抑制する第2遮蔽部材とを備え、
前記飛行体は、複数の前記回転翼を有し、
前記アレイセンサは、2つの互いに隣り合った前記回転翼同士の間に配置され、
前記アレイセンサと前記音波受信範囲の方向における前記回転翼の先端部との間の距離のうち、最大の距離[mm]をAとし、前記アレイセンサの水平音波受信範囲角(°)をθとした場合であって、前記最大の距離Aの8割の箇所での前記第1遮蔽部材の幅は、2×(0.8×A)×tan(θ/2)[mm]以上である音波受信装置。
【請求項2】
前記アレイセンサは、前記飛行体の上下方向で前記回転翼と同じ高さもしくは前記回転翼より下側に搭載されており、前記回転翼を含む基準面に対して俯角方向の前記音波受信範囲の下部の角度が50°以下になるように設置されており、
前記飛行体の幅方向で前記第1遮蔽部材の両端部は、前記アレイセンサよりも下側に位置する請求項
1に記載の音波受信装置。
【請求項3】
前記アレイセンサは、前記飛行体の上下方向で前記回転翼と同じ高さもしくは前記回転翼より上側に搭載されており、前記回転翼を含む基準面に対して仰角方向の前記音波受信範囲の上部の角度が50°以下になるように設置されており、
前記飛行体の幅方向で前記第1遮蔽部材の両端部は、前記アレイセンサよりも上側に位置する請求項
1に記載の音波受信装置。
【請求項4】
前記第1遮蔽部材は、前記アレイセンサから前記回転翼の先端部までの間の距離の8割以上の長さを有する請求項1に記載の音波受信装置。
【請求項5】
請求項1ないし
4のいずれか一項に記載の音波受信装置と、
前記アレイセンサによって検知された前記音波に基づいて、前記音波の到来する各方向における音圧を算出し、前記各方向のうち、前記音圧が最大となった方向を前記音波の到来方向として標定する演算部を備える音源方位標定装置。
【請求項6】
前記飛行体に搭載されたカメラをさらに備え、
前記演算部は、前記カメラによって撮影された撮影画像と前記各方向の前記音圧とに基づいて音圧マップを作成し、前記音圧マップと前記撮影画像とを重ね合わせた画像を作成する請求項
5に記載の音源方位標定装置。
【請求項7】
請求項
6の音源方位標定装置を用いて、前記音圧マップを、前記撮影画像に重ね合わせた重ね合わせ画像を生成し、前記重ね合わせ画像に基づいて前記音波の到来方向を標定する音源方位標定方法。
【請求項8】
請求項1ないし
4のいずれか一項に記載の音波受信装置によって検知された前記音波に基づいて、前記音波の到来する各方向における音圧を算出し、前記各方向のうち、前記音圧が最大となった方向を前記音波の到来方向として標定する音源方位標定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音源から発生する音波を受信するマイクロホンが飛行体に搭載された音波受信装置及び音源方位標定装置並び音源方位標定方法に関する。
【0002】
従来、工場敷地内に設置されるガス配管からのガスの漏洩による火災や人的災害を防止するために配管の定期点検が実施されている。架空配管など高所に設置される配管の点検には足場の設置が必要になり、時間やコストがかかる。また、ガス自体が有害物質を含んでおり作業者が近づくことができない場合もある。
【0003】
ガスの漏洩を検知する手法としては、種々の方法が提案されている。例えば、ガスの漏洩時に同時に放出される音波を複数のマイクロホンからなるアレイセンサで検知することで漏洩位置を特定して音圧マップとして表示させる音響式の方法(例えば特許文献1、2参照)、レーザー光を用いる方法(例えば特許文献3参照)、赤外線カメラを用いる方法(例えば特許文献4参照)が知られている。このうち、レーザー式の検知器や赤外線カメラ式の検知器は、対象となるガスの種類によって扱う光の波長域を使い分けて使用される。
【0004】
製鉄所では複数種類のガスを管理している。例えば、高炉ガス(Bガスと称される場合がある。)、転炉ガス(LDガスと称される場合がある。)の成分は水素、酸素、アルゴン、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素などであり、コークス炉ガス(Cガスと称される場合がある。)は上記の成分に、メタンや炭化水素が加わる。その他に、都市ガスではメタン、エタン、プロパン、ブタンなどが成分となり、水素や酸素の配管も存在する。このため、製鉄所ではガス成分に制限されずに漏洩を検知することができる音響式を用いることが好ましい。
【0005】
近年、設備点検に複数の回転翼を持つ、いわゆるマルチコプターと称される無人飛行体が利用されており、遠隔で無人飛行体に搭載したカメラで撮影した画像から構造物等に生じたヒビや腐食などの欠陥を発見することが提案されている。さらに、この無人飛行体にアレイセンサを搭載し、音源方位標定を行う方法が提案されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-203742号公報
【文献】国際公開第2018/056214号
【文献】特開2018-169386号公報
【文献】特表2008-532386号公報
【文献】米国特許出願公開2019/0033422号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献5のように、回転翼を備えた無人飛行体にアレイセンサを搭載して音源の方位を標定する場合、飛行中の回転翼から発生する音波の影響により、音源から発生する音波の測定が妨げられる場合がある。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、飛行体の回転翼で生じる音波ノイズ、およびそれが周囲の構造物に反射した外音の影響を抑制し、精度よく音源の方位を標定することができる音波受信装置及び音源方位標定装置並びに音源方位標定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1] 回転翼を有する飛行体と、前記飛行体に搭載され、かつ、複数のマイクロホンからなるアレイセンサと、前記回転翼と前記アレイセンサとの間に設置され、前記回転翼で生じる音波ノイズによる前記アレイセンサで受信する音波への影響を抑制する第1遮蔽部材と、前記アレイセンサの周縁部に沿って設けられ、前記音波について予め設定された音波受信範囲外からの外音の前記アレイセンサによる受信を抑制する第2遮蔽部材とを備える音波受信装置。
[2] 前記第1遮蔽部材は、吸音性能を有する第1吸音材と、遮音性能を有する第1遮音材とを備え、前記第1吸音材は、前記第1遮音材よりも前記アレイセンサ側に配置される上記の[1]に記載の音波受信装置。
[3] 前記第2遮蔽部材は、吸音性能を有する第2吸音材と、遮音性能を有する第2遮音材とを備え、前記第2吸音材は、前記第2遮音材よりも前記アレイセンサ側に配置される上記の[1]又は[2]に記載の音波受信装置。
[4] 前記第1遮蔽部材と前記第2遮蔽部材とは互いに一体に構成されている上記の[1]ないし[3]のいずれかに記載の音波受信装置。
[5] 前記アレイセンサは、前記飛行体の上下方向で前記回転翼と同じ高さもしくは前記回転翼より下側に搭載されており、前記回転翼を含む基準面に対して俯角方向の前記音波受信範囲の下部の角度が50°以下になるように設置されている上記の[1]ないし[4]のいずれかに記載の音波受信装置。
[6] 前記アレイセンサは、前記飛行体の上下方向で前記回転翼と同じ高さもしくは前記回転翼より上側に搭載されており、前記回転翼を含む基準面に対して仰角方向の前記音波受信範囲の上部の角度が50°以下になるように設置されている上記の[1]ないし[4]のいずれかに記載の音波受信装置。
[7] 前記第1遮蔽部材は、前記アレイセンサから前記回転翼の先端部までの間の距離の8割以上の長さを有する上記の[1]ないし[6]のいずれかに記載の音波受信装置。
[8] 前記飛行体は、複数の前記回転翼を有し、前記アレイセンサは、2つの互いに隣り合った前記回転翼同士の間に配置され、前記アレイセンサと前記音波受信範囲の方向における前記回転翼の先端部との間の距離のうち、最大の距離[mm]をAとし、前記アレイセンサの水平音波受信範囲角(°)をθとした場合であって、前記最大の距離Aの8割の箇所での前記第1遮蔽部材の幅は、2×(0.8×A)×tan(θ/2)[mm]以上である上記の[1]ないし[7]のいずれかに記載の音波受信装置。
[9] 前記飛行体の幅方向で前記第1遮蔽部材の両端部は、前記アレイセンサよりも下側に位置する上記の[1]ないし[5]および[7]ならびに[8]のいずれかに記載の音波受信装置。
[10] 前記飛行体の幅方向で前記第1遮蔽部材の両端部は、前記アレイセンサよりも上側に位置する上記の[1]ないし[4]および[6]ないし[8]のいずれかに記載の音波受信装置。
[11] 上記の[1]ないし[10]のいずれか項に記載の音波受信装置と、前記アレイセンサによって検知された前記音波に基づいて、前記音波の到来する各方向における音圧を算出し、前記各方向のうち、前記音圧が最大となった方向を前記音波の到来方向として標定する演算部を備える音源方位標定装置。
[12] 前記飛行体に搭載されたカメラをさらに備え、前記演算部は、前記カメラによって撮影された撮影画像と前記各方向の前記音圧とに基づいて音圧マップを作成し、前記音圧マップと前記撮影画像とを重ね合わせた画像を作成する上記の[11]に記載の音源方位標定装置。
[13] 上記の[12]の音源方位標定装置を用いて、前記音圧マップを、前記撮影画像に重ね合わせた重ね合わせ画像を生成し、前記重ね合わせ画像に基づいて前記音波の到来方向を標定する音源方位標定方法。
[14] 上記の[1]ないし[10]のいずれかに記載の音波受信装置によって検知された前記音波に基づいて、前記音波の到来する各方向における音圧を算出し、前記各方向のうち、前記音圧が最大となった方向を前記音波の到来方向として標定する音源方位標定方法。
[15] 回転翼を有する飛行体と、前記飛行体に搭載され、かつ、複数のマイクロホンからなるアレイセンサと、前記アレイセンサの周縁部に沿って設けられ、前記アレイセンサで受信する音波について予め設定された受信範囲外からの外音の受信を抑制する第2遮蔽部材とを備え、前記アレイセンサは、前記回転翼を含む基準面(0°)に対して、下方の50°以上90°以下の角度範囲外に配置されている音波受信装置。
[16] 上記の[15]に記載の音波受信装置と、前記アレイセンサによって検知された前記音波に基づいて、前記音波の到来する各方向における音圧を算出し、前記各方向のうち、前記音圧が最大となった方向を前記音波の到来方向として標定する演算部を備えた音源方位標定装置。
[17] 前記飛行体に搭載されたカメラをさらに備え、前記演算部は、前記カメラによって撮影された撮影画像と前記音波の音圧とに基づいて音圧マップを作成し、前記音圧マップと前記撮影画像とを重ね合わせた画像を作成する上記の[16]に記載の音源方位標定装置。
[18] 上記の[17]の音源方位標定装置を用いて、前記音圧マップを、前記撮影画像に重ね合わせた重ね合わせ画像を生成し、前記重ね合わせ画像に基づいて前記音波の到来方向を標定する音源方位標定方法。
[19] 上記の[15]に記載の音波受信装置によって検知された前記音波に基づいて、前記音波の到来する各方向における音圧を算出し、前記各方向のうち、前記音圧が最大となった方向を前記音波の到来方向として標定する音源方位標定方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、音波の到来方向を標定する際、第1遮蔽部材及び第2遮蔽部材を用いて回転翼による音波ノイズと、音波受信装置あるいは音源方位標定装置での設計上、定められた音波受信範囲外から到来する外音(例えば回転翼で生じた回転翼音が周囲の構造物に反射した音)との影響を抑制することができる。具体的には、第1遮蔽部材と第2遮蔽部材とによって、音波受信範囲内の音源音波の伝搬経路中の音場乱れを軽減するとともに回転翼による音波ノイズと回転翼音の反射音等の外音とがアレイセンサの各マイクロホンに入射することを防止もしくは抑制できる。これにより、回転翼を持つ飛行体にアレイセンサを搭載した場合であっても、回転翼音の影響を受け難くすることができる。そのため、アレイセンサでの音波の受信が良好になり、音波の到来方向の標定精度つまり音源の標定精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る音源方位標定装置の一例を示す模式図である。
【
図2】音波受信装置の航行経路の一例を示す模式図である。
【
図3】種々のリーク穴径及び配管圧力に対するリーク音の周波数特性の一例を示すグラフである。
【
図4】音源方位標定装置の一例を示す機能ブロック図である。
【
図5】飛行体の回転翼が発する音波及び衝突防止用音波の周波数スペクトルの一例を示すグラフである。
【
図6】飛行体の回転翼音の指向性を示す模式図である。
【
図7】飛行体の回転翼音の指向性と音波伝搬空間を示す模式図である。
【
図8】種々の回転翼音遮蔽部材の形状の一例を示す模式図である。
【
図10】回転翼音遮蔽部材及び外音遮蔽部材の他の例を示す模式図である。
【
図11】本発明のアレイセンサによって俯角方向を観測する場合における音波受信範囲角と観測俯角との関係を模式的に示す図である。
【
図12】本発明の音波受信装置の他の例を示す模式図である。
【
図13】本発明の音波受信装置のさらに他の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の実施形態に係る音源方位標定装置の一例を示す模式図である。音源方位標定装置1は、音波受信装置5と演算部22と制御部30とを備えている。音波受信装置5は、飛行体10と、飛行体10に搭載されたアレイセンサ21と、回転翼音遮蔽部材40と、外音遮蔽部材50と、飛行体10の動作を制御する飛行制御部31とを備える。なお、
図1には、音波受信装置5を細い実線で囲って記載してある。
【0013】
飛行体10は、例えば従来知られているマルチコプターと同様の構成のものであり、フレーム11と、フレーム11に取り付けられた複数の回転翼12を備えている。回転翼12は図示しないモータに接続されている。また、飛行体10の飛行動作は飛行制御部31によって制御されるように構成されており、飛行制御部31は、
図1に示す例では、オペレータによって操作されるように構成されている。そのため、オペレータが飛行制御部31を操作すると、飛行体10における図示しないバッテリーなどの電源からモータに電力が供給されてモータの回転速度が変更させられる。こうして複数の回転翼12の回転速度が制御されることにより、オペレータが意図する、あるいは、予め設定された所定の航行経路を飛行体10が飛行するようになっている。なお、飛行体10は回転翼12によって揚力および推進力を得るように構成されてもよいし、バルーン等によって揚力を得るとともに回転翼12によって推進力を得るように構成されてもよい。
【0014】
飛行体10は、ここに示す例では、オペレータが飛行制御部31を操作することによって飛行動作が制御されるように構成されているが、これに替えて、自己位置推定(SLAM)技術を用いて自律飛行するように構成されてもよい。飛行体10を自律飛行させる場合には、飛行体10は、例えば、図示しないGPS[Global Positioning System]受信部から取得した位置情報や、図示しないトータルステーションから取得した当該トータルステーションの設置されている基準点からの位置情報を取得する。あるいは、飛行体10は、カメラによって撮影した画像やLiDAR[light detection and ranging]によって取得した対象物(それぞれ図示せず)との距離や方向などの各種の情報を取得する。そして、取得した情報と、予め記憶している地図情報などとに基づいて、飛行体10が現時点で飛行している位置を推定して所定の経路を自律飛行するように構成されていればよい。上述したGPS受信部やカメラ、LiDARなどは、飛行体10に設けられていてもよく、あるいは、飛行体10とは別体品として構成されていてもよい。飛行体10は、要は、取得した当該飛行体10の位置情報に基づいて飛行動作を制御できるように構成されていればよい。
【0015】
図2は飛行体10の航行経路の一例を示す模式図である。
図2に示す例は、具体的には、
図1の音源方位標定装置1を用いて配管Pに形成されたピンホール状のリーク穴(音源)PHからガス漏れが発生しているか否かを検査する場合における飛行体10の航行経路の一例である。例えば、
図2(A)に示す例では、配管Pの長手方向で一方側に配管Pに沿って予め定めた長さだけ、飛行体10を移動させる。その後、前記長手方向での位置を維持しながら、前記長手方向に直交する方向で一方側(
図2(A)では、
図2の上下方向で下側)に向かって飛行体10を移動させる。すなわち、配管Pが水平方向に延びて配置されている場合には、水平方向に予め定めた長さだけ、移動させた後、鉛直方向で一方側に向かって移動させる。なお、配管Pが鉛直方向に延びて配置されている場合には、鉛直方向に予め定めた長さだけ、移動させた後、水平方向で一方側に向かって移動させる。前記長手方向に直交する方向への飛行体10の移動長さは、
図2(A)に示す例では、配管Pの長手方向に沿う移動長さよりも短く設定されている。その後、前記長手方向で他方側に配管Pに沿って予め定めた長さだけ、飛行体10を移動させ、次いで、前記長手方向に直交する方向で一方側に向かって再度、移動させる。こうした移動を繰り返すことによって飛行体10は
図2(A)に示す航行経路あるいは軌跡で飛行し、配管Pの全体に亘ってリークの検査が行われる。
【0016】
また、
図2(B)に示す例では、配管Pの円周方向で一方側に配管Pの外周面に沿って予め定めた長さだけ、飛行体10を移動させ、その後、長手方向で一方側に配管Pに沿って移動させる。配管Pの円周方向に沿う飛行体10の移動長さは、配管Pの全周のうち、半周程度の長さであってよい。また、長手方向に沿う移動長さは、
図2(B)に示す例では、円周方向に沿う移動長さよりも短く設定される。次いで、円周方向で他方側に配管Pの外周面に沿って予め定めた長さだけ、飛行体10を移動させ、その後、長手方向で一方側に配管Pに沿って移動させる。こうした移動を繰り返すことによって飛行体10は
図2(B)に示す航行経路で飛行し、配管Pの全体に亘ってリークの検査が行われる。なお、飛行体10が
図2の上下方向に移動しながら、長手方向に往復する航行経路で飛行することによって、配管Pの全体に亘ってリークの検査を行ってもよい。すなわち、飛行体10の航行経路はジグザグであってもよい。
【0017】
リーク穴PHからガス漏れが発生していれば、そこでリーク音が発生し、音波受信装置5がリーク音を受信することでリークを検出して、音源方位標定装置1によって音源、すなわちリーク箇所の方位が標定される。この際、音波受信装置5の飛行位置と、音波受信装置5に対する音源標定方位とに基づいて、リーク穴PHの位置を特定することができる。なお、飛行体10の航行経路は
図2(A)に示す航行経路と、
図2(B)に示す航行経路とのいずれであってもよい。飛行体10が上昇および下降を多数回、繰り返し行うと、上昇および下降の繰り返し回数が少ない場合と比較して、バッテリーの電力の消費量が大きくなる可能性がある。鉛直方向の飛行体10の移動長さが長い場合も同様に、電力の消費量が大きくなる可能性がある。そのため、飛行体10を飛行させることに起因する電力の消費量を抑制する点で、飛行体10の航行経路としては、上昇および下降の繰り返し回数が少ない、また、鉛直方向の移動長さが短い航行経路を設定することが好ましい。
【0018】
図1の音波受信装置5は、音源から発生する音波を受信するものであり、例えば飛行体10の下側に取り付けられたアレイセンサ21を備える。アレイセンサ21は、複数のマイクロホン21aを備えており、各マイクロホン21aは、可聴音から90kHzの範囲内で音波の音圧を測定し、それぞれ音源から発せられた音波を検知し、検知した音圧に応じた音圧情報(信号)を出力する。本発明の実施形態では、アレイセンサ21は回転翼12より下側に配置されている。そのため、アレイセンサ21は回転翼12を含む平面を基準面とした俯角方向に対し、音波の観測を行うことになる。なお、アレイセンサ21が回転翼12より上側に配置されていてもよい。この場合、アレイセンサ21は回転翼12を含む平面を基準面とした仰角方向を観測することになる。
【0019】
リーク穴PHからガス漏れが発生したときのリーク音の音質すなわち大きさや周波数などは、リーク穴の径と配管圧力によって決まる気体の通過速度によって異なる。
図3は種々のリーク穴径及び配管圧力に対するリーク音の周波数特性の一例を示すグラフである。
図3(A)は、リーク穴径φが0.6mmのときに、配管圧力を0kPa以上100kPa以下の範囲で変化させたときのリーク音の周波数スペクトルを示すグラフである。周波数スペクトルは、例えばリーク音を広帯域マイクロホンで受信した音圧波形を高速フーリエ変換(FFT)することで得られる。
図3(B)は、配管圧力が5kPaのときに、リーク穴径φを0.2mm以上3.0mm以下の範囲で変化させたときのリーク音の周波数スペクトルを示すグラフである。
図3(A)、
図3(B)に示すように、リーク穴径及び配管圧力を変化させると、音波の周波数特性(音圧のピークの位置)が異なるが、20kHz以上90kHz以下の範囲に音圧ピークが存在する。そこで、リーク穴PHの検査を行う場合、マイクロホン21aは、音圧ピークが存在する20kHz以上90kHz以下の範囲に感度を持つことが好ましい。
【0020】
図4は、音源方位標定装置1の一例を示す機能ブロック図である。
図4の音源方位標定装置1は、音波受信装置5、演算部22、制御部30を備える。さらに、演算部22は、本発明の実施形態では、音波受信装置5とは別体品として構成されている。演算部22はアレイセンサ21から出力された音圧情報に基づいて音源の方位を標定するデータ処理部22aと、各種データを格納するデータ格納部22bとを備える。なお、データ処理部22aは、例えばCPU等のハードウェア資源からなり、データ格納部22bに格納されたプログラムやデータを用いて音源方位標定装置1の動作を制御するとともに演算を実行する。データ格納部22bは、例えば、更新記録可能なフラッシュメモリ、内蔵あるいはデータ通信端子で接続されたハードディスク、メモリーカード等の情報記録媒体およびその読み書き装置である。データ格納部22bには種々の機能を実現するためのプログラムや、当該プログラム実行中に使用する情報等が予め格納されている。
【0021】
データ処理部22aは、アレイセンサ21で測定された複数の音圧情報に基づいて、遅延和ビームフォーミング法を用いて音波の想定到来方位毎の音圧分布を示す音圧マップを求める。遅延和ビームフォーミング法とは、複数のマイクロホンで測定される音波の位相差を想定到来方位毎に補正して足し合わせることによって想定到来方位毎の音圧分布、すなわち音圧マップを求める計算手法である。遅延和ビームフォーミング法を用いて算出した音圧マップ内の音圧が最大となる方位が音波の到来方向すなわち音源位置となる。なお、データ処理部22aは、アレイセンサ21で測定された音圧情報に対して、必要な周波数範囲の周波数フィルタ(例えば55kHz±5kHzのバンドパスフィルタ)をかけてから音圧マップを求めるようにしてもよい。
【0022】
さらに、音源方位標定装置1は、カメラ23を備えていてもよい。カメラ23は、配管P等の被検査物を撮影し、得られた撮影画像をデータ処理部22aに出力する。カメラ23は、例えば、CCDセンサまたはCMOSセンサ等のイメージセンサと、レンズとを備えるデジタルカメラであってよい。カメラ23の倍率、視野の広さ等は、所望の音波受信範囲に応じて適宜調節される。データ処理部22aは、カメラ23の視野に応じた所望の音波受信範囲を予め定められた方位分割数に分け、遅延和ビームフォーミング計算を行って音圧マップを求める。なお、カメラ23は飛行体10に搭載されていてよい。あるいは、音源方位標定装置1や飛行体10とは別体品として構成されていてもよい。いずれの場合であっても、カメラ23によって撮影された画像データがデータ処理部22aに入力されるように構成されていればよい。
【0023】
データ処理部22aは、カメラ23の撮影領域に対応した音圧マップを撮影画像に重ね合わせた重ね合わせ画像を作成する機能を備える。データ処理部22aは、例えば、音圧マップを半透明の画像にして撮影画像に重ね合わせることで重ね合わせ画像を作成する。重ね合わせ画像に用いる音圧マップとしては、音圧強度に応じて連続的に異なる色に色分けさえたカラー画像を用いてよい。重ね合わせ画像には、被写体と音圧強度が重ね合わされて表示されるので、使用者が重ね合わせ画像を確認することで、撮影画像中の被写体の位置と音波の音圧分布の対応関係を一目で判別することができる。データ処理部22aは、作成した重ね合わせ画像を無線転送によって、例えば地上に設けられた制御部30へ出力する。
【0024】
なお、本発明の実施形態では、演算部22が、音波受信装置5と別体品として構成されている場合、つまり、地上側に設けられている場合について例示しているが、このような構成に替えて、演算部22は、飛行体10に搭載されていてもよい。要は、音波受信装置5によって得られた音圧情報及び撮影画像などが演算部22に伝達されるように構成されていればよい。演算部22での演算結果が、例えば有線もしくは無線を介して制御部30に転送されるように構成されていればよい。そして、制御部30側において、音圧マップや重ね合わせ画像が生成される。
【0025】
制御部30は、例えば、演算部22が生成した重ね合わせ画像を表示する表示手段32と、音源方位標定装置1の入力手段33とを備える。
【0026】
表示手段32は、例えば、液晶ディスプレイ(LCD)であってよく、データ処理部22aで作成された重ね合わせ画像を表示する。入力手段33は、例えば、プッシュスイッチであってよく、表示手段32の近傍に複数設けられる。オペレータが入力手段を押圧することで、所定の入力信号が演算手段に入力される。プッシュスイッチに替えて、またはプッシュスイッチとともにタッチパネル方式の入力手段33を用いてもよい。入力手段33は、要は、各種の情報を入力できるように構成されていればよい。そして、表示手段32に表示された画像を保存する指示が入力手段33によって入力されると、データ処理部22aはデータ格納部22bに撮影画像および重ね合わせ画像をデータ格納部22bに格納つまり保存する。また、表示手段32、入力手段33として、パーソナルコンピューター(PC)やスマートフォン、タブレット型端末などを使用してもよい。さらに、飛行体10の飛行時にリアルタイムな音圧情報の表示が不要な場合は、表示手段32を備えなくてもよい。
【0027】
なお、上述した実施形態では、音源方位標定装置1がカメラ23を備え、制御部30に表示手段32が設けられている例を示したが、これに限らない。例えば、音源方位標定装置1が、音波の到来方向を標定するだけの装置であれば、音源方位標定装置1がカメラ23を備えなくてよく、制御部30が表示手段32を備えなくてもよい。この場合に音源方位標定装置1のデータ処理部22aは、アレイセンサ21によって測定された音圧情報に対して遅延和ビームフォーミング計算を行って、必要に応じて任意に設定された音波受信範囲内の音圧マップを算出し、音圧が最大となる方向を音波の到来方向として標定する。
【0028】
ここで、本発明の実施形態におけるアレイセンサ21で検出される音波について説明する。飛行体10の飛行中には、回転翼12から音波が発生する。また、機種によっては飛行体10の障害物への接近検知や、飛行高度の測定のためにも音波が使用される。
図5は飛行体10の回転翼12が発する音波の一例に対して、障害物への接近検知や、飛行高度の測定用音波の一例を重ね合わせて示すグラフである。
図5に示すように、回転翼12が発する音波は高周波数になるほど音圧が小さくなる周波数特性をもっている。障害物への接近検知や、飛行高度の測定用音波は、ここに示す例では、40kHz付近に音圧ピークを有している。そのため、この障害物への接近検知や、飛行高度の測定用音波も、音源から発せられた音波をアレイセンサ21によって検出及び方位標定する際のノイズ源となる可能性がある。アレイセンサ21による測定対象あるいは探索対象の音波と、音波受信装置5の発する音波ノイズつまり障害物への接近検知や、飛行高度の測定に用いられる衝突防止用音波、回転翼音との比は、リーク穴径、配管圧力、飛行制御用音波の周波数等によって、測定周波数毎に異なる。そのため、これに合わせて、音源の方位標定を、音圧情報の複数の測定周波数帯に対して行う等、適宜調整して上述した音波ノイズの影響を小さくしてもよい。
【0029】
音波受信装置5の回転翼音は指向性がある。
図6は回転翼音の音圧を15度毎に示した模式図であり、
図7は音波受信装置5の回転翼音の強い領域を示す模式図である。
図7において、回転翼12を含む平面を基準面とし、当該基準面が水平(0°)であって、基準面上で音波受信装置5を中心としたとき、基準面から下方に50°以上90°以下程度の範囲が回転翼音の影響が及ぶ強音波ノイズ範囲NRとなる。
図7の模式図においては、下方のみ作図しているが、上方でも強音波ノイズ範囲NRは同様の角度範囲となる。音波受信装置5の音波受信範囲角内に存在するリーク音がアレイセンサ21に到達するまでの間に、強音波ノイズ範囲NR内を通過すると、強音波ノイズ範囲NR内の空気中の音場の乱れから、リーク音の音圧信号(位相情報)に悪影響が生じる可能性がある。その場合には、方位標定精度の悪化につながる。
【0030】
そこで、
図1の音波受信装置5では、回転翼12とアレイセンサ21との間に回転翼音遮蔽部材40を設けることによって、音源からアレイセンサ21までの音波経路に対して回転翼音が侵入することを防止もしくは抑制している。具体的には、
図7に示すように、回転翼音遮蔽部材40は、上下方向で回転翼12とアレイセンサ21との間に設置され、音波受信装置5における設計上、決まった音波受信範囲から臨む音源と、アレイセンサ21との間の音波経路からなる音波伝播空間SSに対して回転翼音を遮蔽する。これにより、音波伝播空間SSに回転翼音が侵入することによる音場の乱れを防ぎ、精度よく音源方位標定を行うことができる。なお、上記の回転翼音遮蔽部材40が、本発明の実施形態における第1遮蔽部材に相当している。
【0031】
回転翼音遮蔽部材40の形状は、例えば、
図1および
図7に示すように、平板形状であってもよい。
図8(A)ないし(F)は、種々の回転翼音遮蔽部材40の形状の他の例を示す模式図である。
図8(A)ないし(D)に示すように、部分多角筒、部分多角錐台殻であってもよい。あるいは、
図8(E)や、
図8(F)に示すように、円弧形状もしくは部分円錐台殻、部分楕円筒殻、部分楕円台殻であってもよい。回転翼音遮蔽部材40は、要は、アレイセンサ21における回転翼12側を覆うように構成されていればよい。具体的には、本発明の実施形態では、回転翼音遮蔽部材40の幅方向での中央部にアレイセンサ21が配置されており、また、幅方向での回転翼音遮蔽部材40の両端部は前記中央部よりも上下方向で下方に位置している。こうすることにより、回転翼音の回折によるアレイセンサ21への影響を抑制することができる。なお、回転翼音遮蔽部材40が、円筒や、円錐台殻、楕円筒殻、楕円台殻、多角筒、多角錐台殻等の音波伝播空間SSの全周が覆われた形状である場合、その形状によっては,正面方向以外の音波は遮蔽部材内の多重反射などにより減衰してしまう可能性がある。そのため、回転翼音遮蔽部材40の同軸方向に偽標定を発生させることがある。この偽標定の発生を防止するため、アレイセンサ21のすべてのマイクロホン21aにおいて、音波受信装置5の音波伝播空間SS内の周囲10°を除く範囲から到来する音波を遮蔽しない形状とすることが好ましい。
【0032】
回転翼音遮蔽部材40は、例えば、遮音性能を有する遮音材または吸音性能を有する吸音材、もしくはそれらの組み合わせからなっている。遮音材は、例えば樹脂や金属からなり、吸音材は軟質ウレタンや、ポリスチレンフォーム、メラミンフォーム、ゴムスポンジ系、繊維系のグラスウールやホワイトウールからなる。特に、回転翼音遮蔽部材40は、回転翼側の一面40xに遮音材を使用し、リーク音の経路側の他面40yには、反射による偽標定発生を防ぐため、吸音材を使用することが好ましい。なお、上述した回転翼音遮蔽部材40における吸音材が、本発明の実施形態における第1吸音材に相当し、回転翼音遮蔽部材40における遮音材が本発明の実施形態における第1遮音材に相当している。
【0033】
図9は、飛行体の上面の一例を示す模式図である。アレイセンサ21は、強音波ノイズ範囲NRと音波伝播空間SSの交わる空間を小さくするため、任意の回転翼間に配置し、その回転翼間方向を観測することが好ましい。また、音波伝播空間SSに回転翼音が侵入すること、すなわち音波伝播空間SSと強音波ノイズ範囲NRが交わることを防止する目的からすると、回転翼音遮蔽部材40の長さは、音波受信装置5の観測方向に対して、アレイセンサ21から回転翼12の先端部の長さすべてを覆うことが好ましい。しかし、音波伝播空間SSと強音波ノイズ範囲NRとが少しでも交わると急激に方位標定精度が悪化するわけではなく、交わる領域が増加するに従い、徐々に方位標定精度が悪化する。そのため、回転翼音遮蔽部材40の長さは、音波受信装置5の音波受信範囲の方向における、アレイセンサ21から回転翼12の先端部の長さA[mm]の8割以上の長さであることが好ましい。また、音波受信装置5の音波受信範囲の方向で、前記長さA[mm]の8割の箇所での回転翼音遮蔽部材40の幅は、回転翼音遮蔽部材40の長さと同様の理由から、音波受信装置5の水平音波受信範囲角(°)をθとした場合に、2×(0.8×A)×tan(θ/2)以上の幅であることが好ましい。なお、「音波受信装置5の水平音波受信範囲角θ(°)」とは、設計上、定められた水平方向の音波受信範囲の角度である。
【0034】
さらに、音波受信装置5には、回転翼音が飛行体10の周囲の構造物に反射するなどした音波受信範囲角外からアレイセンサ21に到達する音波すなわち外音の遮蔽のために、アレイセンサ21の周縁部に外音遮蔽部材50が設けられる。外音遮蔽部材50は、回転翼音遮蔽部材40と同様、遮音材、あるいは吸音材または、それらの組み合わせからなっている。外音遮蔽部材50は、例えば全円筒あるいは、全円錐台殻、全楕円筒殻、全楕円台殻、全部分多角筒、全多角錐台殻等の形状を成している。なお、上述した外音遮蔽部材50が、本発明の実施形態における第2遮蔽部材に相当している。また、上述した外音遮蔽部材50における吸音材が、本発明の実施形態における第2吸音材に相当し、外音遮蔽部材50における遮音材が本発明の実施形態における第2遮音材に相当している。
【0035】
偽標定を発生させないためには、外音遮蔽部材50も、すべてのアレイセンサ21を構成するマイクロホン21aにおいて、音波受信装置5の音波受信範囲角内の周囲10°を除く範囲から到来する音波を遮蔽しない形状であることが好ましい。
図10は、回転翼音遮蔽部材40及び外音遮蔽部材50の別の一例を示す模式図である。
図10に示すように、回転翼音遮蔽部材40と外音遮蔽部材50とは一体型構成としてもよい。
【0036】
なお、アレイセンサ21が俯角方向を観測する場合、測定対象の音波がアレイセンサ21に到達するまでの経路(音波伝播空間SS)と強音波ノイズ範囲NRとができる限り交わらなくすることが好ましい。
図11はその例を示している。具体的には、
図11に示す基準面と平行な平面に対する音波受信装置5の音波受信範囲角の下部の角度を、50°以下とすることが好ましい。音波受信装置5の音波受信範囲角の下部の角度とは、アレイセンサ21の俯角方向の音波受信範囲角の半分の角度に対して観測俯角を加算したものである。なお、アレイセンサ21が仰角方向を観測する場合も同様であり、音波受信範囲角内のリーク音がアレイセンサ21に到達するまでの経路(音波伝播空間SS)と回転翼音の強い領域とができる限り交わらなくすることが好ましい。具体的には、基準面と平行な平面に対する音波受信装置5の音波受信範囲角の上部の角度を、50°以下とすることが好ましい。音波受信装置5の音波受信範囲角の上部の角度とは、アレイセンサ21の仰角方向の音波受信範囲角の半分の角度に対して観測仰角を加算したものである。なお,50°は俯角あるいは迎角それぞれの方向において、上記のように、基準面から強音波ノイズ範囲NRの境界までの角度を指す。使用する飛行体の強音波ノイズ範囲NRの分布に応じて,50°以外の角度を使用しても良い。
【0037】
上記実施の形態によれば、音波受信装置5の音波受信範囲の音源音波の経路中の音場乱れを軽減できる。これにより、回転翼12を持つ飛行体10にアレイセンサ21を搭載した場合であっても、回転翼音の影響を受け難くすることができる。そのため、アレイセンサでの音波の受信が良好になり、音波の到来方向の標定精度つまり音源の標定精度を向上することができる。
【0038】
なお、本発明の実施形態は、上記実施形態に限定されず、種々の変更を加えることができる。例えば、上記実施の形態において、音源がガスリーク源である場合について例示しているが、ガスリーク源観測に限らず、さまざまな音源の方位標定に適用できる。また、アレイセンサ21を物理的に走査し、観測角度を変更する場合、回転翼音遮蔽部材および外音遮蔽部材はアレイセンサ21と同様に物理的に走査してもよい。
【0039】
また、
図6に示す飛行体10の回転翼音の指向性から、50°以上90°以下の角度範囲外(
図7NRの範囲外)にアレイセンサ21を配置してもよい。この場合、回転翼音遮蔽部材40は必ずしも必要なく、外音遮蔽部材50のみを使用してもよい。また、音波受信装置5、および、後述する
図12に示す音波受信装置100は、強音波ノイズ範囲NRを含まない方向を音波受信装置5,100での音波受信範囲として観測するように構成される。
図12は、その例を示す模式図である。
図12の音波受信装置100において、アレイセンサ21は、アーム101を介して飛行体10に連結されている。アレイセンサ21は50°以上90°以下の角度範囲外つまり、
図7に示す強音波ノイズ範囲NRの範囲外に設置されている。こうしてアレイセンサ21は、強音波ノイズ範囲NRとは逆方向つまり強音波ノイズ範囲NRの外側を観測する。なお、本構成において、回転翼音遮蔽部材40は必ずしも必要ないが、外音遮蔽部材50は必要である。この場合であっても、回転翼音の影響を抑制して精度よく音源の方位を標定することができる。
【0040】
図13は、本発明の音波受信装置のさらに他の例を示す模式図であり、
図14は
図13に示すA矢視図である。
図13および
図14に示す音波受信装置200の例は、飛行体10における前方に配置された回転翼12同士の間隔を、上述した実施形態の飛行体10における前方に配置された回転翼12同士の間隔よりも広く設定した例である。
図13、および、
図14に示すように、回転翼12同士の間隔が広い飛行体10を使用した場合には、飛行体10に近い位置にアレイセンサ21を配置しても、アレイセンサ21の位置は、回転翼音の指向性から50°以上90°以下の角度範囲外(
図7に示す強音波ノイズ範囲NRの外側)となる。この場合であっても、強音波ノイズ範囲NRを含まない方向を観測すれば、回転翼音遮蔽部材40は必ずしも使用しなくとも、外音遮蔽部材50のみの使用で、回転翼音の影響を抑制して精度よく音源の方位を標定することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 音源方位標定装置
5,100,200 音波受信装置
10 飛行体
11 フレーム
12 回転翼
21 アレイセンサ
21a マイクロホン
22 演算部
22a データ処理部
22b データ格納部
23 カメラ
30 制御部
31 飛行制御部
32 表示手段
33 入力手段
40 回転翼音遮蔽部材
50 外音遮蔽部材
101 アーム
【要約】
飛行体の回転翼で生じる音波ノイズ、およびそれが周囲の構造物に反射した外音の影響を抑制し、精度よく音源の方位を標定することができる音波受信装置及び音源方位標定装置並びに音源方位標定方法を提供する。
回転翼12を有する飛行体10と、飛行体10に搭載され、かつ、複数のマイクロホン21aからなるアレイセンサ21と、回転翼12とアレイセンサ21との間に設置され、回転翼12で生じる音波ノイズによるアレイセンサ21で受信する音波への影響を抑制する第1遮蔽部材40と、アレイセンサ21の周縁部に沿って設けられ、音波について予め設定された音波受信範囲外からの外音のアレイセンサ21による受信を抑制する第2遮蔽部材50とを備える。