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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】突入電流抑制装置及びモータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 1/00 20060101AFI20230825BHJP
   H02H 9/02 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
H02J1/00 309R
H02H9/02 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020548027
(86)(22)【出願日】2019-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2019027292
(87)【国際公開番号】W WO2020059262
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2018174385
(32)【優先日】2018-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】坪内 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】磯田 峰明
【審査官】宮田 繁仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-187768(JP,A)
【文献】特開2016-178730(JP,A)
【文献】特開2004-112954(JP,A)
【文献】特開2010-213473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 1/00
H02H 9/02
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源から機械式開閉器を介して流れる突入電流を抑制する突入電流抑制装置であって、
前記機械式開閉器を介して前記直流電源の正側端子に一端が接続される第一のコンデンサと、
前記第一のコンデンサの他端と前記直流電源の負側端子との間で前記第一のコンデンサの他端と前記直流電源の負側端子とに接続される半導体スイッチング素子と、
前記半導体スイッチング素子に並列接続される抵抗素子と、
前記半導体スイッチング素子を制御する制御回路とを備え、
前記制御回路は、第一の出力ポートを有し、前記機械式開閉器の閉路の後、前記第一の出力ポートから前記半導体スイッチング素子にPWM信号を出力することによって、前記半導体スイッチング素子のオン時間及びオフ時間を制御し、
前記第一の出力ポートと前記半導体スイッチング素子との間で前記第一の出力ポートと前記半導体スイッチング素子とに接続される遅延回路をさらに備える突入電流抑制装置。
【請求項2】
前記遅延回路は、前記PWM信号の波形を矩形波状から鋸波状に変換する
請求項に記載の突入電流抑制装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記PWM信号のデューティ比を漸増させる
請求項1に記載の突入電流抑制装置。
【請求項4】
前記制御回路は、所定の時間にわたって前記PWM信号を出力した後、前記半導体スイッチング素子をオン状態に維持するオン信号を出力する
請求項1に記載の突入電流抑制装置。
【請求項5】
一端が前記第一のコンデンサの前記一端に接続されるインダクタと、前記インダクタの他端と、前記第一のコンデンサの前記他端との間に接続される第二のコンデンサとをさらに備える
請求項1に記載の突入電流抑制装置。
【請求項6】
前記半導体スイッチング素子は、電界効果トランジスタである
請求項1に記載の突入電流抑制装置。
【請求項7】
請求項1に記載の突入電流抑制装置と、
前記直流電源から電力が供給されるインバータとを備え、
前記制御回路は、前記インバータを駆動する駆動信号を出力する第二の出力ポートをさらに有する
モータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電源から機械式開閉器を介して流れる突入電流を抑制する突入電流抑制装置及びモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、車載用機器であって、正側及び負側の電源接続端子間にコンデンサを備える機器が用いられている。このような機器のうち、補器バッテリより機械式開閉器を介して電力供給されるものは、機械式開閉器が閉路する際に、コンデンサに流れ込む比較的大きな充電電流、言い換えると、突入電流、が発生する。このような突入電流により機械式開閉器の接点において、溶融などの損傷が生じる場合がある。このため、定格電流の大きな機械式開閉器を使用したり、コンデンサを備える機器に突入電流の電流値を抑制する工夫を施したりするなどの対策が一般的に行われている。コンデンサへの突入電流を抑制する従来技術としては、例えば特許文献1に記載された技術がある。
【0003】
図4は、従来技術の突入電流抑制技術の一例が用いられる電源保護回路の構成を示す回路図である。
【0004】
図4に示されるように、特許文献1に記載された電源保護回路120は、コンデンサ103、抵抗素子104、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)105及び106、ボディダイオード105a及び106a、並びに、駆動制御部121を備える。駆動制御部121は、駆動回路108、制御回路109、及び、DC/DCコンバータ110を有する。なお、図4には、直流電源101、外部スイッチ102及び負荷側回路111も併せて示されている。
【0005】
以下、図4及び図5を用い、電源保護回路120の動作を説明する。図5は、従来技術の電源保護回路120の動作を示すグラフである。図5には、外部スイッチ102の状態、コンデンサ103に流れる電流I3、コンデンサ103に印加される電圧V3、DC/DCコンバータ110の状態、及び、制御回路109の状態と時間との関係が示されている。
【0006】
図4に示される外部スイッチ102が、時刻t1でオン状態に切り替えられると、直流電源101から、コンデンサ103及び抵抗素子104からなる直列回路に電流I3が流れ、コンデンサ103の電圧V3が増大する。続く時刻t2でDC/DCコンバータ110が起動し、制御回路109及び駆動回路108への電力供給が開始される。この時、MOSFET105が導通することで、コンデンサ103の電圧V3がさらに増大する。また、コンデンサ103の電圧V3が直流電源101の電圧に近づくことにより、電流I3は低下する。続く時刻t3には、コンデンサ103の電圧と直流電源101の電圧とが一致するため、電流I3は0になる。
【0007】
以上のように、従来技術では、開閉器である外部スイッチ102がオン状態(閉路)に切り替えられた直後は、抵抗素子104を流れる電流によりコンデンサ103が充電される。その後、DC/DCコンバータ110の起動によりMOSFET105が導通する。しかし、抵抗素子104を流れる電流によりコンデンサ103の予備充電が行われているので、電流I3が過剰に大きくなることなく充電が継続される。このように、外部スイッチ102の閉路により発生する突入電流が抑制されるため、MOSFET105に要求される定格電流を低減できる。
【0008】
しかしながら、MOSFET105は比較的長時間連続通電されるため、許容損失値の比較的大きい、外囲器(いわゆるパワーパッケージ)を有する製品が必要であり、電源保護回路120は、更なる小型化、低コスト化が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2014-187768号公報
【発明の概要】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するもので、小型化及び低コスト化が可能な突入電流抑制装置及びモータ駆動装置を提供することを目的とする。
【0011】
本発明に係る突入電流抑制装置の第1の態様は、直流電源から機械式開閉器を介して流れる突入電流を抑制する突入電流抑制装置であって、機械式開閉器を介して直流電源の正側端子に一端が接続される第一のコンデンサと、第一のコンデンサの他端と直流電源の負側端子との間で第一のコンデンサの他端と直流電源の負側端子とに接続される半導体スイッチング素子と、半導体スイッチング素子に並列接続される抵抗素子と、半導体スイッチング素子を制御する制御回路とを備える。制御回路は、第一の出力ポートを有し、機械式開閉器の閉路の後、第一の出力ポートから半導体スイッチング素子にPWM(Pulse Width Modulation)信号を出力することによって、半導体スイッチング素子のオン時間及びオフ時間を制御する。
【0012】
このように、機械式開閉器の閉路の後に、半導体スイッチング素子をPWM信号によってオンオフ制御することにより、半導体スイッチング素子を介して第一のコンデンサに流れる突入電流のピーク値を抑制できる。また、半導体スイッチング素子における電力損失に伴う温度上昇を抑制できる。したがって、半導体スイッチング素子に要求される定格電流を低減できる。よって、半導体スイッチング素子を小型化及び低コスト化できる。これに伴い、突入電流抑制装置を小型化及び低コスト化できる。
【0013】
また、本発明に係る突入電流抑制装置の第2の態様は、第1の態様において、第一の出力ポートと半導体スイッチング素子との間で第一の出力ポートと半導体スイッチング素子とに接続される遅延回路をさらに備えてもよい。
【0014】
これにより、矩形波状の波形を有するPWM信号の波形を変形させることができる。よって、半導体スイッチング素子のオン時間調整の自由度を高めることができる。したがって、半導体スイッチング素子に流れる突入電流の調整の自由度を高めることができる。
【0015】
また、本発明に係る突入電流抑制装置の第3の態様は、第2の態様において、遅延回路は、PWM信号の波形を矩形波状から鋸波状に変換してもよい。
【0016】
これにより、PWM信号を半導体スイッチング素子に入力する場合より、半導体スイッチング素子のオン時間を短縮できる。したがって、半導体スイッチング素子に流れる突入電流をより一層低減できる。
【0017】
また、本発明に係る突入電流抑制装置の第4の態様は、第1の態様において、制御回路は、PWM信号のデューティ比を漸増させてもよい。
【0018】
突入電流抑制装置の半導体スイッチング素子に突入電流が流れるに伴って、徐々に、第一のコンデンサが充電され、第一のコンデンサに印加される電圧が上昇する。この電圧と直流電源の出力電圧との差が減少するに伴って、突入電流のピーク値が減少する。そこで、制御回路は、PWM信号のデューティ比を漸増させることにより、半導体スイッチング素子のオン時間を漸増させる。これにより、PWM信号の周期毎に流れる突入電流の量をほぼ一定にできる。よって、半導体スイッチング素子の定格電流の範囲内で、最大限の突入電流を流し続けることができる。したがって、第一のコンデンサの充電に要する時間(言い換えると、突入電流抑制装置の起動に要する時間)を低減できる。
【0019】
また、本発明に係る突入電流抑制装置の第5の態様は、第1の態様において、制御回路は、所定の時間にわたってPWM信号を出力した後、半導体スイッチング素子をオン状態に維持するオン信号を出力してもよい。
【0020】
これにより、第一のコンデンサの充電が終了した後に、半導体スイッチング素子をオン状態に維持できる。よって、第一のコンデンサと直流電源との間を導通状態に維持できる。したがって、半導体スイッチング素子によって第一のコンデンサなどの機能が阻害されることを抑制できる。
【0021】
また、本発明に係る突入電流抑制装置の第6の態様は、第1の態様において、一端が第一のコンデンサの一端に接続されるインダクタと、インダクタの他端と、第一のコンデンサの他端との間に接続される第二のコンデンサとをさらに備えてもよい。
【0022】
これにより、π型の高周波フィルタを構成できる。したがって、例えば、マイクロコントローラなどからなる制御回路で発生するクロックノイズなどの高周波ノイズが直流電源側に漏洩することを抑制できる。
【0023】
また、本発明に係る突入電流抑制装置の第7の態様は、第1の態様において、半導体スイッチング素子は、電界効果トランジスタであってよい。
【0024】
また、本発明に係るモータ駆動装置の一態様は、上記突入電流抑制装置と、直流電源から電力が供給されるインバータとを備え、制御回路は、インバータを駆動する駆動信号を出力する第二の出力ポートをさらに有する。
【0025】
本発明により、小型化及び低コスト化が可能な突入電流抑制装置及びモータ駆動装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、実施の形態に係る突入電流抑制装置及びモータ駆動装置の構成を示す回路図である。
図2図2は、実施の形態に係る突入電流抑制装置の特性を示す図である。
図3図3は、図2の一部拡大図である。
図4図4は、従来技術の突入電流抑制技術の一例が用いられる電源保護回路の構成を示す回路図である。
図5図5は、従来技術の電源保護回路の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序等は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、各図は、必ずしも厳密に図示したものではない。各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0028】
(実施の形態)
実施の形態に係る突入電流抑制装置及びモータ駆動装置について説明する。
【0029】
[構成]
本実施の形態に係る突入電流抑制装置及びモータ駆動装置の構成について図1を用いて説明する。図1は、実施の形態に係る突入電流抑制装置10及びモータ駆動装置20の構成を示す回路図である。
【0030】
図1に示されるように、モータ駆動装置20は、突入電流抑制装置10とインバータ11とを備える。図1には、モータ駆動装置20に加えて、モータ駆動装置20に電力を供給する直流電源1と、直流電源1と接続される機械式開閉器2と、モータ駆動装置20が駆動するモータに含まれるモータ巻線13とが示されている。
【0031】
直流電源1は、突入電流抑制装置10及びモータ駆動装置20に直流電力を供給する電源である。直流電源1は、例えば、補器バッテリである。直流電源1の正側端子は機械式開閉器2の一端と接続され、負側端子は接地される。
【0032】
機械式開閉器2は、機械的に導通及び非導通を切り替える開閉器である。機械式開閉器2として、例えば、機械式リレーを用いることができる。
【0033】
モータ巻線13は、例えば、ブラシレスモータなどに用いられる巻線である。
【0034】
突入電流抑制装置10は、直流電源1から機械式開閉器2を介して流れる突入電流を抑制する装置である。突入電流抑制装置10は、第一のコンデンサ3と、半導体スイッチング素子5と、抵抗素子4と、制御回路9とを備える。突入電流抑制装置10は、さらに、遅延回路6と、インダクタ7と、第二のコンデンサ8と、第三のコンデンサ12とを備える。
【0035】
第一のコンデンサ3は、電圧平滑化用の容量素子である。第一のコンデンサ3、インダクタ7及び第二のコンデンサ8はπ型の高周波フィルタを形成する。第一のコンデンサ3は、機械式開閉器2を介して直流電源1の正側端子に一端が接続される。第一のコンデンサ3として、例えば電解コンデンサを用いることができる。第一のコンデンサ3の一端(正側端子)は、機械式開閉器2の他端(直流電源1と接続されていない方の端子)及びインダクタ7の一端に接続される。第一のコンデンサ3の他端(負側端子)は、抵抗素子4の一端、半導体スイッチング素子5のドレイン(D)端子、及び、第二のコンデンサ8の負側端子と接続される。
【0036】
半導体スイッチング素子5は、突入電流を抑制するための素子である。半導体スイッチング素子5は、第一のコンデンサ3の他端と直流電源1の負側端子との間で第一のコンデンサ3の他端と直流電源1の負側端子とに接続される。半導体スイッチング素子5は、MOSFETである。半導体スイッチング素子5は、半導体を用いたスイッチング素子であれば特に限定されない。半導体スイッチング素子5は、例えば、MOSFET以外の電界効果トランジスタ(Field-Effect Transistor、FET)などであってもよい。半導体スイッチング素子5のゲート(G)端子は、制御回路9に接続される。ゲート端子は、遅延回路6を介して、制御回路9の第一の出力ポートT1に接続される。半導体スイッチング素子5のソース(S)端子は、接地される。
【0037】
抵抗素子4は、突入電流を抑制する素子であり、半導体スイッチング素子5に並列接続される。具体的には、抵抗素子4は、半導体スイッチング素子5のドレイン端子とソース端子との間に接続される。抵抗素子4の抵抗値は、例えば、100Ω~1MΩ程度である。
【0038】
制御回路9は、半導体スイッチング素子5を制御する回路である。制御回路9は、第一の出力ポートT1を有する。制御回路9は、機械式開閉器2の閉路の後、第一の出力ポートT1から半導体スイッチング素子5にPWM(Pulse Width Modulation)信号を出力することによって、半導体スイッチング素子5のオン時間及びオフ時間を制御する。制御回路9は、インバータ11を駆動する駆動信号を出力する第二の出力ポートT2をさらに有する。制御回路9は、例えば、マイクロコントローラ(以下マイコンと略記)で実現できる。マイコンは、RAM(Random Access Memory)、プログラムが格納されたROM(Read Only Memory)、プログラムを実行するプロセッサ(Central Processing Unit、CPU)、タイマ、入出力回路などを有する1チップの半導体集積回路である。制御回路9は、マイコン以外の電気回路などで実現されてもよい。制御回路9は、電力入力用の正側端子及び負側端子を有する。制御回路9の正側端子は、機械式開閉器2及びインダクタ7を介して直流電源1の正側端子に接続される。制御回路9の負側端子は、接地される。
【0039】
第三のコンデンサ12は、制御回路9に並列接続される容量素子である。より具体的には、第三のコンデンサ12は、制御回路9の正側端子と負側端子との間に接続される。第三のコンデンサ12は、突入電流抑制装置10の特性を調整するために用いられる。第三のコンデンサ12として、静電容量が0.1μF程度のセラミックコンデンサが用いられる。
【0040】
インダクタ7は、第一のコンデンサ3及び第二のコンデンサ8とともにπ型の高周波フィルタを形成する素子である。インダクタ7の一端が第一のコンデンサ3の一端に接続され、インダクタ7の他端が、第二のコンデンサ8の一端に接続される。
【0041】
第二のコンデンサ8は、第一のコンデンサ3及びインダクタ7とともにπ型の高周波フィルタを形成する。第二のコンデンサ8は、インダクタ7の他端(第一のコンデンサ3が接続される端子の反対側の端子)と、第一のコンデンサ3の他端(機械式開閉器2が接続される正側端子の反対側の端子)との間に接続される。第二のコンデンサ8として、例えば、電解コンデンサが用いられる。第二のコンデンサ8の正側端子及び負側端子は、それぞれ、インダクタ7の他端、及び、第一のコンデンサ3の他端に接続される。
【0042】
遅延回路6は、制御回路9の第一の出力ポートT1と半導体スイッチング素子5との間で第一の出力ポートT1と半導体スイッチング素子5とに接続される。遅延回路6は、第一の出力ポートT1から出力されるPWM信号の波形を変換する回路である。遅延回路6は、PWM信号の波形を矩形波状から鋸波状に変換する。遅延回路6は、第四のコンデンサ15と、抵抗素子14及び16とを有する。第四のコンデンサ15は、一端が半導体スイッチング素子5のゲート端子に接続され、他端が接地される。抵抗素子14は、一端が半導体スイッチング素子5のゲート端子に接続され、他端が制御回路9の第一の出力ポートT1に接続される。抵抗素子16は、一端が半導体スイッチング素子5のゲート端子に接続され、他端が接地される。
【0043】
[動作及び作用]
以上のように構成された突入電流抑制装置10及びモータ駆動装置20の動作及び作用について、図2及び図3を用いて説明する。図2は、実施の形態に係る突入電流抑制装置10の特性を示す図である。図2には、第一のコンデンサ3の正側端子の電圧VG、半導体スイッチング素子5のドレイン端子電圧VD、PWM信号Vpo1、半導体スイッチング素子5のゲート端子電圧VGS、ドレイン電流ID、及び、突入電流ISの時間波形が示されている。図3は、図2の一部拡大図である。図3には、図2に示される破線枠IIIの内部が拡大して示されている。
【0044】
図2に示されるように、最初に、時刻t=t0の初期状態において、機械式開閉器2は、開路(オフ)状態であり、第一のコンデンサ3の正側端子の電圧VGは、0Vである。
【0045】
時刻t=t1に、機械式開閉器2は閉路(オン)され、第一のコンデンサ3の正側端子の電圧VGは、ゼロより大きいVG1となる。半導体スイッチング素子5のドレイン端子電圧VDもVG1へ一旦上昇する。しかしながら、抵抗素子4を介して電流IRが流れることにより、第一のコンデンサ3及び第二のコンデンサ8の充電が開始されるので、ドレイン端子電圧VDは時刻t=t1以降、継続的に低下する。図2に示される突入電流ISは、抵抗素子4に流れる電流IRと半導体スイッチング素子5のドレイン電流IDとの和に相当する。時刻t=t1から後述する時刻t=t2までは、ドレイン電流IDは0であるため、IS=IRである。図2に示されるように、時刻t=t1から時刻t=t2までは、突入電流ISは、継続的に低下する。ここで、抵抗素子4の抵抗値は、十分大きい値に設定されているため、この期間における突入電流ISは十分小さい。
【0046】
時刻t=t1から所定時間経過した時刻t=t2に、制御回路9は、第一の出力ポートT1よりPWM信号Vpo1の出力を開始する。ここで、時刻t=t1から時刻t=t2までの所定時間は、制御回路9の起動に要する時間である。制御回路9は、PWM信号Vpo1のデューティ比を、0%から100%まで時間の経過とともに漸増させる。PWM信号は遅延回路6によって平滑化された後、半導体スイッチング素子5のゲート端子へ入力される。これにより、ゲート端子電圧VGSは、時刻t=t2以降、徐々に上昇する。ゲート端子電圧VGSが、スレッシュホールド電圧Vthに達すると、半導体スイッチング素子5は導通する。半導体スイッチング素子5の導通時の動作について図3を用いて説明する。
【0047】
図3に示されるように、時刻t=t3以前において、例えば、PMW信号Vpo1のパルス幅がtp0のときには、半導体スイッチング素子5のゲート端子電圧VGSの値が、スレッシュホールド電圧Vth未満である。このため、時刻t=t3以前においては、半導体スイッチング素子5は導通せず、ドレイン電流IDは発生していない。
【0048】
時刻t=t3以降、制御回路9の第一の出力ポートT1から出力されるPWM信号Vpo1のパルス幅がtp1のときに、ゲート端子電圧VGSが、Vthに到達する。これに伴い、電流ip1が微小期間tp11だけ発生する。以降、デューティ比が漸増、すなわち、PWM信号のパルス幅がtp2、tp3、tp4、tp5、tp6、tp7と拡大するに従い、ゲート端子電圧VGSが増大する。これに伴い、電流ip2、ip3、ip4、ip5、ip6、ip7というようにパルス状のドレイン電流IDが発生する。通電時間は、tp22、tp33、tp44、tp55、tp66、tp77と拡大する。一方、電流ip2、ip3、ip4、ip5、ip6、ip7のピーク値は低下する。これは、第一のコンデンサ3及び第二のコンデンサ8の充電の進行により、半導体スイッチング素子5のドレイン端子電圧VDが時刻t=t3における電圧値VD3から徐々に低下するためである。
【0049】
以上のような作用により、半導体スイッチング素子5で発生する電力損失は、半導体スイッチング素子5を連続導通状態とする場合、及び、遅延回路6を用いず制御回路9からのPWM信号により直接半導体スイッチング素子5のゲートを駆動する場合に比べ、微小な値に留まる。また、制御回路9がPWM信号のデューティ比を漸増させることにより、半導体スイッチング素子5のオン時間は漸増するが、一方で、ドレイン電流IDのピーク値は漸減する。このため、PWMの周期毎に流れる突入電流の量、及び、突入電流に伴う半導体スイッチング素子5における電力損失をほぼ一定にできる。したがって、半導体スイッチング素子5の定格電流の範囲内で、最大限の突入電流を流し続けることができる。このため、第一のコンデンサ3の充電に要する時間(言い換えると、突入電流抑制装置10の起動に要する時間)を低減できる。
【0050】
時刻t=t4以降では、ドレイン端子電圧VDは0となり、半導体スイッチング素子5が導通しても、第一のコンデンサ3及び第二のコンデンサ8を充電する電流は発生しない。
【0051】
次に、図2に戻り、時刻t=t5に至ると、制御回路9の第一の出力ポートT1から出力されるPWM信号はデューティ比100%、すなわち、DC信号になる。さらに言い換えると、制御回路9は、所定の時間にわたってPWM信号を出力した後、半導体スイッチング素子5をオン状態に維持するオン信号を連続的に出力する。したがって、時刻t=t5以降、半導体スイッチング素子5は、導通状態を維持する。
【0052】
時刻t=t5以降、制御回路9は図示しない外部からの指令に基づき、第二の出力ポートT2からインバータ11へ駆動信号を出力する。これにより、インバータ11は、モータ巻線13へ電力供給を開始する。こうして、モータ駆動装置20は、モータ巻線13を含むモータを駆動できる。
【0053】
上述したように制御回路9及びインバータ11が動作する際、制御回路9のクロックの動作、及び、インバータ11の動作に伴うノイズ(高周波数の微小電圧変動)が発生する。しかしながら、本実施の形態に係る突入電流抑制装置10では、第一のコンデンサ3、第二のコンデンサ8及びインダクタ7で構成されるπ型フィルタにより、直流電源1及びこれにつながる図示しない機器へのノイズの漏洩を抑制できる。
【0054】
以上のように、本実施の形態に係る突入電流抑制装置10は、直流電源1から機械式開閉器2を介して流れる突入電流を抑制する突入電流抑制装置10であって、機械式開閉器を介して直流電源1の正側端子に一端が接続される第一のコンデンサ3と、第一のコンデンサ3の他端と直流電源1の負側端子との間で第一のコンデンサ3の他端と直流電源1の負側端子とに接続される半導体スイッチング素子5と、半導体スイッチング素子5に並列接続される抵抗素子4と、半導体スイッチング素子5を制御する制御回路9とを備える。制御回路9は、第一の出力ポートT1を有し、機械式開閉器2の閉路の後、第一の出力ポートT1から半導体スイッチング素子5にPWM信号を出力することによって、半導体スイッチング素子5のオン時間及びオフ時間を制御する。
【0055】
このように、機械式開閉器2の閉路の後に、半導体スイッチング素子5をPWM信号によってオンオフ制御することにより、半導体スイッチング素子5を介して第一のコンデンサ3に流れる突入電流のピーク値を抑制できる。また、半導体スイッチング素子5における電力損失に伴う温度上昇を抑制できる。よって、半導体スイッチング素子5に要求される定格電流を低減できる。したがって、半導体スイッチング素子5を小型化及び低コスト化できる。これに伴い、突入電流抑制装置10を小型化及び低コスト化できる。具体的には、従来技術では、半導体スイッチング素子として、大型のパワーパッケージを有するMOSFETを用いる必要がある。一方、本実施の形態に係る突入電流抑制装置10においては、半導体スイッチング素子5として、許容損失の小さい小型の小信号外囲器を有するMOSFETなどを用いることが可能となる。
【0056】
また、突入電流抑制装置10は、第一の出力ポートT1と半導体スイッチング素子5との間で第一の出力ポートT1と半導体スイッチング素子5とに接続される遅延回路6を備える。
【0057】
これにより、矩形波状の波形を有するPWM信号の波形を変形させることができる。よって、半導体スイッチング素子5のオン時間調整の自由度を高めることができる。したがって、半導体スイッチング素子5に流れる突入電流の調整の自由度を高めることができる。
【0058】
また、突入電流抑制装置10において、遅延回路6は、図3に示されるように、PWM信号の波形を矩形波状から鋸波状に変換する。
【0059】
これにより、PWM信号を半導体スイッチング素子5に入力する場合より、半導体スイッチング素子5のオン時間を短縮できる。したがって、半導体スイッチング素子5に流れる突入電流をより一層低減できる。
【0060】
また、突入電流抑制装置10において、制御回路9は、PWM信号のデューティ比を漸増させる。
【0061】
上述のとおり、突入電流抑制装置10の半導体スイッチング素子5に突入電流が流れるに伴って、徐々に、第一のコンデンサ3が充電され、第一のコンデンサ3に印加される電圧が上昇する。この電圧と直流電源1の出力電圧との差が減少するに伴って、突入電流のピーク値が減少する。そこで、制御回路9は、PWM信号のデューティ比を漸増させることにより、半導体スイッチング素子5のオン時間を漸増させる。これにより、PWMの周期毎に流れる突入電流の量、及び、突入電流に伴う半導体スイッチング素子5における電力損失をほぼ一定にできる。よって、半導体スイッチング素子5の定格電流の範囲内で、最大限の突入電流を流し続けることができる。したがって、第一のコンデンサ3の充電に要する時間(言い換えると、突入電流抑制装置10の起動に要する時間)を低減できる。
【0062】
また、突入電流抑制装置10において、制御回路9は、所定の時間にわたってPWM信号を出力した後、半導体スイッチング素子5をオン状態に維持するオン信号を出力する。
【0063】
これにより、第一のコンデンサ3の充電が終了した後に、半導体スイッチング素子5をオン状態に維持できる。よって、第一のコンデンサ3と直流電源1との間を導通状態に維持できる。したがって、半導体スイッチング素子5によって第一のコンデンサ3などの機能が阻害されることを抑制できる。
【0064】
また、突入電流抑制装置10は、一端が第一のコンデンサ3の一端に接続されるインダクタ7と、インダクタ7の他端と、第一のコンデンサ3の他端との間に接続される第二のコンデンサ8とを備える。
【0065】
これにより、π型の高周波フィルタを構成できる。したがって、例えば、マイコンなどからなる制御回路9で発生するクロックノイズなどの高周波ノイズが直流電源1側に漏洩することを抑制できる。
【0066】
また、半導体スイッチング素子5は、電界効果トランジスタである。
【0067】
また、モータ駆動装置20は、突入電流抑制装置10と、直流電源1から電力が供給されるインバータ11とを備え、制御回路9は、インバータ11を駆動する駆動信号を出力する第二の出力ポートT2を有する。
【0068】
これにより、突入電流を抑制でき、かつ、小型化及び低コスト化が可能なモータ駆動装置20を実現できる。
【0069】
(変形例など)
以上、実施の形態に係る突入電流抑制装置10及びモータ駆動装置20について説明したが、本発明は、実施の形態に限定されるものではない。
【0070】
例えば、実施の形態に係る突入電流抑制装置10は、遅延回路6を備えたが、遅延回路6は必須の構成要素ではない。例えば、半導体スイッチング素子5に流れる突入電流を十分に抑制できる程度に短いパルス幅のPWM信号を制御回路9が出力できる場合には、突入電流抑制装置10は遅延回路6を備えなくてもよい。
【0071】
また、実施の形態に係る突入電流抑制装置10は、インダクタ7及び第二のコンデンサ8を備えたが、これらの素子は必須の構成要素ではない。例えば、制御回路9などにおけるノイズが小さい場合、及び、直流電源1側に他の機器が接続されていない場合などには、突入電流抑制装置10はこれらの素子を備えなくてもよい。
【0072】
また、実施の形態に係る突入電流抑制装置10では、制御回路9は、半導体スイッチング素子5のオン時間を漸増させたが、オン時間の態様はこれに限定されない。例えば、半導体スイッチング素子5のオン時間は一定でもよい。この場合にも、突入電流を低減する効果を得ることができる。
【0073】
そのほか、実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態、又は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係る突入電流抑制装置及びモータ駆動装置は、ブラシレスモータの駆動装置など直流電源の正負極間に比較的大容量の静電容量値を有するコンデンサを備えたインバータなどの機器に利用できる。本発明に係る突入電流抑制装置及びモータ駆動装置は、車載用機器などのバッテリからリレーなどの機械式開閉器を介して電力供給される機器に、特に、有効である。また、本発明に係る突入電流抑制装置及びモータ駆動装置においては、小信号用のMOSFETを適用可能である。したがって、小型化及び低価格化が求められるモータ駆動装置などにも有用である。
【符号の説明】
【0075】
1 直流電源
2 機械式開閉器
3 第一のコンデンサ
4、14、16 抵抗素子
5 半導体スイッチング素子
6 遅延回路
7 インダクタ
8 第二のコンデンサ
9 制御回路
10 突入電流抑制装置
11 インバータ
12 第三のコンデンサ
13 モータ巻線
15 第四のコンデンサ
20 モータ駆動装置
図1
図2
図3
図4
図5