(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20230825BHJP
【FI】
H01M4/525
(21)【出願番号】P 2020511643
(86)(22)【出願日】2019-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2019007310
(87)【国際公開番号】W WO2019193875
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2018070906
(32)【優先日】2018-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杤尾 孝哉
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 毅
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-022689(JP,A)
【文献】特開2015-125833(JP,A)
【文献】特開2016-110889(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110063(WO,A1)
【文献】特開2016-167446(JP,A)
【文献】特開2004-327309(JP,A)
【文献】特開2016-126935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni及びAl含有リチウム遷移金属酸化物を有し、
前記リチウム遷移金属酸化物中のNiの割合は、Liを除く金属元素の総モル数に対して91モル%以上であり、
前記リチウム遷移金属酸化物は、0.02モル%以上の硫酸イオンを含み、
前記リチウム遷移金属酸化物は、X線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅nが、0.30°≦n≦0.50°であ
り、
前記リチウム遷移金属酸化物は、前記リチウム遷移金属酸化物の粒子表面にSO
4
化合物が付着、または前記リチウム遷移金属酸化物の二次粒子内にSO
4
化合物が取り込まれており、
前記SO
4
化合物は、Al
2
(SO
4
)
3
、Ti(SO
4
)
2
、MnSO
4
、Nb
2
(SO
4
)
3
、Si(SO
4
)
2
、Mo(SO
4
)
3
、Fe
2
(SO
4
)
3
、BaSO
4
、CaSO
4
、CuSO
4
、MgSO
4
、SrSO
4
、ZnSO
4
のうちの少なくとも一つである、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記SO
4
化合物は、Al
2
(SO
4
)
3
、Ti(SO
4
)
2
、MnSO
4
、Nb
2
(SO
4
)
3
、Si(SO
4
)
2
、Mo(SO
4
)
3
のうちの少なくとも一つである、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質を含む正極を備える、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力、高エネルギー密度の二次電池として、正極、負極、及び非水電解質を備え、正極と負極との間でリチウムイオン等を移動させて充放電を行う非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
非水電解質二次電池の正極に用いられる正極活物質としては、例えば、以下のものが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、一般式NiM(OH)2(式中MはNi以外の遷移金属、アルカリ土類金属元素、Al、Ga、In、Siのうち少なくとも1種以上の元素を示す)で表され、かつ単分散の一次粒子であるリチウム遷移金属酸化物を含む正極活物質が開示されている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、一般式Li(1+δ)MnxNiyCo(1-x-y)O2で表され、前記δ、x、yは、それぞれ-0.15<δ<0.15、0.1<x≦0.5、0.5<x+y≦1.0の関係を満足する、リチウム遷移金属酸化物を含む正極活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-70431号公報
【文献】特開2006-202702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、Niの割合がLiを除く金属元素の総モル数に対して91モル%以上であるリチウム遷移金属酸化物を正極活物質として用いると、非水電解質二次電池の高容量化を図ることができる反面、充放電サイクル特性が低下するという問題がある。また、充放電サイクル特性を改善する目的で、Ni以外の金属元素を添加することも考えられるが、他の金属元素を添加しただけでは、充放電時の電荷移動抵抗が増加する場合があり、ひいては電池容量が低下する場合がある。
【0008】
そこで、本開示は、Niの割合がLiを除く金属元素の総モル数に対して91モル%以上であるリチウム遷移金属酸化物を用いた場合において、充放電サイクル特性の低下を抑制すると共に、充放電時の電荷移動抵抗の増加及び電池容量の低下を抑制することが可能な非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質は、Ni及びAl含有リチウム遷移金属酸化物を有し、前記リチウム遷移金属酸化物中のNiの割合は、Liを除く金属元素の総モル数に対して91モル%以上であり、前記リチウム遷移金属酸化物は、0.02モル%以上の硫酸イオンを含み、前記リチウム遷移金属酸化物は、X線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅nが、0.30°≦n≦0.50°であり、前記リチウム遷移金属酸化物は、前記リチウム遷移金属酸化物の粒子表面にSO
4
化合物が付着、または前記リチウム遷移金属酸化物の二次粒子内にSO
4
化合物が取り込まれており、前記SO
4
化合物は、Al
2
(SO
4
)
3
、Ti(SO
4
)
2
、MnSO
4
、Nb
2
(SO
4
)
3
、Si(SO
4
)
2
、Mo(SO
4
)
3
、Fe
2
(SO
4
)
3
、BaSO
4
、CaSO
4
、CuSO
4
、MgSO
4
、SrSO
4
、ZnSO
4
のうちの少なくとも一つであることを特徴とする。
【0010】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、上記非水電解質二次電池用正極活物質を有する正極を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様によれば、充放電サイクル特性の低下を抑制すると共に、充放電時の電荷移動抵抗の増加及び電池容量の低下を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質は、Ni及びAl含有リチウム遷移金属酸化物を有し、前記リチウム遷移金属酸化物中のNiの割合は、Liを除く金属元素の総モル数に対して91モル%以上であり、前記リチウム遷移金属酸化物は、0.02モル%以上の硫酸イオンを含み、前記リチウム遷移金属酸化物は、X線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅nが、0.30°≦n≦0.50°であることを特徴とする。この非水電解質二次電池用正極活物質を用いた場合における、充放電サイクル特性の低下、充放電時の電荷移動抵抗の増加、及び電池容量の低下が抑制される理由としては、十分に明らかでないが、以下のように推定される。
【0013】
Ni及びAl含有リチウム遷移金属酸化物は、例えば、Ni及びAl等の遷移金属層、Li層、酸素層を有する層状構造であり、Li層に存在するLiイオンが可逆的に出入りすることで、電池の充放電反応が進行する。ここで、X線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅は、Li層と遷移金属層間の配列の揺らぎを表す指標であるが、この値が上記所定の範囲にある場合には、Li層と遷移金属層間の配列に適度な揺らぎが生じ、Li層のLiイオンの束縛がある程度緩和された状態になっているため、充放電反応時には、Li層のLiイオンの出入りがスムーズになり、充放電サイクル特性の低下が抑制されると考えられる。また、リチウム遷移金属酸化物に上記所定量の硫酸イオンを含むことで、リチウム遷移金属酸化物の表面が改質されイオン伝導性が特異的に高くなるため、電荷移動抵抗の増加が抑制され、ひいては電池容量の低下が抑制されると考えられる。
【0014】
以下に、本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質を用いた非水電解質二次電池の一例について説明する。
【0015】
実施形態の一例である非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質とを備える。正極と負極との間には、セパレータを設けることが好適である。具体的には、正極及び負極がセパレータを介して巻回されてなる巻回型の電極体と、非水電解質とが外装体に収容された構造を有する。電極体は、巻回型の電極体に限定されず、正極及び負極がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極体など、他の形態の電極体が適用されてもよい。また、非水電解質二次電池の形態としては、特に限定されず、円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型などが例示できる。
【0016】
以下、実施形態の一例である非水電解質二次電池に用いられる正極、負極、非水電解質、セパレータについて詳述する。
【0017】
<正極>
正極は、例えば金属箔等の正極集電体と、正極集電体上に形成された正極活物質層とで構成される。正極集電体には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極活物質層は、例えば、正極活物質、結着材、導電材等を含む。
【0018】
正極は、例えば、正極活物質、結着材、導電材等を含む正極合材スラリーを正極集電体上に塗布・乾燥することによって、正極集電体上に正極活物質層を形成し、当該正極活物質層を圧延することにより得られる。
【0019】
正極活物質は、Ni及びAl含有リチウム遷移金属酸化物を含む。当該リチウム遷移金属酸化物中のリチウムを除く金属元素の総モル数に対するNiの割合は、91モル%以上であり、好ましくは、91モル%~99モル%の範囲であり、より好ましくは91モル%~96モル%の範囲である。なお、Niの割合が91モル%未満であると、そもそも電池の高容量化を図ることが困難である。
【0020】
Ni及びAl含有リチウム遷移金属酸化物中のAlは、例えば、Ni含有リチウム遷移金属酸化物の結晶構造内に均一に分散していてもよいし、結晶構造内の一部に存在していてもよい。また、当該リチウム遷移金属酸化物の製造段階において、結晶構造内に含まれるAlの一部が、当該リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に析出する場合があるが、この析出したAlも、当該リチウム遷移金属酸化物に含まれるAlである。
【0021】
Ni及びAl含有リチウム遷移金属酸化物は、Al以外の元素を含んでいてもよく、例えば、以下の一般式で表される。
LixNiaCobAlcMdO2 (1)
【0022】
上式においてNiの割合を示すaは、x≧0.91であればよいが、0.91≦x≦0.99であることが好ましく、0.91≦x≦0.96であることがより好ましい。上式においてCoの割合を示すbは、充放電サイクル特性の低下抑制等の点で、b<0.06であることが好ましく、0.005≦b≦0.045であることがより好ましい。上式においてAlの割合を示すcは、充放電サイクル特性の低下抑制等の点で、0.03<cであることが好ましく、0.04≦c≦0.06であることがより好ましい。
【0023】
上式のMは、Li、Ni、Al、Co以外の元素であれば特に制限されるものではなく、例えば、Ti、Nb、Mn、Si、Mo、Zr、V、Fe、Mg、Cr、Cu、Sn、Ta、W、Na、K、Ba、Sr、Bi、Be、Zn、Ca及びBから選ばれる少なくとも1種の元素等が挙げられる。これらの中では、充放電サイクル特性の低下抑制等の点で、上式のMは、Ti、Nb、Mn、Si及びMoから選ばれる少なくとも1種の元素が好ましい。上式においてMの割合を示すdは、0≦d≦0.03であることが好ましく、0.005≦d≦0.025であることがより好ましい。
【0024】
上式においてLiの割合を示すxは、電池容量の向上等の点で、0.95≦x≦1.10を満たすことが好ましく、0.97≦x≦1.03を満たすことがより好ましい。
【0025】
Ni及びAl含有リチウム遷移金属酸化物は、硫酸イオンを含む。硫酸イオンは、SO4化合物として当該リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に付着している場合、SO4化合物として当該リチウム遷移金属酸化物の二次粒子内に取り込まれている場合、Ni及びAl含有リチウム遷移金属酸化物の結晶構造内に含まれている場合等、いずれの形態も含まれる。
【0026】
粒子表面に付着している、もしくは二次粒子内に取り込まれているSO4化合物としては、例えば、Al2(SO4)3、Ti(SO4)2、MnSO4、Nb2(SO4)3、Si(SO4)2、Mo(SO4)3、Fe2(SO4)3、BaSO4、CaSO4、CuSO4 、MgSO4、SrSO4 、ZnSO4 等が挙げられる。
【0027】
Ni及びAl含有リチウム遷移金属酸化物に含まれる硫酸イオン含有量は、充放電時の電荷移動抵抗や電池容量の低下を抑制する点で、0.02モル%以上であればよいが、0.02モル%~0.12モル%の範囲が好ましく、0.03~0.1の範囲がより好ましい。ここで、硫酸イオンの含有量は、以下のようにして測定される。
【0028】
Ni及びAl含有リチウム遷移金属酸化物1gを、純水50mLに添加して得られた試料溶液を室温で24時間振とうする。撹拌後の試料溶液を濾過し、濾液を採取する。採取した濾液中の硫酸イオン量をイオンクロマトグラフィーにより測定する。また、Ni及びAl含有リチウム遷移金属酸化物を構成する元素の含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)や電子線マイクロアナライザー(EPMA)、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)等により測定することができる。
【0029】
Ni及びAl含有リチウム遷移金属酸化物において、X線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅nは、充放電サイクル特性の低下を抑制する点で、0.30°≦n≦0.50°であればよいが、好ましくは0.30°≦n≦0.45°である。(208)面の回折ピークの半値幅nが、0.30°未満の場合、上記範囲を満たす場合と比較して、Li層のLiイオンの束縛が強く、充放電サイクル特性が低下する。また、(208)面の回折ピークの半値幅nが、0.50°を超える場合、上記範囲を満たす場合と比較して、Ni含有Li遷移金属酸化物の結晶性が低下し、結晶構造の骨格が脆くなり、充放電サイクル特性が低下する。
【0030】
X線回折パターンは、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、商品名「RINT-TTR」、線源Cu-Kα)を用いて、以下の条件による粉末X線回折法によって得られる。
測定範囲;15-120°
スキャン速度;4°/min
解析範囲;30-120°
バックグラウンド;B-スプライン
プロファイル関数;分割型擬Voigt関数
束縛条件;Li(3a) + Ni(3a)=1
Ni(3a) + Ni(3b)=y
ICSD No.;98-009-4814
【0031】
Ni及びAl含有リチウム遷移金属酸化物の含有量は、例えば、充放電サイクル特性の低下、充放電時の電荷移動抵抗の低下、或いは電池容量の低下を効果的に抑制すること等の点で、非水電解質二次電池用正極活物質の総質量に対して90質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることが好ましい。
【0032】
また、本実施形態の非水電解質二次電池用正極活物質は、Ni及びAl含有リチウム遷移金属酸化物以外に、その他のリチウム遷移金属酸化物を含んでいても良い。その他のリチウム遷移金属酸化物としては、例えば、Ni含有率が0モル%~91モル%未満のリチウム遷移金属酸化物等が挙げられる。
【0033】
Ni及びAl含有リチウム遷移金属酸化物の製造方法の一例について説明する。
【0034】
Ni含有リチウム遷移金属酸化物の製造方法は、例えば、Ni含有化合物、Li化合物、金属元素含有SO4化合物、金属元素含有の非SO4化合物を混合する第1工程と、当該混合物を焼成する第2工程と、を備える。
【0035】
第1工程において用いられるNi含有化合物は、Ni以外にAlやCo等の他の元素を含む複合化合物であってもよく、例えば、Ni等を含む酸化物等が挙げられる。第1工程において用いられるLi化合物は、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム等である。
【0036】
第1工程において用いられる金属元素含有SO4化合物は、Al、Ti、Nb、Mn、Si、Mo、Fe、Ba、Ca、Cu、Mg、Sr、Zn等の金属元素を含有するSO4化合物等であり、例えば、Al2(SO4)3、Ti(SO4)2、MnSO4、Nb2(SO4)3、Si(SO4)2、Mo(SO4)3、Fe2(SO4)3、BaSO4、CaSO4、CuSO4 、MgSO4、SrSO4 、ZnSO4 等が挙げられる。
【0037】
第1工程において用いられる金属元素含有の非SO4化合物は、上記SO4化合物に含まれる金属元素と同じ元素又は異なる元素を含有する化合物であり、例えば、Al、Ti、Nb、Mn、Si、Mo、Fe、Ba、Ca、Cu、Mg、Sr、Zn等の金属元素を含有する水酸化物又は酸化物等が挙げられる。
【0038】
金属元素含有SO4化合物及び金属元素含有の非SO4化合物の両方を添加することで、最終的に得られるNi及びAl含有リチウム遷移金属酸化物における(208)面の回折ピークの半値幅nを上記所定の範囲に制御することが容易となる。なお、Ni及びAl含有リチウム遷移金属酸化物に含まれる硫酸イオン量を上記所定の範囲に制御することだけであれば、Ni含有化合物、Li化合物、金属元素含有SO4化合物を混合して、この混合物を焼成すればよいが、この場合には、最終的に得られるNi及びAl含有リチウム遷移金属酸化物における(208)面の回折ピークの半値幅nを上記所定の範囲に制御することが困難となる。
【0039】
金属元素含有SO4化合物及び金属元素含有の非SO4化合物の混合比は、例えば、1:9~7:3の範囲であることが好ましい。金属元素含有SO4化合物の比率が少なくなると、最終的に得られるNi及びAl含有リチウム遷移金属酸化物に含まれる硫酸イオン量を上記所定の範囲に制御することができない場合があり、金属元素含有SO4化合物の比率が多くなると、最終的に得られるNi及びAl含有リチウム遷移金属酸化物の結晶構造中に存在するLi量が低減し、電池容量の低下が引き起こされる場合がある。
【0040】
第2工程において、第1工程で得られた混合物を所定の温度及び時間で焼成し、本実施形態に係るNi及びAl含有リチウム遷移金属酸化物を得る。第2工程における混合物の焼成は、例えば、500℃~900℃の範囲であることが好ましい。焼成時間は、例えば、6~24時間であることが好ましい。第2工程で得られた混合物の焼成は、酸素気流中で行うことが好ましい。
【0041】
以下に、正極活物質層に含まれるその他の材料について説明する。
【0042】
正極活物質層に含まれる導電材としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素粉末等が挙げられる、これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
正極活物質層に含まれる結着材としては、例えば、フッ素系高分子、ゴム系高分子等が挙げられる。フッ素系高分子としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの変性体等が挙げられ、ゴム系高分子としては、例えば、エチレンープロピレンーイソプレン共重合体、エチレンープロピレンーブタジエン共重合体等が挙げられる。これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
<負極>
負極は、例えば金属箔等の負極集電体と、負極集電体上に形成された負極活物質層とを備える。負極集電体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極活物質層は、例えば、負極活物質、結着材、増粘材等を含む。
【0045】
負極は、例えば、負極活物質、増粘材、結着材を含む負極合材スラリーを負極集電体上に塗布・乾燥することによって、負極集電体上に負極活物質層を形成し、当該負極活物質層を圧延することにより得られる。
【0046】
負極活物質層に含まれる負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な材料であれば特に制限されるものではなく、例えば、炭素材料、リチウムと合金を形成することが可能な金属またはその金属を含む合金化合物等が挙げられる。炭素材料としては、天然黒鉛、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛等のグラファイト類、コークス類等を用いることができ、合金化合物としては、リチウムと合金形成可能な金属を少なくとも1種類含むものが挙げられる。リチウムと合金形成可能な元素としてはケイ素やスズであることが好ましく、これらが酸素と結合した、酸化ケイ素や酸化スズ等も用いることもできる。また、上記炭素材料とケイ素やスズの化合物とを混合したものを用いることができる。上記の他、チタン酸リチウム等の金属リチウムに対する充放電の電位が、炭素材料等より高いものも用いることができる。
【0047】
負極活物質層に含まれる結着材としては、例えば、正極の場合と同様にフッ素系高分子、ゴム系高分子等を用いることもできるが、スチレンーブタジエン共重合体(SBR)又はこの変性体等を用いてもよい。負極活物質層に含まれる結着材としては、正極の場合と同様にフッ素系樹脂、PAN、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等を用いることができる。水系溶媒を用いて負極合材スラリーを調製する場合は、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩(PAA-Na、PAA-K等、また部分中和型の塩であってもよい)、ポリビニルアルコール(PVA)等を用いることが好ましい。
【0048】
負極活物質層に含まれる増粘材としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)等が挙げられる。これらは、1種単独でもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
<非水電解質>
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水電解質は、液体電解質(非水電解液)に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。
【0050】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0051】
上記エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の鎖状エーテル類などが挙げられる。
【0052】
上記ハロゲン置換体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステル等を用いることが好ましい。
【0053】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(P(C2O4)F4)、LiPF6-x(CnF2n+1)x(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li2B4O7、Li(B(C2O4)F2)等のホウ酸塩類、LiN(SO2CF3)2、LiN(C1F2l+1SO2)(CmF2m+1SO2){l,mは0以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPF6を用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、非水溶媒1L当り0.8~1.8molとすることが好ましい。
【0054】
<セパレータ>
セパレータは、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータは、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよく、セパレータの表面にアラミド樹脂等が塗布されたものを用いてもよい。セパレータと正極及び負極の少なくとも一方との界面には、無機物のフィラーを含むフィラー層が形成されてもよい。無機物のフィラーとしては、例えばチタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)の少なくとも1種を含有する酸化物、リン酸化合物またその表面が水酸化物等で処理されているものなどが挙げられる。フィラー層は、例えば当該フィラーを含有するスラリーを正極、負極、又はセパレータの表面に塗布して形成することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
<実施例1>
[正極活物質の作製]
Ni、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.92Co0.03Al0.05O2)と、LiOHと、Ti(SO4)2及びTi(OH)4をモル比3:7で混合した混合物とを、モル比で、100:101:1になるように混合した。当該混合物を酸素気流中にて700℃で20時間焼成し、リチウム遷移金属酸化物を得た。得られたリチウム遷移金属酸化物における硫酸イオン量を測定した結果、0.03モル%であった。また、得られたリチウム遷移金属酸化物のNi、Co、Al及びTiの総モル数に対するNi、Co、Al及びTiの各割合を測定した結果、Niの割合は91モル%、Coの割合は3モル%、Alの割合は5モル%、Tiの割合は1モル%であった。また、得られたリチウム遷移金属酸化物における(208)面の回折ピークの半値幅nは0.44°であった。測定方法は前述した通りである。このリチウム遷移金属酸化物を実施例1の正極活物質とした。
【0057】
<実施例2>
Ti(SO4)2及びTi(OH)4をモル比7:3で混合した混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。当該リチウム遷移金属酸化物における硫酸イオン量は、0.06モル%であり、Niの割合は91モル%、Coの割合は3モル%、Alの割合は5モル%、Tiの割合は1モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅nは0.45°であった。このリチウム遷移金属酸化物を実施例2の正極活物質とした。
【0058】
<実施例3>
Ni、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.92Co0.03Al0.05O2)と、LiOHと、Al2(SO4)3及びTi(OH)4をモル比3:7で混合した混合物とを、モル比で、100:101:1になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。当該リチウム遷移金属酸化物における硫酸イオン量は、0.04モル%であり、Niの割合は91モル%、Coの割合は3モル%、Alの割合は5.3モル%、Tiの割合は0.7モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅nは0.41°であった。このリチウム遷移金属酸化物を実施例3の正極活物質とした。
【0059】
<実施例4>
Al2(SO4)3及びTi(OH)4をモル比7:3で混合した混合物を用いたこと以外は、実施例3と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。当該リチウム遷移金属酸化物における硫酸イオン量は、0.12モル%であり、Niの割合は91モル%、Coの割合は3モル%、Alの割合は5.7モル%、Tiの割合は0.3モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅nは0.39°であった。このリチウム遷移金属酸化物を実施例4の正極活物質とした。
【0060】
<実施例5>
Ni、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.94Co0.015Al0.045O2)と、LiOHと、MnSO4及びAl(OH)3をモル比3:7で混合した混合物とを、モル比で、100:101:1.5になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。当該リチウム遷移金属酸化物における硫酸イオン量は、0.03モル%であり、Niの割合は92.5モル%、Coの割合は1.5モル%、Alの割合は5モル%、Mnの割合は1モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅nは0.33°であった。このリチウム遷移金属酸化物を実施例5の正極活物質とした。
【0061】
<実施例6>
MnSO4及びAl(OH)3をモル比7:3で混合した混合物を用いたこと以外は、実施例5と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。当該リチウム遷移金属酸化物における硫酸イオン量は、0.07モル%であり、Niの割合は92.5モル%、Coの割合は1.5モル%、Alの割合は5.5モル%、Mnの割合は0.5モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅nは0.37°であった。このリチウム遷移金属酸化物を実施例6の正極活物質とした。
【0062】
<実施例7>
Ni、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.94Co0.015Al0.045O2)と、LiOHと、Al2(SO4)3及びLiNbO3をモル比3:7で混合した混合物とを、モル比で、100:101:1.5になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。当該リチウム遷移金属酸化物における硫酸イオン量は、0.04モル%であり、Niの割合は92.5モル%、Coの割合は1.5モル%、Alの割合は5モル%、Nbの割合は1モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅nは0.37°であった。このリチウム遷移金属酸化物を実施例7の正極活物質とした。
【0063】
<実施例8>
Al2(SO4)3及びLiNbO3をモル比7:3で混合した混合物を用いたこと以外は、実施例7と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。当該リチウム遷移金属酸化物における硫酸イオン量は、0.12モル%であり、Niの割合は92.5モル%、Coの割合は1.5モル%、Alの割合は5.5モル%、Nbの割合は0.5モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅nは0.41°であった。このリチウム遷移金属酸化物を実施例8の正極活物質とした。
【0064】
<実施例9>
Ni、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.945Co0.005Al0.050O2)と、LiOHと、Al2(SO4)3及びSiO2をモル比7:3で混合した混合物とを、モル比で、100:101:1になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。当該リチウム遷移金属酸化物における硫酸イオン量は、0.05モル%であり、Niの割合は93.5モル%、Coの割合は0.5モル%、Alの割合は5.7モル%、Siの割合は0.3モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅nは0.34°であった。このリチウム遷移金属酸化物を実施例9の正極活物質とした。
【0065】
<実施例10>
Ni、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.955Co0.005Al0.04O2)と、LiOHと、Al2(SO4)3及びTi(OH)4をモル比1:9で混合した混合物とを、モル比で、100:101:3.5になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。当該リチウム遷移金属酸化物における硫酸イオン量は、0.03モル%であり、Niの割合は92モル%、Coの割合は0.5モル%、Alの割合は4.5モル%、Tiの割合は3モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅nは0.39°であった。このリチウム遷移金属酸化物を実施例10の正極活物質とした。
【0066】
<実施例11>
Ni、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.94Co0.015Al0.045O2)と、LiOHと、Ti(SO4)2及びLiNbO3をモル比7:3で混合した混合物とを、モル比で、100:101:1.5になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。当該リチウム遷移金属酸化物における硫酸イオン量は、0.05モル%であり、Niの割合は93モル%、Coの割合は1.3モル%、Alの割合は4.2モル%、Tiの割合は1モル%、Nbの割合は0.5モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅nは0.34°であった。このリチウム遷移金属酸化物を実施例11の正極活物質とした。
【0067】
<実施例12>
Ni、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.94Co0.015Al0.045O2)と、LiOHと、Ti(SO4)2及びLiNbO3をモル比5:5で混合した混合物とを、モル比で、100:101:1になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。当該リチウム遷移金属酸化物における硫酸イオン量は、0.04モル%であり、Niの割合は93モル%、Coの割合は1.5モル%、Alの割合は4.5モル%、Tiの割合は0.5モル%、Nbの割合は0.5モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅nは0.37°であった。このリチウム遷移金属酸化物を実施例12の正極活物質とした。
【0068】
<実施例13>
Ni及びAlを含む複合酸化物(Ni0.955Al0.045O2)と、LiOHと、Al2(SO4)3及びLi2MoO4をモル比2:8で混合した混合物とを、モル比で、100:101:0.6になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。当該リチウム遷移金属酸化物における硫酸イオン量は、0.03モル%であり、Niの割合は95モル%、Alの割合は4.5モル%、Moの割合は0.5モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅nは0.34°であった。このリチウム遷移金属酸化物を実施例13の正極活物質とした。
【0069】
<実施例14>
Ni、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.94Co0.015Al0.045O2)と、LiOHと、Ti(SO4)2及びLi2MoO4をモル比5:5で混合した混合物とを、モル比で、100:101:1になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。当該リチウム遷移金属酸化物における硫酸イオン量は、0.04モル%であり、Niの割合は93モル%、Coの割合は1.5モル%、Alの割合は4.5モル%、Tiの割合は0.5モル%、Moの割合は0.5モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅nは0.35°であった。このリチウム遷移金属酸化物を実施例14の正極活物質とした。
【0070】
<比較例1>
Ni、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.92Co0.04Al0.04O2)と、LiOHと、Ti(SO4)2とを、モル比で、100:101:1になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。当該リチウム遷移金属酸化物における硫酸イオン量は、0.1モル%であり、Niの割合は91モル%、Coの割合は4モル%、Alの割合は4モル%、Tiの割合は1モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅nは0.25°であった。このリチウム遷移金属酸化物を比較例1の正極活物質とした。
【0071】
<比較例2>
Ni、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.92Co0.03Al0.05O2)と、LiOHと、Al2(SO4)3とを、モル比で、100:101:1になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。当該リチウム遷移金属酸化物における硫酸イオン量は、0.17モル%であり、Niの割合は91モル%、Coの割合は3モル%、Alの割合は6モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅nは0.27°であった。このリチウム遷移金属酸化物を比較例2の正極活物質とした。
【0072】
<比較例3>
Ni、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.935Co0.015Al0.05O2)と、LiOHと、MnSO4とを、質量比で、100:101:1.5になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。当該リチウム遷移金属酸化物における硫酸イオン量は、0.13モル%であり、Niの割合は92モル%、Coの割合は1.5モル%、Alの割合は5モル%、Mnの割合は1.5モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅nは0.28°であった。このリチウム遷移金属酸化物を比較例3の正極活物質とした。
【0073】
<比較例4>
Ni、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.93Co0.03Al0.04O2)と、LiOHとを、モル比で、100:101になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。当該リチウム遷移金属酸化物における硫酸イオン量は0.01モル%であり、Niの割合は93モル%、Coの割合は3モル%、Alの割合は4モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅nは0.23°であった。このリチウム遷移金属酸化物を比較例4の正極活物質とした。
【0074】
<比較例5>
Ni、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.935Co0.01Al0.055O2)と、LiOHと、Alを、モル比で、100:101:1になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にリチウム遷移金属酸化物を作製した。当該リチウム遷移金属酸化物における硫酸イオン量は0.01モル%であり、Niの割合は92.5モル%、Coの割合は1モル%、Alの割合は6.5モル%であり、(208)面の回折ピークの半値幅nは0.28°であった。このリチウム遷移金属酸化物を比較例5の正極活物質とした。
【0075】
[正極の作製]
実施例1の正極活物質を91質量部、導電材としてアセチレンブラックを7質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを2質量部の割合で混合した。当該混合物を混練機(T.K.ハイビスミックス、プライミクス株式会社製)を用いて混練し、正極合材スラリーを調製した。次いで、正極合材スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔に塗布し、塗膜を乾燥してアルミニウム箔に正極活物質層を形成した。これを実施例1の正極とした。その他の実施例及び比較例も同様にして正極を作製した。
【0076】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、3:3:4の体積比で混合した。当該混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1.2モル/リットルの濃度となるように溶解させて、非水電解質を調製した。
【0077】
[試験セルの作製]
実施例1の正極と、リチウム金属箔からなる負極とを、セパレータを介して互いに対向するように積層して、電極体を作製した。次いで、電極体及び上記非水電解質をアルミニウム製の外装体に挿入し、試験セルを作製した。その他の実施例及び比較例も同様にして試験セルを作製した。
【0078】
[充放電サイクル特性における容量維持率の測定]
環境温度25℃の下、各実施例及び各比較例の試験セルを0.2Cの定電流で電池電圧が4.3Vになるまで定電流充電した後、電流値が0.05mAになるまで4.3Vで定電圧充電し、0.2Cの定電流で電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電した。この充放電サイクルを20サイクル行い、以下の式により、各実施例及び各比較例の試験セルの充放電サイクルにおける容量維持率を求めた。この値が高いほど、充放電サイクル特性の低下が抑制されていることを示している。
容量維持率=(20サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
【0079】
[電荷移動抵抗の測定]
上記の充電条件で、各実施例及び各比較例の試験セルを充電した後、10mHz~100kHzの範囲で、交流インピーダンス測定を行い、Cole-Coleプロットを作成した。得られたCole-Coleプロットに現れる略半円の大きさから、電荷移動抵抗を求めた。
【0080】
表1に、各実施例及び各比較例の試験セルの電池容量(1サイクル目の放電容量)、電荷移動抵抗、容量維持率の結果を示す。
【0081】
【0082】
実施例1~14のはいずれも、高い容量維持率及び電池容量を示し、また、低い電荷移動抵抗を示した。一方、比較例1~5は、低い容量維持率を示すもの、低い電池容量を示すもの、或いは高い電荷移動抵抗を示すものであった。この結果から、Ni及びAl含有リチウム遷移金属酸化物を有し、前記リチウム遷移金属酸化物中のNiの割合は、Liを除く金属元素の総モル数に対して91モル%以上であり、前記リチウム遷移金属酸化物は、0.02モル%以上の硫酸イオンを含み、前記リチウム遷移金属酸化物は、X線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅nが、0.30°≦n≦0.50°である正極活物質を用いることで、充放電サイクル特性の低下を抑制すると共に、充放電時の電荷移動抵抗の増加を抑制し、ひいては電池容量の低下を抑制することが可能となる。