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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】予測装置及び予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/30 20060101AFI20230825BHJP
【FI】
G01B11/30 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020551197
(86)(22)【出願日】2019-10-09
(86)【国際出願番号】 JP2019039825
(87)【国際公開番号】W WO2020075756
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2018193786
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】丸山 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】日下 博也
(72)【発明者】
【氏名】今川 太郎
(72)【発明者】
【氏名】野田 晃浩
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/217185(WO,A1)
【文献】特開2007-333521(JP,A)
【文献】国際公開第2017/051554(WO,A1)
【文献】特開平1-291385(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047093(WO,A1)
【文献】特開2013-148550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に生じる亀裂の進展方向を予測するための予測装置であって、
前記対象物の映像を取得する取得部と、
取得した前記映像における複数の領域のそれぞれの変位を導出する導出部と、
前記複数の領域の中から、前記複数の領域のうちの基準領域の変位と類似する変位を有する2以上の領域を選択する選択部と、
選択した前記2以上の領域で構成される集合領域の長手方向を、前記進展方向として特定する特定部と、
を備える、
予測装置。
【請求項2】
前記基準領域は、前記亀裂の先端周辺を含む領域である、
請求項1に記載の予測装置。
【請求項3】
前記基準領域の変位と類似する変位は、前記基準領域の変位との差分が閾値以内の変位である、
請求項1又は2に記載の予測装置。
【請求項4】
前記導出部は、前記映像における一部の範囲を決定し、決定された前記一部の範囲に含まれる前記複数の領域のそれぞれの変位を導出する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の予測装置。
【請求項5】
前記導出部は、前記映像に含まれる2以上の画像から前記複数の領域のそれぞれの変位を導出する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の予測装置。
【請求項6】
さらに、前記複数の領域のそれぞれの変位に対して、前記映像を撮像する撮像部からの距離に応じて、前記複数の領域のそれぞれにおいて実際に変位した距離の比率が反映されるようにスケール補正を行うスケール補正部を備え、
前記選択部は、スケール補正された前記複数の領域のそれぞれの変位を用いて、前記2以上の領域を選択する、
請求項1~5のいずれか一項に記載の予測装置。
【請求項7】
対象物に生じる亀裂の進展方向を予測する予測方法であって、
前記対象物の映像を取得する取得ステップと、
取得した前記映像における複数の領域のそれぞれの変位を導出する導出ステップと、
前記複数の領域の中から、前記複数の領域のうちの基準領域の変位と類似する変位を有する2以上の領域を選択する選択ステップと、
選択した前記2以上の領域で構成される集合領域の長手方向を、前記進展方向として特定する特定ステップと、
を有する、
予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象物に生じる亀裂の進展方向を予測する予測装置及び予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物の外観を調査する技術として、例えば、特許文献1には、構造物の時系列画像から画像相関演算を用いて変位を遠隔から非接触で算出する技術が開示されている。
【0003】
また、複数の計測点について算出した変位を微分することにより、構造物のひずみ及び応力を求め、応力から主応力の方向を求めることにより、亀裂の進展方向を予測できることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-176806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、構造物の時系列画像から画像相関演算を用いて変位を算出するため、カメラノイズなどに起因する誤差の影響を受けやすい。このため、画像相関演算を用いて算出した変位を微分し、求めた応力を用いて主応力を算出するという、従来技術の組み合わせによる方法では、亀裂の進展方向を精度良く求めることができないという課題があった。
【0006】
そこで、本開示では、対象物に生じる亀裂の進展方向を精度良く予測できる予測装置及び予測方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る予測装置は、対象物に生じる亀裂の進展方向を予測するための予測装置であって、前記対象物の映像を取得する取得部と、取得した前記映像における複数の領域のそれぞれの変位を導出する導出部と、前記複数の領域の中から、前記複数の領域のうちの基準領域の変位と類似する変位を有する2以上の領域を選択する選択部と、選択した前記2以上の領域で構成される集合領域の長手方向を、前記進展方向として特定する特定部と、を備える。
【0008】
なお、上記の包括的又は具体的な態様は、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラム又はコンピュータで読み取り可能な記録ディスクなどの記録媒体で実現されてもよく、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。コンピュータで読み取り可能な記録媒体は、例えば、CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)等の不揮発性の記録媒体を含む。本開示の一態様の付加的な恩恵及び有利な点は、本明細書及び図面から明らかとなる。この恩恵及び/又は有利な点は、本明細書及び図面に開示した様々な態様及び特徴により個別に提供され得るものであり、その一以上を得るために全てが必要ではない。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る予測装置及び予測方法によれば、対象物に生じる亀裂の進展方向を精度良く予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態1における予測システムの構成の一例を示す概略図である。
図2図2は、実施の形態1に係る予測装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図3図3は、実施の形態1に係る予測装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図4図4は、図3に示すステップS40に含まれる処理の詳細なフローを示すフローチャートである。
図5図5は、撮像された映像における複数の領域から基準領域を決定する一例を示す図である。
図6図6は、図5に示す基準領域の変位と類似する変位を有する2以上の領域を選択する一例を示す図である。
図7図7は、図6に示す集合領域の長手方向を示す図である。
図8図8は、亀裂の進展方向を示す図である。
図9図9は、実施の形態2に係る予測装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図10図10は、実施の形態2に係る予測装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図11図11は、図10に示すステップS41に含まれる処理の詳細なフローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本開示の概要)
本開示の一態様に係る予測装置は、対象物に生じる亀裂の進展方向を予測するための予測装置であって、前記対象物の映像を取得する取得部と、取得した前記映像における複数の領域のそれぞれの変位を導出する導出部と、前記複数の領域の中から、前記複数の領域のうちの基準領域の変位と類似する変位を有する2以上の領域を選択する選択部と、選択した前記2以上の領域で構成される集合領域の長手方向を、前記進展方向として特定する特定部と、を備える。
【0012】
これにより、対象物における亀裂の進展し得る方向を求める場合に、例えば、ひずみ値の算出式などを用いる必要がない。そのため、映像に起因するノイズなどの影響があっても、誤差の影響を低減することができる。したがって、本開示の一態様に係る予測装置によれば、対象物に生じる亀裂の進展方向を精度良く予測できる。
【0013】
例えば、本開示の一態様に係る予測装置では、前記基準領域は、前記亀裂の先端周辺を含む領域であってもよい。
【0014】
これにより、対象物に既に亀裂が生じている場合について、本開示の一態様に係る予測装置は、亀裂が進展し得る方向を予測することができる。
【0015】
例えば、本開示の一態様に係る予測装置では、前記基準領域の変位と類似する変位は、前記基準領域の変位との差分が閾値以内の変位であってもよい。
【0016】
これにより、基準領域の変位と類似度の高い領域が選択される。
【0017】
例えば、本開示の一態様に係る予測装置では、前記導出部は、前記映像における一部の範囲を決定し、決定された前記一部の範囲に含まれる前記複数の領域のそれぞれの変位を導出してもよい。
【0018】
これにより、処理量が減少するため、予測装置に掛かる負担が低減され、予測装置の処理速度が向上される。
【0019】
例えば、本開示の一態様に係る予測装置では、前記導出部は、前記映像に含まれる2以上の画像から前記複数の領域のそれぞれの変位を導出してもよい。
【0020】
これにより、時間的に異なる2以上の画像を用いて、複数の領域のそれぞれの変位を適切に導出することができる。
【0021】
例えば、本開示の一態様に係る予測装置は、さらに、前記複数の領域のそれぞれの変位に対して、前記映像を撮像する撮像部からの距離に応じて、前記複数の領域のそれぞれにおいて実際に変位した距離の比率が反映されるようにスケール補正を行うスケール補正部を備え、前記選択部は、スケール補正された前記複数の領域のそれぞれの変位を用いて、前記2以上の領域を選択してもよい。
【0022】
これにより、複数の領域のそれぞれの変位を、より精度良く導出することができる。また、補正された変位を利用するため、本開示の一態様に係る予測装置は、亀裂の進展方向をより精度良く特定することができる。
【0023】
また、本開示の一態様に係る予測方法は、対象物に生じる亀裂の進展方向を予測する予測方法であって、前記対象物の映像を取得する取得ステップと、取得した前記映像における複数の領域のそれぞれの変位を導出する導出ステップと、前記複数の領域の中から、前記複数の領域のうちの基準領域の変位と類似する変位を有する2以上の領域を選択する選択ステップと、選択した前記2以上の領域で構成される集合領域の長手方向を、前記進展方向として特定する特定ステップと、を有する。
【0024】
これにより、対象物における亀裂の進展し得る方向を求める場合に、例えば、ひずみ値の算出式などを用いる必要がない。そのため、映像に起因するノイズなどの影響があっても、誤差の影響を低減することができる。したがって、本開示の一態様に係る予測方法によれば、対象物に生じる亀裂の進展方向を精度よく予測できる。
【0025】
なお、上記の包括的又は具体的な態様はシステム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム又はコンピュータで読み取り可能な記録ディスク等の記録媒体で実現されてもよく、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。コンピュータで読み取り可能な記録媒体は、例えばCD-ROM等の不揮発性の記録媒体を含む。
【0026】
以下、本開示の実施の形態に係る予測装置及び予測方法について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0027】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ(工程)、ステップの順序等は、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、以下の実施の形態の説明において、略平行、略直交のような「略」を伴った表現が、用いられる場合がある。例えば、略平行とは、完全に平行であることを意味するだけでなく、実質的に平行である、すなわち、例えば数%程度の差異を含むことも意味する。他の「略」を伴った表現についても同様である。また、以下の実施の形態の説明は、主要な部分が同じであること、あるいは、2つの要素が共通の性質を有することなどを意味する。また、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。さらに、各図において、実質的に同一の構成要素に対しては、同一の符号を付しており、重複する説明は、省略又は簡略化される場合がある。
【0028】
(実施の形態1)
[1-1.予測システムの概要]
まず、実施の形態1における予測システムの概要について、図1を参照しながら具体的に説明する。図1は、実施の形態1における予測システム300の構成の一例を示す概略図である。
【0029】
予測システム300は、対象物2に生じる亀裂4の進展方向を予測するためのシステムであり、予測装置100と、撮像装置200と、を備える。
【0030】
撮像装置200は、例えば、イメージセンサを備えるデジタルビデオカメラ又はデジタルスチルカメラである。撮像装置200は、対象物2の映像を撮像する。より具体的には、撮像装置200は、亀裂4が生じた領域又は亀裂4が生じ得る領域を含む映像を撮像する。亀裂4が生じた領域又は今後亀裂4が生じ得ると想定される領域(以下、亀裂4が生じ得る領域ともいう。)は、目視検査、打音検査、又は、ひずみセンサなどのセンサを用いた検査を行うことにより特定されてもよく、エッジ検出などの画像解析を行うことにより特定されてもよい。
【0031】
対象物2は、例えば、建物、橋梁、トンネル、道路、ダム、堤防、又は、防音壁などの構造物である。対象物2は、例えば、鉄鋼などの金属、コンクリート、プラスチックなどの樹脂、ガラス、又は、木材などで構成される。なお、対象物2は、上記の例に限られず、亀裂が生じ得るものであればよく、例えば、飛行機、自動車、及び、列車などの部品、装置の部品、又は、家具などであってもよい。
【0032】
予測装置100は、対象物2に生じる亀裂の進展方向を予測するための装置である。予測装置100は、例えばコンピュータであり、プロセッサ(不図示)と、ソフトウェアプログラム又はインストラクションが格納されたメモリ(不図示)と、を備える。プロセッサがソフトウェアプログラムを実行することによって、予測装置100は、後述する複数の機能を実現する。また、予測装置100は、専用の電子回路(不図示)で構成されてもよい。この場合、後述する複数の機能は、別々の電子回路で実現されてもよいし、集積された1つの電子回路で実現されてもよい。
【0033】
予測装置100は、撮像装置200と、例えば、通信可能に接続される。予測装置100は、撮像装置200によって撮像された対象物2の映像を取得して、取得した映像における複数の領域のそれぞれの変位を導出し、複数の領域の中から、複数の領域のうちの基準領域の変位と類似する変位を有する2以上の領域を選択し、選択した2以上の領域で構成される集合領域の長手方向を、亀裂の進展方向として特定する。具体的な亀裂の進展方向の特定方法については、後述する。
【0034】
なお、映像における複数の領域のそれぞれは、1画素に対応する領域であってもよく、複数画素に対応する領域であってもよい。また、変位は、移動方向及び移動距離を表す空間的な変化量であり、例えば、動きを示す動きベクトルである。ここでの移動距離は、実際に移動した距離ではなく、実際に移動した距離に対応する値である。例えば、移動距離は、実際に移動した距離に対応する、各領域における画素数である。予測装置100は、各領域の変位として、例えば、各領域の動きベクトルを導出してもよい。この場合、予測装置100は、例えば、ブロックマッチング法を利用して、各領域の動き推定を行うことで、各領域の動きベクトルを導出する。
【0035】
複数の領域のそれぞれの変位が導出されると、予測装置100は、例えば、映像における複数の領域の中から基準領域を決定し、基準領域の変位と類似する変位を有する2以上の領域を選択する。例えば、予測装置100は、基準領域の変位と複数の領域のそれぞれの領域の変位との差分を取り、当該差分が閾値以内である領域を選択することにより、基準領域の変位と類似する変位を有する2以上の領域を選択する。選択された当該2以上の領域は、集合領域を構成する。ここで、隣接する2つの領域間の変位の差分は、微分値となるため、ひずみを表し、また、ひずみは応力に比例する。そのため、隣接する2つの領域の変位の差分を取ることにより、それらの2つの領域の間に生じるひずみが算出される。集合領域では、各領域間の差分は、ゼロから閾値以内の値であり、非常に小さい。言い換えると、集合領域は、各領域間に生じるひずみが非常に小さい領域、つまり、ひずみが最小の領域を表している。また、応力とひずみとは比例関係にあるため、ひずみが小さければ、応力も小さい。そのため、集合領域は、各領域間に作用する応力が非常に小さい領域、つまり、応力が最小の領域を表しており、最小主応力の分布を示す領域を表す。なお、亀裂4は、最も大きな応力が働く方向に対して垂直な方向、つまり、応力が最も小さい方向に進展する。つまり、亀裂4が進展する方向は、ひずみが最も小さい方向であり、隣接する2つの領域間の変位の差分が最も小さい方向である。なお、最も小さいとは、最小値であってもよく、最小値を含む所定の範囲内の値であってもよい。この方向は、基準領域の変位に類似する変位を有する集合領域の長手方向に対応する。そのため、予測装置100は、集合領域の長手方向を、亀裂4の進展方向として特定することにより、亀裂4が進展し得る方向(以下、亀裂4の進展方向ともいう。)を予測する。
【0036】
なお、基準領域は、亀裂4の先端周辺を含む領域、もしくは今後亀裂が発生し得ると想定される領域である。亀裂4の先端周辺を含む領域は、例えば、亀裂4の先端に隣接する領域である。また、亀裂4は、対象物2の表面に生じた亀裂であってもよく、対象物2の内部に生じた亀裂であってもよい。つまり、亀裂4は、目視で確認できるものに限られない。
【0037】
なお、亀裂4が発生し得る領域は、例えば、対象物2における複数の領域のうち、隣接する2つの領域間の変位の差分が変化する領域から推定される。亀裂4が生じた領域又は亀裂4が生じ得る領域を検出する方法については、後述する。
【0038】
また、基準領域の変位と類似する変位は、基準領域の変位との差分が閾値以内の変位である。閾値については、後述する。
【0039】
[1-2.予測装置の構成]
続いて、実施の形態1に係る予測装置100の機能構成について説明する。図2は、実施の形態1に係る予測装置100の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0040】
図2に示すように、予測装置100は、取得部10と、導出部20と、選択部40と、特定部50と、を備える。
【0041】
取得部10は、対象物2の映像を取得する。なお、亀裂4の進展方向を特定する精度を向上させる観点から、当該映像は、対象物2に外部負荷が付加されている期間と、その前後の対象物に外部負荷が付加されていない期間の少なくとも一方と、を含む映像であってもよい。言い換えると、取得部10により取得される映像は、対象物2に付加される外部負荷が変化しているときに撮像された映像であってもよい。例えば、対象物2が鋼板である場合、鋼板に振動を与えることにより、鋼板が微小に振動しているときに撮像された映像である。例えば、対象物2が橋梁である場合、取得部10により取得される映像は、列車又は車などの車両が橋梁を通過しているときに撮像された映像である。また、例えば、対象物2が建物の壁面、柱、又は、床面などである場合、取得部10により取得される映像は、建物の壁面、柱、又は、床面などの対象物2に外力を付加することにより当該対象物2を振動させているときに撮像された映像である。
【0042】
なお、取得部10は、例えば、撮像装置200から無線通信によって対象物2の映像を取得する。また、例えば、取得部10は、脱着可能なメモリ、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリを介して撮像装置200から映像を取得してもよい。
【0043】
導出部20は、取得した映像における複数の領域のそれぞれの変位を導出する。例えば、導出部20は、映像における一部の範囲を決定し、決定された一部の範囲に含まれる複数の領域のそれぞれの変位を導出する。映像における一部の範囲は、少なくとも基準領域を含む。変位の導出方法は、例えば、ブロックマッチング法、正規化相関法(Normalized Cross Correlation)、及び、位相相関法(Phase Correlation)などの相関法、サンプリングモアレ法、特徴点抽出法(例えば、エッジ抽出)、又は、レーザスペックル相関法などを用いてもよい。変位導出の精度は、ピクセル単位でもサブピクセル単位でもよい。ここでの変位は、映像上の変位であってもよい。
【0044】
選択部40は、複数の領域の中から、複数の領域のうちの基準領域の変位と類似する変位を有する2以上の領域を選択する。導出部20によって複数の領域のそれぞれの変位が導出されると、選択部40は、例えば、映像における複数の領域の中から基準領域を決定し、基準領域の変位と類似する変位を有する2以上の領域を選択する。上述したように、基準領域は、亀裂4の先端周辺を含む領域、もしくは今後亀裂4が発生し得ると想定される領域であり、例えば、亀裂4の先端に隣接する領域である。また、基準領域の変位と類似する変位は、基準領域の変位との差分が閾値以内の変位である。ここで、選択部40が選択した2以上の領域で構成される集合領域は、基準領域の変位に最も類似する2以上の領域で構成されてもよく、基準領域の変位との類似度に応じて、類似度別に選択された2以上の領域で構成されてもよい。基準領域の変位に最も類似する2以上の領域を選択する場合、閾値は、基準領域の変位に非常に近い値である。また、閾値は、対象物2を構成する材料によって異なる係数を乗じた値を用いてもよい。また、閾値は、基準領域の変位に所定の係数を乗じた値を基準値として、プラス側及びマイナス側に同じ値の幅を持つように設定されてもよい。変位が動きを示す動きベクトルで表される場合、閾値は、動きベクトルの座標(x,y)の構成要素毎に設定され得る。
【0045】
特定部50は、選択部40が選択した2以上の領域で構成される集合領域の長手方向を、亀裂4の進展方向として特定する。
【0046】
[1-3.予測装置の動作]
次いで、実施の形態1に係る予測装置100の動作の一例について、図3及び図4を参照しながら説明する。図3は、実施の形態1に係る予測装置100の動作の一例を示すフローチャートである。なお、予測システム300の動作としては、図3に示す取得ステップS10の前に、撮像装置200が対象物2の映像を撮像する撮像ステップが含まれる。撮像ステップでは、撮像装置200は、例えば、対象物2に付加される外部負荷が変化しているときに対象物2の映像を撮像する。これにより、導出部20は、取得部10が取得した映像に基づいて、対象物2に外部負荷が付加される前の変位と、対象物2に外部負荷が付加されている期間の変位と、を導出することができる。そのため、対象物2が微小に動いている場合の誤差、及び、撮像装置200のぶれによる誤差などが変位の導出に与える影響を低減することができる。
【0047】
なお、対象物2の映像は、撮像装置200によって対象物2の複数の箇所のそれぞれが同期撮像された映像であってもよい。この場合、予測装置100は、取得した複数の映像のうち、亀裂4の先端周辺を含む領域を含む映像を選択し、選択した映像に基づいて、亀裂4の進展方向を予測する。
【0048】
なお、対象物2の映像は、亀裂4の先端周辺を含む領域を含む、対象物2の所定の箇所が撮像された映像であってもよい。この場合、予測装置100は、取得した映像に基づいて、亀裂4の進展方向を予測することができる。
【0049】
なお、亀裂4の先端周辺を含む領域、例えば、亀裂4の先端に隣接する領域は、上述したとおり、ユーザが目視検査、打音検査、又は、ひずみセンサなどのセンサを用いた検査を行うことにより特定されてもよく、特徴点抽出法(例えば、エッジ抽出)などの画像解析を行い亀裂4を検出することによって特定されてもよい。
【0050】
図3に示すように、取得部10は、対象物2の映像を取得する(取得ステップS10)。予測装置100は、撮像装置200から逐次映像を取得してもよいし、所定の期間撮像した映像を取得してもよい。なお、予測装置100は、撮像装置200による対象物2の撮像が終了した後に、対象物2の複数の映像を撮像装置200から取得してもよい。取得部10による映像の取得方法については、特に限定されない。上述したように、取得部10は、撮像装置200から、無線通信によって映像を取得してもよく、USBメモリなどの脱着可能なメモリを介して映像を取得してもよい。
【0051】
次いで、導出部20は、取得ステップS10で取得部10が取得した映像における複数の領域のそれぞれの変位を導出する(導出ステップS20)。なお、変位の導出方法については、上述したため、ここでの説明を省略する。
【0052】
導出部20は、当該映像における複数の領域の全ての領域について、複数の領域のそれぞれの変位を導出してもよく、映像における一部の範囲を決定し、決定された一部の範囲に含まれる複数の領域のそれぞれの変位を導出してもよい。例えば、変位が動きを示す動きベクトルである場合、各領域における動きベクトルは、各領域の画像と、例えば、1フレーム前の画像とを比較することで算出される。より具体的には、導出部20は、領域毎に切り出した画像を移動させつつ、1フレーム前の画像と比較し、画像同士の類似度が高い位置を、その領域の動きベクトルとする。このようにして、導出部20は、複数の領域のそれぞれの変位を導出し、導出された変位と領域とを対応付けたデータを、記憶部(不図示)に格納する。
【0053】
導出部20は、取得部10が取得した映像から、例えば、特徴点抽出法(例えば、エッジ抽出)などの画像解析を用いて亀裂4を検出することにより亀裂4が生じた領域を特定し、当該領域を含むように、映像における一部の範囲を決定してもよい。また、目視検査や打音検査などにより亀裂4が生じ得る領域を推定し、当該領域を含むように、映像における一部の範囲を決定してもよい。
【0054】
なお、映像における一部の範囲は、予測装置100のユーザが映像における一部の範囲を選択することにより決定されてもよい。
【0055】
次いで、選択部40は、複数の領域の中から、複数の領域のうちの基準領域の変位と類似する変位を有する2以上の領域を選択する(選択ステップS40)。基準領域は、亀裂4の先端周辺を含む領域である。ここでは、選択部40の動作の例について説明する。選択部40は、例えば、導出部20が記憶部(不図示)に格納した、導出された変位と領域とを対応付けたデータを記憶部から読み出し、読み出された当該データから、基準領域の変位と類似する変位を有する領域のデータを選択し、選択したデータを記憶部に格納する。これにより、基準領域の変位との差分が閾値以内である変位を有する領域が選択される。上述したとおり、変位の差分は、微分値となるため、ひずみを表し、また、ひずみは応力に比例する。そのため、選択された領域は、応力及びひずみが最も小さい領域を表している。なお、選択ステップS40の詳細については、図4を参照して後述する。
【0056】
次いで、特定部50は、選択ステップS40で選択部40が選択した2以上の領域で構成される集合領域の長手方向を、亀裂4の進展方向として特定する(特定ステップS50)。特定部50は、例えば、基準領域の変位と類似する変位を有する領域のデータを記憶部(不図示)から読み出し、読み出したデータに基づいて、集合領域の長手方向を導出する。上述したように、集合領域は、ひずみが最小の領域であり、かつ、最小主応力の分布を示す領域である。亀裂4は、最も大きな応力が働く方向と垂直な方向、つまり、応力が最も小さい方向に進展する。つまり、亀裂4が進展する方向は、ひずみが最も小さい方向であり、隣接する2つの領域間の変位の差分が最も小さい方向である。この方向は、集合領域の長手方向に対応する。そのため、特定部50は、集合領域の長手方向を、亀裂4の進展方向と特定する。
【0057】
ここで、選択ステップS40について、図4を参照して、より具体的に説明する。
【0058】
選択ステップS40では、選択部40は、複数の領域の中から基準領域を決定し(ステップS42)、複数の領域の各領域について、各領域の変位と基準領域の変位との差分が閾値以内であるか否かを判定する(ステップS44)。閾値については、上述したため、ここでの説明を省略する。
【0059】
複数の領域のうち、ある領域について、当該領域の変位と基準領域の変位との差分が閾値以内である場合(ステップS44でYES)、当該領域を、基準領域の変位と類似する変位を有する領域であると判定する(ステップS46)。この場合、選択部40は、例えば、当該領域にフラグを付して、記憶部(不図示)に格納する。なお、記憶部(不図示)は、選択部40とは別の構成として予測装置100に備えられてもよい。一方、複数の領域のうち、ある領域について、当該領域の変位と基準領域の変位との差分が閾値以内でない場合(ステップS44でNO)、選択部40は、ステップS46の処理を実施しない。
【0060】
選択部40は、複数の領域の全ての領域について、ステップS44及びステップS46の処理を実施した後、つまり、領域毎のループ処理が終了した後、基準領域の変位と類似する変位を有する領域であると判定された2以上の領域を選択する(ステップS48)。このとき、選択部40は、ステップS46で記憶部に格納された領域のデータを記憶部(不図示)から読み出し、読み出したデータから基準領域の変位と類似する変位を有する領域であると判定された2以上の領域を選択し、当該2以上の領域から構成される集合領域を映像上に反映させてもよい。
【0061】
なお、図4では、領域毎の処理ループは、1回で終了する例を示したが、例えば、基準領域の変位との類似度に応じて複数の閾値を設け、基準領域の変位との類似度に応じて複数の領域を分類してもよい。例えば、基準領域の変位との類似度が高い閾値(例えば、第1閾値とする。)で各領域について当該処理ループを実行した後に、基準領域の変位との差分が第1の閾値以内でないと判定された(ステップS44でNO)領域について、基準領域の変位との類似度が次に高い閾値(例えば、第2閾値とする。)で当該処理ループを実行する。このように、基準領域の変位との類似度に応じて複数の領域を複数の集合領域に分けることができ、対象物2における亀裂4の進展方向をより的確に予測することができる。
【0062】
以上のように、予測装置100は、撮像された対象物2の映像を取得し、取得した映像における複数の領域のそれぞれの変位を導出し、複数の領域の中から、複数の領域のうちの基準領域の変位と類似する変位を有する2以上の領域を選択し、選択した2以上の領域で構成される集合領域の長手方向を、対象物2に生じる亀裂4の進展方向として特定することにより、亀裂4の進展方向を予測する。
【0063】
なお、選択ステップS40の処理は、必ずしも導出ステップS20の処理の後に行われる必要はない。選択ステップS40の処理は、例えば、導出ステップS20の処理と並行に行われてもよい。
【0064】
また、特定ステップS50の処理は、必ずしも選択ステップS40の処理の後に行われる必要はない。特定ステップS50の処理は、例えば、選択ステップS40の処理と並行に行われてもよい。
【0065】
[1-4.実施例]
続いて、実施の形態1に係る予測装置100を用いた亀裂4の進展方向の予測方法について、実施例を挙げて、より具体的に説明する。
【0066】
予測装置100は、例えば、エッジ検出などの画像解析技術を用いて、撮像装置200(図1参照)により撮像された映像から、対象物2に生じた亀裂4(図1参照)を検出する。検出された亀裂4は、映像における複数の領域のうち、亀裂4の一部を含む領域として識別される。
【0067】
なお、対象物2に生じた亀裂4は、予測装置100が対象物2の映像を取得する前に検出されてもよく、予測装置100が対象物2の映像を取得した後に検出されてもよい。それぞれの場合の詳細については、上述したため、ここでの説明を省略する。
【0068】
図5は、撮影された映像における複数の領域から基準領域を決定する一例を示す図である。予測装置100は、映像における複数の領域から基準領域を決定し、基準領域が含まれるように、映像における一部の範囲を決定する。基準領域は、図5に示す白枠の領域である。基準領域は、亀裂4の先端周辺を含む領域、もしくは今後亀裂が発生し得ると想定される領域である。ここでは、基準領域は、亀裂4の先端に隣接する領域である。
【0069】
予測装置100は、映像における一部の範囲における複数の領域のそれぞれの変位を導出し、導出された変位と領域とを対応付けたデータを、記憶部(不図示)に格納する。
【0070】
次いで、図6は、図5に示す基準領域の変位と類似する変位を有する2以上の領域を選択する一例を示す図である。ここでは、基準領域の変位との類似度に応じて複数の閾値を設け、基準領域の変位との類似度に応じて複数の領域を分類する例について説明する。
【0071】
図4で説明したとおり、予測装置100は、各領域について、基準領域の変位との類似度が高い第1閾値で、ステップS44~S46に示す処理ループを実行した後に、基準領域との差分が第1の閾値以内でないと判定された(ステップS44でNO)領域について、基準領域の変位との類似度が次に高い第2閾値でステップS44~S46に示す処理ループを実行する。これにより、映像における複数の領域は、図6に示すように、基準領域の変位との類似度に応じて、複数の集合領域に分類される。基準領域の変位との類似度が高い領域は白で表され、基準領域の変位との類似度が低くなるにつれて黒に近付く。したがって、図6に示す白色の領域が、基準領域の変位と類似する変位を有する領域で構成される集合領域である。
【0072】
図7は、図6に示す集合領域の長手方向aを示す図である。図8は、亀裂の進展方向bを示す図である。上述したように、集合領域は、最小主応力を有する領域である。そのため、図7に示す集合領域の長手方向aは、最小主応力の方向を表している。この最小主応力の方向は、図8に示す矢印bと一致する。
【0073】
図8に示すφは、亀裂4の先端を基準とした場合の最大主ひずみ角である。亀裂4の先端には、最大主ひずみ角φの方向に最大主応力が働く。この最大主ひずみ角φと垂直な方向、つまり、矢印bの方向に、最小主応力が働く。上述したように、亀裂4は、最小主応力が働く方向に進展する。そのため、図8に示す矢印bは、図7に示す集合領域の長手方向aと一致する。
【0074】
以上のように、予測装置100は、ひずみ値の算出式を用いることなく、集合領域の長手方向を、亀裂4の進展方向と特定することにより、亀裂4の進展方向を予測することができる。予測装置100を用いれば、ひずみ値の算出式を用いることなく、最小主応力の方向を特定することができるため、誤差の増大を抑制することができる。そのため、実施の形態1によれば、対象物2に生じる亀裂4の進展方向を精度良く予測することができる。
【0075】
[1-5.効果等]
以上のように、実施の形態1に係る予測装置100は、対象物2に生じる亀裂4の進展方向を予測するための予測装置であって、対象物2の映像を取得する取得部10と、取得した映像における複数の領域のそれぞれの変位を導出する導出部20と、複数の領域の中から、複数の領域のうちの基準領域の変位と類似する変位を有する2以上の領域を選択する選択部40と、選択した2以上の領域で構成される集合領域の長手方向を、進展方向として特定する特定部50と、を備える。
【0076】
また、実施の形態1に係る予測方法は、対象物に生じる亀裂の進展方向を予測する予測方法であって、対象物の映像を取得する取得ステップS10と、取得した映像における複数の領域のそれぞれの変位を導出する導出ステップS20と、複数の領域の中から、複数の領域のうちの基準領域の変位と類似する変位を有する2以上の領域を選択する選択ステップS40と、選択した2以上の領域で構成される集合領域の長手方向を、進展方向として特定する特定ステップS50と、を有する。
【0077】
これにより、対象物2における亀裂4の進展し得る方向を求める場合に、例えば、ひずみ値の算出式などを用いる必要がない。そのため、映像に起因するノイズなどの影響があっても、誤差の影響を低減することができる。したがって、予測装置100によれば、対象物2に生じる亀裂4の進展方向を精度よく予測できる。
【0078】
例えば、実施の形態1に係る予測装置100では、基準領域は、亀裂4の先端周辺を含む領域である。
【0079】
これにより、対象物2に既に亀裂4が生じている場合、予測装置100は、亀裂4が進展し得る方向を予測することができる。
【0080】
例えば、実施の形態1に係る予測装置100では、基準領域の変位と類似する変位は、基準領域の変位との差分が閾値以内の変位である。
【0081】
これにより、基準領域の変位と類似度の高い領域が選択される。
【0082】
例えば、実施の形態1に係る予測装置100では、導出部20は、映像における一部の範囲を決定し、決定された一部の範囲に含まれる複数の領域のそれぞれの変位を導出してもよい。
【0083】
これにより、処理量が減少するため、予測装置100に掛かる負担が低減され、予測装置の処理速度が向上される。
【0084】
実施の形態1に係る予測装置100では、導出部20は、映像に含まれる2以上の画像から複数の領域のそれぞれの変位を導出する。
【0085】
これにより、時間的に異なる2以上の画像を用いて、複数の領域のそれぞれの変位を適切に導出することができる。
【0086】
(実施の形態2)
[2-1.予測装置の構成]
続いて、実施の形態2に係る予測装置について、図9を参照しながら説明する。図9は、実施の形態2に係る予測装置100の機能構成の一例を示すブロック図である。実施の形態2に係る予測装置100は、さらに、スケール補正部30を備え、特定部50がスケール補正部30によって補正された複数の領域のそれぞれの変位を利用する点で、実施の形態1に係る予測装置100と異なる。以下、実施の形態1と異なる点を中心に、実施の形態2に係る予測装置100について説明する。
【0087】
図9に示すように、実施の形態2に係る予測装置100は、取得部10と、導出部20と、選択部40と、特定部50と、に加え、スケール補正部30を備える。スケール補正部30は、複数の領域のそれぞれの変位を、映像を撮像する撮像部、ここでは、撮像装置200(図1参照)からの距離に応じて補正する。
【0088】
例えば、スケール補正部30は、撮像映像上の変位と実空間上の変位との比率が、撮像装置200の撮像位置から複数の領域のそれぞれの領域までの実空間距離の違いによって生じる場合は、必要に応じて、この比率が等しくなるようにスケール補正を行う。このスケール補正は、導出された変位に対して行ってもよく、撮像映像に対して行ってもよい。
【0089】
選択部40は、スケール補正部30によって補正された複数の領域のそれぞれの変位を利用して、複数の領域の中から、複数の領域のうちの基準領域の変位と類似する変位を有する2以上の領域を選択する。
【0090】
[2-2.予測装置の動作]
次いで、予測装置100の動作の一例について、図10を参照しながら説明する。図10は、実施の形態2に係る予測装置100の動作の一例を示すフローチャートである。なお、実施の形態1と同様に、予測システム300の動作としては、図10に示す取得ステップS10の前に、撮像装置200が対象物2の映像を撮像する撮像ステップが含まれる。撮像ステップでは、対象物2が微小に動いているときの映像が撮像される。以下、実施の形態1と異なる点を中心に、実施の形態2に係る予測装置100の動作について説明する。
【0091】
図10に示すように、取得部10は、対象物2の映像を取得する(取得ステップS10)。次いで、導出部20は、取得ステップS10で取得部10が取得した映像における複数の領域のそれぞれの変位を導出する(導出ステップS20)。
【0092】
次いで、スケール補正部30は、複数の領域のそれぞれの変位に対して、映像を撮像する撮像装置200からの距離に応じて、複数の領域のそれぞれにおいて実際に変位した距離の比率が反映されるようにスケール補正を行う(スケール補正ステップS30)。より具体的には、スケール補正部30は、導出部20によって導出された複数の領域それぞれについての変位の情報、例えば、実空間上の座標を、記憶部(不図示)から読み出し、読み出された実空間上の座標を用いて、複数の領域において実際に変位した距離の比率が反映されるように、スケール補正を行う。なお、スケール補正部30は、撮像映像上の変位と実空間上の変位との比率が、撮像装置200の撮像位置から複数の領域のうちのある領域までの実空間における距離の違いによって生じる場合に、必要に応じて、この比率が等しくなるようにスケール補正を行ってもよい。
【0093】
次いで、選択部40は、スケール補正部30によって補正された複数の領域のそれぞれの変位を利用して、複数の領域の中から、複数の領域のうちの基準領域の変位と類似する変位を有する2以上の領域を選択する(選択ステップS41)。なお、実施の形態2では、スケール補正された変位を利用する点で、実施の形態1と異なるが、その他の点において、選択部40における処理フローは、実施の形態1と同様である。選択ステップS41の詳細については、図11を参照して後述する。
【0094】
次いで、特定部50は、選択ステップS41で選択部40が選択した2以上の領域で構成される集合領域の長手方向を、亀裂4の進展方向として特定する(特定ステップS50)。
【0095】
ここで、選択ステップS41について、図11を参照して、より具体的に説明する。
【0096】
選択ステップS41では、選択部40は、スケール補正された複数の領域の中から基準領域を決定し(ステップS43)、複数の領域の各領域について、各領域の変位が基準領域の変位との差分が閾値以内であるか否かを判定する(ステップS44)。より具体的には、選択部40は、基準領域の変位と複数の領域のそれぞれの領域の変位との差分を取り、当該差分が閾値以内であるか否かを判定する。
【0097】
複数の領域のうち、ある領域の変位が基準領域の変位との差分が閾値以内である場合(ステップS44でYES)、当該領域を、基準領域の変位と類似する変位を有する領域であると判定する(ステップS46)。一方、複数の領域のうち、ある領域の変位が基準領域の変位との差分が閾値以内でない場合(ステップS44でNO)、選択部40は、ステップS46の処理を実施しない。
【0098】
選択部40は、複数の領域の全ての領域について、ステップS44及びステップS46の処理を実施した後、つまり、領域毎のループ処理が終了した後、基準領域の変位と類似する変位を有する領域であると判定された2以上の領域を選択する(ステップS48)。このとき、選択部40は、ステップS46で記憶部に格納された領域のデータを記憶部から読み出し、読み出したデータから基準領域の変位と類似する変位を有する領域であると判定された2以上の領域を選択し、当該2以上の領域から構成される集合領域を映像上に反映させてもよい。
【0099】
なお、図11では、領域毎の処理ループは、1回で終了する例を示したが、例えば、基準領域の変位との類似度に応じて複数の閾値を設け、基準領域の変位との類似度に応じて複数の領域を分類してもよい。具体的には、実施の形態1にて説明した内容と同様であるため、ここでの説明を省略する。
【0100】
以上のように、実施の形態2に係る予測装置100は、撮像された対象物2の映像を取得し、取得した映像における複数の領域のそれぞれの変位を導出し、複数の領域のそれぞれの変位に対して、映像を撮像する撮像部からの距離に応じて、複数の領域のそれぞれにおいて実際に変位した距離の比率が反映されるようにスケール補正を行い、複数の領域の中から、複数の領域のうちの基準領域の変位と類似する変位を有する2以上の領域を選択し、選択した2以上の領域で構成される集合領域の長手方向を、対象物2に生じる亀裂4の進展方向として特定することにより、亀裂4の進展方向を予測する。
【0101】
なお、スケール補正ステップS30の処理は、必ずしも導出ステップS20の処理の後に行われる必要はない。スケール補正ステップS30の処理は、例えば、導出ステップS20の処理と並行に行われてもよい。
【0102】
また、選択ステップS41の処理は、必ずしも導出ステップS20の処理の後に行われる必要はない。選択ステップS41の処理は、例えば、導出ステップS20の処理と並行に行われてもよい。
【0103】
また、特定ステップS50の処理は、必ずしも選択ステップS41の処理の後に行われる必要はない。特定ステップS50の処理は、例えば、選択ステップS41の処理と並行に行われてもよい。
【0104】
[2-3.効果等]
以上のように、実施の形態2に係る予測装置100は、さらに、複数の領域のそれぞれの変位に対して、映像を撮像する撮像部(例えば、図1に示す撮像装置200)からの距離に応じて、複数の領域のそれぞれにおいて実際に変位した距離の比率が反映されるようにスケール補正を行うスケール補正部30を備え、選択部40は、スケール補正された複数の領域のそれぞれの変位を用いて、2以上の領域を選択する。
【0105】
これにより、複数の領域のそれぞれの変位を、より精度良く導出することができる。また、補正された変位を利用するため、亀裂4の進展方向をより精度良く特定することができる。
【0106】
(他の実施の形態)
以上、本開示の1つ又は複数の態様に係る予測装置及び予測方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構成される形態も、本開示の1つ又は複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【0107】
例えば、上記実施の形態における予測システムでは1台の撮像装置で構成する場合を説明したが、2台以上の複数の撮像装置を用いて構成してもよい。これにより、複数の撮像された映像を取得できるため、SfM(Structure from Motion)などの3次元再構成技術を用いて、対象物の3次元形状を精度良く計測することができる。このため、亀裂の進展方向をより精度良く特定することができる。
【0108】
また、例えば、上記実施の形態における予測装置が備える構成要素の一部又は全部は、1個のシステムLSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)から構成されているとしてもよい。例えば、予測装置は、取得部と、導出部と、特定部と、を有するシステムLSIから構成されてもよい。
【0109】
システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを含んで構成されるコンピュータシステムである。ROMには、コンピュータプログラムが記憶されている。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムに従って動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。
【0110】
なお、ここでは、システムLSIとしたが、集積度の違いにより、IC、LSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。また、集積回路化の手法は、LSIに限るものではなく、専用回路又は汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)、あるいは、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用してもよい。
【0111】
さらには、半導体技術の進歩又は派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。バイオ技術の適用等が可能性としてあり得る。
【0112】
また、本開示の一態様は、このような予測装置だけではなく、予測装置に含まれる特徴的な構成部をステップとする予測方法であってもよい。また、本開示の一態様は、予測方法に含まれる特徴的な各ステップをコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであってもよい。また、本開示の一態様は、そのようなコンピュータプログラムが記録された、コンピュータで読み取り可能な非一時的な記録媒体であってもよい。
【0113】
なお、上記各実施の形態において、各構成要素は、専用のハードウェアで構成されるか、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。各構成要素は、CPU又はプロセッサなどのプログラム実行部が、ハードディスク又は半導体メモリなどの記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。ここで、上記実施の形態の予測装置などを実現するソフトウェアは、次のようなプログラムである。
【0114】
すなわち、このプログラムは、コンピュータに、対象物に生じる亀裂の進展方向を予測する予測方法であって、前記対象物の映像を取得する取得ステップと、取得した前記映像における複数の領域のそれぞれの変位を導出する導出ステップと、前記複数の領域の中から、前記複数の領域のうちの基準領域の変位と類似する変位を有する2以上の領域を選択する選択ステップと、選択した前記2以上の領域で構成される集合領域の長手方向を、前記進展方向として特定する特定ステップと、を有する予測方法を実行させる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本開示は、対象物に生じた亀裂又は対象物に生じ得る亀裂の進展方向を予測する予測装置に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0116】
2 対象物
4 亀裂
10 取得部
20 導出部
30 スケール補正部
40 選択部
50 特定部
100 予測装置
200 撮像装置
300 予測システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11