(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】経口用抗アレルギー剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/739 20060101AFI20230825BHJP
A61K 31/336 20060101ALI20230825BHJP
A61P 27/14 20060101ALI20230825BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230825BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20230825BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
A61K31/739
A61K31/336
A61P27/14
A61P37/02
A61P37/08
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2019008551
(22)【出願日】2019-01-22
【審査請求日】2022-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2018008458
(32)【優先日】2018-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(73)【特許権者】
【識別番号】505271219
【氏名又は名称】株式会社ロジック
(73)【特許権者】
【識別番号】508098394
【氏名又は名称】自然免疫応用技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 隆司
(72)【発明者】
【氏名】野口 秀人
(72)【発明者】
【氏名】河内 千恵
【審査官】篭島 福太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-084518(JP,A)
【文献】特開2009-108022(JP,A)
【文献】特開2012-254959(JP,A)
【文献】特開2013-129627(JP,A)
【文献】生化学,2009年,第81巻, 第3号,p.209-217
【文献】アレルギー,2004年,第53巻, 第3号, p.469-475
【文献】オレオサイエンス,2012年,第12巻, 第10号,p.509-514
【文献】Clin Exp Allergy.,2017年,Vol.47, No.12,p.1574-1585
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/739
A61K 31/336
A61P 27/14
A61P 37/02
A61P 37/08
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フコキサンチ
ン又はその塩、
及びリポ多
糖を有効成分とする経口用抗アレルギー剤。
【請求項2】
前記アレルギーが、I型アレルギー及び/又はIV型アレルギーである、請求項1に記載の抗アレルギー剤。
【請求項3】
前記アレルギーが、アレルギー性鼻炎、花粉症、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性気管支喘息、食物アレルギー、蕁麻疹、及び接触性皮膚炎からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の抗アレルギー剤。
【請求項4】
フコキサンチ
ン又はその塩、
及びリポ多
糖を有効成分とするTh2抑制及びTreg活性化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GATA3発現抑制効果とFoxp3陽性発現促進効果を併せ持つ、経口用抗アレルギー剤、Th2抑制及びTreg活性化剤並びにGATA3発現抑制用外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎は、アレルギー反応と関連があるものの内、皮膚の炎症(湿疹等)を伴うもので過敏症の一種であり、角層の異常に起因する皮膚の乾燥とバリア機能異常という皮膚の生理学的異常を伴い、多彩な非特異的刺激反応及び特異的アレルギー反応が関与し生じる。
【0003】
アトピー性皮膚炎は、遺伝的素因、環境暴露及び免疫学的機構の複雑な相互作用によって発症すると考えられている。そして、アトピー性皮膚炎は、その病原性機構が明確になっていないので、その治療は、コルチコステロイド、カルシニューリン阻害剤のような抗炎症性局所用薬物の塗布に限定されている。しかし、これらの化合物は、アトピー性皮膚炎の発症を完全に抑制することはできないので、アトピー性皮膚炎の満足な治療法は、未だ確立されていない。
【0004】
フコキサンチン(fucoxanthin)(以下、FXと称することもある)は、コンブ、ワカメ、モズクなどの褐藻類等に多く含まれるカロテノイドの一種である。フコキサンチンは、古くから抗酸化作用を始め、脂肪燃焼促進作用、抗腫瘍作用等の様々な生理活性を有することが知られ、健康食品及び化粧品への応用研究が進められている。産業面において、国際的に高額なフコキサンチンを効能が見込めるように、高含量処方することは、消費者ニーズにかなわない。そこで、処方において、フコキサンチンの効果を助長する新たな処方追加が期待されてきた。
【0005】
本発明者らはこれまでに、フコキサンチンが、フィラグリンの発現を増強し皮膚バリア機能の改善効果を示すこと、及びフコキサンチンがマスト細胞の分化及び脱顆粒反応を抑制してかゆみ抑制効果を示すことなどを見出している(例えば、特許文献1、2)。
【0006】
特許文献1では、フコキサンチンが、UV照射に対して保護効果及び治療効果を示すこと、またこれらの時に、フィラグリン遺伝子の発現を伴うこと、フコキサンチンがフィラグリン遺伝子のプロモーターに対して活性化作用を有していることなどが報告されている。
【0007】
特許文献2では、フコキサンチンの外用投与によりマウス皮膚炎モデルの引っ掻き行動を顕著に抑制できたこと、及びマスト細胞の脱顆粒反応及び分化を抑制できたことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-40181号公報
【文献】特開2017-31133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1では皮膚に対する効果に着目されており、用途としては外用剤が、投与形態としては経皮投与が基本的に想定されている。また、UV照射による皮膚ダメージに対する試験がなされているので、I型アレルギー様のモデルではない。
【0010】
また、特許文献2でも皮膚に対する効果に着目されており、用途としては局所投与用のものであって、皮膚外用剤が想定されている。また、特許文献2では、GATA1及びGATA2がフコキサンチンによって下方制御されることが記載されているが、GATA3については記載されていない。
【0011】
本発明は、新たに従来とは異なる物質を単独又は組み合わせたものを有効成分とする、GATA3発現抑制効果とFoxp3陽性発現促進効果を併せ持つ、経口用抗アレルギー剤並びにTh2抑制及びTreg活性化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アトピー性皮膚炎モデルマウス:Nc/Ngaマウスを用いた試験から、フコキサンチンが転写因子であるGATA1~GATA3の内、GATA3に対する発現抑制作用が特に大きいこと、それに基づきTh2細胞の分化抑制作用を有しているという知見を得た。さらに、フコキサンチンは、Treg細胞(制御性T細胞)の分化促進作用も有しており、その上、Treg細胞の分化促進作用はリポ多糖(以下、LPSと称することもある)と併用することにより増強されることを見出した。また、フコキサンチンとLPSを併用することによりGATA3発現抑制作用について相乗効果が得られることも見出した。このように、特許文献1及び2で報告された内容は皮膚に対する局所的な作用であるが、本発明はフコキサンチンの全身の免疫に対する作用に関するものである。
【0013】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の経口用抗アレルギー剤、Th2抑制及びTreg活性化剤等を提供するものである。
【0014】
項1.フコキサンチン若しくはその誘導体又はその塩を有効成分とする経口用抗アレルギー剤。
項2.リポ多糖及び/又はTLR2アゴニスト活性を有する多糖類を更に含む、項1に記載の抗アレルギー剤。
項3.前記アレルギーが、I型アレルギー及び/又はIV型アレルギーである、項1又は2に記載の抗アレルギー剤。
項4.前記アレルギーが、アレルギー性鼻炎、花粉症、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性気管支喘息、食物アレルギー、蕁麻疹、及び接触性皮膚炎からなる群から選択される少なくとも1種である、項1~3のいずれか一項に記載の抗アレルギー剤。
項5.フコキサンチン若しくはその誘導体又はその塩を有効成分とするTh2抑制及びTreg活性化剤。
項6.リポ多糖及び/又はTLR2アゴニスト活性を有する多糖類を更に含む、項5に記載のTh2抑制及びTreg活性化剤。
項7.フコキサンチン若しくはその誘導体又はその塩を有効成分とするGATA3発現抑制及びFoxP3発現促進剤。
項8.フコキサンチン若しくはその誘導体又はその塩、並びに/又はリポ多糖及び/若しくはTLR2アゴニスト活性を有する多糖類を有効成分とするGATA3発現抑制用外用剤。
【発明の効果】
【0015】
フコキサンチンは、顕著に優れたGATA3発現抑制効果とFoxp3陽性発現促進効果を併せ持ち、Th2細胞の分化抑制作用及びTreg細胞の分化促進作用を有するので、経口用抗アレルギー剤並びにTh2抑制及びTreg活性化剤の有効成分として有用である。このように、本発明では、局所的な作用ではなく全身の免疫に対して効果を発揮することができる。さらに、フコキサンチンとリポ多糖及び/又はTLR2アゴニスト活性を有する多糖類とを併用することで、Th2細胞の分化抑制作用及びTreg細胞の分化促進作用を増強させることが可能である。
【0016】
また、フコキサンチン、リポ多糖などは、天然由来成分であるので安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ワセリン、タクロリムス又はフコキサンチン処理によるGATA1、GATA2、GATA3のmRNAの発現量を示すグラフである。左のバー:GATA1、真ん中のバー:GATA2、右のバー:GATA3。データはGapdhを1000としたときの相対値であり、平均±S.E.M.を示す。n=12
【
図2】無処理又はフコキサンチン処理によるIL4、GATA3、IL5、IL13のmRNAの発現量を示すグラフである。データはコントロールを1とした値であり、平均±S.E.M.を示す。
***P<0.001 n=12
【
図3】DMSOコントロール又はフコキサンチン処理細胞を用いたFACS分析の結果を示す図である。
【
図4】DMSOコントロール又はフコキサンチン処理細胞を用いたFACS分析の結果を示す図である。
【
図5】DMSOコントロール又はフコキサンチン処理によるマクロファージ細胞の貧食作用誘導の結果を示すグラフである。
【
図6】CMC コントロール、FX、LPS及びFX+LPS処理によるin vivoでのTregサブセットを示すグラフである。データは、平均±S.E.M.を示す。n=3
【
図7】コントロール、FX、LPS及びFX+LPS処理によるGATA3のmRNAの発現量を示すグラフである。バーは、左からそれぞれ、コントロール、FX、LPS、FX+LPSである。データはコントロールを1とした値であり、平均±S.E.M.を示す。n=6
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
なお、本明細書において「含む、含有する(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0020】
本発明の経口用抗アレルギー剤並びにTh2抑制及びTreg活性化剤は、フコキサンチン若しくはその誘導体又はその塩を有効成分とする。また、本発明のGATA3発現抑制用外用剤は、フコキサンチン若しくはその誘導体又はその塩、並びに/又はリポ多糖及び/若しくはTLR2アゴニスト活性を有する多糖類を有効成分とする。
【0021】
本発明の抗アレルギー剤は、アレルギー疾患の予防、改善及び治療に用いることができる。本発明において「抗アレルギー作用」とは、アレルギー疾患の症状を軽減及び抑制する全ての態様を含む概念であり、例えば、予防、改善、治療などが含まれる。
【0022】
GATA3とは、細胞の核内に存在する転写因子をコードする遺伝子であり、免疫細胞であるT細胞、血管内皮細胞、毛包の内毛根鞘細胞などの細胞分化に関与することが報告されており、特にTh2分化に関わっている。ヒトのGATA3遺伝子の塩基配列は、RefSeq Accession No. NM_001002295として登録されており、アミノ酸配列についてもRefSeq Accession No. NP_001002295として登録されている。
【0023】
本明細書において、フコキサンチン(CAS登録番号3351-86-8)又はその誘導体は、それらの塩も含む意味として使用する。
【0024】
フコキサンチンの誘導体としては、特に制限されず、例えば、加水分解産物であるフコキサンチノール、フコキサンチノールが脱水化及び異性化を受けたアマロウシアキサンチンA、グリシン、アラニンなどのアミノ酸とのエステル類、酢酸、クエン酸などのカルボン酸とのエステル及びその塩類、リン酸、硫酸などの無機酸とのエステル及びその塩類、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などの高度不飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸などの不飽和脂肪酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの飽和脂肪酸等との脂肪酸エステル類等から選択されるモノエステル体及び同種又は異種のジエステル体、グルコシドなどの配糖体類等が挙げられる。
【0025】
フコキサンチン又はその誘導体は、その原料の種類及び産地、製法等は特に限定されず、化学合成品、及び植物、動物、微生物などの天然物から抽出された物のいずれも使用することができる。フコキサンチン又はその誘導体としては、一種単独又は二種以上を配合して使用することができる。
【0026】
フコキサンチン又はその誘導体の塩としては、特に制限されず、例えば、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩;ナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等の無機塩基塩、トリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ジイソプロピルアンモニウム塩等の有機塩基塩;グルタミン酸、アルギニン、アスパラギン酸などのアミノ酸塩等が挙げられる。また、フコキサンチン又はその誘導体には、その水和物、溶媒和、結晶多形なども含まれる。
【0027】
フコキサンチン又はその誘導体としては、フコキサンチン又はフコキサンチノールが好ましく、フコキサンチンがより好ましい。
【0028】
フコキサンチンは、公知の方法により入手することができる。フコキサンチンは、例えば、ワカメ等の褐藻及びその他の不等毛藻から公知の方法により抽出し、分離精製することで製造することができる。フコキサンチンの調製方法としては、例えば、特開2008-1623号公報、特許第5076903号公報、特開2015-040181号公報などに記載される方法が挙げられる。フコキサンチノールの製造方法としては、特に制限されず、例えば、フコキサンチンを、リパーゼ、コレステロールエステラーゼなどの脂質分解酵素により加水分解して製造できるほか、特開2009-33970号公報に記載の方法により作製することができる。
【0029】
本発明の経口用抗アレルギー剤並びにTh2抑制及びTreg活性化剤には、フコキサンチン又はその誘導体以外にも、リポ多糖及び/又はTLR2アゴニスト活性を有する多糖類を更に含み得る。
【0030】
リポ多糖(lipopolysaccharide)(LPS)は、グラム陰性細菌表層のペプチドグリカンを取囲んで存在する外膜の構成成分であり、脂質と多糖とから構成される糖脂質である。リポ多糖は、TLR4(Toll様受容体4)アゴニストとして作用する。リポ多糖としては、その由来となる微生物の種類、構成成分、製法、分子量などは特に限定されず、各種のリポ多糖を使用することができる。
【0031】
TLR2(Toll様受容体2)アゴニスト活性を有する多糖類としては、特に制限されず、例えば、βグルカン、フコイダン、ムチン、マンナン、キチン、マンノプロテインなどが挙げられる。
【0032】
βグルカン、フコイダン、ムチン、マンナン、キチン、マンノプロテインなどのTLR2アゴニスト活性を有する多糖類としては、その由来となる生物(動物、植物、微生物、海藻など)の種類、構成成分、製法、分子量などは特に限定されず、各種の多糖類を使用することができる。
【0033】
また、リポ多糖及び/又はTLR2アゴニスト活性を有する多糖類は、単離されたもの、又はその由来となる生物などからの抽出物である粗精製物のいずれも使用することができる。さらに、リポ多糖及び/又はTLR2アゴニスト活性を有する多糖類の抽出及び精製は、公知の方法を利用することにより実施することができる。
【0034】
本発明の経口用抗アレルギー剤、Th2抑制及びTreg活性化剤等に含まれるフコキサンチン又はその誘導体の割合は、例えば、0.01~99質量%、1~80質量%、10~70質量%などが挙げられる。
【0035】
本発明の経口用抗アレルギー剤、Th2抑制及びTreg活性化剤等に含まれるリポ多糖及びTLR2アゴニスト活性を有する多糖類の割合は、例えば、0.01~99質量%、1~80質量%、10~70質量%などが挙げられる。
【0036】
本発明の経口用抗アレルギー剤、Th2抑制及びTreg活性化剤等には、フコキサンチン又はその誘導体1質量部に対して、リポ多糖及びTLR2アゴニスト活性を有する多糖類が、好ましくは0.001~1000質量部、より好ましくは0.01~100質量部含まれる。
【0037】
本発明の経口用抗アレルギー剤、Th2抑制及びTreg活性化剤等には、本発明の効果を妨げない範囲で、上記以外の公知の成分を適宜配合することができる。
【0038】
本発明の経口用抗アレルギー剤、Th2抑制及びTreg活性化剤等は、飲食品(特に、保健、健康維持、増進等を目的とする飲食品(例えば、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、栄養機能食品、又は機能性表示食品))、医薬品(医薬部外品も含む)などとして使用することができる。また、本発明の経口用抗アレルギー剤、Th2抑制及びTreg活性化剤等は、抗アレルギー作用並びにTh2抑制及びTreg活性化作用を付与する添加剤についての意味も包含するものである。さらに、本発明のGATA3発現抑制用外用剤は、外用の医薬品及び外用の化粧料として使用することができる。
【0039】
上記の飲食品には、フコキサンチン又はその誘導体、リポ多糖及びTLR2アゴニスト活性を有する多糖類をそのまま使用することもできるが、必要に応じて、ビタミン類、フラボノイド類、ミネラル類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、崩壊剤、滑沢剤、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤等を配合することができる。
【0040】
飲食品には、動物(ヒトを含む)が摂取できるあらゆる飲食品が含まれる。飲食品の種類は、特に限定されず、例えば、乳製品;発酵食品(ヨーグルト、チーズ等);飲料類(コーヒー、ジュース、茶飲料のような清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、乳酸菌入り飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、日本酒、洋酒、果実酒のような酒等);スプレッド類(カスタードクリーム等);ペースト類(フルーツペースト等);洋菓子類(チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、キャンデー、ゼリー、クッキー、ケーキ、プリン等);和菓子類(大福、餅、饅頭、カステラ、あんみつ、羊羹等);氷菓類(アイスクリーム、アイスキャンデー、シャーベット等);食品類(カレー、牛丼、雑炊、味噌汁、スープ、ミートソース、パスタ、漬物、ジャム等);調味料類(ドレッシング、ふりかけ、旨味調味料、スープの素等)などが挙げられる。
【0041】
飲食品の製法も特に限定されず、適宜公知の方法に従うことができる。
【0042】
飲食品をサプリメントとして使用する際の投与単位形態については特に限定されず適宜選択でき、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤、散剤等が挙げられる。
【0043】
飲食品の摂取量は、摂取者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜設定することができる。
【0044】
医薬品として調製する場合、フコキサンチン又はその誘導体、リポ多糖及びTLR2アゴニスト活性を有する多糖類をそのまま使用するか、又は医薬品において許容される無毒性の担体、希釈剤若しくは賦形剤とともに、タブレット(素錠、糖衣錠、フィルムコート錠、発泡錠、チュアブル錠、トローチ剤などを含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、シロップ、ペーストなどの形態に調製して、医薬用の製剤にすることが可能である。
【0045】
医薬品の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。
【0046】
以上説明した本発明の経口用抗アレルギー剤、Th2抑制及びTreg活性化剤等は、ヒトを含む哺乳動物に対して適用されるものである。
【0047】
後述する試験例で示すように、本発明者らは、フコキサンチンが転写因子であるGATA1~GATA3の内、GATA3に対する発現抑制作用が特に大きいこと、それに基づきTh2細胞の分化抑制作用を有していることを見出した。さらに、フコキサンチンは、Foxp3陽性発現促進効果を有し、Treg細胞の分化促進作用も有している。そのため、Th2細胞の分化抑制とTregの分化促進の作用に基づいて、フコキサンチンには抗アレルギー作用が期待でき、リポ多糖とのダブル処方により、更に効果的であることが示された。
【0048】
また、抗原提示細胞であるマクロファージにはフコキサンチンは促進的に働き、その後、免疫応答、T細胞活性化が生じるが、この免疫応答及びT細胞活性化が重要な部分である。
【0049】
このように、従来の皮膚免疫に対するフコキサンチンの効果が報告されているが、本発明はフコキサンチンの全身の免疫に対する作用に関するものである。
【0050】
また、試験例では、フコキサンチンとリポ多糖を併用することで、Th2細胞の分化抑制作用及びTreg細胞の分化促進作用が増強されることも示している。そのため、フコキサンチンとリポ多糖を併用することで、抗アレルギー作用を更に向上させることができることが期待できる。
【0051】
本発明の経口用抗アレルギー剤が適用されるアレルギー症状としては、例えば、アレルギー性鼻炎、花粉症、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性気管支喘息、食物アレルギー、蕁麻疹、接触性皮膚炎、成人型喘息、リウマチ等の自己免疫性疾患などが挙げられる。
【0052】
本発明の抗アレルギー剤が適用されるアレルギー症状としては、Th2に対する抑制作用から、特にI型アレルギー及び/又はIV型アレルギーへの有効性が期待でき、I型アレルギー及びIV型アレルギーとしては、例えば、アレルギー性鼻炎、花粉症、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性気管支喘息、食物アレルギー、蕁麻疹、接触性皮膚炎などが挙げられる。
【0053】
また、フコキサンチン、リポ多糖等は、天然由来成分であるので安全性が高い。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0055】
調製例:フコキサンチンの製造
ファイトロックス社製、Infini-Pureフコキサンチン40を、シリカゲルクロマトグラフィーにより分離し、Journal of Pharmacological Sciences Volume 132, Issue 1, 2016, Pages 55-64に記載のある通りに精製した。
【0056】
試験例1:フコキサンチン処理によるGATA3発現への影響
フコキサンチン処理によるGATA3発現への影響をリアルタイムPCRにより検証した。
【0057】
10週齢の雄Nc/Ngaマウスにタクロリムス製剤(タクロリムス軟膏0.1%「イワキ」)及びワセリン(日本薬局方 白色ワセリン)を対照に、ワセリンに0.1%混合したフコキサンチンを、除毛した背部に2週間ワンフィンガーユニット塗布し、その後、マウスを安楽死させ、皮膚組織ホモジナイズし、試料を得た。実験には、5つの異なるcDNAプール希釈液を用いた。PCR産物は、ハウスキーピング遺伝子であるGapdhに対して標準化し、サンプル間の測定値を、サイクル閾値(Cq値)により比較した。使用したプライマーを以下に示す。
GATA-1-F 5'-CGCTCCCTGTCACCGGCAGTGC-3'(AN: NM_008089)(配列番号1)
GATA-1-R 5'-CCGCCACAGTGGAGTAGCCGTT-3'(配列番号2)
GATA-2-F 5'-CTCCCGACGAGGTGGATGTCTT-3'(AN: NM_008090)(配列番号3)
GATA-2-R 5'-CCTGGGCTGTGCAACAAGTGTG-3'(配列番号4)
GATA-3-F 5'-TTTACCCTCCGGCTTCATCCTCTT-3'(AN: NM_008091)(配列番号5)
GATA-3-R 5'-TGCACCTGATACTTGAGGCACTCT-3'(配列番号6)
【0058】
ハウスキーピング遺伝子であるGapdhは、内在性コントロールとして、標準化に用いた。全ての測定は、4回ずつ行った。
【0059】
【0060】
試験例2:フコキサンチン処理によるTh2分化への影響
初代CD4+T細胞は、CD4+細胞単離キット及びLS Column (Miltenyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)を用いてBL6雄マウスの脾臓から単離した。それから、細胞はCD3/CD28 T細胞活性化ビーズ(Life Technologies, Tokyo, Japan)と共に10μMのフコキサンチンの存在下又は非存在下で24時間インキュベートした。細胞は遠心により回収し、試験例1と同様に、qPCR解析を行った。
【0061】
使用したプライマーを以下に示す。
mIL-4-F 5'-CATCGGCATTTTGAACGAG-3'(AN: NM_021283)(配列番号7)
mIL-4-R 5'-CGAGCTCACTCTCTGTGGTG-3'(配列番号8)
mIL-5-F 5'-TTGACAAGCAATGAGACGATGAG-3'(AN: NM_010558)(配列番号9)
mIL-5-R 5'-GCCCCTGAAAGATTTCTCCAA-3'(配列番号10)
mIL-13-F 5'-GTGCCAAGATCTGTGTCTCTCC-3'(AN: NM_008355)(配列番号11)
mIL-13-R 5'-TTACAGAGGCCATGCAATATCC-3'(配列番号12)
【0062】
ハウスキーピング遺伝子であるGapdhは、内在性コントロールとして、標準化に用いた。全ての測定は、4回ずつ行った。
【0063】
結果を
図2に示す。フコキサンチンは、Th2マーカーである各遺伝子の発現を抑制した。
【0064】
試験例3:フコキサンチン処理によるT細胞活性化への影響
初代CD4+T細胞は、試験例2と同様に調製し、CD3/CD28 T細胞活性化ビーズと共に10μMのフコキサンチンの存在下又は非存在下で24時間インキュベートした。インキュベート後、細胞は中性緩衝ホルマリンを用いて10分間固定化し、各抗体と反応させた。次に、FACS分析を行った(MACSQuant Analyzer 10, Miltenyi Biotech)。
【0065】
結果を
図3に示す。CD4及びCD25ダブルポジティブの活性化されたT細胞は、フコキサンチンにより劇的に減少した(ビヒクル:26.84%、フコキサンチン:10.80%)。
【0066】
試験例4:フコキサンチン処理によるT細胞活性化への影響
FACSにて、T細胞サブセットのマーカーを指標に、免疫染色後、解析した。すべて、ミルテニー社の抗体を用いた。細胞は、試験例3と同様に調製した。
【0067】
結果を
図4に示す。フコキサンチンはTh2を抑制し、Tregを活性化することがわかった。
【0068】
試験例5:フコキサンチン処理によるマクロファージの貧食作用への影響
ラテックスビーズ(カルボキシル基修飾ポリスチレン製、蛍光レッド、平均粒子径2μm)(Merck, Darmstadt, Germany)を用いて、マクロファージ細胞の貧食作用に対するフコキサンチンの効果を試験した。細胞は、10 ng/mlのDer f1の存在下又は非存在下で、10μMのフコキサンチンを添加又は添加せず24時間インキュベートした。
【0069】
結果を
図5に示す。抗原提示細胞であるマクロファージにはフコキサンチンは促進的に働くことが分かる。抗原提示が進むと、その後、免疫応答、T細胞活性化が生じるが、この免疫応答及びT細胞活性化が重要な部分である。
【0070】
試験例6:フコキサンチン及びLPS処理によるT細胞活性化への影響
10週齢の雄Nc/Ngaマウスに6日間3 mg/kgの量でLPSを経口投与した。1%カルボキシメチルセルロース溶液(CMC)に懸濁したフコキサンチンを1 mg/kgでマウスに1日1回経口投与した。全ての対照群はCMCを投与した。6日間投与後、マウスを安楽死させ、脾臓を摘出した。脾臓は、1 mlの血清不含RPMI 1640培地(Nakarai Tesque, Kyoto, Japan)に懸濁し、ナイロンメッシュ(70μm)でろ過した後、10 mlの懸濁液とした。細胞濃度を1.0×107 cellsをそれぞれの適切な抗体で染色した。FoxP3/CD4ダブルポジティブの細胞をFACSで測定した。
【0071】
結果を
図6に示す。フコキサンチンは、Tregをin vivoで活性していた。LPS単独では、Tregに影響を与えなかったが、フコキサンチンとLPSで相乗的な作用があった。フコキサンチンによるTregの誘導活性は、LPSとの併用により促進された。
【0072】
試験例7:フコキサンチン及びLPS処理によるGATA3発現への影響
ヒトケラチノサイトHaCat細胞にダニアレルゲンDer f1 10 ng/mlを適用し、1μMのフコキサンチン及び10 ng/ml LPSの存在下又は非存在下で4日間インキュベートした。細胞は遠心により回収し、試験例1と同様に、qPCR解析を行った。
【0073】
使用したプライマーを以下に示す。
hGATA3-F 5'-GCTGTCTGCAGCCAGGAGAGC-3' (配列番号13)
hGATA3-R 5'-ATGCATCAAACAACTGTGGCCA-3' (配列番号14)
【0074】
結果を
図7に示す。ダニアレルゲンDer f1をHaCat細胞に適用して4日後に、GATA3発現の亢進が観察された。このGATA3誘導活性は、フコキサンチン又はLPS単独によって有意に抑制され、フコキサンチン及びLPSを併用することでほぼ完全に抑制された。同様の結果は、2回の追試により確認された。
【配列表】