(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】超音波断層像生成方法、超音波断層像生成装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20230825BHJP
【FI】
A61B8/14
(21)【出願番号】P 2019017723
(22)【出願日】2019-02-04
【審査請求日】2022-01-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年10月29日~31日に、第39回超音波エレクトロニクスの基礎と応用に関するシンポジウムで、本発明に係る超音波断層像生成方法、超音波断層像生成装置の一部について発表した。
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】514189468
【氏名又は名称】一般社団法人メディカル・イノベーション・コンソーシアム
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100154748
【氏名又は名称】菅沼 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】110002055
【氏名又は名称】弁理士法人iRify国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 英之
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/097108(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
M(2以上の自然数)個の超音波振動子から発せられた超音波のエコーを受信してエコー信号を出力する超音波プローブから出力されるMチャネルの
各エコー信号における雑音を推定し、受信焦点からのエコーを強調する重み係数を前記Mチャネルの
各エコー信号における信号対雑音比に応じて算出する推定ステップと、
超音波断層像を
構成する前のビームフォーマを、前記推定ステップにて算出された重み係数を用いて前記Mチャネルのエコー信号から生成する生成ステップと、
を含むことを特徴とする超音波断層像生成方法。
【請求項2】
前記推定ステップでは、
前記Mチャネルの
各エコー信号に遅延和ビームフォーミングにおける遅延を付与して得られるm番目のエコー信号s
mまでを累算して得られる累積要素信号u
mと、
各エコー信号s
mに含まれる直流成分yと付加的ノイズに起因するバイアスnとを用いてモデル化したモデル化要素信号U
m=m×y+nと、の平均二乗差αが最小になるようにyおよびnの値を設定し、設定したyおよびnを用いて前記平均二乗差αの最小値を算出し、当該最小値と前記設定したyとから前記重み係数を算出し、
前記生成ステップでは、
前記設定したyに前記重み係数を乗算して、超音波断層像を
構成する前のビームフォーマを生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波断層像生成方法。
【請求項3】
前記推定ステップでは、
前記Mチャネルの
各エコー信号に遅延和ビームフォーミングにおける遅延を付与して得られるm番目のエコー信号s
mまでに含まれる雑音の積分値nmの二乗平均と、遅延補償後のエコー信号s
mの平均Y
DASの二乗平均とから前記重み係数を算出し、
前記生成ステップでは、
前記平均Y
DASに前記重み係数を乗算して、超音波断層像を
構成する前のビームフォーマを生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波断層像生成方法。
【請求項4】
M(2以上の自然数)個の超音波振動子を有し、各超音波振動子から発せられた超音波のエコーを受信してエコー信号を出力する超音波プローブから出力されるMチャネルの
各エコー信号における信号対雑音比を推定し、受信焦点からのエコーを強調する重み係数を前記Mチャネルの
各エコー信号における信号対雑音比に応じて算出する推定手段と、
超音波断層像を
構成する前のビームフォーマを、前記推定手段により算出された重み係数を用いて前記Mチャネルのエコー信号から生成する生成手段と、
を有することを特徴とする超音波断層像生成装置。
【請求項5】
コンピュータを、
M(2以上の自然数)個の超音波振動子を有し、各超音波振動子から発せられた超音波のエコーを受信してエコー信号を出力する超音波プローブから出力されるMチャネルの
各エコー信号における信号対雑音比を推定し、受信焦点からのエコーを強調する重み係数を前記Mチャネルの
各エコー信号における信号対雑音比に応じて算出する推定手段と、
超音波断層像を
構成する前のビームフォーマを、前記推定手段により算出された重み係数を用いて前記Mチャネルのエコー信号から生成する生成手段と、
して機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波断層像の生成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断は、被検者の体内の断層像を非侵襲的に測定する手法であり,広く医療現場に普及している。超音波診断により得られる超音波断層像の空間分解能およびコントラストは,診断精度に直結する重要な要素である。このため、超音波断層像の空間分解能およびコントラストを向上させる技術が種々提案されており、その一例としては非特許文献1に開示の技術が挙げられる。非特許文献1に開示の技術では、複数の超音波振動子からなる配列型超音波振動子により受信された各エコー信号間の相関性(coherence)に基づき,超音波断層像の方位分解能およびコントラストを向上させている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】超音波受信信号間の相関性に基づく超音波イメージング手法 P.-C. Li and M.-L. Li, “Adaptive imaging using the generalized coherence factor,” IEEE Trans. Ultrason. Ferroelectr. Freq. Control, vol. 50, no. 2, pp. 128-141, 2003.
【文献】H. Hasegawa and H. Kanai, “Effect of element directivity on adaptive beamforming applied to high-frame-rate ultrasound,” IEEE Trans. Ultrason. Ferroelectr. Freq. Control, vol. 62, no. 3, pp. 511-523, 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したように、超音波断層像の空間分解能およびコントラストは,診断精度に直結するため、高ければ高い程好ましい。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、超音波断層像の空間分解能およびコントラストを、エコー信号間の相関性に基づく手法よりも向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、M(2以上の自然数)個の超音波振動子から発せられた超音波のエコーを受信してエコー信号を出力する超音波プローブから出力されるMチャネルのエコー信号における雑音を推定し、受信焦点からのエコーを強調する重み係数を前記Mチャネルのエコー信号における信号対雑音比に応じて算出する推定ステップと、
超音波断層像を表すビームフォーマを、前記推定ステップにて算出された重み係数を用いて前記Mチャネルのエコー信号から生成する生成ステップと、を含むことを特徴とする超音波断層像生成方法、を提供する。
【0007】
詳細については後述するが、本発明によれば、超音波断層像の空間分解能およびコントラストを、エコー信号間の相関性に基づく手法よりも向上させることが可能になる。
【0008】
より好ましい態様の超音波断層像生成方法においては、前記推定ステップでは、前記Mチャネルのエコー信号に遅延和ビームフォーミングにおける遅延を付与して得られるm番目のエコー信号smまでを累算して得られる累積要素信号umと、エコー信号smに含まれる直流成分yと付加的ノイズに起因するバイアスnとを用いてモデル化したモデル化要素信号Um=m×y+nと、の平均二乗差αが最小になるようにyおよびnの値を設定し、設定したyおよびnを用いて前記平均二乗差αの最小値を算出し、当該最小値と前記設定したyとから前記重み係数を算出し、前記生成ステップでは、前記設定したyに前記重み係数を乗算して、超音波断層像を表すビームフォーマを生成する、ことを特徴としてもよい。
【0009】
より好ましい態様の超音波断層像生成方法においては、前記推定ステップでは、前記Mチャネルのエコー信号に遅延和ビームフォーミングにおける遅延を付与して得られるm番目のエコー信号smまでに含まれる雑音の積分値nmの二乗平均と、遅延補償後のエコー信号smの平均YDASの二乗平均とから前記重み係数を算出し、前記生成ステップでは、前記平均YDASに前記重み係数を乗算して、超音波断層像を表すビームフォーマを生成する、ことを特徴としてもよい。
【0010】
また、上記課題を解決するために本発明は、M(2以上の自然数)個の超音波振動子を有し、各超音波振動子から発せられた超音波のエコーを受信してエコー信号を出力する超音波プローブから出力されるMチャネルのエコー信号における信号対雑音比を推定し、受信焦点からのエコーを強調する重み係数を前記Mチャネルのエコー信号における信号対雑音比に応じて算出する推定手段と、超音波断層像を表すビームフォーマを、前記推定手段により算出された重み係数を用いて前記Mチャネルのエコー信号から生成する生成手段と、を有することを特徴とする超音波断層像生成装置、を提供する。
【0011】
また、上記課題を解決するために本発明は、コンピュータを、M(2以上の自然数)個の超音波振動子を有し、各超音波振動子から発せられた超音波のエコーを受信してエコー信号を出力する超音波プローブから出力されるMチャネルのエコー信号における信号対雑音比を推定し、受信焦点からのエコーを強調する重み係数を前記Mチャネルのエコー信号における信号対雑音比に応じて算出する推定手段と、超音波断層像を表すビームフォーマを、前記推定手段により算出された重み係数を用いて前記Mチャネルのエコー信号から生成する生成手段と、して機能させることを特徴とするプログラム、を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態による超音波断層像生成装置20を含む超音波医用システム1の構成例を示すブロック図である。
【
図2】超音波断層像生成装置20の信号処理部230が実行する信号処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】超音波断層像の空間分解能を評価するための点ターゲットをイメージングした図である。
【
図4】超音波断層像のコントラストを評価するためのファントムを画像化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。
(A.実施形態)
図1は、本発明の一実施形態によれる超音波断層像生成装置20を含む超音波医用システム1の構成例を示す図である。超音波医用システム1は、医療現場において被検者の体内の超音波断層像を非侵襲的に撮像するためのシステムである。
図1に示すように、超音波医用システム1は、超音波断層像生成装置20の他に、信号線を介して各々超音波断層像生成装置20に接続された超音波プローブ10、操作装置30および表示装置40、を有する。
【0014】
超音波プローブ10は、複数の超音波振動子よりなる配列型超音波振動子を有する。本実施形態の超音波医用システム1では、超音波プローブ10として、M(2以上の自然数)個の超音波振動子を0.1mm間隔で配列したリニアアレイプローブ(PU-0558:上田日本無線株式会社)が用いられている。複数の超音波素子の各々は、超音波断層像生成装置20による制御の下、被検者の検査部位に向けて超音波を放射するとともに、当該超音波のエコーを受信してエコー信号を出力する。
【0015】
超音波断層像生成装置20は、超音波プローブ10に超音波を送信させるとともに、超音波プローブ10からの出力信号に信号処理を施して画像データを生成する。操作装置30は、例えばマウスなどのポインティングデバイスやキーボードを含む。操作装置30は、超音波医用システム1の利用者(例えば、超音波診断のための各種操作を行う検査技師)に超音波断層像生成装置20に対する各種入力操作を行わせるための装置である。表示装置40は、例えば液晶ディスプレイである。表示装置40は、超音波断層像生成装置20の出力する画像データに応じて画像を表示する。
【0016】
超音波断層像生成装置20は、
図1に示すように、制御部200と、送信部210と、受信部220と、信号処理部230と、を有する。
図1では詳細な図示を省略したが、超音波断層像生成装置20は、OS(Operating System)などの各種ソフトウェアを記憶した記憶部(例えば、ハードディスク)も有する。
【0017】
制御部200は例えばCPU(Central Processing Unit)である。制御部200は、上記記憶部に記憶されているソフトウェアを実行することにより、超音波断層像生成装置20の制御中枢として機能し、各部の作動制御を行う。より詳細に説明すると、制御部200は、従来と同様のライン毎の取得シーケンスによって超音波断層像が生成されるように、各部の作動制御を行う。
【0018】
送信部210および受信部220には、信号線を介して超音波プローブ10が接続されている。送信部210は、制御部200から与えられる送信データにD/A変換を施して送信信号を生成し、超音波プローブ10が備えるM個の超音波振動子の各々に与える。これにより、超音波プローブ10が備えるM個の超音波振動子の各々は超音波を放射する。受信部220は、超音波プローブ10の複数の超音波振動子の各々から出力されるエコー信号にA/D変換を施し、さらに遅延を付与して遅延補償し、信号処理部230に与える。なお、本実施形態において、受信部220がエコー信号に付与する遅延は、従来の超音波断層像生成手法である遅延和ビームフォーミング(以下、DASビームフォーミング)に準拠した遅延である。
【0019】
超音波プローブ10のm(m=0、1、2・・・M-1)番目の超音波振動子から出力され、受信部220により遅延を付与されたエコー信号をs
mとすると、超音波プローブ10の受信開口に含まれるM個の超音波振動子により得られるエコー信号は以下の数1に示すベクトルSで表される。遅延補償の後、ベクトルSに含まれる受信焦点からのエコーは受信開口を横切る直流(DC)成分となる。したがって、従来のDASビームフォーミングでは、受信焦点yからのエコーに相当するビームフォーマ(すなわち、超音波断層像を表すビームフォーマ)Y
DASは、遅延補償後のエコー信号s
mの平均として以下の数2のように求められていた。
【数1】
【数2】
【0020】
これに対して、信号処理部230は、遅延補償後のエコー信号s
mに対して、本実施形態の特徴を顕著に示す信号処理(信号対雑音比に基づくビームフォーミング処理)を施して超音波断層像を表すビームフォーマを生成して表示装置40に与える。信号処理部230は、例えばDSP(Digital Signal Processor)であり、
図1では詳細な図示を省略したが、信号処理部230には、信号対雑音比に基づくビームフォーミング処理を当該信号処理部230に実行させる信号処理プログラムが予めインストールされている。信号処理部230は、受信部220により遅延を付与された信号に対して、上記信号処理プログラムにしたがって、信号対雑音比ビームフォーミングまたは線形回帰ビームフォーミングを実行する。信号処理部230により実行されるビームフォーミング処理としては、信号対雑音比ビームフォーミングと線形回帰ビームフォーミングの2種類がある。信号対雑音比ビームフォーミングおよび線形回帰ビームフォーミングは、広義にはどちらも信号対雑音比に基づくものであるが、2つの手法を区別するために異なる名称とした。以下、本実施形態の特徴を顕著に示す信号対雑音比ビームフォーミングおよび線形回帰ビームフォーミングについて説明する。
【0021】
図2は、信号対雑音比ビームフォーミングおよび線形回帰ビームフォーミングの流れを示すフローチャートである。
図2に示すように、両手法には、推定ステップSA100と、推定ステップSA100に後続する生成ステップSA110の2つのステップが含まれる。つまり、信号処理プログラムにしたがって作動している信号処理部230は、
図1に示すように、推定ステップSA100を実行する推定手段230a、および生成ステップSA110を実行する生成手段230bとして機能する。
【0022】
信号対雑音比ビームフォーミングにおける推定ステップSA100では、信号処理部230は、受信部220から出力されるMチャネルのエコー信号における信号対雑音比を推定し、受信焦点からのエコーを強調する重み係数(信号対雑音比に応じた重み係数)を算出する。上述したように、受信焦点からのエコーyは、遅延補償後のエコー信号s
mの直流成分となる。信号対雑音比ビームフォーミングにおける推定ステップSA100では、信号処理部230は、信号成分と雑音成分を遅延補償後のエコー信号s
mの平均値と分散で推定し、受信焦点からのエコーを強調する重み係数W
SNRを以下の数3にしたがって算出する。そして、信号対雑音比ビームフォーミングにおける生成ステップSA110では、信号処理部230は、信号対雑音比ビームフォーミングの出力(すなわち、超音波断層像を表すビームフォーマ)Y
SNRを以下の数4にしたがって算出して表示装置40に与える。
【数3】
【数4】
【0023】
遅延補償後のエコー信号s
mの信号対雑音比が非常に高い場合は、数3の分母が非常に小さくなり、その結果W
SNRが極端に大きくなってビームフォーマ出力が不安定となる。それを避けるため、安定化パラメータβ(実数)を数5のように導入してもよい。
【数5】
βが0に近いほど数5の分母が小さくなることが回避され、ビームフォーマ出力は安定するが、空間分解能などの改善効果は低下する。安定化パラメータβの値については、ビームフォーマ出力の安定度と空間分解能等の改善効果との兼ね合いで適宜好適な値に定めるようにすればよい。以上が信号対雑音比ビームフォーミングの内容である。
【0024】
次いで、線形回帰ビームフォーミングについて説明する。
線形回帰ビームフォーミングにおける推定ステップSA100では、信号処理部230は、信号対雑音比ビームフォーミングにおける処理とは異なる処理で、受信部220から出力されるMチャネルのエコー信号における雑音を推定し、受信焦点からのエコーを強調する重み係数を算出する。より詳細に説明すると、信号処理部230は、まず、累積要素信号u
mを以下の数6にしたがって算出する(ただし、u
0=0)。なお、数6の右辺におけるs
iはi番目の超音波振動子からの遅延補償後のエコー信号である。
【数6】
【0025】
上述したように、受信焦点からのエコーyは、遅延補償後のエコー信号s
mの直流成分となる。したがって、累積要素信号u
mは、以下の数7のような線形関数モデル化される。なお、数7におけるnは付加的ノイズに起因するバイアスである。以下では、数7にしたがってモデル化した信号をモデル化要素信号と呼ぶ。測定された累積要素信号u
mとモデル化要素信号U
mとの平均二乗差αは以下の数8のように定義され、信号処理部230は、数8で定義される平均二乗差αが最小になるように、yおよびnの値(以下、最小二乗推定値)を設定(すなわち、信号対雑音比を推定)する。なお、yおよびnの最小二乗推定値は、数9に示すように、yとnに対するαの偏微分をゼロに設定することによって得られる。
【数7】
【数8】
【数9】
【0026】
次いで、信号処理部230は、まず、数9にしたがって算出した最小二乗推定値YおよびNを、数8におけるyおよびnに代入して平均二乗差αの最小値α
minを算出する。そして、信号処理部230は、受信焦点からのエコーを強調する重み係数W
LRを以下の数10にしたがって算出し、線形回帰ビームフォーミングにおける推定ステップSA100を終了する。線形回帰ビームフォーミングにおける生成ステップSA110では、線形回帰ビームフォーマの出力(すなわち、超音波断層像を表すビームフォーマ出力)Y
LRを以下の数11にしたがって算出して表示装置40に与える。
【数10】
【数11】
【0027】
信号対雑音比ビームフォーミングと同様に、遅延補償後のエコー信号s
mの信号対雑音比が非常に高い場合は、数10の分母が非常に小さくなり、その結果W
LRが極端に大きくなってビームフォーマ出力が不安定となる。それを避けるため、安定化パラメータγ(実数)を数12のように導入してもよい。
【数12】
γの値を大きくするほど、ビームフォーマ出力は安定するが、空間分解能などの改善効果は低減する。安定化パラメータγの値についても、前述のβと同様に、ビームフォーマ出力の安定度と空間分解能等の改善効果との兼ね合いで適宜好適な値に定めるようにすればよい。以上が線形回帰ビームフォーミングの内容である。
【0028】
上述した線形回帰ビームフォーミングの推定ステップSA100では、信号対雑音比の推定に最小二乗法が用いられているため、信号対雑音比ビームフォーミングに比べ計算負荷が高い。そこで、線形回帰ビームフォーミングの計算効率を向上させる(すなわち、計算負荷を低減させる)ため、以下のように変形してもよい。
計算効率を向上させた線形回帰ビームフォーミングの推定ステップSA100では、信号処理部230は、m番目の素子による受信信号s
mに含まれる雑音の積分値n
mを数13により算出する。
【数13】
計算効率を向上させた線形回帰ビームフォーミングにおける重み係数W
LReは、数13により得られる雑音成分の積分値n
mを用いて、以下の数14のように定義される。計算効率を向上させた線形回帰ビームフォーミングの推定ステップSA100では、信号処理部230は、数14にしたがって重み係数W
LReを算出する。なお、数14におけるγは数12におけるものと同様に安定化パラメータである。
【数14】
計算効率を向上させた線形回帰ビームフォーミングの生成ステップSA110では、信号処理部230は、超音波断層像を表すビームフォーマ出力Y
LReを以下の数15にしたがって算出し、表示装置40に与える。
【数15】
【0029】
また、信号対雑音比ビームフォーミング、線形回帰ビームフォーミング、計算効率を向上させた線形回帰ビームフォーミングの何れについても,非特許文献2に示された開口分割処理を組み合わせることで、計算量を低減させてもよい。
【0030】
図3は、超音波断層像の空間分解能を評価するための点ターゲットをイメージングした結果である。より詳細には、
図3(a)はDASビームフォーミングにより得られた画像,
図3(b)は受信信号間の相関性に基づく手法により得られた画像、
図3(c)と(d)はそれぞれ、本実施形態の信号対雑音比ビームフォーミングおよび線形回帰ビームフォーミングにより得られた画像である。
図3(a)~(d)の各図において、画像の輝度(白色の強さ)は超音波散乱波の強度を示す。
図3(a)~(d)に示す各画像を比較すれば明らかなように、本実施形態の信号対雑音比ビームフォーミングおよび線形回帰ビームフォーミングにより得られた画像(
図3(c)、(d))では、白の輝点のサイズが
図3(a)および
図3(b)に比較して小さくなっている。このことから,本実施形態の信号対雑音比ビームフォーミングおよび線形回帰ビームフォーミングによれば、DASビームフォーミングおよび受信信号管の相関性に基づく手法に比較して、高い空間分解能が得られることが判る。
【0031】
図4は、超音波断層像のコントラストを評価するためのファントム(虚像)を画像化したものである。より詳細に説明すると、
図4(a)は、従来のDASビームフォーミングにより得られた画像、
図4(b)は、受信信号間の相関性により得られた画像、
図4(c)と
図4(d)はそれぞれ、本実施形態の信号対雑音比ビームフォーミングおよび線形回帰ビームフォーミングにより得られた画像である。なお、
図4(a)~
図4(d)の各図においては、中央部の暗い部分は超音波散乱波が発生しない媒質(具体的には、嚢胞模擬部)であり,黒一色で描出されることが望ましい。
図4(a)および
図4(b)の各画像では,嚢胞模擬部においても白い輝点が発生しており,これらの白い輝点は虚像である。
図4(c)では虚像が低減されていることがわかる。さらに、
図4(d)に示す画像では嚢胞模擬部において虚像が描出されていない。つまり、本実施形態の信号対雑音比ビームフォーミングおよび線形回帰ビームフォーミングによれば、従来のDASビームフォーミングおよび受信信号管の相関性に基づく手法に比較して、嚢胞模擬部における虚像の描出を抑制することができ、コントラストが向上していることが判る。
【0032】
図4において、虚像の抑圧効果が信号対雑音比ビームフォーミングに比べ線形回帰ビームフォーミングの方が高かった理由は、数6の処理による効果、すなわち、遅延補償後のエコー信号s
mの積分効果である。積分は低域通過フィルタに対応する。積分操作以外のフィルタを適用することで、線形回帰ビームフォーマの出力をさらに向上させることも可能である。なお、数13の積分処理についても同様に他のフィルタ処理に適宜変更してもよい。
【0033】
以上説明したように、本発明によれば、超音波断層像の空間分解能およびコントラストを、従来のDASビームフォーミングは勿論、超音波受信信号間の相関性に基づく手法と比較しても、さらに向上させることが可能になる。
【0034】
(B.変形)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、この実施形態に以下の変形を加えても勿論よい。
(1)上記実施形態では、超音波医用システムへの本発明の適用例を説明したが、物体の非破壊検査など、医療用以外の超音波断層像の生成への適用も可能である。医療用以外の技術分野においても、超音波断層像の空間分解能およびコントラストは,高ければ高い程好ましいからである。
【0035】
(2)線形回帰ビームフォーミングの推定ステップSA100では、Mチャネルのエコー信号の信号対雑音比を最小二乗法により推定したが、尤度を用いる手法など他の手法により信号対雑音比を推定してもよい。要は、M(2以上の自然数)個の超音波振動子から発せられた超音波のエコーを受信してエコー信号を出力する超音波プローブから出力されるMチャネルのエコー信号における雑音を推定し、受信焦点からのエコーを強調する重み係数を前記Mチャネルのエコー信号における信号対雑音比に応じて算出する推定ステップと、超音波断層像を表すビームフォーマを、前記推定ステップにて算出された重み係数を用いて前記Mチャネルのエコー信号から生成する生成ステップと、を含むことを特徴とする超音波断層像生成方法であればよい。
【0036】
(3)上記実施形態では、超音波断層像生成装置20の信号処理部230が推定手段230aおよび生成手段230bとして機能したが、制御部200を推定手段230aおよび生成手段230bとして機能させてもよい。具体的には、受信部220の出力信号を制御部200に与え、制御部200に上記実施形態の信号処理プログラムを実行させるようにすればよい。
【0037】
(4)上記実施形態では、本実施形態の特徴を顕著に示す超音波断層像生成方法を実現する信号処理プログラムが超音波断層像生成装置20に予めインストールされていた。しかし、CPUなどのコンピュータを、M(2以上の自然数)個の超音波振動子を有し、各超音波振動子から発せられた超音波のエコーを受信してエコー信号を出力する超音波プローブから出力されるMチャネルのエコー信号における雑音を推定し、受信焦点からのエコーを強調する重み係数を前記Mチャネルのエコー信号における信号対雑音比に応じて算出する推定手段と、超音波断層像を表すビームフォーマを、前記推定手段により算出された重み係数を用いて前記Mチャネルのエコー信号から生成する生成手段と、して機能させるプログラムを単体で製造し、販売等の配布をしてもよい。上記プログラムの配布態様の具体例としては、インターネットなどの電気通信回線経由のダウンロードにより配布する態様や、CD-ROM(Compact Disk-Read Only Memory)やフラッシュROM(Read Only Memory)などのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に書き込んで配布する態様が挙げられる。このようにして配布される上記プログラムにしたがって、コンピュータを作動させることで、当該コンピュータに、本発明の超音波断層像生成方法を実行させることが可能になるからである。
【0038】
(5)上記実施形態では、本実施形態の特徴を顕著に示す超音波断層像生成方法の各ステップを実行する推定手段230aおよび生成手段230bがソフトウェアモジュールとして実現されていた。しかし、M(2以上の自然数)個の超音波振動子を有し、各超音波振動子から発せられた超音波のエコーを受信してエコー信号を出力する超音波プローブから出力されるMチャネルのエコー信号における雑音を推定し、受信焦点からのエコーを強調する重み係数を前記Mチャネルのエコー信号における信号対雑音比に応じて算出する推定手段と、超音波断層像を表すビームフォーマを、前記推定手段により算出された重み係数を用いて前記Mチャネルのエコー信号から生成する生成手段の各々をASICなどの電子回路で構成し、これら電子回路を組み合わせて本発明の超音波断層像生成を構成してもよい。
【符号の説明】
【0039】
1…超音波医用システム、10…超音波プローブ、20…超音波断層像生成装置、30…操作装置、40…表示装置、200…制御部、210…送信部、220…受信部、230…信号処理部、230a…推定手段、230b…生成手段。