(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】超音波診断装置、超音波診断方法および超音波診断プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20230825BHJP
【FI】
A61B8/14 ZDM
(21)【出願番号】P 2019180142
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】519313172
【氏名又は名称】中原 龍一
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】中原 龍一
(72)【発明者】
【氏名】西田 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 敏文
(72)【発明者】
【氏名】那須 義久
(72)【発明者】
【氏名】前田 達郎
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-040016(JP,A)
【文献】特開2014-033914(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0163369(US,A1)
【文献】DUBOIS J R Guillaume, et al.,Local Texture Anisotropy as an Estimate of Muscle Quality in Ultrasound Imaging,Ultrasound in Medicine and Biology,米国,World Federation for Ultrasound in Medicine and Biology,2018年02月07日,Volume 44, Issue 5,p1133-1140,https://sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0301562918300036
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波ビームの入射方向を変化させて得られた、被検体に関する複数の超音波画像を取得する取得部と、
前記複数の超音波画像から、前記被検体の組織の前記超音波ビームに対する異方性を検出する検出部と、
超音波画像の輝度値
の類似度および前記異方性
の類似度が閾値以上である領域をグルーピングすることで前記被検体の組織を分類する分類部と、
を具備する超音波診断装置。
【請求項2】
超音波ビームの入射方向を変化させて得られた、被検体に関する複数の超音波画像を取得する取得部と、
前記複数の超音波画像から、前記被検体の組織の前記超音波ビームに対する異方性を検出する検出部と、
超音波画像の輝度値および前記異方性に基づくクラスタリングを行なうことにより
、前記被検体の組織を分類する
分類部と、
を具備する超音波診断装置。
【請求項3】
前記検出部は、前記異方性の検出対象である領域よりも体表側に位置する領域の異方性の影響を補正して、当該検出対象である領域の異方性を検出する、請求項1または請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記輝度値の算出対象である領域よりも体表側に位置する領域における前記超音波ビームの減衰量の影響を補正して、当該算出対象である領域の輝度値を算出する算出部をさらに具備する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記被検体の前記組織が分類されたセグメンテーション画像を表示機器に表示させる表示制御部をさらに具備する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
超音波ビームの入射方向を変化させて得られた、被検体に関する複数の超音波画像を取得し、
前記複数の超音波画像から、前記被検体の組織の前記超音波ビームに対する異方性を検出し、
超音波画像の輝度値
の類似度および前記異方性
の類似度が閾値以上である領域をグルーピングすることで前記被検体の組織を分類する、超音波診断方法。
【請求項7】
超音波ビームの入射方向を変化させて得られた、被検体に関する複数の超音波画像を取得し、
前記複数の超音波画像から、前記被検体の組織の前記超音波ビームに対する異方性を検出し、
超音波画像の輝度値および前記異方性に基づくクラスタリングを行なうことにより、前記被検体の組織を分類する、超音波診断方法。
【請求項8】
コンピュータに、
超音波ビームの入射方向を変化させて得られた被検体に関する複数の超音波画像から、前記被検体の組織の前記超音波ビームに対する異方性を検出する検出機能と、
超音波画像の輝度値
の類似度および前記異方性
の類似度が閾値以上である領域をグルーピングすることで前記被検体の組織を分類する分類機能と、
を実現させるための超音波診断プログラム。
【請求項9】
コンピュータに、
超音波ビームの入射方向を変化させて得られた被検体に関する複数の超音波画像から、前記被検体の組織の前記超音波ビームに対する異方性を検出する検出機能と、
超音波画像の輝度値および前記異方性に基づくクラスタリングを行なうことにより、前記被検体の組織を分類する分類機能と、
を実現させるための超音波診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書等に開示の実施形態は、超音波診断装置、超音波診断方法および超音波診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置により得られる超音波動画像におけるセグメンテーションにおいては、各組織間の輝度差が小さいため、筋肉、脂肪、腱、血管などを分類し、正確にセグメンテーションすることが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-30072号公報
【文献】特開2019-98164号公報
【文献】特表2019-115487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書等に開示の実施形態が解決しようとする課題の1つは、組織分類の精度を向上させることである。
ただし、本明細書等に開示の実施形態が解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を、本明細書等に開示の実施形態が解決しようとする他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態に係る超音波装置は、取得部、検出部および分類部を含む。検出部は、超音波ビームの入射方向を変化させて得られた、被検体に関する複数の超音波画像を取得する。検出部は、前記複数の超音波画像から、前記被検体の組織の前記超音波ビームに対する異方性を検出する。分類部は、超音波画像の輝度値と前記異方性とに基づいて前記被検体の組織を分類する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る超音波診断装置の第1の動作例を示すフローチャートである。
【
図3A】
図3Aは、複数の超音波画像の第1の取得例を示す図である。
【
図3B】
図3Bは、複数の超音波画像の第2の取得例を示す図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る異方性カーブの算出例を示す図である。
【
図5】
図5は、異方性の検出対象である組織よりも浅い層に複数の組織が存在する場合の異方性カーブの算出例を示す図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る補正輝度値に基づくグルーピング結果となる超音波画像の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、本実施形態に係るセグメンテーション画像の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、本実施形態に係る超音波診断装置の第2の動作例を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、本実施形態に係るクラスタリング処理の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係る超音波診断装置、超音波診断方法および超音波診断プログラムについて説明する。以下の実施形態では、同一の参照符号を付した部分は同様の動作をおこなうものとして、重複する説明を適宜省略する。以下、一実施形態について図面を用いて説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
本実施形態に係る超音波診断装置を
図1のブロック図を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置1の構成例を示すブロック図である。
図1に示されるように、超音波診断装置1は、本体装置10および超音波プローブ30を含む。本体装置10は、ネットワーク100を介して外部装置40と接続される。また、本体装置10は、表示機器50および入力装置60と接続される。
【0009】
超音波プローブ30は、複数の超音波振動子(以下、単に素子ともいう)、素子に設けられる整合層、及び素子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材等を有する。超音波プローブ30は、本体装置10と着脱自在に接続される。
【0010】
本実施形態に係る超音波プローブ30は、位置センサが装着され、被検体Pを3次元で走査したときの位置情報を検出できるようにしてもよい。本実施形態に係る超音波プローブ30は、例えば、複数の超音波振動子がマトリックス状に配置される2次元アレイプローブでもよい。または、あるエンクロージャ内に1次元アレイプローブとプローブ揺動用モータを備え、超音波振動子を所定の角度(揺動角度)で揺動させることで煽り走査や回転走査を機械的に行い、被検体Pを3次元で走査するメカニカル4次元プローブ(機械揺動方式の3次元プローブ)でもよい。なお、超音波プローブ30は、1次元に配列された複数の振動子が複数に分割される1.5次元アレイプローブであってもよいし、単に複数の超音波振動子がアレイ方向に1列に配列された1次元アレイプローブであってもよい。
【0011】
図1に示される本体装置10は、超音波プローブ30が受信した反射波信号に基づいて超音波画像を生成する装置である。本体装置10は、
図1に示すように、超音波送信回路11、超音波受信回路12、Bモード処理回路13、ドプラ処理回路14、3次元処理回路15、表示制御回路16、内部記憶回路17、画像メモリ18(シネメモリ)、画像データベース19、入力インタフェース回路20、通信インタフェース回路21および処理回路22を含む。
【0012】
超音波送信回路11は、超音波プローブ30に駆動信号を供給するプロセッサである。超音波送信回路11は、例えば、トリガ発生回路、遅延回路、及びパルサ回路等により実現される。トリガ発生回路は、所定のレート周波数で、送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。遅延回路は、超音波プローブ30から発生される超音波をビーム状に集束して送信指向性を決定するために必要な素子毎の送信遅延時間を、トリガ発生回路が発生する各レートパルスに対し与える。パルサ回路は、レートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ30に駆動信号(駆動パルス)を印加する。遅延回路により各レートパルスに対し与える送信遅延時間を変化させることで、素子面からの送信方向が任意に調整可能となる。
【0013】
超音波受信回路12は、超音波プローブ30が受信した反射波信号に対して各種処理を施し、受信信号を生成するプロセッサである。超音波受信回路12は、例えば、アンプ回路、A/D変換器、受信遅延回路、及び加算器等により実現される。アンプ回路は、超音波プローブ30が受信した反射波信号をチャンネル毎に増幅してゲイン補正処理を行なう。A/D変換器は、ゲイン補正された反射波信号をデジタル信号に変換する。受信遅延回路は、デジタル信号に受信指向性を決定するのに必要な受信遅延時間を与える。加算器は、受信遅延時間が与えられた複数のデジタル信号を加算する。加算器の加算処理により、受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調された受信信号が発生する。
【0014】
Bモード処理回路13は、超音波受信回路12から受け取った受信信号に基づき、Bモードデータを生成するプロセッサである。Bモード処理回路13は、超音波受信回路12から受け取った受信信号に対して包絡線検波処理、及び対数増幅処理等を施し、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(以下、Bモードデータ)を生成する。生成されたBモードデータは、超音波走査線上のBモードRAWデータとして不図示のRAWデータメモリに記憶される。なお、BモードRAWデータは、後述の内部記憶回路17に記憶されてもよい。
【0015】
ドプラ処理回路14は、例えばプロセッサで有り、超音波受信回路12から受け取った受信信号から血流信号を抽出し、抽出した血流信号からドプラ波形を生成すると共に、血流信号から平均速度、分散、及びパワー等の情報を多点について抽出したデータ(以下、ドプラデータ)を生成する。
【0016】
3次元処理回路15は、Bモード処理回路13及びドプラ処理回路14によりそれぞれ生成されたBモードデータおよびドプラデータに基づき、2次元の画像データまたは3次元の画像データ(以下、ボリュームデータともいう)を生成可能なプロセッサである。3次元処理回路15は、RAW-ピクセル変換を実行することで、ピクセルから構成される2次元画像データを生成する。
【0017】
また、3次元処理回路15は、RAWデータメモリに記憶されたBモードRAWデータに対し、空間的な位置情報を加味した補間処理を含むRAW-ボクセル変換を実行することで、所望の範囲のボクセルから構成されるボリュームデータを生成する。3次元処理回路15は、発生したボリュームデータに対してレンダリング処理を施し、レンダリング画像データを生成する。以下、BモードRAWデータ、2次元画像データ、ボリュームデータおよびレンダリング画像データを総称して超音波データとも呼ぶ。
【0018】
表示制御回路16は、3次元処理回路15において発生された各種画像データに対し、ダイナミックレンジ、輝度(ブライトネス)、コントラスト、γカーブ補正、及びRGB変換等の各種処理を実行することで、画像データをビデオ信号に変換する。表示制御回路16は、ビデオ信号を表示機器50に表示させる。なお、表示制御回路16は、操作者が入力インタフェース回路20により各種指示を入力するためのユーザインタフェース(GUI:Graphical User Interface)を生成し、GUIを表示機器50に表示させてもよい。表示機器50としては、例えば、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、プラズマディスプレイ、又は当技術分野で知られている他の任意のディスプレイが適宜利用可能である。
【0019】
内部記憶回路17は、例えば、磁気的若しくは光学的記録媒体、又は半導体メモリ等のプロセッサにより読み取り可能な記録媒体等を有する。内部記憶回路17は、本実施形態に係る遅延量設定方法に関する制御プログラム、超音波送受信を実現するための制御プログラム、画像処理を行うための制御プログラム、及び表示処理を行なうための制御プログラム等を記憶している。また、内部記憶回路17は、診断情報(例えば、患者ID、医師の所見等)、診断プロトコル、ボディマーク生成プログラム、及び映像化に用いるカラーデータの範囲を診断部位毎に予め設定する変換テーブル等のデータ群を記憶している。また、内部記憶回路17は、被検体内の臓器の構造に関する解剖学図譜、例えば、アトラスを記憶してもよい。
【0020】
また、内部記憶回路17は、入力インタフェース回路20を介して入力される記憶操作に従い、3次元処理回路15で発生された2次元画像データ、ボリュームデータ、レンダリング画像データを記憶する。なお、内部記憶回路17は、入力インタフェース回路20を介して入力される記憶操作に従い、3次元処理回路15で発生された2次元画像データ、ボリュームデータ、レンダリング画像データを、操作順番及び操作時間を含めて記憶してもよい。内部記憶回路17は、記憶しているデータを、通信インタフェース回路21を介して外部装置へ転送することも可能である。
【0021】
画像メモリ18は、例えば、磁気的若しくは光学的記録媒体、又は半導体メモリ等のプロセッサにより読み取り可能な記録媒体等を有する。画像メモリ18は、入力インタフェース回路20を介して入力されるフリーズ操作直前の複数フレームに対応する画像データを保存する。画像メモリ18に記憶されている画像データは、例えば、連続表示(シネ表示)される。
【0022】
画像データベース19は、外部装置40から転送される画像データを記憶する。例えば、画像データベース19は、外部装置40に保存される過去の診察において取得された同一患者に関する過去の医用画像データを受け取って記憶する。過去の医用画像データには、超音波画像データ、CT(Computed Tomography)画像データ、MR(Magnetic Resonance)画像データ、PET(Positron Emission Tomography)-CT画像データ、PET-MR画像データおよびX線画像データが含まれる。
なお、画像データベース19は、MO(Magneto-Optical Disk)、CD-R、DVDなどの記憶媒体(メディア)に記録された画像データを読み込むことで、所望の画像データを格納してもよい。
【0023】
入力インタフェース回路20は、入力装置60を介して、ユーザからの各種指示を受け付ける。入力装置60は、例えば、マウス、キーボード、パネルスイッチ、スライダースイッチ、トラックボール、ロータリーエンコーダ、操作パネルおよびタッチコマンドスクリーン(TCS)である。入力インタフェース回路20は、例えばバスを介して処理回路22に接続され、操作者から入力される操作指示を電気信号へ変換し、電気信号を処理回路22へ出力する。なお、本明細書において入力インタフェース回路20は、マウス及びキーボード等の物理的な操作部品と接続するものだけに限られない。例えば、超音波診断装置1とは別体に設けられた外部の入力機器から入力される操作指示に対応する電気信号を無線信号として受け取り、この電気信号を処理回路22へ出力する電気信号の処理回路も入力インタフェース回路20の例に含まれる。例えば、操作者のジェスチャによる指示に対応する操作指示を無線信号として送信できるような外部の入力機器でもよい。
【0024】
通信インタフェース回路21は、ネットワーク100等を介して外部装置40と接続され、外部装置40との間でデータ通信を行う。外部装置40は、例えば、各種の医用画像のデータを管理するシステムであるPACS(Picture Archiving and Communication System)のデータベース、医用画像が添付された電子カルテを管理する電子カルテシステムのデータベース等である。また、外部装置40は、例えば、X線CT装置、及びMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、核医学診断装置、及びX線診断装置等、本実施形態に係る超音波診断装置1以外の各種医用画像診断装置である。なお、外部装置40との通信の規格は、如何なる規格であっても良いが、例えば、DICOM(digital imaging and communication in medicine)が挙げられる。
【0025】
処理回路22は、例えば、超音波診断装置1の中枢として機能するプロセッサである。処理回路22は、内部記憶回路17に記憶されている制御プログラムを実行することで、当該プログラムに対応する機能を実現する。
処理回路22は、取得機能101、算出機能103、検出機能105および分類機能107を含む。
【0026】
取得機能101により処理回路22は、超音波のビーム入射方向を変化させて得られた、被検体に関する複数の超音波画像を取得する。
算出機能103により処理回路22は、少なくとも1つの超音波画像に基づいて、超音波ビーム(単にビームともいう)の減衰量を補正した補正画素値を算出する。なお、算出機能103により処理回路22は、補正画素値に限らず、補正画素値に基づく、ビームの減衰量を補正した減衰量補正画像を生成してもよい。
検出機能105により処理回路22は、複数の超音波画像から被検体の組織のビームに対する異方性を検出する。異方性は、被検体に含まれる各体内組織に関する信号値又は輝度値が、当該体内組織に対するビームの入射方向に応じて異なる性質又は当該性質の度合いを意味する。例えば、異方性は、信号値又は輝度値に関するビームの入射方向に対する変化曲線の形状(以下、異方性カーブともいう)又は形状に応じた指標値により評価される。
分類機能107により処理回路22は、超音波画像の輝度値と異方性とに基づいて被検体の組織を分類する。
【0027】
なお、取得機能101、算出機能103、検出機能105および分類機能107は、制御プログラムとして組み込まれていてもよいし、処理回路22自体または本体装置10に、各機能を実行可能な専用のハードウェア回路が組み込まれていてもよい。
【0028】
処理回路22は、これら専用のハードウェア回路を組み込んだ特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(Field Programmable Logic Device:FPGA)、他の複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、又は単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)により実現されてもよい。
【0029】
次に、本実施形態に係る超音波診断装置1の第1の動作例について
図2のフローチャートを参照して説明する。
ステップS201では、取得機能101により処理回路22が、医療従事者が超音波プローブ30により被検体Pをスキャンし、被検体Pの体内へのビームの入射方向を変化させることで得られる複数の超音波画像を取得する。
【0030】
ステップS202では、算出機能103により処理回路22が、ビームの入射方向ごとに得られた複数の超音波画像における組織の補正輝度値を算出し、減衰量補正画像を生成する。ビームは組織を透過することで強度が減衰するため、Bモード画像は画像深部ほど輝度値(画素値)が低くなる(画像が暗くなる)。よって、減衰が大きい組織で暗く描出された浅い層(体表に近い層)の組織と、減衰が小さいが深い層(体表から遠い体内深部の層)にあるため部位に到達するまでの経路における減衰量が大きく結果として暗く描出される深い層の組織とが、同じグループに分類される可能性がある。
【0031】
よって、補正輝度値の算出対象となる深い層の組織においては、当該深い層よりも体表側に位置する浅い層のビーム減衰量を補正した補正輝度値を算出する。補正輝度値としては、具体的には、算出対象である組織よりも体表に近い組織の減衰量の影響を補正するため、手動で補正量を指定してもよい。例えば、TGC(Time Gain Compensation)またはSTC(Sensitivity Time Control)といったスライドバーによる調整によって補正量を指定してもよい。
または、発振したビームに対して最も浅い層の組織から、当該浅い層の組織がどの位の輝度値であるか、つまり、どの位のビームの減衰量があるかを当該浅い層から深い層に向かって順に算出し、算出対象となる組織の補正輝度値を算出する場合に、これまでの減衰量を加算するなどにより、算出対象となる組織の補正輝度値を算出すればよい。
【0032】
ステップS203では、算出機能103または分類機能107により処理回路22が、ステップS202で算出した補正輝度値に基づいて、超音波画像に描出される被検体Pを補正輝度値の類似度が閾値以上となる複数の領域に分割してグルーピングする。例えば、ある閾値範囲内の補正輝度値を有する領域を、補正輝度値の類似度が閾値以上である領域群であるとしてグルーピングする。この際、テクスチャ解析により方向性パターンや繰り返しパターンを検出してもよく、方向性パターン及び繰り返しパターンの領域と閾値範囲内の補正輝度値の領域とに基づいてグルーピングしてもよい。結果として、算出機能103または分類機能107により処理回路が、ステップS203においてグルーピングされた領域を含む減衰量補正画像を生成する。
【0033】
ステップS204では、検出機能105により処理回路22が、ステップS203でグルーピングされた領域ごとに、超音波画像における被検体Pの組織の異方性を算出する。異方性の算出は、例えばビームの入射方向に対応した輝度値(信号強度)の変化を示す異方性カーブを算出する。なお、体表から離れた深い層の領域における組織の異方性は、体表に近い、つまり浅い層の領域における組織の異方性の影響を受ける。よって、異方性の算出対象である領域の層よりも体表側に位置する浅い層の領域における組織の異方性の影響を補正する。具体的には、浅い層にある組織の異方性カーブを決定し、当該浅い層における組織の異方性カーブを補正するように、浅い層に隣接しかつ深い層の領域における組織の異方性について順に算出する。詳細については、
図4および
図5を参照して後述する。
【0034】
ステップS205では、分類機能107により処理回路22が、補正輝度値および異方性に基づいて、超音波画像に描出される組織を分類する。例えば、分類機能107により処理回路22が、ステップS203でグルーピングされた補正輝度値の領域内で、異方性の類似度が閾値以上となる領域に分割してグルーピングする。具体的には、異方性カーブの形状が近い部分領域をグルーピングすることで組織を分類する。
ステップS206では、分類機能107により処理回路22が、組織の分類結果に基づいて、超音波画像に含まれる各組織が分類されたセグメンテーション画像を生成する。
ステップS207では、表示制御回路16が、セグメンテーション画像を表示機器50などに表示する。
【0035】
なお、ステップS203で算出される輝度値の分類およびステップS205で算出される異方性の分類では、複数の超音波画像における輝度値および異方性の性質の類似度が閾値以上であれば、画像上で離れた領域であっても当該離れた領域同士が同じ性質を有すると考えられるため、同じグループとしてグルーピングされてもよい。また、ステップS203における輝度値を用いたグルーピング処理と、ステップS205における異方性を用いたグルーピング処理とは、処理順が入れ替えられてもよい。
【0036】
次に、複数の超音波画像の取得例について
図3Aおよび
図3Bを参照して説明する。
図3Aは、超音波画像の第1の取得例として超音波プローブ30がビームを電子的に制御可能である例を示す。被検体Pの体表で超音波プローブ30の接触位置を固定したまま、電子的にビームを振ればよい。
【0037】
図3Bは、超音波画像の第2の取得例として、ユーザが、超音波プローブ30を被検体Pの体表に接触させ、揺動するようにスキャンをすることで複数の超音波画像を生成する例を示す。これにより、被検体Pの組織に対するビームの入射方向を異ならせて撮影できる。
図3Aおよび
図3Bに示すように、撮像範囲における被検体の組織の異方性が、ビームの入射方向の違いによって超音波画像に表れる。
【0038】
なお、撮影対象範囲についてビームの入射方向を異ならせた複数の超音波画像を得るためには、当該撮影対象範囲をスキャンするためのスキャン範囲よりも広くすべき点に留意する。これは、スキャン範囲外からスキャン範囲に入射するような角度のビームが必要となるからである。例えば、超音波プローブ30に取り付けられた位置センサから得られる座標情報により、本実施形態に係る分類処理に必要なビームの入射方向の超音波画像が得られたかどうかを算出してもよい。例えば、撮影対象範囲において必要なビームの入射方向のグラフを表示し、ユーザがスキャンした入射方向については塗りつぶしていくGUIをディスプレイに表示することで、未だ得ていない入射方向の超音波画像を容易に認識できる。
【0039】
次に、ステップS204における異方性カーブの算出例について
図4を参照して説明する。
図4では、超音波画像401において、組織Aは、最も体表に近い領域(浅い層)であり、組織Bは、組織Aよりも体表から遠い領域(深い層)にある。説明の便宜上、すでに被検体Pの組織Aおよび組織Bが区別されているが、実際には浅い層から深い層に向かって順に異方性カーブを決定し、組織を区別していけばよい。
【0040】
ここで、組織Aおよび組織Bのそれぞれについて、ビームの入射方向を異ならせた場合の異方性カーブ403を算出する。異方性カーブ403は、縦軸が輝度値(信号強度)を示し、横軸がビームの入射方向を示す。上述のように、組織Aよりも深い層にある組織Bは、ビームの進行方向において組織Bよりも浅い組織Aの異方性カーブの影響を受ける。例えば、組織Aの異方性カーブがビームの入射方向の変化に応じて上に凸のカーブを描く場合に、検出対象である組織Bの異方性カーブが破線の曲線405のように入射方向にかかわらず一定の輝度値であった場合を想定する。この場合、実際には組織Cの異方性カーブは曲線405と組織Aの異方性カーブとの差分であり、下に凸の曲線407であると考えられる。
このように、浅い層である組織Aから体内深部に向かって順に異方性カーブを決定していくことで、深い層にある組織についても浅い層である組織の異方性の影響を補正して、正確な異方性カーブを算出できる。
【0041】
次に、異方性の検出対象である組織よりも浅い層に複数の組織が存在する場合について、
図5を参照して説明する。
図5は、
図4と同様の図であるが、組織Aおよび組織Bが、最も体表に近く浅い層であり、組織Cが、組織Aおよび組織Bよりも深い層にある。
【0042】
まず、検出機能105により処理回路22が、組織Aおよび組織Bそれぞれの異方性カーブ503を算出する。上述のように、組織Aおよび組織Bよりも深い層にある組織Cは、ビームの進行方向において組織Cよりも浅い組織Aおよび組織Bの異方性カーブの影響を受ける。
そのため、検出対象である組織Cの異方性を検出する場合は、組織Aの異方性カーブと組織Bの異方性カーブとの平均値を、組織Cよりも浅い層にある組織の異方性カーブであるとして、
図4の場合と同様に組織Cの異方性カーブを算出してもよい。
【0043】
また、ビームの入射方向によって、当該入射方向の直線上に位置する組織Cに影響する組織Aおよび組織Bの割合が変化する。例えば、
図5に示すようにマイナス60度からビームが入射した場合は組織Aが組織Bよりも組織Cに積層している割合が多く、反対にプラス60度からビームが入射した場合は組織Bが組織Aよりも組織Cに積層している割合が多い。よって、ビームの入射方向に応じて組織Aの異方性カーブと組織Bの異方性カーブとの重み付け和を、組織Cよりも浅い層にある組織の異方性カーブとして算出してもよい。
【0044】
次に、超音波診断装置1の第1の動作例に従った分類結果の一例について、
図6および
図7を参照して説明する。
図6は、ステップS203で得られた輝度値に基づくグルーピングの結果を超音波画像に表示した図である。ここでは、輝度値が閾値以上となる領域(領域601)と、輝度値が閾値未満の領域(例えば領域602)とに分類される。領域601では、筋繊維の方向性パターンが現われているため、筋繊維の方向性パターンを含む領域では輝度値が閾値未満の部分があっても幾何学的構造に基づいて領域が判定される。ここでは、補正輝度値に基づく分類では、「三角筋」と「上腕二頭筋長頭腱」とは同一のグループとして分類される。
【0045】
図7は、異方性カーブに基づくグルーピングによって得られるセグメンテーション画像の一例を示す図である。補正輝度値に基づきグルーピングされた領域601内で、さらに異方性に基づくグルーピングの結果を超音波画像に表示した例である。
図7に示すように、補正輝度値に基づいて同じ領域として分類された領域からさらに、「三角筋」と「上腕二頭筋長頭腱」とを分類したセグメンテーション画像を表示できる。なお、分セグメンテーション画像において、分類された組織のグループごとに、例えば色分けしたカラーマップで表示されればよい。
【0046】
次に、本実施形態に係る超音波診断装置1の第2の動作例について
図8のフローチャートを参照して説明する。
図2に示す第1の動作例については、輝度値および異方性をそれぞれ順番にグルーピングしていたが、第2の動作例では、輝度値および異方性の両方をパラメータとしてクラスタリングすることで組織を分類する。なお、ステップS201、ステップS202、ステップS204およびステップS207については同様の処理であるため、説明を省略する。なお、
図8の処理は、ステップS201、ステップS202、ステップS204、ステップS801、ステップS802およびステップS207の順に行われる。
【0047】
ステップS801では、分類機能107により処理回路22が、輝度値および異方性に基づいて、クラスタリングする。
ステップS802では、分類機能107により処理回路22が、クラスタリング結果に基づいて、超音波画像に含まれる各組織が分類されたセグメンテーション画像を生成する。
【0048】
次に、ステップS801におけるクラスタリング処理の一例について
図9を参照して説明する。
図9左図は、3つの領域の異方性カーブ901、異方性カーブ903および異方性カーブ905を示し、縦軸は補正輝度値を示し、横軸はピークの角度、すなわち、補正輝度値が最大となるときのビームの入射角度を示す。
【0049】
このような異方性カーブ901、異方性カーブ903および異方性カーブ905に関する輝度値と入射角度とを(Pn,φn)(n=1,2,3)として座標にプロットすると、例えば
図9右図のような分布
図907を得ることができる。
分布
図907では、類似する輝度値と入射角度とを有するプロットの集合(クラスタ)を得ることができるので、一般的なクラスタリング処理により、クラスタを分類する境界線を引くことで、Aパターン、Bパターン、Cパターンといった組織の異方性に基づく組織性状を各種パターンに分類することができる。
なお、セグメンテーション画像においては、例えば同一クラスタに分類された組織領域が同じクラスタのグループとなるように、グループごとに色分けしたカラーマップ表示されればよい。
【0050】
上述したグルーピング処理およびクラスタリング処理では、異方性を表すパラメータを1つとして説明したが、これに限らず、クラスタリング処理を3次元で行う場合は、異方性を表すパラメータを2つにしてもよい。例えば、輝度値、第1の異方性パラメータ、第2の異方性を表すパラメータからなる3次元空間に観測位置のパラメータをプロットし、クラスタリング処理を行えばよい。なお、さらにパラメータを増やし、4次元以上の多次元空間においてクラスタリング処理を行ってもよい。
【0051】
また、複数のビーム入射方向から撮影した複数の超音波画像を入力データとし、組織の分類結果を正解データとした学習用データを用いて、DCNN(Deep Convolutional Neural Network)などの多層ネットワークを学習させ、学習済みモデルを構築してもよい。
当該学習済みモデルを利用することで、より高速かつ高精度に組織の分類結果およびセグメンテーション画像を生成することができる。組織の分類結果を得るために必要なビームの入射方向が異なる超音波画像の数も低減することができる。
【0052】
以上に示した本実施形態によれば、超音波のビームの入射方向を異ならせた複数の超音波画像に基づいて、輝度値および組織の異方性に基づいて組織の分類することで、輝度値だけでは判断し得ない組織についても分類でき、組織分類の精度を向上させることができる。また、医療従事者は、スキャン範囲を少し拡げて複数の超音波画像を取得するだけでよく、複雑な作業が必要とならないため、ワークフローなどにも影響しない。
【0053】
加えて、実施形態に係る各機能は、前記処理を実行するプログラムをワークステーション等のコンピュータにインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても実現することができる。このとき、コンピュータに前記手法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(ハードディスクなど)、光ディスク(CD-ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの記憶媒体に格納して頒布することも可能である。
【0054】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0055】
1 超音波診断装置
10 本体装置
11 超音波送信回路
12 超音波受信回路
13 Bモード処理回路
14 ドプラ処理回路
15 次元処理回路
16 表示制御回路
17 内部記憶回路
18 画像メモリ
19 画像データベース
20 入力インタフェース回路
21 通信インタフェース回路
22 処理回路
30 超音波プローブ
40 外部装置
50 表示機器
60 入力装置
100 ネットワーク
101 取得機能
103 算出機能
105 検出機能
107 分類機能
401 超音波画像
403,503,901,903,905 異方性カーブ
405,407 曲線
601,602 領域