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特許7336771非水電解質二次電池の正極活物質、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池
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  • 特許-非水電解質二次電池の正極活物質、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池の正極活物質、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230825BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230825BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
C01G53/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020511642
(86)(22)【出願日】2019-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2019007295
(87)【国際公開番号】W WO2019193874
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2018074110
(32)【優先日】2018-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河北 晃宏
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 毅
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/125444(WO,A1)
【文献】特開2008-226495(JP,A)
【文献】特開2015-181113(JP,A)
【文献】特開2015-144108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム含有遷移金属複合酸化物を含む非水電解質二次電池の正極活物質において、
前記リチウム含有遷移金属複合酸化物は、Liを除く金属元素の総モル数に対して91%以上95%以下の量のNiを含有し、一次粒子が凝集してなる二次粒子であり、
前記正極活物質をアルカリ溶液に添加後蒸留し、蒸留液を硫酸に吸収させたものをイオンクロマトグラフ分析した場合に、アンモニアが前記正極活物質に対して2~200ppm検出され、
前記正極活物質1gを純水70mlに分散した水分散体のろ液を塩酸で滴定した場合に、pH曲線の第1変曲点までの酸消費量をXmol/g、第2変曲点までの酸消費量をYmol/gとしたとき、Y-Xの値が50~300mol/gであり、X-(Y-X)の値が150mol/g以下である、非水電解質二次電池の正極活物質。
【請求項2】
前記一次粒子の表面には、ジルコニウム化合物、タングステン化合物、リン化合物、ホウ素化合物、及び希土類化合物から選択される少なくとも1種が付着している、請求項1に記載の非水電解質二次電池の正極活物質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の正極活物質を含む正極合材層を有する、非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
請求項に記載の非水電解質二次電池用正極と、
負極と、
セパレータと、
非水電解質と、
を備えた、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池の正極活物質、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池の正極活物質を構成するリチウム含有遷移金属複合酸化物は、リチウム化合物と遷移金属化合物を混合して焼成することにより合成される。この焼成時にリチウムの一部が揮発して失われるため、目的とする生成物の化学両論比より多いリチウムを使用することが一般的である。但し、余剰のリチウムが複合酸化物の粒子表面に存在すると、電池の充電保存時等におけるガスの発生量が多くなるため、焼成物を水洗して余剰のリチウムを除去する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、リチウム含有遷移金属複合酸化物の粒子表面にタングステン及びリチウムを含む微粒子が付着した正極活物質が開示されている。特許文献1には、当該複合酸化物粒子を水洗処理し、ろ過、乾燥する工程が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-216105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、リチウム含有遷移金属複合酸化物の水洗を省略できれば、ろ過、乾燥工程も不要となり、正極活物質の製造コストの低減、環境負荷の低減等を図ることができる。本開示の目的は、リチウム含有遷移金属複合酸化物を水洗しなくても、電池の充電保存時等におけるガス発生量を抑制できる正極活物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様である非水電解質二次電池の正極活物質は、リチウム含有遷移金属複合酸化物を含む非水電解質二次電池の正極活物質において、前記リチウム含有遷移金属複合酸化物は、一次粒子が凝集してなる二次粒子であり、前記正極活物質をアルカリ溶液に添加後蒸留し、蒸留液を硫酸に吸収させたものをイオンクロマトグラフ分析した場合に、アンモニアが前記正極活物質に対して2~200ppm検出され、前記正極活物質1gを純水70mlに分散した水分散体のろ液を塩酸で滴定した場合に、pH曲線の第1変曲点までの酸消費量をXmol/g、第2変曲点までの酸消費量をYmol/gとしたとき、Y-Xの値が50~300mol/gであり、X-(Y-X)の値が150mol/g以下であることを特徴とする。
【0007】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極は、上記正極活物質を含む正極合材層を有する。また、本開示の一態様である非水電解質二次電池は、当該正極と、負極と、セパレータと、非水電解質とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、無水洗の正極活物質を用いた非水電解質二次電池において、充電保存時等におけるガス発生量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上述のように、無水洗の正極活物質を用いた非水電解質二次電池において、充電保存時等のガス発生量を低減することは重要な課題である。本発明者らは、上記分析法により検出されるアンモニアが正極活物質に対して2~200ppm、上記酸消費量Y-Xの値が50~300mol/gであり、X-(Y-X)が150mol/g以下である正極活物質を用いることで、ガスの発生が大幅に抑制されることを見出した。以下、図面を参照しながら本開示の実施形態の一例について詳細に説明する。
【0011】
以下では、巻回型の電極体14が円筒形の電池ケースに収容された円筒形電池を例示するが、電極体は巻回型に限定されず、複数の正極と複数の負極がセパレータを介して交互に積層されてなる積層型であってもよい。また、本開示に係る非水電解質二次電池は、角形の金属製ケースを備える角形電池、コイン形の金属製ケースを備えるコイン形電池等であってもよく、金属層及び樹脂層を含むラミネートシートで構成された外装体を備えるラミネート電池であってもよい。なお、本明細書において、数値(A)~数値(B)との記載は特に断らない限り、数値(A)以上数値(B)以下を意味する。
【0012】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池10の断面図である。図1に例示するように、非水電解質二次電池10は、電極体14と、非水電解質(図示せず)と、電極体14及び非水電解質を収容する電池ケース15とを備える。電極体14は、正極11と、負極12と、セパレータ13とを備え、正極11と負極12がセパレータ13を介して巻回された巻回構造を有する。電池ケース15は、有底円筒形状の外装缶16と、外装缶16の開口部を塞ぐ封口体17とで構成されている。
【0013】
非水電解質二次電池10は、電極体14の上下にそれぞれ配置された絶縁板18,19を備える。図1に示す例では、正極11に取り付けられた正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に取り付けられた負極リード21が絶縁板19の外側を通って外装缶16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の底板であるフィルタ23の下面に溶接等で接続され、フィルタ23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21は外装缶16の底部内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極端子となる。
【0014】
外装缶16は、例えば有底円筒形状の金属製容器である。外装缶16と封口体17との間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保されている。外装缶16には、例えば側面部の一部が内側に張り出した、封口体17を支持する溝入部22が形成されている。溝入部22は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。
【0015】
封口体17は、電極体14側から順に、フィルタ23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断し、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0016】
[正極]
正極11は、正極集電体30と、正極集電体30上に設けられた正極合材層31とを有する。正極集電体30には、アルミニウム、アルミニウム合金等の正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルムなどを用いることができる。正極合材層31は、正極活物質と、導電材と、結着材とを含み、正極集電体30の両面に設けられることが好ましい。正極11は、例えば正極集電体30上に正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合材層31を正極集電体30の両面に形成することにより作製できる。
【0017】
正極活物質は、リチウム含有遷移金属複合酸化物を含み、当該複合酸化物を主成分として構成される。正極活物質を構成するリチウム含有遷移金属複合酸化物は、一次粒子が凝集してなる二次粒子である。正極活物質は、活物質をアルカリ溶液に添加後蒸留し、蒸留液を硫酸に吸収させたものをイオンクロマトグラフ分析した場合に、アンモニアが正極活物質の質量に対して2~200ppm検出される。また、正極活物質1gを純水70mlに分散した水分散体のろ液を塩酸で滴定した場合に、pH曲線の第1変曲点までの酸消費量をXmol/g、第2変曲点までの酸消費量をYmol/gとしたとき、Y-Xの値が50~300mol/gであり、X-(Y-X)の値が150mol/g以下である。上述の通り、当該正極活物質を用いることにより、焼成後に水洗処理しなくても、電池の充電保存時等におけるガス発生量を低減できる。リチウム含有遷移金属複合酸化物を構成する一次粒子の表面には、例えば当該複合酸化物の質量に対して2~200ppmのアンモニウム化合物が存在する。
【0018】
なお、正極合材層31には、本開示の目的を損なわない範囲で、例えばアンモニウム化合物が粒子表面に存在しない複合酸化物(正極活物質)、上記酸消費量Y-Xの値が50~300mol/gの範囲から外れる正極活物質などが含まれていてもよい。2~200ppmのアンモニウム化合物がリチウム含有遷移金属複合酸化物の粒子表面に存在し、上記Y-Xの値が50~300mol/g、上記X-(Y-X)の値が150mol/g以下である正極活物質の含有量は、正極活物質の総質量に対して、好ましくは50~100質量%、より好ましくは80~100質量%である。
【0019】
正極活物質を構成するリチウム含有遷移金属複合酸化物は、Ni、Co、Mnの少なくとも1種の遷移金属元素を含有する。当該複合酸化物は、Li、Ni、Co、Mn以外の他の金属元素等を含有していてもよい。他の金属元素等としては、Al、Na、Mg、Sc、Zr、Ti、V、Ga、In、Ta、W、Sr、Y、Fe、Cu、Zn、Cr、Pb、Sb、B等が挙げられる。好適なリチウム含有遷移金属複合酸化物の一例は、Ni、Co、及びMnを含有する複合酸化物、Ni、Co、及びAlを含有する複合酸化物等である。
【0020】
上記リチウム含有遷移金属複合酸化物は、Liを除く金属元素の総モル数に対して、80%以上の量のNiを含有することが好ましい。Niの割合を80mol%以上とすることで、電池の高容量化を図ることができる。Niの含有量は、例えば80~95mol%である。好適なリチウム含有遷移金属複合酸化物の具体例は、一般式LiNi1-y-zCo(0.9≦x≦1.2、0.05≦y+z≦0.2、Mは少なくともMn及びAlの一方を含む1種以上の金属元素)で表される複合酸化物である。
【0021】
上記リチウム含有遷移金属複合酸化物のBET比表面積は、0.9m/g以下が好ましく、0.8m/g以下がより好ましい。複合酸化物のBET比表面積は、例えば0.5~0.8m/gである。BET比表面積は、JIS R1626記載のBET法に従って測定される。具体的には、乾燥した複合酸化物の粒子を自動比表面積/細孔分布測定装置(Quantachrome社製、Autosorb iQ3-MP)を用いて、BET窒素吸着等温線を測定し、窒素吸着量からBET多点法を用いて比表面積を算出する。
【0022】
上記リチウム含有遷移金属複合酸化物(二次粒子)の体積基準のメジアン径は、特に限定されないが、好ましくは2~15μm、より好ましくは6~13μmである。複合酸化物のメジアン径は、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3000II)を用いて測定される粒子径分布において、体積積算値が50%となる粒径である。二次粒子を構成する一次粒子の粒径は、例えば0.05~1μmである。一次粒子の粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される粒子画像において最大の差し渡し長さとして測定される。
【0023】
上記リチウム含有遷移金属複合酸化物を含む正極活物質は、上述の通り、活物質1gを純水70mlに分散した水分散体のろ液を塩酸で滴定した場合に、pH曲線の第1変曲点までの酸消費量をXmol/g、第2変曲点までの酸消費量をYmol/gとしたとき、Y-Xの値が50~300mol/gであり、X-(Y-X)の値が150mol/g以下である。即ち、正極活物質は、酸で滴定される水溶性のアルカリ成分を含んでいる。Y-Xの値は、好ましくは70~250、より好ましくは80~220である。X-(Y-X)の値は、好ましくは80以下、より好ましくは50以下である。
【0024】
正極活物質は、アルカリ成分を上述の酸消費量に相当する量だけ含んでいる。アルカリ成分としては、例えば水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)等が挙げられる。また、正極活物質は、アンモニア分子換算で2~200ppmのアンモニウム化合物を含んでいる。アンモニウム化合物は、例えばアンモニア、アンモニウム塩である。炭酸リチウム、水酸化リチウム、及びアンモニウム化合物は、複合酸化物の粒子内部において各一次粒子の界面、及び一次粒子が凝集してなる二次粒子の表面に存在していてもよい。これらは、一次粒子の表面の一部に偏在することなく、まんべんなく均一に存在することが好ましい。
【0025】
正極活物質から抽出される水溶性のアルカリ成分の具体的な定量法は、下記の通りである。下記滴定法は、一般的にWarder法と呼ばれる。
(1)正極活物質1gを純水30mlに添加して撹拌し、活物質が水中に分散した懸濁液を調製する。
(2)懸濁液をろ過し、純水を加えて70mlにメスアップし、活物質中から溶出した水溶性のアルカリ成分を含むろ液を得る。
(3)ろ液のpHを測定しながら、塩酸を少量ずつろ液に滴下し、pH曲線の第1変曲点(pH8付近)までに消費した塩酸の量(滴定量)Xmol/g、及び第2変曲点(pH4付近)までに消費した塩酸の量Ymol/gを求める。なお、変曲点は、滴定量に対する微分値のピーク位置である。
【0026】
一次粒子の表面に存在するアンモニウム化合物量は、イオンクロマトグラフ分析により定量できる。具体的な測定方法は、下記の通りである。
・ 正極活物質1gを蒸留フラスコに移し純水300mlを加える。
(2)上記正極活物質の水分散体に水洗酸化ナトリウム水溶液(30%)10mlを加えアルカリ性溶液とした後、沸騰石を加えて蒸留する。
(3)沸騰・蒸発した溶液を冷却・回収して、硫酸(25mmol/L)40mlに加え、純水で200mlに定容し試料溶液とした。
(4)試料溶液をイオンクロマトグラフィーで測定し、検出したアンモニウムイオン量から試料中のアンモニア量に換算した。
【0027】
リチウム含有遷移金属複合酸化物の一次粒子の表面には、ジルコニウム化合物、タングステン化合物、リン化合物、ホウ素化合物、及び希土類化合物から選択される少なくとも1種の表面コート材が付着していてもよい。表面コート材は、複合酸化物の粒子内部、即ち二次粒子の内部に存在する一次粒子の表面、及び複合酸化物の粒子表面、即ち二次粒子の表面に存在する一次粒子の表面(二次粒子の表面)の少なくとも一方に付着している。表面コート材が存在する場合、例えば容量低下等の不具合を招くことなく、充電保存時等におけるガス発生が抑制される。表面コート材は、一次粒子の表面の一部に偏在することなく、まんべんなく均一に存在することが好ましい。また、これらの含有量は、当該化合物を構成する金属元素換算で、リチウム含有遷移金属複合酸化物のLiを除く金属元素の総モル数に対して、0.01~0.5mol%であることが好ましい。
【0028】
ジルコニウム化合物、タングステン化合物、リン化合物、ホウ素化合物、及び希土類化合物は、酸化物、窒化物、水酸化物等のいずれであってもよい。具体例としては、酸化ジルコニウム、酸化タングステン、タングステン酸リチウム、リン酸リチウム、酸化ホウ素、四ホウ酸リチウム、水酸化サマリウム、水酸化エルビウム、酸化サマリウム、酸化エルビウム等が挙げられる。二次粒子の内部又は表面に存在する一次粒子の表面にこれらの化合物が付着していること、及び金属元素換算の含有量は、走査型電子顕微鏡(SEM)及び誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置を用いて観察、測定できる。
【0029】
上記リチウム含有遷移金属複合酸化物は、例えば共沈法によりNi、Co、Mn、Al等を含有する遷移金属複合水酸化物を合成する第1の工程と、当該複合水酸化物を酸化焙焼して遷移金属複合酸化物を得る第2の工程と、当該複合酸化物と水酸化リチウムとを混合して焼成する第3の工程とを経て製造される。第3の工程で得られたリチウム含有遷移金属複合酸化物は、水洗処理されてもよいが、好ましくは実質的に無水洗の状態で使用される。
【0030】
第3の工程では、700℃を超える温度で上記混合物を焼成する。焼成温度の好適な範囲は、700~900℃である。焼成は、酸素気流中で行われることが好ましい。第3の工程では、放電容量の観点から、目的とする生成物の化学両論比よりも過剰のリチウム源(水酸化リチウム)が使用される。例えば、化学両論比で複合酸化物の1~1.1倍が好ましい。
【0031】
上記リチウム含有遷移金属複合酸化物の製造工程は、さらに、アンモニア源となる化合物、及び炭酸源となる化合物を添加する第4の工程を含むことが好ましい。第4の工程では、炭酸アンモニウムのように、アンモニア源及び炭酸源となる化合物を添加してもよい。第4の工程では、無水洗のリチウム含有遷移金属複合酸化物に、例えば炭酸アンモニウムの水溶液を滴下、又は噴霧した後、第3の工程の焼成温度よりも低い温度で熱処理する。熱処理条件の一例は、温度200~500℃、加熱時間1~4時間である。無水洗のリチウム含有遷移金属複合酸化物の粒子表面には余剰のLiが存在するため、例えば当該粒子表面に炭酸アンモニウムを添加すると、炭酸リチウム及びアンモニウム化合物が生成する。
【0032】
正極合材層31に含まれる導電材は、正極活物質の粒子表面に付着し、また正極集電体30の表面に付着して、正極合材層31内に導電パスを形成する。導電材の一例としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が挙げられる。正極合材層31における導電材の含有量は、例えば正極合材層31の総質量に対して1~10%である。
【0033】
正極合材層31に含まれる結着材は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。中でも、PTFE、PVdF等のフッ素樹脂が好ましく、PVdFが特に好ましい。正極合材層31における結着材の含有量は、例えば正極合材層31の総質量に対して0.5~5%である。
【0034】
[負極]
負極12は、負極集電体40と、当該集電体上に設けられた負極合材層41とを有する。負極集電体40には、銅、銅合金等の負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルムなどを用いることができる。負極合材層41は、負極活物質、及び結着材を含み、負極集電体40の両面に設けられることが好ましい。負極12は、負極集電体40上に負極活物質、結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して負極合材層41を負極集電体40の両面に形成することにより作製できる。
【0035】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、一般的には黒鉛等の炭素材料が用いられる。黒鉛は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛のいずれであってもよい。また、負極活物質として、Si、Sn等のLiと合金化する金属、Si、Sn等を含む金属化合物、リチウムチタン複合酸化物などを用いてもよい。例えば、SiO(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素化合物、又はLi2ySiO(2+y)(0<y<2)で表されるケイ素化合物等が、黒鉛等の炭素材料と併用されてもよい。
【0036】
負極合材層41に含まれる結着材には、正極11の場合と同様に、PTFE、PVdF等の含フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどを用いてもよいが、好ましくはスチレン-ブタジエンゴム(SBR)が用いられる。また、負極合材層41には、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、PVAなどが含まれていてもよい。負極合材層41には、例えばSBRと、CMC又はその塩が含まれる。
【0037】
[セパレータ]
セパレータ13には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造であってもよく、積層構造を有していてもよい。また、セパレータ13の表面には、アラミド樹脂等の耐熱性の高い樹脂層、無機化合物のフィラーを含むフィラー層が設けられていてもよい。
【0038】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。ハロゲン置換体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0039】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0040】
上記エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の鎖状エーテルなどが挙げられる。
【0041】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、LiSCN、LiCFSO、LiCFCO、Li(P(C)F)、LiPF6-x(C2n+1(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li、Li(B(C)F)等のホウ酸塩類、LiN(SOCF、LiN(C2l+1SO)(C2m+1SO){l,mは0以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPFを用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、例えば非水溶媒1L当り0.8モル~1.8モルである。
【実施例
【0042】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
<実施例1>
[正極活物質の作製]
共沈法で得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を酸化焙焼して、Ni0.91Co0.045Al0.045Oで表される複合酸化物を合成した。当該複合酸化物と、LiOHとを、1:1.02のモル比で混合し、当該混合物を酸素気流下、800℃で3時間焼成してリチウム含有遷移金属複合酸化物(焼成物)を得た。焼成物は、一次粒子が凝集してなる二次粒子であった。炭酸アンモニウム水溶液を無水洗の焼成物に噴霧した後、200℃で3時間加熱して正極活物質を得た。上記Warder法により正極活物質1g当りの上記酸消費量Y-X、及びX-(Y-X)を求め、上記クロマトグラフ分析によりアンモニア量を求めた。なお、これらの値が、後述の表1に示す値となるように、炭酸アンモニウム水溶液の噴霧条件を調整した(以下同様)。
【0044】
[正極の作製]
上記正極活物質と、アセチレンブラックと、PVdFを、100:1:1の固形分質量比で混合し、N-メチル-2ピロリドン(NMP)を適量加えて正極合材スラリーを調製した。次に、当該正極合材スラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥して圧縮した後、所定の電極サイズに切断し、正極集電体の両面に正極合材層が形成された正極を作製した。
【0045】
[負極の作製]
黒鉛と、SBRと、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)を、100:1:1の固形分質量比で混合し、水を適量加えて負極合材スラリーを調製した。次に、当該負極合材スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥して圧縮した後、所定の電極サイズに切断し、負極集電体の両面に負極合材層が形成された負極を作製した。
【0046】
[非水電解質の調製]
ECと、EMCを、3:7の体積比(25℃、1気圧)で混合した。当該混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させて非水電解質を調製した。
【0047】
[試験セルの作製]
アルミニウム製リードを取り付けた上記正極と、ニッケル製リードを取り付けた上記負極を、ポリエチレン製のセパレータを介して渦巻状に巻回し、巻回型の電極体を作製した。当該電極体をアルミニウムラミネートシートで構成される外装体内に挿入し、上記非水電解質を注入した後、外装体を封止して試験セル(非水電解質二次電池)を作製した。
【0048】
<実施例2>
炭酸アンモニウムの代わりに炭酸ジルコニウムアンモニウムを用いたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質、正極、及び試験セルを作製した。即ち、炭酸ジルコニウムアンモニウムの水溶液を無水洗の焼成物に噴霧して熱処理した。なお、炭酸ジルコニウムアンモニウムの添加量は、複合酸化物のLiを除く金属元素の総モル数に対して、Zr換算で0.1mol%となるように調整した。
【0049】
<実施例3>
炭酸アンモニウム水溶液を添加したのち酸化タングステン粉末を加えたこと以外は、実施例2と同様にして正極活物質、正極、及び試験セルを作製した。なお、酸化タングステンの添加量は、複合酸化物のLiを除く金属元素の総モル数に対して、W換算で0.1mol%となるように調整した。
【0050】
<実施例4>
炭酸アンモニウム水溶液を添加したのち硫酸サマリウム水溶液を加えたこと以外は、実施例2と同様にして正極活物質、正極、及び試験セルを作製した。なお、硫酸サマリウムの添加量は、複合酸化物のLiを除く金属元素の総モル数に対して、Sm換算で0.06mol%となるように調整した。
【0051】
参考例1
リチウム含有遷移金属複合酸化物として、LiNi0.82Co0.15Al0.03で表される複合酸化物を用いたこと以外は、実施例2と同様にして正極活物質、正極、及び試験セルを作製した。
【0052】
参考例2
リチウム含有遷移金属複合酸化物として、LiNi0.85Co0.10Mn0.05で表される複合酸化物を用いたこと以外は、実施例2と同様にして正極活物質、正極、及び試験セルを作製した。
【0053】
<比較例1>
無水洗の焼成物をそのまま正極活物質として用いたこと以外は、実施例1と同様にして正極を作製した。
【0054】
<比較例2>
無水洗の焼成物に、アンモニア水を噴霧して、200℃で2時間加熱したこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質、及び正極を作製した。
【0055】
<比較例3>
アンモニア水の代わりに炭酸リチウムを分散させた液を用いたこと以外は、比較例2と同様にして正極活物質、及び正極を作製した。
【0056】
<比較例4>
アンモニア水に加えて、さらに炭酸リチウムを分散させた液を噴霧したこと以外は、比較例2と同様にして正極活物質、正極、及び試験セルを作製した。
【0057】
<比較例5>
炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液をアンモニアが240ppmの含有率、複合酸化物のLiを除く金属元素の総モル数に対してZr換算で0.1mol%となるように調整したこと以外は実施例2と同様にして正極活物質、正極、及び試験セルを作製した。
【0058】
<比較例6>
リチウム含有遷移金属複合酸化物として、LiNi0.82Co0.15Al0.03で表される複合酸化物を用いたこと以外は、比較例1と同様にして正極活物質、正極、及び試験セルを作製した。
【0059】
<比較例7>
リチウム含有遷移金属複合酸化物として、LiNi0.85Co0.10Mn0.05で表される複合酸化物を用いたこと以外は、比較例1と同様にして正極活物質、正極、及び試験セルを作製した。
【0060】
実施例及び比較例の各試験セルについて、保存試験(ガス発生量の測定)を行い、評価結果を表1に示した。
【0061】
[保存試験(ガス発生量の測定)]
0.1Cの定電流で4.2Vまで充電した後、電流値が0.01C相当になるまで4.2Vで定電圧充電して充電を完了した。10分間休止後、0.1Cの定電流で2.5Vになるまで放電した。上記充放電を2サイクル行った後、充電のみを1サイクル分実施した試験セルの体積を浮力法(アルキメデス法)で測定した。なお、サイクル間の休止時間は10分間とした。充電状態の試験セルを、85℃の恒温槽で3時間保存した。保存後の試験セルを室温まで降温した後、再度浮力法にて体積を測定した。保存前の体積と保存後の体積の差をガス発生量とし、正極活物質1g当りで規格化した。表1では、各組成の無水洗(比較例1、6、7)におけるガス発生量をそれぞれ100とする相対値を示す(実施例1~4、比較例2~5は比較例1を100とする相対値、実施例5は比較例6を100とする相対値、実施例6は比較例7を100とする相対値)。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように、実施例の試験セルはいずれも、比較例の試験セルと比べて、充電保存時におけるガス発生量が少ない。また、Zr、W、Sm等を複合酸化物の粒子表面に付着させることで、ガス発生がさらに抑制される(実施例1,2等参照)。
【符号の説明】
【0064】
10 非水電解質二次電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、15 電池ケース、16 外装缶、17 封口体、18,19 絶縁板、20 正極リード、21 負極リード、22 溝入部、23 フィルタ、24 下弁体、25 絶縁部材、26 上弁体、27 キャップ、28 ガスケット、30 正極集電体、31 正極合材層、40 負極集電体、41 負極合材層
図1