(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】核酸構造体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20230825BHJP
C12N 15/115 20100101ALI20230825BHJP
C12Q 1/6804 20180101ALI20230825BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12N15/115 Z ZNA
C12Q1/6804 Z
G01N33/53 D
G01N33/53 M
(21)【出願番号】P 2022541500
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2021028281
(87)【国際公開番号】W WO2022030378
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2020132829
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522414648
【氏名又は名称】Cranebio株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】葛谷 明紀
(72)【発明者】
【氏名】高橋 望
(72)【発明者】
【氏名】岡本 祐太
(72)【発明者】
【氏名】河野 幸子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 千尋
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 敬太
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】WALTER HK et al.,"DNA Origami Traffic Lights" with a Split Aptamer Sensor for a Bicolor Fluorescence Readout,Nano Lett., 2017, 17(4), pp.2467-2472
【文献】HOU T et al.,Label-free colorimetric detection of coralyne utilizing peroxidase-like split G-quadruplex DNAzyme,Anal. Methods, 2013, 5(18), pp.4671-4674
【文献】KUZUYA A et al.,Nanomechanical DNA origami 'single-molecule beacons' directly imaged by atomic force microscopy,Nat. Commun., 2011, 2:449
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分核酸構造体1及び部分核酸構造体2を含む核酸構造体であって、
前記部分核酸構造体1と前記部分核酸構造体2とがホリデイジャンクションで連結されており、
前記部分核酸構造体1が、核酸アプタマー配列を含む突出構造体1a、及び酵素の分割ドメイン1を含む突出構造体1bを含み、
前記部分核酸構造体2が、前記核酸アプタマー配列の一部又は全部に対する相補配列を含む突出構造体2a、及び前記分割ドメイン1の対となる分割ドメイン2を含む突出構造体2bを含み、且つ
前記ホリデイジャンクションの立体配座に基づく3つの構造体(構造型1、構造型2、及び構造型3:但し、構造型2は構造型1と構造型3との構造変化を介在する中間構造体である)の内、構造型1を採る際に前記突出構造体1aと前記突出構造体2aとが対向し、構造型3を採る際に前記突出構造体1bと前記突出構造体2bとが対向するように、これらの突出構造体が配置されている、
核酸構造体。
【請求項2】
前記部分構造体1及び前記部分構造体2が長尺状である、且つ請求項1に記載の核酸構造体。
【請求項3】
1本鎖環状核酸及び前記1本鎖環状核酸に対する相補配列を含むステープル核酸を含む材料から形成される構造体である、請求項1又は2に記載の核酸構造体。
【請求項4】
前記核酸アプタマー配列の認識物質の非存在下で前記突出構造体1aと前記突出構造体2aとが対向して相補塩基対形成に基づいて結合するように、これらの突出構造体が配置されている、請求項1~3のいずれかに記載の核酸構造体。
【請求項5】
前記核酸アプタマー配列の認識物質の存在下であり且つ一価の陽イオンの存在下で前記突出構造体1bと前記突出構造体2bとが対向して前記酵素を形成するように、これらの突出構造体が配置されている、請求項1~4のいずれかに記載の核酸構造体。
【請求項6】
前記酵素が2つ以上のGカルテットを含む核酸酵素である、請求項1~5のいずれかに記載の核酸構造体。
【請求項7】
前記核酸アプタマー配列の認識物質が生体物質である、請求項1~6のいずれかに記載の核酸構造体。
【請求項8】
前記核酸アプタマー配列の認識物質が核酸、タンパク質、ペプチド、低分子化合物
、及び金属イオンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~7のいずれかに記載の核酸構造体。
【請求項9】
ナノ構造体である、請求項1~8のいずれかに記載の核酸構造体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の核酸構造体を含有する、被検物質検出用組成物。
【請求項11】
試薬又は検査薬である、請求項10に記載の被検物質検出用組成物。
【請求項12】
請求項1~9のいずれかに記載の核酸構造体と
、被検物質を含み得る
、生体から得られた試料とを
インビトロで接触させることを含む、被検物質の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸構造体等に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸、タンパク質、ペプチド、低分子化合物、金属イオン等の物質の検出技術は、医療分野、環境分野等の各種分野で使用されている。例えば、特定の核酸等の生体分子の存在や量を指標として、疾患検査を行うことがある。
【0003】
一方、DNAオリガミは、1本鎖環状DNAを、該DNAと相補結合できる多数の短いDNA鎖(ステープルDNA)で折り畳むことによって形成される核酸構造体である。ステープルDNAの配列の設計次第で、自在に多様な構造体を作ることができる。非特許文献1では、2本の棒状構造体が一箇所の支点(ホリデイジャンクション)で連結されてなる構造のDNAオリガミ(DNAオリガミペンチ(或いはDNA pliers))が報告されている。DNAオリガミペンチは、ホリデイジャンクションの立体配座に基づく3つの構造体(
図9:アンチパラレル型、クロス型、パラレル型)を採り得る。これまで、DNAオリガミペンチの構造変化を利用して、Na+、Ag+、ストレプトアビジン、IgG、ATP、及びmiRNAを検出する技術が報告されている。しかし、これらの技術は、構造変化に基づく微弱な蛍光強度の変化を蛍光検出すること、或いは構造変化を原子間力顕微鏡により検出が必要であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Kuzuya, A., (2011) Nat. Commun. doi: 10.1038/ncomms1452
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、核酸構造体を用いてより簡便に被検物質を検出する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、部分核酸構造体1及び部分核酸構造体2を含む核酸構造体であって、前記部分核酸構造体1と前記部分核酸構造体2とがホリデイジャンクションで連結されており、前記部分核酸構造体1が、核酸アプタマー配列を含む突出構造体1a、及び酵素の分割ドメイン1を含む突出構造体1bを含み、且つ前記部分核酸構造体2が、前記核酸アプタマー配列の一部又は全部に対する相補配列を含む突出構造体2a、及び前記分割ドメイン1の対となる分割ドメイン2を含む突出構造体2bを含む、核酸構造体、であれば上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0007】
項1. 部分核酸構造体1及び部分核酸構造体2を含む核酸構造体であって、
前記部分核酸構造体1と前記部分核酸構造体2とがホリデイジャンクションで連結されており、
前記部分核酸構造体1が、核酸アプタマー配列を含む突出構造体1a、及び酵素の分割ドメイン1を含む突出構造体1bを含み、且つ
前記部分核酸構造体2が、前記核酸アプタマー配列の一部又は全部に対する相補配列を含む突出構造体2a、及び前記分割ドメイン1の対となる分割ドメイン2を含む突出構造体2bを含む、
核酸構造体。
【0008】
項2. 前記部分構造体1及び前記部分構造体2が長尺状である、且つ項1に記載の核酸構造体。
【0009】
項3. 1本鎖環状核酸及び前記1本鎖環状核酸に対する相補配列を含むステープル核酸を含む材料から形成される構造体である、項1又は2に記載の核酸構造体。
【0010】
項4. 前記ホリデイジャンクションの立体配座に基づく3つの構造体(構造型1、構造型2、及び構造型3:但し、構造型2は構造型1と構造型3との構造変化を介在する中間構造体である)の内、構造型1を採る際に前記突出構造体1aと前記突出構造体2aとが対向し、構造型3を採る際に前記突出構造体1bと前記突出構造体2bとが対向するように、これらの突出構造体が配置されている、項1~3のいずれかに記載の核酸構造体。
【0011】
項5. 前記核酸アプタマー配列の認識物質の非存在下で前記突出構造体1aと前記突出構造体2aとが対向して相補塩基対形成に基づいて結合するように、これらの突出構造体が配置されている、項4に記載の核酸構造体。
【0012】
項6. 前記核酸アプタマー配列の認識物質の存在下であり且つ一価の陽イオンの存在下で前記突出構造体1bと前記突出構造体2bとが対向して前記酵素を形成するように、これらの突出構造体が配置されている、項4又は5に記載の核酸構造体。
【0013】
項7. 前記酵素が2つ以上のGカルテットを含む核酸酵素である、項1~6のいずれかに記載の核酸構造体。
【0014】
項8. 前記核酸アプタマー配列の認識物質が生体物質である、項1~7のいずれかに記載の核酸構造体。
【0015】
項9. 前記核酸アプタマー配列の認識物質が核酸、タンパク質、ペプチド、低分子化合物、生理活性物質、及び金属イオンからなる群より選択される少なくとも1種である、項1~8のいずれかに記載の核酸構造体。
【0016】
項10. ナノ構造体である、項1~9のいずれかに記載の核酸構造体。
【0017】
項11. 項1~10のいずれかに記載の核酸構造体を含有する、被検物質検出用組成物。
【0018】
項12. 試薬又は検査薬である、項11に記載の被検物質検出用組成物。
【0019】
項13. 項1~10のいずれかに記載の核酸構造体と被検物質を含み得る試料とを接触させることを含む、被検物質の検出方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、核酸構造体を用いてより簡便に被検物質を検出する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】
図1を6分割してなる6つの図の内、最左側の図を示す。1本鎖環状DNA及びステープルDNAの配列、並びにステープル番号を示す。マーカー部分はステープルDNAを示す。黒バーは隣接する分割図との境界を示す。
【
図3】
図1を6分割してなる6つの図の内、最左側から2つ目の図を示す。1本鎖環状DNA及びステープルDNAの配列、並びにステープル番号を示す。マーカー部分はステープルDNAを示す。黒バーは隣接する分割図との境界を示す。
【
図4】
図1を6分割してなる6つの図の内、最左側から3つ目の図を示す。1本鎖環状DNA及びステープルDNAの配列、並びにステープル番号を示す。マーカー部分はステープルDNAを示す。黒バーは隣接する分割図との境界を示す。
【
図5】
図1を6分割してなる6つの図の内、最左側から4つ目の図を示す。1本鎖環状DNA及びステープルDNAの配列、並びにステープル番号を示す。マーカー部分はステープルDNAを示す。黒バーは隣接する分割図との境界を示す。
【
図6】
図1を6分割してなる6つの図の内、最左側から5つ目の図を示す。1本鎖環状DNA及びステープルDNAの配列、並びにステープル番号を示す。マーカー部分はステープルDNAを示す。黒バーは隣接する分割図との境界を示す。
【
図7】
図1を6分割してなる6つの図の内、最左側から6つ目(最右側)の図を示す。1本鎖環状DNA及びステープルDNAの配列、並びにステープル番号を示す。マーカー部分はステープルDNAを示す。黒バーは隣接する分割図との境界を示す。
【
図8】参考例1の核酸構造体において、1本鎖環状DNAのみを線状で示した模式図を示す。
【
図9】参考例2の核酸構造体の、ホリデイジャンクションの立体配座に基づく3つの構造体を示す。
【
図10】参考例2の核酸構造体の、K
+添加による構造変化を表すAFM観察像を示す。
【
図11】参考例2の核酸構造体の、K
+添加による各構造の割合の変化を示す。
【
図13】実施例1の核酸構造体の構造変化の概略図を示す。
【
図14】実施例1の核酸構造体の、miR-20添加による構造変化を表すAFM観察像を示す。
【
図15】実施例1の核酸構造体の、miR-20添加による各構造の割合の変化を示す。
【
図17】実施例3の核酸構造体の構造変化の概略図を示す。
【
図18】実施例3の核酸構造体の、R509添加による構造変化を表すAFM観察像を示す。
【
図19】実施例3の核酸構造体の、R509添加による各構造の割合の変化を示す。
【
図21】実施例5の核酸構造体の構造変化の概略図を示す。
【
図22】実施例5の核酸構造体の、N1添加による構造変化を表すAFM観察像を示す。
【
図23】実施例5の核酸構造体の、N1添加による各構造の割合の変化を示す。
【
図25】実施例7の核酸構造体の構造変化の概略図を示す。
【
図26】実施例7の核酸構造体の、トロンビン添加による構造変化を表すAFM観察像を示す。
【
図27】実施例7の核酸構造体の、トロンビン添加による各構造の割合の変化を示す。
【
図29】実施例9のLgBiT及びLgBiT-138wの電気泳動像を示す。
【
図30】実施例9の核酸構造体の構造変化の概略図を示す。
【
図31】実施例9の核酸構造体の、miR-20添加による構造変化を表すAFM観察像を示す。
【
図32】実施例9の核酸構造体の、miR-20添加による各構造の割合の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.定義
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0023】
本明細書において、塩基配列の「同一性」とは、2以上の対比可能な塩基酸配列の、お互いに対する塩基配列の一致の程度をいう。従って、ある2つの塩基配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。塩基配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(Karlin S, Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes”Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。
【0024】
本明細書において、DNA、RNAなどの核酸には、次に例示するように、公知の化学修飾が施されていてもよい。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2´-O-Me)、CH2CH2OCH3(2´-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これに限定されない。また、ヌクレオチドの糖部の2´酸素と4´炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したものであるBNA(LNA)等もまた、用いられ得る。
【0025】
2.核酸構造体
本発明は、部分核酸構造体1及び部分核酸構造体2を含む核酸構造体であって、前記部分核酸構造体1と前記部分核酸構造体2とがホリデイジャンクションで連結されており、前記部分核酸構造体1が、核酸アプタマー配列を含む突出構造体1a、及び酵素の分割ドメイン1を含む突出構造体1bを含み、且つ前記部分核酸構造体2が、前記核酸アプタマー配列の一部又は全部に対する相補配列を含む突出構造体2a、及び前記分割ドメイン1の対となる分割ドメイン2を含む突出構造体2bを含む、核酸構造体(本明細書において、「本発明の核酸構造体」と示すこともある。)に関する。以下にこれについて説明する。
【0026】
核酸構造体は、主に核酸を含む構造体である限り、特に制限されない。核酸構造体中の核酸の含有量は、例えば70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、よりさらに好ましくは98質量%以上、とりわけ好ましくは99質量%以上、特に好ましくは100質量%である。核酸構造体中の核酸以外の物質としては、特に制限されないが、例えばタンパク質、ペプチド、糖、標識物質、金属イオン等が挙げられる。
【0027】
核酸構造体は、三次元構造体であることもできるし、二次元構造体(平面構造体)であることもできるし、これらが組み合わされてなる構造体であることもできる。
【0028】
核酸構造体は、好ましくは、核酸が折り畳まれてなる構造体である。本発明の核酸構造体の形成に適しているという観点から、核酸構造体は、1本鎖環状核酸及び前記1本鎖環状核酸に対する相補配列を含むステープル核酸を含む材料から形成される構造体(DNAオリガミ)であることが好ましい。
【0029】
核酸構造体を構成し得る1本鎖環状核酸としては、折り畳まれてDNAオリガミを形成できる限りにおいて、特に制限されない。1本鎖環状核酸は、どのような塩基配列から構成されていても、それに合わせてステープルDNAの配列を設計することによりDNAオリガミを形成することができる。1本鎖環状核酸の塩基数は、特に制限されないが、例えば500~50000、好ましくは1000~25000、より好ましくは2000~15000、さらに好ましくは3000~12000、よりさらに好ましくは4000~10000である。1本鎖環状核酸の塩基配列としては、特に制限されないが、例えば、M13バクテリオファージDNA配列又は該DNA配列由来の配列を含む塩基配列が挙げられる。該塩基配列として、より具体的には、例えば配列番号273で示される塩基配列を含む塩基配列、又は配列番号273で示される塩基配列に対して70%以上の同一性(好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上、とりわけ好ましくは99%以上)の同一性を有する塩基配列を含む塩基配列が挙げられる。
【0030】
核酸構造体を構成し得るステープル核酸としては、1本鎖環状核酸に対する相補配列を含み、1本鎖環状核酸との相補塩基対形成により1本鎖環状核酸を折り畳んでDNAオリガミを形成させることができる限りにおいて、特に制限されない。ステープル核酸の塩基数は、特に制限されないが、例えば10~500、好ましくは20~250、より好ましくは30~100である。ステープル核酸において、1本鎖環状核酸に対する相補配列の塩基数は、特に制限されないが、例えば10~500、好ましくは20~250、より好ましくは30~100である。
図2~7においてマーカーで示されるステープルDNAのように、1つのステープル核酸は、通常、1本鎖環状核酸が折り畳まれた際に隣接して存在する複数の(例えば2~5、好ましくは2~4、より好ましくは2~3)の鎖それぞれに対する相補配列を含む。このような配列的特徴を有するステープル核酸は、1本鎖環状核酸との相補塩基対形成により、1本鎖環状核酸を折り畳まれた状態でより安定化させることができる。ただ、本発明の核酸構造体において、ホリデイジャンクション形成に関わる2つのステープル核酸(後述の参考例1では82s及び162s)は、例外的に、1本鎖環状核酸が折り畳まれた際に隣接して存在する複数の鎖にまたがって相補塩基対形成するのではなく、これら複数の鎖の内の1本に対してのみ相補塩基対形成することが好ましい。これまでに各種DNAオリガミが報告されており、所望の形状及び構造の核酸構造体を形成するためのステープル核酸の配列は、公知の方法及び情報に従って設計することができる。
【0031】
核酸構造体のサイズは、特に制限されず、被検物質の形状、大きさ等に応じて、適宜調節することができる。核酸構造体はナノサイズ(ナノ構造体)であることが好ましい。例えば核酸構造体は、最も長い径(長径)が1000nm以下である。本発明の一態様において、核酸構造体の長径は、例えば5~1000nm、好ましくは20~800nm、より好ましくは50~600nm、さらに好ましくは100~400nmである。
【0032】
核酸構造体は、部分核酸構造体1及び部分核酸構造体2を含む。部分核酸構造体1及び部分核酸構造体2それぞれは、上記の核酸構造体の一部分であり、ホリデイジャンクションによって互いが連結されている(一例として、
図1)。すなわち、部分核酸構造体1はホリデイジャンクションを構成する4つのアームの内の2つのアームを有し、部分核酸構造体2は残りの2つのアームを有する。後述の参考例1では、部分核酸構造体1においてステープル番号82sのステープルDNAと1本鎖環状核酸とが形成する2本鎖DNAが2つのアームを構成し、部分核酸構造体2においてステープル番号162sのステープルDNAと1本鎖環状核酸とが形成する2本鎖DNAが残りの2つのアームを構成する。
【0033】
核酸構造体は、ホリデイジャンクションの立体配座に基づく3つの構造体(構造型1、構造型2、及び構造型3)を採り得る。構造型2は、構造型1と構造型3との構造変化を介在する中間構造体である。すなわち、構造型1は、構造型2を経て構造型3へと構造変化し、構造型3は、構造型2を経て構造型1へと構造変化することができる(例えば
図13)。後述の参考例及び実施例のように構造型1と構造型3とで核酸構造体の形状が異なる場合、一態様として、構造型1をアンチパラレル型(又はパラレル型)、構造型3をパラレル型(又はアンチパラレル型)と表すことができる。構造型2は、通常、部分核酸構造体1及び部分核酸構造体2がクロスした状態で固定されるので、クロス型と表すことができる。
【0034】
部分構造体1及び部分構造体2それぞれの形状は、特に制限されない。形状としては、例えば長方形、三角形、多角形、楕円、扇形、多面体、錐体、柱体、楕円体等、或いはこれらの形状が複数組み合わされてなる形状等が挙げられる。形状は、本発明の一態様においては、長尺状(例えば、最も長い径が、最も短い径(厚みは除く)の、例えば1.5倍以上、2倍以上、又は4倍以上)であることが好ましい。
【0035】
部分構造体1及び部分構造体2それぞれのサイズは、特に制限されず、被検物質の形状、大きさ等に応じて、適宜調節することができる。部分構造体1及び部分構造体2それぞれはナノサイズ(ナノ構造体)であることが好ましい。例えば部分構造体1及び部分構造体2それぞれは、最も長い径(長径)が1000nm以下である。本発明の一態様において、部分構造体1及び部分構造体2それぞれの長径は、例えば5~1000nm、好ましくは20~800nm、より好ましくは50~600nm、さらに好ましくは100~400nmである。
【0036】
部分核酸構造体1は、核酸アプタマー配列を含む突出構造体1aを含み、且つ部分核酸構造体2は、核酸アプタマー配列の一部又は全部に対する相補配列を含む突出構造体2aを含む。
【0037】
核酸アプタマー配列は、ある物質(認識物質)と結合する(好ましくは、特異的に結合する)ことができる核酸配列である限り、特に制限されない。認識物質としては、核酸アプタマーと結合し得るものである限り特に制限されず、例えば核酸、タンパク質、ペプチド、低分子化合物、生理活性物質、金属イオン等が挙げられる。本発明の一態様において、認識物質は、生体物質であることが好ましい。認識物質が核酸である場合は、核酸アプタマー配列は、認識物質である核酸に対する相補配列を含む。核酸アプタマー配列としては、ある物質に対して公知の核酸アプタマー配列を採用することもできるし、公知の方法(例えばSELEX法)によりスクリーニングして得られた配列を採用することもできる。核酸アプタマー配列の塩基数は、特に制限されないが、例えば5~500、好ましくは10~250、より好ましくは20~100である。
【0038】
核酸アプタマー配列の一部又は全部に対する相補配列は、特に制限されないが、好ましくは核酸アプタマー配列の一部(例えば核酸アプタマー配列の70%以下、60%以下、50%以下)に対する相補配列である。
【0039】
突出構造体1a及び突出構造体2aは、核酸アプタマー配列又は核酸アプタマー配列の一部又は全部に対する相補配列を含み、部分核酸構造体1及び部分核酸構造体2において突出した(例えば相補対形成等により、構造体内部に組み込まれていない)構造となっている限り、特に制限されない。例えば、突出構造体1a及び突出構造体2aは、ステープル核酸の一部である。この例においては、ステープル核酸が、1本鎖環状核酸に対する相補配列と、核酸アプタマー配列又は核酸アプタマー配列の一部又は全部に対する相補配列とを含み、後者は、1本鎖環状核酸と相補結合せずに、1本鎖核酸からなる突出構造体を形成する。
【0040】
突出構造体1aの数は、特に制限されるものではないが、例えば1~30、2~20、3~10、2~7である。また、突出構造体2aの数は、特に制限されるものではないが、例えば1~30、2~20、3~10、2~7である。
【0041】
部分核酸構造体1は、酵素の分割ドメイン1を含む突出構造体1bを含み、且つ部分核酸構造体2は、分割ドメイン1の対となる分割ドメイン2を含む突出構造体2bを含む。
【0042】
本発明で採用する酵素は、それ自身が酵素活性を有する、或いは補因子などの他の物質と結合することにより酵素活性を発揮できる核酸又はタンパク質であって、2つに分割可能(すなわち、分割しても、再会合して酵素活性を発揮できる)ものである限り、特に制限されない。酵素としては、好ましくは、2つ以上のGカルテットを含む核酸酵素、発光タンパク質等が挙げられる。Gカルテットは、4つのグアニン塩基がHoogsteen型水素結合により形成する平面構造である。これが2つ以上積み重なることによりグアニン4重鎖と称される高次構造となる。該高次構造は、ヘムの存在下で、ペルオキシダーゼ活性を発揮することができる。発光タンパク質としては、例えばNanoLuc(Promega)が挙げられる。NanoLucはフリマジンを基質とする発光酵素であり、その発光強度は非常に強く、ホタルルシフェラーゼの約100倍の発光強度をもつとされる。LgBiT(Promega)とSmBiT(Promega)は、NanoLucのサブユニットであり、これらが相互作用することで発光酵素として再構成される。LgBiTは約18 kDaの大サブユニットであり、SmBiTは、11アミノ酸残基の小サブユニットである。LgBiTとSmBiTの解離定数は190 μMであり、その親和性は極めて低く、単に混合しただけでは発光酵素活性を発現しない(Andrew, D., (2016) ACS Chem. Biol. 11, 400-408)。
【0043】
分割ドメイン1及び分割ドメイン2は、酵素を2つに分割してなるドメインである。分割位置は、再会合して酵素活性を発揮できる限り、特に制限されない。酵素が2つ以上のGカルテットを含む核酸酵素である場合、分割ドメイン1(分割核酸配列1)及び分割ドメイン2(分割核酸配列2)は、一価の陽イオン(例えばカリウムイオン、ナトリウムイオン等)の存在下で会合してGカルテットを形成できる核酸配列である限り、特に制限されない。このような核酸配列としては、例えばグアニン塩基が2つ以上(例えば2~4、2~3)連続してなる構成単位とグアニン塩基以外の塩基が1つ以上(例えば1~5、2~3)が連続してなる構成単位とが交互に配置されてなる核酸配列が挙げられる。このような核酸配列として、代表的にはテロメアエレメント配列が挙げられる。酵素がNanoLuc等の発光タンパク質である場合、分割ドメイン1(分割ペプチド配列1)及び分割ドメイン2(分割ペプチド配列2)は、両者が安定に近接状態を保つことができる条件下で発光酵素活性を発現可能なペプチド配列である限り、特に制限されない。分割ペプチド配列は、発光タンパク質の種類、目的の解離定数等に応じて、公知の情報に従って又は準じて、決定することができる。
【0044】
突出構造体1b及び突出構造体2bは、分割ドメイン1又は分割ドメイン2を含み、部分核酸構造体1及び部分核酸構造体2において突出した(例えば相補対形成等により、構造体内部に組み込まれていない)構造となっている限り、特に制限されない。例えば、突出構造体1b及び突出構造体2bは、ステープル核酸の一部である。この例においては、ステープル核酸が、1本鎖環状核酸に対する相補配列と、分割ドメイン1又は分割ドメイン2とを含み、後者は、1本鎖環状核酸と相補結合せずに、1本鎖核酸からなる突出構造体を形成する。
【0045】
突出構造体1bの数は、特に制限されるものではないが、例えば1~30、2~20、3~10、2~7である。また、突出構造体2bの数は、特に制限されるものではないが、例えば1~30、2~20、3~10、2~7である。
【0046】
突出構造体1aと突出構造体2aの配置は、核酸アプタマー配列の認識物質の非存在下で突出構造体1aと突出構造体2aとが対向して相補塩基対形成に基づいて結合するような配置である限り、特に制限されない。例えば、構造型1を採る際に突出構造体1aと突出構造体2aとが対向するように、これらが配置されている。突出構造体1aと突出構造体2aとが対向する場合においては、突出構造体1bと突出構造体2bとは対向しないことが好ましい。
【0047】
突出構造体1bと突出構造体2bの配置は、核酸アプタマー配列の認識物質の存在下で(核酸酵素が2つ以上のGカルテットを含む核酸酵素である場合は、さらに一価の陽イオンの存在下で)、突出構造体1bと突出構造体2bとが対向して核酸酵素を形成するような配置である限り、特に制限されない。例えば、構造型3を採る際に突出構造体1bと突出構造体2bとが対向するように、これらが配置されている。突出構造体1bと突出構造体2bとが対向する場合においては、突出構造体1aと突出構造体2aとは対向しないことが好ましい。
【0048】
突出構造体1a、突出構造体2a、突出構造体1b、及び突出構造体2bは、支点であるホリデイジャンクション近傍に配置されていることが好ましい。例えば、これらの突出構造体は、部分核酸構造体1又は部分核酸構造体2においてホリデイジャンクションを構成する2本のアームの境目から、例えば300塩基以内、200塩基以内、150塩基以内に配置されていることが好ましい。これにより、被検物質の非存在下又は存在下における目的の構造を、より安定に保つことができ、ひいては被検物質の検出感度をより高めることができる。
【0049】
本発明の核酸構造体は、公知の方法に従って又は準じて製造することができる。例えば、1本鎖環状核酸と、該1本鎖環状核酸に対する相補配列を含むステープル核酸とを含む溶液を、塩基対形成がほとんど起こらない程度に高温(例えば80℃以上、85℃以上、90℃以上)に加熱した後、徐々に(例えば、15秒間~5分間、30秒間~3分間、45秒間~2分間に、1℃ずつ温度が低下するように)冷却することにより、製造することができる。
【0050】
3.用途
本発明の核酸構造体は、
図13に一例が示されるように、被検物質の非存在下では、突出構造体1aと突出構造体2aとが対向して相補塩基対形成に基づいて結合し、構造型1(又は構造型3)が優勢となる。一方、被検物質の存在下では、突出構造体1aと被検物質が結合することにより突出構造体1aと突出構造体2aとの結合が解離し、それに伴い突出構造体1bと突出構造体2bとが対向して核酸酵素を形成し、構造型3(又は構造型1)が優勢となる。このため、この核酸酵素の活性を検出することにより、被検物質を検出することができる。よって、本発明の核酸構造体は、被検物質検出用に(例えば被検物質検出用組成物の構成物質として)、使用することができる。
【0051】
この観点から、本発明は、その一態様において、本発明の核酸構造体を含有する、被検物質検出用組成物(本発明の組成物)、本発明の核酸構造体と被検物質を含み得る試料とを接触させることを含む、被検物質の検出方法(本発明の検出方法)等に関する。以下に、これらについて説明する。
【0052】
被検物質としては、核酸アプタマーと結合し得るものである限り特に制限されず、例えば核酸、タンパク質、ペプチド、低分子化合物、生理活性物質、金属イオン等が挙げられる。本発明の一態様において、被検物質は、生体物質であることが好ましい。
【0053】
被験物質が生体物質である場合、その一態様においては、その生体物質を含む生物を検出することができる。このような生物としては、例えばウイルスが挙げられる。ウイルスとしては、例えばインフルエンザウイルス(例えばA型、B型等)、風疹ウイルス、エボラウイルス、コロナウイルス、麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、ムンプスウイルス、アルボウイルス、RSウイルス、SARSウイルス、肝炎ウイルス(例えば、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス等)、黄熱ウイルス、エイズウイルス、狂犬病ウイルス、ハンタウイルス、デングウイルス、ニパウイルス、リッサウイルス等のエンベロープウイルス(エンベロープを有するウイルス); アデノウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、ヒトパピローマウイルス、ポリオウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、ヒトパルボウイルス、脳心筋炎ウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルス等の非エンベロープウイルス(エンベロープを有さないウイルス)等が挙げられる。これらの中でも、コロナウイルスが特に好ましい。
【0054】
コロナウイルスは、オルトコロナウイルス亜科に属するウイルスである。コロナウイルスとしては、アルファコロナウイルス属、ベータコロナウイルス属、ガンマコロナウイルス属、デルタコロナウイルス属等が挙げられ、これらの中でも、ベータコロナウイルス属が好ましい。ベータコロナウイルス属としては、SARS関連コロナウイルス(SARSr-CoV)、広コロナウイルスHKU1、MERSコロナウイルス等が挙げられ、これらの中でも、SARSr-CoVが好ましい。SARSr-CoVとしては、SARS-CoV-2、SARS-CoV-1等が挙げられ、これらの中でもSARS-CoV-2が好ましい。本発明の剤は、特にSARS-CoV-2に対して好適に使用することができる。
【0055】
本発明の組成物は、必要に応じて他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
【0056】
本発明の組成物は、キットを構成するものであってもよい。キットには、本発明の検査方法の実施に用いられ得る器具、試薬などが含まれていてもよい。器具としては、例えば試験管、マイクロタイタープレート、アガロース粒子、精製用カラム、エポキシコーティングスライドガラス、金コロイドコーティングスライドガラス、マイクロチューブなどが挙げられる。試薬としては、例えば核酸酵素の補因子、一価の陽イオンを含む緩衝液、標準試料(陽性対照、陰性対照)などが挙げられる。
【0057】
本発明の検出方法で使用する、被検物質を含み得る試料としては、特に制限されないが、例えば生体試料、より具体的には例えば全血、血清、血漿、卵胞液、経血、唾液、髄液、関節液、尿、組織液、汗、涙、唾液などの体液、これらの体液由来の試料(例えば精製物等)、組織片、組織片由来の試料(例えば破砕物、精製物等)等が挙げられる。
【0058】
本発明の核酸構造体と試料との接触前、接触時、又は接触後には、必要に応じて、一価の陽イオンを添加することができる。例えば、核酸酵素が2つ以上のGカルテットを含む核酸酵素である場合、一価の陽イオンの存在によりGカルテットが形成される。
【0059】
本発明の核酸構造体と試料との接触前、接触時、又は接触後には、必要に応じて、核酸酵素の補因子を添加することができる。例えば、核酸酵素が2つ以上のGカルテットを含む核酸酵素である場合、ヘミン等のヘムの存在により、ペルオキシダーゼ活性を発揮できるようになる。
【0060】
接触は、本発明の一態様において、溶液中で行われるが、これに制限されることはない。溶液中の本発明の核酸構造体濃度は、特に制限されないが、例えば0.1~100nM、好ましくは0.5~20nM、より好ましくは1.5~10nMである。上記溶液中が一価の陽イオンを含む場合、その濃度は、例えば10mM~1M、好ましくは50~600mM、より好ましくは100~300mMである。
【0061】
接触が行われる溶液のpHは、より短時間で検出可能であるという観点から、好ましくは2~10、より好ましくは3.5~7.5、さらに好ましくは4.5~5.5である。
【0062】
接触後、核酸酵素の酵素活性を検出することにより、被検物質を検出することができる。酵素活性の検出は、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。本発明の好ましい一態様においては、核酸酵素の酵素活性により呈色するようになる基質を添加することが好ましい。これにより、目視により、或いは簡便な吸光度測定により、色の変化の有無(すなわち、被検物質の有無や量)を検出又は測定することができる。酵素活性がペルオキシダーゼ活性である場合、このような基質としては、例えばTMB(3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン)、OPD(o-フェニレンジアミン二塩酸塩)、ABTS(2,2'-アジノビス[3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸]-ジアンモニウム塩)等が挙げられる。
【実施例】
【0063】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0064】
参考例1.核酸構造体の調製1
1本鎖環状DNAとして、M13mp18(配列番号273)をtilibit nanosystemsより購入して準備した。また、1本鎖環状DNAとの相補結合により核酸構造体を構成するステープルDNA(配列番号1~236)をIDTより購入して準備した。M13mp18を終濃度4 nMになるように、またステープルDNAを終濃度各20 nMになるように、Tris 40 mM、酢酸 20 mM、EDTA 2 mM、酢酸マグネシウム 12.5 mMを含む溶液(1×TAE/Mg2+溶液)中に混合した。この混合溶液をPCRサーマルサイクラーにより90℃まで加熱した後、1分間あたり-1.0℃の速度で25℃まで冷却した。余分なステープルは遠心式限外ろ過フィルター(Amicon Ultra 0.5 mL-100 K、ミリポア)を用いて除いた。
【0065】
原子間力顕微鏡(AFM)観察を行い、ペンチ又はPlier状の核酸構造体が形成されていることを確認した。長径は、200nm前後であった。
【0066】
使用したステープルDNAのステープル番号、塩基配列、及び配列番号を表1~6に示す。また、核酸構造体の全体図を
図1に示し、該全体図を6分割した図を
図2~7に示す。さらに、核酸構造体において、1本鎖環状DNAのみを線状で示した模式図を
図8に示す。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
参考例2.核酸構造体の調製2
一部のステープルDNAを他のステープルDNAに変更する以外は、参考例1と同様にして核酸構造体を調製した。対応する参考例1のステープル番号、並びに使用したステープルDNAのステープル番号、塩基配列、及び配列番号を表7に示す。得られる核酸構造体の構造は、部分構造体1及び部分構造体2それぞれにおいて下記のテロメアエレメント配列の1本鎖DNAからなる突出構造体を含む以外は、参考例1の核酸構造体の構造と同様である。
【0074】
【0075】
「Telo」なる表記があるステープル番号のステープルDNAは、テロメアエレメント配列(Gの3つ繰り返し配列単位を2つ含む)を含む。テロメアエレメント配列は、M13mp18と相補結合せずに、1本鎖DNAからなる突出構造体を形成する。ホリデイジャンクションの立体配座に基づく3つの構造体(
図9:但し、CrossはAntiparallelとParalelとの構造変化を介在する中間構造体である)の内、Paralelを採る際に、部分構造体1中の上記突出構造体と部分構造体2中の上記突出構造体とが対向するように、これらの突出構造体が配置されている(すなわち、テロメアエレメント配列を含むステープルDNAが配置されている)。部分構造体1中のテロメアエレメント配列と部分構造体2中のテロメアエレメント配列とは、一価の陽イオンの存在下で連結してGカルテット構造(核酸酵素:ヘムがスタックすることによりペルオキシダーゼ(HRP)活性を発揮できる)を形成することができる。
【0076】
調製した核酸構造体を含む溶液にKCl溶液(1 M KClを1×TAE/Mg2+溶液に溶解)を添加、または添加せずに5分間静置した。その上でAFM観察を行い、K+の存在を核酸構造体の構造の違いとしてイメージ化した。核酸構造体を含む溶液は、核酸構造体3.2 nMを含みかつKCl 0 mMまたはKCl 200 mMを含むものとした。さらに、取得した画像から核酸構造体の各構造を計数し、その割合を調べた。
【0077】
AFM観察像を
図10に示す。また、各構造の割合を
図11に示す。K
+の添加により、パラレル型への構造変化が確認された。
【0078】
参考例3.酵素活性の検出1
核酸構造体(参考例2)を含む溶液にKCl溶液(1 M KClを1×TAE/Mg2+溶液に溶解)を添加、または添加せずに5分間静置した後、ヘミン(DMSOに100 μMで溶解)を添加し、1時間静置した。核酸構造体を含む溶液は、核酸構造体3.2 nM、ヘミン4.0 μMを含みかつKCl 0 mMまたはKCl 200 mMを含むものとした。その上で1-Step Ultra TMB-ELISA(カタログ番号34028、Thermo SCIENTIFIC)を等量添加し、K+の存在を色としてイメージ化した。
【0079】
結果を
図12に示す。パラレル型核酸構造体を多く含む場合(K
+添加)は強い青色を呈した。このことから、パラレル型核酸構造体においてGカルテット構造が形成されることにより、酵素活性を発揮できることが分かった。
【0080】
実施例1.核酸構造体の調製3
一部のステープルDNAを他のステープルDNAに変更する以外は、参考例1と同様にして核酸構造体を調製した。対応する参考例1のステープル番号、並びに使用したステープルDNAのステープル番号、塩基配列、及び配列番号を表8及び9に示す。得られる核酸構造体の構造は、部分構造体1及び部分構造体2それぞれにおいて、テロメアエレメント配列の1本鎖DNAからなる突出構造体を含み、部分核酸構造体1が核酸アプタマー配列(miR-20(Mature sequence hsa-miR-20a-5p:配列番号274)の相補配列)を含む突出構造体を含み、且つ部分核酸構造体2が前記核酸アプタマー配列の一部に対する相補配列を含む以外は、参考例1の核酸構造体の構造と同様である。
【0081】
【0082】
【0083】
「Telo」なる表記があるステープル番号のステープルDNAは、テロメアエレメント配列(Gの3つ繰り返し配列単位を2つ含む)を含む。テロメアエレメント配列が形成する構造、その位置等については、参考例2と同様である。部分構造体1中のテロメアエレメント配列と部分構造体2中のテロメアエレメント配列とは、miR-20及び一価の陽イオンの存在下で連結してGカルテット構造(核酸酵素:ヘムがスタックすることによりペルオキシダーゼ(HRP)活性を発揮できる)を形成することができる。
【0084】
「M20」なる表記があるステープル番号のステープルDNAは、miR-20の相補配列又は該配列の一部に対する相補配列を含む。これらの配列は、M13mp18と相補結合せずに、1本鎖DNAからなる突出構造体を形成する。ホリデイジャンクションの立体配座に基づく3つの構造体(
図9:但し、CrossはAntiparallelとParalelとの構造変化を介在する中間構造体である)の内、Antiparalelを採る際に、部分構造体1中の上記突出構造体と部分構造体2中の上記突出構造体とが対向するように、これらの突出構造体が配置されている(すなわち、miR-20の相補配列又は該配列の一部に対する相補配列を含むステープルDNAが配置されている)。部分構造体2中のmiR-20の相補配列と部分構造体1中の、該配列の一部に対する相補配列とは、miR-20の非存在下で相補塩基対形成に基づいて結合することができる。
【0085】
すなわち、本実施例の核酸構造体は、
図13に示されるように、miR-20の非存在下では相補結合に基づいてアンチパラレル型に固定されており、miR-20の存在下で、相補結合が解離してクロス型に構造変化し、そこに一価の陽イオンが存在することによりGカルテット構造形成に基づいてパラレル型に構造変化し、ペルオキシダーゼ活性を発現することができる。
【0086】
調製した核酸構造体を含む溶液にKCl溶液(1 M KClを1×TAE/Mg2+溶液に溶解)を添加し5分間静置した後、被検物質であるmiR20(RNase-free Water(カタログ番号 9012、TaKaRa)に200 μMで溶解)を添加し、1時間静置した。その上でAFM観察を行い、miR20の存在を核酸構造体の構造の違いとしてイメージ化した。核酸構造体を含む溶液は、核酸構造体3.2 nM、miR20 1 μMを含みかつKCl 200 mMを含むものとした。さらに、取得した画像から核酸構造体の各構造を計数し、その割合を調べた。
【0087】
AFM観察像を
図14に示す。また、各構造の割合を
図15に示す。miR-20の添加前は大半はアンチパラレル型であり、miR-20の添加により、アンチパラレル型からパラレル型へ構造変化することが分かった。
【0088】
実施例2.酵素活性の検出2
核酸構造体(実施例1)を含む溶液にKCl溶液(1 M KClを1×TAE/Mg2+溶液に溶解)を添加し5分間静置した後、被検物質であるmiR20(RNase-free Water(カタログ番号 9012、TaKaRa)に200μMで溶解)を添加し1時間静置した。さらにヘミン(DMSOに100μMで溶解)を添加し、1時間静置した。核酸構造体を含む溶液は、核酸構造体3.2 nM、miR20 10μM、ヘミン4.0μMを含みかつKCl 200 mMを含むものとした。その上で1-StepTM Ultra TMB-ELISA(カタログ番号34028、Thermo SCIENTIFIC)を等量添加し、miR20の存在を色としてイメージ化した。
【0089】
結果を
図16に示す。miR-20を含む場合は強い青色を呈した。このことから、核酸構造体を用いてmiR-20を色の変化として検出できることが分かった。
【0090】
従来のDNAナノ構造体では、分割したG-カルテット配列の安定性が高く、分割した状態を保つのが難しかったが、本発明では、反対側(アンチパラレル型)にあらかじめ固定することで、酵素活性のリークを防ぐことに成功した。本発明の技術を使用することにより、例えば生体分子に結合するDNA鎖の数を変えることで、酵素活性を制御できる。本発明の技術は、イムノクロマト法とは異なり、抗体やアプタマーを基盤となる膜等への固定を必要としない点で、優れている。また、本発明の技術は、核酸のみで構成することができるので、抗体と比べてロット差が少なく短時間かつ安価で簡便に大量合成可能である。
【0091】
実施例3.核酸構造体の調製4
一部のステープルDNAを他のステープルDNAに変更する以外は、参考例1と同様にして核酸構造体を調製した。対応する参考例1のステープル番号、並びに使用したステープルDNAのステープル番号、塩基配列、及び配列番号を表10及び11に示す。得られる核酸構造体の構造は、部分構造体1及び部分構造体2それぞれにおいて、テロメアエレメント配列の1本鎖DNAからなる突出構造体を含み、部分核酸構造体1が核酸アプタマー配列(R509(配列番号297)の相補配列))を含む突出構造体を含み、且つ部分核酸構造体2が前記核酸アプタマー配列の一部に対する相補配列を含む以外は、参考例1の核酸構造体の構造と同様である。R509は、NIID_WH-1_F509 (国立感染症研究所病原体検出マニュアル2019-nCoVVer.2.9.1)の相補配列である。
【0092】
【0093】
【0094】
「Telo」なる表記があるステープル番号のステープルDNAは、テロメアエレメント配列(Gの3つ繰り返し配列単位を2つ含む)を含む。テロメアエレメント配列が形成する構造、その位置等については、参考例2と同様である。部分構造体1中のテロメアエレメント配列と部分構造体2中のテロメアエレメント配列とは、R509及び一価の陽イオンの存在下で連結してGカルテット構造(核酸酵素:ヘムがスタックすることによりペルオキシダーゼ(HRP)活性を発揮できる)を形成することができる。
【0095】
「CF509」なる表記があるステープル番号のステープルDNAは、R509の相補配列又は該配列の一部に対する相補配列を含む。これらの配列は、M13mp18と相補結合せずに、1本鎖DNAからなる突出構造体を形成する。ホリデイジャンクションの立体配座に基づく3つの構造体(
図9:但し、CrossはAntiparallelとParalelとの構造変化を介在する中間構造体である)の内、Antiparalelを採る際に、部分構造体1中の上記突出構造体と部分構造体2中の上記突出構造体とが対向するように、これらの突出構造体が配置されている(すなわち、R509の相補配列又は該配列の一部に対する相補配列を含むステープルDNAが配置されている)。部分構造体2中のR509の相補配列と部分構造体1中の、該配列の一部に対する相補配列とは、R509の非存在下で相補塩基対形成に基づいて結合することができる。
【0096】
すなわち、本実施例の核酸構造体は、
図17に示されるように、R509の非存在下では相補結合に基づいてアンチパラレル型に固定されており、R509の存在下で、相補結合が解離してクロス型に構造変化し、そこに一価の陽イオンが存在することによりGカルテット構造形成に基づいてパラレル型に構造変化し、ペルオキシダーゼ活性を発現することができる。
【0097】
調製した核酸構造体を含む溶液にKCl溶液(1 M KClを1×TAE/Mg2+溶液に溶解)を添加し5分間静置した後、被検物質であるR509(RNase-free Water(カタログ番号 9012、TaKaRa)に200 μMで溶解)、或いは被験物質ではないR29142 (配列番号344)を添加し、1時間静置した。その上でAFM観察を行い、R509の存在を核酸構造体の構造の違いとしてイメージ化した。核酸構造体を含む溶液は、核酸構造体3.2 nM、R509 1 μMを含みかつKCl 200 mMを含むものとした。さらに、取得した画像から核酸構造体の各構造を計数し、その割合を調べた。R29142は、NIID_2019-nCOV_N_F2(国立感染症研究所病原体検出マニュアル2019-nCoVVer.2.9.1)の相補配列である。
【0098】
AFM観察像を
図18に示す。また、各構造の割合を
図19に示す。R509の添加前は大半はアンチパラレル型であり、R509の添加により、アンチパラレル型からパラレル型へ構造変化することが分かった。さらに、R29142の添加では、アンチパラレル型からパラレル型へ構造変化しないことが分かった。
【0099】
実施例4.酵素活性の検出3
核酸構造体(実施例3)を含む溶液にKCl溶液(1 M KClを1×TAE/Mg2+溶液に溶解)を添加し5分間静置した後、被検物質であるR509(RNase-free Water(カタログ番号 9012、TaKaRa)に200 μMで溶解)を添加し1時間静置した。さらにヘミン(DMSOに100 μMで溶解)を添加し、1時間静置した。核酸構造体を含む溶液は、核酸構造体3.2 nM、R509 10 μM、ヘミン4.0 μMを含みかつKCl 200 mMを含むものとした。その上で1-StepTM Ultra TMB-ELISA(カタログ番号34028、Thermo SCIENTIFIC)を等量添加し、R509の存在を色としてイメージ化した。
【0100】
結果を
図20に示す。R509を含む場合は強い青色を呈した。このことから、核酸構造体を用いてR509を色の変化として検出できることが分かった。
【0101】
従来のDNAナノ構造体では、分割したG-カルテット配列の安定性が高く、分割した状態を保つのが難しかったが、本発明では、反対側(アンチパラレル型)にあらかじめ固定することで、酵素活性のリークを防ぐことに成功した。本発明の技術を使用することにより、例えば生体分子に結合するDNA鎖の数を変えることで、酵素活性を制御できる。本発明の技術は、イムノクロマト法とは異なり、抗体やアプタマーを基盤となる膜等への固定を必要としない点で、優れている。また、本発明の技術は、核酸のみで構成することができるので、抗体と比べてロット差が少なく短時間かつ安価で簡便に大量合成可能である。
【0102】
実施例5.核酸構造体の調製5
一部のステープルDNAを他のステープルDNAに変更する以外は、参考例1と同様にして核酸構造体を調製した。対応する参考例1のステープル番号、並びに使用したステープルDNAのステープル番号、塩基配列、及び配列番号を表12及び13に示す。得られる核酸構造体の構造は、部分構造体1及び部分構造体2それぞれにおいて、テロメアエレメント配列の1本鎖DNAからなる突出構造体を含み、部分核酸構造体1が核酸アプタマー配列(N1(配列番号320)の相補配列)を含む突出構造体を含み、且つ部分核酸構造体2が前記核酸アプタマー配列の一部に対する相補配列を含む以外は、参考例1の核酸構造体の構造と同様である。N1の相補配列は、N_Sarbeco_P1(国立感染症研究所病原体検出マニュアル2019-nCoVVer.2.9.1)の核酸配列の相補配列である。
【0103】
【0104】
【0105】
「Telo」なる表記があるステープル番号のステープルDNAは、テロメアエレメント配列(Gの3つ繰り返し配列単位を2つ含む)を含む。テロメアエレメント配列が形成する構造、その位置等については、参考例2と同様である。部分構造体1中のテロメアエレメント配列と部分構造体2中のテロメアエレメント配列とは、N1及び一価の陽イオンの存在下で連結してGカルテット構造(核酸酵素:ヘムがスタックすることによりペルオキシダーゼ(HRP)活性を発揮できる)を形成することができる。
【0106】
「N1」なる表記があるステープル番号のステープルDNAは、N1の相補配列又は該配列の一部に対する相補配列を含む。これらの配列は、M13mp18と相補結合せずに、1本鎖DNAからなる突出構造体を形成する。ホリデイジャンクションの立体配座に基づく3つの構造体(
図9:但し、CrossはAntiparallelとParalelとの構造変化を介在する中間構造体である)の内、Antiparalelを採る際に、部分構造体1中の上記突出構造体と部分構造体2中の上記突出構造体とが対向するように、これらの突出構造体が配置されている(すなわち、N1の相補配列又は該配列の一部に対する相補配列を含むステープルDNAが配置されている)。部分構造体2中のN1の相補配列と部分構造体1中の、該配列の一部に対する相補配列とは、N1の非存在下で相補塩基対形成に基づいて結合することができる。
【0107】
すなわち、本実施例の核酸構造体は、
図21に示されるように、N1の非存在下では相補結合に基づいてアンチパラレル型に固定されており、N1の存在下で、相補結合が解離してクロス型に構造変化し、そこに一価の陽イオンが存在することによりGカルテット構造形成に基づいてパラレル型に構造変化し、ペルオキシダーゼ活性を発現することができる。
【0108】
調製した核酸構造体を含む溶液にKCl溶液(1 M KClを1×TAE/Mg2+溶液に溶解)を添加し5分間静置した後、被検物質であるN1(RNase-free Water(カタログ番号 9012、TaKaRa)に200 μMで溶解)を添加し、1時間静置した。その上でAFM観察を行い、N1の存在を核酸構造体の構造の違いとしてイメージ化した。核酸構造体を含む溶液は、核酸構造体3.2 nM、N1 1.0 μMを含みかつKCl 200 mMを含むものとした。さらに、取得した画像から核酸構造体の各構造を計数し、その割合を調べた。
【0109】
AFM観察像を
図22に示す。また、各構造の割合を
図23に示す。N1の添加前は大半はアンチパラレル型であり、N1の添加により、アンチパラレル型からパラレル型へ構造変化することが分かった。
【0110】
実施例6.酵素活性の検出4
核酸構造体(実施例5)を含む溶液にKCl溶液(1 M KClを1×TAE/Mg2+溶液に溶解)を添加し5分間静置した後、被検物質であるN1(RNase-free Water(カタログ番号 9012、TaKaRa)に200 μMで溶解)を添加し15分静置した。さらにヘミン(DMSOに100 μMで溶解)を添加し、30分静置した。核酸構造体を含む溶液は、核酸構造体7.5 nM、N1 2.0 μM、ヘミン5.0 μM, Triton X-100 0.0004%(w/v)を含みかつKCl 200 mMを含むものとした。その上で1×TAE/Mg2+およびKClを200 mM混合した1-StepTM Ultra TMB-ELISA(カタログ番号34028、Thermo SCIENTIFIC、pH4.9)を等量添加し(混合後の溶液のpHは5.5)、10分後にN1の存在を色としてイメージ化した。
【0111】
結果を
図24に示す。N1を含む場合は強い青色を呈した。このことから、核酸構造体を用いてN1を色の変化として検出できることが分かった。
【0112】
従来のDNAナノ構造体では、分割したG-カルテット配列の安定性が高く、分割した状態を保つのが難しかったが、本発明では、反対側(アンチパラレル型)にあらかじめ固定することで、酵素活性のリークを防ぐことに成功した。本発明の技術を使用することにより、例えば生体分子に結合するDNA鎖の数を変えることで、酵素活性を制御できる。本発明の技術は、イムノクロマト法とは異なり、抗体やアプタマーを基盤となる膜等への固定を必要としない点で、優れている。また、本発明の技術は、核酸のみで構成することができるので、抗体と比べてロット差が少なく短時間かつ安価で簡便に大量合成可能である。
【0113】
実施例7.核酸構造体の調製6
一部のステープルDNAを他のステープルDNAに変更する以外は、参考例1と同様にして核酸構造体を調製した。対応する参考例1のステープル番号、並びに使用したステープルDNAのステープル番号、塩基配列、及び配列番号を表14及び15に示す。得られる核酸構造体の構造は、部分構造体1及び部分構造体2それぞれにおいて、テロメアエレメント配列の1本鎖DNAからなる突出構造体を含み、部分核酸構造体1が核酸アプタマー配列( HD1(トロンビンアプタマー, Bock, L. et al , (1992) Nature 355, 564-566, Munzar J. D. et al., (2018) Nat Commun. doi: 10.1038/s41467-017-02556-3.): 配列番号343 ) を含む突出構造体を含み、且つ部分核酸構造体2が前記核酸アプタマー配列の一部に対する相補配列を含む以外は、参考例1の核酸構造体の構造と同様である。
【0114】
【0115】
【0116】
「Telo」なる表記があるステープル番号のステープルDNAは、テロメアエレメント配列(Gの3つ繰り返し配列単位を2つ含む)を含む。テロメアエレメント配列が形成する構造、その位置等については、参考例2と同様である。部分構造体1中のテロメアエレメント配列と部分構造体2中のテロメアエレメント配列とは、トロンビン及び一価の陽イオンの存在下で連結してGカルテット構造(核酸酵素:ヘムがスタックすることによりペルオキシダーゼ(HRP)活性を発揮できる)を形成することができる。
【0117】
「HD1T1」なる表記があるステープル番号のステープルDNAは、HD1の相補配列又は該配列の一部に対する相補配列を含む。これらの配列は、M13mp18と相補結合せずに、1本鎖DNAからなる突出構造体を形成する。ホリデイジャンクションの立体配座に基づく3つの構造体(
図9:但し、CrossはAntiparallelとParalelとの構造変化を介在する中間構造体である)の内、Antiparalelを採る際に、部分構造体1中の上記突出構造体と部分構造体2中の上記突出構造体とが対向するように、これらの突出構造体が配置されている(すなわち、HD1T1の相補配列又は該配列の一部に対する相補配列を含むステープルDNAが配置されている)。部分構造体2中のHD1T1の相補配列と部分構造体1中の、該配列の一部に対する相補配列とは、トロンビンの非存在下で相補塩基対形成に基づいて結合することができる。
【0118】
すなわち、本実施例の核酸構造体は、
図25に示されるように、トロンビンの非存在下では相補結合に基づいてアンチパラレル型に固定されており、トロンビンの存在下で、相補結合が解離してクロス型に構造変化し、そこに一価の陽イオンが存在することによりGカルテット構造形成に基づいてパラレル型に構造変化し、ペルオキシダーゼ活性を発現することができる。
【0119】
調製した核酸構造体を含む溶液にKCl溶液(1 M KClを1×TAE/Mg2+溶液に溶解)を添加し5分間静置した後、被検物質であるトロンビンを添加し、1時間静置した。その上でAFM観察を行い、トロンビンの存在を核酸構造体の構造の違いとしてイメージ化した。核酸構造体を含む溶液は、核酸構造体3.2 nM、トロンビン 2.0 μMを含みかつKCl 200 mMを含むものとした。さらに、取得した画像から核酸構造体の各構造を計数し、その割合を調べた。
【0120】
AFM観察像を
図26に示す。また、各構造の割合を
図27に示す。トロンビンの添加前は大半はアンチパラレル型であり、トロンビンの添加により、アンチパラレル型からパラレル型へ構造変化することが分かった。
【0121】
実施例8.酵素活性の検出5
核酸構造体(実施例7)を含む溶液にKCl溶液(1 M KClを1×TAE/Mg2+溶液に溶解)を添加し5分間静置した後、被検物質であるトロンビンを添加し15分静置した。さらにヘミン(DMSOに100 μMで溶解)を添加し、30分静置した。核酸構造体を含む溶液は、核酸構造体7.5 nM、トロンビン 2.0 μM、ヘミン5.0 μM, Triton X-100 0.0004%(w/v)を含みかつKCl 200 mMを含むものとした。その上で1-StepTM Ultra TMB-ELISA(カタログ番号34028、Thermo SCIENTIFIC)を等量添加し、トロンビンの存在を色としてイメージ化した。
【0122】
結果を
図28に示す。トロンビンを含む場合は強い青色を呈した。このことから、核酸構造体を用いてトロンビンを色の変化として検出できることが分かった。
【0123】
従来のDNAナノ構造体では、分割したG-カルテット配列の安定性が高く、分割した状態を保つのが難しかったが、本発明では、反対側(アンチパラレル型)にあらかじめ固定することで、酵素活性のリークを防ぐことに成功した。本発明の技術を使用することにより、例えば生体分子に結合するDNA鎖の数を変えることで、酵素活性を制御できる。本発明の技術は、イムノクロマト法とは異なり、抗体やアプタマーを基盤となる膜等への固定を必要としない点で、優れている。また、本発明の技術は、核酸のみで構成することができるので、抗体と比べてロット差が少なく短時間かつ安価で簡便に大量合成可能である。
【0124】
実施例9.核酸構造体の調製7
NanoLuc(Promega)はフリマジンを基質とする発光酵素であり、その発光強度は非常に強く、ホタルルシフェラーゼの約100倍の発光強度をもつとされる。LgBiT(Promega)とSmBiT(Promega)は、NanoLucのサブユニットであり、これらが相互作用することで発光酵素として再構成される。LgBiTは約18 kDaの大サブユニットであり、SmBiTは、11アミノ酸残基の小サブユニットである。LgBiTとSmBiTの解離定数は190 μMであり、その親和性は極めて低く、単に混合しただけでは発光酵素活性を発現しない(Andrew, D., (2016) ACS Chem. Biol. 11, 400-408)。本実施例では、核酸構造体がパラレル型に構造変化するときにのみ、 SmBiTとLgBiTが相互作用しうる距離に近接させることで、被検物質の存在下においてのみ、SmBiTとLgBiTが相互作用し、発光酵素活性を発現させる。具体的には以下のようにして核酸構造体を調製した。
【0125】
SmBiTと95w(配列番号95)を結合した。C末端側をアジド基で修飾したSmBiT( VTGYRLFEEIL-orn(N3))を化学合成した(Sigma-Aldrich)。一方、 5末端側にアミンを修飾した95wを化学合成し(IDT)、DBCO-NHS Ester(CLICK CHEMISTRY TOOLS)に対して1/30等量(モル比)を混合した。アジド基が修飾されたSmBiTとDBCOが修飾された95wを1:1のモル比で混合し, 16時間静置した後、HPLCにより精製し、SmBiT-95wを得た。
【0126】
LgBiTと138w(配列番号138)を結合した。pH6HTN His6HaloTag T7Vector(Promega)にIn-Fusion HD Cloning Kit(Clontech)を用いてLgbitを挿入し、DH5α(SMOBIO TECHNOLOGY, INC.)に形質転換をしてLgBiT発現ベクターを得た。BL21 (SMOBIO TECHNOLOGY, INC.)に形質転換し、LB培地中で培養し、0.4 mM IPTG(Nacalai)によりタンパク質の発現を誘導した。 His-Spin Protein Miniprep Kit(ZYMO RESEACH)により精製し、HaloTag融合LgBiTを得た。一方, 5末端側にアミンを修飾した138wを化学合成し(IDT)、 HaloTag(登録商標) Succinimidyl Ester (O4) Ligand(Promega)に対して1/30等量(モル比)を混合し、16時間静置した後、HPLCにより精製し、HaloTag ligandを結合した138wステープルを得た。HaloTag融合LgBiTとHaloTag ligandを結合した138wステープルを1:1のモル比で混合し, 16時間静置した後、遠心式限外ろ過フィルター(Amicon Ultra 0.5 mL-50 K、ミリポア)により未反応の138wステープルを除き、LgBiT-138wを得た。
【0127】
得られたLgbit-138wは、SDSポリアクリルアミド電気泳動法により確認した。電気泳動像を
図29に示す。左からマーカー(PageRuler Plus Prestain Protein Ladder, Thermo Scientific)、HaloTag融合LgBiT、およびLgBiT-138wを示す。 HaloTag融合LgBiTは想定される分子量(約54 kDa)と同様の位置に泳動された。また、上記に示す138wの結合手順を踏まえることで、分子量の増大が確認されたことから、LgBiTに対して138wが結合したことが推定された。
【0128】
一部のステープルDNAを他のステープルDNAに変更する以外は、参考例1と同様にして核酸構造体を調製した。対応する参考例1のステープル番号、並びに使用したステープルDNAのステープル番号、塩基配列、及び配列番号を表16及び17に示す。LgBiT-138wは、これを除く他のステープルDNAで核酸構造体を調製した後に、1:1のモル比で添加した。得られる核酸構造体の構造は、部分構造体1及び部分構造体2それぞれにおいて、テロメアエレメント配列の1本鎖DNAからなる突出構造体を含み、部分核酸構造体1が核酸アプタマー配列(miR-20(Mature sequence hsa-miR-20a-5p:配列番号274)の相補配列)を含む突出構造体を含み、且つ部分核酸構造体2が前記核酸アプタマー配列の一部に対する相補配列を含み、且つSmbiTおよびLgBiTを含む以外は、参考例1の核酸構造体の構造と同様である。
【0129】
【0130】
【0131】
「Telo」なる表記があるステープル番号のステープルDNAは、テロメアエレメント配列(Gの3つ繰り返し配列単位を2つ含む)を含む。テロメアエレメント配列が形成する構造、その位置等については、参考例2と同様である。部分構造体1中のテロメアエレメント配列と部分構造体2中のテロメアエレメント配列とは、miR-20及び一価の陽イオンの存在下で連結してGカルテット構造を形成することができる。
【0132】
「M20」なる表記があるステープル番号のステープルDNAは、miR-20の相補配列又は該配列の一部に対する相補配列を含む。これらの配列は、M13mp18と相補結合せずに、1本鎖DNAからなる突出構造体を形成する。ホリデイジャンクションの立体配座に基づく3つの構造体(
図9:但し、CrossはAntiparallelとParalelとの構造変化を介在する中間構造体である)の内、Antiparalelを採る際に、部分構造体1中の上記突出構造体と部分構造体2中の上記突出構造体とが対向するように、これらの突出構造体が配置されている(すなわち、miR-20の相補配列又は該配列の一部に対する相補配列を含むステープルDNAが配置されている)。部分構造体2中のmiR-20の相補配列と部分構造体1中の、該配列の一部に対する相補配列とは、miR-20の非存在下で相補塩基対形成に基づいて結合することができる。
【0133】
すなわち、本実施例の核酸構造体は、
図30に示されるように、miR-20の非存在下では相補結合に基づいてアンチパラレル型に固定されており、miR-20の存在下で、相補結合が解離してクロス型に構造変化し、そこに一価の陽イオンが存在することによりGカルテット構造形成に基づいてパラレル型に構造変化する。これにより、SmBiTとLgBiTが近接し、相互作用することで、発光酵素として再構成される。
【0134】
調製した核酸構造体を含む溶液にKCl溶液(1 M KClを1×TAE/Mg2+溶液に溶解)を添加し5分間静置した後、被検物質であるmiR20(RNase-free Water(カタログ番号 9012、TaKaRa)に200 μMで溶解)を添加し、1時間静置した。その上でAFM観察を行い、miR20の存在を核酸構造体の構造の違いとしてイメージ化した。核酸構造体を含む溶液は、核酸構造体3.2 nM、miR20 5 μMを含みかつKCl 200 mMを含むものとした。さらに、取得した画像から核酸構造体の各構造を計数し、その割合を調べた。
【0135】
AFM観察像を
図31に示す。また、各構造の割合を
図32に示す。miR-20の添加前は大半はアンチパラレル型であり、miR-20の添加により、アンチパラレル型からパラレル型へ構造変化することが分かった。
【0136】
実施例10.酵素活性の検出6
核酸構造体(実施例9)を含む溶液にKCl溶液(1 M KClを1×TAE/Mg2+溶液に溶解)を添加し5分間静置した後、被検物質であるmiR20(RNase-free Water(カタログ番号 9012、TaKaRa)に200μMで溶解)を添加し15分間静置した。核酸構造体を含む溶液は、核酸構造体3.2 nM、miR20 1μMまたは5 μMを含みかつKCl 200 mMを含むものとした。その上でNano-Glo HiBiT Blotting System(Promega)に付属するフリマジン(Nano-Glo Substrate)を添加し、発光強度をプレートリーダー(SpectraMax iD5, MOLECULAR DEVICES)により定量した。
結果を
図33に示す。miR-20を含む場合は発光強度が増加した。このことから、核酸構造体を用いてmiR-20を検出できることが分かった。
SmBiTとLgBiTの解離定数は約190 μMであり、その親和性は極めて低く、単に混合しただけでは発光酵素活性を発現しない(Andrew, D., (2016) ACS Chem. Biol. 11, 400-408)。本発明では、核酸構造体がパラレル型に構造変化したときにのみ、 SmBiTとLgBiTが近接し相互作用することで、被検物質の存在下において、発光酵素活性を著しく上昇させることに成功した。また、SmBiTとLgBiTの相互作用により再構成されるNanoLucという発光酵素は、ホタルルシフェラーゼの約100倍の発光強度をもつことが知られており、スマートフォンに搭載されているカメラでも撮影すること可能である(Arts, R. et al, (2016) Anal.Chem. 88, 4525-4532)。したがって、核酸構造体の濃度を上昇させることで、可視化することが可能である。
【配列表】