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  • 特許-ボールジョイント用グリース組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】ボールジョイント用グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/00 20060101AFI20230825BHJP
   C10M 107/50 20060101ALN20230825BHJP
   C10M 117/02 20060101ALN20230825BHJP
   C10M 143/02 20060101ALN20230825BHJP
   C10M 143/04 20060101ALN20230825BHJP
   C10M 155/02 20060101ALN20230825BHJP
   C10M 129/10 20060101ALN20230825BHJP
   C10M 133/12 20060101ALN20230825BHJP
   C10M 133/40 20060101ALN20230825BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20230825BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20230825BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20230825BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20230825BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20230825BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20230825BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20230825BHJP
   C10N 30/10 20060101ALN20230825BHJP
【FI】
C10M169/00
C10M107/50
C10M117/02
C10M143/02
C10M143/04
C10M155/02
C10M129/10
C10M133/12
C10M133/40
C10N50:10
C10N40:04
C10N10:02
C10N20:00 Z
C10N30:02
C10N30:06
C10N30:08
C10N30:10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019162868
(22)【出願日】2019-09-06
(65)【公開番号】P2021042269
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】519184930
【氏名又は名称】株式会社ソミックマネージメントホールディングス
(73)【特許権者】
【識別番号】390022275
【氏名又は名称】株式会社ニッペコ
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】藤原 洋介
(72)【発明者】
【氏名】門奈 知裕
(72)【発明者】
【氏名】原田 真一
(72)【発明者】
【氏名】用田 裕樹
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-090732(JP,A)
【文献】特開2008-150579(JP,A)
【文献】特開平07-286188(JP,A)
【文献】特開平02-080493(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031998(WO,A1)
【文献】特開2012-224834(JP,A)
【文献】特開2001-226689(JP,A)
【文献】特開平06-108080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N
F16C 11/00-11/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルシリコーン油及びリチウム石けん増ちょう剤を含むベースグリースと、添加剤とを含有し、
前記添加剤として、アミノ変性シリコーン及び変性ポリオレフィンを含有し、
前記アミノ変性シリコーンは、一般式(1)または(2)に相当し、組成物全量100質量部に対して10質量部以下であり、
前記変性ポリオレフィンは、酸化ポリエチレン、酸変性ポリエチレン、及び、酸変性ポリプロピレンから選ばれ、組成物全量100質量部に対して1~10質量部を含有し、
前記変性ポリオレフィンに対する前記アミノ変性シリコーンの含有量が、1≦(アミノ変性シリコーン質量/変性ポリオレフィン質量)≦3の範囲であり、
JISK2220に準拠するちょう度が200~500であることを特徴とするボールジョイント用グリース組成物。
【化1】
【化2】
【請求項2】
前記変性ポリオレフィンの酸価が、0.1(mgKOH/g)より大きく100.0(mgKOH/g)以下であることを特徴とする請求項に記載のボールジョイント用グリース組成物。
【請求項3】
前記グリース組成物の静止摩擦係数は、0.050以下であることを特徴とする請求項1又は請求項に記載のボールジョイント用グリース組成物。
【請求項4】
酸化防止剤として、ヒンダードフェノール、アルキル化ジフェニルアミン、或いは、ヒンダートアミン光安定剤のうち少なくともいずれか1種を含むことを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載のボールジョイント用グリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールジョイント用グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のサスペンションやステアリング等のボールジョイント用として、例えば、鉱油又は合成炭化水素油を用いたグリースが使用されていた(特許文献1を参照)。
【0003】
グリースは、ボールジョイントの潤滑性を維持するため、比較的粘度の高い基油を使用したり、増ちょう剤を改良する等して、グリースを高粘度化し、グリースの付着性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-230188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のボールジョイント用グリースでは、ボールジョイントの起動トルクが高くなる問題があった。特許文献1に記載の発明には、ボールジョイントの起動トルクに関する言及がされていない。
【0006】
また、上記のように、ボールジョイント用グリースの潤滑性を維持するために高粘度とすると、ボールジョイントの低温下での作動トルクを低く抑えることが困難であった。
【0007】
そこで本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、従来に比べて、起動トルクを低減でき、また、作動トルクの低減を図ることができ、低温性を改善することができるボールジョイント用グリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のボールジョイント用グリース組成物は、ジメチルシリコーン油及びリチウム石けん増ちょう剤を含むベースグリースと、添加剤とを含有し、前記添加剤として、アミノ変性シリコーン及び変性ポリオレフィンを含有し、前記アミノ変性シリコーンは、一般式(1)または(2)に相当し、組成物全量100質量部に対して10質量部以下であり、前記変性ポリオレフィンは、酸化ポリエチレン、酸変性ポリエチレン、及び、酸変性ポリプロピレンから選ばれ、組成物全量100質量部に対して1~10質量部を含有し、前記変性ポリオレフィンに対する前記アミノ変性シリコーンの含有量が、1≦(アミノ変性シリコーン質量/変性ポリオレフィン質量)≦3の範囲であり、JISK2220に準拠するちょう度が200~500であることを特徴とする。
【化1】
【化2】
【0009】
この構成により、基油のシリコーン油により、グリース組成物の低温下での流動性を維持することができる。また、添加剤のアミノ変性シリコーン及び変性ポリオレフィンは結合し強固な油膜を形成するため、グリース組成物がボールジョイントの潤滑剤に用いられた場合に、ボールジョイントが停止している際の油膜破断を防ぐことができる。これにより、グリース組成物の静止摩擦力を低減しながら、ボールジョイントの低温下での作動性を向上できる。
【0010】
本発明の一態様のボールジョイント用グリース組成物においては、前記シリコーン油として、ジメチルシリコーン油及びフェニル変性シリコーン油のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。この構成により、ジメチルシリコーン油及びフェニル変性シリコーン油は、他の基油と比べて粘度指数が高く、温度が変化しても粘度が変化しにくい特性を持つため、グリースの流動性を維持できる。
【0012】
この構成により、これらのアミノ変性シリコーンは変性ポリオレフィンと効果的に結合し、変性ポリオレフィンを基油に均一に分散させることができる。
【0013】
本発明の一態様のボールジョイント用グリース組成物においては、前記変性ポリオレフィンとして、酸化ポリエチレン、酸化ポリプロピレン、酸変性ポリエチレン及び酸変性ポリプロピレンのうち少なくとも1種を含むことが好ましい。この構成により、これらの変性ポリオレフィンを用いることにより、アミノ変性シリコーンと効果的に結合して、油膜を良好に形成できる。
【0016】
これらの構成により、アミノ変性シリコーンと変性ポリオレフィンとを効果的に作用させて、変性ポリオレフィンを基油に均一に分散しながら、油膜を効果的に形成することができる。
【0017】
本発明の一態様のボールジョイント用グリース組成物においては、前記変性ポリオレフィンの酸価が、0.1(mgKOH/g)より大きく100.0(mgKOH/g)以下であることが好ましい。この構成により、アミノ変性シリコーンとより効果的に結合して、油膜をより良好に形成できる。
【0018】
本発明の一態様のボールジョイント用グリース組成物においては、前記グリース組成物の静止摩擦係数は、0.050以下であることが好ましい。この構成により、静止摩擦力を効果的に低減できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のボールジョイント用グリース組成物を、自動車等で使用されるボールジョイントの潤滑剤として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】静摩擦係数の試験方法を説明するための模式図である。
図2】実験で使用したボールジョイントの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0022】
本発明者らは、ボールジョイントの潤滑用として使用されるグリース組成物について鋭意研究を重ねた結果、基油としてシリコーン油を用いるとともに、添加剤としてアミノ変性シリコーン及び変性ポリオレフィンを用いることで、静止摩擦力及び低温下での作動性を向上させるに至った。
【0023】
(ボールジョイント用グリース組成物)
本実施の形態におけるボールジョイント用グリース組成物は、基油としてシリコーン油を含有し、また添加剤としてアミノ変性シリコーン及び変性ポリオレフィンを含有するものである。なお、増ちょう剤等、グリース組成物として従来から含まれるものは、適宜添加されている。
【0024】
基油のシリコーン油としては、限定されるものでないが、ジメチルシリコーン油及びフェニル変性シリコーン油のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0025】
基油の動粘度は、25℃において、100000mm/s以下であることが好ましい。また、基油の動粘度は、25℃において、10000mm/s以下であることがより好ましく、また、下限値を特に限定するものではないが、例えば、基油の動粘度を、25℃において、5mm/s程度まで低くすることができる。
【0026】
また、添加剤のアミノ変性シリコーンとしては、下記一般式(1)または(2)で表されることが好ましい。
【化3】
【化4】
【0027】
ここで、数値を限定するものではないが、mは、数十以上であり、具体的には50以上であり、後述する実施例では、80~750程度である。また、nは、100程度以下であり、具体的には20以下であり、後述する実施例では、1~10程度である。
【0028】
また、アミノ変性シリコーンの動粘度は、25℃において、15000mm/s以下であることが好ましい。この動粘度は、上記の一般式に記載された化学式の繰り返し数によって調整することができる。
【0029】
添加剤の変性ポリオレフィンとしては、酸化ポリエチレン、酸化ポリプロピレン、酸変性ポリエチレン及び酸変性ポリプロピレンのうち少なくとも1種を含むことが好ましい。また、変性ポリオレフィンの酸価は、1(mgKOH/g)より大きく100.0(mgKOH/g)以下であることが好ましい。また、変性ポリオレフィンの酸価は、5(mgKOH/g)以上80(mgKOH/g)以下であることがより好ましく、15(mgKOH/g)以上60(mgKOH/g)以下であることが更に好ましい。
【0030】
基油のジメチルシリコーン油及びフェニル変性シリコーン油は、他の基油と比べて粘度指数が高く、温度が変化しても粘度が変化しにくい特性を持つ。このため、基油として、ジメチルシリコーン油及びフェニル変性シリコーン油のうち少なくとも1つを用いることで、グリースの流動性を維持できる。
【0031】
また、添加剤のアミノ変性シリコーンは、添加剤の変性ポリオレフィンと結合して、変性ポリオレフィンを基油に均一に分散させることができる。また、アミノ変性シリコーンと変性ポリオレフィンとが結合した部位は極性があり、金属表面に吸着し易い。このため、アミノ変性シリコーンと変性ポリオレフィンとの混合物は、ボールジョイントの金属表面に強固な油膜を形成し、ボールジョイントが停止している際の油膜破断を防ぐことができる。よって、本実施の形態のボールジョイント用グリース組成物により、静止摩擦力を低減でき、ボールジョイントの低温下での作動性を向上できる。
【0032】
ボールジョイント用グリース組成物において、アミノ変性シリコーンの含有量は、0質量部より大きいことが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、4質量部以上であることが更に好ましい。また、アミノ変性シリコーンの含有量は、30質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることが更に好ましい。
【0033】
変性ポリオレフィンの含有量は、0.1質量部より大きいことが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1.0質量部以上であることが更に好ましい。また、変性ポリオレフィンの含有量は、20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることが更に好ましい。
【0034】
また、変性ポリオレフィンに対するアミノ変性シリコーンの含有量が下記式(3)の範囲であることが好ましい。
0.5≦(アミノ変性シリコーン質量/変性ポリオレフィン質量)≦30.0 (3)
【0035】
(アミノ変性シリコーン質量/変性ポリオレフィン質量)は、0.5以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましく、0.9以上であることが更に好ましく、1.0以上であることが更により好ましい。また、(アミノ変性シリコーン質量/変性ポリオレフィン質量)は、30.0以下であることが好ましく、10.0以下であることがより好ましく、5.0以下であることが更に好ましく、3.0以下であることが更により好ましい。アミノ変性シリコーン及び変性ポリオレフィンの含有量を規定することにより、アミノ変性シリコーンと変性ポリオレフィンとを効果的に作用させて、変性ポリオレフィンを基油に均一に分散しながら、油膜を効果的に形成することができる。
【0036】
本実施の形態では、ジメチルシリコーン油及びフェニル変性シリコーン油の他に、異なる基油を混合して用いることができる。ただし、ジメチルシリコーン油及びフェニル変性シリコーン油以外の基油を組み合わせる場合、グリース組成物中に占める基油の半分以上は、ジメチルシリコーン油及びフェニル変性シリコーン油のうち少なくとも1種で構成されることが好適である。
【0037】
本実施の形態では、添加剤の合計の含有量を所定範囲内にて調整することが好ましい。添加剤の含有量は、多すぎると油分離が生じやすいので、具体的には、添加剤の含有量を、50質量部以下とすることが好ましい。ここで、100質量部は、基油と添加剤を合わせた100質量部に対する割合を意味する。以下、同様である。
【0038】
上記のように構成されるボールジョイント用グリース組成物の本実施の形態における静止摩擦係数は、0.050以下であることが好ましく、0.045以下であることがより好ましく、0.040以下であることが更に好ましい。これにより、静止摩擦力が効果的に低減される。本実施の形態における静止摩擦係数は、実施例の静止摩擦係数の実験条件による。
【0039】
静止摩擦係数は、所定の荷重が掛けられた試験片と、グリース組成物が塗布された鋼板とを摺動させた際の、鋼板の引張力(摺動抵抗)を荷重で除して求められる(実施例参照)。
【0040】
本実施の形態のグリース組成物に含まれる増ちょう剤は、特に限定されるものではないが、例えば、リチウム石けん、カルシウム石けん、ナトリウム石けん、アルミニウム石けん、アルミニウム複合石けん、リチウム複合石けん、カルシウム複合石けん、アルミニウム複合石けん、ウレア化合物、有機化ベントナイト、ポリテトラフルオロエチレン、シリカゲル、ナトリウムテレフタラメートのうち、少なくとも1種から選択することができる。また、例えば、脂肪酸アマイドを用いることができる。なお、リチウム石けんは、脂肪酸またはその誘導体と水酸化リチウムとのけん化反応物である。用いられる脂肪酸は、炭素数が2~22の飽和または不飽和の脂肪酸及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種である。また、前記の脂肪酸またはその誘導体と水酸化リチウムとを反応させた「石けん」が市販されており、これを用いることもできる。
【0041】
また、必要に応じて、酸化防止剤、防錆剤、金属腐食防止剤、油性剤、耐摩耗剤、極圧剤、固体潤滑剤等を添加することができる。これら添加物の含有量は、0.01重量部~20重量部程度の範囲内に収められる。
【0042】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール、アルキル化ジフェニルアミン、ヒンダートアミン光安定剤、フェニル-α-ナフチルアミン等から選択することができる。後述する実験結果によれば、酸化防止剤を、1重量部程度、添加している。これにより、良好なダストカバー適合性を得ることができる。
【0043】
ダストカバーは、ボールジョイントに、グリースの漏洩やダストの混入を防止するうえで非常に重要な部材であるが、ダストカバーは、例えば、クロロプレンゴムからなり、加熱により収縮する性質がある。ダストカバーの収縮は、グリースの漏洩及びダストの混入を引き起こすため、ダストカバーの収縮を防止しなければいけない。
【0044】
ここで、シリコーン系グリースは、ダストカバーへの浸透が起こらないため、ダストカバーの収縮を防止すべく、本実施の形態では、シリコーン系グリースに酸化防止剤を配合することとした。これにより、酸化防止剤が、ダストカバーに作用し、ダストカバーの収縮を効果的に抑制することができる。
【0045】
通常、シリコーン系グリースは、酸化安定性が高いため、高温(例えば、150℃以上)で使用しない限り酸化防止剤は不要であるが、本実施の形態では、グリースの酸化防止ではなく、ダストカバーへの酸化防止性能を発揮させるために適宜添加することとした。
【0046】
なお、鉱油系グリースは、ダストカバーに対して油が浸透し膨潤する作用を示すため、収縮率が軽減される。
【0047】
また、防錆剤としては、ステアリン酸などのカルボン酸、ジカルボン酸、金属石鹸、カルボン酸アミン塩、重質スルホン酸の金属塩、または多価アルコールのカルボン酸部分エステル等から選択することができる。金属腐食防止剤としては、ベンゾトリアゾールまたはベンゾイミダゾール等から選択することができる。油性剤としては、ラウリルアミンなどのアミン類、ミリスチルアルコール等の高級アルコール類、パルミチン酸などの高級脂肪酸類、ステアリン酸メチル等の脂肪酸エステル類、またはオレイルアミドなどのアミド類等から選択することができる。耐摩耗剤としては、亜鉛系、硫黄系、リン系、アミン系、またはエステル系等から選択することができる。極圧剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアルキルジチオリン酸モリブデン、硫化オレフィン、硫化油脂、メチルトリクロロステアレート、塩素化ナフタレン、ヨウ素化ベンジル、フルオロアルキルポリシロキサン、または、ナフテン酸鉛等から選択することができる。また、固体潤滑剤としては、黒鉛、フッ化黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、メラミンシアヌレート、二硫化モリブデン、硫化アンチモン等から選択することができる。
【0048】
また、グリース組成物のちょう度に関しては、200~500程度とすることができる。なお、ちょう度の測定方法については、後述する実施例の欄に記載する。
なお、本実施の形態では、低トルク化させる油性剤として、カルボン酸変性シリコーンなどの変性シリコーン類を適宜添加することができる。
【0049】
本実施形態のグリース組成物を用いたボールジョイントは、例えば、自動車のサスペンション、ステアリング等(例えば、ロアアーム、タイロッドエンドなど)の可動部分に用いることができる。これにより、自動車の操安性や操舵性を改善することができる。
【実施例
【0050】
以下、本発明の効果を明確にするために実施した実施例により本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0051】
各実施例及び各比較例において、添加剤の種類、組成を変えて、ボールジョイント用グリース組成物を作製し、グリース組成物のちょう度、静止摩擦係数を測定した。基油としては、ジメチルシリコーン油(信越化学工業社製 KF96-1000cs)を用いた。増ちょう剤としては、リチウム石けんを用いた。更に、JISK2220の低温トルク試験方法を用いて、各実施例及び各比較例のグリース組成物の-40℃における起動トルクを測定した。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
また、表1における「アミノ変性シリコーン-1」、「アミノ変性シリコーン-2」、「アミノ変性シリコーン-3」は、それぞれ以下の表2に示す物質に対応している。また、「酸変性ポリオレフィン-1」、「酸変性ポリオレフィン-2」、「酸変性ポリオレフィン-3」は、それぞれ、酸化ポリエチレン、酸変性ポリエチレン、酸変性ポリプロピレン、酸化ポリエチレンに対応している。また、「酸化防止剤-1」は、アルキル化ジフェニルアミン、「酸化防止剤-2」は、ヒンダートフェノール、「酸化防止剤-3」は、ヒンダートアミン光安定剤に対応している。表2中、かっこ内は、アミノ変性シリコーン-1、アミノ変性シリコーン-2、及び、アミノ変性シリコーン-3の粘度を示している。
【0054】
【表2】
【0055】
ちょう度は、JIS K2220に規定されたちょう度試験方法により測定した。
また、本実験では、静止摩擦係数を測定した。静止摩擦係数の実験条件は、以下の通りである。
<静止摩擦係数の実験条件>
試験片:SPCC鋼板/φ10 POM球
荷重:2kgf
グリース塗布膜厚:0.05mm
試験温度:室温
試験時間:グリース組成物塗布後16時間静置
摺動速度:1mm/sec
摺動幅:1mm
摺動回数:1回
【0056】
図1は、静止摩擦係数の試験方法を説明するための模式図である。図1に示す符号3は、POM球を示し、符号4は、SPCC鋼板を示す。そして、SPCC鋼板4を、B方向に荷重をかけながら、A方向に移動させ、直ちに、静摩擦係数を測定した。SPCC鋼板を移動させる引張力を摺動抵抗として測定した。
【0057】
測定した摺動抵抗とPOM球に掛けた荷重に基づき、下記(4)式によって摩擦係数を求めた。
摩擦係数=(摺動抵抗/荷重) (4)
【0058】
摺動抵抗の最大値である極大摺動抵抗から求めた摩擦係数を静止摩擦係数として求めた。
【0059】
実施例1-12においては、比較例1-3及び市販品に比べて、グリース組成物の静止摩擦係数が低い値を維持していた。また、実施例1-12においては、市販品よりも、-40℃での起動トルクが低くなっていた。すなわち、実施例においては、静止摩擦力が低下するとともに、低温下での作動性が向上していた。
【0060】
実施例は、添加剤として、アミノ変性シリコーン及び酸変性ポリオレフィンが含まれていた。実施例におけるグリース組成物の静止摩擦係数は、0.030以上0.050以下であった。実施例及び比較例より、グリース組成物の静止摩擦係数は、0.050以下であることが好ましく、0.045以下であることがより好ましく、0.040以下であることが更に好ましいことがわかった。また、実施例1-12におけるグリース組成物の-40℃での起動トルクは、130mN・m以下であった。これより、グリース組成物の-40℃での起動トルクは、130mN・m以下であることが好ましく、120mN・m以下であることがより好ましく、110mN・m以下であることが更に好ましいことがわかった。
【0061】
また、ダストカバー適合性について測定した。実験では、ダストカバーを、本実施例や比較例、及び市販品のグリースに浸漬させ、120℃を保ったまま、336時間経過後の体積変化を評価した。
【0062】
体積収縮変化が、12%以下であるとき、〇、体積収縮変化が、12%よりも大きいとき×した。表1に示すように、酸化防止剤を添加した実施例10-12では、良好なダストカバー適合性を得ることができた。
【0063】
また、表1に示す組成からなるボールジョイント用グリース組成物を、図2に示すボールジョイント10の球状部12と表層13との間に充填し、起動トルクを測定した。なお、ボールジョイント10は、球状部12と、球状部12を受ける受け部材14と、球状部12の表面を覆う表層(シート)13と、を有して構成される。表層13は、受け部材14にて保持される。球状部12の表面には、軸部11が一体的に設けられている。そして、球状部12と、表層13との間に、グリース組成物15を充填する。なお、本実施例のボールジョイントは、上記の構成に限定されるものではない。
【0064】
起動トルクは、グリース組成物の塗布量を、0.5g、回転速度を、0.2rpm、回転角度を45度として測定した。なお、測定時の温度は25℃であった。
【0065】
表1に示すように、実施例ではいずれも、比較例より起動トルクが低くなった。
【0066】
本実施例では、起動トルクを、2500mN・m以下に小さくすることができることがわかった。
【0067】
また、実施例1-12には、アミノ変性シリコーンが、4質量部以上20質量部以下含まれていた。実施例及び比較例より、グリース組成物におけるアミノ変性シリコーンの含有量は、0質量部より大きいことが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、4質量部以上であることが更に好ましいことがわかった。また、30質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることが更に好ましいことがわかった。
【0068】
また、変性ポリオレフィンは、2質量部以上10質量部以下含まれていた。実施例及び比較例より、グリース組成物における変性ポリオレフィンの含有量は、0.1質量部より大きいことが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1.0質量部以上であることが更に好ましく、2質量部以上であることが更により好ましいことがわかった。また、変性ポリオレフィンの含有量は、20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることが更に好ましいことがわかった。
【0069】
また、変性ポリオレフィンに対するアミノ変性シリコーンの含有量は、1.0≦(アミノ変性シリコーン質量/変性ポリオレフィン質量)≦3.0であった。これより、(アミノ変性シリコーン質量/変性ポリオレフィン質量)は、0.5以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましく、0.9以上であることが更に好ましく、1.0以上であることが更により好ましいことがわかった。また、(アミノ変性シリコーン質量/変性ポリオレフィン質量)は、30.0以下であることが好ましく、10.0以下であることがより好ましく、5.0以下であることが更に好ましく、3.0以下であることが更により好ましいことがわかった。
【0070】
特に、アミノ変性シリコーン-1が10質量部及び変性ポリオレフィン-1が5質量部、アミノ変性シリコーン-2が10質量部及び変性ポリオレフィン-2が5質量部含まれている際、静止摩擦係数は、低い値を効果的に維持できていた。
【0071】
また、変性ポリオレフィンの酸価は、12以上であった。これより、変性ポリオレフィンの酸価は、1(mgKOH/g)より大きく100.0(mgKOH/g)以下であることが好ましく、5(mgKOH/g)以上80(mgKOH/g)以下であることがより好ましく、10(mgKOH/g)以上60(mgKOH/g)以下であることが更に好ましい。
【0072】
以上のように、本実施の形態に係るグリース組成物においては、基油のシリコーン油により、グリース組成物の流動性が維持される。また、添加剤のアミノ変性シリコーン及び変性ポリオレフィンは結合し強固な油膜を形成するため、グリース組成物がボールジョイントに用いられた場合に、ボールジョイントが停止している際の油膜破断を防ぐことができる。これらにより、グリース組成物の静止摩擦力を低減しながら、ボールジョイントの低温下での起動トルクを低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のグリース組成物をボールジョイントの潤滑剤として用いることで、起動トルク及び作動トルクを低減でき、低温性を改善することができる。本発明のグリース組成物を使用したボールジョイントを自動車のサスペンションやステアリング等に用いることで、自動車の操安性や操舵性を改善することができる。
【符号の説明】
【0074】
3 POM球
4 SPCC鋼板
10 ボールジョイント
12 球状部
13 表層
14 受け部材
15 グリース組成物



図1
図2