(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】ファウリングが少ない堆積物を伴う改良された沸騰床リアクター
(51)【国際特許分類】
C10G 47/30 20060101AFI20230825BHJP
【FI】
C10G47/30
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018034011
(22)【出願日】2018-02-28
【審査請求日】2020-09-02
(32)【優先日】2017-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518068774
【氏名又は名称】ハイドロカーボン テクノロジー アンド イノベーション、エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Hydrocarbon Technology & Innovation,LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】マウンテンランド、デイビッド エム.
(72)【発明者】
【氏名】シルバーマン、ブレット エム.
(72)【発明者】
【氏名】ルーター、マイケル エー.
(72)【発明者】
【氏名】スミス、リー
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-535604(JP,A)
【文献】特表2015-527452(JP,A)
【文献】特表2009-541499(JP,A)
【文献】特表2018-532839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファウリングが少ない堆積物を産生するために、1つまたはそれ以上の沸騰床リアクターを含む沸騰床水素化処理システムを改良する方法であって、
変換産物および堆積物を含む初期プロセス流を得るために、変換産物の初期産生速度、初期堆積物産生速度および/またはプロセス流における初期堆積物濃度、および機器ファウリングの初期速度で、重油を水素化処理する工程を含む初期条件で重油を水素化処理するために、混成触媒を使用して沸騰床リアクターを作動させる工程と、
その後、分散型金属硫化物触媒粒子と混成触媒とからなる二元触媒システムを使用して作動するように前記沸騰床リアクターを改良する工程と、
重油を水素化処理するため、および前記初期プロセス流における堆積物よりもファウリングが少ない堆積物を含む修正されたプロセス流を産生するために、前記改良された沸騰床リアクターを前記二元触媒システムを使用して作動させる工程であって、所与の堆積物産生速度および/または濃度で、前記初期条件で沸騰床リアクターを作動させる場合と比較して少なくとも5%少ない機器ファウリングを生じさせる、前記作動させる工程と、
を有し、
前記変換産物の産生速度が、下記のうち少なくとも1つによって、前記二元触媒システムを使用して前記改良された沸騰床リアクターを作動させる場合、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合と比較して、少なくとも2.5%増加することであって:
(i)前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合より温度が少なくとも2.5℃上昇し、変換が少なくとも2.5%増大し、およびスループットが同じかそれ以上になること、
(ii)前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合より温度が少なくとも2.5℃上昇し、スループットが少なくとも2.5%増大し、および変換が同じかそれ以上になること、または
(iii)前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合より温度が少なくとも2.5℃上昇し、スループットが少なくとも2.5%増大し、および変換が少なくとも2.5%増大すること、および
前記初期条件で作動させる場合と、前記改良された沸騰床リアクターを前記二元触媒システムを使用して作動させる場合とにおいて、機器ファウリングの速度が、
(i)必要な熱交換器掃除の頻度、
(ii)予備の熱交換器への交換の頻度、
(iii)フィルター交換の頻度、
(iv)ストレーナー掃除または交換の頻度、
(v)熱交換器、分離器、または蒸留塔から選択される機器を含む機器皮膚温度の低下速度、
(vi)炉管金属温度の上昇速度、
(vii)熱変換器および炉について算出されたファウリング抵抗係数の上昇速度、
(viii)熱交換器の差圧の増大速度、
(ix)常圧および/または減圧蒸留塔をクリーニングする頻度、または
(x)整備ターンアラウンドの頻度、
のうち少なくとも1つにより決定される、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、ファウリングが少ない堆積物を産生するために、前記改良された沸騰床リアクターを前記二元触媒システムを使用して作動させる工程が、
前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合の初期のリアクター過酷度より高いリアクター過酷度で前記改良された沸騰床リアクターを作動させる工程であって、前記より高いリアクター過酷度が、温度を少なくとも2.5℃上昇させること、およびスループットまたは変換の一方または両方を少なくとも2.5%増大させることを含む、前記作動させる工程を含み、
前記作動させる工程は、
前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合の前記初期堆積物産生速度および/または濃度と比較して、より低い速度および/または濃度で堆積物を産生する前記改良された沸騰床リアクターと、
前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合の前記機器ファウリングの初期速度と比較して、より低い速度で生じさせる前記水素化処理システムの機器ファウリングであって、堆積物産生速度および/または濃度の低下よりも大きい度合いで低下される機器ファウリングの速度によって特徴づけられる、前記機器ファウリングと、
によって特徴づけられる、方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、ファウリングが少ない堆積物を産生するために、前記改良された沸騰床リアクターを前記二元触媒システムを使用して作動させる工程が、
前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合の前記初期のリアクター過酷度より高いリアクター過酷度で前記改良された沸騰床リアクターを作動させる工程であって、前記より高いリアクター過酷度が、温度を少なくとも2.5℃上昇させること、およびスループットおよび変換の一方または両方を少なくとも2.5%増大させることを含む、前記作動させる工程を含み、
前記作動させる工程は、
前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合の前記初期堆積物産生速度および/または濃度と比較して、同程度の速度および/または濃度で堆積物を産生する前記改良された沸騰床リアクターと、
前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合の前記機器ファウリングの初期速度と比較して、より低い速度で生じさせる前記水素化処理システムの機器ファウリングと、によって特徴づけられる、方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、ファウリングが少ない堆積物を産生するために、前記改良された沸騰床リアクターを前記二元触媒システムを使用して作動させる工程が、
前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合の前記初期のリアクター過酷度より高いリアクター過酷度で前記改良された沸騰床リアクターを作動させる工程であって、前記より高いリアクター過酷度が、温度を少なくとも2.5℃上昇させること、およびスループットおよび変換の一方または両方を少なくとも2.5%増大させることを含む、前記作動させる工程を含み、
前記作動させる工程は、
前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合の前記初期堆積物産生速度および/または濃度と比較して、より高い速度および/または濃度で堆積物を産生する前記改良された沸騰床リアクターと、
前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合の前記機器ファウリングの初期速度と比較して同程度の速度で生じさせる前記水素化処理システムの機器ファウリングと、によって特徴づけられる、方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法において、
前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合と比較して、前記改良された沸騰床リアクターを作動させる場合に、少なくとも5%、少なくとも10%、または少なくとも20%増大されるスループット、
前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合と比較して、前記改良された沸騰床リアクターを作動させる場合に、少なくとも5%、少なくとも7.5%、少なくとも10%、または少なくとも15%増大される変換、または
前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合と比較して、前記改良された沸騰床リアクターを作動させる場合に、少なくとも5℃、少なくとも7.5℃、または少なくとも10℃上昇させられる温度、
のうち少なくとも1つにより特徴付けられる、方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項記載の方法において、前記機器ファウリングの速度が、前記二元触媒システムを使用して前記改良された沸騰床リアクターを作動させる場合、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合と比較して、少なくとも25%減少する、方法。
【請求項7】
請求項6記載の方法において、前記機器ファウリングの速度が、前記二元触媒システムを使用して前記改良された沸騰床リアクターを作動させる場合、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合と比較して、少なくとも50%減少する、方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項記載の方法において、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合と、前記改良された沸騰床リアクターを前記二元触媒システムを使用して作動させる場合とにおいて、堆積物産生が、
(i)絶対堆積物産生速度、または
(ii)常圧残留物、常圧蒸留塔底物、減圧残留物、減圧蒸留塔底物、常圧塔フィード、高温低圧分離器産物、燃料油産物、またはカッターストック添加後の減圧塔底物から選択される少なくとも1つのプロセス流で測定される堆積物濃度などの少なくとも1つのプロセス流における堆積物濃度、
のうち少なくとも1つにより決定される、方法。
【請求項9】
請求項1記載の方法において、
前記二元触媒システムを使用するように前記沸騰床を改良する工程の後、堆積物産生速度および/もしくは濃度が、前記初期堆積物産生速度および/もしくは濃度と比較して維持または増大し、かつ、機器ファウリングの速度が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合、前記機器ファウリングの初期速度と比較して少なくとも5%、25%、50%、または75%低下する、
前記二元触媒システムを使用するように改良する工程の後、堆積物産生速度が、前記初期堆積物産生速度と比較して少なくとも2%、10%、20%、または33%増大し、かつ、機器ファウリングの速度が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合、前記機器ファウリングの初期速度と比較して維持または低下する、
前記二元触媒システムを使用するように改良する工程の後、前記プロセス流における堆積物濃度が、前記初期堆積物濃度と比較して少なくとも2%、10%、20%、または33%増大し、かつ、機器ファウリングの速度が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合、前記機器ファウリングの初期速度と比較して維持または低下する、
前記二元触媒システムを使用するように改良する工程の後、堆積物産生速度が、前記初期堆積物産生速度と比較して少なくとも2%、10%、30%、または50%低下し、かつ、機器ファウリングの速度が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合、前記機器ファウリングの初期速度と比較してより一層大きい率で低下する、または
前記二元触媒システムを使用するように改良する工程の後、前記プロセス流における堆積物濃度が、前記初期堆積物濃度と比較して少なくとも2%、10%、30%、または50%低下し、かつ、機器ファウリングの速度が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合、前記機器ファウリングの初期速度と比較してより一層大きい率で低下する、
のうち少なくとも1つにより特徴付けられる、方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項記載の方法において、前記重油が、重質原油、オイルサンド瀝青、精製装置プロセスからの残渣、少なくとも343℃(650°F)の名目沸点を有する常圧塔底物、少なくとも524℃(975°F)の名目沸点を有する減圧塔底物、高温分離器からの残渣、残渣ピッチ、溶媒抽出からの残渣、または減圧残留物のうち少なくとも1つを有する、方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項記載の方法において、前記分散型金属硫化物触媒粒子は、サイズが1μmより小さい、またはサイズが約500nmより小さい、またはサイズが約250nmより小さい、またはサイズが約100nmより小さい、またはサイズが約50nmより小さい、またはサイズが約25nmより小さい、またはサイズが約10nmより小さいものである、方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項記載の方法において、
前記沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動するように改良する工程が、触媒前駆体から前記分散型金属硫化物触媒粒子を前記重油内のin situで形成する工程を含み、
前記分散型金属硫化物触媒粒子を前記重油内のin situで形成する工程は、
希釈された前駆体混合物を形成するために、前記触媒前駆体を溶剤炭化水素と混合する工程と、
調節された重油を形成するために、前記希釈された前駆体混合物を前記重油と混合する工程と、および
前記触媒前駆体を分解し、かつ前記分散型金属硫化物触媒粒子を前記重油内のin situで形成するために、前記調節された重油を加熱する工程と、
を有する、方法。
【請求項13】
ファウリングが少ない堆積物を産生するために、1つまたはそれ以上の沸騰床リアクターを含む沸騰床水素化処理システムを改良する方法であって、
変換産物および堆積物を含む初期プロセス流を得るために、変換産物の初期
の過酷度および産生速度、初期堆積物産生速度および/または
前記初期プロセス流における初期堆積物濃度、および機器ファウリングの初期速度で、重油を水素化処理する工程を含む初期条件で重油を水素化処理するために、混成触媒を使用して沸騰床リアクターを作動させる工程と、
その後、分散型金属硫化物触媒粒子と混成触媒とからなる二元触媒システムを使用して作動するように前記沸騰床リアクターを改良する工程と、
重油を水素化処理するため、および前記初期プロセス流における堆積物よりもファウリングが少ない堆積物を含む修正されたプロセス流を産生するために、前記改良された沸騰床リアクターを前記二元触媒システムを使用して作動させる工程であって、前記改良された沸騰床リアクターが、
変換産物の前記初期産生速度と同じかまたは類似の速度で変換産物を産生し、前記初期条件で作動させる場合の前記初期の堆積物産生速度および/または濃度より低下し
た産生速度および/または濃度で堆積物を産生
するように同じかまたは類似の過酷度で作動し、
前記初期条件で作動させる場合の機器ファウリングの
前記初期速度
と比較して、機器ファウリングがより低い速度で生じ、および前記機器ファウリングの速度が、前記堆積物産生速度および/または濃度の低下よりも大きい度合いで低下される、前記作動させる工程と、
を含み
、
前記変換産物の産生速度が、下記によって特徴づけられ、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合と比較して、前記二元触媒システムを使用して前記改良された沸騰床リアクターを作動させる場合と同じかまたは類似であり、前記堆積物産生速度および/または濃度を少なくとも2%低下させ、および前記機器ファウリングの速度を少なくとも5%低下させ、
(i)前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合と同じかまたは類似の温度、同じかまたは類似の変換、および同じかまたは類似のスループットであること、
(ii)前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合より高い温度、同じかまたは類似の変換、およびより低いスループットであること、または
(iii)前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合より高い温度、同じかまたは類似のスループット、およびより低い変換であること、
前記初期条件で作動させる場合と、前記改良された沸騰床リアクターを前記二元触媒システムを使用して作動させる場合とにおいて、機器ファウリングの速度が、
(i)必要な熱交換器掃除の頻度、
(ii)予備の熱交換器への交換の頻度、
(iii)フィルター交換の頻度、
(iv)ストレーナー掃除または交換の頻度、
(v)熱交換器、分離器、または蒸留塔から選択される機器を含む機器皮膚温度の低下速度、
(vi)炉管金属温度の上昇速度、
(vii)熱変換器および炉について算出されたファウリング抵抗係数の上昇速度、
(viii)熱交換器の差圧の増大速度、
(ix)常圧および/または減圧蒸留塔をクリーニングする頻度、または
(x)整備ターンアラウンドの頻度、
のうち少なくとも1つにより決定される、方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法において、
前記改良された沸騰床リアクターを作動させる工程であって、前記初期堆積物産生速度と比較して堆積物産生速度を少なくと
も10
%低下させ、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合の前記機器ファウリングの初期速度と比較して機器ファウリングの速度を少なくと
も25
%低下させる条件である、前記作動させる工程、または
前記改良された沸騰床リアクターを作動させる工程であって、前記初期堆積物濃度と比較して堆積物濃度を少なくと
も10
%低下させ、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合の前記機器ファウリングの初期速度と比較して機器ファウリングの速度を少なくと
も25
%低下させる条件である、前記作動させる工程、のうち少なくとも1つにより特徴付けられる、方法。
【請求項15】
ファウリングが少ない堆積物を産生するために、1つまたはそれ以上の沸騰床リアクターを含む沸騰床水素化処理システムを改良する方法であって、
変換産物および堆積物を含む初期プロセス流を得るために、変換産物の初期産生速度、初期堆積物産生速度および/または
前記初期プロセス流における初期堆積物濃度、および機器ファウリングの初期速度で、重油を水素化処理する工程を含む初期条件で重油を水素化処理するために、混成触媒を使用して沸騰床リアクターを作動させる工程と、
その後、分散型金属硫化物触媒粒子と混成触媒とからなる二元触媒システムを使用して作動するように前記沸騰床リアクターを改良する工程と、
重油を水素化処理するため、および前記初期プロセス流における堆積物よりもファウリングが少ない堆積物を含む修正されたプロセス流を産生するために、前記改良された沸騰床リアクターを前記二元触媒システムを使用して作動させる工程であって、前記改良された沸騰床リアクターが、
変換産物の前記初期産生速度より高い速度で変換産物を産生し、前記初期条件で作動させる場合の前記初期堆積物産生速度および/または濃度と同程度の産生速度および/または濃度で堆積物を産生するように作動し、かつ
機器ファウリングが、前記初期条件で作動する場合の機器ファウリングの初期速度と比較して少なくとも5%低下した速度で
生じる、前記二元触媒システムを使用して作動させる工程と、
を含み、
前記変換産物の産生速度が、下記のうち少なくとも1つによって特徴づけられ、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合と比較して、前記二元触媒システムを使用して前記改良された沸騰床リアクターを作動させる場合に、増加することであって:
(i)前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合
と同じかまたは類似のスループット
で、より高い温度とより高い変換であること、
(ii)前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合
と同じかまたは類似の変換で、より高い温度とより高いスループットであること、
または
(iii)前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合より
高い温度、より高いスループット、およびより高い変換であること、
前記初期条件で作動させる場合と、前記改良された沸騰床リアクターを前記二元触媒システムを使用して作動させる場合とにおいて、機器ファウリングの速度が、
(i)必要な熱交換器掃除の頻度、
(ii)予備の熱交換器への交換の頻度、
(iii)フィルター交換の頻度、
(iv)ストレーナー掃除または交換の頻度、
(v)熱交換器、分離器、または蒸留塔から選択される機器を含む機器皮膚温度の低下速度、
(vi)炉管金属温度の上昇速度、
(vii)熱変換器および炉について算出されたファウリング抵抗係数の上昇速度、
(viii)熱交換器の差圧の増大速度、
(ix)常圧および/または減圧蒸留塔をクリーニングする頻度、または
(x)整備ターンアラウンドの頻度、
のうち少なくとも1つにより決定される、方法。
【請求項16】
請求項15記載の方法において、前記改良された沸騰床リアクターを作動させる工程が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合の前記機器ファウリングの初期速度と比較して機器ファウリングの速度を少なくとも25%。50%、または75%低下させる工程を含む、方法。
【請求項17】
ファウリングが少ない堆積物を産生するために、1つまたはそれ以上の沸騰床リアクターを含む沸騰床水素化処理システムを改良する方法であって、
変換産物および堆積物を含む初期プロセス流を得るために、変換産物の初期産生速度、初期堆積物産生速度および/または前記
初期プロセス流における初期堆積物濃度、および機器ファウリングの初期速度で、重油を水素化処理する工程を含む初期条件で重油を水素化処理するために、混成触媒を使用して沸騰床リアクターを作動させる工程と、
その後、分散型金属硫化物触媒粒子と混成触媒とからなる二元触媒システムを使用して作動するように前記沸騰床リアクターを改良する工程と、
重油を水素化処理するため、および前記初期プロセス流における堆積物よりもファウリングが少ない堆積物を含む修正されたプロセス流を産生するために、前記改良された沸騰床リアクターを前記二元触媒システムを使用して作動させる工程であって、前記改良された沸騰床リアクターが、
変換産物の前記初期産生速度より高い速度で変換産物を産生し、前記初期条件で作動させる場合の前記初期の堆積物産生速度および/または濃度より高い堆積物産生速度および/または堆積物濃度で堆積物を産生するように作動し、かつ
前記初期条件で作動させる場合の前記機器ファウリングの初期速度
と同程度の速度で機器ファウリング速度が
生じる、前記二元触媒システムを使用して作動させる工程と、
を含み、
前記変換産物の産生速度が、下記のうち少なくとも1つによって特徴づけられ、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合と比較して、前記二元触媒システムを使用して前記改良された沸騰床リアクターを作動させる場合に、増加することであって:
(i)前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合より温度が
少なくとも2.5℃高くなり、変換が
少なくとも2.5℃高くなり、およびスループットが同じかより高くなること、
(ii)前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合より温度が
少なくとも2.5℃高くなり、
スループットが少なくとも2.5℃高くなり、および変換が
同じかより高
くなること、
または
(iii)前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合より温度が
少なくとも2.5℃高くなり、変換が
少なくとも2.5℃高くなり、およびスループットが
少なくとも2.5℃高くなること
、
前記初期条件で作動させる場合と、前記改良された沸騰床リアクターを前記二元触媒システムを使用して作動させる場合とにおいて、機器ファウリングの速度が、
(i)必要な熱交換器掃除の頻度、
(ii)予備の熱交換器への交換の頻度、
(iii)フィルター交換の頻度、
(iv)ストレーナー掃除または交換の頻度、
(v)熱交換器、分離器、または蒸留塔から選択される機器を含む機器皮膚温度の低下速度、
(vi)炉管金属温度の上昇速度、
(vii)熱変換器および炉について算出されたファウリング抵抗係数の上昇速度、
(viii)熱交換器の差圧の増大速度、
(ix)常圧および/または減圧蒸留塔をクリーニングする頻度、または
(x)整備ターンアラウンドの頻度、
のうち少なくとも1つにより決定される、方法。
【請求項18】
請求項17記載の方法において、
前記改良された沸騰床リアクターを作動させる工程が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合の前記初期堆積物産生速度と比較して堆積物産生速度を少なくとも2%、10%。20%、または33%増大させる工程を含む、または
前記改良された沸騰床リアクターを作動させる工程が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを作動させる場合の前記初期堆積物濃度と比較して堆積物濃度を少なくとも2%、10%。20%、または33%増大させる工程を含む、
のうち少なくとも1つにより特徴付けられる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二元触媒システムを利用しかつファウリングが少ない堆積物を産生するように作動する、沸騰床水素化処理の方法およびシステムなどの重油水素化処理の方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
低質重油原料をより効率的に利用しそこから燃料価値を抽出することに対する需要が、増え続けている。低質原料は、比較的多量の、524℃(975℃)でまたはそれより高い温度で名目上沸騰する炭化水素を含むと特徴付けられる。低質原料はまた、比較的高濃度の硫黄、窒素、および/または金属を含有する。これら低質原料に由来する高沸点フラクションは、高分子量(より高い密度および粘度によりしばしば示される)、および/または低い水素/炭素比を一般に有する。これは、アスファルテンおよび残留炭素を含む、高濃度の望ましくない成分に関連する。アスファルテンおよび残留炭素は、処理するのが難しく、またコークスおよび堆積物の形成に貢献するため、一般に従来型の触媒および水素化処理機器のファウリングを引き起こす。
【0003】
所与の沸騰床システムにおいては、変換産物の産生速度は、しばしばファウリングにより制限される。産生速度を一定の実際的な限度を超えて上昇させるように試みられる場合、いくらかの熱交換器または他の処理機器のファウリング速度が速くなりすぎ、整備およびクリーニングのためにより頻繁なシャットダウンを要する。一般に、精製装置は、観察される機器ファウリングの速度を堆積物産生の測定値に関連づけ、作動堆積物限度に達する。その作動堆積物限度より高くにおいては、精製装置は、沸騰床水素化分解装置を作動させるのを回避することになる。さらに、堆積物産生、および機器ファウリングは、高沸点フラクションの下流処理に制限を与える。
【0004】
より高濃度のアスフェルテン、残留炭素、硫黄、窒素、および金属を含有する低質重油原料は、重質原油、オイルサンド瀝青、および従来型精製プロセスから残った残渣を含む。残渣(または「resid」)は、常圧塔底物、および減圧塔物を指しうる。常圧塔物は、低くとも343℃(650°F)の沸点を有しうる。ただし、カットポイントは、精製装置間で異なってもよく、380℃(716°F)ほどの高さでありうることが理解される。減圧塔底物(「残渣ピッチ」または「減圧残留物」としても知られる)は、低くとも524℃(975°F)の沸点を有しうる。ただし、カットポイントは、精製装置間で異なってもよく、538℃(1000°F)ほどの高さ、あるいは565℃(1050°F)でさえもありうることが理解される。
【0005】
比較として、Alberta軽質原油は減圧残留物を約9容積%含有し、一方でLloydminster重油は減圧残留物を約41容積%含有し、Cold Lake瀝青は減圧残留物を約50容積%含有し、またAthabasca瀝青は減圧残留物を約51容積%含有する。さらなる比較として、北海地域からのDansk Blendなどの比較的軽質の油は減圧残留物を約15%のみ含有し、一方でUralなどのより低質ヨーロッパ油は減圧残留物を30%より多く含有し、またArab Mediumなどの油はさらに高く、減圧残留物約40%である。これらの例は、より低質の原油が使用される場合に、減圧残留物を変換することができることの重要性を強調する。
【0006】
重油の有用な最終産物への変換は、重油の沸点低下、水素対炭素比の上昇、および、金属、硫黄、窒素、およびコークス前駆体などの不純物の除去などの、大規模な処理を必要とする。常圧塔底物を改良するための従来型の混成触媒を使用する水素化分解プロセスの例は、固定床水素化処理、沸騰床水素化処理、および移動床水素化処理を含む。減圧塔底物を改良するための非触媒改良プロセスは、ディレードコーキング、流動コーキング、ビスブレーキング、および溶媒抽出などの熱分解を含む。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
ファウリングが少ない堆積物を産生するために沸騰床水素化処理システムを改良するための方法が、本明細書において開示される。ファウリングが少ない堆積物を産生するための、改良された沸騰床水素化処理システムもまた、本明細書において開示される。開示される方法およびシステムには、固体担持触媒と高分散型(例えば、均一)触媒粒子とからなる二元触媒システムの使用が関与する。その二元触媒システムは、所与の質の重油に対し、沸騰床リアクターが同じまたはより高い過酷度で作動させることを許容する。産生される堆積物が、固体担持触媒のみを使用して同リアクターにより産生される堆積物と比較して、より少ない機器ファウリングを引き起こすためである。
【0008】
いくらかの実施形態においては、ファウリングの少ない堆積物を産生するために沸騰床水素化処理システムを改良する方法は、(1)変換産物の初期産生速度と、初期堆積物産生速度および/またはプロセス流中濃度と、機器ファウリングの初期速度とを含む初期条件で、重油を水素化処理するために、混成触媒を使用して沸騰床リアクターを作動させる工程、(2)その後、分散型金属硫化物触媒粒子と混成触媒とからなる二元触媒システムを使用して作動させるように、その沸騰床リアクターを改良する工程、および(3)ファウリングが少ない堆積物を産生するために、改良された沸騰床リアクターをその二元触媒システムを使用して作動させ、初期条件で沸騰床リアクターを作動させる場合と比較して所与の堆積物産生速度および/または濃度においてより少ない機器ファウリングを生じさせる工程を有する。
【0009】
いくらかの実施形態においては、ファウリングが少ない堆積物を産生するために、二元触媒システムを使用して改良された沸騰床リアクターを作動させる工程は、(i)堆積物産生速度および/もしくはプロセス流中濃度を低下させ、かつ機器ファウリング速度を堆積物産生速度および/もしくは濃度の低下量よりも大きく低下させる工程、(ii)機器ファウリングの速度を低下させつつ、類似の堆積物産生速度および/もしくは濃度を維持する工程、または(iii)機器ファウリングの速度を増大させることなく、堆積物産生速度および/もしくは濃度を増大させる工程のうち少なくとも1つを含む。
【0010】
いくらかの実施形態においては、ファウリングが少ない堆積物を産生するために、二元触媒システムを使用して改良された沸騰床リアクターを作動させる工程は、(i)初期条件で作動させる場合の変換産物の初期産生速度と比較して、同じまたは類似の速度で変換産物を産生する工程、(ii)初期条件で作動させる場合の初期堆積物産生速度および/または濃度と比較して、より低い速度および/またはプロセス流中濃度で堆積物を産生する工程、および(iii)初期条件で作動させる場合の機器ファウリングの初期速度と比較して、より低い速度で機器ファウリングを生じさせる工程であって、機器ファウリングの速度が堆積物産生速度および/または濃度の低下量よりも大きく低下させられるものである工程を有する。
【0011】
いくらかの実施形態においては、ファウリングが少ない堆積物を産生するために、二元触媒システムを使用して改良された沸騰床リアクターを作動させる工程は、(i)初期条件で作動させる場合の変換産物の初期産生速度と比較して、より大きい速度で変換産物を産生する工程、(ii)初期条件で作動させる場合の初期堆積物産生速度および/または濃度と比較して、同程度の堆積物産生速度および/またはプロセス流中濃度で堆積物を産生する工程、および(iii)初期条件で作動させる場合の機器ファウリングの初期速度と比較して、より低い速度で機器ファウリングを生じさせる工程を有する。
【0012】
いくらかの実施形態においては、ファウリングが少ない堆積物を産生するために、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる工程は、(i)初期条件で作動させる場合の変換産物の初期産生速度と比較して、より大きい速度で変換産物を産生する工程、(ii)初期条件で作動させる場合と比較して、より大きい速度および/またはプロセス流中濃度で堆積物を産生する工程、および(iii)初期条件で作動させる場合の機器ファウリングの初期速度と比較して、同程度の速度で機器ファウリングを生じさせる工程を有する。
【0013】
いくらかの実施形態においては、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる際、変換産物の産生速度は、(i)初期条件で作動させる場合と比較して、同じもしくは類似のスループットにおける、より高い温度およびより大きい変換、(ii)初期条件で作動させる場合と比較して、同じもしくは類似の変換における、より高い温度およびより大きいスループット、または(iii)初期条件で作動させる場合と比較して、より高い温度、より大きいスループット、およびより大きい変換、のうち少なくとも一つによって、増大させられうる。いくらかの実施形態においては、変換産物の産生速度を増大させる工程は、改良された沸騰床を作動させる場合に、初期条件で作動させる場合と比較してスループットを少なくとも2.5%、少なくとも5%、少なくとも10%、または少なくとも20%増大させる工程を含みうる。いくらかの実施形態においては、変換産物の産生速度を増大させる工程は、改良された沸騰床を作動させる場合に、初期条件で作動させる場合と比較して変換を少なくとも2.5%、少なくとも5%、少なくとも7.5%、少なくとも10%、または少なくとも15%増大させる工程を含みうる。いくらかの実施形態においては、変換産物の産生速度を増大させる工程は、改良された沸騰床を作動させる場合に、初期条件で作動させる場合と比較して温度を少なくとも2.5℃、少なくとも5℃、少なくとも7.5℃、または少なくとも10℃高くする工程を含みうる。
【0014】
いくらかの実施形態においては、初期条件で作動させる場合と、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる場合とにおいて、機器ファウリングの速度は、(i)必要な熱交換器掃除の頻度、(ii)予備の熱交換器への交換の頻度、(iii)フィルター交換の頻度、(iv)ストレーナー掃除もしくは交換の頻度、(v)熱交換器、分離器、もしくは蒸留塔から選択される機器における低下を含む、機器皮膚温度の低下速度、(vi)炉管金属温度の上昇速度、(vii)熱変換器および炉について算出されたファウリング抵抗係数の上昇速度、(viii)熱交換器の差圧の増大速度、(ix)常圧および/もしくは減圧蒸留塔のクリーニングの頻度、または(x)整備ターンアラウンドの頻度のうち少なくとも1つにより決定されうる。
【0015】
いくつかの実施形態においては、初期条件で作動させる場合と、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる場合とにおいて、堆積物産生が、(i)堆積物産生の絶対速度(例えば、単位時間あたりの量)、または(ii)少なくとも1つのプロセス流中の堆積物濃度のうち、少なくとも1つにより決定されうる。いくらかの実施形態においては、堆積物濃度は、常圧残留物、常圧蒸留塔底物、減圧残留物、減圧蒸留塔底物、常圧塔フィード、高温低圧分離器産物、燃料油産物、またはカッターストック添加後の減圧塔底物から選択される少なくとも1つのプロセス流において測定される。
【0016】
いくらかの実施形態においては、二元触媒システムを使用するように沸騰床を改良する工程の後、堆積物産生速度および/もしくは濃度は、初期堆積物産生速度および/もしくは濃度と比較して維持されもしくは増大させられ、かつ、機器ファウリングの速度は、機器ファウリングの初期速度と比較して少なくとも5%、25%、50%、もしくは75%低下させられる。
【0017】
いくらかの実施形態においては、二元触媒システムを使用するように改良する工程の後、堆積物産生速度は、初期堆積物産生速度と比較して少なくとも2%、10%、20%、もしくは33%増大させられ、かつ、機器ファウリングの速度は、機器ファウリングの初期速度と比較して維持されもしくは低下させられる。
【0018】
いくらかの実施形態においては、二元触媒システムを使用するように改良する工程の後、プロセス流中の堆積物濃度は、初期堆積物濃度と比較して少なくとも2%、10%、20%、もしくは33%増大させられ、かつ、機器ファウリングの速度は、機器ファウリングの初期速度と比較して維持されもしくは低下させられる。
【0019】
いくらかの実施形態においては、二元触媒システムを使用するように改良する工程の後、堆積物産生速度は、初期堆積物産生速度と比較して少なくとも2%、10%、30%、もしくは50%低下させられ、かつ、機器ファウリングの速度は、機器ファウリングの初期速度と比較して、堆積物産生速度の低下率より一層大きい率で低下させられる。
【0020】
いくらかの実施形態においては、二元触媒システムを使用するように改良する工程の後、プロセス流中の堆積物濃度は、初期堆積物濃度と比較して少なくとも2%、10%、30%、もしくは50%低下させられ、かつ、機器ファウリングの速度は、機器ファウリングの初期速度と比較して、堆積物濃度の低下率より一層大きい率で低下させられる。
【0021】
いくつかの実施形態においては、分散型金属硫化物触媒粒子は、サイズが1μmより小さい、またはサイズが約500nmより小さい、またはサイズが約250nmより小さい、またはサイズが約100nmより小さい、またはサイズが約50nmより小さい、またはサイズが約25nmより小さい、またはサイズが約10nmより小さい、またはサイズが約5nmより小さい。
【0022】
いくらかの実施形態においては、分散型金属硫化物触媒粒子は、触媒前駆体から重油内でin situで形成される。例としては、限定としてではなく、分散型金属硫化物触媒粒子は、触媒前駆体の熱分解と活性金属硫化物触媒粒子の形成との前に、触媒前駆体を重油全体中へと混合することにより形成されうる。さらなる例としては、方法は、希釈された前駆体混合物を形成するために触媒前駆体を溶剤炭化水素と混合する工程、調節された重油を形成するために、希釈された前駆体混合物を重油と混合する工程、および重油内で 触媒前駆体を分解しかつ分散型金属硫化物触媒粒子をin situで形成するために、調節された重油を加熱する工程を有しうる。
【0023】
本発明のこれらおよび他の利点および特徴は、以下の開示および添付の特許請求の範囲からより十分に明らかとなるでああろうし、あるいは、本明細書において後述される本発明の実践により習得されうる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明の上記および他の利点および特徴をさらに明らかにするため、本発明のより詳細な開示が、添付の図面において例証される本発明の特定の実施形態への言及により、なされる。これらの図面は、本発明の一般的な実施形態のみを描写し、従って本発明の範囲を制限するとみなされるべきではないことが認識される。本発明は、添付の図面の使用により、さらなる特異度および詳細を伴って開示かつ説明される。その図面において:
【
図1】
図1は、アスファルテンの仮定的分子構造を描写し、
【
図2A】
図2Aは、代表的な沸騰床リアクターを図式的に例証し、
【
図2B】
図2Bは、代表的な沸騰床リアクターを図式的に例証し、
【
図2C】
図2Cは、複数の沸騰床リアクターを有する代表的な沸騰床水素化処理システムを図式的に例証し、
【
図2D】
図2Dは、複数の沸騰床と2つのリアクター間のステージ間分離器とを有する、代表的な沸騰床水素化処理システムを図式的に例証し、
【
図3A】
図3Aは、ファウリングが少ない堆積物を産生するように、沸騰床リアクターを改良するための代表的な方法を例証する、フローチャートであり、
【
図3B】
図3Bは、堆積物産生速度および/またはプロセス流中濃度の低下と比べより大きい度合いで機器ファウリングの速度を低下させるように、沸騰床リアクターを改良するための代表的な方法を例証する、フローチャートであり、
【
図3C】
図3Cは、類似の堆積物産生速度および/またはプロセス流中濃度で、機器ファウリングの速度を低下させるように、沸騰床リアクターを改良するための代表的な方法を例証する、フローチャートであり、
【
図3D】
図3Dは、機器ファウリングの速度を増大させることなく、堆積物産生速度および/またはプロセス流中堆積物濃度を増大させるように、沸騰床リアクターを改良するための代表的な方法を例証する、フローチャートであり、また
【
図4】
図4は、二元触媒システムを使用する代表的な沸騰床水素化処理システムを図式的に例証する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
I.イントロダクション
本発明は、ファウリングが少ない堆積物を産生するために沸騰床水素化システムを改良するための方法に関する。改良された沸騰床システムは、本開示の方法を実施することにより作成される。
【0026】
用語「堆積物」は、流体流中に形成される沈降しうる固体を指す。堆積物は、無機物、コークス、または変換後に沈殿する不溶性アスファルテンを含みうる。石油製品中の堆積物は、ISO 10370およびASTM D4870の一部として掲載されている、残留燃料油中の全堆積物のためのIP-375高温濾過試験手順を使用して、一般的に測定される。他の試験は、IP-390堆積物試験、およびShell高温濾過試験を含む。堆積物は、処理および操作中に固体を形成する傾向にある石油の成分に関する。これらの固体形成性成分は、水素化変換のプロセス中に、産物の質の劣化、および機器ファウリングに関する操作性の問題を含む複数の望ましくない効果を有する。堆積物の厳格な定義は堆積物試験における固体の測定値に基づくが、その用語は、オイル自体の固体形成性成分を指すようにより漠然と使用されることが一般的であることは指摘されるべきである。その固体形成性成分は、オイル中に実際の固体としては存在しないかもしれないが、一定の条件下で固体形成に貢献する。
【0027】
「堆積物産生」は、絶対産生速度(例えば、lb/hrまたはkg/hr)としてあるいはプロセス流内での濃度(例えば、wt%)として表現されうる。従って、堆積物産生は、初期条件で作動させる場合、および改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる場合、(i)絶対堆積物産生速度または(ii)少なくとも1つのプロセス流中の堆積物濃度のうち少なくとも1つにより決定される。例えば、堆積物濃度は、常圧残留物、常圧蒸留塔底物、減圧残留物、減圧蒸留塔底物、常圧塔フィード、高温低圧分離器産物、燃料油産物、もしくはカッターストック添加後の減圧塔底物から選択され少なくとも1つのプロセス流中で測定されうる。
【0028】
堆積物産生の速度または濃度のいずれも、二元触媒システムの使用により変化させられうるが、ユニット作動の詳細によっては、必ずしも両者が同時に変化させられるわけではないことは、特筆されるべきである。例えば、顕著に大きい変換産物産生の総合速度でユニットが作動させられている場合、(例えば、高温分離、常圧蒸留、および/または減圧蒸留による)分離後の底産物の総量は、特に等しいスループットでより高い温度および変換の使用によってより大きい産生が達成される場合においては、低下させられうる。そのような場合においは、液体産物または他のプロセス流における測定された堆積物濃度は、絶対堆積物産生速度がより低い場合でさえも、初期条件で作動させる場合と比較して、等しいまたはより大きいかもしれない。
【0029】
用語「ファウリング」は、処理を妨害する望ましくない相(ファウラント)の形成を指す。ファウラントは、通常、処理機器内に堆積し積もる、炭素質材料または固体である。機器ファウリングは、機器シャットダウンによる産生の減損、機器の性能低下、熱交換器または加熱器におけるファウラント堆積の遮断効果によるエネルギー消費上昇、機器クリーニングのためのメンテナンス費用上昇、精留塔の効率低下、および混成触媒の反応性低下をもたらしうる。
【0030】
二元触媒システムを使用するように水素化分解リアクターを改良する前および後の「機器ファウリングの速度」は、(i)必要な熱交換器掃除の頻度、(ii)予備の熱交換器への交換の頻度、(iii)フィルター交換の頻度、(iv)ストレーナー掃除もしくは交換の頻度、(v)熱交換器、分離器、もしくは蒸留塔から選択される機器における低下を含む、機器皮膚温度の低下の速度、(vi)炉管金属温度の上昇速度、(vii)熱変換器および炉について算出されたファウリング抵抗係数の上昇速度、(viii)熱交換器の差圧の増大速度、(ix)常圧および/もしくは減圧蒸留塔をクリーニングする頻度、または(x)整備ターンアラウンドの頻度のうち少なくとも1つにより決定されうる。
【0031】
用語「重油原料」は、重質原油、オイルサンド瀝青、バレルの底物、および精製装置プロセスから残る残渣(例えば、ビスブレーカー底物)、および、実質的な量の高沸点炭化水素フラクションを含有しかつ/または顕著な量のアスファルテンを含むあらゆる他のより低質な材料を指すものとする。そのアスファルテンは、混成触媒を不活性化し、かつ/またはコークス前駆体および堆積物の形成を引き起こしもしくはもたらしうる。重油原料の例は、Lloydminster重油、Cold Lake瀝青、Athabasca瀝青、常圧塔底物、減圧塔底物、残渣(もしくは「resid」)、残渣ピッチ、減圧残留物(例えば、Ural VR、Arab Medium VR、Athabasca VR、Cold Lake VR、Maya VR、およびChichimene VR)、溶媒脱アスファルト化により得られる脱アスファルト液体、脱アスファルト化の副産物として得られるアスファルテン液体、および、原油、タールサンドからの瀝青、液化石炭、オイルシェール、または石炭タール原料を蒸留、高温分離、溶媒抽出、およびこれらの類似工程にかけた後に残る不揮発性液体フラクションを含む。さらなる例として、常圧塔底物(ATB)は、低くとも343℃(650°F)の名目沸点を有しうる。ただし、そのカットポイントは、精製装置間で異なってもよく、また380℃(716°F)の高さでありうることが理解される。減圧塔底物は、低くとも524℃(975°F)の名目沸点を有しうる。ただし、カットポイントは、精製装置間で異なってもよく、また538℃(1000°F)ほどの高さ、あるいは565℃(1050°F)でさえもありうることが理解される。
【0032】
用語「アスファルテン」および「アスファルテンズ」は、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、およびヘプタンなどの、一般にパラフィン系溶媒に不溶性である、重油原料中の材料を指すものとする。アスファルテンは、硫黄、窒素、酸素、および金属などのヘテロ原子により繋がっている縮合環化合物の層を含みうる。アスファルテンは、80から1200までのあらゆる数の炭素原子を有する幅広い複雑な化合物を含み、溶液法により決定される分子量が1200から16900の範囲にあるものが優位を占める。原油中の金属の約80-90%は、より高濃度の非金属へテロ原子とともにアスファルテンフラクションに含有され、アスファルテン分子を原油中の他の炭化水素と比べて親水性をより高くかつ親油性をより低くする。ChevronのA.G.Bridgeおよび同僚により開発された仮定的アスファルテン分子構造が、
図1に描写される。一般に、アスファルテンは不要物法の結果に基づき定義され、1つより多いアスファルテンの定義が使用されてもよい。具体的には、アスファルテンの一般的に使用される定義は、ヘプタン不溶物からトルエン不溶物を差し引いたもの(つまり、アスファルテンはトルエン中で可溶、トルエン中で不溶の堆積物および残留物はアスファルテンとして数えられない)である。このように定義されるアスファルテンは、「C7アスファルテン」と呼ばれうる。しかしながら、ペンタン不溶物からトルエン不溶物を差し引いたものであって一般に「C5アスファルテン」と呼ばれる代替的な定義もまた、同等の有効性を伴って使用されうる。本発明の実施例においては、C7アスファルテン定義が使用されるが、C5アスファルテン定義は容易に代用されうる。
【0033】
重油の「質」は、(i)沸点、(ii)硫黄の濃度、(iii)窒素の濃度、(iv)金属の濃度、(v)分子量、(vi)水素対炭素比、(vii)アスファルテン含量、および(viii)堆積物形成性傾向から選択されるが、これらに限定はされない、少なくとも1つの特徴により測定されうる。
【0034】
「より低質の重油」および/または「より低質の原料混合物」は、初期重油原料と比較して、i)より高い沸点、(ii)より高い硫黄濃度、(iii)より高い窒素濃度、(iv)より高い金属濃度、(v)より大きい分子量(しばしばより高い密度および粘度により示される)、(vi)より小さい水素対炭素比、(vii)より高いアスファルテン含量、および(viii)より高い堆積物形成性傾向から選択されるが、これらに限定はされない、少なくとも1つのより低質な特徴を有しうる。
【0035】
用語「オポチュニティー原料」は、初期重油原料と比較して、より低質の重油と、少なくとも1つのより低質の特徴を有するより低質な重油原料混合物とを指す。オポチュニティー原料はまた、一般に、初期原料と比較してより低い市場価値(または価格)を有する。
【0036】
用語「水素化分解」および「水素化変換」は、主な目的が重油原料の沸騰範囲を低下させることであって、その原料の実質的な割合が元の原料の沸騰範囲より低い沸騰範囲を有する産物へと変換される、プロセスを指すとする。水素化分解または水素化変換は、一般に、より大きい炭化水素分子の、より少数の炭素原子およびより大きい水素対炭素比を有するより小さい分子断片への断片化を要する。水素化分解が生じるメカニズムは、一般に、断片化の間の炭化水素フリーラジカル形成、およびそれに続くフリーラジカル端または部位の水素でのキャッピングを要する。水素化分解の間に炭化水素フリーラジカルと反応する水素原子またはラジカルは、活性触媒部位においてまたは活性触媒部位によって、生成しうる。
【0037】
用語「水素化精製」は、主な目的が、原料から硫黄、窒素、酸素、ハロゲン化合物、および微量金属などの不純物を除去し、かつオレフィンを飽和し、かつ/または、炭化水素フリーラジカルをフリーラジカル自身と反応させることを許容するのではなくフリーラジカルを水素と反応させることにより炭化水素フリーラジカルを安定化することである、操作を指すとする。主な目的は、原料の沸点を変えることではない。水素化精製は、固定床リアクターを使用して最も頻繁に実施されるが、他の水素化精製リアクターも水素化精製のために使用されうる。他の水素化精製リアクターの例は、沸騰床水素化精製装置である。
【0038】
当然ながら、「水素化分解」または「水素化変換」には、原料からの硫黄および窒素の除去、および、オレフィン飽和、および一般的に「水素化精製」と関連付けられる他の反応もまた、関与しうる。用語「水素化処理」および「水素化変換」は、スペクトラムの反対端を定義する「水素化分解」および「水素化精製」プロセスの両者と、そのスペクトラムの間のすべてとを広く指すとする。
【0039】
「水素化分解リアクター」は、中で水素および水素化分解触媒の存在下で原料を水素化分解すること(つまり、沸騰範囲を低下させること)が主な目的である、槽を指すとする。水素化分解リアクターは、重油原料および水素が導入されうる注入ポートと、改良された原料または材料が回収されうる排出ポートと、より大きい炭化水素分子からより小さい分子への断片化を引き起こすべく炭化水素フリーラジカルを形成するのに十分な熱エネルギーとを有すると特徴付けられる。水素化分解リアクターの例は、スラリー相リアクター(つまり、二相の気液システム)、沸騰床リアクター(つまり、三相の気液固システム)、固定床リアクター(つまり、固体混成触媒の固定床上に下向きにしたたる、または固体混成触媒の固定床を通って上向きに流れる液体フィードと、一般には重油に対し並流的だがことによると対流的に流れる水素とを含む、三相システム)を含むが、これらに限定されない。
【0040】
用語「水素化分解温度」は、重油原料の顕著な水素化分解を引き起こすために要する最低温度を指すとする。一般に、水素化分解温度は、好ましくは約399℃(750°F)から約460℃(860°F)の範囲、より好ましくは約418℃(785°F)から約443℃(830°F)の範囲、また最も好ましくは約421℃(790°F)から約440℃(825°F)の範囲におさまることになる。
【0041】
用語「気液スラリー相水素化分解リアクター」は、連続的な液相と、液相内で気泡の「スラリー」を形成する気体分散相とを含む、水素化処理リアクターを指すとする。その液相は一般に、低濃度の分散型金属硫化物触媒粒子を含有しうる炭化水素原料を有し、また気相は一般に、水素ガス、硫化水素、および蒸気化された低沸点炭化水素産物を有する。液相は、任意で水素供与体溶媒を含みうる。用語「気液固3相スラリー水素化分解リアクター」は、液体および気体と共に固体触媒が用いられる場合に使用される。その気体は、水素、硫化水素、および蒸気化された低沸点炭化水素産物を含みうる。用語「スラリー相リアクター」は、両タイプのリアクター(例えば、分散型金属硫化物触媒粒子を伴うもの、ミクロサイズまたはより大きい粒子状触媒を伴うもの、および両者を含むもの)を広く指すとする。
【0042】
用語「固体混成触媒」、「混成触媒」、および「担持触媒」は、主に水素化分解、水素化変換、ヒドロメタル化、および/または水素化精製のために設計される触媒を含む、沸騰床および固定床水素化処理システムにおいて一般に使用される触媒を指すとする。混成触媒は一般に、(i)大きい表面積と相互連係するチャネルまたは孔とを有する、触媒担体、および(ii)チャネルまたは孔内に分散する、コバルト、ニッケル、タングステン、およびモリブデンの硫化物などの微細な活性触媒粒子を有する。担体の孔は、混成触媒の機械的完全性を維持し、リアクター中の過剰な微粒の分解および形成を予防するように、一般にはそのサイズが制限される。混成触媒は、円筒ペレット、円筒押出形成物、また三葉状物、リング、鞍状物、もしくはこれらの類似物などの他の形状、または球状固体として産生されうる。
【0043】
用語「分散型金属硫化物触媒粒子」および「分散型触媒」は、1μmより小さい(サブミクロン)、例えば、直径が約500nmより小さい、または直径が約250nmより小さい、または直径が約100nmより小さい、または直径が約50nmより小さい、または直径が約25nmより小さい、または直径が約10nmより小さい、または直径が約5nmより小さい、粒子サイズを有する触媒粒子指すとする。用語「分散型金属硫化物触媒粒子」は、分子性または分子分散型触媒化合物を含みうる。用語「分散型金属硫化物触媒粒子」は、1μmより大きい、金属硫化物粒子および金属硫化物粒子の凝集体を除く。
【0044】
用語「分子分散型触媒」は、炭化水素原料または適切な溶媒中で、実質的に「溶解している」、または他の触媒化合物もしくは分子から解離している、触媒化合物を指すとする。「分子分散型触媒」は、結合した数個の触媒分子(例えば、15分子またはそれより少ない)を含有する非常に小さい触媒粒子を含みうる。
【0045】
用語「残留触媒粒子」は、一つの槽から別の槽へ(例えば、水素化処理リアクターから分離器および/または他の水素化処理リアクターへ)と移動させられる際に、改良された材料と共に残る触媒粒子を指すとする。
【0046】
用語「調節された原料」は、炭化水素原料を指すとし、触媒前駆体の分解および活性触媒の形成にあたり、触媒が原料内でin situで形成された分散型金属硫化物触媒粒子を有することになるように、その炭化水素原料中には、触媒前駆体が組み合わせられ十分に混合されている。
【0047】
用語「改良」、「改良する」、および「改良された」は、水素化処理を受けているもしくは受けた原料、または生じる材料もしくは産物を描写するために使用される場合、原料の分子量の低下、原料の沸点範囲の低下、アスファルテン濃度の低下、炭化水素フリーラジカル濃度の低下、および/もしくは、硫黄、窒素、酸素、ハロゲン化合物、および金属などの不純物の量の低下のうち1つまたはそれ以上を指すとする。
【0048】
用語「過酷度」は、水素化処理の間に重油へと導入されるエネルギーの量を一般に指し、またしばしば、水素化処理リアクターの作動温度(つまり、より高い温度はより高い過酷度に関連し、より低い温度はより低い過酷度に関連する)、それと共にその温度露出の持続時間に関連する。過酷度増大は、一般に、水素化処理リアクターにより産生された変換産物の量を増大させる。その産物は、望ましい産物と望ましくない変換産物との両方を含む。望ましい変換産物は、より低い分子量、沸点、および比重の炭化水素を含み、それは、ナフタ、ディーゼル、ジェット燃料、灯油、ワックス、燃料油、およびこれらの類似物などの、最終産物を含みうる。他の望ましい変換産物は、従来型精製および/または蒸留プロセスを使用してさらに処理されうる、より高沸点の炭化水素を含む。望ましくない変換産物は、水素化処理機器上に堆積しうる、かつリアクターの内部構成要素、分離器、フィルター、パイプ、塔、熱交換器、および混成触媒などのファウリングを引き起こしうる、コークス、堆積物、金属、または他の固体材料を含む。望ましくない変換産物は、常圧塔底物(「ATB」)または減圧塔底物(「VTB」)などの、蒸留後に残る未変換の残渣をも指しうる。望ましくない変換産物の最小化は、機器ファウリング、および機器をクリーニングするために必要となるシャットダウンを減少させる。しかしながら、下流の分離機器が正しく機能するため、かつ/または、コークス、堆積物、金属、および、さもなければ機器に堆積しファウリングするが残りの残渣により輸送されて出されうる他の固体材料のための液体輸送媒体を提供するためには、望ましくない残渣の望ましい量が存在するかもしれない。
【0049】
温度に加え、「過酷度」は、「変換」および「スループット」のうち一つまたは両者に関連しうる。過酷度の増大が変換の増大および/またはスループットの増大または低下を要するかは、重油原料の質、および/または水素化処理システム全体のマスバランスに依存しうる。例えば、より大量のフィード材料を変換し、かつ/またはより大量の材料を下流の機器に提供することが望ましい場合、過酷度の増大は、必ずしもフラクション変換を増大せずに、主にスループットの増大が関与しうる。これは残渣フラクション(ATBおよび/またはVTB)が燃料油として販売され、スループットの増大なしでの変換の増大がこの産物の量を低下させうる場合を含む。改良された材料対残渣フラクションの比を増大させることが望ましい場合は、必ずしもスループットを増大させずに、主に変換を増大させることが望ましいかもしれない。水素化処理リアクター中に導入される重油の質が変動する場合は、改良された材料対残渣フラクションの望ましい比、および/または産生される最終産物の望ましい絶対的な質もしくは量を維持するために、変換およびスループットのうち一つまたは両方を選択的に増大または低下させることが望ましいかもしれない。
【0050】
用語「変換」および「フラクション変換」は、より低い沸点の、かつ/またはより小さい分子量の材料へと変換される重油の割合を指す。その割合は、しばしば百分率で表わされる。変換は、規定されるカットポイントよりも低い沸点を有する産物へと変換される、初期残渣の含量(つまり、規定される残留物カットポイントよりも高い沸点を有する成分)の百分率で表わされる。残留物カットポイントの定義は、変化してもよく、また名目上は、524℃(975°F)、538℃(1000°F)、565℃(1050°F)、およびこれらの類似温度を含みうる。規定されるカットポイントより高い沸点を有する化合物の濃度を決定するには、フィードおよび産物流の蒸留解析により測定されうる。フラクション変換は、(F-P)/Fで表わされ、式中Fは合わせられたフィード流中の残渣の量であり、Pは合わせられた産物流中の量であり、ここで、フィードおよび産物両方の残渣含量は同じカットポイント定義に基づく。残渣の量は、規定されるカットポイントより大きい沸点を有する成分の質量に基づいて最も頻繁に定義されるが、容積またはモルに基づく定義もまた使用されうる。
【0051】
用語「スループット」は、時間の関数としての、水素化処理リアクター中に導入されるフィード材料の量を指す。スループットは、日あたりのバレルなどの容積用語で、あるいは時間あたりのメートルトンなどの質量用語で表わされうる。一般的な使用においては、スループットは、重油原料自体(例えば、減圧塔底物、またはその類似物)のみの質量または容積フィード速度で定義される。その定義は、通常、希釈剤、または水素化変換ユニットへのフィード全体に時折含まれうる他の成分の量は通常は含まないが、それらの他の成分を含む定義もまた使用されうる。
【0052】
「変換産物の産生速度」は、日あたりのバレルなどの容積用語で、あるいは時間あたりのメートルトンなどの質量用語で表わされうる絶対速度である。「変換産物の産生速度」は、収率または効率と混同されるべきではない。収率または効率は、時折、誤って「速度」と呼ばれる(例えば、単位フィード速度あたりの産生速度、または単位変換フィードあたりの産生速度)。変換産物の初期産生速度、および変換産物の産生速度の増大の両者の実際の数値は、個々の産生施設に特異的であり、その施設のキャパシティーに依存することが認識されるだろう。従って、異なるキャパシティーで構築された異なるユニットまたは施設に対してではなく、議論されているユニットまたは施設の産生速度を改良の前後で比較するのが妥当である。
【0053】
II. 沸騰床水素化処置リアクターおよびシステム
図2A-2Dは、重油などの炭化水素原料を水素化処理するために使用される、沸騰床水素化処理リアクターおよびシステムの非限定的な例を、図式的に例証する。そのリアクターおよびシステムは、本発明に従う二元触媒システムを使用するように、改良されうる。その沸騰床水素化処理リアクターおよびシステムの例は、ステージ間分離、統合された水素化精製、および/または統合された水素化分解を含みうることが認識されるだろう。
【0054】
図2Aは、C-E Lummusにより開発されたLC-Fining水素化分解システムにおいて使用される沸騰床水素化処理リアクター10を図式的に例証する。沸騰床リアクター10は、原料14および加圧水素ガス16が導入される底付近の注入ポート12、および水素化処理された材料20が回収される上部の排出ポート18を含む。
【0055】
リアクター10は、沸騰床リアクター10を介する液体炭化水素および気体(図式的には泡25として描写される)の上方向移動により、重力に逆らって拡張化または流動化状態で維持される混成触媒24を有する、拡張化触媒ゾーン22をさらに含む。拡張化触媒ゾーン22の下端は分配装置格子プレート26により定義され、そのプレートは、拡張化触媒ゾーン22を、沸騰床リアクター10の底と分配装置格子プレート26との間に位置する混成触媒フリーゾーン下部28から分離する。分配装置格子プレート26は、水素ガスおよび炭化水素をリアクター中に均一に分配させるように構成され、混成触媒24が重力により混成触媒フリーゾーン下部28へと落ちるのを予防する。拡張化触媒ゾーン22の上端は、混成触媒24が所与のレベルの拡張または分離に達するにつれ、重力の下向きの力が、沸騰床リアクター10を介する上方移動する原料およびガスの上向きの力と等しくなりまたはその上向きの力を超え始める高さである。拡張化触媒ゾーン22の上は、混成触媒フリーゾーン上部30である。
【0056】
沸騰床リアクター10内の炭化水素および他の材料は、沸騰床リアクター10の底部で沸騰ポンプ34に接続する、沸騰床リアクター10の中心に位置するリサイクルチャンネル32によって、混成触媒フリーゾーン上部30から混成触媒フリーゾーン下部28へと、連続的に再循環させられる。リサイクルチャンネル32の上部には、漏斗型リサイクルカップ36があり、そのリサイクルカップを通じて原料が混成触媒フリーゾーン上部30から回収される。リサイクルチャンネル32から下向きに回収される材料は、触媒フリーゾーン下部28に入り、それから分配装置格子プレート26を上向きに通過し、拡張化触媒ゾーン22に入り、そこで材料は、新たに加えられた、注入ポート1を通って沸騰床リアクター10に入る原料14および水素ガス16と混合される。沸騰床リアクター10を介して上向きに連続的に循環する混合された材料は、混成触媒24を拡張化触媒ゾーン22内で拡張化または流動化状態で有利に維持し、チャネリングを最小化し、反応速度を制御し、また発熱水素化反応により放出される熱を安全なレベルに保つ。
【0057】
新たな混成触媒24は、沸騰床リアクター10の上部を通り拡張化触媒ゾーン22中まで直接貫通する触媒注入チューブ38を介して、拡張化触媒ゾーン22などの沸騰床リアクター10中へ導入される。使用済みの混成触媒24は、拡張化触媒ゾーン22の下端から分配装置格子プレート26および沸騰床リアクター10の底を貫通する触媒回収チューブ40を通じて、拡張化触媒ゾーン22から回収される。触媒回収チューブ40は、ランダムに分布した混成触媒24が一般には沸騰床リアクター10から「使用済み」触媒として回収されるように、完全に使用済みの触媒と、部分的に使用済みだが活性のある触媒と、新たに添加された触媒との間で区別できないことが認識されるだろう。
【0058】
沸騰床リアクター10から回収された改良された材料20は、分離器42(例えば、高温分離器、ステージ間差圧分離器、または常圧もしくは減圧などの蒸留塔)中へと導入されうる。分離器42は、1つまたはそれ以上の揮発性フラクション46を不揮発性フラクション48から分離する。
【0059】
図2Bは、Hydrocarbon Research Incorporatedにより開発され現在はAxensによりライセンス化されている、H-Oil水素化分解システムにおいて使用される沸騰床リアクター110を図式的に例証する。沸騰床リクター110は、重油原料114および加圧水素ガス116が導入される注入ポート112と、改良された材料120が回収される排出ポート118とを含む。混成触媒124を有する拡張化触媒ゾーン122は、分配装置格子プレート126に結合しており、分配装置格子プレート126は、拡張化触媒ゾーン122を、リアクター110の底と分配装置格子プレート126との間の触媒フリーゾーン下部128、および拡張化触媒ゾーン122と触媒フリーゾーン上部130との間のおおよその境界を定義する上端129を分離する。点線の境界線131は、拡張化または流動化状態にない場合の混成触媒124のおおよそのレベルを図式的に例証する。
【0060】
材料は、リアクター110の外に配置される沸騰ポンプ134に接続するリサイクルチャンネル132により、リアクター110内で連続的に再循環させられる。材料は、触媒フリーゾーン上部130から漏斗型リサイクルカップ136を介して回収される。リサイクルカップ136は螺旋型であり、このことは、沸騰ポンプ134のキャビテーションを予防するために水素気泡125をリサイクル材料132から分離するのに役立つ。リサイクル材料132は触媒フリーゾーン下部128に入り、そこで新たな原料116および水素ガス118と混合され、その混合物は分配装置格子プレート126を上昇通過して拡張化触媒ゾーン122中へ入る。新たな触媒124は、触媒注入チューブ136を介して拡張化触媒ゾーン122中へ導入され、使用済み触媒124は、触媒放出チューブ140を介して拡張化触媒ゾーン122から回収される。
【0061】
H-Oil沸騰床リアクター110とLC-Fining沸騰床リアクター10との主な違いは、沸騰ポンプの位置である。H-Oilリアクター110における沸騰ポンプ134は、反応チャンバーに対し外部に位置する。再循環原料は、リアクター110の底における再循環ポート141を介して導入される。再循環ポート141は、分配装置143を含み、分配装置143は、触媒フリーゾーン下部128中に材料を均一に分配させるのを助ける。改良された材料120が分離器142へと送られているのが示され、分離器142は1つまたはそれ以上の揮発性フラクション146を不揮発性フラクション148から分離する。
【0062】
図2Cは、複数の沸騰床リアクターを有する沸騰床水素化処理システム200を図式的に例証する。水素化処理システム200は、その例はLC-Fining水素化処理ユニットだが、原料214を改良するための一連の3つの沸騰床リアクター210を含みうる。原料214は水素ガス216とともに第一沸騰床リアクター210a中に導入され、原料と水素ガスとの両者はリアクターに入る前にそれぞれの加熱器に通される。第一沸騰床リアクター210aからの改良された材料220aは、追加の水素ガス216とともに、第二沸騰床リアクター210b中に導入される。第二沸騰床リアクター210bからの改良された材料220bは、追加の水素ガス216とともに、第三沸騰床リアクター210c中に導入される。
【0063】
液体炭化水素と残留分散型金属硫化物触媒粒子とを含有する不揮発性フラクションからより低沸点のフラクションおよび気体を除去するためには、1つまたはそれ以上のステージ間分離器が、第一リアクター210aと第二リアクター210bとの、および/または第二リアクター210bと第三リアクター210cとの間に任意で挿入されうることが理解されるべきである。高価な燃料製品であるがアスファルテンには芳しくない溶媒である、ヘキサンおよびヘプタンなどのより低級のアルカンを除去するのが望ましいかもしれない。複数のリアクター間で揮発性材料を除去することは、高価な産物の産生を増強させ、下流リアクターにフィードされる炭化水素液体フラクション中のアスファルテンの可溶性を増強する。いずれも、水素化処理システム全体の効率を上昇させる。
【0064】
第三沸騰床リアクター210cからの改良された材料220cは、高温分離器242aへと送られ、高温分離器242aは揮発性フラクションと不揮発性フラクションとを分離する。揮発性フラクション246aは、熱交換器250を通過し、熱交換器250は第一沸騰床リアクター210aへと導入される前の水素ガス216を予加熱する。そのある程度冷却された揮発性フラクション246aは、中温分離器242bへと送られ、中温分離器242bは、残りの揮発性フラクション246bを、熱交換器250による冷却の結果生じる液体フラクション248bから分離する。残りの揮発性フラクション246bは、気体フラクション252cおよび脱揮液体フラクション248cへのさらなる分離のため、低温分離器246cへと下流に送られる。
【0065】
高温分離器242aからの液体フラクション248aは、中温分離器242bからの生じた液体フラクション248bとともに低圧分離器242dへと送られ、低圧分離器242bは富水素ガス252dを脱気液体フラクション248dから分離し、脱気液体フラクション248dはそれから、低温分離器242cからの脱気液体フラクション248cと混合され、産物へと分画される。低温分離器242cからのの気体フラション252cは、気体、パージガス、および水素ガス216へと精製される。水素ガス216は、圧縮され、追加水素ガス216aと混合され、また、熱交換器250を通過させられて原料216とともに第一沸騰床リアクター210aへと導入される、あるいは第二沸騰床リアクター210bおよび第三沸騰床リアクター210bへと直接導入されるのいずれかである。
【0066】
図2Dは、
図2Cに例証されるシステムに類似するが、第二リアクター210bと第三リアクター210cとの間に挟まれるステージ間分離器221(ステージ間分離器221は第一リアクター210aと第二リアクター210bとの間に挟まれてもよいが)を示す、複数の沸騰床リアクターを有する沸騰床水素化処理システム200を図式的に例証する。例証されるように、第二ステージリアクター210bからの排出物は、ステージ間分離器221に入る。ステージ間分離器221は、高圧高温分離器でありうる。分離器221からの液体フラクションは、ラインからのリサイクル水素216の一部と併合され、それから第三ステージリアクター210cに入る。ステージ間分離器221からの蒸気フラクションは、第三ステージリアクター210cをバイパスし、第三ステージリアクター210cからの排出物と混合し、それから高圧高温分離器242aへと移る。
【0067】
このことは、初めの2つのリアクターステージ中で形成されたより軽くより飽和した成分が、第三ステージリアクター210cをバイパスすることを許容する。このことの利益は、(1)第三ステージリアクターに対する蒸気搭載量の低下であって、これは残りの重い成分を変換するための第三ステージリアクターの容積利用を増大させる、および(2)第三ステージリアクター210cにおいてアスファルテンを不安化させうる「貧溶媒」成分(飽和物)の濃度の低下である。
【0068】
好ましい実施形態においては、水素化処理システムは、水素化処理のより過酷度が低い形態である単なる水素化精製よりも、水素分解反応を促進するように構成され作動させられる。水素化分解には、より大きい炭化水素分子の分子量低下、および/または、芳香性化合物の開環などの、炭素-炭素分子結合の分解が関与する。一方で、水素化精製には、不飽和炭化水素の水素化が主に関与し、最小限の炭素-炭素分子結合の分解が伴う、あるいはまったく伴わない。単なる水素化精製反応よりも水素化分解を促進するため、水素化処理リアクターは、好ましくは約750°F(399℃)から約860°F(460℃)の範囲、より好ましくは約780°F(416℃)から約830°F(433℃)の範囲にある温度で作動させられ、好ましくは約1000psig(6.9MPa)から約3000psig(20.7MPa)の範囲、より好ましくは約1500psig(10.3MPa)から約2500psig(17.2MPa)の範囲にある圧力で作動させられ、また、好ましくは約0.05時間-1から約0.45時間-1の範囲、より好ましくは約0.15時間-1から約0.35時間-1の範囲にある空間速度(例えば、時間あたりのフィード容積対リアクター容積の比として定義される、Liquid Hourly Space VerocityまたはLHSV)で作動させられる。水素化分解と水素化精製との違いは、残渣変換によっても表現されうる(ここで、水素化分解は、より高沸点の炭化水素からより低沸点の炭化水素への実質的な変換をもたらすが、水素化精製はその変換をもたらさない)。本明細書において開示の水素化処理システムは、約40%から約90%の範囲、好ましくは約55%から約80%の範囲にある残渣変換をもたらしうる。好ましい変換範囲は、一般に、異なる原料間での処理の難点の違いゆえ、原料の種類に依存する。 一般に、本明細書で開示される二元触媒システムを利用するように改良する前の沸騰床リアクターを作動させる場合と比べ、変換は、少なくとも約5%より高く、好ましくは少なくとも約10%より高い。
【0069】
III. 沸騰床水素化処理リアクターを改良する工程
図3A、3B、3C、および3Dは、二元触媒システムを使用し、ファウリングが少ない堆積物を産生するように、沸騰床リアクターを改良するための代表的な方法を例証する、フローチャートである。
【0070】
図3Aは、(A)初期条件で重油を水素化処理し、かつ所与の速度で堆積物を産生しファウリングを引き起こすように、混成触媒を使用して沸騰床リアクターを初めに作動させる工程、(B)二元触媒システムを伴う改良されたリアクターを形成するように、沸騰床リアクターに分散型金属硫化物触媒粒子を添加またはin situで形成する工程、および(C)初めに沸騰床リアクターを作動させる際と比べファウリングが少ない堆積物を産生するように、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる工程を有する方法を、よりとくに例証する。
【0071】
いくらかの実施形態に従えば、初期条件で沸騰床リアクターを初めに作動させる際に利用される混成触媒は、沸騰床リアクターシステムにおいて一般的に使用される市販の触媒である。効率を最大化するため、初期リアクター条件は、堆積物形成および機器ファウリングが許容可能なレベル内で維持されるレベルに、有利に、ある。二元触媒システムを使用するように沸騰床リアクターを改良することを伴わずに、堆積物形成(絶対産生速度、および/または少なくとも1つのプロセス流中の堆積物のwt%の増大)を増大させることは、従って、機器ファウリングの増大をもたらしうる。さもなければ、水素化処理リアクター、および、パイプ、塔、加熱器、熱交換器、混成触媒、および/または分離機器などの関連機器のより頻繁なシャットダウンおよび掃除を要するであろう。
【0072】
機器ファウリング、および頻繁なシャットダウンおよびメンテナンスの必要性を増大させることなく、変換産物の産生速度、および/または堆積物産生速度、および/または少なくとも1つのプロセス流中の堆積物濃度を増大させることにより(例えば、リアクター過酷度、および/または変換産物の産生速度を増大させることにより)、ファウリングが少ない堆積物を産生するために、沸騰床リアクターは、混成触媒と分散型金属硫化物触媒粒子とを有する二元触媒システムを使用するように改良される。ファウリングが少ない堆積物を産生するために改良された沸騰床リアクターを作動させる工程は、初期条件で作動させる場合と比べてより大きい変換、および/またはより大きいスループットを伴って作動する工程が関与しうる。いずれも、一般的には、改良されたリアクターを、より高い温度、およびより大きい堆積物産生および機器ファウリング速度で作動させる工程が関与する。しかしながら、ファウリングが少ない堆積物を産生することは、堆積物が所与の速度またはプロセス流中wt%で産生される際、より少ない機器ファウリング、およびより少ないシャットダウンおよび掃除の頻度をもたらす。
【0073】
一つの実践においては、ファウリングが少ない堆積物を産生するように、1つまたはそれ以上の沸騰床リアクターを含む沸騰床水素化処理システムを改良する方法は、(1)変換産物の初期産生速度と、初期堆積物産生速度および/またはプロセス流中濃度と、機器ファウリングの初期速度とを含む初期条件で重油を水素化処理するために、混成触媒を使用して沸騰床リアクターを作動させる工程、(2)それから、分散型金属硫化物触媒粒子と混成触媒とを有する二元触媒システムを使用して作動するように、沸騰床リアクターを改良する工程、および(3)より少ないファウリング堆積物を産生するように、二元触媒システムを使用して改良された沸騰床リアクターを作動させる工程であって、初期条件で沸騰床リアクターを作動させる場合と比べ、所与の堆積物産生速度および/または濃度でファウリングが少ない堆積物を生じさせる工程を有する。
【0074】
一つの実践においては、ファウリングが少ない堆積物を産生するように、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる方法は、(i)初期条件で作動させる場合の変換産物の初期産生速度と比べて同じまたは類似の速度で、変換産物を産生する工程、(ii)初期条件で作動させる場合の初期堆積物産生速度および/または濃度と比べてより小さい速度および/またはプロセス流中濃度で、堆積物を産生する工程、および(iii)初期条件で作動させる場合の機器ファウリングの初期速度と比べてより小さい速度で機器ファウリングを生じさせる工程であって、機器ファウリングの速度は、堆積物産生速度および/または濃度の低下と比べより大きい度合いで低下させられる工程を有する。
【0075】
別の一実践においては、ファウリングが少ない堆積物を産生するように、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる方法は、(i)初期条件で作動させる場合の変換産物の初期産生速度と比べてより大きい速度で、変換産物を産生する工程、(ii)初期条件で作動させる場合の初期堆積物産生速度および/または濃度と比べて同程度の速度および/またはプロセス流中濃度で、堆積物を産生する工程、および(iii)初期条件で作動させる場合の機器ファウリングの初期速度と比べてより小さい速度で機器ファウリングを生じさせる工程を有する。
【0076】
さらに別の一実践においては、ファウリングが少ない堆積物を産生するように、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる方法は、(i)初期条件で作動させる場合の変換産物の初期産生速度と比べてより大きい速度で、変換産物を産生する工程、(ii)初期条件で作動させる場合の初期堆積物産生速度および/または濃度と比べてより大きい速度および/または濃度で、堆積物を産生する工程、および(iii)初期条件で作動させる場合の機器ファウリングの初期速度と比べて同程度の速度で機器ファウリングを生じさせる工程を有する。
【0077】
一つの実践においては、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる際、(i)初期条件で作動させる場合と比べて、同じもしくは類似のスループットで、より高い温度およびより大きい変換、(ii)初期条件で作動させる場合と比べて、同じもしくは類似の変換で、より高い温度およびより大きいスループット、または(iii)初期条件で作動させる場合と比べて、より高い温度、より大きいスループット、およびより大きい変換、のうち少なくとも1つにより、変換産物の産生速度が増大させられる。いくらかの実施形態においては、改良された沸騰床を作動させる場合、初期条件で作動させる場合と比較して、スループットが少なくとも2.5%、少なくとも5%、少なくとも10%、または少なくとも20%増大させられうる。いくらかの実施形態においては、改良された沸騰床を作動させる場合、初期条件で作動させる場合と比較して、変換が少なくとも2.5%、少なくとも5%、少なくとも7.5%、少なくとも10%、または少なくとも15%増大させられうる。いくらかの実施形態においては、改良された沸騰床を作動させる場合、初期条件で作動させる場合と比較して、温度は少なくとも2.5℃、少なくとも5℃、少なくとも7.5℃、または少なくとも10℃高くされうる。
【0078】
いくらかの実施形態においては、二元触媒システムを使用するように沸騰床を改良する工程の後、堆積物産生速度および/もしくはプロセス流中濃度は、初期堆積物産生速度および/もしくは濃度と比較して維持されもしくは増大し、かつ、機器ファウリングの速度は、機器ファウリングの初期速度と比較して少なくとも5%、25%、50%、もしくは75%低下する。いくらかの実施形態においては、二元触媒システムを使用するように改良する工程の後、堆積物産生速度は、初期堆積物産生速度と比較して少なくとも2%、10%、20%、もしくは33%増大させられ、かつ、機器ファウリングの速度は、機器ファウリングの初期速度と比較して維持されもしくは低下させられる。いくらかの実施形態においては、二元触媒システムを使用するように改良する工程の後、プロセス流における堆積物濃度は、初期堆積物濃度と比較して少なくとも2%、10%、20%、もしくは33%増大させられ、かつ、機器ファウリングの速度は、機器ファウリングの初期速度と比較して維持されもしくは低下する。いくらかの実施形態においては、二元触媒システムを使用するように改良する工程の後、堆積物産生速度は、初期堆積物産生速度と比較して少なくとも2%、10%、30%、もしくは50%低下させられ、かつ、機器ファウリングの速度は、機器ファウリングの初期速度と比較して、より一層大きい率で低下させられる。いくらかの実施形態においては、二元触媒システムを使用するように改良する工程の後、プロセス流における堆積物濃度は、初期堆積物濃度と比較して少なくとも2%、10%、30%、もしくは50%低下させられ、かつ、機器ファウリングの速度は、機器ファウリングの初期速度と比較して、より一層大きい率で低下させられる。
【0079】
図3Bは、
図3Aにおいて例証される方法の一実施形態である、堆積物産生の低下と比べより大きい度合いで機器ファウリングの速度を低下させるように、沸騰床リアクターを改良するための代表的な方法を例証する、フローチャートである。
図3Bは、(A)所与の速度またはプロセス流中濃度で堆積物を産生しかつ所与の速度で機器ファウリングを引き起こすように、初期条件で重油を水素化処理するために、混成触媒を使用して沸騰床リアクターを初めに作動させる工程、(B)二元触媒システムを伴う改良されたリアクターを形成するように、沸騰床リアクターに分散型金属硫化物触媒粒子を添加またはin situで形成する工程、および(C)堆積物産生速度および/または濃度を低下させ、かつ、堆積物産生速度および/または濃度の低下率と比べより大きい率で機器ファウリング速度を低下させるように、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる工程を有する方法を特に例証する。
【0080】
一つの実践においては、ファウリングが少ない堆積物を産生するために、1つまたはより多い沸騰床リアクターを含む沸騰床水素化処理システムを改良する方法は、(1)初期堆積物産生速度および/またはプロセス流中濃度と機器ファウリングの初期速度とを含む初期条件で重油を水素化処理するために、混成触媒を使用して沸騰床を作動させる工程、(2)その後、分散型金属硫化物触媒粒子と混成触媒とからなる二元触媒システムを使用して作動するように、沸騰床リアクターを改良させる工程、および(3)堆積物産生速度および/または濃度の低下率と比べより大きい度合いの低下度での、より低い堆積物産生速度および/または濃度とより低い機器ファウリング速度とを伴って、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる工程を有する。いくらかの実施形態においては、改良された沸騰床を作動させる工程は、初期堆積物産生速度および/または濃度と比較して堆積物産生速度および/またはプロセス流中濃度を少なくとも2%、10%、30%、または50%低下させる工程、および、機器ファウリングの初期速度と比較して機器ファウリングの速度を少なくとも5%、25%、50%、または75%低下させる工程を含む。
【0081】
図3Cは、
図3Aにおいて例証される方法の一実施形態である、類似の堆積物産生で機器ファウリングを低下させるように、沸騰床リアクターを改良するための代表的な方法を例証する、フローチャートである。
図3Cは、(A)所与の速度および/またはプロセス流中濃度で堆積物を産生しかつ所与の速度で機器ファウリングを引き起こすように、初期条件で重油を水素化処理するために、混成触媒を使用して沸騰床リアクターを初めに作動させる工程、(B)二元触媒システムを伴う改良されたリアクターを形成するように、沸騰床リアクターに分散型金属硫化物触媒粒子を添加またはin situで形成する工程、および(C)同じまたは類似の堆積物産生速度および/または濃度、かつより低い機器ファウリング速度で、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる工程を有する方法を特に例証する。
【0082】
一つの実践においては、ファウリングが少ない堆積物を産生するために、1つまたはより多い沸騰床リアクターを含む沸騰床水素化処理システムを改良する方法は、(1)初期堆積物産生速度および/またはプロセス流中濃度と機器ファウリングの初期速度とを含む初期条件で重油を水素化処理するために、混成触媒を使用して沸騰床を作動させる工程、(2)その後、分散型金属硫化物触媒粒子と混成触媒とからなる二元触媒システムを使用して作動するように、沸騰床リアクターを改良させる工程、および(3)同じまたは類似の堆積物産生速度および/または濃度で、かつより低い機器ファウリング速度で、二元触媒システムを使用して改良された沸騰床リアクターを作動させる工程を有する。いくらかの実施形態においては、改良された沸騰床を作動させる工程は、機器ファウリングの初期速度と比較して機器ファウリング速度を少なくとも5%、25%、50%、または75%低下させる工程を含む。
【0083】
図3Dは、
図3Aにおいて例証される方法の一実施形態である、機器ファウリングの速度を増大させることなく、堆積物産生を増大させるように、沸騰床リアクターを改良するための代表的な方法を例証する、フローチャートである。
図3Dは、(A)所与の速度またはプロセス流中濃度で堆積物を産生しかつ所与の速度で機器ファウリングを引き起こすように、初期条件で重油を水素化処理するために、混成触媒を使用して沸騰床リアクターを初めに作動させる工程、(B)二元触媒システムを伴う改良されたリアクターを形成するように、沸騰床リアクターに分散型金属硫化物触媒粒子を添加またはin situで形成する工程、および(C)機器ファウリング速度を増大させることなくより大きい堆積物産生速度および/または濃度で、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる工程を有する方法を特に例証する。
【0084】
一つの実践においては、ファウリングが少ない堆積物を産生するために、1つまたはより多い沸騰床リアクターを含む沸騰床水素化処理システムを改良する方法は、(1)初期堆積物産生速度および/またはプロセス流中濃度と機器ファウリングの初期速度とを含む初期条件で重油を水素化処理するために、混成触媒を使用して沸騰床を作動させる工程、(2)その後、分散型金属硫化物触媒粒子と混成触媒とからなる二元触媒システムを使用して作動するように、沸騰床リアクターを改良させる工程、および(3)より大きい堆積物産生速度および/または濃度、かつ同じまたはより低い機器ファウリング速度で、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる工程を有する。いくらかの実施形態においては、改良された沸騰床を作動させる工程は、初期堆積物産生速度および/または濃度と比較して、堆積物産生速度および/または堆積物のプロセス流中濃度を少なくとも2%、10%、20%、または33%低下させる工程を含む。
【0085】
二元触媒システムを形成する際、分散型金属硫化物触媒粒子は、別に産生されてそれから沸騰床リアクターに添加されうる。あるいは、またはそれに加え、分散型金属硫化物触媒粒子の少なくとも一部は、沸騰床リアクター内でin situで産生されうる。
【0086】
いくらかの実施形態においては、分散型金属硫化物触媒粒子は、重油原料全体内において、in situで有利に形成される。これは、調節された原料を形成するために重油原料全体内で触媒前駆体を初めに混合する工程、および、その後、分散型金属硫化物触媒粒子を形成すべく、触媒前駆体を分解し、かつ、触媒金属に重油中のおよび/または重油に添加された硫黄および/または硫黄含有性分子と反応させるまたは反応することを許容するように、調節された原料を加熱する工程、により達成されうる。
【0087】
触媒前駆体は、油溶性であってもよく、また約100℃(212°F)から約350℃(662℃)の範囲に、または約150℃(302°F)から約300℃(572℃)の範囲に、または約175℃(347°F)から約250℃(482℃)の範囲にある分解温度を有してもよい。触媒前駆体の例は、適切な混合条件下で重油原料と混合される場合に実質的な分解を避けるのに十分高い分解温度または範囲を有する、有機金属錯体または化合物、より具体的には遷移金属および有機酸の油溶性化合物または錯体を含む。触媒前駆体を炭化水素油希釈剤と混合する際、その希釈剤を、触媒前駆体の顕著な分解が起こる温度より低い温度に維持することは有利である。本開示に従い、当業者は、分散型金属硫化物触媒粒子の形成の前に実質的な分解を起こすことなく、選択される前駆体組成物の均質混合をもたらす、混合温度特性を選択しうる。
【0088】
触媒前駆体の例は、モリブデン2-エチルヘキサノアート、モリブデンオクトアート、モリブデンナフタナート、バナジウムナフタナート、バナジウムオクトアート、モリブデンヘキサカルボニル、バナジウムヘキサカルボニル、および鉄ペンタカルボニルを含むが、これらに限定されない。他の触媒前駆体は、複数のカチオン性モリブデン原子と、少なくとも8炭素原子の、かつ(a)芳香性、(b)脂環式、または(c)分岐不飽和脂肪族のうち少なくとも1つである複数のカルボン酸アニオンとを有するモリブデン塩を含む。例としては、カルボン酸アニオンそれぞれが、8と17との間の炭素原子、または11と15の間の炭素原子を有しうる。前述のカテゴリーの少なくとも1つにあてはまるカルボン酸アニオンの例は、3-シクロペンチルプロピオン酸、シクロヘキサン酪酸、ビフェニル-2-カルボン酸、4-ヘプチル安息香酸、5-フェニル吉草酸、ゲラン酸(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸)、およびこれらの組合せからなる群から選択されるカルボン酸に由来する、カルボン酸アニオンを含む。
【0089】
他の実施形態においては、油溶性で熱安定性であるモリブデン触媒前駆体化合物の作成における使用のためのカルボン酸アニオンは、3-シクロペンチルプロピオン酸、シクロヘキサン酪酸、ビフェニル-2-カルボン酸、4-ヘプチル安息香酸、5-フェニル吉草酸、ゲラン酸(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸)、10-ウンデセン酸、ドデカン酸、およびこれらの組合せからなる群から選択されるカルボン酸に由来する。前述のカルボン酸に由来するカルボン酸アニオンを使用して作成されるモリブデン触媒前駆体は、より優れた熱安定性を有することが発見されている。
【0090】
より高い熱安定性を有する触媒前駆体は、約210℃より高い、約225℃より高い、約230℃より高い、約240℃より高い、約275℃より高い、または約290℃より高い第一分解温度を有しうる。そのような触媒前駆体は、約250℃より高い、または約260℃より高い、または約270℃より高い、または約280℃より高い、または約290℃より高い、または約330℃より高いピーク分解温度を有しうる。
【0091】
本開示に従い、当業者は、分散型金属硫化物触媒粒子の形成の前に実質的な分解を起こすことなく、選択される前駆体組成物の均質混合をもたらす混合温度特性を選択しうる。
【0092】
触媒前駆体組成物を重油原料と直接混合することは本発明の範囲内ではあるが、そのような場合は、前駆体組成物の実質的な分解が起こる前に、原料内で前駆体組成物を十分に混合するのに十分な時間をかけて、成分を混合するように注意が払われなければならない。例えば、Cyrらに対する米国特許第5,578,197号は、その開示が本参照により本明細書に組み込まれ、触媒化合物を形成するように、かつ水素化分解に影響するように、生じる混合物が反応槽流で加熱される前に、24時間にわたりモリブデン2-エチルヘキサノアートが瀝青減圧塔残渣と混合される方法を開示する(10列目、4-43行目を参照)。試験環境中での24時間の混合は完全に許容可能であるかもしれないが、そのような長い混合時間は、一定の工業運営を手が出ないほど高額にしうる。活性触媒を形成する前に重油内での触媒前駆体の十分な混合を確実にするため、一連の混合ステップが、調節された原料を加熱する前に異なる混合装置により実施される。これらは、1つまたはそれ以上の低剪断インライン混合装置、次いで1つまたはそれ以上の高剪断混合装置、次いでサージ槽およびパンプアラウンドシステム、次いで、フィードを水素化処理リアクター中へ導入する前にフィード流を加圧するために使用される1つまたはそれ以上の複数ステージ高圧ポンプを含む。
【0093】
いくらかの実施形態においては、調節された原料は、重油内で少なくとも一部の分散型金属硫化物触媒粒子をin situで形成するため、水素化処理リアクターに入る前に、加熱装置を使用して予加熱される。他の実施形態においては、調節された原料は、重油内で少なくとも一部の分散型金属硫化物触媒粒子をin situで形成するため、水素化処理リアクター内で加熱またはさらに加熱される。
【0094】
いくらかの実施形態においては、分散型金属硫化物触媒粒子は、複数ステップのプロセスにおいて形成されうる。例えば、油溶性触媒前駆体組成物は、希釈された前駆体混合物を形成するため、炭化水素希釈剤と予混合されうる。適切な炭化水素希釈は、減圧軽油(一般に360-524℃の名目沸点範囲を有する)(680-975°F)、デカントオイルまたはサイクルオイル(一般に360-550℃の名目沸点範囲を有する)(680-1022°F)、およびガスオイル(一般に200-360℃の名目沸点範囲を有する)(392-680°F)、重油原料の一部、および約200℃より高い温度で名目上沸騰する他の炭化水素を含むが、これらに限定されない。
【0095】
触媒前駆体、対、希釈された前駆体混合物を作成するために使用される炭化水素油希釈剤の比は、約1:500から約1:1の範囲に、または約1:150から約1:2の範囲に、または約1:100から約1:5の範囲(例えば、1:100、1:50、1:30、または1:10)にありうる。
【0096】
希釈された前駆体混合物中の触媒金属(例えばモリブデン)の量は、好ましくは希釈された前駆体混合物の重量に対し約100ppmから約7000ppmの範囲に、より好ましくは希釈された前駆体混合物の重量に対し約300ppmから約4000ppmの範囲にある。
【0097】
触媒前駆体は、触媒前駆体組成物の顕著な割合が分解する温度より低い温度で、炭化水素希釈剤と有利に混合される。混合は、希釈された前駆体混合物を形成するため、約25℃(77°F)から約250℃(482°F)の範囲に、または約50℃(122°F)から約200℃(392°F)の範囲に、または約75℃(167°F)から約150℃(302°F)の範囲にある温度で、実施されうる。希釈された前駆体混合物が形成される温度は、分解温度、および/または、利用されるおよび/もしくは炭化水素希釈剤の特徴である粘度などの触媒前駆体の他の性質に依存しうる。
【0098】
触媒前駆体は、約0.1秒から約5分の範囲にある、または約0.5秒から約3分の範囲にある、または約1秒から約1分の範囲にある期間にわたり、炭化水素油希釈剤と好ましくは混合される。実際の混合時間は、少なくとも部分的には、温度(つまり、流体の粘度に影響する)、および混合強度に依存する。混合強度は、少なくとも部分的には、例えばインライン静的混合装置については、ステージ数に依存する。
【0099】
次に重油原料と混合される希釈された前駆体混合物を形成するように、触媒前駆体を炭化水素希釈剤と予混合する工程は、特に大規模な工業運営のために必要とされる比較的短い期間で、触媒前駆体を原料内で十分にかつ均質に混合することにおいて、非常に助けとなる。希釈された前駆体混合物を形成する工程は、全混合時間を、(1)より極性のある触媒前駆体とより疎水性重油原料との間の可溶性の差を、低下させるまたは排除すること、(2)触媒前駆体と重油原料との間のレオロジーの差を、低下させるまたは排除すること、および/または(3)より容易に重油原料内に分散させられる炭化水素希釈剤内に溶質を形成するように、触媒前駆体分子を分解することにより短縮させる。
【0100】
希釈された前駆体混合物は、それから重油原料と併合されて、熱分解および活性金属硫化物触媒粒子の形成の前に触媒前駆体が重油内で十分に混合されている調節された原料を形成するように、触媒前駆体を原料中に分散させるのに十分な時間をかけて、またそのように分散させるように、混合される。重油原料内で触媒前駆体の十分な混合を得るため、希釈された前駆体混合物、および重油原料は、約0.1秒から約5分の範囲にある、または約0.5秒から約3分の範囲にある、または約1秒から約3分の範囲にある期間にわたり、有利に混合される。混合プロセスの強力度および/または剪断エネルギーを増大させることは、一般に、十分な混合をもたらすのに必要となる時間を縮小する。
【0101】
触媒前駆体および/または希釈された前駆体混合物の重油との十分な混合をもたらすために使用されうる混合装置の例は、プロペラまたはタービンインペラーを有する槽中で生じる混合などの高剪断混合、複数の静的インライン混合装置、インライン高剪断混合装置との組合せでの複数の静的インライン混合装置、インライン高剪断混合装置との組合せでの複数の静的インライン混合装置、およびそれに続くサージ槽、上記の組合せ、およびそれに続く1つまたはそれ以上の複数ステージ遠心ポンプ、および1つまたはそれ以上の複数ステージ遠心ポンプを含むが、これらに限定されない。いくらかの実施形態に従えば、ポンピングプロセス自体の一部として触媒前駆体組成物および重油原料が攪拌および混合される複数のチャンバーを有する、高エネルギーポンプを使用して、バッチごとのではなくむしろ連続的な混合が行われうる。触媒前駆体混合物を形成するために触媒前駆体が炭化水素希釈剤と混合される、上で議論される予混合プロセスには、上記の混合装置もまた使用されうる。
【0102】
室温で固体であるまたは非常に粘性である重油原料の場合、そのような原料は、原料組成物中への油溶性触媒前駆体の優れた混合を許容するように、原料を軟化させ十分に低い粘性を有する原料を生成するために、有利に加熱されうる。一般に、重油原料の粘性を低下させることは、原料内での油溶性前駆体組成物の十分かつ均質な混合をもたらすのに必要とされる時間を縮小するだろう。
【0103】
重油原料と、触媒前駆体および/または希釈された前駆体混合物とは、調節された原料を生じさせるために、約25℃(77°F)から約350℃(662°F)の範囲にある、または約50℃(122°F)から約300℃(572°F)の範囲にある、または約75℃(167°F)から約250℃(482°F)の範囲にある温度で有利に混合される。
【0104】
まず希釈された前駆体混合物を形成することなく、触媒前駆体が重油原料と直接混合される場合は、触媒前駆体組成物の顕著な割合が分解する温度よりも低い温度で、触媒前駆体と重油原料とを混合するのが有利でありうる。しかしながら、後に重油原料と混合される希釈された前駆体混合物を形成するために、触媒前駆体が炭化水素希釈剤と予混合される場合には、重油原料が、触媒前駆体の分解温度またはそれより高い温度にあることが許容されうる。それは、炭化水素希釈剤が、個々の触媒前駆体分子を保護し、また触媒前駆体分子が凝集してより大きい粒子を形成することを防ぎ、混合の間の重油からの熱から触媒前駆体分子を一次的に隔離し、かつ分解して金属を遊離する前に触媒前駆体分子を重油原料中に十分に素早く分散させるのを促進するからである。さらに、原料の追加での加熱は、金属硫化物触媒粒子を形成するために、重油中で硫黄含有性分子から硫化水素を遊離させるのに必要でありうる。このようにして、触媒前駆体の漸進的な希釈は、重油原料内での高レベルの分散を許容し、原料が触媒前駆体の分解温度よりも高い温度にある場合でさえも、高分散型金属硫化物触媒粒子の形成をもたらす。
【0105】
調節された原料を生じさせるように重油中に触媒前駆体がよく混合された後、この組成物は次いで、触媒前駆体から触媒金属を遊離させるような触媒前駆体の分解を引き起こし、触媒金属を重油内のおよび/または重油に添加された硫黄と反応させまたは反応することを許容し、かつ活性金蔵硫化物触媒粒子を形成するように、加熱される。触媒前駆体からの金属は、初めは金属酸化物を形成するかもしれず、それから重油中の硫黄と反応して、最終活性触媒を形成する金属硫化物を生じる。重油原料が十分または過剰な硫黄を含む場合、最終活性触媒は、重油原料から硫黄を遊離させるのに十分な温度まで重油原料を加熱することにより、in situで形成されうる。いくらかの場合においては、硫黄は、前駆体組成物が分解するのと同じ温度で遊離されうる。他の場合においては、より高い温度までさらに加熱することが必要となりうる。
【0106】
触媒前駆体が重油中に十分に混合されれば、遊離した金属イオンの少なくとも実質的な割合が、硫黄と反応する際に分子的に分散させられた触媒を形成して金属硫化物化合物を形成しうるように、他の金属イオンから十分に保護または隔離されるであろう。いくらかの状況下においては、微量の凝集が起き、コロイドサイズの触媒粒子を生じるかもしれない。しかしながら、触媒前駆体の熱分解の前に触媒前駆体を原料中に十分混合するように注意することは、コロイド粒子よりもむしろ個々の触媒分子を生じうると信じられている。触媒前駆体を原料と十分に混合しそこねつつ単に混合することは、一般に、ミクロンサイズまたはより大きい、大きな凝集した金属硫化物化合物の形成を引き起こす。
【0107】
分散型金属硫黄触媒粒子を形成するため、調節された原料は、約275℃(527°F)から約450℃(842°F)の範囲にある、または約310℃(590°F)から約430℃(806°F)の範囲にある、または約330℃(626°F)から約410℃(770°F)の範囲にある温度まで加熱される。
【0108】
分散型金属硫化物触媒粒子により提供される触媒金属の初期濃度は、重油原料の重量に対し約1ppmから約500ppmの範囲に、または約5ppmから約300ppmの範囲に、または約10ppmから約100ppmの範囲にありうる。残渣フラクションから揮発性フラクションが除去されるにつれ、触媒はより濃縮されうる。
【0109】
重油原料が顕著な量のアスファルテン分子を含む場合、分散型金属硫化物触媒粒子は、優先的に、アスファルテン分子と結合するかもしれず、またはアスファルテン分子に近接しているかもしれない。アスファルテン分子は重油内に含有される他の炭化水素と比べて一般に親水性がより高く疎水性がより小さいため、アスファルテン分子は、金属硫化物触媒粒子に対しより大きい親和性を有しうる。金属硫化物触媒粒子は非常に親和性が高い傾向にあるため、個々の粒子または分子は、重油原料内のより親水性の部分または分子へと移動する傾向にあるだろう。
【0110】
金属硫化物触媒粒子の非常に極性が高い性質は、その粒子をアスファルテン分子と結合させるまたは結合することを許容する一方、分解および活性触媒粒子の形成の前の、重油内での触媒前駆体組成物の前述の均質または十分な混合を必要とさせるのは、非常に極性が高い触媒化合物と疎水性の重油との間の一般的な不適合性である。金属触媒化合物は非常に極性が高いため、その化合物は重油に直接添加されると重油内で効果的に分散することができない。実際面では、より小さい活性触媒粒子の形成は、重油中により均一に分布させられた触媒部位を提供する、より多くの数の触媒粒子をもたらす。
【0111】
IV. 改良された沸騰床リアクター
図4は、本開示の方法およびシステムにおいて使用されうる、改良された沸騰床水素化処理システム400の例を図式的に例証する。沸騰床水素化処理システム400は、改良された沸騰床リアクター430、および高温分離器404(または、蒸留塔などの他の分離器)を含む。改良された沸騰床430を作成するには、触媒前駆体402がまず、触媒前駆体混合物409を形成するように、1つまたはより多い混合装置406中で炭化水素希釈剤404と予混合される。調節された原料411を形成するため、触媒前駆体混合物409は、原料408に添加され、1つまたはより多い混合装置410中で原料と混合される。調節された原料内での触媒前駆体のさらなる混合および分散を引き起こすため、調節された原料は、パンプアラウンド414を伴うサージ槽412にフィードされる。
【0112】
サージ槽412からの調節された原料は、1つまたはより多いポンプ416により加圧され、予加熱器418を通過し、また、沸騰床リアクター430の底または底付近に位置する注入ポート436を通じて、加圧水素ガス420と共に沸騰床リアクター430中へフィードされる。沸騰床リアクター430中の重油材料426は、図式的には触媒粒子424として描写される分散型金属硫化物触媒粒子を含有する。
【0113】
重油原料408は、重質原油、オイルサンド瀝青、原油からのバレルフラクション底物、常圧塔底物、減圧塔底物、コールタール、液化石炭、および他の残渣フラクションのうち1つまたはそれより多くを含むがこれらに限定されない、あらゆる望ましい化石燃料原料および/またはそのフラクションを有しうる。いくらかの実施形態においては、重油原料408は、高沸点炭化水素の(つまり、名目上約343℃(650°F)またはより高い、より好ましくは名目上約524℃(975°F)またはより高い)顕著なフラクション、および/またはアスファルテンを含みうる。アスファルテンは、顕著な数の、パラフィン系側鎖を有する縮合した芳香系またはナフテン系環(
図1を参照)の結果である、比較的低い水素対炭素比を含む複雑な炭化水素分子である。縮合した芳香系またナフテン系環からなるシートは、硫黄もしくは窒素、および/またはポリメチレン橋、チオエーテル結合、およびバナジウムおよびニッケル錯体などのヘテロ原子により繋がっている。アスファルテンフラクションはまた、原油または残りの減圧残渣と比べより高含量の硫黄および窒素も含有し、より高い濃度の炭素形成性化合物(つまり、コークス前駆体および堆積物を形成するもの)をも含有する。
【0114】
沸騰床リアクター430は、混成触媒444を有する拡張化触媒ゾーン442をさらに含む。混成触媒フリーゾーン下部448は、拡張化触媒ゾーン442の下に位置し、混成触媒フリーゾーン上部450は、拡張化触媒ゾーン442の上に位置する。分散型金属硫化物触媒粒子424は、拡張化触媒ゾーン442、混成触媒フリーゾーン448、450、452を含む改良された沸騰床リアクター430内の、材料426中に分散させられる。これにより、分散型金属硫化物触媒粒子は、二元触媒システムを含むように改良される前に沸騰床リアクター中で触媒フリーゾーンを構成していた領域内で、反応を改良することを促進するのに、利用可能である。
【0115】
単なる水素化精製反応よりもむしろ水素化分解反応を促進するため、水素化処理リアクターは、好ましくは約750°F(399℃)から約860°F(460℃)の範囲にある、より好ましくは約780°F(416℃)から約830°F(443℃)の範囲にある温度で作動させられ、好ましくは約1000psig(6.9MPa)から約3000psig(20.7MPa)の範囲にある、より好ましくは約1500psig(10.3MPa)から約2500psig(17.2MPa)の範囲にある圧力で作動させられ、また、好ましくは約0.05時間-1から約0.45時間-1の範囲にある、より好ましくは約0.15時間-1から約0.35時間-1の範囲にある空間速度(LHSV)で作動させられる。水素化分解と水素化精製との間の違いは、残渣変換によっても表現されうる(ここで、水素化分解はより高沸点の炭化水素からより低沸点の炭化水素への実質的な変換をもたらし、一方で水素化精製はそれをもたらさない)。本明細書において開示の水素化処理システムは、約40%から約90%の範囲にある、好ましくは約55%から約80%の範囲にある残渣変換をもたらしうる。好ましい変換範囲は、一般に、異なる原料間での処理の難点の違いゆえ、原料の種類に依存する。一般に、本明細書で開示される二元触媒システムを利用するように改良する前に沸騰床リアクターを作動させる場合と比べ、変換は、少なくとも約5%より高く、好ましくは少なくとも約10%より高い。
【0116】
沸騰床リアクター430中の材料426は、沸騰ポンプ454に連結するリサイクルチャンネル452により、混成触媒フリーゾーン上部450から混成触媒フリーゾーン下部448へと、連続的に再循環させられる。リサイクルチャンネル452の上部には、漏斗型リサイクルカップ456があり、このリサイクルカップを通じて、材料426は混成触媒フリーゾーン上部450から回収される。リサイクルされた材料426は、新しい調節された原料411および水素ガス420と混合される。
【0117】
新しい混成触媒444は触媒注入チューブ458を通じて沸騰床リアクター430中に導入され、使用済みの混成触媒444は触媒回収チューブ460を通じて回収される。触媒回収チューブ460は、完全に使用済み触媒と、部分的に使用済みだが活性のある触媒と、新しい触媒との間で区別できないのに対し、分散型金属硫化物触媒粒子424の存在は、拡張化触媒ゾーン442、リサイクルチャンネル452、および、混成触媒フリーゾーン下部448および上部450内で、追加の触媒活性を提供する。混成触媒444外での炭化水素への水素の添加は、しばしば混成触媒の不活性化の原因である、堆積物およびコークス前駆体の形成を最小化する。
【0118】
沸騰床リアクター430は、上部でまたは上部付近に排出ポート438をさらに含む。変換材料440は、その排出ポートを介して回収される。変換材料440は、高温分離器または蒸留塔404中へと導入される。高温分離器または蒸留塔404は、高温分離器または蒸留塔404の底から回収される残渣フラクション407から、高温分離器404の上部から回収される1つまたはそれ以上の揮発性フラクション405を分離する。残渣フラクション407は、触媒粒子424として図式的に描写される残渣金属硫化物触媒粒子を含有する。望まれれば、フィード材料の一部を形成し追加の金属硫化物触媒粒子を供給するために、残渣フラクション407の少なくとも一部が、沸騰床リアクター430へとリサイクルされて戻されうる。あるいは、残渣フラクション407は、別の沸騰床リアクターなどの下流の処理機器を使用してさらに処理されうる。その場合、分離器404は、ステージ間分離器でありうる。
【0119】
いくらかの実施形態においては、二元触媒システムを使用しつつファウリングが少ない堆積物を産生するために改良された沸騰床リアクターを作動させることは、所与の堆積物産生速度および/または濃度で、より少ない機器ファウリングをもたらす。
【0120】
例えば、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる場合の機器ファウリング速度は、沸騰床リアクターを初めに作動させる場合と比べて等しいまたはより小さい、掃除のための熱交換器シャットダウン頻度をもたらしうる。
【0121】
さらにまたはあるいは、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる場合の機器ファウリング速度は、沸騰床リアクターを初めに作動させる場合と比べて等しいまたはより小さい、掃除のための常圧および/または減圧蒸留塔シャットダウン頻度をもたらしうる。
【0122】
さらにまたはあるいは、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる場合の機器ファウリング速度は、沸騰床リアクターを初めに作動させる場合と比べて等しいまたはより小さい、フィルターおよびストレイナーの交換またはクリーニングの頻度をもたらしうる。
【0123】
さらにまたはあるいは、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる場合の機器ファウリング速度は、沸騰床リアクターを初めに作動させる場合と比べて等しいまたはより小さい、予備の熱交換器への交換頻度をもたらしうる。
【0124】
さらにまたはあるいは、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる場合の機器ファウリング速度は、沸騰床リアクターを初めに作動させる場合と比べて小さい、熱交換器、分離器、または蒸留塔のうち1つまたはそれより多くから選択される機器における皮膚温度の低下速度をもたらしうる。
【0125】
さらにまたはあるいは、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる場合の機器ファウリング速度は、沸騰床リアクターを初めに作動させる場合と比べて小さい、炉管金属温度の増大速度をもたらしうる。
【0126】
さらにまたはあるいは、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させる場合の機器ファウリング速度は、沸騰床リアクターを初めに作動させる場合と比べて小さい、熱交換器についての算出されたファウリング抵抗係数の増大速度をもたらしうる。
【0127】
いくらかの実施形態においては、改良された沸騰床リアクターを二元触媒システムを使用して作動させることは、沸騰床リアクターを初めに作動させる場合と比べて等しい、より小さい、またはより大きい、堆積物産生速度および/または濃度をもたらしうる。いくらかの実施形態においては、堆積物濃度は、(1)常圧塔底物産物、(2)減圧塔底物産物、(3)高温低圧分離器からの産物、または(4)カッターストックの添加前もしくは後の燃料油産物、のうち1つまたはそれより多くにおける堆積物の測定値に基づきうる。
【0128】
V. 実験研究および結果
以下の試験的実験は、重油を水素化処理する際に、混成触媒と分散型金属硫化物触媒粒子とからなる二元触媒システムを使用するように沸騰床リアクターを改良することの効果および利点を示す。比較実験は、市販の沸騰床ユニットを使用して実施され、改良された沸騰床水素化処理システムにおける二元触媒システムを使用が、ファウリングが少ない堆積物を産生することを示した。実施例のために使用されたユニットは、三ステージ沸騰床ユニットであった。市販ユニット操作の専有的特性ゆえ、作動パラメーターは、絶対的ではなくむしろ相対的な用語で提供される。
【0129】
重質減圧ガスオイルは、触媒前駆体を分散させ前駆体混合物を形成するための炭化水素希釈剤として使用されうる。前駆体混合物は、それから、調節された原料を形成するために、重油原料に添加されて重油原料と混合される。ある量の触媒前駆体をある量の炭化水素希釈剤と混合することは、ある量の触媒前駆体混合物を形成し、その混合物はそれから、調節された原料中に分散される触媒の、目標搭載量を実現するために、重油原料と混合されうる。例証として、調節された原料中に30ppmの分散型金属硫化物触媒の目標搭載が望まれる場合(ここで、搭載量は金属濃度を基に表現される)、触媒前駆体混合物は、3000ppm濃度の金属とともに調製されうる。調節された原料を形成するように、炭化水素希釈剤と触媒前駆体(例えば、モリブデン2-エチルヘキサノアート)とからなる前駆体混合物を、重油原料と混合するためには、高剪断混合槽が使用されうる。適切な混合は、前駆体混合物を形成するように、触媒前駆体を炭化水素希釈剤とまず予混合するより達成されうる。
【0130】
前述の通り、以下の実施例は、市販の沸騰床ユニットにおいて実施された。実施例のために使用されたユニットは、三ステージ沸騰床ユニットであった。市販ユニット操作の専有的特性ゆえ、作動パラメーターは相対的な用語で提供される。
【実施例1】
【0131】
比較実施例1
比較実施例1のための市販の沸騰床ユニットは、二元触媒システムの分散型金属硫化物粒子を形成するために使用される分散型触媒添加剤を使用することなく、ベースライン条件で作動させられた。標準的な量の市販の混成担持沸騰床触媒のみが、重油フィードを処理するために使用された。沸騰床リアクターは、三つのリアクターステージ全てが同じ加重平均床温度(WABT)で作動しながら、ベースライン温度で作動させられた。プロセスフィードは、538℃(1000°F)の減圧カットポイントに基づくUrals減圧残留物であり、ユニットはベースフィード速度で作動させられた。ベースフィード速度は、一般に、時間あたりの液空間速度(LHSV)として表現され、容積フィード速度を熱リアクター容積で割ったものとして定義される。
【0132】
上述のベース条件下では、変換が538℃+減圧残留物フラクションに基づいて定義される場合、ベースレベルの残渣変換が達成された。リアクターシステムを出た後、変換されたリアクター排出物は、常圧蒸留および減圧蒸留を含む一連の分離を通じて処理され、減圧塔底物(VTB)産物の回収をもたらした。ベースライン堆積物濃度は、IP-375法を使用してこのVTB産物において測定された。
【0133】
比較実施例1のベースライン条件下での市販ユニットの作動の間、沸騰床リアクターセクションの下流に位置する複数の熱交換器は、ファウリングの兆候について監視された。これらは、減圧塔底物産物の温度を低下させるために使用される、減圧蒸留塔の下流に位置する三つの連続する熱交換器を含んだ。これらの実施例のため、これらの熱交換器は、VTB Cooler#1、VTB Cooler#2、およびVTB Cooler#3と名付けられる。システムはまた、補助カットを冷却するように設計されるAuxiliary Cut Coolerと名付けられる熱交換器、および、常圧塔底物の温度を低下させるATB Coolerと名付けられる熱交換器も含んだ。「補助カット」は、減圧蒸留塔中のVTB産物の上から得られる、産物流である。ファウリングは、圧力単位kPaで測定される、これらの熱交換器それぞれを横切る差圧に基づき測定された。ファウリング速度は、kPa/日で表わされる、複数日の期間にわたる差圧上昇の一日あたりの速度平均として表現される。
【0134】
ファウリング結果は、以下に、実施例2の下に表1中に示される。監視された熱交換器五つすべてが、Auxiliary Cut Coolerに対する37kPa/日からATB Coolerに対する196kPa/日にわたる、目に見える速度のファウリングを示した。三つのVTB Coolerについてのファウリング速度は、45から124kPa/日にわたった。これらの速度は顕著であり、クリーニングのための個々の熱交換器の定期的なシャットダウンを必要とするのに十分な熱交換器ファウリング速度を示す。この必要性に対応するために、市販ユニットは、ユニット操作をシャットダウンすることなく主要な交換機が掃除されることを許容する、並列の熱交換器を備えた。
【実施例2】
【0135】
実施例2においては、比較実施例1に開示されるのと同じ市販ユニットが使用された。しかしながら、そのユニットは、同じ量の市販の混成担持沸騰床触媒と、それとともに、よく分散された触媒前駆体を使用して形成された分散型金属硫化物触媒粒子とを有する二元触媒システムを使用して作動するように改良された。分散型触媒前駆体は、減圧残留物原料の量に基づくモリブデン触媒金属の重量について35ppmを提供するのに十分な量で、プロセスフィードに添加された。Ural減圧残留物原料のフィード速度は、比較実施例1において使用されたのと同じベースライン速度に維持された。
【0136】
実施例2においては、加重平均床温度として表現されるリアクター温度は、比較実施例1において使用されたベースライン温度と比較して、9℃上昇させられた。三つのリアクターステージ全ては、同じ量だけ温度が上昇させられ、ゆえに、三つのリアクターを通して等しいWABTで作動させられ続けた。この温度の上昇は、比較実施例1におけるベースライン変換と比較して、9.4百分率ポイントの残渣変換の増大をもたらした。このことは、通常であれば、減圧塔底物産物における堆積物変換の顕著な増大をもたらすことが予期されるであろう。しかしながら、実施例2において使用される二元触媒システムの効果ゆえ、減圧塔底物において測定された堆積物濃度(IP-375法を使用)は、比較実施例1のベース濃度の0.95倍、あるいはほぼ同じ堆積物濃度であった。
【0137】
当業者は、比較実施例1における堆積物濃度とほぼ同じ堆積物濃度をふまえれば、実施例2において利用されるプロセスは、類似の熱交換器ファウリング速度を示すことが予期されると予想するであろう。しかしながら、実施例2について観察された実際のファウリング速度は、比較実施例1よりも大いに低かった。表1にしめされるように、VTB Coolerについてのファウリング速度は、VTB Cooler#1についての0.01kPa/日からVTB Cooler#3についての41kPa/日にわたる。これらは、信じられないほどの、VTB Cooler#1についての99.9%、VTB Cooler#2についての71.1%、およびVTB Cooler#3についての66.9%というファウリング速度の低下に対応する。同様に、Auxiliary Cut CoolerおよびATB Coolerについてのファウリング速度は、比較実施例1における速度と比較して、それぞれ97.3および93.4%の低下と、大いに低かった。
【0138】
ほぼ同一の、減圧塔底物産物における測定されたIP-375堆積物濃度で、ファウリング速度が劇的に低下したという観察結果は、本発明の分散型触媒添加剤の添加の効果により堆積物の組成が顕著に変化し、またファウリング傾向がより低い堆積物が産生されたたことを示す。
【表1】
【0139】
本発明は、その真髄または本質的特徴から逸脱することなく、他の特定の形で具現化されうる。開示の実施形態は、あらゆる点において、制限的ではなく例証的のみとしてみなされるべきである。本発明の範囲は、従って、前述の開示によってではなく添付の特許請求の範囲によって示される。特許請求の範囲の均等内容の意味および範囲内におさまるあらゆる変更は、特許請求の範囲の範囲内に包含されるべきである。