IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立産機システムの特許一覧

<>
  • 特許-給油式圧縮機 図1
  • 特許-給油式圧縮機 図2
  • 特許-給油式圧縮機 図3
  • 特許-給油式圧縮機 図4
  • 特許-給油式圧縮機 図5
  • 特許-給油式圧縮機 図6
  • 特許-給油式圧縮機 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】給油式圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/02 20060101AFI20230825BHJP
   F04B 39/12 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
F04B39/02 E
F04B39/12 101G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019071939
(22)【出願日】2019-04-04
(65)【公開番号】P2020169612
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 翔
(72)【発明者】
【氏名】梅田 憲
(72)【発明者】
【氏名】成澤 伸之
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-073950(JP,A)
【文献】実開昭56-077667(JP,U)
【文献】特開2004-036412(JP,A)
【文献】特開平11-210623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/02
F04B 39/12
F04B 41/02
F04C 29/02
F16N 7/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク内に圧縮流体を貯留する圧縮機本体と、前記圧縮機本体を駆動するモータと、前記モータの回転速度を制御する制御手段とを有し、前記圧縮機本体は、その内部に潤滑油が収容される貯留部を有する給油式圧縮機であって、
前記貯留部の底面に孔を有し、該孔と前記タンクを連通する配管を設け、該配管の経路中に流路を開閉する開閉装置を設け
前記開閉装置が開状態になったとき、前記タンク内の圧縮流体が前記貯留部に噴出することで前記潤滑油を噴出させ、前記圧縮機本体内部の摺動部品に該潤滑油を供給することを特徴とする給油式圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載の給油式圧縮機において、
前記圧縮機本体は、シリンダ内を往復動するピストンと、前記ピストンを揺動可能に支持する連接棒と、前記連接棒の端部に回転力を与えるクランク軸と、前記クランク軸を回転支持するクランクケースを有する往復動式であることを特徴とする給油式圧縮機。
【請求項3】
請求項に記載の給油式圧縮機において、
前記貯留部の底面の孔は、前記クランク軸の回転中心より水平方向にずれた位置に設けられていることを特徴とする給油式圧縮機。
【請求項4】
請求項3に記載の給油式圧縮機において、
前記配管の前記潤滑油の貯留部側出口は、前記シリンダ方向に向けて取付けられていることを特徴とする給油式圧縮機。
【請求項5】
請求項3に記載の給油式圧縮機において、
前記配管の前記潤滑油の貯留部側出口の流路が前記ピストンの移動方向に対して傾斜するように設けられていることを特徴とする給油式圧縮機。
【請求項6】
請求項に記載の給油式圧縮機において、
前記圧縮機本体は、前記シリンダを複数有する多気筒往復動式であって、前記配管は各々のシリンダに向けて複数設けられていることを特徴とする給油式圧縮機。
【請求項7】
請求項に記載の給油式圧縮機において、
前記開閉装置の2次側に逆止弁を有することを特徴とする給油式圧縮機。
【請求項8】
請求項に記載の給油式圧縮機において、
前記連接棒に延出する油かき棒が設けられており、前記クランク軸の回転によって該連接棒が上下することで前記油かきが前記クランクケースに保持された潤滑油の貯留部に対し進退して潤滑油をかき上げる構成を有することを特徴とする給油式圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油による潤滑を行う給油式圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油を用いて軸受やピストン・シリンダ間の摺動面が滑らかに回転、摺動するように潤滑を行う給油式往復動圧縮機においては、給油方式として、はねかき式とオイルポンプ式がある。前者は、油かき棒を有する連接棒によりクランク室に保持された潤滑油を回転と共にかき上げることで摺動面へ跳ねかける方式である。後者は、ポンプにより潤滑油を摺動面へ送油することで、摺動面の潤滑性を保持する方式である。
【0003】
一方で、省エネルギー化を目的とした往復動圧縮機として、圧縮機の回転速度を圧縮空気の消費量に応じてインバータで変化させる可変速運転を行い、一定圧力制御を行うものがある。
【0004】
しかし、前述の給油式往復動圧縮機において、コスト面で最良である、はねかけ式と、一定圧力制御を組み合わせた場合は、低速運転時における油のはねかけ油量が低下し、潤滑不良に陥る可能性がある。さらに高速運転時では、油のはねかけ量が増加し、油消費量の増加に繋がる可能性がある。したがって、低コストでありながら圧縮機の回転速度や負荷率に応じて、給油量を増減する構成が必要になる。
【0005】
本技術分野における従来技術として、特許文献1がある。特許文献1には、クランク室を貫通してハウジングに回転自在に支持された駆動軸と、クランク室に配されて駆動軸の回転に同期して回転する斜板と、斜板の回転に伴いシリンダボア内を往復摺動するピストンと、ピストンの往復摺動によりシリンダボアに選択的に連通する吸入室および吐出室とを有し、斜板の傾斜角を変更することで吐出容量を制御するようにしている可変容量型圧縮機において、吐出室を含む吐出領域とクランク室とを連通する連通路を設けると共に、連通路のクランク室に臨む開口端部に絞り部を設けた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-16373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、吐出領域とクランク室とを連通する連通路のクランク室に臨む開口端部に絞り部を設けることでクランク室へオイルを勢いよく噴出させることが可能となり摺動部の良好な潤滑を確保することが可能となると記載しているが、吐出領域による圧力差を用いてオイルを噴出させる構成のため、前記した可変速運転においてはねかけ式を採用した場合と同様に、低速運転時には吐出領域の吐出圧力も小さいためオイル噴出量は小さく、逆に高速運転時にはオイル噴出量が増加するという同様の課題が存在する。また、絞り部からのオイル噴出方向は水平方向であり、駆動軸やピストンなどの潤滑油が必要な場所への直接の噴射については考慮されていない。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、可変速運転機能を備えた給油式圧縮機において、摺動部の潤滑不足および余分な給油による油消費量増加を防ぐことにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記背景技術及び課題に鑑み、その一例を挙げるならば、タンク内に圧縮流体を貯留する圧縮機本体と、圧縮機本体を駆動するモータと、モータの回転速度を制御する制御手段とを有し、圧縮機本体は、その内部に潤滑油が収容される貯留部を有する給油式圧縮機であって、潤滑油の貯留部とタンクを連通する配管を設け、配管の経路中に流路を開閉する開閉装置を設けた。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、可変速運転機能を備えた給油式圧縮機においても良好な潤滑状態を維持することでき、摺動面の潤滑不足解消や油消費量低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1における給油式往復動圧縮機の概略全体構成図である。
図2図1を側面から見た構成図である。
図3】実施例1における圧縮機本体の内部構造の模式図である。
図4】実施例1における圧縮機本体の他の内部構造の模式図である。
図5】実施例2における圧縮機本体の内部構造の模式図である。
図6】実施例3における圧縮機本体の内部構造の模式図である。
図7】実施例4における給油式往復動圧縮機の側面から見た概略全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について、図面を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は本実施例における給油式往復動圧縮機の概略全体構成図である。また、図2図1を側面から見た構成図である。
【0014】
図1図2において、圧縮空気が蓄えられるタンク1上に取付台2が固着されており、取付台2の上部には圧縮機本体5のクランクケース6が固着されている。また、クランクケース6により形成されるクランク室8の下部には潤滑油9が収容される油溜まり(貯留部)20が形成されている。
【0015】
取付台2上に取付けられる圧縮機本体5は、クランクケース6に支持されたクランク軸11を回転させることで、このクランク軸11に連接棒12を介して連結された図示せぬピストンをシリンダ13内で往復動させてタンク1内に強制的に空気を導入する往復動式圧縮機本体である。以降、クランク軸11の回転速度または回転数を圧縮機本体5の回転速度または回転数と呼ぶ。吸入口14から吸入する空気は圧縮部15にて圧縮し、吐出口16から排出される。
【0016】
吐出口16から排出された圧縮空気は図示せぬ配管を介してタンク1に導かれて蓄えられる。そして、タンク1に接続された図示せぬノズルを開閉させることでノズルからタンク1内の圧縮空気を吐出させる。
【0017】
また、給油式往復動圧縮機は圧縮機本体5のクランク軸11にプーリ18およびベルト22を介して連結され圧縮機本体5を駆動するモータ21と、タンク1内の圧力値を検出する圧力センサ(圧力検出手段)23と、この圧力センサ23の検出結果に基づいてモータ21の回転速度を制御するインバータを含む制御装置(制御手段)24とを有している。
【0018】
ここで制御装置24は、圧力センサ23の検出結果に基づいてタンク1内の圧力値を一定に制御するようにモータ21をインバータ制御で運転する。
【0019】
図3は、本実施例における圧縮機本体5の内部構造の模式図である。図3において、クランクケース6の潤滑油9が収容される油溜まり20の底面に孔29を設け、タンク1とクランクケース6の孔29を配管30で連通し、その経路中に例えば2方電磁弁のような流体の流れる流路を開閉できる開閉装置25を設ける。この開閉装置25を開くとタンク1に貯蓄された圧縮空気はクランクケース6内に流入し、クランクケース6内に保持された潤滑油9を空気圧でクランクケース6内の摺動部へ噴射することが可能となる。
【0020】
圧縮機本体5はモータ21からベルト22を介してプーリ18に軸動力が伝わりクランク軸11が回転する。クランク軸11の回転運動を連接棒12の端部に設けられた軸受で回転運動を往復運動に変換し、シリンダ13内をピストン26が往復運動する過程で空気を圧縮する。
【0021】
従来のはねかき式では、圧縮機運転中は、連接棒に延出する油かき棒が油溜まりに進退することで潤滑油を摺動面へ供給するので、インバータ制御を用いた可変速運転時では、圧縮機本体の回転速度の低下に伴い油かき棒による潤滑油の給油量が低下し、摺動面の潤滑不良に陥る可能性がある。一方、回転速度を増加させた場合は潤滑油のかき上げ量が増加し、オイルアップによるオイル消費量増加に繋がる可能性がある。
【0022】
これを解決するために、本実施例では、前述した開閉装置25を用いてクランクケース6内の摺動部への油噴射による給油を行う。また、油かき棒無しの状態で圧縮機の運転を実施した方が、圧縮機本体の回転速度を増加させた際の給油量過剰によるオイル消費量の増加防止および油かき棒による潤滑油の撹拌がなくなり、潤滑油の酸化劣化を防止するという効果がある。加えて、生産性の面でも連接棒を油かき棒無しのものへ統一することが可能であり、部品の共通化および作業者の誤組を防止することが可能である。また、クランクケース6に設けた孔29の大きさを変化させ、給油量を増減させることも可能である。
【0023】
なお、図3ではクランクケース6の底面孔29はクランク軸11の回転中心より水平方向に若干ずれた位置に設けられ、直上を向いているが、このようにすることで、噴出した潤滑油がクランク軸11に衝突して飛散し、シリンダ面に届かないということにより生じる潤滑不良を防止できる。
【0024】
また、例えば図4のように、クランクケース6の底面にクランク軸11の回転中心より水平方向にずれた位置に配管30の油溜まり20側出口の流路がピストンの移動方向に対して傾斜するように孔29を設けてもよい。このようにすれば、斜め方向の孔29の角度28により斜め方向に潤滑油9を噴射することで、直上噴出では吹きかけが難しいクランク軸11と連接棒12の摺動面や、ピストンピン27と連接棒12の摺動面などへの給油が容易になる。言い換えれば、油溜まり20の底面の孔29とタンク1を連通する配管30の油溜まり20側出口は、シリンダ方向やシリンダ摺動面、あるいはクランク軸等の潤滑油を供給すべき部材に向けて取付ければよい。
【0025】
なお、この噴射方式では、従来の油かき棒が油面に接しない位置においても、摺動部へ給油することが可能であり、油面位置により給油量が変動しないという効果がある。
【0026】
また、本実施例は往復動圧縮機での給油方法について説明したが、本実施例における圧縮空気を利用した給油方式はスクロールやスクリュー等の他の給油式圧縮機にも適用可能である。また、本実施例では圧縮対象として空気を例に説明したが、窒素などの他の流体でもよく、上記実施例中の圧縮空気を圧縮流体と読み替えてもよい。
【0027】
以上のように、本実施例によれば、可変速運転機能を備えた給油式圧縮機においても良好な潤滑状態を維持することでき、摺動面の潤滑不足解消や油消費量低減が可能となる。
【実施例2】
【0028】
本実施例では、たとえば圧縮機本体5の気筒数が2気筒以上の多気筒であっても、摺動面の潤滑が可能な構成について説明する。
【0029】
多気筒の低速運転時における、従来の油かき棒による運転では、前述した油かき棒の進退方向および気筒の位置や角度により特定の気筒で潤滑が不十分となる場合がある。例えば、図5に示す2気筒圧縮機では、油かき棒の進退による潤滑油の給油量が左右で異なり、特に油かき棒のはねかけ方向と反対側にある気筒への給油が不十分となる。
【0030】
そこで、本実施例では、図5に示すように、クランクケース6に、クランク軸11の回転中心より水平方向にずれた位置に気筒毎に孔29を設ける。また、タンク1とクランクケース6の複数の孔29とを複数の配管30で連通する。これにより、圧縮空気により各々の気筒へ向けて潤滑油を噴射することが可能となる。
【0031】
また、3気筒や4気筒の多気筒を有する場合も同様にクランク軸の回転中心よりずれた位置および潤滑油がクランク軸に衝突しない位置に気筒毎に孔を設けることで、各々の気筒へ給油することが可能となる。
【実施例3】
【0032】
実施例1、2では、開閉装置25のシール材に亀裂が入る等の損傷により、潤滑油がタンク1へ漏れる可能性がある。油漏れが発生すると、顧客がタンク1に接続された図示せぬノズルを開閉させる際に、ノズルから油分を含んだ圧縮空気が吐出されてしまう。油分の流出は、食品業界や精密機器用途などで品質の低下や機器の故障を引き起こす可能性がある。
【0033】
本実施例では、クランクケース6に設けた孔29からタンク1へ潤滑油9が逆流しない構成について説明する。
【0034】
開閉装置25のシール材損傷による油漏れを防ぐ方策として、図6のように開閉装置25の2次側に逆止弁31を設けることで、開閉装置25が潤滑油9へ触れなくなるため、シール材の油による寿命低下を防ぐことが可能となる。万が一、逆止弁31から油が漏れた場合においても、開閉装置25が油漏れを阻止するため、クリーンな圧縮空気を顧客へ提供することが可能となる。
【実施例4】
【0035】
実施例1乃至3では、潤滑油の給油方式として、圧縮空気を利用した噴出方式について説明したが、本実施例では従来のはねかき式も兼用した例について説明する。
【0036】
図7は本実施例における給油式往復動圧縮機の側面から見た概略全体構成図である。図7図2と異なる点は、連接棒12に延出する油かき棒17が設けられている点である。この油かき棒17は、クランク軸11の回転によって連接棒12が上下することで油たまり20に対し進退して潤滑油9をかき上げ、クランク軸11と連接棒12との摺動部等に潤滑のための給油を行う。
【0037】
この従来のはねかき式と、実施例1乃至3で説明した圧縮空気を利用した噴出方式を兼用することで、低速運転時のはねかけ式による油のはねかけ油量の不足分を、噴出方式により補う構成とでき、噴出方式ですべてを賄う場合に比べてタンク内の圧縮空気の消費量を削減できるという効果がある。
【0038】
以上実施例について説明したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1:タンク、2:取付台、5:圧縮機本体、6:クランクケース、8:クランク室、9:潤滑油、11:クランク軸、12:連接棒、13:シリンダ、14:吸入口、15:圧縮部、16:吐出口、17:油かき棒、18:プーリ、20:油溜まり、21:モータ、22:ベルト、23:圧力センサ、24:制御装置、25:開閉装置、26:ピストン、27:ピストンピン、28:孔の角度、29:孔、30:配管、31:逆止弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7