(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】幹細胞と標的組織の相互接続を促進する生体適合性基材およびそれを埋め込む方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/16 20060101AFI20230825BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20230825BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20230825BHJP
A61P 27/02 20060101ALN20230825BHJP
【FI】
A61L27/16
A61K35/30
A61L27/38 100
A61P27/02
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019108763
(22)【出願日】2019-06-11
(62)【分割の表示】P 2017181019の分割
【原出願日】2011-07-12
【審査請求日】2019-06-13
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-27
(32)【優先日】2010-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2010-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2011-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510090748
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ サザン カリフォルニア
(73)【特許権者】
【識別番号】399129696
【氏名又は名称】カリフォルニア・インスティテュート・オブ・テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】CALIFORNIA INSTITUTE OF TECHNOLOGY
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マーク・フマユーン
(72)【発明者】
【氏名】アシシュ・アフジャ
(72)【発明者】
【氏名】ユ-チョン・タイ
(72)【発明者】
【氏名】デヴィッド・ヒントン
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・グラブス
(72)【発明者】
【氏名】デニス・クレッグ
(72)【発明者】
【氏名】リンカーン・ヴァランス・ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】シェリー・ティー・ヒキタ
【合議体】
【審判長】原田 隆興
【審判官】藤原 浩子
【審判官】渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/214345(US,A1)
【文献】Journal of Microelectromechanical Systems.,2010 Apr,Vol.19 No.2,pp.367-374
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00- 33/18
JSTPLUS/JMEDPLUS/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
頂端表面および基底表面を含む、ヒトの眼に埋め込むために構成された基材であって、
前記頂端表面は、平面であり、細胞の増殖に適しており、
前記基底表面は、構造の支持を提供し
、周期的なパターンで存在する
複数の円筒形のくぼみを有す
る連続支持体
であり、
前記基材は、非多孔性で、
タンパク質または分子に対して透過性で、且つ非生分解性のポリマー
であり、
前記基材は、パリレンから成り、
前記頂端表面と、前記円筒形のくぼみの前記基底表面との間の基材(D14)の厚みが、0.15~0.8ミクロンで
あり、該基材(D14)が、25~75kDaの分子量排除限界を有する、基材。
【請求項2】
前記基材が
、パリレンCから成る、請求項1に記載の基材。
【請求項3】
前記
頂端表面が、親水性となるように、酸素プラズマ処理されている、請求項1または2に記載の基材。
【請求項4】
前記
円筒形のくぼみが、
前記基底表面における厚い領域中に六角形形状/パターンで分散した複数の薄い領域
である、請求項1~3のいずれか一項に記載の基材。
【請求項5】
前記支持体の厚さ(D15)が一定である、請求項1~4のいずれか一項に記載の基材。
【請求項6】
前記支持体の厚さ(D15)が3~8ミクロンである、請求項1~5のいずれか一項に記載の基材。
【請求項7】
前記基材の頂端表面が、複数の細胞で播種されている、請求項1~
6のいずれか一項に記載の基材。
【請求項8】
前記複数の細胞が前記基材の頂端表面で単層を形成し、前記細胞が網膜色素上皮(RPE)細胞である、請求項
7に記載の基材。
【請求項9】
前記基材から側面にそって突き出たハンドル部分をさらに含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載の基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連件
本出願は、2010年7月12日に出願した米国仮出願第61/363,630号および2011年4月29日に出願した同61/481,004号の利益を主張するものであり、これらの内容はそれぞれ、参照によりその全体が本明細書に明確に組み込まれている。
【0002】
本出願は、概して、幹細胞療法の場面で標的組織への幹細胞の投与を促進する基材、ならびにこのような基材を操作し標的組織中に埋め込むためのツールに関する。
【背景技術】
【0003】
細胞の喪失または細胞への損傷が絡むヒト疾患の範囲は、広大であり、これとして、それだけには限らないが、眼疾患、神経変性疾患、内分泌疾患、癌および心血管疾患が挙げられる。細胞療法は、病変した組織または損傷を受けた組織を治療するために、細胞の使用、一部の場合には、幹細胞の使用を含む。それは、多数の疾患、特に、伝統的な薬物療法に反応しない個体に影響を及ぼす疾患を治療する準備ができている技術の最前線に急速になりつつある。
【0004】
実際、細胞療法の適用の候補である多数の疾患が、致死的ではないが、正常な生理学的機能の喪失を含む。例えば、眼疾患は、視力、従って、多数の個人の生活の質に影響を及ぼす種々の眼組織機能の変性を含むことが多い。
【0005】
哺乳動物の眼は、前側眼(角膜および水晶体)によって集束された入射光子を神経化学シグナルに変換できる特殊化した感覚器官である。この光伝達のプロセスは、視神経によって活動電位をより高い皮質中枢へ送ることによって見ることを可能にする。眼の網膜は、種々のレベルの光に対して感受性がある光受容体と、光受容体から網膜神経節細胞へシグナルを中継する介在ニューロンとを含む。これらの光受容体は、眼の中(身体ではない場合)で最も代謝的に活性な細胞であり、網膜色素上皮細胞(RPE)によって代謝的に、機能的に支持されている。これらのRPEは、眼の中の単層中に位置しており、視力にとって不可欠である。
【0006】
眼の外傷、感染、変性、血管不整および炎症の問題を含めて、多数の病状が、視覚映像を感知する個体の能力を損ない、または完全に除去し得る。網膜の中央部分は黄斑として知られており、これは、中心視野、微細な可視化および色の区別に関与している。黄斑の機能は、他の病状の中でも、加齢黄斑変性症(滲出型または萎縮型)、糖尿病性黄斑浮腫、特発性脈絡膜新生血管、強度近視性黄斑変性症または進行性網膜色素変性症によって悪影響を受け得る。
【0007】
加齢黄斑変性症は、通常、視野の中央における視力の喪失を引き起こす。黄斑変性症は、「滲出」型および「萎縮」型で生じる。まとめると、これらの疾患は、米国単独で、およそ175万人に影響を及ぼしている。AMDによって失明した人の有病率は、2020年までに295万人を超えて増大すると予測されている(例えば、Friedman,DSら、Prevalence of age-related macular degeneration in the United States. Arch Ophthalmol2004;122:564~72頁を参照のこと)。萎縮型では、細胞残骸(ドルーゼン)が網膜と脈絡膜の間に蓄積し、病変したRPE細胞が光受容体(PR)を貪食できないために外網膜の血液供給が、外節円盤を離脱させる。その結果生じた硬化した脂質(リポフスチン)が、網膜と脈絡膜の間の栄養分と老廃物の相互交換を妨害し、PR死滅につながる。より重篤な滲出型では、脈絡膜から新規に形成された血管が、黄斑の後ろの空間に浸潤する。これらの新規に形成された血管の壁は、機械的に脆弱で、極めて破裂を起こしやすい。出血は、普通、萎縮型AMDと比較して極めて急速に視力の喪失をもたらす。眼における機能的細胞の喪失と併せて、新規に形成された血管は、壊れやすく、血液および間質液を漏出させることが多く、これが、黄斑にさらに損傷を与えることがある。
【0008】
特定の細胞または組織に損傷を引き起こす疾患が、細胞療法の明確な候補であるが、当技術分野では、細胞療法の有効性を改善するための方法、基材およびツールが依然として必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Friedman,DSら、Prevalence of age-related macular degeneration in the United States. Arch Ophthalmol2004;122:564~72頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
多くの組織は、組織が正常な機能の際に屈曲し、流体の流れもしくは他のせん断応力に付されるという点で構造的または機能的に動的であり、または、隣接する多数の特殊化した細胞種を有し、それによって、細胞送達の標的部位の選択が制限される。そのようなものとして、細胞療法は、投与される細胞の活性および有益な効果を標的組織で長期間増強する、標的組織に細胞を投与するための特定の装置および方法を必要とする場合がある。疾患の種類、投与部位、病理学の進歩ならびに移植片と宿主との間に必要な組み込みの種類および時間経過に応じて、細胞療法の装置および方法には、特定の治療法の安全性および有効性を最適にする仕様が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
いくつかの実施形態では、頂端表面および基底表面を有する非多孔性ポリマーを含む、病変したまたは損傷を受けた眼組織を治療するための細胞療法のための基材が提供され、基材は、病変したまたは損傷を受けた眼組織の治療に適した細胞集団を支持するように構成され、対象中に埋め込むと、病変したまたは損傷を受けた眼組織を治療するのに十分な期間、細胞集団を支持する。
【0012】
いくつかの実施形態では、基材頂端表面は、実質的に均質であり、その上での細胞の増殖に適している。一部の実施形態では、実質的に均質な頂端表面の厚みは、約0.1~約4ミクロンの範囲にある。一実施形態では、実質的に均質な頂端表面の厚みは、約0.1~約0.5ミクロンの範囲にある。一部の実施形態では、実質的に均質な頂端表面は、粗面化されるか、そうでなければ、細胞集団がその上で増殖するための非平面表面を有するのを可能にするよう処理される。したがって、実質的に均質な頂端表面は、すべての実施形態において、完全に均一である必要はない。むしろ、いくつかの実施形態は、均一ではない、しかし依然として実質的に均質である頂端表面を含む。いくつかの実施形態では、細胞の増殖のための実質的に均質な頂端表面の厚みが、基材を通る、約60kDaより大きいタンパク質の通過を妨げる。厚みは、限定される(または許容される)べき細胞種およびタンパク質の大きさに応じて、種々の実施形態において変えることができる。目的に合わせられた寸法によって、基材を通る栄養分の通過(または基材を通る代謝副産物の除去)が可能となる。
【0013】
いくつかの実施形態では、基底表面は、不均質である。一実施形態では、基底表面は、頂端表面と並置される複数の支持フィーチャを含む。一実施形態では、単一の連続支持フィーチャが存在する。他の実施形態では、複数の支持フィーチャが提供される。支持フィーチャは、基材に、外科的埋め込みを可能にするが、埋め込みプロセスの際に、基材がねじれるか、そうでなければ、皺になるほど剛性ではない十分な構造を提供する。いくつかの実施形態では、支持フィーチャの高さは、約3μm~約150μmの範囲にある。一実施形態では、支持フィーチャは、約3μm~約8μmの範囲にある。一部の実施形態では、基材は、長円形(例えば、幅より長い)であり、一部のこのような実施形態では、支持フィーチャは、基材の長軸に沿って長手方向に伸びる。このように、それらは、長軸に沿って構造的剛性を提供するが、短軸に沿って柔軟性を許容する。他の実施形態では、支持フィーチャは、任意の適当な幾何学的形状の柱状のものを含む。一部の実施形態では、基材は、円形であり、一部の実施形態では、基材は正方形であり、一部の実施形態では、基材は長方形である。一実施形態では、基材各々の長さおよび幅は、約0.3mm~約7mmの範囲にある。
【0014】
いくつかの実施形態では、基材の外縁および角は、埋め込みの際の基材への損傷のリスク(例えば、埋め込みの際に組織上で引っ掛けることまたはかぎ裂きによって)を最小にするよう丸みを帯びている。
【0015】
一部の実施形態では、実質的に均質な頂端表面は、表面の周囲に高くなったへりをさらに含み、高くなったへりは、約10~約1000ミクロンの範囲の高さおよび約10~約1000ミクロンの範囲の幅を有する。いくつかの実施形態では、へりは、基材上で増殖する細胞を保護するだけでなく、埋め込みの際に組織に対する外傷を低減するようにも役立つ。
【0016】
いくつかの実施形態では、基材を含む非多孔性ポリマーは、非生分解性である。いくつかの実施形態では、非多孔性ポリマーは、パリレンA、パリレンAM、パリレンC、アンモニア処理パリレン、パリレンX、パリレンN、ポリドーパミンでコーティングされた前記のポリマーのいずれか、マトリゲルでコーティングされた前記のポリマーのいずれか、ビトロネクチンでコーティングされた前記のポリマーのいずれかおよびレトロネクチンでコーティングされた前記のポリマーのいずれかからなる群から選択される。
【0017】
一実施形態では、非多孔性ポリマーを、酸素処理する。一実施形態では、非多孔性ポリマーは、マトリゲル、ビトロネクチンおよびレトロネクチンのうち1種または複数でコーティングされたパリレンCである。一実施形態では、酸素処理されたポリマーを、マトリゲル、ビトロネクチンおよびレトロネクチン(またはそれらの組合せ)のうち1種または複数でコーティングする。他の実施形態では、マトリゲル、ビトロネクチンおよびレトロネクチンの代替物を、マトリゲル、ビトロネクチンおよびレトロネクチンの代わりに、またはマトリゲル、ビトロネクチンおよびレトロネクチンに加えて使用してもよい。同様に、他の修飾処理(酸素処理に加えて、または酸素処理の代わりに)を使用してもよい。
【0018】
他の実施形態では、非多孔性ポリマーは、生分解性ポリマーである。一部のこのような実施形態では、生分解性ポリマーは、PLGA、ポリエチレングリコール修飾ポリカプロラクトンからなる群から選択される。
【0019】
なお、さらなる実施形態では、生分解性ポリマーおよび非生分解性ポリマーの組み合わせが使用される。
【0020】
いくつかの実施形態では、本明細書において開示された基材は、網膜色素上皮(RPE)細胞集団を支持するように構成されている。一実施形態では、網膜色素上皮細胞は、ヒト胚性幹細胞由来RPE細胞である。いくつかの実施形態では、基材にRPE(または他の幹細胞)を播種した後に、細胞が播種された基材は、対象の眼の網膜下空間中への埋め込み、それによる外網膜変性疾患の治療に適したものとなる。いくつかの実施形態では、基材は、1種また複数の外網膜変性疾患(例えば、それだけには限らないが)萎縮型AMD、滲出型AMD、シュタルガルト病およびレーバー先天性黒内障を治療するための埋め込みに適したものである。
【0021】
いくつかの実施形態では、非多孔性ポリマーを含む、病変したまたは損傷を受けた眼組織を治療する細胞療法のための基材も提供され、基材は、ヒト胚性幹細胞由来RPE細胞集団の増殖のための実質的に均質な頂端表面を含み、実質的に均質な頂端表面の厚みは、約0.1~約4ミクロンの範囲であり、実質的に均質な頂端表面は、パリレンA、パリレンAM、アンモニア処理パリレンおよびパリレンCからなる群から選択され、基材は、実質的に均質な頂端表面と並置された支持フィーチャを含む不均質な基底表面を含み、不均質な基底表面は、パリレンA、パリレンAM、アンモニア処理パリレンおよびパリレンCからなる群から選択されるポリマーを含み、実質的に均質な頂端表面および不均質な基底表面のうち1種または複数は、マトリゲル、ポリ-L-ドーパミン、ビトロネクチンまたはレトロネクチンのうち1種または複数で処理され、支持フィーチャの高さは、約3μm~約150μmの範囲であり、対象中に埋め込むと、基材が、病変したまたは損傷を受けた眼組織を治療するのに十分な期間、細胞集団を支持する。一部の実施形態では、実質的に均質な頂端表面および不均質な基底表面の1種または複数が、酸素処理されている。
【0022】
いくつかの実施形態では、非多孔性生分解性ポリマーを含む、病変したまたは損傷を受けた眼組織を治療する細胞療法のための基材が提供され、基材は、細胞の増殖のための約0.1~約4ミクロンの厚みを有する実質的に均質な頂端表面を含み、基材は、実質的に均質な頂端表面に並置された実質的に均質な基底表面を含み、基材は、病変したまたは損傷を受けた眼組織の治療に適した細胞集団を支持するように構成され、対象中に埋め込むと、基材が、病変したまたは損傷を受けた眼組織を治療するのに十分な期間、細胞集団を支持する。
【0023】
一実施形態では、細胞が播種された基材は、対象の眼の網膜下空間中への埋め込みに適している。一実施形態では、基材にRPE細胞を播種し、埋め込み後、基材上のRPE細胞は、対象の眼の光受容体の外節と機能的に嵌合する。
【0024】
いくつかの実施形態では、頂端表面および基底表面を有する非多孔性ポリマーを含む基材を外科的に配置する工程を含む、外網膜変性疾患を有する対象を治療する方法が提供され、頂端表面に、対象の眼中の光受容体の外節に並置された位置に細胞集団を播種し、それによって、変性疾患を治療する。いくつかの実施形態では、基材は、対象の眼の網膜の網膜下空間中または網膜上側に隣接して外科的に配置される。
【0025】
いくつかの実施形態では、基材上に播種される細胞は、RPE細胞である。いくつかの実施形態では、RPE細胞は、損傷を受けた光受容体または病変した光受容体を機能的および/または代謝的に支持し、それによって、変性疾患を治療する。一部の実施形態では、RPE細胞は、健常な光受容体も同様に機能的および代謝的に支持する。いくつかの実施形態では、RPEは、光受容体の外節との代謝上機能的な嵌合によって光受容体を支持する。
【0026】
いくつかの実施形態では、それだけには限らないが、萎縮型AMD、滲出型AMD、シュタルガルト病およびレーバー先天性黒内障を含む外網膜変性疾患ならびに網膜色素変性症を治療するためにこのような方法が使用される。
【0027】
いくつかの実施形態では、細胞の増殖のための粗面化頂端表面トポロジーと、粗面化頂端表面トポロジーと並置される支持フィーチャを含む不均質な基底表面とを有する非多孔性ポリマーを含む、病変したまたは損傷を受けた眼組織を治療する細胞療法のための基材が提供され、基材は、病変したまたは損傷を受けた眼組織の治療に適した細胞集団を支持するように構成され、対象中への埋め込みの際に、基材は、病変したまたは損傷を受けた眼組織を治療するのに十分な期間、細胞集団を支持する。いくつかの実施形態では、基材は、複数の基材を含む基材フレームにおいて組み立てられる。
【0028】
一部の実施形態では、実質的に均質な頂端表面の厚みは、約0.1~約4ミクロンの範囲にある。いくつかの実施形態では、細胞の増殖のための実質的に均質な頂端表面の厚みが、基材を通る、約75kDaより大きなタンパク質の通過を妨げる。一部の実施形態では、実質的に均質な頂端表面は、表面の周囲の高くなったへりをさらに含む。一部のこのような実施形態では、高くなったへりは、約10~約1000ミクロンの範囲の高さおよび約10~約1000ミクロンの範囲の幅を有する。他の実施形態は、へりを有さない。一部の実施形態では、支持フィーチャの高さは、約3μm~約150μmの範囲にある。
【0029】
いくつかの実施形態では、非多孔性ポリマーは、非生分解性であるのに対し、他の実施形態では、非多孔性ポリマーは、生分解性である。一部の実施形態では、生分解性ポリマーは、ポリエチレングリコール修飾ポリカプロラクトン、PLGA、ゼラチン修飾シリコーンまたは無水物ポリマーを含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、非多孔性ポリマーは、パリレンA、パリレンAM、パリレンC、アンモニアおよび/または酸素処理パリレンC(官能基を付加する目的および表面を粗面化する目的で)およびポリドーパミン、ビトロネクチン、レトロネクチンまたはマトリゲルのいずれかで処理されたパリレンCからなる群から選択される。一実施形態では、非多孔性ポリマーは、ポリドーパミンで処理されたパリレンAMを含み、不均質な基底表面は、パリレンを含む。一実施形態では、基材は、網膜色素上皮(RPE)細胞集団を支持するように構成される。一実施形態では、網膜色素上皮細胞は、ヒト胚性幹細胞由来RPE細胞である。
【0031】
いくつかの実施形態では、基材の実質的に均質な頂端表面上に、RPE細胞、RPEおよび光受容体、ミューラーグリア細胞、神経節細胞、ミューラーグリア細胞および神経節細胞の混合物、角膜内皮細胞、角膜内皮細胞およびコラーゲンの混合物、角膜上皮細胞、角膜上皮細胞およびコラーゲンの混合物、内皮細胞、周皮細胞、内皮細胞および周皮細胞の混合物からなる群から選択される細胞を播種する。
【0032】
いくつかの実施形態では、細胞が播種された基材を、対象の眼の網膜下空間中に埋め込む。いくつかのこのような実施形態では、RPE細胞は、対象の眼の光受容体の外節と嵌合する。一部の実施形態では、RPE細胞は、光受容体(photorecptors)の外核層と嵌合する。
【0033】
一部の実施形態では、細胞が播種された基材を、対象の眼の網膜の網膜上側に隣接して埋め込む。
【0034】
一部の実施形態では、細胞が播種された基材を、対象の眼の角膜組織に隣接して埋め込む。
【0035】
いくつかの実施形態では、細胞が播種された基材は、萎縮型AMDの治療のための、角膜疾患の治療のための、緑内障の治療のための、糖尿病性網膜症の治療のための、網膜静脈閉塞の治療のための、滲出型AMDの治療のための、および/または網膜色素変性症の治療のための細胞療法に適している。このような基材を用いて他の眼疾患も治療できる。
【0036】
いくつかの実施形態では、細胞の相互接続された単層中での細胞の増殖のための実質的に均質な頂端表面を含む非多孔性ポリマーを含む、病変したまたは損傷を受けた眼組織を治療する細胞療法のための細胞を調製するための基材が提供され、対象への送達に先立って、細胞の相互接続された単層を基材から剥離し、単層を対象中に埋め込み、それによって、病変したまたは損傷を受けた眼組織を治療する。
【0037】
いくつかの実施形態では、細胞の増殖のための粗面化頂端表面を形成するように構成された、パリレンA、パリレンAM、アンモニアエッチングされたパリレンおよびポリドーパミンと一体となったパリレンからなる群から選択される、非多孔性、透過性、非生分解性ポリマーを含む、病変したまたは損傷を受けた眼組織を治療する細胞療法のための基材が提供され、実質的に均質な頂端表面は、環状または直鎖アルギニン-グリシン-アスパラギン酸または合成増殖マトリックスのうち1種または複数でコーティングされ、支持フィーチャを含む不均質な基底表面は、実質的に均質な頂端表面と並置される。いくつかの実施形態では、基材は、病変したまたは損傷を受けた眼組織の治療に適した細胞集団を支持するように構成され、対象への埋め込みの際に、基材は、病変したまたは損傷を受けた眼組織を治療するのに十分な期間、細胞集団を支持する。実質的に均質な頂端表面の厚みは、約0.1~約6ミクロンの範囲にある一部の実施形態では、支持フィーチャの高さは、約3μm~約150μmの範囲にある。
【0038】
いくつかの実施形態では、複数の個々の基材を含むポリマー基材フレームと、培養容器内の固定された位置に基材フレームを一時的に維持するための装置とを含む、細胞療法のための基材を調製するシステムが提供される。
【0039】
いくつかの実施形態では、個々の基材を、基材フレームから個別に取り外すことができる。一部の実施形態では、装置は、複数の個々の基材各々の少なくとも1つの部分上で細胞の増殖を防ぐように構成され、一部の実施形態では、装置は、基材フレームからの個々の基材の選択的取り外しを可能にするように構成される。
【0040】
システムの一部の実施形態では、ポリマー基材フレームおよび個々の基材は、非生分解性ポリマーを含み、一方、他の実施形態では、ポリマー基材フレームおよび個々の基材は、生分解性ポリマーを含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、基材を、基材と基材フレームを接続する基材の部分を切断することによって取り外す。細胞の増殖を防ぐように構成された装置のいくつかの実施形態は、それを通して基材の部分を切断することができる開口部を有利に含む。
【0042】
いくつかの実施形態では、対象の眼中の光受容体の外核層に並置された位置に、本明細書に開示される基材を外科的に配置する工程を含む、外網膜変性疾患を有する対象を治療する方法が提供される。いくつかのこのような実施形態では、基材上に播種されたRPE細胞は、光受容体を支持し、それによって、変性疾患を治療する。
【0043】
いくつかの実施形態では、外網膜変性疾患を治療する細胞療法のための三次元埋め込み可能基材ケージが提供される。一部の実施形態では、基材ケージは、中に1つまたは複数の孔を有し、幹細胞を受け取るように構成されている内部ルーメンを形成するように構成されている外側シェルを含む。一部の実施形態では、孔は、1種または複数種の幹細胞と標的組織の細胞の相互作用を可能にしながら、内部ルーメン内に1種または複数種の幹細胞を保持するように構成されている。
【0044】
いくつかの実施形態では、複数の幹細胞を培養する工程と、幹細胞を回収する工程と、培養された幹細胞を三次元ポリマー基材ケージ中に配置する工程と、ケージを標的組織中に埋め込む工程とを含む、網膜変性を治療する方法が提供される。
【0045】
一実施形態では、基材の外側シェルは、ポリマーである。一実施形態では、基材は、報告フィーチャをさらに含む。一部の実施形態では、報告フィーチャは、微小電気機械システム(MEMS)技術を含む。一部の実施形態では、MEMS報告フィーチャは、基材内に収容された細胞の生存力に関してユーザーに報告する。
【0046】
一実施形態では、細胞は、RPE細胞であり、標的組織は、加齢性黄斑変性症または他の眼疾患によって損傷を受けている黄斑である。一実施形態では、基材の透過性は、単に、生体適合性基材の厚みによって規定される。一実施形態では、孔は、0.5~1.5μmの範囲にある。一実施形態では、外側シェルは、ポリカプロラクトンを含む。一実施形態では、ポリカプロラクトンシェルは、PEGおよびアルギニン-グリシン-アスパラギンのうち1種または複数をさらに含む。一実施形態では、孔は、ポリマー基材を水性媒体に曝露することによって作製される。
【0047】
いくつかの実施形態では、細胞の増殖のための基材を調製する工程と、基材内に孔を作製する工程と、基材を滅菌する工程とを含む、細胞療法のための三次元基材ケージを組み立てる方法が提供される。一実施形態では、1種または2種以上の幹細胞を、基材上で培養し、その後、三次元基材ケージを整列させ、密閉し、それによって、細胞を含有する。
【0048】
いくつかの実施形態では、三次元基材ケージの上部および下部に対応し、構築の際に内部ルーメンを形成するように構成された2種の型を調製する工程と、型の各部分においてポリマー溶液を重合する工程と、基材の上部および/または下部内に孔を作製する工程と、基材ケージの残りの1つまたは複数の部分を基材で密閉し、それによって、細胞療法のための三次元基材ケージを作製する工程とを含む、細胞療法のための三次元基材ケージを組み立てる方法が提供される。一実施形態では、基材ケージを、滅菌および密閉し、次いで、埋め込みの前に内部ルーメン中に細胞を送達する。
【0049】
一実施形態では、網膜変性疾患を有する個体の網膜下空間に基材ケージを送達し、基材ケージは、埋め込み後に基材ケージ中に幹細胞を保持し、また、保持された細胞から、孔を通って通過し、網膜下空間において光受容体と相互作用するプロセスも可能にする。一実施形態では、基材ケージは、網膜変性疾患を有する個体の網膜下空間に送達され、基材ケージは、埋め込み後に幹細胞を保持し、また、基材ケージ孔を介した、封入された細胞と光受容体の化学的および細胞性相互作用も可能にする。一実施形態では、相互作用は、光受容体を支持し、それによって、網膜変性を治療する。一実施形態では、相互接続は、個体の網膜下空間から孔を通って通過し、基材ケージまたは細胞と相互作用する1種または複数の細胞をさらに含む。一実施形態では、基材ケージを切り出し外科的アプローチによって埋め込む。一実施形態では、基材ケージを切り込み外科的アプローチによって埋め込む。一実施形態では、網膜変性を患っている個体は、哺乳動物であり、一実施形態では、哺乳動物は、ヒトである。一実施形態では、幹細胞を埋め込みの直前に基材ケージ中に配置する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1A】本明細書に開示されたいくつかの実施形態に従う一般的な基材構造を表す図である。
【
図1B】本明細書に開示されたいくつかの実施形態に従う一般的な基材構造を表す図である。
【
図2A】本明細書に開示されたいくつかの実施形態の内部図である。
図2Aは、本明細書に開示されたいくつかの実施形態に従う基材構造の側面図を表す。
【
図2B】本明細書に開示されたいくつかの実施形態の内部図である。
図2Bは、本明細書に開示されたいくつかの実施形態に従う基材ケージ構造の内部図を表す。
【
図3】本明細書に開示されたいくつかの実施形態に従う基材の上面切欠図である。
【
図4】本明細書に開示されたいくつかの実施形態に従うカスタマイズ可能なチャンバーを備えた基材ケージの提示を表す図である。
【
図5】本明細書に開示されたいくつかの実施形態に従うカスタマイズされた基材ケージの組立てにおいて使用される患者の視野の提示を表す図である。
【
図6】特別注文の眼用基材を構築するために使用される暗点マップの一例を表す図である。
【
図7】特別注文の基材の組立てのいくつかの実施形態において使用される型シェルを表す図である。
【
図8】本明細書に開示された方法に従って構築された特別注文の組み立てられた基材の一例を表す図である。
【
図9】本明細書に開示されたいくつかの実施形態に従う細胞の添加を表す図である。
【
図10】本明細書に開示されたいくつかの実施形態に従う基材の横断面を表す図である。
【
図11】培養されたhESC由来RPE細胞(
図11A)および成体RPE細胞(
図11B)間の類似性を表す図である。
【
図12】
図12は、培養されたhESC-RPEの特徴を表す図である。
図12Aは、頂端特殊分化および微絨毛を示す、極性化したhESC-RPEの走査型電子顕微鏡観察を示す。
図12Bは、ヒト未処理胎児RPEのものと同様のhESCの食作用活性を表す。
【
図13】
図13は、埋め込み後RPE細胞の可視化を表す図である。
図13Aは、網膜下空間に埋め込んだ1週間後のPLGA-RPEを示すラット眼底写真を表す。
図13Bは、PLGA-RPEシート(白色矢印)を明らかにするOCTスキャンを表す。
図13Cは、非移植領域を通るOCT画像を表す。
【
図14】RCSラットの網膜下空間中に移植されたhESC-RPEを表す図である。
図14Aは、隣接する非移植領域(
図14B)と比較した、移植された領域中の保存された光受容体(ONL)の核染色(DAPI)を表す。
【
図15】
図15は、本明細書におけるいくつかの実施形態に従う種々の基材上での細胞の増殖を表す図である。
図15Aは、走査型電子顕微鏡観察(横断面)によるPLGA上のhESC-RPEを表す。
図15Bは、hESC-RPE表面修飾パリレンの増殖を示す。
【
図16】本明細書に開示されたいくつかの実施形態において使用された網膜の高解像度イメージングSDOCTを表す図である。
【
図17】
図17A及びBは、本明細書におけるいくつかの実施形態に従う、細胞を送達するために使用される、基材を含む複数のチャンバーのある基材ケージの上面図を表す図である。基材は、非分解性または分解性のいずれであってもよく、規定の材料仕様によって頂部および底部チャンバー中の細胞間の相互作用を促進する。一部の実施形態では、材料の分解速度および厚みは、両チャンバー中の細胞が標的位置に埋め込まれ、意味のあるシナプス結合を作製する、または近位細胞間の適切な相互栄養交換を可能にするのに必要な時間に応じて変わり得る。
【
図18-2】
図18Dは、基材フレーム中の基材レイアウトの種々の実施形態を表す図である。
【
図19】
図19A及びBは、本明細書に開示されたいくつかの実施形態に従う種々の基材形状の上面図を表す図である。
【
図20A】本明細書に開示された種々の基材および関連する透過性データを表す図である。
図20Aには、本明細書に開示されたいくつかの実施形態に従う、均質な頂端表面100と、支持構造を含む不均質な基底表面とを有する非対称の基材の側面図が示されている。
【
図20B】本明細書に開示された種々の基材および関連する透過性データを表す図である。一部の実施形態は、頂端表面120の周囲のへりをさらに含む(
図20Bを参照)。
【
図20C】本明細書に開示された種々の基材および関連する透過性データを表す図である。一部の実施形態は、細胞増殖表面上のコーティングをさらに含む(
図20C~20D)。
【
図20D】本明細書に開示された種々の基材および関連する透過性データを表す図である。一部の実施形態は、細胞増殖表面上のコーティングをさらに含む。
【
図20E】本明細書に開示された種々の基材および関連する透過性データを表す図である。基材の厚みの操作によって、分子のサイズ排除および拡散の調整が可能となる(それぞれ
図20Eおよび20F)。
【
図20F】本明細書に開示された種々の基材および関連する透過性データを表す図である。基材の厚みの操作によって、分子のサイズ排除および拡散の調整が可能となる(それぞれ
図20Eおよび20F)。
【
図21】本明細書に開示された種々の基材実施形態を表す図である。
図21Aは、本明細書に記載された基材の一実施形態の平面頂端表面の走査電子顕微鏡画像を表す。
図21Bは、基材の一実施形態の底を囲む表面の走査電子顕微鏡画像を表す。
図21Cは、基材の平面頂端表面上での幹細胞の増殖を表す。
【
図22】
図22Aは、基材フレーム中の基材レイアウトのさらなる実施形態を表す図である。
図22Bは、基材フレームを保持し、フレームから個々の基材を切断するために使用される装置の一実施形態を表す図である。
【
図23-1】ラット眼中に埋め込まれた、幹細胞が播種された基材の埋め込みから得た組織学的結果を表す図である。
【
図23-2】ラット眼中に埋め込まれた、幹細胞が播種された基材の埋め込みから得た組織学的結果を表す図である。
【
図24】埋め込みの9日後の、ジストロフィーラットの眼中に埋め込まれたRPE細胞の透過型電子顕微鏡観察を表す図である。
【
図25】埋め込みの58日後の、ジストロフィーラットの眼中に埋め込まれたRPE細胞の透過型電子顕微鏡観察を表す図である。RPE微絨毛および光受容体外節内円板間の嵌合を見ることができる。
【
図26】埋め込みの58日後の、ジストロフィーラットの眼中に埋め込まれたRPE細胞の透過型電子顕微鏡観察を表す図である。RPE微絨毛および光受容体外節円盤間の嵌合を見ることができる。
【
図27】本明細書に開示されたいくつかの実施形態に従う基材の頂端表面上で増殖するRPE細胞の走査型電子顕微鏡観察を表す図である。
【
図28】
図28A、
図28B、
図28Cは、本明細書に開示されたいくつかの実施形態に従うポリマー基材上に播種されたRPE細胞の蛍光免疫組織化学画像を表す図である。
【
図29】
図29A、
図29B、
図29Cは、本明細書に開示されたいくつかの実施形態に従うポリマー基材上に播種されたRPE細胞のさらなる蛍光免疫組織化学画像を表す図である。。
【
図30】正常な、未処理トランスジェニック盲目ラットから、およびラットの眼の網膜下空間中へのRPE細胞のボーラス注射後に処理されたトランスジェニック盲目ラットから集めた視運動性眼振(OKN)データを表す図である。
【
図31】正常な、未処理トランスジェニック盲目ラットから、および本明細書に開示されたように、ラットの眼の網膜下空間中に、RPE細胞が播種された基材を埋め込んだ後に、処理されたトランスジェニック盲目ラットから集めたOKNデータを表す図である。
【
図32】光受容体と、基材上に播種され、トランスジェニック盲目ラットの眼中に埋め込まれたRPE細胞との機能的嵌合のエビデンス(ロドプシンの検出による)を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
細胞療法、疾患を治療するために新規細胞を組織中に導入することは、病変した組織を修復する、または健常な組織と交換するための可能性ある方法に相当する。多数のアプローチは、標的組織への細胞(例えば、幹細胞)の投与を含み、これは、移植された(または埋め込まれた)細胞の低い定着率および長期持続の発生率の減少をもたらすことが多い。これは、細胞ウォッシュアウトおよび/または送達媒体中での低い細胞生存率を含めて、さまざまな因子によるものであり得る。しかし、一部の疾患は、細胞自体の送達または生着を必要とせず、むしろ、増殖因子、化学的シグナルまたは送達された細胞との他の相互作用を必要とすることがある。本明細書に開示されたいくつかの実施形態は、このような疾患を治療することを対象とし、そのようなものとして、細胞を基材内に保持しながら、細胞の有益な効果(物理的、化学的、または他の相互作用を含む)を送達するように構成された基材を含む。
【0052】
特に、いくつかの実施形態は、細胞療法対象への基材の投与の前に、基材中または基材上に幹細胞が沈着している基材に関し、これは、投与後に、基材内または基材上に細胞を保持するように機能し、一方で、同時に基材内または基材上の幹細胞と標的組織の一部の間の物理的相互作用を促進する。いくつかの実施形態では、特に、基材内または基材上に沈着している幹細胞は、それだけには限らないが、物理的細胞間相互作用、標的組織への栄養分または増殖因子の放出、他の細胞種の誘引などを含めて、標的組織の損傷を受けた細胞または病変した細胞のための支持効果を提供する。いくつかの実施形態では、有益な効果は、脈絡毛細管(choriocappilaris)内皮および光受容体(例えば、PEDFおよびVEGF)の構造的完全性を維持する増殖因子の分泌、眼の免疫特権を有する状態に役立つ(眼への免疫細胞浸潤を抑制するよう援助する)免疫抑制因子の抑制、神経栄養因子の分泌、代謝的利益(例えば、グルコースおよび脂肪酸の交換)、機能的利益(例えば、レチノールの送達、離脱した外節円盤の食作用、ならびに/または光退色後の視色素の再異性化および回復)、または神経活動の支持のうち1つまたは複数を含む。一部の実施形態では、神経活動の支持は、基材内または基材上の細胞と、標的組織細胞との嵌合によって生じる。例えば、一実施形態では、埋め込まれた基材内の網膜色素上皮細胞の頂端微絨毛が、宿主光受容体と嵌合し、それによって、光受容体に対して有益な効果をもたらす。いくつかの実施形態では、利益は、シナプス形成(例えば、PR/双極細胞)、または一般的な細胞生存力の他の物理的もしくは化学的支持によってである。いくつかの実施形態では、これらの利益のうち1つまたは複数は、基材内または基材上に細胞体を部分的または完全に保持しながら生じる。一部の実施形態では、宿主組織に由来する細胞は、基材の一部の実施形態において存在する生物学的ビアを通って、基材に突出または浸潤する。例えば、一部の実施形態では、新規血管または線維組織が基材中に突き出る。一部の実施形態では、これらの突出は、基材の固定に役立ち、一方で、他の実施形態では、他の有益な効果(例えば、栄養分送達、血液供給)が実現される。したがって、本明細書において、「相互作用」という用語には、その通常の意味が与えられるものとし、また、細胞間の一方向性の(埋め込まれた細胞から標的組織または標的組織から埋め込まれた細胞)相互接続または二方向の相互接続(埋め込まれた細胞から標的組織または標的組織から埋め込まれた細胞の両方が生じる)も指すものとする。
【0053】
さらに、一部の実施形態では、目的に合わせられた幹細胞療法を使用して個体の損傷を受けた組織または病変した組織を治療するために特別注文の基材を組み立てる方法が、提供される。
【0054】
いくつかの実施形態では、改善された細胞療法のための多孔性基材が提供される。いくつかの実施形態では、提供される基材は、非多孔性である(例えば、開口部またはビアを有さない)が、透過性である。いくつかのこのような実施形態は、基材の厚みの変化に基づいて基材の透過性を制御する。一部の実施形態では、基材は、透過性であり、多孔性でもあり、埋め込まれた細胞と天然の細胞の相互接続を促進する透過性および多孔度を有する。いくつかの実施形態では、基材は、細胞を受け取り、受け取った細胞を、損傷を受けた標的組織または病変した標的組織の再生を促進するのに最適な方法で配置するように構成される。一部の実施形態では、基材は、細胞を基材内に保持するが、同時に、細胞と標的組織の物理的、化学的または他の相互作用を促す特定の特徴(例えば、大きさ、形状、多孔度)を有する。本明細書において、「促す」という用語は、その通常の意味を与えられるものとし、また、許可する、増強する、可能にする、促進する、育てる、助長する、誘導する、およびそれらの同義語を意味すると読み取られるものとする。一部の実施形態では、基材は、生分解性であり、一方、他のものでは、非生分解性基材が提供される。一部の実施形態では、基材は、部分的に生分解性であり、部分的に非生分解性である。いくつかの実施形態では、完全非生分解性基材は、埋め込まれた細胞に対するその配置が、移植部位への免疫細胞の接近を妨げ、感染のリスクを低下させるので特に有利である。さらに、いくつかの実施形態では、非生分解性基材によって、同定が可能となり、移植された細胞の外植片は、細胞(例えば、細胞の追加の「用量」)の除去または置換が必要であるはずである。いくつかの実施形態では、本明細書において基材は、微小電気機械システム(MEMS)として組み立てられる。いくつかの実施形態では、送達され、基材内に保持される細胞は、幹細胞である。いくつかの実施形態では、基材およびその中に保持される細胞は、眼の変性、心疾患、血管疾患などの疾患と関連している損傷などを治療するために使用される。
【0055】
基材
上記で論じられるように、特定の細胞種の損傷または機能喪失につながる疾患の多様性は、膨大であり、通常の外科的または薬理学的アプローチを越える治療アプローチを必要とする医学の領域に相当する。この必要性に対処するために、細胞療法は、置換または再生によって病変した組織または損傷を受けた組織を治療するために、細胞、一部の場合には、胎児の臍帯細胞、胎盤由来細胞、成体細胞、誘導細胞またはヒト胚性幹細胞および/またはそれらの部分的もしくは完全に分化した細胞誘導体の使用を含む。いくつかの実施形態では、細胞療法の有効性を改善する基材が提供される。本明細書において、「基材」という用語は、その通常の意味を与えられるものとし、本明細書に記載される一部の実施形態は、移植自体を必要としないことは理解されようが、「移植片」および/または「装置」という用語(例えば、「標的組織表面上のパッチ」として機能するもの)と同義的に使用されるものとする。前後関係の根拠から、特定の実施形態が標的組織内に埋め込まれるべきかどうかは当業者には明らかとなろう。さらに、本明細書において、「送達する」という用語は、その通常の意味を与えられるものとし、また、基材内に収容された細胞が、基材からの細胞の放出を伴わずに標的組織へ提供する物理的、化学的または他の種類の相互作用および/または標的組織中への細胞の生着を指すものとする。
【0056】
基材の種類
細胞療法が使用され得る疾患の多様性に基づいて、疾患に応じて、さまざまな異なる種類の基材が有利であり得る。一般には、本明細書に開示された多数の基材は、本質的に3つの寸法(例えば、長さ、幅および高さ)を有するが、本明細書に開示された一部の基材は、これらの寸法のうち1つまたは複数に特別な注意が向けられながら設計される。例えば、以下により十分に論じられるように、いくつかの実施形態は、3-D基材ケージと呼ばれる。このような実施形態では、基材は、少なくとも1つの内部ルーメンの形成を可能にするのに十分である。例えば、一部の実施形態では、目的を持って設計された三次元形状を有するケージ構造は、基材内に1つまたは複数のルーメンまたは空洞を提供するように機能し、これは、細胞を、標的部位へ送達した後、構造内に保持するように機能する(細胞と標的組織の相互作用を可能にし続けながら)。しかし、別に明確に規定がなければ、本明細書に開示された組み立て、埋め込みおよび使用の方法は、本明細書に記載された、任意の多様性の基材、装置または移植片に適用可能であるものとするということは理解されなければならない。
【0057】
いくつかの実施形態では、基材は、非対称であり、不均質であり、基材の頂端表面および基底表面上に個別の構造的特徴を有する。本明細書において、「非対称」および「実質的に不均質」という用語は、その通常の意味を与えられるものとし、実質的に非平面の、または可変の表面を指すものとする。同様に、本明細書において、「実質的に均質」という用語は、その通常の意味を与えられるものとし、広くまたは完全に平面である表面または最小に可変の表面しか有さないものを指すものとする。実質的に均質という用語は、表面を完全に平面ではないようにする特定の補助的特徴を排除しないものとする。例えば、基材の頂端表面は、一部の実施形態では、移植の際に与えられるせん断力から細胞単層の完全性を保護するよう、また基材によって規定された境界の外側での外側細胞増殖を阻害するよう意図されている周囲上の縁によって囲まれている(例えば、
図20B中の120を参照のこと)。完全に平面ではないが、このような実施形態は実質的に均質とみなされるよう意図される。いくつかの実施形態では、基底表面は、基材に機械的安定性を提供し、それによって、(1)細胞培養の際の取り扱いおよび特別注文のツールへの添加およびその後の外科的埋め込みを容易にし、(2)陽圧または陰圧の空気圧によって加えられる力の機械的破壊から、薄い膜および覆っている細胞シートを保護する周期性のポリマー支持体または柱状のものを有する。
【0058】
本明細書において、「三次元の」および「3-D」という用語は、その通常の意味を与えられるものとし、また、ケージ(例えば、1つまたは複数の内部ルーメンまたは空洞を有する)に類似した装置を指すものとする。本明細書に開示された基材の設計におけるこのような可変性を考慮すると、以下の開示内容は、別に規定がなければ、任意のこのような多様性の基材に適用され得ると理解されなければならない。
【0059】
寸法
細胞療法が使用され得る疾患の多様性および細胞単独の送達の制限に基づいて、いくつかの実施形態は、改善された細胞療法のための基材を提供する。いくつかの実施形態では、治療されるべき疾患または標的とされるべき細胞は、少なくとも幾分かは、基材の寸法を規定する。例えば、いくつかの実施形態では、基材は、特定の標的組織への埋め込みのために寸法が決められるのに対し、他の実施形態では、基材は、標的組織上または標的組織付近への留置のために寸法が決められる。
【0060】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示された基材は、眼疾患の治療において利用される。このような実施形態では、標的とされるべき眼組織に応じて、特定の基材寸法が利用される。例えば、硝子体房中に埋め込まれるべき基材は、上脈絡膜腔中に埋め込まれるべき基材とは寸法が異なる可能性が高い。一般に、特定の眼の腔、空間および組織の寸法は、眼の解剖学の一般的な知識から得ることができる。特定の実施形態では、特別注文の基材を組み立てるのに必要な特定の寸法を決定するために、個体から特定の測定値を得る。
【0061】
いくつかの実施形態では、標的部位での基材の安全で正確な配置を可能にするために、アンカーフィーチャが基材中に組み立てられる。一部の場合には、基材が適所にあり、基材内または基材上の細胞が、標的細胞との相互接続を確立すると、基材の微小な動きが損傷を与え、および/または相互接続を切断し、それによって、細胞の治療効力を低減し得る。したがって、いくつかの実施形態では、アンカー構造が、本明細書に開示された基材に取り付けられる、および/または組み込まれる。例えば、一部の実施形態では、基材が標的組織に縫合されるのを可能にする1つまたは複数の穴が提供される。一部の実施形態では、生体接着性および/または接着性タンパク質が使用される。一部の実施形態では、基材の微小毛(microhairs)または粗面化表面が、基材の摩擦に基づく固定を提供する。一部の実施形態では、基材を掴むか、そうでなければ、基材と標的組織を接続するために、クランプまたはラッチなどのMEMSフィーチャが使用される。一部の実施形態では、標的組織は、基材を、特殊化したアンカーを必要とせずにしっかりと保持するのに十分なように寸法が決定される。
【0062】
図1を参照すると、本明細書に記載されたいくつかの実施形態に従う三次元の(例えば、ケージ)基材について、特定の一般的な寸法が提供されている。いくつかの実施形態では、基材10は、基材本体20および基材尾部30を含む。一部の実施形態では、基材尾部Dlの長さは、約0.5mm~約5mmの範囲にある。一部の実施形態では、尾部は、約0.5~1mm、約1.0~1.5mm、約1.5~2.0mm、約2.0~2.5mm、約2.5~3.0mm、約3.0~3.5mm、約3.5~4.0mm、約4.0~4.5mm、約4.5~5.0mmおよびそれらの重複する範囲である。一部の実施形態では、基材尾部は、約0.7~1.3mmの間、例えば、0.8、0.9、1.0、1.1および1.2mmである。いくつかの実施形態では、基材尾部、基材本体(下記)または全体としての基材の総寸法は、基材を掴み、操作するために鉗子を使用できるようなものである。同時に、これらの寸法は、取り扱いまたは埋め込みの際に、容易に曲がらない、ねじれない、そうでなければ、損傷を受けない基材に対して十分な構造を維持することと釣り合いが取られている。
【0063】
いくつかの実施形態では、基材本体は、一般に、円形である(例えば、
図1Aおよび
図19A参照のこと)。しかし、一部の実施形態では(例えば、
図1Bおよび
図19B参照のこと)、それだけには限らないが、長方形、正方形、楕円形および円柱を含めた他の形状が使用される。
図1Aまたはおおよそ円形の本体を有する他の実施形態を参照すると、基材本体の半径は、約0.5~約5mmである。一部の実施形態では、半径は、約0.5~1mm、約1.0~1.5mm、約1.5~2.0mm、約2.0~2.5mm、約2.5~3.0mm、約3.0~3.5mm、約3.5~4.0mm、約4.0~4.5mm、約4.5~5.0mmおよびそれらの重複する範囲である。一部の実施形態では、基材本体半径は、約0.7~1.3mmの間、例えば、0.8、0.9、1.0、1.1および1.2mmである。
【0064】
丸みを帯びている本体または円形の本体を有さないいくつかの実施形態において、同様の寸法が使用される。
図1Bを参照すると、D1Aは、基材の長さに相当し、一部の実施形態では、約0.5~約5mmの範囲にある。一部の実施形態では、長さは、約0.5~1mm、約1.0~1.5mm、約1.5~2.0mm、約2.0~2.5mm、約2.5~3.0mm、約3.0~3.5mm、約3.5~4.0mm、約4.0~4.5mm、約4.5~5.0mmおよびそれらの重複する範囲である。寸法D2Aは、基材の幅に相当し、上記のD1Aと同様の測定値を有し得る。
【0065】
ここで、本明細書に開示されたいくつかの実施形態の三次元構造を表す側面図である
図2Aを参照すると、寸法D3およびD4は、基材ケージ壁30の厚みに相当する。一部の実施形態では、D3およびD4は、同一寸法を有するのに対し、他の実施形態では、寸法は、二者間で変わる。一部の実施形態では、D3および/またはD4は、約1.0および5.0ミクロンの間である。一部の実施形態では、壁の厚みは、約0.5~1μm、約1.0~1.5μm、約1.5~2.0μm、約2.0~2.5μm、約2.5~3.0μm、約3.0~3.5μm、約3.5~4.0μm、約4.0~4.5μm、約4.5~5.0μmおよびそれらの重複する範囲である。一部の実施形態では、D3および/またはD4の厚みは、約1.5~2.5μmの範囲、例えば、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3および2.4μmである。一実施形態では、D3は、最大で約7μmであり、これによって、微絨毛がビア60に十分に貫通することが可能となる。一実施形態では、基材ケージに構造的剛性を提供するために、D4は、D3よりも大きい。一部の実施形態では、基材ケージの1つまたは複数の表面は、基材ケージが、基材ケージのルーメンへの細胞の送達の際に拡大することを可能にするよう、可動性の「アコーディオン」形状に組み立てられる。一部の実施形態では、この拡大は、高弾性ポリマーを使用することによって可能にされる。一部の実施形態では、細胞送達溶液は、基材ケージ内に保持されるよう望まれる細胞の容量よりも多い総容量を含む。そのようなものとして、一部の実施形態のアコーディオン形状は、基材ケージが拡大して、この過剰な流体を収容し、過剰な流体が基材ケージの孔を通って通過すると収縮することを可能にする。
【0066】
図2Aに示されるように、ルーメン50は、標的組織に治療効果を提供する細胞を収容する基材ケージの外側のシェル内の開放空間である。送達されるべき細胞種、基材ケージ内に収容されるべき細胞の量および標的組織の他の制限的な物理的パラメータに応じて、ルーメンD6の高さは、約4μm~約75μmの範囲であり得る。一部の実施形態では、D6は、約4~10μm、約5~20μm、約10~30μm、約25~40μm、約30~50μm、約45~60μm、約50~75μm、約65~75μmまたはそれらの重複する範囲である。いくつかの実施形態では、D6は、約10~約50μmに及ぶ。一部の実施形態では、ルーメン50の高さD5は、メンブレン70の高さと同一であり、これが、ルーメンへの細胞送達を可能にするが、細胞の逆流を防ぐ。しかし、一部の実施形態では、基材の全体的な形状に応じて、第1の部分が、第2の部分と同一寸法を有さないよう変わる場合もある。
【0067】
基材ケージD5の全高は、D3、D4およびD5、ならびに基材ケージの組み立てにおいて占有される必要がある標的組織の任意の特徴の関数である。一部の実施形態では、D5は、約6~約85μm、例えば、5~20μm、20~30μm、30~40μm、40~50μm、50~60μm、60~70μm、70~85μmおよびそれらの重複する範囲に及ぶ。一部の実施形態では、寸法は、標的組織の位置を占めるよう調整される。例えば、標的組織が頻繁に負荷(例えば、圧力、収縮性など)をかけられるが、埋め込みに適した小さい領域を提示する場合には、基材ケージを、より厚い壁および適した全高(D5に対してより大きなD3および/またはD4)を用いて組み立ててもよい。結果として、D6はより小さいものとなる。他の実施形態では、基材ケージの壁は、D5に対してD6を最大にするよう組み立てることができる。したがって、いくつかの実施形態では、基材ケージの寸法は、一般的に標的組織に対して、または一部の実施形態では、特定の個体の標的組織寸法に対して目的に合わせられる。
【0068】
図18Aおよび22Aを参照すると、いくつかの実施形態では、複数の基材にわたって細胞を同時播種することを可能にするために、複数の基材が培養容器内に配置される。いくつかの実施形態では、直径D8は、基材フレームがディッシュ中でぴったりと適合する(例えば、基材の動きを低減/最小にするよう適合する)よう、cGMPスケールアップに適切である市販の細胞培養ディッシュよりもわずかに小さいものであるよう設計される。基材フレーム培養容器の直径D8(または円形でない場合には幅)に基づいて、細胞を同時に播種される基材の数は変わる。一部の実施形態では、培養ディッシュ直径に応じて、D8は、約14~15cm、約9~10cmまたは約4~5cmである。一部の実施形態では、D8は、約4cm未満、例えば、3、2、1および0.5cmである。いくつかの実施形態では、マルチウェル培養容器が使用される。例えば、いくつかの実施形態では、6ウェル、12ウェル、24ウェルまたは48ウェルプレートが使用される。一部の実施形態では、96ウェルプレートが使用される。いくつかの実施形態では、ウェルの深さは、約1~約1.7mm、例えば、約1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6mmに及ぶ。いくつかの実施形態では、ウェルの直径(ウェル中で培養されるべき基材の数に基づいて最適化できる)は、約3~約20mm、例えば、約3~約5mm、約5~約7mm、約7~約9mm、約9~約11mm、約11~約13mm、約13~約15mm、約15~約17mm、約17~約19mm、約19~約20mmおよびそれらの重複する範囲に及ぶ。いくつかの実施形態では、側壁の高さは、約10~20mm、例えば、約10~約12mm、約12~約14mm、約14~約16mm、約16~約18mm、約18~約20mmおよびそれらの重複する範囲に及ぶ。このような培養容器の特定の実施形態は、確立されたウェル寸法で市販されている。
【0069】
一部の実施形態では、容器の培養面積を最大にするために、長方形または正方形である培養容器が使用される。一部の実施形態では、特に、長方形または正方形ディッシュに関して、特別注文の大きさの(例えば、市販されていない)培養容器が設計され、組み立てられる。幅および長さなどのこれらの特別注文のディッシュの仕様は、それだけには限らないが、(1)ロット間の一致性を示すための最終放出試験での適切なサンプリング提供するのに必要な基材または特別注文のツールヘッドの最小数、(2)仕上げられた基材形状(円形(
図19A)または長方形(
図19B)のいずれか)および関連側面寸法(円形の実施形態に関してD9~D11;丸みを帯びている縁を有する長円形または長方形の実施形態、二者の楕円形形状のハイブリッドに関してD10、D12、D13)などを含めた複数の変数によって規定される。
【0070】
培養容器の寸法および基材の標的組織に基づいて、基材の寸法は変わり得る。以下により詳細に論じられ、
図19Aに大まかに示されるように、いくつかの実施形態では、円形の本体および尾部を有する実質的に不均質な基材が提供される。この種の基材の寸法は、上記の三次元の基材ケージと重複しながら、ケージ様構造に形成されることによって、またはルーメンを必要としないことによって自然に増大される安定性を有さない基材の強度、耐久性および可操作性を用いて具体的に設計される。一部の実施形態では、十分に平面的な基材が使用される。一部の実施形態では、頂端表面および底部表面の両方が非平面である。
【0071】
そのようなものとして、このような不均質な基材の直径D9は、約1mm~約8mm、例えば、約1~約2mm、約2~約3mm、約3~約4mm、約4~約5mm、約5~約6mm、約6~約7mm、約7~約8mmおよびそれらの重複する範囲に及ぶ。特定の実施形態では、約3~約5mm、例えば、3.2、3.4、3.6、3.8、4.0、4.2、4.4、4.6、4.8および5.0mmの直径が使用される。
【0072】
尾部(またはハンドル)幅D10は、いくつかの実施形態では、約0.1mm~約6mmの間、例えば、約0.2~約1.0mm、約1.0~約2.0mm、約2.0~約3.0mm、約3.0~約4.0mm、約4.0~約5.0mm、約5.0~約6.0mmおよびそれらの重複する範囲に及ぶ。
【0073】
尾部(またはハンドル)長さD11は、いくつかの実施形態では、約1mm~約20mmの間、例えば、約1~約2mm、約2~約3mm、約3~約4mm、約4~約5mm、約5~約6mm、約6~約7mm、約7~約8mm、約8~約9mm、約9~約10mm、約10~約11mm、約11~約12mm、約12~約13mm、約13~約14mm、約14~約15mm、約15~約16mm、約16~約17mm、約17~約18mm、約18~約19mm、約19~約20mmおよびそれらの重複する範囲に及ぶ。
【0074】
図19Bに大まかに表されるように、長円形の(例えば、楕円形または大きな長方形の)基材において、同様の尾部幅および長さが使用される。このような基材の幅D12は、いくつかの実施形態では、約0.2~約7mmの間、例えば、約0.2~約0.4mm、約0.4~約0.6mm、約0.6mm~約0.8mm、約0.8mm~約1.0mm、約1.0~約2.0mm、約2.0~約3.0mm、約3.0~約4.0mm、約4.0~約5.0mm、約5.0~約6.0mmおよびそれらの重複する範囲に及ぶ。
【0075】
このような長方形基材の長さD13は、いくつかの実施形態では、約0.5mm~約9mmの間、例えば、約0.5~約1.0mm、約1.0~約2.0mm、約2.0~約3.0mm、約3.0~約4.0mm、約4.0~約5.0mm、約5.0~約6.0mm、約6.0~約7.0mm、約7.0~約8.0mm、約8.0~約9.0mmおよびそれらの重複する範囲に及ぶ。一部の実施形態では、長さD13は、約4~約7mm、例えば、4.2、4.4、4.6、4.8、5.0、5.2、5.4、5.6、5.8、6.0、6.2、6.4、6.8および7.0mmに及ぶ。
【0076】
図20を参照すると、周囲へり(
図20B)を有するか、有さない不均質な基材の特定の全体的な横断面寸法が提供されている。これらの横断面構造のいずれかを使用する実施形態は、市販の細胞培養ディッシュまたは上記のものなどの他の種類のディッシュを用いて使用できる。いくつかの実施形態では、基材は、細胞増殖のための表面を提供する均質な頂端層100を有する。いくつかの実施形態では、頂端細胞増殖表面100の厚みD14は、約4μm未満の厚みである。一部の実施形態では、厚みは、約0.05~約0.1μm、約0.1~約0.2μm、約0.2~約0.5μm、約0.5~約3.5μm、約0.5~約3.0μm、約0.7~約3.0μm、約1.0~約3.0μm、約1.5~約2.5μm、約1.8~約2.2μmおよびそれらの重複する範囲に及ぶ。一部の実施形態では、厚みは、約0.5~1.0μmの間、例えば、0.6、0.7、0.8および0.9μmに及ぶ。特定の実施形態では、より厚い頂端細胞増殖表面が使用される。例えば、一部の実施形態では、頂端細胞増殖表面は、約2~約3μm、約3~約4μm、約4μm~約5μm、約5μm~約6μmおよびそれらの重複する範囲に及ぶ。標的組織に応じて、また、標的組織の特定の領域および細胞種に応じて、より厚いまたはより薄い頂端表面が使用される場合もある。示されるように、頂端細胞増殖表面100は、基底表面上のより厚い支持体110と対を形成する。支持体110は、一部の実施形態では、取り扱いおよび外科的挿入の際に全頂端細胞増殖表面の支持に役立つ機械的剛性を提供する。表面上で増殖する細胞がRPE細胞である実施形態では、外科的挿入後に、頂端細胞増殖表面(およびRPE細胞)は、眼中で光受容体と並置され、それによって、光受容体の健康を支持するよう働く。いくつかの実施形態では、支持体はまた、細胞の外側増殖および基材の底側上での増殖の拡張の可能性を阻害する。支持体は、いくつかの実施形態では、網膜の完全性の機械的破壊による硝子体への細胞増殖も阻害する。(後者は、増殖性硝子体網膜症(proliferative vitreo-retinopaty)(PVR)として知られる合併症をもたらす。)したがって、このような実施形態は、支持体の大きさおよびピッチによって規定される不均質であるが周期性のトポロジーを有する基底表面と対を形成している、細胞増殖に貢献する均質な頂端表面を有する。一部の実施形態では、支持体は、柱状の形状であるのに対し、他の実施形態では、他の形状が使用される(例えば、立方体状)である。一部の実施形態では、外側増殖を阻害し、外科的埋め込みの際のせん断力から保護するために、頂端表面上で縁が使用される。
【0077】
図20Aおよび20Bに示されるように、基底表面支持体110は、全高D15(頂端細胞増殖表面層から支持体の末端で測定されるような)が、約3μm~約15μmの間、例えば、約3~約5μm、約5~約7μm、約7~約9μm、約9~約11μm、約11~約13μm、約13~約15μmおよびそれらの重複する範囲に及ぶ。一部の実施形態では、支持体は、高さが、約5μm~約8μmの間、例えば、5.2、5.4、5.6、5.8、6.0、6.2、6.4、6.6、6.8、7.0、7.2、7.4、7.6、7.8および8.0μmに及ぶ。実施形態に応じて、より大きな支持体(例えば、より大きな高さ)またはより小さな(例えば、より低い高さ)も使用してよい。例えば、いくつかの実施形態では、支持フィーチャの高さは、約5μm~約500μm、例えば、約5μm~約50μm、約50μm~約100μm、約100μm~約150μm、約150μm~約200μm、約200μm~約300μm、約300μm~約400μm、約400μm~約500μmおよびそれらの重複する範囲に及ぶ。同様に、いくつかの実施形態では、支持フィーチャの高さは、約1μm~約5μm、例えば、約1μm~約1.5μm、約1.5μm~約2.0μm、約2.0μm~約2.5μm、約2.5μm~約3.0μm、約3.0μm~約3.5μm、約3.5μm~約4.0μm、約4.0μm~約5.0μmおよびそれらの重複する範囲に及ぶ。
【0078】
いくつかの実施形態では、頂端表面および基底表面は、異なる材料を含む。例えば、一実施形態では、頂端細胞増殖表面は、細胞増殖により貢献する第1の材料からできたものであり得、一方で、基底表面は、全体として基材に強度および/または耐久性を与える第2のもの(または修飾された第1の材料)からできたものである。一部の実施形態では、頂端表面は、細胞増殖および/または接着を補助する沈着している材料100'のコーティングまたは薄層を含む(例えば、
図20Cおよび20D参照のこと)。いくつかの実施形態では、この層は、約10~100nmの間の厚みである。一部の実施形態では、層は、約20~30nmの間、約30~40nmの間、約40~50nmの間、約50~60nmの間、約60~70nmの間、約70~80nmの間、約80~90nmの間、約90~100nmの間およびそれらの重複する範囲である。
【0079】
いくつかの実施形態では、層100'は、パリレンAMを含む。いくつかの実施形態では、層は、アンモニア処理パリレンCを含む。いくつかの実施形態では、層は、パリレンCおよびポリドーパミンを含む。いくつかの実施形態では、パリレンAM、パリレンC、アンモニアおよび/または酸素処理パリレンC(官能基を付与する目的および表面を粗面化する目的で)およびポリドーパミン、ビトロネクチン、レトロネクチンまたはマトリゲルのいずれかで処理されたパリレンCが使用される。いくつかのこのような実施形態では、第2の層(
図20A~
図20D中の100)は、環状および直鎖アルギニン-グリシン-アスパラギン酸残基のブレンドを含む。いくつかの実施形態では、第2の層は、合成細胞増殖マトリックス(例えば、Corning製のSYNTHEMAX(商標))を含む。一実施形態では、不均質な基底表面は、パリレンCを含み、実質的に均質な頂端表面としてパリレンAM層を有する。一実施形態では、パリレンAMは、マトリゲル、ビトロネクチン、レトロネクチン、ポリ-L-ドーパミンのうち1種または複数でコーティングされる。一実施形態では、基材は、直接的にコーティングおよび/または処理されているパリレンCを含む。いくつかの実施形態では、ポリ-L-ドーパミンコーティングは、酸化的水性媒体中でPEG-(N-Boc-L-DOPA)
2)を環状アルギニン-グリシン-アスパラギン酸と反応させることによって作製される(ポリ-L-ドーパコーティングを作製するための過ヨウ素酸ナトリウム(NaI0
4)など。あるいは、酸化的水性媒体中でPEG-(N-Boc-L-DOPA)
2)をRGD-L-ドーパと反応させる(ポリ-L-ドーパコーティングを作製するための過ヨウ素酸ナトリウム(NaI0
4))など。いくつかの実施形態では、基材は、直接的にコーティングおよび/または処理されているパリレンCを含む。一実施形態では、基材を、マトリゲル、レトロネクチン、ビトロネクチン、それらの等価物、および/またはそれらの組合せを用いてコーティングする。さらに、いくつかの実施形態では、例えば、基材表面を酸素処理することなどの別の表面処理方法とともに、基材の表面上のコーティングが使用される(下記でより詳細に開示される)
【0080】
代替実施形態は、その限定されない例が
図20Bに示されるが、細胞の培養、基材の操作の際および/または標的組織(例えば、眼)への外科的埋め込みの際もしくはその後に、細胞が頂端表面で増殖するのを流体せん断ストレスから保護するように機能する頂端細胞増殖表面100の周囲を補強する基材へり120をさらに含む。へりは、さらに、表面上での細胞の増殖を制御する境界を規定し、それによって、頂端表面(細胞増殖表面100)から基材の底側への細胞の増殖を防ぐように機能する。さらに、基材へり120は、基材のアレイ(例えば、
図18Aまたは22Aに示されるもの)から個々の基材を分離する際の単層完全性の破壊を制限する。いくつかの実施形態では、へりは、約10μm~約1500μm(1.5mm)の間の範囲の幅D18を有する。一部の実施形態では、幅は、約10~約100μm、約100~約200μm、約200~約300μm、約300~約400μm、約400~約500μm、約500~約600μm、約600~約700μm、約700~約800μm、約800~約1000μm、約1000~約1100μm、約1100~約1200μm、約1200~約1300μm、約1300~約1400μm、約1400~約1500μmおよびそれらの重複する範囲に及ぶ。
【0081】
いくつかの実施形態では、へりは、約10μm~約1500μm(1.5mm)の間の範囲の高さD19を有する。一部の実施形態では、高さは、約10~約100μm、約100~約200μm、約200~約300μm、約300~約400μm、約400~約500μm、約500~約600μm、約600~約700μm、約700~約800μm、約800~約1000μm、約1000~約1100μm、約1100~約1200μm、約1200~約1300μm、約1300~約1400μm、約1400~約1500μmおよびそれらの重複する範囲に及ぶ。一部の実施形態では、高さは、約20~約300μmの間、例えば、約20~約50μm、約50~約100μm、約100~約150μm、約150~約200μm、約200~約250μm、約250~約300μmおよびそれらの重複する範囲に及ぶ。
【0082】
図21A~21Cに示されるように、頂端細胞増殖表面および基底構造支持体表面を有するこのような基材は、本明細書に開示された方法によって組み立てることができ、細胞増殖を支持することができる。
図21Aは、上記の記載に従う、基材の頂端細胞増殖表面の走査型電子顕微鏡観察画像を表す。示されるように、頂端細胞増殖表面は、均質であり、一方で、
図21Bに示されるように、複数の支持体構造を含む基底表面は不均質である。さらに、
図21Cに示されるように、頂端細胞増殖表面は、細胞、例えば、幹細胞の増殖に適している(パリレン増殖表面上で増殖するH9 hESC-RPE細胞が示されている)。
【0083】
上記で論じたように、損傷を受けた、または病変した特定の組織および細胞が添加された基材を用いてターゲッティングされるべき特定の組織によって、基材の寸法または構造フィーチャが規定され得る。例えば、細胞を、個体の肝臓の表面にターゲッティングするために使用される基材は、上記のものよりかなり大きな寸法で組み立てられ得る。同様に、患者の心臓組織を標的とするよう組み立てられた基材も、より大きな全体寸法で設計され得る。しかし、神経組織を標的とするものなどの一部の基材は、上記のものにより類似した寸法から恩恵を受ける場合もある。当業者の解剖学的知識を考えると、種々の標的組織の寸法は、容易に得ることができ、または本明細書に論じられるように、特定の個体について具体的に測定することができる。
【0084】
多孔度および透過性
図1および2を参照すると、いくつかの実施形態では、基材ケージは、多孔性材料を含む。一部の実施形態では、材料は、透過性材料である。示されるように、孔60は、基材ケージの外側のシェル中に存在する。一部の実施形態では、孔は、基材ケージの上部表面30aおよび底部表面30b上に存在する。本明細書において、孔という用語は、その通常の意味を与えられるものとし、また、それらが本明細書に記載される物理的、化学的または他の種類の相互作用および/または相互接続を可能にする通路として機能するという意味で「生物学的ビア」を指すものとする。「孔」および「ビア」という用語は、文脈上別に示されない限り、交換可能であると読みとられるものとする。一部の実施形態では、基材ケージの上側上のビアによって、基材ケージ内に含有される細胞に由来する頂端微絨毛の通過が可能となり、他方、底側上のビアは、細胞本体の支持体を提供する。一部の実施形態では、上側および底側上の孔の密度は同様である一方で、他の実施形態では、孔密度は異なっている。
【0085】
いくつかの実施形態では、孔密度は、1cm
2あたり約1×10
6~2.5×10
9個の間の孔に及ぶ。一部の実施形態では、孔は、およそ0.2ミクロン~約2ミクロン中心間ピッチという間の距離を有する。他の実施形態では、より大きなまたは小さな間隔およびピッチが使用される。いくつかの実施形態では、上記のパラメータ(孔直径、密度および基材の厚み)は、水分伝導度ならびに基材を越える栄養分および高分子の拡散速度に影響を及ぼす。一実施形態では、両基材を越える正味の流動はゼロである。そのようなものとして、いくつかの実施形態では、底部表面は、上部と比較して、より高い高密度を有する。このために、基底基材の組み立てに、犠牲層の厚みによって規定される許容有効孔直径の減少を可能にする二重層フォトリソグラフィープロセスフローを使用できる。一部のこのような実施形態では、材料の第1の層を、層のいずれかの表面と通じている通路を用いて組み立てる。これは、横断面では、「ブロック様」模様となる。例えば、
図10参照のこと。その後、第2の層を、やはり同様の通路を用いて組み立てる。所望の孔直径を維持するために、第2の層を、所望のサイズの生物学的ビアに対応する既知ギャップサイズ60を用いて、第1の層の上にフォトリソグラフィーによって重ねる。
【0086】
さらに他の実施形態では、両側のうち一方、例えば、上部または底部にのみビアが存在する。一部の実施形態では、図には明確には示されていないが、組み立てプロセスの際に、頂端表面および/または基底表面が、頂端表面または基底表面とアニーリングしている別個の基材材料をさらに含む。いくつかの実施形態では、ビアは、直径が、約0.5~約10μmの範囲である。孔直径は、基材ケージ内に収容されるべき細胞種、埋め込み部位または標的組織に応じて変わり得る。いくつかの実施形態では、孔直径は、約1~3μm、3~5μm、5~7μm、7~10μmまたはそれらの重複する範囲に及ぶ。いくつかの実施形態では、孔直径は、約0.5~約1.5μm、例えば、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3および1.4μmに及ぶ。いくつかの実施形態では、孔直径は、基材ケージから標的組織へ到達する細胞プロセスを可能にするよう十分に大きいが、孔直径は、細胞自体が基材ケージを脱出するほど十分には大きくない。したがって、ビア直径は、基材ケージ内に細胞を保持するが、細胞の治療効果が、これが物理的相互作用(例えば、細胞プロセスと標的組織の間の)であろうと、化学的相互作用であろうと、または他の種類の相互作用であろうと、標的組織に到達するのを可能にするよう働く。しかし、一部の実施形態では、基材ケージは、基材ケージ内の細胞の少なくとも一部を脱出させるよう設計される。
【0087】
いくつかの実施形態では、孔直径は、組み立てプロセスの際に基材ケージの表面によって変化する。いくつかの実施形態では、孔サイズを、基材ケージのルーメン中の特定の位置の細胞が脱出するのを可能にし、一方で、他の細胞は、基材ケージ内に保持されるよう変化させることができる。一部の実施形態では、複数のチャンバーを用いて基材ケージを組み立て、孔サイズを、孔が通じているチャンバーに応じて変えることができる。例えば、第1のチャンバーが、基材ケージ内に保持されるべき第1の細胞種を収容し、標的組織に治療効果を提供してもよい。このような実施形態では、第1のチャンバーは、細胞を基材ケージ内に保持した孔サイズを用いて組み立てられる。例えば、
図2Bチャンバー50aおよび孔60a参照のこと。しかし、第2の細胞種を、第2のチャンバー内に収容してもよく、第2の細胞種は、基材からの脱出時に、第1の細胞種および/または標的組織に付属的な効果を提供する。したがって、このような実施形態では、第2のチャンバーは、第2の細胞種が基材ケージを脱出するのを可能にするのに十分な直径の孔を用いて組み立てられる。例えば、
図2B、チャンバー50bおよび孔60b参照のこと。他の実施形態では、種々のチャンバーは、薬物または他の付属的な薬剤を収容してもよく、したがって、薬物または薬剤の必要なまたは望ましい放出速度によって規定される多孔度を用いて組み立てられる。一部の実施形態では、薬物または付属的な薬剤のために追加のチャンバーは必要ではない。薬物または付属的な薬剤は、細胞の生存力を支援し、細胞の標的組織との相互作用を促進し、基材もしくは基材付近の組織(標的組織に応じて)の血管新生を阻害もしくは促進するため、または標的組織に対する細胞の治療効果を強化、もしくはそうでなければ増強する他の追加効果のために使用される。
【0088】
図4を参照すると、種々のチャンバー50、50a、50bおよび50cはまた、同心性に、または半同心性に組み立ててもよい。個々のチャンバーは、仕切り90、90aおよび90bによって作製される。いくつかの実施形態では、仕切りは、基材ケージの本体と同一の材料を含む。いくつかの実施形態では、基材ケージの本体とは異なる材料の仕切りが構築される。一部の実施形態では、仕切りは、基材ケージのルーメンの残部からチャンバーを作製し、密封するために電流を通すことができるワイヤを含む。他の実施形態では、チャンバーを作製する材料を、その場での基材ケージの可視化を可能にするために変更してもよい。例えば、90、90aおよび90bは、クロムまたは可視化を可能にする他の化合物のリングを含み得る。これらの構造はまた、基材の周囲の環境に関する情報の報告を可能にする化学的センサーのコネクタとしても機能し得る(下記)。さらに、それらは、細胞の播種の前または後のいずれかで、基材の頂端部分および基底部分を互いに固定するメカニズムとしても機能し得る。
【0089】
いくつかの実施形態では、基材は、非多孔性であり、例えば、基材材料の厚みを通過する非開口部またはビアが存在する。非多孔性基材は、栄養分の通過または細胞プロセスのための特定の通路を欠くものの、使用される材料の厚みに基づいて操作することができる透過性を有する。例えば、基材材料の厚みによって、基材が、特定の大きさの特定のタンパク質が基材を通過するのを防ぎ、一方で、他の大きさのタンパク質の基材を通る通過を可能にする分子篩として作用することが可能となる。厚みが0.15から0.80μmの範囲の基材を通る分子(デキストラン)の拡散に関連するデータを表す
図20Eおよび20Fを参照のこと。拡散係数(厚みに関連する)は、約10
-10~10
-13cm
2/秒の間で変動する。一部の実施形態では、基材の厚みを操作することによって、より大きなまたはより小さい拡散速度を達成することができる。
【0090】
上記で論じたように、いくつかの非対称の、不均質な基材の実施形態(頂端細胞増殖表面および不均質基底表面を有するもの)は、非多孔性であるが、透過性である。経時的に代謝的および機能的の両方で生存可能である(例えば、培養中および埋め込み後の両方)ように基材上での細胞増殖を支持するには、基材材料の特定の透過性度が必要である。例えば、いくつかの実施形態では、約0.80μm未満の厚み(例えば、
図20A~20B中のD14)を有するパリレン基材は、約70~75kDaの分子量排除限界を有する。このような基材は、約70~75kDaより大きいタンパク質または分子を排除し、これによって、埋め込み後に基材上の細胞を支持するのに必要となる血流中に存在するほとんどのタンパク質の通過が可能になる。一部の実施形態では、基材の厚みを操作することによって、より大きなまたはより小さな分子排除を達成することができる(例えば、約25kDa~約150kDaの範囲、例えば、約25~約30kDa、約30~約35kDa、約35~約40kDa、約40~約45kDa、約45~約50kDa、約50~約55kDa、約55~約60kDa、約60~約65kDa、約65~約70kDa、約70~約75kDa、約75~約100kDa、約100~約125kDa、約125~約150kDaおよびそれらの重複する範囲の排除限界。
【0091】
埋め込まれた(存在している細胞)への栄養分の送達が、細胞の生存力にとって重要であることは当技術分野では当然であろうが、本明細書に開示された基材の特定の実施形態が、このような栄養分を提供するための孔または開口部を必要としないことは特に有利である。例えば、滲出型AMDは、機械的に弱い壁を有する血管による異常な新血管新生を含む。この脆弱な脈管構造は、破裂、それに続く出血および細胞死による急速な視力の喪失の危険をはらむ。このような破裂は、それを通ってこのような脆弱な血管が増殖し得る孔を有する基材の埋め込みによって悪化し得る。萎縮型AMDは、非新血管新生性疾患であるが、一部の場合には、基材ケージの孔を通る血管の増殖が、血管への損傷または基材ケージ内の細胞の破壊をもたらし得る。上記で論じたように、特定の実施形態は、血流からの栄養分に対して透過性である非多孔性基材ケージを含む。このような実施形態では、基材ケージ中の孔ならびにこのような孔への血管の増殖はあり得ず、それによって、血管破裂および/または基材ケージ上で増殖する細胞の破壊の可能性が制限される。
【0092】
一部の実施形態では、透過性であり、多孔性でもある特定の材料を使用できる。材料(およびその結果得られる基材)の透過性および/または多孔度を目的に合わせるために、一部の実施形態では、選択された材料(例えば、コポリマー)の製剤の選択および/または調整が使用される。
【0093】
材料
本明細書に開示された基材を組み立てるために、さまざまな材料を使用できる。一部の実施形態では、基材は、生分解性であるのに対し、他の実施形態では、基材は、非生分解性である。なお他の実施形態では、基材の一部は生分解性であるのに対し、別の部分はそうではない。いくつかの実施形態では、基材の生分解性部分は、既知速度で分解するよう組み立てることができる。このような生分解性材料として、ヒトまたは動物の身体中に入れられると経時的に分解するまたは浸食される任意の適した材料が挙げられる。したがって、生分解性材料は、この用語が本明細書において使用されるように、生体受食性材料を含む。
【0094】
いくつかの生分解性実施形態では、特定の生分解速度を成し遂げるように、選択した材料を最適化する。例えば、ポリマーを使用するいくつかの実施形態では、ポリマーの組成を制御して、特定の生分解速度、ひいては、in vivoでの基材の滞留時間を達成する。例として、基材がPLGAコポリマーを含む一実施形態では、コポリマー中の乳酸対グリコール酸単位の比を変更することによって、PLGAコポリマーの生分解速度を制御する。一部の実施形態では、埋め込み後およそ4週間の滞留を達成するよう生分解の速度を制御する。一部の実施形態では、基材は、約1~3週間、2~4週間またはそれより長く、例えば、約4~6週間または数ヶ月で分解する。
【0095】
いくつかの実施形態は、基材自体を組み立てるために使用される材料に加えて、標的組織と基材内または基材上に収容された細胞の相互作用を既知の期間、遅延させるように機能する追加の生分解性層またはコーティングを含む。例えば、基材を封入し、それによって、埋め込みプロセスの際に基材内または基材上の細胞を保護し、および/または埋め込みプロセスの際に基材の孔が不明瞭になる、もしくは組織で遮断されるのを防ぐために、急速な分解速度を有するコーティングを使用できる。埋め込みが完了した時点で、層は急速に分解し、基材内または基材上の細胞と標的組織の相互作用が始まる。対照的に、一部の実施形態では、よりゆっくりと分解するコーティングが使用される場合もある。例えば、埋め込み手順が外科的手順として(または、外科的手順とともに)実施された場合には、基材内または基材上の細胞に悪影響を与え得る術後投薬(例えば、抗炎症薬および/または抗生物質)が、標的組織に、またはその付近に長期間存在する場合もある。このような場合には、有害な薬剤がもはや存在しなくなった時点まで、標的組織に対する細胞の曝露を防ぐよう、コーティングの分解速度を目的に合わせることができる。
【0096】
一部の実施形態は、細胞播種および培養の際および/または組織(例えば、網膜下腔)への外科的挿入の際の基材取り扱いに役立つ追加の構造的および機械的支持体を提供する生分解性材料と組み合わされた、非生分解性材料を含む。基材に役立つよう、および/または基材の配向に役立つよう、基材に質量を加えるための材料も使用できる。いくつかの実施形態では、支持体は、基材ケージの上部および下部を接続する、または不均質基材の基底部分上の柱状の形態である。他の実施形態では、支持体は、ケージの上部もしくは底部または不均質な基材の基底表面上に追加の層を含む。
【0097】
基材は、金属、ポリマー、プラスチックまたはそれらの組合せで形成され得る。一部の実施形態では、材料によって、基材が、埋め込みの間および埋め込み後に標的の解剖学的形態に適合するだけでなく、埋め込みの間および埋め込み後に、ねじれていない、引き裂かれていない、穴が開いていないままでもあり、明らかなルーメンを有するよう十分な弾性、柔軟性および潜在的な伸長を有することが可能となる。いくつかの実施形態では、基材材料は、例えば、成形、押し出し成形、熱成形などによって、ならびに、以下の論じられるMEMS製造法によってなど、実践的に処理可能であることが有利である。
【0098】
一部の実施形態では、表面修飾の目的は、細胞生存力および付着を促進することである。これは、表面に官能性をもたせることによって行われる。このために、基材に適した材料の例示的な例として、パリレンポリプロピレン、ポリイミド、ガラス、ニチノール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、コラーゲン、化学的に処理されたコラーゲン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリ(グリセロールセバケート)PGS、ポリ(スチレン-イソブチル-スチレン)、ポリウレタン、酢酸エチルビニル(EVA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、Kynar(フッ化ポリビニリデン;PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、Pebax、アクリル、ポリオレフィン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)および他のシリコーンエラストマー、ポリプロピレン、ヒドロキシアパタイト(hydroxyapetite)、チタン、金、銀、白金、他の金属および合金、セラミック、プラスチックおよびそれらの混合物または組合せが挙げられる。基材の特定の実施形態を構築するために使用される追加の適した材料として、それだけには限らないが、ポリ-パラ-キシリレン(例えば、パリレン、それだけには限らないが、パリレンA、パリレンAM、パリレンC、アンモニア処理パリレン、ポリドーパミンで処理されたパリレンC)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリエチレン-酢酸ビニル、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(D,L-ラクチド)、ポリ(D,L-ラクチド-コ-トリメチレンカーボネート)、コラーゲン、ヘパリン化コラーゲン、変性コラーゲン、修飾コラーゲン(collaged)(例えば、ゼラチンを有するシリコーン)、その他細胞増殖マトリックス(SYNTHEMAX(商標)など)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(グリコール酸)および/または他のポリマー、コポリマーまたはブロックコポリマー、環状アルギニン-グリシン-アスパラギン、環状または直鎖アルギニン-グリシン-アスパラギン酸を含有するポリ(カプロラクトン)、ポリカプロラクトンおよびポリエチレングリコールのブレンド(PCL-PEG)、熱可塑性ポリウレタン、シリコーン修飾ポリエーテルウレタン、ポリ(カーボネートウレタン)またはポリイミドが挙げられる。熱可塑性ポリウレタンは、脂肪族ポリウレタン、芳香族ポリウレタン、ポリウレタンヒドロゲル形成材料、親水性ポリウレタンまたはそれらの組合せを含み得るポリマーまたはコポリマーである。限定されない例として、Elasthane(商標)80A、Lubrizol、Tecophilic(商標)、Pellethane(商標)、carbothane(商標)、Tecothane(商標)、Tecoplast(商標)およびEstane(商標)などのエラスタン(elasthane)(ポリ(エーテルウレタン))が挙げられる。シリコーン修飾ポリエーテルウレタンとして、Carbosil(商標)20またはPursil(商標)20 80Aなどを挙げることができる。ポリ(カーボネートウレタン)として、Bionate(商標)80Aまたは同様のポリマーを挙げることができる。
【0099】
基材組み立ておよび操作
選択された材料および組み立てられるべき基材(例えば、3-D基材ケージまたは非対称の不均質基材)の種類に応じて、装置を組み立てるために種々の技術を使用できる。本明細書に列挙された手順は包括的なものではなく、包括的なリストとして解釈されるものでもない。当技術分野で公知であるが、本明細書において明確に開示されていない追加の技術も、本発明のいくつかの実施形態を組み立てるために使用できる。本明細書に開示された基材のいくつかの実施形態は、材料の組合せを含み、したがって、組み立て技術の組み合わせも使用してよいということは理解されなくてはならない。
【0100】
いくつかの実施形態では、基材は、押し出し成形、圧伸成形、注入成形、焼結、ミクロ機械加工、レーザー機械加工および/または放電加工またはそれらの任意の組合せによって組み立てられる。一部の実施形態では、三次元の基材が、単一部品として組み立てられるが、いくつかの実施形態では、基材は、モジュール式に組み立てられる。例えば、一実施形態では、三次元の基材ケージの上部および下部は、互いに独立に組み立てられる。このようなアプローチは、1つまたは複数の態様(例えば、第1の基材が、多孔性頂端表面および基底表面を有し、第2のものが、非多孔性頂端表面を有する)において互いに異なるが、同一の全体寸法を保持する基材の製造において有利である。このような実施形態では、所望のモジュールピースを選択し、完全な三次元の基材ケージを構築することができる。所望のモジュールピースを選択した後、それらを整列させ、密閉して、所望の寸法および特徴を有する三次元の基材ケージを作製する。一部の実施形態では、単一部品から組み立てられた三次元の基材ケージも、密閉する。例えば、一実施形態では、上部および下部を、単一平面部品として形成し、次いで、一方の部分をもう一方に折り重ね、得られた三次元の基材ケージを密閉する。密閉は、熱溶接、アニーリング、生体適合性接着剤またはエポキシ樹脂などを用いて達成できる。一部の実施形態は、場合により、細胞増殖表面として機能しない追加の材料を含むシェルまたはフレームを含む。一部の実施形態では、シェルまたはフレームは、ユーザーに、細胞増殖表面および/または前記表面上で増殖する細胞に損傷を与えずに、基材を掴むおよびまたは操作するための1つまたは複数の場所を提供する。
【0101】
いくつかの実施形態では、埋め込み後ケージ中に細胞を保持しながら、細胞と標的組織の相互作用を助長するように機能する三次元の基材ケージが好ましいが、上記で論じられるように、いくつかの実施形態は、構造支持体のための少なくとも1種の均質な細胞増殖表面と、構造支持体のための追加のフィーチャとを有する基材材料(例えば、生分解性材料)を含む。一部のこのような実施形態は、その製造を三次元の基材ケージと比較して簡易化できるという点で有利である。さらに、いくつかの実施形態では、1つの均質な頂端細胞増殖表面を有する基材は、細胞を、基材の均質な(頂端)表面上に保持したまま、標的組織との治療的相互作用を促進する方法で、標的部位に配置するのに適している。言い換えれば、三次元構造またはケージ様構造を欠くことは、本明細書に開示されたような基材の治療効力を低減しない。
【0102】
いくつかの実施形態では、複数の基材(またはそのモジュラー部分)の製造は、同時に達成される。一部の実施形態では、治療効果のために使用されるべき細胞を、基材(またはその一部)を含む材料上で増殖させ、その後、基材の最終組み立てを行う。一部の実施形態では、基材(またはそのモジュラー部分)は、適当な時期に細胞のためのin vitro培養基材として効果的に使用され、組み立ての最終相(実施形態に応じて、必要である場合には)によって処理され、基材中または基材上に予め添加された細胞とともにin vivo埋め込みのために準備される。例えば、一実施形態では、制御された実験条件において、送達されるべき複数の細胞を増殖させるための基材としてポリマー材料の大きなシートが使用される。細胞が、送達のための最適状態(例えば、細胞周期の特定の相または特定の集団密度)にあると決定されると、複数の個々の基材を、ポリマーシートから回収し、密閉し、埋め込まれる準備をする。
【0103】
均質な頂端表面を有するいくつかの実施形態は、培養プロセスの間は連結しており、挿入または埋め込みの前に個々の基材に分離される複数の基材上での同時の播種および細胞の増殖を特に行いやすい。例えば、18A~18Cに全般的に示されるように、選択された材料(例えば、生分解性ポリマー;以下、フレームと呼ばれる)の1つの連続ピースから複数の基材を組み立てることができる。
図18Aに示されるように、単一の円形フレームは、複数の個々の埋め込み可能な基材のための機械的支持体を提供することができる。いくつかの実施形態では、各基材を、延長部(例えば、ハンドル;全般的に、
図18Bおよび18C参照のこと)によってより大きなフレームと結合する。基材およびハンドルの寸法は、上記でより詳細に記載されている。いくつかの実施形態では、基材のハンドルは、細胞増殖がなく、単層完全性を破壊することなく、外科的ツール上で操作および添加することが可能である。
【0104】
いくつかの実施形態では、フレームは、基材上に播種された細胞の増殖のために利用可能である表面積を最大にするよう寸法が決定される。例えば、フレームは、場合により、長方形形状に製造してもよく、複数の長方形基材からなるものであってもよい。一実施形態では、嵌合する「コーム様」構造を使用することによって、長方形基材およびフレームは一緒になって、ポリマー対曝露される培養ディッシュ表面積の比を最大にする(例えば、
図18D参照のこと)。この図は、単に代表的なものであって、実施形態に応じて、より多いまたは少ない数の移植片を使用してもよいということは理解されなければならない。いくつかの実施形態では、円形フレームが好ましいが、これは、このようなフレームは、標準細胞培養ディッシュ(例えば、10cmディッシュ)内に適合するように寸法を決定できるからである。このような実施形態では、フレームの縁を培養ディッシュの壁と近接並置することで、特定の増殖細胞集団の完全性を破壊する可能性がある細胞増殖表面上の培養培地の流れおよび乱流が低減する。一部の実施形態では、基材フレームのより大きいまたはより小さい直径が使用される(例えば、約5cm~約10cm、約6cm~約9cm、約7cm~約8cmの間の直径およびそれらの重複する範囲(フレームは、本明細書に記載される培養容器のあらゆる多様性に適合する大きさであり得る)。
【0105】
本明細書において論じられたように、フォトリソグラフィー技術、注入成形などを使用して単一の、大きな基材フレームから複数の個々の基材を組み立てることができる。
【0106】
また、本明細書において論じられたように、個々の基材は、制限するものではないが、円形であっても、長円形であっても、または個々の患者の病状に対して特定に特別注文された任意の形状であってもよい(例えば、
図5~8参照のこと)。基材の特別注文は、電気生理学的試験(例えば、mfERG)、精神物理学的試験(例えば、動的または静的微小視野検査(microperimetery))または種々の眼の画像診断法(すなわち、スペクトル-ドメイン光コヒーレンス断層影像法(SD-OCT)、眼底写真、眼底自己蛍光(FAF)または共焦点レーザー眼底検査(cSLO)によって決定できることによって以下により詳細に記載されている。
【0107】
いくつかの実施形態では、基材フレームは、必ずしも、連続細胞増殖表面を最適化するまたは最大にするようには設計されず、むしろ、その上で細胞が依然として増殖している他の基材を破壊せずに単一の基材の選択および除去を可能にするように構成される。全般的に、
図22Aに示されるように、一部の実施形態では、複数の基材10'は、基材のハンドル30'が操作ツール(例えば、鉗子)によって接近されるのを可能にする方法で配置された単一の円形フレーム130上に組み立てられる。組み立てられると、次いで、単一の円形の基材に細胞(例えば、H9 hESC-RPE)を播種し、細胞が最適増殖状態に達した(例えば、基材上のコンフルエント単層)ような時間まで培養すればよい。次いで、滅菌し、オートクレーブ処理したはさみまたは特別注文で設計された保持/切断ツールを使用して、大きなフレームから個々の長方形基材を切断する。いくつかの実施形態では、各基材は、外科医が基材を正しい方向に置くのを補助する識別子155'を含む。一部の実施形態では、識別子は、視覚的または化学的指標(例えば、可視化され得る蛍光色素)を含む。一部の実施形態では、MEMS報告システムが使用され、これは細胞の生存力または基材の周囲の他の局所環境条件を報告できる。いくつかの実施形態では、金属境界または点が、基材中に包埋されている。適した金属として、それだけには限らないが、ニチノール、チタン、金、銀、白金、他の金属および合金、それらから製造された金属の薄片などが挙げられる。一部の実施形態では、基材に、基材をイメージングするためのフルオロフォアを添加する。このような実施形態では、基材からの細胞の喪失または遊走を埋め込み後または術後に同定でき、従って、埋め込み手順の質を評価するための、また代替基材または追加の基材が埋め込まれるべきであるかどうかを判断するための手段を提供できる。一部の実施形態では、基材は、品質管理ロット/バッチ情報および在庫管理目的のバーコードまたは他の固有の識別子をさらに含む。
【0108】
特別注文の保持/切断ツール140の限定されない例が、
図22Bに示されている。切断ツールは、単にフレームからの個々の基材の切断を可能にすることを越えて、複数のさらなる方法で実際に機能する。例えば、いくつかの実施形態では、ツールは、基材フレームを培養容器内の適所に保持する重量として機能する。いくつかの実施形態では、ホルダー/カッター装置が、組織培養ディッシュの底面と可逆的に結合している。いくつかの実施形態では、ホルダー/カッター装置は、特別注文の組織培養ディッシュの底面中に組み込まれている。このような実施形態では、ホルダー/カッターは、予め滅菌されることが有利である。一部の実施形態では、これは、一部の細胞種はより多量の培養容積を必要とし、これが、通常の取り扱いの際に容器全体の培地の流れを増大するので特に有利である。このような流体の流れは、増殖中の細胞集団の完全性を破壊し、それによって、埋め込みのために基材を調製する全体時間を増大し、および/または基材上での細胞の生存力に悪影響を及ぼし得る。さらに、ツールによって、個々の基材の一貫性のある、再現性のある切断が可能となる。
【0109】
さらに、ツールは、フレームとの複数の接触点150を有するので、基材のハンドルの部分上での細胞の増殖を妨げる。この細胞を含まない部分は、一部の実施形態において使用される操作ツール(例えば、鉗子)によって掴まれる部分である。このような実施形態では、鉗子の使用は、基材増殖表面上で増殖している細胞を破壊せず、それによって、培養容器から対象の標的部位への移行の際に細胞の完全性および生存力を維持する。各接触点はまた、接触点を通って切断装置(例えば、メスまたは特別注文で設計された滅菌可能な刃)が挿入され、下層の基材ハンドルを切断し、それによって、フレームから個々の基材を遊離することを可能にするよう寸法が決定されているスロットまたは開口部151を含む。基材フレーム上の結合している切断点は、
図22A中で151'として示されている。
【0110】
一部の実施形態では、フレームから切断される基材を、以下のより詳細に記載する特殊化したツールを用いて操作し、埋め込む。
【0111】
一部の実施形態ではフレーム内に複数の基材を含む配列は有利であるが、これは、複数の基材、特定の数の基材を、1つまたは複数の円形フレームからなり、基材の別の部分が対象中に埋め込みのために保持され得る、そのロットの放出試験(例えば、遺伝子型、表現型および機能を試験するアッセイ)に使用できるからである。さらに、このようなレイアウトによって、特定の埋め込み手順に最良に適する(例えば、適当な細胞数、細胞密度などを有する)基材の同定のためにフレーム中の基材の各々の評価および他の基材をかく乱することなく、その基材をその後選択することが可能になる。
【0112】
一部の実施形態では、材料上に細胞を予め増殖させた複数の基材の組み立ては、特定のさらなる利点を提供する。一実施形態では、細胞(および上で増殖される材料)がすでに滅菌培養条件にあり、埋め込み前の操作が限定されているので細胞の汚染の可能性が最小化される。
【0113】
さらに、一部の実施形態では、複数の基材上での細胞の増殖によって、埋め込みの前に、最も健康で、生存可能である細胞集団の選択が可能になる。さらに、評価の時点で最適ではない細胞は廃棄される必要はなく、それらが埋め込みに最適であるような時間まで長期間および/または異なる条件下で培養できる。一部の実施形態では、各基材および大きなフレーム間の単一の連結点が、手術の前の基材の簡単な切断または転位に役立ち、基材のその全周囲に沿った完全な打ち抜きまたは切断を必要とする同様の設計(基材周縁部上の1個または複数の細胞の健康および/または完全性を危険に曝し得る)と比較して、細胞の汚染の可能性または細胞への損傷をさらに最小化する。さらに、予め増殖させた細胞を有する複数の基材の製造のスケールアップは容易に達成される。
【0114】
一部の実施形態では、基材の組み立てに使用される方法に加えて、基材、または基材が組み立てられる材料を、使用されるべき特定の細胞または標的組織にさらに適応させるために追加のプロセスが使用される。例えば、一実施形態では、基材を組み立てるためにパリレンなどのポリマー基材が使用される。一実施形態では、組み立てられる基材の細胞基材を形成する材料表面は、酸素処理を使用して親水性に修飾される。この親水性処理は、特定の細胞種がその上で増殖するのに理想的な表面を作製する。
【0115】
一部の実施形態では、反応性イオンエッチング(RIE)を使用して酸素プラズマ処理が実施される。エッチングは、100Wの出力で2分間実施し、200mTorrのO2チャンバー圧力を維持する。いくつかの実施形態では、パリレン-cの表面修飾によって、表面が、他のよく使用される生体適合性ポリマーと比較して長期間親水性のままであることが可能となる。一部の実施形態では、O2プラズマ処理によって、播種された細胞の最大密度、ひいては、標的とされる領域に対する治療薬の有効用量の増大が可能となる。
【0116】
例えば、網膜色素上皮細胞(RPE)は、RPE細胞は、極性化しており、従って、親水性表面に対して自身を方向付けるので親水性表面上で特に良好に増殖する。いくつかの実施形態では、基材は、上に播種された細胞の、極性化する能力を増強し、ひいては送達プロセスの間に基材から離脱または遊走する見込みを低減する。
【0117】
いくつかの実施形態では、基材の1つまたは複数の表面を、基材の取り扱いおよび/または可視化を増強するよう変更する。例えば、表面を粗面化するために、基材の外表面をエッチングしてもよい。一部の実施形態では、粗い表面は、光を反射する滑らかな基材表面よりもさらに大きく光を回折する表面を提供する。一部の実施形態では、この光の回折によって、ユーザーが基材および/または基材の下部のまたは基材から遠位の組織をより明確に可視化することが可能となる。
【0118】
MEMSフィーチャ
上記で論じたように、いくつかの実施形態では、基材はMEMS装置であるか、および/またはMEMS技術を組み込む。いくつかの実施形態では、基材は、データ処理のための中央ユニットと、装置内およびまたは標的組織の周囲の細胞環境を評価する1個または複数のマイクロセンサーとを含む。いくつかの実施形態では、基材は、基材の周囲の環境または基材内の細胞について特定の情報を示す報告ユニットをさらに含む。一部の実施形態では、基材は、基材内の細胞の生存力または代謝状態について報告する。一部の実施形態では、電極を使用して装置-組織界面の電気インピーダンス値を報告し、近接および/または機械的力および圧力を定量できる。一部の実施形態では、これらの電極はまた、酸素濃度を測定するため、および/または血流を測定するために使用される。一部の実施形態では、基材は、基材内の細胞と標的組織のものの間の相互作用の程度を報告する。例えば、特定の眼の実施形態では、装置は、ユーザーに、装置内のRPE細胞と標的光受容体細胞の間で起こる物理的相互作用の程度に関する情報を報告する。一部の実施形態では、細胞および組織の健康を評価するために、Fast CVを使用して電気活性種(上記で論じられた)の基礎濃度をモニタリングする。一部の実施形態では、これは、光酸化的ストレスが、AMDの既知原因であり、装置が血流の速度を測定するために脈絡膜に十分に近接して埋め込まれるので有利である。さらに、いくつかの実施形態では、最先端のイメージングツール(例えば、スペクトル-ドメイン光コヒーレンス断層影像法(SD-OCT)、フルオレセイン血管造影(FA)、眼底写真、補償光学で強化されたSD-OCT(AO-SD-OCT)の使用によって、装置によって、下層の細胞形態学および健康を評価することが可能となる。一実施形態では、装置内のRPE細胞および内因性光受容体間の境界(PR-RPE-脈絡毛細管境界)は、長波長SD-OCTイメージングを使用すると目に見え、それによって、細胞の機能を回復させる能力の適切な評価が可能となる。
【0119】
いくつかの実施形態では、基材は、電気活性種(例えば、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)、アドレナリン、セロトニンおよびドーパミンなどの神経伝達物質濃度)を電気化学的に検出するように構成される。一部の実施形態では、高速サイクリックボルタンメトリー、インピーダンスを使用する組織に対する近接の測定または装置が電気活性種の存在および/または濃度に関して報告するのを可能にする他の同様の電気化学的検出方法が使用される。
【0120】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載された基材のフィーチャは、イメージング技術の使用を促進する。一部の実施形態では、特に、眼のイメージング技術が使用される。一部の眼を対象とする実施形態では、例えば、装置のフィーチャによって、内因性RPEおよびPRの健康の評価が可能となる。一部の実施形態では、光コヒーレンス断層影像法(OCT)が使用され、高解像度を有する非侵襲的イメージング(例えば、色素または放射性標識の注入を伴わず)が可能となる。このような技術によって、無傷の眼において約10個~100個の細胞のイメージングが可能となる。さらに、最先端のイメージング技術によって、RPE細胞(脈絡毛細管)を支持す毛細血管レベルでの血流動態の評価、また、光受容体視色素の退色および若返りの評価が可能となり、これらの両方ともRPE-PR複合体の機能性の重要な測定基準である。
【0121】
伝統的なMEMS装置において使用される材料の多くは、基材の組み立てに適していると本明細書に記載されるものであることは有利である。例えば、装置のMEMS成分は、例えば、ポリマー、シリコンまたは種々の金属から組み立ててよい。ポリマーベースのMEMS装置が組み立てられる実施形態では、注入成形、エンボス加工またはステレオリソグラフィーなどのプロセスを使用してもよい。シリコーンベースのMEMS装置が組み立てられる実施形態では、材料層の蒸着、フォトリソグラフィーによる層のパターニング、次いで、必要な形状を作り出すためのエッチングなどの手順。金属ベースのMEMS装置が組み立てられる実施形態では、電気めっき、蒸着、および/またはスパッタリングなどの手順を使用してもよい。いくつかの実施形態では、成形およびめっき、ウェットエッチングまたはドライエッチング、放電加工(EDM)などの他のプロセスおよび当技術分野で公知の他の同様のプロセスが使用される。
【0122】
いくつかの実施形態では、装置を標的組織に固定するためにMEMSフィーチャが使用される。一部の実施形態では、標的組織の表面を掴むためにMEMSラッチまたはクランプが使用される。
【0123】
特別注文の組み立て
いくつかの実施形態では、基材は、治療されるべき疾患および疾患を患っている個体の特定の特徴または症状に応じて特別注文で組み立てられる。いくつかの実施形態では、医師が、特定の患者における損傷を受けた細胞または病変した細胞の分布に関する決定を行う。結果として、損傷を受けた細胞または病変した細胞に関連する領域に、基材および基材と結合している細胞を留置する特別注文の基材が作製される。
【0124】
例えば、眼の適用では、ゴールドマン動力学的視野検査(例えば、
図5参照のこと)などの任意の適当な既知診断技術によって患者の視野を測定できる。その後(または代わりに)、任意の適当な既知技術によって局所視覚機能を調べ、マルチフォーカス網膜電図を作製することができる(例えば、
図6参照のこと)。このデータを用いて、視覚機能が失われたまたは減少した領域に並置して細胞を留置する特別注文の基材を組み立てることができ、その領域は、死滅したまたは機能的に損傷を受けた光受容体に相当する。
【0125】
いくつかの実施形態では、個体の視野/視覚機能の決定に基づいて注入型を形成する(例えば、
図7参照のこと)。一部の実施形態では、型は、プラスチック、アルミニウムまたは他の容易に加工できる(例えば、機械加工できる)材料を含む。一部の実施形態では、型は、写真のプロセスフローでエラストマー材料から打ち抜く、または成形することができる(shapes)。いくつかの実施形態では、材料の大きなディスク上で材料をスピンコーティングし、その後、打ち抜き、それによって、結果として得られるうち抜かれた基材において、より均一な厚みが生じる。一部の実施形態では、型枠は、基材の頂端表面または基底表面に対応する。基材に最適な材料、例えば、パリレン(または本明細書に記載された他の適した材料)が型に成形される。一実施形態では、パリレンポリマー分子の溶液を型中に蒸着させ、UV硬化させる。頂端表面および基底表面を、本明細書に記載したように、整列させ、密閉する。いくつかの実施形態では、基材の頂端表面および基底表面(例えば、周囲の周りに)上に微量金属を蒸着させ、基材の2つの部分の整列および密閉を増強する(
図8中の成分90参照のこと)。一部の実施形態では、電子ビーム蒸着と、それに続く電気化学的白金蒸着によって基材の半分に微量白金を蒸着させる。一部の実施形態では、酸化インジウムスズ(Indian-tin oxide)を蒸着させ、半分の密閉をフリップチップ結合によって達成する。いくつかの実施形態では、種々の基材成分を互いに結合するためにMEMSラッチが使用される。他の実施形態では、当技術分野で公知の他の微量金属および結合技術が使用される。この微量金属は、基材の半分の整列の増強を提供するだけでなく、場合により、追加の厚みも提供し(蒸着された金属の量に応じて)、基材に構造支持体も加える(例えば、埋め込みプロセスの際の折りたたみまたは圧着を防ぐために)。
【0126】
いくつかの実施形態では、眼の治療のために、このような基材ケージ中に収容される細胞は、RPE細胞である。RPE細胞はまた、他の非ケージ実施形態においても使用されるということは理解されなければならない。本明細書に記載されたいくつかの実施形態に従う基材は、基材内に保持されたRPE細胞と光受容体の物理的相互作用によって、損傷を受けた光受容体の機能が支持され得るので、眼の適用における使用にとって特に有利である(例えば、機能が回復する、またはさらなる機能喪失が防がれる、および/もしくは最小化される);RPE生着は必要ではない。
【0127】
いくつかの実施形態では、RPE幹細胞を、光受容体細胞の生存をさらに支持する神経栄養因子を分泌するよう修飾する。特定のこのような実施形態では、1つまたは複数の神経栄養因子をコードする遺伝子を、RPE細胞にクローニングし、その後、移植され、その結果、相当な増強された保護が光受容体ニューロンに与えられる。このような可能性ある因子の例として、PEDF、CNTF、BDNFが挙げられる。他の遺伝子の過剰発現によって、RPEの機能の増強が可能になる場合もある。例として、表面インテグリン(BMへのRPE接着を増大することがわかっている)、メラニン(メラニン産生が増大している民族は、AMDに対してリスクが低い)または離脱円盤の食作用に必要な受容体(例えば、CD36、MerTK)の過剰発現が挙げられる。一部の実施形態では、治療的介入の時点で、除去を必要とするリポフスチン(lipofiscin)および代謝性老廃物の蓄積がある可能性が高いので、食作用に必要な受容体の過剰発現は有利である。
【0128】
いくつかの実施形態では、基材および中に収容された細胞が、加齢AMD、いくつかの好ましい実施形態では、萎縮型AMDの治療に使用される。萎縮型AMDの治療のための他のアプローチとして、黄斑移動術および自己RPE移植が挙げられる。両方とも、全身麻酔を必要とする複雑な外科的手順であり、両方とも、高率の網膜剥離を伴う。さらに、萎縮型AMDの、FDAに承認されていない、有効な薬物療法がある。マルチビタミンン剤は、初期AMDの進行を遅らせるだけである。他の細胞療法アプローチに関しては、hESCまたは網膜前駆細胞の光受容体への分化は、埋め込まれた光受容体が統合し、宿主組織とシナプスを形成しなくてはならないので複雑である。対照的に、本明細書に開示された基材は、生着および/またはシナプス形成を必要としない、基材内のRPE細胞間の相互作用による既存の光受容体の支持を可能にする。さらに、本明細書に開示された基材のいくつかの実施形態は、基材内での細胞の単層の形成を促し、これは、細胞懸濁液と比較して有利である。一部の実施形態では、基材上での細胞の単層は、ブルッフ膜の構造をより密接に摸倣するが、これは、AMDでは、注入された細胞懸濁液の付着およびさらなる分化のための基材は提供できない。したがって、基材の一部の実施形態は、AMDにおいて損傷を受けた組織の合成的交換を提供するよりも、むしろ、in vivoで接着するための最適組織を有さない可能性がある細胞の送達を試みるものである。
【0129】
細胞増殖
いくつかの実施形態では、基材ケージ(および/または不均質な基材)は、細胞の増殖、生存および機能にとって理想的表面および環境を提供する方法で組み立てられる。上記で論じたように、基材の種々の特徴は、基材の外科的態様のために変更できる。繰り返すが、収容された細胞が、基材内(または基材上)に保持されながら、成長し、標的組織との相互作用を生じることを最適に可能にするために、特定の実施形態では、形状、厚み、孔直径および孔密度を変更する。したがって、一部の実施形態では、基材は、基材内に収容された細胞の生着は伴わずに、標的細胞に収容された細胞の治療的利益を付与する。例えば、一実施形態では、hESCから分化した基材内の細胞(例えば、RPE)の上皮層は、シナプス形成または神経統合を必要とせずに、神経変性(例えば、光受容体変性)を治療する。さらに、これらの特徴は、基材からの、また標的組織への細胞の遊走を防ぐよう最適化できる。さらに、基材または基材中に収容された細胞に損傷を与えることなく、in vivoで埋め込まれるべき基材に、十分な構造およびリジリエンスを提供するように、これらの特徴を変えることができる。
【0130】
上記で論じたように、特定の細胞種のために表面を最適化するよう、細胞増殖表面もまた、変えることができる(組み立てが完了する前または後のいずれかに)。いくつかの実施形態では、細胞表面を、酸素で処理して、基材上に親水性細胞増殖表面を作製する。一部の実施形態では、酸素処理は、極性化した細胞(例えば、RPE)の増殖を支持するためにマトリゲルなどの追加の化合物をさらに含む。いくつかの実施形態では、このようなマトリゲル化合物は、異種由来成分を含まない。また、上記で論じたように、特定の実施形態では、基材中に収容されるべき細胞種に応じて孔直径を調製できる。
【0131】
いくつかの実施形態では、基材によって導入される同種異系細胞の拒絶を避けるために免疫抑制剤を送達してもよい。一部の実施形態では、基材を使用して、副腎皮質ステロイド(例えば、プレドニゾン)、メトトレキサート、シクロスポリン、代謝拮抗剤、T細胞阻害剤およびアルキル化剤などのこれらの薬剤または薬物のターゲッティングされる送達および放出される送達を提供してもよい。このような免疫抑制剤の投与は、自己免疫障害の治療において移植組織または移植片の拒絶を避けるために使用される。しかし、高用量が必要である場合もあるが、経口投与または注射によるさらにより局在化された、ターゲッティングされた送達は、感染のリスクの増大のために危険であり得る。いくつかの実施形態では、本明細書に開示された基材からの制御された、ターゲッティングされた放出によるこれらの薬剤の導入は、同種異系の移植組織許容の見込みを増大させ、免疫抑制による感染の危険を最小化する。
【0132】
AMDに対する治療のために臨床試験に使用されてきた他の薬物は、生分解性部分への、または相互接続の場合にはそれ自体に包埋することによって、同様の制御された、ターゲッティングされた方法で基材から放出され得る。例として、高脂血症薬スタチン、レチノイド(例えば、アシトレチン、アリトレチノイン、ベキサロテン、エトレチナートフェンレチニド、イソトレチノイン、タザロテン、トレチノイン)および抗VEGF薬が挙げられる。
【0133】
上記で論じたように、いくつかの実施形態では、第1の基材に第2の基材をアニーリングする。例えば、一部の実施形態では、生分解性基材を使用する。一実施形態では、ポリエチレングリコール(PEG)と配合された生分解性ポリカプロラクトン(PCL)材料が使用される。重合PCL-PEG材料をガラスカバーリップ上でスピンコーティングして、所望の厚みの薄いフィルムを製造する。水性バッファーまたは媒体での処理の際に、水溶性PEGは洗い流され、フィルム中に孔が生じる。上記で論じたように、生分解性実施形態を特別注文でき、一実施形態では、PCL対PEGの比が、基材の分解速度に影響を及ぼす。PEGが洗い流されて、孔を形成するので、孔は、水に曝露されたポリマーの表面積を増大させ、従って、分解速度を高める。このアプローチによって、ポリマーブレンドに添加されるPEGの量に基づいて、フィルムの多孔度ならびに分解速度の両方を操作することができる。一部の実施形態では、環状アミノ酸(Arg-Gly-Asp;cRGD)を有するポリマーを、ポリマーフィルムにアニーリングし、それによって、細胞外マトリックスタンパク質、フィブロネクチンを摸倣することによって細胞接着および増殖を促すポリマー表面を提供する。
【0134】
細胞添加
いくつかの実施形態では、送達される基材中または基材上で使用されるべき細胞を、基材上で培養し、その後、基材の最終組み立てを行う。上記で論じたように、これは、細胞または基材への汚染または損傷のリスクを最小にすることに関していくつかの利点を提供する。しかし、いくつかの実施形態では、完全に組み立て、滅菌した基材中または基材上に細胞を配置する。本明細書に記載された基材は、ガンマ照射、エチレンオキシド、オートクレーブ処理、UV滅菌法または分解もしくは損傷を伴わない他の既知手順によって滅菌してもよい。このような細胞配置は、滅菌細胞培養または滅菌外科手術室条件下で実施する。このような実施形態は、中でも、最適に健康で頑強な細胞を選択し、埋め込みの直前に基材中に置くことができるという利点を有する。例えば、いくつかの実施形態では、手術室にいる間に外科医によって細胞を3-D基材ケージ中に添加する。この方法論は、外科医が、患者の特徴または他のパラメータに応じて数種類の基材から選択し、最適に健康な細胞を基材中に添加できるために有利である。一部の実施形態では、真空圧力装置が、外科医が基材ケージを保持し、細胞で充填するのを補助するように機能する。いくつかの実施形態では、これは、基材ケージを保持し、また、細胞送達液の容量(細胞の容量より多い可能性がある)が、生物学的ビアによって基材ケージから採取されるのを可能にする真空圧力のために有利である。一部の実施形態では、基材を外科的イントロデューサー中に装填し、次いで、細胞を添加する。一部の実施形態では、基材に細胞を添加し、次いで、外科的イントロデューサー中に入れる。非対称の不均質な基材を使用するいくつかの実施形態では、細胞を予め播種し、基材の頂端表面上で安定に増殖させ、その後、外科医によって移植片を選択し、続いて埋め込む。
【0135】
図2A~2Bおよび
図9を参照すると、基材の一部の実施形態は、細胞保持フィーチャ70を含む。このようなフィーチャは、細胞の基材ケージのルーメン50中への一方向性の通過を提供するように機能する。いくつかの実施形態では、保持フィーチャは、細胞を基材ケージのルーメン中に送達するピペット(または他の装置)100との連動装置を提供する特別注文の形状である。いくつかの実施形態では、ピペットまたはニードルが、細胞の送達のためにメンブレンを通してルーメン中に穿刺できるが、ピペットまたはニードルを引き抜くと、細胞が脱出する開放した開口部が残らないような再び閉じることができる、または「自己治癒」メンブレンが使用される。一部の実施形態では、粘弾性物質が使用される。一部の実施形態では、生体適合性接着性が使用される。さらに他の実施形態では、一方向性のバルブを使用する。このようなバルブは、送達ピペットが進むとルーメンに向けて開口する2個以上のフラップ含むことができ、これによって、ルーメン中へ細胞を置くことが可能になる。ピペットを除去すると、フラップがその閉鎖位置に戻り、それによって、置かれた細胞がルーメン内に保持される。一部の実施形態では、細胞の逆流を防ぐために液体密封が起こるがよう、他の実施形態では、流体密封が形成されないような一方向バルブが形成される。
【0136】
細胞種
細胞の損傷または細胞死を誘導する疾患の広い多様性を考えると、治療効果を達成するために、本明細書に記載された基材内にさまざまな細胞種を収容できる。一部の実施形態では、培養細胞を使用する。いくつかの実施形態では、保存細胞を使用する。一部の実施形態では、培養細胞は、幹細胞を含む。幹細胞は、さまざまな異なる細胞種に分化できる万能性細胞である。一部の実施形態では、胚性幹細胞を使用するが、他の実施形態では、成体幹細胞を使用する。いくつかの実施形態では、胚性幹細胞は、ヒト胚性幹細胞である。通常、初期胚から誘導される胚性幹細胞は、身体中の任意の種類の細胞に発達する可能性を有する。一部の実施形態では、HI、H7、H9、SHEF-1または他の同様のFDAが承認した幹細胞株を使用する。成体幹細胞は、通常、多能性であり、より限定された数の細胞種、通常、細胞が単離された組織種と関連するものに発達できる。一部の実施形態では、幹細胞は、レシピエントと同種異系である(例えば、胚性幹細胞を用いる場合のように)。一部の実施形態では、幹細胞は、レシピエントにとって自己である。他の実施形態では、同一遺伝子細胞を使用するが、なお他の実施形態では、異種細胞を使用する。一部の実施形態では、レシピエントの個体中に埋め込むために、新たに単離された細胞を培養し、基材中または基材上に配置する。他の実施形態では、低温保存細胞を使用する。一部の実施形態では、誘導された万能性幹細胞を使用する。
【0137】
いくつかの実施形態では、幹細胞を単離し(または解凍し)、標準滅菌in vitro培養条件下で培養する。一部の実施形態では、細胞を、幹細胞の増殖のために知られており、使用される標準組織培養培地中で培養する。他の実施形態では、異種由来成分を含まない培養培地を使用する。一部の実施形態では、細胞の生存力を支持し、および/または特定の細胞種への分化を誘導するために、培養培地に、1種または複数の増殖因子を補給する。一部の実施形態では、増殖培地に補給するために血清中に含まれるものなどの増殖因子を使用する。一部の実施形態では、例えば、線維芽細胞増殖因子、トランスフォーミング増殖因子(例えば、TGFβ1)、インスリン様増殖因子、例えば、IGF-1)などの特定の因子が加えられる。細胞が、本明細書に記載された基材中への配置のために最適な特徴を有するような時間まで、細胞を増殖させ、継代し、継続的に培養できる。その時点で、細胞(懸濁液細胞の場合には)は、簡単に集め、所望の細胞密度に調整し、基材中に配置できる(例えば、注入できる)。表面上で増殖した細胞を、酵素的に消化してもよく(例えば、トリプシン処理してもよく)、または表面から機械的に剥離し、所望の細胞密度に調整し、基材中に配置してもよい(例えば、注入してもよい)。
【0138】
本明細書に記載された基材のいくつかの実施形態のフィーチャおよび利点のために、いくつかの実施形態では、基材中または基材上に配置される細胞数は、比較的少ない。いくつかの実施形態では、送達される細胞数は、約1.0×103~1.0×108個に及ぶ。いくつかの実施形態では、基材中または基材上に配置される細胞数は、約1.0×104~約1.0×107、約1.0×105~約1.0×106およびそれらの重複する範囲に及ぶ。一実施形態では、約1.5×105個細胞を使用する。他の実施形態では、より多いまたは少ない数の細胞を使用する。
【0139】
上記で論じたように、さまざまな組織から得た細胞を使用してもよい。いくつかの実施形態では、眼の細胞を使用して、それだけには限らないが、加齢黄斑変性症(滲出型または萎縮型)、糖尿病性黄斑浮腫、特発性脈絡膜新生血管または強度近視黄斑変性症を含めた眼の疾患を治療する。一部の眼の実施形態では、RPE細胞を使用する。いくつかの実施形態では、心臓幹細胞を使用して、心筋梗塞、虚血性心臓組織損傷、うっ血性心不全、動脈瘤、アテローム性動脈硬化症誘発性イベント、脳血管発作(卒中)および冠動脈疾患などの心血管障害を治療する。いくつかの実施形態では、肝臓幹細胞を使用して、肝炎、硬変、癌などといった肝臓疾患を治療する。他の組織では、中でも、腎臓、肺、膵臓、腸および神経組織などの疾患を、本明細書に開示された方法および装置を用いて治療できる。一部の実施形態では、回収された骨髄幹細胞を使用して、白血病、癌または血液細胞数を減少させる治療によって減少している造血細胞を再配置できる。
【0140】
送達方法
本明細書に記載される実施形態に従う基材は、標的組織に応じて種々の方法によって送達してもよい。基材は、直視下外科的プロセスの間に送達してもよい。例えば、眼の手術の間に、基材を眼の領域に送達してもよい。いくつかの実施形態では、基材を特定の送達手順で埋め込む。一部の眼の実施形態では、基材を網膜下空間に送達する。一部の実施形態では、切り出し手順を使用する。他の実施形態では、切り込み手順を使用する。一部の実施形態では、埋め込みに毛様態扁平部外科的アプローチを使用する。他の実施形態では、埋め込みに経強膜アプローチを使用する。いくつかの実施形態では、基材を表面と結合する(例えば、縫合する、接着する)。いくつかの実施形態では、カテーテルに基づく方法によって、血管内に、筋肉内に、定位的に(例えば、脳または他の神経組織に基材/細胞を送達するために)または特定の標的組織のための当技術分野で公知の他の手段によって、基材を内視鏡的に送達する。基材設計および標的組織に応じて、特別注文の外科的ツールを使用して、基材の送達を、対象にとってあまり外傷性ではない、より迅速な、そうでなければ、あまり危険ではない、またはより有益なものにする。
【0141】
いくつかの実施形態では、眼の埋め込みのための外科的アプローチは、毛様態扁平部アプローチである。一部の種では、毛様態扁平部は、角膜からおよそ3.5-4mmに位置する。いくつかの実施形態では、基材を、眼球後壁と平行に送達する。
【0142】
(実施例)
以下に提供された実施例は、本発明の限定されない実施形態であるものとする。
【0143】
(実施例1)
RPE細胞を保持する孔直径の決定
眼では、健康なブルッフ膜は、網膜および脈絡膜間の栄養分および代謝性老廃物の交換を調節する分子篩として機能する。本明細書に開示された特定の眼を対象とする基材の網膜下位置に基づいて、基材の多孔度は、理想的には、健康なブルッフ膜のこれらの機能をシミュレートする。
【0144】
機能を可能にする孔直径範囲を調べるために、細胞遊走アッセイを実施した。さまざまな孔直径(1、2、3および5μm)を用いて円形のパリレンディスクを製造し、8μmの孔を有するTranswellポリエステル(PET)セルカルチャーインサートの上部に設置した。インサートを24ウェル培養プレート中に設置した。RPE細胞を、PETセルカルチャーインサートの内側に血清不含培地を、インサートの外側に20μg/ml組換えヒトPDGFを含有する培地(化学誘引物質として)を有するパリレンディスク上に播種した。一晩培養した後、PETインサートメンブレンおよびインサートを支える24ウェル培養プレートを両方ともヘマトキシリンを用いて染色した。結果は、RPE細胞体が、2、3および5μm直径孔を通って遊走できるが、1μm孔を通って遊走できないことを示した。したがって、と約0.5~約1.5μmの範囲の孔サイズが、特定のRPE含有基材にとって最適であると結論づけた。
【0145】
(実施例2)
生分解性ポリマー基材
上記で論じたように、いくつかの実施形態では、パリレン基材が使用される。ポリエチレングリコール(PEG)と配合された生分解性ポリカプロラクトン(PCL)材料を使用して、基材における孔の形成を試験する。上記で論じたように、重合の際に、PCL-PEG材料をガラスカバースリップ上でスピンコーティングして、所望の厚みの薄いフィルムを製造する。PEG-PCLコポリマーに共有結合している環状アミノ酸(Arg-Gly-Asp;cRGD)を、フィルムの表面上にアニーリングした。水性バッファーまたは媒体を用いる処理の際に、水溶性PEGが洗い流され、フィルム中に孔が生じる。PCL-PEGの比が基材の分解速度に影響を及ぼす。これらの孔は、水に曝露されたポリマーの表面積を増大させ、従って、分解速度を高める。このアプローチによって、ポリマーブレンドに添加されるPEGの量に基づいて、フィルムの多孔度ならびに分解速度の両方を操作することができる。
【0146】
(実施例3)
hESC-RPEのin vitro分析
本実施例は、マウスまたはヒト支持細胞層上で、またはマトリゲル上で、FGF2の不在下で超密集(superconfluency)に増殖させたhESCコロニーが、大型化する、分離した色素性増殖巣を日常的に産生することを実証する。これらの色素性増殖巣を切り出し、培養胎児RPEまたは成体ヒト培養RPEと同様である高度に分化した単層を製造するよう拡大できる。
図11参照のこと。細胞は、色素性細胞の顕微分析ならびに未分化hESCのコンタミネーションの可能性のあるマーカー、nanogおよびOct-4の定量的PCRによって決定されるように、99%の純度で臨床使用に必要な量で製造することができる。単層培養は、継代を伴わない長期培養(11ヶ月)後に表現型的に安定である。さらに表現型および正常な核型は、最大で少なくとも4回の継代まで維持できる。培養中の細胞数に基づいて、一部の実施形態は、5mm直径基材上の約1.5×10
5個の細胞を、各処理が施された眼に使用する。
【0147】
種々のhESC株から誘導した複数のRPE株を、全体的なRNA発現パターンならびに重要なRPEマーカーmRNAおよびタンパク質の定量的分析に関して特性決定した。ヒトESC-RPEは、その発現パターンにおいて天然のヒト胎児RPEと著しく類似している(hESC-RPEおよび培養胎児ヒトRPE間の0.97という相関係数)。定量RT-PCRは、同様のレベルの、遺伝子調節(Mit-F、OTX-2、Rax、Six-3)、色素合成(Tyr、Tryp-1、Tryp-2、銀)、レチノール産生(CRALBP、RPE65)、密着結合形成(ZO-1、クローディン-3)において重要なRPE特異的転写物ならびに他の重要なRPEマーカー(Bestrophin、Emmprin、Transthyretin、Pigment Epithelium Derived Factor(PEDF)を示した。hESC-RPEは、これらの転写物と関連しているタンパク質ならびに他の重大なRPEマーカー(インテグリン、ラミニン、フィブロネクチン、apoE、フィブリン-5、pMell7を発現する。これらの細胞によるRPE65の発現は、このタンパク質の欠乏が失明につながるので特に重要なものである。
【0148】
電子顕微分析および経上皮抵抗(TER)の測定によって検出されるように、hESC-RPE単層は、天然RPEのように、極性化しており、頂端微絨毛、基底核およびエンドフィートならびに外側密着結合を有する。それらは、ターゲッティングされた膜輸送を実行し、Na/K ATPアーゼの頂端局在性、インテグリンαvβ5発現、PEDFの頂端分泌ならびにコラーゲンIVおよびVEGFの基底分泌を有する。さらに、HESCRPEの頂端表面は、a-アセチル化チュブリンを発現する細胞あたり1~2個の毛様体を含み、ヒト胎児および初期の出生後げっ歯類RPEに特有の9+0構造を有する。hESC-RPEの極性化したシートは、成熟RPE細胞に特有の細胞間接触領域に局在化した密着結合タンパク質(オクルディン、クローディンおよびZ01)を発現し、生体内原位置で天然のRPEに特有のTERを作製する。
図12A参照のこと。
【0149】
hESC-RPE細胞が、光受容体外節を高率的に食作用できることを示すために(a in vivoで日内周期で起こり、視力に必要なプロセス)、in vitroで、hESC-RPE、胎児 RPEまたはH2S7線維芽細胞(陰性対照)のシートに蛍光タグをつけた光受容体桿体外節(ROS)を加え、結合/食作用を定量した。
図12B参照のこと。hESC-RPEは、胎児RPEとその食作用能において定量的に同様であり、その活性は、αvβ5インテグリンまたはMerTK受容体に対する抗体によって遮断された。さらに、一次ヒト網膜(黄斑移動術から得られる)をhESC-RPEのシート上に留置し、ヒト光受容体外節の食作用を検出した。
【0150】
一部の実験において追加の機能分析を実施する。例えば、いくつかの実施形態では、オールトランス-レチンアルデヒドの11-シス-レチンアルデヒドへの異性化を評価する。視覚サイクルおよび視力の維持にとって重要である、生体内原位置(in situ)でRPEによって実施される機能である。hESC-RPEのこの酵素的異性化を実施する能力は、水性細胞ホモジネート中でのオールトランス-レチニルパルミテートの11-シス型への変換のHPLC分析によってモニタリングされる。生体内原位置でのRPE細胞の別の重要な機能は、離脱光受容体外節膜の食作用クリアランスである。表面に結合している外節および内部移行した外節の間の区別を可能にするために、食作用を、SNAFl-2(Molecular Probes)を用いて標識されたウシ桿体光受容体外節を使用してモニタリングする。色素上皮由来因子(PEDF)は、生体内原位置でRPE細胞の主要な分泌生成物である。血管新生の阻害剤として作用し、強力な神経保護特性を有する。いくつかの実施形態では、培養ヒト胎児RPEおよびhESC-RPEによるその分泌は、高い経上皮抵抗を有する極性化した上皮単層の確立に特徴的であり、したがって、ELISAアッセイを使用して、hESC-RPE細胞から得たコンディショニング培地中のPEDFの存在をモニタリングする。
【0151】
(実施例4)
網膜ジストロフィーの動物モデルにおいてhESC-RPEの活性を修飾する疾患
hESC-RPEは、光受容体および視覚機能を救出できる。ジストロフィーRCSラット網膜に移植したhESC-RPE細胞は、網膜下空間中で生存し、in vivoでその成熟を続け、ROSを貪食した。一部のアプローチは、hESC-RPEの網膜下注入を好み、本発明者らのアプローチは、hESC由来RPEを生体適合性基材上で増殖させることおよびこれらの「パッチ」を網膜下空間中に埋め込むことおよび機能的RPE-光受容体界面を再建することである。注入された細胞懸濁液は、実施することは容易であり得るが、いくつかの実施形態では、ブルッフ膜を摸倣する基材上での細胞の送達が使用される。アプローチのこの変更について2つの主な理由がある。第1に、加齢黄斑は、加齢ブルッフ膜ならびに加齢RPE細胞の両方を含有し、この加齢膜は、付着およびRPE細胞の増殖を支持しない。第2に、注入された細胞の大半が、機械的またはアポトーシス性プロセスによるプロセスにおいて最終的に失われる;細胞懸濁液注入研究において実証されてきた現象。対照的に、ポリ乳酸グリコール酸(PLGA;生分解性ポリマー)で増殖させ、免疫抑制されたRCSラットの網膜下空間中に移植したhESC-RPEは、眼底写真およびOCTによって正確に結像され得る。FIG13参照のこと。さらに、高解像度イメージングを実施し、これを使用して網膜下移植組織留置および完全性を評価する。高速スペクトルドメインOCT技術(SDOCT)、イメージングによって、げっ歯類網膜の詳細な三次元イメージングおよび種々の層の可視化が可能となる。例えば、
図16参照のこと。
【0152】
埋め込みの90日内に完全に分解するよう基材を構成する。移植の3週間後、病理学検査のために眼を処理した。ヒト特異的マーカーTRA-1-85を使用する免疫染色によって、隣接する網膜、対照眼またはポリマー単独注入と比較して、ジストロフィーRCSラットの網膜下空間における移植されたhESC-RPE細胞の生存および外核層(ONL)中の覆っている光受容体の保存が示された。
図14参照のこと。
【0153】
(実施例5)
加齢黄斑変性症の治療
加齢黄斑変性症は、網膜の黄斑領域が菲薄化、萎縮および出血を受ける、高齢の成人において見られる状態である。これは、視力の中央領域における視力の喪失、特に、細部がよく見えなくなることをもたらす。AMDは、萎縮型(非血管新生)または滲出型(血管新生)のいずれかとして分類され、滲出型AMDは、通常、より深刻な視力喪失につながる。萎縮型黄斑変性症は、主に黄斑の領域において悪化している組織からの沈着物または残骸から、ドルーゼンとして知られる黄色を帯びた点が蓄積し始める時点で診断される。萎縮型黄斑変性症では漸進的な中心視野喪失が起こり得る。萎縮型AMDは、新規血管が網膜の真下に成長し、血液および流体が漏出する滲出型AMDに進行し得る。漏出および圧力が、光感受性網膜細胞(光受容体)に損傷を積み重ね、これが機能を失うか、死滅し、それによって中心視野における盲点につながる。
【0154】
AMDのためのRPE移植戦略が、RPEと光受容体の重大な相互作用を再建することを目標にして過去20年にわたって開発されてきた。大規模な動物研究および患者自身の細胞を使用するより最近のいくつかのヒト試験から進歩があった。しかし、現在のアプローチは、外科的手順の複雑性および細胞供給および質における制限によって妨げられている。大部分は血管新生AMDのための、260を越える同族RPE移植および自己RPE移植から得た最も抵抗しがたいエビデンスは、黄斑移動術研究から得られている。この複雑な、危険な外科的手順は、網膜の損傷を受けた黄斑領域を、健康なRPEと接触させて置くように、網膜を剥離することおよび移動することを含む。正確にはRPE移植ではないが、機能的には、自己RPE移植である。
【0155】
自己RPE移植のための他の戦略は、黄斑下RPE-脈絡膜有茎弁回転から黄斑下RPE-脈絡膜不含移植組織移動術、末梢の眼底から得たRPE細胞の懸濁液の黄斑下注入、現在は、末梢の眼底から得たRPE-脈絡膜パッチ移植組織の黄斑下挿入へと進化した。後者の技術は、末梢からRPE-脈絡膜パッチ移植組織を採取すること、それに続いて黄斑下に挿入することを含み、いくつかの欧州のグループによって現在使用されている。
【0156】
これらの結果は、多数の場合において視力が回復される点で勇気付けるものであるが、それらは、網膜中に2つの大きな切開;採取するための第1のものおよび埋め込むための第2のものを必要とする手順の複雑性を指摘している。このような大きな網膜切開(網膜切開)は、網膜剥離の高度の危険を伴う。細胞懸濁液を使用するというアプローチは、結合していない細胞が硝子体腔中に容易に脱出できるという追加の欠点を有し、これは、内網膜の表面の増殖および瘢痕につながり、複雑な、しばしば、回復不能な網膜剥離(増殖性硝子体網膜症(PVR)をもたらす。
【0157】
RPE細胞はまた、パーキンソン病の臨床試験において脳中に移植されているが、これはそれらがドーパミンを産生すると分かっているからである。本明細書に開示されたいくつかの実施形態に関連して、これらの研究はRPEによる腫瘍形成を全く検出しなかった。成体ヒトでは、RPEは大規模には複製せず、自発的に生じるRPE由来腫瘍は極めて稀であるという報告がある。
【0158】
本明細書に開示された基材を使用して、RPE細胞を、AMDを有する対象の網膜下空間に送達して、RPE細胞の光受容体との相互作用を促進し、それによって、光受容体を支持し、光受容体のさらなる機能喪失または死滅を防ぐことによって視力喪失を治療する。
【0159】
AMDのラットモデルにおけるin vivo研究を実施する。RPE細胞を播種した基材を、治療される動物に送達し、偽の(例えば、空の)基材を受け取る病変したラットまたは偽の手術を施された正常ラットと比較する。
【0160】
処理ラットおよび対照の両方で臨床的追跡および特徴評価を実施する。臨床評価は、眼底血管造影(FA)(脈管構造の健康を評価するため)、眼底写真、眼底自己蛍光(FAF)、視運動性眼振(OKN)、網膜電図検査(ERG)および共焦点ERG(mfERG)を使用して行う。局所腫瘍/奇形腫形成、細胞増殖のない移植された細胞の分化したRPE表現型の維持(細胞周期特異的抗体を使用する免疫組織化学)、単層から離れた細胞の遊走、隣接する光受容体またはブルッフ膜/脈絡膜複合体の細胞喪失または損傷および炎症(マクロファージ、T細胞)または基材に対する反応のエビデンスについて、動物の病理組織学的評価を実施する。移植されたhESC-RPEは、ヒトマーカータンパク質(TRA-1-85)の発現をモニタリングすることによって同定する。免疫抑制の必要性を、in vitroでMHCクラスIおよびIIの発現を測定することによって、また、in vivoで免疫組織化学によって評価する(インターフェロン-ガンマによる活性化を伴って、または伴わずに)。処理ラットは、測定されたパラメータのうち1つまたは複数に関して臨床評価の改善を示す。
【0161】
(実施例6)
幹細胞を含有する基材の作製
上記で論じたように、いくつかの実施形態では、hESC-RPEは、生分解性および非生分解性基材上で極性化した単層に分化し得る。いくつかの実施形態では、細胞を基材上で予め増殖させ、これを埋め込みのための三次元基材ケージ中に最終的に組み込む。ポリカプロラクトンおよびポリエチレングリコール(PCL-PEG)コポリマーなどの適した基材のシートを、所望の厚みで重合する。重合しながら、コポリマーを、場合により、厚みを目的に合わせるためにガラスカバースリップ上でスピンコーティングする。環状アミノ酸を含有するPCL-PEGコポリマーを重合化された基材にアニーリングする。次いで、水性媒体を加えて、水溶性PEGを溶解し、孔を作製する。次いで、多孔性基材を滅菌する。次いで、幹細胞を滅菌シート上で培養して、所望の細胞密度とする。細胞を支持する基材の1つまたは複数の小片を切り出し、整列させ、コポリマーの1つまたは複数の追加の小片とアニーリングさせ、直接埋め込みに適した細胞を含有する三次元基材ケージを作製した。
【0162】
いくつかの実施形態では、PLGAを使用して生分解性基材を形成する。
図15Aに示されるように、PLGA上で増殖させたhESC-RPEは、3週間の培養後によく発達した頂端微絨毛を示す。他の実施形態は、非生分解性材料を使用する。表面修飾された非生分解性パリレン上で増殖させたhESC-RPEも、48時間内の培養で、優れた付着および頂端微絨毛の発達を(
図15Bの挿入図を参照のこと)示す。一部の実施形態では、細胞を基材上で増殖させ、その後に、最終基材に組み立て、他の実施形態では、細胞を十分に組み立てられた基材中に配置し、その後埋め込む。
【0163】
(実施例7)
応答性幹細胞に対して構成された基材の作製
上記で論じたように、いくつかの実施形態では、基材ケージ内に配置された1種または複数の種類の幹細胞を後に有し得る基材ケージを組み立て、その後、標的組織中に埋め込む。所望の三次元基材ケージの上部(頂端)および下部(基底)に対応する2つの型を作製する。型は、基材ケージの2つの部分の構築時に内部ルーメンおよび構築後に幹細胞をルーメンに送達するためのアクセス手段を生じるように構成される。ポリマーを、型の各部分内で重合する。重合すると、ポリマーをその型から取り外し、水性媒体に曝露して、基材内に孔を作製する。孔は、最終基材ケージ内に細胞を保持し、依然として細胞標的組織間の相互作用(物理的、化学的、またはその他)を可能にするように構成される。次いで、ポリマー部分を整列させ、アニーリングして、幹細胞を受け取り、次いで、細胞と標的組織の相互作用によって、前記レシピエントにおいて治療効果を生み出すためにレシピエント中に埋め込むのに適している三次元多孔性基材ケージを作製する。
【0164】
(実施例8)
ラット眼におけるhESC-RPEおよびPR外節の嵌合
少なくとも1つの平面細胞増殖表面を含むパリレン基材を使用して、H9 hESC-RPEの光受容体(PR)外節との嵌合を実証した。イングランド王立外科医師会(Royal College of Surgeon)(RCS)ラットは、遺伝性網膜変性の確立された動物モデルである。RCSラットにおける遺伝的欠陥が、網膜色素上皮(RPE)に離脱光受容体外節を貪食できなくさせる。上記の技術に従って、hESC-RPE細胞をパリレン基材上に播種し、増殖させた。RPE細胞がコンフルエンスに増殖すると、 基材を、細胞増殖表面を光受容体の外核層と並置させて、RCSラット眼中に埋め込んだ。比較のために、対照基材(細胞なし)をRCSラット中に埋め込んだ。
【0165】
図23Aは、RCSラット眼に埋め込まれたパリレン基材の縫合した眼底写真を示す。
図23Bは、RCSラットにおける埋め込み1週間後のヘマトキシリンおよびエオシン(H & E)染色を表す。
図23Bの下右側パネルは、PR外節とのhESC-RPE嵌合を示す。hESC-RPEの大部分は、基材の頂端表面上に保持されている。播種されていない対照基材は、このような結合性を示さない(24B株左側パネル)。
図23Cは、埋め込まれたラットの単離された眼窩の横断面を示す(埋め込み1週間後)。
図23Dは、hESC-RPEが播種されたパリレン基材の高解像度近接写真である。基材表面上のRPE体細胞の嵌合および局在性を見ることができる。パリレン基材上に播種されたhESC-RPEの走査電子顕微鏡画像である
図27も参照のこと。
【0166】
(実施例9)
ラット眼におけるhESC-RPEおよびPR外節の嵌合
上記で論じたように、hESC-RPE細胞の光受容体の外節との嵌合によって、RPE細胞と光受容体の間に機能的および代謝的相互作用が生じることが可能になる。この相互作用は、先の実施例において論じられるように、光受容体の生存力を支持し、機能的視力回復につながる。この実施例では、ジストロフィーラットにおけるRPE細胞の長期生着および嵌合を、透過型電子顕微鏡によって評価する。
【0167】
上記の実施例と同様に、RPE細胞を含む基材を、出生後29日目にジストロフィーRCSラットの網膜下空間中に埋め込んだ。この実施例で使用される基材は、このおよそ6.5ミクロンであったが、上記で論じたように、種々の実施形態において他の寸法を使用してもよい。動物を、出生後38日目(術後9日目)およびに出生後87日目(術後58日目)屠殺した。ラットには免疫抑制治療は施さなかった。
【0168】
図24に示されるように、埋め込み9日後に、RPE微絨毛が外節円盤付近に局在化している。
図25および26に示される埋め込み58日後には、RPE微絨毛および外節円盤間の嵌合を見ることができる。従って、長期の時点でさえ、RPE細胞は生存可能であり、光受容体外節と機能的に嵌合している。このデータは、本明細書に開示された方法に従い、本明細書に開示された基材を使用して埋め込まれたRPEは、眼におけるRPEの長期の機能的生着を提供することを実証する。
【0169】
(実施例10)
埋め込まれた細胞が播種された基材は機能を回復させる
本明細書において論じられるように、標的部位への細胞の送達は、細胞が実際に標的部位に到達することだけでなく、標的部位で生存可能であり、機能的であることを必要とする。生存力および機能性の期間は、注目すべき治療効果を提供するのに十分であることが好ましい。本明細書に記載されるように、H9 hESC-RPEを、0.3ミクロンの薄いフィルムのパリレン基材(基底部分上に6.5ミクロン(高さ)支持フィーチャを有する)上に播種した。上記のいくつかの実施形態に従って、細胞が播種された基材を、RCSラットの網膜下空間中に外科的に導入した。
図28A~28Cに示されるように、パリレン基材を白色矢印によって同定できる。上記で論じたように、基材の設計は、基材自体の支持体を提供し、さらに、埋め込み手順の際に細胞を保護する。さらに、基材上に播種されたRPE細胞間の栄養分の相互交換および脈絡膜の豊富な血液供給を可能にするよう基材を設計する。
図28Aは、ヒト抗原マーカーであるTRA-1-85の染色を示し、これは、基材上に播種された細胞が、無傷の単層中に存在することを示す。染色によって、単層を作り上げる細胞がヒト起源のものであることが確認される。
図28Bは、RPE65の染色を表し。これは、PR細胞における視色素再生のプロセスに関与しているタンパク質である。RPE65の存在は、埋め込まれたRPE細胞が生存可能である(埋め込み2ヶ月後で)だけでなく、光伝達と関連している正常なプロセスにおいてそれらが機能的で、活性であることも示す。
図28Cは、TRA-1-85およびREP65と重ね合わせたDAPI(非特異的細胞マーカー)染色を示す。
図29A~29Cは、上記のように実施した別の実験から得られた追加の一連の免疫蛍光画像を示す。上記で論じたように、これらの画像は、播種されたRPE細胞の単層が、埋め込み2ヶ月後に無傷であり、機能的でもあることを示す。
【0170】
RPEが播種された基材の埋め込み後に回復された視覚機能の程度を調べるために、追加の実験を実施した。RCSラットに、出生後28~32日にRPE細胞のボーラス注射または本明細書に開示された細胞が播種されたパリレン埋め込み片のいずれかを与えた。
図30および31は、その後のOKN試験から集めたデータを表す。OKN試験では、対象(これらの実験ではラット)を、対象の周囲を移動する黒色および白色の柱状のものの模様を作製するビデオモニターによって囲まれたチャンバーに入れた。対象が視覚映像を追跡して過ごす時間が、対象の視覚機能を示す(例えば、より長い追跡時間は、より大きな視覚機能と関連している)。
図30は、正常なマウス、未処理トランスジェニック盲目マウスおよび細胞懸濁液(支持基材なし)で網膜下空間中に注入されたH9 hESC-RPEで処理されたトランスジェニック盲目マウスから集めたOKNデータを表す。予想されたように、正常ラットは、処理および未処理盲目ラット両者と比較して、最大の追跡時間を有していた(正常は出生後45日でのみ試験した)。出生後40日で、処理および未処理盲目ラットは、その視覚機能は大きくは異ならなかった。しかし、出生後40日から出生後45日の間、処理ラットは、ほぼ同じ視覚機能を維持した。対照的に、未処理ラットには、視覚機能の低下の開始が起こり、これは、出生後60日まで継続した。出生後45日と出生後60日の間、処理ラットは、視覚機能のわずかではあるが有意ではない低下を示したが、依然として、未処理ラットと比較して、目に見えて改善された機能を有していた。
【0171】
図31は、正常マウス、未処理トランスジェニック盲目マウスおよびパリレン基材上に播種され、網膜下空間中に埋め込まれたH9 hESC-RPEで処理されたトランスジェニック盲目マウスから得たOKNデータを示す。やはり、初期の埋め込み後期間には、種々の群は、その追跡時間は大幅には異ならなかった。出生後45日では、予想されたように、正常ラットは、未処理および処理ラットと比較して、実質的に大きな追跡時間を有していた。基材で処理されたラットは、未処理ラットと比較して、視覚機能に大幅な相違は示さなかったが、出生後45日では、処理動物は、視覚機能の反復された、大幅な改善を示した。このデータは、未処理動物と比較して、細胞が播種された基材の埋め込みの結果として視覚機能の明確な改善を示すだけでなく、改善はまた、RPE細胞懸濁液が投与された場合よりも著しく大きい。
【0172】
例えば、ボーラス注射で処理されたマウスにおける出生後60日での頭部追跡時間は、およそ12秒であるのと対照的に、細胞が播種された基材で処理された動物は、画像を30秒近く視覚的に追跡した。さらに、細胞が播種された基材で処理された動物における追跡時間が増大する傾向は、より後の時点でより大きな改善が実現されることを示唆する。
【0173】
図32は、宿主光受容体と機能的に嵌合し、代謝的に活性である、埋め込み後RPE細胞の追加の描写である。示されるように、基材は図の下部に配置されている。基材頂端表面に配置されるのは、播種されたRPE細胞である。図の上部に示されるのは、常在光受容体である。白色の矢じりは、ロドプシンに対して陽性に染まる外節を表す(PRから離脱されている)。RPE層内の白色の矢印は、外節(out segments)のロドプシン陽性断片を含有するRPE内のファゴソームを表す。これは、RPE細胞が生存可能であり、安定であり、天然のRPE細胞の正常機能の1つである、RPEの離脱外節を取り込んでいる点で機能的に活性であることを実証する。
【0174】
したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に開示された基材は、播種されたRPE細胞の単層の形成のための表面を提供するだけでなく、対象の眼への埋め込みの際に細胞を保護し、また、埋め込み後に細胞の生存力を支持する。基材の設計は、栄養分が、依然として、播種されたRPE細胞に到達できるが、基材が、細胞がin vivoで単層を維持するのを可能にする十分な支持体を提供するようなものである。さらに、細胞の生存力の継続は、PR細胞からの離脱外節のその取り込みによって証明されるように、播種されたRPE細胞が、死滅したRPE細胞または損傷を受けたRPE細胞を機能的に置換するので、視覚機能の全体的な回復に貢献する。
【0175】
さらに、いくつかの実施形態では、このような細胞が播種された基材を埋め込むために、特殊化した外科的方法が使用される。これらの外科的手順は、特定の対象に特異的である基材の留置を可能にするだけでなく、対象の眼組織に対する損傷の重篤度に応じて、1個、2個またはそれ以上の基材の留置も可能にする。
【0176】
さらに、本明細書に開示される基材および方法は、さまざまな外網膜ジストロフィーの治療にとって有用である。本明細書に開示された基材は、網膜の種々の場所に埋め込むのに適しているだけでなく、栄養分が、上に播種された細胞に到達するのを可能にするその設計、基材は、さまざまな細胞種の増殖および機能の支持に適している。単に例として、本明細書に開示された基材は、一部の実施形態では、光受容体が播種され、網膜色素変性症を治療するために埋め込まれるよう製造できる。
【0177】
本発明の実施形態の種々の改変および適用を、本発明の趣旨または範囲から逸脱することなく実施することができる。さらに、任意の特定のフィーチャ、態様、方法、特性、特徴、品質、特質、要素などの本明細書の開示内容は、実施形態に関連して、本明細書に示されるすべての他の実施形態において使用できる。本明細書に開示された方法は、示される順序で実施される必要はない。本発明は、例示目的で本明細書に示される実施形態に制限されず、その各要素に与えられる等価性の全範囲を含む、添付の特許請求の範囲によって読み取られるものによってのみ規定されるべきであるということは理解されなければならない。