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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】作業車両及び作業車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 47/04 20060101AFI20230825BHJP
【FI】
F16H47/04 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019114082
(22)【出願日】2019-06-19
(65)【公開番号】P2021001614
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 彰吾
(72)【発明者】
【氏名】竹野 陽
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-138819(JP,A)
【文献】米国特許第3204486(US,A)
【文献】特開2014-206271(JP,A)
【文献】特開2009-36299(JP,A)
【文献】特開2010-203596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 47/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに連結される入力軸と、
走行装置に連結される出力軸と、
油圧ポンプ及び油圧モータの一方として機能する第1油圧ポンプモータ及び前記油圧ポンプ及び前記油圧モータの他方として機能する第2油圧ポンプモータを含み、前記入力軸に入力された動力を、クラッチ機構を介して前記出力軸に伝達する油圧伝達機構を有する動力伝達装置と、
前記走行装置の駆動及び制動のために操作される操作装置と、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記出力軸の回転数と、前記操作装置の操作信号とに基づいて、前記出力軸の回転数の予測値を示す推定出力軸回転数を算出し、
前記操作装置の操作信号と、前記入力軸の回転数と、前記出力軸の回転数とに基づいて、前記入力軸の回転数の予測値を示す推定入力軸回転数を算出し、
前記推定出力軸回転数と前記推定入力軸回転数とに基づいて、速度比を算出し、
前記速度比に基づいて、前記クラッチ機構の複数のクラッチのうち規定のクラッチを係合させるクラッチ指令を出力
前記第1油圧ポンプモータの容量及び前記第2油圧ポンプモータの容量と前記速度比との関係を示す相関データを記憶
前記速度比と前記相関データとに基づいて、前記第1油圧ポンプモータの容量及び前記第2油圧ポンプモータの容量の少なくとも一方を変更する容量指令を出力
前記相関データは、第1速度比と前記第1速度比よりも高い第2速度比との間の所定速度比範囲において、前記速度比の変化に伴って前記第1油圧ポンプモータの容量及び前記第2油圧ポンプモータの容量の両方が変化するように設定される、
作業車両。
【請求項2】
前記相関データは、前記所定速度比範囲において、前記速度比の変化に伴って、前記第1油圧ポンプモータの容量及び前記第2油圧ポンプモータの容量の一方が増加するときに、前記第1油圧ポンプモータの容量及び前記第2油圧ポンプモータの容量の他方が減少するように設定される、
請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記所定速度比範囲は、係合する前記クラッチが切り換えられる切換速度比を含む、
請求項1又は請求項2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記相関データは、前記第1油圧ポンプモータの容量が第1切換速度比から速度比が高くなるほど増加し、前記第1切換速度比から速度比が低くなるほど増加し、前記第1切換速度比よりも高い値である第2切換速度比から速度比が高くなるほど減少し、前記第2切換速度比から速度比が低くなるほど減少するように設定され、前記第2油圧ポンプモータの容量が前記第1切換速度比から速度比が高くなるほど減少し、前記第1切換速度比から速度比が低くなるほど減少し、前記第2切換速度比から速度比が高くなるほど増加し、前記第2切換速度比から速度比が低くなるほど増加するように設定される、
請求項3に記載の作業車両。
【請求項5】
前記相関データにおいて、前記切換速度比における前記第1油圧ポンプモータの容量は、前記第1油圧ポンプモータの最大容量以下であり、前記切換速度比における第2油圧ポンプモータの容量は、前記第2油圧ポンプモータの最大容量以下である、
請求項3又は請求項4に記載の作業車両。
【請求項6】
前記相関データは、前記第1速度比よりも低い低速度比範囲において、車体が加速する場合に前記油圧モータとして機能する油圧ポンプモータの容量が最大容量になるように設定される、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項7】
前記相関データは、前記第2速度比よりも高い高速度比範囲において、車体が加速する場合に前記油圧ポンプとして機能する油圧ポンプモータの容量が最大容量になるように設定される、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項8】
前記動力伝達装置は、
遊星歯車機構を含み、前記入力軸に入力された動力を、前記クラッチ機構を介して前記出力軸に伝達する機械伝達機構を有する、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項9】
油圧ポンプ及び油圧モータの一方として機能する第1油圧ポンプモータ及び前記油圧ポンプ及び前記油圧モータの他方として機能する第2油圧ポンプモータを含む作業機械において、エンジンに連結される入力軸に入力された動力を、クラッチ機構を介して、走行装置に連結される出力軸に伝達し、
前記出力軸の回転数と、前記走行装置の駆動及び制動のために操作される操作装置の操作信号とに基づいて、前記出力軸の回転数の予測値を示す推定出力軸回転数を算出し、
前記操作装置の操作信号と、前記入力軸の回転数と、前記出力軸の回転数とに基づいて、前記入力軸の回転数の予測値を示す推定入力軸回転数を算出し、
前記推定出力軸回転数と前記推定入力軸回転数とに基づいて、速度比を算出し、
前記速度比に基づいて、前記クラッチ機構の複数のクラッチのうち規定のクラッチを係合させるクラッチ指令を出力し、
前記第1油圧ポンプモータの容量及び前記第2油圧ポンプモータの容量と前記速度比との関係を示す相関データを記憶し、
前記速度比と前記相関データとに基づいて、前記第1油圧ポンプモータの容量及び前記第2油圧ポンプモータの容量の少なくとも一方を変更する容量指令を出力
前記相関データは、第1速度比と前記第1速度比よりも高い第2速度比との間の所定速度比範囲において、前記速度比の変化に伴って前記第1油圧ポンプモータの容量及び前記第2油圧ポンプモータの容量の両方が変化するように設定される、
作業車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両及び作業車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車両に係る技術分野において、油圧ポンプと油圧モータとを組み合わせた静油圧式無段変速機(HST:Hydraulic Static Transmission)が知られている。また、HSTと遊星歯車機構とを組み合わせた油圧・機械式無段変速機(HMT:Hydraulic Mechanical Transmission)が知られている。
【0003】
HSTは、エンジンで発生した動力の全部を油圧に変換して伝達する純油圧式の変速機である。HMTは、エンジンで発生した動力の一部を機械的に伝達し、エンジンで発生した動力の一部を油圧に変換して伝達する動力分割式の変速機である。HMTにおいては、動力の一部が油圧に変換され、動力の伝達効率が高い。そのため、HMTは、ホイールローダ又はブルドーザのような負荷変動が大きい作業車両に利用される。
【0004】
HMTの無段変速機能は、遊星歯車機構によって達成される。遊星歯車機構のサンギヤ、プラネタリギヤを支持するキャリア、及びリングギヤの3つの要素のうち、第1の要素が入力軸に連結され、第2の要素が出力軸に連結され、第3の要素が油圧ポンプ又は油圧モータに連結される。
【0005】
動力の伝達経路を複数のモードで切り換え可能なHMTを含む動力伝達装置が知られている。動力伝達装置は、エンジンから入力軸に入力された動力を、クラッチ機構を介して、作業車両の走行装置に連結された出力軸に伝達する。動力の伝達経路を複数のモードで切り換え可能な動力伝達装置は、小容量の油圧ポンプ又は油圧モータで広い速度比を達成できる。複数のモードとして、作業車両の走行速度が高速度である高速モード及び作業車両の走行速度が低速度である低速モードが例示される。例えば動力伝達装置の速度比に基づいてモードが切り換えられる。動力伝達装置の速度比とは、入力軸の回転数と出力軸の回転数との比をいう。速度比が所定の閾値よりも大きいときに高速モードが選択される。速度比が所定の閾値以下のときに低速モードが選択される。
【0006】
動力の伝達経路を複数のモードで切り換え可能な動力伝達装置において、モードの切り換えは、クラッチ機構に設けられた複数のクラッチの切り換えによって実施される。複数のクラッチとして、高速モードにおいて係合される高速クラッチ及び低速モードにおいて係合される低速クラッチが例示される。高速モードにおいては、高速クラッチが係合され、低速クラッチが開放される。低速モードにおいては、低速クラッチが係合され、高速クラッチが開放される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-329244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
HMTを含む動力伝達装置において、油圧ポンプ及び油圧モータの一方として機能する第1油圧ポンプモータと、油圧ポンプ及び油圧モータの他方として機能する第2油圧ポンプモータとが設けられる。例えば動力伝達装置の速度比に基づいて、第1油圧ポンプモータと第2油圧ポンプモータとの容量比が決定され、その容量比を達成できるよう第1油圧ポンプモータと第2油圧ポンプモータの容量を変化させる必要がある。第1油圧ポンプモータと第2油圧ポンプモータとの容量比変化の応答性が不足していると、例えば出力軸の回転数が急激に変化した場合、ねらいの速度比を達成できず、エンジン回転数を適正な範囲に保てない可能性がある。例えば、作業車両の走行において作業車両が地山に当たり、作業車両の走行速度が急激に低下した場合、出力軸の回転数が急激に低下することとなる。出力軸の回転数が急激に低下した場合、油圧ポンプモータの応答性の不足に起因してポンプモータ容量比および速度比を十分に変化させることができず、入力軸の回転数も急激に低下してしまい、その結果、エンジンの回転数が低下したり、エンジンが突然停止してしまう現象であるエンスト(engine stall)が発生したりする可能性がある。
【0009】
また、油圧ポンプモータの容量の変更は、油圧ポンプモータの斜板又は斜軸が駆動されることにより実施される。ポンプモータ容量比の応答性改善の方法として、例えばポンプモータ斜板又は斜軸の駆動指令をより俊敏に実施しようとした場合、安定性が損なわれて過度な容量変化が行われてしまう可能性がある。さらに、油圧ポンプモータの斜板又は斜軸がある容量で一定となっている状態から別の容量に変化させようと駆動指令を出した場合、実際に容量が変化するまでにはタイムラグが生じるため、これもねらいのポンプモータ容量比を達成する上での阻害要因となる。その結果、ポンプモータ容量比および速度比を滑らかに変化させることができず、ギクシャク感などの官能悪化につながる可能性がある。
【0010】
本発明の態様は、ポンプモータ容量比を応答良く変化させつつ、ポンプモータ斜板又は斜軸の変化を可能な限り緩やかにし、かつ斜板又は斜軸の動き出しのタイムラグ発生頻度を可能な限り低減することにより、速度比を適正に保ちつつ官能悪化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様に従えば、エンジンに連結される入力軸と、走行装置に連結される出力軸と、油圧ポンプ及び油圧モータの一方として機能する第1油圧ポンプモータ及び前記油圧ポンプ及び前記油圧モータの他方として機能する第2油圧ポンプモータを含み、前記入力軸に入力された動力を、クラッチ機構を介して前記出力軸に伝達する油圧伝達機構を有する動力伝達装置と、制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記入力軸の回転数と前記出力軸の回転数との比を示す速度比に基づいて、前記クラッチ機構の複数のクラッチのうち規定のクラッチを係合させるクラッチ指令を出力するクラッチ制御部と、前記第1油圧ポンプモータの容量及び前記第2油圧ポンプモータの容量と前記速度比との関係を示す相関データを記憶する記憶部と、前記速度比と前記相関データとに基づいて、前記第1油圧ポンプモータの容量及び前記第2油圧ポンプモータの容量の少なくとも一方を変更する容量指令を出力する動力制御部と、を有し、前記相関データは、第1速度比と前記第1速度比よりも高い第2速度比との間の所定速度比範囲において、前記速度比の変化に伴って前記第1油圧ポンプモータの容量及び前記第2油圧ポンプモータの容量の両方が変化するように設定される、作業車両が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の態様によれば、ポンプモータ容量比を応答良く変化させつつ、ポンプモータ斜板又は斜軸の変化を可能な限り緩やかにし、かつ斜板又は斜軸の動き出しのタイムラグ発生頻度を可能な限り低減することにより、速度比を適正に保ちつつ官能悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本実施形態に係る作業車両の一例を模式的に示す側面図である。
図2図2は、本実施形態に係る作業車両の一例を示すブロック図である。
図3図3は、本実施形態に係る動力伝達装置の一例を模式的に示す図である。
図4図4は、本実施形態に係るモードとクラッチ機構の状態と第1油圧ポンプモータ及び第2油圧ポンプモータのそれぞれの状態との関係を模式的に示す図である。
図5図5は、本実施形態に係る制御装置の一例を示す機能ブロック図である。
図6図6は、本実施形態に係る相関データの一例を模式的に示す図である。
図7図7は、本実施形態に係る作業車両の制御方法の一例を示すフローチャートである。
図8図8は、本実施形態に係るコンピュータシステムの一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。以下で説明する実施形態の構成要素は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。
【0015】
[作業車両]
図1は、本実施形態に係る作業車両1の一例を模式的に示す側面図である。本実施形態においては、作業車両1がホイールローダであることとする。以下の説明においては、作業車両1を適宜、ホイールローダ1、と称する。
【0016】
図1に示すように、ホイールローダ1は、車体フレーム2と、作業機3と、走行装置4と、運転室5とを備える。ホイールローダ1は、作業機3を用いて掘削作業及び運搬作業を実施する。
【0017】
車体フレーム2は、ホイールローダ1のボディとして機能する。車体フレーム2は、前フレーム2Fと後フレーム2Rとを有する。前フレーム2Fと後フレーム2Rとは、左右方向に屈曲可能に連結される。
【0018】
作業機3は、掘削作業及び運搬作業のような所定の作業を実施する。作業機3は、ブーム3Aとバケット3Bとを有する。ブーム3Aは、前フレーム2Fに支持される。作業機3は、リフトシリンダ3C及びバケットシリンダ3Dによって駆動される。リフトシリンダ3C及びバケットシリンダ3Dのそれぞれは、油圧シリンダである。リフトシリンダ3Cの一端部は、前フレーム2Fに連結される。リフトシリンダ3Cの他端部は、ブーム3Aに連結される。リフトシリンダ3Cが伸縮することによって、ブーム3Aが上げ動作及び下げ動作する。バケット3Bは、ブーム3Aの先端部に連結される。バケットシリンダ3Dの一端部は、前フレーム2Fに連結される。バケットシリンダ3Dの他端部は、ベルクランク3Eを介してバケット3Bに連結される。バケットシリンダ3Dが伸縮することによって、バケット3Bがダンプ動作及び掘削動作する。
【0019】
走行装置4は、車体フレーム2を支持して走行する。走行装置4は、走行輪4F及び走行輪4Rを有する。走行輪4F及び走行輪4Rが回転することによって、ホイールローダ1は走行する。ホイールローダ1の走行方向は、ステアリングシリンダ4Sによって変更される。ステアリングシリンダ4Sは、油圧シリンダである。ステアリングシリンダ4Sの一端部は、前フレーム2Fに連結される。ステアリングシリンダ4Sの他端部は、後フレーム2Rに連結される。ステアリングシリンダ4Sが伸縮することによって、前フレーム2Fと後フレーム2Rとが屈曲し、ホイールローダ1の走行方向が左右に変更される。
【0020】
運転室5は、ホイールローダ1の運転者が搭乗する空間である。運転室5は、車体フレーム2に支持される。運転室5には、ホイールローダ1の運転者が着座するシート及び運転者に操作される操作装置が配置される。
【0021】
図2は、本実施形態に係るホイールローダ1の一例を示すブロック図である。図2に示すように、ホイールローダ1は、エンジン6と、パワーテイクオフ7(PTO:Power Take Off)と、作業機ポンプ8と、ステアリングポンプ9と,入力軸11と、出力軸12と、動力伝達装置10と、クラッチ機構30と、走行装置4と、操作装置50と、制御装置100とを備える。
【0022】
エンジン6は、ホイールローダ1の動力源である。エンジン6は、動力を発生する。エンジン6は、例えばディーゼルエンジンである。エンジン6に燃料噴射装置6Aが設けられる。燃料噴射装置6Aは、エンジン6のシリンダに噴射される燃料量を調整して、エンジン6の出力を調整する。
【0023】
パワーテイクオフ7は、エンジン6で発生した動力を、作業機ポンプ8、ステアリングポンプ9、及び動力伝達装置10のそれぞれに分配する。
【0024】
作業機ポンプ8は、リフトシリンダ3C及びバケットシリンダ3Dのそれぞれに作動油を供給する。作業機ポンプ8は、エンジン6によって駆動される。作業機ポンプ8は、可変容量型油圧ポンプである。作業機ポンプ8から吐出された作動油は、作業機制御弁を介して、リフトシリンダ3C及びバケットシリンダ3Dのそれぞれに供給される。
【0025】
ステアリングポンプ9は、ステアリングシリンダ4Sに作動油を供給する。ステアリングポンプ9は、エンジン6によって駆動される。ステアリングポンプ9は、可変容量型油圧ポンプである。ステアリングポンプ9から吐出された作動油は、ステアリング制御弁を介して、ステアリングシリンダ4Sに供給される。なお、パワーテイクオフ7には冷却ファンなどの補機を駆動したり、クラッチを駆動したりするための図示されていないポンプが接続されていてもよい。
【0026】
入力軸11は、エンジン6に連結される。出力軸12は、走行装置4に連結される。入力軸11は、エンジン6から動力を入力される。動力伝達装置10は、入力軸11に入力された動力を、出力軸12に伝達する。出力軸12は、走行装置4に動力を出力する。エンジン6で発生した動力は、動力伝達装置10を介して走行装置4に伝達される。
【0027】
動力伝達装置10は、油圧・機械式無段変速機(HMT:Hydraulic Mechanical Transmission)を含む。動力伝達装置10は、遊星歯車機構を含み、入力軸11に入力された動力の一部を機械的に出力軸12に伝達する機械伝達機構10Aと、第1油圧ポンプモータP1及び第2油圧ポンプモータP2を含み、入力軸11に入力された動力の一部を油圧に変換して出力軸12に伝達する油圧伝達機構10Bとを有する。動力伝達装置10は、エンジン6で発生した動力の一部を、機械伝達機構10Aを介して機械的に出力軸12に伝達し、エンジン6で発生した動力の一部を、油圧伝達機構10Bにおいて油圧に変換して出力軸12に伝達する動力分割式の変速機である。
【0028】
第1油圧ポンプモータP1と第2油圧ポンプモータP2とは、作動油管13を介して接続される。第1油圧ポンプモータP1は、油圧ポンプ及び油圧モータの一方として機能する。第2油圧ポンプモータP2は、油圧ポンプ及び油圧モータの他方として機能する。
【0029】
第1油圧ポンプモータP1が油圧ポンプとして機能する場合、第2油圧ポンプモータP2は油圧モータとして機能する。第1油圧ポンプモータP1から吐出された作動油は、作動油管13を介して第2油圧ポンプモータP2に供給される。第2油圧ポンプモータP2は、第1油圧ポンプモータP1から供給された作動油に基づいて駆動する。
【0030】
第2油圧ポンプモータP2が油圧ポンプとして機能する場合、第1油圧ポンプモータP1は油圧モータとして機能する。第2油圧ポンプモータP2から吐出された作動油は、作動油管13を介して第1油圧ポンプモータP1に供給される。第1油圧ポンプモータP1は、第2油圧ポンプモータP2から供給された作動油に基づいて駆動する。
【0031】
第1油圧ポンプモータP1及び第2油圧ポンプモータP2のそれぞれは、可変容量型油圧ポンプモータである。動力伝達装置10は、第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1を調整する第1容量調整装置Q1と、第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2を調整する第2容量調整装置Q2とを有する。第1容量調整装置Q1は、第1油圧ポンプモータP1の斜軸を駆動するアクチュエータを含み、第1油圧ポンプモータP1の斜軸を駆動することによって第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1を調整する。第2容量調整装置Q2は、第2油圧ポンプモータP2の斜軸を駆動するアクチュエータを含み、第2油圧ポンプモータP2の斜軸を駆動することによって第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2を調整する。
【0032】
なお、本実施形態においては、第1油圧ポンプモータP1及び第2油圧ポンプモータP2のそれぞれは、斜軸が駆動されることにより容量が調整される斜軸型油圧ポンプモータであることとするが、第1油圧ポンプモータP1及び第2油圧ポンプモータP2の少なくとも一方は、斜板が駆動されることにより容量が調整される斜板型油圧ポンプモータでもよい。
【0033】
クラッチ機構30は、動力伝達装置10からの動力の伝達と遮断とを実行する。クラッチ機構30は、出力回転の選択を実行する。クラッチ機構30は、複数のクラッチを有する。クラッチ機構30はギヤを有してもよい。クラッチ機構30は、減速比や回転方向を切換えてもよい。図2においては、クラッチ機構30は、出力回転の選択を実行しているが、動力伝達装置10の入力回転側の選択を実行してもよい。
【0034】
走行装置4は、アクスル4Aと、走行輪4F及び走行輪4Rとを有する。アクスル4Aは、動力伝達装置10からの動力を走行輪4F及び走行輪4Rのそれぞれに伝達する。アクスル4Aから伝達された動力により、走行輪4F及び走行輪4Rが回転する。
【0035】
操作装置50は、運転室5に搭乗した運転者によって操作される。操作装置50は、走行装置4の駆動及び制動のために操作されるアクセル・ブレーキ操作装置51と、走行装置4の前進状態と中立状態と後進状態との変更のために操作される前後進操作装置52とを有する。
【0036】
前後進操作装置52は、前後進操作部材を含む。前後進操作部材は、走行装置4を前進状態にするための前進位置(F位置)、走行装置4を中立状態にするための中立位置(N位置)、及び走行装置4を後進状態にするための後進位置(R位置)のそれぞれに移動可能である。N位置は、F位置とR位置の中間に配置される。F位置とR位置との切換操作は、N位置を経由して実施される。
【0037】
前後進操作部材がF位置に移動されることにより、走行装置4は前進が可能な状態になる。前後進操作部材がN位置に移動されることにより、走行装置4は中立状態に変更される。前後進操作部材がR位置に移動されることにより、走行装置4は後進が可能な状態になる。
【0038】
走行装置4を前進状態から後進状態に変更する場合、運転者は、前後進操作部材をF位置からR位置に移動する。走行装置4を後進状態から前進状態に変更する場合、運転者は、前後進操作部材をR位置からF位置に移動する。前後進操作部材は、N位置を経由して、F位置からR位置に移動される。前後進操作部材は、N位置を経由して、R位置からF位置に移動される。すなわち、走行装置4の前進状態と後進状態とを変更する場合、前後進操作部材は、N位置を経由して、F位置及びR位置の一方から他方に移動される。
【0039】
なお、不図示ではあるが、操作装置50は、作業機3の作動のために操作される作業機操作装置、及びホイールローダ1の走行方向の変更のために操作されるステアリング操作装置を更に有する。
【0040】
制御装置100は、ホイールローダ1を制御するコンピュータシステムを含む。制御装置100は、燃料噴射装置6Aを制御して、エンジン6の出力を調整する。制御装置100は、第1容量調整装置Q1を制御して、第1油圧ポンプモータP1の容量を調整する。制御装置100は、第2容量調整装置Q2を制御して、第2油圧ポンプモータP2の容量を調整する。
【0041】
また、ホイールローダ1は、入力軸回転数センサ41と、出力軸回転数センサ42とを備える。
【0042】
入力軸回転数センサ41は、入力軸11の単位時間当たりの回転数を検出する。入力軸11の回転数が検出されることにより、入力軸11の回転速度が検出される。入力軸回転数センサ41の検出信号は、制御装置100に出力される。入力軸11の回転数とエンジン6の回転数とは1対1で対応する。制御装置100は、入力軸11の回転数に基づいて、エンジン6の回転数を算出することができる。
【0043】
出力軸回転数センサ42は、出力軸12の単位時間当たりの回転数を検出する。出力軸12の回転数が検出されることにより、出力軸12の回転速度が検出される。出力軸回転数センサ42の検出信号は、制御装置100に出力される。出力軸12の回転数とホイールローダ1の走行速度とは1対1で対応する。制御装置100は、出力軸12の回転数に基づいて、ホイールローダ1の走行速度を算出することができる。
【0044】
[動力伝達装置]
図3は、本実施形態に係る動力伝達装置10の一例を模式的に示す図である。動力伝達装置10は、入力軸11に入力された動力を、クラッチ機構30を介して出力軸12に伝達する。
【0045】
動力伝達装置10は、遊星歯車機構15、遊星歯車機構16、及び遊星歯車機構17を含み、入力軸11に入力された動力の一部を、クラッチ機構30を介して出力軸12に伝達する機械伝達機構10Aと、第1油圧ポンプモータP1及び第2油圧ポンプモータP2を含み、入力軸11に入力された動力の一部を、機械伝達機構10Aの一部及びクラッチ機構30を介して出力軸12に伝達する油圧伝達機構10Bとを備える。
【0046】
入力軸11は、パワーテイクオフ7を介してエンジン6に連結される。エンジン6で発生した動力は、パワーテイクオフ7を介して入力軸11に伝達される。入力軸11は、エンジン6から伝達された動力に基づいて回転する。入力軸11に入力ギヤ14が固定される。
【0047】
遊星歯車機構15は、サンギヤ15Sと、サンギヤ15Sの周囲に配置される複数の遊星ギヤ15Pと、複数の遊星ギヤ15Pを回転可能に支持するキャリア15Cとを有する。複数の遊星ギヤ15Pは、サンギヤ15S及びリングギヤ18のそれぞれと噛み合う。遊星ギヤ15Pは、サンギヤ15Sの周囲を公転することができる。複数の遊星ギヤ15Pの周囲にリングギヤ18が配置される。サンギヤ15Sは、伝達軸19を介して第1油圧ポンプモータP1に連結される。キャリア15Cの外周にキャリアギヤ20が設けられる。入力ギヤ14は、キャリアギヤ20と噛み合う。
【0048】
遊星歯車機構16は、サンギヤ16Sと、サンギヤ16Sの周囲に配置される複数の遊星ギヤ16Pと、複数の遊星ギヤ16Pを回転可能に支持するキャリア16Cとを有する。複数の遊星ギヤ16Pは、サンギヤ16S及びリングギヤ18のそれぞれと噛み合う。遊星ギヤ16Pは、サンギヤ16Sの周囲を公転することができる。複数の遊星ギヤ16Pの周囲にリングギヤ18が配置される。サンギヤ16Sは、スリーブ15Rを介して遊星ギヤ15Pに連結される。スリーブ15Rは、伝達軸19の周囲に配置される。
【0049】
遊星歯車機構17は、サンギヤ17Sと、サンギヤ17Sの周囲に配置される複数の遊星ギヤ17Pと、遊星ギヤ17Pの周囲に配置されるリングギヤ17Rとを有する。複数の遊星ギヤ17Pは、サンギヤ17S及びリングギヤ17Rのそれぞれと噛み合う。遊星ギヤ17Pと遊星ギヤ16Pとは、キャリア16Cを介して連結される。遊星ギヤ16Pが公転することにより、遊星ギヤ17Pが公転する。
【0050】
本実施形態において、遊星歯車機構15のサンギヤ15Sの回転軸と、遊星歯車機構16のサンギヤ16Sの回転軸と、遊星歯車機構17のサンギヤ17Sの回転軸と、伝達軸19の回転軸とは、一致する。
【0051】
油圧伝達機構10Bは、第2油圧ポンプモータP2に連結される伝達軸22を有する。伝達軸22にギヤ23が固定される。ギヤ23は、リングギヤ18の外周に設けられた外周ギヤ24と噛み合う。
【0052】
[クラッチ機構]
クラッチ機構30は、低速ギヤ31と、中速ギヤ32と、高速ギヤ33と、前進低速クラッチFLと、前進中速クラッチFMと、前進高速クラッチFHとを含む。低速ギヤ31の回転軸と、中速ギヤ32の回転軸と、高速ギヤ33の回転軸と、伝達軸19の回転軸とは、一致する。
【0053】
低速ギヤ31は、伝達軸19に連結される。低速ギヤ31は、伝達軸19と一緒に回転可能である。低速ギヤ31は、前進低速クラッチFLを介して、出力軸12に接続される。
【0054】
中速ギヤ32は、サンギヤ17Sに連結される。中速ギヤ32は、サンギヤ17Sと一体的に形成されている。なお、中速ギヤ32は、サンギヤ17Sと別体でもよい。中速ギヤ32は、サンギヤ17Sと一緒に回転可能である。中速ギヤ32は、前進中速クラッチFMを介して出力軸12に接続される。
【0055】
高速ギヤ33は、前進高速クラッチFHを介して、伝達軸19に接続される。前進高速クラッチFHが係合状態で、高速ギヤ33は、伝達軸19と一緒に回転可能である。高速ギヤ33は、出力軸12に接続される。
【0056】
前進低速クラッチFL、前進中速クラッチFM、及び前進高速クラッチFLは、例えば油圧式のクラッチである。前進低速クラッチFL、前進中速クラッチFM、及び前進高速クラッチFLは、制御装置100により制御される。
【0057】
前進低速クラッチFLは、出力軸12と伝達軸19との連結と開放とを切り換える。前進低速クラッチFLが係合状態で、伝達軸19の回転が、低速ギヤ31を介して、出力軸12に伝達される。
【0058】
前進中速クラッチFMは、出力軸12とサンギヤ17Sとの連結と開放とを切り換える。前進中速クラッチFMが係合状態で、サンギヤ17Sの回転が、中速ギヤ32を介して、出力軸12に伝達される。
【0059】
前進高速クラッチFHは、出力軸12と伝達軸19との連結と開放とを切り換える。前進高速クラッチFHが係合状態で、伝達軸19の回転が、出力軸12に伝達される。
【0060】
なお、図3では、前進低速クラッチFL、前進中速クラッチFM、及び前進高速クラッチFHと出力軸12との間の構成の一部が省略されている。前進低速クラッチFL、前進中速クラッチFM、及び前進高速クラッチFHの少なくとも一つと出力軸12との間に、別のクラッチ又はギヤが配置されてもよい。例えば、前進低速クラッチFL、前進中速クラッチFM、及び前進高速クラッチFHの少なくとも一つと出力軸12との間に、前進ギヤと後進ギヤとが配置されてもよい。本実施形態においては、後進低速クラッチRL及び後進中速クラッチRMが設けられる。
【0061】
以下の説明において、前進低速クラッチFL、前進中速クラッチFM、前進高速クラッチFH、後進低速クラッチRL、及び後進中速クラッチRMを適宜、クラッチ、と総称する。クラッチは、入力側要素と出力側要素とを有する。入力側要素と出力側要素とは、接続可能及び分離可能である。入力側要素とは、入力側要素と出力側要素とが分離されても、入力軸11の回転により、入力軸11に同期して回転する要素をいう。出力側要素とは、出力側要素と入力側要素とが分離されても、出力軸12の回転により、出力軸12に同期して回転する要素をいう。入力側要素と出力側要素とが分離している状態において、出力軸12が回転しても、入力側要素は、出力軸12の回転の影響を受けない。出力側要素と入力側要素とが分離している状態において、入力軸11が回転しても、出力側要素は、入力軸11の回転の影響を受けない。一般に、クラッチは、ディスクとプレートとを有する。ディスク及びプレートの一方が入力側要素として機能し、ディスク及びプレートの他方が出力側要素として機能する。
【0062】
クラッチが係合されることにより、クラッチの入力側要素と出力側要素とが接続される。クラッチが開放されることにより、クラッチの入力側要素と出力側要素とが分離される。
【0063】
クラッチ機構30は、動力の伝達経路を複数のモードに切り換える。本実施形態において、モードは、前進低速モード、前進中速モード、前進高速モード、後進低速モード、及び後進中速モードを含む。前進低速モードは、前進するホイールローダ1の速度比が低速度であるモードである。前進中速モードは、前進するホイールローダ1の速度比が中速度であるモードである。前進高速モードは、前進するホイールローダ1の速度比が高速度であるモードである。後進低速モードは、後進するホイールローダ1の速度比が低速度であるモードである。後進中速モードは、後進するホイールローダ1の速度比が中速度であるモードである。
【0064】
[モードの切換]
図4は、本実施形態に係るモードとクラッチ機構30の状態と第1油圧ポンプモータP1及び第2油圧ポンプモータP2のそれぞれの状態との関係を模式的に示す図である。
【0065】
前進低速クラッチFLは、前進低速モードにおいて係合される。前進低速クラッチFLの入力側要素は、低速ギヤ31に連結される。前進低速クラッチFLの出力側要素は、不図示のギヤ又は他のクラッチを介して出力軸12に連結される。前進低速クラッチFLは、低速ギヤ31と出力軸12との接続と分離とを切り換える。
【0066】
前進中速クラッチFMは、前進中速モードにおいて係合される。前進中速クラッチFMの入力側要素は、中速ギヤ32に連結される。前進中速クラッチFMの出力側要素は、不図示のギヤ又は他のクラッチを介して出力軸12に連結される。前進中速クラッチFMは、中速ギヤ32と出力軸12との接続と分離とを切り換える。
【0067】
前進高速クラッチFHは、前進高速モードにおいて係合される。前進高速クラッチFHの入力側要素は、高速ギヤ33に連結される。前進高速クラッチFHの出力側要素は、不図示のギヤ又は他のクラッチを介して出力軸12に連結される。前進高速クラッチFHは、高速ギヤ33と出力軸12との接続と分離とを切り換える。
【0068】
また、不図示の後進低速クラッチRLが、後進低速モードにおいて係合され、不図示の後進中速クラッチRMが、後進中速モードにおいて係合される。
【0069】
図4に示すように、第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1及び第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2のそれぞれが、速度比に基づいて調整される。速度比とは、入力軸11の回転数と出力軸12の回転数との比をいう。すなわち、[速度比]=[出力軸12の回転数]/[入力軸11の回転数]の関係が成立する。入力軸11の回転数が一定である場合、速度比は、ホイールローダ1の走行速度に相当する。
【0070】
前進低速モードにおける動力の伝達経路について説明する。前進低速モードにおいては、前進低速クラッチFLが係合され、他のクラッチが開放される。
【0071】
エンジン6から入力軸11に動力が入力されると、入力ギヤ14が回転し、キャリア15Cが回転する。キャリア15Cの回転により、遊星ギヤ15Pが公転し、サンギヤ15Sが回転する。サンギヤ15Sの回転により、伝達軸19が回転する。伝達軸19の回転により、低速ギヤ31が回転する。前進低速クラッチFLが係合しているため、低速ギヤ31の回転により、出力軸12が回転する。
【0072】
次に、前進中速モードにおける動力の伝達経路について説明する。前進中速モードにおいては、前進中速クラッチFMが係合され、他のクラッチが開放される。
【0073】
エンジン6から入力軸11に動力が入力されると、入力ギヤ14が回転し、キャリア15Cが回転する。キャリア15Cの回転により、遊星ギヤ15Pが公転し、キャリア16Cを介して遊星ギヤ15Pに接続されている遊星ギヤ16Pが公転する。遊星ギヤ16Pの公転により、中速ギヤ32が回転する。前進中速クラッチFMが係合しているため、中速ギヤ32の回転により、出力軸12が回転する。
【0074】
次に、前進高速モードにおける動力の伝達経路について説明する。前進高速モードにおいては、前進高速クラッチFHが係合され、他のクラッチが開放される。
【0075】
エンジン6から入力軸11に動力が入力されると、入力ギヤ14が回転し、キャリア15Cが回転する。キャリア15Cの回転により、遊星ギヤ15Pが公転し、サンギヤ15Sが回転する。サンギヤ15Sの回転により、伝達軸19が回転する。伝達軸19の回転により、高速ギヤ33が回転する。高速クラッチFMが係合しているため、高速ギヤ33の回転により、出力軸12が係合する。
【0076】
以上、前進低速モード、前進中速モード、及び前進高速モードにおける動力の伝達経路について説明した。後進低速モード及び後進中速モードにおける動力の伝達経路についての説明は省略する。
【0077】
係合させるクラッチの切り換えは、予め定められている切換速度比Cvにおいて実施される。図4に示すように、切換速度比Cvは、基準切換速度比Cv0と、第1切換速度比Cv1と、第2切換速度比Cv2と、第3切換速度比Cv3とを含む。基準切換速度比Cv0の値は、ゼロである。なお、基準切換速度比Cv0は、ゼロに近似する値でもよい。第1切換速度比Cv1は、ホイールローダ1が前進時の速度比であり、基準切換速度比Cv0よりも高い値である。第2切換速度比Cv2は、ホイールローダ1が前進時の速度比であり、第1切換速度比Cv1よりも高い値である。第3切換速度比Cv3は、ホイールローダ1が後進時の速度比であり、基準切換速度比Cv0よりも低い値である。
【0078】
基準切換速度比Cv0と第1切換速度比Cv1との間の速度比において係合されるクラッチは、前進低速クラッチFLである。第1切換速度比Cv1と第2切換速度比Cv2との間の速度比において係合されるクラッチは、前進中速クラッチFMである。第2切換速度比Cv2よりも高い速度比において係合されるクラッチは、前進高速クラッチFHである。基準切換速度比Cv0と第3切換速度比Cv3との間の速度比において係合されるクラッチは、後進低速クラッチRLである。第3切換速度比Cv3よりも低い速度比において係合されるクラッチは、後進中速クラッチRMである。
【0079】
第1切換速度比Cv1において、係合されるクラッチは、前進低速クラッチFLと前進中速クラッチFMとの一方から他方に切り換えられる。第2切換速度比Cv2において、係合されるクラッチは、前進中速クラッチFMと前進高速クラッチFHとの一方から他方に切り換えられる。第3切換速度比Cv3において、係合されるクラッチは、後進低速クラッチRLと後進中速クラッチRMとの一方から他方に切り換えられる。基準切換速度比Cv0において、係合されるクラッチは、前進低速クラッチFLと後進低速クラッチRLとの一方から他方に切り換えられる。
【0080】
[制御装置]
図5は、本実施形態に係る制御装置100の一例を示す機能ブロック図である。図5に示すように、制御装置100は、アクセル・ブレーキ操作装置51及び前後進操作装置52を含む操作装置50に接続される。制御装置100は、入力軸回転数センサ41及び出力軸回転数センサ42のそれぞれに接続される。制御装置100は、第1容量調整装置Q1を含む第1油圧ポンプモータP1及び第2容量調整装置Q2を含む第2油圧ポンプモータP2のそれぞれに接続される。制御装置100は、前進低速クラッチFL、前進中速クラッチFM、前進高速クラッチFH、後進低速クラッチRL、及び後進中速クラッチRMを含むクラッチ機構30に接続される。
【0081】
制御装置100は、コンピュータシステムを含む。制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)のようなプロセッサを含む演算処理装置と、ROM(Read Only Memory)又はRAM(Random Access Memory)のようなメモリを含む記憶装置と、入出力インターフェースとを有する。
【0082】
制御装置100は、操作信号取得部101と、検出信号取得部102と、目標出力軸トルク決定部103と、エンジン加減速トルク決定部104と、出力軸回転数予測部105と、入力軸回転数予測部106と、速度比算出部107と、動力制御部108と、クラッチ制御部109と、記憶部110と、タイマー部111と、トルク低減指令部112とを有する。
【0083】
操作信号取得部101は、操作装置50の操作により生成された操作信号を取得する。
【0084】
運転者によりアクセル・ブレーキ操作装置51が操作された場合、アクセル・ブレーキ操作装置51は、走行装置4を駆動させるための操作信号及び走行装置4を制動させるための操作信号の少なくとも一方を生成する。操作信号取得部101は、運転者によりアクセル・ブレーキ操作装置51が操作された場合、走行装置4を駆動させるための操作信号及び走行装置4を制動させるための操作信号の少なくとも一方を取得する。
【0085】
運転者により前後進操作装置52が操作された場合、前後進操作装置52は、走行装置4を前進状態に変更するための操作信号、走行装置4を中立状態に変更するための操作信号、及び走行装置4を後進状態に変更するための操作信号の少なくとも一つを出力する。運転者により前後進操作装置52が操作された場合、前後進操作装置52は、走行装置4を前進状態に変更するための操作信号、走行装置4を中立状態に変更するための操作信号、及び走行装置4を後進状態に変更するための操作信号の少なくとも一つを取得する。
【0086】
上述のように、前後進操作装置52は、前後進操作部材を含む。走行装置4の前進状態と後進状態とを変更する場合、前後進操作部材は、N位置を経由して、F位置及びR位置の一方から他方に移動される。前後進操作部材がN位置からF位置に移動した場合、前後進操作装置52は、走行装置4を前進状態に変更するための操作信号を出力する。前後進操作部材がN位置からR位置に移動した場合、前後進操作装置52は、走行装置4を後進状態に変更するための操作信号を出力する。前後進操作部材がF位置及びR位置の一方からN位置に移動した場合、前後進操作装置52は、走行装置4を中立状態に変更するための操作信号を出力する。
【0087】
検出信号取得部102は、入力軸回転数センサ41の検出信号及び出力軸回転数センサ42の検出信号を取得する。入力軸回転数センサ41の検出信号は、入力軸11の回転数を示す。出力軸回転数センサ42の検出信号は、出力軸12の回転数を示す。
【0088】
目標出力軸トルク決定部103は、ホイールローダ1の走行速度とアクセル・ブレーキ操作装置51の操作信号とに基づいて、出力軸12の目標トルクを示す目標出力軸トルクを算出する。目標出力軸トルク決定部103は、検出信号取得部102により取得された出力軸回転数センサ42の検出信号に基づいて、ホイールローダ1の走行速度を算出する。目標出力軸トルク決定部103は、操作信号取得部101からアクセル・ブレーキ操作装置51の操作信号を取得する。目標出力軸トルク決定部103は、検出信号取得部102により取得された出力軸回転数センサ42の検出信号から算出されたホイールローダ1の走行速度と、操作信号取得部101により取得されたアクセル・ブレーキ操作装置51の操作信号とに基づいて、目標出力軸トルクを決定する。例えば、ホイールローダ1が前進している場合において、走行装置4を駆動させるための操作信号が取得された場合、目標出力軸トルクは大きくなる。走行装置4を制動させるための操作信号が取得された場合、目標出力軸トルクは小さくなる。ホイールローダ1の走行速度が低い場合、目標出力軸トルクは大きくなる。ホイールローダ1の走行速度が高い場合、目標出力軸トルクは小さくなる。
【0089】
エンジン加減速トルク決定部104は、ホイールローダ1の走行速度とアクセル・ブレーキ操作装置51の操作信号とに基づいて、エンジン6の目標トルクを示すエンジン加減速トルクを算出する。エンジン加減速トルクは、入力軸11の目標トルクを示す目標入力軸トルクに相当する。エンジン加減速トルク決定部104は、検出信号取得部102により取得された出力軸回転数センサ42の検出信号に基づいて、ホイールローダ1の走行速度を算出する。エンジン加減速トルク決定部104は、操作信号取得部101からアクセル・ブレーキ操作装置51の操作信号を取得する。エンジン加減速トルク決定部104は、検出信号取得部102により取得された出力軸回転数センサ42の検出信号から算出されたホイールローダ1の走行速度と、操作信号取得部101により取得されたアクセル・ブレーキ操作装置51の操作信号とに基づいて、エンジン加減速トルクを決定する。例えば、走行装置4を駆動させるための操作信号が取得された場合、エンジン加減速トルクは大きくなる。走行装置4を制動させるための操作信号が取得された場合、エンジン加減速トルクは小さくなる。
【0090】
出力軸回転数予測部105は、目標出力軸トルクと出力軸回転数センサ42の検出信号とに基づいて、現時点から所定時間後の予測時点における出力軸12の回転数の予測値を示す推定出力軸回転数を算出する。なお、出力軸回転数予測部105は、何らかの方法により推定した出力軸負荷トルクを用いて出力軸の回転数の予測値を推定してもよい。現時点は、目標出力軸トルクが算出された時点及び検出信号取得部102により出力軸回転数センサ42の検出信号が取得された時点を含む。
【0091】
入力軸回転数予測部106は、エンジン加減速トルクと入力軸回転数センサ41の検出信号とに基づいて、現時点から所定時間後の予測時点における入力軸11の回転数の予測値を示す推定入力軸回転数を算出する。現時点は、エンジン加減速トルクが算出された時点及び検出信号取得部102により入力軸回転数センサ41の検出信号が取得された時点を含む。
【0092】
速度比算出部107は、推定出力軸回転数と推定入力軸回転数とに基づいて、現時点から所定時間後の予測時点における速度比の目標値を示す目標速度比を算出する。
【0093】
動力制御部108は、動力伝達装置10を制御する制御指令を出力する。本実施形態において、動力制御部108は、第1油圧ポンプモータP1及び第2油圧ポンプモータP2の少なくとも一方を制御する制御指令を出力する。動力制御部108から出力される制御指令は、第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1及び第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2の少なくとも一方を変更する容量指令を含む。動力制御部108は、第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1を変更するための容量指令を第1容量調整装置Q1に出力することができる。動力制御部108は、第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2を変更するための容量指令を第2容量調整装置Q2に出力することができる。
【0094】
クラッチ制御部109は、クラッチ機構30を制御する制御指令を出力する。クラッチ制御部109から出力される制御指令は、クラッチ機構30の複数のクラッチのうち規定のクラッチを係合させるクラッチ指令と、係合しているクラッチを開放させる開放指令とを含む。
【0095】
記憶部110は、第1油圧ポンプモータP1、第2油圧ポンプモータP2、及びクラッチ機構30の少なくとも一つの制御に使用されるデータを記憶する。本実施形態において、記憶部110は、第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1及び第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2と速度比との関係を示す相関データを記憶する。
【0096】
動力制御部108は、速度比算出部107により算出された目標速度比と、記憶部110に記憶されている相関データとに基づいて、第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1及び第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2の少なくとも一方を変更する容量指令を出力する。
【0097】
クラッチ制御部109は、速度比算出部107により算出された目標速度比に基づいて、クラッチ機構30の複数のクラッチのうち規定のクラッチを係合させるクラッチ指令を出力する。また、クラッチ制御部109は、入力軸回転数センサ41の検出信号と出力軸回転数センサ42の検出信号とに基づいて、実際の速度比を示す実速度比を算出し、実速度比に基づいて、クラッチ機構30の複数のクラッチのうち規定のクラッチを係合させるクラッチ指令を出力する。
【0098】
タイマー部111は、クラッチ機構30の複数のクラッチのうち第1クラッチが係合している状態で、前後進操作装置52の操作により生成され、前後進操作装置52を前進状態又は後進状態から中立状態に変更するための操作信号が操作信号取得部101により取得された時点t0からの経過時間を計測する。すなわち、タイマー部111は、前後進操作部材がF位置及びR位置の一方からN位置に移動した時点t0からの経過時間を計測する。
【0099】
トルク低減指令部112は、時点t0から規定時間の経過前において、第1クラッチが係合している状態で、出力軸12のトルクを低減させるトルク低減指令を出力する。本実施形態において、トルク低減指令部112は、トルク低減指令を目標出力軸トルク決定部103に出力する。目標出力軸トルク決定部103は、トルク低減指令が出力された場合、目標出力軸トルクをゼロに決定する。
【0100】
クラッチ制御部109は、時点t0から規定時間の経過後において、第1クラッチを開放させる開放指令を出力する。
【0101】
動力制御部108は、第1クラッチが開放された状態で、次に係合させる第2クラッチの入力側要素の回転数が第2クラッチの出力側要素の回転数に一致するように、第1油圧ポンプモータP1及び第2油圧ポンプモータP2の少なくとも一方を制御する制御指令を出力する。
【0102】
次に係合させる第2のクラッチは、速度比に基づいて決定される。クラッチ制御部109は、入力軸11の回転数と出力軸12の回転数との比を示す速度比に基づいて、次に係合させる第2クラッチを決定する。
【0103】
クラッチ制御部109は、入力軸回転数センサ41の検出信号と出力軸回転数センサ42の検出信号とから算出される実速度比に基づいて、次に係合させる第2クラッチを決定する。
【0104】
第2クラッチが決定された後、動力制御部108は、実速度比と記憶部110に記憶されている相関データとに基づいて、次に係合させる第2クラッチの入力側要素の回転数が出力側要素の回転数に一致するように、制御指令を出力する。本実施形態において、動力制御部108は、実速度比と記憶部110に記憶されている相関データとに基づいて、次に係合させる第2クラッチの入力側要素の回転数が出力側要素の回転数に一致するように、第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1及び第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2の少なくとも一方を変更する容量指令を出力する。
【0105】
速度比に基づいて、第1油圧ポンプモータP1と第2油圧ポンプモータP2との油圧ポンプとしての機能と油圧モータとしての機能とが切り換えられる。動力制御部108は、第2クラッチが係合される速度比において油圧モータとして機能する第1油圧ポンプモータP1及び第2油圧ポンプモータP2の少なくとも一方の容量(Pc1、Pc2)が変更されるように、容量指令を出力する。
【0106】
クラッチ制御部109は、次に係合させる第2クラッチが決定され、前後進操作装置52の中立状態が解除され、第2クラッチの入力側要素の回転数が出力側要素の回転数に一致したときに、第2クラッチを係合させるクラッチ指令を出力する。なお、クラッチ制御部109は、第2クラッチの入力側要素の回転数と出力側要素の回転数との差が予め定められている許容値以下になった後に、第2クラッチを係合させるクラッチ指令を出力してもよい。
【0107】
[相関データ]
図6は、本実施形態に係る相関データの一例を模式的に示す図である。図6に示すように、相関データは、第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1及び第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2と速度比との関係を示す。図6において、横軸は速度比を示し、縦軸は容量[cc/rev]を示す。なお、図6は、ホイールローダ1が前進時における相関データを示す。
【0108】
図6に示すように、本実施形態において、相関データは、第1速度比Caと第1速度比Caよりも高い第2速度比Cbとの間の所定速度比範囲CMにおいて、速度比の変化に伴って第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1及び第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2の両方が変化するように設定される。第1速度比Caは、基準切換速度比Cv0よりも高い値である。第2速度比Cbは、第1速度比Caよりも高い値である。
【0109】
相関データは、所定速度比範囲CMにおいて、速度比の変化に伴って、第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1及び第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2の一方が増加するときに、第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1及び第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2の他方が減少するように設定される。
【0110】
所定速度比範囲CMは、係合するクラッチが切り換えられる切換速度比Cvを含む。上述のように、切換速度比Cvは、第1切換速度比Cv1と、第1切換速度比Cv1よりも高い第2切換速度比Cv2と、第1切換速度比Cv1よりも低い基準切換速度比Cv0とを含む。また、図4を参照して説明したように、切換速度比Cvは、基準切換速度比Cv0よりも低い第3切換速度比Cv3を含む。
【0111】
本実施形態において、所定速度比範囲CMは、第1切換速度比Cv1及び第2切換速度比Cv2を含む。
【0112】
相関データは、切換速度比Cvから速度比が高くなるほど容量が増加又は減少し、切換速度比Cvから速度比が低くなるほど容量が増加又は減少するように設定される。すなわち、相関データにおいて、容量の変曲点が切換速度比Cvに設定される。
【0113】
例えば、第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1は、第1切換速度比Cv1から速度比が高くなるほど増加し、第1切換速度比Cv1から速度比が低くなるほど増加し、第2切換速度比Cv2から速度比が高くなるほど減少し、第2切換速度比Cv2から速度比が低くなるほど減少する。第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2は、第1切換速度比Cv1から速度比が高くなるほど減少し、第1切換速度比Cv1から速度比が低くなるほど減少し、第2切換速度比Cv2から速度比が高くなるほど増加し、第2切換速度比Cv2から速度比が低くなるほど増加する。
【0114】
相関データは、第1切換速度比Cv1と第2切換速度比Cv2との間の速度比において第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1及び第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2の一方が増加するときに、第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1及び第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2の他方が減少するように設定される。
【0115】
上述のように、切換速度比Cvにおいて、第1油圧ポンプモータP1と第2油圧ポンプモータP2との油圧ポンプとしての機能と油圧モータとしての機能とが切り換えられる。本実施形態において、例えばエンジン6からの動力によりホイールローダ1が加速する場合、第1切換速度比Cv1と第2切換速度比Cv2との間の速度比において、第1油圧ポンプモータP1は油圧ポンプとして機能し、第2油圧ポンプモータP2は油圧モータとして機能する。なお、油圧ポンプとしての機能及び油圧モータとしての機能は、速度比だけでなく、出力軸12に伝達するトルクが加速側か減速側かによっても切り換えられる。相関データは、第1切換速度比Cv1と第2切換速度比Cv2との間の速度比において第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1が増加するときに、第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2が減少するように設定される。
【0116】
所定速度比範囲CMにおいて、第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1は、第1油圧ポンプモータP1の最大容量Pc1m以下である。第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2は、第2油圧ポンプモータP2の最大容量Pc2m以下である。
【0117】
相関データにおいて、切換速度比Cvにおける第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1は、第1油圧ポンプモータP1の最大容量Pc1m以下であり、切換速度比Cvにおける第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2は、第2油圧ポンプモータP2の最大容量Pc2m以下である。
【0118】
最大容量Pc1mは、第1油圧ポンプモータP1の斜軸を最大角度まで駆動したときの第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1であり、第1油圧ポンプモータP1の諸元に基づいて一義的に決定される値である。最大容量Pc2mは、第2油圧ポンプモータP2の斜軸を最大角度まで駆動したときの第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2であり、第2油圧ポンプモータP2の諸元に基づいて一義的に決定される値である。
【0119】
[制御方法]
次に、本実施形態に係る作業車両1の制御方法について説明する。図7は、本実施形態に係るホイールローダ1の制御方法の一例を示すフローチャートである。
【0120】
操作信号取得部101は、走行装置4を中立状態に変更するための操作信号を取得したか否かを判定する(ステップS1)。
【0121】
例えば、ホイールローダ1を後進状態から前進状態に変更する場合、又はホイールローダ1を前進状態から後進状態に変更する場合、運転者は前後進操作装置52の前後進操作部材を操作する。前後進操作部材がR位置からN位置を経由してF位置に移動した場合、又は前後進操作部材がF位置からN位置を経由してR位置に移動した場合、前後進操作部材がN位置にある間、走行装置4を中立状態に変更するための操作信号が前後進操作装置52から出力される。
【0122】
ステップS1において、走行装置4を中立状態に変更するための操作信号を取得していないと判定された場合(ステップS1:No)、目標出力軸トルク決定部103は、ホイールローダ1の走行速度とアクセル・ブレーキ操作装置51の操作信号とに基づいて、出力軸12の目標トルクを算出し、算出した目標トルクを目標出力軸トルクとして決定する(ステップS2)。
【0123】
エンジン加減速トルク決定部104は、ホイールローダ1の走行速度とアクセル・ブレーキ操作装置51の操作信号とに基づいて、エンジン6の目標トルクを算出し、算出した目標トルクをエンジン加減速トルクとして決定する(ステップS3)。
【0124】
出力軸回転数予測部105は、ステップS2において決定された目標出力軸トルクと出力軸回転数センサ42の検出信号に基づいて、現時点から所定時間後の予測時点における出力軸12の回転数の予測値を算出し、算出された予測値を推定出力軸回転数として決定する(ステップS4)。
【0125】
入力軸回転数予測部106は、ステップS3において決定されたエンジン加減速トルクと入力軸回転数センサ41の検出信号とに基づいて、現時点から所定時間後の予測時点における入力軸11の回転数の予測値を算出し、算出された予測値を推定入力軸回転数として決定する(ステップS5)。
【0126】
速度比算出部107は、ステップS4において決定された推定出力軸回転数とステップS5において決定された推定入力軸回転数とに基づいて、現時点から所定時間後の予測時点における速度比の目標値を算出し、算出された目標値を目標速度比として決定する(ステップS6)。
【0127】
クラッチ制御部109は、ステップS6において決定された目標速度比に基づいて、係合させるクラッチを決定する(ステップS7)。
【0128】
図4を参照して説明したように、係合させるクラッチは、速度比に基づいて予め定められている。クラッチ制御部109は、目標速度比に基づいて、係合させるクラッチを決定する。
【0129】
動力制御部108は、ステップS6において決定された目標速度比と記憶部110に記憶されている相関データとに基づいて、第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1及び第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2を決定する(ステップS8)。
【0130】
クラッチ制御部109は、ステップS7において決定したクラッチを係合させるクラッチ指令をクラッチ機構30に出力する(ステップS9)。
【0131】
動力制御部108は、ステップS8において決定した容量Pc1又は容量Pc2になるように、容量Pc1及び容量Pc2の少なくとも一方を変更する容量指令を出力する(ステップS10)。
【0132】
ステップS1において、走行装置4を中立状態に変更するための操作信号を取得したと判定された場合(ステップS1:Yes)、クラッチ制御部109は、係合していた第1クラッチを含む、クラッチ機構30の全てのクラッチに開放指令を出力する(ステップS11)。
【0133】
クラッチ制御部109は、検出信号取得部102により取得された入力軸回転数センサ41の検出信号と出力軸回転数センサ42の検出信号とに基づいて、実速度比を算出する(ステップS12)。
【0134】
動力制御部108は、ステップS12において算出された実速度比と記憶部110に記憶されている相関データとに基づいて、次に係合させるクラッチの入力側要素の回転数が出力側要素の回転数に一致するように、第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1及び第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2の少なくとも一方を決定する(ステップS13)。
【0135】
動力制御部108は、ステップS16において決定した容量Pc1又は容量Pc2になるように、容量Pc1及び容量Pc2の少なくとも一方を変更する容量指令を出力する(ステップS10)。
【0136】
[コンピュータシステム]
図8は、本実施形態に係るコンピュータシステム1000の一例を示すブロック図である。上述の制御装置100は、コンピュータシステム1000を含む。コンピュータシステム1000は、CPU(Central Processing Unit)のようなプロセッサ1001と、ROM(Read Only Memory)のような不揮発性メモリ及びRAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリを含むメインメモリ1002と、ストレージ1003と、入出力回路を含むインターフェース1004とを有する。上述の制御装置100の機能は、コンピュータプログラムとしてストレージ1003に記憶されている。プロセッサ1001は、コンピュータプログラムをストレージ1003から読み出してメインメモリ1002に展開し、コンピュータプログラムに従って上述の処理を実行する。なお、コンピュータプログラムは、ネットワークを介してコンピュータシステム1000に配信されてもよい。
【0137】
コンピュータプログラムは、上述の実施形態に従って、コンピュータシステム1000に、油圧ポンプ及び油圧モータの一方として機能する第1油圧ポンプモータP1及び油圧ポンプ及び油圧モータの他方として機能する第2油圧ポンプモータP2を含む油圧伝達機構10Bを有する動力伝達装置10及びクラッチ機構30を介して、エンジン6に連結される入力軸11に入力された動力を、走行装置4に連結される出力軸12に伝達することと、入力軸11の回転数と出力軸12の回転数との比を示す速度比に基づいて、クラッチ機構30の複数のクラッチのうち規定のクラッチを係合させるクラッチ指令を出力することと、第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1及び第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2と速度比との関係を示す相関データを記憶することと、速度比と相関データとに基づいて、第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1及び第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2の少なくとも一方を変更する容量指令を出力することと、を実行させることができる。相関データは、第1速度比Caと第1速度比Caよりも高い第2速度比Cbとの間の所定速度比範囲CMにおいて、速度比の変化に伴って第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1及び第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2の両方が変化するように設定される。
【0138】
[効果]
以上説明したように、本実施形態によれば、速度比と相関データとに基づいて、第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1及び第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2の少なくとも一方が変更される。相関データは、第1速度比Caと第1速度比Caよりも高い第2速度比Cbとの間の所定速度比範囲CMにおいて、速度比の変化に伴って第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1及び第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2の両方が変化するように設定される。所定速度比範囲CMにおいては、速度比の変化に伴って、容量Pc1及び容量Pc2の両方が常に変化するように設定されるので、斜板又は斜軸の動き出しのタイムラグ発生頻度を低減することができ、上記タイムラグに起因した官能悪化を抑制することができる。
【0139】
また、所定速度比範囲CMにおいて、速度比の変化に伴って第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1及び第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2の両方が常に変化するように設定されることで、片側の油圧ポンプモータがある容量のまま変化せず、他方の油圧ポンプモータ容量の変化のみでモータ容量比を変化させようとする場合と比較すると、同じモータ容量比を変化させるために必要となる個々のポンプモータ容量の変化は両方が常に変化するように設定された場合の方が小さくなり、斜板又は斜軸の応答性不足が抑制される。そのため、速度比が適正に制御される。
【0140】
また、所定速度比範囲CMにおいて、容量Pc1が最大容量Pc1mよりも小さくなり、容量Pc2が最大容量Pc2mよりも小さくなるように設定されることにより、第1油圧ポンプモータPc1の応答性の不足及び第2油圧ポンプモータPc2の応答性の不足が効果的に抑制される。
【0141】
低速度比範囲CLにおいて、エンジン6からの動力により車体が加速する場合には、油圧モータとして機能する第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1が最大容量Pc1mになるように設定される。低速度比範囲CLは、ホイールローダ1が最大牽引力を必要とする範囲である。ホイールローダ1が最大牽引力を必要とする低速度比範囲CLにおいて、油圧モータとして機能する第1油圧ポンプモータP1の容量Pc1が最大容量Pc1mになるように設定されるので、ホイールローダ1は、低速度比範囲CLにおいて、最大牽引力を発生することができる。
【0142】
高速度比範囲CHにおいて、エンジンからの動力により車体が加速する場合には、油圧ポンプとして機能する第2油圧ポンプモータP2の容量Pc2が最大容量Pc2mになるように設定される。高速度比範囲CHにおいては、車速やエンジン回転数の変動が小さく、油圧ポンプモータに高い応答性が要求される局面が少ない。容量Pc2が最大容量Pc2mに設定されることにより、動力伝達装置10はより高い速度比を達成することができ、エンジン回転数を急上昇させなくてもより高い車速まで到達することができる。
【0143】
[その他の実施形態]
なお、上述の実施形態においては、動力伝達装置10が機械伝達機構10A及び油圧伝達機構10Bの両方を含むHMTであることとした。動力伝達装置10は油圧伝達機構10Bを含み機械伝達機構10Aを含まないHSTでもよい。
【0144】
なお、上述の実施形態においては、作業車両1がホイールローダであることとした。上述の実施形態で説明した構成要素が適用される作業車両1は、ホイールローダに限定されず、クラッチ機構を有する作業車両1に広く適用可能である。例えば、作業車両1はブルドーザでもよい。
【符号の説明】
【0145】
1…ホイールローダ(作業車両)、2…車体フレーム、2F…前フレーム、2R…後フレーム、3…作業機、3A…ブーム、3B…バケット、3C…リフトシリンダ、3D…バケットシリンダ、3E…ベルクランク、4…走行装置、4A…アクスル、4F…走行輪、4R…走行輪、4S…ステアリングシリンダ、5…運転室、6…エンジン、6A…燃料噴射装置、7…パワーテイクオフ、8…作業機ポンプ、9…ステアリングポンプ、10…動力伝達装置、10A…機械伝達機構、10B…油圧伝達機構、11…入力軸、12…出力軸、13…作動油管、14…入力ギヤ、15…遊星歯車機構、15C…キャリア、15P…遊星ギヤ、15R…スリーブ、15S…サンギヤ、16…遊星歯車機構、16C…キャリア、16P…遊星ギヤ、16S…サンギヤ、17…歯車機構、17P…リングギヤ、17R…スリーブ、17S…サンギヤ、18…リングギヤ、19…伝達軸、20…キャリアギヤ、22…伝達軸、23…ギヤ、24…外周ギヤ、30…クラッチ機構、31…低速ギヤ、32…中速ギヤ、33…高速ギヤ、41…入力軸回転数センサ、42…出力軸回転数センサ、50…操作装置、51…アクセル・ブレーキ操作装置、52…前後進操作装置、100…制御装置、101…操作信号取得部、102…検出信号取得部、103…目標出力軸トルク決定部、104…エンジン加減速トルク決定部、105…出力軸回転数予測部、106…入力軸回転数予測部、107…速度比算出部、108…動力制御部、109…クラッチ制御部、110…記憶部、111…タイマー部、112…トルク低減指令部、Ca…第1速度比、Cb…第2速度比、CH…高速度比範囲、CL…低速度比範囲、CM…所定速度比範囲、Cv…切換速度比、Cv0…基準切換速度比、Cv1…第1切換速度比、Cv2…第2切換速度比、Cv3…第3切換速度比、FH…前進高速クラッチ、FL…前進低速クラッチ、FM…前進中速クラッチ、P1…第1油圧ポンプモータ、P2…第2油圧ポンプモータ、Pc1…容量、Pc1m…最大容量、Pc2…容量、Pc2m…最大容量、Q1…第1容量調整装置、Q2…第2容量調整装置、RL…後進低速クラッチ、RM…後進中速クラッチ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8