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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】クラッチユニット
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/10 20060101AFI20230825BHJP
   B60N 2/16 20060101ALI20230825BHJP
   F16D 41/067 20060101ALI20230825BHJP
   F16D 63/00 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
F16D41/10
B60N2/16
F16D41/067
F16D63/00 R
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019138739
(22)【出願日】2019-07-29
(65)【公開番号】P2021021446
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】笹沼 恭兵
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-242845(JP,A)
【文献】特開2010-281375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/00-47/06
B60N 2/00- 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される回転トルクの伝達および遮断を制御する入力側クラッチ部と、前記入力側クラッチ部からの回転トルクを出力側へ伝達し、出力側から逆入力される回転トルクを遮断する出力側クラッチ部とからなり、
前記出力側クラッチ部は、回転が拘束された静止部材と、前記静止部材の内部空間に収容された複数の摺動部材とを備えたクラッチユニットであって、
前記摺動部材として、前記入力側クラッチ部に入力された回転トルクで回転する内輪と、前記内輪からの回転トルクで回転し、かつ出力側から回転トルクが逆入力された時に前記静止部材に対してロックされる出力軸とを備え、
前記静止部材と前記内輪の間、前記内輪と前記出力軸の間、および前記出力軸と前記静止部材の間にそれぞれ形成される軸方向隙間のうち、何れか一つの軸方向隙間スペーサを介在させることにより、他の全ての軸方向隙間で、当該軸方向隙間を形成する二つの面同士が接触していることを特徴とするクラッチユニット。
【請求項2】
前記静止部材は側板およびカバーで構成され、前記スペーサは、側板と出力軸との間、カバーと内輪との間、あるいは出力軸と内輪との間のいずれか一箇所に介在する請求項1に記載のクラッチユニット。
【請求項3】
前記スペーサは、板状部材あるいは弾性部材のいずれかである請求項1又は2に記載のクラッチユニット。
【請求項4】
前記入力側クラッチ部と前記出力側クラッチ部が自動車用シートリフタ部に組み込まれている請求項1~3のいずれか一項に記載のクラッチユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転トルクが入力される入力側クラッチ部と、入力側クラッチ部からの回転トルクを出力側へ伝達し、出力側からの回転トルクを遮断する出力側クラッチ部とを備えたクラッチユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
円筒ころ等の係合子を用いるクラッチユニットでは、入力部材と出力部材間にクラッチ部が配設される。クラッチ部は、入力部材と出力部材間で係合子を係合および離脱させることにより、回転トルクの伝達および遮断を制御する構成になっている。
【0003】
本出願人は、レバー操作により座席シートを上下調整する自動車用シートリフタ部に組み込まれるクラッチユニットを先に提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に開示されたクラッチユニットは、レバー操作により回転トルクが入力されるレバー側クラッチ部と、レバー側クラッチ部からの回転トルクを出力側へ伝達し、出力側からの回転トルクを遮断するブレーキ側クラッチ部とを備えている。
【0005】
レバー側クラッチ部の主要部は、レバー操作により回転トルクが入力される外輪と、外輪からの回転トルクをブレーキ側クラッチ部に伝達する内輪と、外輪と内輪間の楔すきまでの係合および離脱により外輪からの回転トルクの伝達および遮断を制御する円筒ころとで構成されている。
【0006】
ブレーキ側クラッチ部の主要部は、レバー側クラッチ部からの回転トルクが入力される内輪と、内輪からの回転トルクが出力される出力軸と、回転が拘束された側板、外輪およびカバーと、出力軸と外輪間の楔すきまでの係合および離脱により出力軸からの回転トルクの遮断と内輪からの回転トルクの伝達とを制御する円筒ころと、出力軸に回転抵抗を付与する摩擦リングとで構成されている。
【0007】
レバー側クラッチ部では、レバー操作により外輪に回転トルクが入力されると、円筒ころが外輪と内輪間の楔すきまに係合する。この楔すきまでの円筒ころの係合により、内輪に回転トルクが伝達されて内輪が回転する。
【0008】
ブレーキ側クラッチ部では、座席シートへの着座により出力軸に回転トルクが逆入力されると、円筒ころが出力軸と外輪間の楔すきまに係合し、出力軸が外輪に対してロックされる。このロック状態で出力軸から逆入力される回転トルクは遮断される。これにより、座席シートの座面高さが保持される。
【0009】
一方、レバー操作によりレバー側クラッチ部から回転トルクがブレーキ側クラッチ部に入力されると、内輪が円筒ころを押圧することにより、円筒ころが出力軸と外輪間の楔すきまから離脱する。
【0010】
この楔すきまでの円筒ころの離脱により、出力軸のロック状態が解除され、出力軸は回転可能となる。このレバー操作によるロック解除時、摩擦リングにより出力軸に回転抵抗が付与される。
【0011】
そして、内輪がさらに回転すると、内輪からの回転トルクが出力軸に伝達され、出力軸が回転する。出力軸の回転により、座席シートの座面高さが調整可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2011-169402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、ブレーキ側クラッチ部は、静止部材を構成する側板、外輪およびカバーで囲まれた内部空間に、摺動部材である出力軸、円筒ころおよび内輪を収容した構造を具備する(特許文献1の図1参照)。
【0014】
このブレーキ側クラッチ部では、固定状態にある静止部材に対して摺動部材が回転摺動する。このことから、摺動部材を円滑に回転摺動させるため、静止部材と摺動部材との間、あるいは摺動部材同士の間に一定の軸方向隙間を設ける必要がある。
【0015】
このような軸方向隙間があると、静止部材の内部空間で摺動部材の軸方向ガタが発生することになる。つまり、出力軸に対して摩擦リングが圧入される軸方向寸法や、出力軸に対して円筒ころが接触する軸方向位置が変動する可能性がある。
【0016】
摩擦リングの圧入寸法が変動すると、レバー操作時に摩擦リングにより出力軸に付与される回転抵抗(操作トルク)にバラツキが生じる。また、円筒ころの接触位置が変動すると、出力軸のロック時のブレーキ力にバラツキが生じる。
【0017】
そこで、本発明は前述の課題に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、簡便な手段により、静止部材の内部空間において摺動部材の軸方向ガタを抑制し得るクラッチユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係るクラッチユニットは、入力される回転トルクの伝達および遮断を制御する入力側クラッチ部と、入力側クラッチ部からの回転トルクを出力側へ伝達し、出力側から逆入力される回転トルクを遮断する出力側クラッチ部とを具備する。
【0019】
本発明における出力側クラッチ部は、回転が拘束された静止部材と、その静止部材の内部空間に収容された複数の摺動部材とを備えている。
【0020】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、静止部材と摺動部材との間あるいは摺動部材同士の間に形成された軸方向隙間に、静止部材に対する摺動部材の軸方向ガタを抑制するスペーサを介在させたことを特徴とする。
【0021】
本発明では、前記摺動部材として、前記入力側クラッチ部に入力された回転トルクで回転する内輪と、前記内輪からの回転トルクで回転し、かつ出力側から回転トルクが逆入力された時に前記静止部材に対してロックされる出力軸とを設け、静止部材と前記内輪の間、内輪と前記出力軸の間、および出力軸と静止部材の間にそれぞれ形成される軸方向隙間のうち、何れか一つの軸方向隙間にスペーサを介在させることにより、他の全ての軸方向隙間で、当該軸方向隙間を形成する二つの面同士を接触させている。言い換えれば、スペーサにより、静止部材の内部空間において摺動部材を軸方向で位置規制している。この軸方向位置の規制で軸方向隙間を詰めることにより、静止部材の内部空間で摺動部材の軸方向ガタを抑制することができる。
【0022】
本発明において、静止部材は側板およびカバーで構成され、摺動部材は出力軸および内輪で構成され、スペーサは、側板と出力軸との間、カバーと内輪との間、および出力軸と内輪との間のいずれか一箇所に介在する構造が望ましい。
【0023】
このような構造を採用すれば、側板と出力軸との間、カバーと内輪との間、あるいは出力軸と内輪との間に存在する軸方向隙間を詰めることで、摺動部材の軸方向ガタを抑制することができる。
【0024】
本発明におけるスペーサは、板状部材あるいは弾性部材のいずれかであることが望ましい。
【0025】
このような構造を採用すれば、摺動部材の軸方向ガタを抑制するスペーサを容易に構成することができる。
【0026】
本発明における入力側クラッチ部および出力側クラッチ部は、自動車用シートリフタ部に組み込まれた構造が望ましい。
【0027】
このような構造を採用すれば、入力側クラッチ部をレバー側クラッチ部とし、出力側クラッチ部をブレーキ側クラッチ部とするクラッチユニットとして、自動車用シートリフタ部に組み込むことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、スペーサにより、静止部材の内部空間において摺動部材を軸方向で位置規制する。この軸方向位置の規制で軸方向隙間を詰めることにより、静止部材の内部空間での摺動部材の軸方向ガタを抑制することができる。
【0029】
このように、摺動部材の軸方向ガタを抑制できることから、クラッチユニットを自動車用シートリフタ部に組み込んだ場合、出力軸への摩擦リングの圧入寸法や、出力軸に対する円筒ころの接触位置を一定に保持できるので、出力軸の回転抵抗およびブレーキ力を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施形態で、クラッチユニットの全体構成を示す断面図である。
図2図1のP-P線に沿う断面図である。
図3図1のQ-Q線に沿う断面図である。
図4】自動車の座席シートおよびシートリフタ部を示す構成図である。
図5】板状部材をスペーサとして出力軸と内輪との間に介在させた場合を例示する要部拡大断面図である。
図6】板状部材をスペーサとしてカバーと内輪との間に介在させた場合を例示する要部拡大断面図である。
図7】板状部材をスペーサとして側板と出力軸との間に介在させた場合を例示する要部拡大断面図である。
図8】弾性部材をスペーサとして出力軸と内輪との間に介在させた場合を例示する要部拡大断面図である。
図9】弾性部材をスペーサとしてカバーと内輪との間に介在させた場合を例示する要部拡大断面図である。
図10】弾性部材をスペーサとして側板と出力軸との間に介在させた場合を例示する要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明に係るクラッチユニットの実施形態を図面に基づいて詳述する。以下の実施形態では、自動車用シートリフタ部に組み込まれたクラッチユニットを例示するが、自動車用シートリフタ部以外にも適用可能である。
【0032】
図1はクラッチユニットの全体構成を示す断面図、図2図1のP-P線に沿う断面図、図3図1のQ-Q線に沿う断面図である。この実施形態の特徴的な構成を説明する前にクラッチユニットの全体構成を説明する。
【0033】
この実施形態のクラッチユニット10は、図1に示すように、入力側クラッチ部としてのレバー側クラッチ部11と、出力側クラッチ部としてのブレーキ側クラッチ部12とをユニット化した構造を具備する。
【0034】
レバー側クラッチ部11は、レバー操作により入力される回転トルクの伝達および遮断を制御する。ブレーキ側クラッチ部12は、レバー側クラッチ部11からの回転トルクを出力側へ伝達し、出力側から逆入力される回転トルクを遮断する。
【0035】
レバー側クラッチ部11の主要部は、図1および図2に示すように、側板13と、外輪14と、内輪15と、複数の円筒ころ16と、保持器17と、内側センタリングばね18と、外側センタリングばね19とで構成されている。
【0036】
側板13の外周に軸方向へ延びる爪部13aを形成すると共に、外輪14の外周に切り欠き凹部14aを形成する。爪部13aを切り欠き凹部14aに嵌合させて加締めることにより、側板13と外輪14とが一体化されている。外輪14への回転トルクの入力は、側板13に取り付けられた操作レバー43(図4参照)により行われる。
【0037】
内輪15は、出力軸22が挿通された筒状部15aと、筒状部15aのブレーキ側端部を径方向外側に延在させた拡径部15bと、拡径部15bの外周を軸方向に延在させた複数の柱部15c(図3参照)とからなる。内輪15は、外輪14から入力される回転トルクをブレーキ側クラッチ部12に伝達する。
【0038】
外輪14の内周には、複数のカム面14bが周方向等間隔に形成されている。外輪14のカム面14bと、内輪15の筒状部15aの円筒面15dとの間には、楔すきま20が形成されている。
【0039】
円筒ころ16は、外輪14と内輪15との間に配置される。円筒ころ16は、外輪14のカム面14bと内輪15の円筒面15dとの間に形成された楔すきま20での係合および離脱により外輪14からの回転トルクの伝達および遮断を制御する。
【0040】
保持器17は、円筒ころ16を収容するポケット17aが周方向複数箇所に等間隔で形成されている。保持器17は、ポケット17aにより、外輪14のカム面14bと内輪15の円筒面15dとの間の楔すきま20で円筒ころ16を保持する。
【0041】
内側センタリングばね18は、保持器17とブレーキ側クラッチ部12のカバー24との間に配された断面円形のC字状弾性部材であり、その両端部を保持器17およびカバー24の一部に係止させている。
【0042】
内側センタリングばね18は、レバー操作により外輪14から回転トルクが入力されると、静止状態のカバー24に対して、外輪14に追従する保持器17の回転に伴い拡径して弾性力が蓄積される。外輪14からの回転トルクの入力がなくなると、内側センタリングばね18の弾性力により保持器17が中立状態に復帰する。
【0043】
内側センタリングばね18の径方向外側に位置する外側センタリングばね19は、外輪14とブレーキ側クラッチ部12のカバー24との間に配されたC字状の帯板弾性部材であり、その両端部を外輪14およびカバー24の一部に係止させている。
【0044】
外側センタリングばね19は、レバー操作により外輪14から回転トルクが入力されると、静止状態のカバー24に対して、外輪14の回転に伴い拡径して弾性力が蓄積される。外輪14からの回転トルクの入力がなくなると、外側センタリングばね19の弾性力により外輪14が中立状態に復帰する。
【0045】
ブレーキ側クラッチ部12の主要部は、図1および図3に示すように、レバー側クラッチ部11から延びる内輪15の柱部15cと、出力軸22と、静止系としての外輪23、カバー24および側板25と、複数対の円筒ころ27および断面N字形の板ばね28と、摩擦リング29とで構成されている。
【0046】
出力軸22は、内輪15の筒状部15aが外挿された軸部22aと、軸部22aの略中央部位から径方向外側に延びる大径部22bと、軸部22aの出力側に同軸的に形成されたピニオンギヤ部22dとからなる。出力軸22には、レバー側クラッチ部11からの回転トルクが出力される。
【0047】
大径部22bの外周には、複数(図3では6つ)の平坦なカム面22eが周方向等間隔に形成されている。大径部22bのカム面22eと外輪23の円筒面23aとの間には、楔すきま26が形成されている。楔すきま26に、2つの円筒ころ27とその間に介挿された1つの板ばね28とが配されている。
【0048】
円筒ころ27は、楔すきま26での係合および離脱により、出力軸22から逆入力される回転トルクの遮断と内輪15の柱部15cから入力される回転トルクの伝達とを制御する。板ばね28は、円筒ころ27同士に周方向への離反力を付勢する。
【0049】
複数対(図3では6対)の円筒ころ27および板ばね28は、内輪15の柱部15cにより周方向等間隔に配されている。柱部15cは、外輪14から入力される回転トルクを出力軸22に伝達する機能と、円筒ころ27および板ばね28をポケット15fに収容して周方向等間隔に保持する機能とを有する。
【0050】
出力軸22の大径部22bには、内輪15からの回転トルクを出力軸22に伝達するための突起22fが設けられている。突起22fは、内輪15の拡径部15bに形成された孔15eに周方向のクリアランスをもって挿入配置されている。
【0051】
出力軸22のピニオンギヤ部22dは、シートリフタ部39(図4参照)と連結される。軸部22aの入力側にウェーブワッシャ30を介してワッシャ31を圧入することにより、レバー側クラッチ部11の構成部品を抜け止めしている。
【0052】
外輪23およびカバー24の外周に切り欠き凹部23b,24aを形成すると共に、側板25の外周に軸方向へ延びる爪部25aを形成する。切り欠き凹部23b,24aに爪部25aを嵌合させて加締めることにより、外輪23、カバー24および側板25が一体化されている。
【0053】
摩擦リング29は、例えば樹脂製の部材であり、側板25に固着されている。摩擦リング29は、出力軸22の大径部22bに形成された環状凹部22cの内周面22gに嵌め合い代をもって圧入されている。
【0054】
摩擦リング29の外周面29aと環状凹部22cの内周面22gとの間に生じる摩擦力によって、レバー操作時、静止状態の側板25に固着された摩擦リング29に対して摺動する出力軸22に回転抵抗が付与される。
【0055】
以上のような構造を具備するレバー側クラッチ部11およびブレーキ側クラッチ部12の動作例を以下に説明する。
【0056】
レバー側クラッチ部11では、レバー操作により外輪14に回転トルクが入力されると、円筒ころ16が外輪14と内輪15間の楔すきま20に係合する。
【0057】
この楔すきま20での円筒ころ16の係合により、内輪15に回転トルクが伝達されて内輪15が回転する。この時、外輪14および保持器17の回転に伴って両センタリングばね18,19に弾性力が蓄積される。
【0058】
レバー操作による回転トルクの入力がなくなると、両センタリングばね18,19の弾性力により保持器17および外輪14が中立状態に復帰する。内輪15は、与えられた回転位置をそのまま維持する。操作レバー43(図4参照)のポンピング操作による外輪14の回転繰り返しで、内輪15は寸動回転する。
【0059】
ブレーキ側クラッチ部12では、座席シート40(図4参照)への着座により出力軸22に回転トルクが逆入力されても、円筒ころ27が出力軸22と外輪23間の楔すきま26と係合して出力軸22が外輪23に対してロックされる。
【0060】
このように、出力軸22から逆入力された回転トルクは、ブレーキ側クラッチ部12によってロックされ、レバー側クラッチ部11へ逆入力される回転トルクの還流が遮断される。これにより、座席シート40の座面高さは保持される。
【0061】
一方、レバー操作によりレバー側クラッチ部11からの回転トルクが内輪15に入力されると、内輪15の柱部15cが円筒ころ27と当接して板ばね28の弾性力に抗して円筒ころ27を押圧する。これにより、円筒ころ27が楔すきま26から離脱する。
【0062】
この楔すきま26での円筒ころ27の離脱により、出力軸22のロック状態が解除されて出力軸22は回転可能となる。このレバー操作によるロック解除時、摩擦リング29により出力軸22に回転抵抗が付与される。
【0063】
そして、内輪15がさらに回転すると、内輪15の拡径部15bの孔15eと出力軸22の大径部22bの突起22fとのクリアランスが詰まって内輪15の拡径部15bが出力軸22の突起22fに回転方向で当接する。
【0064】
これにより、レバー側クラッチ部11からの回転トルクは、突起22fを介して出力軸22に伝達されて出力軸22が回転する。つまり、内輪15が寸動回転すると、出力軸22も寸動回転する。その結果、座席シート40の座面高さが調整可能となる。
【0065】
以上で説明したクラッチユニット10は、レバー操作により座席シート40の座面高さを調整する自動車用シートリフタ部39に組み込まれて使用される。図4は自動車の乗員室に装備される座席シート40を示す。
【0066】
図4に示すように、シートリフタ部39における座席シート40の座面高さは、レバー側クラッチ部11の側板13(図1参照)に取り付けられた操作レバー43によって調整される。シートリフタ部39は、以下の構造を具備する。
【0067】
スライド可動部材44にリンク部材45,46の一端が回動自在に枢着されている。リンク部材45,46の他端は座席シート40に回動自在に枢着されている。リンク部材45の他端にはセクターギヤ47が一体的に設けられている。セクターギヤ47は出力軸22のピニオンギヤ部22dと噛合している。
【0068】
例えば、座席シート40の座面を低くする場合、レバー側クラッチ部11でのレバー操作、つまり、シートリフタ部39の操作レバー43を下側へ揺動させることにより、ブレーキ側クラッチ部12(図1参照)のロック状態を解除する。
【0069】
ブレーキ側クラッチ部12でのロック解除時、摩擦リング29(図1参照)により出力軸22に適正な回転抵抗を付与することで、座席シート40の座面をスムーズに低くすることができる。
【0070】
ブレーキ側クラッチ部12でのロック解除により、レバー側クラッチ部11からブレーキ側クラッチ部12に伝達された回転トルクでもって、出力軸22のピニオンギヤ部22dが時計方向(図4の矢印方向)に回動する。
【0071】
そして、ピニオンギヤ部22dと噛合するセクターギヤ47が反時計方向(図4の矢印方向)に揺動し、リンク部材45とリンク部材46が共に傾倒して座席シート40の座面が低くなる。
【0072】
このようにして、座席シート40の座面高さを調整した後、操作レバー43を開放すると、操作レバー43が両センタリングばね18,19の弾性力によって上側へ揺動して元の位置(中立状態)に戻る。
【0073】
なお、操作レバー43を上側へ揺動させた場合は、前述とは逆の動作で座席シート40の座面が高くなる。座席シート40の座面高さを調整した後に操作レバー43を開放すると、操作レバー43が下側へ揺動して元の位置(中立状態)に戻る。
【0074】
この実施形態におけるクラッチユニット10の全体構成は、前述のとおりであるが、その特徴的な構成であるブレーキ側クラッチ部12の静止部材および摺動部材について、以下に詳述する。
【0075】
ブレーキ側クラッチ部12は、静止部材を構成する側板25、外輪23およびカバー24で囲まれた内部空間に、摺動部材である出力軸22(大径部22b)、円筒ころ27および内輪15(拡径部15b)を収容した構造を具備する(図1参照)。
【0076】
ブレーキ側クラッチ部12では、静止状態にある側板25およびカバー24に対して出力軸22および内輪15が回転摺動する。このことから、出力軸22および内輪15を円滑に回転摺動させるため、側板25と出力軸22との間、カバー24と内輪15との間、および出力軸22と内輪15との間に一定の軸方向隙間を設けている。
【0077】
このような軸方向隙間が存在すると、出力軸22および内輪15の軸方向ガタが発生することから、この軸方向ガタを抑制するため、図5図10に示すように、出力軸22と内輪15との間、カバー24と内輪15との間、あるいは側板25と出力軸22との間のいずれか一箇所にスペーサ32,33を介在させている。
【0078】
図5図7に示す実施形態では、シム等の板状部材であるスペーサ32を例示する。また、図8図10に示す実施形態では、ウェーブワッシャ等の弾性部材であるスペーサ33を例示する。
【0079】
図5および図8は、出力軸22と内輪15との間にスペーサ32,33を介在させた場合を例示する。図6および図9は、内輪15とカバー24との間にスペーサ32,33を介在させた場合を例示する。図7および図10は、出力軸22と側板25との間にスペーサ32,33を介在させた場合を例示する。
【0080】
このように、出力軸22と内輪15との間、カバー24と内輪15との間、あるいは側板25と出力軸22との間のいずれか一箇所にスペーサ32,33を介在させることにより、出力軸22および内輪15を軸方向で位置規制する。
【0081】
この軸方向位置の規制で、側板25とカバー24との間に存在する軸方向隙間を詰める。つまり、一つのスペーサ32,33で、出力軸22と内輪15との間、カバー24と内輪15との間、あるいは側板25と出力軸22との間に存在する全ての軸方向隙間を詰めることになる。
【0082】
板状部材のスペーサ32は、その板状部材の厚みにより、軸方向隙間を詰めることになる。また、弾性部材のスペーサ33は、その弾性部材の加圧力により、軸方向隙間を詰めることになる。
【0083】
以上のように、軸方向隙間を詰めることにより、出力軸22および内輪15の軸方向ガタを抑制することができる。これにより、出力軸22に対して摩擦リング29が圧入される軸方向寸法や、出力軸22のカム面22eに対して円筒ころ27が接触する軸方向位置を一定に保持することができる。
【0084】
このように、出力軸22への摩擦リング29の圧入寸法を一定に保持できることにより、レバー操作時に摩擦リング29により出力軸22に付与される回転抵抗(操作トルク)が安定化する。また、出力軸22のカム面22eに対する円筒ころ27の接触位置を一定に保持できることにより、出力軸22のロック時のブレーキ力が安定化する。
【0085】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0086】
10 クラッチユニット
11 入力側クラッチ部(レバー側クラッチ部)
12 出力側クラッチ部(ブレーキ側クラッチ部)
15 摺動部材(内輪)
22 摺動部材(出力軸)
24 静止部材(カバー)
25 静止部材(側板)
32 スペーサ(板状部材)
33 スペーサ(弾性部材)
39 シートリフタ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10