(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】地震被害予測システム
(51)【国際特許分類】
G01V 1/00 20060101AFI20230825BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20230825BHJP
【FI】
G01V1/00 D
G01M99/00 Z
(21)【出願番号】P 2019180825
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】更谷 安紀子
(72)【発明者】
【氏名】森 貴久
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-132296(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0169534(US,A1)
【文献】特開2007-003538(JP,A)
【文献】特開2012-013521(JP,A)
【文献】特開2006-343578(JP,A)
【文献】特開2017-096737(JP,A)
【文献】特開平11-084017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00-99/00
G01M13/00-13/045
99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震による対象建物の損傷を予測する地震被害予測システムであって、
震源における地震の大きさ、前記震源の深さ、前記震源から既設建物までの距離、および、前記地震のタイプに対応した数値を含む地震情報と、
前記既設建物の構造形式に対応した数値、前記既設建物の架構形式に対応した数値、前記既設建物に採用された免振、制振、または耐震に対応した数値、前記既設建物の階数、および前記既設建物の延床面積を含む前記既設建物の構造情報と、
前記既設建物の用途に対応した数値を含む前記既設建物の用途情報と、
前記既設建物の基礎および躯体を除く前記既設建物の非構造部位に対する、前記地震による損傷の有無、前記損傷のレベル、または前記損傷の確率を数値化した地震損傷値と、を、教師データとして、前記対象建物に対応する前記非構造部位の前記地震損傷値の算出が機械学習され、
前記対象建物に対応する前記地震情報、前記構造情報、および前記用途情報から、前記対象建物に対応する前記非構造部位の前記地震損傷値を算出する演算装置を備え
、
前記非構造部位が、間仕切り壁であり、前記間仕切り壁は、ランナとスタッドを備えた軽量鉄鋼骨下地に、下地板が取り付けられた構造であり、
前記教師データに、前記既設建物の前記間仕切り壁の構造に対応した数値を含む間仕切り壁情報をさらに含むものであり、前記間仕切り壁情報は、前記既設建物の前記ランナの幅、前記ランナの長さ、前記ランナの板厚、前記下地板の単位面積重量、および前記下地板の取付け構造に対応した数値であり、
前記損傷が、前記間仕切り壁の割れ、脱落、またはこれらによる建物内の影響であり、
前記演算装置は、前記対象建物に対応する前記地震情報、前記構造情報、前記用途情報、および前記間仕切り壁情報から、前記対象建物に対応する前記間仕切り壁の前記地震損傷値を算出することを特徴とする地震被害予測システム。
【請求項2】
地震による対象建物の損傷を予測する地震被害予測システムであって、
震源における地震の大きさ、前記震源の深さ、前記震源から既設建物までの距離、および、前記地震のタイプに対応した数値を含む地震情報と、
前記既設建物の構造形式に対応した数値、前記既設建物の架構形式に対応した数値、前記既設建物に採用された免振、制振、または耐震に対応した数値、前記既設建物の階数、および前記既設建物の延床面積を含む前記既設建物の構造情報と、
前記既設建物の用途に対応した数値を含む前記既設建物の用途情報と、
前記既設建物の基礎および躯体を除く前記既設建物の非構造部位に対する、前記地震による損傷の有無、前記損傷のレベル、または前記損傷の確率を数値化した地震損傷値と、を、教師データとして、前記対象建物に対応する前記非構造部位の前記地震損傷値の算出が機械学習され、
前記対象建物に対応する前記地震情報、前記構造情報、および前記用途情報から、前記対象建物に対応する前記非構造部位の前記地震損傷値を算出する演算装置を備え
、
前記非構造部位が、間仕切り壁であり、前記間仕切り壁は、建物の躯体に取付け金具を介してALCボードが取り付けられた構造であり、
前記教師データに、前記既設建物の前記間仕切り壁の構造に対応した数値を含む間仕切り壁情報をさらに含むものであり、前記間仕切り壁情報は、前記既設建物の前記ALCボードの厚さ、前記ALCボードの幅、前記ALCボードを取り付ける取付け金具の個数、および前記ALCボードを支持する間柱または耐風梁の有無に対応する数値であり、
前記損傷が、前記間仕切り壁の割れ、脱落、またはこれらによる建物内の影響であり、
前記演算装置は、前記対象建物に対応する前記地震情報、前記構造情報、前記用途情報、および前記間仕切り壁情報から、前記対象建物に対応する前記間仕切り壁の前記地震損傷値を算出することを特徴とする地震被害予測システム。
【請求項3】
地震による対象建物の損傷を予測する地震被害予測システムであって、
震源における地震の大きさ、前記震源の深さ、前記震源から既設建物までの距離、および、前記地震のタイプに対応した数値を含む地震情報と、
前記既設建物の構造形式に対応した数値、前記既設建物の架構形式に対応した数値、前記既設建物に採用された免振、制振、または耐震に対応した数値、前記既設建物の階数、および前記既設建物の延床面積を含む前記既設建物の構造情報と、
前記既設建物の用途に対応した数値を含む前記既設建物の用途情報と、
前記既設建物の基礎および躯体を除く前記既設建物の非構造部位に対する、前記地震による損傷の有無、前記損傷のレベル、または前記損傷の確率を数値化した地震損傷値と、を、教師データとして、前記対象建物に対応する前記非構造部位の前記地震損傷値の算出が機械学習され、
前記対象建物に対応する前記地震情報、前記構造情報、および前記用途情報から、前記対象建物に対応する前記非構造部位の前記地震損傷値を算出する演算装置を備
え、
前記非構造部位が、間仕切り壁であり、前記間仕切り壁は、組積造の間仕切り壁であり、
前記教師データに、前記既設建物の前記間仕切り壁の構造に対応した数値を含む間仕切り壁情報をさらに含むものであり、前記間仕切り壁情報は、前記既設建物の前記間仕切り壁内の補強鉄筋の有無に対応した数値であり、
前記損傷が、前記間仕切り壁の割れ、脱落、またはこれらによる建物内の影響であり、
前記演算装置は、前記対象建物に対応する前記地震情報、前記構造情報、前記用途情報、および前記間仕切り壁情報から、前記対象建物に対応する前記間仕切り壁の前記地震損傷値を算出することを特徴とする地震被害予測システム。
【請求項4】
前記教師データに、前記既設建物の地盤の表層地盤増幅率、前記既設建物の建設地点のボーリング試験により得られた、建設地点の地表からの深度、前記深度に応じた土質を数値化して設定された値、および前記深度に応じた標準貫入試験におけるN値、を含む地盤情報と、
前記既設建物の基礎構造に対応した数値を含む基礎情報を、さらに含み、
前記演算装置は、前記対象建物に対応する前記地震情報、前記構造情報、前記用途情報、前記地盤情報、および前記基礎情報から、前記対象建物に対応する前記非構造部位の前記地震損傷値を算出することを特徴とする請求項
1~3のいずれか一項に記載の地震被害予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震による対象建物の損傷を予測する地震被害予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、地震による対象建物の損傷を予測する地震被害予測システムが提案されている。たとえば、特許文献1に示す技術では、既設建物に地震により作用した地盤の振動推定量と、既設建物の地盤の液状化の発生の有無を推定し、建物の躯体の被害状況をパラメータとして算出する地震被害予測システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1の地震被害予測システムでは、確かに、地震により得られる地盤振動量から、建物の躯体に対して構造解析等を利用して、建物の基礎または躯体の損傷状態を推定することが可能である。しかしながら、例えば、屋根、外壁、天井、または間仕切り壁などの非構造部位の損傷は、構造解析により容易に推定することができず、仮に躯体に作用する加速度等からその損傷を推定したとしても、実際に発生する地震時の非構造部位の損傷と大きく異なることがある。
【0005】
本発明では、地震による対象建物の非構造部位の損傷をより正確に予測することができる地震被害予測システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を鑑みて、本発明に係る地震被害予測システムは、地震による対象建物の損傷を予測する地震被害予測システムであって、震源における地震の大きさ、前記震源の深さ、前記震源から既設建物までの距離、および、前記地震のタイプに対応した数値を含む地震情報と、前記既設建物の構造形式に対応した数値、前記既設建物の架構形式に対応した数値、前記既設建物に採用された免振、制振、または耐震に対応した数値、前記既設建物の階数、および前記既設建物の延床面積を含む前記既設建物の構造情報と、前記既設建物の用途に対応した数値を含む前記既設建物の用途情報と、前記既設建物の基礎および躯体を除く前記既設建物の非構造部位に対する、前記地震による損傷の有無、前記損傷のレベル、または前記損傷の確率を数値化した地震損傷値と、を、教師データとして、前記対象建物に対応する前記非構造部位の前記地震損傷値の算出が機械学習され、前記対象建物に対応する前記地震情報、前記構造情報、および前記用途情報から、前記対象建物に対応する前記非構造部位の前記地震損傷値を算出する演算装置を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、演算装置は、地震情報と、既設建物の構造情報、および既設建物の用途情報を教師データとし、さらに実際の既設建物の非構造部位で発生した損傷を数値化した地震損傷値も教師データとして、地震損傷値の算出が機械学習されたものである。したがって、実際の構造解析のみでは予測し難い、対象建物の非構造部位の損傷の数値化した地震損傷値(すなわち、地震による損傷の有無、前記損傷のレベル、または前記損傷の確率)を精度良く算出し、地震発生時の対象建物の非構造部位の被害を簡単に予測することができる。なお、「既設建物」は、実際に地震の揺れを受けた建物であり、既設建物が揺れた地震の地震情報、既設建物の構造情報、既設建物の用途情報、既設建物の地震損傷値等が入力可能な建物である。また、「対象建物」とは、対象建物で予測される地震情報、対象建物の対応する構造情報、および対象建物の対応する用途情報等が入力可能な任意の建物である。
【0008】
より好ましい態様としては、前記非構造部位は、屋根、外壁、天井、または間仕切り壁である。このような非構造部位は、地震により割れ、脱落等が発生することがある。地震によるこれらの非構造部位の被害は通常予測し難いが、上述した地震被害予測システムは、これまでの地震による非構造部位の被害に基づいた機械学習を行った演算装置を備えているため、地震による非構造部位の被害を予測するには、最適である。
【0009】
より好ましい態様としては、前記非構造部位が、屋根であり、前記教師データに、前記既設建物の屋根の形式に対応した数値、および前記既設建物の屋根の単位面積重量を含む屋根情報をさらに含み、前記損傷が、前記屋根の割れ、脱落、またはこれらによる建物内の影響であり、前記演算装置は、前記対象建物に対応する前記地震情報、前記構造情報、前記用途情報、および前記屋根情報から、前記対象建物に対応する前記屋根の前記地震損傷値を算出する。
【0010】
発明者らの知見によれば、地震発生時の屋根の割れ、脱落、またはこれらによる建物内の影響を特定する際に、特に、既設建物の屋根の形式に対応した数値、および既設建物の屋根の単位面積重量の影響が大きいことがわかった。したがって、少なくともこれらのデータを教師データとして、機械学習した演算装置を用いることにより、対象建物に対応する屋根の地震損傷値をより正確に算出することができる。
【0011】
さらに好ましい別の態様としては、前記非構造部位が、外壁材であり、前記教師データに、前記既設建物の前記外壁材の材質に対応した数値を含む外壁材情報をさらに含み、前記損傷が、前記外壁材の割れ、脱落、またはこれらによる建物内の影響であり、前記演算装置は、前記対象建物に対応する前記地震情報、前記構造情報、前記用途情報、および前記外壁材情報から、前記対象建物に対応する前記外壁材の前記地震損傷値を算出する。
【0012】
発明者らの知見によれば、地震発生時の外壁材の割れ、脱落、またはこれらによる建物内の影響を特定する際に、外壁材の取付け構造は、ある程度の範囲に規定されるため、既設建物の外壁材の材質に対応した数値の影響が大きいことがわかった。したがって、少なくともこのデータを教師データとして、機械学習した演算装置を用いることにより、対象建物に対応する外壁材の地震損傷値をより正確に算出することができる。
【0013】
より好ましい態様としては、前記非構造部位が、天井であり、前記教師データに、前記既設建物の前記天井の構造に対応した数値、前記既設建物の前記天井の単位面積重量、および、前記天井が存在する前記既設建物の階数を含む天井情報をさらに含み、前記損傷が、前記天井の割れ、脱落、またはこれらによる建物内の影響であり、前記演算装置は、前記対象建物に対応する前記地震情報、前記構造情報、前記用途情報、および前記天井情報から、前記対象建物に対応する前記天井の前記地震損傷値を算出する。
【0014】
発明者らの知見によれば、地震発生時の天井の割れ、脱落、またはこれらによる建物内の影響を特定する際に、天井の構造、天井の単位面積重量、および、天井が存在する建物の階数の影響が大きいことがわかった。したがって、少なくともこれらのデータを教師データとして、機械学習した演算装置を用いることにより、対象建物に対応する天井の地震損傷値をより正確に算出することができる。
【0015】
より好ましい態様としては、前記非構造部位が、間仕切り壁であり、前記教師データに、前記既設建物の前記間仕切り壁の構造に対応した数値を含む間仕切り壁情報をさらに含み、前記損傷が、前記間仕切り壁の割れ、脱落、またはこれらによる建物内の影響であり、前記演算装置は、前記対象建物に対応する前記地震情報、前記構造情報、前記用途情報、および前記間仕切り壁情報から、前記対象建物に対応する前記間仕切り壁の前記地震損傷値を算出する。
【0016】
発明者らの知見によれば、地震発生時の間仕切り壁の割れ、脱落、またはこれらによる建物内の影響を特定する際に、間仕切り壁の構造の影響が大きいことがわかった。したがって、少なくともこれらのデータを教師データとして、機械学習した演算装置を用いることにより、対象建物に対応する間仕切り壁の地震損傷値をより正確に算出することができる。
【0017】
前記非構造部位が、間仕切り壁である場合のさらに好ましい別の態様としては、前記非構造部位が、間仕切り壁であり、前記間仕切り壁は、ランナとスタッドを備えた軽量鉄鋼骨下地に、下地板が取り付けられた構造であり、前記教師データに、前記既設建物の前記ランナの幅、前記ランナの長さ、前記ランナの板厚、前記下地板の単位面積重量、および前記下地板の取付け構造に対応した数値を間仕切り壁情報としてさらに含み、前記損傷が、前記間仕切り壁の割れ、脱落、またはこれらによる建物内の影響であり、前記演算装置は、前記対象建物に対応する前記地震情報、前記構造情報、前記用途情報、および前記間仕切り壁情報から、前記対象建物に対応する前記間仕切り壁の前記地震損傷値を算出する。
【0018】
発明者らの知見によれば、間仕切り壁が、ランナとスタッドを備えた軽量鉄鋼骨下地を有する場合、地震発生時の間仕切り壁の割れ、脱落、またはこれらによる建物内の影響を特定する際に、ランナの寸法、下地板の単位面積重量、および下地板の取付け構造の影響が大きいことがわかった。したがって、少なくともこれらのデータを教師データとして、機械学習した演算装置を用いることにより、対象建物に対応する間仕切り壁の地震損傷値をより正確に算出することができる。
【0019】
前記非構造部位が、間仕切り壁である場合のさらに好ましい別の態様としては、前記非構造部位が、間仕切り壁であり、前記間仕切り壁は、建物の躯体に取付け金具を介してALCボードが取り付けられた構造であり、前記教師データに、前記既設建物の前記ALCボードの厚さ、前記ALCボードの幅、前記ALCボードを取り付ける取付け金具の個数、および前記ALCボードを支持する間柱または耐風梁の有無に対応する数値を間仕切り壁情報としてさらに含み、前記損傷が、前記間仕切り壁の割れ、脱落、またはこれらによる建物内の影響であり、前記演算装置は、前記対象建物に対応する前記地震情報、前記構造情報、前記用途情報、および前記間仕切り壁情報から、前記対象建物に対応する前記間仕切り壁の前記地震損傷値を算出する。
【0020】
発明者らの知見によれば、間仕切り壁が、建物の躯体にALCボードが取り付けられた構造である場合、地震発生時の間仕切り壁の割れ、脱落、またはこれらによる建物内の影響を特定する際に、ALCボードの厚さ、ALCボードの幅、および、ALCボードを取り付ける取付け金具の個数、ALCボードを支持する間柱または耐風梁の有無の影響が大きいことがわかった。したがって、少なくともこれらのデータを教師データとして、機械学習した演算装置を用いることにより、対象建物に対応する間仕切り壁の地震損傷値をより正確に算出することができる。
【0021】
前記非構造部位が、間仕切り壁である場合のさらに好ましい別の態様としては、前記非構造部位が、間仕切り壁であり、前記間仕切り壁は、組積造の間仕切り壁であり、前記教師データに、前記既設建物の前記間仕切り壁内の補強鉄筋の有無に対応した数値を間仕切り壁情報としてさらに含み、前記損傷が、前記間仕切り壁の割れ、脱落、またはこれらによる建物内の影響であり、前記演算装置は、前記対象建物に対応する前記地震情報、前記構造情報、前記用途情報、および前記間仕切り壁情報から、前記対象建物に対応する前記間仕切り壁の前記地震損傷値を算出する。
【0022】
発明者らの知見によれば、間仕切り壁が組積造の仕切り壁である場合、地震発生時の間仕切り壁の割れ、脱落、またはこれらによる建物内の影響を特定する際に、間仕切り壁内の補強鉄筋の有無の影響が大きいことがわかった。したがって、少なくともこれらのデータを教師データとして、機械学習した演算装置を用いることにより、対象建物に対応する間仕切り壁の地震損傷値をより正確に算出することができる。
【0023】
さらに好ましい態様としては、前記教師データに、前記既設建物の地盤の表層地盤増幅率、前記既設建物の建設地点のボーリング試験により得られた、建設地点の地表からの深度、前記深度に応じた土質を数値化して設定された値、および前記深度に応じた標準貫入試験におけるN値、を含む地盤情報と、前記既設建物の基礎構造に対応した数値を含む基礎情報を、さらに含み、前記演算装置は、前記対象建物に対応する前記地震情報、前記構造情報、前記用途情報、前記地盤情報、および前記基礎情報から、前記対象建物に対応する前記非構造部位の前記地震損傷値を算出する。
【0024】
この態様によれば、演算装置が、地盤情報および基礎情報をさらに加味して学習されたものであるので、建物の基礎構造と地盤と影響をさらに加味して、より精度の良い対象建物に対応する非構造部位の地震損傷値を算出することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、地震による対象建物の非構造部位の損傷をより正確に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る地震被害予測システムを説明するための模式的概念図である。
【
図2】
図1に示す地震被害予測システムの演算装置が機械学習するための教師データを示す表図である。
【
図3】
図1に示す地震被害予測システムの演算装置が追加で機械学習するための教師データを示す表図である。
【
図4】
図1に示す演算装置のニューラルネットワークの学習時の模式的概念図である。
【
図5】
図1に示す演算装置のニューラルネットワークの利活用時の模式的概念図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る地震被害予測システムの演算装置が機械学習するための教師データを示す表図である。
【
図7】第2実施形態に係る演算装置のニューラルネットワークの模式的概念図である。
【
図8】本発明の第3実施形態に係る地震被害予測システムの演算装置が機械学習するための教師データを示す表図である。
【
図9】第3実施形態に係る演算装置のニューラルネットワークの模式的概念図である。
【
図10】本発明の第4実施形態に係る地震被害予測システムの演算装置が機械学習するための教師データを示す表図である。
【
図11】(a)ランナとスタッドを備えた軽量鉄鋼骨下地に、下地板が取り付けられた間仕切り壁の模式的斜視図であり、(b)建物の躯体に取付け金具を介してALCボードが取り付けられた間仕切り壁の模式的斜視図である。
【
図12】第4実施形態に係る演算装置のニューラルネットワークの模式的概念図である。
【
図13】第4実施形態の第1変形例に係る演算装置のニューラルネットワークの模式的概念図である。
【
図14】第4実施形態の第2変形例に係る演算装置のニューラルネットワークの模式的概念図である。
【
図15】第4実施形態の第3変形例に係る演算装置のニューラルネットワークの模式的概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の第1~第4実施形態に係る地震被害予測システム1を、図面を参照しながら説明する。
【0028】
〔第1実施形態〕
1.地震被害予測システム1の装置構成について
本実施形態に係る地震被害予測システム1は、
図1に示すように、たとえば、メインサーバ(ホストコンピュータ)10と、携帯端末(通信端末)20を用いて、地震による対象建物の損傷を予測するものである。以下に、地震被害予測システム1を説明する。
【0029】
地震被害予測システム1のメインサーバ10は、対象建物の損傷を予測する(非構造部位の地震損傷値の算出する)プログラムを生成する演算装置10Aと、演算装置10Aにデータを入力するキーボードなどの入力装置2と、を備えている。なお、ここでいう非構造部位は、建物の躯体(具体的には柱および梁)または基礎を除く部位のことである。
【0030】
演算装置10Aは、地震の被害を受けた既設建物の情報等が記憶されたROMまたはRAM等からなる記憶部10aと、機械学習したプログラムを生成するためのCPU等からなる演算部10bと、を備えている。
【0031】
携帯端末20は、ネットワークを介してメインサーバ10に通信可能であり、メインサーバ10の演算部10bで機械学習された屋根の地震損傷値の算出プログラムがインストールされている。携帯端末20は、非構造部位である屋根の地震損傷値を算出する演算装置20Aと、データの入力および表示を行うタッチパネルなどの表示・入力部20Bと、を備えている。
【0032】
携帯端末20は、演算装置20Aとして、メインサーバ10からの屋根の地震損傷値の算出プログラムおよび表示・入力部20Bで入力されたデータを記憶するROMまたはRAM等からなる記憶部20aと、屋根の地震損傷値の算出プログラムを実行するCPU等からなる演算部20bと、を備えている。
【0033】
なお、本実施形態では、地震被害予測システム1は、メインサーバ10と、携帯端末20とを個別に備えており、携帯端末20は、上述するアプリケーションがインストールされていれば、特にその個数は限定されるものではない。
【0034】
また、地震被害予測システム1が、メインサーバ10と携帯端末20とで構成されるのではなく、これらが1つのシステムとして構成されていてもよい。具体的には、メインサーバ10の記憶部10aで、携帯端末20の記憶部20aで記憶されたデータを記憶し、メインサーバ10の演算部10bで、携帯端末20の演算部20bによる演算を行うことで、携帯端末20を省略してもよい。また、携帯端末20では、上述した記憶および演算を行わず、メインサーバ10ですべての記憶および演算を行って、携帯端末20は、対象建物に対する入力情報と、屋根の地震損傷値の算出結果のみを出力してもよい。
【0035】
2.演算装置10A(機械学習)
本実施形態では、以下に、メインサーバ10の演算装置10Aによる、機械学習について説明する。本実施形態では、演算装置10Aでは、既設建物の基礎および躯体を除く既設建物の非構造部位として屋根に対する、地震による損傷の有無、損傷のレベル、または損傷の確率を数値化した地震損傷値の算出を学習したモデルを構築する。なお、後述する他の実施例では、この非構造部位の対象が異なり、教師データの被構造部位の情報およびその地震損傷値が異なる。
【0036】
本実施形態では、演算装置10Aは、(1)地震情報、(2)既設建物の構造情報、(3)既設建物の用途情報、(4)既設建物の屋根情報、および(5)既設建物の非構造部位(屋根)の地震損傷値を教師データとして、機械学習する部分であり、この演算装置10Aに学習した結果をモデルとして構築する。なお、生成されたプログラムは、利活用時に携帯端末20に送信される。以下の教師データとなる各情報について、
図2および
図3を参照しながら説明する。
【0037】
3.教師データ
3-1.地震情報
地震情報は、「震源における地震の大きさ」、「震源の深さ」、「震源から既設建物までの距離」、および、「地震のタイプに対応した数値」を含んでいる。
【0038】
「震源における地震の大きさ」は、機械学習の教師データの対象となる既設建物の周りで発生した地震の大きさである。地震の規模(マグニチュード)で示される。「震源の深さ」は、その地震の震源の深さである。「震源から既設建物までの距離」は、例えば、断層最短距離が採用され、震源断層と既設建物との距離である。たとえば震源地と既設建物との実質的な距離であってもよい。「地震のタイプを数値化した値」は、たとえば、プレート間地震、海洋プレート内地震、または、内陸地殻内地震の3つのタイプに分類し、これらに対応付けられた値である。なお、これらの分類した地震のタイプをさらに細分化して、数値を対応させてもよい。
【0039】
本実施形態では、上述した地震情報を教師データとして使用するが、例えば、距離減衰式を用いて、既設建物に作用する地動最大加速度、地動最大速度を算出し、これらの値を教師データとしてさらに用いてもよく、既設建物に加速度センサが設けられている場合には、これらの測定値を教師データとして用いてもよい。
【0040】
3-2.既設建物の構造情報
既設建物の構造情報は、「既設建物の構造形式に対応した数値」、「既設建物の架構形式に対応した数値」、「既設建物に採用された免振、制振、または耐震に対応した数値」、「既設建物の階数」、および「前記既設建物の延床面積」を含む。
【0041】
「既設建物の構造形式に対応した数値」は、既設建物の構造形式であるS造、RC造、SRC造、木造等ごとに分類し、これらの構造形式ごとに対応付けた数値である。「既設建物の架構形式に対応した数値」は、ラーメン、ブレスに対応づけた数値である。「既設建物に採用された免振、制振、または耐震に対応した数値」は、免震ならば免震装置の有無、制振ならばダンパなどの制振装置の有無、耐震の場合には、筋かいの有無、などの組み合わせに対応付けた数値である。これらの数値は、屋根が損傷し易い用途の順に、大きい数値となるように数値が割り当てられていてもよい。
【0042】
この他にも、
図3に示すように、さらに、既設建物の構造情報は、
図3に示すように、教師データとして、「既存建物の構造計算の結果の値」を含んでいてもよい。既設建物の構造計算結果としては、たとえば、既設建物の保有水平耐力余裕度、および既設建物の相関変形角(短期、終局期)を、教師データとして用いる。
【0043】
3-3.既設建物の用途情報
既設建物の用途情報は、「既設建物の用途に対応した数値」を含んでいる。既設建物の用途に対応した数値では、その用途が、たとえば、病院、学校、工場、ホテル、マンション、オフィスビル、戸建住宅、集合住宅等に合わせて、既設建物の重量が変動することから、これらの用途に応じて数値化され、設定された値である。たとえば、これらの数値は、屋根が損傷し易い用途の順に、大きい数値となるように数値が割り当てられていてもよい。
【0044】
3-4.既設建物の屋根情報
既設建物の屋根情報は、「既設建物の屋根の形式に対応した数値」および「既設建物の屋根の単位面積重量」を含んでいる。「既設建物の屋根の形式に対応した数値」とは、例えば、折板屋根、デッキ式乾式断熱屋根、デッキコンクリート屋根、押出し成形セメント板を敷設した屋根など、に分類し、これらに対応した数値である。なお、既設建物が住宅である場合には、「既設建物の屋根の形式に対応した数値」は、屋根の構造、瓦などに対応する数値を当てはめてもよい。たとえば、これらの数値は、屋根が損傷し易い用途の順に、大きい数値となるように数値が割り当てられていてもよい。「既設建物の屋根の単位面積重量」は、既設建物の屋根を平面視した際の屋根面の単位面積当たりの屋根の重量であり、少なくとも屋根材を含む単位面積当たりの重量であればよく、同じ基準で屋根の重量を特定していれば特に限定されるものではない。したがって、「既設建物の屋根の単位面積重量」は、例えば、屋根材のみの重量であってもよく、屋根面から最上階の天井までの屋根構造の単位面積当たりの平均重量であってもよい。
【0045】
3-5.既設建物の屋根損傷情報
「既設建物の屋根損傷情報」は、上述した地震のよる既設建物の屋根の損傷を数値化したものである。具体的には、「既設建物の屋根損傷情報」は、既設建物の基礎および躯体を除く既設建物の屋根に対する、地震による損傷の有無、損傷のレベル、または損傷の確率を数値化した地震損傷値である。例えば、「地震による損傷の有無」は、既設建物の屋根が、割れたか、脱落したか、または割れまたは脱落により建物内に影響があったか、の有無を「0」および「1」で数値化したものを地震損傷値とする。割れまたは脱落による建物内の影響とは、雨漏り等である。「地震による損傷のレベル」は、既設建物の屋根が、屋根の割れ、屋根の脱落、またはこれらによる既設建物の影響の程度を数値化したものを地震損傷値とし、この数値が高いほど、屋根の損傷度合が大きい。「地震による損傷の確率」は、屋根の割れ、屋根の脱落、またはこれらによる既設建物の影響の程度に応じて、損傷の確率として数値化したものである。たとえば、屋根の割れ、屋根の脱落、またはこれらによる既設建物の影響の程度が大きくなるに従って確率を高く設定してもよく、既設建物の屋根が、屋根の割れ、屋根の脱落、またはこれらによる既設建物の影響の程度を数値化したものを用いて、ロジスティック回帰分析等により、損傷を確率として求めてもよい。
【0046】
3-6.既設建物の地盤情報
さらに、
図4および
図5のモデルには示していないが、
図3に示すように、必要に応じて、教師データに既設建物の地盤情報を含んでもよい。既設建物の地盤情報としては、「既設建物の地盤の表層地盤増幅率」、「既設建物の建設地点のボーリング試験により得られた、建設地点の地表からの深度」、「深度に応じた土質を数値化して設定された値」、および「深度に応じた標準貫入試験におけるN値」である。
【0047】
「既設建物の地盤の表層地盤増幅率」は、既設建物の地表面近くに堆積した地層(表層地盤)の地震時の揺れの大きさを数値化したもので、地震に対する地盤の弱さを示す数値である。入力される「建設地点の地表からの深度」は、たとえば、各土質を構成する層の最下部の深さなど、土質を構成する深度と、その土質の層厚みの情報が特定できるような「深度」を入力することができるのであれば、土質パラメータの値とN値に関連付けられた「深度」の値は特に限定されるものではない。
【0048】
一般的に、ボーリング試験において、地表からの深度に応じて、土質の種類が調査される。ここで、「土質を数値化して設定された値」とは、土質ごとに数値化されて設定されたパラメータである。たとえば、土質には、粘土、シルト、細砂、粗砂、細礫、中礫、粗礫、コブル、またはボルダなどを挙げることができ、この土質ごとに、数値化されている。たとえば、土質の種類に応じた粒度分布に対応する数値が、設定されていてもよい。たとえば、土質の種類に応じた粒度分布が大きくなるに従って、建物からの荷重を支持する支持力が大きい(地盤沈下し難い)ことから、この順に、小さい数値となるように数値が割り当てられている。
【0049】
「標準貫入試験におけるN値」とは、標準貫入試験(JIS A 1219に準拠した試験)で測定されたN値、スウェーデン式サウンディング試験(JIS A 1212に準拠した試験)に基づく換算N値などを挙げることができ、N値が大きいほど、建物からの荷重を支持する支持力が大きい。
【0050】
3-7.既設建物の基礎情報
さらに、
図4および
図5のモデルには示していないが、
図3に示すように、必要に応じて、教師データに既設建物の基礎情報を含んでいてもよい。基礎情報は、既設建物に選択された基礎形式を数値化して設定されたパラメータである。具体的には、杭を設けた直接基礎構造、杭を設けたパイル・ドラフト基礎構造、摩擦杭による杭基礎構造、支持層により支持される支持杭による杭基礎構造などを挙げることができ、これらの基礎形式(基礎構造の形式)を数値化して設定される。たとえば、屋根が損傷し易い用途の順に、大きい数値となるように数値が割り当てられている。
【0051】
さらに、杭基礎構造の場合には、摩擦杭の長さ、摩擦杭の種類等により、さらに、地盤沈下し易い順に、これに応じた大きさの数値が設定されてもよい。さらに、基礎構造の他にも、例えば、セメントミルクにより地盤改良された基礎構造等を含んでもよく、この構造にも、上述した如き数値が設定される。
【0052】
4.ニューラルネットワーク
図2に示す情報を教師データとし、必要に応じて
図3に示す情報を教師データとして、対象建物に対応する地震情報、構造情報、および用途情報から、対象建物に対応する屋根の地震損傷値の算出を機械学習により学習する。
【0053】
本実施形態では、演算装置10Aは、これまでに建設された既設建物A、B、C、…の入力値に対して算出される出力値が、各既設建物A、B、C、…で、実際の屋根の損傷に基づいて設定された地震損傷値(実際の地震損傷値)に収束するように、地震損傷値の算出を機械学習する。
【0054】
この学習は、例えば、
図2および
図3に示す個数に応じた変数からなる所定の数式に対して、各変数に乗じられる補正係数を、繰り返し補正することにより行ってもよい。本実施形態では、
図4および
図5に示すように、演算装置10Aは、ディープニューラルネットワーク((DNN):以下「ニューラルネットワーク」という)を備えており、ニューラルネットワーク11は、
図3に示す地震情報、既設建物の構造情報、既設建物の用途情報、既設建物の屋根情報に対応する対象建物の情報から、対象建物の屋根の地震損傷値を出力値として算出するものである。
【0055】
本実施形態では、ニューラルネットワーク11は、入力層11Aを有している。入力層11Aは、既設建物A、B、C…に対して、地震情報、構造情報、用途情報、屋根情報、および既設建物A、B、C、…の屋根の地震損傷値を入力値とする。なお、教師データに既設建物の地盤情報および基礎情報をさらに入力値として用いてもよい。入力層11Aは、地震情報、構造情報、用途情報、および屋根情報の入力値の個数に合わせた複数の入力層ニューロン素子11aで構成される。入力層11Aの入力層ニューロン素子11aは、入力する条件データの個数に応じて、増減することができ、この増減による入力されるデータの個数に応じたニューラルネットワーク11のモデルが構築される。
【0056】
ニューラルネットワーク11は、出力層11Eを有している。出力層11Eは、屋根の地震損傷値を出力する1つの出力層ニューロン素子11eで構成される。ニューラルネットワーク11は、3つの中間層11B、11C、11Dを有している。3つの中間層11B、11C、11Dは、入力層11Aと出力層11Eとの間に設けられている。各中間層11B、11C、11Dは、これらの素子に直接的または間接的に結合された複数の中間層ニューロン素子11b、11c、11dを含む。
【0057】
なお、本実施形態では、中間層が3つの層で構成されるが、たとえば、中間層が、1つ、2つの層、4つ以上の層で構成されていてもよく、中間層が3つの層に限定されるものではない。さらに、各中間層11B、11C、11Dを構成する中間層ニューロン素子11b、11c、11dは、入力層ニューロン素子11aの個数に応じた個数であるが、入力されるデータ数に応じて、入力層ニューロン素子11aの個数を変化させてもよく、入力されるデータ数と異なる個数の中間層のニューロン素子を、各中間層が備えてもよい。
【0058】
中間層11B、11C、11Dは、入力層11A側の同じ層にあるニューロン素子のニューロンパラメータの値を用いて、所定の演算を行い、その演算結果を、出力層11E側のニューロン素子に出力するものである。具体的には、中間層ニューロン素子11b、11c、11dおよび出力層ニューロン素子11eは、入力層ニューロン素子11aまたは入力層11A側の中間層ニューロン素子11b、11c、11dから入力されるニューロンパラメータの値を用いて、所定の演算を行う。
【0059】
具体的には、演算を実行する中間層ニューロン素子11b、11c、11dと、出力層ニューロン素子11eは、それぞれ所定の活性化関数を有しており、入力されたデータ(パラメータの値)をその活性化関数に代入することにより、ニューロンパラメータの値を演算する。たとえば、中間層11Bの各中間層ニューロン素子11bは、各入力層ニューロン素子11aの入力値がニューロンパラメータの値として入力され、活性化関数により、入力層ニューロン素子11aごとのニューロンパラメータの値が演算される。
【0060】
この際、各中間層11B、11C、11Dの中間層ニューロン素子11b、11c、11dで出力されるニューロンパラメータの値は、その素子内において、活性化関数により演算されたニューロンパラメータの値に対して、重み付け係数が乗算されることで算出され、出力層ニューロン素子11eまたは出力層11E側の中間層ニューロン素子11c、11dに出力される。
【0061】
本実施形態では、出力層ニューロン素子11eで出力された既設建物A、B、C、…の屋根の地震損傷値を出力値が、既設建物A、B、C、…の実際の屋根の地震損傷値(教師データである入力値)に対して予め設定した範囲内に収束するまで、各中間層ニューロン素子11b、11c、11dのニューロンパラメータの値に乗算される重み付け係数を繰り返し補正する。このようにして、本実施形態では、機械学習により、屋根の地震損傷値を出力値の算出(方法)を予め学習することができる。このようにして、複数の建設地点P1、P2、P3、…における地震情報、既設建物の構造情報、既設建物の用途情報、既設建物の屋根情報を教師データとして、演算装置10Aで機械学習が実行され、任意の対象建物の情報から、対象建物の屋根の地震損傷値を算出するモデルが構築される。
【0062】
なお、本実施形態では、中間層ニューロン素子11b、11c、11dにおいて、活性化関数により算出されたニューロンパラメータの値に対して乗算される重み付け係数を、各中間層ニューロン素子11b、11c、11dに設けたが、これに加えて、出力層ニューロン素子11eにもさらに活性化関数により算出されたニューロンパラメータの値に対して乗算される重み付け係数を設けてもよい。
【0063】
このようにして構築されたモデルのプログラムは、演算装置20Aにインストールされ、演算装置20Aは、
図5に示すように、利活用として、対象建物に対応する地震情報、構造情報、用途情報、および屋根から、対象建物に対応する屋根の地震損傷値を算出する。
【0064】
本実施形態によれば、演算装置20Aは、地震情報と、既設建物の構造情報、および既設建物の用途情報を教師データとし、さらに実際の既設建物の非構造部位である屋根で発生した損傷を数値化した地震損傷値も教師データとして、地震損傷値の算出が機械学習されたプログラムを有している。したがって、実際の構造解析のみでは予測し難い、対象建物の屋根の損傷の数値化した地震損傷値(すなわち、地震による屋根の損傷の有無、屋根の損傷のレベル、または屋根の損傷の確率)を精度良く算出し、地震発生時の対象建物の屋根の被害を簡単に予測することができる。
【0065】
なお、本実施形態では、屋根情報を教師データとして入力したが、たとえば、大まかな屋根の損傷を予測するのであれば、教師データに屋根情報を用いなくてもよい。
【0066】
〔第2実施形態〕
第2実施形態が、第1実施形態と相違する点は、非構造部位が外壁材であり、既設建物の外壁材情報を教師データとして用い、対象建物の外壁材の地震損傷値の算出を機械学習した点である。したがって、第1実施形態と相違する点のみ、
図6および
図7を参照し、詳細な説明を省略する。
【0067】
図6に示すように、第2実施形態では、第1実施形態の教師データのうち、既設建物の屋根情報の代わりに、「既設建物の外壁材の材質に対応した数値」を含む外壁材情報を用いており、既設建物の屋根の損傷情報の代わりに、「既設建物の外壁材の損傷情報」を用いている。
【0068】
「既設建物の外壁材の材質に対応した数値」は、窯業系サイディング、押出成形セメント板、角波鋼板、断熱サンドイッチパネル、ALCボード、またはガラスカーテンウォール等、さらには、窯業系サイディング、押出成形セメント板、およびALCボードの場合にはタイル取付けの有無に対応付けた数値である。たとえば、これらの数値は、外壁材が損傷し易い用途の順に、大きい数値となるように数値が割り当てられていてもよい。
【0069】
「既設建物の外壁材の損傷情報」は、既設建物の基礎および躯体を除く既設建物の外壁材に対する、地震による損傷の有無、損傷のレベル、または損傷の確率を数値化した地震損傷値である。ここで、外壁材の損傷とは、割れ、脱落、またはこれらによる建物内の影響である。割れまたは脱落による建物内の影響とは、雨漏り等である。「地震による損傷の有無」、「地震による損傷のレベル」、「地震による損傷の確率」における数値の設定は、上述した屋根材の損傷と同様である。
【0070】
そして、演算装置10Aで、
図6に示すように、機械学習により、既設建物の地震情報、構造情報、用途情報、外壁情報、および外壁材の地震損傷値を教師データとして、任意の対象建物に対する外壁材の地震損傷値の算出モデルを構築する。演算装置20Aは、構築したモデルを用いて利活用時に、任意の対象建物に対応する地震情報、構造情報、用途情報、および外壁材情報から、対象建物に対応する外壁材の地震損傷値を算出する。なお、ニューラルネットワーク11の構成と、学習および利活用については、第1実施形態と同じであるので、その詳細な説明省略する。
【0071】
上述した情報を教師データとして、機械学習した演算装置10Aを用いることにより、第1実施形態の効果と同様の効果を奏するとともに、より少ない入力情報から任意の対象建物に対応する外壁の地震損傷値をより正確に算出することができる。なお、本実施形態では、外壁材情報を教師データとして入力したが、たとえば、大まかな屋根の損傷を予測するのであれば、教師データに外壁材情報を用いなくてもよい。第1実施形態に示した
図3に示す情報を教師データとしてさらに用いてもよい。
【0072】
〔第3実施形態〕
第3実施形態が、第1実施形態と相違する点は、非構造部位が天井であり、既設建物の天井情報を教師データとして用い、対象建物の天井情報の地震損傷値の算出を機械学習した点である。したがって、第1実施形態と相違する点のみ、
図8および
図9を参照し、詳細な説明を省略する。
【0073】
図8に示すように、第3実施形態では、第1実施形態の教師データのうち、既設建物の屋根情報の代わりに、「既設建物の天井の構造に対応した数値」、「既設建物の天井の単位面積重量」、および、「天井が存在する既設建物の階数」を含む天井情報を用いている。さらに、既設建物の屋根の損傷情報の代わりに、「既設建物の天井の損傷情報」を用いている。この他にも、内外壁と天井のクリアランスを教師データに用いてもよい。
【0074】
「既設建物の天井の構造に対応した数値」は、吊り天井、直接天井、システム天井、光天井、または幕天井等に対応付けた数値である。たとえば、これらの数値は、天井が損傷し易い用途の順に、大きい数値となるように数値が割り当てられていてもよい。
【0075】
「既設建物の天井の単位面積重量」は、既設建物の天井の単位面積当たりの天井の重量であり、少なくとも天井表面を含む単位面積当たりの重量であればよく、同じ基準で天井の重量を特定していれば特に限定されるものではない。したがって、「既設建物の天井の単位面積重量」は、例えば、天井スラブまたは天井パネルのみの重量であってもよく、吊り天井の場合には、天井パネル、野縁、および野受けを含む単位面積当たりの平均重量であってもよい。「天井が存在する既設建物の階数」は、損傷した天井が存在する既設建物の階数である。
【0076】
「既設建物の天井の損傷情報」は、既設建物の基礎および躯体を除く既設建物の天井に対する、地震による損傷の有無、損傷のレベル、または損傷の確率を数値化した地震損傷値である。ここで、天井の損傷とは、割れ、脱落、またはこれらによる建物内の影響である。割れまたは脱落による建物内の影響とは、雨漏り、室内または通路が使用できるか否か等である。「地震による損傷の有無」、「地震による損傷のレベル」、「地震による損傷の確率」における数値の設定は、上述した屋根材の損傷と同様である。
【0077】
そして、演算装置10Aで、
図9に示すように、機械学習により、既設建物の地震情報、構造情報、用途情報、天井情報、および天井の地震損傷値を教師データとして、任意の対象建物に対する天井の地震損傷値の算出モデルを構築する。演算装置20Aは、構築したモデルを用いて利活用時に、任意の対象建物に対応する地震情報、構造情報、用途情報、および天井情報から、対象建物に対応する天井の地震損傷値を算出する。なお、ニューラルネットワーク11の構成と、学習および利活用については、第1実施形態と同じであるので、その詳細な説明省略する。
【0078】
上述した情報を教師データとして、機械学習した演算装置10Aを用いることにより、第1実施形態の効果と同様の効果を奏するとともに、より少ない入力情報から任意の対象建物に対応する天井の地震損傷値をより正確に算出することができる。なお、本実施形態では、天井情報を教師データとして入力したが、たとえば、大まかな屋根の損傷を予測するのであれば、教師データに天井情報を用いなくてもよい。第1実施形態に示した
図3に示す情報を教師データとしてさらに用いてもよい。
【0079】
〔第4実施形態〕
第3実施形態が、第1実施形態と相違する点は、非構造部位が間仕切り壁であり、既設建物の間仕切り壁情報を教師データとして用い、対象建物の間仕切り壁情報の地震損傷値の算出を機械学習した点である。したがって、第1実施形態と相違する点のみ、
図10~
図15を参照し、詳細な説明を省略する。
【0080】
図10に示すように、第4実施形態では、第1実施形態の教師データのうち、既設建物の屋根情報の代わりに、「既設建物の間仕切り壁の構造に対応した数値」を含む間仕切り壁情報を用いており、既設建物の屋根の損傷情報の代わりに、「既設建物の間仕切り壁の損傷情報」を用いている。
【0081】
「既設建物の間仕切り壁の構造に対応した数値」は、
図11(a)に示すランナ61とスタッド62を備えた軽量鉄鋼骨下地69に、下地板63が取り付けられた構造、
図11(b)に示す建物の躯体65に取付け金具68を介してALCボード66が取り付けられた構造、または煉瓦、コンクリートブロックなどによる組積造等に対応した数値である。「既設建物の間仕切り壁の構造に対応した数値」は、損傷した天井が存在する既設建物の階数である。
【0082】
「既設建物の間仕切り壁の損傷情報」は、既設建物の基礎および躯体を除く既設建物の間仕切り壁に対する、地震による損傷の有無、損傷のレベル、または損傷の確率を数値化した地震損傷値である。ここで、間仕切り壁の損傷とは、割れ、脱落、またはこれらによる建物内の影響であり、建物内の影響とは室内または通路が使用できるか否か等である。「地震による損傷の有無」、「地震による損傷のレベル」、「地震による損傷の確率」における数値の設定は、上述した屋根材の損傷と同様である。
【0083】
そして、演算装置10Aで、
図12に示すように、機械学習により、既設建物の地震情報、構造情報、用途情報、間仕切り壁情報、間仕切り壁の地震損傷値を教師データとして、任意の対象建物に対する間仕切り壁の地震損傷値の算出モデルを構築する。構築したモデルを用いて利活用時に、演算装置20Aは、任意の対象建物に対応する地震情報、構造情報、用途情報、および間仕切り壁情報から、対象建物に対応する間仕切り壁の地震損傷値を算出する。特に、間仕切り壁の構造は、その構造が大きくことなるため、地震損傷値の影響が大きく、既設建物の間仕切り壁の構造に対応した数値を教師データに用いることにより、より精度良く、対象建物の地震損傷値を算出することができる。なお、本実施形態では、間仕切り壁情報を教師データとして入力したが、たとえば、間仕切り壁のおおまかな損傷を予測するのであれば、教師データに間仕切り壁情報を用いなくてもよい。第1実施形態に示した
図5に示す情報を教師データとしてさらに用いてもよい。
【0084】
ここで、
図11(a)に示す間仕切り壁60Aの構造の場合には、第4実施形態の第1変形例のように、教師データとなる既設建物の間仕切り壁情報に、既設建物の「ランナ61の幅B1」、「既設建物のランナ61の長さL」、「ランナ61の板厚」、「下地板63の単位面積重量」、および「下地板63の取付け構造に対応した数値」を用いてもよい(
図10の間仕切り壁情報1参照)。この場合、
図13に示すニューラルネットワーク11のモデルが構築される。
【0085】
「ランナ61の幅B1」は、ランナ61の長手方向と直交する方向の最大の幅である。「既設建物のランナ61の長さL」は、ランナ61の長手方向に沿った長さである。「ランナ61の板厚」は、コの字状に屈曲させたランナ61の肉厚である。「下地板63の単位面積重量」は、下地板63の材質に起因するものである。
図11(b)では、2枚の板材が貼り合わされているが、この場合には、「下地板63の単位面積重量」各板材の単位面積重量の和になる。下地板63は、1枚であってもよく、3枚以上であってもよい。「下地板63の取付け構造に対応した数値」は、下地板63とランナ61との接合構造に対応付けた数値であり、ビスを介した接合構造等、その構造の種類に対応した数値である。たとえば、これらの数値は、間仕切り壁60Aが損傷し易い用途の順に、大きい数値となるように数値が割り当てられていてもよい。
【0086】
また、
図11(b)に示す間仕切り壁60Bの構造の場合には、第4実施形態の第2変形例のように、教師データとなる既設建物の間仕切り壁情報に、「既設建物のALCボード66の厚さ」、「ALCボード66の幅B」、「ALCボード66を取り付ける取付け金具68の個数」、および「ALCボード66を支持する間柱67または耐風梁(図示せず)の有無に対応する数値」を用いてもよい(
図10の間仕切り壁情報2参照)。この場合、
図14に示すニューラルネットワーク11のモデルが構築される。
【0087】
「既設建物のALCボード66の厚さ」は、ALCボード66そのものの厚さである。「ALCボード66の幅B」は、ALCボード66の水平方向の大きさである。「ALCボード66を取り付ける取付け金具68の個数」は、例えば、躯体65などに取り付けられた金具68の個数である。なお、既存建物の金具68の取付けピッチを教師データとして用いてもよい。さらに、「ALCボード66を支持する間柱67または耐風梁(図示せず)の有無に対応する数値」は、たとえば無「0」、有「1」で割り当ててもよい。「ALCボード66を支持する間柱67または耐風梁(図示せず)の有無に対応する数値」ととともに、「ALCボード66を支持する間柱67または耐風梁(図示せず)の剛性および耐力を数値化した値」を教師データに用いてもよい。
【0088】
さらに、間仕切り壁の構造が、組積造である場合には、第4実施形態の第3変形例のように、教師データとなる既設建物の間仕切り壁情報に、「間仕切り壁内の補強鉄筋の有無に対応した数値」を用いてもよい(
図10の間仕切り壁情報3参照)。この場合、
図15に示すニューラルネットワーク11のモデルが構築される。
【0089】
「間仕切り壁内の補強鉄筋の有無に対応した数値」は、煉瓦またはコンクリートブロックが積まれた間仕切り壁内の補強鉄筋の有無を、たとえば無「0」、有「1」で割り当ててもよい。
【0090】
そして、第1~第3変形例では、演算装置10Aで、それぞれ、
図13~
図15に示すように、機械学習により、既設建物の地震情報、構造情報、用途情報、間仕切り壁情報、および間仕切り壁の地震損傷値を教師データとして、任意の対象建物に対する間仕切り壁の地震損傷値の算出モデルを構築する。構築したモデルを用いて利活用時に、演算装置20Aは、任意の対象建物に対応する地震情報、構造情報、用途情報、および天井情報から、対象建物に対応する間仕切り壁の地震損傷値を算出する。なお、ニューラルネットワーク11の構成と、学習および利活用については、第1実施形態と同じであるので、その詳細な説明省略する。
【0091】
上述した情報を教師データとして、機械学習した演算装置10Aを用いることにより、第1実施形態の効果と同様の効果を奏するとともに、より少ない入力情報から任意の対象建物に対応する間仕切り壁の地震損傷値をより正確に算出することができる。なお、本実施形態では、間仕切り壁情報を教師データとして入力したが、たとえば、間仕切り壁のおおまかな損傷を予測するのであれば、教師データに間仕切り壁情報を用いなくてもよい。第1実施形態に示した
図5に示す情報を教師データとしてさらに用いてもよい。
【0092】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0093】
1:地震被害予測システム、10:メインサーバ、10A:演算装置、20:携帯端末、20A:演算装置、11:ニューラルネットワーク、61:ランナ