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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 24/14 20060101AFI20230825BHJP
   B43K 24/16 20060101ALI20230825BHJP
   B43K 21/00 20060101ALI20230825BHJP
   B43K 24/18 20060101ALN20230825BHJP
【FI】
B43K24/14 110
B43K24/16
B43K21/00
B43K24/18 100
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019211281
(22)【出願日】2019-11-22
(65)【公開番号】P2021079676
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000108328
【氏名又は名称】ゼブラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】内山 雄也
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-202363(JP,A)
【文献】特開2004-181836(JP,A)
【文献】特開2018-089947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 24/16
B43K 24/14
B43K 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端から後端に伸びる軸線を有し、前記前端に開口が形成された軸筒と、
前記軸筒の内部に配置され、前記開口から外に出没可能な中芯と、
前記中芯を前記開口から外に出没させるための第1出没機構と、を備え、
前記第1出没機構は、
前記中芯を保持する中芯ホルダーと、
前記中芯ホルダーの後方に取り付けられ、後方に向かって突出する第1突部を含むスライド駒と、
前記スライド駒を前記中芯に対して後方に付勢する第1弾性部材と、
前記軸筒に係合すると共に、前記中芯を保持し、前記スライド駒を前記軸線方向に沿って摺動可能なように収容する中駒と、
前記中駒に対して回転可能であり、前記第1弾性部材よりも強い付勢力の第2弾性部材によって前方に付勢される回転カムと、を有し、
前記回転カムは、筒状のカムケースと、前記カムケースと別体であって当該カムケースに対して前記軸線方向にスライド移動可能なカム部とを含み、前記カム部には、前記スライド駒の前記第1突部に向かって突出する第2突部と、前記スライド駒の前記第1突部に当接する凹部とが設けられ、前記スライド駒の前記第1突部が前記凹部に当接することにより前記中芯が前記開口から外に突出する、筆記具。
【請求項2】
前記カム部の前記第2突部及び前記凹部は、前記カム部の内周面に設けられている、請求項1に記載の筆記具。
【請求項3】
前記カム部は、前記カムケースの内周面に沿ってスライド移動可能である、請求項1又は2に記載の筆記具。
【請求項4】
前記軸筒は、前記開口が形成された前筒と、前記前筒に対し回転可能に連結された後筒とを有し、
前記中芯、前記中芯ホルダー、前記スライド駒、及び前記第1弾性部材はそれぞれ複数設けられ、
前記第1出没機構は、前記前筒と前記後筒との回転角度に応じて、前記複数の中芯のうち一の中芯を前記開口から外に出没させる、請求項1~3の何れか一項に記載の筆記具。
【請求項5】
前記前筒に対して前記軸線方向にスライド移動可能に設けられるノック部を有し、前記ノック部が前記軸線方向の前方に押し下げられたときに、前記複数の中芯のうち特定の中芯を前記開口から外に出没させる第2出没機構を更に備える、請求項4に記載の筆記具。
【請求項6】
前記カム部が前記カムケースに対して前記軸線方向の前方に移動することにより、前記中芯であるシャープペンシル用中芯からシャープ芯の繰り出しが行われる、請求項1~5の何れか一項に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸筒を構成する前筒と後筒とを相対回転させることにより、複数の中芯のうちの一の中芯を前筒の前端の開口から出没させる回転式の多芯筆記具が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2、又は特許文献3)。このような多芯筆記具では、後筒の内部に、後筒と共に回転する円筒形状の回転カムが設けられている。この回転カムには、前方に向かって凸となるカム面が形成されている。この回転カムを後筒と共に回転させると、中芯を保持するスライド駒の後端部が、回転カムのカム面に当接しながら中駒のガイド溝に沿って前後方向に摺動する。そして、スライド駒の後端部がカム面の前端部に入り込むことにより、前筒の開口から中芯を出没させた状態が維持される。この状態から回転カムを後筒と共に更に回転させると、スライド駒の後端部がカム面の前端部から外れて中駒のガイド溝に沿って後方に移動し、前筒の開口から出没した中芯が前筒の内部に引き戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-61605号公報
【文献】実公平4-42153号公報
【文献】実公昭56-55021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような筆記具を使用する使用者は、前筒と後筒との回転操作を行うことで、複数の中芯のうち一の中芯を前筒の開口から出没させることができる。しかし、使用者は、複数の中芯の中から所望の中芯(例えば頻繁に使用する中芯)を出没させたい場合、所望の中芯が出没するまで回転操作を行う必要があり、更に、出没した中芯が所望の中芯であるか否かを目視で確認する必要がある。このように、所望の中芯を出没させるまでに手間がかかり、直ちに所望の中芯を出没させて筆記状態にすることができないので、当該手間が煩わしいという問題がある。従って、複数の中芯の中から所望の中芯を出没させる際の操作性において改善の余地がある。
【0005】
ところで、軸筒に収容された複数の中芯のうち所望の中芯を容易に出没させられる機能を従来の回転出没式筆記具(図14(a)を参照)に付与しようとすると、所望の中芯を前方に押し出す力が必要となることから、例えば図15に示すように回転カム102を軸筒の前方(R2)に強く付勢する構成を考えることができる。しかしながら、回転カム102を前方に強く付勢する構成を単に採用すると、前筒に対する後筒の回転操作の際、中芯の1つであるシャープペンシル用中芯のノック操作用の中駒101の溝101aに回転カム102のスライド突起102aが引っ掛かってしまい(図14(b)及び図15を参照)、中芯を出没させるための回転動作を適切に行うことができないといった問題が生じ得る。
【0006】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、回転カムに対して軸筒の前方に所定の付勢力が付与される構成を有する筆記具において、軸筒の回転動作をスムーズに行うことができる構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る筆記具は、前端から後端に伸びる軸線を有し、前端に開口が形成された軸筒と、軸筒の内部に配置され、開口から外に出没可能な中芯と、中芯を開口から外に出没させるための第1出没機構と、を備える。第1出没機構は、中芯を保持する中芯ホルダーと、中芯ホルダーの後方に取り付けられ、後方に向かって突出する第1突部を含むスライド駒と、スライド駒を中芯に対して後方に付勢する第1弾性部材と、軸筒に係合すると共に、中芯を保持し、スライド駒を軸線方向に沿って摺動可能なように収容する中駒と、中駒に対して回転可能であり、第1弾性部材よりも強い付勢力の第2弾性部材によって前方に付勢される回転カムと、を有する。回転カムは、筒状のカムケースと、カムケースと別体であって当該カムケースに対して軸線方向にスライド移動可能なカム部とを含み、カム部には、スライド駒の第1突部に向かって突出する第2突部と、スライド駒の第1突部に当接する凹部とが設けられ、スライド駒の第1突部が凹部に当接することにより中芯が開口から外に突出する。
【0008】
この筆記具では、従来は一部品から構成されていた回転カムを、カムケースと、このカムケースと別体であり当該カムケースに対して前記軸線方向にスライド移動可能なカム部とから構成するようにしている。このように中駒に対して回転可能なカムケースと、軸線方向に沿って動くカム部とを別体として設けているため、従来のような中駒の溝や当該溝を通るスライド部が不要になる。このため、この筆記具によれば、回転カムに対して軸筒の前方に向けて所定の付勢力が第2弾性部材等により付与されたとしても、その付勢力によって軸筒の回転動作を妨げる構成がないため、軸筒の回転動作をスムーズに行うことができる。なお、本構成は、後述する実施形態に記載の「複数の中芯のうち所望の中芯を容易に出没させられる構成」を採用した筆記具に適用することが可能であるが、他の構成の筆記具に適用してもよい。
【0009】
上記の筆記具において、カム部の第2突部及び凹部は、カム部の内周面に設けられていることが好ましい。また、カム部は、カムケースの内周面に沿ってスライド移動可能であることが好ましい。これらの構成によれば、カム部によるスライド駒の軸線方向に沿った動作をよりスムーズにすることができ、中芯の出没を容易に行うことが可能となる。
【0010】
上記の筆記具において、軸筒は、開口が形成された前筒と、前筒に対し回転可能に連結された後筒とを有し、中芯、中芯ホルダー、スライド駒、及び第1弾性部材はそれぞれ複数設けられ、第1出没機構は、前筒と後筒との回転角度に応じて、複数の中芯のうち一の中芯を開口から外に出没させるようにしてもよい。この回転出没式の筆記具によれば、前筒と後筒との回転操作によって一の中芯を出没させることができるので、筆記具における中芯の出没操作が容易になる。
【0011】
上記の筆記具において、前筒に対して軸線方向にスライド移動可能に設けられるノック部を有し、ノック部が軸線方向の前方に押し下げられたときに、複数の中芯のうち特定の中芯を開口から外に出没させる第2出没機構を更に備えてもよい。この筆記具では、前筒と後筒とを回転させると、前筒と後筒との回転角度に応じて複数の中芯のうち一の中芯が開口から外に出没する。一方、ノック部を押し下げると、複数の中芯のうち特定の中芯が開口から外に出没する。つまり、この筆記具では、前筒と後筒との回転操作によって一の中芯を出没させることができるだけでなく、ノック部を押し下げる操作(ノック操作)によって特定の中芯を出没させることができる。従って、使用者は、複数の中芯の中から特定の中芯(所望の中芯)を開口から出没させたい場合、ノック操作を行えばよく、前筒と後筒との回転操作が不要となる。更に、ノック操作を行えば所望の中芯が開口から出没する構成となっているので、出没させた中芯が所望の中芯であるか否かの確認が不要となる。従って、この筆記具によれば、複数の中芯のうち所望の中芯を開口から出没させる際の手間を省くことができるので、所望の中芯を直ちに開口から出没させて筆記状態にすることができる。つまり、複数の中芯のうち所望の中芯を容易に開口から出没させることができる。
【0012】
上記の筆記具において、カム部がカムケースに対して軸線方向の前方に移動することにより、中芯であるシャープペンシル用中芯からシャープ芯の繰り出しが行われてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、回転カムに対して軸筒の前方に向けて所定の付勢力が付与される構成を有する筆記具において、軸筒の回転動作をスムーズに行うことができる構成を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る筆記具の外観を示す斜視図である。
図2図2は、図1の筆記具を示す分解斜視図である。
図3図3は、図1の筆記具を示す断面図である。
図4図4(a)は、中駒を示す平面図である。図4(b)は、図4(a)のIVb-IVb線に沿った断面図である。
図5図5(a)は、回転カムを示す平面図である。図5(b)は、図5(a)のVb-Vb線に沿った断面図である。
図6図6は、回転カムの回転によって中芯を開口から外に出没させる機構を説明するための斜視図である。
図7図7(a)は、押子を示す平面図である。図7(b)は、図7(a)のVIIb-VIIb線に沿った断面図である。
図8図8(a)は、ノック部が押し下げられる前の押子及び回転カムの状態を示す平面図である。図8(b)は、ノック部が押し下げられたときの押子及び回転カムの状態を示す平面図である。
図9図9(a)は、支持部材を示す平面図である。図9(b)は、図9(a)のIXb-IXb線に沿った断面図である。
図10図10(a)は、ノック部が押し下げられる前の支持部材の付近を拡大した断面図である。図10(b)は、ノック部が押し下げられたときの支持部材の付近を拡大した断面図である。
図11図11(a)は、ノック部が押し下げられる前の筆記具の状態を示す断面図である。図11(b)は、ノック部が押し下げられたときの筆記具の状態を示す断面図である。
図12図12(a)は、図11(b)に示す状態から、ノック部が更に押し下げられたときの筆記具の状態を示す断面図である。図12(b)は、図12(a)に示す状態から、ノック部が元の位置に復帰したときの筆記具の状態を示す断面図である。
図13図13(a)は、回転カムに対して軸筒の前方に向けて所定の付勢力が付与された場合において、本実施形態に係るカムケースとカム部とが接触している状態を示す一部透過平面図であり、図13(b)は、カムケースとカム部とが離れている状態を示す一部透過平面図である。
図14図14(a)は、従来の回転出没式筆記具の一例を示す図であり、図14(b)は、その一部拡大図である。
図15図15は、図14に示す従来の回転出没式筆記具において、前方に向けて付勢力が付与された場合の問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る筆記具について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下の説明において、「軸線」は、軸筒の前後に延びる中心線を意味し、「軸線方向」は、軸線に沿った方向(前後方向)を意味する。「径方向」は、軸線と直交する方向を意味し、「周方向/回転方向」は、軸線を中心とする環に沿う方向を意味する。「前/前方」は、軸線方向の一方側であって筆記具の先端側を意味し、「後/後方」は、軸線方向の他方側であって筆記具の先端方向とは逆の後端側を意味する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る筆記具1の外観を示す斜視図である。図2は、筆記具1を示す分解斜視図である。図3は、筆記具1を示す断面図である。図1図3に示すように、筆記具1は、前筒11及び前筒11に対し回転可能に連結された後筒12を有する軸筒10と、軸筒10の内部に配置された複数の中芯20とを備えている。また、図3に示すように、筆記具1は、前筒11と後筒12との回転に応じて複数の中芯20のうち一の中芯20を軸筒10の前端から外に出没させる第1出没機構M1と、ノック部100を押し下げる操作(ノック操作)により、複数の中芯20のうち特定の中芯を軸筒10の前端から外に出没させる第2出没機構M2と、を備えている。
【0017】
筆記具1は、第1出没機構M1を備えることによって、前筒11と後筒12との回転(回転操作)により複数の中芯20のうち一の中芯20を出没させることができる。また、筆記具1は、第2出没機構M2を備えることによって、ノック操作により複数の中芯20のうち特定の中芯を出没させることができる。本実施形態では、筆記具1は、第2出没機構M2が第1出没機構M1を利用して特定の中芯を出没させる構成となっている。具体的には、第2出没機構M2は、前筒11と後筒12との回転角度を特定の回転角度に規制し、第1出没機構M1によって特定の回転角度に応じた特定の中芯を出没させる。しかし、第2出没機構M2は、第1出没機構M1を利用せず、第1出没機構M1とは別の機構により特定の中芯を出没させてもよい。
【0018】
軸筒10は、軸線方向Dに沿って延在する円筒形状をなしており、例えば樹脂材料によって形成されている。前筒11は軸筒10の前部を構成し、後筒12は軸筒10の後部を構成する。前筒11は、前筒11の前端を含む先筒13と、先筒13が取り付けられる中筒14と、中筒14を収容する表示カバー15と、を含んでいる。先筒13は、前方に向かうに従って先細りとなる円筒形状をなしている。先筒13の前端には、中芯20の先端部(ペン先)が出没可能な開口13aが形成されている。
【0019】
図2及び図3に示すように、中筒14は段付き円筒形状をなしており、中筒14の前部14a及び後部14bの外径は、中筒14の中央部14cの外径よりも小さくなっている。中筒14の前部14aは、先筒13に対し着脱可能に係合している。具体的には、前部14aの外周面に形成された雄螺子と、先筒13の後部の内周面に形成された雌螺子との螺合によって、先筒13は中筒14に対し取り外し可能となっている。中芯20を未使用の中芯に交換する際には、先筒13を中筒14から取り外すことで、中芯20を容易に交換することができる。
【0020】
表示カバー15は、中筒14の中央部14c及び後部14bの外周面を覆う円筒形状をなしている。表示カバー15の内周面は、中筒14の中央部14cの外径と同程度となっており、中央部14cの外周面に対し回転不能且つ軸線方向Dへ移動不能に係合している。表示カバー15の外周面は、筆記具1の外部に露出しており、外部から視認可能となっている。表示カバー15の外周面には、例えば、中芯20の種類を表示するマークが印刷されている。筆記具1の使用者は、表示カバー15のマークを確認することによって、出没させる中芯20の種類を区別することができる。
【0021】
後筒12は、前筒11に対し回転可能且つ軸線方向Dへ移動可能に連結されている。後筒12の外径は、表示カバー15の内径よりも小さく、後筒12の前部12aは、表示カバー15の内部に収容されている。後筒12の前部12aは、表示カバー15の内周面と中筒14の外周面との間に挟まれている。後筒12の前部12aが表示カバー15の内周面及び中筒14の外周面に沿って摺動することにより、後筒12は前筒11に対し回転可能且つ軸線方向Dへ移動可能となっている。後筒12には、前部12aの前端から軸線方向Dに沿って延在するスリット12bが形成されている。スリット12bには、後述するシャープペンシル用のノック部90が差し込まれる。後筒12の後側の内周面には、当該内周面から径方向内側に向かって突出すると共に周方向にわたって延在する環状突部12c(図3参照)が形成されている。
【0022】
図2及び図3に示すように、複数の中芯20は、例えば、2本のボールペン用の中芯20a及び20bと、シャープペンシル用の中芯20cと、を含んでいる。例えば、中芯20aは、赤色のインクが入った中芯であり、中芯20bは、黒色のインクが入った中芯である。中芯20a,20b,及び20cは、例えば、前筒11の内部において、周方向に沿って等間隔で並んで配置されている。なお、複数の中芯20は、中芯20a,20b,及び20cに限定されず、中芯20a,20b,及び20cとは異なる種類の中芯を含んでもよい。また、中芯20の数は2本以上であればよく、3本に限定されず4本以上であってもよい。以下の説明では、中芯20a,20b,及び20cを区別して説明する必要が無い場合には、中芯20a,20b,及び20cをまとめて中芯20と称する。
【0023】
中芯20の後方には中芯ホルダー21が設けられている。中芯ホルダー21は、軸線方向Dを中心軸方向とする円筒形状をなしており、中芯20の後端部を着脱可能に保持している。中芯ホルダー21の後方にはスライド駒22が設けられている。スライド駒22は、軸線方向Dを中心軸方向とする円筒形状をなしており、スライド駒22の前部の内部に中芯ホルダー21が差し込まれている。スライド駒22は、中芯ホルダー21の後端部に対し回転可能且つ軸線方向Dへ移動不能に係合している。スライド駒22の径方向内側の外周面は、後述する中駒30のガイド溝33a(図3参照)に沿って摺動する摺動部となっている。また、スライド駒22の径方向外側の外周面には、当該外周面から径方向外側に突出する突部22a(第1突部)が設けられている。突部22aは、突部22aの突出方向から見て、後方に向かうに従って周方向の幅が徐々に狭くなる三角形状をなしている。
【0024】
中駒30は、軸筒10の内部に挿入されており、中芯20を保持している。中駒30は、図3に示すように、前筒11の中筒14の内部から後筒12の内部にわたって軸線方向Dに延在している。中駒30は、前筒11の中筒14に対し回転不能に係合しており、後筒12に対し回転可能となっている。また、中駒30は、後筒12と共に前筒11に対し軸線方向Dに移動可能となっている。
【0025】
図4(a)は、中駒30を示す平面図である。図4(b)は、図4(a)のIVb-IVb線に沿った断面図である。図4(a)及び図4(b)に示すように、中駒30は、中駒30の前部を構成する前側筒部31と、中駒30の後部を構成する後側筒部32(筒状部)と、前側筒部31及び後側筒部32を軸線方向Dに連結する棒状部33と、を含んでいる。前側筒部31は、前方に開口を有する有底筒状をなしており、中芯20の後端部及び中芯ホルダー21の前端部を収容している(図3参照)。前側筒部31の底部には、当該底部を軸線方向Dに貫通する複数の貫通孔31aが形成されている。各貫通孔31aは、各中芯ホルダー21に対応するように配置されており、各貫通孔31aには、各中芯ホルダー21がそれぞれ挿通されている。
【0026】
棒状部33は、前側筒部31の底部から後方に軸線方向Dに延在している。棒状部33の外径は、前側筒部31の外径よりも小さく、棒状部33の外周面には、複数の貫通孔31aにそれぞれ連通する複数のガイド溝33aが形成されている。各ガイド孔は、各貫通孔31aからそれぞれ後方に直線状に延在している。図3に示すように、ガイド溝33aの内部には、中芯ホルダー21及びスライド駒22が収容される。ガイド溝33aの内面では、スライド駒22の外周面が軸線方向Dに摺動する。ガイド溝33aの内部において、中芯ホルダー21にはスプリングS1(第1弾性部材)が巻回されている。スプリングS1の前端は、前側筒部31と棒状部33との段差部に当接しており、スプリングS1の後端は、スライド駒22の前端に当接している。スプリングS1の付勢力によって、スライド駒22は、中駒30の前側筒部31に対し後方に付勢されている。
【0027】
後側筒部32は、棒状部33の後端から円筒状に突出している。後側筒部32の外径は、棒状部33の外径と同程度となっている。後側筒部32の前側部分には、図4(a)及び図4(b)に示すように、径方向において互いに対面する一対の位置に一対の弾性突部32aがそれぞれ形成されている。弾性突部32aは、後側筒部32の外周面から径方向外側に突出している。図4(a)に示すように、後側筒部32における弾性突部32aの周囲には、後側筒部32の内外を連通するU字状の切欠きが形成されており、当該切欠きによって弾性突部32aは径方向に弾性を有している。当該切欠きは、後側筒部32における弾性突部32aの周方向の両脇に穿設されて軸線方向Dに延在する一対のスリット32bと、後側筒部32における弾性突部32aの前方に穿設され一対のスリット32bに連続して周方向に延在するスリット32cと、を含んでいる。
【0028】
上記切欠きに囲まれた後側筒部32の壁部は、径方向に可撓性を有するアームをなしている。よって、当該アームの前端部の外面に配置された弾性突部32aは、径方向に付勢力を有する。このため、弾性突部32aは、径方向内側に外力を受けると後側筒部32の内側に入り込み、当該外力が解除されると元の位置に復帰する。弾性突部32aは元の位置にある場合において、後述する回転カム40のカムケース41の後端に軸線方向Dに対面している(図10(a)及び図10(b)参照)。後側筒部32の後側部分は、後側筒部32の前側部分の後端から二股に分かれて互いに径方向に対面する一対のアーム32dを有している。一対のアーム32dは、後側筒部32の後端から前方に所定長さ延在する一対のスリット32eによって形成される。一対のスリット32eは、一対のアーム32dの対面方向と直交する径方向に互いに対面する一対の位置にそれぞれ形成されている。
【0029】
再び図3を参照する。図3に示すように、回転カム40は、後筒12の内部に収容されており、後筒12に対し同期回転可能に係合している。また、回転カム40は、軸線方向Dを中心軸方向とする円筒形状をなしており、回転カム40の内部には、中駒30の棒状部33が挿通されている。回転カム40は、棒状部33に対し回転可能となっている。従って、回転カム40は、中駒30に対し後筒12と共に回転する。中駒30は、上述したように、前筒11に対し回転不能に係合しているので、前筒11と後筒12との回転角度は、中駒30と回転カム40との回転角度によって規制することができる。
【0030】
また、回転カム40の前端は、軸線方向Dにおいて中筒14の後部14bの後端(縁部)に当接している。これにより、前筒11に対する回転カム40の前方への移動が規制されている。回転カム40の後方には、後述するスプリングsが設けられており、スプリングS2(第2弾性部材)の付勢力によって、回転カム40は前方に付勢されている。このように、回転カム40が後部14bの後端とスプリングS2とによって挟まれることにより、前筒11に対する回転カム40の軸線方向Dの位置が維持される。
【0031】
図5(a)は、回転カム40を示す平面図である。図5(b)は、図5(a)のVb-Vb線に沿った断面図である。図5(a)及び図5(b)に示すように、回転カム40は、軸線方向Dを中心軸方向とする段付き円筒形状のカムケース41と、カムケース41とは別体の湾曲板状のカム部42と、を含んでいる。カムケース41は、カムケース41の前部を構成する前側筒部43と、カムケース41の後部を構成する後側筒部44と、を含んでいる。後側筒部44の外径は、前側筒部43の外径よりも小さく、前側筒部43と後側筒部44との境界には段差部45が形成されている。
【0032】
カム部42は、前側筒部43の内部に収容されており、前側筒部43の内周面に沿って湾曲している。カム部42は、前側筒部43の内周面と相対回転不能に係合している。また、カム部42の外周面が前側筒部43の内周面に軸線方向Dに摺動することで、カム部42は、前側筒部43に対し軸線方向Dにスライド可能となっている。カム部42の後端は、軸線方向Dにおいて前側筒部43の内周面(具体的には、カムケース41の内部における前側筒部43と後側筒部44との段差面)に当接している。これにより、前側筒部43に対するカム部42の後方への移動が規制されている。カム部42の前端は、前側筒部43の前端から前方に突出している。
【0033】
カム部42の内面には、図5(b)に示すように、当該内面から径方向内側に突出する突部42a(第2突部)が形成されている。突部42aは、突部42aの突出方向から見て、前方に向かって周方向の幅が徐々に狭くなる三角形状をなしている。突部42aの前端部(先端部)には、後方に向かって僅かに窪む凹部42bが形成されている。カム部42の外面には、シャープペンシル用の中芯20を繰り出すためのシャープペンシル用のノック部90が取り付けられる(図3参照)。シャープペンシル用のノック部90は、前側筒部43に形成されるスリットを介して前側筒部43の外側に突出しており、筆記具1の外部に露出している。シャープペンシル用のノック部90は、前側筒部43に対しカム部42と共に前方にスライド可能となっている。シャープペンシル用の中芯20cが開口13aから出没した状態においてシャープペンシル用のノック部90を前方に押し下げることによって、中芯20cのシャープ芯を繰り出すことが可能となる。
【0034】
後側筒部44は、円筒形状の本体部44aと、本体部44aの外周面に形成されるカム受け部44bとを含んでいる。カム受け部44bは、後述する押子50のカム部52(図3及び図6参照)を受けるために設けられている。カム受け部44bは、本体部44aの外周面に形成されている。カム受け部44bは、段差部45から後方に向かって爪状に突出しており、本体部44aの外周面を周方向に取り囲んでいる。カム受け部44bは、具体的には、軸線方向Dに延在する円筒形状を、軸線方向Dの垂直面から傾斜した平面で切断したときの形状をなしている。カム受け部44bは、当該平面で切断した断面形状をなすカム受け面44cを含んでいる。カム受け面44cは、カム受け部44bの後端に形成されており、軸線方向Dの後方を向いている。カム受け面44cは、軸線方向Dにおいてカム部52のカム面52aと対面している(図3参照)。
【0035】
スライド駒22、中駒30、及び回転カム40は、前筒11と後筒12との回転角度に応じて複数の中芯20のうち一の中芯20を軸筒10の前端から外に出没させる第1出没機構M1を構成する。回転カム40は、前筒11と後筒12との回転を中芯20の軸線方向Dへの移動に変換することによって、前筒11と後筒12との回転角度に応じた中芯20を開口13aから外に出没させる。具体的には、前筒11に対し後筒12が回転すると、中駒30に対し回転カム40が回転し、回転カム40のカム部42が回転カム40の回転を中芯20の軸線方向Dへの移動に変換する。ここで、図6を参照して、回転カム40の回転によって中芯20を開口13aから外に出没させる機構について説明する。
【0036】
図6は、回転カム40の回転によって中芯20を開口13aから外に出没させる機構を説明するための斜視図である。なお、図6では、説明の便宜上、軸筒10及びシャープペンシル用のノック部90を省略して示している。中駒30に対し回転カム40が回転すると、回転カム40のカム部42の突部42aがスライド駒22の突部22aに当接する。カム部42の突部42aがスライド駒22の突部22aに当接すると、スライド駒22の突部22aは、カム部42の突部42aから力を受けて、ガイド溝33a(図3参照)に沿って軸線方向Dに摺動する。
【0037】
そして、図6に示すように、スライド駒22の突部22aがカム部42の突部42aの前端部に形成された凹部42bに入り込むと、そのスライド駒22に取り付けられた中芯20が開口13aから外に出没した状態となる。この状態から回転カム40を中駒30に対し更に回転させると、スライド駒22の突部22aがカム部42の凹部42bから外れてガイド溝33aに沿って後方に移動し、開口13aから出没した中芯20が軸筒10の内部に引き戻される。
【0038】
従って、中駒30に対する回転カム40の凹部42bの周方向の位置と、中駒30に対するスライド駒22の突部22aの周方向の位置(すなわち、中駒30に対する中芯20の周方向の位置)との位置関係に応じて、開口13aから出没する中芯20が切り替わる。例えば、凹部42bの周方向の位置が中芯20aの周方向の位置に一致したときに、中芯20aが開口13aから外に出没する。中芯20b及び中芯20cについても同様である。つまり、中駒30に対する凹部42bの回転角度が中駒30に対する中芯20の回転角度に一致したときに、その中芯20が開口13aから外に出没する。このように、複数の中芯20のうち、中駒30と回転カム40との回転角度(すなわち、前筒11と後筒12との回転角度)に応じた中芯20が、開口13aから外に出没する。
【0039】
また、図13図15を参照して、本実施形態に係る筆記具1の中駒30及び回転カム40の構成と、従来の筆記具Tの中駒101及び回転カム102の構成との違いについて説明する。図14(a)及び(b)に示すように、従来の筆記具Tでは、回転カム102は、中駒101に収容されるスライド駒及びスプリングによってやや弱い力で後方に付勢されており、前方に付勢するスプリング等は設置されていない。ところが、この従来構成の筆記具Tに対して上述したような第2出没機構Mを設けようとすると、図15に示すように、回転カム102に対して前方に付勢する力を付与する構成が必要となり、回転カム102を回転させる際に、回転カム102の内周に設けられたスライド突起102aが中駒101の溝101aに引っ掛かってしまい(領域A1及びA2を参照)、回転を阻害してしまう。なお、これらスライド突起102aや溝101aは、中芯がシャープペンシル用の中芯である場合のノック操作に用いられるガイドとして機能するものであり、この機能を取り除くことは困難である。
【0040】
そこで、本実施形態に係る筆記具1では、図5及び図13に示すように、回転カム40を、円筒形状のカムケース41と、カムケース41と別体であってカムケース41に対して軸線方向Dにスライド移動可能なカム部42とを含んで構成するようにしている。そして、スライド駒22の突部22aに向かって突出する突部42aと、スライド駒22の突部22aに当接する凹部42bとをカム部42に設けるようにし、スライド駒22の突部22aが凹部42bに当接することにより中芯20が開口から外に突出するようにしている。このため、筆記具1では、回転カム40に対して前筒11の前方に向けて所定の付勢力がスプリングS2から付与されたとしても、その付勢力によって軸筒10の回転動作を妨げる構成が回転カム40にはないため、前筒11に対する後筒12の回転動作をスムーズに行って、回転式出没筆記具として十分に機能させることができる。なお、本実施形態においては、スプリングS2による付勢力は、スプリングS1による付勢力よりも大きくなっている。また、筆記具1では、カム部42の突部42a及び凹部42bは、カム部42の内周面に設けられており、また、カム部42は、カムケース41の内周面に沿ってスライド移動可能である。このため、カム部42によるスライド駒22の動作をよりスムーズにさせることができ、中芯20の出没を容易に行うことが可能となる。
【0041】
再び、図2及び図3を参照する。上述した中駒30と、中芯20の後方において中駒30に固定される押子50と、中駒30の後方に設けられる消去部材60と、中駒30の後端部に設けられて消去部材60を支持する支持部材70と、軸筒10の後端から後方に突出しており消去部材60を覆うように支持部材70に取り付けられるキャップ80とは、前述のノック部100を構成する。ノック部100を構成する各部品は、前筒11に対し軸線方向Dにスライド可能となっている。使用者によりキャップ80が前方に押し下げられると、これに応じて、中駒30、押子50、消去部材60、及び支持部材70が前方に押し下げられる。ノック部100及び第1出没機構M1は、ノック操作により複数の中芯20のうち特定の中芯を軸筒10の前端から外に出没させる第2出没機構M2を構成する。即ち、本実施形態では、第2出没機構M2は、第1出没機構M1を共用してこれを利用し、特定の回転角度に応じた特定の中芯を開口13aから外に出没させる。
【0042】
押子50は、軸線方向Dを中心軸方向とする円筒形状をなしており、押子50の内部には、中駒30の後側筒部32が挿通されている。押子50は、後側筒部32に対し回転不能且つ軸線方向Dへ移動不能に係合している。従って、押子50は、前筒11に対し回転不能となっており、中駒30及び後筒12と共に前筒11に対し軸線方向Dに移動可能となっている。
【0043】
図7(a)は、押子50を示す平面図である。図7(b)は、図7(a)のVIIb-VIIb線に沿った断面図である。図7(a)及び図7(b)に示すように、押子50は、軸線方向Dを中心軸方向とする円筒形状の基部51と、基部51の前端から前方に爪状に突出するカム部52と、を含んでいる。基部51の内周面51aは、後側筒部32に対し回転不能且つ軸線方向Dへ移動不能に係合する部分である。カム部52の外径は基部51の外径よりも小さく、カム部52と基部51との境界には段差部53が形成されている。カム部52は、軸線方向Dに延在する円筒形状を、軸線方向Dの垂直面から傾斜した平面で切断したときの形状をなしている。カム部52は、当該平面で切断した断面形状をなすカム面52aを含んでいる。カム面52aの面形状は、回転カム40のカム受け面44cに対応しており、カム受け面44cに対し回転方向に係合可能に形成されている。カム面52aは、カム部52の前端に形成されており、軸線方向Dの前方を向いている。カム面52aは、上述したように、軸線方向Dにおいてカム受け面44cと対面している。
【0044】
図3及び図6に示すように、押子50と回転カム40との間には、スプリングS2が設けられている。スプリングS2の前端は、金属性のリングR1を介して回転カム40の段差部45に当接しており、スプリングS2の後端は、金属性の別のリングR2を介して押子50の段差部53に当接している。リングR1及びR2は、第1出没機構M1(又は第1出没機構M1及び第2出没機構M2)によって中芯を出没させる際に、相対回転する回転カム40と押子50との間にあるスプリングS2が、回転カム40と押子50との回転動作及び軸線方向Dに沿った摺動に伴って回転カム40の段差部45及び押子50の段差部53を傷つけないようにするために設けられている。押子50のカム部52及びカム受け部44bは、スプリングS2の内部に配置されている。スプリングS2の付勢力によって、回転カム40は、押子50に対し前方に付勢されている。回転カム40の前端は、上述したように、軸線方向Dにおいて中筒14の後部14bの後端に当接しているので、回転カム40は、スプリングS2の付勢力によって後部14bの後端(すなわち前筒11)に押し付けられる。これにより、前筒11に対する回転カム40の軸線方向Dの位置が維持されている。また、スプリングS2は、ノック部100が押し下げられたときに、押子50を後方に付勢することにより、ノック部100の位置を元の位置(押し下げられる前の位置)に復帰させる。
【0045】
押子50のカム部52、及び回転カム40のカム受け部44bは、ノック部100が押し下げられたときに、中駒30と回転カム40との回転角度、すなわち前筒11と後筒12との回転角度を規制する。図8(a)は、ノック部100が押し下げられる前の押子50及び回転カム40の状態を示す平面図である。図8(b)は、ノック部100が押し下げられたときの押子及び回転カムの状態を示す平面図である。なお、図8(a)及び図8(b)では、説明の便宜上、軸筒10及びスプリングS2,S3を省略して示している。図8(a)に示す状態から、ノック部100が押し下げられると、押子50が前方に移動し、押子50のカム面52aが回転カム40のカム受け面44cに当接する。この状態から押子50が更に前方に移動すると、カム受け面44cがカム面52aから受ける力によって、カム受け面44cは、カム面52aに対し回転し、カム面52aと回転方向に係合する。このように、カム受け面44cがカム面52aに回転方向に係合することにより、押子50に対する回転カム40の回転角度が特定の回転角度に規制される。
【0046】
押子50に対する回転カム40の回転角度は、押子50が固定される中駒30に対する回転カム40の回転角度、すなわち前筒11と後筒12との回転角度によって規定することができる。従って、カム受け面44cがカム面52aに回転方向に係合することにより、前筒11と後筒12との回転角度が特定の回転角度に規制され、回転カム40は、複数の中芯20のうち特定の回転角度に応じた特定の中芯を開口13aから外に出没させる。
【0047】
本実施形態において、「特定の回転角度」は、中駒30に対する回転カム40の凹部42bの回転方向の位置が、中駒30に対する中芯20a,20b又は20cの回転方向の位置に一致するときの、前筒11と後筒12との回転角度を意味する。本実施形態では、「特定の回転角度」が、中駒30に対する回転カム40の凹部42bの回転方向の位置が、中駒30に対する中芯20bの回転方向の位置に一致するときの前筒11と後筒12との回転角度である場合を例示する。「特定の回転角度」は、筆記具1の製造時に、中駒30に対する押子50の回転方向の位置を調整することによって設定することができる。「特定の中芯」は、「特定の回転角度」に対応する位置にあるいずれかの中芯20a,20b又は20cである。本実施形態では、「特定の中芯」は使用頻度の高い中芯20bとなる。
【0048】
従って、本実施形態では、ノック部100が押し下げられると、複数の中芯20のうち中芯20bが開口13aから外に出没する構成となっている。なお、「特定の中芯」は、使用者の意図に応じて変更することが可能である。中芯20は、上述したように、中芯ホルダー21から取り外し可能であるので、「特定の回転角度」に対応する位置にある中芯20bを他の中芯20a又は20cと入れ替えることによって、「特定の中芯」を他の中芯20a又は20cに設定することができる。従って、使用者は、開口13aから直ちに出没させたい所望の中芯(特定の中芯)を任意に設定することができる。
【0049】
再び、図2及び図3を参照する。消去部材60は、筆記具1による筆跡を消去するための部材であり、例えば消しゴムなどである。消去部材60は、例えば円柱形状をなしている。支持部材70は、消去部材60の前側部分を収容している。支持部材70は、後筒12の後端部の内部に差し込まれている。キャップ80は、支持部材70に対し着脱可能に係合している。支持部材70からキャップ80が取り外されることによって、消去部材60が使用可能な状態となる。
【0050】
図9(a)は、支持部材70を示す平面図である。図9(b)は、図9(a)のIXb-IXb線に沿った断面図である。支持部材70は、消去部材60を保持する保持部71と、保持部71を支持する支持部72と、を含んでいる。保持部71は、軸線方向Dを中心軸方向とする円柱状をなしている。保持部71の前側部分には、中駒30の後側筒部32の一対のアーム32dがそれぞれ挿入される一対の挿入孔71aが形成されている。一対のアーム32dが一対の挿入孔71aにそれぞれ嵌合することにより、保持部71は、中駒30の後側筒部32に対し回転不能且つ軸線方向Dへ移動不能となっている。保持部71の後側部分には、消去部材60が嵌合する凹部71bが形成されている。
【0051】
支持部72は、保持部71とは別体で構成されており、保持部71に対し回転不能且つ軸線方向Dへ移動可能となっている。支持部72は、保持部71を支持する本体部72aと、本体部72aの前端から前方に突出する棒状部72bと、棒状部72bの前端部から径方向外側に突出する突部72cと、を含んでいる。本体部72aは、後方に開口する有底筒状をなしており、保持部71を収容している。本体部72aの底部が保持部71の前端に軸線方向Dに当接することによって、保持部71に対する支持部72の後方への移動が規制されている。本体部72aの底部には、軸線方向Dに貫通する一対の貫通孔72dが形成されている。一対の貫通孔72dは、一対の挿入孔71aにそれぞれ対応している。一対の貫通孔72dには、中駒30の後側筒部32の一対のアーム32dがそれぞれ挿通されている。一対のアーム32dが一対の貫通孔72dにそれぞれ挿通されることにより、支持部72は、中駒30に対し回転不能となっている。また、貫通孔72dがアーム32dに対し軸線方向Dに摺動可能となっていることにより、支持部72は、保持部71に対し前方にスライド可能となっている。
【0052】
本体部72aの後側部分にはキャップ80が係合している。具体的には、本体部72aの後側部分の外周面に形成された雄螺子と、キャップ80の前側部分の内周面に形成された雌螺子との螺合によって、キャップ80が本体部72aに対し着脱可能に係合している。本体部72aの外周面には、当該外周面から径方向外側に向かって突出すると共に周方向にわたって延在する環状突部72eが形成されている。
【0053】
図3に示すように、環状突部72eは、後筒12の後端部の内周面に対し回転不能に係合しており、後筒12の環状突部12cと軸線方向Dに対面している。環状突部72eと後筒12の環状突部12cとの間には、スプリングS3が設けられている。スプリングS3の内部には、中駒30の後側筒部32と、支持部72の環状突部72eよりも前側の部分とが配置されている。スプリングS3の前端は、後筒12の環状突部12cに当接し、スプリングS3の後端は、本体部72aの環状突部72eに当接している。スプリングS3の付勢力によって、支持部72は、後筒12に対し後方に付勢されている。スプリングS3は、ノック部100が押し下げられたときに、支持部72を後方に付勢することにより、ノック部100の位置を元の位置に復帰させる。
【0054】
棒状部72bは、本体部72aの底部の中心部分から前方に突出している。棒状部72bは、図3に示すように、中駒30の後側筒部32の内部に挿入されており、突部72cの外径は、後側筒部32の内径と同一か僅かに小さくなっている。このため、後側筒部32の弾性突部32a(図4(a)及び図4(b)参照)の裏側に突部72cが位置するとき(すなわち、軸線方向Dにおいて弾性突部32aと突部72cとが同じ位置にあるとき)は、弾性突部32aが外力を受けて後側筒部32の内側に入り込もうとしても、弾性突部32aが突部72cに当接することによって、後側筒部32の内側への弾性突部32aの入り込みが抑制される。一方、棒状部72bの外径は、後側筒部32の内径よりも小さくなっており、棒状部72bと後側筒部32との径方向の隙間は、弾性突部32aが後側筒部32の内側に入り込むことを許容する。
【0055】
ノック部100が押し下げられる前の元の位置にあるとき、後側筒部32の弾性突部32aの裏側に突部72cが位置するように設計されている。図10(a)は、ノック部100が押し下げられる前の突部72cの付近を拡大した断面図である。図10(a)に示す状態では、弾性突部32aが径方向に突部72cに当接するので、後側筒部32の内側への弾性突部32aの入り込みが抑制される。従って、この状態では、回転カム40がスプリングS2の付勢力に抗して後方に移動して弾性突部32aに当接しても、弾性突部32aは、後側筒部32の内側に入り込まないので、弾性突部32aへの回転カム40の当接によって回転カム40の後退が規制される。
【0056】
図10(b)は、ノック部100が押し下げられたときの突部72cの付近を拡大した断面図である。ノック操作によりキャップ80を押し下げると、キャップ80が取り付けられる支持部72が中駒30に対し前方にスライドする。これに応じて、支持部72の突部72cも中駒30の後側筒部32に対し前方にスライドするので、突部72cは、弾性突部32aの裏側に位置しなくなる。この状態からキャップ80を更に押し下げると、後筒12の環状突部12cがスプリングS3を介して支持部72の環状突部72eから力を受けることで後筒12及び中駒30が共に前方にスライドし、中駒30の弾性突部32aが回転カム40のカムケース41の後端に軸線方向Dに当接する。このとき、弾性突部32aの裏側には突部72cが位置しないので、弾性突部32aは、カムケース41の後端から力を受けて後側筒部32の径方向内側に入り込む。これにより、後筒12及び中駒30が更に前方にスライド可能となるので、ノック部100の押し下げが妨げられる事態は生じない。このように、弾性突部32a及び突部72cは、回転カム40の後退を規制する一方、ノック部100の押し下げを許容する移動規制部Rを構成する。
【0057】
続いて、ノック操作により特定の中芯20bを開口13aから出没させる際の動作について説明する。図11(a)は、ノック部100が押し下げられる前の筆記具1の状態を示す断面図である。図11(b)は、ノック部100が押し下げられたときの筆記具1の状態を示す断面図である。図11(a)に示すように、ノック操作される前の状態では、赤色ボールペン用の中芯20aが開口13aから出没している。図11(a)に示す筆記具1の状態からノック部100が押し下げられると、図11(b)に示すように、軸筒10の後端から突出するキャップ80と、キャップ80が取り付けられた支持部72とが、スプリングS3の付勢力に抗して前方に押し下げられる。
【0058】
このとき、上述したように、支持部72の突部72cが、軸線方向Dにおいて中駒30の後側筒部32の弾性突部32aの裏側の位置から前方に移動し、弾性突部32aの裏側に突部72cが位置しなくなる。このため、支持部72と共にスプリングS3が押し下げられると、スプリングS3によって後筒12の環状突部12cが押し下げられる。その結果、後筒12、中駒30、押子50、消去部材60、及び支持部材70が一体となって前方に押し下げられる。中駒30が前方に押し下げられて中駒30の弾性突部32aが回転カム40のカムケース41の後端に当接すると、弾性突部32aは、カムケース41の後端から外力を受けて後側筒部32の内部に入り込む。これにより、後筒12、中駒30、押子50、消去部材60、及び支持部材70は、更に前方に押し下げられる。そして、押子50が前方に押し下げられて回転カム40に到達すると、押子50のカム面52aが回転カム40のカム受け面44cに当接する。
【0059】
図12(a)は、図11(b)に示す状態から、ノック部100が更に押し下げられたときの筆記具1の状態を示す断面図である。図12(b)は、図12(a)に示す状態から、ノック部100が元の位置に復帰したときの筆記具1の状態を示す断面図である。図12(a)に示すように、カム面52aがカム受け面44cに当接すると、カム受け面44cがカム面52aから受ける力により、回転カム40が押子50に対し回転する(図8(a)及び図8(b)参照)。そして、カム面52aがカム受け面44cに回転方向に係合することにより、回転カム40と中駒30との回転角度、すなわち前筒11と後筒12との回転角度が特定の回転角度に規制される。
【0060】
これにより、図12(b)に示すように、複数の中芯20のうち特定の回転角度に対応する特定の中芯20bが開口13aから出没する。このとき、前筒11と後筒12との回転に応じて、中駒30と回転カム40とが回転することにより、中芯20bに取り付けられたスライド駒22の突部22aの後端が、回転カム40のカム部42の突部42aに当接しながら中駒30のガイド溝33aに沿って軸線方向Dに摺動する。そして、スライド駒22の突部22aが突部42aの前端に形成された凹部42bに入り込むことで、前筒11の開口13aから特定の中芯20bが出没した状態が維持される。そして、スプリングS2及びスプリングS3の付勢力によって、ノック部100は元の位置に復帰する。
【0061】
続いて、本実施形態に係る筆記具1によって得られる効果を説明する。
【0062】
本実施形態に係る筆記具1では、前筒11と後筒12とを回転させると、前筒11と後筒12との回転角度に応じて複数の中芯20のうち一の中芯20が開口13aから外に出没する。一方、ノック部100を押し下げると、複数の中芯20のうち特定の中芯20bが開口13aから外に出没する。つまり、この筆記具1では、前筒11と後筒12との回転操作によって一の中芯20を出没させることができるだけでなく、ノック操作によって特定の中芯20bを出没させることができる。従って、使用者は、複数の中芯20の中から特定の中芯20b(所望の中芯20b)を開口13aから出没させたい場合、ノック操作を行えばよく、前筒11と後筒12との回転操作が不要となる。更に、ノック操作を行えば所望の中芯20bが開口13aから出没する構成となっているので、出没させた中芯20が所望の中芯20bであるか否かの確認が不要となる。従って、筆記具1によれば、複数の中芯20のうち所望の中芯20bを開口13aから出没させる際の手間を省くことができるので、所望の中芯20bを直ちに開口13aから出没させて筆記状態にすることができる。つまり、複数の中芯20のうち所望の中芯20bを容易に開口13aから出没させることができる。
【0063】
本実施形態に係る筆記具1では、第2出没機構M2は、ノック部100が軸線方向Dの前方に押し下げられたときに、前筒11と後筒12との回転角度を特定の回転角度に規制し、第1出没機構M1は、特定の回転角度に応じた特定の中芯20bを開口13aから外に出没させる。このように、第1出没機構M1を利用して第2出没機構M2を構成する場合、第1出没機構M1とは別の機構を利用して第2出没機構M2を構成した場合と比べて、第2出没機構M2を簡易な構成で実現することができる。これにより、ノック操作によって特定の中芯20bを出没させる機構をコンパクトにすることができ、筆記具1が必要以上に大型化することを抑制できる。
【0064】
本実施形態に係る筆記具1では、第2出没機構M2は、ノック部100が前方に押し下げられたときに、カム部52をカム受け部44bに対し回転方向に係合させることによって、前筒11と後筒12との回転角度を特定の回転角度に規制する。これにより、前筒11と後筒12との回転角度を特定の回転角度に規制する機構を簡易に構成することができるので、第2出没機構M2をより簡易な構成で実現することができる。
【0065】
本実施形態に係る筆記具1では、カム部52及びカム受け部44bのそれぞれは、軸線方向Dを中心軸方向とする円筒形状を有し、カム部52は、軸線方向Dに垂直な面から傾斜した平面で当該円筒形状を切断したときの断面形状を有するカム面52aを含み、カム受け部44bは、カム面52aに対応するカム受け面44cを含み、第2出没機構M2は、ノック部100が前方に押し下げられたときに、カム面52aをカム受け面44cに対し回転方向に係合させることによって、前筒11と後筒12との回転角度を特定の回転角度に規制する。このように、カム部52及びカム受け部44bを簡易な形状にすることによって、前筒11と後筒12との回転角度を特定の回転角度に規制する機構をより簡易に構成することができる。また、カム部52及びカム受け部44bの成形が容易となるので、筆記具1の製造工程の簡易化を図ることができる。
【0066】
本実施形態に係る筆記具1では、回転カム40は、軸線方向Dにおいて前筒11に当接することによって前筒11に対する前進が規制されており、カム部52と回転カム40との間には、カム部52に対し回転カム40を前方に付勢するスプリングS2が設けられていている。この構成では、ノック部100が押し下げられた後、スプリングS2の付勢力によってノック部100が元の位置に復帰される。また、スプリングS2の付勢力によって回転カム40が前方に付勢されることによって、前筒11に対する回転カム40の軸線方向Dの位置が維持される。つまり、スプリングS2は、ノック部100を元の位置に復帰させる機能と、回転カム40の軸線方向Dの位置を維持させる機能とを兼ねる。このように1つの部品に複数の機能を持たせることによって、部品点数の削減を図り、筆記具1の構成の簡易化を図ることができる。
【0067】
本実施形態に係る筆記具1では、移動規制部Rは、前筒11に対し回転カム40がカム部52側へ後退することを規制する一方、前筒11に対しカム部52が回転カム40側へ前進することを許容してもよい。移動規制部Rが、中芯20を出没させる回転カム40の後退を規制することによって、中芯20の軸筒10の内部への後退を規制することができる。これにより、出没した中芯20が筆記時の筆圧を受けて軸筒10の内部に引っ込んでしまう事態を抑制することができる。また、移動規制部Rがカム部52の前進を許容することによって、ノック部100の押し下げが移動規制部Rによって妨げられる事態を抑制できる。
【0068】
本実施形態に係る筆記具1では、移動規制部Rは、後側筒部32の外面から突出し、径方向に弾性を有する弾性突部32aを含み、軸線方向Dにおいて弾性突部32aが回転カム40に当接することによって、前筒11に対し回転カム40がカム部52側へ後退することが規制され、ノック部100が前方に押し下げられたときに、弾性突部32aが後側筒部32の内側に入り込むことによって、前筒11に対しカム部52が回転カム40側へ前進することが許容される。これにより、回転カム40の後退を規制する一方でカム部52の前進を許容する移動規制部Rを、簡易な構成で実現することができる。
【0069】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく様々な実施形態に適用することができる。例えば、上記実施形態では、カム部52とカム受け部44bとを係合させることによって、前筒11と後筒12との回転角度を特定の回転角度に規制する構成を例示したが、前筒11と後筒12との回転角度を特定の回転角度に規制する構成はこれに限られない。例えば、前筒11の後端部にカム受け部44bに相当するカム形状が直接形成され、後筒12の前端部にカム部52に相当するカム形状が直接形成されてもよく、これらカム形状を互いに当接させることによって、前筒11と後筒12との回転角度を特定の回転角度に規制してもよい。この場合でも上記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。また、カム部52及びカム受け部44bの形状は、必ずしも円筒形状をなしている必要は無く、他の様々な形状を採用し得る。
【符号の説明】
【0070】
1…筆記具
10…軸筒
11…前筒
12…後筒
13a…開口
20,20a,20c…中芯
21…中芯ホルダー
22…スライド駒
22a…突部
30…中駒
32…後側筒部(筒状部)
32a…弾性突部
40…回転カム
41…カムケース
42…カム部
42a…突部
42b…凹部
44b…カム受け部
44c…カム受け面
52…カム部
52a…カム面
100…ノック部
D…軸線方向
M1…第1出没機構
M2…第2出没機構
R…移動規制部
S1…スプリング
S2…スプリング
図1
図2
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