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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】イオンセンサ装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/414 20060101AFI20230825BHJP
【FI】
G01N27/414 301X
G01N27/414 301V
G01N27/414 301K
G01N27/414 301L
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019236925
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021105564
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】303018827
【氏名又は名称】Tianma Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】関根 裕之
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-190848(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/016226(US,A1)
【文献】特開平4-181150(JP,A)
【文献】特開2019-2820(JP,A)
【文献】特開2017-58320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
H01L 29/76-29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボトムゲート及びトップゲートを含む電界効果トランジスタと、
参照電極と、
前記参照電極及び前記トップゲートが浸される被測定溶液のイオン濃度を測定する、駆動回路と、
を含み、
前記駆動回路は、
前記電界効果トランジスタのドレインに定電流を与える定電流源と、
前記ドレインの電位が入力されるボルテージフォロワと、
を含み、
前記参照電極に一定の基準電位を与え、
前記ボルテージフォロワの出力と前記ボトムゲートとの間に、一定電圧を印加し、
前記ボルテージフォロワの出力電位を出力する、
イオンセンサ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のイオンセンサ装置であって、
前記駆動回路は、前記電界効果トランジスタを飽和領域において動作させる、
イオンセンサ装置。
【請求項3】
請求項1に記載のイオンセンサ装置であって、
前記トップゲートの絶縁膜の単位面積当たりの静電容量は、前記ボトムゲートの絶縁膜の単位面積当たりの静電容量より大きい、
イオンセンサ装置。
【請求項4】
請求項1に記載のイオンセンサ装置であって、
前記被測定溶液における特定の物質と作用するプローブ膜が、前記トップゲートに装着されている、
イオンセンサ装置。
【請求項5】
請求項1に記載のイオンセンサ装置であって、
複数の電界効果トランジスタを含み、
前記複数の電界効果トランジスタのそれぞれは、ボトムゲート及びトップゲートを含み、
前記複数の電界効果トランジスタは、前記トップゲートに装着された、前記被測定溶液内の異なる物質と相互作用する異なるプローブ膜を含み、
前記駆動回路は、前記複数の電界効果トランジスタそれぞれに対応する回路を含み、
前記対応する回路の各回路は、
対応する電界効果トランジスタのドレインに定電流を与える、対応定電流源と、
前記対応する電界効果トランジスタの前記ドレインの電位が入力される、対応ボルテージフォロワと、
を含み、
前記対応ボルテージフォロワの出力と前記対応する電界効果トランジスタの前記ボトムゲートとの間に、一定電圧を印加し、
前記対応ボルテージフォロワの出力電位を出力する、
イオンセンサ装置。
【請求項6】
請求項1に記載のイオンセンサ装置であって、
前記電界効果トランジスタは、酸化物半導体薄膜トランジスタである、
イオンセンサ装置。
【請求項7】
被測定溶液のイオン濃度を測定するため、ボトムゲート及びトップゲートを含む電界効果トランジスタと、参照電極と、を駆動する方法であって、
前記参照電極及び前記トップゲートが前記被測定溶液に浸された状態において、
前記電界効果トランジスタのドレインに定電流を与え、
前記ドレインの電位をボルテージフォロワに入力し、
前記参照電極に一定の基準電位を与え、
前記ボルテージフォロワの出力と前記ボトムゲートとの間に、一定電圧を印加し、
前記ボルテージフォロワの出力電位出力する、
方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、
前記電界効果トランジスタを飽和領域において動作させる、
方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法であって、
前記トップゲートの絶縁膜の単位面積当たりの静電容量は、前記ボトムゲートの絶縁膜の単位面積当たりの静電容量より大きい、
方法。
【請求項10】
請求項7に記載の方法であって、
前記電界効果トランジスタは、複数の電界効果トランジスタの一つであり、
前記複数の電界効果トランジスタのトップゲートのそれぞれに、異なる物質と相互作用するプローブ膜が装着され、
前記方法は、
前記参照電極及び前記複数の電界効果トランジスタそれぞれの前記トップゲートが前記被測定溶液に浸された状態において、
前記複数の電界効果トランジスタそれぞれのドレインに定電流を与え、
前記複数の電界効果トランジスタのドレインの電位を、それぞれ、異なるボルテージフォロワに入力し、
前記異なるボルテージフォロワの出力と前記複数の電界効果トランジスタそれぞれのボトムゲートとの間に、一定電圧を印加し、
前記異なるボルテージフォロワのそれぞれの出力電位を出力する、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イオンセンサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
pH測定や、バイオセンシングの分野等で、電界効果トランジスタを使用するイオンセンサ(ISFET:Ion Sensitive Field Effect Transistor)が利用されている。ISFETにおいて電界効果トランジスタのゲート電極は取り除かれている。ISFETによるイオン濃度の測定は、参照電極を被測定溶液内に挿入し、電界効果トランジスタのゲート絶縁膜を被測定溶液内で露出させる。被測定溶液とISFETの絶縁膜との界面に電気二重層が形成され、電気二重層の電圧が、ISFETのチャネル界面電位を変化させる。
【0003】
ISFETでイオン濃度を評価する方法は、以下のようにまとめることができる。
(1)ゲート絶縁膜を被測定溶液に浸す。被測定溶液は参照電極にも接している。
(2)ISFETのソース-ドレイン間に一定の電圧を印加する。
(3)ドレイン電流が一定になるように、参照電極に対するソース電位を変化させる。
【0004】
被測定溶液のイオン濃度に応じて、参照電極-ゲート間の電圧は変動する。また、参照電極-ゲート間の電圧変化に応じて、ソース電位が変化する。ソース電位がISFETの出力であり、ソース電位から被測定溶液イオン濃度を求めることができる。ISFETの感度はNernstの式に従い、理論的に最大58.16mV/mol(T=293.15K)となる。
【0005】
ISFETの感度を向上する技術が、例えば、特許文献1及び特許文献2に開示されている。特許文献1に開示されている駆動回路は、トランジスタのドレイン電流を抵抗で電圧に変換・検出し、マイクロプロセッサでドレイン電流が一定になるように、ボトムゲート-ソース間電圧を制御する。結果として、ボトムゲート-ソース間電圧がイオン濃度に依存したトップゲート電圧の変動量として得られる。特許文献2に開示されている駆動回路は、マイクロプロセッサを用いずにアナログ回路だけで構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2017/0082570号
【文献】米国特許出願公開第2015/0276663号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている駆動回路は、マイクロプロセッサによる帰還回路と見なせる。そのため、マイクロプロセッサの入力(ドレイン電流の電流電圧変換及びアナログデジタル変換)の精度が、測定精度に大きく影響を及ぼす。
【0008】
特許文献2に開示されている駆動回路はアナログ回路だけで構成されており、ドレイン電流の電流電圧変換、アナログデジタル変換の精度が、測定精度に大きく影響を及ぼすことはない。しかし、被測定溶液に浸される参照電極の電位が、トランジスタのソース電位と等しくしなければならない。つまり、被測定溶液の電位が測定により変化する。例えば、測定対象を単一のイオン濃度ではなく、複数の種類のイオン濃度を同時に並列で測定するという応用を考えた場合、問題となり得る。
【0009】
従って、トランジスタを使用するイオンセンサ装置において、参照電極電位を固定し、出力精度を向上させる技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様に係るイオンセンサ装置は、ボトムゲート及びトップゲートを含む電界効果トランジスタと、参照電極と、前記参照電極及び前記トップゲートが浸される被測定溶液のイオン濃度を測定する、駆動回路と、を含む。前記駆動回路は、前記電界効果トランジスタのドレインに定電流を与える定電流源と、前記ドレインの電位が入力されるボルテージフォロワと、を含む。前記駆動回路は、前記参照電極に一定の基準電位を与え、前記ボルテージフォロワの出力と前記ボトムゲートとの間に、一定電圧を印加し、前記ボルテージフォロワの出力電位を出力する。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様によれば、トランジスタを使用するイオンセンサ装置において、参照電極電位を固定し、出力精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態のイオンセンサ装置に含まれるセンサトランジスタの構成例を模式的に示す断面図である。
図2】コントローラに含まれる駆動回路の構成例を示す。
図3】特定イオンのイオン濃度を選択的に測定するためのセンサトランジスタの構成例を示す。
図4】イオンセンサ装置に含まれる、センサトランジスタアレイの構成例を模式的に示す。
図5図4に示すセンサトランジスタを駆動するアレイ駆動回路の構成例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して実施形態を説明する。実施形態は本開示を実現するための一例に過ぎず、本開示の技術的範囲を限定するものではない。各図において共通の構成については同一の参照符号が付されている。説明をわかりやすくするため、図示した物の寸法、形状については、誇張して記載している場合もある。
【0014】
以下において、イオンセンサ装置の構成例を説明する。イオンセンサ装置は、被測定溶液に浸される参照電極及びセンサトランジスタ、並びに、これらを駆動する駆動回路を含む。駆動回路は、参照電極に一定の基準電位を与える。駆動回路は、センサトランジスタのドレインに定電流を与え、センサトランジスタのドレインの電位をボルテージフォロワに入力し、ボルテージフォロワの出力とボトムゲートとの間に一定電圧を印加する。ボルテージフォロワの出力は、被測定溶液のイオン濃度を示す値として出力される。この構成により、参照電極の電位を固定することができ、また、駆動回路の出力精度を向上させることができる。
【0015】
図1は、本実施形態のイオンセンサ装置に含まれるセンサトランジスタの構成例を模式的に示す断面図である。イオンセンサ装置は、図1に示すセンサトランジスタ10に加え、センサトランジスタ10によりイオン濃度を測定するコントローラ(不図示)を含む。コントローラは、センサトランジスタ10を駆動する駆動回路を含み、当該駆動回路の詳細は後述する。
【0016】
図1に示すセンサトランジスタ10の構成例は、薄膜トランジスタである。センサトランジスタ10は、絶縁基板101上に形成されたボトムゲート電極103を含む。絶縁基板101は、例えば、ガラス又は樹脂で形成される。ボトムゲート電極103は、例えば、アルミニウムを主成分とする合金材料で形成される。
【0017】
ボトムゲート絶縁膜105が、ボトムゲート電極103を覆うように、絶縁基板101上及びボトムゲート電極103上に形成されている。ボトムゲート絶縁膜105は、例えば、酸化シリコン膜である。
【0018】
島状の半導体膜107が、ボトムゲート絶縁膜105上に形成されている。半導体膜107は、例えば酸化物半導体で形成されている。酸化物半導体の例は、非晶質InGaZnO(a-InGaZnO)や微結晶InGaZnOである。この他、a-InSnZnO、a-InGaZnSnO、ZnO等の酸化物半導体を使用することができる。酸化物半導体は、他の薄膜半導体材料よりも飽和特性の優れたトランジスタを実現できる。
【0019】
ソース電極109及びドレイン電極111が、半導体膜107の上面の一部に接するように形成されている。ソース電極109及びドレイン電極111の材料として、例えば、チタンやモリブデンを使用することができる。
【0020】
トップゲート絶縁膜(イオン感応絶縁膜)113が、半導体膜107並びにソース電極109及びドレイン電極111の一部を覆うように、これらと接触して形成されている。トップゲート絶縁膜113は、例えば、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム等の高誘電体材料で形成される。
【0021】
これら高誘電体材料の比誘電率は、酸化シリコン膜の比誘電率より大きい。したがって、トップゲート絶縁膜113の単位面積当たりの静電容量は、ボトムゲート絶縁膜105の単位面積当たりの静電容量よりも大きい。
【0022】
保護膜115が、トップゲート絶縁膜113の一部を露出させるように、半導体膜107の他の一部並びにソース電極109及びドレイン電極111を覆うように形成されている。半導体膜107のチャネルに相当する領域上のトップゲート絶縁膜113が、保護膜115から露出している。保護膜115は、絶縁材料で形成され、例えば、エポキシ樹脂を使用することができる。
【0023】
上記構造を有するセンサトランジスタ10は、保護膜115から露出しているトップゲート絶縁膜113が被測定溶液15に浸されるように、参照電極13と共に、被測定溶液15内に配置される。コントローラは、参照電極13及びセンサトランジスタ10を駆動し、センサトランジスタ10から得られる信号から、被測定溶液15のイオン濃度を測定する。
【0024】
図1は、センサトランジスタ10の一例を示すものであって、本実施形態のイオンセンサ装置は、任意の構造(材料を含む)の電界効果トランジスタを使用することができる。例えば、絶縁基板101を省略し、ボトムゲート電極103に代えてシリコン基板を使用してもよい。半導体膜107は、酸化物半導体に限らず、アモルファスシリコン、ポリシコン、結晶シリコン等を使用してもよい。
【0025】
上述のように、参照電極13と、センサトランジスタ10のトップゲート絶縁膜(イオン感応絶縁膜)113は、被測定溶液15内で露出されている。被測定溶液15とトップゲート絶縁膜113との界面に電気二重層が形成され、電気二重層の電圧が、センサトランジスタ10のチャネル界面電位を変化させる。電気二重層は、被測定溶液15中のイオン濃度に依存する。そのため、センサトランジスタ10からの信号を参照することで、被測定溶液15中のイオン濃度を測定できる。
【0026】
以下において、参照電極13及びセンサトランジスタ10を使用したイオン濃度の測定方法を説明する。図2は、コントローラに含まれる駆動回路20の構成例を示す。駆動回路20は、参照電極13に対して基準電位を与える。図2の構成例において、基準電位は接地電位(GND)である。参照電極13とセンサトランジスタ10のトップゲートとの間に、被測定溶液15のイオン濃度に応じた電圧Vsigが発生している。
【0027】
駆動回路20は、センサトランジスタ10のドレインに接続された定電流源201と、定電流源201に、基準電位から一定の電圧Vpwを与える定電圧源203を含む。駆動回路20は、センサトランジスタ10のドレインに定電流Irefを与える。センサトランジスタ10のドレイン電流Idは、定電流Irefに等しい。
【0028】
図2の構成例において、基準電位は接地電位(GND)であり、定電流源201は基準電位に対して一定の電位に維持される。また、センサトランジスタ10のソースは、一定の基準電位に維持される。図2の構成例において、その基準電位は接地電位である。
【0029】
駆動回路20は、さらに、演算増幅器205を含む。演算増幅器205は、ボルテージフォロワを構成している。定電流源201とセンサトランジスタ10のドレインとの間のノードの電位が、演算増幅器205の非反転入力(+)に入力される。演算増幅器205の出力と反転入力(-)が接続され、負帰還が演算増幅器205にかけかれている。
【0030】
駆動回路20は、さらに、演算増幅器205の出力とセンサトランジスタ10のボトムゲートと間に、定電圧源207を含む。定電圧源207は、演算増幅器205の出力に対して一定の電圧Vbtだけ異なる電位を、センサトランジスタ10のボトムゲートに与える。なお、図2に示す構成例において全ての基準電位が接地電位であるが、上記基準電位は一定であれば、それぞれ異なる値であってもよい。
【0031】
駆動回路20の動作を説明する。センサトランジスタ10のトップゲートとソースとの間の電圧Vtgsは、被測定溶液15のイオン濃度に応じた値となる。したがって、ソース電位を基準とするトップゲート電位Vtgsを測定することで、被測定溶液15のイオン濃度を測定できる。
【0032】
センサトランジスタ10のドレインとソースとの間の電圧(ソース電位を基準とするドレイン電位)Vds、及び、センサトランジスタ10のバックゲートとソースとの間の電圧(ソース電位を基準とするバックゲート電位)Vbgsは、各々以下のようになる。
Vds=Vout (1)
Vbgs=Vout-Vbt (2)
Voutは、演算増幅器205の出力とセンサトランジスタ10のソースとの間の電圧(ソース電位を基準とする演算増幅器205の出力電位)である。
【0033】
演算増幅器205には負帰還がかけられており、反転入力と非反転入力との間の電位差はゼロである。したがって、センサトランジスタ10のドレイン電位Vdsは、演算増幅器205の出力電位Voutと等しい。また、定電圧源207が、演算増幅器205の出力電位から電圧Vbtだけ低い電位を、センサトランジスタ10のバックゲートに与える。
【0034】
ここで、センサトランジスタ10のドレイン電流Idは、所定の関数fで表わすことができる。
Id=f(Vbgs-(ctg/cbg)Vtgs,Vds) (3)
ctgはトップゲート絶縁膜の単位面積当たりの静電量であり、cbgはボトムゲート絶縁膜の単位面積当たりの静電容量である。上述のように、トップゲート絶縁膜の単位面積当たりの静電量がボトムゲート絶縁膜の単位面積当たりの静電容量大きい例においては、センサトランジスタ10の感度を上げることができる。
【0035】
駆動回路20は、センサトランジスタ10のドレイン電流Idを、定電流源201により定電流Irefに制限する。上述のように、センサトランジスタ10のドレインとソースとの間の電圧Vdsは変化し得るが、ドレイン電流Idは、ドレイン電位Vdsよりも、バックゲート電位Vbgs及びトップゲート電位Vtgsに大きく依存する。したがって、バックゲート電位Vbgsは、トップゲート電位Vtgsの一次式で表わされ、以下の関係が成立する。
Vbgs-(Ctg/Cbg)Vtgs=一定 (4)
【0036】
が示すように、バックゲート電位Vbgsは、演算増幅器205の出力電位Voutの一次式で表わされる。したがって、演算増幅器205の出力電位Voutは、トップゲート電位Vtgsの一次式で表わされる。トップゲート電位Vtgsは、被測定溶液15のイオン濃度に応じた値となるため、演算増幅器205の出力電位Voutは、被測定溶液15のイオン濃度を示す。コントローラは、演算増幅器205の出力電位Voutから、所定の関数に従って、イオン濃度を決定することができる。コントローラは、例えば、イオン濃度の測定値を表示装置において表示する。
【0037】
一例において、駆動回路20は、センサトランジスタ10を飽和領域において動作させる。これにより、ドレイン電流Idのドレイン-ソース間電圧Vdsへの依存度をより小さくすることができ、その結果、トップゲート電位Vtgsをより正確に測定することができる。
【0038】
上述のように、駆動回路20は、マイクロプロセッサを使用せず、アナログ回路だけで構成されている。そのため、マイクロプロセッサを使用する構成のように、アナログデジタル変換の為の回路要素が不要であり、測定精度を劣化させる要因を少なくできる。また、参照電極13の電位は任意の基準電位に固定することができ、被測定溶液15の電位が、測定中に変化することがない。そのため、例えば、一つの参照電極13と複数のセンサトランジスタとにより、被測定溶液15内の複数種類のイオンの濃度を同時に並列で測定できる。
【0039】
以下において、被測定溶液15内の特定の物質によるイオン濃度を選択的に測定するイオンセンサ装置の例を説明する。図3は、特定イオンのイオン濃度を選択的に測定するためのセンサトランジスタ17の構成例を示す。図1に示すセンサトランジスタ10との相違点を主に説明する。
【0040】
センサトランジスタ17は、図1に示すセンサトランジスタ10の構成に加え、トップゲート絶縁膜113の露出している部分を覆うように、トップゲート絶縁膜113に形成されたプローブ膜117を含む。プローブ膜117は、例えば、特定のイオン種と相互作用(例えば吸着)を行うイオン選択膜や、特定の物質と相互作用(例えば吸着)し、特定のイオンの濃度を増加させる有機膜(酵素膜や抗体膜等)である。
【0041】
例えば、特定の酵素膜は、膜内において、特定の物質との酵素反応により特定のイオン種の濃度を増加させる。センサトランジスタ17は、特定の物質の濃度に比例した電気信号を得ることができる。
【0042】
このように、センサトランジスタ17により、被測定溶液15内の特定物質(イオンを含む)の濃度に応じたイオン濃度を選択的に測定することができる。なお、図1の構成例において、トップゲート絶縁膜113を特定の材料で形成することで、特定イオン種の濃度を選択的に測定できる。このようなセンサ装置は、様々な分野、例えば、バイオテクノロジや医療分野等で利用することができる。
【0043】
図4は、イオンセンサ装置に含まれる、センサトランジスタアレイ19の構成例を模式的に示す。センサトランジスタアレイ19は、基板面に配置された複数のセンサトランジスタを含む。図4は、例として、二つのセンサトランジスタ17A及び17Bを示す。センサトランジスタ17A及び17Bの構造は、図3に示すセンサトランジスタ17と同様である。そのため、一部の構成要素の符号は省略されている。
【0044】
センサトランジスタ17A及び17Bは、異なる物質と相互作用を行うプローブ膜117A及び117Bを含む。センサトランジスタ17A及び17Bにより、被測定溶液15内の異なる物質の濃度をそれぞれ測定することができる。また、本実施形態の駆動回路を使用することで、センサトランジスタ17A及び17Bに対して共通の参照電極13を使用することができる。
【0045】
図5は、図4に示すセンサトランジスタ17A及び17Bを駆動するアレイ駆動回路25の構成例を示す。アレイ駆動回路25は、センサトランジスタ17A及び17Bそれぞれに対応するトランジス駆動回路を含む。各トランジスタ駆動回路は、図2を参照して説明した駆動回路と同様の構成を有している。
【0046】
具体的には、図5において、参照電極13とセンサトランジスタ17Aのトップゲートとの間に、被測定溶液15の特定物質に起因するイオン濃度に応じた電圧VsigAが発生している。アレイ駆動回路25は、センサトランジスタ17Aのドレインに接続された定電流源201Aと、定電流源201Aに基準電位から一定の電圧Vpwを与える定電圧源203とを含む。アレイ駆動回路25は、センサトランジスタ17Aのドレインに定電流IrefAを与える。センサトランジスタ17Aのドレイン電流IdAは、定電流IrefAに等しい。定電流源201Aは基準電位に対して一定の電位に維持される。また、センサトランジスタ17Aのソースは、一定の基準電位に維持される。
【0047】
アレイ駆動回路25は、さらに、演算増幅器205Aを含む。演算増幅器205Aは、ボルテージフォロワを構成している。定電流源201Aとセンサトランジスタ17Aのドレインとの間のノードの電位が、演算増幅器205Aの非反転入力(+)に入力される。演算増幅器205Aの出力と反転入力(-)が接続され、負帰還が演算増幅器205Aにかけかれている。
【0048】
アレイ駆動回路25は、さらに、演算増幅器205Aの出力とセンサトランジスタ17Aのボトムゲートと間に、定電圧源207Aを含む。定電圧源207Aは、演算増幅器205の出力に対して一定の電圧VbtAだけ異なる電位を、センサトランジスタ17Aのボトムゲートに与える。
【0049】
さらに、参照電極13とセンサトランジスタ17Bのトップゲートとの間に、被測定溶液15の特定物質に起因するイオン濃度に応じた電圧VsigBが発生している。定電圧源203は、センサトランジスタ17Bのドレインに接続された定電流源201Bに、基準電位から一定の電圧Vpwを与える。アレイ駆動回路25は、センサトランジスタ17Bのドレインに定電流IrefBを与える。センサトランジスタ17Bのドレイン電流IdBは、定電流IrefBに等しい。定電流源201Bは基準電位に対して一定の電位に維持される。また、センサトランジスタ17Bのソースは、一定の基準電位に維持される。
【0050】
アレイ駆動回路25は、さらに、演算増幅器205Bを含む。演算増幅器205Bは、ボルテージフォロワを構成している。定電流源201Bとセンサトランジスタ17Bのドレインとの間のノードの電位が、演算増幅器205Bの非反転入力(+)に入力される。演算増幅器205Bの出力と反転入力(-)が接続され、負帰還が演算増幅器205Bにかけかれている。
【0051】
アレイ駆動回路25は、さらに、演算増幅器205Bの出力とセンサトランジスタ17Bのボトムゲートと間に、定電圧源207Bを含む。定電圧源207Bは、演算増幅器205の出力に対して一定の電圧VbtBだけ異なる電位を、センサトランジスタ17Bのボトムゲートに与える。
【0052】
センサトランジスタ17A及び17Bそれぞれを駆動する回路の動作は、図2を参照して説明した駆動回路20の動作と同様であり、説明を省略する。アレイ駆動回路25は、他のセンサトランジスタそれぞれの同様の駆動回路を含む。なお、図5に示す構成例において全ての基準電位が接地電位であるが、上記基準電位は一定であれば、それぞれ異なる値であってもよい。
【0053】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示が上記の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、上記の実施形態の各要素を、本開示の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0054】
10 センサトランジスタ、13 参照電極、15 被測定溶液、17 センサトランジスタ、19 センサトランジスタアレイ、20 駆動回路、25 アレイ駆動回路、101 絶縁基板、103 ボトムゲート電極、105 ボトムゲート絶縁膜、107 半導体膜、109 ソース電極、111 ドレイン電極、113 トップゲート絶縁膜、115 保護膜、117 プローブ膜、201 定電流源、205 演算増幅器、207 定電圧源、Id ドレイン電流、Iref 定電流、Vout 演算増幅器出力、Vsig 参照電極-トップゲート間電圧、Vbt 定電圧、Vpw 定電圧
図1
図2
図3
図4
図5