(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】インフルエンザに対する免疫原性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/295 20060101AFI20230825BHJP
A61K 39/145 20060101ALI20230825BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20230825BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20230825BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230825BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230825BHJP
C12N 7/01 20060101ALN20230825BHJP
C12N 15/44 20060101ALN20230825BHJP
【FI】
A61K39/295 ZNA
A61K39/145
A61K39/39
A61P31/16
A61P37/04
A61P43/00 121
C12N7/01
C12N15/44
(21)【出願番号】P 2019546856
(86)(22)【出願日】2018-02-26
(86)【国際出願番号】 US2018019653
(87)【国際公開番号】W WO2018157028
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2021-02-24
(32)【優先日】2017-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512174631
【氏名又は名称】フルゲン, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】モーザー マイケル ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】八田 寧子
(72)【発明者】
【氏名】ビルセル パムク
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-526883(JP,A)
【文献】国際公開第2015/142671(WO,A2)
【文献】特表2013-504556(JP,A)
【文献】特表2012-525370(JP,A)
【文献】特表2011-506264(JP,A)
【文献】Database GenBank [online], Accessin No. AF100378, <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AF100378.1>, 1999-05-09 uploaded, [retrieved on 2022-11-11], Definition: Influenza B virus B/Yamagata/16/88 segment 7 M1 matrix protein (M) and BM2 protein (BM2) genes, complete cds
【文献】Database GenBank [online], Accessin No. AF100376, <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AF100376.1>, 1999-05-09 uploaded, [retrieved on 2022-11-11], Definition: Influenza B virus B/Victoria/2/87 segment 7 M1 matrix protein (M) and BM2 protein (BM2) genes, complete cds
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/145
A61K 39/295
C12N 7/01
C12N 15/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫原性組成物であって、以下を含む多価組成物である、前記免疫原性組成物:
a)少なくとも1つの操作された弱毒化インフルエンザA M2-不完全組換えウイルス、ここで、当該操作されたインフルエンザAウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む;および
b)少なくとも1つの操作された弱毒化インフルエンザBM2-不完全組換えウイルス、ここで、当該操作されたインフルエンザBウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含む。
【請求項2】
前記少なくとも1つのインフルエンザAウイルスが、H1N1およびH3N2亜型のグループから選択され、前記少なくとも1つのインフルエンザBウイルスが、B/YamagataおよびB/Victoria系統のグループから選択される、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項3】
前記多価組成物が以下から成る群から選択される組換えウイルスを含む、請求項1に記載の免疫原性組成物:
a)H1N1およびH3N2亜型のグループから選択される2つの操作された弱毒化インフルエンザA M2-不完全ウイルス(ここで、当該A M2-不完全ウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む)、並びにB/YamagataおよびB/Victoria系統のグループから選択される2つの操作された弱毒化インフルエンザBM2-不完全ウイルス(ここで、当該BM2-不完全ウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含む);
b)H1N1およびH3N2亜型のグループから選択される2つの操作された弱毒化インフルエンザA M2-不完全ウイルス(ここで、当該A M2-不完全ウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む)、並びにB/YamagataおよびB/Victoria系統のグループから選択される1つの操作された弱毒化インフルエンザBM2-不完全ウイルス(ここで、当該BM2-不完全ウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含む);
c)H1N1およびH3N2亜型のグループから選択される1つの操作された弱毒化インフルエンザA M2-不完全ウイルス(ここで、当該A M2-不完全ウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む)、並びにB/YamagataおよびB/Victoria系統のグループから選択される2つの操作された弱毒化インフルエンザBM2-不完全ウイルス(ここで、当該BM2-不完全ウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含む);および
d)H1N1およびH3N2亜型のグループから選択される1つの操作された弱毒化インフルエンザA M2-不完全ウイルス(ここで、当該A M2-不完全ウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む)、並びにB/YamagataおよびB/Victoria系統のグループから選択される1つの操作された弱毒化インフルエンザBM2-不完全ウイルス(ここで、当該BM2-不完全ウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含む)。
【請求項4】
前記多価組成物が以下を含む四価組成物である、請求項1に記載の免疫原性組成物:
a)i)配列番号:1を含む変異M2遺伝子を有するH1N1、およびii)配列番号:1を含む変異M2遺伝子を有するH3N2から成る2つの操作された弱毒化インフルエンザAウイルス;
および
b)i)配列番号:9または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を有するB/Victoria、およびii)配列番号:9または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を有するB/Yamagataから成る2つの操作された弱毒化インフルエンザBウイルス。
【請求項5】
前記多価組成物が以下を含
む、請求項1に記載の免疫原性組成物:
a)i)配列番号:1を含む変異M2遺伝子を有するH1N1、およびii)配列番号:1を含む変異M2遺伝子を有するH3N2から成る2つの操作された弱毒化インフルエンザAウイルス;
および
b)i)配列番号:9または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を有するB/Victoria、およびii)配列番号:9または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を有するB/Yamagataから成る
群から選択される1つの操作された弱毒化インフルエンザBウイルス。
【請求項6】
さらに医薬的に許容できる担体を含む、請求項1-5のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項7】
さらに医薬的に許容できるアジュバントを含む、請求項1-6のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項8】
鼻内投与または皮内投与のために処方される、請求項1-7のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項9】
インフルエンザAおよびインフルエンザBに対する免疫応答を刺激するための医薬組成物であって、以下を含む多価免疫原性組成物を含む、前記医薬組成物:
a)少なくとも1つの操作された弱毒化インフルエンザA M2-不完全組換えウイルス、ここで、当該操作されたインフルエンザAウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む;および
b)少なくとも1つの操作された弱毒化インフルエンザBM2-不完全組換えウイルス、ここで、当該操作されたインフルエンザBウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含
む。
【請求項10】
前記少なくとも1つのインフルエンザAウイルスが、H1N1およびH3N2亜型のグループから選択され、前記少なくとも1つのインフルエンザBウイルスが、B/YamagataおよびB/Victoria系統のグループから選択される、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記多価免疫原性組成物が以下から成る群から選択される組換えウイルスを含む。請求項9に記載の医薬組成物:
a)H1N1およびH3N2亜型のグループから選択される2つの操作された弱毒化インフルエンザA M2-不完全ウイルス(ここで、当該A M2-不完全ウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む)、並びにB/YamagataおよびB/Victoria系統のグループから選択される2つの操作された弱毒化インフルエンザBM2-不完全ウイルス(ここで、当該BM2-不完全ウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含む);
b)H1N1およびH3N2亜型のグループから選択される2つの操作された弱毒化インフルエンザA M2-不完全ウイルス(ここで、当該A M2-不完全ウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む)、並びにB/YamagataおよびB/Victoria系統のグループから選択される1つの操作された弱毒化インフルエンザBM2-不完全ウイルス(ここで、当該BM2-不完全ウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含む);
c)H1N1およびH3N2亜型のグループから選択される1つの操作された弱毒化インフルエンザA M2-不完全ウイルス(ここで、当該A M2-不完全ウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む)、並びにB/YamagataおよびB/Victoria系統のグループから選択される2つの操作された弱毒化インフルエンザBM2-不完全ウイルス(ここで、当該BM2-不完全ウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含む);および
d)H1N1およびH3N2亜型のグループから選択される1つの操作された弱毒化インフルエンザA M2-不完全ウイルス(ここで、当該A M2-不完全ウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む)、並びにB/YamagataおよびB/Victoria系統のグループから選択される1つの操作された弱毒化インフルエンザBM2-不完全ウイルス(ここで、当該BM2-不完全ウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含む)。
【請求項12】
前記多価免疫原性組成物が以下を含む四価組成物である、請求項9に記載の医薬組成物:
a)i)配列番号:1を含む変異M2遺伝子を有するH1N1、およびii)配列番号:1を含む変異M2遺伝子を有するH3N2から成る2つの操作された弱毒化インフルエンザAウイルス;
および
b)i)配列番号:9または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を有するB/Victoria、およびii)配列番号:9または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を有するB/Yamagataから成る2つの操作された弱毒化インフルエンザBウイルス。
【請求項13】
前記多価免疫原性組成物が以下を含
む、請求項9に記載の医薬組成物:
a)i)配列番号:1を含む変異M2遺伝子を有するH1N1、およびii)配列番号:1を含む変異M2遺伝子を有するH3N2から成る2つの操作された弱毒化インフルエンザAウイルス;
および
b)i)配列番号:9または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を有するB/Victoria、およびii)配列番号:9または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を有するB/Yamagataから成る
群から選択される1つの操作された弱毒化インフルエンザBウイルス。
【請求項14】
前記免疫原性組成物がさらに医薬的に許容できる担体を含む、請求項9-13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記免疫原性組成物がさらに医薬的に許容できるアジュバントを含む、請求項9-14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記免疫原性組成物が鼻内投与または皮内投与のために処方される、請求項9-15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互引用)本出願は米国特許出願62/464,019(2017年2月27日出願)に対し優先権を主張する。前記出願の内容は参照によってその全体が本明細書に含まれる
【背景技術】
【0002】
インフルエンザはアメリカ人成人の主要な死亡原因である。毎年、約36000人がインフルエンザで死亡し、200,000人超が入院する。インフルエンザは高度に伝染性の疾患であり、咳、くしゃみ、およびウイルスを運ぶ物体(例えばドアノブおよび電話機)との直接的身体接触によって拡散される。インフルエンザの徴候は、例えば激しい倦怠感、頭痛、悪寒および身体痛を含み、感染者の約50%が無症状であるがなお伝染性である。免疫付与は、循環ウイルス株の抗原性がワクチンの抗原性と適合する限り、65歳以下の健康な人々のインフルエンザ予防に50-60パーセント有効である
ワクチン接種はインフルエンザ予防の主要な方法であり、生弱毒化および不活化(死滅)ウイルスワクチンの両方が現在利用可能である。生ウイルスワクチン(典型的には鼻内投与される)は免疫系の全ての相を活性化し、多数のウイルス抗原に対する免疫応答を刺激することができる。したがって、生ウイルスの使用は、不活化ウイルスワクチンの調製時に生じ得るウイルス抗原の破壊に関する問題を克服する。加えて、生ウイルスワクチンによって生じる免疫は、概して不活化ウイルス誘発免疫よりも持続性、有効性および交差反応性が高く、かつ生ウイルスワクチンは不活化ウイルスワクチンよりも製造コストが低い。しかしながら、弱毒化ウイルスの変異はしばしば不明確で復帰が懸念される。
【発明の概要】
【0003】
ある特徴では、本開示は免疫原性組成物を提供する。前記組成物は多価組成物であって、少なくとも2つのインフルエンザウイルス株由来の組換えウイルスを含む。
いくつかの実施態様では、当該多価組成物は以下を含む:a)少なくとも1つの操作された(engineered)弱毒化インフルエンザA M2-不完全組換えウイルス(当該操作されたインフルエンザAウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む);およびb)少なくとも1つの操作された弱毒化BM2-不完全組換えウイルス(当該操作されたインフルエンザBウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含む)。いくつかの実施態様では、当該少なくとも1つのインフルエンザAウイルスは、H1N1およびH3N2亜型のグループから選択され、当該少なくとも1つのインフルエンザBウイルスは、B/YamagataおよびB/Victoria系統のグループから選択される。
【0004】
いくつかの実施態様では、多価組成物は以下から成る群から選択される組換えウイルスを含む:a)H1N1およびH3N2亜型のグループから選択される2つの操作された弱毒化インフルエンザA M2-不完全ウイルス(当該A M2-不完全ウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む)、並びにB/YamagataおよびB/Victoria系統のグループから選択される2つの操作された弱毒化インフルエンザBM2-不完全ウイルス(当該BM2-不完全ウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含む);b)H1N1およびH3N2亜型のグループから選択される2つの操作された弱毒化インフルエンザA M2-不完全ウイルス(当該A M2-不完全ウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む)、並びにB/YamagataおよびB/Victoria系統のグループから選択される1つの操作された弱毒化インフルエンザBM2-不完全ウイルス(当該BM2-不完全ウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異B M2遺伝子を含む);c)H1N1およびH3N2亜型のグループから選択される1つの操作された弱毒化インフルエンザA M2-不完全ウイルス(当該A M2-不完全ウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む)、並びにB/YamagataおよびB/Victoria系統のグループから選択される2つの操作された弱毒化インフルエンザBM2-不完全ウイルス(当該BM2-不完全ウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含む);およびd)H1N1およびH3N2亜型のグループから選択される1つの操作された弱毒化インフルエンザA M2-不完全ウイルス(当該A M2-不完全ウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む)、並びにB/YamagataおよびB/Victoria系統のグループから選択される1つの操作された弱毒化インフルエンザBM2-不完全ウイルス(当該BM2-不完全ウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含む)
【0005】
いくつかの実施態様では、多価組成物は以下を含む四価組成物である:a)i)配列番号:1を含む変異M2遺伝子を有するH1N1、およびii)配列番号:1を含む変異M2遺伝子を有するH3N2から成る2つの操作された弱毒化インフルエンザAウイルス;およびb)i)配列番号:9または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を有するB/Victoria、およびii)配列番号:9または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を有するB/Yamagataから成る2つの操作された弱毒化インフルエンザBウイルス。
いくつかの実施態様では、多価組成物は以下を含む四価組成物である:a)i)配列番号:1を含む変異M2遺伝子を有するH1N1、およびii)配列番号:1を含む変異M2遺伝子を有するH3N2から成る2つの操作された弱毒化インフルエンザAウイルス;およびb)i)配列番号:9または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を有するB/Victoria、およびii)配列番号:9または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を有するB/Yamagataから成る1つの操作された弱毒化インフルエンザBウイルス。
【0006】
いくつかの実施態様では、本開示の免疫原性組成物はさらに医薬的に許容できる担体を含む。いくつかの実施態様では、本開示の免疫原性組成物はさらに医薬的に許容できるアジュバントを含む。いくつかの実施態様では、本技術の免疫原性組成物は鼻内投与または皮内投与のために処方される。
ある特徴では、本開示はインフルエンザAおよびインフルエンザBに対する免疫応答を刺激する方法を提供し、前記方法は、その必要がある対象動物に以下を含む多価免疫原性組成物を投与する工程を含む:a)少なくとも1つの操作された弱毒化インフルエンザA M2-不完全組換えウイルス(当該操作されたインフルエンザAウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む);およびb)少なくとも1つの操作された弱毒化BM2-不完全組換えウイルス(当該操作されたインフルエンザBウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含む)。
いくつかの実施態様では、当該少なくとも1つのインフルエンザAウイルスは、H1N1およびH3N2亜型のグループから選択され、当該少なくとも1つのインフルエンザBウイルスは、B/YamagataおよびB/Victoria系統のグループから選択される。
【0007】
いくつかの実施態様では、多価免疫原性組成物は以下から成る群から選択される組換えウイルスを含む:a)H1N1およびH3N2亜型のグループから選択される2つの操作された弱毒化インフルエンザA M2-不完全ウイルス(当該A M2-不完全ウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む)、並びにB/YamagataおよびB/Victoria系統のグループから選択される2つの操作された弱毒化インフルエンザBM2-不完全ウイルス(当該BM2-不完全ウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含む);b)H1N1およびH3N2亜型のグループから選択される2つの操作された弱毒化インフルエンザA M2-不完全ウイルス(当該A M2-不完全ウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む)、並びにB/YamagataおよびB/Victoria系統のグループから選択される1つの操作された弱毒化インフルエンザBM2-不完全ウイルス(当該BM2-不完全ウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含む);c)H1N1およびH3N2亜型のグループから選択される1つの操作された弱毒化インフルエンザA M2-不完全ウイルス(当該A M2-不完全ウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む)、並びにB/YamagataおよびB/Victoria系統のグループから選択される2つの操作された弱毒化インフルエンザBM2-不完全ウイルス(当該BM2-不完全ウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含む);およびd)H1N1およびH3N2亜型のグループから選択される1つの操作された弱毒化インフルエンザA M2-不完全ウイルス(当該A M2-不完全ウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む)、並びにB/YamagataおよびB/Victoria系統のグループから選択される1つの操作された弱毒化インフルエンザBM2-不完全ウイルス(当該BM2-不完全ウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含む)
【0008】
いくつかの実施態様では、多価免疫原性組成物は以下を含む四価組成物である:a)i)配列番号:1を含む変異M2遺伝子を有するH1N1、およびii)配列番号:1を含む変異M2遺伝子を有するH3N2から成る2つの操作された弱毒化インフルエンザAウイルス;およびb)i)配列番号:9または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を有するB/Victoria、およびii)配列番号:9または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を有するB/Yamagataから成る2つの操作された弱毒化インフルエンザBウイルス。
いくつかの実施態様では、多価免疫原性組成物は以下を含む四価組成物である:a)i)配列番号:1を含む変異M2遺伝子を有するH1N1、およびii)配列番号:1を含む変異M2遺伝子を有するH3N2から成る2つの操作された弱毒化インフルエンザAウイルス;およびb)i)配列番号:9または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を有するB/Victoria、およびii)配列番号:9または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を有するB/Yamagataから成る1つの操作された弱毒化インフルエンザBウイルス。
いくつかの実施態様では、本開示の免疫原性組成物はさらに医薬的に許容できる担体を含む。いくつかの実施態様では、本開示の免疫原性組成物はさらに医薬的に許容できるアジュバントを含む。いくつかの実施態様では、本開示の免疫原性組成物は鼻内投与または皮内投与のために処方される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】インフルエンザウイルスの生活環におけるM2イオンチャネルの役割を示す図である。(1)インフルエンザウイルスが細胞表面のシアル酸受容体に付着する;(2)ウイルスが細胞の内部に移行する;(3)M2イオンチャネルがウイルス表面で発現される;(4)M2イオンチャネルが開口してプロトンの進入を可能にしウイルスRNAの放出をもたらし、RNAは核に入り複製してウイルスタンパク質の合成をもたらす;(5)ウイルス成分がビリオンにパッケージされ、放出される(6)。
【
図2】四価ワクチン処方物のBM2SRウイルスによって引き出される抗HA IgG抗体を示すチャートである。
【
図3A】多価処方物のBM2SRおよびM2SRによって引き出される抗HA IgG抗体を示すチャートである。Mono/B WI01=一価B/WI01(配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);MonoB/Bris60=一価B/Bris60(配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);monoCA07=一価CA07(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む);monoBris10=一価Bris10(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む);BIV H1H3=二価H1H3(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む);TIV H3VY=三価H3VY(配列番号:1を含むM2SR-1変異体および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);TIV H1VY=三価H1VY(配列番号:1を含むM2SR-1変異体および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);TIV H1H3V=三価H1H3V(配列番号:1を含むM2SR-1変異体および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);TIV H1H3Y=三価H1H3Y(配列番号:1を含むM2SR-1変異体および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);四価(配列番号:1を含むM2SR-1変異体および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む)。
【
図3B】多価処方物のBM2SRおよびM2SRによって引き出される抗HA IgG抗体を示すチャートである。Mono/B WI01=一価B/WI01(配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);MonoB/Bris60=一価B/Bris60(配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);monoCA07=一価CA07(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む);monoBris10=一価Bris10(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む);BIV H1H3=二価H1H3(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む);TIV H3VY=三価H3VY(配列番号:1を含むM2SR-1変異体および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);TIV H1VY=三価H1VY(配列番号:1を含むM2SR-1変異体および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);TIV H1H3V=三価H1H3V(配列番号:1を含むM2SR-1変異体および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);TIV H1H3Y=三価H1H3Y(配列番号:1を含むM2SR-1変異体および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);四価(配列番号:1を含むM2SR-1変異体および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む)。
【
図3C】多価処方物のBM2SRおよびM2SRによって引き出される抗HA IgG抗体を示すチャートである。Mono/B WI01=一価B/WI01(配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);MonoB/Bris60=一価B/Bris60(配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);monoCA07=一価CA07(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む);monoBris10=一価Bris10(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む);BIV H1H3=二価H1H3(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む);TIV H3VY=三価H3VY(配列番号:1を含むM2SR-1変異体および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);TIV H1VY=三価H1VY(配列番号:1を含むM2SR-1変異体および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);TIV H1H3V=三価H1H3V(配列番号:1を含むM2SR-1変異体および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);TIV H1H3Y=三価H1H3Y(配列番号:1を含むM2SR-1変異体および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);四価(配列番号:1を含むM2SR-1変異体および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む)。
【
図3D】多価処方物のBM2SRおよびM2SRによって引き出される抗HA IgG抗体を示すチャートである。Mono/B WI01=一価B/WI01(配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);MonoB/Bris60=一価B/Bris60(配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);monoCA07=一価CA07(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む);monoBris10=一価Bris10(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む);BIV H1H3=二価H1H3(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む);TIV H3VY=三価H3VY(配列番号:1を含むM2SR-1変異体および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);TIV H1VY=三価H1VY(配列番号:1を含むM2SR-1変異体および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);TIV H1H3V=三価H1H3V(配列番号:1を含むM2SR-1変異体および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);TIV H1H3Y=三価H1H3Y(配列番号:1を含むM2SR-1変異体および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む);四価(配列番号:1を含むM2SR-1変異体および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む)。
【
図4A】一価BM2SR、一価M2SRおよび四価ワクチンの接種後にインフルエンザBでチャレンジした後のマウス体重の変化を示すチャートである。
【
図4B】一価BM2SR、一価M2SRおよび四価ワクチンの接種後にインフルエンザBでチャレンジした後のマウス生存を示すチャートである。
【
図4C】インフルエンザBチャレンジ後4日目における種々のワクチン接種グループのマウスのウイルス力価を示すチャートである。
【
図5A】一価BM2SR、一価M2SRおよび四価ワクチンの接種後にインフルエンザAでチャレンジした後のマウス体重の変化を示すチャートである。
【
図5B】一価BM2SR、一価M2SRおよび四価ワクチンの接種後にインフルエンザAでチャレンジした後のマウス生存を示すチャートである。
【
図5C】インフルエンザAチャレンジ後4日目における種々のワクチン接種グループのマウスのウイルス力価を示すチャートである。
【
図6A】一価BM2SRおよび四価処方物の接種後にインフルエンザBウイルスに対して引き出された抗HA IgG抗体力価を示すチャートである。代表的BM2SR構築物:B/CA12はB Yamagata BM2SRである;B/Bris46はB Victoria BM2SRである。四価処方物は2つのBM2SR並びにH1N1およびH3N2 M2SRの混合物である。
【
図6B】一価BM2SRおよび四価処方物の接種後にインフルエンザBウイルスに対して引き出された抗HA IgG抗体力価を示すチャートである。代表的BM2SR構築物:B/CA12はB Yamagata BM2SRである;B/Bris46はB Victoria BM2SRである。四価処方物は2つのBM2SR並びにH1N1およびH3N2 M2SRの混合物である。
【
図7A】M2SRおよびBM2SRは多価処方物のインフルエンザAおよびインフルエンザBに対して抗体応答を引き出すことを示すチャートである。代表的M2SRおよびBM2SR構築物:A/MA15はH1N1 M2SRである;A/HK4801はH3N2 M2SRである;B/CA12はB Yamagata BM2SR-4である;B/Bris46はB Victoria BM2SR-4である。四価(“quad”)処方物は4つ全ての混合物である。三価(“tri”)は表示の3ウイルスの処方物である。
【
図7B】M2SRおよびBM2SRは多価処方物のインフルエンザAおよびインフルエンザBに対して抗体応答を引き出すことを示すチャートである。代表的M2SRおよびBM2SR構築物:A/MA15はH1N1 M2SRである;A/HK4801はH3N2 M2SRである;B/CA12はB Yamagata BM2SR-4である;B/Bris46はB Victoria BM2SR-4である。四価(“quad”)処方物は4つ全ての混合物である。三価(“tri”)は表示の3ウイルスの処方物である。
【
図7C】M2SRおよびBM2SRは多価処方物のインフルエンザAおよびインフルエンザBに対して抗体応答を引き出すことを示すチャートである。代表的M2SRおよびBM2SR構築物:A/MA15はH1N1 M2SRである;A/HK4801はH3N2 M2SRである;B/CA12はB Yamagata BM2SR-4である;B/Bris46はB Victoria BM2SR-4である。四価(“quad”)処方物は4つ全ての混合物である。三価(“tri”)は表示の3ウイルスの処方物である。
【
図7D】M2SRおよびBM2SRは多価処方物のインフルエンザAおよびインフルエンザBに対して抗体応答を引き出すことを示すチャートである。代表的M2SRおよびBM2SR構築物:A/MA15はH1N1 M2SRである;A/HK4801はH3N2 M2SRである;B/CA12はB Yamagata BM2SR-4である;B/Bris46はB Victoria BM2SR-4である。四価(“quad”)処方物は4つ全ての混合物である。三価(“tri”)は表示の3ウイルスの処方物である。
【
図8A】一価BM2SR、三価および四価処方物の接種後に致死用量のインフルエンザBでチャレンジした後のマウスの体重変化を示すチャートである。
【
図8B】一価BM2SR、三価および四価処方物の接種後に致死用量のインフルエンザBでチャレンジした後のマウスの生存を示すチャートである。
【
図9A】以下の三価M2SRまたは四価M2SR処方物の接種後に致死用量のインフルエンザAでチャレンジした後のマウスの体重変化を示すチャートである:三価M2SR処方物(H1N1(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む)、H3N2(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む)、およびB/Yamagata(配列番号:9を含むBM2SR-4変異体を含む)を含む)または四価M2SR処方物(H1N1(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む)、H3N2(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む)、B/Victoria系統(配列番号:9を含むBM2SR-4変異体を含む)、およびB/Yamagata(配列番号:9を含むBM2SR-4変異体を含む)を含む)。
【
図9B】以下の三価M2SRまたは四価M2SR処方物の接種後に致死用量のインフルエンザAでチャレンジした後のマウスの生存をそれぞれ示すチャートである:三価M2SR処方物(H1N1(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む)、H3N2(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む)、およびB/Yamagata(配列番号:9を含むBM2SR-4変異体を含む)を含む)または四価M2SR処方物(H1N1(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む)、H3N2(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む)、B/Victoria系統(配列番号:9を含むBM2SR-4変異体を含む)、およびB/Yamagata(配列番号:9を含むBM2SR-4変異体を含む)を含む)。
【
図10】四価ワクチンの各組成物に対して引き出された酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)力価を示すチャートである。
【
図11A】四価ワクチンの各組成物に対して引き出された血球凝集阻害(HAI)力価を示すチャートである。
【
図11B】四価ワクチンの各組成物に対して引き出された、接種後35日目のプール血清のHAI力価を示す表である。
【
図12】インフルエンザAチャレンジ後1、3、5および7日目の鼻洗浄のウイルス力価を示すチャートである。
【
図13A】インフルエンザAチャレンジ後3日目の鼻甲介組織のウイルス力価を示すチャートである。
【
図13B】インフルエンザAチャレンジ後3日目の気管組織のウイルス力価を示すチャートである。
【
図13C】インフルエンザAチャレンジ後3日目の肺組織のウイルス力価を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
I.定義
以下の用語が本明細書で用いられ、それらの定義が指針のために提供される。
本明細書で用いられるように、単数形“a”、“an”および“the”は、単数のみを指すと明確に表明されないかぎり単数および複数の両方を指す。
“about(約)”という用語および一般的に範囲の使用(約という用語によって修飾されているか否かにかかわらない)は、包含される数が本明細書に指示される数そのものに限定されず、実質的に当該引用された範囲内の範囲を指すことが意図されるが、ただし本発明の範囲から逸脱しない。本明細書で用いられるように、“約”は当業者には理解され、当該用語が用いられる文脈にしたがってある程度変動するであろう。当業者にとって不明瞭に当該用語が使用されている場合、その用語が用いられている文脈を条件として、“約”はまさにその用語のプラスまたはマイナス10%までを指すであろう。
本明細書で用いられるように、ウイルスと一緒に用いられる“弱毒化”という用語は、非弱毒化対応ウイルスと比較して緩和された病毒性または病原性を有するが、なお生存活性を有するかまたは生きているウイルスを指す。典型的には、弱毒化は、感染性因子、例えばウイルスを、非弱毒化ウイルスと比較して感染対象動物に対し低有害性または低病毒性にする。このことは、死滅または完全に不活化されたウイルスとは対照的である。
【0011】
本明細書で用いられるように、“有効な量”または“治療的に有効な量”または“医薬的に有効な量”という用語は、所望の治療的および/または予防的作用を達成するために十分な量、例えば疾患、症状および/またはその徴候の防止をもたらす量を指す。治療的または予防的適用という文脈では、対象動物に投与される組成物の量は、当該疾患のタイプおよび重篤度、並びに個体の特徴、例えば一般的健康状態、年齢、性別、体重および配合薬剤に対する耐性に左右されるであろう。有効量はまた、疾患または症状の段階、重篤度およびタイプに左右されるであろう。当業者は、これらの要件および他の要件に応じて適切な投薬量を決定することができる。いくつかの実施態様では、マルチ用量が投与される。加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、複数の治療組成物または化合物(例えば免疫原性組成物、例えばワクチン)が投与される。
【0012】
本明細書で用いられるように、“宿主細胞”という用語は、病原体(例えばウイルス)が複製できる細胞を指す。いくつかの実施態様では、宿主細胞はin vitro、培養細胞である。そのような宿主細胞の非限定的な例にはCHO細胞、Vero細胞、およびMDCK細胞が含まれるが、ただしこれらに限定されない。加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、宿主細胞はin vivoで存在する(例えば、感染脊椎動物(例えばトリまたは哺乳動物)の細胞)。いくつかの実施態様では、宿主細胞は改変して、例えばウイルス生産を強化することができる。前記ウイルス生産強化は、例えば宿主細胞のウイルス感染の強化および/またはウイルス増殖の強化による。制限するのではなく例として、例示的な宿主細胞改変には以下が含まれる:宿主細胞の細胞表面における2-6結合シアル酸受容体の組換え発現、および/または病原体またはウイルスで欠如させられまたは無効にされてあるタンパク質の宿主細胞における組換え発現。
【0013】
“免疫原性組成物”という用語は、当該組成物に暴露された哺乳動物で免疫応答を引き出す組成物を指すために本明細書では用いられる。いくつかの実施態様では、免疫原性組成物は、少なくとも1つのM2-不完全変異体インフルエンザA M2SR株(例えば、A/California/07/2009(H1N1)(配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含むM2SR変異体を含む)、A/Brisbane/10/2007(H3N2)(配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含むM2SR変異体を含む))を含む。いくつかの実施態様では、免疫原性組成物は、少なくとも1つのBM2-不完全変異体インフルエンザB BM2SR株(例えば、B/Brisbane/60/2008(Victoria)(配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含むBM2SR変異体を含む)、B/Wisconsin/01/2010(Yamagata)(配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含むBM2SR変異体を含む))を含む。いくつかの実施態様では、免疫原性組成物は、A/California/07/2009(H1N1)(配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含むM2SR変異体を含む)、A/Brisbane/10/2007(H3N2)(配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含むM2SR変異体を含む)、B/Brisbane/60/2008(Victoria)(配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含むBM2SR変異体を含む)、およびB/Wisconsin/01/2010(Yamagata)(配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含むBM2SR変異体を含む)を含み、前記は四価ワクチンとして処方される。
【0014】
いくつかの実施態様では、本明細書に記載の免疫原性組成物は、多数の形態で投与されるために処方され得る(すなわち、例えば哺乳動物への“暴露”のために処方される)。例えば、いくつかの実施態様では、免疫原性組成物は、経口、肺、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、鼻、または外用投与のために調製される。組成物はまた特別な投薬形態のために処方され得る。例えば、いくつかの実施態様では、免疫原性組成物は、液体、ゲル、エーロゾル、軟膏、クリーム、凍結乾燥処方物、散剤、ケーキ、錠剤、またはカプセルとして処方され得る。他の実施態様では、免疫原性組成物は、制御放出処方物、徐放性処方物、長期放出処方物、拍動放出処方物、および混合即時放出処方物として処方される。いくつかの実施態様では、免疫原性組成物は液体として提供される。他の実施態様では、免疫原性組成物は凍結乾燥形で提供される。
【0015】
本明細書で用いられるように、“感染した”という用語は、疾患または病原体(例えばウイルス)を保有することを指す。感染は、意図的でも(例えばウイルスまたは病原体を付与することによって(例えばワクチン接種によって))、非意図的でも(例えばある生物から別の生物へまたは汚染表面から当該生物へ自然な病原体の移動によって)可能である。
本明細書で用いられるように、“単離された”および/または“精製された”という用語は、望ましくないin vivo物質と関係しないように、または通常一緒に存在する望ましくないin vivo物質から実質的に精製されるように、核酸(例えばベクターまたはプラスミド)、ポリペプチド、ウイルスまたは細胞をin vitroで調製、単離および/または精製することを指す。例えば、いくつかの実施態様では、単離されたウイルス調製物はin vitro培養および増殖によって入手され、他の感染性因子を実質的に含まない。本明細書で用いられるように、“実質的に含まない”とは、特定の化合物(例えば、望ましくない核酸、タンパク質、細胞、ウイルス、感染性因子など)について、当該化合物または因子のための標準的検出方法を用いたとき検出レベル以下であることを意味する。
【0016】
本明細書で用いられるように、“変異体”、“変異”および“変種”という用語は互換的に用いられ、野生型配列とは異なる核酸またはポリペプチド配列を指す。いくつかの実施態様では、変異体または変種配列は天然に存在する。他の実施態様では、変異体または変種配列は組換えによりおよび/または化学的に導入される。いくつかの実施態様では、核酸の変異は、RNAおよび/またはDNA配列に対する改変(例えば付加、欠失、置換)を含む。いくつかの実施態様では、改変は化学的改変(例えばメチル化)を含み、さらに天然および/または非天然ヌクレオチドの置換または付加を含むことができる。核酸の変異はサイレント変異でもよく(例えば野生型配列と同じアミノ酸をコードする1つ以上の核酸の変化)、またはコードされるアミノ酸に変化を生じても、終止コドンを生じてもよく、またはスプライシングの欠損若しくはスプライシングの変更を導入することもできる。コード配列への核酸変異はまた保存的または非保存的アミノ酸変化をもたらすことができる。
【0017】
本明細書で用いられるように、“組換えウイルス”という用語は、例えば組換え核酸技術を用いてin vitroで操作して、ウイルスゲノムに変化が導入された、および/またはウイルスタンパク質に変化が導入されたウイルスを指す。例えば、いくつかの実施態様では、組換えウイルスは、野生型(内因性)核酸配列および変異体配列および/または外因性核酸配列の両方を含むことができる。加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、組換えウイルスは、改変タンパク質成分、例えば変異体マトリックス若しくは変種マトリックス、ヘマグルチニン、ノイラミニダーゼ、核タンパク質、非構造性および/またはポリメラーゼタンパク質を含むことができる。
本明細書で用いられるように、“組換え細胞”という用語は、例えば組換え核酸技術を用いてin vitroで操作して、細胞に核酸が導入されたおよび/または細胞核酸が改変された細胞を指す。組換え細胞の例には、外因性プラスミド、発現ベクターなどを保持する原核または真核細胞、および/またはそれらの細胞性核酸に改変(例えば細胞ゲノムに置換、変異、挿入、欠失など)を含む細胞が含まれる。例示的な組換え細胞は、in vitroで操作されて安定的に外因性タンパク質(例えばウイルスM2タンパク質)を発現する細胞である。
【0018】
本明細書で用いられるように、“一回複製(SR)ウイルス”という用語は、宿主細胞のウイルス侵入または宿主細胞からの放出で機能するビリオンタンパク質に欠陥があるウイルスを指す。例えば、本明細書に記載するM2SRは、古典的な生弱毒化インフルエンザワクチンとは対照的な一回複製(SR)ウイルスワクチンの新規なクラスに属する。SRウイルスは、ウイルスの侵入または放出で機能し、ウイルスゲノムの複製に影響を与えないがウイルス増殖に不可欠であるビリオンタンパク質(例えばflu M2イオンチャネルタンパク質)に欠陥が存在する。対照的に、伝統的な弱毒化生ウイルスワクチンはウイルス複製機構に複数の変異を含み、高度に弱毒化された表現型を生じる。SRワクチンウイルスのメカニズムは、したがって弱毒化生ワクチンとは対照的にウイルス感染動態および抗原生産には影響を与えない。
【0019】
本明細書で用いられるように、“対象動物”および“患者”は互換的に用いられ、前記は動物(例えば任意の脊椎動物種のメンバー)を指す。本開示の主題である方法および組成物は温血脊椎動物(哺乳動物および鳥類を含む)のために特に有用である。例示的な対象動物には、哺乳動物、例えば人間が、絶滅に瀕しているがゆえに重要な、経済的に重要な(人間の消費のために農場で飼育される動物)、および/または人間にとって社会的に重要な(ペットとしてまたは動物園で維持される動物)哺乳動物および鳥類と同様に含まれ得る。いくつかの実施態様では、対象動物は人間である。いくつかの実施態様では、対象動物は人間ではない。
【0020】
本明細書で用いられるように、ウイルスと一緒に用いられる“型”および“株”という用語は互換的に用いられ、一般的には異なる特徴を有するウイルスを指すために用いられる。例えば、インフルエンザAウイルスはインフルエンザBウイルスとは異なる型のウイルスである。同様に、インフルエンザA H1N1は、インフルエンザA H2N1、H2N2およびH3N2とは異なる型のウイルスである。加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、異なる型のウイルス、例えばインフルエンザA H2N1、H2N2およびH3N2は“亜型”と呼ぶことができる。
“ワクチン”という用語は、本明細書では、対象動物に投与されて特定の疾患に対する免疫を生じるか、または免疫を高める組成物を指すために用いられる。いくつかの実施態様では、ワクチンは医薬的に許容できるアジュバントおよび/または医薬的に許容できる担体を含む。
【0021】
本明細書で用いられるように、“vRNA”という用語はウイルスゲノムを含むRNAを指し、前記ウイルスゲノムには、分断化または非分断化ウイルスゲノムがプラス鎖およびマイナス鎖のウイルスゲノムと同様に含まれる。vRNAは、完全に内因性で“野生型”であってもよく、および/または組換え体配列および/または変異体配列を含んでいてもよい。
“病毒性”という用語は、本明細書では、病原体が疾患を引き起こす相対的能力を指すために用いられる。
“弱毒化病毒性”、または“緩和病毒性”という用語は、本明細書では、病原体が疾患を引き起こす相対的能力の緩和を指すために用いられる。例えば、弱毒化病毒性または緩和病毒性は、対象動物に暴露されたときにそれらウイルスは免疫を生じるが、当該疾患を引き起こさないか、または当該疾患の低重篤型、短い持続期間、発症の減少、発症の遅延をもたらすことができるように弱体化されてあるウイルスを示す。
【0022】
本明細書で用いられるように、“M2SR”は、一回複製(SR)M2不完全組換えインフルエンザウイルスを指す。本明細書に記載する例示的MS2Rインフルエンザウイルスは、それが用いられている文脈に応じて、配列番号:1、配列番号:2および/または配列番号:3;配列番号:1、配列番号:2および/または配列番号:3を含むウイルス;配列番号:1、配列番号:2および/または配列番号:3を含むウイルスを含むワクチンを含む。例えば、本明細書で提示するM2遺伝子の変異の記述で、“M2SR”は、配列番号:1、配列番号:2および/または配列番号:3を指す。特に、“M2SR-1”は配列番号:1を指し、“M2SR-2”は配列番号:2を指し、“M2SR-3”は配列番号:3を指す。ワクチンのウイルス成分を記述するとき、“M2SR”は、機能的なM2タンパク質を発現しない組換えインフルエンザウイルスを指す。ワクチンを記述するとき、“M2SR”はM2SR組換えウイルスを含むワクチンを指す。
本明細書で用いられるように、“M2SRウイルス”は、機能的なM2タンパク質を発現しない組換えインフルエンザウイルスを包含する。いくつかの実施態様では、M2SRウイルスは他のインフルエンザウイルスの遺伝子を含む。いくつかの実施態様では、当該ウイルスは、インフルエンザA/Brisbane/10/2007様A/Uruguay/716/2007(H3N3)のHAおよびNA遺伝子を含む。いくつかの実施態様では、M2SRウイルスは、A/California/07/2009(CA07)(H1N1pdm)ウイルスのHAおよびNA遺伝子を含む。
【0023】
本明細書で用いられるように、“BM2SR”は一回複製(SR)BM2-不完全組換えインフルエンザウイルスを指す。本明細書に記載する例示的BM2SRインフルエンザウイルスは、それが用いられている文脈に応じて、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10および/または配列番号:11;配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10および/または配列番号:11を含むウイルス;配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10および/または配列番号:11を含むウイルスを含むワクチンを含む。例えば、本明細書で提示するBM2遺伝子の変異の記述で、“BM2SR”は、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10および/または配列番号:11を指す。特に、“BM2SR-1”は配列番号:6を指し、“BM2SR-2”は配列番号:7を指し、“BM2SR-3”は配列番号:8を指し、“BM2SR-4”は配列番号:9を指し、“BM2SR-5”は配列番号:10を指し、“BM2SR-0”は配列番号:11を指す。ワクチンのウイルス成分を記述するとき、“BM2SR”は、限定ではなく例示として言えばB/Lee/40の内部遺伝子(核タンパク質(NP)、ポリメラーゼ遺伝子(PA、PB1、PB2)、非構造(NS1およびNS2)、NB、マトリックス(BMI))を有するが機能的なBM2タンパク質を発現しない組換えインフルエンザウイルスを指す。ワクチンを記述するとき、“BM2SR”はBM2SR組換えウイルスを含むワクチンを指す。
【0024】
本明細書で用いられるように、“BM2SRウイルス”は、B/Lee/40の内部遺伝子(核タンパク質(NP)、ポリメラーゼ遺伝子(PA、PB1、PB2)、非構造(NS1およびNS2)、マトリックス(BMI))を有するが、単独でも他のウイルス成分および/または他のウイルス成分をコードする遺伝子と一緒でも機能的なBM2タンパク質を発現しない組換えインフルエンザウイルスを包含する。いくつかの実施態様では、BM2SRウイルスは他のインフルエンザウイルスの遺伝子を含む。いくつかの実施態様では、当該ウイルスは、インフルエンザB/Brisbane/60/2008様B/Brisbane/60/2008(B Victoria系統)のHAおよびNA遺伝子を含む。いくつかの実施態様では、BM2SRウイルスは、B/Wisconsin/1/2010様(B Yamagata系統)ウイルスのHAおよびNA遺伝子を含む。いくつかの実施態様では、BM2SRウイルスは、最近のインフルエンザBウイルスの内部遺伝子(NP、PA、PB1、PB2、NS1およびNS2、BM2)を有する。
【0025】
II.インフルエンザAウイルスおよびインフルエンザBウイルス
A.総論
インフルエンザはアメリカ人成人の主要な死因である。インフルエンザの原因因子はオルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)のウイルスであり、前記にはインフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルス、およびインフルエンザCウイルスが含まれる。
インフルエンザAウイルスはエンベロープを有するマイナス鎖RNAウイルスである。インフルエンザAウイルスのゲノムは8つの一本鎖(対を持たない)RNAに収納され、その相補鎖は11のタンパク質(HA、NA、NP、M1、M2、NS1、NEP、PA、PB1、PB1-F2、PB2)をコードする。総ゲノムサイズは約14,000塩基である。ゲノム分断化の特性は、細胞が共同で生存するときに異なるウイルス株間での全遺伝子の交換を可能にする。8つのRNAセグメントは以下のとおりである:1)HAはヘマグルチニンをコードする(約500分子のヘマグルチニンが1つのビリオンの形成に必要である);2)NAはノイラミニダーゼをコードする(約100分子のノイラミニダーゼが1つのビリオンの形成に必要である);3)NPは核タンパク質をコードする;Mは、同じRNAセグメントに由来する異なるリーディングフレームを用いることによって2つのタンパク質(M1およびM2)をコードする(約3000のM1分子が1つのビリオンの形成に必要である);5)NSは、同じRNAセグメントに由来する異なるリーディングフレームを用いることによって2つのタンパク質(NS1およびNEP)をコードする;6)PAはRNAポリメラーゼをコードする;7)PB1は、同じRNAセグメントに由来する異なるリーディングフレームを用いることによってRNAポリメラーゼおよびPB1-F2タンパク質(アポトーシスを誘発する)をコードする;8)PB2はRNAポリメラーゼをコードする。
【0026】
インフルエンザBウイルスもまた、エンベロープを有するマイナス鎖RNAウイルスである。インフルエンザBウイルスのゲノムは8つの一本鎖(対を持たない)RNAに収納され、その相補鎖は11のタンパク質をコードする。これらのタンパク質のうち、以下の9つはインフルエンザAウイルスでもまた見出される:3つのRNA依存RNAポリメラーゼサブユニット(PB1、PB2およびPA)、ヘマグルチニン(HA)、核タンパク質(NP)、ノイラミニダーゼ(NA)、マトリックスタンパク質(M1またはBM1)、および2つの非構造タンパク質(NS1およびNS2(NEPとしても知られる))。2つのタンパク質(NBおよびBM2)はインフルエンザBウイルスに固有である。総ゲノムサイズは約14,500塩基である。ゲノム分断化の特性は、細胞が共同で生存するときに異なるウイルス株間での全遺伝子の交換(再集合として知られるプロセス)を可能にする。8つのRNAセグメント(長さが減少する順に番号が振られている)は以下のとおりである:セグメント1、2および3はPB1、PB2およびPAをそれぞれコードし、前記はRNAポリメラーゼサブユニットである。セグメント4はHA(ヘマグルチニン)をコードする。セグメント5はNP(核タンパク質)をコードする。セグメント6はNB(NBタンパク質(その機能は不明である))およびNAの両方をコードする。セグメント7は二シストロン性mRNAによってBM1(マトリックスタンパク質)およびBM2(イオン交換チャネル)の両方をコードし、その翻訳手法は固有である。BM2開始コドンはBM1終了コドンとオーバーラップする(TAATG、終止-開始5ヌクレオチドモチーフ)。BM2タンパク質は、インフルエンザAウイルスのM2タンパク質(スプライシングされたmRNAから翻訳される)とは異なりこの終止-開始翻訳メカニズムによって翻訳される。セグメント8は、同じRNAセグメントに由来する異なるリーディングフレームを用いることによってNS1およびNEPの両方をコードする。
【0027】
インフルエンザAおよびBはともに抗原ドリフトによって時間の経過にしたがって抗原的に発達し、抗原ドリフトでは、ヘマグルチニン(HA)タンパク質の変異はウイルスがヒトの既存の免疫から逃れヒトの集団で存続することを可能にする。インフルエンザAのいくつかの亜型が存在し、Hの番号(ヘマグルチニンの型)およびNの番号(ノイラミニダーゼの型)にしたがって名付けられる。現在のところ、16の異なる公知H抗原(H1からH16)があり、9つの異なる公知N抗原(N1からN9)が存在する。各ウイルス亜型が種々の病原性プロフィールを有する多様な株に変異してきた。いくつかは1つの種にとって病原性であるが他の種には病原性ではなく、いくつかは複数の種に対して病原性である。ヒトで確認されている例示的なインフルエンザAウイルス亜型には以下が含まれる(ただしそれらに限定されない):H1N1(“スペインかぜ”および2009年のブタかぜの大発生を引き起こした);H2N2(1950年代後期に“アジアかぜ”を引き起こした);H3N2(1960年代後期にホンコンかぜを引き起こした);H5N1(2000年代中頃の拡散による世界的インフルエンザ大流行の脅威と考えられる);H7N7;H1N2(これまでのところ人間とブタで流行性である);およびH9N2、H7N2、H7N3、H5N2、H10N7。
【0028】
少なくとも1988年以来、抗原的および遺伝的に別個のインフルエンザBウイルスの2つの系統が、同時に循環し人間で疾患を引き起こしている。Victoria系統のインフルエンザウイルスは1980年代に世界的に循環する優勢なB型株で、Yamagata系統は1990年代初期に支配的となった。1991年以来、Victoria系統ウイルスの単離頻度は下がり、ほぼ完全に東アジアに限定された。Victoriaウイルスは2002年に再び現れ、以来YamagataおよびVictoria系統の両方が共存している。
1940年から2016年に単離されたインフルエンザBウイルスの進化的関係は、近代の単離株のBM1およびBM2タンパク質は、B/Lee/40のものよりも互いに近縁であることを示している。
【0029】
インフルエンザウイルスは標準的命名法を有し、前記はウイルス型、当該ウイルスが単離された種(非ヒトの場合)、それが単離された場所、単離株番号、単離年、並びにインフルエンザAウイルスの場合のみHAおよびNA亜型を含む。したがって、B/Yamagata/16/88は、1988年に山形(日本)で採取されたヒトインフルエンザBウイルスの単離株番号16であった。
いくつかのインフルエンザA変種が同定され以下のように命名される:それらがもっとも類似する既知の単離株を基準にする(したがって系統を共有することが推定される(例えばフジアン(Fujian)かぜウイルス様))、それらの典型的宿主を基準にする(例えばヒトかぜウイルス)、それらの亜型を基準にする(例えばH3N2)、それらの病原性を基準にする(例えばLP(低病原性))。したがって、単離株A/Fujian/411/2002(H3N2)に類似するウイルスによるかぜは、フジアンかぜ、ヒトかぜ、およびH3N2かぜと呼ぶことができる。
加えて、インフルエンザ変種はときには、当該株が流行または順応した種(宿主)を基準に命名される。この慣例を用いて命名される主要な変種は、トリかぜ、ヒトかぜ、ブタインフルエンザ、ウマインフルエンザ、およびイヌインフルエンザである。変種はまた、家禽、特にニワトリにおけるそれらの病原性を基準に命名される、例えば低病原性トリインフルエンザ(LPAI)および高病原性トリインフルエンザ(HPAI)。
【0030】
B.生活環と構造
インフルエンザウイルスの生活環は、おおざっぱに言って細胞表面受容体への付着、細胞への侵入およびウイルス核酸の脱外被、その後に続く細胞内でのウイルス遺伝子の複製を含む。ウイルスタンパク質および遺伝子の新しいコピーを合成した後、これらの成分を子孫ウイルス粒子に組み立て、前記粒子は続いて細胞から出ていく。種々のウイルスタンパク質がこれらの工程の各々で役割を果たす。
インフルエンザA粒子は、ウイルスコアを被包する脂質エンベロープで構成される。エンベロープの内側はマトリックスタンパク質(M1)で裏打ちされ、一方、外側表面は2つのタイプの糖タンパク質スパイク(ヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA))によって特徴付けられる。M2(トランスメンブレンイオンチャネルタンパク質)もまた脂質エンベロープの部分である(例えば
図1を参照されたい)。インフルエンザB粒子もまた類似の構造を含む。
【0031】
HAタンパク質(トリマー性I型膜タンパク質)は、宿主細胞表面の糖タンパク質または糖脂質上のシアリルオリゴ糖(ガラクトースと結合した末端シアル酸を含むオリゴ糖)との結合に必要である。このタンパク質はまた、ウイルス膜と宿主細胞膜との間の融合とその後のエンドサイトーシスによるビリオンの内在化に必要である。
ノイラミニダーゼ(NA)(テトラマー性II型膜タンパク質)はシアリダーゼであり、前記は、宿主細胞の糖複合化物並びにHAおよびNAから末端シアル酸残基を切断し、したがって受容体破壊酵素として認識される。このシアリダーゼ活性は、宿主細胞表面の子孫ビリオンの効率的放出とともに、ウイルスHAの他の糖タンパク質との結合活性による子孫の凝集の防止に必要である。したがって、HAの受容体結合活性とNAの受容体破壊活性はおそらく拮抗的に働き、インフルエンザの効率的な複製を可能にする。
【0032】
ゲノムセグメントはウイルス粒子のコアにパッケージされる。RNP(RNA+核タンパク質(NP))は、各セグメントと結合した3つのウイルスポリメラーゼポリペプチドとともにヘリックス形状で存在する。
インフルエンザウイルスの生活環は、宿主細胞表面のシアル酸含有受容体とHAとの結合により開始し、その後に受容体媒介エンドサイトーシスが続く(
図1)。後期エンドソームの低pHはHAの配座シフトを始動させ、それによってHA2サブユニット(いわゆる融合ペプチド)のN-末端を露出させる。前記融合ペプチドはウイルス膜とエンドソーム膜との融合を開始し、マトリックスタンパク質(M1)およびRNP複合体が細胞質中に放出される。RNPは、核タンパク質(NP)(前記はvRNAをキャプシド被包する)、およびウイルスポリメラーゼ複合体(PA、PB1およびPB2タンパク質によって形成される)から成る。RNPは核に移され、核で転写及び複製が生じる。RNAポリメラーゼ複合体は3つの異なる反応を触媒する:(1)5’キャップおよび3’ポリA構造を有するmRNAの合成、(2)完全長相補性RNA(cRNA)の合成、および(3)鋳型としてcDNAを用いるゲノムvRNAの合成。新規に合成されたvRNA、NPおよびポリメラーゼタンパク質を続いてRNPに組み立て、核から搬出し、形質膜へ輸送し、形質膜で子孫ウイルス粒子の出芽が生じる。ノイラミニダーゼ(NA)タンパク質は、シアリルオリゴ糖からシアル酸を除去し、したがって新規に組み立てられたビリオンを細胞表面から放出し、さらにウイルス粒子の自己凝集を防止することによって感染後期に役割を果たす。ウイルスの組立てはタンパク質-タンパク質相互作用およびタンパク質-vRNA相互作用を必要とするが、これら相互作用の本質はほとんど不明のままである。
【0033】
C.M2およびBM2タンパク質の役割
上記に記載したように、3つのタンパク質(ヘマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)およびM2)がインフルエンザAウイルス膜を跨いでいる。HAおよびNAの細胞外ドメイン(エクトドメイン)にはかなりの変動性があるが、M2のエクトドメインはインフルエンザAウイルス間で本質的に変わらない。M2イオンチャネルタンパク質はウイルスゲノムの複製に影響しないが、ウイルスの増殖には不可欠である。一回複製(SR)ウイルスは、ウイルスの侵入または放出で機能するビリオンタンパク質(例えばインフルエンザA M2またはインフルエンザBM2イオンチャネルタンパク質)に欠陥を有する。対照的に、伝統的な弱毒化生ウイルスワクチンはウイルス複製機構に複数の変異を含み、高度に弱毒化された表現型をもたらす。理論に拘束されないが、インフルエンザAウイルスでは、M2タンパク質(イオンチャネル活性を有する)は、宿主細胞貫通およびウイルスRNA脱外被の間のウイルス生活環の初期に機能すると考えられる。いったんビリオンがエンドサイトーシスを受けたら、ビリオン結合M2イオンチャネル(ホモテトラマーヘリックス束)は、プロトンがエンドソームからビリオン内部に流れることを可能にして、酸に不安定なM1タンパク質-リボヌクレオタンパク質複合体(RNP)相互作用を破壊し、それにより細胞質へのRNP放出を促進すると考えられている。加えて、HAが細胞内で切断されるいくつかのインフルエンザ株(例えばA/fowl plagues/Rostock/34)では、M2イオンチャネルは、トランスゴルジ網のpHを高め、この区画内の低pH条件に起因するHAの配座変化を防ぐと考えられる。M2トランスメンブレンドメインそれ自体がイオンチャネルとして機能できるということもまた示された。M2タンパク質イオンチャネル活性は、インフルエンザウイルスの生活環で必須であると考えられる。なぜならば、アマンタジン塩酸塩(M2イオンチャネル活性を遮断する)がウイルス複製を阻害することが示されたからである。しかしながら、インフルエンザAウイルスの複製におけるこの活性の要件は直接的には明示されていない。インフルエンザAウイルスM2タンパク質に対するインフルエンザBウイルスの機能的対応物は、BM2として知られるIII型トランスメンブレンタンパク質である。
【0034】
D.ワクチンとしてのM2およびBM2ウイルス変異体
M2SRは新規なクラスの一回複製(SR)ウイルスワクチンに属する。SRウイルスは、ウイルス侵入または放出で機能するビリオンタンパク質(例えばflu M2イオンチャネルタンパク質)に欠陥がある。前記タンパク質はウイルスゲノムの複製には影響しないがウイルスの増殖には不可欠である。対照的に、伝統的な生弱毒化ワクチンはウイルス複製機構に複数の変異を含み、高度に弱毒化された表現型を生じる。したがって、2つの異なるワクチンウイルスメカニズムがウイルス感染動態および抗原生成に影響し、それは防御および免疫応答の誘発に影響を及ぼす。複製欠損ウイルスは固有のウイルスワクチン形態を提供する。前記形態は、ウイルス遺伝子生成物を細胞内で発現させて抗原をMHCクラスIおよびクラスII経路によって効率的に提示できるようにすることによって、弱毒化ウイルスワクチンの安全性と生ウイルスワクチンの免疫原性を1つに結合させる。一回複製ウイルスはまた、トル様受容体および他の先天的免疫応答経路を活性化し、それによってそれら自身のアジュバントとして機能することができる。加えて、これらウイルスは、免疫系の機能をプローブするためのツールとして用いることができる。これらの変異ウイルスは、ウイルス組立て後に機能するビリオンタンパク質に欠陥がある。当該ウイルスは、失われた遺伝子生成物を発現する補完細胞で増殖する。正常な細胞では、複製周期は正常に生じ、子孫ビリオンが生産される。しかしながら、これらのビリオンは非感染性で、したがって感染は第二周目細胞に広がらない。
【0035】
III.M2およびBM2ウイルス変異体
ある特徴では、変異M2 vRNA配列を保持するインフルエンザAウイルスが開示される。典型的には、そのような変異体はM2イオンチャネル活性を持たず、in vivoで弱められた増殖特性を示し、感染性子孫を生産できず、感染対象動物で非病原性であるかまたは緩和された病原性を示す。別の特徴では、変異BM2 vRNA配列を保持するインフルエンザBウイルスが開示される。典型的には、そのような変異体はBM2イオンチャネル活性を持たず、in vivoで弱められた増殖特性を示し、感染性子孫を生産できず、感染対象動物で非病原性であるかまたは緩和された病原性を示す。変異ウイルスは免疫原性であり、ワクチンとして用いられるときは、対応する野生型および/または他の病原性ウイルスによる感染に対して防御を提供する。加えて、本明細書に開示するM2およびBM2変異体は安定であり、用いられる宿主細胞にかかわらず、変異して機能的M2またはBM2ポリペプチドを発現することはない。加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、これら変異体のM1タンパク質はその機能に検出できるような変更を生じないで生産される。いくつかの実施態様では、変異M2またはBM2核酸配列を保持するウイルスは宿主細胞で複製することができない(当該宿主細胞で野生型ウイルスは増殖し得よう)。制限するのではなく例示として、いくつかの実施態様では、野生型ウイルスは、培養MDCK細胞、CHO細胞および/またはVero細胞で増殖、繁殖および複製でき、一方、変異M2またはBM2配列を保持する対応するウイルスは同じタイプの細胞で増殖、複製または繁殖させることはできない。
【0036】
上記に書き留めたように、いくつかの実施態様では、M2またはBM2変異ウイルスは安定であり、野生型または機能的なM2若しくはBM2タンパク質をコードする非野生型配列へ変異若しくは復帰しない。例えば、いくつかの実施態様では、M2またはBM2変異ウイルスは2継代、3継代、5継代、10継代、12継代、15継代、20継代、25継代、または25継代を超えて宿主細胞で安定である。いくつかの実施態様では、宿主細胞は非改変宿主細胞である。いくつかの実施態様では、宿主細胞は、M2をtrans態様で安定的に提供する任意の哺乳動物細胞である。他の実施態様では、宿主細胞は、M2またはBM2タンパク質を発現する改変宿主細胞(例えばMOCKまたはVero細胞)である。
【0037】
いくつかの実施態様では、M2またはBM2変異体は1つ以上の核酸置換および/または欠失を含む。いくつかの実施態様では、変異は、M2またはBM2タンパク質の細胞外ドメイン、M2またはBM2タンパク質のトランスメンブレンドメイン、および/またはM2またはBM2タンパク質の細胞質テールの1つ以上をコードする核酸に局在化される。加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、1つ以上の核酸変異は、M2またはBM2のスプライス変種、1つ以上の終止コドンおよび/または1つ以上のアミノ酸欠失を生じる。いくつかの実施態様では、変異M2またはBM2核酸を持つウイルスは非機能性M2またはBM2ポリペプチドを生成する。いくつかの実施態様では、変異M2またはBM2核酸を持つウイルスはM2またはBM2ポリペプチドを生成しない。いくつかの実施態様では、変異M2またはBM2核酸を持つウイルスは先端切詰めM2またはBM2ポリペプチドを生成する。
【0038】
3つの例示的で非限定的なM2ウイルス変異体(M2SR-1、M2SR-2およびM2SR-3)が、下記の表1-3に提供される。これらの表では、小文字はM2配列に対応し、大文字はM1配列および非コード領域に対応し、変異配列(例えば終止コドン、スプライス欠損)は太字で下線を付されている。M2SR-2変異体の下線を付された(小文字)塩基は、M2SR-1およびM2SR-3変異体で欠失する領域を示す。小文字斜字体の塩基はMおよびM2オーバーラップ領域を含む。
【0039】
【0040】
この変異体から生成されるM2ポリペプチド配列は以下のとおりである:
MSLLTEVETPIRNEWGCRCNGSSD(配列番号:4)
【0041】
【0042】
この変異体からM2ポリペプチド配列は生成されない。
【0043】
【0044】
この変異体からM2ポリペプチド配列は生成されない。
野生型M1およびM2コード配列は下記の表4に提供される。
【0045】
【0046】
例示的非制限的なBM2SRウイルス変異体(BM2SR-1、BM2SR-2、BM2SR-3、BM2SR-4、BM2SR-5およびBM2SR-0)は下記表5に提供される。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
インフルエンザBゲノムセグメント7は、複製のためにウイルスが必要とする2つの主要なポリペプチド(BM1マトリックスタンパク質およびBM2プロトンチャネル)を発現する。BM1およびBM2ポリペプチドの発現は、ペンタヌクレオチドモチーフ翻訳スリッページ部位によって部分的に調節され、前記部位はBM1およびBM2 ORFの間の連結点に存在する。ペンタヌクレオチドモチーフ(TAATG)は、M1翻訳の終了のためのTAA終止コドンおよびM2開始のためのATG開始コドンの両方をオルタネート-1リーディングフレームに含む。このペンタヌクレオチドモチーフおよびフランキング配列は、M1タンパク質の発現の調節のために重要であることが示されている。
BM1およびBM2コード配列並びに太字で下線を付与されたペンタヌクレオチドモチーフを示す野生型インフルエンザBセグメント7は下記の表6に提供される。
【0053】
【0054】
【0055】
IV.細胞依拠ウイルス生産系
A.“第一世代”変異ウイルスの生産
変異ウイルス、例えば変異M2核酸を有するものは、Neumannらが記載したプラスミド系逆遺伝学によって作製できる(Neumann et al., Generation of influenza A viruses entirely from clone cDNAs, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:9345-9350, 1999(前記文献は参照によってその全体が本明細書に含まれる))。変異ウイルス、例えば変異BM2核酸を有するものは同様な手段によって作製することができる。簡単に記せば、真核宿主細胞に8つのウイルスRNAをコードする1つ以上のプラスミドをトランスフェクトする。各ウイルスRNA配列は、RNAポリメラーゼIプロモーターおよびRNAポリメラーゼIターミネーターによってフランキングされる。特に、M2タンパク質をコードするウイルスRNAは変異M2核酸配列を含む。加えて、宿主細胞は、ウイルスタンパク質(例えばポリメラーゼ、核タンパク質および構造タンパク質)(野生型M2タンパク質を含む)をコードする1つ以上の発現プラスミドをトランスフェクトされる。宿主細胞のウイルスRNAプラスミドによるトランスフェクションは、8つのインフルエンザウイルスRNAの全ての合成をもたらし、それらウイルスRNAの1つは変異M2配列を有する。共同トランスフェクトされたウイルスポリメラーゼおよび核タンパク質はウイルスRNAを機能的なvRNAに組み立て、前記vRNAは複製され転写され、最終的に、変異M2核酸配列を有するが、なおウイルス脂質エンベロープに取り込まれた機能的M2ポリペプチドを有する感染性インフルエンザウイルスを形成する。
【0056】
“第一世代”の変異ウイルスを生産するまた別の方法には、in vitro作製組換えRNA分子によるインフルエンザウイルス遺伝子の交換を可能にするリボヌクレオタンパク質(RNP)トランスフェクション系が含まれる。前記系は、Enami and Paleseによって記載された(Enami and Palese, High-efficiency formation of influenza virus transfectants, J. Virol. 65(5):2711-2713(前記文献は参照によってその全体が本明細書に含まれる))。
Luytjesらによって示されたように、ウイルスRNAはin vitroで合成され、RNA転写物は、トランスフェクト細胞で生物学的に活性なRNPとして機能するウイルスヌクレオタンパク質(NP)およびポリメラーゼタンパク質で被覆される(Luytjes et al., Amplification, expression, and packaging of a foreign gene by influenza virus, Cell 59:1107-1113(前記文献は参照によってその全体が本明細書に含まれる))。
【0057】
RNPトランスフェクション方法は4つの工程に分割することができる:1)RNAの調製:インフルエンザウイルスセグメントをコードするプラスミドDNAは、in vitro転写反応でマイナスセンスRNAに転写される;2)RNAのキャプシド被包:転写されたRNAを続いてグラジエント精製NPおよびポリメラーゼタンパク質(破壊したインフルエンザウイルスから単離)と混合し、生物学的に活性なRNP複合体を形成する;3)トランスフェクションおよびキャプシド被包RNAのレスキュー:人工リボヌクレオキャプシドを細胞にトランスフェクトする。前記細胞は、レスキューされるウイルスに由来する種々の遺伝子を含むヘルパーインフルエンザウイルスで前もって感染されてあり、ヘルパーウイルスはトランスフェクトされたRNAを増幅するであろう;4)トランスフェクトされた遺伝子の選別:ヘルパーウイルスおよびレスキューされる遺伝子を含むトランスフェクタントの両方が培養上清に存在するので、抗体を用いる適切な選別系がトランスフェクトされた遺伝子を保有するウイルスの単離のために必要である。
この選別系は、特殊な生物学的分子的特徴を有する新規なトランスフェクタントインフルエンザウイルスの作出を可能する。続いて、標的とする表面タンパク質に対する抗体選別を正または負の選別に用いることができる。
【0058】
例えば、M2タンパク質を発現しないM2遺伝子を含むトランスフェクタントまたは変異ウイルスは、安定的に野生型の機能性M2タンパク質を発現するように改変されてある適切な哺乳動物細胞株で増殖させることができる。野生型M2遺伝子を発現する(したがって膜表面でM2eタンパク質を発現する)ヘルパーウイルスの複製を防止または阻害するために、M2eに対する抗体を用いることができる。そのような抗体は商業的に入手可能であり、当該抗体は、ヘルパーウイルスの複製を阻害し、変異M2を含むトランスフェクタント/変異ウイルスの増殖および上清での濃縮を可能にしよう。M2e抗体によるインフルエンザウイルスの増殖阻害は以前に下記文献に記載されている:Influenza A virus M2 protein: monoclonal antibody restriction of virus growth and detection of M2 in virions, J Virol 62:2762-2772, 1988;およびTreanor et al, Passively transferred monoclonal antibody to the M2 protein inhibits influenza A virus replication in mice, J. Virol. 64:1375-1377, 1990。
【0059】
加えて或いはまた別に、同じ抗体を用いて、ヘルパーウイルスを‘捕捉し’、トランスフェクタントを濃縮させることができる。例えば、抗体を用いて組織培養皿の底を被覆するか、またはカラムマトリックスで用いて上清または溶出液のトランスフェクタントを濃縮することができる。
制限希釈によってトランスフェクタントウイルスをマルチウェルプレートのM2発現細胞で増殖させ、続いてレプリカプレートを作成することによって識別およびクローニングすることができる。例えば、増殖ウイルスを含むマルチウェルプレートのあるウェルの1/2アリコットを用いてMDCK細胞に感染させ、残りの半分をM2タンパク質発現MDCK細胞に感染させることができる。トランスフェクタントウイルスおよびヘルパーウイルスの両方がM2タンパク質発現MDCK細胞で増殖するであろう。しかしながら、ヘルパーウイルスのみが標準MDCK細胞で増殖し、トランスフェクタントを含むマルチウェルプレートのウェルの識別を可能にするであろう。トランスフェクタントウイルスはさらに、M2タンパク質を発現する細胞でプラーク精製することができる。
【0060】
B.ウイルス変異体を増やす
いくつかの実施態様では、本明細書に記載のウイルス変異体は宿主細胞で維持および継代される。制限するのではなく例示として、インフルエンザウイルス変異体(例えばインフルエンザAウイルス変異体)の増殖に適切な例示的宿主細胞には多数の真核細胞、例えば以下が含まれる(ただしそれらに限定されない):Madin-Darbyイヌ腎細胞(MDCK)、サル細胞(例えばアフリカミドリザル細胞(例えばVero細胞)、CV-1細胞およびアカゲザル腎細胞(例えばLLcomk.2細胞))、ウシ細胞(例えばMDBK細胞)、ブタ細胞、フェレット細胞(例えばミンク肺細胞)、BK-1細胞、げっ歯類細胞(例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞)、ヒト細胞、例えば胎児ヒト腎細胞(例えばPER-C6(商標))、293Tヒト胎児腎細胞、並びにトリ細胞(胎児線維芽細胞を含む)。
加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、真核宿主細胞は、例えば宿主細胞のウイルス感染を強化することにより、および/またはウイルス増殖速度を強化することにより改変されてウイルス生産が強化される。例えば、いくつかの実施態様では、宿主細胞は改変されて、2,6-結合シアル酸を発現するかまたはその発現が増強され、変異体または野生型インフルエンザAウイルスによるこれら細胞のより効率的およびより効果的な感染を可能にする。例えば米国特許公開No. 2010-0021499および米国特許7,176,021号を参照されたい(前記は参照によってその全体が本明細書に含まれる)。したがって、いくつかの例示的実施態様では、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)および/またはVero細胞が用いられ、それらは、2,6-シアリルトランスフェラーゼ遺伝子(ST6GAL 1)の少なくとも1つのコピーを発現するように改変される。制限ではなく例示として、ホモサピエンス(Homo sapiens)ST6ベータ-ガラトサミド(beta-galatosamide)アルファ-2,6-シアリルトランスフェラーゼ遺伝子配列(アクセッション番号BC040009.1によって示される)は、CHO細胞に組み込まれ発現され得るST6Gal遺伝子の一例である。機能的なST6GalI遺伝子生成物をコードする1コピー以上のポリヌクレオチドを細胞中に操作することができる。すなわち、ST6GalI遺伝子の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または12を超えるコピーを発現するように安定的に形質転換されてある細胞を用いることができる。単一発現カセットは発現され得るST6GalI遺伝子の1つ以上のコピーを含むことができる。前記遺伝子は、調節エレメント(例えばプロモーター、エンハンサーおよびターミネーター)およびポリアデニル化シグナルに作動できるように連結され、ST6GalI遺伝子またはそのコピーの発現を促進することができる。また別には、単一発現カセットが1コピーのST6GalI遺伝子を発現するように操作し、複数の発現カセットを宿主細胞ゲノムに組み入れることができる。したがって、いくつかの実施態様では、少なくとも1つのST6GalI遺伝子が宿主細胞のゲノムに取り込まれ、当該細胞はST6GalI遺伝子およびその酵素タンパク質生成物を発現することができる。コピー数に応じて、単一宿主細胞は多くの機能的なST6GalI遺伝子タンパク質を発現することができる。
【0061】
安定な改変細胞株のクローニング、トランスフェクションおよび作製のための適切なベクターは当業界では周知である。非制限的な一例にはpcDNA3.1ベクター(Invitrogen)が含まれる。
加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、変異ウイルス遺伝子の野生型バージョンを生産するように真核宿主細胞が改変され、それによってウイルスにtrans態様で当該遺伝子が提供される。例えば、変異M2タンパク質を有するウイルス株は、野生型M2タンパク質を生産する宿主細胞で継代されるとき、強化された増殖速度(例えばより大量のウイルス生産)を示すことができる。いくつかの実施態様では、変異M2タンパク質を有するウイルス株は、野生型M2遺伝子を発現しない細胞では増殖または複製することができない。加えて、そのような宿主細胞は、機能的M2配列へのウイルス復帰が遅いかまたは復帰を妨げることができる。なぜならば、例えばそのような宿主では復帰の選択圧が存在しないからである。
発現ベクターおよび改変宿主細胞の両方の作製方法は当業界で周知である。例えば、M2発現ベクターは、下記のM2核酸配列(M2 ORF配列;これは“野生型”M2の開始コドンから終止コドンまでである(表7))を真核細胞発現ベクターに配置することによって作製することができる。同様な方法をBM2のために利用することができる(BM2の配列は下記の表7に提供される)。
【0062】
【0063】
【0064】
続いて宿主細胞(例えばMDCK細胞)に、当業界で公知の方法によって、例えば商業的に入手できる試薬およびキット(例えばTransIT(商標)LT1(Mirus Bio, Madison, WI))を用いて、トランスフェクションすることができる。制限ではなく例示として、検出可能なマーカーまたは選別可能なマーカー(例えばヒグロマイシン耐性)との共同トランスフェクションによって、および/または例えばM2抗体を用いる間接免疫染色によるスクリーニングによって、細胞を選別しM2発現について試験することができる。M2発現は間接免疫染色、フローサイトメトリーまたはELISAによって決定することができる。
【0065】
制限ではなく例示として、293ヒト胎児腎細胞およびMadin-Darbyイヌ腎細胞(MDCK)細胞を、それぞれ10%ウシ胎児血清を補充したダルベッコー改変イーグル培地(Dulbecco's modified Eagle's medium)および5%ウシ新生児血清を含む最小必須培地(MEM)で維持した。全ての細胞を5%CO2下に37℃で維持した。A/Puerto Rico/8/34(H1N1)由来のM2タンパク質を安定的に発現するヒグロマイシン耐性MDCK細胞を、プラスミドpRHyg(ヒグロマイシン耐性遺伝子を含む)およびプラスミドpCAGGS/M2(完全長M2遺伝子を発現する)を用い1:1の比で共同トランスフェクションすることによって樹立した。M2を発現する安定なMDCK細胞クローン(M2CK)を、0.15mg/mLのヒグロマイシン(Roche, Mannheim, Germany)を含む培地で、抗M2(14C2)モノクローナル抗体による間接免疫染色を用いてスクリーニングすることによって選別した(Iwatsuki et al., JVI, 2006, vol.80, No.1, p.5233-5240)。M2CK細胞は、10%ウシ胎児血清および0.15mg/mLのヒグロマイシンを補充したMEMで培養した。M2CK細胞では、M2の発現レベルおよび分布はウイルス感染細胞のそれと同様であった(データは示されていない)。BM2発現BM2CK細胞は同様な態様で作製でき、さらにM2またはBM2発現Vero細胞も同様な態様で作製することができる。
【0066】
いくつかの実施態様では、細胞及びウイルス変異体を培養して当業界で周知の方法によって増殖させる。制限ではなく例示として、いくつかの実施態様では、宿主細胞は10%ウシ胎児血清を補充したMEMの存在下で増殖させる。M2またはBM2を発現する細胞に、PBS洗浄後にウイルスを37℃で吸着させることによって0.01のMOIで感染させる。いくつかの実施態様では、トリプシン/TPCKを含むウイルス増殖培地を添加し、細胞変性効果が観察されるまで細胞を2-3日間インキュベートする。
【0067】
これらの流れに沿って、使い捨てのバイオリアクターが哺乳動物細胞のために開発された(ウイルスを含む場合も含まない場合もある)。前記の利点はより迅速な設備のセットアップおよび相互汚染のリスク軽減を含む。本明細書に記載する細胞は、例えば使い捨てバッグ(例えばStedim社のバッグ、Bioeazeバッグ(SAFC Biosciences)、HybridBag TM(Cellexus Biosystems)、または一回使用バイオリアクター(HyClone)、またはCelltainer(Lonza))で培養することができる。バイオリアクターは1L、10L、50L、250L、1000Lサイズ様式が可能である。いくつかの実施態様では、細胞は、最適化された無血清培地で、動物生成物を含まない状態で懸濁物として維持される。系は、例えば1Lから10Lの単一バッグで培養を拡張させることができるフェッド-バッチ系でも、または、栄養物の定常的供給を可能にし、同時に潜在的に有害な副生成物の培養液中の蓄積を回避する灌流系でもよい。
長期貯蔵のために、変異体ウイルスは凍結ストックとして保存することができる。
【0068】
V.ワクチンおよび投与方法
A.免疫原性組成物およびワクチン
種々の異なるタイプのワクチンが存在し、それらは本明細書に開示する細胞依拠ウイルス生産系から作製できる。本開示は以下を含む(ただしそれらに限定されない):生弱毒化ウイルスワクチンの製造および作製、一回複製ワクチン、複製欠陥ワクチン、ウイルスベクターワクチン、不活化ウイルスワクチン、全ウイルスワクチン、分割ウイルスワクチン、ヴィロソームウイルスワクチン、ウイルス表面抗原ワクチンおよび前記の組合せ。したがって、種々のインフルエンザウイルスに特異的な防御免疫応答をもたらすことができる多数のワクチンが存在し、これらワクチンタイプのいずれかの適切な処方物が免疫応答、例えば全身的免疫応答をもたらすことができる。生弱毒化ウイルスワクチンはまた、気道の局所粘膜免疫を刺激できるという利点を有する。
いくつかの実施態様では、本明細書に記載の組成物で使用されるワクチン抗原は“直接的”抗原である。すなわち、それらはDNAとして投与されるのではなく、抗原そのものである。そのようなワクチンには以下が含まれ得る:全ウイルスまたはウイルスの部分のみ、例えば限定されないがウイルス多糖類(単独であれ担体成分(例えば担体タンパク質)との複合物であれ)、生弱毒化全微生物、不活化微生物、組換えペプチドおよびタンパク質、糖タンパク質、糖脂質、リポペプチド、合成ペプチド、または“分割”ワクチンと称されるワクチンの場合の破壊微生物。
【0069】
いくつかの実施態様では、完全なビリオンワクチンが提供される。完全なビリオンワクチンは限外ろ過によって濃縮され、続いてゾーン遠心分離によってまたはクロマトグラフィーによって精製される。典型的には、ビリオンは、例えばホルマリンまたはベータ-プロピオラクトンを用いて精製の前または後で不活化される。
いくつかの実施態様では、サブユニットワクチンが提供され、前記は精製された糖タンパク質を含む。そのようなワクチンは以下のように調製できる:洗剤で処理してフラグメント化したウイルス懸濁物を用い、表面抗原を例えば超遠心分離によって精製する。したがってサブユニットワクチンは主としてHAタンパク質およびNAもまた含む。用いられる洗剤は、陽イオン洗剤(例えば臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム)、陰イオン洗剤(例えばデオキシコール酸アンモニウム)、または非イオン性洗剤(例えばTRITON X100の名称で商業化されたもの)であり得る。ヘマグルチニンはまた、プロテアーゼによるビリオンの処理後に単離し、続いて標準的な方法で精製してもよい。
【0070】
いくつかの実施態様では、分割ワクチンが提供され、前記は、脂質を溶解する薬剤による処理に付されてあるビリオンを含む。分割ワクチンは以下のように調製することができる:上記のように入手した精製ウイルスの水性懸濁物を(不活化されていてもいなくても)、洗剤とともに脂質溶媒(例えばエチルエーテルまたはクロロホルム)で攪拌しながら処理する。ウイルスエンベロープ脂質の溶解はウイルス粒子のフラグメント化をもたらす。分割ワクチンを含む水相を回収する。前記は、主としてヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼ(それらの除去された本来の脂質環境とともに)、およびコアまたはその分解産物から成る。続いて、不活化がまだ実施されていない場合は、残留する感染性粒子を不活化する。
【0071】
いくつかの実施態様では、不活化インフルエンザウイルスワクチンが提供される。いくつかの実施態様では、不活化ワクチンは、公知の方法、例えばホルマリンまたはβ-プロピオラクトン処理(ただし前記に限定されない)を用いてウイルスを不活化することによって作製される。本発明で用いることができる不活化ワクチンタイプには、全ウイルス(WV)ワクチンまたはサブビリオン(SV)(分割)ワクチンが含まれ得る。WVワクチンは無傷の不活化ウイルスを含み、一方、SVワクチンは、脂質含有ウイルスエンベロープを溶解する洗剤で破壊し、続いて残留ウイルスを化学的に不活化した精製ウイルスを含む。
加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、生弱毒化インフルエンザウイルスワクチンが提供される。そのようなワクチンは、公知の方法工程にしたがってインフルエンザウイルス感染の予防または治療のために用いることができる。
【0072】
いくつかの実施態様では、弱毒化は、公知の方法にしたがって、弱毒化ドナーウイルスから単離株または再編成ウイルスへ弱毒化遺伝子を移転させることによって単一工程で達成される(例えば以下を参照されたい:Murphy, Infect. Dis. Clin. Pract. 2, 174, 1993)。いくつかの実施態様では、ウイルスは、1つ以上のウイルス核酸配列の変異(変異ウイルスを生じる)によって弱毒化される。例えば、いくつかの実施態様では、変異ウイルス核酸配列は、欠陥のあるタンパク質生成物をコードする。いくつかの実施態様では、タンパク質生成物は低下機能を有するか、または機能を持たない。他の実施態様では、当該変異ウイルス核酸からはタンパク質生成物は生じない。
【0073】
本明細書に記載の一回複製ウイルスは、免疫原性組成物として(例えばワクチンとして)公知の方法にしたがって処方され投与されて、動物(例えばトリおよび/または哺乳動物)で免疫応答を誘発することができる。そのような弱毒化または不活化ワクチンが、臨床単離株またはそれらに由来する高増殖株の抗原性と類似する抗原性を維持しているか否かを決定するための方法は当業界で周知である。そのような公知の方法には以下が含まれる:抗血清または抗体を使用して、ドナーウイルスの抗原決定基を発現するウイルスを除去する;化学的選別(例えばアマンタジンまたはリマンチジン);HAおよびNA活性および阻害;およびDNAをスクリーニングして(例えばプローブハイブリダイゼーションまたはPCR)、抗原決定基(例えばHAまたはNA遺伝子)または他の変異配列(例えばM2)をコードするドナー遺伝子が弱毒化ウイルスには存在しないことを確認する。例えば以下を参照されたい:Robertson et al., Giornale di Igiene e Medicina Preventiva, 29, 4, 1988;Kilbourne, Bull. M2 World Health Org., 41, 643 (1969); and Robertson et al., Biologicals, 20, 213, 1992。
いくつかの実施態様では、ワクチンは、機能的M2タンパク質の発現を欠く一回複製インフルエンザウイルスを含む。いくつかの実施態様では、変異ウイルスは、M2タンパク質を発現する細胞では良好に複製するが、対応する野生型細胞では複製せず、感染性子孫ビリオンを生じることなくウイルスタンパク質を発現する。
【0074】
鼻内投与、皮内投与、接種、または非経口若しくは経口投与のために適切な本技術の医薬組成物は、弱毒化または不活化インフルエンザウイルスを含み、場合によってさらに無菌的な水性または非水性溶液、懸濁物および乳濁液を含むことができる。組成物はさらに、当業界で公知の補助剤または賦形剤を含むことができる。例えば以下を参照されたい:Berkow et al., The Merck Manual, 15th edition, Merck and Co., Rahway, N.J., 1987;Goodman et al., eds., Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, Eighth Edition, Pergamon Press, Inc., Elmsford, N.Y., 1990;Avery's Drug Treatment: Principles and Practice of Clinical Pharmacology and Therapeutics, Third Edition, ADIS Press, LTD., Williams and Wilkins, Baltimore, Md., 1987;およびKatzung, ed., Basic and Clinical Pharmacology, Fifth Edition, Appleton and Lange, Norwalk, Conn., 1992。
【0075】
いくつかの実施態様では、鼻内デリバリー用液体調製物は溶液または懸濁物の形態を採ることができ、通常的な賦形剤、例えば張度調整剤(例えば塩化ナトリウム、デキストロースまたはマンニトール);保存料(例えば塩化ベンザルコニウム、チオメルサール、フェニルエチルアルコール);および他の処方剤(例えば懸濁剤、緩衝剤、安定化剤および/または分散剤)を含むことができる。
【0076】
いくつかの実施態様では、非経口投与のための調製物には無菌的水性若しくは非水性溶液、懸濁液、および/または乳液が含まれ得る。前記は、当業界で公知の補助剤または賦形剤を含むことができる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えばオリーブ油)、および注射可能有機エステル(例えばオレイン酸エチル)である。キャリアまたは密閉包帯を用いて皮膚浸透性を高め抗原吸収を強化することができる。一般的に、経口投与のための液状投薬形は、当該液状投薬形を含むリポソーム溶液を含むことができる。懸濁状リポソームに適した形態には乳液、懸濁液、溶液、シロップ、およびエリキシルが含まれ、前記は当業界で一般的に用いられる不活性希釈剤を含む。不活性希釈剤の他に、前記のような組成物はまた、アジュバント、湿潤化剤、乳化剤および懸濁剤、または甘味料、香料若しくは芳香剤を含むことができる。
【0077】
本発明の組成物が個体への投与に用いられるとき、組成物はさらに、当該組成物の有効性を改善するために所望される塩、緩衝剤、アジュバント、または他の物質を含むことができる。ワクチンのためには、アジュバント(特異的免疫を増強する物質)を用いることができる。通例では、アジュバントおよび組成物は、免疫系に提示する前に混合されるか、または、別々に提示されるが免疫される生物体の同じ部位に提示される。
いくつかの実施態様では、本開示は、少なくとも2つのインフルエンザウイルスに由来するウイルスを含む多価免疫原性組成物を提供する。いくつかの実施態様では、多価免疫原性組成物は以下を含む:(a)少なくとも1つの操作された弱毒化インフルエンザA M2不完全組換えウイルス(当該操作されたインフルエンザAウイルスは、配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む)および(b)少なくとも1つの操作された弱毒化インフルエンザBM2不完全組換えウイルス(当該操作されたインフルエンザBウイルスは、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含む)。
いくつかの実施態様では、インフルエンザAウイルスはH1N1およびH3N2亜型のグループから選択され、インフルエンザBウイルスはB/YamagataおよびV/Victoria系統のグループから選択される。
【0078】
いくつかの実施態様では、本開示は、以下を含む四価免疫原性組成物を提供する:以下の2つのM2-不完全インフルエンザA M2SRウイルス:A/California/07/2009(H1N1)およびA/Brisbane/10/2007(H3N2)(前記は両方とも配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む);および以下の2つのBM2-不完全インフルエンザB BM2SRウイルス:B/Brisbane/60/2008(Victoria)およびB/Wisconsin/01/2010(Yamagata)(前記は両方とも配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含む)。
【0079】
いくつかの実施態様では、本開示は、インフルエンザAおよびインフルエンザBに対して免疫応答を刺激する方法を提供する。前記方法は、その必要がある対象動物に、少なくとも1つのインフルエンザA株および少なくとも1つのインフルエンザB株に由来するものを含む多価免疫原性組成物を投与する工程を含む。いくつかの実施態様では、多価免疫原性組成物は以下を含む:a)少なくとも1つの操作された弱毒化インフルエンザA M2-不完全組換えウイルス(当該操作されたインフルエンザAウイルスは配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3を含む変異M2遺伝子を含む);およびb)少なくとも1つの操作された弱毒化BM2-不完全組換えウイルス(当該操作されたインフルエンザBウイルスは配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11を含む変異BM2遺伝子を含む)。
いくつかの実施態様では、インフルエンザAウイルスはH1N1およびH3N2亜型のグループから選択され、インフルエンザBウイルスはB/YamagataおよびV/Victoria系統のグループから選択される。
【0080】
いくつかの実施態様では、本開示は、インフルエンザAおよびインフルエンザBに対して免疫応答を刺激する方法を提供する。前記方法は、その必要がある対象動物に免疫原性組成物を投与する工程を含み、前記免疫原性組成物は以下を含む:以下の2つのM2-不完全インフルエンザA M2SRウイルス:配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含むA/California/07/2009(H1N1)および配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含むA/Brisbane/10/2007(H3N2);および以下の2つのBM2-不完全インフルエンザB BM2SRウイルス:配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含むB/Brisbane/60/2008(Victoria)および配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含むB/Wisconsin/01/2010(Yamagata)。いくつかの実施態様では、この免疫原性組成物は四価インフルエンザワクチンとして処方される。
【0081】
いくつかの実施態様では、本明細書に記載の四価インフルエンザワクチンとして処方される免疫原性組成物は、弱毒化された病毒性を示す。例えば、いくつかの実施態様では、四価ワクチンを感染させたマウスは、インフルエンザB一価ワクチンのみを感染させたマウスと比較して、インフルエンザAチャレンジ後の感染後平均寿命の延長を有する。いくつかの実施態様では、四価ワクチンを感染させたマウスは、インフルエンザA一価ワクチンのみを感染させたマウスと比較して、インフルエンザBチャレンジ後の感染後平均寿命の延長を有する。
【0082】
本発明の医薬組成物はさらに或いは追加として、少なくとも1つの化学療法化合物を例えば遺伝子治療のために含むことができる。前記は、免疫抑制剤、抗炎症剤若しくは免疫刺激剤、または以下を含む(ただし前記に限定されない)抗ウイルス剤、ガンマグロブリン、アマンタジン、グアニジン、ヒドロキシベンゾイミダゾール、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、腫瘍壊死因子-α、チオセミカルバゾン、メチサゾン、リファンピン、リバビリン、ピリミジンアナローグ、プリンアナローグ、フォスカーネット、ホスホノ酢酸、アシクロビル、ジデオキシヌクレオシド、プロテアーゼ阻害剤、またはガンシクロビルである。
組成物はまた、変動し得るが少量の内毒素フリーホルムアルデヒドおよび保存料を含むことができ、前記物質は、安全であり本発明の当該組成物が投与される生物における望ましくない作用に寄与しないことが見出されてある。
【0083】
B.投与
本明細書に開示する免疫原性組成物(例えばワクチン)は、ワクチンについて通常的に用いられるか、または推奨されるルート(非経口ルート、粘膜ルート)のいずれかを介して投与でき、さらに多様な形態(注射可能または噴霧可能な液体、または凍結乾燥されてあるか霧化若しくは風乾により乾燥されてある処方物など)であり得る。ワクチンは、筋肉内、皮下または皮内注射用の注射器または無針注入器を用いて投与することができる。ワクチンはまた、鼻、肺、膣または直腸に関係なく粘膜に乾燥粉末または液状噴霧をデリバリーできるネブライザーを用いることによって投与できる。
本明細書に開示するワクチンは、受動免疫または能動免疫によって1つ以上のインフルエンザ株に対する耐性を付与することができる。能動免疫では、不活化または弱毒化生ワクチン組成物が予防的に宿主(例えば哺乳動物)に投与され、当該投与に対する宿主の免疫応答が感染および/または疾患を防御する。受動免疫の場合は、誘引された抗血清が回収され、少なくとも1つのインフルエンザウイルス株によって引き起こされた感染を有すると疑われるレシピエントに投与される。
【0084】
本発明はしたがって、疾患または異常(例えば少なくとも1つのインフルエンザウイルス株による感染)を予防するかまたは減退させる方法を含む。本明細書で用いられるように、ワクチンの投与が、疾患の徴候若しくは症状の全体的若しくは部分的減退、または当該疾患に対する個体の全体的若しくは部分的免疫をもたらすならば、当該ワクチンは当該疾患を予防または減退させるということができる。
本発明の少なくとも1つの不活化または弱毒化インフルエンザウイルス、またはその組成物は、先に記載した医薬組成物を用い、意図した目的を達成する任意の手段によって投与され得る。例えばそのような組成物の投与は、多様な非経口ルート、例えば皮下、静脈内、皮内、筋肉内、腹腔内、鼻内、経口または経皮ルートによることができる。非経口投与は、ボーラス注射によってまたは時間をかけてゆっくりと灌流することによって実施できる。いくつかの実施態様では、本明細書に開示する免疫原性組成物は筋肉内または皮下適用による。
【0085】
いくつかの実施態様では、インフルエンザウイルス関連病変を予防、抑制、または治療するレジメンは、本明細書に記載のワクチン組成物の有効量の投与を含み、前記は、単回治療として投与されるか、または、1週間から約24ヶ月を含む期間またはその値域にわたって強化若しくはブースター投薬として繰り返される。いくつかの実施態様では、本明細書に開示するインフルエンザワクチンは毎年投与される。
【0086】
本技術にしたがえば、ワクチン組成物の“有効量”は、所望の生物学的効果を達成するために十分な量である。いくつかの実施態様では、有効な投薬量は、レシピエントの年齢、性別、健康状態および体重、もしあれば併存治療の種類、治療頻度、並びに希望する効果の本質に左右されることは理解される。下記に提供する有効な用量の範囲は制限を意図せず、例示的用量範囲を提示する。したがって、いくつかの実施態様では、投薬量は、当業者が理解し決定できるように、個々の対象動物にしたがって調整されるであろう。哺乳動物(例えば人間)成人のための弱毒化ウイルスワクチンの投薬量は、約101-1010プラーク形成単位(PFU/kg)またはその中の任意の値域であり得る。いくつかの実施態様では、哺乳動物(例えば人間)成人のための弱毒化ウイルスワクチンの投薬量は、約102-1010プラーク形成単位(PFU/kg)またはその中の任意の値域であり得る。いくつかの実施態様では、哺乳動物(例えば人間)成人のための弱毒化ウイルスワクチンの投薬量は、約103-1010プラーク形成単位(PFU/kg)またはその中の任意の値域であり得る。いくつかの実施態様では、哺乳動物(例えば人間)成人のための弱毒化ウイルスワクチンの投薬量は、約104-1010プラーク形成単位(PFU/kg)またはその中の任意の値域であり得る。いくつかの実施態様では、哺乳動物(例えば人間)成人のための弱毒化ウイルスワクチンの投薬量は、約105-1010プラーク形成単位(PFU/kg)またはその中の任意の値域であり得る。いくつかの実施態様では、哺乳動物(例えば人間)成人のための弱毒化ウイルスワクチンの投薬量は、約106-1010プラーク形成単位(PFU/kg)またはその中の任意の値域であり得る。いくつかの実施態様では、哺乳動物(例えば人間)成人のための弱毒化ウイルスワクチンの投薬量は、約107-1010プラーク形成単位(PFU/kg)またはその中の任意の値域であり得る。いくつかの実施態様では、哺乳動物(例えば人間)成人のための弱毒化ウイルスワクチンの投薬量は、約108-1010プラーク形成単位(PFU/kg)またはその中の任意の値域であり得る。いくつかの実施態様では、哺乳動物(例えば人間)成人のための弱毒化ウイルスワクチンの投薬量は、約109-1010プラーク形成単位(PFU/kg)またはその中の任意の値域であり得る。いくつかの実施態様では、哺乳動物(例えば人間)成人のための弱毒化ウイルスワクチンの投薬量は、約109-1010プラーク形成単位(PFU/kg)またはその中の任意の値域であり得る。いくつかの実施態様では、哺乳動物(例えば人間)成人のための弱毒化ウイルスワクチンの投薬量は、1010プラーク形成単位(PFU/kg)を超えることができる。不活化ワクチンの用量は、ヘマグルチニンタンパク質の約0.1から200、例えば50μgの半であり得る。しかしながら、投薬量は、出発点として既存のワクチンを用いる慣例的方法によって決定される安全で有効な量である。
【0087】
C.皮内デリバリー
かぜ生ワクチンは慣例的には鼻内デリバリーされ、自然の感染経路を模倣して自然のウイルス感染の免疫応答に類似する応答を促進する。代替として、本明細書では皮内デリバリーの方法が開示される。前記方法は、新規なマイクロ針装置の使用を必要とし皮内デリバリーの免疫学的利点を活用する。いくつかの実施態様では、弱毒化ウイルス(例えばM2および/またはBM2ウイルス変異体)が皮内投与用ワクチン組成物で用いられる。いくつかの実施態様では、M2およびBM2ウイルス変異体(感染性子孫ウイルスを生じない)が四価ワクチンで提供される。したがって、野生型循環インフルエンザウイルスとの再編成の恐れはいずれも実質的に排除される。
【0088】
本明細書に開示する実施態様では、皮内(intradermal, intracutaneous)デリバリーはワクチンを皮膚に投与する。いくつかの実施態様では、皮内デリバリーはマイクロ針デリバリー装置を用いて実施される。本明細書に開示するように、皮内デリバリーは多数の利点を有する。例えば、ワクチンの免疫原性は、皮膚免疫系の免疫学的潜在能力を始動することによって強化される。ワクチンは、皮膚の強力な抗原提示樹状細胞(すなわち表皮ランゲルハンス細胞および皮膚樹状細胞)に直接アクセスする。皮膚細胞は炎症促進(proinflammatory)シグナルを生じ、前記シグナルは皮膚から導入された抗原に対し免疫応答を強化する。さらに、皮膚免疫系は抗原特異的抗体および細胞性免疫応答を生じる。皮内デリバリーは、ワクチンの用量軽減を可能にする。すなわち、皮内デリバリーされるときは、上記の要件を考慮すれば低用量の抗原で有効であり得る。
さらに、ワクチンは装置のマイクロ針列から皮膚にデリバリーされるので、意図しない針刺しリスクが軽減され、通常的な針と注射器による筋肉内注射と比較して、マイクロ針列による皮内ワクチンデリバリーは比較的痛みが少ない。
【0089】
マイクロ針装置は当業界で公知であり、例えば公開された米国特許出願2012/0109066、2011/0172645、2011/0172639、2011/0172638、2011/0172637および2011/0172609に記載されたものが含まれる。マイクロ針装置は、ウェットエッチングによるステンレススチールシートの加工によって作製される(Trinity Brand Industries, Georgia; SS 304(厚さ50μm))。いくつかの実施態様では、個々のマイクロ針は約500μmから1000μm(例えば約750μm)の長さ、および約100μmから500μm(例えば約200μm)の幅を有する。続いてワクチンをコーティングとしてマイクロ針に適用することができる。制限ではなく例示として、コーティング溶液は、1%(w/v)カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(低粘度、USP grad;Carbo-Mer, San Diego CA)、0.5%(w/v)Lutrol F-68 NF(BASF, Mt.Olive, NJ)および抗原(例えば、5ng/mLの可溶性HAタンパク質;生弱毒化ウイルス、例えば本明細書に記載のM2およびBM2変異ウイルスなど)を含むことができる。より高濃度を達成するために、コーティング溶液を室温(約23℃)で5から10分間蒸発させてもよい。被覆はディップコーティングプロセスによって実施することができる。マイクロ針の一列当たりのワクチンの量は、マイクロ針を200μLのリン酸緩衝食塩水(PBS)に5分間沈め、当業界で公知の方法によって抗原についてアッセイすることによって決定することができる。
【0090】
いくつかの実施態様では、用いられるマイクロ針装置は、主にプロピレンおよびステンレススチールのファーストカット片で作られ、前記は簡単なスナップフィットおよび加熱シーリングによって1つにまとめらる。いくつかの実施態様では、装置は完全に自己完結型であり、ワクチン、ポンプ機構、活性化機構、およびマイクロ針ユニットを含む。これらの成分はプラスチックカバー内に隠れている。この装置により、ワクチン注入は作動ボタンを押すことによって開始する。ボタンを押すのと同時にマイクロ針を皮膚に挿入してポンプ機構を開始し、ポンプ機構は一次薬剤容器を加圧する。スプリング機構がワクチン溜めに十分な圧をかけるとき、ワクチンはマイクロ針列から皮膚の中に流れ始める。いくつかの実施態様では、ワクチン用量のデリバリーは装置の作動後約2分以内に完了する。注入が完了した後、装置を穏やかに皮膚から取り去る。
【0091】
いくつかの実施態様では、マイクロ針装置を用いる免疫原性組成物(例えば四価ワクチン)の皮内投与の方法が提供される。いくつかの実施態様では、マイクロ針装置は、穿刺機構および免疫原性組成物層を含み、前記は皮膚を穿刺することができさらに免疫原性組成物を皮内に投与することを可能にする複数のマイクロ針を含む。いくつかの実施態様では、免疫原性組成物(例えば四価ワクチン)は、発現される変異M2およびBM2タンパク質または発現されないM2およびBM2タンパク質をコードする核酸配列を含むウイルスを含み、ここで、当該発現される変異M2タンパク質は配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3によってコードされるアミノ酸配列を含むかまたは前記から成り、さらに、BM2タンパク質は、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10または配列番号:11によってコードされるアミノ酸配列を含むか、または前記から成る。いくつかの実施態様では、まず初めにマイクロ針列は装置ハウジングの内部に配置され、レバーの作動時に装置のボタンによってマイクロ針を伸長させ、それによってワクチン液の皮膚内への注入を可能にする。
【0092】
本明細書に記載するデリバリー装置を利用して、所望することができる任意の物質をデリバリーすることができる。ある実施態様では、デリバリーされる物質は薬剤であり、デリバリー装置は対象動物に当該薬剤をデリバリーするために構成された薬剤デリバリー装置である。本明細書で用いられるように、“薬剤”という用語は、任意の治療的、予防的、または薬用目的のために対象動物にデリバリーされる任意の物質を含むことが意図される(例えばワクチン、医薬、栄養物、栄養補助食品など)。ある実施態様では、デリバリー装置はかぜのワクチンをデリバリーするために構成される。本明細書で考察する実施態様は、主に、経皮的に物質をデリバリーするために構成された装置に関する。いくつかの実施態様では、装置は、皮膚以外の器官に物質を直接デリバリーするために構成され得る。
【実施例】
【0093】
上記に記載したように、本出願は新規な四価免疫原性組成物を提供し、前記組成物は、インフルエンザAおよびインフルエンザBに対し哺乳動物で免疫応答を引き出すために有用なインフルエンザAおよびインフルエンザB変異株を含む。以下の実施態様は、多価ワクチンとして処方された変異体を用いて免疫応答を引き出す方法、および多価処方物の軽減病毒性を試験する方法を例示するために提示される。
以下の実施態様は、制限としてではなく単に例示として提示される。当業者は、本質的に同じまたは同様な結果を得るために変更または改変することが可能な多様な非決定的パラメータを認識しているであろう。これら実施態様は、添付の特許請求の範囲に規定される、本技術の範囲を制限するものと決して解釈されてはならない。
【0094】
[実施例1]
四価ワクチンとして処方されたBM2SR変異体はインフルエンザBウイルスに対して抗体応答を引き出す
BM2SR変異ウイルスは、四価ワクチンとして処方されたとき、抗体応答を引き出すことを示すために実験を実施した。以下の4つの一価ワクチンを一緒に処方した:配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含むA/California/07/2009(H1N1)、配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含むA/Brisbane/10/2007(H3N2)、配列番号:11を含むBM2SR-0を含むB/Brisbane/60/2008(Victoria)、および配列番号:11を含むBM2SR-0を含むB/Wisconsin/01/2010(Yamagata)。各一価ワクチンの1x106 TCID50を一緒に混合し、マウス当たりの各四価用量を4x106 TCID50とした。M2SR-1およびBM2SR-0変異体構築物のそれぞれの配列は表1および5に提供される。
【0095】
6週齢BALB/c雌マウスの鼻内に四価処方物を4x10
6 TCID
50/マウスの用量で接種した。コントロールマウスグループにはPBSを与えた。第一の接種後7、14および21目に、さらに28日目の第二の免疫後35、42および49日目に血清サンプルを採取した。当該血清サンプルの抗HA IgG抗体力価を、B/Wisconsin/01/2010およびB/Brisbane/60/2008に対する酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって決定した。液性応答は
図2に示される。
図2は、四価MS2RおよびBMS2Rワクチンは、2つのインフルエンザB系統(B/Bris/60およびB/Wisc/01)である両インフルエンザB抗原に対して、コントロールPBSグループよりも高いインフルエンザウイルス抗体を生じたことを示す。四価ワクチンをブースター投与されたマウスは、第二の免疫後に第一の投与後よりも高いレベルの抗インフルエンザHA抗体を有した。
これらの結果は、各一価BM2SRワクチンは四価処方物で抗原特異的応答を引き出すことができることを示している。
【0096】
[実施例2]
多価ワクチンとして処方されたM2SRおよびBM2SR変異体はインフルエンザAおよびインフルエンザBウイルスに対して抗体応答を引き出す
A.多価ワクチンとして処方されたBM2SR変異体はインフルエンザBウイルスに対して抗体応答を引き出す
BM2SR変異ウイルスは、インフルエンザA H1N1またはH3N2 M2SRワクチンを用い一価、二価、三価、または四価ワクチンとして処方されたとき、抗体応答を引き出すことを示すために実験を実施した。表Aは、以下の4つの一価M2SRおよびBM2SRワクチンの種々の処方物がどのように一緒に処方されたかを示す:A/California/07/2009(H1N1)(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む)、A/Brisbane/10/2007(H3N2)(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む)、B/Brisbane/60/2008(Victoria)(配列番号:11を含むBM2SR-0を含む)、B/Wisconsin/01/2010(Yamagata)(配列番号:11を含むBM2SR-0を含む)。
【0097】
【0098】
6週齢BALB/c雌マウスの鼻内に一価、二価、三価、または四価ワクチンを表Aに示す用量で接種した。コントロールマウスグループにはPBSを与えた。第一の接種後7、14および21目に、さらに28日目の第二の免疫後35、42および49日目に血清サンプルを採取した。当該血清サンプルの抗HA IgG抗体力価を、B/Wisconsin/01/2010およびB/Brisbane/60/2008に対する酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって決定した。液性応答は
図3A-3Bに示される。前記図は、両BMS2Rワクチン成分(Bris60およびWI01)は、多価処方物の2つのインフルエンザB系統である両インフルエンザB抗原に対して、コントロールPBSグループよりも高いインフルエンザウイルス抗体を生じたことを示す。
これらの結果は、多価ワクチンとして処方されるとき、一価成分間で干渉は存在しないことを示している。
【0099】
B.多価ワクチンとして処方されたM2SR変異体はインフルエンザAウイルスに対して抗体応答を引き出す
M2SR変異ウイルスは、インフルエンザB YamagataまたはVictoria系統BM2SRワクチンを用い一価、二価、三価、または四価ワクチンとして処方されたとき、抗体応答を引き出すことを示すために実験を実施した。表Aは、以下の4つの一価M2SRおよびBM2SRワクチンの種々の処方物がどのように一緒に処方されたかを示す:A/California/07/2009(H1N1)(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む)、A/Brisbane/10/2007(H3N2)(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む)、B/Brisbane/60/2008(Victoria)(配列番号:11を含むBM2SR-0を含む)、B/Wisconsin/01/2010(Yamagata)(配列番号:11を含むBM2SR-0を含む)。
6週齢BALB/c雌マウスの鼻内に一価、二価、三価、または四価ワクチンを表Aに示す用量で接種した。コントロールマウスグループにはPBSを与えた。第一の接種後7、14および21目に、さらに28日目の第二の免疫後35、42および49日目に血清サンプルを採取した。当該血清サンプルの抗HA IgG抗体力価を、A/California/07/2009(H1N1)およびA/Brisbane/10/2007(H3N2)に対する酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって決定した。液性応答は
図3C-3Dに示される。前記図は、両インフルエンザA MS2Rワクチン成分(H1N1およびH3N2)は、多価処方物のH1N1およびH3N2亜型である両インフルエンザA抗原に対して、コントロールPBSグループよりも高いインフルエンザウイルス抗体を生じたことを示す。
これらの結果は、多価ワクチンとして処方されるとき、一価成分間で干渉は存在しないことを示している。
【0100】
[実施例3]
BM2SR変異体は一価または四価処方物として致死的インフルエンザBウイルスチャレンジからマウスを防御する
BALB/c雌マウス(N=8)を最初の接種後49日目(ブースターから3週間後)に致死用量のB/Malaysia/2506/2004ウイルス(20マウス50%致死用量(MLD
50))でチャレンジした。
図4Aおよび4Bで示すように、BM2SRおよび四価ワクチンを接種された全てのマウスがチャレンジで生存し、体重は低下しなかった。しかしながら、PBSのみを与えられたコントロールマウスは体重が低下し、チャレンジ日から9日経過時には生存してなかった。チャレンジ後4日目に肺を入手し、ウイルス力価をプラークアッセイによってMDCK細胞で決定した。
図4Cに示すように、BM2SRおよび四価ワクチン接種マウスの肺ウイルス力価は検出限界未満で、一方、ナイーブコントロールPBSマウスは高いウイルス力価を有していて、BM2SRおよび四価ワクチンは交差防御を付与してチャレンジウイルスの複製を制限することを示した。
【0101】
[実施例4]
四価M2SRワクチンは致死的インフルエンザAウイルスチャレンジからマウスを防御する
BALB/c雌マウス(N=8)を最初の接種後49日目(ブースターから3週間後)に致死用量のA/Aichi/02/1968(H3N2)ウイルス(40マウス50%致死用量(MLD
50))でチャレンジした。
図5Aおよび5Bで示すように、一価H1N1またはH3N2 M2SRおよび四価M2SRワクチンを接種された全てのマウスがチャレンジで生存し、一過性に体重は低下したが完全に回復した。しかしながら、PBSのみを与えられたコントロールマウスは体重が低下し、チャレンジ日から8日経過時には生存してなかった。チャレンジ後4日目に肺を入手し、ウイルス力価をプラークアッセイによってMDCK細胞で決定した。
図5Cに示すように、M2SR一価および四価ワクチン接種マウスの肺ウイルス力価はナイーブコントロールPBSマウスよりも少なくとも1log低く、M2SR一価および四価M2SRワクチンは交差防御を付与してチャレンジウイルス(いずれのワクチン成分とも一致しない)の複製を制限することを示した。
【0102】
[実施例5]
四価ワクチンとして処方されたBM2SR変異体はインフルエンザBウイルスに対して抗体応答を引き出す
BM2SR変異ウイルスは、四価ワクチンとして処方されたとき、抗体応答を引き出すことを示すために実験を実施した。以下の4つの一価ワクチンを一緒に処方した:配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含むH1N1インフルエンザAウイルス、配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含むH3N2インフルエンザAウイルス、配列番号:9を含むBM2SR-4変異体を含むVictoria系統のインフルエンザBウイルス、および配列番号:9を含むBM2SR-4変異体を含むYamagata系統のインフルエンザBウイルス。各一価ワクチンの0.2-1x10
6 TCID
50を一緒に混合し、マウス当たりの各四価用量を約3x10
6 TCID
50とした。M2SR-1およびBM2SR-4変異体構築物のそれぞれの配列は表1および5に提供される。
6週齢BALB/c雌マウスの鼻内に四価処方物を約3x10
6 TCID
50/マウスの用量で接種した。コントロールマウスグループにはPBSを与えた。第一の接種後14目に血清サンプルを採取した。当該血清サンプルの抗HA IgG抗体力価を、インフルエンザ抗原(B/VictoriaおよびB/Yamagata)に対する酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって決定した。
図6Aおよび6Bに示すように、四価MS2RおよびBMS2Rワクチンは、2つのインフルエンザB系統である両インフルエンザB抗原に対して、コントロールPBSグループよりも高いインフルエンザウイルス抗体を生じた。
これらの結果は、各一価BM2SRワクチンは四価処方物で抗原特異的応答を引き出すことができることを示している。
【0103】
[実施例6]
四価ワクチンとして処方されたM2SRおよびBM2SR変異体はインフルエンザAおよびインフルエンザBウイルスに対して抗体応答を引き出す
A.多価ワクチンとして処方されたBM2SR変異体はインフルエンザBウイルスに対して抗体応答を引き出す
BM2SR変異ウイルスは、インフルエンザA H1N1またはH3N2 M2SRワクチンを用い一価、三価、または四価ワクチンとして処方されたとき、抗体応答を引き出すことを示すために実験を実施した。以下の4つの一価M2SRおよびBM2SRワクチンを一緒に処方した:H1N1(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む)、H3N2(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む)、B/Victoria系統(配列番号:9を含むBM2SR-4変異体を含む)、B/Yamagata(配列番号:9を含むBM2SR-4変異体を含む)。
6週齢BALB/c雌マウスの鼻内に一価、三価、または四価ワクチンを接種した。コントロールマウスグループにはPBSを与えた。第一の接種後14目に血清サンプルを採取した。当該血清サンプルの抗HA IgG抗体力価を、両インフルエンザB抗原に対する酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって決定した。
図7Cおよび7Dに示すように、両BM2SRワクチン成分は、多価処方物の2つのインフルエンザB系統であるインフルエンザB抗原に対して、コントロールPBSグループよりも高かった。
これらの結果は、多価ワクチンとして処方されたとき、一価成分間で干渉は存在しないことを示している。
【0104】
B.
多価ワクチンとして処方されたM2SR変異体はインフルエンザAウイルスに対して抗体応答を引き出す
M2SR変異ウイルスは、インフルエンザB YamagataまたはVictoria系統BM2SRワクチンを用い一価、三価、または四価ワクチンとして処方されたとき、抗体応答を引き出すことを示すために実験を実施した。以下の4つの一価M2SRおよびBM2SRワクチンを一緒に処方した:H1N1(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む)、H3N2(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む)、B/Victoria系統(配列番号:9を含むBM2SR-4変異体を含む)、B/Yamagata(配列番号:9を含むBM2SR-4変異体を含む)。
6週齢BALB/c雌マウスの鼻内に一価、三価、または四価ワクチンを接種した。コントロールマウスグループにはPBSを与えた。第一の接種後14目に血清サンプルを採取した。当該血清サンプルの抗HA IgG抗体力価を、H1N1およびH3N2インフルエンザAウイルスに対する酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって決定した。
図7Aおよび7Bに示すように、両インフルエンザA M2SRワクチン成分(H1N1およびH3N2)は、多価処方物のH1N1およびH3N2亜型である両インフルエンザA抗原に対して、コントロールPBSグループよりも高い抗インフルエンザウイルス抗体を生じた。
これらの結果は、多価ワクチンとして処方されたとき、一価成分間で干渉は存在しないことを示している。
【0105】
[実施例7]
一価、三価または四価処方物としてBM2SR-4変異体は致死的インフルエンザBウイルスチャレンジからマウスを防御する
BALB/c雌マウス(N=4)を接種後22日目に致死用量の異種亜型インフルエンザBウイルス、B/Malaysia/2506/2004ウイルス(20マウス50%致死用量(MLD
50))でチャレンジした。BM2SR-4一価、三価および四価ワクチンを接種された全てのマウスがチャレンジで生存し(
図8B)、体重低下はなかった(
図8A)。しかしながら、PBSのみを与えられたコントロールマウスは体重が低下し、チャレンジで生存しなかった。これらの結果は、一価BM2SR-4ワクチン(それぞれはチャレンジウイルスと異なる)、三価および四価ワクチンはチャレンジウイルスに対して交差防御を付与することを示している。これらの結果は多価処方物で一価成分間に干渉は存在しないことを示している。
【0106】
[実施例8]
四価M2SRワクチンは致死的インフルエンザAウイルスチャレンジからマウスを防御する
BALB/c雌マウス(N=4)を接種後22日目に致死用量の異種インフルエンザAウイルス、例えばA/Aichi/02/1968(H3N2)ウイルス(40マウス50%致死用量(MLD
50))でチャレンジした。三価MS2R(H1N1(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む)、H3N2(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む)、およびB/Yamagata(配列番号:9を含むBM2SR-4変異体を含む)を含む)、または四価M2SRワクチン(H1N1(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む)、H3N2(配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含む)、B/Victoria系統(配列番号:9を含むBM2SR-4変異体を含む)、およびB/Yamagata(配列番号:9を含むBM2SR-4変異体を含む)を含む)をワクチン接種された全てのマウスが、チャレンジ後により多くの生存個体を有し(
図9B)、一過性に体重が低下したが7日目に回復を開始した(
図9A)。しかしながら、PBSのみを与えられたコントロールマウスは体重が低下し、チャレンジ日から7日経過時には生存してなかった。これらの結果は、三価および四価M2SR/BM2SRワクチンは、いずれのワクチン成分とも一致しないチャレンジウイルスに対して交差防御を付与することを示している。
【0107】
[実施例9]
フェレットモデルにおける一価M2SRおよびBM2SR並びに四価M2SRワクチンによって引き出される免疫応答並びに防御有効性
A.要旨
本実施例は、四価M2SRワクチンによって引き出される免疫応答は、フェレットモデルにおける一価M2SRおよびBM2SRワクチンの各々と類似することを示す。すなわち、四価M2SRは干渉を示さず、当該成分の各々に対して防御免疫応答を引き出す。M2SRおよびBM2SR候補ウイルスの各々を、1x107 TCID50(一価)または4x107 TCID50(四価)の用量レベルで12匹の雄フェレットの鼻内に投与した。コントロールとして、1つのフェレットグループにOPTI-MEMTMをプラセボコントロールとして投与した。プライム-ブーストワクチン接種レジメンを各グループに用いた。フェレットにプライムワクチン(0日目)を投与し、ブーストワクチン(28日目)を28日後に投与した。各ワクチン接種の後で、フェレットを死亡率について接種後14日間観察し、体重、体温および臨床徴候を毎日調べた。接種後21、35および56日目に全てのフェレットから血清を収集し、時間経過における抗体レベルを評価した。
全ての動物を70日目にA/California/07/2009(H1N1 pdm)の1x106 PFUで鼻内チャレンジした。チャレンジに続いて、フェレットを死亡率について接種後14日間モニターし、体重、体温および臨床徴候を毎日調べた。ウイルス力価のために、鼻内洗浄物を各グループのフェレット(N=8)からチャレンジ後1、3、5および7日目に収集した。加えて、生存フェレットから血清を分析のためにチャレンジ後(82日目)に収集した。チャレンジから3日後に(73日目)グループにつき4匹のフェレットで剖検を実施した。チャレンジ後のウイルス量(力価)の決定のために器官を収集した。
ワクチン関連の有害な作用は5グループで観察されなかった。チャレンジ後、プラセボコントロールグループは体重の減少を示した(約15%)。体重の減少はまた、抗原的に不一致の一価H3N2 M2SRおよびBM2SRワクチン接種グループで観察されたが、減少はプラセボグループで観察されたものよりも少なかった。四価M2SRおよびH1N1 pdm M2SRはチャレンジ後に有意な体重低下を全く示さなかった。
B.材料と方法
ワクチンウイルスの接種:表Bに示すように、フェレットに、一価M2SRまたはBM2SRワクチンを1用量1x107 TCID50で2回鼻内投与するか、または四価M2SRワクチンを1用量4x107 TCID50で2回鼻内投与した。1バイアルの凍結ストックを室温で少なくとも10分間融解し、続いて冷蔵状態で(または氷上で)使用まで保存した。フェレットをケタミン/キシラジンで麻酔し、前記ウイルス用量を500μLの体積で鼻内投与した(各鼻孔に250μL)。各ワクチン接種後7日間毎日動物を観察した。体重、体温、および臨床徴候を7日間モニターした。
【0108】
【0109】
MS2Rウイルスは、機能的M2タンパク質を発現しない組換えインフルエンザAウイルスであり、前記は配列番号:1を含むM2SR-1変異体を含み、A/Brisbane/10/2007様A/Uruguay/716/2007(H3N2)またはA/California/07/2009(H1N1pdm)のHAおよびNA遺伝子をコードする。BMS2Rウイルスは、機能的BM2タンパク質を発現しない組換えインフルエンザBウイルスであり、前記は配列番号:11を含むBM2SR-0変異体を含み、B/Brisbane/60/2008(Victoria)またはB/Wisconsin/01/2010(Yamagata)のHAおよびNAをコードする。四価M2SRは、H1N1、H3N2、B/Victoria、B/YamagataのHAおよびNAをコードする、2つのM2SRおよび2つのBM2SRウイルスで構成される。
【0110】
動物および動物の管理:80匹の雄のフェレットを業者(Triple F Farms)から購入し、当該フェレットの72匹を試験に使用した。試験開始時に、動物は約4ヶ月齢であった。動物は健康であり感染症の抗体を持たないことが供給業者によって認証された。到着時に、動物はスラット底を有する吊り下げ式ワイヤケージ(紙を並べた排泄物パン上に吊り下げられている)に1匹ずつ収容された。動物室およびケージは動物の受け入れ前に清掃し衛生的にして、容認された動物飼育慣行および関連する標準的な実施手順にしたがった。飼料(Certified Teklad Global Ferret Diet #2072(Teklad Diets, Madison WI))およびシカゴ市水道水が自由に提供され、少なくとも週に3回新しくされた。動物室の蛍光灯照明は12時間の点灯/消灯サイクルで維持された。動物室温度および相対湿度は関連プロトコルの限界内にあり、試験中それぞれ20.0から25.0℃および30から63%の範囲であった。
【0111】
動物の隔離およびランダム化:ランダム化の前に7日間フェレットを隔離し、毎日観察した。動物が全般的に良好な健康状態にあることを示す日々の観察に基づいて、これらのフェレットをランダム化および試験のために隔離から解放した。隔離に続いて、フェレットの体重を測定し、体重を基準とするコンピュータ制御ランダム化手順(類似のグループ平均値をもたらす)を用いて処理グループに割り当てた(ToxData(商標)、バージョン2.1.E.11(PDS Pathology Data Systems, Inc., Basel, Switzerland))。グループ内では、すべての体重はそれらの平均の20%内であった。試験のために選別した動物は永久識別番号を耳タグおよびトランスポンダによって与えられ、個々のケージカードもまた個体番号およびグループによって試験動物を識別した。割り当てられた識別番号は本試験内で固有であった。
【0112】
実験設計:ワクチン有効性を査定するために、フェレットをM2SR、BM2SRまたは四価M2SRウイルスの各々で免疫するか、または培地(OPTI-MEMTM)によって擬似免疫した。フェレットの体重、体温、および臨床徴候をモニターし、免疫学的応答を評価した。72匹の雄のフェレット(Triple F Farms, Sayre PA)(試験開始時に4ヶ月齢)をこの試験に用いた。全ての動物取り扱いは、動物の生物安全基準レベル2の施設で、IITリサーチインスティチュートの動物管理使用委員会が承認したプロトコルにしたがって実施された。接種前にフェレットを3日間モニターして体重を測定し、基準体温を確立した。温度の読取りは、各フェレットの皮下に埋め込まれたトランスポンダ(BioMedic data systems, Seaford, DE)を介して毎日記録された。試験の開始前に血液を収集し、インフルエンザ抗体について試験した。ワクチン接種前血清サンプルを受容体破壊酵素(RDE)で処理して非特異的阻害物質を除去し、続いて連続希釈して、規定量のインフルエンザAウイルス(A/California/07/2009様(H1N1pdm)、A/Switzerland/9715293/2013(H3N2))、インフルエンザBウイルス(B/Brisbane/60/2008(Victoria系統)およびB/Wisconsin/01/2010(Yamagata系統))に対して試験し、0.5%のシチメンチョウ赤血球または0.75-1.0%のモルモット赤血球と混合した。抗体力価は、赤血球凝集阻害を引き起こす最低血清希釈によって規定される。40未満のHAI力価(血球凝集阻害)を有するフェレットのみが血清陰性と考えられ、この試験に用いられた。試験動物をランダム化し、表Bに示すように6グループ(12フェレット/グループ)に分けた。
フェレットの鼻内に、M2SR若しくはBM2SRの1回用量1x107 TCID50を0日目および28日目に、または四価M2SRの1回用量4x107 TCID50を0日目および28日目に投与した。コントロールグループにはOPTI-MEMTMを鼻内に0日目および28日目に擬似接種した。接種後14日間、フェレットの体温、体重および臨床徴候を毎日モニターした。鼻洗浄サンプルは-65℃で保持した。血液を接種前(-3および-5日目)並びに21、35および56日目に収集し、血清をELISAおよびHAIアッセイによる抗体力価測定まで-65℃で保持した。
【0113】
C.結果
以下に対する、血清サンプルの抗HA IgG抗体力価を酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって決定した:A/Brisbane/10/2007(H3N2)、A/California/07/2009(H1N1pdm)、B/Wisconsin/01/2010(Yamagata系統)、およびB/Brisbane/60/2008(Victoria系統)。簡単に記せば、ELISAプレートを各株の組換えHAタンパク質で被覆し、ウシ血清アルブミン(BSA)によって遮断してサンプルを適用した。フェレットIgG抗体は、セイヨウワサビペルオキシダーゼ標識抗フェレットIgGヤギ抗体(KPL, Inc., Gaithersburg, MD)およびSureBlue TMB(KPL, Inc.)基質によって検出された。
予想したように、各免疫グループのフェレットは、その対応する抗原に対し血清中の抗HA抗体の有意な上昇を示した。より重要なことに、四価M2SRグループは、4つの抗原全てに対し血清で抗HA抗体の有意な上昇を提示し(
図10)、多価処方物の成分間で干渉は存在しないことを示した。これらのデータはM2SR、BM2SR、および四価M2SRウイルスはフェレットで顕著な免疫応答を引き出すことを示唆する。
【0114】
ELISAによって検出される抗体の機能的活性を示すために、血清サンプルを血球凝集阻害(HAI)アッセイによって分析した。血清サンプルを受容体破壊酵素(RDE)(Denka Seiken, Tokyo, Japan)で処理して非特異的血球凝集阻害物質を除去した。RDEは製造業者の指示にしたがい再構成した。血清をRDE中で1:3に希釈し、37℃±2℃の水浴中で18-20時間インキュベートした。等体積の2.5%(v/v)クエン酸ナトリウムを添加した後、サンプルを56±2℃の水浴中で30±5分インキュベートした。RDE処理後に、0.85%のNaClを各サンプルに最終血清希釈1:10で添加した。続いて、当該希釈サンプルをデュープリケートでリン酸緩衝食塩水(PBS)で4回2倍希釈し(1:10から1:80)、続いてA/Brisbane/10/2007(H3N2)、A/California/07/2009(H1N1pdm)、B/Wisconsin/01/2010(Yamagata系統)およびB/Brisbane/60/2008(Victoria系統)インフルエンザウイルスの4血球凝集単位とともにインキュベートした。インキュベーション後、0.5%トリ赤血球を各サンプルに添加して30±5分間インキュベートした。続いて凝集の有無を採点した。
【0115】
図11Aおよび11Bに示すように、全てのM2SR免疫フェレットは、それらの対応するテストウイルスに対して有意なHAI力価を示した。プラセボ(ナイーブ)グループは、インフルエンザ特異的抗体を全く引き出さなかった。CDCは、HAI抗体力価40は、集団におけるインフルエンザ感染または疾患のリスクの少なくとも50%減少と関係すると述べている。したがって、これらの結果は、M2SRおよびBM2SRウイルスは、これらウイルスが四価ワクチンとして一緒に処方されるときに維持される防御免疫応答を引き出すことを示唆している。
【0116】
A/California/09/2009(H1N1pdm)によるチャレンジ後、5-8%の体重低下がチャレンジ後6日目に全ての動物で観察された。14日の観察期間を通して、動物の体重はそれらの最初の体重より低いままであったが、OPTI-MEMTM投与フェレット(プラセボグループ)はもっとも大きく体重が低下した(15%)。ワクチン接種フェレットの体重低下はワクチンの抗原性に左右された。適合H1N1 pdm M2SRまたは四価M2SR(H1N1 pdm M2SRを含む)を投与されたフェレットは、有意な体重低下を全く示さなかった。異種H3N2 M2SRまたはBM2SRワクチンのどちらかを投与されたフェレットは約5-8%の体重低下を示した。
【0117】
チャレンジ後1、3、5、7日目に鼻洗浄サンプルを収集し、MDCK細胞におけるプラークアッセイによってチャレンジウイルスの存在について判定した。
図12は、四価M2SRは、一価の相同H1N1 pdm M2SRと同様な態様でウイルス複製を制御することを示す。プラセボおよびBM2SR一価ワクチンはチャレンジウイルスを制御できず、少なくとも5 logのウイルスが感染後5日まで検出された。異種H3N2 M2SRグループは、同種H1N1および四価M2SRと類似するチャレンジウイルスを排除しなかったが、プラセボグループと比較して部分的にウイルス複製を制御した。
【0118】
感染後3日目に4匹のフェレットから採集した呼吸系器管はチャレンジウイルスの制御を示した。H1N1 M2SRおよび四価M2SRは、
図13A、13Bおよび13Cに示すように、上下部呼吸組織(鼻甲介、気管、肺)でチャレンジウイルスの複製を全く許容しなかった。対照的に、チャレンジウイルスは、他のグループの上部呼吸組織(鼻甲介および気管)でより高い力価まで増殖した。より下部の気道(肺)で、一価M2SRワクチンはプラセボグループと比較してチャレンジウイルスを制御した。これらの結果は、同種および四価M2SRは、インフルエンザ感染の確立を予防すること、および無関係のM2SRワクチンは感染の重篤度を軽減することを示唆する。
【0119】
D.結論
本実施例は、四価M2SRワクチンの鼻内投与は、いずれのワクチン関連有害作用(例えば体温上昇、体重低下、または臨床徴候)も伴わなかったことを示す。これらの結果は、四価M2SRウイルスは、多価処方物中に含まれる各株に対して防御免疫応答を引き出し、鼻内インフルエンザワクチンとして有用であることを示す。
【配列表】